説明

磁気シールド装置

【課題】交流ケーブルをシールドする磁気シールド装置の磁気特性を劣化させない支持構造を提供すること。
【解決手段】磁気シールド装置は、磁性体10をアルミケース15に収容して、磁性体10をアルミケース15で覆ったものを複数個用いて、三相交流ケーブル20から漏洩する磁気をシールドするために、ケーブル20に直交する平面内でケーブル20を囲む。アルミケース15は、ケーブル20を取り囲むギャップを有し、ギャップには絶縁体32が配置される。または、アルミケースに換えて絶縁体ケースを用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電流が流れるケーブルから漏洩する磁場をシールドする磁気シールド装置に関し、特に、単相又は三相交流が流れるケーブルから漏洩する磁場をシールドする磁気シールド装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば電力用の3相交流ケーブルが敷設されている電気室は、従来はビルの地下に配置されて他の部屋からは隔離されていたので、このような3相交流ケーブルからの磁気の漏れを考慮する必要性は少なかった。また変電所なども、人口密度の低い郊外に設置されていて、電力ケーブルからの磁気の漏れを防ぐような対策を講ずる必要はなかった。
【0003】
しかし近年、高層ビルなどでは、配線長や出水を考慮して、電気室を地下から中層階に配置する設計が多くなっている。また、市街地でも自家発電設備の変電所が設けられる場合もある。3相交流ケーブルは、3相が平衡になるように各ケーブルが配置されていれば磁気の漏れは少ないが、変圧器から他の機器へは、3本のケーブルが一平面を形成するように並んで、不平衡な結線となる場合が多く、磁場の漏れが多くなる。これにより、人体特にペースメーカなど磁場の影響を受けやすい機器を内蔵している場合、および他の機器特に情報機器に対する漏洩磁場の影響を無視できなくなりつつある。特に、病院などでは、大きな電力を必要とする医療機器ならびに高性能測定機器が増え、交流ケーブルからの漏洩磁場の影響が高性能測定機器をはじめとした他の機器へ及ぶことを懸念する声もある。また、社会生活の高度化により、IT機器をはじめとした高機能機器では漏洩磁場に対して誤動作を起こす場合も懸念される。
【0004】
このような電力ケーブル等からの漏洩磁場対策として、電磁鋼板を積層した磁性体フレームを電力ケーブルの周囲に所定間隔で配置して、磁気シールドする開放型シールド構造が提案されている(特許文献1参照)。しかしながら、磁性体フレームをどのように支持するかについて、具体的な検討はなされていなかった。例えば、磁性体フレームを支持するために、磁性体フレームの鋼板に穴を開けたりすると、そこで磁束の旋回が起こり、漏れ磁場が多くなる。また、鋼板を点支持すると、そこを支点に鋼板が撓み、応力が鋼板に作用し、これにより逆磁歪効果によって鋼板の軟磁気特性が劣化し、やはり漏れ磁場が多くなる。
【0005】
【特許文献1】国際公開第2004/084603号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記問題点に鑑み、磁気シールド装置の磁性体の磁気特性の劣化をもたらすことのない磁性体支持構造を有する磁気シールド装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明による、電流が流れるケーブルから漏洩する磁場をシールドする磁気シールド装置は、前記ケーブルの長手方向に所定間隔をあけて配置した、前記ケーブルを囲む複数の磁性体フレームを備え、前記複数の磁性体フレームはそれぞれ、導電体ケースで覆われ、該導電体ケースには、前記ケーブルを囲む少なくとも1つのギャップが設けられることを特徴とする。
【0008】
このギャップには、絶縁体を配置してもよく、また、前記導電体ケースの前記ケーブルに近い面と遠い面とに設けてもよい。さらに、前記導電体ケースは、金属建築部材であるアルミ材、銅材、磁性鋼材、又は非磁性ステンレス材からなるようにできる。
【0009】
また、前記複数の磁性体フレームはそれぞれ、絶縁体ケースで覆われることを特徴とする。その材質は建築用樹脂部材又は木材である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、複数の磁性体フレームはそれぞれ、絶縁体ケース、又はケーブルを囲む少なくとも1つのギャップを有する導電体ケースで覆われているので、磁気シールド性能を維持しつつ、カバー内の磁性体に対しては面支持構造となり、逆磁歪効果による軟磁性の劣化を引き起こさないで磁性体フレームを支持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。
図1(a)(b)及び図2に、本発明の第一の実施形態である磁気シールド装置を示す。図1(a)に示すように、本実施形態の磁気シールド装置は、3本のケーブル20U,20V、20Wを有する三相交流ケーブル20を磁気シールドするもので、フレーム状に構成された磁性体フレーム10を収容した複数のアルミケース15が、ケーブルの長手方向に所定の間隔をあけて配置されている。理解を容易にするために、磁性体フレーム10−1を収容したアルミケース15−1だけ、分解斜視図で示している。本実施形態では、アルミケース15は、上下のケース間にギャップを設けて、そのギャップに絶縁体を配置して構成される。アルミケース15−2、15−3のギャップに配置された絶縁体32−2、32−3を示す。
【0012】
図1(b)は、図1(a)に示す磁気シールド装置の部分断面図であり、ケーブル20Uとその近くのアルミケース15−1に覆われた磁性体フレーム10−1の断面が示されている。絶縁体31−1が、磁気シールドする対象のケーブル20に近い面のギャップ(前ギャップ)に配置され、遠い面のギャップ(後ギャップ)には、絶縁体32−1が配置されている。本実施形態では、このような構成はすべてのアルミケースに共通している。なお、図には、3組の磁性体フレーム10及びそのアルミケース15を示しているが、その数は、ケーブルの長さ、磁性体フレームの配置間隔に応じて適宜増減できることは当然である。
【0013】
図2に、アルミケース15を取り去った、磁気シールド作用を行なう磁性体フレーム10のみを示す。磁性体フレーム10は、磁性体の板状部材であって、ケーブル20に対して直交する方向に板面をそろえるのが望ましい。各磁性体フレーム10−1〜10−3はそれぞれ、積層した方向性電磁鋼板の長短2組を互いにつき合わせて矩形に構成されている。電磁鋼板は、磁気特性がよく、鉄損も少ないので、磁気シールド材料として適している。また、方向性電磁鋼板を使用して、矩形の4辺の長手方向が磁化容易方向となるように、4組の方向性電磁鋼板を組み合わせているので、ケーブルに流れる電流により生じる磁場を補足しやすくなっている。さらに、方向性電磁鋼板は積層して磁性体フレーム10とするので、ケーブルの長手方向には渦電流が流れない。これは、電磁鋼板は通常、絶縁性のコーティングが施されているので、積層しても積層方向には導電性を有さないからである。
【0014】
ただし、電磁鋼板は磁気特性は優れているが、高価でもあるので、一般の薄板鋼材を使用してもよい。一般の薄板鋼板としては、冷延しやすいようにSi含有量は少なくしてもよく、炭素含有量を低減して飽和磁束密度を上げるようにしてもよい。一般の薄板鋼材の表面には絶縁材が塗布されていなために、積層して使用する場合にはその表面に絶縁物を塗布し、ケーブルに平行な方向には導電性を有さないようにしなければいけない。
【0015】
本実施形態は、磁性体フレーム10をアルミケース15に収容する点に一つの技術的特徴を有している。すなわち、アルミケース15は、方向性電磁鋼板が積層された磁性体フレーム10−1〜10−3を堅固に支持するとともに、アルミケース15を点支持したとしても、磁性体フレームに対しては面支持となり、電磁鋼板に応力がかかり磁気特性が劣化するのを防いでいる。また、人目に触れる場所のケーブルに本実施形態の磁気シールド装置を適用する場合には、見栄えもよいという効果もある。
【0016】
本実施形態のもう一つの技術的特徴は、アルミケース15に設けたギャップである。先に説明したように、アルミケース15は、絶縁体31を配置したケーブル20に近い部分の前ギャップ、絶縁体32を配置したケーブル20から遠い部分の後ギャップの2つのギャップを備えている。アルミケース15は導電体であるので、変化する磁場により渦電流が流れると、ケーブル20による磁界がアルミケース15内の磁性体フレーム10にまでとどかないので、磁性体フレーム10による磁気シールドの効果が減少する。したがって、本実形態では前述のギャップを設け、渦電流の発生を防ぐようにしている。
【0017】
もちろん、アルミケース15の電流路を分断するには、スリットは1箇所でもよく、また任意の箇所にギャップを設けることができる。ただし、以下に示すシミュレーションの結果によれば、本実施形態のように、ケーブル20に近い箇所と遠い箇所に2つのギャップを設ける方が効果が高い。なお、アルミケースに代えて銅又は鋼材のケースを用いてもよく、その他導電性の材料を用いることができる。また、ギャップが開いていても磁性体フレームを覆うケースとして機能する場合には、ギャップに配置される絶縁体は必ずしも必要ではない。
【0018】
以下、図3〜7を参照して、磁気シールド装置の解析モデルと解析結果を説明する。図3〜5に、解析モデルを示す。図3は、3相ケーブルによる磁場をシールドする磁気シールド装置の上面図であり、図4は、その正面図である。図6は、図4のA−A断面図であり、磁性体フレーム10−1を収容するアルミケース15−1の断面を示す。
【0019】
解析モデルとなる磁気シールド装置は、2枚の磁性体フレーム15−1、15−2がそれぞれアルミケース15−1、15−2に収納され、50Hzの3相電流が流れるケーブル20U、20V、20Wからなる3相ケーブルを囲っている。励磁電流は3相50Hzであり、起磁力は15,700ATrms(2ATrms/mm)である。
【0020】
図3に示すように、ケーブル20U、20V、20Wは、直径100mmであり、X方向に並んでいる。ケーブル20Uと20V、20Vと20Wの中心間の距離L1は、200mmであり、ケーブル20U、20WとアルミケースとのX方向距離L2は、それぞれ10mmである。アルミケースは、幅L3が85mmで、長さL4が200mmの部材と、幅L3が85mmで、長さL5が770mmの部材とを組み合わせて作られる。
【0021】
図4に示すように、アルミケースの厚みL6は42mmであり、アルミケース15−1と15−2との中心間の距離は、150mmあけてある。
【0022】
図5に示すように、解析モデルでは、幅M1が50mmの電磁鋼板35ZGを20枚積層して、厚みM2が7mmの磁性体フレーム板10−1を形成し、これを収容するアルミケース15−1は、厚みL7が15mmのアルミ材からなり、ケース内空間の断面は55mm×12mmである。
【0023】
図6に、解析モデルで使用する電磁鋼板及びアルミ材の物性値の表を示す。本例の電磁鋼板は、方向性電磁鋼板であって、磁化容易軸方向の比透磁率が80,000であり、磁化困難軸方向の比透磁率が5,000である。
【0024】
図7は、図4〜図6の磁気シールド装置についてシミュレーションを行なった結果を示すグラフで、図8は、図7のグラフの横軸を解析モデルに関連付けて示す図である。図7のグラフは、図8に示すように、磁気シールド装置中央に配置したケーブル20Vの中心を原点にして、横軸を、アルミケース15−1の厚み方向(z方向)の中央のライン上にとり、縦軸をx方向の各点での磁束密度をとったものである。参考に100mmごとにx〜xの点を示した。中心から300mm(x)から385mmの範囲がアルミケースであり、385mmを越えると、本発明による磁気シールド装置の外部となる。
【0025】
図7の一点鎖線が、シールド装置なしの場合であり、破線が、渦電流を遮断するギャップをもたないアルミケースに収容した電磁鋼板を使用する場合、細線は、渦電流を遮断する前ギャップをもつアルミケースに収容した電磁鋼板を使用する場合、太線は、渦電流を遮断する前後ギャップをもつアルミケースに収容した電磁鋼板を使用する場合を示す。
【0026】
図から明らかなように、電磁鋼板を単にアルミケースに収容したものを用いると、磁気シールドを行なわない場合とほとんど区別がつかなくなっている。これに対して、渦電流を遮断するギャップをもつアルミケースに収容した電磁鋼板を使用すると、磁気シールドの効果が表れ、渦電流を遮断するギャップを前後に2箇所もつアルミケースに収容した電磁鋼板を使用すると、磁気シールド効果が1個のギャップのものより大きくなる。
【0027】
このように、磁気シールドの作用を行なう磁性体フレームをギャップを有するアルミケースで覆うことにより、磁気シールド効果を保持しながら、磁性体フレームへの応力集中を防ぐ支持構造を実現できる。また、磁気シールド装置は開放構造であるから、密閉構造のシールド装置に比較して、放熱効果にすぐれ、また保守点検に有利である。なお、磁性体フレームの外形あるいはアルミケースの外形は、矩形に限定されない。さらに、実施形態として、三相交流50Hzの電流により生成される磁界をシールドする例を説明したが、これに限定されず、本発明は、数Hzから数kHzの範囲で有効である。
【0028】
また、本発明の第二の実施形態として、上記の磁気フレームを収容するケースが絶縁体である場合を説明する。磁気フレームのシールド効果は上記の第一の実施形態と同様である。また、磁気フレームを面支持するので逆磁歪効果による軟磁性の劣化は小さい。この際、絶縁体としては、フェノール樹脂又は木材を用いる。なお、このとき、上記のギャップは当然不要である。その他、繊維強化樹脂等の樹脂系部材を用いても良い。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】(a)は、本発明の磁気シールド装置の一実施形態を示す図であり、(b)は、その部分断面を示す図である。
【図2】本発明の一実施形態の磁気シールド装置からアルミケースを取り除いで磁性体フレームを示す図である。
【図3】本実施形態の磁気シールド装置の解析モデルの上面を示す図である。
【図4】本実施形態の磁気シールド装置の解析モデルの正面を示す図である。
【図5】解析モデルのアルミケースの断面を示す図である。
【図6】解析モデルに使用する材料の物性値を示す図である。
【図7】解析モデルのシミュレーション結果のグラフを示す図である。
【図8】図7のグラフの横軸と解析モデルとの関係を示す図である。
【符号の説明】
【0030】
10 磁性体フレーム
15 アルミケース
20 三相交流ケーブル
31、32 絶縁体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電流が流れるケーブルから漏洩する磁場をシールドする磁気シールド装置であって、
前記ケーブルの長手方向に所定間隔をあけて配置した、前記ケーブルを囲む複数の磁性体フレームを備え、
前記複数の磁性体フレームはそれぞれ、導電体ケースで覆われ、該導電体ケースには、前記ケーブルを囲む少なくとも1つのギャップが設けられることを特徴とする磁気シールド装置。
【請求項2】
前記ギャップには、絶縁体が配置されることを特徴とする請求項1に記載の磁気シールド装置。
【請求項3】
前記磁性体フレームは、ケーブルの長手方向に、互いに絶縁された複数の鋼板を積層してなる積層鋼板であることを特徴とする請求項1又は2に記載の磁気シールド装置。
【請求項4】
前記鋼板は、電磁鋼板であることを特徴とする請求項3に記載の磁気シールド装置。
【請求項5】
前記電磁鋼板は、前記ケーブルを囲む方向に磁化容易軸をそろえた方向性電磁鋼板であることを特徴とする請求項4に記載の磁気シールド装置。
【請求項6】
前記ギャップは、前記導電体ケースの前記ケーブルに近い面に設けられることを特徴とする請求項1〜5に記載の磁気シールド装置。
【請求項7】
前記ギャップは、前記導電体ケースの前記ケーブルに近い面と遠い面とに設けられることを特徴とする請求項1〜5に記載の磁気シールド装置。
【請求項8】
前記導電体ケースは、導電性の金属建築部材からなることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の磁気シールド装置。
【請求項9】
前記金属建築部材は、アルミ材、銅材、磁性鋼材、又は非磁性ステンレス材であることを特徴とする請求項8に記載の磁気シールド装置。
【請求項10】
前記複数の磁性体フレームはそれぞれ、絶縁体ケースで覆われることを特徴とする請求項1に記載の磁気シールド装置。
【請求項11】
前記絶縁体ケースは、建築用樹脂部材又は木材であることを特徴とする請求項10に記載の磁気シールド装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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