説明

磁性流体シール装置

【課題】 外形寸法が小さく、部品点数の少ない磁性流体シール装置(同軸2軸)を提供する。
【解決手段】 軸受本体10の軸受孔2内に設けた外側回転軸20に磁石23を埋め込み、外側回転軸20の外周面と内周面のそれぞれに外側磁気回路15、内側磁気回路25を形成させる。磁性流体シール装置は、外側回転軸20の外周面と内周面に接する微小隙間に磁性流体が充填してあり、磁石23が形成する磁気回路により二つの回転軸を強力にシールさせることができる。その結果、回転軸が非接触で軸支持されて回転駆動でき、しかも、寸法が小さく、部品点数も少なくなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、回転軸を磁性流体を用いてシールする磁性流体シール装置に関する。
【背景技術】
【0002】
磁性流体シール装置は、例えば、外気圧差の異なる雰囲気や真空室内などの特殊環境下へモータの回転駆動力を伝達する軸受機構などに最適な装置である。
特に、同軸上で2軸回転する磁性流体シール装置(以下、2軸回転磁性流体シール装置と称する)は、半導体ウェーハを試験するX線回折装置や真空搬送ロボットなどの回転駆動用部品として広く適用される。
【0003】
図5は、従来技術として知られている2軸回転磁性流体シール装置の概略構成を示す側面断面図である。
同図に示すように、2軸回転磁性流体シール装置1は、2軸が同軸状に挿入される軸受孔2を内部に有する非磁性材料からなる円筒状の軸受本体10を備えている。また、軸受本体10の内周面に設けた一対の外側軸受11により回転自在に支持され、非磁性材料からなる円筒状の外側回転軸20を備えている。さらに、外側回転軸20の中空部内周面に一対の内側軸受21設けて回転自在に支持され、中間部31を磁性材料で覆った円柱状の内側回転軸30を含む構成である。
なお、磁性材料とは、磁石や電流などの磁場により磁化しやすい性質をもつ材料であり、逆に非磁性材料は、磁化しにくい性質をもつ材料である。
【0004】
軸受本体10と外側回転軸20との間には、磁性材料からなる外側磁性部材12を設け、同様に、外側回転軸20と内側回転軸30との間にも内側磁性部材22を設けている。また、外側磁性部材12の対向面には、外側回転軸20の外周面を覆う磁性材料からなる外側回転軸中間部28を備えた構成である。各磁性部材12、22の中間部には、磁極面を軸方向に向けた状態でそれぞれ磁石13、23が設けられている。各磁性部材12、22の内周面には、断面三角形状の凸部14、24が軸方向に並べて形成してある。
【0005】
外側磁性部材12の内周面と外側回転軸中間部28の外周面との間、および内側磁性部材22の内周面と内側回転軸30の中間部31外周面との間は、それぞれに微小隙間が形成してあり、この微小隙間に磁性流体(図示せず)が充填してある。磁性流体は、強磁性超微粒子が安定に分散した液体であり、磁石13、23の磁場の影響で磁化される性質をもつ材料である。
【0006】
磁石13、23から発生する磁力は、透磁率の高いルートを通り、しかも最短距離を通過して反対極へ向かう性質を持つため、各磁性部材12、22の磁石周辺域を磁化させ、一定の磁気の流れを形成させる。ここで、各磁性部材12、22の内周面に設けた凸部14、24の周囲の微小隙間部分は透磁率が小さい。さらに、凸部14、24は、磁力ルートにおける断面積が縮小されているので、凸部14、24部分の磁束密度が高くなる。このため、磁力はこの凸部14、24へ集まることとなり、よって、凸部14、24の先端に磁性流体が引き寄せられて磁化する。
このようにして、磁石13は、磁化された外側磁性部材12、磁性流体、および外側回転軸中間部28を経由した外側磁気回路15を形成させる。また、磁石23は、磁化された内側磁性部材22、磁性流体、および内側回転軸30の中間部31を経由した内側磁気回路25を形成させる。その結果、磁性流体が凸部14、24と各回転軸20、30の外周面との間に保持されるため、これら各回転軸20,30を磁性流体がシールして非接触で軸支するすることができる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
さて、2軸回転磁性流体シール装置は、前述したように非磁性体からなる軸受本体と外側回転軸が、外側磁性部材と内側磁性部材の外周面とにそれぞれ接触している。各磁性部材に介在させた磁石による磁場は、この非磁性体により遮断されるため、各磁性部材の外周面方向には磁気回路が形成されない。したがって、磁気回路は、一つの磁石から一方向だけに形成されることとなる。
このような構成の場合、複数の回転軸に対して、それぞれ磁気回路を形成するための磁石が別個に必要となるため、部品点数が多く構造が複雑化するとともに、装置が大形化する問題があった。
【0008】
この発明は、このような従来技術の問題を解決するためになされたもので、外形寸法を小さくし、かつ部品点数を少なくした磁性流体シール装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明は、軸受孔が形成され、当該軸受孔の内周面に外側軸受を備えた軸受本体と、軸受孔内で前記外側軸受により回転自在に支持される円筒状の外側回転軸と、この外側回転軸の中空部内周面に設けられた内側軸受と、外側回転軸の中空部内で前記内側軸受により回転自在に支持される内側回転軸と、を含む2軸回転構造において、外側回転軸に磁石を設け、当該磁石から発生する磁力をもって、軸受本体を経由する外側磁気回路と、内側回転軸を経由する内側磁気回路とを形成し、外側磁気回路の形成領域であって、前記軸受本体と前記外側回転軸との間の微小隙間に磁性流体を充填するとともに、内側磁気回路の形成領域であって、外側回転軸と内側回転軸との間の微小隙間に磁性流体を充填したことを特徴とする。
ここで、軸受本体、外側回転軸、および内側回転軸は、少なくとも外側磁気回路または内側磁気回路の形成領域を磁性材料で構成することが好ましい。
【0010】
外側回転軸に設けた磁石は、外側回転軸と内側回転軸の2軸に対して磁気回路をそれぞれ形成させる。形成された磁気回路は、磁性流体をシールさせ非接触で二つの回転軸をそれぞれ支持させる。このように、本発明によれば、外側回転軸に設けた磁石が、2軸に対する磁気回路を形成するので、装置部品点数の削減、構造の簡素化、および装置の小形化を図ることができる。
【0011】
また、外側磁気回路の形成領域であって磁性流体の充填部分は、軸受本体の内周面または外側回転軸の外周面に複数の凸部が並べて形成してある構成とすることができる。さらに、内側磁気回路の形成領域であって磁性流体の充填部分は、外側回転軸の内周面または内側回転軸の外周面に複数の凸部が並べて形成してある構成とすることができる。
【0012】
磁力は透磁率の高い経路を通過するため、それぞれに設けられた凸部は、磁石からの磁力を集中させることができ、磁性流体を凸部の先端に引き寄せる。その結果、外側回転軸や内側回転軸は、磁力により保持される磁性流体で強力にシールされて、耐圧性の優れた非接触の回転軸支持を可能とする。
【0013】
外側回転軸には、内周面または外周面に開口する環状の磁石埋設溝が径方向に掘り下げて形成してあり、当該磁石埋設溝の内部に磁石を配置するとともに、磁石埋設溝の形成部分は、前記外側回転軸の肉厚が薄い磁力飽和領域を形成していることが好ましい。
【0014】
磁石埋設溝の底部は薄肉のため磁力通過方向の断面積が小さいので、磁力が通過しにくく、少ない磁力の通過ですぐに飽和状態となる。したがって、磁石で発生した磁力の多くを内側回転軸方向へ向けさせることができ、強力な磁気回路を形成させることができる。外側回転軸は、磁力飽和領域によって軸方向に連結されているため、一個の部品として加工でき、よって部品点数が削減され、製作コストを低減することができる。
【発明の効果】
【0015】
以上説明したように、本発明によれば、寸法を小形化し、部品点数を少なくした磁性流体シール装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、この発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。図1は、本発明の実施形態に係る2軸回転磁性流体シール装置の概略構成を示す側面断面図である。
なお、本実施形態において、先に示した従来技術と同一部分または相当する部分には同一符号を付し、その部分の詳細な説明は省略する。
【0017】
図1に示すように、軸受本体10は、周面が円筒状で、内部に外側回転軸20と内側回転軸30の2軸が同軸状に挿入できる軸受孔2を有し、内周面には所定箇所に凸部14を軸方向に並べて設けてある。軸受本体10は、磁化されやすい磁性材料で形成してある。
【0018】
外側回転軸20は、軸受本体10の軸受孔2内に挿入して、軸受本体10の内周面に設けた外側軸受11により回転自在に軸支されている。外側回転軸20は、軸受本体10と同様に磁性材料であり、内周面の所定箇所に凸部24が軸方向に並べて設けてある。さらに、外側回転軸20の外周面と軸受本体10の内周面の間、外側回転軸20の内周面と内側回転軸30の中間部31の内周面の間には、それぞれ微小隙間を設けてあり、その微小隙間に磁性流体が充填してある。
【0019】
軸受本体10の内周面と外側回転軸20の内周面とに設けたそれぞれの凸部14、24は、山形状に形成してあり、周辺に充填してある磁性流体を引き寄せる機能を有している。
【0020】
図2は、図1に示した2軸回転磁性流体シール装置の要部構造を示す拡大側面断面図である。
同図に示すように、外側回転軸20の外周面には、環状の磁石埋設溝26が径方向に掘り下げて形成してある。磁石埋設溝26は、外側回転軸20の内周面近くまで深く掘り下げてあり、内部に磁石23が挿入される。磁石埋設溝26の底部は磁力飽和領域27を形成している。この磁力飽和領域27は、外側回転軸20の肉厚が薄い状態となっており、しかも対向する内側回転軸30の中間部31との間に隙間27aが形成してある。この隙間27a内は透磁率が小さい。よって、磁力飽和領域27では、磁力が肉厚方向ですぐに飽和状態となる。
なお、本実施形態では、磁石埋設溝26を外側回転軸20の外周面に設けたが、逆に外側回転軸20の内周面に設けた構成であってもよい。
【0021】
外側回転軸20は、このような構成を採用することにより、磁力飽和領域27で軸方向に連結されているため、一つの部品として加工することができる。ただし、必要に応じて、外側回転軸20は、複数の部分に分割し、あとで接合する方式をもって製作してもよい。
【0022】
外側回転軸20に挿入される磁石23は、磁極面を軸方向に向けて挿入される。
挿入される磁石23は、周辺にある磁性材料や磁性流体を磁化させて磁気回路を形成するため、一定以上の磁力が要求される。このため、磁石23は、例えばネオジウム鉄ボロン系,ネオジウム鉄系などの強力な磁力を発する材料を適用することが好ましい。また、磁石埋設溝26の容量を変化させて、磁石23の体積を必要に応じて増減し、磁力を強力にすることもできる。
【0023】
磁石23は、軸受本体10を経由する外側磁気回路15と、内側回転軸30の中間部31を経由する内側磁気回路25と、の二つの磁気回路を形成する。
外側磁気回路15は、磁石23から発した磁力によって形成される磁場内において、軸受本体10、磁性流体、外側回転軸20をそれぞれ磁化させて、磁性流体を微小隙間に保持させる。ここで、隙間部分に存在する磁性流体は、高い磁束密度を形成している凸部14が微小隙間をいっそう狭小としているため、磁力が凸部14に集中し、その結果、凸部14の先端に磁性流体が引き寄せられて、その部分で保持される。
なお、磁力の集中がおきる凸部は、図示のように、断面三角形状または山形状に限定されるものではなく、磁性流体を封じ込める場所の断面積が縮小される構造であればよい。
【0024】
内側磁気回路25は、磁石23から発した磁力が磁力飽和領域27によって飽和されてその周囲に広がることで形成される。すなわち、磁石23は、その磁場内において外側回転軸20、磁性流体、内側回転軸30をそれぞれ磁化させて、磁性流体を微小隙間に保持させる。
【0025】
各磁気回路15、25によって凸部14、24の先端に引き寄せられた磁性流体は、軸受本体10と外側回転軸20との間の微小隙間、外側回転軸20と内側回転軸30との間の微小隙間をそれぞれシールする。その結果、回転軸を非接触で軸支持することができ、耐圧性の優れた磁性流体シール装置を実現できる。
【0026】
以上のような構成にすることで、外側回転軸20に埋設した磁石23だけで、外側回転軸20と内側回転軸30の双方を磁気シールすることができ、部品点数の削減とともに装置の小型化を実現することができる。
【0027】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、必要に応じて種々の応用実施または変形実施が可能であることは勿論である。例えば、本実施形態では、軸受本体10、外側回転軸20に磁性材料を適用して一体形成しているが、磁性材料を磁石23の周辺にだけ設けた構成としてもよい。
【0028】
《変形例1》
図3は、本発明の変形例を示す要部拡大断面図である。
同図に示す構成では、外側回転軸20に、磁石を2個並べて埋設してある。すなわち、外側回転軸20に磁石埋設溝26を同軸方向に一定間隔をあけて2箇所に設け、2個の磁石23を同一磁極面が対向するように埋め込んである。この構成によれば、外側磁気回路15と内側磁気回路25とを、軸方向の2箇所に形成することができる。同一極面が対向した間の磁力は互いに反発しあうため、外側回転軸20の外周面や内周面方向に磁束が極所的に分布して磁性流体を引き寄せることが可能となる。したがって、より強力な磁場が形成されて磁性流体の保持力を向上させることができる。
上述した変形例1の構成では、複数の磁石を使用しているが、そのいずれも外側回転軸20に埋設してあるため、装置が大型化することはなく、しかも軸受本体10と内側回転軸30の構造が簡素化されるため全体として製作が容易となる利点がある。
【0029】
《変形例2》
図4は、本発明の他の変形例を示す要部拡大側面断面図である。
同図に示す構成は、外側回転軸20の外周面と内周面の双方から磁石埋設溝26を形成し、各磁石埋設溝26内に磁石23を磁極面同一方向に向けて埋め込んである。各磁石埋設溝23に挟まれた外側回転軸20の中間壁部は、薄肉の磁力飽和領域27を形成している。各磁石23から発生した磁力は、磁石飽和領域27を挟んで反発し合うため、対向面側へは磁力が進みにくくなる。よって、外側磁気回路15および内側磁気回路25を形成する磁力をいっそう強めることが可能となる。
上述した変形例2の構成でも、変形例1と同様、複数の磁石を使用しているが、そのいずれも外側回転軸20に埋設してあるため、装置が大型化することはなく、しかも軸受本体10と内側回転軸30の構造が簡素化されるため全体として製作が容易となる利点がある。
【0030】
なお、上記各変形例1、2では磁石を二個使用したが、この構成に限定されるわけでない。磁性流体シール装置は、要求される磁束密度に応じて、任意数の磁石埋設溝26を設け、それぞれに磁石23をはめ込む構成とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の実施形態に係る2軸回転磁性流体シール装置の概略構成を示す側面断面図である。
【図2】図1に示した2軸回転磁性流体シール装置の要部構造を示す拡大側面断面図である。
【図3】本発明の変形例を示す要部拡大側面断面図である。
【図4】本発明の他の変形例を示す要部拡大側面断面図である。
【図5】従来技術の2軸回転磁性流体シール装置の概略構成を示す側面断面図である。
【符号の説明】
【0032】
1:2軸回転磁性流体シール装置、2:軸受孔
10:軸受本体、11:外側軸受、12:外側磁性部材、13、23:磁石
14、24:凸部、15:外側磁気回路、
20:外側回転軸、21:内側軸受、22:内側磁性部材、25:内側磁気回路、
26:磁石埋設溝、27:磁力飽和領域、27a:隙間、28:外側回転軸中間部
30:内側回転軸、31:中間部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸受孔が形成され、当該軸受孔の内周面に外側軸受を備えた軸受本体と、
前記軸受孔内で前記外側軸受により回転自在に支持される円筒状の外側回転軸と、
前記外側回転軸の中空部内周面に設けられた内側軸受と、
前記外側回転軸の中空部内で前記内側軸受により回転自在に支持される内側回転軸と、を含む2軸回転構造において、
前記外側回転軸に磁石を設け、当該磁石から発生する磁力をもって、前記軸受本体を経由する外側磁気回路と、前記内側回転軸を経由する内側磁気回路とを形成し、
前記外側磁気回路の形成領域であって、前記軸受本体と前記外側回転軸との間の微小隙間に磁性流体を充填するとともに、
前記内側磁気回路の形成領域であって、前記外側回転軸と前記内側回転軸との間の微小隙間に磁性流体を充填した構成の磁性流体シール装置。
【請求項2】
前記軸受本体、外側回転軸、および内側回転軸は、少なくとも前記外側磁気回路または内側磁気回路の形成領域を磁性材料で構成してある請求項1の磁性流体シール装置。
【請求項3】
前記外側磁気回路の形成領域であって前記磁性流体の充填部分は、前記軸受本体の内周面または前記外側回転軸の外周面に複数の凸部が平行に並べて形成してある請求項1または2の磁性流体シール装置。
【請求項4】
前記内側磁気回路の形成領域であって前記磁性流体の充填部分は、前記外側回転軸の内周面または前記内側回転軸の外周面に複数の凸部が平行に並べて形成してある請求項1乃至3のいずれか1項に記載の磁性流体シール装置。
【請求項5】
前記外側回転軸には、内周面または外周面に開口する環状の磁石埋設溝が径方向に掘り下げて形成してあり、当該磁石埋設溝の内部に前記磁石を配置するとともに、
前記磁石埋設溝の形成部分は、前記外側回転軸の肉厚が薄い磁力飽和領域を形成している請求項1乃至4のいずれか1項に記載の磁性流体シール装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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