説明

磁場吸引防止装置

【課題】 磁気吸引が発生することを従来よりも確実に防止できるようにする。
【解決手段】 一態様による磁場吸引防止装置は、接近検出用磁場を発生するとともに当該接近検出用磁場の強度変動に基づいて磁気共鳴診断装置への磁性体の接近を検出する接近検出部と、前記接近検出部により前記磁性体の接近が検出されたことに応じて、当該検出結果を表す情報を、遠隔のサービスセンタまたは前記磁気共鳴診断装置に送信する送信部とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気共鳴診断装置が発生する診断用磁場への磁性体の吸引を防止する磁場吸引防止装置に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気共鳴診断装置が発生する磁場は、磁気共鳴診断装置の外部にも及んでいる。このため、磁性体が上記の磁場によって磁気共鳴診断装置に吸引される、いわゆる磁場吸引が起こり得る。
【0003】
近年、磁気共鳴診断装置が発生する磁場の強度は非常に大きくなっている。このため、大きな物体が吸引されたり、吸引される物体の移動速度が大きくなることがあり、吸引される物体と磁気共鳴診断装置との衝突によって、吸引される物体や磁気共鳴診断装置が損傷する恐れがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−350888号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このようなことから、磁気共鳴診断装置には磁性体を接近させないようにすることが、磁気共鳴診断装置の使用上のルールとして定められている。しかしながら、ヒューマンエラーは、3×10-3の確率で発生すると言われており、完全に無くすことはできない。このため、人間の注意のみに頼っていては、磁場吸引を十分に防止することが困難であった。
【0006】
本発明はこのような事情を考慮してなされたものであり、その目的とするところは、磁気吸引が発生することを従来よりも確実に防止できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様による磁場吸引防止装置は、接近検出用磁場を発生するとともに当該接近検出用磁場の強度変動に基づいて磁気共鳴診断装置への磁性体の接近を検出する接近検出部と、前記接近検出部により前記磁性体の接近が検出されたことに応じて、当該検出結果を表す情報を、遠隔のサービスセンタまたは前記磁気共鳴診断装置に送信する送信部とを備える。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の一実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置(MRI装置)の構成を示す図。
【図2】図1中の検出用コイルユニットの構成例を示す図。
【図3】図1中の防止動作部がエアバッグ装置である場合の防止動作の実施状況を示す図。
【図4】図1中の検出用コイルユニットの変形構成例を示す図。
【図5】第2の実施形態に係る磁場吸引防止装置の概略構成および設置状況を示す斜視図。
【図6】図5に示した磁場吸引防止装置の詳細な構成を示すブロック図。
【図7】磁性体の持ち込みを監視するための図1中の制御部の処理を示すフローチャート。
【図8】動作テストのための図1中の制御部の処理を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
【0010】
(第1の実施形態)
図1は第1の実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置(MRI装置)の構成を示す図である。この図1に示すMRI装置は、静磁場磁石1、傾斜磁場コイル2、傾斜磁場電源3、寝台4、寝台制御部5、送信RFコイルユニット6、送信部7、受信RFコイルユニット8、受信部9、計算機システム10、検出用コイルユニット11、接近判断部12、防止動作制御部13および防止動作部14を具備する。
【0011】
静磁場磁石1は、中空の円筒形をなし、内部の空間に一様な静磁場を発生する。この静磁場磁石1としては、例えば永久磁石、超伝導磁石等が使用される。
【0012】
傾斜磁場コイル2は、中空の円筒形をなし、静磁場磁石1の内側に配置される。傾斜磁場コイル2は、互いに直交するX,Y,Zの各軸に対応する3種類のコイルが組み合わされている。傾斜磁場コイル2は、上記の3つのコイルが傾斜磁場電源3から個別に電流供給を受けて、磁場強度がX,Y,Zの各軸に沿って変化する傾斜磁場を発生する。なお、Z軸方向は、例えば静磁場と同方向とする。X,Y,Z各軸の傾斜磁場は、例えば、スライス選択用傾斜磁場Gs、位相エンコード用傾斜磁場Geおよびリードアウト用傾斜磁場Grにそれぞれ対応する。スライス選択用傾斜磁場Gsは、任意に撮像断面を決めるために利用される。位相エンコード用傾斜磁場Geは、空間的位置に応じて磁気共鳴信号の位相を変化させるために利用される。リードアウト用傾斜磁場Grは、空間的位置に応じて磁気共鳴信号の周波数を変化させるために利用される。
【0013】
静磁場磁石1および傾斜磁場コイル2は、ガントリに収容される。ガントリには、傾斜磁場コイル2の内周に沿った撮影空間(撮影空間)が形成されている。
【0014】
被検体Pは、寝台4の天板41に載置された状態でガントリの撮影空間(撮像口)内に挿入される。寝台4の天板41は寝台制御部5により駆動され、その長手方向および上下方向に移動する。通常、この長手方向が静磁場磁石1の中心軸と平行になるように寝台4が設置される。
【0015】
送信RFコイルユニット6は、少なくとも1つのコイルを内蔵し、傾斜磁場コイル2の内側に配置される。送信RFコイルユニット6は、送信部7から高周波パルスの供給を受けて、高周波磁場を発生する。
【0016】
送信部7は、ラーモア周波数に対応する高周波パルスを送信RFコイルユニット6に送信する。
【0017】
受信RFコイルユニット8は、少なくとも1つのコイルを内蔵し、傾斜磁場コイル2の内側に配置される。受信RFコイルユニット8は、上記の高周波磁場の影響により被検体から放射される磁気共鳴信号を受信する。受信RFコイルユニット8からの出信号は、受信部9に入力される。
【0018】
受信部9は、受信RFコイルユニット8からの出力信号に基づいて磁気共鳴信号データを生成する。
【0019】
計算機システム10は、インタフェース部101、データ収集部102、再構成部103、記憶部104、表示部105、入力部106および主制御部107を有している。
【0020】
インタフェース部101には、傾斜磁場電源3、寝台制御部5、送信部7、受信RFコイルユニット8および受信部9等が接続される。インタフェース部101は、これらの接続された各部と計算機システム10との間で授受される信号の入出力を行う。
【0021】
データ収集部102は、受信部9から出力されるデジタル信号をインタフェース部101を介して収集する。データ収集部102は、収集したデジタル信号、すなわち磁気共鳴信号データを、記憶部104に格納する。
【0022】
再構成部103は、記憶部104に記憶された磁気共鳴信号データに対して、後処理、すなわちフーリエ変換等の再構成を実行し、被検体P内の所望核スピンのスペクトラムデータあるいは画像データを求める。
【0023】
記憶部104は、磁気共鳴信号データと、スペクトラムデータあるいは画像データとを、患者毎に記憶する。
【0024】
表示部105は、スペクトラムデータあるいは画像データ等の各種の情報を主制御部107の制御の下に表示する。表示部105としては、液晶表示器などの表示デバイスを利用可能である。
【0025】
入力部106は、オペレータからの各種指令や情報入力を受け付ける。入力部106としては、マウスやトラックボールなどのポインティングデバイス、モード切替スイッチ等の選択デバイス、あるいはキーボード等の入力デバイスを適宜に利用可能である。
【0026】
主制御部107は、図示していないCPUやメモリ等を有しており、MRI装置を総括的に制御する。
【0027】
検出用コイルユニット11は、リング状をなし、傾斜磁場コイル2に並べて配置されている。検出用コイルユニット11は、ループ状のコイルを内蔵し、このコイルの内部を通る磁場により誘起されて電圧を発生する。検出用コイルユニット11は、図2に示すように1つのコイル111を備える。そして、コイル111の両端が接近判断部12に接続される。コイル111は、巻き方、巻き数、あるいはコイル巻きの間隔などを適宜に調整して、適正な感度を得られるように構成することが望ましい。
【0028】
防止動作制御部13は、ガントリに磁性体が接近している場合に、防止動作部14を動作させる。
【0029】
防止動作部14は、当該磁性体がガントリに磁場吸引されることを防止するための防止動作を行う。防止動作部14としては例えば、音声再生装置、発光装置、表示装置、自動扉装置、エアバッグ装置、あるいは磁場消失手段などを適用できる。
【0030】
次に以上のように構成されたMRI装置の動作について説明する。
【0031】
静磁場磁石1は、その内部の撮影空間内に診断のための磁場を発生している。この磁場は、静磁場磁石1の撮影空間の外にも漏洩している。静磁場磁石1が発生する磁場は、時間的に変化しない静磁場であり、漏洩している磁場も同様に静磁場である。しかしながら、ガントリに磁性体が接近すると、その影響を受けて磁場の強度(磁束密度)が変化する。コイル111を通る磁束がある時間dtにおいて変化する量をdΦ、コイル111の周辺における磁束密度が時間dtにおいて変化する量をdB、コイル111の内側の面積をSと表すならば、コイル111の両端に発生する電圧Vは、
V=−(dΦ/dt)=−(dB/dt)×S
となる。面積Sは変化しないから、電圧VはdB/dtに応じた大きさになる。すなわち電圧Vは、単位時間当たりの磁束密度の変化量に応じた大きさになる。そこで接近判断部12は、電圧Vが閾値を超えている場合に、磁性体が接近していると判断する。なお、閾値は、静磁場磁石1の性能などを考慮して、通常の静磁場の変化に応じて生じる電圧よりも大きく定めておく。
【0032】
防止動作制御部13は、接近判断部12によって磁性体が接近していると判断されるのを待ち受けている。そして防止動作制御部13は、磁性体が接近していると判断されたことに応じて、防止動作を実行するように防止動作部14を制御する。この制御の下に防止動作部14は、防止動作を実行する。防止動作部14が音声再生装置である場合には、防止動作は音声メッセージの出力である。防止動作部14が発光装置である場合には、防止動作は発光である。防止動作部14が表示装置である場合には、防止動作は文字メッセージやアイコンなどの表示である。なお、音声メッセージや文字メッセージの内容は、例えば「技師患者に磁性体が含まれています。」などである。防止動作部14が自動扉装置である場合には、防止動作は自動扉を閉鎖である。なお自動扉は、例えばMRI装置が設置される部屋の入口に設置される。防止動作部14がエアバッグ装置である場合には、防止動作はエアバッグの展開である。例えば図3に示すようにエアバッグ141は、展開したときにガントリGの撮影空間の開口を覆う。防止動作部14が磁場消失手段である場合には、防止動作は静磁場磁石1が発生する静磁場の消失である。
【0033】
かくして、音声メッセージの出力、発光、あるいは文字メッセージやアイコンの表示などを実行した場合には、磁性体をMRI装置に近づけようとしている人間に対して注意を促すことができ、磁性体がMRI装置に近づけられることを防止できる。また自動扉の閉鎖や、エアバッグの展開を実行した場合には、磁性体がそれ以上MRI装置に近づけられることを物理的に防止することができる。静磁場の消失を実行した場合には、磁性体がMRI装置に近づけられても、磁場吸引を生じさせないようにすることができる。これらによって、磁気吸引が発生することを従来よりも確実に防止することが可能となる。
【0034】
(第2の実施形態)
図5は第2の実施形態に係る磁場吸引防止装置の概略構成および設置状況を示す斜視図である。この図5に示す磁場吸引防止装置は、コイルユニット21a,21b,22a,22b、扉センサ23a,23b、警報部24a,24b,24cおよびメインユニット25を含む。
【0035】
コイルユニット21a,22a、扉センサ23aおよび警報部24aは、それぞれ前室31の出入口31aの近傍に配置される。コイルユニット21b,22b、扉センサ23bおよび警報部24bは、それぞれ撮影室32の出入口32aの近傍に配置される。24cおよびメインユニット25は、例えば操作室(図示せず)にそれぞれ配置される。
【0036】
より具体的には、コイルユニット21a,22aは、前室31の内部の壁または床に、出入口31aを挟んで互いに対向する状態で設置されている。扉センサ23aは、前室31の壁または床に出入口31aに面して取り付けられている。警報部24aは、出入口31aの上方の前室31の壁面に取り付けられている。コイルユニット21b,22bは、撮影室32の内部の床に、出入口32aを挟んで互いに対向する状態で設置されている。扉センサ23bは、撮影室32の壁に出入口32aに面して取り付けられている。警報部24bは、出入口32aの上方の撮影室32の壁面に取り付けられている。コイルユニット21b,22b、扉センサ23bおよび警報部24bは、設置場所が異なるだけで、コイルユニット21a,22a、扉センサ23aおよび警報部24aと同様に設けられる。
【0037】
なおコイルユニット21a,22aまたはコイルユニット21b,22bは、前室31または撮影室32の壁の表面に取りけられても良いし、前室31または撮影室32の壁の中や扉33aの枠または扉33bの枠の内部に埋設されても良い。さらにコイルユニット21a,22aまたはコイルユニット21b,22bは、出入口31aまたは出入口32aを通過する人間がコイルユニット21a,22aまたはコイルユニット21b,22bの中を通過するように構成および配置しても良い。
【0038】
扉センサ23a,23bは、出入口31a,32aにそれぞれ取り付けられた扉33a,33bの開閉をそれぞれ検出する。
【0039】
警報部24a,24b,24cは、音声メッセージの出力、発光、あるいは文字メッセージやアイコンなどの表示などによる警報動作を行う。
【0040】
なお、撮影室32はMRI装置34が配置され、このMRI装置34による撮影を行うための部屋である。前室31は、被検者が撮影のための準備を整えるための部屋である。
【0041】
図6は図5に示した磁場吸引防止装置の詳細な構成を示すブロック図である。
【0042】
コイルユニット21a,21b,22a,22bは、コイル211a,211b,221a,221bをそれぞれ内蔵している。コイルユニット22a,22bはさらに、磁気検出器222a,222bをそれぞれ内蔵している。ただし磁気検出器222a,222bは、コイルユニット21a,21bにそれぞれ内蔵されていても良い。
【0043】
コイル211a,211b,221a,221bは、メインユニット25からの電流供給を受けて磁場を発生する。
【0044】
磁気検出器222a,222bは、磁場を検出し、その強度に応じたレベルを持つ検出信号を出力する。磁気検出器222a,222bとしては、薄膜フラックスゲート磁気センサ、ガウスメータ(ホール素子)、磁気抵抗素子、あるいは磁気ダイオードなどとの周知の素子を用いることができる。
【0045】
メインユニット25は、検出電源251a,251b、キャンセル電源252a,252b、接近判断部253a,253b、通信部254および制御部255を含む。
【0046】
検出電源251a,251bは、コイル211a,211bにそれぞれ接続されていて、その接続されたコイルから磁場を発生させるための制御電流を出力する。
【0047】
コイル211a,211bが発生する磁場の役目は、漏洩磁場に依存しない磁性体の接近を検出可能とすることにより、検出精度の向上を図ることにある。
【0048】
キャンセル電源252a,252bは、コイル221a,221bにそれぞれ接続されていて、その接続されたコイルからキャンセル磁場を発生させるためのキャンセル電流を出力する。
【0049】
キャンセル磁場の役目は、磁気検出器222a,222bが漏洩磁場により飽和してしまうことを防止し、適切に磁性体の接近を検出可能とすることにある。
【0050】
接近判断部253a,253bは、磁気検出器222a,222bにそれぞれ接続されていて、その接続された磁気検出器の出力信号に基づいて磁性体の接近の有無を判断する。
【0051】
通信部254は、制御部255がネットワーク34を介してサービスセンタ35と通信することを可能とするための処理を行う。
【0052】
制御部255は、扉センサ23a,23b、警報部24a,24b,24c、検出電源251a,251b、キャンセル電源252a,252b、接近判断部253a,253bおよび通信部254がそれぞれ接続されている。制御部255は、扉センサ23a,23bによる検出結果と、接近判断部253a,253bによる判断結果を参照しながら警報部24a,24b,24c、検出電源251a,251bおよびキャンセル電源252a,252bを制御する。
【0053】
次に以上のように構成された磁場吸引防止装置の動作について説明する。
【0054】
通常の動作モードであるときに制御部255は、磁性体の持ち込みを監視するための処理を前室31と撮影室32をそれぞれ対象としてそれぞれ個別に行う。ここでは、前室31への磁性体の持ち込みを監視するための処理を例にとり、この処理について詳細に説明する。
【0055】
図7は磁性体の持ち込みを監視するための制御部255の処理を示すフローチャートである。
【0056】
ステップSa1において制御部255は、扉33aが開いたことを扉センサ23aが検出するのを待ち受ける。そして扉33aが開いたことが扉センサ23aにより検出されたならば、制御部255はステップSa1からステップSa2へ進む。
【0057】
ステップSa2において制御部255は、検出用電流およびキャンセル電流の供給開始を検出電源251aおよび/またはキャンセル電源252aにそれぞれ指示する。これに応じて検出電源251aおよび/またはキャンセル電源252aは、検出用電流およびキャンセル用電流の出力を開始する。検出用電流は、磁性体の接近を検出するための磁場をコイル211aから発生させる直流電流である。検出用電流の大きさは、出入口31aおよびその周囲をカバーし、かつ磁気検出器222aまで十分に及ぶ検出用磁場をコイル211aに発生させるように設定される。キャンセル用電流は、磁気検出器222aまで及んだMRI装置34からの漏洩磁場をキャンセルするためのキャンセル磁場をコイル221bに発生させる電流である。キャンセル用電流の適切な大きさおよび極性は、MRI装置34からの漏洩磁場の影響の大きさにおよび漏洩磁場の方向に応じて変化する。このため例えば、磁場吸引防止装置の設置時などに磁気検出器222a付近で測定した漏洩磁場の強度および方向に基づいてキャンセル用電流の適切な大きさおよび極性を設定しておく。
【0058】
かくして、扉33aが開かれているときには、出入口31aおよびその周辺では、MRI装置34からの漏洩磁場はキャンセルされ、磁気検出器222aの磁気飽和の制約が取り除かれる。検出用磁場は、磁気検出器222aによって検出され、その検出結果が検出用磁場の強度に応じたレベルを持つ検出信号として接近判断部253aに与えられる。接近判断部253aは、検出信号のレベルの変動量が予め定められた基準以下である場合には、磁性体が接近していないと判断する。しかしながら、磁性体が出入口31aを通って前室31の中に運び込まれようとすると、この磁性体の影響で検出磁場が変動し、検出信号のレベルがそれまでよりも大きく変動する。そして検出信号のレベルの変動量上記の基準を超えると、接近判断部253aは磁性体が接近したと判断する。
【0059】
ところで、キャンセル磁場は、磁気検出器222a,222bの近辺における漏洩磁場の影響を低減できれば良い。つまり、磁気検出器222a,222bが漏洩磁場によって飽和することが防止できれば良い。一方、検出用磁場は、漏洩磁場に影響されないように磁性体の接近を検出できる範囲を確保するため、少なくとも出入口31a,32aの周囲をカバーするように形成する必要がある。このため、図6に示すように、コイル221a,221bをコイル211a,211bよりも磁気検出器222a,222bに近づけて配置することが合理的である。なお、このように検出用磁場およびキャンセル磁場のそれぞれに要求される範囲の大きさが違うので、コイル221a,221bはコイル211a,211bよりも小さくすることも可能である。
【0060】
ステップSa3およびステップSa4において制御部255は、扉33aが閉じるか、あるいは接近判断部253aが磁性体が接近したと判断するのを待ち受ける。そして接近判断部253aが磁性体が接近したと判断したならば、制御部255はステップSa4からステップSa5へ進む。ステップSa5において制御部255は、警報処理を実行する。この警報処理は、警報部24a,24cの少なくとも一方を動作させる。警報部24aを動作させれば、磁性体を前室へ運び込んだ者や前室に既に居た人に、磁性体が前室へと運び込まれたことを知らせることになる。また警報部24cを動作させれば、操作室に居る技師に、磁性体が前室へと運び込まれたことを知らせることになる。この警報処理は、一定時間に限って行っても良いし、接近判断部253aが磁性体が接近していないと判断するようになるまで継続しても良い。
【0061】
そして警報処理を終えたら制御部255は、ステップSa6へ進む。なお、接近判断部253aが磁性体が接近したと判断することがないままに扉33aが閉じられた場合には、制御部255はステップSa3からステップSa6へ進む。ステップSa6において制御部255は、検出用電流およびキャンセル電流の供給停止を検出電源251aおよびキャンセル電源252aにそれぞれ指示する。これに応じて検出電源251aおよびキャンセル電源252aは、検出用電流およびキャンセル用電流の出力を停止する。
【0062】
ステップSa6を終えたら制御部255は、図7に示す処理を一旦終えるが、通常の動作モードが設定されている限りは、即座に図7に示す処理を再度開始する。
【0063】
さて、テストモードが設定された場合に制御部255は、動作テストのための処理を前室31と撮影室32をそれぞれ対象としてそれぞれ個別に行う。ここでは、撮影室32を対象とした動作テストのための処理を例にとり、この処理について詳細に説明する。なおテストモードは、技師やサービスマンにより手動設定されても良いし、磁場吸引防止装置またはMRI装置34の起動時や、一定時刻毎などに制御部255が自動設定しても良い。
【0064】
図8は動作テストのための制御部255の処理を示すフローチャートである。
【0065】
ステップSb1において制御部255は、テスト用電流およびキャンセル電流の供給開始を検出電源251bおよびキャンセル電源252bにそれぞれ指示する。これに応じて検出電源251bおよびキャンセル電源252bは、テスト用電流およびキャンセル用電流の出力を開始する。テスト用電流は、磁性体が接近した際の検出用磁場の強度変化と同様に変化するテスト用磁場をコイル211bから擬似的に発生させる電流である。従ってテスト用電流は直流であり、その大きさが変化する。
【0066】
かくして、検出電源251b、コイル211b、磁気検出器222bおよび接近判断部253bの全てが正常に動作していれば、接近判断部253bが磁性体が接近したと判断するはずである。
【0067】
そこでステップSb2において制御部255は、接近判断部253bが磁性体が接近したと判断したか否かを確認する。そして接近したと接近判断部253bが判断したならば、制御部255はステップSb2からステップSb3へ進み、正常と判定する。しかしながら、接近しなかったと接近判断部253bが判断したならば、制御部255はステップSb2からステップSb4へ進み、故障と判定する。
【0068】
制御部255は、ステップSb3またはステップSb4からステップSb5へ進む。ステップSb5において制御部255は、テスト用電流およびキャンセル電流の供給停止を検出電源251bおよびキャンセル電源252bにそれぞれ指示する。これに応じて検出電源251bおよびキャンセル電源252bは、テスト用電流およびキャンセル用電流の出力を停止する。
【0069】
ステップSb6において制御部255は、上記の判定結果を含んだテスト結果情報を予め定められた通知先へ通知するための処理を行う。通知先がサービスセンタ35である場合には制御部255は、テスト結果情報を通信部254からネットワーク34を介してサービスセンタ35へ送信する。通知先は、操作室に設置されたMRI装置34の操作部などとしても良い。また、メインユニット25に表示器を備え、この表示器にてテスト結果情報の内容を表示しても良い。
【0070】
かくして第2の実施形態によれば、コイル211a,211bから磁性体の接近を検出するために発生させた検出用磁場の変動に基づいて、この検出用磁場への磁性体の接近を検出するので、第1の実施形態のように漏洩磁場を用いる場合に比べて検出精度が向上する。
【0071】
また第2の実施形態によれば、MRI装置34からの漏洩磁場をキャンセルするので、この漏洩磁場が強い場所であっても、磁場検出器222a,222bが漏洩磁場により飽和してしまうことを防止し、適切に磁性体の接近を検出することができる。
【0072】
そして第2の実施形態によれば、磁性体が検出用磁場に接近している場合には、警報部24a,24b,24cを動作させることによって関係者に知らせるので、磁性体をそれ以上にMRI装置34に近づけないように関係者に注意を促すことができ、この結果として磁場吸引が発生することを防止することができる。
【0073】
また第2の実施形態によれば、コイル211a,211bから発生する磁場を、強度の変化を持ったテスト用磁場とすることによって、磁性体の接近の検出が正常に行えるか否かを簡易にテストすることができる。
【0074】
また第2の実施形態によれば、前室の出入口31aおよび撮影室の出入口32aのそれぞれで磁性体の接近の検出を行うようにしているので、2段階での警報を行うことができ、MRI装置34への磁場吸引をより確実に防止することができる。なお、前室の出入口31aにて磁性体の接近が検出された場合の警報は関係者に注意を促す程度の緩やかなものとし、撮影室の出入口32aにて磁性体の接近が検出された場合には大音量の警報音を発するなどして関係者に強い警告を与えるなどして、警報動作に減り張りを付けるようにすれば、警報の効果をさらに高めることができる場合がある。
【0075】
また第2の実施形態によれば、扉31a,32aが開いている場合などのように、新たな磁性体の接近が生じる可能性のあるときにのみ検出用磁場およびキャンセル磁場を発生するので、これら検出用磁場およびキャンセル磁場がMRI装置34における撮影に影響することを防止することができる。
【0076】
この実施形態は、次のような種々の変形実施が可能である。
【0077】
第1の実施形態において検出用コイルユニット11は、図4に示すようにコイル111に加えてコイル112を備えたものとしても良い。このとき、コイル112は、コイル111とは巻き方向を逆とすることも可能であり、また、静磁場の方向に沿って互いに離間して配置する。コイル111の両端を差動増幅器113の両入力端に接続し、コイル112の両端を差動増幅器114の両入力端に接続する。そして、差動増幅器113,114の出力をそれぞれ接近判断部12に入力する。このときに接近判断部12は差動増幅器113,114が出力する電圧を、コイル111,112の離間距離Lに応じて最適に重み付けした上で互いに足し合わせてまたは差し引いて得られる値の変化に基づいて磁性体が接近しているか否かを判断する。これにより、近傍磁場の変化を重点的に計測することが可能となる。
【0078】
第1の実施形態においては、防止動作部14を複数備えるようにしても良い。複数の防止動作部14は、互いに同じ防止動作を行っても良いし、別々の防止動作を行っても良い。例えば、複数の同様な表示装置を防止動作部14として備えるようにしても良いし、音声再生装置と自動扉装置とをそれぞれ防止動作部14として備えるようにしても良い。この場合、複数の防止動作部14のそれぞれが同時に防止動作を行っても良いが、タイミングをずらして防止動作を行っても良い。例えば音声再生装置により警告を与えた上で、さらに磁性体が接近する場合に自動扉を閉じるなどのようにすると、磁気吸引を多段階で防止することができて効果的である。
【0079】
第1の実施形態における磁性体の接近の検出は、別の方法により行っても良い。例えば、診断用磁場とは別に検出用の磁場を発生する磁場発生器を設けて、この検出用の磁場の変動に基づいて磁性体の接近を検出しても良い。
【0080】
第1の実施形態においては、磁性体の検出のために傾斜磁場の状態も考慮することにより、傾斜磁場の発生中においても磁性体の磁場吸引を防止するようにしても良い。
【0081】
第1の実施形態においては、検出用コイルユニット11、接近判断部12、防止動作制御部13および防止動作部14をMRI装置から独立させて、単独の磁場吸引防止装置を実現することも可能である。
【0082】
第2の実施形態において、検出用磁場の発生は、扉33a,33bの状態などに拘わらずに常に行っても良い。また、赤外線センサにより人間の接近が検出された場合などのように他のセンサからの信号に基づいて検出用磁場を発生するタイミングを決定しても良い。
【0083】
第2の実施形態において、警報動作とは別に、あるいは警報動作に代えて、扉33a,33bを自動的に閉じたり、第1の実施形態に示したようにMRI装置34に備えたエアバッグを展開させるなどの動作を行うようにしても良い。例えば、出入口31aにて磁性体の接近が検出された場合に、扉33bを自動的に閉じたり、扉33bをロックしたりすれば、MRI装置34への磁場吸引を極めて確実に防止できるようになる。
【0084】
第2の実施形態においては、磁気検出器222a,222bに代えて、第1の実施形態のようにコイルに誘起される電流の変動を利用するセンサを用いるようにしても良い。
【0085】
第2の実施形態においては、磁気検出器222a,222bをそれぞれ複数ずつ設け、磁気検出器222a,222bの故障に備えるようにしても良い。
【0086】
第2の実施形態においては、検出用電流として交流電流を用いるようにしても良い。この場合、検出用磁場の強度が一定の周期で変動するから、その変動周波数に同期した変化を監視することによって磁性体の接近を検出することができる。この場合、上記の変動周波数と大きく異なる周波数の成分をフィルタリングすることによって、検出用磁場とは変動周波数が大きく異なる別の磁場の影響や、電気的なノイズの影響を受けることなく、高精度に磁性体の接近を検出することが可能となる。
【0087】
なお、本発明は上記各実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記各実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、各実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0088】
1…静磁場磁石、2…傾斜磁場コイル、3…傾斜磁場電源、4…寝台、5…寝台制御部、6…送信RFコイルユニット、7…送信部、8…受信RFコイルユニット、9…受信部、10…計算機システム、11…検出用コイルユニット、12…接近判断部、13…防止動作制御部、14…防止動作部、111,112…コイル、113,114…差動増幅器、21a,21b,22a,22b…コイルユニット、23a,23b…扉センサ、24a,24b,24c…警報部、25…メインユニット、211a,211b,221a,221b…コイル、222a,222b…磁気検出器、251a,251b…検出電源、252a,252b…キャンセル電源、253a,253b…接近判断部、254…通信部、255…制御部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
接近検出用磁場を発生するとともに当該接近検出用磁場の強度変動に基づいて磁気共鳴診断装置への磁性体の接近を検出する接近検出部と、
前記接近検出部により前記磁性体の接近が検出されたことに応じて、当該検出結果を表す情報を、遠隔のサービスセンタまたは前記磁気共鳴診断装置に送信する送信部とを具備したことを特徴とする磁場吸引防止装置。
【請求項2】
前記接近検出部は、
前記接近検出用磁場を発生する検出用磁場発生部と、
前記接近検出用磁場の強度を検出する磁場検出部と、
前記磁場検出部が検出した強度の変動に基づいて前記磁気共鳴診断装置への前記磁性体の接近を判定する接近判定部とをさらに具備し、
前記磁場検出部が検出した強度の変化に基づいて前記接近検出部の故障を判定する故障判定部をさらに備え、
前記送信部は、前記故障判定部での判定結果を表す情報を前記サービスセンタまたは前記磁気共鳴診断装置に送信することを特徴とする請求項1に記載の磁場吸引防止装置。
【請求項3】
前記検出用磁場発生部は、通常モードでは一定の強度で前記接近検出用磁場を発生し、テストモードでは強度を変化させつつ前記接近検出用磁場を発生し、
前記故障判定部は、前記テストモードにおいて前記磁場検出部が検出した磁場の強度の変化に基づいて前記検出モジュールの故障を検出することを特徴とする請求項2に記載の磁場吸引防止装置。
【請求項4】
前記磁場検出部の周囲にて前記磁場共鳴診断装置からの漏洩磁場をキャンセルするためのキャンセル磁場を発生するキャンセル磁場発生部をさらに備えたことを特徴とする請求項2または3に記載の磁場吸引防止装置。
【請求項5】
接近検出用磁場を発生するとともに当該接近検出用磁場の強度変動に基づいて磁気共鳴診断装置への磁性体の接近を検出する接近検出部と、
前記接近検出部により前記磁性体の接近が検出されたことに応じて、前記磁気共鳴診断装置に前記磁性体が磁場吸引されることを防止する防止部と、
前記磁気共鳴診断装置から発生して前記接近検出部にて前記接近検出用磁場を検出する領域に及んだ漏洩磁場をキャンセルするためのキャンセル磁場を発生するキャンセル磁場発生部とを具備したことを特徴とする磁場吸引防止装置。
【請求項6】
前記接近検出部は、
前記接近検出用磁場を発生する検出用磁場発生部と、
前記検出用磁場発生部により発生された前記接近検出用磁場の強度を検出する磁場検出部と、
前記磁場検出部により検出された前記接近検出用磁場の強度変動に基づいて前記磁気共鳴診断装置への前記磁性体の接近の有無を判断する判断部とを具備した検出モジュールを少なくとも1つ備えることを特徴とする請求項5に記載の磁場吸引防止装置。
【請求項7】
前記検出用磁場発生部は、
コイルと、
前記コイルから前記接近検出用磁場を発生させるための制御電流を前記コイルに供給する供給部とを具備することを特徴とする請求項6に記載の磁場吸引防止装置。
【請求項8】
前記供給部は、前記制御電流として直流電流を供給することを特徴とする請求項7に記載の磁場吸引防止装置。
【請求項9】
前記供給部は、前記制御電流として交流電流を供給することを特徴とする請求項7に記載の磁場吸引防止装置。
【請求項10】
前記検出モジュールは、前記磁気共鳴診断装置が設置された撮影室と当該撮影室に隣接する前室との間に設けられた第1の出入口を通過しての前記磁気共鳴診断装置への前記磁性体の接近を検出することを特徴とする請求項6に記載の磁場吸引防止装置。
【請求項11】
前記第1の出入口とは異なり前記前室に設けられた第2の出入口に設けられた扉の動作に応答して検出動作を開始するように前記検出モジュールを制御する制御部をさらに備えることを特徴とする請求項10に記載の磁場吸引防止装置。
【請求項12】
前記接近検出部は、前記検出モジュールを2つ備え、これら2つの検出モジュールの一方は、前記磁気共鳴診断装置が設置された撮影室と当該撮影室に隣接する前室との間に設けられた第1の出入口を通過しての前記磁気共鳴診断装置への前記磁性体の接近を検出し、他方は、前記前室に設けられ前記第1の出入口とは異なる第2の出入口を通過しての前記磁気共鳴診断装置への前記磁性体の接近を検出することを特徴とする請求項6に記載の磁場吸引防止装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−228547(P2012−228547A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−162719(P2012−162719)
【出願日】平成24年7月23日(2012.7.23)
【分割の表示】特願2007−77122(P2007−77122)の分割
【原出願日】平成19年3月23日(2007.3.23)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(594164542)東芝メディカルシステムズ株式会社 (4,066)
【Fターム(参考)】