説明

磁性微粒子含有剤形、及びその製造方法、並びに磁性微粒子含有製剤

【課題】新規な磁性微粒子含有剤形、及びその製造方法、並びに磁性微粒子含有製剤を提供すること。
【解決手段】本発明に係る磁性微粒子含有剤形10は、分子集合体1と、分子集合体1を被覆し、かつ磁性微粒子3を含有する被覆性磁性微粒子含有膜2と、を備える。薬剤は、分子集合体1、被覆性磁性微粒子含有膜2の少なくともいずれかに含ませることができる。本発明に係る磁性微粒子含有製剤100は、上記磁性微粒子含有剤形10と、これと会合体を形成する複合形成体40を備える。複合形成体40には、薬剤を含有させることができる。分子集合体1の好適な例としては、ミセルやリポソームを挙げることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性微粒子含有剤形、及びその製造方法に関する。また、磁性微粒子含有製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
目的とする臓器や組織などの病巣部に、薬物を効果的かつ集中的に送り込む技術として薬物送達システム(ドラックデリバリーシステム)が注目を集めている。この技術により、投与する薬物量や投与回数を軽減し、高効率な治療の実現を図ることが期待できる。
【0003】
次世代型の薬物送達システムとして、病巣部を磁場環境下とし、製剤に含有する磁性微粒子の集積特性を利用して薬物を送達する方法が提案されている。非特許文献1においては、ポリエチレンイミンで被覆した磁性微粒子ナノ結晶が提案されている。しかしながら、ポリエチレンイミンには、強い毒性があるため、生体内での利用は大幅に制限されるという問題があった。また、ポリエチレンイミンを主原料とする薬剤の遺伝子治療の臨床治験は報告されていないため、早急な臨床応用の実現は難しいという問題があった。
【0004】
図6に、特許文献1に開示された磁性微粒子を有するリポソームの模式図を示す。このリポソーム100は、脂質二重層膜101、疎水部102、親水部103、閉鎖空間104、磁性微粒子105を有する。リポソーム100内の閉鎖空間104には薬物が内包され、リポソーム100の包皮には、磁性微粒子105が構成成分として含まれている。
【0005】
図7に、本発明者の並木らが提案した自己会合型磁性脂質ナノ粒子の模式図を示す(特許文献2、非特許文献2)。この自己会合型磁性ナノ粒子200は、磁性微粒子ナノ結晶201、脂溶性界面活性剤202、脂溶性薬剤203を備える。磁性微粒子ナノ結晶201を脂溶性界面活性剤202が被覆し、さらに、脂溶性界面活性剤202を脂溶性薬剤203が被覆する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−242315号公報
【特許文献2】特許4183047号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Povey, A.C. et al. Journal of Pharmaceutical sciences, 1986, 75, 831-7.
【非特許文献2】Namiki, Y. et al. Nature Nanotechnology, 2009, 4, 598 - 606
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
薬剤を送達する標的となる組織、臓器に応じて、さらには、治療の目的などに応じて最適な薬の形態は異なる。また、薬剤の種類に応じて最適な剤形は異なる。そこで、公知例とは異なる磁性微粒子を利用した新たな剤形を提案できれば、磁性微粒子を利用した薬物送達システムを利用可能な薬剤をより増やすことができる。また、最適な剤形を選択可能とすることにより、特性向上が期待できる。
【0009】
本発明は、上記背景に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、新規な磁性微粒子含有剤形、及びその製造方法、並びに磁性微粒子含有製剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る磁性微粒子含有剤形は、磁性微粒子を含有する磁性微粒子含有剤形であって、分子集合体と、前記分子集合体を被覆し、かつ磁性微粒子を含有する被覆性磁性微粒子含有膜と、を備えるものである。
【0011】
本発明に係る磁性微粒子含有製剤は、上記磁性微粒子含有剤形の外側表面において複合形成体と会合体を形成し、当該複合形成体に薬剤が含有されているものである。
【0012】
本発明に係る磁性微粒子含有剤形の製造方法は、磁性微粒子を含有する被覆性磁性微粒子含有膜を形成し、これに、分子集合体を加え、当該分子集合体の少なくとも一部を前記被覆性磁性微粒子含有膜により被覆させるものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、新規な磁性微粒子含有剤形、及びその製造方法、並びに磁性微粒子含有製剤を提供することができるという優れた効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係る磁性微粒子含有剤形の一例を示す模式的概念図。
【図2A】本発明に係る被覆性磁性微粒子含有膜の一例を示す模式的概念図。
【図2B】本発明に係る被覆性磁性微粒子含有膜の一例を示す模式的概念図。
【図2C】本発明に係る被覆性磁性微粒子含有膜の一例を示す模式的概念図。
【図3A】本発明に係る磁性微粒子含有剤形の一例を示す模式図。
【図3B】本発明に係る磁性微粒子含有剤形の一例を示す模式図。
【図3C】本発明に係る磁性微粒子含有剤形の一例を示す模式図。
【図3D】本発明に係る磁性微粒子含有剤形の一例を示す模式図。
【図3E】本発明に係る磁性微粒子含有剤形の一例を示す模式図。
【図3F】本発明に係る磁性微粒子含有剤形の一例を示す模式図。
【図3G】本発明に係る磁性微粒子含有剤形の一例を示す模式図。
【図4】本発明に係る磁性微粒子含有剤形を薬物送達システムとして利用する場合の一例を示す説明図。
【図5】実施例に係る磁性微粒子含有剤形の写真。
【図6】特許文献1に係る磁性微粒子を有するリポソームの模式図。
【図7】特許文献2に係る自己会合型磁性脂質ナノ粒子の模式図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を適用した実施形態の一例について説明する。なお、本発明の趣旨に合致する限り、他の実施形態も本発明の範疇に含まれることは言うまでもない。また、以降の図における各部材のサイズや比率は、説明の便宜上のものであり、実際のものとは必ずしも一致しない。また、以降の実施形態及び実施例において、同一の要素部材には同一符号を付し、適宜その説明を省略する。
【0016】
図1に、本発明に係る磁性微粒子含有剤形10の模式的概念図を示す。磁性微粒子含有剤形10は、内包された分子集合体1と、この分子集合体1の少なくとも一部を被覆する被覆性磁性微粒子含有膜2とを備える。被覆性磁性微粒子含有膜2には、磁性微粒子3が含有されている。
【0017】
分子集合体1は、その名称のごとく分子集合体を構成するものである。分子集合体の好適な例としては、リポソーム、ミセル、ポリマーから構成される粒子を挙げることができる。分子集合体1を構成する分子集合体の形成方法は、特に限定されず、公知の技術を制限なく適用することができる。
【0018】
被覆性磁性微粒子含有膜2は、分子集合体1の少なくとも一部を被覆する膜からなり、磁性微粒子3を含有している。被覆性磁性微粒子含有膜2の主成分を構成する膜の材料、及び製造方法は、特に制限なく利用することができる。但し、生体内利用を目的とした場合、毒性による有害事象回避のために、生体適合性を有する膜を適用することが好ましい。被覆性磁性微粒子膜2の主成分の好適な例としては、脂質膜、若しくは高分子膜を挙げることができる。
【0019】
脂質膜の好適な例としては、中性脂質、陽性荷電脂質、陰性荷電脂質などを挙げることができる。中性脂質としては、例えば、ジアシルホスファチジルコリン、ジアシルホスファチジルエタノールアミン、コレステロール、セラミド、スフィンゴミエリン、セファリン、セレブロシド等が挙げられる。陽性荷電脂質としては、例えば、DOTAP(1,2-dioleoyloxy-3-trimethylammonio propane)、DC−6−14(O,O'-ditetradecanoyl-N-(α-trimethylammonioacetyl)diethanolamine chloride、DC-Chol(3beta-N-(N,N,-dimethyl-aminoethane)carbamol cholesterol)、TMAG(N-(α-trimethylammonioacetyl)didodecyl-D-glutamate chloride)、DOTMA(N-2,3-di-oleyloxypropyl-N,N,N-trimethylammonium)、DODAC(dioctadecyldimethylammonium chloride)、DDAB(didodecyl-ammonium bromide)、DOSPA(2,3-dioleyloxy-N-[2(sperminecarboxamido)ethyl]-N,N-dimethyl-1-propanaminum trifluoroacetane)等が挙げられる。
【0020】
高分子膜の好適な例としては、ブロック共重合体(スチレン-イソプレン-スチレン、スチレン-ブタンジエン-スチレン)、アルブミン、ドコサヘキサエン酸、ポリグルタミン酸、ポリエチレングリコール・ポリアスパラギン酸、ポリエチレングリコール・ポリアスパラギン酸の側鎖に疎水基・親水基の一方、若しくは両方を修飾したブロックコポリマー、ポリエチレングリコール・ポリ(ジエチレントリアミン)、ポリエチレングリコール-ポリ(β-ベンジル アスパルテート)を挙げることができる。公知となっているものは全て使用できることは言うまでもない。
【0021】
磁性微粒子3の種類は、特に限定されない。例えば、マグネタイト(Fe)、マグヘマイト(Fe)、一酸化鉄(FeO)、鉄(Fe)、ニッケル、コバルト、コバルト白金クロム合金、バリウムフェライト合金、マンガンアルミ合金、鉄白金合金、鉄パラジウム合金、コバルト白金合金、鉄ネオジムボロン合金、及びサマリウムコバルト合金等を挙げることができる。磁力による送達効率を高める観点からは、強磁性微粒子であることが好ましい。分子集合体1を被覆することができるものは全て用いることができるが、生体内利用を目的とした場合には、毒性による有害事象回避する必要がある。かかる観点を考慮すると、磁性微粒子として、マグネタイト(四酸化三鉄・Fe3 4 )やマグヘマイト(γー三酸化二鉄・γーFe2 3 )、一酸化鉄、窒化鉄、鉄や、鉄白金合金などを用いることが好ましい。
【0022】
担持する磁性微粒子3の平均粒径は、特に限定されないが、磁気吸着力の観点から、1nm以上とすることが好ましく、薬剤含有量の向上の観点から50nm以下とすることが好ましい。磁性微粒子3の平均粒径は、磁性微粒子含有剤形10の肥大化を抑制する観点から15nm以下とすることがより好ましく、10nm以下とすることが特に好ましい。磁性微粒子3の粒子径が小さくても高い磁気誘導特性を有する磁気異方性の高い材料が好ましい。好ましい材料としては、FePt粒子、FePt粒子と他の磁性微粒子との複合体も可能である。
【0023】
磁性微粒子3は、被覆性磁性微粒子含有膜2内に取り込み易くする、安定性を増す、分散性を保つ等を目的としてその表面に修飾基などを設けることができる。例えば、疎水部に取り込みやすくするために、磁性微粒子3の表面に疎水性ポリマーなどを修飾することができる。
【0024】
図2Aに、被覆性磁性微粒子含有膜2aの主成分を構成する膜として、両親媒性界面活性剤30からなる脂質膜4を用いた場合の部分拡大断面図を示す。図2Aに示す脂質膜4は、親水部31が表層側に配置され、疎水部32側が互いに向き合っている脂質二重層膜構造を有している。そして、疎水部32内に磁性微粒子3が分散されている。
【0025】
両親媒性界面活性剤30の種類としては、例えば、オレイン酸、リノレイン酸、リノレン酸等の炭素数18の脂溶性不飽和脂肪酸が好ましい。その中でも二重結合数が最小である、すなわち、酸化耐性の高いオレイン酸が好ましい。その他、オレイルアミン、チオールなども好適に使用できる。但し、被覆性磁性微粒子含有膜の上述した条件を満たしていれば、界面活性剤の種類に何ら制限なく用いることができる。また、必要に応じて2種種以上の界面活性剤を混合して用いることも可能である。
【0026】
磁性微粒子3は、疎水部32内に内包されている。無論、磁性微粒子3が被覆性磁性微粒子含有膜2aよりも突出するものであってもよいし、被覆性磁性微粒子含有膜2aの表層に配置されているものであってもよい。磁性微粒子3の表面に化学結合可能な官能基を設け、脂質膜と共有結合させてもよい。
【0027】
図2Bに、脂質膜4の表面に親水性ポリマー5を修飾した被覆性磁性微粒子含有膜2bの部分拡大概念図を示す。生体内利用を目的とする場合、磁性微粒子含有剤形表面に親水性ポリマーを有することが好ましい。磁性微粒子含有剤形表面に親水性ポリマーを修飾することにより血管内滞留時間を延長することが可能になる。
【0028】
親水性ポリマー5は、脂質膜4を構成する脂質の少なくとも一部に修飾することにより容易に表面に配置することができる。例えば、脂質が有する官能基と親水性ポリマー5が有する官能基とを反応させることにより、共有結合を介して結合させることができる。共有結合を形成可能な官能基の組み合わせとしては、例えば、アミノ基/カルボキシル基、アミノ基/ハロゲン化アシル基、アミノ基/N−ヒドロキシスクシンイミドエステル基、アミノ基/ベンゾトリアゾールカーボネート基、アミノ基/アルデヒド基、チオール基/マレイミド基、チオール基/ビニルスルホン基等が挙げられる。
【0029】
脂質膜4に対する親水性ポリマー5の含有量は、特に限定されないが、1〜10%(モル比)、好ましくは7〜10%(モル比)である。親水性ポリマーが修飾された脂質は、親水性ポリマー5の主鎖末端と結合する形態が好ましいが、側鎖と結合していてもよい。
【0030】
親水性ポリマー5の種類は特に限定されるものではなく、例えば、ポリアルキレングリコール(例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリヘキサメチレングリコール)、デキストラン、プルラン、フィコール、ポリビニルアルコール、スチレン−無水マレイン酸交互共重合体、ジビニルエーテル−無水マレイン酸交互共重合体、アミロース、アミロペクチン、キトサン、マンナン、シクロデキストリン、ペクチン、カラギーナン等が挙げられるが、ポリアルキレングリコールが好ましく、ポリエチレングリコールがさらに好ましい。
【0031】
親水性ポリマー5がポリアルキレングリコールである場合、その分子量は、通常300〜10000、好ましくは1000〜5000である。
【0032】
親水性ポリマー5には、アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、t−ペンチル基、ネオペンチル基等)、アルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、s−ブトキシ基、t−ブトキシ基等)、ヒドロキシル基、カルボニル基、アルコキシカルボニル基、シアノ基等の置換基が導入されていてもよい。
【0033】
図2Cに、被覆性磁性微粒子含有膜2c内に脂溶性薬剤6を内包した場合の一例を示す部分拡大断面図を示す。脂溶性薬剤6は、脂質膜4の疎水部32に内包されている。脂溶性薬剤6としては、例えば、クロリンe6(以下、「Ce6」と称する)エステル、カルモフール(フルオロウラシル系抗癌剤)、カンプトテシン、レチノイン酸、パクリタキセル等を挙げることができる。このように、被覆性磁性微粒子含有膜内に薬剤を含有させることが可能である。また、薬剤が膜形成物質可能な物質である場合、被覆性磁性微粒子含有膜2を構成する主成分膜を薬剤により構成することも可能である。
【0034】
なお、図2A〜図2Cの被覆性磁性微粒子含有膜の構成は一例であって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。例えば、疎水部32が表層側に配置され、親水部31側が互いに向き合ったものであってもよい。また、被覆性磁性微粒子含有膜2は、上述したように脂質膜に限定されるものではなく、上記条件を満たす範囲で種々の材料を適用することができる。
【0035】
本発明に係る磁性微粒子含有剤形10の粒径は、標的部位や目的に応じて任意に設定可能である。但し、生体内の血管系を循環させる場合には、毛細血管(最小で約5μm程度)をぎりぎり通過する程度のサイズとすると、肝臓などの細網内皮系に取り込まれやすくなり、効率が低下するという問題がある。また、粒子径がマイクロサイズとなると、製造工程中に沈殿が生じやすくなるという問題もある。一方、粒子径が小さすぎても腎臓のろ過作用により尿から排出されてしまう。このため、微粒子は、ナノ粒子であることが好ましい。長期血中滞留の観点からは、500nm以下、腎排泄防止の観点からは2nm以上とすることが好ましい。被覆性磁性微粒子含有膜2の膜厚は、特に限定されないが、2分子膜の場合には通常、5nm以上、30nm以下程度である。
【0036】
図3A〜図3Gは、本発明に係る磁性微粒子含有剤形の一例を示す模式図である。図3Aは、水溶性薬剤7を内包するリン脂質20の二重膜からなるリポソームである分子集合体1を、両親媒性界面活性剤30から構成される被覆性磁性微粒子含有膜で被覆した磁性微粒子含有剤形10dの模式的概念図である。同図に示すように、リポソームは、リン脂質20の二重膜からなる単層膜を構成している。リン脂質20の親水部21が表層側に、疎水部22が互いに向き合うように二重膜を構成している。リポソームの内包には、水溶性薬剤7が内包されている。
【0037】
被覆性磁性微粒子含有膜2を構成する両親媒性界面活性剤30の親水部31が表層側に、疎水部32が互いに向き合うように二重膜を構成している。そして、疎水部32の間には、磁性微粒子3が内包されている。また、被覆性磁性微粒子含有膜2の内側に配置される親水部31と分子集合体1の外側に配置される親水部21が、会合体を形成している。磁性微粒子3は、疎水部32に内包しやすいように、磁性微粒子3の表面に疎水基を修飾させたりする処理を行ってもよい。また、オレイン酸などの修飾基をつけることにより、より簡便に被覆性磁性微粒子含有膜2に磁性微粒子3を取り込みやすくすることができる。
【0038】
本発明において用いられるリン脂質としては、例えば、卵黄レシチン、大豆レシチン、カルジオリピン、スフィンゴミエリン、ホスファチジン酸、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルコリン(例えば、ジオレオイルホスファチジルコリン、ジラウロイルホスファチジルコリン、ジミリストイルホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルコリン、ジステアロイルホスファチジルコリン等)、ホスファチジルグリセロール(例えば、ジオレオイルホスファチジルグリセロール、ジラウロイルホスファチジルグリセロール、ジミリストイルホスファチジルグリセロール、ジパルミトイルホスファチジルグリセロール、ジステアロイルホスファチジルグリセロール等)、ホスファチジルエタノールアミン(例えば、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン、ジラウロイルホスファチジルエタノールアミン、ジミリストイルホスファチジルエタノールアミン、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン等)及びこれらの水素添加物等が挙げられる。リン脂質は通常、単独で使用されるが、2種以上併用して混合使用してもよい。2種以上の荷電リン脂質を使用する場合には、負電荷のリン脂質同士、又は正電荷のリン脂質同士で使用することが、リポソームの凝集防止の観点から望ましい。所望によりリポソームの膜構成成分として、上記脂質成分の他に他の成分を加えてもよい。
【0039】
なお、水溶性薬剤については、緩衝塩(例えば、リン酸緩衝塩、クエン酸緩衝塩、酢酸緩衝塩等)、糖類、多価アルコール、水溶性高分子、非イオン性界面活性剤、抗酸化剤、水和促進剤、pH調整剤等を適宜用いることができる。
【0040】
図3Bは、水溶性薬剤7及び脂溶性薬剤8を内包するリン脂質20の二重膜からなるリポソームである分子集合体1を、両親媒性界面活性剤30から構成される被覆性磁性微粒子含有膜で被覆した磁性微粒子含有剤形10eの模式的概念図である。リポソームの内部には、水溶性薬剤7が内包され、疎水部22の間には脂溶性薬剤8が内包されている。
【0041】
図3Cは、脂溶性薬剤8を内包するリン脂質20の二重膜からなるリポソームである分子集合体1を、両親媒性界面活性剤30から構成される脂質二重膜である被覆性磁性微粒子含有膜2で被覆した磁性微粒子含有剤形10fの模式的概念図である。同図に示すように、薬剤として、脂溶性薬剤8のみを内包することも可能である。リポソームの内部空間は、空隙としてもよいし、安定剤などを加えてもよい。
【0042】
図3Dは、薬剤自体であるリン脂質20の二重膜からなるリポソームである分子集合体1を、両親媒性界面活性剤30を主成分膜とする被覆性磁性微粒子含有膜2で被覆した磁性微粒子含有剤形10gの模式的概念図である。同図に示すように、分子集合体1を構成するリポソームを薬剤により構成することも可能である。また、上記図3A〜図3Cの例においても、水溶性薬剤7や脂溶性薬剤8とともにリン脂質20を薬剤により構成することも可能である。
【0043】
図3Eは、水溶性薬剤7を内包するリン脂質20の二重膜からなるリポソームである分子集合体1を、同じくリン脂質20の二重膜からなる被覆性磁性微粒子含有膜2hで被覆した磁性微粒子含有剤形10hの模式的概念図である。同図に示すように、分子集合体1を構成するリポソームは、リン脂質20の二重膜からなる単層膜を構成している。リン脂質20の親水部21が表層側に、疎水部22が互いに向き合うように二重膜を構成している。リポソームの内包には、水溶性薬剤7が内包されている。一方、被覆性磁性微粒子含有膜2hは、リン脂質20の親水部21が表層側に、疎水部22が互いに向き合うように二重膜を構成している。そして、疎水部22の間には、磁性微粒子3が内包されている。分子集合体1を構成するリン脂質20と被覆性磁性微粒子含有膜2を構成するリン脂質20は同一のものであってもよいし、異なるものであってもよい。リン脂質自体が薬剤である場合には、薬剤の搭載量を多くすることができるというメリットを有する。
【0044】
図3Fは、水溶性薬剤7を内包するリン脂質20の二重膜からなるリポソームである分子集合体1を、両親媒性界面活性剤30から構成される被覆性磁性微粒子含有膜2iで被覆した磁性微粒子含有剤形10iの模式的概念図である。
【0045】
被覆性磁性微粒子含有膜2iは、図3Fに示すように2層脂質膜となっている。それぞれの脂質膜は、両親媒性界面活性剤30の親水部31が表層側に、疎水部32が互いに向き合うように構成されている。そして、2つの脂質膜の間には、磁性微粒子3が内包されている。磁性微粒子3は、親水部31に内包されやすいように、磁性微粒子3の表面に親水基を修飾させたりする処理を行うことが有効である。また、オレイン酸などの修飾基をつけることにより、より簡便に被覆性磁性微粒子含有膜2に磁性微粒子3を取り込みやすくすることができる。このように、被覆性磁性微粒子含有膜は、単層膜に限定されず、二層膜等の多層膜構造とすることができる。また、分子集合体1は、膜自体に脂溶性薬剤を含有する多重膜(多層膜)リポソーム、膜の間に水溶性薬剤を含有する多重膜(多層膜)リポソームであってもよい。
【0046】
図3Gは、図3Aの磁性微粒子含有剤形10dと、これと静電相互作用などにより自己会合可能な複合形成体40とからなる磁性微粒子含有製剤100の模式的概念図である。なお、本明細書においては、「磁性微粒子含有剤形」と薬剤を含有する複合形成体40からなる複合体を説明の便宜上、「磁性微粒子含有製剤」と云うものとする。図3Gに示すように、複合形成体40を磁性微粒子含有剤形10dの外側に設けることも可能である。複合形成体40は、内部に薬剤を内包することができる。また、複合形成体40自体が薬剤であってもよい。磁性微粒子含有剤形内には薬剤を設けずに、複合形成体40のみに薬剤を搭載することも可能である。また、複合形成体40に薬剤を搭載せず、別の機能を持たせることも可能である。
【0047】
上記図3A〜図3Gは、一例であって、任意に組み合わせて適用することができる。また、これらの例において、親水部と疎水部の位置を互いに入れ替えた配置にした態様も好適に適用することができる。これにより、親水部と親和性の高い薬剤、疎水部と親和性の高い薬剤など、薬剤の特性に応じて個別具体的に剤形を設計することが可能となる。無論、上記例にとどまらず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変形が可能である。
【0048】
上記例においては、分子集合体としてリポソームの例を示したが、これに限定されるものではなく、ミセルや高分子などにより分子集合体を構成してもよい。また、リポソームとして単層膜である例を示したが、多層膜であってもよい。また、分子集合体や被覆性磁性微粒子含有膜を構成する分子としては、リン脂質や両親媒性界面活性剤に限定されるものではない。例えば、糖脂質、コレステロール、脂肪酸などを用いてもよい。
【0049】
本発明において用いられる糖脂質の例としては、例えば、スフィンゴ糖脂質(例えば、ガンクリオシド、ガラクトシルセレブロシド、ラクトシルセレブロシド等)、グリセロ糖脂質(例えば、スルホキシリボシルグリセリド、ジグリコシルジグリセリド、ジガラクトシルジグリセリド、ガラクトシルジグリセリド、グリコシルジグリセリド等)等が挙げられる。
【0050】
本発明において用いられるコレステロールの例としては、例えば、動物由来ステロール(例えば、コレステロール、コレステロールコハク酸、ラノステロール、ジヒドロラノステロール、デスモステロール、ジヒドロコレステロール等)、植物由来ステロール(フィトステロール)(例えば、スチグマステロール、シトステロール、カンペステロール、ブラシカステロール等)、微生物由来ステロール(例えば、チモステロール、エルゴステロール等)等が挙げられる。
【0051】
本発明において用いられる飽和又は不飽和の脂肪酸としては、例えば、パルミチン酸、オレイン酸、ステアリン酸、アラキドン酸、ミリスチン酸等の炭素数12〜20の不飽和、又は飽和の脂肪酸が挙げられる。
【0052】
薬剤は、前述したとおり、分子集合体1、被覆性磁性微粒子含有膜2に含有させることができる。分子集合体1に含有する薬剤は、分子集合体内に内包されたものでもよいし、分子集合体自体であってもよい。また、被覆性磁性微粒子含有膜2に含有する薬剤は、主成分を構成する分子に内包されたものであってもよいし、主成分を構成する分子自体であってもよい。
【0053】
また、図3Gに示したように、磁性微粒子含有剤形10dと会合する複合形成体40に薬剤を含有させることもできる。送達を目的とする物質が核酸である場合、被覆性磁性微粒子含有膜2の主成分を構成する膜を陽性荷電脂質により構成し、陰性荷電をもつ核酸を複合形成体40とし、これらの静電的相互作用を介して、磁性微粒子含有剤形10dと核酸からなる磁性微粒子含有製剤100を形成することができる(上記特許文献2参照)。この場合において、磁性微粒子含有剤形10d内にも薬剤を含ませれば、薬剤搭載量の大幅な増加を図ることができる。なお、図3Gの磁性微粒子含有剤形と薬剤を含有する複合形成体の形成方法は、一例であって、これに限定されるものではない。
【0054】
本発明に係る薬剤は、治療、診断、予防等の目的に適用される物質全般を含み、特に限定されない。薬剤の一例としては、抗癌剤、光感受性物質、遺伝子治療薬をはじめとする狭義の治療薬や、造影剤等の狭義の診断薬の他、ペプチド、タンパク質、核酸(例えば、DNA、RNA若しくはこれらの類似体、又は誘導体(例えば、ペプチド核酸、ホスホロチオエートDNA等))、糖、これらの複合体等を挙げることができる。なお、核酸は、一本鎖であると二本鎖であるとを問わず、形状も線状や環状等、特に限定されない。
【0055】
上記のように構成された磁性微粒子含有剤形10は、公知の磁気送達システムを利用して、生体内などの治療や診断に適用することができる。例えば、上記特許文献1のように外部磁場を利用して、生体内に磁性微粒子含有剤形10を送達することができる。また、図4の概念図に示すように、被検体50の患部である胃51等に磁気照射装置70を設置し、磁性微粒子含有剤形10を注射60により血液中に注入するなどの方法を採用することができる。血液中に注入された磁性を帯びた薬物61が磁気照射装置70の磁力により患部に集積される。磁気照射装置70としては、本発明者の並木らが提案した上記特許文献3や、特願2008−304288号などの技術を好適に適用することができる。
【0056】
磁性微粒子含有剤形10を送達すべき標的細胞が由来する生物種は、例えば、動物、植物、微生物等、特に限定されることはないが、動物由来であることが好ましく、例えば、ヒト、サル、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、ブタ、ウサギ、イヌ、ネコ、マウス、ラット、モルモット等、哺乳動物であることがより好ましい。また、該標的細胞の種類は、例えば、体細胞、生殖細胞、幹細胞又はこれらの培養細胞等、特に限定されない。
【0057】
磁性微粒子含有剤形10は、生体内、生体外のいずれにおいても使用することができる。生体内で使用する場合、投与経路としては、例えば、静脈内、動脈内、門脈内、実質臓器内(例えば、脳、目、甲状腺、乳腺、心臓、肺、肝臓、膵臓、腎臓、副腎、卵巣、精巣等)、管腔臓器の管腔内(例えば、食道、胃、十二指腸、空腸、回腸、大腸、胆嚢、尿管、膀胱内等)、脳脊髄腔内、胸腔内、腹腔内、筋肉内、関節内、皮下、皮内等、特に限定されない。
【0058】
目的物質を結合した、又は、目的物質との複合体を形成した磁性微粒子含有剤形10の標的細胞への送達後、該標的細胞による磁性微粒子含有剤形10の取り込み効率を向上させるため、必要に応じて、細胞膜表面の受容体と結合可能な物質(例えば、抗体あるいはその断片(例えば、Fab断片、F(ab)'2断片、単鎖抗体等)、インスリン、トランスフェリン、葉酸、ヒアルロン酸、糖鎖、アポリポタンパク(例えば、アポA−1、アポB−48、アポB−100、アポE等)、成長因子(例えば、上皮成長因子、肝細胞成長因子、線維芽細胞成長因子、インスリン様成長因子等)等、特に限定されることなく磁性微粒子含有剤形10表面に結合することが可能である。
【0059】
次に、本発明の磁性微粒子含有剤形10の製造方法の一例について説明する。ここでは、被覆性磁性微粒子含有膜2として脂質膜を適用した例について説明する。まず、薬剤を含有する分子集合体1を調製する。分子集合体1の調製方法としては、公知の製造方法を制限なく利用することができる。
【0060】
次に、脂質膜を形成可能な材料、及びこの脂質膜に取り込み可能な磁性微粒子を脂溶性有機溶媒中に分散させることにより脂溶性磁性流体を調整する。脂溶性磁性流体を得る方法としては、従来公知の方法を何ら制限なく用いることができる。脂溶膜に磁性微粒子を取り込むことができれば、いかなる方法を用いてもよい。好適な一例として、以下の方法を挙げることができる。
【0061】
まず、磁性微粒子ナノ結晶析出工程を行う。以下、マグネタイトナノ結晶をオレイン酸で被覆し、クロロホルムに分散させる場合について説明する。マグネタイトナノ結晶析出工程は、鉄イオンを含有する水溶液のアルカリ化により行われる。かかる両親媒性界面活性剤によるマグネタイトナノ結晶被覆工程は、得られたマグネタイトナノ結晶表面を両親媒性界面活性剤で被覆することにより脂溶性有機溶媒中でマグネタイトナノ結晶の均一な分散が可能な脂溶性磁性流体を調整するために行われる工程である。
【0062】
ペプチゼーション法におけるマグネタイトナノ結晶析出工程は、一般的に2価及び3価の塩化鉄、硫酸鉄、硝酸鉄等鉄塩を含有する水溶液をアルカリ処理することによりナノサイズのマグネタイト結晶を得るための工程である。アルカリ処理はアンモニア水の添加により行われることが好ましい。但し、マグネタイトナノ結晶を析出可能であれば、鉄塩の種類あるいはアルカリ処理の方法に何ら制限なく用いることができる。
【0063】
次に、ペプチゼーション法における両親媒性界面活性剤による磁性微粒子ナノ結晶被覆工程について説明する。ペプチゼーション法における両親媒性界面活性剤による磁性微粒子ナノ結晶被覆工程は、まず、アンモニア過剰のマグネタイトスラリーに灯油に溶解したオレイン酸を加え良く攪拌することにより、オレイン酸を水溶性のオレイン酸アンモニウムに置換する。この操作により、マグネタイトナノ結晶表面の水酸基とオレイン酸アンモニウムのカルボキシル基が結合する。攪拌を続けながらセ氏95度まで加温を行っていくと、セ氏78度にてオレイン酸アンモニウムはアンモニアガスを発生しながら脂溶性のオレイン酸に分解するため上層の灯油層と下層の水層の2相に分離する。この分解により、マグネタイトナノ結晶はオレイン酸で被覆されかつ灯油層に分散するようになる。
【0064】
オレイン酸被覆マグネタイトナノ結晶が分散する灯油層を取出し、アセトン等の極性有機溶媒を加えることによりフロキュレーションさせ、さらに永久磁石あるいは遠心分離によるフロキュレーションの回収を行う。回収したフロキュレーションにアセトンを加え、永久磁石あるいは遠心分離によるフロキュレーションの洗浄を行うことにより余剰のオレイン酸を除去する。続いて、永久磁石あるいは遠心分離によるフロキュレーションの回収ののち、減圧によりアセトンを蒸発させることにより、オレイン酸被覆マグネタイトナノ結晶を乾燥させる。
【0065】
得られたオレイン酸被覆マグネタイトナノ結晶にクロロホルムを加え、クロロホルム中にオレイン酸被覆マグネタイトナノ結晶を再分散させることにより、脂溶性磁性流体を得る。
【0066】
ここで、適用する薬剤が被覆性磁性微粒子膜2の主成分膜として形成可能な物質である場合には、薬剤自体を主成分膜として利用することが可能である。これにより剤形中の薬剤搭載量をより効果的に増加させることができる。
【0067】
得られた磁性流体は、ナシ型フラスコ等のガラス器具内で回転攪拌させ、減圧処理を施す。これにより、器具一面に均一な薄膜を作製する。均一な薄膜を形成する方法として、マイクロ流路などを利用してもよい。次いで、予め用意しておいた分子集合体1を加える。分子集合体は、例えば、水性分散液製剤や凍結乾燥製剤を利用することができる。リポソームの水性分散液には、安定化剤、キレート剤、抗酸化剤、粘度調節剤、緩衝剤、pH調整剤などが溶解、又は分散していてもよい。
【0068】
薄膜に分子集合体を加えた後、密栓をして、ヒーターバスにて加温しつつ、激しく攪拌する。次いで、精製工程等を経て、磁性微粒子含有剤形10を得る。
【0069】
なお、上記製造方法は一例であって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変形が可能である。被覆性磁性微粒子含有膜2の主成分を構成する膜として高分子膜を用いる場合には、磁性微粒子を含有する高分子膜を形成し、分子集合体に被覆させる工程を経ることにより製造することができる。
【0070】
リポソームの調製に当たっては、多重層膜からなるリポソーム、粒子径が比較的大きい単層膜からなるリポソームがあり、これらが混在する場合もある。上記特許文献1によれば、薬剤と磁性微粒子を含有するリポソームを製造する必要があり、最適な磁性微粒子の量の調整の他、リポソームの粒径の調製や、リポソームの形態の調整などの最適化を行う必要がある。
【0071】
一方、本発明によれば、薬剤を含有する分子集合体1の作製を予め行い、分子集合体1に磁性微粒子3を含有する被覆性磁性微粒子含有膜2を被覆させる構造としているので、リポソームをはじめとする分子集合体の形成に当たっては、公知の技術を利用することが可能となる。このため、リポソームの粒径や形態の調整などにおいて、既存の技術をそのまま適用することが可能となり、製剤の最適化の容易化を図ることができる。また、上記理由から、搭載する薬剤量を精密にコントロールしやすいというメリットを有する。
【0072】
また、従来の手法においては、磁性微粒子を含有させた剤形中の薬剤含有率を高めることが難しかったが、本発明によれば、被覆性磁性微粒子含有膜2のみに磁性微粒子3を含有させているので、薬剤含有率を高めることが可能である。とりわけ、被覆性磁性微粒子含有膜2の主成分を構成する膜を形成可能な薬剤であれば、磁性粒子の感度アップと薬剤搭載量アップの両立を図ることができる。また、本発明によれば、分子集合体1に含有させる薬剤と、被覆性磁性微粒子含有膜2に含有させる薬剤を別個独立に設計することが可能であるため、複数の薬剤を含有させたい用途等にも好適である。本発明によれば、薬剤搭載量を高めることが可能であり、かつ、設計自由度を高めることができるという優れた効果を有する。
【0073】
また、本発明によれば、磁性微粒子3を被覆性磁性微粒子含有膜2に設けているので、磁性微粒子3が剤形の内部に内包されている場合や剤形に磁性微粒子が均一に分散されている場合に比して、磁気応答効率を高めることができる。また、磁気応答効率の向上に伴って、剤形中に含有させる磁性微粒子3の必要量を減らすことが可能となる。その結果、薬剤の搭載量を増やすことも可能となる。
【0074】
また、本発明によれば、適用する薬剤が分子集合特性を有するものであれば、その薬剤自体で分子集合体1を形成することができる。さらに、被覆性磁性微粒子含有膜2の脂質膜の構成成分にその薬剤を適用することも可能である。これにより、磁性微粒子含有剤形中の薬剤の搭載量を大幅に増加させることができる。
【0075】
また、本発明によれば、主原料として好適なリン脂質や両親媒性界面活性剤は、毒性を回避することが容易である。しかも、選択可能な脂質は無数に存在するので、脂質の種類、組み合わせ及び比率の選択により、薬物送達システムの高性能化が容易である。さらに、脂質を主な原料とするナノ粒子を用いた遺伝子治療の臨床治験は、これまでも数多く存在するというメリットもある。
【0076】
さらに、磁性微粒子含有剤形と薬剤を含有する複合形成体よりなる磁性微粒子含有製剤を適用することにより、磁性特性を利用した薬物送達システムを利用可能な薬剤の種類をさらに増加させることが期待できる。また、この場合において、磁性微粒子含有剤形内にも薬剤を含ませれば、薬剤搭載量の大幅な増加を図ることができる。
【0077】
本発明によれば、磁性微粒子含有剤形を血液等に投与し、病巣部である患部を磁場環境下におくことにより、直接的かつ効率的に薬剤を送達して集積させることができる。このため、治療の効果の飛躍的向上が期待できる。また、本発明によれば、磁場環境下に集積させるシステムを用いているので、標的部位以外の組織・臓器に障害をきたす可能性を最小限にとどめることができる。従って、これまで毒性が強く、治療域が極めて狭くて副作用により薬剤の投与を制限せざるを得なかった治療などに、本発明に係る磁性微粒子含有剤形は特に有用である。
【0078】
[実施例]
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明する。なお本発明の範囲は、かかる実施例に限定されないことはいうまでもない。
【0079】
<工程1>
まず、分子集合体1Aを作製する。具体的には、25mL容積のナシ型フラスコに、O,O'−ジテトラデカノイル−N−(α−トリメチルアンモニオアセチル)ジエタノールアミンクロリド((O,O-ditetradecanoyl-N-(α-trimethylammonioacetyl)diethanolaminechloride)(相互薬工社製)を1mG、Ce6(クロリンe6)エステル(タマ生化学株式会社製)0.08mGを加え、1mLのクロロホルムに溶解させる。O,O'−ジテトラデカノイル−N−(α−トリメチルアンモニオアセチル)ジエタノールアミンクロリドは、リポソーム形成可能な物質であり、かつ薬剤として機能する。Ce6は、特定の波長光照射により癌治療効果を発揮するフリーラジカルを発生する脂溶性の物質である。
【0080】
次いで、これにCe6水溶液(1mG/1mL)を添加し、ガラスの密栓をしてボルテックスミキサーにより1分間、攪拌を行った。
【0081】
続いて、カップホーン型超音波破砕機にて、密栓をしたまま1分間超音波処理を行った。その後、ガラス栓を外し、ロータリーエバポレーターにナシ型フラスコを接続し、最大回転数、50mmHgの陰圧処理を施すことにより(逆相蒸発法)、径200nm前後のリポソームを作製した。
【0082】
<工程2>
鉄白金ナノ結晶を、鉄錯体および白金錯体を用いて有機溶媒中でポリオール還元法によって合成した。分散媒として、オレイルアミンを用いた。O,O'−ジテトラデカノイル−N−(α−トリメチルアンモニオアセチル)ジエタノールアミンクロリド1mG、及びオレイルアミン被覆鉄白金合金結晶(直径:数 nm)0.1 mGをクロロホルム1mLに溶解させ、ナシ型フラスコに入れた。
【0083】
次いで、ロータリーエバポレーターに、上記ナシ型フラスコを接続し、最大回転数、50 mmHgの陰圧処理を施すことにより、ガラス面に均一な薄膜を作製した。
【0084】
上記工程1で得られたリポソームを、上記薄膜を作製したナシ型フラスコに入れ、ガラスの密栓をした。そして、ヒーターバスにて40℃まで加温した。次いで、ボルテックスミキサーを最大パワーにして、ナシ型フラスコを激しく攪拌した。これにより、磁性微粒子含有剤形を得た。
【0085】
図5に、得られた磁性微粒子製剤10の電子顕微鏡写真を示す。同図より、磁性微粒子3Aを含有する被覆性磁性微粒子含有膜2Aと、これに被覆された分子集合体1Aが形成されていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0086】
以上説明したように、本発明の磁性微粒子含有剤形は、細胞や動物組織への遺伝子導入等のバイオテクノロジー分野での利用、遺伝子・薬物の患部への送達による疾患の治療用、若しくは交流磁場による温熱療法による疾患の治療用に好適に利用することができる。また、患部に集積した磁性微粒子含有剤形の微量磁気検出装置、若しくはMRI(magnetic resonance imaging:核磁気共鳴画像法)による検出・患部に集積した放射性同位元素あるいは造影剤を含有させた磁性微粒子含有剤形の検出による疾患の診断用にも使用可能である。さらに、粒子内部にマイクロバブルを封入し、超音波を適用して薬剤・遺伝子・高分子物質などを細胞に導入する手段としても使用可能である。
【符号の説明】
【0087】
1 分子集合体
2 被覆性磁性微粒子含有膜
3 磁性微粒子
4 脂質膜
5 親水性ポリマー
6 脂溶性薬剤
7 水溶性薬剤
8 脂溶性薬剤
10 磁性微粒子含有剤形
20 リン脂質
21 親水部
22 疎水部
30 両親媒性界面活性剤
31 親水部
32 疎水部
40 複合形成体
50 被検体
51 胃
60 注射
61 薬物
70 磁気照射装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性微粒子を含有する磁性微粒子含有剤形であって、
分子集合体と、
前記分子集合体を被覆し、かつ磁性微粒子を含有する被覆性磁性微粒子含有膜と、を備える磁性微粒子含有剤形。
【請求項2】
前記分子集合体、前記被覆性磁性微粒子含有膜の少なくともいずれかに薬剤が含有されていることを特徴とする請求項1に記載の磁性微粒子含有剤形。
【請求項3】
前記被覆性磁性微粒子含有膜の主成分を構成する膜は、脂質膜、又は高分子膜であることを特徴とする請求項1又は2に記載の磁性微粒子含有剤形。
【請求項4】
前記分子集合体は、ミセル、又はリポソームであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の磁性微粒子。
【請求項5】
前記被覆性磁性微粒子含有膜は、疎水部が互いに向き合った二重膜構造の膜であり、前記分子集合体と前記被覆性磁性微粒子含有膜は会合していることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の磁性微粒子含有剤形。
【請求項6】
前記被覆性磁性微粒子含有膜の最外層は、生体適合性材料により修飾されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の磁性微粒子含有剤形。
【請求項7】
平均粒子径が、5nm以上、3000nm以下であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の磁性微粒子含有剤形。
【請求項8】
磁性微粒子を含有する磁性微粒子含有製剤であって、
請求項1〜7のいずれか1項に記載の磁性微粒子含有剤形と、
前記磁性微粒子含有剤形と会合体を形成する複合形成体と、を備える磁性微粒子含有製剤。
【請求項9】
前記複合形成体には、薬剤が含有されている請求項8に記載の磁性微粒子含有製剤。
【請求項10】
磁性微粒子を含有する被覆性磁性微粒子含有膜を形成し、
これに、分子集合体を加え、当該分子集合体の少なくとも一部を前記被覆性磁性微粒子含有膜により被覆する磁性微粒子含有剤形の製造方法。
【請求項11】
前記分子集合体の少なくとも一部を前記被覆性磁性微粒子含有膜により被覆させる工程は、加温しながら攪拌処理する工程を含むことを特徴とする請求項10に記載の磁性微粒子含有剤形の製造方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図3D】
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【図3E】
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【図3F】
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【図3G】
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【図4】
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【図7】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−111417(P2011−111417A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−269635(P2009−269635)
【出願日】平成21年11月27日(2009.11.27)
【出願人】(501083643)学校法人慈恵大学 (20)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】