説明

磁気ディスクの検査方法およびレベルヘッド

【課題】 液体潤滑剤の塗布厚み斑によって生じた液体潤滑剤の突出した部分とグライド
ヘッドの衝突で圧電素子から電圧が発生し、グライドハイト不良品との誤判定、また、グ
ライドヘッドから連続して出力が出る異常出力現象が多発して、グライドハイト検査の正
確性と作業性を阻害している。
【解決手段】 レベルヘッドを採用することで、液体潤滑剤の塗布厚み斑を解消すること
ができ、グライド検査で誤判定や異常出力現象の発生を防ぐ。レベルヘッドの浮上高さや
浮上ピッチ角、浮上面粗さRaの最適化することで、液体潤滑剤の平坦化能率の高いレベ
ルヘッドを得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンピューターの外部記憶装置等として使用される磁気記憶装置に搭載され
る、高密度磁気記録用磁気ディスクの検査方法およびレベルヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
高密度磁気記録を達成するため、線記録密度とトラック密度を上げる方法が従来から取
られてきた。線記録密度及びトラック密度を上げるに従い、記録再生する磁気ヘッドと磁
気ディスクの磁性層表面間との距離である磁気的間隔量を低減することが必要である。磁
気的間隔量は、磁気ディスク表面の保護膜厚と潤滑膜厚、記録再生ヘッドの浮上量、記録
再生ヘッドの磁極保護膜厚の総和である。そのため、各々の膜厚や浮上量を小さくするこ
とが検討されている。
【0003】
磁気的間隔量を低減すると、一般にヘッドクラッシュと言われる磁気記憶装置にとって
致命的な事故が起こる危険性が増大するものである。ヘッドクラッシュを引起す原因は種
々あるが、その内の一つとして磁気ディスク表面の突起が挙げられる。記録再生磁気ヘッ
ドが磁気ディスクの比較的大きな突起に何度も衝突し、その突起部分から磁気ディスク表
面の損傷が広範囲に拡大して、記録や再生ができなくなるヘッドクラッシュが発生する。
また、磁気ディスク表面の損傷で発生した粉塵により、磁気ディスク表面や記録再生磁気
ヘッドに機械的な傷を与え、記録や再生ができなくなる。この様なヘッドクラッシュを引
起す原因の一つである磁気ディスク表面の突起は、磁気ディスクの製造工程で主に発生し
ている。磁気ディスクはアルミニウム合金やガラスなどの非磁性基板に、下地膜、磁性膜
、保護膜、潤滑膜を順次積層した構造となっている。下地膜や磁性膜、保護膜はスパッタ
ー装置を用いて形成される。スパッター装置内で付着した異物、スパッター装置外の工程
で付着した異物が、突起になると考えられている。
【0004】
ヘッドクラッシュの原因となる突起や付着異物を除去し、所定内の突起高さであるかを
検査したのち、磁気ディスクのエラー検査を行って磁気ディスクの品質を確保している。
磁気ディスク表面の突起や付着異物を除去するのが、バーニッシュヘッドである。所定内
の突起高さであるかを検査するのが、グライドヘッドである。磁気ディスクのエラー検査
を行うのが、サーティファイヘッドである。磁気ディスクの検査工程は、第1工程でバー
ニッシュヘッド、第2工程でグライドヘッド、第3工程でサーティファイヘッドを用いる
のが一般的である。
【0005】
バーニッシュヘッドは、その名の通り磁気ディスク表面の突起を削り、付着異物を除去
することで、磁気ディスク表面を滑らかにするものである。バーニッシュヘッドは磁気デ
ィスク表面を摺動し、突起を削り付着異物を除去するため、スライダーの浮上面に特殊形
状を施したものが特許文献1に記載されている。また、特許文献2には、磁気ディスクと
バーニッシュヘッドの吸着を防止するため、バーニシュヘッドの表面粗さRa(Å)>6
0Å−媒体表面粗さRa(Å)×2(ただし、被検査磁気ディスクの表面粗さRa≦30
Å)を満たすことが好ましいとの記載がある。
【0006】
【特許文献1】米国特許公報第4845816号 Fig.3
【特許文献2】特開平10−112023号公報
【0007】
グライドヘッドは、記録再生磁気ヘッドの浮上量の70%程度の浮上量で浮上して、突
起の有無を検査するものである。グライドヘッドは数種実用化されているが、圧電素子を
搭載したものとヘッド外部にAE(Acoustic Emission)センサーを取
り付けたものが主流となっている。圧電素子方式とAE方式は、磁気ディスクの表面に発
生した微小な突起物とグライドヘッドのスライダーが衝突して生じる振動を電圧に変換す
る方法が異なるだけなので、本願では圧電素子方式で説明を行なう。圧電素子方式のグラ
イドヘッドは、スライダーの背部に圧電素子が設けられており、スライダーが突起と衝突
した際に発生する衝撃波がスライダーを伝播し、圧電素子を振動変形させる。振動変形し
た圧電素子の電極には電荷が誘起され、電極間電圧を取出すことにより、突起物の検出を
行うものである。グライドヘッドの構造は、特許文献3と4に示されている。特許文献5
には、グライドヘッドの出力の周波数からグライドヘッドが硬い突起に衝突したか、液体
潤滑剤の様な軟らかい突起状のものに衝突したかを判断する方法が開示されている。
【0008】
【特許文献3】特開平11−16163号公報 図1から図3
【特許文献4】特開2003−272131号公報 図8
【特許文献5】特開2003−30944号公報
【0009】
サーティファイヘッドは、特許文献6に記載のように磁気ディスクの記録再生信号欠陥
(エラー)を検査するヘッドで、スライダーの空気流出端近傍に記録再生素子が設けられ
ている。磁気ディスクのエラーは、磁性層作製時に発生した磁性層の部分的な欠損や、磁
性層の部分的磁気特性の劣化、バーニッシュヘッドで突起を除去した後の磁性層の欠損や
劣化等々で発生する。エラーの数により磁気ディスクの合否を判断する。エラーの数やエ
ラー部位の出力電圧等を詳細に調べるため、検査する磁気ディスクと組み合わせて磁気記
憶装置を構成する記録再生磁気ヘッドと同仕様のヘッドを、サーティファイヘッドとして
用いることが多く行われている。
【0010】
【特許文献6】特開2000−55883号公報
【0011】
磁気ディスクの積層構造については特許文献2に記載されているので、積層構造、厚み
等を抜粋する。鏡面加工されたアルミニウム合金基板に5〜20μm厚の非磁性金属を形
成した後、基板表面に微細な溝や凹凸を設けるテクスチャー加工を施し、50〜2000
Å厚に第2次下地層のCrをスパッターで形成する。第2次下地層のCrの上に、200
〜2500Å厚に磁性層、100〜1000Å厚に炭素質保護層をスパッター等で形成す
る。更に、特許文献7に記載があるように、保護層の上に10〜30Å厚にパーフルオロ
ポリエーテル等のフルオロカーボン系の液体潤滑剤が塗布され、磁気ディスクの製造工程
が終了し、検査工程に入る。検査工程では先に述べたように、第1工程でバーニッシュヘ
ッドを用いて突起の研削や付着異物の除去、第2工程でグライドヘッドを用いて突起高さ
の検査、第3工程でサーティファイヘッドを用いてエラー検査を行い、磁気ディスクの完
成となる。
【0012】
【特許文献7】特開2003−151233号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
一般的な液体潤滑剤の塗布方法としては、液体潤滑剤中に磁気ディスクを浸し引き上げ
るディッピング法、回転させた磁気ディスク上に液体潤滑剤を滴下するスピンコート法で
ある。高記録密度化に伴い液体潤滑剤の厚みも薄くなって来ており、10〜20Å厚と薄
く液体潤滑剤を塗布すると、液体潤滑剤の粘度や表面張力、保護層との親和力等から、液
体潤滑剤の厚みが斑になり均一に塗れないと言う問題が発生してきた。
【0014】
磁気ディスク表面の突起だけでなく、磁気ディスク表面に塗布されている液体潤滑剤の
斑が問題となって来た。液体潤滑剤の塗布厚み斑によって生じた局部的な、液体潤滑剤の
突出した部分とヘッドの衝突である。特に、グライドヘッドを用いた突起高さの検査時に
、液体潤滑剤の突出した部分とグライドヘッドとの衝突で圧電素子から電圧が発生し、グ
ライドハイト不良品と誤判定してしまう。また、液体潤滑剤の突出した部分と接触した後
、グライドヘッドから連続して出力が出る異常出力現象が多発して、グライドハイト検査
の正確性と作業性を阻害している。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の磁気ディスクの検査方法は、回転する磁気ディスク上に検査ヘッドを保持し、
磁気ディスクの欠陥を検査する工程で、検査ヘッドにバーニッシュヘッドとレベルヘッド
、グライドヘッド、サーティファイヘッドを用いることが好ましい。
【0016】
レベルヘッドは磁気ディスク上を所定の高さで浮上し、液体潤滑剤の塗布厚み斑を解消
するものである。レベルヘッドのイメージは、壁を塗装する際の塗装材の凹凸部を金ごて
で撫ぜる様にして平坦化するもので、塗装材の凹凸が液体潤滑剤の塗布厚の斑、金ごてが
レベルヘッドに当るものである。
【0017】
本発明の磁気ディスクの検査方法は、磁気ディスク検査の第1工程でバーニッシュヘッ
ド、第2工程でレベルヘッド、第3工程でグライドヘッド、第4工程でサーティファイヘ
ッドを用いることが好ましい。
【0018】
バーニシュヘッドを用いて突起物を削り、付着物を除去した後に、レベルヘッドで液体
潤滑剤の塗布厚み斑を解消し、グライドヘッドでグライドハイト検査、サーティファイヘ
ッドでエラー検査を行う。レベルヘッドを用いることで液体潤滑剤の塗布厚み斑が解消さ
れるため、グライドヘッドを用いたグライドハイト検査で、液体潤滑剤の突出した部分を
突起と誤判断したり、連続して出力が出る異常出力現象を防ぐことができる。
【0019】
磁気ディスクを回転させるスピンドル当り、バーニシュヘッド、レベルヘッド、グライ
ドヘッド、サーティファイヘッドを個別に設けても良いし、バーニシュヘッドとレベルヘ
ッド、グライドヘッドとサーティファイヘッドを同一のスピンドルに設けても良い。また
、バーニシュヘッドとレベルヘッド、グライドヘッドを同一のスピンドルに設ける等、組
み合わせは自由にできる。
【0020】
本発明の磁気ディスクの検査方法は、磁気ディスク検査の第1工程でバーニッシュヘッ
ド、第2工程でグライドヘッドを用い第2工程で良品と判断された磁気ディスクは第3工
程でサーティファイヘッドを用い、第2工程で不良と判断された磁気ディスクは、第3工
程でレベルヘッド、第4工程でグライドヘッド、第5工程でサーティファイヘッドを用い
ることが好ましい。
【0021】
バーニシュヘッドの後、全ての磁気ディスクにレベルヘッドを適用せずとも良いもので
ある。従来の検査工程通り、バーニシュヘッドの後グライドヘッドを用い、グライドヘッ
ド検査を合格した磁気ディスクはサーティファイヘッドでエラー検査に進み検査工程を終
らせ、グライド検査で不良となった磁気ディスクのみ、レベルヘッド用いた後再度グライ
ド検査を行っても良い。本方式の磁気ディスク検査方法は、レベルヘッドを全ての磁気デ
ィスクに適用しないため、検査工数の低減が図れる。本方式であれば、従来のn式の検査
装置(工程)に数分のn台のレベルヘッドを用いるスピンドルを増やすだけで済むため、
少ない費用と狭い設置面積でレベルヘッドを適用できる。
【0022】
本発明の磁気ディスクの検査方法は、レベルヘッドの浮上高さは、グライドヘッドの浮
上高さの40%以上70%以下であることが好ましい。
【0023】
レベルヘッドの浮上量がグライドヘッドの浮上量の70%以上では、液体潤滑剤の塗布
厚み斑が解消されず、グライド検査で突起と判断する誤判定や異常出力現象が発生する。
グライドヘッドの浮上量の40%以下とすると、レベルヘッドが実際の突起と衝突する回
数が多くなり、レベルヘッドの磨耗が激しくなり寿命が短くなる。また、液体潤滑剤との
接触圧力が大きくなるためか、レベルヘッドが磁気ディスクに吸着する現象が発生するた
めである。
【0024】
本発明のレベルヘッドは、浮上面と磁気ディスク表面とが成す角度である浮上ピッチ角
が、0μrad以上85μrad以下であることが好ましい。
【0025】
浮上ピッチ角が0μrad未満つまり、流入側の方の浮上量が低いと言う前のめりにな
った浮上姿勢では、液体潤滑剤の突出し部分にレベルヘッドが突っ込む様な状態になり、
レベルヘッドが振動したり、レベルヘッドと磁気ディスク表面が擦れあって傷を発生させ
る。レベルヘッドのイメージとして、塗装材の凹凸部を金ごてで撫ぜる様にして平坦化す
ると前述した通り、金ごての動かす方向側を僅か持上げるのが平坦化し易いものである。
浮上ピッチ角が85μradを超える大きな値を取ると、液体潤滑剤の平坦化が悪くなる
。これは、液体潤滑剤の突出した部分とスライダーのレール浮上面との接触する距離(時
間)が短くなるためと考えられる。同一浮上量のレベルヘッドでピッチ角が0μradで
はレール全長が、液体潤滑剤の突出した部分と接触するが、ピッチ角が大きくなるに従い
接触する距離(時間)が短くなる。
【0026】
液体潤滑剤面の平坦度を上げるには液体潤滑剤の突出した部分と、スライダーのレール
浮上面との接触する距離(時間)を長くすることが有効である。このことからスライダー
浮上面は、レールを長く設計できる正圧型2レール形状が好ましい。また、正圧型2レー
ル形状のスライダーでも、浮上ピッチ角を下げるため、スライダ−背面に加える荷重を大
きくしたり、荷重位置を一般の記録再生ヘッドに比べて流入側方向に配する等を行うこと
が好ましい。
【0027】
本発明のレベルヘッドは、浮上面の面粗さRaが、磁気ディスク表面の面粗さより粗く
、40Å以下であることが好ましい。
【0028】
浮上面の面粗さRaが小さいと磁気ディスクとの吸着を起こし易いだけでなく、液体潤
滑剤の平坦化の能率も低くなる。レール浮上面の面粗さRaが小さいと、液体潤滑剤の突
出した部分と接触しても、液体潤滑剤の表面を擦るだけで液体潤滑剤を引き伸ばす様な、
効果が発揮できないためと考えられる。液体潤滑剤を引き伸ばすには、液体潤滑剤とレー
ル浮上面との摩擦力が必要である。面粗さRaを大きくすることで、摩擦力得る事ができ
るので、磁気ディスクの面粗さと同等以上とするのが良い。レール浮上面の面粗さRaを
磁気ディスクより余り大きくすると、レール浮上面への液体潤滑剤の付着が多くなる。浮
上面に液体潤滑剤が付着すると、浮上面の面粗さが実質的に細かくなり平坦化の能率も低
下してしまう。そのため、レール浮上面の面粗さRaは40Å以下が好ましいものである

【発明の効果】
【0029】
レベルヘッドを採用することで、液体潤滑剤の塗布厚み斑を解消することができ、グラ
イド検査で液体潤滑剤の突出した部分を突起と判断する誤判定や、異常出力現象の発生を
防ぐことができ、検査精度と能率の向上が図れた。レベルヘッドの浮上高さや浮上ピッチ
角、浮上面粗さRaの最適な範囲を明らかにし、液体潤滑剤の平坦化能率の高いレベルヘ
ッドを供給することができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、図面を用いて本発明の実施の形態を詳細に説明する。説明を判り易くするため、
同じ部品、部位には同一の符号を用いている。
【実施例1】
【0031】
本実施例の磁気ディスクの主な仕様に付いて述べる。磁性層等の材質や厚みは、従来技
術と略同じとしたので詳細な説明は省略する。液体潤滑剤はパーフルオロポリエーテルを
用い、平均20Åの厚みになる様に塗布した。特に断わりのない限り、次の仕様のヘッド
を用いている。バーニッシュヘッド1は、図1a)に示した斜め格子の溝が入ったものを
用いた。レベルヘッド2は、図1b)に示した正圧型2レール形状のスライダーで、浮上
量が12m/sの周速で5nm、浮上ピッチ角が50μradである。グライドヘッド3
は、図1c)に示した正圧型2レール形状のスライダー側面の張出し部に、圧電素子を配
したものである。浮上量は12m/sの周速で8nm、浮上ピッチ角が200μradで
ある。サーティファイヘッド4は、図1d)に示した負圧型スライダーの記録再生ヘッド
を用いた。サーティファイヘッドの浮上量は11nmである。
【0032】
バーニシュヘッド1は、斜め格子の溝入スライダー5をサスペンション6に接着してい
る。レベルヘッド2は、正圧型2レール形状のスライダー7を、サスペンション6に接着
している。グライドヘッド3は、正圧型2レール形状のスライダー8側面の張出し部9に
圧電素子10が設けられている。圧電素子の両端電極部にワイヤー11が設けられ、サス
ペンション6に絶縁チューブを介して固定し、外部に電気信号を引出した。サーティファ
イヘッドは負圧型スライダー12で、流出端部に磁気抵抗効果型の再生ヘッド素子と誘導
型の記録ヘッド素子からなる記録再生素子13が設けられている。記録再生素子の記録ヘ
ッド素子への記録信号、再生ヘッド素子からの再生信号はワイヤー14を介して行なって
いる。バーニッシュヘッドとレベルヘッド、グライドヘッド、サーティファイヘッドのス
ライダー材は、何れもアルミナチタンカーバイド(ATC)のセラミックを用いた。
【0033】
本実施例で、レベルヘッドの浮上量や浮上ピッチ角、浮上面の面粗さと諸特性の関係を
求めるときは、図2に示すように磁気ディスク20の片面に、レベルヘッド2とグライド
ヘッド3を取付けられる構造の検査装置を用いた。図2は、レベルヘッド2とグライドヘ
ッド3の位置関係を判り易くするため、両ヘッドが磁気ディスク上にあるように描いてい
る。実際は、レベルヘッド2を用いて径方向に移動させている時は、グライドヘッド3は
磁気ディスク面からは退避している。バーニシュヘッド1とサーティファイヘッド4は、
磁気ディスクの両面を同時に検査できる検査工程用装置を用いた。また、グライドヘッド
3の寿命等を求めるのは、磁気ディスクの両面を同時に検査できる検査工程用装置を用い
ている。図2では、レベルヘッドやグライドヘッドを径方向に移動させる部品等の図示は
省いている。グライドヘッド3は、ワイヤー21で測定器22に接続している。測定器2
2は、圧電素子の出力電圧と出力波形を測定できるものである。
【0034】
本実施例で用いたレベルヘッド2の正圧型2レール形状のスライダー7の平面形状を図
3に示す。スライダー全長L1は1.25mm、スライダー全幅L9は0.95mmで、
2本の浮上面(浮上レール)31の幅L8は0.1mmである。浮上レールの空気流入端
32側には、約0.5度の空気導入領域L5が0.2mm設けられている。レールの空気
流出端33側には、約45度で面取りした領域L7を0.03mm設けている。空気流を
受けて正圧を発生するのはL2の1.22mmである。浮上面31の平坦部はL6であり
、L6領域の傾きから浮上ピッチ角を求めている。レベルヘッドの浮上ピッチ角は0μr
adから85μradと、グライドヘッドの浮上ピッチ角200μradより小さくする
ため、荷重点34をスライダー全長L1の略中央位置に設け、L3を0.625mmとし
た。
【実施例2】
【0035】
レベルヘッドの浮上量の効果は、グライドヘッドの誤判定率と異常出力発生率、グライ
ドヘッドの寿命、レベルヘッドの寿命から求めた。グライドヘッドの浮上量は12m/s
の周速で8nmとし、レベルヘッドの浮上量はグライドヘッドの浮上量の30%から10
0%まで約10%間隔で変化させた。レベルヘッドの浮上量は、荷重を変えることで変化
させた。図4に、浮上量と浮上ピッチ角を模擬的に示している。図4a)はレベルヘッド
2で、浮上量htで2.4nm(30%に相当)から8nm(100%に相当)まで変化
させた。浮上ピッチ角Θtは50μradである。図4b)はグライドヘッドで、浮上量
hbは8nm、浮上ピッチ角Θbは200μradである。
【0036】
図5に、レベルヘッド浮上量/グライドヘッド浮上量(%)とレベルヘッドの寿命、グ
ライドヘッド寿命、異常出力発生率、誤判定率の関係を示す。各レベルヘッドの浮上量で
、200枚の磁気ディスクを測定し、異常出力発生率と誤判定率の結果を求めた。レベル
ヘッドとグライドヘッドの寿命は、各ヘッドの機能が得られなくなって交換するまでに検
査した磁気ディスクの枚数で求めた。誤判定率は、グライドヘッドが検出した突起数のう
ち液体潤滑剤の突出した部分を突起と判定した比率で求めている。誤判定率=液体潤滑剤
の突出した部分/(液体潤滑剤の突出した部分+突起部分)×100%で求めた。グライ
ドヘッドが検出した突起のうち、200kHz以上の振動数を有する信号はスパッター等
で発生した突起部分と接触したもので、200kHz未満の振動数を有する信号は液体潤
滑剤の突出した部分で接触したものとしている。誤判定率が低いほど、レベルヘッドで液
体潤滑剤の突出した部分が平滑化されたものと判断できる。レベルヘッドの浮上量がグラ
イドヘッドの浮上量の30%では、誤判定率は5%程度であるが浮上量80%では誤判定
率は倍の10%以上になった。誤判定率からレベルヘッドの浮上量はグライドヘッドの浮
上量の75%以下が好ましいと言う結果が得られた。
【0037】
異常出力とは、グライドヘッドで検査中にグライドヘッドの出力が出っ放しの状態にな
るものである。異常出力が発生する原因の一つとして、潤滑剤の突出した部分とグライド
ヘッドの接触が考えられる。異常出力発生率=異常出力での不良数/(異常出力での不良
数+グライドハイトでの不良数)×100%で求めた。レベルヘッド浮上量が80%前後
で急激に異常出力発生率が変化している。異常出力発生率からレベルヘッドの浮上量は、
グライドヘッドの浮上量の80%以下が好ましいと言う結果が得られた。
【0038】
グライドヘッドの寿命は、主にグライドヘッドの磨耗で決まる。レベルヘッド浮上量が
大きくなるに従い、グライドヘッドの寿命が低下している。レベルヘッド浮上量100%
は、言い換えるとレベルヘッドを用いない従来の検査方法と同等と言える。この事からレ
ベルヘッドを用いることで、グライドヘッドの寿命を長くすることができる。レベルヘッ
ドは液体潤滑剤の突出し部分の平滑化だけでなく、突起を除去する能力も兼ねていると思
われる。グライドヘッドの長寿命化で製造コストの削減が可能となった。
【0039】
レベルヘッドの寿命も、グライドヘッドと同様に磨耗で決まる。レベルヘッド浮上量が
小さくなるに従い、レベルヘッドの寿命が悪化しており、レベルヘッドの浮上量が40%
を切ると急激に寿命が変化している。これは、バーニシュヘッドで除去しきれなかった、
グライドハイトより低い突起との接触回数の増加により、磨耗が進行しているものと考え
られる。レベルヘッドの寿命とグライドヘッドの誤判定率と異常出力発生率、グライドヘ
ッドの寿命から、余裕を見てもレベルヘッドの浮上量はグライドヘッドの浮上量の40%
以上70%以下が好ましいと言える。
【実施例3】
【0040】
図6に、レベルヘッド浮上ピッチ角とグライドヘッド誤判定率の関係を示す。レベルヘ
ッドの浮上量はグライドヘッド浮上量の60%で、浮上ピッチ角は−60μradから1
20μradまで15μradから20μrad間隔で変化させた。浮上ピッチ角は荷重
点を変化させることで実現した。マイナスの浮上ピッチ角は、ヘッドが前のめりの状態に
なっているものである。レベルヘッドのピッチ角が−10μradから90μradの範
囲では、誤判定率は5%程度と安定しているが、これらの範囲を外れると急激に誤判定率
が悪化している。−10μradから90μradの範囲では、液体潤滑剤を平坦化させ
る事ができるが、これ以外の範囲では平滑化能力が落ちてしまうためと考えられる。この
ことから、レベルヘッドの浮上ピッチ角は、余裕分も考慮すると0μrad以上85μr
ad以下が良いと言える。
【0041】
図7に、レベルヘッドの浮上ピッチ角と液体潤滑剤の平坦化のイメージを示している。
図7a)はマイナスの浮上ピッチ角で図6の−60μrad程度を想定、図7b)は好適
な範囲としている0μrad以上85μrad以下の浮上ピッチ角を想定、図7c)は図
6の120μrad程度の浮上ピッチ角を想定した図である。図7a)のマイナスの浮上
ピッチ角では、レベルヘッドの流入端側に液体潤滑剤の突出し部分を押し戻す様なイメー
ジである。スライダーの流出端側浮上量が高いため、液体潤滑剤がスライダー浮上面の平
坦部で磁気ディスク表面に押付けられる距離(時間)が短くなり、液体潤滑剤の平坦化が
できなかったものと考えられる。図7b)の好適な浮上ピッチ角では、液体潤滑剤の突出
し部分がスライダー浮上面の平坦部の流入端側近傍から接触し始め流出端まで、スライダ
ー浮上面で擦られ磁気ディスク面に塗り込められるように平坦化されるとみられる。図7
c)の浮上ピッチ角が大きい場合は、液体潤滑剤の突出し部分と接するのが流出端近傍に
限られるので、液体潤滑剤がスライダー浮上面の平坦部で磁気ディスク表面に押付けられ
る距離(時間)が短くなり、液体潤滑剤の平坦化ができなかったものと考えられる。液体
潤滑剤の平坦化には、液体潤滑剤の突出し部分とスライダー浮上面の平坦部との接触距離
(時間)が長いことが重要である。同接触距離(時間)を長くする方策の一つが、浮上ピ
ッチ角の好適化である。
【0042】
接触距離(時間)を長くする他の方策として、図7c)の浮上ピッチ角の大きい状態で
、周速を半分にして試験した。勿論、浮上量と浮上ピッチ角は同じになる様に、荷重と荷
重点等を調節した。グライドヘッドの誤判定率は20数%まで低下し、接触距離(時間)
の長さの効果を確認できた。しかし、周速が遅いためかレベルヘッドと磁気ディスクの吸
着が多発する結果となった。レベルヘッドは、磁気ディスクと吸着が発生し難い周速以上
の速度で浮上させ、浮上ピッチ角を0μrad以上85μrad以下とするのが、好まし
いことが確認できた。
【実施例4】
【0043】
図8に、レベルヘッドの浮上面の面粗さRaとグライドヘッドの誤判定率の関係示す。
使用した磁気ディスクの表面粗さは8Å、レベルヘッドの面粗さは5Åから60Åまで変
化させた。レベルヘッドの浮上量はグライドヘッドの浮上量の50%とし、浮上ピッチ角
は50μradとした。グライドヘッドの浮上量は12m/sの周速で8nm、浮上ピッ
チ角が200μradである。表面粗さRaの測定には、レーザーを使った非接触型表面
粗さ計を用い、JISに準拠した。
【0044】
図8に示すように、レベルヘッドのRaが6Å以下と45Å以上ではグライドヘッドの
誤判定率が急激に悪化している。先の実施例でも述べたが、液体潤滑剤の平坦化が悪いと
誤判定率が悪化する。このことから、レベルヘッドのRaと平坦化の度合いを次の様に説
明できると考える。レールの浮上面の面粗さRaが小さいと、液体潤滑剤の突出した部分
と接触しても、液体潤滑剤の表面を擦るだけで液体潤滑剤を引き伸ばし、磁気ディスクに
擦り付ける様な効果が発揮できないためと考えられる。液体潤滑剤を引き伸ばすには、液
体潤滑剤と浮上面の摩擦力が必要である。面粗さRaを大きくすることで、摩擦力得る事
ができる。磁気ディスクの面粗さと同等以上とすることで、平坦化の能力があがると考え
られる。浮上面の面粗さRaを大きくし過ぎると、浮上面への液体潤滑剤の付着が多くな
る。浮上面に液体潤滑剤が付着すると、浮上面の面粗さが細かくなり平坦化の能率も低下
してしまうと考えられる。これらのことからレールの浮上面の面粗さRaは、磁気ディス
クのRaより粗く40Å以下が好まし範囲と言える。
【実施例5】
【0045】
レベルヘッドを用いた検査工程の流れについて述べる。図9a)は、従来の検査工程の
流れである。バーニッシュからグライドに進み、グライド検査に合格したものは次のサー
ティファイ検査に進む。グライド検査およびサーティファイ検査で不合格となったものは
不良処理されることになる。図9b)と図9c)は、レベルヘッドを採用した検査工程の
流れである。図9b)は、バーニッシュからレベル、グライドに進み、グライド検査に合
格したものは次のサーティファイ検査に進む。グライド検査およびサーティファイ検査で
不合格となったものは不良処理されることになる。図9c)は、バーニッシュからグライ
ドに進み、グライド検査に合格したものは次のサーティファイ検査に進む。グライド検査
で不合格となったものは、レベル、グライドに進み、グライド検査に合格したものは次の
サーティファイ検査に進むものである。グライド検査およびサーティファイ検査で不合格
となったものは不良処理されることになる。
【0046】
図9a)に比べレベルヘッドを採用した図9b)と図9c)の工程では、レベルヘッド
工程が増えた分は検査工数の増加は否めないが、検査精度の向上による検査歩留りアップ
が得られた。益々高記録密度化する磁気記録装置においては、検査精度の向上効果は大き
いものである。グライド検査での歩留りで、図9のb)かc)の何れを採用するかは決め
ることができる。グライド検査での歩留りが悪い時は、図9b)の全ての磁気ディスクに
レベルヘッド工程を経させる。歩留りが良い場合は、図9c)の様にグライド検査で不合
格になったものだけに、レベルヘッド工程を適用することができる。バーニッシュ、レベ
ル、グライド、サーティファイを各々別の検査装置としても良いし、例えばバーニッシュ
とレベルを、グライドとサーティファイを同一の検査装置に組込んでもよいものであり、
検査工程の全体効率が上がるように組み合わせを採ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】バーニッシュヘッド、レベルヘッド、グライドヘッド、サーティファイヘッドの構造を説明する図である。
【図2】レベルヘッドとグライドヘッドを取付けた検査装置の概略図である。
【図3】レベルヘッドのスライダーの形状と寸法関係を説明する図である。
【図4】レベルヘッドとグライドヘッドの浮上量と浮上ピッチ角を説明する図である。
【図5】レベルヘッド浮上量/グライドヘッド浮上量とグライドヘッド寿命、異常出力発生率、誤判定率の関係を示す図である。
【図6】レベルヘッド浮上ピッチ角とグライドヘッド誤判定率の関係を示す図である。
【図7】レベルヘッドの浮上ピッチ角と液体潤滑剤の平坦化を示すイメージ図である。
【図8】レベルヘッドの浮上面の面粗さRaとグライドヘッドの誤判定率の関係を示す図である。
【図9】レベルヘッドを用いた検査工程の流れを説明する図である。
【符号の説明】
【0048】
1 バーニッシュヘッド、2 レベルヘッド、3 グライドヘッド、
4 サーティファイヘッド、5 斜め格子の溝入スライダー、6 サスペンション、
7 スライダー、8 スライダー、9 張出し部、10 圧電素子、11 ワイヤー、
12 スライダー、13 記録再生素子、14 ワイヤー、20 磁気ディスク、
21 ワイヤー、22 測定器、31 浮上面、32 流入端、33 流出端、
34 荷重点、40 液体潤滑剤。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転する磁気ディスク上に検査ヘッドを保持し、磁気ディスクの欠陥を検査する工程で
、検査ヘッドにバーニッシュヘッドとレベルヘッド、グライドヘッド、サーティファイヘ
ッドを用いることを特徴とする磁気ディスクの検査方法。
【請求項2】
磁気ディスク検査の第1工程でバーニッシュヘッド、第2工程でレベルヘッド、第3工
程でグライドヘッド、第4工程でサーティファイヘッドを用いることを特徴とする請求項
1に記載の磁気ディスクの検査方法。
【請求項3】
磁気ディスク検査の第1工程でバーニッシュヘッド、第2工程でグライドヘッドを用い
第2工程で良品と判断された磁気ディスクは第3工程でサーティファイヘッドを用い、第
2工程で不良と判断された磁気ディスクは、第3工程でレベルヘッド、第4工程でグライ
ドヘッド、第5工程でサーティファイヘッドを用いることを特徴とする請求項1に記載の
磁気ディスクの検査方法。
【請求項4】
レベルヘッドの浮上高さは、グライドヘッドの浮上高さの40%以上70%以下である
ことを特徴とする請求項1から3に記載の磁気ディスクの検査方法。
【請求項5】
浮上面と磁気ディスク表面とが成す角度である浮上ピッチ角が、0μrad以上85μ
rad以下であることを特徴とする請求項1に記載のレベルヘッド。
【請求項6】
浮上面の面粗さRaが、磁気ディスク表面の面粗さより粗く、40Å以下であることを
特徴とする請求項1に記載のレベルヘッド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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