説明

磁気ディスク・ドライブの製造方法

【課題】パターンド・メディアを実装する磁気ディスク・ドライブの製造において、磁気ヘッドの歩留まりを向上する。
【解決手段】本発明の一実施形態において、HDDの製造方法は、パターンド・メディアを製造し、サーボ・データ領域を一方向に着磁する。磁気ヘッドを製造し、そのアシンメトリ特性を測定する。アシンメトリ性が小さい場合、その磁気ヘッドは、いずれのサーボ磁極方向の記録面にも使用される。アシンメトリ性が大きく、そのアシンメトリ特性が正であるとき、上向き磁化のサーボ・データ領域を有する記録面にその磁気ヘッドを合わせる。アシンメトリ性が大きく、そのアシンメトリ特性が負であるとき、下向き磁化のサーボ・データ領域を有する記録面にその磁気ヘッドを合わせる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気ディスク・ドライブの製造方法に関し、特に、パターンド・メディアを有する磁気ディスク・ドライブの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気ディスク・ドライブは磁気媒体である磁気ディスクと磁気ヘッドとを有し、磁気ヘッドが磁気ディスク上のデータを読み出し及び/もしくは書き込む。磁気ディスクの単位面積当たりの記録容量を大きくするためには、面記録密度を高める必要がある。しかしながら、記録されるビット長が小さくなると、磁気記録層の磁化の熱揺らぎのために面記録密度を上げられない問題がある。
【0003】
一般に、熱揺らぎは、Ku・V/kT(Kuは磁気異方性定数、Vは磁化最小単位体積、kはボルツマン定数、Tは絶対温度)の値が小さい程影響が大きくなる。したがって、熱揺らぎの影響を小さくするためにはKuもしくはVを大きくする必要がある。この問題を解決できるものとして、単磁極ヘッドで軟磁性の裏打層を備えた二層垂直媒体に垂直な方向に磁化信号を記録する垂直記録方式が知られている。
【0004】
垂直記録方式を用いると、より強い記録磁界を媒体に印加することができる。したがって、媒体の記録層に磁気異方性定数(Ku)の大きなものを使用することができる。また、垂直磁気記録方式の磁気記録媒体では、膜厚方向に磁性粒子を成長させることで、媒体表面の粒径は小さいままで、すなわちビット長は小さいままでVを大きくできる利点もある。しかし、今後磁気記録媒体の高密度化がさらに進めば、たとえ垂直磁気記録方式であっても熱揺らぎ耐性に限界がでてくることが予想される。
【0005】
さらに高記録密度に適した磁気媒体の形態としては、磁気的に孤立した磁性粒子を規則的に配列させ、1領域につき1ビットを対応させて記録させる方式、いわゆるビット・パターンド・メディアが知られている。ビット・パターンド・メディアは、磁気的に分離されたデータ・トラックを有している。このように、ビット・パターンド・メディアは、円周方向及び半径方向において磁気的に孤立した領域にビットが記録される。
【0006】
ビット・パターンド・メディアと異なり、データ・トラックのみ磁気的に孤立させるディスクリート・トラック・メディアも知られている。ディスクリート・トラック・メディアは、磁気的な分離領域をデータ・トラック間に有するが、データ・トラックは円周方向において連続する磁気記録層で構成されている。このように、ディスクリート・トラック・メディアは、半径方向においてのみ磁気的に孤立した領域にデータが記録される。
【0007】
ビット・パターンド・メディアやディスクリート・トラック・メディアのように、磁気記録層からなるデータ記録領域間に磁気的な分離領域が予め形成されており、個々のデータ記録領域が磁気的に孤立しているメディアを、本明細書において、パターンド・メディアと呼ぶ。このように、パターンド・メディアは、磁気記録層の凹凸パターンを有しており、その凸部に磁気データが記録される。パターンド・メディアにおいては、データ・トラック間の影響が低減され、あるいは、ビット遷移領域での磁化状態の乱れに起因するノイズが発生せずかつ熱揺らぎ限界まで1ビットを小さくすることが可能である。したがって、パターンド・メディアは、高密度磁気記録に有利である。
【0008】
パターンド・メディアは、従来の磁気メディアとは異なる構成のサーボ・データ(サーボ・セクタ)を有している。従来の磁気メディアのサーボ・データの形成は、磁気メディアの磁気記録層を形成した後に、磁気ヘッドを使用して、サーボ・データを磁気記録層に記録する。サーボ・データは、垂直磁気記録媒体においては上下の磁化方向の磁極、面内記録媒体においては前後の磁化方向の磁極により構成されている。つまり、サーボ・データの記録磁化は、反平行の2種類の磁極で構成されている。
【0009】
これに対して、パターンド・メディアのサーボ・データ領域は、ユーザ・データ領域と同様に、磁気記録層の凹凸パターンで構成されている。サーボ・データ領域を構成する磁気的に孤立した複数の記録領域(磁気記録層凹凸パターン)は、磁気ディスクの製造において形成される。記録面上のサーボ・データ領域は、同一方向に磁化される(例えば、特許文献1を参照)。垂直磁気記録媒体において、同一記録面におけるサーボ・データの磁化方向は、上方向もしくは下方向である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2006−31856号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
図8は、従来の磁気ディスクのサーボ信号の波形を模式的に示す図である。図8において、81は、磁気抵抗効果素子の磁気抵抗変化特性を示すトランスファ・カーブ(リード特性曲線)である。82は、サーボ・データ領域からの磁界(サーボ磁界)を示し、83は、磁気抵抗効果素子の出力(リード出力信号)である。サーボ磁界は正極性と負極性(上向き磁極と下向き磁極とによる)とを有し、リード出力信号も同様に正極性と負極性を有する。
【0012】
図8においては、磁気抵抗効果素子のリード特性曲線の中心点がサーボ・データの極性中心と一致し、正負において対称である。理想的な磁気ヘッドにおいては、磁気抵抗効果素子のリード特性曲線は、サーボ磁界の中心において対称である。しかし、実際に製造される磁気ヘッドの磁気抵抗効果素子は、その製造バラツキのため、サーボ磁界の中心に対して非対称なリード特性曲線を有する。これにより、リード出力信号が、正負の振幅において、非対称性を示す。特性曲線の非対称性が大きいと、一方の極性において磁気抵抗効果素子の出力が小さくなり(さらには飽和し)、正確なサーボ・データの読み取りが妨げられる。
【0013】
サーボ信号が正負の極性を有する場合、磁気抵抗効果素子の出力も正負に振れるため、比較的大きな振幅を得ることができる。そのため、磁気抵抗効果素子の特性曲線(出力信号)の非対称性は、ある程度許容される。しかし、上述のように、パターンド・メディアのサーボ・データの磁化方向は一方向であり、その信号は単極性である。
【0014】
図9は、磁気抵抗効果素子のトランスファ・カーブ(リード特性曲線)91、パターンド・メディアの記録面におけるサーボ・データの磁気信号(サーボ・データからの磁界)92、そして磁気抵抗効果素子の出力信号93を示している。磁気抵抗効果素子のリード特性曲線91の中心点は、サーボ・データの磁気信号92とは反対方向にシフトしている。サーボ磁界がリード特性曲線91のノンリニア領域に達していると、サーボ・データの飽和磁界に対するリード出力信号が小さくなる。
【0015】
さらに、サーボ・データの飽和磁界よりも小さい磁界によって磁気抵抗効果素子の出力信号93が飽和すると、サーボ・データの出力信号振幅は非常に小さいものとなる。このように、パターンド・メディアのサーボ出力信号(リード出力信号)への非対称の影響は、通常の磁気ディスクのサーボ信号よりも大きい。
【0016】
このため、パターンド・メディアを使用するHDDの製造において、リード出力信号の非対称性に対する許容範囲は、従来のHDDの製造よりも、狭いものとなる。これにより、磁気ヘッドの歩留まりは低下する。したがって、一記録面において単一方向の磁化で構成されるサーボ・データを有するパターンド・メディアを実装するHDDの製造において、磁気ヘッドの歩留まりを向上することができる技術が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の一態様は、磁気ディスク・ドライブの製造方法である。この方法は、凹凸状の磁気記録層を有し、データ記録領域が分離領域に分離されており、一記録面におけるサーボ・データ領域を同一方向に着磁されている、パターンド・メディアを用意する。磁気ヘッドのアシンメトリ特性を測定する。前記測定におけるアシンメトリ測定値に応じて前記磁気ヘッドを分類する。分類した少なくとも一つのグループの磁気ヘッドを、前記磁気ヘッドのサーボ磁界に対する余裕度が大きいサーボ磁極方向を有する記録面に組み合わせる。これにより、パターンド・メディアを実装する磁気ディスク・ドライブの製造において、磁気ヘッドの歩留まりを向上することができる。
【0018】
好ましくは、前記アシンメトリ測定値に応じて分類されるグループの一つは、アシンメトリ測定値の絶対値が0を含む規定領域内にあって、いずれのサーボ磁極方向の記録面にも使用可能である磁気ヘッドからなる。非対称性が小さい磁気ヘッドをいずれの磁極方向に対して適用可能とすることで、より歩留まりを高くすることができる。
【0019】
好ましくは、前記磁気ディスクの一方の面のサーボ・データ領域は、対応する磁気ヘッドからみて一方の向きに着磁され、他方の面のサーボ・データ領域は、対応する磁気ヘッドからみて他方の向きに着磁されている。さらに、前記アシンメトリ測定値に応じた前記分類は、アシンメトリ特性が正と負の磁気ヘッドからなる第1グループ、前記第1グループよりもアシンメトリ性が大きくアシンメトリ特性が負の第2グループ、そして前記第1グループよりもアシンメトリ性大きくアシンメトリ特性が正の第3グループ、が少なくとも形成される。前記第1グループの磁気ヘッドはいずれの方向のサーボ磁極方向の記録面にも使用可能である。前記第2グループの磁気ヘッドは一方のサーボ磁極方向の記録面に組み合わされる。前記第3グループの磁気ヘッドは他方のサーボ磁極方向の記録面に組み合わされる。これにより、歩留まりをより高くすることができる。
【0020】
好ましくは、前記磁気ディスクの両面のサーボ・データ領域を、外部磁界内において同時に着磁する。これにより、効率的に着磁することができる。
【0021】
好ましくは、さらに、前記磁気ヘッドのセンス電流とサーボ・データ領域のリード信号におけるアシンメトリ特性との関係を測定し、前記測定した関係に応じて、前記サーボ・データ領域におけるセンス電流値を設定する。これにより、サーボ・データのリード出力特性をさらに改善することができる。
【0022】
好ましくは、さらに、前記磁気ヘッドのヒータ・パワーとサーボ・データ領域のリード信号におけるアシンメトリ特性との関係を測定し、前記測定した関係に応じて、前記サーボ・データ領域におけるヒータ・パワー値を設定する。これにより、サーボ・データのリード出力特性をさらに改善することができる。
【0023】
好ましくは、前記サーボ・データ領域の磁束密度を、ユーザ・データ領域の磁束密度よりも小さくする。これにより、サーボ・データのリード出力信号特性を改善することができる。さらに、前記サーボ・データ領域の磁気記録層にイオン注入することによって、前記サーボ・データ領域の磁束密度を前記ユーザ・データ領域の磁束密度よりも小さくすることが好ましい。これにより、効率的に磁束密度を小さくすることができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、パターンド・メディアを実装する磁気ディスク・ドライブの製造において、磁気ヘッドの歩留まりを向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本実施形態において、ハードディスク・ドライブの全体構成を模式的に示す図である。
【図2】本実施形態において、ヘッド・スライダの構成を模式的に示す図である。
【図3A】本実施形態において、パターンド・メディアの一つであるディスクリート・トラック・メディア上の一部を模式的に示す図である。
【図3B】図3AにおけるB−B切断線における断面構造を模式的に示す図である。
【図3C】図3AにおけるC−C切断線における断面構造を模式的に示す図である。
【図4A】本実施形態において、リード素子のリード特性曲線、サーボ磁界、そしてリード出力信号の関係を模式的に示す図である。
【図4B】本実施形態において、リード素子のリード特性曲線、サーボ磁界、そしてリード出力信号の関係を模式的に示す図である。
【図4C】本実施形態において、リード素子のリード特性曲線、サーボ磁界、そしてリード出力信号の関係を模式的に示す図である。
【図5】本実施形態において、磁気ディスクとヘッド・スライダの組み合わせを決定する処理の流れを示すフローチャートである。
【図6】本実施形態において、センス電流の設定値を決定する方法を示すフローチャートである。
【図7】本実施形態において、ヒータ・パワーの設定値を決定する方法を示すフローチャートである。
【図8】関連する技術において、リード素子のリード特性曲線、サーボ磁界、そしてリード出力信号の関係を模式的に示す図である。
【図9】関連する技術において、リード素子のリード特性曲線、サーボ磁界、そしてリード出力信号の関係を模式的に示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下では、本発明を適用した具体的な実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、各図面において、同一要素には同一の符号が付されており、説明の明確化のため、必要に応じて重複説明は省略する。なお、以下に説明する実施の形態は、磁気ディスク・ドライブの一例であるハードディスク・ドライブ(HDD)に対して本発明を適用したものである。
【0027】
本実施形態のHDDには、パターンド・メディアが実装される。パターンド・メディアは、非磁気記録層によって分割された磁気記録層(凹凸形状の磁気記録層)を有している。パターンド・メディアにおいては、磁気記録層からなる記録領域間に磁気的な分離領域が予め形成されており、個々のデータ記録領域が磁気的に孤立している。パターンド・メディアの例としては、ビット・パターンド・メディアやディスクリート・トラック・メディアなどがある。
【0028】
ビット・パターンド・メディアは、円周方向及び半径方向において分離された1ビットの記録領域を有する。ディスクリート・トラック・メディアは、半径方向において隣接データ・トラックから分離され円周方向において連続するデータ・トラックを有する。本実施形態のHDDの製造は、どのようなタイプのパターンド・メディアを実装するHDDにも適用することができる。
【0029】
パターンド・メディアの一記録面において、サーボ・データの磁化方向は同一である。垂直磁気記録の磁気ディスクにおいて、一記録面内におけるサーボ・データの磁化方向は、上向きもしくは下向きである。異なる記録面間においては、磁化方向は異なることも同一であることもある。本実施形態のHDDの製造方法は、面内記録の磁気ディスクを有するHDDにも適用することができる。しかし、パターンド・メディアは一般に垂直磁気記録媒体であるので、以下においては、垂直磁気記録のパターンド・メディアを実装するHDDについて説明を行なう。
【0030】
本実施形態のHDDの製造は、磁気ヘッドであるヘッド・スライダのリード出力信号の非対称性と、サーボ・データの磁化方向(磁極方向)とによって、組み合わせる磁気ヘッドと記録面とを選択する。リード出力信号の非対称性に応じて記録面(のサーボ・データの磁化方向)を選択することで、大きい非対称性を有するヘッド・スライダを使用して適切なサーボ制御を行うことができる。
【0031】
本実施形態のHDDの製造方法について詳細な説明を行なう前に、まず、HDDの全体構成について、図1を参照して説明する。HDD100の筐体102には、スピンドル・モータ(SPM)104、軸受けユニット110、そしてVCM磁気回路116が取り付けられている。SPM104は、磁気ディスク2を回転駆動する。軸受けユニット110にヘッド・アーム112とVCMコイルとが支持され、VCMコイルはVCM磁気回路116の磁界中に置かれる。
【0032】
ヘッド・アーム112の先にはサスペンション118が取り付けられ、サスペンション118は、磁気ヘッドであるヘッド・スライダ1を支持している。サスペンション118と磁気ヘッド・スライダ1とのアセンブリを、ヘッド・ジンバル・アセンブリと呼ぶ。サスペンション118、ヘッド・アーム112、軸受けユニット110そしてVCMコイルが、アクチュエータ160を構成している。アクチュエータ160は、ヘッド・スライダ1の移動機構の一例である。アクチュエータ160と磁気ヘッド・スライダ1とのアセンブリを、ヘッド・スタック・アセンブリと呼ぶ。
【0033】
アクチュエータ160は、軸受けユニット110において回動し、磁気ヘッド・スライダ1を磁気ディスク2の半径方向に移動させる。磁気ヘッド・スライダ1は、サスペンション118によって磁気ディスク面への押し付け荷重を与えられ、数nm程度の浮上量で磁気ディスク2上を浮上する。ヘッド・スライダ1は磁気ディスク2の半径方向に移動し(シーク動作)、磁気ディスク2に対してアクセスする。アクセスは、記録と再生の上位概念である。本発明は、ランプ・ロード・アンロード、及び、コンタクト・スタート・ストップ方式のいずれのHDDにも適用することができる。
【0034】
筐体102の外側に固定された回路基板上に、機能回路が実装されている。モータ・ドライバ・ユニット522は、ハードディスク・コントローラ(HDC)523からの制御データに従って、スピンドル・モータ104とVCM磁気回路116を駆動する。ヘッドICであるアーム・エレクトロニクス(AE)513は、一般に、筐体102内に配置されている。AE513は、HDC523からの制御データに従って複数のヘッド・スライダの中から磁気ディスク2にアクセスするヘッド・スライダを選択し、リード/ライト信号の増幅を行う。AE513は、HDC523からの制御データに従って選択したヘッド・スライダ1のヒータ素子へ電力を供給し、その電力量を調整する機能する。
【0035】
RWチャネル521は、リード処理において、AE513から供給されたリード信号からデータを抽出し、デコード処理を行う。デコード処理されたデータは、HDC523に転送される。ライト処理において、HDC523から供給されたライト・データをコード変調し、さらに、コード変調したデータをライト信号に変換してAE513に供給する。
【0036】
コントローラであるHDC523は、MPUとハードウェア論理回路とで構成されている。HDC523は、リード/ライト処理制御、コマンド実行順序の管理、サーボ信号を使用したヘッド・ポジショニング制御(サーボ制御)、ホストとの間のインターフェイス制御、ディフェクト管理、エラー対応処理など、データ処理に関する必要な処理及びHDD100の全体制御を実行する。RAM524は、HDC523のファームウェアを一時的に格納するほか、ユーザ・データを一時的に格納するセクタ・バッファとして機能する。
【0037】
図2は、ヘッド・スライダ1の構成を模式的に示す図である。ヘッド・スライダ1は、アルチック(AlTiC)からなるスライダ12と、そのトレーリング端面に形成されているヘッド素子部11とを有する。素子部11は、リード素子111、ライト素子115、ヒータ素子113を有する。これら素子の周囲は、アルミナの保護膜で覆われている。ヘッド・スライダ1は、磁気ディスク2上を浮上している。ヒータ素子113は、その熱によってヘッド素子部11を膨張・突出させ、ヘッド素子部11と磁気ディスク2との間のクリアランスを調整する。
【0038】
本実施形態のHDD100に実装される磁気ディスク2は、パターンド・メディアである。図3Aは、パターンド・メディアの一つであるディスクリート・トラック・メディア上の一部を模式的に示す図である。図3Aにおいて、上下方向がディスク半径方向、左右方向が円周方向である。ディスクリート・データ・トラック21a〜21dのそれぞれのデータ・トラックの間には、分離領域22a〜22cが存在している。
【0039】
図3Bは、図3AにおけるB−B切断線における断面構造を模式的に示す図である。図3Bは、図3Aに示す記録面の断面図を示し、その反対側の記録面の断面は示していない。反対側の記録面も同様の構造を有している。図3Bに示すように、ディスクリート・データ・トラック21a〜21dは、磁気記録層の凸部に相当し、分離領域22a〜22cは凹部に相当する。磁気記録層は、一般に、CoCr系合金が使用される。基板24上には、軟磁性裏打ち層25aが形成されており、その上にディスクリート・データ・トラック21a〜21d(磁気記録層)が形成されている。
【0040】
図3Bは、ディスクリート・トラック・メディアの一構成例を示すに過ぎない。例えば、図3Bの例においては、軟磁性裏打ち層25aは平坦面であるが、軟磁性裏打ち層25aは、磁気記録層の凹凸形状に対応する凹凸形状を有していてもよい。本発明は、いかなる構造のパターンド・メディアにも適用することができる。なお、図示していないが、ディスクリート・データ・トラック21a〜21d及び分離領域22a〜22cの上には、保護膜及び潤滑剤が付着される。
【0041】
ディスクリート・データ・トラック間の分離領域22a〜22cは、非磁性材料あるいは軟磁性材料で形成されている。典型的には、非磁性材料である。磁気記録層の凹凸形状の形成には、いくつかの方法が知られている。例えば、磁気記録層を付着形成した後、その磁気記録層の一部をイオン・ミリングあるいはケミカル・エッチングにより除去することで凹凸形状を形成することができる。その後、凹部に非硬磁性材料(一般に非磁性材料)を付着することでその材料からなる分離領域を形成する。あるいは、磁気記録層を付着形成した後、凹部に相当する領域に所定イオンを注入することにより、非硬磁性材料(典型的には非磁性材料)に変化させて、分離領域を形成する。
【0042】
図3Aに戻って、サーボ・データ領域23は、ユーザ・データの記録領域と同様に、凹凸形状を有する磁気記録層で構成されている。矩形で示してある各サーボ記録領域は、互いに、分離領域で分離されている。典型的には、サーボ記録領域は半径方向及び円周方向において互いに分離されており、各サーボ記録領域は、同期信号、サーボ・アドレス・データ、バースト・パターンなどが記録されている。
【0043】
図3Cは、図3AにおけるC−C切断線における断面構造を模式的に示す図である。図3Cは、磁気ディスク反対面の領域の断面も示している。サーボ・データ領域23の積層構造は、ユーザ・データ領域と同じである。サーボ記録領域231aは、磁気記録層の一部であり、その下には軟磁性裏打ち層25aが形成されている。サーボ・データ領域23の凹凸形状は、上記ディスクリート・データ・トラックを含む凹凸形状と同時に形成される。
【0044】
図3Cにおいて、サーボ記録領域231a〜231c内の矢印は、磁化方向を示している。一つの記録面において、全てのサーボ記録領域(サーボ・データ)の磁化方向は同一である。図3Cにおいては、サーボ記録領域231a〜231cが形成されている記録面において、サーボ・データの全ての磁化は基板から離れる方向を向いている。ヘッド・スライダ1のリード素子111が読み出すサーボ信号は、磁気ディスク2上の磁化の有無により変化する。
【0045】
基板24の下面には、上面と同様の積層が形成されている。図3Cにおいて、サーボ記録領域232a〜232cが例示されている。サーボ記録領域232a〜232cは、基板24上に形成された軟磁性裏打ち層25bの上に形成されている。図3Cの例において、サーボ記録領域232a〜232cの磁化は基板24側に向いている。基板24の下面の全てのサーボ記録領域の磁化は同じ方向である。また、磁気ディスク断面において、基板24の上面と下面におけるサーボ記録領域の磁化は、同一方向を向いている。
【0046】
上述のように、パターンド・メディア2において、サーボ・データ領域の磁化方向は一定であり、サーボ信号は磁化の有無に従って変化する。したがって、パターンド・メディアのサーボ・データの書き込みは、サーボ・データ領域の磁気記録層に一定方向の磁界を与えて、サーボ・データ領域の磁気記録層を着磁することで行なうことができる。最も効率的な着磁方法は、電磁石の使用である。磁気ディスク2を電磁石からの磁界(外部磁界)内に配置することで、両面の記録層を着磁することができる。
【0047】
広い外部磁界によりサーボ・データを書き込む場合、図3Cに例示するように、磁気ディスク2の断面において、上下両記録面のサーボ・データ領域の磁化方向(着磁方向)は同一である。一方、この磁気ディスク11の上下の記録面を、それぞれの記録面上を浮上するヘッド・スライダ1から見ると、それらの磁化方向は逆であり、極性が異なる。図3Cにおいて、ヘッド・スライダ1から見ると、上面の磁化方向は上向き(ヘッド・スライダ側を向く)であり、下面の磁化方向は下向き(ヘッド・スライダと反対の側を向く)である。本実施形態のHDD100の製造は、一つの記録面のサーボ信号が単極性であることを利用する。
【0048】
なお、サーボ・データ領域の着磁は電磁石の使用に限定されない。例えば、ヘッド・スライダを使用してサーボ・データ領域の磁化を一定方向に向けてもよい。ヘッド・スライダからの磁界により着磁を行なう場合、磁気ディスク断面における上下記録面の磁化方向を、異なる方向にすることができる。つまり、上下記録面のそれぞれに対応するヘッド・スライダから見て、両面の磁化方向を同一とすることができる。本発明は、このようなパターンド・メディアを有するHDDにも適用することができる。
【0049】
磁気抵抗効果素子を有するリード素子111は、アシンメトリ特性を有する。アシンメトリ特性は、リード出力信号に現れる正負振幅の非対称を表す特性であり、正負の振幅の相違量で決まる。具体的には、正の振幅と負の振幅の差を、正の振幅と負の振幅の和で割った値が、そのリード素子のアシンメトリ特性を示す。ヘッド・スライダ1の製造は、リード素子のアシンメトリが設計範囲内となるように、薄膜積層体を形成する。
【0050】
しかし、ヘッド・スライダの製造においては、アシンメトリのばらつきを避けることができない。そのため、リード素子のアシンメトリ特性が設計範囲から外れるヘッド・スライダも製造される。本形態のHDD製造は、ヘッド・スライダのアシンメトリ特性と磁気ディスク記録面のサーボ磁化(サーボ磁極)方向とにより、ヘッド・スライダと磁気ディスク記録面の組み合わせを決定する。
【0051】
図4A〜図4Cは、それぞれ、リード素子111のトランスファ・カーブ(リード特性曲線)41a〜41c、サーボ磁界42a〜42c、そしてリード出力信号43a〜43cの関係を模式的に示している。以下の説明において、サーボ磁極(サーボ磁化)がヘッド・スライダ1に向いているとき(基板24の反対方向を向いているとき)、サーボ磁極は上向きである。また、上向き磁極によるリード信号出力を正出力とする。反対に、サーボ磁極(サーボ磁化)が磁気ディスク基板24に向いているとき(ヘッド・スライダ1の反対方向を向いているとき)、サーボ磁極は下向きである。また、下向き磁極によるリード信号出力を負出力とする。
【0052】
図4Aに示すリード素子特性は高い対称性を示し、そのアシンメトリ値の絶対値は小さく、0(対称を表わす値)を含む所定の範囲内にある。このリード素子特性においては、サーボ磁極が上向きであるときも下向きであるときも、リード信号出力が飽和することがない。つまり、上向きのサーボ磁極によるサーボ磁界及び下向きのサーボ磁極によるサーボ磁界の双方は、リード特性曲線のリニア領域内に入っている。リード出力信号43aも、正負において、飽和することなく最大振幅を示している。
【0053】
図4Bに示すリード特性曲線41bは、正の側にシフトしている。正の磁界(上向き磁極の磁界)はリード特性曲線41bのリニア領域内にあり、正のリード出力信号は飽和することなく、サーボ磁界に比例した振幅を示している。一方、負の磁界(下向き磁極の磁界)はリード特性曲線41bのノンリニアな領域に達し、リード出力信号43bは略飽和している。このため、リード出力信号において、正の振幅が大きく、負の振幅が小さい。
【0054】
図4Cに示すリード特性は、図4Bのリード特性と逆である。つまり、このリード特性曲線41cは、負の側にシフトしている。負の磁界(下向き磁極の磁界)はリード特性曲線41cのリニア領域内にあり、負のリード出力信号は飽和することなく、サーボ磁界に比例した振幅を示している。一方、正の磁界(上向き磁極の磁界)はリード特性曲線41cのノンリニアな領域に達し、リード出力信号は略飽和している。このため、リード出力信号43cにおいて、負の振幅が大きく、正の振幅が小さい。
【0055】
図4Bに示すリード特性が正の側にシフトしているリード素子111は、正の磁界(上向きのサーボ磁極)に対して、負の磁界(下向きのサーボ磁極)に対してよりも、飽和余裕度が大きく、リニアな特性を示す。一方、図4Cに示すリード素子特性が負の側にシフトしているリード素子111は、負の磁界(下向きのサーボ磁極)に対して、正の磁界(上向きのサーボ磁極)に対してよりも、飽和余裕度が大きく、リニアな特性を示す。
【0056】
アシンメトリが大きい(アシンメトリ値の絶対値が大きい)リード素子111であっても、飽和余裕度が大きいサーボ磁極に対しては、適切なリード出力信号特性を示すことができる。そこで、本実施形態のHDD製造は、ヘッド・スライダ1(リード素子111)のアシンメトリ特性を測定し、アシンメトリ特性に応じて組み合わせるサーボ磁極方向(磁化方向)を選択し、そのサーボ磁極方向の磁気ディスク記録面とヘッド・スライダとを組み合わせる。
【0057】
具体的には、図5のフローチャートに示すように、磁気ディスクを製造し、サーボ・データ領域を着磁する(S11)。好ましくは、広い外部磁界において、磁気ディスク両面のサーボ・データ領域を同時に着磁する。これにより、効率的に着磁することができる。このとき、一方の記録面のサーボ磁極は、対応するヘッド・スライダから見て上向きである。反対面のサーボ磁極は、対応するヘッド・スライダから見て下向きである。磁気ディスク2の製造は薄膜形成とフォトリソグラフィ・プロセスを使用する方法が広く知られており、ここでは詳細な説明を省略する。分離領域の形成については、上述のようにイオン・ミリングやイオン注入などの手法を使用することができる。
【0058】
サーボ・データ領域の着磁は、磁気ディスク記録面のそれぞれを個別に行なってもよい。このとき、両面の(ヘッド・スライダから見た)サーボ磁極が同一方向であってもよい。好ましくは、同一設計のHDDの製造において、サーボ磁極方向が異なる記録面を用意する。一つの磁気ディスクの記録面が異なるサーボ磁極方向を有する、あるいは、異なる磁気ディスクが、逆のサーボ磁極方向を有する。
【0059】
ヘッド・スライダを製造し、そのリード素子のアシンメトリ特性を含むリード特性を測定する(S12)。ヘッド・スライダの製造は、薄膜形成とフォトリソグラフィ・プロセスを使用する方法が広く知られており、ここでは詳細な説明を省略する。アシンメトリ特性の測定は、QST(Quasi Static Tester)あるいはDET(Dynamic Electric Test)により行なうことができる。
【0060】
QSTは、外部磁界内にヘッド・スライダ1を配置し、その外部磁界に対するリード信号出力を測定する。これにより、アシンメトリ特性を測定することができる。DETは、ヘッド・スライダ1を磁気ディスク上で浮上させ、磁気ディスク上のデータをヘッド・スライダ1で読み出すことで、リード信号出力を測定する。いずれの方法により、ヘッド・スライダ1のアシンメトリ特性を測定してもよい。
【0061】
アシンメトリ特性を含むリード素子の特性の測定結果に応じて、ヘッド・スライダを分類する(S13)。リード特性のいずれかの項目が設計範囲(許容範囲)からはずれているヘッド・スライダは廃棄される。他の特性が設計条件を満足しているヘッド・スライダに対して、アシンメトリ特性に応じた分類を行なう。なお、典型的には、アシンメトリ特性も、設計範囲内(許容範囲内)にあることを使用条件とする。
【0062】
本実施形態のHDDの製造は、アシンメトリ特性に応じて、製造したヘッド・スライダを三つのグループに分ける。一つはアシンメトリの小さい(対称性の高い)ヘッド・スライダのグループ(第1グループ)、他の一つは負の振幅が大きいヘッド・スライダのグループ(第2グループ)、そして他の一つは正の振幅が大きいヘッド・スライダのグループ(第3グループ)である。
【0063】
典型的には、アシンメトリ値の負の閾値「−b」と正の閾値「a」を設定する。正負の閾値の絶対値は同一もしくは異なる。二つの閾値内にあるヘッド・スライダを第1グループ(−b≦x≦a)、負の閾値よりも小さいアシンメトリ値のヘッド・スライダを第2グループ(x<−b)、正の閾値よりも大きいアシンメトリ値のヘッド・スライダを第3グループ(x>a)に分類する。
【0064】
分類した各グループに、サーボ磁極に応じて磁気記録面を組み合わせる(S14)。第1グループのヘッド・スライダは、正負いずれの磁極方向の記録面にも組み合わせることができる。第2グループのヘッド・スライダは、負極性のサーボ磁極を有する記録面に対応させる。第3グループのヘッド・スライダは、正極性のサーボ磁極を有する記録面に対応させる。
【0065】
このように、ヘッド・スライダをリード素子の飽和余裕度が大きいサーボ磁極方向を有する磁気ディスク記録面に組み合わせることで、アシンメトリ性が大きい(対称性が低い)ヘッド・スライダもHDDの製造に使用することができる。また、正負それぞれのアシンメトリを有するヘッド・スライダを使用可能とすることで、歩留まりをさらに改善することができる。また、両面に使用できるヘッド・スライダのグループを形成することで、一方のみに使用可能なヘッド・スライダの数が減り、ヘッド・スライダの歩留まりをさらに改善することができる。
【0066】
ヘッド・スライダを上述のように分類することが好ましいが、ヘッド・スライダの分類は、上記方法に限定されない。例えば、アシンメトリ値の正負に応じて、ヘッド・スライダを二つのグループに分類してもよい。また、全ての磁気ディスクのサーボ磁極が同一の方向を有し、上記第1グループのほかに、上記第2グループあるいは第3グループの一方のみをHDDの製造に使用してもよい。
【0067】
HDDの製造は、上記ヘッド・スライダと記録面との組み合わせ方法に従って選択したヘッド・スライダと磁気ディスクとを筐体内に組み込む。具体的には、ヘッド・スライダ1とサスペンション118のアセンブリであるヘッド・ジンバル・アセンブリ(HGA)を製造する。ヘッド・アーム112と軸受けユニット110のアセンブリにHGAを固定し、アクチュエータとヘッド・スライダのアセンブリであるヘッド・スタック・アセンブリ(HSA)を製造する。
【0068】
スピンドル・モータ104を筐体102に固定した後、磁気ディスク2をスピンドル・モータ104に固定する。さらに、HSA、VCMマグネット、ランプなどの部品を筐体内に固定する。必要な部品を筐体102内に配置、固定した後、筐体102のカバーを固定し、ヘッド・ディスク・アセンブリ(HDA)を製造する。HDAに制御回路を実装し、テスト工程を経て、製品としてのHDDが完成する。
【0069】
ヘッド・スライダのアシンメトリ特性とサーボ磁極方向との適切な組み合わせを選択することで、リード出力特性を改善することができる。アシンメトリ特性に応じたリード出力特性の改善方法は、他にも存在する。以下においては、それらの方法を説明する。好ましくは、以下に説明する方法を、上記のアシンメトリ特性とサーボ磁極方向との組み合わせと共に使用する。
【0070】
HDD100は、リード素子111のセンス電流を適切な値に設定することで、非対称性を調整することができる。HDD100は、ユーザ・データ領域とサーボ・データ領域とで個別にセンス電流を設定する。典型的には、HDD100は、異なるセンス電流をリード素子111に与え、サーボ・データ領域における非対称性を調整する。HDD製造は、ヘッド・スライダ1の測定工程において、サーボ・データ領域におけるセンス電流値を決定する。
【0071】
センス電流決定の方法の一例を、図6のフローチャートを参照して説明する。図6は、DETあるいは組み立て後のHDDを使用した測定方法の流れを示している。このテストは、まず、ユーザ・データ領域と同じセンス電流において、ヘッド・スライダにより磁気ディスク上のサーボ・データを読み出す(S21)。次に、サーボ・データ領域におけるセンス電流を変化させ(S22)、ヘッド・スライダにより磁気ディスク上のサーボ・データを読み出す(S23)。
【0072】
測定すべきセンス電流が残っている間(S24におけるN)、センス電流の変化(S22)とサーボ・データの読み出し(S23)を繰り返す。測定すべき異なるセンス電流での測定が終了すると(S24におけるY)、取得したサーボ波形を解析して、サーボ・データ領域における最適センス電流を決定する(S25)。センス電流は、必要十分な振幅が得られるように設定される。好ましくは、センス電流は、サーボ・データのリード出力信号が大きくなるように設定され、例えば、最大のリード出力信号振幅を得られるように設定される。なお。サーボ波形解析に代えて、位置誤差信号を測定してもよい。
【0073】
センス電流決定のためのテストは、QSTを使用しても行なうことができる。サーボ磁界に相当する外部磁界を生成し、その中でセンス電流を変化させながらリード出力信号を測定する。その信号を解析することで、適切なセンス電流値を決定することができる。QSTを使用する場合、アシンメトリ特性の測定と適切なセンス電流の決定のための測定とを一つのテスト装置で行うことができ、効率的である。
【0074】
上記好ましい方法は、センス電流によりリード素子の非対称性を調整する。これに対して、ヒータ素子113への供給電力を変化させることで非対称性を調整することができる。ヒータ素子113からの熱でヘッド素子部11が変形すると、リード素子111への応力が変化することでそのアシンメトリ特性が変化する。このため、サーボ信号読み出しにおけるヒータ素子113への電力を適切な値にセットすることで、特性を改善することができる。
【0075】
サーボ読み出しにおけるヒータ・パワー決定のための方法は、センス電流と同様に行なうことができる。図7のフローチャートを参照して、一例を説明する。図7は、DETあるいは組み立て後のHDDを使用した測定方法の流れを示している。最初に、ユーザ・データ領域と同じヒータ・パワーにおいて、ヘッド・スライダにより磁気ディスク上のサーボ・データを読み出す(S31)。次に、サーボ・データ領域におけるヒータ・パワーを変化させ(S32)、ヘッド・スライダにより磁気ディスク上のサーボ・データを読み出す(S33)。
【0076】
測定すべきヒータ・パワーが残っている間(S34におけるN)、ヒータ・パワーの変化(S32)とサーボ・データの読み出し(S33)を繰り返す。測定すべき異なるヒータ・パワーでの測定が終了すると(S34におけるY)、取得した取得したサーボ波形を解析して、サーボ・データ領域における最適ヒータ・パワーを決定する(S35)。ヒータ・パワーは、必要十分な振幅が得られるように設定される。
【0077】
好ましくは、ヒータ・パワーは、サーボ・データのリード出力信号が大きくなるように設定され、例えば、最大のリード出力信号振幅を得られるように設定される。サーボ波形解析に代えて、位置誤差信号を測定してもよい。ヒータ・パワー決定のためのテストは、センス電流決定のためのテストと同様に、QSTを使用しても行なうことができる。
【0078】
HDD100は、好ましくは、サーボ信号の処理においてアシンメトリの補正を行なう機能を有する。リード素子特性のノンリニア領域によるサーボ信号出力の低下を補正機能により補償することで、アシンメトリ特性の劣った(非対称性が大きい)ヘッド・スライダを使用しても適切なサーボ信号を取得し、正確なサーボ制御を行うことができる。
【0079】
リード素子のアシンメトリにおける問題の一つは、サーボ磁界がリード素子特性のノンリニアな領域に達していることである。そこで、好ましい方法の一つは、サーボ磁界がリード素子特性のリニア領域内に入るにように、サーボ・データ領域から磁界を小さくする。つまり、サーボ・データ領域における磁束密度を小さくする。これにより、リード素子特性のリニア領域におけるサーボ信号出力が可能となり、リード出力信号の特性を改善することができる。
【0080】
サーボ・データ領域からの磁界を小さくする。つまり、サーボ・データ領域における磁束密度を小さくする方法は、いくつか存在する。一つは、サーボ・データ領域の磁気記録層を、ユーザ・データ領域の磁気記録層と異なる磁性材料で形成する。より好ましい方法は、磁気ディスク製造において、磁気記録層を形成した後、サーボ・データ領域にイオン注入を行い、その磁束密度を小さくする。注入するイオンの好ましい例はクロム・イオンである。イオン注入は、磁気記録層のパターニングの前後いずれでもよい。イオン注入により、サーボ・データ領域の磁束密度は、ユーザ・データ領域の磁束密度よりも小さくなる。
【0081】
以上、本発明を好ましい実施形態を例として説明したが、本発明が上記の実施形態に限定されるものではない。当業者であれば、上記の実施形態の各要素を、本発明の範囲において容易に変更、追加、変換することが可能である。例えば、本発明をHDD以外の磁気ディスク・ドライブの製造に適用することができる。本発明は、リード素子のみを有する磁気ヘッド・スライダを備えた磁気ディスク・ドライブに適用することができる。
【符号の説明】
【0082】
1 ヘッド・スライダ、2 磁気ディスク、11 ヘッド素子部、12 スライダ
21a〜21d ディスクリート・データ・トラック、22a〜22d 分離領域
23 サーボ・データ領域、24 基板、25a、25b 軟磁性下地層
41a〜41c、81、91 トランスファ・カーブ(リード特性曲線)
42a〜42c、82、92 サーボ磁界
43a〜43c、83、93 リード出力信号、100 ハードディスク・ドライブ
102 筐体、104 スピンドル・モータ、110 軸受けユニット
111 リード素子、112 ヘッド・アーム、113 ヒータ素子
115 ライト素子、116 VCM磁気回路、118 サスペンション
160 アクチュエータ、231a〜231c サーボ記録領域
232a〜232c サーボ記録領域、522 モータ・ドライバ・ユニット
523 コントローラ、513 アーム・エレクトロニクス
521 リード・ライト・チャネル、524 RAM

【特許請求の範囲】
【請求項1】
凹凸状の磁気記録層を有し、データ記録領域が分離領域に分離されており、一記録面におけるサーボ・データ領域を同一方向に着磁されている、パターンド・メディアを用意し、
磁気ヘッドのアシンメトリ特性を測定し、
前記測定におけるアシンメトリ測定値に応じて前記磁気ヘッドを分類し、
分類した少なくとも一つのグループの磁気ヘッドを、前記磁気ヘッドのサーボ磁界に対する余裕度が大きいサーボ磁極方向を有する記録面に組み合わせる、
磁気ディスク・ドライブの製造方法。
【請求項2】
前記アシンメトリ測定値に応じて分類されるグループの一つは、アシンメトリ測定値の絶対値が0を含む規定領域内にあって、いずれのサーボ磁極方向の記録面にも使用可能である磁気ヘッド、からなる、
請求項1に記載の磁気ディスク・ドライブの製造方法。
【請求項3】
前記磁気ディスクの一方の面のサーボ・データ領域は、対応する磁気ヘッドからみて一方の向きに着磁され、他方の面のサーボ・データ領域は、対応する磁気ヘッドからみて他方の向きに着磁されており、
前記アシンメトリ測定値に応じた前記分類は、アシンメトリ特性が正と負の磁気ヘッドからなる第1グループ、前記第1グループよりもアシンメトリ性が大きくアシンメトリ特性が負の第2グループ、そして前記第1グループよりもアシンメトリ性大きくアシンメトリ特性が正の第3グループ、が少なくとも形成され、
前記第1グループの磁気ヘッドはいずれの方向のサーボ磁極方向の記録面にも使用可能であり、
前記第2グループの磁気ヘッドは一方のサーボ磁極方向の記録面に組み合わされ、
前記第3グループの磁気ヘッドは他方のサーボ磁極方向の記録面に組み合わされる、
請求項1に記載の磁気ディスク・ドライブの製造方法。
【請求項4】
前記磁気ディスクの両面のサーボ・データ領域を、外部磁界内において同時に着磁する、
請求項1に記載の磁気ディスク・ドライブの製造方法。
【請求項5】
さらに、前記磁気ヘッドのセンス電流とサーボ・データ領域のリード信号におけるアシンメトリ特性との関係を測定し、
前記測定した関係に応じて、前記サーボ・データ領域におけるセンス電流値を設定する、
請求項1に記載の磁気ディスク・ドライブの製造方法。
【請求項6】
さらに、前記磁気ヘッドのヒータ・パワーとサーボ・データ領域のリード信号におけるアシンメトリ特性との関係を測定し、
前記測定した関係に応じて、前記サーボ・データ領域におけるヒータ・パワー値を設定する、
請求項1に記載の磁気ディスク・ドライブの製造方法。
【請求項7】
前記サーボ・データ領域の磁束密度を、ユーザ・データ領域の磁束密度よりも小さくする、
請求項1に記載の磁気ディスク・ドライブの製造方法。
【請求項8】
前記サーボ・データ領域の磁気記録層にイオン注入することによって、前記サーボ・データ領域の磁束密度を前記ユーザ・データ領域の磁束密度よりも小さくする、
請求項7に記載の磁気ディスク・ドライブの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3A】
image rotate

【図3B】
image rotate

【図3C】
image rotate

【図4A】
image rotate

【図4B】
image rotate

【図4C】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2011−129212(P2011−129212A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−287817(P2009−287817)
【出願日】平成21年12月18日(2009.12.18)
【出願人】(503116280)ヒタチグローバルストレージテクノロジーズネザーランドビーブイ (1,121)
【Fターム(参考)】