説明

磁歪力センサ

【課題】磁歪部材を検知対象物に押圧固定部材によって押圧固定するときに、押圧固定部材による磁歪部材の押圧固定力を塑性変形が生じないように制限して良好なセンサ特性を確保できるようにする。
【解決手段】本発明は、検知対象物10に固定された磁歪部材20からの磁束漏れの変化に基づき、その検知対象物10に作用する力を検知する磁歪力センサにおいて、上記磁歪部材20を検知対象物10に押圧固定するための押圧固定部材30,30と、これら押圧固定部材30,30による磁歪部材20の押圧力を、その磁歪部材20に塑性変化を生じさせないように制限する押圧力制限部材40とを有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車のミッションの出力軸に働くトルクを逆磁歪効果により非接触で検出する磁歪力センサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車の制御には廉価で小型な力センサの要望が潜在的にあり、研究開発されてきている。例えばブレーキ力が検知できると車輌の総合制御が可能になり、省燃費な車輌の実現につなげることができるため、本出願人等は既に逆磁歪効果を用いたセンサを提案している。
【0003】
また、トルクセンサのニーズも強い。電動パワーステアリングにはトルクセンサが必須であり、変位方式のトルクセンサが採用されているが、低価格化の要望が強く、磁歪トルクセンサの開発が多くなされてきている。
【0004】
さらに、次世代のステアリングであるステア・バイ・ワイヤにおいても廉価なトルクセンサの要望も強い。将来的には電動車が普及することから、省電力センサであることも重要な要件であるため、本出願人等はリング方式の磁歪トルクセンサを開発し提案してきている。
【0005】
これまで提案してきた磁歪力センサにおいても、さらに感度を高めた実用センサの要望がある。すなわち、感度が高いということは低コスト化につながり、信号処理コストの点で有利となるためである。
【0006】
特に温度特性の確保の点で有利であり、より大きな磁歪を有する合金を採用することが解決策のひとつであるので適用を検討したが、大きな磁歪を有する合金は良好な機械的な特性を兼ね備えているとは限らず、良好な特性を得ることができないものであった。
【0007】
ところで、この種の磁歪力センサとして、特許文献1,2に開示された構成のものがある。図11(A)は、特許文献1に開示されている磁歪応力センサを概略的に示す模式図、(B)は、ホールICの出力と力との関係を示すグラフである。また、図12(A)は、特許文献2に開示されている磁歪トルクセンサを概略的に示す模式図、(B)は、ホールICの出力とトルクとの関係を示すグラフである。
【0008】
まず、特許文献1に開示されている磁歪応力センサは、図11(A)に示すように、磁歪板1の一側方に永久磁石2を、また、他側方に永久磁石2の漏れ磁束を検出するためのホールIC3をそれぞれ配置したものである。
上記の構成においては、図11(B)に示すように、磁歪板1に圧縮力が働くことにより増加する漏れ磁束によって、応力を検知することができる。
【0009】
特許文献2に開示されている磁歪トルクセンサは、図12(A)に示すように、周方向に着磁された磁歪リング4を軸5に嵌合したものである。
この構成においては、軸5にトルクをかけると磁歪リング4から漏れ磁束が発生するので、図示のように配置したホールIC3によって検知して、図12(B)に示すように、印加トルクの方向に対応した信号を得ることができる。
なお、軸5に嵌合されている磁歪リング4には周方向に引張応力が作用しているので、周方向には着磁成分がより多く残っており、応力誘起の磁気異方性を活用しているわけである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2008‐268175号公報
【特許文献2】特開2008‐026210号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上記いずれの磁歪力センサであっても、磁歪板1や磁歪リング4等の磁歪部材に塑性変形が生じることによって磁歪特性が劣化してしまい、良好なセンサ特性を確保できないという欠点がある。
【0012】
そこで本発明は、検知対象物に磁歪部材を固定するとともに、その磁歪部材に塑性変形が生じないようにして、良好なセンサ特性を確保できる磁歪力センサの提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するための本発明は、検知対象物に固定された磁歪部材からの磁束漏れの変化に基づき、上記検知対象物に作用する力を検知する磁歪力センサであり、上記磁歪部材を検知対象物に押圧固定するための押圧固定部材と、押圧固定部材による磁歪部材の押圧力を、その磁歪部材に塑性変化を生じさせないように制限する押圧力制限部材とを有している。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、押圧固定部材によって磁歪部材を検知対象物に押圧固定するときに、押圧固定部材による磁歪部材の押圧固定力を塑性変形が生じないように制限しているので、良好なセンサ特性を確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一例に係る磁歪力センサの基本構造を示す断面図である。
【図2】同上の一例に係る磁歪力センサを適用した第一の実施形態に係る磁歪応力センサの概略構成を示す断面図である。
【図3】磁歪部材の磁歪特性を測定するための応力印加治具を示す斜視図である。
【図4】塑性変形を生じていない磁歪部材の磁歪と歪との関係を示す図である。
【図5】塑性変形を生じている磁歪部材の磁歪と歪との関係を示す図である。
【図6】本発明の他例に係る磁歪力センサの基本構造を示す断面図である。
【図7】本発明の他例に係る磁歪力センサを適用した第一の実施形態に係る磁歪トルクセンサの概略構成を示す外観斜視図である。
【図8】図7に示すI‐I線に沿う断面図である。
【図9】同上の他例に係る磁歪力センサを適用した第一の実施形態に係る磁歪トルクセンサの分解斜視図である。
【図10】(A)は、本発明の他例に係る磁歪力センサを適用した第二の実施形態に係る磁歪トルクセンサ、(B)は、本発明の他例に係る磁歪力センサを適用した第三の実施形態に係る磁歪トルクセンサの構造を示すそれぞれ分解斜視図である。
【図11】(A)は、特許文献1に開示されている磁歪応力センサを概略的に示す模式図、(B)は、ホールICの出力と力との関係を示すグラフである。
【図12】(A)は、特許文献2に開示されている磁歪トルクセンサを概略的に示す模式図、(B)は、ホールICの出力とトルクとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明を実施するための形態について、図面を参照して説明する。図1は、本発明の一例に係る磁歪力センサの基本構造を示す断面図、図2は、本発明の一例に係る磁歪力センサを適用した第一の実施形態に係る磁歪応力センサの概略構成を示す断面図である。
【0017】
本発明の一例に係る磁歪力センサAは、検知対象物10に固定された磁歪部材20からの磁束漏れの変化に基づき、その磁歪部材20に作用する力を検知するためのものである。
すなわち、磁歪力センサAは、図1に示すように、磁歪部材20を検知対象物10に押圧固定するための押圧固定部材30,30と、これら押圧固定部材30,30による磁歪部材20の押圧力を、その磁歪部材20に塑性変化を生じさせないように制限する押圧力制限部材40とを有した構造となっている。
なお、図1において示す二つの矢印は、押圧固定部材30,30による押圧力の作用方向を示している。
【0018】
上記の磁歪力センサAを適用した第一の実施形態に係る磁歪応力センサA1は、図2に示すように、上記した検知対象物10、磁歪部材20、一対の押圧固定部材30,30及び押圧力制限部材40に加え、永久磁石50と磁気ピックアップであるホールIC60とを有して構成されている。
【0019】
検知対象物10は、SUS304やSUS303等のオーステナイト系ステンレス(非磁性材)で形成されており、上面10aに押圧力制限部材40を一体的に突設した片持ち梁を一例として示している。なお、本実施形態においては、検知対象物を「片持ち梁」という。
なお、「一体的」とは、本実施形態に示すような押圧力制限部材40を片持ち梁10と一体に形成したものの他、それらを別体に形成したものを含んでいる。
本実施形態に示すように、押圧力制限部材40を片持ち梁10と一体に形成することにより、製造を容易に行なうことができる。
【0020】
磁歪部材20は、長さW1にした方形の板状体として形成され、片持ち梁10に作用する力Fによって磁束漏れが変化する機能を有するものである。本実施形態においては、FeGaAl合金又はFeCoV合金で形成することにより、磁気の検知感度を高めている。
【0021】
押圧力制限部材40は、これに押圧固定部材30,30が当接することにより、それらの押圧固定部材30,30による磁歪部材20の押圧を制限するものである。
【0022】
すなわち、押圧力制限部材40は、磁歪部材20の長さW1よりも狭い所要の長さW2及び高さHにした断面横長方形にし、かつ、片持ち梁10のほぼ中央部分に配設されている。
「所要の長さW2」は、磁歪部材20の長さW1よりも歪に換算して500ppmだけ短い寸法である。
【0023】
図3は、磁歪部材の磁歪特性を測定するための応力印加治具を示す斜視図である。
図示の応力印加治具は、上側部材6と下側部材7との間に、試験片8を挟み込んで圧縮応力と歪との関係を得るものである。
【0024】
磁歪部材20として採用する磁歪合金の成分及びヤング率は以下の通りである。
磁歪部材20として採用する磁歪合金は、Fe49Co49V2、Fe80Ga15Al5,(Fe80Ga15Al5)99Zr0.5C0.5の3種類であり、磁歪特性を発現させるための焼鈍後におけるヤング率は、それぞれ170GPa、124GPa、132GPaであった。Fe49Co49V2合金は850℃で3時間の熱処理後であった。FeGaAl系は1100℃で1時間溶体化処理を行ったものを、試験片加工後に550℃で2.5時間熱処理した。
【0025】
これらの合金における磁歪の可逆性について検討した。図4は、塑性変形を生じていない磁歪部材の磁歪と歪との関係を示す図、図5は、塑性変形を生じている磁歪部材の磁歪と歪との関係を示す図である。
なお、図4における−部分は磁場印可方向と垂直方向の磁歪の圧縮応力依存性であり、垂直方向に貼った歪ゲージで測定した磁歪(飽和値)を示す。また、図5における−部分も同様であり、データが2本あるのは歪ゲージを貼る場所を変えて測定した結果である。
【0026】
12mm角、厚さ1mmの板状体にした試験片8を作製して歪ゲージを貼り、圧縮応力をかけながら、磁歪測定を繰り返した。
磁場印加の方向、圧縮の方向、歪の測定方向は平行である。磁場は約+/−8kG印加した。磁場を印加するとよく知られたバタフライ形の磁歪曲線が得られる。Fe49Co49V2合金における、飽和に達した磁歪の値(最大印加磁場での値)を、試験片8の圧縮歪に対してプロットしたものを図4に(ア)で示している。
【0027】
圧縮応力ゼロでの磁歪は約80ppmであったが、圧縮応力を印加したときには、約150ppmまで増大している。なお、圧縮応力は試験片8に貼った歪ゲージ(磁歪測定と同じ)で検知している(圧縮応力は圧縮歪で代用)。磁区が圧縮応力により動くことにより、このような変化となると解釈される。すなわち、圧縮応力により磁区分布が変わるのである。
【0028】
ところで、圧縮歪約500ppmでは図示のように応力ゼロで磁歪の値はもとに戻っている。しかし、図示してはいないが、さらに大きな歪を加えた場合には応力ゼロでもとに戻らなくなる。すなわち、可逆な磁歪挙動が得られるのは500ppmまでであると結論できる。
また、図5には、歪の入った(塑性変形してしまった)試験片での結果を(イ)で示す。この場合には圧縮応力依存性があまりない。すなわち、塑性変形してしまうと磁区が動きにくくなると結論できる。
【0029】
以上では、FeCoV合金に関した結果のみを示したが、FeGaAl系についても同様であった。
以上の検討実験により、これらの合金を磁歪力センサに使用する場合、装着時に塑性変形が入ると感度が落ちてしまうこと、塑性変形しない場合でも、500ppm以上の大きな力が加わると、出力の再現性がなくなる(感度低下も伴う、可逆でなくなる)ことがわかった。
【0030】
500ppmのときの磁歪部材に発生している応力はヤング率に歪をかけると求めることができる。ちなみにFeCoV系では約80MPa、FeGaAl系では約60〜70MPaである。すなわち、磁歪力センサにおける磁歪部材の歪、応力としてはこれらの値以下となるようにするのが設計指針となる。
【0031】
従って、押圧固定部材30,30による磁歪部材20の押圧力を、その磁歪部材20に塑性変化を生じさせず、また、500ppm以上の大きな力が加わらないように制限している。
【0032】
また、片持ち梁10をSUS304やSUS303等で形成した場合、磁歪部材20との熱膨張差が約7ppm/℃程度あるので、低温になると更に磁歪部材20が圧縮されて歪むことになるから、この熱膨張差分と、実際に計測する力による歪分の両方を考慮して、最悪でも500ppmを大幅に超えないようにして、押圧力制限部材40の長さW2を設定することとなる。
なお、実際には磁歪部材20と押圧固定部材30とは弾性的な押圧状態になるので、100ppm程度未満の計算上の超過は許容される。
【0033】
ところで、上記した押圧力制限部材40の中心軸線O1には、片持ち梁10の下面10bに連通する連通孔11が一致して形成されており、その連通孔11内には、その中心軸線O1に一致し、かつ、磁歪部材20と所要の距離をもって永久磁石50が配設されている。
【0034】
また、磁歪部材20の上側には、中心軸線O1に一致し、かつ、所要の間隙をおいてホールIC60が配設されている。
換言すると、磁歪部材20を挟む上下に、この磁歪部材20とそれぞれ所要の間隙をおいて、永久磁石50とホールIC60とを配設している。
【0035】
本実施形態においては、永久磁石50とホールIC60とが、磁歪部材20からの磁束漏れの変化を検知するための磁気検知部を構成しており、そのホールIC60には、図示しない磁気検知回路が接続されている。
【0036】
押圧固定部材30は、SUS304やSUS303等のオーステナイト系ステンレス(非磁性材)で形成されたものであり、起立形成した当接部30aと、固定部30bとを断面L字形に構成したものである。
押圧固定部材30,30は、片持ち梁10の上面10aに突設された爪10c,10cに固定部30bを挟入してかしめることによって、片持ち梁10に固定されるようになっている。
【0037】
すなわち、押圧固定部材30,30は、押圧力制限部材40及び磁歪部材20を挟む両側に配置されており、その磁歪部材20を、これの両側から押圧(圧縮)して固定するようになっている。
【0038】
以上の構成からなる磁歪応力センサA1の組み付けと検知動作について説明する。
押圧力制限部材40に磁歪部材20を配置した状態にして、これらの両側から押圧固定部材30,30によって磁歪部材20を押圧するようにして爪10c,10cによって固定する。
このとき、押圧固定部材30,30は、押圧力制限部材40に当接することによって磁歪部材20に塑性変化を生じさせない。これにより、良好なセンサ特性を確保できるようにしている。
【0039】
上記のようにして組み付けた磁歪応力センサA1によれば、片持ち梁10に、図2に示すような力Fが加えられると、その力Fに従った応力が生じる。すなわち、片持ち梁10に力Fが働くと磁歪部材20に圧縮力が生じて漏れ磁束が増加する。
その漏れ磁束の変化をホールIC60によって検知し、検知処理回路によって処理している。
【0040】
図6は、本発明の他例に係る磁歪力センサの基本構造を示す断面図、図7は、本発明の他例に係る磁歪力センサを適用した第二の実施形態に係る磁歪トルクセンサの概略構成を示す外観斜視図、図8は、図7に示すI‐I線に沿う断面図、図9は、その第二の実施形態に係る磁歪トルクセンサの分解斜視図である。
【0041】
本発明の他例に係る磁歪力センサBは、検知対象物100に固定された磁歪部材110からの磁束漏れの変化に基づき、その検知対象物100に作用するトルクを検知するためのものである。
この磁歪力センサBは、図6に示すように、磁歪部材110を検知対象物100に押圧固定するための押圧固定部材120,120と、これら押圧固定部材120,120による磁歪部材110の押圧力を、その磁歪部材110に塑性変化を生じさせないように制限する押圧力制限部材130とを有した構造となっている。
【0042】
上記磁歪力センサBを適用した第一の実施形態に係る磁歪応力センサB1は、上記した検知対象物100、磁歪部材110、一対の押圧固定部材120,120及び押圧力制限部材130に加え、ホールIC60を有して構成されている。
【0043】
本実施形態において示す検知対象物100は、SUS304やSUS303等のオーステナイト系ステンレス(非磁性材)で形成された軸状体を一例として示したものであり、これに押圧力制限部材130が一体に形成されている。なお、以下には、検知対象物を「軸状体」という。
押圧力制限部材130の両端部近傍であって、軸状体100の外周面には、所要の幅にわたり雄ネジ100a,100a(図9参照)が形成されている。
【0044】
磁歪部材110は、長さW1にし、かつ、両端を開口した円筒形に形成されており、軸状体100に作用するトルクによって磁束漏れが変化する機能を有している。
本実施形態においても、FeGaAl合金又はFeCoV合金で形成することにより、磁気の検知感度を高めている。
【0045】
この磁歪部材110の内周面には、押圧力制限部材130、従ってまた、軸状体100との間において相対的な回転を生じさせないようにしたセレーション111が形成されている。
本実施形態に示すセレーション111は、両端開口110a,110aにわたる長さの凸部111aと凹部111bとを所要の角度間隔で凹凸形成したものであり、図示のものは90度間隔のものを示している。
【0046】
押圧力制限部材130は、上記の長さW1よりも狭い所要の長さW2及び軸状体100よりも大きな直径Dにした円柱形のものであり、軸状体100のほぼ中央部分に一体にして突設されている。
「所要の長さW2」は、磁歪部材110の長さW1よりも歪に換算して500ppmだけ短い寸法である。
【0047】
これにより、押圧固定部材120,120による磁歪部材110の押圧力を、磁歪部材110に塑性変化を生じさせないように制限している。
また、上記押圧力制限部材130の外周面には、上記凸部111aと凹部111bに嵌合する形状にした凸部131aと凹部131bとからなるセレーション131が形成されている。
【0048】
上記したセレーション111,131は、本実施形態に示すように四つ程度あれば十分である。
凸部111aと凹部111bの高さ又は低さは小さい方が望ましい。すなわち、磁歪部材110は周方向に着磁して使用されるから、その周方向に肉厚分布が大きいと着磁ムラが生じるからである。
また、セレーション111,131の高さとしては、磁歪部材110の肉厚t(図8参照)の1/4以下が目安である。このようなセレーション111,131がある場合にも、磁歪部材110と押圧力制限部材130は隙間嵌めとする。
【0049】
換言すると、押圧力制限部材130と磁歪部材110とは隙間嵌め状態で互いに嵌装固定している。
すなわち、軸状体100をSUSとした場合には、上記のように熱膨張差が7ppm/℃あるので、100℃温度が上がると700ppmだけ軸状体100が径方向に膨張する。
従って、ぴったり嵌装している場合には磁歪部材110にかかる歪が500ppm程度を超えてしまう。すなわち、磁歪部材110にかかる歪は500ppm程度以内に抑える必要があるからである。
【0050】
他方、低温になった場合、磁歪部材110は軸方向に圧縮されるから、この分を考慮して押圧力制限部材130の長さW2を設定する必要がある。具体的には、−40℃程度まで使用する磁歪トルクセンサでは、室温との温度差が60℃あるので、磁歪部材110はさらに420ppm程度圧縮されることになるので、押圧力制限部材130の長さW2は歪換算で100〜200ppm程度短くしなければならない。
【0051】
本実施形態においては、軸状体100のねじりトルクを磁歪部材110により有効に伝達するために、磁歪部材110と押圧力制限部材130との隙間全域に接着剤(図示しない)を介在させている。
【0052】
磁歪部材110の一端部近傍には、所要の間隙をおいて上記したものと同等のホールIC60が配設されている。
【0053】
本実施形態においては、ホールIC60が、磁歪部材110からの磁束漏れの変化を検知するための磁気検知部を構成しており、そのホールIC60には、図示しない磁気検知回路が接続されていることは、上記したものと同様である。
【0054】
押圧固定部材120は、SUS304やSUS303等のオーステナイト系ステンレス(非磁性材)で形成されたものであり、磁歪部材110と同径にした大径部120aと、これよりも小さい小径部120bとを同軸的に連成した外形にし、かつ、中心にSUS製の軸状体100に嵌装するため嵌合用孔121を穿設した異形の円筒形にしている。
嵌合用孔121の内周面には、上記軸状体100に形成した雄ネジ100aに螺合する雌ネジ121aが形成されている。
【0055】
すなわち、押圧固定部材120,120は、押圧力制限部材130及び磁歪部材110を挟む両側に配置されており、その磁歪部材110を、これの両側から螺合押圧して固定するようになっている。
なお、押圧固定部材120を軸状体100にかしめることによって固定してもよい。
【0056】
以上の構成からなる磁歪トルクセンサB1の組み付けと検知動作について説明する。
押圧力制限部材130に磁歪部材110を嵌装しておき、これらの両側から押圧固定部材120,120を螺入する。
螺入された押圧固定部材120,120が磁歪部材110に当接した後もさらに螺進させると、今度は、押圧力制限部材130に当接し、これにより磁歪部材110に塑性変化を生じさせない。これにより、良好なセンサ特性を確保している。
【0057】
上記のようにして組み付けた磁歪トルクセンサB1によれば、磁歪部材110が周方向に磁化しているので、これにトルクが働くと+/−45度方向に引張・圧縮応力が働き、磁化が45度方向に倒れる(引張応力方向を向く)ことから、磁歪部材110の端面に磁極が出て、漏れ磁束がトルクとともに出てくる。
その漏れ磁束の変化がホールIC60によって検知され、検知処理回路によって処理される。
【0058】
上記した各実施形態に係る磁歪力センサによれば、次の各効果を得ることができる。
1)押圧固定部材によって磁歪部材を検知対象物に押圧固定するとき、押圧固定部材による磁歪部材の押圧力を、その磁歪部材に塑性変化を生じさせないように制限しているので、磁歪部材に塑性変形を生じさせることがなく、これにより良好なセンサ特性を確保できる。
【0059】
2)磁歪部材に対して押圧力制限部材の幅を、歪換算で500ppm以下にしているのでミクロな塑性変形も生じない。
3)磁歪部材が板状体である場合、磁歪部材の一方の側に永久磁石が配置され、他方に磁気ピックアップ(ホールIC)を配置して、磁歪部材の軸方向に圧縮力が作用したときの漏れ磁束の増加を検知しているので、磁歪応力センサとして有効に機能する。
【0060】
4)円環体とした磁歪部材を軸状体の軸方向に押圧する押圧部材を、押圧力制限部材に当接して制限することにより、磁歪部材が塑性変形することはなく、加えて、磁歪部材が圧縮されているのでねじり感度も高くなる。
5)押圧部材と軸状体とをネジで螺合させたときには、押圧力を連続して増減することができ、有効に押圧することができる。
【0061】
6)磁歪部材を押圧力制限部材に対して隙間嵌めで嵌合させているので、温度が高くなった場合でも磁歪部材が拡径モードで塑性変形することがない。
7)磁歪部材と押圧力制限部材の隙間に接着剤を充填介在したときには、軸トルクがより有効に磁歪部材に伝達されるので、ねじり感度が高い磁歪トルクセンサとなる。また、フィラー入り接着剤であるとさらに磁歪部材へのトルク伝達が有効に働くことになる。
【0062】
8)磁歪部材と押圧力制限部材とをセレーションで嵌合させると、磁歪部材が機械的に相対的な回転すべり移動を防止できるので、トルク伝達はさらに有効となる。すなわち、軸ねじりトルクが大きい場合にも磁歪部材の変形が追従するので、印加トルク範囲を拡大した磁歪トルクセンサとすることができる。
9)セレーションの高さは磁歪部材の肉厚の1/4以下にしたときには、周方向の着磁による漏れ磁束の周方向分布変動も小さくすることができる。
【0063】
10)磁歪部材以外を非磁性材で作製されたときには、感度減少の小さい磁歪力センサとすることができる。
11)磁歪部材としてFeGaAl合金又はFeCoV合金としたときには、感度の大きい磁歪力センサを提供できる。
【0064】
ところで、本第一の実施形態に係る磁歪トルクセンサにおいては、磁歪部材110と押圧力制限部材130とに互いに嵌合するセレーション111,131を形成した例について説明したが、そのようなセレーション111,131を必ずしも形成する必要はなく、次のようにしてもよい。
【0065】
図10(A)は、本発明の他例に係る磁歪力センサを適用した第二の実施形態に係る磁歪トルクセンサ、(B)は、本発明の他例に係る磁歪力センサを適用した第三の実施形態に係る磁歪トルクセンサの構造を示すそれぞれ分解斜視図である。
【0066】
第二の実施形態に係る磁歪トルクセンサB2は、第一の実施形態に係る磁歪トルクセンサB1におけるセレーション111,131を省略した構造のものである。
換言すると、磁歪部材と押圧力制限部材の双方にセレーションを形成することなく、それら磁歪部材と押圧力制限部材との隙間に接着剤(図示しない)を介在させている。
「隙間」は、隙間嵌めした磁歪部材110の内周面と押圧力制限部材130の外周面との間に形成されるものであり、上述した図6において「α」で示す部分に相当している。
【0067】
第三の実施形態に係る磁歪トルクセンサB3は、第一の実施形態に係る磁歪トルクセンサB1におけるセレーション111を省略するとともに、接着剤を溜めておくための四つの接着剤溜め131c…を、軸状体の中心軸線と平行に長い溝とし、かつ、互いに90度間隔で形成した構造のものである。
換言すると、磁歪部材110にセレーションを形成することなく、押圧力制限部材130の接着剤溜め131c…に接着剤(図示しない)を溜めて固定している。これにより、接着剤の介在を確実に行えるので有効である。
【0068】
この場合、接着剤溜り131c…としては、0.5mm未満程度の深さで幅は2〜3mm程度で、周方向で数条形成すればよいことは、上記したとおりである。また、押圧力制限部材130と磁歪部材110との結合を更に高めるためにはフィラー入りの接着材の方が好ましい。
【実施例】
【0069】
(実施例1)
図2に示す構造の磁歪応力センサA1を試作した。
片持ち梁10、押圧固定部材30,30にはSUS303を用いた。長さW2=11.98mm、高さH=3mmの押圧力制限部材30,30を機械加工にて作製し、長さW2を測定し記録した。幅7mm、長さ12mm、厚さ1mmのFe49Co49V2合金の磁歪部材20を作製し、長さW2より5μm長くなるように長さ方向における端面を研磨した。
その後、磁歪部材20は850℃で3時間、真空中で熱処理した。図2に示すように組み立てた。永久磁石50にはφ6mm、厚さ1.6mmのSmCo磁石を用いた。磁石単体での端面の磁束密度は約2.1kGであった。
【0070】
永久磁石50は磁歪部材20との間に0.1mmのギャップを設けて取り付けた。磁気ピックアップにはホールICを用いた。ホールICは磁歪部材20から約0.5mm離れた位置での磁束を検知している。この磁歪応力センサA1の感度を調べたところ磁歪部材20での応力値で換算して、約5G/MPa(図1−(b)における傾きに相当)となっていて、圧縮応力範囲50MPaの範囲で直線的な特性となっていた。
【0071】
(参考例1)
実施例1において、磁歪部材の当該寸法を管理しないで磁歪応力センサA1を組み立てた場合には、感度も半分以下であってばらつきがあった。出力特性の直線性も乏しかった。
【0072】
(参考例2)
FeGaAl合金、FeGaAlZrC合金で内径12.6mm、外径14.2mm、長さ13mmの磁歪部材を作製した。これらの磁歪部材には550℃、2.5時間の熱処理を施した。20μmの冷やし嵌めでSUS製の軸状体に嵌合した。その後、軸状体に通電して着磁を行った。電流は約8500A,通電時間は約0.1sec(周方向の着磁磁界は約1kG)であった。5Nmのトルクを印加してねじり感度を調べたところ、FeGaAlでは0.1G/Nm未満、FeGaAlZrCでは0.2G/Nm程度であった。磁歪部材は20μmの冷やし嵌めで塑性変形し、ねじり感度が低下したものと推定される。
【0073】
(参考例3)
FeCoV合金において、参考例2と同様な評価を実施した。磁歪部材の熱処理:850℃3時間のみが異なる。ねじり感度は1G/Nm程度であった。この場合も塑性変形のためねじり感度が低下したものと推定される。
【0074】
(実施例2)
FeCoV合金製の磁歪部材を用いて、図10(A)に示す構造の磁歪トルクセンサB2を製作した。磁歪部材110の寸法は参考例2と同じとした。軸状体100もSUSを用いた。押圧力制限部材130は1.2mm高さとした。長さを13mmアンダーに機械加工した。押圧力制限部材130の外径は磁歪部材110と10μm弱の隙間嵌めとなりように仕上げた。そして押圧力制限部材130の長さを測長し、記録した。磁歪部材110は7μmだけ押圧力制限部材130より長くなりように端面を研磨して仕上げた。
その後、参考例3と同様の熱処理を施した。押圧部材(SUS製)120と軸状体100とはM10程度の細目ねじの嵌合とした。また、押圧力制限部材130と磁歪部材110との隙間嵌め部(間隙)にはエポキシ接着剤を入れた。
評価方法は参考例2と同様であった。5Nm印加でのねじり感度は2G/Nmであった。
【0075】
(実施例3)
FeCoV合金製の磁歪部材を用いて、図10(B)に示す構造の磁歪トルクセンサB3を製作した。
押圧力制限部材130に接着剤溜り131cを設けた以外は実施例2と同様とした。接着剤溜り131cは幅3mm深さ0.5mmで4条、周方向均等配分にして形成し、どこまでトルクを印加できるかを検討した。磁歪部材110がすべるとトルク出力特性が曲がってきてヒステリシスを書くようになることを判断基準とした。トルク印加範囲は10Nm程度までであり、実施例2の場合より少し増大していた。
【0076】
(実施例4)
接着剤に超微粉末シリカ入りのエポキシ接着剤を用いた以外は実施例3と同様とした。この場合には、トルク印加範囲が13Nm程度まで増大していた。
【0077】
(実施例5)
FeCoV合金製の磁歪部材を用いて、図7〜9に示す構造の磁歪トルクセンサB1を製作した。
磁歪部材110と押圧力制限部材130をセレーション隙間嵌めとした。また、磁歪部材110の肉厚tは1mm、外径を14.6mmとした。セレーション111の歯部の周方向長さを4mmとし、歯部高さは0.2mmとし、周方向均等に4条とした。隙間嵌めは10μm狙いとした。接着剤には実施例4と同じものを用いた。それ以外は実施例2と同様とした。ねじり感度は2G/Nmであり、実施例2と同様であったが、トルク印加範囲は25Nm程度まで拡大していた。また、トルク印加が15Nmを超えて大きくなるに従い、出力が飽和してくる傾向が見られた。
【0078】
(実施例6)
FeGaAlZrC合金で磁歪部材を作製し、実施例2と同様にしてねじり感度を評価した。なお、磁歪部材は押圧力制限部材よりも6μm長くした。熱処理は550℃、2.5時間とした。5Nmトルク印加しねじり感度を評価したところ、2G/Nm弱の感度となっていた。
【0079】
(実施例7)
FeGaAl合金で磁歪部材を作製し、実施例6と同様としてねじり感度を評価した。なお、磁歪部材は押圧力制限部材より3μm長くした。熱処理は550℃、2.5時間とした。5Nmトルク印加してねじり感度を評価したところ、FeGaAlZrC合金とほぼ同等である2G/Nm弱の感度となっていた。
【0080】
(実施例8)
実施例2で作製したものを用いてねじり感度の温度特性を室温から85℃の範囲で温度サイクル3回で評価した。ねじり感度はほぼ一定していて良好であった。
【0081】
なお、本発明は上述した実施形態に限るものではなく、次のような変形実施が可能である。
・上記した実施形態においては、検知対象物自体が力を受ける場合について説明したが、検知対象物を応力検知したい部材に固定し、その応力検知したい部材の応力を検知するようにしてもよい。
【0082】
・上記した実施形態においては、検知対象物をSUSのみで形成した例について説明したが、例えばチタン合金や非磁性鋼を用いることもできる。また、温度特性を確保するには熱膨張係数差を考慮しさえすればよい。
【0083】
・上記した実施形態においては、押圧固定部材によって磁歪部材をこれの両側から押圧しているものを示したが、磁歪部材の一側方を固定して他側方から押圧してもよい。すなわち、押圧力制限部材の片側(押圧部材の反対側)に当接する部分を設けておけばよいのであり、この構成も本発明に含まれるものである。
・上記した各実施形態においては、磁気ピックアップとしてホールICを用いた例について説明したが、他の公知のものを採用できることは勿論である。
【符号の説明】
【0084】
10,100 検知対象物
20,110 磁歪部材
30,120 押圧固定部材
40,130 押圧力制限部材
131c 接着剤溜め
A1 磁歪力センサ(磁歪応力センサ)
B1 磁歪力センサ(磁歪トルクセンサ)
t 磁歪部材の肉厚

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検知対象物に固定された磁歪部材からの磁束漏れの変化に基づき、その検知対象物に作用する力を検知する磁歪力センサにおいて、
上記磁歪部材を検知対象物に押圧固定するための押圧固定部材と、
押圧固定部材による磁歪部材の押圧力を、その磁歪部材に塑性変化を生じさせないように制限する押圧力制限部材とを有することを特徴とする磁歪力センサ。
【請求項2】
磁歪部材に対する押圧力は、歪換算で500ppm以下となるように制限していることを特徴とする請求項1に記載の磁歪力センサ。
【請求項3】
押圧力制限部材は、押圧固定部材に当接することにより、その押圧固定部材による磁歪部材の押圧を制限することを特徴とする請求項1又は2に記載の磁歪力センサ。
【請求項4】
押圧力制限部材を検知対象物に一体的に形成していることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の磁歪力センサ。
【請求項5】
磁歪部材が板状体であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の磁歪力センサ。
【請求項6】
磁歪部材が円環体であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の磁歪力センサ。
【請求項7】
円環体にした磁歪部材を軸状体にした検知対象物に隙間嵌めによって嵌合させていることを特徴とする請求項6に記載の磁歪力センサ。
【請求項8】
押圧力制限部材と磁歪部材との間に区画形成される間隙に、それらの相対的な変位を防止するための接着剤を介在させていることを特徴とする請求項7に記載の磁歪力センサ。
【請求項9】
押圧力制限部材又は磁歪部材若しくはそれら双方に接着剤を溜めておく接着剤溜めが形成されていることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の磁歪力センサ。
【請求項10】
接着剤にフィラーを混入していることを特徴とする請求項8又は9に記載の磁歪力センサ。
【請求項11】
接着剤溜めが、軸状体と平行に長い溝として形成されていることを特徴とする請求項9又は10に記載の磁歪力センサ。
【請求項12】
磁歪部材及び押圧力制限部材にセレーションが形成されていることを特徴とする請求項7〜11のいずれか1項に記載の磁歪力センサ。
【請求項13】
セレーションの高さは、磁歪部材の肉厚の1/4以下であることを特徴とする請求項12に記載の磁歪力センサ。
【請求項14】
磁歪部材を除き、非磁性材で形成されていることを特徴とする請求項1〜13のいずれか1項に記載の磁歪力センサ。
【請求項15】
非磁性材はオーステナイト系ステンレスであることを特徴とする請求項14に記載の磁歪力センサ。
【請求項16】
磁歪部材はFeGaAl合金又はFeCoV合金であることを特徴とする請求項1〜15のいずれか1項に記載の磁歪力センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−203175(P2011−203175A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−72237(P2010−72237)
【出願日】平成22年3月26日(2010.3.26)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度、独立行政法人科学技術振興機構、産学共同シーズイノベーション化事業 育成ステージ、ステア・バイ・ワイヤ用FeGa(Galfenol)力センサの開発、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)