説明

磁気テープ再生装置

【課題】再生デジタル情報信号をAD変換するときに使用するクロック信号を生成するPLLの同期を安定化し、併せてエラーレートの改善を可能とする磁気テープ再生装置を提供する。
【解決手段】複数の磁気ヘッドが交互に再生する再生デジタル情報信号の信号特性を補正するイコライズ手段と、このイコライズ手段により補正された再生デジタル情報信号の立ち上がり波形と立下り波形の対称性を複数の磁気ヘッドに対応して検出する波形対称性検出手段と、前記イコライズ手段により補正された再生デジタル情報信号をAD変換するAD変換手段を設ける構成とし、前記イコライズ手段では前記波形対称性検出手段で検出された検出信号を用いて再生デジタル情報信号の波形の対称性を補正するイコライズを行うことによりPLLのロックを安定化できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気テープ再生装置に係り、特に再生されたデジタル信号のプリイコライザに関する。
【背景技術】
【0002】
磁気テープから再生されたデジタル情報信号を復号して情報信号に含まれる映像音声等の情報を再生するとき、磁気テープや磁気ヘッドの特性差や再生回路方式の違い等による伝送路特性の差、あるいはジッター、ノイズの混入等によって信号が劣化しエラーレートが悪化することがある。
【0003】
従来から、伝送路を経て劣化したアナログ信号形態の情報信号をデジタル信号に変換処理する際には、エラーレートの劣化を抑えるための種々の提案がなされている。
たとえば、下記特許文献1は、伝送路を通過することで再生信号に含まれるクロック周波数成分のエネルギーが小さくなり、PLL(位相同期ループ)回路を用いたクロック抽出回路への入力信号の信号対雑音比(S/N比)が低下したときに、サンプリングジッタが増加するのを改良する技術を開示したものである。
また、下記特許文献2は、エラーレートの劣化を抑えるために再生信号の低周波部と高周波部に生じる劣化および符号間干渉を補正するための波形等化処理を行う自動等化システムの改良技術を開示したものである。
【0004】
この特許文献1および2に見られるように、従来から再生信号のエラーレートの劣化を抑えるための改良技術は、再生信号をAD変換回路で一旦デジタル信号に変換し、デジタル信号処理回路上で行うことが多い。これは、こうしたエラーレートの改良技術をアナログ信号上で行うと回路構成が複雑で煩雑な調整が必要となり実施が極めて難しくなるからである。
【特許文献1】特開平09−219068号公報
【特許文献2】特開平10−326457号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、再生信号をAD変換回路でデジタル化するには、まずPLL回路を使用して再生信号からクロック信号を生成する必要があり、この動作を確実に行うためにはAD変換前のアナログ回路上で再生信号の周波数特性や遅延時間特性を補正するプリイコライジングを行う必要がある。
磁気テープを用いたデジタル録画再生機器では、複数の磁気ヘッドの再生信号を交互に切り替えて連続信号にするので、本来それぞれの磁気ヘッドの再生特性に合わせてプリイコライジングを行うのがよいが、回路が複雑になるため連続信号にしてから共通のイコライジングを行う例が多い。そのため、一方の磁気ヘッドの再生信号には適切なイコライジングが行われても他方の磁気ヘッドの再生信号には適切でない場合が生ずるという不都合が発生し、上記PLLのロックが不完全となりクロック信号の生成に支障をきたすことがあった。又、経年変化により磁気ヘッドの特性が変わった場合においても最適なイコライジングからずれるためにPLLのロックが不完全となることがあった。
【0006】
そこで、本発明は上記従来の問題点に鑑みなされたものであり、その目的は、クロック信号を生成するPLLのロックを安定化し、併せてエラーレートの改善を可能とする磁気テープ再生装置を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、磁気テープに記録されている再生情報信号を再生する複数の磁気ヘッドを有する磁気テープ再生装置において、前記磁気ヘッドが再生する前記再生情報信号のパルス波形の立ち上がりと立下りの対称性を補正するプリイコライズ手段と、前記再生情報信号の立ち上がり波形と立下り波形の対称性から、前記複数の磁気ヘッドに対応した前記再生情報信号を検出する波形対称性検出手段と、前記プリイコライズ手段によりパルス波形の立ち上がりと立下りの対称性が補正された前記再生情報信号を所定のクロック信号を用いて、AD変換しデジタル信号を生成するAD変換手段と、前記AD変換手段により生成されたデジタル信号と前記クロック信号を同期させるPLL手段と、前記AD変換手段により生成されたデジタル信号の特性を自動補正する波形等化手段と、を有することを特徴とする磁気テープ再生装置を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る磁気テープ再生装置により、磁気テープから再生されたデジタル情報信号のパルス波形の対称性が自動的に補正されるので、再生信号をAD変換するときに必要なクロック信号を生成するPLL回路のロックが安定になり、同時にエラーレートの改善が図れる効果がある。これにより、複数の磁気ヘッドの特性が異なっていたり経年変化で特性がずれてきても安定した再生が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための最良の形態について図面と共に説明する。
図1は本発明に係る磁気テープ再生装置の主要信号処理部のブロック図、図2は本発明に係る磁気テープ再生装置の波形対称性検出部のブロック図、図3は本発明に係る磁気テープ再生装置の再生デジタル信号波形とサンプリングクロックの関係を示す図、図4は本発明に係る磁気テープ再生装置のプリイコライザの回路例を示した図である。
【0010】
まず本発明に係る磁気テープ再生装置の主要信号処理部の構成を説明する。
図1において、プリイコライザ回路1には、図示しない磁気ヘッドで再生されヘッドアンプで増幅された再生デジタル情報信号が入力される。プリイコライザ回路1には後述する対称性検出回路2で検出された結果のコントロール信号が接続されており、これにより入力された再生デジタル情報信号のパルス波形の立上がりと立下りの対称性を補正して次のAD変換回路3に出力する。
【0011】
AD変換回路3はPLLブロック4内のVCO(電圧制御発振器)6からのクロック信号で入力のデジタル情報信号をサンプリングし次いでデジタル信号に変換する。このAD変換回路3で生成されたデジタル信号は2ヶ所に供給される。一方はPLLブロック4内の位相比較回路5に供給され、ここでVCO6からのクロック信号と位相比較を行い位相誤差信号を発生する。位相比較回路5の位相誤差信号は、次いでループフィルタ7で所定の伝送特性に制限されてからクロック信号の周波数制御信号として前記VCO6に供給される。
【0012】
AD変換回路3で生成されたデジタル信号のもう一方は、波形等化ブロック8に供給され、ここでトランスバーサルフィルタ9と等化誤差検出回路10で構成された自動等化システムにより周波数特性や遅延特性が補正されエラーレートの改善が行われる。
波形等化ブロック8の出力デジタル信号は次いでデジタルの2値情報を判別して安定なデジタル信号に修正するビタビ回路11に供給される。
ビタビ回路11の出力デジタル信号は、図示しない誤り訂正処理部等の再生復調処理が行われるブロックに供給され、最終的にデジタル情報信号に含まれる映像音声等の信号が復元される。
【0013】
次に、図2及び図3を用いて本発明の中心技術である前記プリイコライザ回路1と対称性検出回路2の動作を説明する。まず図3により、前記AD変換回路3における再生信号波形とサンプリングクロックとの関係を説明する。この図に矢印で示すサンプリングタイミングはPLLブロック4によって決定されるものである。すなわち、PLLブロック4では、基本的に再生信号波形のピークS0点をセンターにしてS−1点とS+1点が同じレベルになるような位相にロックするように動作する。このとき、再生信号波形がピーク点を中心に左右対称性の良い波形であれば問題ないが、対称性が悪い場合にはS−1点とS+1点を同じレベルになるようにロックするので、図のように再生信号波形のピーク点とS0点にずれが生じ、この結果エラーレートが悪化したり、更にずれるとPLLがロックできなかったりする現象が発生する。
なお、図3は再生信号の+側の波形を示したが同様に−側の信号も存在する。
【0014】
このようにPLLのロックは再生信号波形の対称性に左右されるものであり、このPLLブロックで生成したクロック信号で再生信号をサンプリングするのであるから、本来サンプリング後のデジタルデータで波形の対称性を補正するのは好ましくないことになる。
一般に、磁気テープにデジタル記録再生されたパルス信号は立ち上がりと立下り波形の対称性が悪い場合が多いことが知られている。そこで、本発明は再生信号をAD変換する前段階で波形の対称性を自動補正するプリイコライジングを行うことにより、PLLのロックを安定化し併せてエラーレートの改善を可能とするものである。
【0015】
図2は、本実施例で用いる信号波形の対称性を検出する回路である。プリイコライザ回路1からの再生信号は、DLY(遅延)21とDLY22で構成された3タップのトランスバーサルフィルタに入力される。このトランスバーサルフィルタのセンタータップの信号を波形整形回路24に入力し、基準電圧回路23の基準電圧を閾値として+値、0、−値の3値に波形整形する。基準電圧値は一例として前記再生信号波形のS0点とS±1点の中間値とし+側と−側の2つを用意する。次にこの波形整形された信号とトランスバーサルフィルタの前後の信号とを乗算器25及び同26でそれぞれ乗算し平均化する。このとき2つの平均値が等しい場合は信号波形の対称性は良好である。
【0016】
次に、この2つの平均値を差分回路27に入力しそれぞれの差分値を算出する。算出された差分値はSW(スイッチ)28で外部から供給される選択信号により、ch1積分回路29又はch2積分回路30のいずれかに入力し値を積分する。この選択は差分値を再生磁気ヘッドに対応させそれぞれ独立した値として取り出すためのものである。ch1積分回路29及びch2積分回路30の積分値はSW31により選択されて図1のプリイコライザ回路1へ対称性補正信号として供給される。
なお、このとき、上記3タップのトランスバーサルフィルタを構成するDLY21とDLY22の遅延量は、再生信号のデータレートに一致させる必要はなく、むしろ再生信号のレート周期より長く設定することで対称性は検出しやすくなる。
【0017】
図4は本実施例で用いるプリイコライズ回路の例である。この図は左端のトランジスタQ1に再生信号が入力され、Q2で再生信号波形の対称性が補正されて右端のQ3から出力されるものである。Q2のコレクタ端子にはR10で示した電圧制御の可変抵抗素子が使われ前記対称性検出回路2から供給されるコントロール信号により特定周波数成分の位相シフト量を可変して信号波形の対称性を補正する。
なお、再生信号のイコライジングについては図1の波形等化ブロック8による自動等化システムで精密に補正されるので、このプリイコライズ回路1では、基本的な伝送特性の補正にとどめるだけにして、むしろ信号波形の対称性の補正に重点を置いたイコライジングとする。
【0018】
以上詳述したように、本発明に係る磁気テープ再生装置により、磁気テープから再生されたデジタル情報信号のパルス波形の対称性が自動的に補正されるので、再生信号をAD変換するときに必要なクロック信号を生成するPLL回路のロックが安定になり、同時にエラーレートの改善が図れるものである。これにより、複数の磁気ヘッドの特性が異なっていたり経年変化で特性がずれてきても安定した再生が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係る磁気テープ再生装置の主要信号処理部のブロック図である。
【図2】本発明に係る磁気テープ再生装置の波形対称性検出部のブロック図である。
【図3】本発明に係る磁気テープ再生装置の再生デジタル信号波形とサンプリングクロックの関係を示す図である。
【図4】本発明に係る磁気テープ再生装置のプリイコライザの回路例を示した図である。
【符号の説明】
【0020】
1…プリイコライザ回路
2…対称性検出回路
3…AD変換回路
4…PLLブロック
5…位相比較回路
6…VCO(電圧制御発振器)
7…ループフィルタ
8…波形等化ブロック
9…トランスバーサルフィルタ
10…等化誤差検出回路
11…ビタビ回路
21、22…DLY(遅延)
23…基準電圧回路
24…波形整形回路
25、26…乗算器
27…差分回路
28、31…SW(スイッチ)
29…ch1積分回路
30…ch2積分回路
Q1、Q2、Q3…トランジスタ
R10…電圧制御可変抵抗素子


【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気テープに記録されている再生情報信号を再生する複数の磁気ヘッドを有する磁気テープ再生装置において、
前記磁気ヘッドが再生する前記再生情報信号のパルス波形の立ち上がりと立下りの対称性を補正するプリイコライズ手段と、
前記再生情報信号の立ち上がり波形と立下り波形の対称性から、前記複数の磁気ヘッドに対応した前記再生情報信号を検出する波形対称性検出手段と、
前記プリイコライズ手段によりパルス波形の立ち上がりと立下りの対称性が補正された前記再生情報信号を所定のクロック信号を用いて、AD変換しデジタル信号を生成するAD変換手段と、
前記AD変換手段により生成されたデジタル信号と前記クロック信号を同期させるPLL手段と、
前記AD変換手段により生成されたデジタル信号の特性を自動補正する波形等化手段と、
を有することを特徴とする磁気テープ再生装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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