説明

磁歪式トルクセンサ

【課題】検出コイルを可及的に多極化する。
【解決手段】軸表面に生じる磁歪の逆効果を利用して回転軸Sのトルクを検出する磁歪式トルクセンサ11であって、複数の第一検出コイルL1と複数の第二検出コイルL2は、回転軸Sの周方向に沿って2列に並ぶように配置され、回転軸Sの周方向においては、第一検出コイルL1と第二検出コイルL2とが交互に並び、かつ、回転軸Sの軸方向においては、第一検出コイルL1と第二検出コイルL2とが並ぶように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸表面に生じる磁歪の逆効果を利用して回転軸のトルクを検出する磁歪式トルクセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
軸表面に生じる磁歪の逆効果を利用して回転軸のトルクを検出する磁歪式トルクセンサが知られている。磁歪の逆効果とは、金属(磁歪膜)にひずみが発生した場合に、引張り方向では透磁率が増加する一方、圧縮方向では透磁率が減少するという磁気的なひずみ現象であり、磁歪式トルクセンサは、軸表面の透磁率変化をインダクタンスの変化として検出する検出コイルを備えて構成されている。
【0003】
磁歪式トルクセンサは、軸表面に磁気異方性を付与しないタイプ(例えば、特許文献1参照)と、軸表面に磁気異方性を付与するタイプ(例えば、特許文献2、3参照)に分類することができる。例えば、後者は、回転軸の二つの外周領域に、それぞれ+45°と−45°の磁気異方性を付与すると共に、各外周領域に対向して一対のソレノイド型検出コイルを配置し、これらの検出コイル間に生じる差動電圧を出力するように構成される。つまり、回転軸にトルクを加えると、磁歪の逆効果により各外周領域の透磁率が背反的に変化するため、検出コイル間に差動電圧が生じ、トルクに比例した出力が得られる。
【0004】
しかしながら、従来の磁歪式トルクセンサにおいては、ブリッジ回路などを用いて、検出コイル間に生じる僅かな差動電圧を検出し、この差動電圧をアンプで多段階に増幅しているため、ノイズの影響を受けやすく、高精度な検出が困難であった。
【0005】
また、特許文献2、3に示される方式の磁歪式トルクセンサは、軸表面に、溝、スリット、薄膜などで±45°の縞模様(磁気異方部)を加工する必要があるので、これらの加工が許容されない回転軸では適用が困難であった。しかも、この方式の磁歪式トルクセンサは、一対のソレノイド型検出コイルによる軸表面の透磁率検出領域が軸方向にずれているので、軸表面に軸方向の温度勾配が存在する場合、一対のソレノイド型検出コイル間の温度誤差が顕著となり、検出精度が著しく低下してしまうという問題がある。これは、トルク検出対象となる回転軸の一端側にエンジンなどの熱源が接続される用途(例えば、自動車や船舶におけるパワートレインのトルク検出)には適用できないことを意味している。
【0006】
一方、特許文献1に示される方式の磁歪式トルクセンサでは、検出コイル(コア)が軸表面との間で閉磁路を構成し、軸表面における透磁率の検出方向及び検出領域を限定するので、軸表面に対する磁気異方部の加工が不要であるが、軸表面における周方向の一部の領域で透磁率変化を検出するため、回転軸のトルク検出に適用すると、軸表面の周方向に存在する誤差要因の影響を大きく受けてしまうという問題が発生する。なお、軸表面の周方向に存在する主な誤差要因としては、回転軸の母材や磁歪膜に存在する材質のばらつきや、回転に伴う軸表面とコアとのギャップ変動などが挙げられる。また、この方式の磁歪式トルクセンサでは、一対の検出コイルにおいてコア形状が相違するため、磁路長の差などに起因し、一対の検出コイル間に検出誤差が生じる可能性がある。
【0007】
そこで、本出願人は、上記のような問題を解決することができる新方式の磁歪式トルクセンサを過去に提案した(特許文献4参照)。この磁歪式トルクセンサは、軸表面において第一方向の透磁率変化を検出すべく配置され、当該透磁率変化をインダクタンスの変化として検出する第一検出コイルと、軸表面において第二方向の透磁率変化を検出すべく配置され、当該透磁率変化をインダクタンスの変化として検出する第二検出コイルと、所定の基準周波数で自律的に発振すると共に、前記第一検出コイルのインダクタンス変化に応じて発振波に位相ズレを生じさせる第一発振回路と、所定の基準周波数で自律的に発振すると共に、前記第二検出コイルのインダクタンス変化に応じて発振波に位相ズレを生じさせる第二発振回路と、前記第一発振回路から出力される複数の発振波をカウントし、該カウント数が所定数Nに達したか否かを判断する発振波カウント処理を行い、該発振波カウント処理に要した時間にもとづいて、前記第一方向の透磁率変化を検出する第一方向透磁率検出手段と、前記第二発振回路から出力される複数の発振波をカウントし、該カウント数が所定数Nに達したか否かを判断する発振波カウント処理を行い、該発振波カウント処理に要した時間にもとづいて、前記第二方向の透磁率変化を検出する第二方向透磁率検出手段と、前記第一方向の透磁率と前記第二方向の透磁率との差分にもとづいて、前記回転軸のトルクを検出するトルク検出手段とを備えることを特徴とする。
【0008】
このような磁歪式トルクセンサによれば、トルク検出精度を飛躍的に向上させることができる。つまり、上記のように構成された第一発振回路や第二発振回路から出力される発振波においては、軸表面の透磁率変化が位相ズレとなって明確に現れ、しかも、発振波における位相ズレは、発振波の数だけ蓄積されるので、第一方向及び第二方向の透磁率変化を高精度に検出し、その差分から回転軸のトルクを高精度に検出することが可能になる。また、発振回路から出力される発振波の数をカウントし、該カウント数が所定数Nに達したか否かを判断する発振波カウント処理を行い、該発振波カウント処理に要した時間にもとづいて蓄積された発振波の位相ズレ(透磁率変化)を測定するので、発振波の位相ズレ成分を安価なデジタル回路を用いて高精度に測定することができる。しかも、その分解能は、時間測定用のカウンタ速度により決まり、発振回路の基準周波数に依存しないので、検出対象に応じて発振回路の基準周波数を最適化しつつ、高分解能の応力検出を行うことができる。
【0009】
さらに、特許文献4の図9に示すように、複数の第一検出コイルと複数の第二検出コイルを、回転軸の同一円周上に並べて配置すれば、軸表面の円周方向に存在する材質のばらつきや、検出コイルと軸表面との間のギャップ変動を平均化することができるので、これらの誤差要因による検出精度の低下を回避できる。また、第一検出コイルの検出領域と第二検出コイルの検出領域とが交互になるように配置すれば、第一検出コイルの検出領域と第二検出コイルの検出領域とのズレに起因する誤差の発生を抑制できる。また、このような配置構成では、コアを交差状に配置する必要がないので、第一検出コイル及び第二検出コイルにおいて同一形状のコアを用いることができる。
【特許文献1】特開2001−133337号公報
【特許文献2】特開平7−83769号公報
【特許文献3】特開平11−37863号公報
【特許文献4】WO/2008/081573号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、特許文献4に示される方式の磁歪式トルクセンサでは、発振波のカウント数Nを増やすだけで、検出精度を容易に向上させることが可能であるが、単純に発振波のカウント数Nを増やすと、蓄積されるノイズ成分も増えるため、S/N比の向上が重要となる。特に、軸表面の周方向に存在する誤差要因の影響が大きいため、これを可及的に小さくすることが要求される。
【0011】
上記の問題に対しては、検出コイルの多極化、すなわち検出コイルの数を増やすことが有効であるが、周方向に並べられる検出コイルの数には限りがあるため、それ以上の多極化は困難であった。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の如き実情に鑑み、これらの課題を解決することを目的として創作された本発明の磁歪式トルクセンサは、軸表面に生じる磁歪の逆効果を利用して回転軸のトルクを検出する磁歪式トルクセンサであって、前記軸表面において第一方向の透磁率変化を検出すべく配置され、当該透磁率変化をインダクタンスの変化として検出する複数の第一検出コイルと、前記軸表面において第二方向の透磁率変化を検出すべく配置され、当該透磁率変化をインダクタンスの変化として検出する複数の第二検出コイルと、前記第一検出コイルのインダクタンス変化に応じて発振波に位相ズレを生じさせる第一発振回路と、前記第二検出コイルのインダクタンス変化に応じて発振波に位相ズレを生じさせる第二発振回路と、前記第一発振回路から出力される複数の発振波をカウントし、該カウント数が所定数Nに達したか否かを判断する発振波カウント処理を行い、該発振波カウント処理に要した時間測定にもとづいて、前記第一方向の透磁率変化を検出する第一方向透磁率検出手段と、前記第二発振回路から出力される複数の発振波をカウントし、該カウント数が所定数Nに達したか否かを判断する発振波カウント処理を行い、該発振波カウント処理に要した時間測定にもとづいて、前記第二方向の透磁率変化を検出する第二方向透磁率検出手段と、前記第一方向の透磁率と前記第二方向の透磁率との差分にもとづいて、前記回転軸のトルクを検出するトルク検出手段とを備え、複数の前記第一検出コイルは、それぞれ、軸表面における検出領域及び検出方向を限定するために、軸表面との間で閉磁路を構成する逆U字状のコアと、該コアに巻装されるコイルとを備えて構成されると共に、コイル同士が直列又は並列に接続され、複数の前記第二検出コイルは、それぞれ、軸表面における検出領域及び検出方向を限定するために、軸表面との間で閉磁路を構成する逆U字状のコアと、該コアに巻装されるコイルとを備えて構成されると共に、コイル同士が直列又は並列に接続され、複数の前記第一検出コイルと複数の前記第二検出コイルは、回転軸の周方向に沿って2列に並ぶように配置され、回転軸の周方向においては、前記第一検出コイルと前記第二検出コイルとが交互に並び、かつ、回転軸の軸方向においては、前記第一検出コイルと前記第二検出コイルとが並ぶことを特徴とする。
このようにすれば、複数の第一検出コイルと複数の第二検出コイルは、回転軸の周方向に沿って2列に並ぶように配置されるので、1列に並べて配置する場合に比して、検出コイルの多極化が図れる。また、回転軸の周方向においては、第一検出コイルと第二検出コイルとが交互に並ぶようにしたので、第一検出コイルの検出領域と第二検出コイルの検出領域とのズレに起因する誤差の発生を抑制できる。またさらに、回転軸の軸方向においては、第一検出コイルと第二検出コイルとが並ぶようにしたので、複数の第一検出コイルと複数の第二検出コイルを、回転軸の周方向に沿って2列に並ぶように配置したものでありながら、軸表面の軸方向に存在する温度勾配の影響を抑制することができる。
つまり、複数の前記第一検出コイルと複数の前記第二検出コイルを、回転軸の周方向に沿って2列に並ぶように配置するにあたり、回転軸の周方向においては、前記第一検出コイルと前記第二検出コイルとが交互に並び、かつ、回転軸の軸方向においては、前記第一検出コイルと前記第二検出コイルとが並ぶように配置すると、2列の間を通る中心線を跨いで、複数の第一検出コイルと複数の第二検出コイルが、それぞれ、ジグザグ状に振り分けられると共に、2列の間を通る中心線を対称軸として、複数の第一検出コイルと複数の第二検出コイルが線対称に配置されることになるので、複数の第一検出コイルと複数の第二検出コイルが、軸表面の軸方向に存在する温度勾配の影響を互いに相殺し、温度勾配による検出精度の低下を可及的に排除することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
次に、本発明の実施形態について、図面に基づいて説明する。
【0014】
[本発明に係る磁歪式トルクセンサの基本的な構成]
図1は、本発明に係る磁歪式トルクセンサの基本的な構成を示すブロック図である。この図に示される磁歪式トルクセンサ1は、本発明の基本的な構成を示すものであり、軸表面に生じる磁歪の逆効果を利用して回転軸Sのトルクを検出するために、第一検出コイルL1、第二検出コイルL2、第一発振回路2、第二発振回路3及び検出回路4を備えて構成されている。
【0015】
第一検出コイルL1は、軸表面において第一方向(例えば、+45°方向)の透磁率変化を検出すべく配置され、当該透磁率変化をインダクタンスの変化として検出する。また、第二検出コイルL2は、軸表面において第二方向(例えば、−45°方向)の透磁率変化を検出すべく配置され、当該透磁率変化をインダクタンスの変化として検出する。
【0016】
検出コイルL1、L2は、軸表面における検出領域及び検出方向を限定するために、高透磁率材料を用いて形成されコアL1a、L2aと、該コアL1a、L2aに巻装されるコイルL1b、L2bとを備えて構成されている。具体的には、フェライトからなる逆U字状のコアL1a、L2aに、コイルL1b、L2bを巻装して構成されており、コアL1a、L2aの両端を軸表面に近接させることにより、軸表面との間で閉磁路を構成するようになっている。これにより、軸表面の限られた領域に第一方向及び第二方向の磁路を形成し、該磁路における透磁率変化を検出することが可能になる。なお、逆U字状のコアL1a、L2aは、少なくとも一対の脚部と、脚部の上端部同士を連結する連結部とを備えていれば、具体的な形状は逆U字形に限定されない。例えば、冂字形、逆V字形、E字形のコアも本発明に適用することができる。
【0017】
第一発振回路2は、所定の基準周波数で自律的に発振すると共に、第一検出コイルL1のインダクタンス変化に応じて発振波に位相ズレを生じさせるように構成される。また、第二発振回路3は、所定の基準周波数で自律的に発振すると共に、第二検出コイルL2のインダクタンス変化に応じて発振波に位相ズレを生じさせるように構成される。例えば、シュミット発振回路の帰還回路に検出コイルL1、L2を配置すれば、検出コイルL1、L2のインダクタンス変化に応じて発振波に位相ズレが生じる発振回路2、3を構成することができる。
【0018】
シュミット発振回路は、シュミットインバータINVのヒステリシス特性を利用した発振回路であり、シュミットインバータINVと、シュミットインバータINVの入力側に接続されるコンデンサCと、シュミットインバータINVの出力をシュミットインバータINVの入力側に帰還させる帰還回路と、この帰還回路に介在する抵抗要素とを備えて構成されている。
【0019】
初期状態のシュミット発振回路では、コンデンサCに電荷が溜まっていないため、コンデンサCの両端の電圧は0Vとなっている。このとき、シュミットインバータINVは、入力側電圧VinがV以下なので、出力がHレベル(5V)となる。シュミットインバータINVの出力側電圧Voutが5Vのときは、帰還回路2aを介してシュミットインバータINVの入力側に電流が流れるので、コンデンサCに電荷が徐々に溜まり、その両端の電圧が上昇する。そして、シュミットインバータINVの入力側電圧VinがVに達すると、シュミットインバータINVの出力がLレベル(0V)に切換わる。シュミットインバータINVの出力側電圧Voutが0Vになると、コンデンサCが放電し、シュミットインバータINVの入力側電圧Vinが徐々に降下する。そして、シュミットインバータINVの入力側電圧VinがVまで降下すると、シュミットインバータINVの出力がHレベルに切換わる。
【0020】
以上の動作の繰り返しにより、シュミットインバータINVの出力側から所定周波数の矩形波が得られる。そして、シュミット発振回路の発振周波数f(=1/T)は、蓄電期間Tと放電期間Tにより決まり、蓄電期間Tと放電期間Tは、コンデンサC及び抵抗要素の定数により決まる。したがって、抵抗要素として帰還回路に検出コイルL1、L2を配置すれば、検出コイルL1、L2のインダクタンス変化に応じてシュミット発振回路の発振波に位相ズレを生じさせることができる。
【0021】
なお、本発明の発振回路がシュミット発振回路に限定されないことは勿論であり、検出コイルL1、L2のインダクタンス変化に応じて発振波に位相ズレを生じさせる発振回路であれば、CR発振回路、LC発振回路、水晶発振回路などを用いてもよい。
【0022】
検出回路4は、例えば、CPU、ROM、RAM、I/Oなどが内蔵されたマイコン(1チップマイコン)を用いて構成され、ROMに書き込まれたプログラムに従って後述するトルク検出処理を行う。なお、検出回路4は、複数のマイコンで構成したり、一又は複数のICで構成してもよい。
【0023】
検出回路4は、第一発振回路2から出力される複数の発振波をカウントし、該カウント数が所定数Nに達したか否かを判断する発振波カウント処理を行い、該発振波カウント処理に要した時間にもとづいて、第一方向の透磁率変化を検出する第一方向透磁率検出手段と、第二発振回路3から出力される複数の発振波をカウントし、該カウント数が所定数Nに達したか否かを判断する発振波カウント処理を行い、該発振波カウント処理に要した時間にもとづいて、第二方向の透磁率変化を検出する第二方向透磁率検出手段と、第一方向の透磁率と第二方向の透磁率との差分にもとづいて、回転軸Sのトルクを検出するトルク検出手段とを備える。
【0024】
このようにすると、磁歪式トルクセンサ1のトルク検出精度を向上させることができる。つまり、上記のように構成された第一発振回路2や第二発振回路3から出力される発振波においては、軸表面の透磁率変化が位相ズレとなって明確に現れ、しかも、発振波における位相ズレは、発振波の数だけ蓄積されるので、第一方向及び第二方向の透磁率変化を高精度に検出し、その差分から回転軸Sのトルクを高精度に検出することが可能になる。また、発振回路2、3から出力される発振波の数をカウントし、該カウント数が所定数Nに達したか否かを判断する発振波カウント処理を行い、該発振波カウント処理に要した時間にもとづいて蓄積された発振波の位相ズレ(透磁率変化)を測定するので、発振波の位相ズレ成分を安価なデジタル回路を用いて高精度に測定することができる。しかも、その分解能は、時間測定用のカウンタ速度により決まり、発振回路2、3の基準周波数に依存しないので、検出対象に応じて発振回路2、3の基準周波数を最適化しつつ、高分解能の応力検出を行うことができる。
【0025】
第一検出コイルL1及び第二検出コイルL2は、軸表面における検出領域及び検出方向を限定するために、軸表面との間で閉磁路を構成する。つまり、本発明の磁歪式トルクセンサ1では、トルクに応じた発振波の位相ズレを、発振波の数だけ蓄積して検出するので、発振波の位相ズレに含まれる誤差成分も蓄積されてしまうことになるが、軸表面における検出領域や検出方向を限定することにより、SN比を高めることができるので、蓄積される誤差成分を抑制し、検出精度を向上させることができる。また、検出コイルL1、L2側で検出方向を限定することができるので、軸表面に、溝、スリット、薄膜などで縞模様を加工する必要がない。その結果、これらの加工が許容されない回転軸Sであっても、本発明によるトルク検出の適用が可能となる。
【0026】
また、第一発振回路2と第二発振回路3は、相互干渉を避けるために、交互に駆動されることが好ましい。例えば、第二発振回路3の発振駆動を停止した状態で、第一発振回路2に係る発振波カウント処理を実行した後、第一発振回路2の発振駆動を停止した状態で、第二発振回路3に係る発振波カウント処理を実行しその後、各発振波カウント処理に要した測定時間の差分を求めるようにする。このようにすると、相互干渉による検出精度の低下を回避することができる。しかも、第一検出コイルL1の検出領域と第二検出コイルL2の検出領域を、相互干渉を考慮することなく、任意に設定することができるので、使用条件に応じた検出領域の最適化が容易となる。
【0027】
磁歪式トルクセンサ1でトルクを検出する回転軸Sの軸表面は、メッキ法により成膜された磁歪膜5であることが好ましい。例えば、回転軸Sの一部又は全体の領域に、ニッケル合金からなる磁歪膜5を全周に亘ってメッキする。このようにすると、トルクに応じた磁歪膜5における磁歪の逆効果にもとづいて、トルクを高精度に検出できるだけでなく、トルク検出におけるヒステリシスを抑えることができる。しかも、本発明の磁歪式トルクセンサ1では、メッキ法により成膜された磁歪膜5であっても、十分な検出精度が得られるので、接着法、スパッタ法、真空蒸着法などでアモルファスなどの磁歪膜を形成する場合に比べ、大幅なコストダウンが図れるだけでなく、ニッケルメッキなどが施された既存の部材(樹脂を含む)を対象として、高精度なトルク検出を行うことができる。
【0028】
次に、本発明における発振波の位相ズレ蓄積作用について、図2及び図3を参照して説明する。
【0029】
図2は、発振波の位相ズレ蓄積作用(検出波形始端部を拡大)を示す説明図、図3は、発振波の位相ズレ蓄積作用(検出波形終端部を拡大)を示す説明図である。これらの図に示す波形は、一回の検出処理における発振回路2、3の出力波形であって、発振回路2、3から出力される発振波の数をカウントし、カウント数が所定数Nに達したか否かを判断する発振波カウント処理を行い、該発振波カウント処理に要した時間にもとづいて、蓄積された発振波の位相ズレを測定するにあたり、発振波カウント処理における発振波のカウント数Nを100とした場合の波形であり、上側の波形は、回転軸Sにトルクを加えない場合を示し、下側の波形は、回転軸Sにトルクを加えた場合を示している。これらの図から明らかなように、検出波形の始端部、つまり発振波カウント処理における発振波のカウント数Nが少ない段階では、位相ズレがあまり蓄積されていないため、その差が明確ではないが(図2参照)、カウント数Nが多くなると、発振波の位相ズレが蓄積され、その差が明確になるので、位相ズレの測定が容易になることがわかる(図3参照)。そして、発振波の位相ズレは、回転軸Sに作用するトルクに比例して大きくなるので、発振波の位相ズレにもとづいて、回転軸Sに作用するトルクを高精度に測定することが可能になる。また、各発振回路2、3から出力される発振波の位相ズレは、磁歪の逆効果にもとづいて背反方向に現れるので、その差分にもとづいて回転軸Sのトルク量及びトルク極性を検出できるだけでなく、温度誤差や変位誤差が相殺された検出値を得ることができる。
【0030】
次に、検出回路4の具体的な検出処理手順について、図4〜図7を参照して説明する。
【0031】
図4に示すトルク検出処理(トルク検出手段)では、まず、初期設定(S11:発振波カウント数Nの初期値設定を含む)を行った後、カウント数変更処理(S12)、第一方向透磁率検出処理(S13:第一方向透磁率検出手段)及び第二方向透磁率検出処理(S14:第二方向透磁率検出手段)を順番に実行する。そして、透磁率検出処理(S13、S14)で得られた第一方向透磁率検出値と第二方向透磁率検出値の差分を演算すると共に(S15)、演算した差分(トルク検出値)を所定の検出信号形式に変換して出力することにより(S16)、一回のトルク検出処理が終了する。
【0032】
図5に示すカウント数変更処理では、まず、カウント数変更信号の入力を判断し(S21)、該判断結果がYESの場合は、カウント数変更信号に含まれる発振波カウント数Nを読み取り(S22)、これに従って発振波カウント数Nを変更する(S23)。
【0033】
図6に示す第一方向透磁率検出処理では、第一発振回路2の駆動を開始した後(S31)、カウンタクリア処理(S32)と、発振波カウント処理(S33、S34)と、時間測定処理(S35)を実行し、その後に第一発振回路2の駆動を停止させる(S36)。カウンタクリア処理は、発振波カウンタ及び時間計測カウンタをクリアする処理である(S32)。また、発振波カウント処理は、第一発振回路2から出力される発振波の数をカウントし(S33)、該カウント数が所定数Nに達したか否かを判断する処理である(S34)。また、時間測定処理は、発振波のカウント数がNになったら、時間計測カウンタ値(第一方向透磁率検出値)を読み込む処理である(S35)。
【0034】
図7に示す第二方向透磁率検出処理では、第二発振回路3の駆動を開始した後(S41)、カウンタクリア処理(S42)と、発振波カウント処理(S43、S44)と、時間測定処理(S45)を実行し、その後に第二発振回路3の駆動を停止させる(S46)。カウンタクリア処理は、発振波カウンタ及び時間計測カウンタをクリアする処理である(S42)。また、発振波カウント処理は、第二発振回路3から出力される発振波の数をカウントし(S43)、該カウント数が所定数Nに達したか否かを判断する処理である(S44)。また、時間測定処理は、発振波のカウント数がNになったら、時間計測カウンタ値(第二方向透磁率検出値)を読み込む処理である(S45)。
【0035】
[本発明に係る磁歪式トルクセンサの特徴的な構成]
つぎに、本発明に係る磁歪式トルクセンサの特徴的な構成について、図8〜図11を参照して説明する。ただし、図1〜図7に示した磁歪式トルクセンサ1と共通の部分については、同一符号を付けることにより、前記説明を援用する。
【0036】
図8〜図11に示す磁歪式トルクセンサ11は、本発明の特徴的な構成を示すものであり、各発振回路2、3がそれぞれ複数の検出コイルL1、L2を備えている。具体的に説明すると、第一発振回路2は、直列(又は並列)に接続された複数(例えば、12個)の第一検出コイルL1を備え、第二発振回路3は、直列(又は並列)に接続された複数(例えば、12個)の第二検出コイルL2を備えている。このようにすると、第一検出コイルL1及び第二検出コイルL2を、軸表面にそれぞれ複数配置することにより、軸表面に存在する材質のばらつき、さらには、検出コイルL1、L2と軸表面との間のギャップ変動などを平均化することができるので、これらの誤差要因による検出精度の低下を回避できる。
【0037】
尚、図9〜図11に示す検出コイルL1、L2のコア2a、3aは、図1に示すものに比して、幅寸法W(例えば、4mm)を広くし、かつ、脚間距離L(例えば、2mm)を狭くしてある。このようにすると、コア2a、3aの脚間に交流磁界を集中的に発生させ、トルク変動に伴う僅かな透磁率変化を高精度に検出することが可能になる。また、複数の第一検出コイルL1及び複数の第二検出コイルL2は、環状のホルダHで所定の位置に保持される。ホルダHは、一体型でも良いし、分割型であっても良い。
【0038】
図10及び図11に示すように、複数の第一検出コイルL1と複数の第二検出コイルL2は、回転軸Sの周方向に沿って2列に並ぶように配置される。このようにすると、1列に並べて配置する場合に比して、検出コイルL1、L2の多極化が図れる。
【0039】
また、回転軸Sの周方向においては、第一検出コイルL1と第二検出コイルL2とが交互に並ぶように配置してある。このようにすると、第一検出コイルL1の検出領域と第二検出コイルL2の検出領域とのズレに起因する誤差の発生を抑制できる。
【0040】
またさらに、回転軸Sの軸方向においては、第一検出コイルL1と第二検出コイルL2とが並ぶように配置してある。このようにすると、複数の第一検出コイルL1と複数の第二検出コイルL2を、回転軸Sの周方向に沿って2列に並ぶように配置したものでありながら、軸表面の軸方向に存在する温度勾配の影響を抑制することができる。
【0041】
つまり、複数の第一検出コイルL1と複数の第二検出コイルL2を、回転軸Sの周方向に沿って2列に並ぶように配置するにあたり、回転軸Sの周方向においては、第一検出コイルL1と第二検出コイルL2とが交互に並び、かつ、回転軸Sの軸方向においては、第一検出コイルL1と第二検出コイルL2とが並ぶように配置すると、2列の間を通る中心線CLを跨いで、複数の第一検出コイルL1と複数の第二検出コイルL2が、それぞれ、ジグザグ状に振り分けられると共に、2列の間を通る中心線CLを対称軸として、複数の第一検出コイルL1と複数の第二検出コイルL2が線対称に配置されることになるので、複数の第一検出コイルL1と複数の第二検出コイルL2が、軸表面の軸方向に存在する温度勾配の影響を互いに相殺し、温度勾配による検出精度の低下を可及的に排除することができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明に係る磁歪式トルクセンサの基本的な構成を示すブロック図である。
【図2】発振波の位相ズレ蓄積作用(検出波形始端部を拡大)を示す説明図である。
【図3】発振波の位相ズレ蓄積作用(検出波形終端部を拡大)を示す説明図である。
【図4】検出回路におけるトルク検出処理の処理手順を示すフローチャートである。
【図5】検出回路における設定数変更処理の処理手順を示すフローチャートである。
【図6】検出回路における第一方向透磁率検出処理の処理手順を示すフローチャートである。
【図7】検出回路における第二方向透磁率検出処理の処理手順を示すフローチャートである。
【図8】本発明に係る磁歪式トルクセンサの特徴的な構成を示すブロック図である。
【図9】(A)は検出コイルの上面図、(B)は検出コイルの正面図、(C)は検出コイルの下面図、(D)は検出コイルの側面図である。
【図10】検出コイルの配置例を示す展開平面図である。
【図11】検出コイルの配置例を示す側面図である。
【符号の説明】
【0043】
1 磁歪式トルクセンサ
2 第一発振回路
2a コア
3 第二発振回路
3a コア
4 検出回路
11 磁歪式トルクセンサ
L1 第一検出コイル
L2 第二検出コイル
S 回転軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸表面に生じる磁歪の逆効果を利用して回転軸のトルクを検出する磁歪式トルクセンサであって、
前記軸表面において第一方向の透磁率変化を検出すべく配置され、当該透磁率変化をインダクタンスの変化として検出する複数の第一検出コイルと、
前記軸表面において第二方向の透磁率変化を検出すべく配置され、当該透磁率変化をインダクタンスの変化として検出する複数の第二検出コイルと、
前記第一検出コイルのインダクタンス変化に応じて発振波に位相ズレを生じさせる第一発振回路と、
前記第二検出コイルのインダクタンス変化に応じて発振波に位相ズレを生じさせる第二発振回路と、
前記第一発振回路から出力される複数の発振波をカウントし、該カウント数が所定数Nに達したか否かを判断する発振波カウント処理を行い、該発振波カウント処理に要した時間測定にもとづいて、前記第一方向の透磁率変化を検出する第一方向透磁率検出手段と、
前記第二発振回路から出力される複数の発振波をカウントし、該カウント数が所定数Nに達したか否かを判断する発振波カウント処理を行い、該発振波カウント処理に要した時間測定にもとづいて、前記第二方向の透磁率変化を検出する第二方向透磁率検出手段と、
前記第一方向の透磁率と前記第二方向の透磁率との差分にもとづいて、前記回転軸のトルクを検出するトルク検出手段とを備え、
複数の前記第一検出コイルは、それぞれ、軸表面における検出領域及び検出方向を限定するために、軸表面との間で閉磁路を構成する逆U字状のコアと、該コアに巻装されるコイルとを備えて構成されると共に、コイル同士が直列又は並列に接続され、
複数の前記第二検出コイルは、それぞれ、軸表面における検出領域及び検出方向を限定するために、軸表面との間で閉磁路を構成する逆U字状のコアと、該コアに巻装されるコイルとを備えて構成されると共に、コイル同士が直列又は並列に接続され、
複数の前記第一検出コイルと複数の前記第二検出コイルは、回転軸の周方向に沿って2列に並ぶように配置され、
回転軸の周方向においては、前記第一検出コイルと前記第二検出コイルとが交互に並び、かつ、回転軸の軸方向においては、前記第一検出コイルと前記第二検出コイルとが並ぶ
ことを特徴とする磁歪式トルクセンサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−145099(P2010−145099A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−319311(P2008−319311)
【出願日】平成20年12月16日(2008.12.16)
【出願人】(591123274)株式会社アヅマシステムズ (31)