説明

磁性を有するキトサン系酵素固定化用担体及びその製造方法

【課題】酵素固定化用担体としての性能を維持しながらも、磁力による捕集が可能なキトサン系酵素固定化用担体、及びこれを効率よく製造する方法を提供する。
【解決手段】第一鉄イオンと第二鉄イオンよりなる磁性化粒子が、ある範囲となるように、粒状多孔質架橋キトサンに磁性化粒子を形成させてなる、磁性を有するキトサン系酵素固定化用担体であって、そして、粒状多孔質架橋キトサンを、第一鉄イオンと第二鉄イオンを含む鉄イオン溶液中に添加混合した後、アルカリ水溶液により処理し、粒状多孔質架橋キトサンに磁性化粒子を形成させることを特徴とする磁性を有するキトサン系酵素固定化用担体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酵素固定化用担体としての性能を維持しながらも、磁力による捕集が可能な磁性を有するキトサン系酵素固定化用担体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、酵素をバイオリアクターやバイオセンサーに利用する場合、酵素を繰り返し利用すべく、溶媒不溶性にする固定化技術が用いられる。固定化法としては、酵素を直接架橋し、不溶化する方法もあるが、ガラス、アルミナ、シリカゲル、セルロース及びその誘導体、キトサン及びその誘導体、合成イオン交換樹脂などの酵素固定化用担体と複合化する系が主流である。特にキトサン及びその誘導体は、分子内に多様な官能基を有するため、酵素が静電的、あるいは物理的に吸着、固定化しやすく、しかも、変性や失活が起こりにくいので、近年、その利用例が増えつつある。中でも、本出願人らが開示している粒状多孔質化し架橋化したキトサン系の担体(特許文献1参照)は、粒子内での物質拡散性、および物理的強度にも優れたものとして、広く使用されている。
【0003】
他方、固定化酵素と反応生成物の分離・回収を、迅速かつ容易に行いたいという要望が、スケールアップや実用化における使い勝手の面からあり、磁力により回収すべく、磁性を付与した酵素固定化用担体を用いる方法が開示されている(特許文献2、3参照)。キトサンに磁性を付与し、酵素固定化用担体とする方法については、キトサンを酸性水溶液に溶解し、このキトサン溶液に磁性を有する粒子を分散させ、この分散液を塩基性溶液により中和して成形するといった提案がいくつかなされている(特許文献4、5参照)。
【特許文献1】特公昭63-54285号公報
【特許文献2】特開平5−268961号公報
【特許文献3】特開平10−75780号公報
【特許文献4】特公平6−51114号公報
【特許文献5】特開平17−296942号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の背景技術において、キトサン溶液に磁性を有する粒子を分散させ、この分散液を塩基性溶液により中和して成形したキトサン系酵素固定化用担体は、磁性を有する粒子が担体内部に埋もれて、捕集性能を改善しにくいという欠点がある。しかし、磁性を有する粒子の配合量を上げると、露出した粒子が脱離する、あるいはキトサンが剥離するという問題が生じ、更には、酵素の固定化部位減少や、それに伴う活性低下が起こるといった欠点がある。
したがって、本発明は、酵素固定化用担体等としての性能を維持しながらも、磁力による捕集が可能なキトサン系酵素固定化用担体、及びこれを効率よく製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の問題点を解決するために、本発明者は、鋭意検討した結果、粒状多孔質架橋キトサンに第一鉄イオンおよび第二鉄イオンの存在下でアルカリ処理する事で、酵素固定化用担体としての性能を維持しながらも、磁力による捕集が可能な磁性を有するキトサン系酵素固定化用担体が得られる事を見出し、本発明に到達した。
すなわち本発明は、粒状多孔質架橋キトサンに、第一鉄イオンと第二鉄イオンの総モル数に対する第一鉄イオンの割合が30mol%から80mol%の範囲にある鉄イオン溶液を、粒状多孔質架橋キトサン25mLに対して鉄塩の総モル数が0.4×10-2molから3.0×10-2molの範囲で接触させた後、アルカリ溶液で処理して、第一鉄イオンと第二鉄イオンよりなる磁性化粒子の灰分率の増分が2%〜23%の範囲となるように、粒状多孔質架橋キトサンに磁性化粒子を形成させてなる、磁性を有するキトサン系酵素固定化用担体およびその製造方法に係るものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明は、固定化酵素活性に優れた粒状多孔質架橋キトサンをベースに用いているので、良好な酵素反応を得ることができる上、磁性化を後処理により付与している為、磁性体が系全体に均一且つ微細に分散しており、磁力による捕集能にも優れた性能を発揮できるので、様々なバイオリアクター、バイオセンサーへの応用が期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下に本発明について詳細に説明する。
本発明における粒状多孔質架橋キトサンは、例えば、キトサンを酸性水溶液に溶解した後、該溶液を塩基性溶液中に落下せしめて得た粒状多孔質キトサンを、エポキシ系やイソシアネート系等の架橋剤により架橋したものであれば、特に限定されない。ここで用いられる架橋剤としては、例えば、ヘキサメチレンビス−(2,3−エポキシプロピルジメチルアンモニウムクロライド)、ヘキサメチレンビス−(2,3−エポキシプロピルジエチルアンモニウムクロライド)、プロピレンビス−(2,3−エポキシプロピルジメチルアンモニウムクロライド)、プロピレンビス−(2,3−エポキシプロピルジエチルアンモニウムクロライド)、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、トリエチレングリコールジグリシジルエーテル、トリメチレングリコールジグリシジルエーテル、テトラメチレングリコールジグリシジルエーテル、ヘキサメチレングリコールジグリシジルエーテル、エピクロロヒドリン等のエポキシ系架橋剤や、ヘキサメチレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、1,4−フェニレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、イソフォロンジイソシアネート等のイソシアネート系架橋剤、などが挙げられる。
【0008】
また、粒状多孔質架橋キトサンの粒子径は特に限定されるものではないが、大きすぎると表面積が小さくなるので、酵素反応の効率が悪くなり、小さすぎると、処理が困難になることから、70〜3000μmの粒子径であることが好ましく、120〜1200μmが特に好ましい。
孔径についても大きすぎると表面積が小さくなってしまい酵素反応の効率が悪くなり、小さすぎると、酵素反応における物質の多孔質内拡散速度が低下し、みかけの酵素活性が低下してしまう事から、100〜7500オングストロームが好ましく、1000〜2000オングストロームが特に好ましい。
【0009】
本発明における鉄イオン溶液中の、第一鉄イオン、および、第二鉄イオンのイオン源としては、塩酸塩、硫酸塩、クエン酸塩、および、酢酸塩など、それぞれに相当する汎用、市販の塩であれば、何れも使用できるが、コストや入手簡便性、廃物利用(鋼板の酸洗浄工程で発生する)の観点から、それぞれの塩化物であることが好ましい。
本発明における鉄イオン溶液は、第一鉄イオンと第二鉄イオンの混合水溶液であり、第一鉄イオンと第二鉄イオンの比率としては、第一鉄イオンと第二鉄イオンの総モル数に対する第一鉄イオンの割合が、30mol%から80mol%の範囲にある事が好ましく、45mol%〜80mol%の範囲にあることがより好ましい。第一鉄イオンが30mol%に満たないと十分な磁力が得られず、磁石に近付けてもその捕集は出来ない。逆に、第一鉄イオンの割合が80mol%より大きいと磁石で捕集は出来ても酵素の固定化量が減少する。
【0010】
本発明における塩化第一鉄イオンと塩化第二鉄イオンの混合物の仕込み量は、粒状多孔質架橋キトサン25mLに対して、0.4×10-2mol以上3×10-2mol以下の範囲にあり、さらに、灰分率が2%以上23%以内の範囲にあることが必要である。鉄イオンの総モル量が0.4×10-2molに満たない場合、若しくは、灰分の増分が2%に満たない場合は、酵素固定化量や固定化酵素活性には問題ないが、磁石を近付けても捕集する性能が不十分となる。また、鉄イオンの総モル量が3×10-2molを超える場合、若しくは、灰分の増分が23%を超えた場合は、磁性体の生成斑により、磁性体が脱離しやすくなり、好ましくない。尚、本発明に於ける灰分率とは、後述のように絶乾した磁性化粒子を形成させたキトサン系酵素固定化用担体の重量と、該キトサン系酵素固定化用担体の焼成後残分重量とを測定して得られた値である。
【0011】
本発明は、上記の粒状多孔質架橋キトサンを、第一鉄イオンと第二鉄イオンを含む鉄イオン溶液中に添加混合するが、添加混合の方法は特に制限されず、鉄イオンが十分に、粒状多孔質架橋キトサンの内部に浸透するようにすればよい。一例を挙げれば、30〜80℃位で100〜300ストローク/分で振とうしながら1〜6時間程度処理すれば良い。なお、当該処理において、共沈鉄の凝集に伴う沈殿等を抑制するため、保護コロイドとしての役割を担うデキストラン等を系内に加えても良い。
次に、本発明では、上記の添加、混合処理の後、アルカリ水溶液を加え、粒状多孔質架橋キトサンに磁性化粒子を形成させる。このとき用いるアルカリ水溶液としては、従来既存の塩基性物質の水溶液であれば何れも使用できるが、中でも、アンモニア水や水酸化ナトリウム水溶液を使用することが好ましい。なお、アルカリ水溶液の量は、反応系のpHが8以上になるように適宜選択すればよいが、過度に用いると、粒状多孔質架橋キトサンの架橋基や改質基の脱離、および、孔の収縮が起こり、酵素固定化量が減少することがあるため好ましくない。
アルカリ水溶液を加えた後の処理についても、先の通り、30〜80℃位で100〜300ストロークで振とうしながら1〜6時間程度処理すれば良い。
【実施例】
【0012】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。なお、実施例、および、比較例において、反応斑、磁性、キトサン系酵素固定化用担体の形態、灰分率、タンパク質吸着率、および、固定化酵素の固定化率、発現力価、発現率については、以下の方法より測定、または、評価した。
【0013】
(1) 反応斑(外観評価)
実施例に示す方法で調製したキトサン系酵素固定化用担体の色調を目視観察し、その色斑から反応斑を評価した。色斑が無く均質性に優れる場合は○、色斑はあるが品質的に許容できる範囲内である場合は△、色斑が大きく、品質的に許容できない場合は×として評価した。
(2) 磁石への付着(外観評価)
実施例に示す方法で調製したキトサン系酵素固定化用担体をガラスシャーレに移し、キトサン系酵素固定化用担体が水没するまでRO水を加えた後、磁束密度0.3Tの回転子取り出し棒(アズワン社製)を系中に挿入して磁石への付着状況、および、引き寄せられる状況を目視観察により評価した。評価結果は、付着する場合は○、付着しない、あるいは、系外に取り出すことが出来ない場合は×で示した。
(3) 走査型電子顕微鏡(SEM)観察
実施例に示す方法で調製したキトサン系酵素固定化用担体をRO水、メタノール、エタノール、そして、t−ブチルアルコールの順に洗浄、溶媒交換し、凍結乾燥した。凍結乾燥後、表面に金をスパッタリングし、日本電子製JSM6060LVを用いて、5000倍で観察した。
【0014】
(4) 灰分率測定
熱風循環式乾燥器中、105℃、4時間の条件で絶乾した試料を風袋重量既知のセラミックるつぼに入れた後、電気炉中で600℃、5時間の条件で灰化した。灰化後は、速やかにデシケータに入れ、デシケータ中で室温まで放冷後、重量を計測し、下式から灰分率を求めた。
灰分率(%)=焼成残分重量(g)/絶乾試料重量(g)×100
(5) アルブミンの吸着
0.01Mリン酸水素二ナトリウムと0.01Mリン酸二水素ナトリウムより調製した0.01Mリン酸バッファー(pH7.4)で置換した各酵素固定化用担体5mlをプラスチック製の密閉容器に量り取り、1%のウシ血清アルブミン(MP Biomedicals, Inc.製)の0.01Mリン酸バッファー(pH7.4)溶液50mlを加え、恒温ロータリーシェーカーを使用して、25℃で4時間振とう(振とう速度:125rpm)した。
(6) ヘモグロビンの吸着
0.01Mリン酸バッファー(pH7.4)で置換した各酵素固定化用担体5mlをプラスチック製の密閉容器に量り取り、1%のウシ血液由来ヘモグロビン(和光純薬製、試薬特級) の0.01Mリン酸バッファー(pH7.4)溶液50mlを加え、恒温ロータリーシェーカーを使用して、25℃で4時間振とう(振とう速度:125rpm)した。
(7) タンパク質吸着率の測定
アルブミン、あるいは、ヘモグロビンを所定時間、各酵素固定化用担体に吸着させた後、反応液5mLを10倍に希釈し、分光光度計(島津製作所製UV-2450)を用いて、280nmの吸光度より吸着量を測定し、下記の式1に基づいて算出した。
【0015】
【数1】

【0016】
〔実施例1〕
粒径840〜1,190μm、比表面積110〜130m2/gのキトサン系酵素固定化用担体(富士紡ホールディングス社製キトパールBCW−2510)25mLをプラスチック製の密閉容器に量り取り、スポイトで水分を軽く除去した。ここに、あらかじめ調製しておいた磁性化溶液(塩化第一鉄・四水和物2.78g(1.40×10-2mol)、塩化第二鉄・六水和物4.17g(1.54×10-2mol)、および、デキストラン1.81gを40.0gのRO水に溶解させた溶液)を全量投入し、良く混合した。次いで、反応系を振とう恒温水槽を用いて60℃に昇温し、125ストローク/分で2時間、浸とう、混合した。所定時間経過後、反応系に28%アンモニア水(和光純薬製)5.75gを43.61gのRO水で希釈した溶液を添加し、良く混合した。なお、この時点で系は褐色化した。その後、再び、振とう恒温水槽を用いて反応系を60℃に昇温し、125ストローク/分で1時間、浸とう、混合した。所定時間経過後、系を濾別、水洗して目的物を得た。目的物は、RO水中、5℃で保管した。
【0017】
処理前のキトサン系酵素固定化用担体をSEM観察した様子を図1、得られた目的物をSEM観察した様子を図2に示す。図1、図2のSEM写真から分かる様に、処理後もキトサン系酵素固定化用担体が元来有する多孔質構造が、そのまま保持されていた。目的物を焼成、灰化し、灰分率を評価すると22.4%であった。なお、磁性化前の灰分率はほぼ0であった。このるつぼ残存成分をSEM観察した様子が図3であるが、焼成により細孔の収縮、消失が起こったものの、その構造は、元の酵素固定化用担体の形状をトレースしていた。磁性化処理後の湿潤にあるキトサン系酵素固定化用担体に磁石を近づけると、担体粒子は図4に示すように磁石に引き寄せられ、付着した。よって、本願の目的の一つである、磁性を有するキトサン系酵素固定化用担体が得られた。
アルブミン、および、ヘモグロビンの吸着率を評価したところ、それぞれ46.9mg/ml、22.8mg/mlであり、酵素固定化用担体としての性能を十分に保持していた。よって、本願の目的である磁性と酵素固定可能の同時具備が達せられたといえる。実施例1〜3及び比較例1〜3による磁性化処理後のキトサン系酵素固定化用担体の性状及び評価結果を、表1にまとめた。
【0018】
【表1】

【0019】
尚、アルブミン、および、ヘモグロビンの吸着率は、以下のようにして測定した。
磁性化酵素固定化用担体5mlに対し、RO水に150Uの力価を持つように溶解、調製した水溶液(天野エンザイム株式会社製アシラーゼアマノ水溶液)10mlを加え、室温で2時間振とうしてアシラーゼを固定化した。反応液5mlを系から量り取り、10倍に希釈した後、280nmにおける吸光度を測定した。磁性化酵素固定化用担体を入れずに同様の操作を行ったものをブランクとし、ブランク吸光度との差から固定化アシラーゼ量を求めた。
【0020】
次に、固定化アシラーゼの活性を調べるために下記の操作を行った。
上記操作により調製したアシラーゼ固定化担体を280nmにおける吸光度が0.025以下になるまで充分に洗浄し未反応の酵素を除去した。得られた磁性化担体、あるいは、非磁性化担体1mlをスクリュー管に入れ、クエン酸バッファー(pH5.0)2ml、0.5mM塩化コバルト水溶液1mlを加え、37℃で5分間反応させた。続いて、基質溶液として、N−アセチル−DL−メチオニン溶液1mlを系に加え、試験管ミキサーで攪拌後、37℃で15分間反応させた。反応混合物をろ過した後、ろ液から1mlを分取し、3分間80℃の湯浴中で加熱することにより反応を停止させた。反応液を流水で冷却後、後述する方法で調製したニンヒドリン溶液1ml、および、第一塩化スズ溶液0.05mlを加え、90℃の湯浴中で20分間強熱した。流水で冷却後、50%2−プロパノール水溶液を5ml加え、570nmにおける吸光度を測定した。酵素固定化用担体を入れないで同様の操作を行った系をブランクとして用意し、吸光度を測定した。なお、反応に使用したN−アセチル−DL−メチオニン、ニンヒドリン溶液、および、第一塩化スズ水溶液は以下の様に調製した。
N−アセチル−DL−メチオニン溶液:N−アセチル−DL−メチオニン(和光純薬工業株式会社製試薬特級、MW=191.25)0.478gを量り、RO水10mlと1N−水酸化ナトリウム液2mlを加え、溶解した。その後、系中にN/10−水酸化ナトリウム液を加えることによって、pHを8.0に調整し、さらにRO水を加え25mlとした。
ニンヒドリン溶液:ニンヒドリン(和光純薬工業株式会社製アミノ酸自動分析用、8.14)1.0gを量り、25mlのエチレングリコールモノメチルエーテル(和光純薬工業株式会社製試薬特級、MW=76.1)を加え、溶解した後、クエン酸−水酸化ナトリウム緩衝液(pH5.0)を25ml加えて振とうした。
第一塩化スズ水溶液:塩化第一スズ(和光純薬工業株式会社製試薬特級、MW=225.63)0.1gを量り、クエン酸−水酸化ナトリウム緩衝液(pH5.0)を6.2ml加えて溶解した。
【0021】
〔実施例2〕
塩化第一鉄・四水和物1.39g(0.70×10-2mol)、塩化第二鉄・六水和物2.09g(0.77×10-2mol)、および、デキストラン0.90gを42.5gのRO水に溶解させた磁性化溶液を用いた以外は、実施例1と同様の作業を行った。表1に示す様に、本発明の目的を満足する担体が得られた。
【0022】
〔実施例3〕
塩化第一鉄・四水和物0.70g(0.35×10-2mol)、塩化第二鉄・六水和物1.04g(0.38×10-2mol)、および、デキストラン0.45gを43.8gのRO水に溶解させた磁性化溶液を用いた以外は、実施例1と同様の作業を行った。表1に示す様に、本発明の目的を満足する担体が得られた。
【0023】
〔実施例4〕
鉄イオン源として、塩化第一鉄・四水和物を1.27g(0.64×10-2mol)、塩化第二鉄・六水和物を0.43g(0.16×10-2mol)使用し、デキストラン0.45gを42.9gのRO水に溶解させた磁性化溶液を用いた以外は実施例1と同様の作業を行い、本発明の目的を満足する担体を得た。実施例4〜6及び比較例4,5による磁性化処理後のキトサン系酵素固定化用担体の性状及び評価結果を、表2にまとめた。
【0024】
【表2】

【0025】
〔実施例5〕
鉄イオン源として、塩化第一鉄・四水和物を0.85g(0.43×10-2mol)、塩化第二鉄・六水和物を0.85g(1.27×10-2mol)使用し、デキストラン0.45gを42.9gのRO水に溶解させた磁性化溶液を用いた以外は実施例1と同様の作業を行った。表2に示す様に、本発明の目的を満足する担体が得られた。
【0026】
〔実施例6〕
鉄イオン源として、塩化第一鉄・四水和物を0.43g(0.22×10-2mol)、塩化第二鉄・六水和物を1.27g(0.47×10-2mol)使用し、デキストラン0.45gを42.9gのRO水に溶解させた磁性化溶液を用いた以外は実施例1と同様の作業を行った。表2に示す様に、本発明の目的を満足する担体が得られた。
【0027】
〔実施例7〕
キトサン系酵素固定化用担体として、粒径840〜1,190μm、比表面積120〜150m2/gのキトサン系酵素固定化用担体(富士紡ホールディングス社製キトパールBCW−3010)を用いた以外、実施例1と同様にして磁性化酵素固定化用担体を作製した。
【0028】
上記実施例7及び実施例8の方法により得た磁性化処理後のキトサン系酵素固定化用担体の測定した固定化アシラーゼの活性について、下式に基づき担体試料の固定化率、固定化力価、および発現力化、さらに発現率を数2〜4により算出した。結果、表3から明らかなように、本発明による磁性化担体は、磁性化していない担体と各種性能が同程度であり、磁性化による性能低下がないことが示された。
【0029】
【数2】

なお、上記式中の各種ファクターは、以下の通りである。
330.94:L−メチオニンで作成した検量線より求めた吸光度差1.000となるL−メチオニン量
149:L−メチオニン1μmolに対する重量(μg)
16:試料希釈倍数×単位換算係数
W:活性測定に用いた固定化酵素担体量(g)
【数3】

【数4】

【0030】
【表3】

【0031】
〔実施例8〕
キトサン系酵素固定化用担体として、粒径840〜1,190μm、比表面積150〜200m2/g)のキトサン系酵素固定化用担体(富士紡ホールディングス社製キトパールBCW−3510)を用いた以外は、実施例7と同様の操作を行い磁性化アシラーゼ固定化担体の性能を評価した。結果、表3から明らかなように、本発明による磁性化担体は、磁性化していない担体と各種性能が同程度であり、磁性化による性能低下がないことが示された。
【0032】
〔比較例1〕
塩化第一鉄・四水和物11.1g(5.58×10-2mol)、塩化第二鉄・六水和物16.7g(6.18×10-2mol)、および、デキストラン7.23gを25.0gのRO水に溶解させた磁性化溶液を用いた以外は、実施例1と同様の作業を行った。結果、表1に示す様に、磁石への付着が観られず、本発明の目的を満足する担体は得られなかった。
【0033】
〔比較例2〕
塩化第一鉄・四水和物5.56g(2.80×10-2mol)、塩化第二鉄・六水和物8.35g(3.09×10-2mol)、および、デキストラン3.62gを35.0gのRO水に溶解させた磁性化溶液を用いた以外は、実施例1と同様の作業を行った。結果、表1に示す様に、磁石への付着が観られず、本発明の目的を満足する担体は得られなかった。
【0034】
〔比較例3〕
塩化第一鉄・四水和物0.35g(0.18×10-2mol)、塩化第二鉄・六水和物0.50g(0.18×10-2mol)、および、デキストラン0.23gを44.4gのRO水に溶解させた磁性化溶液を用いた以外は、実施例1と同様の作業を行った。結果、表1に示す様に、磁石への付着が観られず、本発明の目的を満足する担体は得られなかった。
【0035】
〔比較例4〕
鉄イオン源として、塩化第一鉄・四水和物1.70g(0.86×10-2mol)のみ使用し、デキストラン0.45gを42.9gのRO水に溶解させた磁性化溶液を用いた以外は実施例1と同様の作業を行った。結果、表2に示す様に、磁性化は可能であったが、ヘモグロビンの吸着率が低下し、本発明の目的を満足する担体は得られなかった。
【0036】
〔比較例5〕
鉄イオン源として、塩化第二鉄・六水和物1.70g(0.63×10-2mol)のみ使用し、デキストラン0.45gを42.9gのRO水に溶解させた磁性化溶液を用いた以外は実施例1と同様の作業を行った。結果、表2に示す様に、磁石への付着が観られず、本発明の目的を満足する担体は得られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0037】
キトサン系酵素固定化用担体には様々な官能基を導入させることが出来るため、性質の異なる個々の酵素に対応させることが可能である。さらに、酵素の固定化方法も吸着法、架橋法、活性化法の3種より適宜選択することができ、糖質、タンパク質関連酵素の固定化などにおいて、安定性の高い固定化方法を選択可能である。本発明によって得られた担体は、上述したキトサンの酵素固定化能を持ちつつ、磁力による反応生成物との分離、および、固定化酵素の回収が容易であり、酵素反応を必要とする様々な用途に使用、応用が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】処理前のキトサン系酵素固定化用担体の断面を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【図2】本発明によるキトサン系酵素固定化用担体の断面を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【図3】本発明によるキトサン系酵素固定化用担体を焼成、灰化した後のるつぼ残存成分の走査型電子顕微鏡写真である。
【図4】本発明によるキトサン系酵素固定化用担体が磁石に引き寄せられ、付着する様子を示す写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒状多孔質架橋キトサンに、第一鉄イオンと第二鉄イオンの総モル数に対する第一鉄イオンの割合が30mol%から80mol%の範囲にある鉄イオン溶液を、粒状多孔質架橋キトサン25mLに対して鉄塩の総モル数が0.4×10-2molから3.0×10-2molの範囲で接触、析出させて得られる第一鉄イオンと第二鉄イオンよりなる磁性化粒子の灰分率の増分が2%〜23%の範囲である磁性を有するキトサン系酵素固定化用担体。
【請求項2】
粒状多孔質架橋キトサンに、第一鉄イオンと第二鉄イオンの総モル数に対する第一鉄イオンの割合が30mol%から80mol%の範囲にある鉄イオン溶液を、粒状多孔質架橋キトサン25mLに対して鉄塩の総モル数が0.4×10-2molから3.0×10-2molの範囲で接触させた後、アルカリ溶液で処理して、第一鉄イオンと第二鉄イオンよりなる磁性化粒子の灰分率の増分が2%〜23%の範囲となるように、粒状多孔質架橋キトサンに磁性化粒子を形成させることを特徴とする磁性を有するキトサン系酵素固定化用担体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−22169(P2009−22169A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−185683(P2007−185683)
【出願日】平成19年7月17日(2007.7.17)
【出願人】(000005359)富士紡ホールディングス株式会社 (180)
【Fターム(参考)】