説明

磁気ディスク、その製造方法および磁気記憶装置

【課題】均一な保磁力分布が得られ、高記録密度化が可能な磁気ディスク、その製造方法および磁気記憶装置を提供する。
【解決手段】下地層の形成工程において、絶縁性の基板11を基板ホルダ40に設けられた導電性材料からなる支持スプリング43により支持して下地層を形成する。次いで、記録層の形成工程において、下地層を形成した際の支持状態で可動電極45を絶縁性基板の端面11aに接触させ、スパッタ法によりバイアス電圧を供給して記録層を形成する。下地層は基板11の端面にも形成されるので、可動電極45と下地層との電気的な導通が良好となる。さらに、下地層の形成の際に、基板表面に形成される下地層と支持スプリング43との接触部の一部とが下地層材料により架橋され、支持スプリング43と下地層は電気的に導通状態となる。可動電極45および支持スプリング43を介してバイアス電圧が下地層に給電される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気ディスク、その製造方法および磁気記憶装置に係り、特に基板にバイアス電圧を印加して記録層等を形成する磁気ディスクの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、磁気記憶装置は、高画質のデジタル静止画像や動画記録に用いられるようになり、大容量化および高記録密度化が求められている。磁気記憶装置、特に磁気ディスク装置は、高速アクセス性を有し、さらに小型軽量であるため、家庭用音響画像記憶装置や、携帯端末機に内蔵されるようになっている。
【0003】
このような状況下、磁気ディスク装置に用いられる磁気ディスクは、高記録密度化を図るため、磁性層の高保磁力化や薄膜化が進められている。高記録密度になる程、磁性層の磁化を打ち消す方向に生じる反磁界が増大する。反磁界に抗するため磁性層の高保磁力化が必要となる。また、磁性層の厚さが大きいほど反磁界が大きいため、磁性層の薄膜化が必要となる。
【0004】
また、携帯端末機として用いられる場合は、携帯時に磁気ディスク装置に振動や衝撃が加えられることが多くなる。従来、磁気ディスクの基板としてはアルミニウム合金基板が主流であった。しかし、アルミニウム合金基板は、記録再生動作時に衝撃が加えられると磁気ヘッドが磁気ディスクの表面に衝突し、凹み等の損傷を受け易い。そこで、アルミニウム合金基板よりも高弾性率のガラス基板が用いられるようになってきている。
【0005】
ところで、磁気ディスクは、磁気ディスクを構成する各層はスパッタ法やプラズマCVD(化学的気相成長)法を用いて成膜される。例えばスパッタ法により磁性層を成膜する場合は、基板の両面に成膜するために、基板を鉛直に立てて支持する基板ホルダが用いられている(例えば、特許文献1または2参照。)。基板は、その外縁の端面が基板ホルダのツメ状の支持部材により掛止めされている。このように支持した状態で、真空処理室内でターゲットにArイオン等を衝突させ、飛び出した金属粒子を下地層が形成された非磁性基板上に形成する。この際、金属粒子は正に帯電するので、非磁性基板に負電圧のバイアスを印加して金属粒子を加速させる。このように加速させることで、磁性層の保磁力が増加することが知られている。
【0006】
ところで、特許文献1では、基板ホルダのツメ状の支持部材を介してバイアスを印加している。基板が絶縁性の場合は、支持部材と下地層との接触を良好にするため、磁性層を成膜する前に基板を回転させて支持部材が接触する端面の位置を変える変換機構を設けている。
【0007】
また、特許文献2では、図1に示すように、基板101を支持部材103により掛止めし、基板101の下側の端面にバイアス印加用端子104を接触させて、バイアスを印加する基板ホルダ100が提案されている。
【特許文献1】特開平7−243037号公報
【特許文献2】特開平9−7174号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1では基板を回転させる変換機構を真空処理室内で行うため、変換機構を設けるための真空処理室が一つ余計に必要となる。真空処理室のコストは数千万円であり製造コストに影響する。また、製造スペース上の制約により真空処理室を増やせない場合は、成膜できる層が一層減り、磁気ディスクの設計上の制約になる。さらに、変換部では基板を外し、回転させ、さらに支持部材に掛止める操作が必要となり、掛止め不良や基板を落とすなどの問題が生じるおそれがある。
【0009】
また、特許文献2では、図1に示すようにバイアス印加用端子104が渡し棒105により押し上げられ、接触部104aが基板101の下側に接触してバイアスが印加される。この基板ホルダ100では、バイアス電圧が給電される箇所は接触部104aのみであるので、下地膜等の薄膜化によりバイアス電圧が磁気ディスクの面内で不均一になるおそれがある。その結果、磁気ディスクの面内で均一な保磁力分布が得られなくなるという問題がある。
【0010】
そこで、本発明は上記問題点に鑑みてなされたもので、本発明の目的は、基板の持ち替えをすることなくバイアス電圧を印加して、均一な保磁力分布が得られ、高記録密度化が可能な磁気ディスク、その製造方法および磁気記憶装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一観点によれば、導電性の基板ホルダに、導電性材料からなる複数の基板支持部材により絶縁性基板を支持して、該絶縁性基板の表面に導電層を形成する第1の工程と、スパッタ法により前記導電層に負のバイアス電圧を供給して、該導電層上に記録層を形成する第2の工程とを含む磁気ディスクの製造方法であって、前記第2の工程は、前記第1の工程において前記基板支持部材により絶縁性基板を支持した状態で、可動電極を絶縁性基板の端面上の導電層に接触させ、該可動電極および基板支持部材を介して導電層にバイアス電圧を供給しながら記録層を堆積することを特徴とする磁気ディスクの製造方法が提供される。
【0012】
本発明によれば、第1の工程において絶縁性基板を導電性材料からなる複数の支持部材により支持して導電層を形成する。このままの支持状態で第2の工程において可動電極を絶縁性基板の端面に接触させてバイアス電圧を供給してスパッタ法により記録層を形成する。導電層は絶縁性基板の端面にも形成されているので、可動電極と導電層との電気的な導通は良好である。さらに、導電層の形成の際に、導電層が、絶縁性基板と支持体との接触部分の一部を架橋するように形成されるので、支持体と導電層は電気的に導通状態となる。したがって、導電層には可動電極および複数の支持部材を介して導電層の全体に亘って均一なバイアス電圧が供給される。このようにしてバイアス電圧を供給することにより、均一な保磁力分布を有する記録層が形成されることが期待できる。その結果、磁気ディスクの高記録密度化が可能となる。また、複数の箇所からバイアス電圧が供給されることで、異常放電の発生を抑制し、異常放電の発生に起因する欠陥の発生を抑制できる。その結果、歩留まりが向上することが期待できる。
【0013】
また、従来技術の欄で説明したように、記録層を形成する前に基板を持ち替えて回転させる処理を本発明の製造方法では行わないので、その処理ための設備コストを必要としない。したがって、本発明の製造方法は製造コストを低減できる。
【0014】
前記可動電極は、電極体と、該電極体の先端部に設けられた接触端子と、電極スプリングを有し、前記第1の工程において、前記電極スプリングがばね力を作用させて接触端子を前記端面から離隔させ、前記第2の工程において、前記可動電極を電極スプリングがばね力の方向に逆らう方向に押圧して前記接触端子を端面上の導電層に接触させてもよい。このように配置することで、記録層の保磁力がいっそう均一化されることが期待できる。可動電極に電極スプリングを設け、バイアス電圧を供給しない場合はばね力を利用して可動電極を基板の端面から離れるようにする。簡単な機構で基板の端面との非接触動作を行うことができる。
【0015】
前記可動電極は、絶縁性基板の上側に配置され、真空処理室内に設けられた押圧手段により該可動電極を下方に押圧して絶縁性基板の上側の端面の導電層に接触端子を接触させてもよい。押圧手段を比較的空間的な制約の少ない真空処理室内の上部に設けることができる。
【0016】
また、前記可動電極が端面に接触する際に、前記接触端子が基板の周方向に力を印加して絶縁性基板を回転させ、前記支持スプリングと端面との接触位置を移動させてもよい。接触位置をずらすことで、基板の端面に形成された導電層と可動電極との接触をより良好にできる。
【0017】
本発明の他の観点によれば、絶縁性基板と、前記絶縁性基板上に、導電層と、記録層とを備える磁気ディスクであって、上記いずれかの製造方法により形成されることを特徴とする磁気ディスクが提供される。
【0018】
本発明によれば、磁気ディスクは、記録層が均一な保磁力分布を有することが期待され、その結果、高記録密度化が可能な磁気ディスクが実現する。また、磁気ディスクは欠陥の発生が抑制され、歩留まりが良好であることが期待できる。
【0019】
本発明のその他の観点によれば、上記の磁気ディスクと、記録再生手段とを備える磁気記憶装置が提供される。
【0020】
本発明によれば、磁気ディスクは高記録密度化が可能であり、また、歩留まりも良好であることが期待できるので、大容量で製造コストの低廉な磁気記憶装置を実現できる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、絶縁性基板上に導電層を形成し、略そのままの支持状態でスパッタ法により可動電極と複数の支持部材を介してバイアス電圧を供給しながら記録層を形成する。このことにより均一な保磁力分布を有する記録層が形成されることが期待できる。その結果、磁気ディスクの高記録密度化が可能となる。また、複数の箇所からバイアス電圧が供給されることで、異常放電の発生を抑制し、異常放電の発生に起因する欠陥の発生を抑制できる。その結果、歩留まりが向上することが期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下図面を参照しつつ実施の形態を説明する。
【0023】
(第1の実施の形態)
図2は、本発明の第1の実施の形態に係る製造方法により形成される磁気ディスクの一例の断面図である。
【0024】
図2を参照するに、磁気ディスク10は、基板11と、その基板11上に、下地層12、記録層13、保護膜14が順次堆積された構成からなる。
【0025】
基板11は、ディスク状の非磁性の絶縁性の材料、例えばガラス基板、プラスチック基板、セラミック基板等が用いられる。基板11は、その表面に凹凸、いわゆるテクスチャが形成されていてもよい。テクスチャとしては、レーザテクスチャやメカニカルテクスチャが挙げられる。基板11は、その周方向に沿って細長い多数の溝からなるメカニカルテクスチャが形成されていてもよい。
【0026】
下地層12は、非磁性のCr、Cr−X合金(X=Mo、W、V、B、Mo、およびこれらの合金から選択される一種)から選択される。下地層12は例えばCr、CrMo、CrWが挙げられる。このような下地層12を設けることで、記録層13の磁化容易軸方向を基板11と平行な方向、いわゆる面内方向に配向させることができる。下地層12は導電性であり記録層13を形成する際にバイアス電圧が供給される。
【0027】
記録層13は、Co、Ni、Fe、Co系合金、Ni系合金、Fe系合金等の強磁性材料から選択され、Co系合金のうち、特にCoCr、CoCr系合金、CoCrTa、CoCrTa系合金、およびCoCrPt、CoCrPt系合金が好ましい。記録層13は、2つの強磁性層とこれらの強磁性層との間に挟まれた非磁性結合層とが積層され、2つの強磁性層の各々の磁化が、強磁性層に挟まれた非磁性結合層を介して反強磁性的に結合する構造を有してもよい。
【0028】
保護膜14は、特に限定されず、例えばアモルファスカーボンや、水素化カーボン、窒化カーボン等から選択される。保護膜14は、スパッタ法やプラズマCVD法により形成される。プラズマCVD法により保護膜を形成する際は、記録層13と同様にバイアス電圧が供給される。バイアス電圧を供給して成膜することで緻密な膜質の保護膜が形成される。
【0029】
なお、図示は省略するが、基板11と下地層12との間に一層あるいは二層以上の金属材料からなるシード層を形成してもよい。シード層は導電性を有するため、記録層13や保護膜14をバイアス電圧を供給して形成する際に、下地層12と共に導電層としてバイアス電圧が印加される。また、後ほど詳しく説明するが、図2に示すように、基板11の外縁部の端面11aにも下地層12、記録層13、保護膜14が形成される。
【0030】
次に第1の実施の形態に係る磁気ディスクの製造方法を説明する。
【0031】
図3は、磁気ディスクの製造装置の概略図である。図3を参照するに、製造装置20は、ロードロック室21、真空処理室22A〜22C、アンロードロック室23からなり、各々互いに仕切弁25により隔離されている。また、製造装置20には、基板11を支持する基板ホルダ40、基板ホルダ40をロードロック室21から真空処理室22A〜22Cを介してアンロードロック室23に搬送する搬送機構24が設けられ、さらに、図示されていないが、製造装置20にはガス供給機構および排気機構が設けられている。
【0032】
最初に、カートリッジ等に充填された基板11が製造装置20に供給される。ロードロック室21においてロボット(不図示)により基板11を一枚ずつ取り出し、基板ホルダ40に載置する。基板ホルダ40は後ほど詳述するが、基板ホルダ40の開口部に支持スプリング43が設けられ、基板11は支持スプリング43に掛止めされる。支持スプリング43を3つ設け、基板11の中心と支持スプリング43の接触点を結ぶ線が互いになす角を例えば120度となるように各々を配置することで、基板11が均衡良く支持される。なお、支持スプリング43は3つに限定されず、2つでも4つ以上でもよい。
【0033】
次いで、ロードロック室21では、排気機構により内部の排気を行い、真空雰囲気を形成する。このような真空雰囲気で仕切弁25を開き、基板ホルダ40を次の真空処理室22Aに搬送する。なお、各々の真空処理室22A〜22Cの処理が行われる間は仕切弁25を閉じた状態で行う。ただし、各真空処理室22A〜22Cの内部の雰囲気を共通に設定する場合は、仕切弁25を開いたまま各々の処理を行ってもよい。なお、以下の説明では仕切弁25の動作の説明を省略する。
【0034】
真空処理室22Aでは、絶縁性基板11を加熱処理する。真空処理室22Aの内部を圧力が例えば0.67PaのArガス雰囲気に設定する。そして、熱分解窒化ホウ素ヒータ等の加熱手段を用いて基板11を約200℃の温度に加熱する。基板11の加熱により、この後の下地層12や記録層13を形成する工程で、良好な膜質の下地層12や記録層13を形成できる。また、基板11の加熱により、基板11の表面の水分や汚れを除去できる。次いで、基板11が載置された基板ホルダ40を次の真空処理室22Bに搬送する。
【0035】
真空処理室22Bでは、スパッタ法により基板11の表面に下地層12を形成する。図4を参照しつつ、下地層12の形成工程を説明する。
【0036】
図4は、第1の実施の形態に係る製造方法に用いられる真空処理室の構成図である。図4は、記録層13を成膜する際の真空処理室の構成を示したものであるが、この図を用いて下地層12の形成工程を説明する。
【0037】
図4を参照するに、真空処理室22Cは、外部と隔離されており、中央に搬送機構24に固定された基板ホルダ40と、基板ホルダ40の各々の側に、ターゲット32、ターゲットホルダ33、カソード34、およびカソード34に接続されたスパッタ電源35が設けられている。また、真空処理室22Cには内部にArガス等を供給するガス供給機構30、および内部を排気するガス排気機構31が設けられている。
【0038】
このような真空処理室22Cで、上述したCrあるいはCr−X合金材料からなるターゲット32を用いて、例えばDCマグネトロン法により下地層12を形成する。この際、真空処理室内を例えば圧力が0.67PaのArガス雰囲気に設定する。下地層12の厚さは、適宜選択される。下地層12の厚さを例えば数nm〜十数nm程度の厚さに設定する場合は、バイアス印加の際のバイアス均一性等の点で、基板11と下地層12との間にシード層を形成することが好ましい。シード層は、例えばNiP等の非晶質金属膜からなり、厚さを5nm〜100nm程度に設定する。また、シード層は例えばB2結晶構造を有するAlRu等でもよい。下地層12、あるいはシード層と下地層12との積層膜により導電層としての厚さを増加できる。次いで、図3に戻り、基板11が載置された基板ホルダ40を次の真空処理室22Cに搬送する。
【0039】
真空処理室22Cでは、スパッタ法により下地層12にバイアス電圧を供給しながら記録層13を形成する。再び図4を参照するに、記録層13を形成する真空処理室22Cの内部には、基板ホルダ40にバイアス電圧を供給するバイアス印加電源26が接続される。バイアス印加電源26から負極のバイアス電圧、例えば−300Vが供給される。バイアス印加電源26は基板ホルダ40のAl合金やTi合金材からなるホルダ導電部41に接続されている。なお、基板ホルダ40は、碍子等の絶縁材42を介して搬送機構24に固定されている。
【0040】
基板11は、支持スプリング43により支持されている。支持スプリング43は一端を基板ホルダ40のホルダ導電部41に固定され、他端が基板11の端面11aに接触している。また、基板11の上側のホルダ導電部41には可動電極45が設けられている。可動電極45は、真空処理室22Cに固定された呼込み板28により押し下げられて、基板11に接触した状態になっている。なお呼込み板28と真空処理室22Cは絶縁材36に電気的に絶縁されている。
【0041】
このようにしてバイアス電圧を供給した状態で、真空処理室22Cの内部を圧力が0.67PaのArガス雰囲気に設定し、DCマグネトロン法により例えばCoCrPtB材料からなるターゲット32を用いて記録層13を形成する。記録層13は、例えば厚さが5nm〜20nmに設定される。なお、記録層13が第1磁性層(例えばCoCr膜)、非磁性結合層(例えばRu膜)、第2磁性層(例えばCoCrPtB膜)からなる場合は、各々の層を各真空処理室内で形成する。以下、バイアス印加方法を詳しく説明する。
【0042】
図5は、第1の実施の形態の第1例に係る基板ホルダの正面図、(A)は可動電極が基板から離れた状態を示し、(B)は可動電極が基板に接触した状態を示す図である。
【0043】
図5(A)および(B)を参照するに、基板ホルダ40は、ホルダ導電部41と、ホルダ絶縁部42と、ホルダ導電部41の開口部41aに固着された3つの支持スプリング43と、基板11の上側に設けられた可動電極45等から構成される。
【0044】
支持スプリング43は、金属材、例えばインコネル等のばね材からなり、例えば厚さが0.5mm程度の板状である。支持スプリング43は、その基部が開口部14aに固着され、その先端部が略垂直に折り曲げられて形成された接触部43aとなっている。接触部43aは基板11の外縁部の端面11aに接触し、支持スプリング43の支点43bを中心として、基板11の中心方向に力が印加されるようになっている。このように3つの支持スプリング43により基板11が基板ホルダ40に支持される。
【0045】
なお、基板の端面11aは、図2に示すような外側に凸の形状を有するので、接触部43aはその先端部が凹部となっていてもよい。下地層12を形成した際に、接触部43aと基板11上に形成された下地層12とを電気的に導通する架橋部が形成される易い点では、接触部43aの先端部の凹部はその窪みが浅い方がよい。
【0046】
可動電極45は、電極棒46と、その先端部に固着された接触端子48と、電極棒46の上面と基板ホルダ40の上面との間に配置されたスプリング49等から構成される。
【0047】
電極棒46は金属材からなり、例えばホルダ導電部41のアルミ合金と同様の材料からなる。接触端子48は、その基部が電極棒46に固着されている。接触端子48は、その先端部が略垂直に折り曲げられて形成された接触部48aとなっている。接触端子48は金属材、例えば支持スプリング43と同様の材料からなる。接触部48aは、基板の端面11aに接触する部分の形状は特に限定されない。なお、金属棒46は、基板ホルダ40内に孔部41bを設け、その孔部41bに挿入してもよい。
【0048】
なお、図示は省略するが、可動電極46は、基板ホルダ40の表面に溝部を設け、溝部をガイド溝として上下動可能なようにその溝部に電極棒46を配置する構成としてもよい。さらに電極棒46が脱落しないように、溝部を覆うカバーを設けてもよい。
【0049】
スプリング46はばね性を有する金属材からなり、特に材料は限定されない。スプリングは少なくともその表面が導電性を有する材料を用いる。
【0050】
図5(A)に示すように、基板ホルダ40は、加熱処理や下地層12を形成する真空処理室内では、スプリング49が電極棒46および接触端子48を引き上げて、接触部48aが基板の端面11aに接触しないようにする。
【0051】
一方、図5(B)に示すように、記録層13を形成する真空処理室では、真空処理室内に設けられた呼込み板28に、可動電極45の金属棒46の上面46aが接触し、可動電極45が押し下げられ、接触部48aが基板11の上側の端面11aに接触する。基板の端面11aにも形成された下地層12と、可動電極45を介して基板ホルダ40のホルダ導電部41が電気的に導通する。なお、可動電極46が少々過剰に押し下げられた場合であっても、接触端子48が板ばね材であるので変形し、接触端子48が端面11aから外れたり、基板11が支持スプリング43から外れることはない。
【0052】
基板ホルダ40のホルダ導電部41には、バイアス印加電源26により負のバイアス電圧が供給される。バイアス電圧はホルダ導電部41から、可動電極45および3つの支持スプリング43を介して基板11の下地層12に供給される。可動電極45は基板の端面11aに形成された下地層12に直接接触するため、電気的な導通が良好である。さらに支持スプリング43は、部分的に下地層12に接触しており電気的に導通している。この接触の様子を、図6を参照しつつ説明する。
【0053】
図6は、基板の端面において支持スプリングの接触部と下地層との接触の様子を説明するための図である。図6は、基板11と支持スプリング43の接触部43a等の断面を示している。
【0054】
図6を参照するに、接触部43aの先端は例えば凹状となっており、一方、基板11の端面11aは凸状となっている。下地層12を形成する際に、基板の端面11aには、基板11の表面に略直交する方向(X方向)から金属粒子SPが入射し、基板11の表面および端面11aに下地層12が形成される。ただし、金属粒子SPは接触部43aに遮蔽され、接触部43aと端面11aが接触する接点43a−1付近では、下地層12が他の領域よりも薄くなる。しかし、金属粒子SPの一部が接触部43aを回り込み接点43a−1付近に堆積して、端面11aに形成された下地層12と接触部43aを架橋する。また、図に示すY方向から回り込んだ金属粒子SPも接点43a−1付近に堆積する。その結果、下地層12と接触部43aが電気的に導通するようになる。
【0055】
図5に戻り、支持スプリング43は3カ所で下地層12に接触しているので、下地層12の全体に均一なバイアス電圧が供給される。このように、可動電極と支持スプリング43によりバイアス電圧を供給することで、下地層12が薄膜であってしても、十分にバイアス電圧を印加できる。
【0056】
図3に戻り、記録層13を形成した後に、次の真空処理室22Dに基板ホルダ40を搬送する。搬送する際に可動電極45は呼込み板28から外れ、接触端子48は基板11から離れる。
【0057】
真空処理室22Dでは、例えばプラズマCVD法により保護膜として、記録層13を覆う水素化カーボン膜を形成する。水素化カーボン膜の形成は、具体的には、炭化水素系ガス、水素ガス、不活性ガス等を真空処理室22Dの内部に供給し、圧力を例えば5Paに設定する。そして、プラズマ発生部37に高周波電力(例えば100W)を供給し、プラズマを発生させる。一方、記録層13を形成した際と同様にして、可動電極45と支持スプリング43を介して記録層13に負のバイアス(例えば−300V)を印加する。このようにして、記録層13の表面に水素化カーボン膜を形成する。
【0058】
次いで、基板ホルダ40をアンロードロック室23に搬送する。アンロードロック室23ではロボットにより保護膜14まで形成された磁気ディスク11(基板)を外し、カートリッジ等に充填する。そして、アンロードロック室23の内部を真空雰囲気から大気圧に戻し、磁気ディスクが製造装置から取り出される。
【0059】
この後、図示を省略するが、保護膜14の表面に浸漬法等により例えばフッ素系のパーフルオロポリエーテルの潤滑層を形成し、磁気ディスクが形成される。
【0060】
本実施の形態によれば、下地層12を形成する際に絶縁性の基板11は導電性材料からなる支持スプリング43により支持されている。このままの支持状態で可動電極45を基板の端面11aに接触させて記録層13を形成する。下地層12は基板の端面11aにも形成されているので、可動電極45と下地層12との電気的な導通は良好である。さらに、下地層12の形成の際に、端面11aに形成された下地層12と支持スプリング43との接触部43aの一部を架橋するように下地層12が形成されるので、支持スプリング43と下地層12は電気的に導通状態となる。したがって、下地層12には可動電極45および支持スプリング43を介してバイアス電圧が給電される。このようにバイアス電圧を供給することにより、下地層12が形成された基板表面全体に亘って均一な保磁力分布を有する記録層13が形成されることが期待できる。その結果、磁気ディスクの高記録密度化が可能となる。また、複数の箇所からバイアス電圧が供給されることで、異常放電の発生を抑制し、異常放電の発生に起因する欠陥の発生を抑制できる。その結果、歩留まりが向上することが期待できる。また、保護膜14についても同様にバイアス電圧を供給して形成することで、均一で緻密な膜質の保護膜14を形成できる。
【0061】
次に、本実施の形態に係る製造方法に用いる基板ホルダの他の例について説明する。
【0062】
図7は、第1の実施の形態の第2例に係る基板ホルダの正面図で、(A)は可動電極が基板から離れた状態を示し、(B)は可動電極が基板に接触した状態を示す図である。図中、先に説明した部分に対応する部分には同一の参照符号を付し、説明を省略する。
【0063】
図7(A)および(B)を参照するに、基板ホルダ50は、ホルダ導電部51と、ホルダ絶縁部42と、ホルダ導電部51の開口部41aに固着された3つの支持スプリング43と、基板11の上側に設けられた可動電極52等から構成される。
【0064】
可動電極52は、電極棒53と、その先端部に固着された接触端子54等から構成される。電極棒53の頭部には、支点53bで折り曲げられ、ホルダ導電部51の上面に沿って延出する2つの板ばね部53cが設けられている。板ばね部53cの各々の先端が、ホルダ導電部51の上辺面51bに接触している。このようにして、板ばね部53cが電極棒53と接触端子54とを上方に引き上げ、接触部54aと基板の端面11aを離隔している。
【0065】
また、接触端子54は、電極棒53の下部から基板の端面11aに沿って両側に延出し、その各々の先端部が略垂直に折り曲げられた接触部54aとなっている。2つの接触部54aの先端は、基板の端面11aと略同様の半径の仮想円周上に配置されている。接触端子54は、図5に示す第1例の接触端子48と同様の材料からなる。
【0066】
図7(A)に示すように、基板ホルダ50は、加熱処理や下地層12を形成する真空処理室内では、2つの板ばね部53cの各々の先端が、ホルダ導電部51の上辺面51bに接触して電極棒53を上方に引き上げることで、接触端子54aが基板の端面11aから離れるようにしている。
【0067】
また、図7(B)を参照するに、記録層13を形成する真空処理室では、真空処理室内に、可動電極を押し下げて、接触端子54aを基板の端面11aに接触させるベアリング56が設けられている。ベアリング56は、真空処理室の上部に絶縁材36を介して支持板55に支持されている。ベアリング56は、基板ホルダ50の移動方向に沿って回転するようになっている。
【0068】
基板ホルダ50は、真空処理室内に搬送されると、ベアリング56が可動電極52の板ばね部53cに接触し、基板ホルダ50の移動に伴ってベアリング56は板ばね部53cを押し下げながら電極棒53の上面53aに到達する。その位置で基板ホルダ50が停止する。電極棒53はベアリング56により押し下げられ、接触端子54の2つの接触部54aが基板の端面11aに接触する。接触端子54はばね性を有するので、多少の過剰な押し下げ力が働いても吸収できる。このようにして、可動電極52が基板11の上側の端面11aに接触する。
【0069】
このような状態で、基板ホルダ50にはバイアス印加電源26により負のバイアス電圧が供給され、支持スプリング43と可動電極52を介して基板11に形成された下地層にバイアス電圧が印加される。
【0070】
基板ホルダ50は、可動電極52の上部に板ばね部53cが設けられ、ベアリング56がその板ばね部53cの表面を回転しながら可動電極52を押し下げる。したがって、ベアリング56と板ばね部53cとの摺動を回避でき、パーティクルの発生や膜剥がれを抑制できる。その結果、磁気ディスクの欠陥の発生が抑制され、歩留まりを向上できる。
【0071】
また、可動電極52は、接触端子54に2つの接触部54aが設けられているので、給電箇所が増加し、バイアス電圧分布をいっそう均一化できる。なお、ホルダ導電部51の上辺面11aが曲線状に形成されているが、必ずしも曲線状である必要はない。
【0072】
図8は、第1の実施の形態の第3例に係る基板ホルダの正面図である。第3例に係る基板ホルダは、第2例の変形例である。図中、先に説明した部分に対応する部分には同一の参照符号を付し、説明を省略する。
【0073】
図8を参照するに、基板ホルダ60は、ホルダ導電部51と、ホルダ絶縁部42と、ホルダ導電部51の開口部41aに固着された3つの支持スプリング43と、基板11の上側に設けられた可動電極62等から構成される。可動電極62の接触端子64が異なる以外は、第2例に係る基板ホルダの可動電極と同様であるので、その説明を省略する。
【0074】
接触端子64は、電極棒53の下部から基板の端面11aに沿って両側に延出し、その各々の先端部が略垂直に折り曲げられて形成された接触部64a、64cを有する。さらに、接触端子64は、電極棒53の下部に接触部64bを有する。このように3つの接触部64a〜64cが同時に基板の端面11aに接触することで、可動電極と基板11に形成された下地層12との電気的な導通をいっそう向上させる。なお、バイアス電圧の印加動作は、第2例に係る基板ホルダの場合と同様であるので、その説明を省略する。
【0075】
図9は、第1の実施の形態の第4例に係る基板ホルダの正面図、(A)は可動電極が基板から離れた状態を示し、(B)は可動電極が基板に接触した状態を示す図である。第4例に係る基板ホルダは、第2例の変形例である。図中、先に説明した部分に対応する部分には同一の参照符号を付し、説明を省略する。
【0076】
図9(A)および(B)を参照するに、第4例に係る基板ホルダ70は、ホルダ導電部51と、ホルダ絶縁部42と、ホルダ導電部51の開口部41aに固着された3つの支持スプリング43と、基板11の上側に設けられた可動電極62等から構成される。基板ホルダ70は、可動電極72は、接触端子74が異なる以外は第2例に係る可動電極と同様に構成されている。
【0077】
接触端子74は、電極棒の下部53cから基板11の端面11aに沿って両側に延出するアーム部74a、74bを有し、その各々の先端部が折り曲げられて形成された接触部74c、74dを有する。接触部74c、74dは、電極棒53の下部53cから互いに異なる距離に設けられている。すなわち、一方のアーム部74aが他方のアーム部74bよりも長く設定される。さらに、一方の接触部74cは、アーム部74aと接触部74cが延出する方向とのなす角θを90度よりも大きくなるように設定する。このように設定することで、図9(A)に示すように接触部74cが基板の端面11aから離れた状態から、図9(B)に示すように、ベアリング56により可動電極72を押し下げると、接触部64cにより基板11には矢印Xで示す方向に回転力が作用する。この回転力により、支持スプリング43が基板の端面11aと接触する位置がわずかに移動する。この移動距離は、例えば0.1mm〜2mm程度で十分である。その結果、支持スプリング43の先端部43aは、端面11a上に下地層12が形成されている箇所と接触し、支持スプリング43と下地層との電気的な導通がさらに向上し、バイアス電圧分布を均一化できる。
【0078】
図10は、第1の実施の形態の第5例に係る基板ホルダの正面図、(A)は可動電極が基板から離れた状態を示し、(B)は可動電極が基板に接触した状態を示す図である。第5例に係る基板ホルダは、第2例の変形例である。図中、先に説明した部分に対応する部分には同一の参照符号を付し、説明を省略する。
【0079】
図10(A)および(B)を参照するに、基板ホルダ80は、ホルダ導電部81と、ホルダ絶縁部42と、ホルダ導電部81の開口部81aに固着された3つの支持スプリング43と、基板11の上側に設けられた第1可動電極52と、第1可動電極52に連動する2つの第2可動電極82から構成される。
【0080】
第1可動電極52は、図7に示す第2例に係る基板ホルダの可動電極52と同様に構成され、電極棒の先端に接触端子54が設けられる。第2可動電極82は、第1可動電極52の電極棒53から基板ホルダ80の表面に沿って横方向に延びる第1アーム83と、第1アーム83に連結され、略鉛直方向に延びる第2アーム84と、第2アーム84の先端部に固着された接触端子85等からなる。
【0081】
第1アーム83は、一端を支点86aにより電極棒53に連結され、他端を支点86cにより第2アーム84に連結されている。第1アーム83にはさらに支点86bが設けられ、その支点86bはホルダ導電部81に固定されている。第1アーム83または第2アームは、これらの支点86a〜86cの回りに回動可能となっている。第1アーム83は、電極棒53が下方に押し下げると、支点86aが下がり、他端の支点86cが上方に移動する。
【0082】
第2アーム84は、ホルダ導電部81に設けられた案内溝81a内に配置されている。第2アーム84は、案内溝81aにより横方向の動きがある程度規制されている。第2アーム84は、第1アーム83により支点86cが上下に動作することで、上下方向に動くようになっている。接触端子85は、その先端に接触部85aが設けられている。
【0083】
図10(A)に示すように、基板ホルダ80は、加熱処理や下地層12を形成する真空処理室内では、上述したように、電極棒53が上方に引き上げられ、第1可動電極52の接触部54aと第2可動電極の接触部85aは基板の端面11aから離れた状態になっている。
図10(B)に示すように、記録層13を形成する真空処理室では、ベアリング56により第1可動電極52が押し下げられ、接触部54aが基板の端面11aに接触する。この動作と同時に、第1アーム83は支点86bを固定点として、支点86aが下方に移動したことで支点86c側が上方に移動し、第2アーム84が上方に移動する。その結果、接触端子85が上方に移動し、接触部85aが基板の端面11aに接触する。
【0084】
このようにして、第1可動電極52および2つの第2可動電極82と、支持スプリング43を介して下地層12の表面にバイアス電圧が供給される。したがって、バイアス電圧の面内分布がさらに均一となり、記録層13の保磁力がいっそう均一化されることが期待できる。
【0085】
次に第1の実施の形態の実施例1および2を説明する。実施例1では先の図5に示す第1例の基板ホルダを用いて磁気ディスクを形成し、実施例2では先の図7に示す第2例の基板ホルダを用いて磁気ディスクを形成したものである。
【0086】
最初に、実施例1で用いた基板ホルダを図5を参照しつつ具体的に説明する。なお、基板11の外周端部の紙面上側の位置を0度とし右回りを角度が増加する方向とする(すなわち左回りでは角度が減少する方向。)。なお、実施例2でも角度の定義は同様とした。
【0087】
実施例1で用いた基板ホルダ40は、支持スプリング43が基板11の端部11aに、45度、180度、および315度のそれぞれの位置で接触する。さらに、基板ホルダ40は、可動電極45の接触端子48が基板11の端部11aに15度の位置で接触する。
【0088】
次に実施例2で用いた基板ホルダを図7を参照しつつ具体的に説明する。実施例2で用いた基板ホルダ50は、支持スプリング43が基板11の端部11aに接触する位置は、実施例1で用いた基板ホルダと同様である。さらに、基板ホルダ50は、可動電極52の接触端子54の2つの接触部54aがそれぞれ基板11の端部11aに15度、−15度の位置で接触する。
【0089】
磁気ディスクの製造条件は、実施例1と実施例2とで共通であり、以下のように設定した。最初に周方向にメカニカルテクスチャが形成されたガラス基板(直径64mm)を洗浄後、図3に示す製造装置20を用いて真空雰囲気で基板加熱処理(230℃)を行い、次いで、真空処理室内をアルゴンガス雰囲気、圧力を0.5Pa〜1.0Paに設定し、DCマグネトロンスパッタ法により、シード層(Cr基合金、23nm)、下地層(Cr基合金、5nm)、磁性層(CoCrPt系合金、23nm)および保護膜(ダイアモンドライクカーボン、4nm)をこの順で形成した。磁性層の形成工程では、実施例1および実施例2のそれぞれの基板ホルダに−300Vを供給し、可動電極を基板11に接触させた状態で、投入電力を1000Wに設定して磁性層を形成した。これにより、磁性層形成工程では可動電極および支持スプリングを介して下地層に−300Vのバイアス電圧が供給された状態で磁性層が形成された。また、シード層形成から磁性層形成までの間、基板の持ち替えは行わなかった。
【0090】
図11は、第1の実施の形態に係る実施例の磁気ディスクの保磁力特性図である。図11の縦軸はカー効果測定装置により測定した保磁力である。図11の横軸は上記に定義した角度であり、磁気ディスクの半径31.5mmの位置を角度−10度(あるいは−9度)から10度の範囲を一度おきに測定した。なお、カー効果測定装置のスポット径は直径0.4mmである。
【0091】
図11を参照するに、実施例1の磁気ディスクは、−9度〜10度に亘る保磁力の平均値が4312Oe、標準偏差が101Oeであった。実施例1では、シード層形成から磁性層形成までの間基板も持ち替えをすることなく、所期した保磁力(4000Oe)以上の保磁力が得られ、標準偏差も許容範囲内であった。また、スパーク等の異常も発生しなかった。
【0092】
また、実施例2の磁気ディスクは、−10度〜10度に亘る保磁力の平均値が4547Oe、標準偏差が38Oeであった。また、実施例2の磁気ディスクは、−10度のデータを除いた−9度〜10度に亘る保磁力の平均値が4546Oe、標準偏差が37Oeであった。実施例2では、シード層形成から磁性層形成までの間基板も持ち替えをすることなく、所期した保磁力(4000Oe)以上の保磁力が得られ、標準偏差も許容範囲内であった。また、スパーク等の異常も発生しなかった。
【0093】
さらに実施例2の磁気ディスクは、実施例1の磁気ディスクの磁気ディスクよりも、保磁力の平均値が234Oeも高く、磁気ディスクの高記録密度化に適した基板ホルダおよび製造方法であることが分かる。実施例2の磁気ディスクは保磁力の標準偏差が、実施例1の磁気ディスクに対して、37%しかなく、極めて均一な保磁力分布が得られることが分かる。これは、実施例2に用いた図7に示す基板ホルダ50の可動電極52の接触端子54の接触部54aが2個あるため、1個の接触部48aを有する実施例1に用いた図5に示す基板ホルダ45の可動電極45よりも、接触部54aが確実に基板11の端面11aに接触し、端面に形成された下地層と良好な電気的な導通状態を維持できるためと考えられる。このことから、可動電極の接触端子の接触部は1個よりも複数個有することが好ましいことが分かる。
【0094】
実施例1および実施例2によれば、図5あるいは図7に示す基板ホルダ40,50をそれぞれ用いて、磁性層形成工程において可動電極45,52および支持スプリング43を介して下地層にバイアス電圧を供給することで、磁気ディスクは保磁力の平均値が所期の保磁力を超え、さらに磁気ディスクの周方向に亘って均一な保磁力分布が得られた。さらに、可動電極の接触端子の接触部は1個よりも複数の方が、より高い保磁力およびより均一な保磁力分布が得られることが分かった。
【0095】
(第2の実施の形態)
本発明の第2の実施の形態は、第1の実施の形態に係る製造方法により形成された磁気ディスクを備えた磁気記憶装置に関するものである。
【0096】
図12は、本発明の第2の実施の形態に係る磁気記憶装置の要部を示す図である。図12を参照するに、磁気記憶装置90は大略ハウジング91からなる。ハウジング91内には、スピンドル(図示されず)により駆動されるハブ92、ハブ92に固定され回転される磁気ディスク93、アクチュエータユニット94、アクチュエータユニット94に取り付けられ磁気ディスク93の半径方向に移動されるアーム95およびサスペンション96、サスペンション96に支持された磁気ヘッド98が設けられている。磁気ヘッド98は、MR素子(磁気抵抗効果型素子)、GMR素子(巨大磁気抵抗効果型素子)、またはTMR素子(トンネル磁気効果型)等の再生ヘッドと誘導型の記録ヘッドとの複合型ヘッドからなる。この磁気記憶装置90の基本構成自体は周知であり、その詳細な説明は本明細書では省略する。
【0097】
磁気ディスク93は、例えば、第1の実施の形態に係る製造方法により形成された磁気ディスクである。磁気ディスク93は、その表面全体に亘って均一な保磁力分布を有する記録層が形成されることが期待できる。その結果、磁気ディスク93の高記録密度化が可能となる。また、複数の箇所からバイアス電圧が供給されることで、異常放電の発生を抑制し、異常放電の発生に起因する欠陥の発生を抑制できる。その結果、歩留まりが向上することが期待できる。したがって、大容量で製造コストの低廉な磁気記憶装置90を実現できる。
【0098】
なお、本実施の形態に係る磁気記憶装置90の基本構成は、図12に示すものに限定されるものではなく、磁気ヘッド98は上述した構成に限定されず、公知の磁気ヘッドを用いることができる。
【0099】
以上本発明の好ましい実施の形態について詳述したが、本発明は係る特定の実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。例えば、第1例から第4例に係る基板ホルダにおいて、支持スプリングの配置および数を総て同様として説明したが、本発明の作用・効果を損なわない限り支持スプリングの配置および数を適宜変更してもよい。
【0100】
なお、以上の説明に関してさらに以下の付記を開示する。
(付記1) 導電性の基板ホルダに、導電性材料からなる複数の基板支持部材により絶縁性基板を支持して、該絶縁性基板の表面に導電層を形成する第1の工程と、
スパッタ法により前記導電層に負のバイアス電圧を供給して、該導電層上に記録層を形成する第2の工程とを含む磁気ディスクの製造方法であって、
前記第2の工程は、
前記第1の工程において前記基板支持部材により絶縁性基板を支持した状態で、可動電極を絶縁性基板の端面上の導電層に接触させ、該可動電極および基板支持部材を介して導電層にバイアス電圧を供給しながら記録層を堆積することを特徴とする磁気ディスクの製造方法。
(付記2) 前記基板支持部材は、複数の支持スプリングからなり、該支持スプリングの各々の先端部が絶縁性基板の外縁部の端面に接触するように略所定の間隔で離隔して配置されてなり、
前記可動電極は、隣り合う支持スプリング間の前記端面上の導電層に接触させることを特徴とする付記1記載の磁気ディスクの製造方法。
(付記3) 前記可動電極は、電極体と、該電極体の先端部に設けられた接触端子と、電極スプリングを有し、
前記第1の工程において、前記電極スプリングがばね力を作用させて接触端子を前記端面から離隔させ、
前記第2の工程において、前記可動電極を電極スプリングがばね力の方向に逆らう方向に押圧して前記接触端子を端面上の導電層に接触させることを特徴とする付記1または2記載の磁気ディスクの製造方法。
(付記4) 前記接触端子は複数の接触部を有し、該接触部の各々が前記端面上の導電層に接触することを特徴とする付記1〜3のうち、いずれか一項記載の磁気ディスクの製造方法。
(付記5) 前記可動電極は、絶縁性基板の上側に配置され、真空処理室内に設けられた押圧手段により該可動電極を下方に押圧して絶縁性基板の上側の端面の導電層に接触端子を接触させることを特徴とする付記1〜4のうち、いずれか一項記載の磁気ディスクの製造方法。
(付記6) 前記押圧手段は、前記基板ホルダの移動方向に回転するベアリングを含み、該ベアリングが可動電極の上面に接触して、該可動電極を下方に押圧することを特徴とする付記5記載の磁気ディスクの製造方法。
(付記7) 前記電極スプリングは、そのばね力が、可動電極を上方に押し上げて接触端子を端面から離隔させる方向に作用することを特徴とする付記5記載の磁気ディスクの製造方法。
(付記8) 前記可動電極が端面に接触する際に、前記接触端子が基板の周方向に力を印加して絶縁性基板を回転させ、前記基板支持部材と絶縁性基板の端面との接触位置を移動させることを特徴とする付記1〜7のうち、いずれか一項記載の磁気ディスクの製造方法。
(付記9) 前記接触端子は板ばねからなり、その基部が電極体に固着され、その先端部が折曲されて接触部を形成してなることを特徴とする付記4〜8のうち、いずれか一項記載の磁気ディスクの製造方法。
(付記10) 前記電極スプリングは電極体と一体化されてなることを特徴とする付記3〜9のうち、いずれか一項記載の磁気ディスクの製造方法。
(付記11) 前記第2の工程は、複数の前記可動電極の各々を絶縁性基板の端面に略等間隔で接触させることを特徴とする付記1〜10のうち、いずれか一項記載の磁気ディスクの製造方法。
(付記12) 前記複数の可動電極は、そのうちの一つを押圧することで総ての可動電極が絶縁性基板の端面に接触してなることを特徴とする付記11記載の磁気ディスクの製造方法。
(付記13) 前記第2の工程の後に、
プラズマCVD法により前記記録層に負のバイアス電圧を供給して、該記録層上に保護膜を形成する第3の工程をさらに備え
前記第3の工程は、
前記第1の工程において前記基板支持部材により絶縁性基板を支持した状態で、可動電極を絶縁性基板の端面上の導電層に接触させ、該可動電極および基板支持部材を介して導電層および記録層にバイアス電圧を供給しながら保護膜を堆積することを特徴とする付記1〜12のうち、いずれか一項磁気ディスクの製造方法。
(付記14) 絶縁性基板と、
前記絶縁性基板上に、導電層と、記録層とを備える磁気ディスクであって、
付記1〜13のうち、いずれか一項記載の製造方法により形成されることを特徴とする磁気ディスク。
(付記15) 付記14記載の磁気ディスクと、
記録再生手段とを備える磁気記憶装置。
(付記16) 導電性ホルダと、
各々前記導電性ホルダと接触し、絶縁性基板を挟持する複数の導電性基板支持部材と、
前記絶縁性基板に対して接触および離脱自在に支持される可動電極と、
を備える基板保持機構。
【図面の簡単な説明】
【0101】
【図1】従来のバイアスの印加機構を説明するための図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態に係る製造方法により形成される磁気ディスクの一例を示す要部断面図である。
【図3】磁気ディスクの製造装置の概略図である。
【図4】第1の実施の形態に係る製造方法に用いられる真空処理室の構成図である。
【図5】第1の実施の形態の第1例に係る基板ホルダの正面図、(A)は可動電極が基板から離れた状態を示し、(B)は可動電極が基板に接触した状態を示す図である。
【図6】支持スプリングの接触部と下地層との接触の様子を説明するための図である。
【図7】第1の実施の形態の第2例に係る基板ホルダの正面図、(A)は可動電極が基板から離れた状態を示し、(B)は可動電極が基板に接触した状態を示す図である。
【図8】第1の実施の形態の第3例に係る基板ホルダの正面図である。
【図9】第1の実施の形態の第4例に係る基板ホルダの正面図、(A)は可動電極が基板から離れた状態を示し、(B)は可動電極が基板に接触した状態を示す図である。
【図10】第1の実施の形態の第5例に係る基板ホルダの正面図、(A)は可動電極が基板から離れた状態を示し、(B)は可動電極が基板に接触した状態を示す図である。
【図11】第1の実施の形態に係る実施例の磁気ディスクの保磁力特性図である。
【図12】本発明の第2の実施の形態に係る磁気記憶装置の要部を示す図である。
【符号の説明】
【0102】
10 磁気ディスク
11 基板
11a 端面
12 下地層
13 記録層
14 保護膜
20 製造装置
21 ロードロック室
22A〜22D 真空処理室
23 アンロードロック室
24 搬送機構
25 仕切弁
26 バイアス印加電源
28 呼込み板
30 ガス供給機構
31 ガス排気機構
32 ターゲット
33 ターゲットホルダ
34 カソード
35 スパッタ電源
36 絶縁材
37 プラズマ発生部
40、50、60、70 基板ホルダ
41、51 ホルダ導電部
41a 開口部
42 ホルダ絶縁部
43 支持スプリング(支持部材)
45、52 可動電極
46、53 電極棒
48、54、61、71 接触端子
48a、54a、74c、74d 接触部
49 スプリング
53b 支点
53c 板ばね部
56 ベアリング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性の基板ホルダに、導電性材料からなる複数の基板支持部材により絶縁性基板を支持して、該絶縁性基板の表面に導電層を形成する第1の工程と、
スパッタ法により前記導電層に負のバイアス電圧を供給して、該導電層上に記録層を形成する第2の工程とを含む磁気ディスクの製造方法であって、
前記第2の工程は、
前記第1の工程において前記基板支持部材により絶縁性基板を支持した状態で、可動電極を絶縁性基板の端面上の導電層に接触させ、該可動電極および基板支持部材を介して導電層にバイアス電圧を供給しながら記録層を堆積することを特徴とする磁気ディスクの製造方法。
【請求項2】
前記可動電極は、電極体と、該電極体の先端部に設けられた接触端子と、電極スプリングを有し、
前記第1の工程において、前記電極スプリングがばね力を作用させて接触端子を前記端面から離隔させ、
前記第2の工程において、前記可動電極を電極スプリングがばね力の方向に逆らう方向に押圧して前記接触端子を端面上の導電層に接触させることを特徴とする請求項1記載の磁気ディスクの製造方法。
【請求項3】
前記可動電極は、絶縁性基板の上側に配置され、真空処理室内に設けられた押圧手段により該可動電極を下方に押圧して絶縁性基板の上側の端面の導電層に接触端子を接触させることを特徴とする請求項1または2記載の磁気ディスクの製造方法。
【請求項4】
前記可動電極が端面に接触する際に、前記接触端子が基板の周方向に力を印加して絶縁性基板を回転させ、前記基板支持部材と端面との接触位置を移動させることを特徴とする請求項1〜3のうち、いずれか一項記載の磁気ディスクの製造方法。
【請求項5】
絶縁性基板と、
前記絶縁性基板上に、導電層と、記録層とを備える磁気ディスクであって、
請求項1〜4のうち、いずれか一項記載の製造方法により形成されることを特徴とする磁気ディスク。
【請求項6】
請求項5記載の磁気ディスクと、
記録再生手段とを備える磁気記憶装置。
【請求項7】
導電性ホルダと、
各々前記導電性ホルダと接触し、絶縁性基板を挟持する複数の導電性基板支持部材と、
前記絶縁性基板に対して接触および離脱自在に支持される可動電極と、
を備える基板保持機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2006−216216(P2006−216216A)
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−2970(P2006−2970)
【出願日】平成18年1月10日(2006.1.10)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】