説明

磁性金属粒子の製造方法および複合磁性材料の製造方法

【課題】短時間で所望形状の磁性金属粒子を製造することができ、効率よく、高透磁率かつ磁気損失の低い磁性金属粒子を製造する方法、及び上記の磁性金属粒子と任意の絶縁性材料とを複合化させる複合磁性材料の製造方法を提供する。
【解決手段】磁性金属粒子4の製造方法は、磁性金属を主成分とする球状粒子1を、誘電率が4.0以下の有機溶媒のみから構成される溶媒2中において、扁平化処理する。また、複合磁性材料の製造方法は、上記有機溶媒を除去する乾燥工程と、乾燥により得られたら磁性金属粒子を、絶縁性材料中に混合させる工程を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性金属粒子の製造方法、および、その製造方法により製造された磁性金属粒子を用いた、複合磁性材料の製造方法に関する。詳しくは、磁性顔料として有機バインダーに分散した塗料を塗布した塗膜や、樹脂中に磁性金属粒子をフィラーとして分散した複合磁性材料において、透磁率が高く、かつ磁気損失が低い磁性金属粒子の製造方法、およびその磁性金属粒子を用いた複合磁性材料の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
磁性金属粒子は、複合磁性材料として様々な分野に用いられている。例えば、磁性金属粒子(磁性顔料)を有機バインダーに分散した塗料を塗布した塗膜や、樹脂に磁性金属粒子を分散させた複合磁性体などが挙げられる。特に、磁性金属粒子を樹脂に分散させた複合磁性体は、高透磁率であることによる波長短縮効果で、アンテナの小型化や電子回路の消費電力の低下が可能であることから、小型アンテナ基板や高周波電子回路基板等に用いられている。
また、磁性金属粒子の形状は平板状、フレーク状等の様々な形状の粒子が提案されている。(特許文献1〜2参照)
【0003】
しかし、従来平板状磁性金属粒子は、アトマイズ法により作製した不定形状粒子を機械的に粉砕または塑性変形することによる、いわゆるブレークダウン法により作製されていた。そのため、粗大粒子や微細な破片の混入を防ぐことができず、均一な形状の磁性金属粒子を得ることが困難であった。
また、アトマイズ法では、工業的に量産可能な粒径が10μm程度であることから、この粒子を厚み1μm以下まで塑性変形すると、粒径は数十〜数百μmとなり、このような大きな平板は、塗料や複合体中に分散することが困難である上に、機械的な応力により破損して微細な破片を生成する結果、透磁率の高い平板状磁性金属粒子を得ることが難しいという問題があった。
【0004】
上記問題を解決するため、特許文献3では、粒径200nm以下の球状の軟磁性金属粒子を、アルコール中に分散させ、ボールミルなどで加工していた。すなわち、ボールとボールあるいはボールと容器壁の間の狭い2次元空間で、粒子どうしを圧接して付着させることにより、厚み1μm以下、長径5μm以下、かつアスペクト比が2以上の平板状軟磁性金属粒子を得ていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭63−35701号公報
【特許文献2】特開平1−188606号公報
【特許文献3】特開2008−69381号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし引用文献3の製造方法では、粒子どうしを凝着させるのに、長時間機械的エネルギーを作用させなければ、高透磁率で低磁気損失な磁性金属粒子を得られないという問題があった。そのため、生産効率が低く、大量生産に不向きであった。
また、得られる平板状磁性金属粒子はアルコール中で分散させていたため、分散液のまま任意の絶縁性材料と混合させることができず、得られた分散液を用いて複合磁性材料を製造することが困難であった。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、短時間で所望形状の磁性金属粒子を製造することができる製造方法を提供する。
また、上記の磁性金属粒子と任意の絶縁性材料とを複合化させる複合磁性材料の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、誘電率が4.0以下の有機溶媒のみから構成される溶媒中で、磁性金属粒子を扁平化処理することで、従来よりも効率よく、高透磁率かつ低磁気損失の磁性金属粒子を製造できることを見出した。
また、扁平化処理に次いで、上記磁性金属粒子を含有するスラリーを乾燥して得た乾燥粉を、絶縁性材料と溶媒中に投入して混合することで、磁性金属粒子を容易に再分散させることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明の磁性金属粒子の製造方法は、磁性金属粒子を主成分とする球状粒子を、誘電率が4.0以下の有機溶媒のみから構成される溶媒中において、扁平化処理することを特徴とする。
また、本発明の複合磁性材料の製造方法は、上記有機溶媒を除去する乾燥工程と、乾燥により得られたら磁性金属粒子を、絶縁性材料中に混合させる工程を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、誘電率4.0以下の有機溶媒のみから構成される溶媒中で、磁性金属粒子を主成分とする球状粒子を扁平化処理することにより、球状粒子どうしの凝着が促進される結果、アスペクト比が2以上で、高透磁率、かつ低磁気損失の磁性金属粒子を効率よく製造することができる。また、本発明により得られる磁性金属粒子は、乾燥粉にすることもできるので、磁性金属粒子の扁平化処理に用いる溶媒には溶解しない絶縁性材料にも、磁性金属粒子を容易に混合することができ、種々の複合磁性材料を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本実施形態における扁平化処理の概念図
【図2】本実施形態における凝着促進作用の概念図
【図3】実施例1により得られた磁性金属粒子のSEM像
【図4】比較例1により得られた磁性金属粒子のSEM像
【発明を実施するための形態】
【0012】
本実施形態の磁性金属粒子の製造方法及びその磁性金属粒子を含有する複合磁性材料の製造方法について詳細に説明する。なお、この形態は発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
本実施形態では、磁性金属を主成分とする球状粒子を、誘電率が4.0以下の有機溶媒のみから構成される溶媒中において、扁平化処理し、磁性金属粒子を得る。次いで、上記有機溶媒を除去して得た磁性金属粒子の乾燥粉を、絶縁性材料、溶媒と混合したものを成形して、複合磁性材料を得る。
【0013】
図1は、本実施形態の扁平化処理の概念図である。本実施形態の扁平化処理は、溶媒2中に球状粒子1を分散させたスラリーに機械的エネルギーを作用させることで、扁平状の磁性金属粒子を作製するものである。より詳しくは図1に示すように、機械的エネルギーが溶媒2中の球状粒子1どうしを圧接することにより、球状粒子1どうしが凝着する。次いで、機械的エネルギーが、これらの凝着した粒子3をせん断運動させることにより、二次元方向へ加工する。この凝着と加工を繰り返すことにより、最終的にアスペクト比の高い磁性金属粒子4を得ることができると考えられる。
【0014】
〔球状粒子〕
球状粒子1の平均一次粒子径は特に限定されないが、微細な磁性金属粒子4を作製する場合には、球状粒子1の平均一次粒子径は200nm以下が好ましい。平均一次粒子径が200nm以下の球状粒子1は、粒子表面が高活性となるため、粒子どうしの親和性も高くなり、粒子どうしの凝着が促進されるからである。
一方、球状粒子1の平均一次粒子径が小さくなりすぎると、球状粒子1の表面活性が高すぎて、球状粒子1が著しく酸化されやすくなるため、磁気特性が悪くなる虞がある。実用上、球状粒子1の平均一次粒子径の下限値は、30nm程度である。
【0015】
球状粒子1の作製方法は特に限定されず、液相還元法、アトマイズ法など公知の方法で合成したものを用いることができる。平均一次粒子径が200nm以下の球状粒子1を合成する場合には、液相還元法を用いることが好ましい。
【0016】
球状粒子1は、磁性を有する粒子であれば特に限定されず、例えば、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、コバルト(Co)、亜鉛(Zn)、モリブデン(Mo)のいずれか1種または2種以上、またはこれらの中から選択される2種以上の合金でもよい。
2種の合金としては、Fe−Ni合金、Fe−Si合金、Fe−Co合金、Fe−Cr合金などが挙げられ、3種の合金としては、Fe−Si−Al合金、Fe−Cr−Si合金などが挙げられる。
【0017】
〔誘電率が4.0以下の有機溶媒〕
誘電率が4.0以下の有機溶媒としては、炭化水素類、すなわち脂肪族炭化水素、脂環炭化水素、芳香族炭化水素が挙げられる。これらの溶媒を1種類で用いてもよく、2種類以上を混合して用いてもよい。誘電率は1.8以上3.0以下がより好ましく、2.0以上2.5以下がさらに好ましい。誘電率が1.8未満の有機溶媒は、沸点が低く取り扱いが難しいため、好ましくない。一方、誘電率が4.0を超えると、球状粒子1どうしが凝着しづらくなり、磁性金属粒子4の製造効率が低下するため、好ましくない。
【0018】
脂肪族炭化水素としては、例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、ドデカン、イソオクタン、ノナン、2−メチルブタン、2−メチルペンタン、2,2−ジメチルブタン、2,3−ジメチルブタン、2,2,3−トリメチルペンタン、2,2,5−トリメチルヘキサン、1−ヘキセン、1−オクテン、2−ペンテン、1−ヘプテン、1−リネン、1−デセンが挙げられる。
【0019】
脂環炭化水素としては、例えば、シクロペンタン、シクロブタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、P−メンタン、ビシクロヘキシル、シクロへキセン、2−ピネン、ジペンテン、シクロへキセン、メチルシクロペンタンが挙げられる。
【0020】
芳香族炭化水素としては、例えば、ベンゼン、キシレン、トルエン、メシチレン、ナフタレン、デカリン、テトラリン、エチルベンゼン、ブチルベンゼン、クメン、P−シメン、シクロへキシルベンゼン、ジエチルベンゼン、ペンチルベンゼン、ジペンチルベンゼン、ドデシルベンゼン、ビフェニル、スチレンが挙げられる。
これらの中でも、誘電率が小さく取り扱いが容易な、キシレンやトルエンが好ましい。
【0021】
〔扁平化処理〕
球状粒子1を扁平化処理するには、ニーダ、ロールミル、ピンミル、ビーズミル、ボールミル、遊星ボールミル、ジェットミル、振動ミル、パールミル、ダイノミル、ウルトラビスコミル、アトライター、アニューラミルなどを用いることができる。これらの中でも、ビーズミルが大量生産に適しているので好ましい。
【0022】
上記装置で用いるビーズ等の分散媒体としては、上記の球状粒子1を汚染せず、せん断エネルギーを効果的に加えることができるものであればよく、アルミニウム、スチール等の金属類あるいは金属酸化物類、アルミナ、ジルコニア、二酸化珪素、チタニア等の酸化物焼結体、チッ化珪素等の窒化物焼結体、炭化珪素等の珪化物焼結体、ソーダガラス、鉛ガラス、高比重ガラス等のガラス類が挙げられる。
【0023】
ビーズミルを使用する場合は、充填するビーズの量は、ビーズミルの内容積の5〜50体積%が好ましい。5体積%未満では、機械的エネルギーが適切に作用せず、50体積%を超えると、生産効率が悪くなるため好ましくない。
球状粒子1は、ビーズ等の質量に対して1/100〜1/10質量を充填することが好ましい。1/100質量未満では、球状粒子1が少なすぎて凝着が進行せず、一方、1/10質量を超えると、球状粒子1が多すぎて、粒子に対して、機械的エネルギーが適切に作用しないからである。
【0024】
誘電率が4.0以下の有機溶媒中において扁平化処理することにより、粒子どうしの凝着が促進されて、効率よく磁性金属粒子を作製できるメカニズムを、図2を用いて説明する。
大気中では金属表面の酸化を完全に防ぐことは困難であるため、球状粒子1の表面には、少なからず酸化膜5が存在する。この酸化膜5と球状粒子1との間には、電子密度の差があるため極性が生じている。このような酸化膜5を有する球状粒子1を扁平化処理する場合、溶媒2に低級アルコールのような極性溶媒を使用すると、極性の大きな溶媒は酸化膜5との親和性が高いので、溶媒2が球状粒子1の表面を覆う。そのため、粒子どうしの間隙6に存在する溶媒2の分子が球状粒子1どうしの接着を阻害する。その結果、粒子どうしの凝着が阻害され、磁性金属粒子4を生成する効率が低かったと考えられる。
【0025】
一方で、キシレンやトルエンなどの低極性有機溶媒を溶媒2に用いて扁平化処理すると、酸化膜5を有する球状粒子1と低極性の溶媒2との間で反発力7を生じるため、間隙6から溶媒2が排除されやすくなる。その結果、球状粒子1どうしの凝着が促進され、短時間でアスペクト比が高い磁性金属粒子4を製造することが可能になったと考えられる。なお、球状粒子1表面の酸化膜5は極めて薄いために、球状粒子1どうしの間隙6における凝着に対しては、ほとんど影響を及ぼさない。
【0026】
有機溶媒の極性は、溶媒の分極のしやすさの指針である誘電率で表現される。この場合、誘電率が小さいほど球状粒子1と低極性の溶媒2との間に生じる反発力7が大きくなるため、球状粒子1どうしの凝着を促進する溶媒として好ましい。さらに、芳香族炭化水素は、その芳香環構造内で電子共鳴による非局在化を起こしているために、誘電率が低く、酸化膜5のような局在化した電子状態と反発する傾向を示すため、より好ましい。
【0027】
〔磁性金属粒子〕
得られる磁性金属粒子4の厚みは0.1μm以上かつ10μm以下で、かつ平均アスペクト比(長径/厚み)は、2以上であることが好ましい。アスペクト比が2未満では、粒子形状により、反磁界係数を小さくする効果が発揮できなくなるため、複合磁性材料において高い透磁率を得ることができないからである。一方、アスペクト比が大きくなると、磁性金属粒子の強度が低下したりするため、アスペクト比は15以下が好ましく、実用的には20程度が上限となる。なお、アスペクト比は、各磁性金属粒子のアスペクト値を平均したものである。
厚みは0.1μm以上かつ1μm以下がより好ましく、100MHz以上の高周波で使用する磁性金属粒子は、0.1μm以上かつ0.5μm以下がさらに好ましい。厚みが0.1μm未満の磁性金属粒子は、製造や取り扱いが難しく、10μmを超えると、得られる複合磁性材料の透磁率が低くなるため好ましくない。
【0028】
磁性金属粒子4の長径は、0.2μm以上かつ100μm以下が好ましく、100MHz以上の高周波で使用する磁性金属粒子は、0.2μm以上かつ10μm以下が好ましい。ここで長径が0.2μm未満の磁性金属粒子は、製造や取り扱いが難しく、長径が100μmを超えると、溶媒中での分散安定性が悪くなるため、好ましくない。
【0029】
磁性金属粒子4の形状は、アスペクト比が上記範囲内であれば特に限定されないが、板状、平板状、棒状、扁平状、鱗片状、フレーク状などが挙げられる。100MHz以上の高周波で使用する場合には、平板状の磁性金属粒子であることが好ましい。
【0030】
〔乾燥工程〕
乾燥は、扁平化処理に使用した溶媒2と、後に混合する絶縁性材料との相溶性を考慮して、適宜実施すればよい。
扁平化処理に用いた溶媒2と、絶縁性材料の相溶性が悪い場合には、溶媒2を4質量%以下、好ましくは2質量%以下、より好ましくは1質量%以下まで乾燥するのが好ましい。なお、扁平化処理に用いた溶媒2と、絶縁性材料の相溶性が良い場合には、乾燥工程を省略してもよい。
【0031】
乾燥方法は、扁平化処理後の分散液から溶媒2を除去することができれば特に限定されず、乾燥機、真空乾燥機、真空凍結乾燥機等を用いることができるが、乾燥効率の点で真空乾燥機が好ましい。なお、乾燥効率をよりよくするために、乾燥工程の前に、固液分離の手法等で、ある程度の溶媒2を除去してから乾燥を行ってもよい。固液分離の方法としては、フィルタープレスや吸引ろ過等のろ過操作や、デカンターや遠心分離機による遠心分離操作等、通常の方法を用いればよい。
【0032】
〔混合工程〕
混合工程では、絶縁性材料と溶媒と上記磁性金属粒子を混合する。磁性金属粒子は、絶縁性材料に対して10体積%以上かつ75体積%以下、好ましくは、20体積%以上かつ60体積%以下が好ましい。10体積%以下では、得られる複合磁性材料より十分な磁性が得られず、一方、75体積%を超えると、成形する際の取り扱いが困難になるからである。
【0033】
〔絶縁性材料〕
絶縁性材料は、磁性金属粒子と混合するものであれば特に限定されず、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂、ポリベンゾオキサゾール樹脂、ポリフェニレン樹脂、ポリベンゾシクロブテン樹脂、ポリアリーレンエーテル樹脂、ポリシクロヘキサン樹脂、ポリエステル樹脂、フッ素樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリシクロオレフィン樹脂、シアネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリスチレン樹脂などが挙げられる。
硬化剤の種類や添加量は、使用する絶縁材料の種類に応じて、適宜調整すればよい。
【0034】
〔溶媒〕
溶媒としては、上記絶縁性材料を溶解させることができるものであれば特に限定されず、例えば、メタノール、エタノール、2−プロパノール、ブタノール、オクタノール等のアルコール類、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸ブチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、γ―ブチロラクトン等のエステル類、ジエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル(メチルセロソルブ)、エチレングリコールモノエチルエーテル(エチルセロソルブ)、エチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル等のエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセチルアセトン、シクロヘキサノン等のケトン類、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素、ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド類が好適に用いられ、これらの溶媒は、1種のみ単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。また、絶縁性材料の粘度が低い場合には、溶媒を添加しなくてもよい。
【0035】
混合方法は、絶縁性材料と溶媒と磁性金属粒子を均一に混合することができれば特に限定されず、超音波、攪拌機、ホモジナイザーなどが挙げられる。
得られた混合溶液から、複合磁性材料を成形する方法は特に限定されず、混合溶液を型に流し込み、乾燥、硬化させた複合磁性体や、上記混合物を基材に塗布し、乾燥、硬化させ、塗膜として用いてもよい。
【0036】
上記工程により得られた複合磁性材料の1GHzにおける比透磁率は3.0以上が好ましく、3.5以上がより好ましい。磁気損失は、0.14以下が好ましく、0.10以下がさらに好ましい。
【0037】
本実施形態の磁性金属粒子の製造方法によれば、誘電率が4.0以下の有機溶媒のみから構成される溶媒中において扁平化処理を行うので、粒子どうしの凝着が促進され、従来よりも短時間でアスペクト比の高い磁性金属粒子を得ることができる。
本実施形態の複合磁性材料の製造方法によれば、乾燥工程により上記誘電率4.0以下の溶媒を除去するので、扁平化処理に用いる溶媒には溶解しない絶縁性材料にも、適切な溶媒を加えることで、磁性金属粒子を容易に混合することができ、種々の複合磁性材料を製造することができる。
【実施例】
【0038】
以下実施例及び比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
実施例では以下の方法により評価した。
(1) 磁性金属粒子の観察
走査型電子顕微鏡(日立ハイテク社製、S−4000)で観察した。
(2) パラレルライン法による比透磁率および磁気損失測定
透磁率測定装置(Agilent Technologies社製、ベクトルネットワークアナライザー 8791ES型)にて、大気中室温において、1GHzで測定した。
【0039】
〔実施例1〕
ニッケルと鉄のモル比を78:22に調整した塩化ニッケルと塩化第一鉄を含む水溶液を作製し、この水溶液を50℃に加温し、さらに水酸化ナトリウム水溶液およびヒドラジンを添加して反応させ、平均粒子径が160nmの78パーマロイの球状粒子を得た。
次いで、この78パーマロイ粒子10g、直径が0.2mmのジルコニア製のボール500g、誘電率が2.3(20℃)のキシレン100g、及びアミン系界面活性剤0.1gを、内容積が400mLのジルコニア容器内に充填して、2時間ビーズミルで扁平化処理を行ない、78パーマロイ含有スラリーを得た。
次いで、このスラリーを固液分離して、上澄みの溶媒を除去し、次いで140℃の真空乾燥機で8時間乾燥し、磁性金属粒子の乾燥粉を得た。次いで、得られた磁性金属粒子の乾燥粉を、エポキシ樹脂とアミン系硬化剤(樹脂:硬化剤の質量比=97:3)に対して30体積%配合し、シクロヘキサノンで粘度調整して、液状の混合物を作製した。この混合物をドクターブレードにより、シート状に成形し、160℃で60分加熱して樹脂を硬化し、面積30mm、厚さ約100μmの複合磁性材料を得た。
この複合磁性材料の複素透磁率をパラレルライン法により測定したところ、比透磁率μr=3.5、磁気損失tanδ=0.08であり、高透磁率かつ低磁気損失であった。
この複合磁性材料のSEM像を図3に示す。磁性金属粒子は、厚みが1μm以下、長径が10μm以下でアスペクト比は2〜10であった。
【0040】
〔実施例2〕
実施例1において、キシレンのかわりに誘電率が2.3(20℃)のトルエンを用いた以外は同様にして、磁性金属粒子を得た。
ついで、実施例1と同様にし、シート状の複合磁性材料を作製して、複素透磁率をパラレルライン法により測定したところ、比透磁率μr=3.8、磁気損失tanδ=0.08であり高透磁率かつ低磁気損失であった。
この複合磁性材料をSEMで観察した結果、得られた磁性金属粒子は、厚みが1μm以下、長径が10μm以下、かつ平均アスペクト比は2〜10であった。
【0041】
〔比較例1〕
実施例1において、キシレンのかわりに、誘電率18(25℃)のジアセトンアルコールを用いた以外は同様にして、磁性金属粒子の乾燥粉を得た。
ついで、実施例1と同様にし、シート状の複合磁性材料を作製して、複素透磁率をパラレルライン法により測定したところ、比透磁率μr=3.2、磁気損失tanδ=0.32であり比透磁率は高いが、磁気損失が高かった。
この複合磁性材料のSEM像を図4に示す。得られた磁性金属粒子は、厚みが1μm以下、長径が10μm以下であったが、球状に近い粒子やアスペクト比が2未満の粒子が多く確認され、扁平化処理が不十分であった。
【0042】
〔比較例2〕
実施例1において、キシレンのかわりに、誘電率18(20℃)のシクロへキサノンを用いた以外は同様にして、磁性金属粒子の乾燥粉を得た。
ついで、実施例1と同様にし、シート状の複合磁性材料を作製して、複素透磁率をパラレルライン法により測定したところ、比透磁率μr=2.8、磁気損失tanδ=0.39であり透磁率は高いが、磁気損失が高かった。
この複合磁性材料をSEMで観察した結果、得られた磁性金属粒子は、厚みが1μm以下、長径が10μm以下であったが、球状に近い粒子やアスペクト比が2未満の粒子が多く確認され、扁平化処理が不十分であった。
【0043】
〔比較例3〕
実施例1において、キシレン100gのかわりに、キシレン80gと誘電率が16(−51℃)のシクロペンタノン20gの混合溶媒を用いた以外は同様にして、磁性金属粒子を得た。
ついで、実施例1と同様にし、シート状の複合磁性材料を作製して、複素透磁率をパラレルライン法により測定したところ、比透磁率μr=3.3、磁気損失tanδ=0.15であり透磁率は高いが、磁気損失が高かった。
この複合磁性材料をSEMで観察した結果、得られた磁性金属粒子は、厚みが1μm以下、長径が10μm以下であったが、球状に近い粒子やアスペクト比が2未満の粒子が確認され、扁平化処理が不十分であった。
【0044】
比較例3に示すように、誘電率4.0以下の有機溶媒に、誘電率が高い溶媒を2割程度混合させた溶媒でも、生産効率が低かった。このことより、誘電率が4.0以下の有機溶媒のみからなる溶媒中で、球状粒子を扁平化処理させることが必要であることが確認された。
【0045】
【表1】

【符号の説明】
【0046】
1 球状粒子
2 溶媒
3 凝着した粒子
4 磁性金属粒子
5 酸化膜
6 間隙
7 反発力

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性金属を主成分とする球状粒子を、誘電率が4.0以下の有機溶媒のみから構成される溶媒中において、扁平化処理することを特徴とする、磁性金属粒子の製造方法。
【請求項2】
前記磁性金属粒子が、厚みが1μm以下、平均粒子径が10μm以下、かつ平均アスペクト比が2以上であることを特徴とする、請求項1記載の磁性金属粒子の製造方法。
【請求項3】
前記球状粒子は、平均粒子径が200nm以下であることを特徴とする、請求項1または2記載の磁性金属粒子の製造方法。
【請求項4】
前記有機溶媒が芳香族炭化水素であることを特徴とする、請求項1ないし3のいずれか1項記載の磁性金属粒子の製造方法。
【請求項5】
前記芳香族炭化水素が、トルエンまたはキシレンであることを特徴とする、請求項1ないし4のいずれか1項記載の磁性金属粒子の製造方法。
【請求項6】
前記有機溶媒を除去する乾燥工程を有することを特徴とする、請求項1ないし5のいずれか1項記載の磁性金属粒子の製造方法。
【請求項7】
請求項6記載の製造方法により得られた磁性金属粒子を、絶縁性材料中に混合させる工程を有することを特徴とする、複合磁性材料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−77316(P2012−77316A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−220691(P2010−220691)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(000183266)住友大阪セメント株式会社 (1,342)
【Fターム(参考)】