説明

磁気インク文字認識装置及び磁気インク文字認識方法

【課題】文字認識率が高く、しかも認識処理時間を短くすることができる磁気インク文字認識装置及び磁気インク文字認識方法を提供する。
【解決手段】媒体上に磁気インクで印刷された文字を、読み取り部11により、磁気波形情報として読み取る。この磁気波形情報との比較対象となる各文字の標準波形テンプレート、及びこの標準波形テンプレートの波形を変形した各文字の変形波形テンプレートをそれぞれテンプレート保管部12に保管している。文字認識部13は、読み取られた磁気波形情報と標準波形テンプレートまたは変形波形テンプレートとの比較により、これら両者の類似度が閾値以上のテンプレートの文字を読み取り文字として認識する。また、比較対象制御部14では、類似度が閾値以上となったテンプレートが標準波形テンプレートか変形波形テンプレートか、その種類を記憶しておき、次の磁気波形情報を文字認識する際、比較対象として、記憶されている種類のテンプレートを適用させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、小切手などの媒体に磁気インクで印刷された文字を読み取って文字認識する磁気インク文字認識装置及び磁気インク文字認識方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、磁気インク文字(以下、MICR文字とも呼ぶ)にて印刷された媒体表面の文字印刷部分を磁気ヘッドで読み取って磁気再生信号を取得し、これを用いて文字認識を行う方法が開示されている。MICR文字は、金融機関などで扱われる小切手等で用いられ、文字タイプとしてはE13B、CMC7が代表的なものである。また、この文字はISO1004などで規格化されている。MICR文字認識としては磁気文字ラインを磁気ヘッドで読取り、その磁気再生信号波形を論理回路に入力してピーク位置やその出力レベルの特徴に基づいて文字認識をする方法等があり、磁気再生信号波形をそのままあらかじめ用意しておいた文字ごとの基準波形と比較してその類似性から文字を決定する方法が開示されている。
【0003】
このような文字認識技術において、磁気インク文字の認識ができなかった場合に、基準波形を伸縮させて認識を試みる方法がある(例えば、特許文献1参照)。また、磁気インク文字ごとの波形と候補文字の標準波形の一方または他方の比較位置をずらしながら比較したり、文字幅が広い、狭いなど文字の変形がある場合は、変形文字波形を用意したりして、磁気インク文字を認識する方法がある。(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−311906号公報
【特許文献2】特開2008−129868号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、基準波形を伸縮させ方法は、処理負荷が大きく、認識処理時間が大きくなり、装置のコストアップにつながる可能性がある。また、比較位置をずらす方法も処理負荷が大きく、さらに、変形文字波形を用意する場合は、認識率は向上するものの、標準の波形及び変形波形のすべてと比較しなければならず、文字認識に多大の時間を要する。
【0006】
本発明の目的は、文字認識率が高く、しかも認識処理時間を短くすることができる磁気インク文字認識装置及び磁気インク文字認識方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による磁気インク文字認識装置は、媒体上に磁気インクで印刷された文字を磁気波形情報として読み取る読み取り部と、前記磁気波形情報との比較対象となる各文字の標準波形テンプレート、及びこの標準波形テンプレートの波形を変形した各文字の変形波形テンプレートをそれぞれ保管するテンプレート保管部と、前記読み取り部により読み取られた磁気波形情報と前記標準波形テンプレートまたは変形波形テンプレートとの比較により、これら両者の類似度が閾値以上のテンプレートの文字を読み取り文字として認識する文字認識部と、この文字認識部により類似度が閾値以上となったテンプレートが標準波形テンプレートか変形波形テンプレートか、その種類を記憶しておき、次の磁気波形情報を文字認識する際、前記文字認識部による比較対象として、前記記憶されている種類のテンプレートを適用させる比較対象制御部とを備えたことを特徴とする。
【0008】
本発明では、前記テンプレート保管部には、変形波形テンプレートとして、変形内容の異なる複数種の変形波形テンプレートが用意されている。
【0009】
また、本発明による磁気インク文字認識方法は、媒体上に磁気インクで印刷された文字を読み取り部により磁気波形情報として読み取り、前記読み取り部により読み取られた磁気波形情報と、前記テンプレート保管部に保管された各文字の標準波形テンプレート、及びこの標準波形テンプレートの波形を変形した各文字の変形波形テンプレートのいずれかとを文字認識部で比較させ、これら両者の類似度が閾値以上のテンプレートの文字を読み取り文字として認識し、この文字認識部により類似度が閾値以上となったテンプレートが標準波形テンプレートか変形波形テンプレートか、その種類を記憶しておき、次の文字を認識する際、比較対象制御部により、前記文字認識部による比較対象として、前記記憶されている種類のテンプレートを適用させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、同じ変形傾向のある文字に対して、文字認識に成功したテンプレートの種類を記憶しておき、この記憶された種類のテンプレートを次の文字認識の比較対象として用いるようにしたので、多くの文字認識時間を要することなく高い認識率で文字を認識することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明による磁気インク文字認識装置の一実施の形態を示すブロック図である。
【図2】同上一実施の形態における動作の一例を説明するフローチャートである。
【図3】同上一実施の形態における動作の他の例を説明するフローチャートである。
【図4】磁気インク文字波形の標準波形と変形波形との関係を示す波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
【0013】
図1は本発明による磁気インク文字認識装置の一実施の形態を示している。図1において、読み取り部11は、図示しない小切手等の媒体上に磁気インクで印刷された文字を、図4の実線で示すような磁気波形情報として読み取るものである。なお、図4の磁気波形情報は、文字「0」に関するものである。
【0014】
テンプレート保管部12は、読み取り部11で読み取られた磁気波形情報と文字認識するために比較対象として用いられる、各文字のテンプレートを保管している。このテンプレートとしては、文字本来の形に基づく標準波形のテンプレートと、この標準波形テンプレートの波形を変形した各文字の変形波形テンプレートとを、それぞれ保管する。ここで、文字の変形とは、文字幅が広いもの、文字幅が狭いもの、文字の線が太いもの、文字の線が細いもの、のいずれか、またはこれらが組み合わさったものである。変形波形テンプレートとしては、このような各種の変形の種類ごとに、各文字のテンプレートを用意しておく。
【0015】
文字認識部13は、読み取り部11により読み取られた磁気波形情報と、テンプレート保管部12に保管されたテンプレート(標準波形テンプレートまたは変形波形テンプレート)との比較により、これら両者の類似度を算出し、この算出された類似度が閾値以上のテンプレートの文字を読み取り文字として認識する。
【0016】
比較対象制御部14は、読み取り部11により読み取られた磁気波形情報と文字認識部13において比較される比較対象を、テンプレート保管部12に保管されたどのテンプレートにするかを制御する。すなわち、初期状態では、標準テンプレートを文字認識部13における比較対象とするが、次回以降の文字認識に当っては、前回文字認識に成功したテンプレートがどの種類(標準か変形か、変形であればどの変形種類か)のテンプレートであったかにより、今回の比較対象テンプレートを決定する。すなわち、文字認識部13により類似度が閾値以上となった(文字認識が成功した)テンプレートが標準波形テンプレートか変形波形テンプレートか、その種類を記憶しておき、次の文字認識する際、文字認識部13による比較対象として、記憶されている(文字認識が成功した)種類のテンプレートを適用させる。
【0017】
次に、文字認識動作を図2のフローチャートを参照して説明する。まず、図1で示した読み取り部11により、小切手等の媒体上に磁気インクで印刷された文字を磁気波形情報として読み取る(ステップ201)。この読み取り部11により読み取られた磁気波形情報から、認識対象の文字が切り出され(ステップ202)、テンプレート保管部12に保管されたテンプレートと、文字認識部13にて比較される(ステップ203)。この比較結果から、認識対象の文字波形と、認識判定用のテンプレートの波形との類似度の最大値を算出する(ステップ204)。この算出された類似度は予め設定された閾値と比較され(ステップ205)、類似度が閾値より大きければ(Yes)、この類似度の大きい波形のテンプレートの文字を認識文字と決定する(ステップ206)。この文字決定が、読み取られた文字の最後かを判定し(ステップ207)、Yesであれば終了し、Noであれば次の文字切り出し(ステップ202)へ戻る。
【0018】
ここで、切り出された文字との比較(ステップ203)を行うにあたり、図1で示したテンプレート保管部12には、前述のように標準文字テンプレートと変形文字テンプレートが保管されており、どのテンプレートを比較対象とするかは比較対象制御部14により選定される。すなわち、この磁気インク文字認識装置が初期状態であれば、比較対象制御部12は、文字認識部13に対し、比較対象のテンプレートとして、各文字について変形のない本来の波形が設定された標準波形テンプレートを提供する。文字認識部13では、標準波形の各文字テンプレートを、読み取られた認識対象の文字波形と順次比較し、類似度の判定を行う(ステップ204,205)。この標準波形テンプレートとの比較により、類似度が閾値より大きな文字が認識されれば、その文字を決定する(ステップ206)が、その際、比較対象制御部14では、文字決定された(文字認識が成功した)ときに使用されていたテンプレートの種類を記憶しておく。上記説明では、標準波形テンプレートにより文字が決定されているため、比較対象制御部14は、テンプレートの種類として標準波形テンプレートを記憶しておく。そして、比較対象制御部14は、次の文字を認識する際には、記憶されたテンプレート(上述の例では標準波形テンプレート)を用いて、次の文字に対する比較を行い、文字認識を行う。
【0019】
これに対し、標準波形テンプレートを用いた比較では、類似度が閾値より大きい文字が抽出できなかった(文字認識を失敗)場合、そのほとんどが読み取られた文字の変形が原因であることから、比較対象制御部14は、文字認識部13に対し、比較対象のテンプレートとして、各文字について変形した波形が設定された変形波形テンプレートを提供するよう制御する。例えば、図4で示す実線の波形は、文字「0」を読み取った波形であるが、破線で示す基本的な波形に比べ文字幅が広がって変形している。このように同じ文字「0」に関する波形であっても、読み取った文字の波形が変形している場合、両者の類似度は大きくならず、文字「0」と認識することができない。そこで、破線のような標準波形が設定されたテンプレートに代って、実線のように変形させた変形波形テンプレートを提供して比較を行わせる。
【0020】
文字認識部13では、変形波形の各文字テンプレートを、読み取られた認識対象の文字波形と順次比較し、類似度の判定を行う(ステップ204,205)。この変形波形テンプレートとの比較により、類似度が閾値より大きな文字が認識されれば、その文字を決定する(ステップ206)。その際、比較対象制御部14では、文字決定(文字認識が成功)したときに使用されていたテンプレートの種類を記憶しておく。すなわち、変形波形テンプレートにより文字が決定されているため、比較対象制御部14は、テンプレートの種類として変形波形テンプレートを記憶しておく。そして、比較対象制御部14は、次の文字を認識する際には、記憶されたテンプレート(変形波形テンプレート)を用いて、次の文字に対する比較を行い、文字認識を行う。
【0021】
ここで、文字が変形する要因は種々考えられるが、媒体上に磁気インクで文字を印刷するプリンターのくせや、印字された媒体の取り扱い状態などに起因することが最も多いものと考えられる。すなわち、プリンターの印字部分が長期間の使用により劣化変形し、印刷された文字自体が変形していたり、媒体が小切手であれば、使用者が直接ポケットなどに入れて持ち歩くなど、小切手上に印刷された文字を変形させるような状態で使用されると、読み取り部11によって読み取られた文字の波形に変形が生じる。このような原因の変形は、同じ媒体に印刷された複数の文字を読み取った場合、読み取った各文字にそれぞれ生じる可能性が高い。すなわち、ある小切手に印刷された文字を読み取った波形が、例えば、前述のように文字全体の幅が広く変形しているような場合は、同じ小切手から読み取った他の文字も同様に変形している場合が多い。このような場合、ある文字の認識に用いられ、類似度が閾値を越えたテンプレートが、文字全体の幅が広く変形している変形波形のテンプレートであれば、次の文字に対しても、同じように文字全体の幅が広く変形しているテンプレートを用いた方が、標準波形のテンプレートを用いた場合に比べ、明らかに認識率が向上する。
【0022】
本発明では、前述のように、ある文字の認識において、文字認識部13により類似度が閾値以上となったテンプレートの種類が、例えば変形波形テンプレートであった場合、比較対象制御部14は、この類似度が閾値以上となったテンプレートの種類を変形波形テンプレートとして記憶しておく。そして、次の文字を認識する際、比較対象として、記憶されている種類の変形波形テンプレートを適用させるようにした。この結果、次の文字を認識するのに、標準波形テンプレートの全文字について比較する手間がなくなり、短時間で的確に文字を認識することが可能となる。
【0023】
このことは、同じ小切手から読み取った文字の認識だけでなく、例えば、金融取引の場で、同じ顧客が持参した複数の小切手を、連続的に文字読み取り対象とした場合にも同様に生じる。すなわち、同じ顧客が保有し持参した小切手は、同じプリンターで文字を印刷された可能性が高く、また同じような使用環境にある。このため、複数の小切手に印刷された文字には、共通した変形が生じる可能性が高い。したがって、前の小切手から読みだした文字の認識に用いられたテンプレートを、次の小切手から読み出された文字の認識に用いれば、認識率は向上する。
【0024】
本発明では、上述のように、ある文字の認識において、文字認識部13により類似度が閾値以上となったテンプレートの種類を記憶しているので、次の小切手から読み出された文字についても記憶されている種類のテンプレートを適用すれば、同じ変形傾向を持つ文字の認識を、高い認識率で短時間のうちに的確に行うことができる。
【0025】
このように、磁気インク文字印刷時や保存状態による文字の変形や位置ずれ、磁気インク文字読み取り時の環境による文字の磁気波形の変形を、各文字に対し変形を考慮した複数の変形波形テンプレートを用いることによって読み取り率の向上と誤読率の低減を実現する。しかも、この変形波形テンプレートを後に続く文字認識にも活用するようにしたので、同様の変形文字に対する文字認識を効率的に短時間で的確に行うことができる。
【0026】
なお、上記実施の形態では、図2で説明したとおり、切り出した文字をテンプレートと比較(ステップ203)する際、全テンプレートと比較するようにしているが、図3で示すように、切り出した文字に対し、所定の前処理を実施して候補の絞り込みを行い(ステップ301)、絞り込まれた候補文字のテンプレートと比較する(ステップ302)ように構成してもよい。このように候補絞り込みを行えば比較するテンプレートの数を少なくすることができる。
【0027】
なお、絞り込みのための前処理は各種のものがあるが、例えば、切り出した文字波形のピーク位置の情報などから文字候補を絞り込む手法を用いればよい。
【符号の説明】
【0028】
11…読み取り部
12…テンプレート保管部
13…文字認識部
14…比較対象制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
媒体上に磁気インクで印刷された文字を磁気波形情報として読み取る読み取り部と、
前記磁気波形情報との比較対象となる各文字の標準波形テンプレート、及びこの標準波形テンプレートの波形を変形した各文字の変形波形テンプレートをそれぞれ保管するテンプレート保管部と、
前記読み取り部により読み取られた磁気波形情報と前記標準波形テンプレートまたは変形波形テンプレートとの比較により、これら両者の類似度が閾値以上のテンプレートの文字を読み取り文字として認識する文字認識部と、
この文字認識部により類似度が閾値以上となったテンプレートが標準波形テンプレートか変形波形テンプレートか、その種類を記憶しておき、次の磁気波形情報を文字認識する際、前記文字認識部による比較対象として、前記記憶されている種類のテンプレートを適用させる比較対象制御部と、
を備えたことを特徴とする磁気インク文字認識装置。
【請求項2】
前記テンプレート保管部には、変形波形テンプレートとして、変形内容の異なる複数種の変形波形テンプレートが用意されていることを特徴とする請求項1に記載の磁気インク文字認識装置。
【請求項3】
媒体上に磁気インクで印刷された文字を読み取り部により磁気波形情報として読み取り、
前記読み取り部により読み取られた磁気波形情報と、前記テンプレート保管部に保管された各文字の標準波形テンプレート、及びこの標準波形テンプレートの波形を変形した各文字の変形波形テンプレートのいずれかとを文字認識部で比較させ、これら両者の類似度が閾値以上のテンプレートの文字を読み取り文字として認識し、
この文字認識部により類似度が閾値以上となったテンプレートが標準波形テンプレートか変形波形テンプレートか、その種類を記憶しておき、次の文字を認識する際、比較対象制御部により、前記文字認識部による比較対象として、前記記憶されている種類のテンプレートを適用させる
ことを特徴とする磁気インク文字認識方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−54029(P2011−54029A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−203836(P2009−203836)
【出願日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【出願人】(000003562)東芝テック株式会社 (5,631)
【Fターム(参考)】