説明

磁歪式トルクセンサ

【課題】磁歪式トルクセンサの検出精度を向上させる。
【解決手段】第一検出コイルL1のインダクタンス変化に応じて発振波に位相ズレを生じさせる第一発振回路2と、第二検出コイルL2のインダクタンス変化に応じて発振波に位相ズレを生じさせる第二発振回路3と、第一発振回路2から出力される発振波の位相ズレと、第二発振回路3から出力される発振波の位相ズレを検出し、両者の差分を求める検出回路4とを備え、第一検出コイルL1及び第二検出コイルL2は、それぞれ、被検体表面における検出領域及び検出方向を限定するために、被検体表面との間で閉磁路を構成するコアと、該コアに巻装されるコイルとを備えて構成されると共に、回転軸Sの全周領域を同時に検出するように複数が周方向に並べて配置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸表面に生じる磁歪の逆効果を利用して回転軸のトルクを検出する磁歪式トルクセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
軸表面に生じる磁歪の逆効果を利用して回転軸のトルクを検出する磁歪式トルクセンサが知られている。磁歪の逆効果とは、金属(磁歪膜)にひずみが発生した場合に、引張り方向では透磁率が増加する一方、圧縮方向では透磁率が減少するという磁気的なひずみ現象であり、磁歪式トルクセンサは、軸表面の透磁率変化をインダクタンスの変化として検出する検出コイルを備えて構成されている。
【0003】
磁歪式トルクセンサは、軸表面に磁気異方性を付与しないタイプ(例えば、特許文献1参照)と、軸表面に磁気異方性を付与するタイプ(例えば、特許文献2、3参照)に分類することができる。例えば、後者は、回転軸の二つの外周領域に、それぞれ+45°と−45°の磁気異方性を付与すると共に、各外周領域に対向して一対のソレノイド型検出コイルを配置し、これらの検出コイル間に生じる差動電圧を出力するように構成される。つまり、回転軸にトルクを加えると、磁歪の逆効果により各外周領域の透磁率が背反的に変化するため、検出コイル間に差動電圧が生じ、トルクに比例した出力が得られる。
【特許文献1】特開2001−133337号公報
【特許文献2】特開平7−83769号公報
【特許文献3】特開平11−37863号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の磁歪式トルクセンサにおいては、ブリッジ回路などを用いて、検出コイル間に生じる僅かな差動電圧を検出し、この差動電圧をアンプで多段階に増幅しているため、ノイズの影響を受けやすく、高精度な検出が困難であった。
【0005】
また、特許文献2、3に示される方式の磁歪式トルクセンサは、軸表面に、溝、スリット、薄膜などで±45°の縞模様(磁気異方部)を加工する必要があるので、これらの加工が許容されない回転軸では適用が困難であった。
【0006】
一方、特許文献1に示される方式の磁歪式トルクセンサでは、検出コイル(コア)が軸表面との間で閉磁路を構成し、軸表面における透磁率の検出方向及び検出領域を限定するので、軸表面に対する磁気異方部の加工が不要であるが、軸表面における周方向の一部の領域で透磁率変化を検出するため、回転軸のトルク検出に適用すると、軸表面の周方向に存在する誤差要因の影響を大きく受けてしまうという問題が発生する。なお、軸表面の周方向に存在する誤差要因としては、材質や温度のばらつき、回転に伴う軸表面とコアとのギャップ変動などが挙げられる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の如き実情に鑑み、これらの課題を解決することを目的として創作された本発明の磁歪式トルクセンサは、軸表面に生じる磁歪の逆効果を利用して回転軸のトルクを検出する磁歪式トルクセンサであって、軸表面において第一方向の透磁率変化を検出すべく配置され、当該透磁率変化をインダクタンスの変化として検出する第一検出コイルと、軸表面において第二方向の透磁率変化を検出すべく配置され、当該透磁率変化をインダクタンスの変化として検出する第二検出コイルと、所定の基準周波数で自律的に発振すると共に、前記第一検出コイルのインダクタンス変化に応じて発振波に位相ズレを生じさせる第一発振回路と、所定の基準周波数で自律的に発振すると共に、前記第二検出コイルのインダクタンス変化に応じて発振波に位相ズレを生じさせる第二発振回路と、前記第一発振回路から出力される発振波の位相ズレと、前記第二発振回路から出力される発振波の位相ズレを検出し、両者の差分を求める検出回路とを備え、前記第一発振回路は、直列又は並列に接続された複数の前記第一検出コイルを含み、これらの第一検出コイルは、それぞれ、軸表面における検出領域及び検出方向を限定するために、軸表面との間で閉磁路を構成するコアと、該コアに巻装されるコイルとを備えて構成されると共に、回転軸の全周領域を同時に検出するように周方向に並べて配置され、前記第二発振回路は、直列又は並列に接続された複数の前記第二検出コイルを含み、これらの第二検出コイルは、それぞれ、軸表面における検出領域及び検出方向を限定するために、軸表面との間で閉磁路を構成するコアと、該コアに巻装されるコイルとを備えて構成されると共に、回転軸の全周領域を同時に検出するように周方向に並べて配置されることを特徴とする。このようにすると、回転軸のトルクを高精度に検出することができる。すなわち、上記のような発振回路から出力される発振波においては、軸表面の透磁率変化が位相ズレ(周波数変化や周期変化を含む)となって明確に現れ、しかも、発振波における位相ズレは、ノイズの影響を受けにくいので、発振波の位相ズレにもとづいて回転軸のトルクを高精度に検出することが可能になる。また、第一検出コイル及び第二検出コイルは、軸表面における検出領域及び検出方向を限定するので、軸表面に磁気異方部を加工する必要がない。また、第一検出コイル及び第二検出コイルは、それぞれ、回転軸の全周領域を同時に検出するように周方向に並べて配置されるので、軸表面の周方向に存在する誤差要因の影響を抑制し、検出精度をさらに向上させることができる。
また、前記第一検出コイルと前記第二検出コイルは、互に重合する領域で、互に交差する方向の透磁率変化を検出することを特徴とする。このようにすると、第一検出コイルの検出領域と第二検出コイルの検出領域とのズレに起因する誤差の発生を抑制し、検出精度をさらに向上させることができる。
また、前記第一発振回路と前記第二発振回路は、相互干渉を避けるために、交互に駆動されることを特徴とする。このようにすると、第一検出コイルと第二検出コイルが発生させる磁界の相互干渉を防止し、当該相互干渉による検出精度の低下を回避することができる。
また、隣接する前記第一検出コイル同士は、互に背反する方向に励磁されると共に、隣接する前記第二検出コイル同士は、互に背反する方向に励磁されることを特徴とする。このようにすると、隣接する第一検出コイル同士や、隣接する第二検出コイル同士の相互干渉を防止し、当該相互干渉による検出精度の低下を回避することができる。
また、前記第一検出コイル及び前記第二検出コイルのコアは、同一形状であることを特徴とする。このようにすると、コア形状の違いに起因する誤差の発生を抑制し、検出精度をさらに向上させることができる。
また、前記検出回路は、前記第一発振回路から出力される複数の発振波をカウントし、該カウント数が所定数Nに達したか否かを判断する発振波カウント処理を行い、該発振波カウント処理に要した時間にもとづいて、前記第一方向の透磁率変化を検出する第一方向透磁率検出手段と、前記第二発振回路から出力される複数の発振波をカウントし、該カウント数が所定数Nに達したか否かを判断する発振波カウント処理を行い、該発振波カウント処理に要した時間にもとづいて、前記第二方向の透磁率変化を検出する第二方向透磁率検出手段と、前記第一方向透磁率検出手段が測定した時間と、前記第二方向透磁率検出手段が測定した時間との差分にもとづいて、回転軸のトルクを検出するトルク検出手段とを備えることを特徴とする。このようにすると、磁歪式トルクセンサの検出精度をさらに向上させることができる。すなわち、発振波における位相ズレを発振波の数だけ蓄積させると共に、蓄積させた位相ズレを時間として測定するので、安価なデジタル回路を用いて極めて精度の高いトルク検出を行うことができる。しかも、その分解能は、時間測定用のカウンタ速度により決まり、発振回路の基準周波数に依存しないので、検出対象に応じて発振回路の基準周波数を最適化しつつ、高分解能のトルク検出を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
次に、本発明の実施形態について、図面に基づいて説明する。
【0009】
[本発明に係る磁歪式トルクセンサの基本的な検出原理]
図1は、本発明に係る磁歪式トルクセンサの基本的な検出原理を説明するためのブロック図である。この図に示される磁歪式トルクセンサ1は、軸表面に生じる磁歪の逆効果を利用して回転軸Sのトルクを検出するものであり、第一検出コイルL1、第二検出コイルL2、第一発振回路2、第二発振回路3及び検出回路4を備えて構成されている。
【0010】
第一検出コイルL1は、軸表面において第一方向(例えば、+45°方向)の透磁率変化を検出すべく配置され、当該透磁率変化をインダクタンスの変化として検出する。また、第二検出コイルL2は、軸表面において第二方向(例えば、−45°方向)の透磁率変化を検出すべく配置され、当該透磁率変化をインダクタンスの変化として検出する。
【0011】
いずれの検出コイルL1、L2も、軸表面における検出領域及び検出方向を限定するために、高透磁率材料を用いて形成されコアと、該コアに巻装されるコイルとを備えて構成されている。例えば、フェライトからなるU字形、E字形などのコア2a、3aに、コイルを巻装して構成されており、コア2a、3aの脚部先端を軸表面に近接させることにより、軸表面との間で閉磁路を構成するようになっている。これにより、軸表面の限られた領域に第一方向及び第二方向の磁路を形成し、該磁路における透磁率変化を検出することが可能になる。
【0012】
第一発振回路2は、所定の基準周波数で自律的に発振すると共に、第一検出コイルL1のインダクタンス変化に応じて発振波に位相ズレを生じさせるように構成される。また、第二発振回路3は、所定の基準周波数で自律的に発振すると共に、第二検出コイルL2のインダクタンス変化に応じて発振波に位相ズレを生じさせるように構成される。例えば、シュミット発振回路の帰還回路に検出コイルL1、L2を配置すれば、検出コイルL1、L2のインダクタンス変化に応じて発振波に位相ズレが生じる発振回路2、3を構成することができる。
【0013】
シュミット発振回路は、シュミットインバータINV、シュミットNANDゲートなどが備えるシュミットトリガ回路のヒステリシス特性を利用した発振回路であり、例えば、シュミットインバータINVと、シュミットインバータINVの入力側に接続されるコンデンサCと、シュミットインバータINVの出力をシュミットインバータINVの入力側に帰還させる帰還回路と、この帰還回路に介在する抵抗要素とを備えて構成されている。
【0014】
初期状態のシュミット発振回路では、コンデンサCに電荷が溜まっていないため、コンデンサCの両端の電圧は0Vとなっている。このとき、シュミットインバータINVは、入力側電圧VinがV以下なので、出力がHレベル(5V)となる。シュミットインバータINVの出力側電圧Voutが5Vのときは、帰還回路2aを介してシュミットインバータINVの入力側に電流が流れるので、コンデンサCに電荷が徐々に溜まり、その両端の電圧が上昇する。そして、シュミットインバータINVの入力側電圧VinがVに達すると、シュミットインバータINVの出力がLレベル(0V)に切換わる。シュミットインバータINVの出力側電圧Voutが0Vになると、コンデンサCが放電し、シュミットインバータINVの入力側電圧Vinが徐々に降下する。そして、シュミットインバータINVの入力側電圧VinがVまで降下すると、シュミットインバータINVの出力がHレベルに切換わる。
【0015】
以上の動作の繰り返しにより、シュミットインバータINVの出力側から所定周波数の矩形波が得られる。そして、シュミット発振回路の発振周波数f(=1/T)は、蓄電期間Tと放電期間Tにより決まり、蓄電期間Tと放電期間Tは、コンデンサC及び抵抗要素の定数により決まる。したがって、抵抗要素として帰還回路に検出コイルL1、L2を配置すれば、検出コイルL1、L2のインダクタンス変化に応じてシュミット発振回路の発振波に位相ズレを生じさせることができる。
【0016】
なお、本発明の発振回路がシュミット発振回路に限定されないことは勿論であり、検出コイルL1、L2のインダクタンス変化に応じて発振波に位相ズレを生じさせる発振回路であれば、CR発振回路、LC発振回路、水晶発振回路などを用いてもよい。
【0017】
検出回路4は、例えば、CPU、ROM、RAM、I/Oなどが内蔵されたマイコン(1チップマイコン)を用いて構成され、ROMに書き込まれたプログラムに従って後述するトルク検出処理を行う。なお、検出回路4は、複数のマイコンで構成したり、一又は複数のICで構成することもできる。
【0018】
検出回路4は、第一発振回路2から出力される発振波の位相ズレと、第二発振回路3から出力される発振波の位相ズレを検出し、両者の差分を求めるように構成される。このようにすると、回転軸Sのトルクを高精度に検出することができる。すなわち、上記のような発振回路2、3から出力される発振波においては、軸表面の透磁率変化が位相ズレとなって明確に現れ、しかも、発振波における位相ズレは、ノイズの影響を受けにくいので、発振波の位相ズレにもとづいて回転軸Sのトルクを高精度に検出することが可能になる。
【0019】
また、検出回路4は、第一発振回路2から出力される複数の発振波をカウントし、該カウント数が所定数Nに達したか否かを判断する発振波カウント処理を行い、該発振波カウント処理に要した時間にもとづいて、第一方向の透磁率変化を検出する第一方向透磁率検出手段と、第二発振回路3から出力される複数の発振波をカウントし、該カウント数が所定数Nに達したか否かを判断する発振波カウント処理を行い、該発振波カウント処理に要した時間にもとづいて、第二方向の透磁率変化を検出する第二方向透磁率検出手段と、第一方向の透磁率と第二方向の透磁率との差分にもとづいて、回転軸Sのトルクを検出するトルク検出手段とを備えることが好ましい。
【0020】
このようにすると、磁歪式トルクセンサ1の検出精度をさらに向上させることができる。すなわち、発振波における位相ズレを発振波の数だけ蓄積させると共に、蓄積させた位相ズレを時間として測定するので、安価なデジタル回路を用いて極めて精度の高いトルク検出を行うことができる。しかも、その分解能は、時間測定用のカウンタ速度により決まり、発振回路2、3の基準周波数に依存しないので、検出対象に応じて発振回路2、3の基準周波数を最適化しつつ、高分解能のトルク検出を行うことができる。
【0021】
しかも、第一検出コイルL1及び第二検出コイルL2は、軸表面における検出領域及び検出方向を限定するために、軸表面との間で閉磁路を構成しているので、誤差の蓄積も抑えることができる。つまり、トルクに応じた発振波の位相ズレを、発振波の数だけ蓄積して検出する場合、発振波の位相ズレに含まれる誤差成分も蓄積されてしまうことになるが、軸表面における検出領域及び検出方向を限定することにより、SN比を高めることができるので、蓄積される誤差成分を抑制し、検出精度を向上させることができる。また、検出コイルL1、L2側で検出方向を限定することができるので、軸表面に、溝、スリット、薄膜などで縞模様を加工する必要がない。その結果、これらの加工が許容されない回転軸Sであっても、本発明によるトルク検出の適用が可能となる。
【0022】
また、第一発振回路2と第二発振回路3は、相互干渉を避けるために、交互に駆動されることが好ましい。例えば、第二発振回路3の発振駆動を停止した状態で、第一発振回路2に係る発振波カウント処理を実行した後、第一発振回路2の発振駆動を停止した状態で、第二発振回路3に係る発振波カウント処理を実行しその後、各発振波カウント処理に要した測定時間の差分を求めるようにする。このようにすると、発振回路2の駆動に応じて検出コイルL1、L2が発生させる磁界の相互干渉を防止し、当該相互干渉による検出精度の低下を回避することができる。
【0023】
磁歪式トルクセンサ1でトルクを検出する回転軸Sの軸表面は、メッキ法により成膜された磁歪膜5であることが好ましい。例えば、回転軸Sの一部又は全体の領域に、ニッケル合金からなる磁歪膜5を全周に亘ってメッキする。このようにすると、トルクに応じた磁歪膜5における磁歪の逆効果にもとづいて、トルクを高精度に検出できるだけでなく、トルク検出におけるヒステリシスを抑えることができる。しかも、本発明の磁歪式トルクセンサ1では、メッキ法により成膜された磁歪膜5であっても、十分な検出精度が得られるので、接着法、スパッタ法、真空蒸着法などでアモルファスなどの磁歪膜を形成する場合に比べ、大幅なコストダウンが図れるだけでなく、ニッケルメッキなどが施された既存の部材(樹脂を含む)を対象として、高精度なトルク検出を行うことができる。
【0024】
次に、本発明における発振波の位相ズレ蓄積作用について、図2及び図3を参照して説明する。
【0025】
図2は、発振波の位相ズレ蓄積作用(検出波形始端部を拡大)を示す説明図、図3は、発振波の位相ズレ蓄積作用(検出波形終端部を拡大)を示す説明図である。これらの図に示す波形は、一回の検出処理における発振回路2、3の出力波形であって、発振回路2、3から出力される発振波の数をカウントし、カウント数が所定数Nに達したか否かを判断する発振波カウント処理を行い、該発振波カウント処理に要した時間にもとづいて、蓄積された発振波の位相ズレを測定するにあたり、発振波カウント処理における発振波のカウント数Nを100とした場合の波形であり、上側の波形は、回転軸Sにトルクを加えない場合を示し、下側の波形は、回転軸Sにトルクを加えた場合を示している。これらの図から明らかなように、検出波形の始端部、つまり発振波カウント処理における発振波のカウント数Nが少ない段階では、位相ズレがあまり蓄積されていないため、その差が明確ではないが(図2参照)、カウント数Nが多くなると、発振波の位相ズレが蓄積され、その差が明確になるので、位相ズレの測定が容易になることがわかる(図3参照)。そして、発振波の位相ズレは、回転軸Sに作用するトルクに比例して大きくなるので、発振波の位相ズレにもとづいて、回転軸Sに作用するトルクを高精度に測定することが可能になる。また、各発振回路2、3から出力される発振波の位相ズレは、磁歪の逆効果にもとづいて背反方向に現れるので、その差分にもとづいて回転軸Sのトルク量及びトルク極性を検出できるだけでなく、温度誤差や変位誤差が相殺された検出値を得ることができる。
【0026】
次に、検出回路4の具体的な検出処理手順について、図4〜図7を参照して説明する。
【0027】
図4に示すトルク検出処理(トルク検出手段)では、まず、初期設定(S11:発振波カウント数Nの初期値設定を含む)を行った後、カウント数変更処理(S12)、第一方向透磁率検出処理(S13:第一方向透磁率検出手段)及び第二方向透磁率検出処理(S14:第二方向透磁率検出手段)を順番に実行する。そして、透磁率検出処理(S13、S14)で得られた第一方向透磁率検出値と第二方向透磁率検出値の差分を演算すると共に(S15)、演算した差分(トルク検出値)を所定の検出信号形式に変換して出力することにより(S16)、一回のトルク検出処理が終了する。
【0028】
図5に示すカウント数変更処理では、まず、カウント数変更信号の入力を判断し(S21)、該判断結果がYESの場合は、カウント数変更信号に含まれる発振波カウント数Nを読み取り(S22)、これに従って発振波カウント数Nを変更する(S23)。
【0029】
図6に示す第一方向透磁率検出処理では、第一発振回路2の駆動を開始した後(S31)、カウンタクリア処理(S32)と、発振波カウント処理(S33、S34)と、時間測定処理(S35)を実行し、その後に第一発振回路2の駆動を停止させる(S36)。カウンタクリア処理は、発振波カウンタ及び時間計測カウンタをクリアする処理である(S32)。また、発振波カウント処理は、第一発振回路2から出力される発振波の数をカウントし(S33)、該カウント数が所定数Nに達したか否かを判断する処理である(S34)。また、時間測定処理は、発振波のカウント数がNになったら、時間計測カウンタ値(第一方向透磁率検出値)を読み込む処理である(S35)。
【0030】
図7に示す第二方向透磁率検出処理では、第二発振回路3の駆動を開始した後(S41)、カウンタクリア処理(S42)と、発振波カウント処理(S43、S44)と、時間測定処理(S45)を実行し、その後に第二発振回路3の駆動を停止させる(S46)。カウンタクリア処理は、発振波カウンタ及び時間計測カウンタをクリアする処理である(S42)。また、発振波カウント処理は、第二発振回路3から出力される発振波の数をカウントし(S43)、該カウント数が所定数Nに達したか否かを判断する処理である(S44)。また、時間測定処理は、発振波のカウント数がNになったら、時間計測カウンタ値(第二方向透磁率検出値)を読み込む処理である(S45)。
【0031】
[本発明に係る磁歪式トルクセンサの具体的な構成]
つぎに、本発明に係る磁歪式トルクセンサ1の具体的な構成について、図8以下を参照して説明する。ただし、上述の説明と共通の部分については、同一符号を付し、上述の説明を援用する。
【0032】
図8に示すように、磁歪式トルクセンサ1は、各発振回路2、3がそれぞれ複数の検出コイルL1、L2を備えている。具体的に説明すると、第一発振回路2は、直列(又は並列)に接続された複数(例えば、12個)の第一検出コイルL1を備え、第二発振回路3は、直列(又は並列)に接続された複数(例えば、12個)の第二検出コイルL2を備える。そして、第一検出コイルL1及び第二検出コイルL2は、それぞれ、回転軸Sの全周領域を同時に検出するように周方向に並べて配置される(例えば、後述の配置例1〜配置例4参照)。これにより、軸表面の周方向に存在する誤差要因の影響を抑制し、検出精度をさらに向上させることができる。
【0033】
また、第一検出コイルL1と第二検出コイルL2は、互に重合する領域で、互に交差する方向の透磁率変化を検出することが好ましい((例えば、後述の配置例1〜配置例4参照)。このようにすると、第一検出コイルL1の検出領域と第二検出コイルL2の検出領域とのズレに起因する誤差の発生を抑制し、検出精度をさらに向上させることができる。
【0034】
また、隣接する第一検出コイルL1同士は、互に背反する方向に励磁されると共に、隣接する第二検出コイルL2同士は、互に背反する方向に励磁されることが好ましい(例えば、後述する配置例2〜配置例4参照)。このようにすると、隣接する第一検出コイルL1同士や、隣接する第二検出コイルL2同士の相互干渉を防止し、当該相互干渉による検出精度の低下を回避することができる。
【0035】
また、第一検出コイルL1及び第二検出コイルL2のコア2a、3bは、同一形状であることが好ましい(例えば、配置例4参照)。このようにすると、コア形状の違いに起因する誤差の発生を抑制し、検出精度をさらに向上させることができる。
【0036】
つぎに、検出コイルL1、L2の具体的な配置例について、図9〜図25を参照して説明する。
【0037】
[検出コイルの配置例1]
図9は、配置例1に係る検出コイルの配置を示す側面図(模式図)、図10は、配置例1に係る第一検出コイルの配置を示す展開平面図、図11は、配置例1に係る第二検出コイルの配置を示す展開平面図、図12は、配置例1に係る第一検出コイル及び第二検出コイルの配置を示す展開平面図である。
【0038】
これらの図に示す配置例1では、U字形(冂字形)のコア2a、3aと、該コア2a、3aの一方の脚部に巻装されるコイルとからなる検出コイルL1、L2を用いており、+45°方向の透磁率検出を行う複数の第一検出コイルL1を、図10に示すように、回転軸Sの全周領域を同時に検出するように周方向に並べて配置すると共に、−45°方向の透磁率検出を行う複数の第二検出コイルL2を、図11に示すように、回転軸Sの全周領域を同時に検出するように周方向に並べて配置してある。例えば、配置例1に示す各検出コイルL1、L2は、図9に示すように、それぞれ、回転軸Sの全周領域のうち、30°の領域を検出領域とするように寸法設定されており、したがって、各12個の検出コイルL1、L2を周方向に並べて配置することにより、回転軸Sの全周領域を同時に検出することが可能になる。
【0039】
配置例1では、第一検出コイルL1と第二検出コイルL2が、互に重合する領域で、互に交差する方向の透磁率変化を検出するにあたり、図12に示すように、高低二種類のコア2a、3aを用意し、高低二種類のコア2a、3aを平面視で交差するように配置している。このとき、第一検出コイルL1を構成するコア2aの脚部位置と、第二検出コイルL2を構成するコア3aの脚部位置は、周方向に半ピッチずらすことが重要である。
【0040】
[検出コイルの配置例2]
図13は、配置例2に係る検出コイルのコア形状及びコイル結線状態を示す説明図、図14は、配置例2に係る第一検出コイルの配置を示す展開平面図、図15は、配置例2に係る第二検出コイルの配置を示す展開平面図、図16は、配置例2に係る第一検出コイル及び第二検出コイルの配置を示す展開平面図である。
【0041】
これらの図に示す配置例2では、配置例1と同様、U字形(冂字形)のコア2a、3aと、該コア2a、3aの一方の脚部に巻装されるコイルとからなる検出コイルL1、L2を用いているが、図14〜図16に示すように、各検出コイルL1、L2を周方向に一列に並べるのではなく、隣接する第一検出コイルL1同士や隣接する第二検出コイルL2同士が適度な間隔を維持するように、ジグザグ状に並べられている。このようにしても、第一検出コイルL1と第二検出コイルL2は、それぞれ、回転軸Sの全周領域を同時に検出することができ、しかも、隣接する第一検出コイルL1同士や隣接する第二検出コイルL2同士が適度な間隔を維持することにより、隣接する第一検出コイルL1同士や隣接する第二検出コイルL2同士の相互干渉を抑制することができる。
【0042】
さらに、配置例2では、図13に示すように、隣接する第一検出コイルL1同士を互に背反する方向に励磁すると共に、隣接する第二検出コイルL2同士を互に背反する方向に励磁すべく、コイル結線を行っている。これにより、隣接する第一検出コイルL1同士や隣接する第二検出コイルL2同士の相互干渉をより確実に抑制し、検出精度を向上させることができる。
【0043】
[検出コイルの配置例3]
図17は、配置例3に係る検出コイルのコア形状及びコイル結線状態を示す説明図、図18は、配置例3に係る第一検出コイルの配置を示す展開平面図、図19は、配置例3に係る第二検出コイルの配置を示す展開平面図、図20は、配置例3に係る第一検出コイル及び第二検出コイルの配置を示す展開平面図である。
【0044】
これらの図に示す配置例3では、E字形のコア2a、3aと、該コア2a、3aの真ん中の脚部に巻装されるコイルとからなる検出コイルL1、L2を用いており、+45°方向の透磁率検出を行う複数の第一検出コイルL1を、図18に示すように、回転軸Sの全周領域を同時に検出するように周方向に並べて配置すると共に、−45°方向の透磁率検出を行う複数の第二検出コイルL2を、図19に示すように、回転軸Sの全周領域を同時に検出するように周方向に並べて配置してある。例えば、配置例3に示す各検出コイルL1、L2は、それぞれ、回転軸Sの全周領域のうち、30°の領域を検出領域とするように寸法設定されており、したがって、各12個の検出コイルL1、L2を周方向に並べて配置することにより、回転軸Sの全周領域を同時に検出することが可能になる。
【0045】
配置例3では、第一検出コイルL1と第二検出コイルL2が、互に重合する領域で、互に交差する方向の透磁率変化を検出するにあたり、図20に示すように、高低二種類のコア2a、3aを用意し、高低二種類のコア2a、3aを平面視で交差するように配置している。このとき、第一検出コイルL1を構成するコア2aの脚部位置と、第二検出コイルL2を構成するコア3aの脚部位置は、周方向に半ピッチずらすことが重要である。
【0046】
さらに、配置例3では、図17に示すように、隣接する第一検出コイルL1同士を互に背反する方向に励磁すると共に、隣接する第二検出コイルL2同士を互に背反する方向に励磁すべく、コイル結線を行っている。これにより、隣接する第一検出コイルL1同士や隣接する第二検出コイルL2同士の相互干渉をより確実に抑制し、検出精度を向上させることができる。
【0047】
[検出コイルの配置例4]
図21は、配置例4に係る検出コイルのコア形状及びコイル結線状態を示す説明図、図22は、配置例4に係る第一検出コイルの配置を示す展開平面図、図23は、配置例4に係る第二検出コイルの配置を示す展開平面図、図24は、配置例4に係る第一検出コイル及び第二検出コイルの配置を示す展開平面図、図25は、配置例4に係る第一検出コイル及び第二検出コイルの配置を示す展開斜視図(模式図)である。
【0048】
これらの図に示す配置例4は、E字形のコア2a、3aと、該コア2a、3aの真ん中の脚部に巻装されるコイルとからなる検出コイルL1、L2を用い、これらの検出コイルL1、L2を配置例3と同様に配置しているが、コア2a、3aの形状を工夫することにより、第一検出コイルL1のコア2aと、第二検出コイルL2のコア3aを同一形状とした点が配置例3と相違している。具体的には、図21に示すように、配置例4のコア2a、3aは、真ん中の脚部を境として一方が背高で、他方が背低の段差形状となっており、例えば、第一検出コイルL1を隣接する二つの第二検出コイルL2と平面視で交差状に配置する場合、図24及び図25に示すように、第一検出コイルL1の背高部は、一方の第二検出コイルL2の背低部に対して上方で交差し、第一検出コイルL1の背低部は、他方の第二検出コイルL2の背高部に対して下方で交差するような配置関係となる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明に係る磁歪式トルクセンサの基本的な検出原理を説明するためのブロック図である。
【図2】発振波の位相ズレ蓄積作用(検出波形始端部を拡大)を示す説明図である。
【図3】発振波の位相ズレ蓄積作用(検出波形終端部を拡大)を示す説明図である。
【図4】検出回路におけるトルク検出処理の処理手順を示すフローチャートである。
【図5】検出回路における設定数変更処理の処理手順を示すフローチャートである。
【図6】検出回路における第一方向透磁率検出処理の処理手順を示すフローチャートである。
【図7】検出回路における第二方向透磁率検出処理の処理手順を示すフローチャートである。
【図8】本発明に係る磁歪式トルクセンサの具体的な構成を示すブロック図である。
【図9】配置例1に係る検出コイルの配置を示す側面図(模式図)である。
【図10】配置例1に係る第一検出コイルの配置を示す展開平面図である。
【図11】配置例1に係る第二検出コイルの配置を示す展開平面図である。
【図12】配置例1に係る第一検出コイル及び第二検出コイルの配置を示す展開平面図である。
【図13】配置例2に係る検出コイルのコア形状及びコイル結線状態を示す説明図である。
【図14】配置例2に係る第一検出コイルの配置を示す展開平面図である。
【図15】配置例2に係る第二検出コイルの配置を示す展開平面図である。
【図16】配置例2に係る第一検出コイル及び第二検出コイルの配置を示す展開平面図である。
【図17】配置例3に係る検出コイルのコア形状及びコイル結線状態を示す説明図である。
【図18】配置例3に係る第一検出コイルの配置を示す展開平面図である。
【図19】配置例3に係る第二検出コイルの配置を示す展開平面図である。
【図20】配置例3に係る第一検出コイル及び第二検出コイルの配置を示す展開平面図である。
【図21】配置例4に係る検出コイルのコア形状及びコイル結線状態を示す説明図である。
【図22】配置例4に係る第一検出コイルの配置を示す展開平面図である。
【図23】配置例4に係る第二検出コイルの配置を示す展開平面図である。
【図24】配置例4に係る第一検出コイル及び第二検出コイルの配置を示す展開平面図である。
【図25】配置例4に係る第一検出コイル及び第二検出コイルの配置を示す展開斜視図(模式図)である。
【符号の説明】
【0050】
1 磁歪式トルクセンサ
2 第一発振回路
2a コア
3 第二発振回路
3a コア
4 検出回路
L1 第一検出コイル
L2 第二検出コイル
S 回転軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸表面に生じる磁歪の逆効果を利用して回転軸のトルクを検出する磁歪式トルクセンサであって、
軸表面において第一方向の透磁率変化を検出すべく配置され、当該透磁率変化をインダクタンスの変化として検出する第一検出コイルと、
軸表面において第二方向の透磁率変化を検出すべく配置され、当該透磁率変化をインダクタンスの変化として検出する第二検出コイルと、
所定の基準周波数で自律的に発振すると共に、前記第一検出コイルのインダクタンス変化に応じて発振波に位相ズレを生じさせる第一発振回路と、
所定の基準周波数で自律的に発振すると共に、前記第二検出コイルのインダクタンス変化に応じて発振波に位相ズレを生じさせる第二発振回路と、
前記第一発振回路から出力される発振波の位相ズレと、前記第二発振回路から出力される発振波の位相ズレを検出し、両者の差分を求める検出回路とを備え、
前記第一発振回路は、直列又は並列に接続された複数の前記第一検出コイルを含み、これらの第一検出コイルは、それぞれ、軸表面における検出領域及び検出方向を限定するために、軸表面との間で閉磁路を構成するコアと、該コアに巻装されるコイルとを備えて構成されると共に、回転軸の全周領域を同時に検出するように周方向に並べて配置され、
前記第二発振回路は、直列又は並列に接続された複数の前記第二検出コイルを含み、これらの第二検出コイルは、それぞれ、軸表面における検出領域及び検出方向を限定するために、軸表面との間で閉磁路を構成するコアと、該コアに巻装されるコイルとを備えて構成されると共に、回転軸の全周領域を同時に検出するように周方向に並べて配置される
ことを特徴とする磁歪式トルクセンサ。
【請求項2】
前記第一検出コイルと前記第二検出コイルは、互に重合する領域で、互に交差する方向の透磁率変化を検出することを特徴とする請求項1記載の磁歪式トルクセンサ。
【請求項3】
前記第一発振回路と前記第二発振回路は、相互干渉を避けるために、交互に駆動されることを特徴とする請求項1又は2記載の磁歪式トルクセンサ。
【請求項4】
隣接する前記第一検出コイル同士は、互に背反する方向に励磁されると共に、隣接する前記第二検出コイル同士は、互に背反する方向に励磁されることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の磁歪式トルクセンサ。
【請求項5】
前記第一検出コイル及び前記第二検出コイルのコアは、同一形状であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の磁歪式トルクセンサ。
【請求項6】
前記検出回路は、
前記第一発振回路から出力される複数の発振波をカウントし、該カウント数が所定数Nに達したか否かを判断する発振波カウント処理を行い、該発振波カウント処理に要した時間にもとづいて、前記第一方向の透磁率変化を検出する第一方向透磁率検出手段と、
前記第二発振回路から出力される複数の発振波をカウントし、該カウント数が所定数Nに達したか否かを判断する発振波カウント処理を行い、該発振波カウント処理に要した時間にもとづいて、前記第二方向の透磁率変化を検出する第二方向透磁率検出手段と、
前記第一方向透磁率検出手段が測定した時間と、前記第二方向透磁率検出手段が測定した時間との差分にもとづいて、回転軸のトルクを検出するトルク検出手段とを備える
ことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の磁歪式トルクセンサ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図22】
image rotate

【図23】
image rotate

【図24】
image rotate

【図25】
image rotate


【公開番号】特開2010−8296(P2010−8296A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−169710(P2008−169710)
【出願日】平成20年6月29日(2008.6.29)
【出願人】(591123274)株式会社アヅマシステムズ (31)