説明

磁気ディスク用ガラス基板の製造方法

【課題】ガラス基板の端部の加工について砥石を使用しない新たな加工方法を用いた磁気ディスク用ガラス基板の製造方法を提供すること。
【解決手段】この磁気ディスク用ガラス基板の製造方法は、円環状のガラス基板の外周端部を加工する外周加工工程を有するこの外周加工工程では、ガラス基板を中心軸周りに回転させつつ、ガラス基板の外側から前記外周端部に向けてブラスト材を噴射させることでガラス基板の外周端部の一部を除去するように加工する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気ディスク用ガラス基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
今日、パーソナルコンピュータ、あるいはDVD(Digital Versatile Disc)記録装置等には、データ記録のためにハードディスク装置(HDD:Hard Disk Drive)が内蔵されている。特に、ノート型パーソナルコンピュータ等の可搬性を前提とした機器に用いられるハードディスク装置では、ガラス基板に磁性層が設けられた磁気ディスクが用いられ、磁気ディスクの面上を僅かに浮上させた磁気ヘッド(DFH(Dynamic Flying Height)ヘッド)で磁性層に磁気記録情報が記録され、あるいは読み取られる。この磁気ディスクの基板として、金属基板(アルミニウム基板)等に比べて塑性変形し難い性質を持つことから、ガラス基板が好適に用いられる。
【0003】
磁気ヘッドは例えば磁気抵抗効果型素子を備えているが、このような磁気ヘッドに固有の障害としてサーマルアスペリティ障害を引き起こす場合がある。サーマルアスペリティ障害とは、磁気ディスクの微小な凹凸形状の主表面上を磁気ヘッドが浮上飛行しながら通過するときに、空気の断熱圧縮または接触により磁気抵抗効果型素子が加熱され、読み出しエラーを生じる障害である。そのため、サーマルアスペリティ障害を回避するため、磁気ディスクの基板表面の粗さ、マイクロウェービネス(以下、総称して適宜「表面凹凸」という。)は良好なレベルとなるように作製されている。
【0004】
磁気ディスクの主表面の表面凹凸のレベルと共に、磁気ディスク中央に設けられた円孔における内径寸法誤差も厳しい精度管理が求められている。これは磁気ディスクの内周端面の寸法誤差が、磁気ディスクをHDDのスピンドルモータに嵌設する際の設置精度に直接影響するためである。磁気ディスクの内径寸法誤差が大きいと、磁気ディスクをHDDに搭載して動作させたときに、磁気ディスクの回転ぶれが生じるため、HDDのヘッドを磁気ディスク上の適切な位置に配置することが困難となり、データの記録・再生ができなくなる場合がある。
【0005】
また、磁気ディスク用ガラス基板を作製するときには、外周側の端部(外周端部)に面取り加工(チャンファリング)を施すことで、主表面と、主表面に垂直な側壁部との間に介在する面取り(チャンファ)部を形成する。チャンファリングを施すのは、外周端部がエッジの状態(つまり、角が鋭利な状態)のままであると危険であるだけでなく、カケ等が生じやすく機械的強度が低下するためである。チャンファリングを施した後には、外周端部において側壁部と面取り部の両方を鏡面研磨する。十分な研磨がなされずに側壁部又は面取り部に傷(ヒビ、カケ等)が残っていると、傷にパーティクルが捕捉され、その捕捉されたパーティクルが後の工程中等にガラス基板の主表面に付着して、サーマルアスペリティ障害の発生の原因になる虞があるためである。
【0006】
磁気ディスク用ガラス基板の外周端部についてのチャンファリング方法については、例えば以下の特許文献1、2に開示されている。これらの特許文献によれば、チャンファリングでは従来、所定パターンの加工溝を設けたダイヤモンド砥石等の外径加工用砥石を用い、その外径加工用砥石とガラス基板を相対回転させつつガラス基板の外周端部を加工する。このとき、水に防錆剤等を添加した研削液をガラス基板の加工部分に供給しながら加工が行われる。特許文献1には、外径加工用砥石を用いて枚葉方式で行うチャンファリング、つまり1枚ごとのガラス基板のチャンファリングについて開示されている。特許文献2には、複数のガラス基板を接着剤で固着させて積層し、その積層状態の複数のガラス基板に対して外径加工用砥石を用いてチャンファリングを行い、チャンファリング後に積層状態の複数のガラス基板を個々のガラス基板に剥離することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−198012号公報
【特許文献2】特開2000−52212号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来のガラス基板に対する外周端部のチャンファリングでは、外径加工用砥石を高速回転(上記特許文献1では、4000〜20000rpm)させるための駆動モータを含む比較的高価な設備が必要になるとともに、ツルーイングおよびドレッシングによる砥石の定期的な管理が必要になる。
また、砥石を使用した従来の加工方法では、目標とするチャンファ角度を得るために砥石の溝形状、溝のピッチ、ガラス基板と砥石の位置決めの調整が困難である。また、外周端部(側壁部および面取り部)の表面粗さ(Rmax)が20μm程度と比較的大きく、加工によって外周端部の表面に生ずるクラックも表面粗さと同程度の深いものとなる。よって、砥石を使用した従来の加工方法では、表面粗さが良好なものとならないばかりか、後工程の研磨工程における取り代が大きくなって生産性も悪い。
【0009】
また、DFHヘッドによって浮上量が極めて低くなった結果、ガラス基板主表面に存在する極めて微細な異物によってヘッド浮上障害が発生するようになってきた。この異物を調査したところ、最終研磨工程で使用される二酸化珪素を含む砥粒(コロイダルシリカ等)であることがわかった。調査の結果これらの砥粒は、最終研磨工程において用いられた砥粒が外周端部の傷(ヒビ、カケ等)に捕捉されたもので、その後の工程で主表面に付着したものであることがわかった。
この原因としては、コロイダルシリカ等の二酸化珪素を含む物質は、ガラス基板と組成が類似するため付着しやすい性質がある点と、最終研磨工程において用いられる砥粒の粒径が30nm以下と極めて小さくなったために僅かな傷でも捕捉されてしまうという点がある。なお、30nm以下の砥粒が用いられるようになったのは、ガラス基板主表面に求められる表面粗さが従来以上に小さくなったためである。
【0010】
よって、本発明は、ガラス基板の端部の加工について砥石を使用しない新たな加工方法を用いた磁気ディスク用ガラス基板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
発明者らは、上述した課題に鑑み、外径加工用砥石を使用しない新たな加工方法を模索した結果、磁気ディスク用ガラス基板の外周端部には、外周に沿って平面となる面取り部が必ずしも必要ではないことに着目し、外周端部にブラスト材を投射させるブラスト加工によって外周端部を加工することを考案した。このブラスト加工によれば、ガラス基板のエッジが全体的に丸くなり外周端部に面取り部は形成されないが、そのような外周端部の形状であっても、カケ等が生じることはなく機械的強度が低下することもないため、磁気ディスク用ガラス基板として問題となることはない。
【0012】
以上から、本発明は、対向する2つの主表面と、この主表面の間に介在する端部を有する磁気ディスク用ガラス基板の製造方法であって、前記2つの主表面の少なくともいずれかの主表面の周縁部分に隣接する前記端部の一部をブラスト処理することにより、所望の端部形状に加工することを特徴とする。
【0013】
また、本発明は、円環状のガラス基板の外周端部を加工する外周加工工程を有する磁気ディスク用ガラス基板の製造方法であって、前記外周加工工程では、ガラス基板の外側からガラス基板の外周端部に向けてブラスト材を投射させることでガラス基板の外周端部を所望の形状に加工することを特徴とする。
【0014】
上記磁気ディスク用ガラス基板の製造方法において、ブラスト処理により、ガラス基板の端部部分の少なくとも一部を丸み形状に加工することを特徴とする。
【0015】
上記磁気ディスク用ガラス基板の製造方法において、ブラスト処理により、前記端部部分の一部に面取部を形成することを特徴とする。
【0016】
上記磁気ディスク用ガラス基板の製造方法において、前記外周加工工程では、ガラス基板を複数枚積層させた積層体に対してブラスト材を投射させることにより加工することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法によれば、ガラス基板の外周端部の加工時に砥石を使用しないため、加工に伴う設備が簡易なもので済む。また、砥石を使用した場合よりも外周端部の表面粗さが低下し、外周端部の表面に生ずるクラックも浅くなる。よって、後工程の研磨工程における取り代が少なくなって生産性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施形態の磁気ディスク用ガラス基板の形状を示す図。
【図2】実施形態の外周加工装置に装填するガラス基板の積層体の構成を示す図。
【図3】実施形態の外周加工装置の構成例を示す側面図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本実施形態の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法について詳細に説明する。
【0020】
[磁気ディスク用ガラス基板]
本実施形態における磁気ディスク用ガラス基板の材料として、アルミノシリケートガラス、ソーダライムガラス、ボロシリケートガラスなどを用いることができる。特に、化学強化を施すことができ、また主表面の平坦度及び基板の強度において優れた磁気ディスク用ガラス基板を作製することができるという点で、アルミノシリケートガラスを好適に用いることができる。
【0021】
本実施形態の磁気ディスク用ガラス基板の組成を限定するものではないが、本実施形態のガラス基板は好ましくは、酸化物基準に換算し、モル%表示で、SiOを50〜75%、Alを1〜15%、LiO、NaO及びKOから選択される少なくとも1種の成分を合計で5〜35%、MgO、CaO、SrO、BaO及びZnOから選択される少なくとも1種の成分を合計で0〜20%、ならびにZrO、TiO、La、Y、Ta、Nb及びHfOから選択される少なくとも1種の成分を合計で0〜10%、有する組成からなるアルミノシリケートガラスである。
【0022】
本実施形態における磁気ディスク用ガラス基板は、円環状の薄板のガラス基板である。磁気ディスク用ガラス基板のサイズは問わないが、例えば、公称直径2.5インチの磁気ディスク用ガラス基板として好適である。
【0023】
図1は、本実施形態の磁気ディスク用ガラス基板の形状を示す図であり、(a)は磁気ディスク用ガラス基板の斜視図、(b)は外周端部の近傍の磁気ディスク用ガラス基板の断面図、をそれぞれ示す。図1(a)に示すように、磁気ディスク用ガラス基板には内孔15が設けられている。直径2.5インチの磁気ディスク用ガラス基板の場合、内孔15の径は例えば18〜21mmである。本実施形態の磁気ディスク用ガラス基板において、主表面10と、内周端部および外周端部は鏡面研磨されている。図1(b)に示すように、外周端部20は、表側の主表面10と裏側の主表面10にかけて丸みを帯びた形状となっている。なお、磁気ディスク用ガラス基板の板厚Tは、1mm以下、例えば0.2〜0.8mm程度である。
【0024】
[磁気ディスク用ガラス基板の製造方法]
以下、本実施形態の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法について、工程毎に説明する。ただし、各工程の順番は適宜入れ替えてもよい。
【0025】
(1)板状ガラスの成形およびラッピング工程
例えばフロート法による板状ガラスの成形工程では先ず、錫などの溶融金属の満たされた浴槽内に、例えば上述した組成の溶融ガラスを連続的に流し入れることで板状ガラスを得る。溶融ガラスは厳密な温度操作が施された浴槽内で進行方向に沿って流れ、最終的に所望の厚さ、幅に調整された板状ガラスが形成される。この板状ガラスから、磁気ディスク用ガラス基板の元となる所定形状の板状ガラス(ガラス基板)が切り出される。浴槽内の溶融錫の表面は水平であるために、フロート法により得られるガラス基板は、その表面の平坦度が十分に高いものとなる。
また、例えばプレス成形法よる板状ガラスの成形工程では、受けゴブ形成型である下型上に、溶融ガラスからなるガラスゴブが供給され、下型と対向ゴブ形成型である上型を使用してガラスゴブがプレス成形される。より具体的には、下型上に溶融ガラスからなるガラスゴブを供給した後に上型用胴型の下面と下型用胴型の上面を当接させ、上型と上型用胴型との摺動面および下型と下型用胴型との摺動面を超えて外側に肉薄板状ガラス成形空間を形成し、さらに上型を下降してプレス成形を行い、プレス成形直後に上型を上昇する。これにより、磁気ディスク用ガラス基板の元となるガラス基板が成形される。
なお、ガラス基板は、上述した方法に限らず、ダウンドロー法などの公知の製造方法を用いて製造することができる。
【0026】
次に、所定形状に切り出されたガラス基板の両主表面に対して、必要に応じて、アルミナ系遊離砥粒を用いたラッピング加工を行う。具体的には、ガラス基板の両面に上下からラップ定盤を押圧させ、遊離砥粒を含む研削液(スラリー)をガラス基板の主表面上に供給し、これらを相対的に移動させてラッピング加工を行う。なお、フロート法でガラス基板を成形した場合には、成形後の主表面の粗さの精度が高いため、このラッピング加工を省略してもよい。
【0027】
(2)コアリング工程
円筒状のダイヤモンドドリルを用いて、ガラス基板の中心部に内孔を形成し、円環状のガラス基板とする。
【0028】
(3)内周端部のチャンファリング工程
コアリング工程の後、内周端部に面取り部を形成するチャンファリング工程が行われる。チャンファリング工程では、ガラス基板の内周端部に対して、例えば、所定パターンの加工溝を設けたダイヤモンド砥粒を用いたメタルボンド砥石等によって面取りを施す。このチャンファリングでは、ガラス基板の内周端部に砥石を当てつつ、ガラス基板の加工部分にクーラント水溶液を供給しながら加工を行う。なお、内周端部についても後述する外周加工工程と同様にブラスト加工によって加工を行ってもよい。
【0029】
(4)外周加工工程
外周加工工程は、ガラス基板の外周端部をブラスト加工することで、図1(b)に示したようにガラス基板の外周端部のエッジが丸くなるように加工する工程である。この外周加工工程は、ガラス基板を1枚ずつ加工する枚葉方式で行ってもよいが、以下では、ガラス基板を複数枚積層させ、その積層状態の複数のガラス基板を同時に加工する積層方式について説明する。この積層方式は、加工のタクトタイムを短縮できる点で有効である。
【0030】
先ず図2に示すように、ガラス基板を複数枚積層させた積層体を形成する。図2は、ガラス基板の積層体の断面を示す。図2には、ガラス基板G間に接着剤100を塗布または貼付して作製された積層体Lが図示されている。ここで、接着剤100は、ガラス基板同士を接着または剥離可能であれば如何なるものでも構わない。例えば、紫外線硬化樹脂は、所定の波長の紫外線の照射で容易に固化するため接着作業が容易である。また、紫外線硬化樹脂として、温水あるいは有機溶媒により接着したガラス基板を容易に剥離させることができるものが好ましい。接着剤としては紫外線硬化樹脂のほか、ワックス、光硬化樹脂、可視光線硬化樹脂等も使用しうる。ワックスは、所定の温度で軟化して液状になり常温で固形状となるので、接着・剥離作業が容易である。接着剤の代わりにスペーサを貼付してもよい。接着剤の代わりにスペーサをガラス基板G間に貼付する場合には、樹脂材料、繊維材料、ゴム材料、金属材料、セラミック材料の薄厚のスペーサを使用しうる。接着剤またはスペーサの厚さは、例えば50〜70μm程度である。
【0031】
外周加工工程を行う前のガラス基板は、図2に示すように、その外周端部は、主表面10と垂直な側壁部210と、表側および裏側の主表面10と側壁部210に介在するエッジ部220とで構成されている。この外周加工工程では、側壁部210とエッジ部220に対してブラスト加工を行うが、エッジ部220に対するブラスト材の投射を遮蔽することがないように、接着剤(またはスペーサ)100は、エッジ部220よりも内周側に配置させる。
【0032】
次に、図2に示した積層体Lに対してブラスト加工を行う外周加工装置について、図3を参照して説明する。図3は、本実施形態の外周加工装置の概要を示す図である。
図3に示す外周加工装置は、噴射ノズル70と回転駆動装置80を含む。
【0033】
回転駆動装置80は、ガラス基板の積層体Lを所定の回転数で回転させる装置であり、載置台81、回転シャフト82および保持具83を備える。回転シャフト82は、ガラス基板の内孔の大きさに応じて径が設定されている円柱状の部材である。積層体Lが回転駆動装置80に装填されるときには、積層体Lの内孔を回転シャフト82に挿入しつつ載置台81に配置された状態となる。回転駆動装置80は、積層体Lが装填された状態で、回転シャフト82を図示しない駆動機構によって回転させ、それによって積層体Lは、回転シャフト82の中心軸回りに保持具83に保持されつつ所定の回転数で回転させられる。積層体Lの回転数は、例えば20〜300rpmである。
【0034】
噴射ノズル70は、積層体Lの回転中に、積層体Lに向けて噴射口70aから所定の噴射圧のブラスト材(投射材)を投射させる。このとき噴射ノズル70は、積層体Lの外側から積層体Lを構成する各ガラス基板の外周端部に噴射口70aが向くように配置されている。噴射ノズル70の噴射口70aと積層体Lの外周端部までの距離は、例えば50〜200mmであり、噴射ノズル70によるブラスト材の噴射圧は、例えば0.3〜0.8MPaである。ブラスト材の粒径は40〜10μmであることが好ましく、ブラスト材の材質は例えばシリコンカーバイド、アルミナ、ジルコニア、ガーネットであってよい。ブラスト材の噴射時間は好ましくは60〜300秒である。
なお、積層体Lを構成する各ガラス基板では、上下方向の位置が噴射口70aと離れるにつれてブラスト材による加工力が低下していく(つまり、ブラスト材による取り代が低下していく)ため、ガラス基板の積層体中の位置にかかわらず各ガラス基板で取り代が均一となるようにすべく、噴射ノズル70を積層体Lの積層方向に上下させるための駆動機構を設けてもよい。
【0035】
図2に示した外周加工装置によって積層体Lを加工すると、積層体Lを構成する各々のガラス基板の外周端部を構成する側壁部210とエッジ部220が全体的にほぼ均等な圧力でブラスト材によって加工される。その結果、図1(b)に示したように、加工後のガラス基板の外周端部のエッジが丸くなり、外周端部は全体として丸みを帯びた形状となる。
【0036】
この外周加工工程では、ガラス基板の外周端部の加工時に砥石を使用せず、それゆえ砥石を回転させるための装置は不要であるため加工に伴う設備が簡易なもので済む。また、この外周加工工程では研削液を使用しないため、次工程である端面研磨工程の前にガラス基板を洗浄、乾燥させる必要とないというメリットがある。また、加工後のガラス基板の外周端部は、従来のチャンファのような尖った部分がなく丸みを帯びた形状(ラウンドエッジ形状)であり、後の端面研磨工程と相俟って傷(ヒビ、カケ等)が残留し難い形状であるため、その後のガラス基板加工工程及び成膜工程においてエッジ部がカケたりガラス基板が割れたりするリスクを従来よりも低減することができる。仮に砥石を使用した従来の加工方法を使用したならば、砥石の溝形状、溝のピッチ、ガラス基板と砥石の位置決めの調整が困難であり、外周端部を丸くする(ラウンドエッジとする)のは極めて難しい。
また、砥石を使用した従来の加工方法では、外周端部(側壁部および面取り部)の表面粗さ(Rmax)が20μm程度であるのに対し、この外周加工工程で利用するブラスト加工で得られる外周端部の表面粗さ(Rmax)は10μm以下となり、表面粗さを半分以下とすることができる。加工によって外周端部の表面に生ずるクラックの深さも、表面粗さと同様に、この外周加工工程で利用するブラスト加工では、従来の加工方法と比較して半分以下となる。よって、この外周加工工程で利用するブラスト加工によれば、外周端部がカケたりガラス基板が割れたりするリスクを従来よりも低減することができるばかりか、後の端面研磨工程における取り代が従来よりも低下して生産性を高めることもできる。
【0037】
なお、上記外周加工工程のブラスト加工によって外周端部を丸くする(ラウンドエッジとする)方法について述べたが、ブラスト加工によってガラス基板の内周端部あるいは外周端部を所望の端部形状に加工するようにしてもよい。所望の端部形状に加工するために、ガラス基板の端部から見たブラスト材の噴射方向を適宜調整してよい。
また、所望の端部形状に加工するために、加工前のガラス基板の端部のうち主表面と垂直な側壁部の一部を、ブラスト材の投射に耐えうる機械的強度を備えた部材によってマスキングすることによって、ガラス基板の端部のうちブラスト材によって投射される領域を限定するようにしてよい。この場合、ガラス基板の表側および裏側の2つの主表面の少なくともいずれか主表面の周縁部分に隣接する端部の一部がブラスト処理の対象となるため、加工後のガラス基板の端部は、両主表面に亘って全体的に丸くなるのではなく、その端部の一部のみが丸みを帯びたR形状の面取り部が形成される。
【0038】
(5)端面研磨工程
次に、積層状態のままガラス基板の端面研磨が行われる。
端面研磨では、ガラス基板の内周端面及び外周端面をブラシ研磨により鏡面仕上げを行う。このとき、酸化セリウム等の微粒子を遊離砥粒として含むスラリーが用いられる。端面研磨を行うことにより、ガラス基板の端面での塵等が付着した汚染、ダメージあるいはキズ等の損傷の除去を行うことにより、サーマルアスペリティの発生の防止や、ナトリウムやカリウム等のコロージョンの原因となるイオン析出の発生を防止することができる。
前工程の外周加工工程によってガラス基板の外周端部は全体的に丸みを帯びた形状に加工されているが、本工程では、研磨ブラシの毛先が外周端部の丸みを帯びた面に追従して研磨することによって、丸みを帯びた面が鏡面研磨される。端面研磨工程が完了すると、ガラス基板の積層体を個々のガラス基板に分離する。
【0039】
(6)固定砥粒による研削工程
固定砥粒による研削工程では、遊星歯車機構を備えた両面研削装置を用いてガラス基板の主表面に対して研削加工を行う。研削による取り代は、例えば数μm〜100μm程度である。両面研削装置は、上下一対の定盤(上定盤および下定盤)を有しており、上定盤および下定盤の間にガラス基板が狭持される。そして、上定盤または下定盤のいずれか一方、または、双方を移動操作させることで、ガラス基板と各定盤とを相対的に移動させることにより、このガラス基板の両主表面を研削することができる。
【0040】
(7)第1研磨(主表面研磨)工程
次に、研削されたガラス基板の主表面に第1研磨が施される。第1研磨による取り代は、例えば数μm〜50μm程度である。第1研磨は、固定砥粒による研削により主表面に残留したキズ、歪みの除去、表面凹凸(マイクロウェービネス、粗さ)の調整を目的とする。第1研磨工程では、研削工程と同様の構造の両面研磨装置を用いて、研磨液を与えながら研磨する。研磨液に含有させる研磨剤は、例えば、酸化セリウム砥粒、あるいはジルコニア砥粒である。
【0041】
なお、第1研磨工程では、ガラス基板の主表面の表面凹凸について、粗さ(Ra)を0.5nm以下とし、かつマイクロウェービネス(MW-Rq)を0.5nm以下とするように研磨を行う。ここで、マイクロウェービネスは、主表面全面の半径14.0〜31.5mmの領域における波長帯域100〜500μmの粗さとして算出されるRMS(Rq)値で表すことができ、例えば、ポリテック社製のModel−4224を用いて計測できる。
主表面の粗さは、JIS B0601:2001により規定される算術平均粗さRaで表され、0.006μm以上200μm以下の場合は、例えば、ミツトヨ社製粗さ測定機SV−3100で測定し、JIS B0633:2001で規定される方法で算出できる。その結果、粗さが0.03μm以下であった場合は、例えば、日本Veeco社製走査型プローブ顕微鏡(原子間力顕微鏡;AFM)ナノスコープで計測しJIS R1683:2007で規定される方法で算出できる。本願においては、1μm×1μm角の測定エリアにおいて、512×512ピクセルの解像度で測定したときの算術平均粗さRaを用いることができる。
【0042】
(8)化学強化工程
次に、第1研磨後の円環状のガラス基板は化学強化される。
化学強化液として、例えば硝酸カリウム(60重量%)と硫酸ナトリウム(40重量%)の混合液等を用いることができる。化学強化工程では、化学強化液を例えば300℃〜400℃に加熱し、洗浄したガラス基板を例えば200℃〜300℃に予熱した後、ガラス基板を化学強化液中に例えば3時間〜4時間浸漬する。
ガラス基板を化学強化液に浸漬することによって、ガラス基板の表層のリチウムイオン及びナトリウムイオンが、化学強化液中のイオン半径が相対的に大きいナトリウムイオン及びカリウムイオンにそれぞれ置換されることで表層部分に圧縮応力層が形成され、ガラス基板が強化される。なお、化学強化処理されたガラス基板は洗浄される。例えば、硫酸で洗浄された後に、純水等で洗浄される。
【0043】
(9)第2研磨(最終研磨)工程
次に、化学強化されて十分に洗浄されたガラス基板に第2研磨が施される。第2研磨による取り代は、例えば1μm程度である。第2研磨は、主表面の鏡面研磨を目的とする。第2研磨では例えば、第1研磨で用いた研磨装置を用いる。このとき、第1研磨と異なる点は、遊離砥粒の種類及び粒子サイズが異なることと、樹脂ポリッシャの硬度が異なることである。
第2研磨に用いる遊離砥粒として、例えば、スラリーに混濁させたコロイダルシリカ等の微粒子(粒子サイズ:直径10〜50nm程度)が用いられる。
研磨されたガラス基板を中性洗剤、純水、IPA等を用いて洗浄することで、磁気ディスク用ガラス基板が得られる。
第2研磨工程を実施することは必ずしも必須ではないが、ガラス基板の主表面の表面凹凸のレベルをさらに良好なものとすることができる点で実施することが好ましい。第2研磨工程を実施することで、主表面の粗さ(Ra)を0.1nm以下かつ前記主表面のマイクロウェービネス(MW-Rq)を0.1nm以下とすることができる。
【0044】
[磁気ディスク]
以上の各工程を経て、磁気ディスク用ガラス基板が作製される。この磁気ディスク用ガラス基板を用いて、磁気ディスクは以下のようにして得られる。
磁気ディスクは、例えばガラス基板の主表面上に、主表面に近いほうから順に、少なくとも付着層、下地層、磁性層(磁気記録層)、保護層、潤滑層が積層された構成になっている。
例えば基板を真空引きを行った成膜装置内に導入し、DCマグネトロンスパッタリング法にてAr雰囲気中で、基板主表面上に付着層から磁性層まで順次成膜する。付着層としては例えばCrTi、下地層としては例えばCrRuを用いることができる。磁性層としては、例えばCoPt系合金を用いることができる。また、L10規則構造のCoPt系合金やFePt系合金を形成して熱アシスト磁気記録用の磁性層とすることもできる。上記成膜後、例えばCVD法によりCを用いて保護層を成膜し、続いて表面に窒素を導入する窒化処理を行うことにより、磁気記録媒体を形成することができる。その後、例えばPFPE(パーフルオロポリエーテル)をディップコート法により保護層上に塗布することにより、潤滑層を形成することができる。
【実施例】
【0045】
以下に、本発明を実施例によりさらに説明する。但し、本発明は実施例に示す態様に限定されるものではない。
【0046】
(1)溶融ガラスの作製
以下の組成のガラスが得られるように原料を秤量し、混合して調合原料とした。この原料を熔融容器に投入して加熱、熔融し、清澄、攪拌して泡、未熔解物を含まない均質な熔融ガラスを作製した。得られたガラス中には泡や未熔解物、結晶の析出、熔融容器を構成する耐火物や白金の混入物は認められなかった。
[ガラスの組成]
酸化物基準に換算し、モル%表示で、SiOを50〜75%、Alを1〜15%、LiO、NaO及びKOから選択される少なくとも1種の成分を合計で5〜35%、MgO、CaO、SrO、BaO及びZnOから選択される少なくとも1種の成分を合計で0〜20%、ならびにZrO、TiO、La、Y、Ta、Nb及びHfOから選択される少なくとも1種の成分を合計で0〜10%、有する組成からなるアルミノシリケートガラス
【0047】
(2)ガラス基板の作製
清澄、均質化した上記熔融ガラスをパイプから一定流量で流出するとともにプレス成形用の下型で受け、下型上に所定量の熔融ガラス塊が得られるよう流出した熔融ガラスを切断刃で切断した。そして熔融ガラス塊を載せた下型をパイプ下方から直ちに搬出し、下型と対向する上型および胴型を用いて、薄肉円盤状にプレス成形した。プレス成形品を変形しない温度にまで冷却した後、型から取り出してアニールする。その後、プレス成形により得られたガラス基板に対して、ラッピング加工を行った。ラッピング加工では、遊離砥粒としてアルミナ砥粒(#1000の粒度)を用いた。このようにして外径65.5mmのガラスディスクを得た。
【0048】
(3)コアリング加工、およびチャンファリング加工(内周側のみ)
円筒状のダイヤモンドドリルを用いて、円盤状ガラス素材の中心部に内孔を形成し、円環状のガラス基板とした(コアリング)。そして内周端面を#500のダイヤモンド砥石によって研削し、所定の面取り加工を施した(チャンファリング)。
【0049】
(4)外周加工工程
次に、ガラス基板の外周端部に対してブラスト材を投射して外周加工を施した。この工程では、スペーサとして厚さ50μmのアクリル系光硬化性樹脂をガラス基板間に塗布することでガラス基板間に介在させ、25枚のガラス基板の積層体を作製した。なお、スペーサ部の外径は、ガラス基板の外径と同じである。
その後、積層体に光を当てて樹脂を硬化させた。この積層体を図3に示した外周加工装置に装填して外周加工を行った。このとき、加工条件は以下とした。
・積層体の回転数:120rpm
・ブラスト材:WA#1000の溶融アルミナ
・噴射圧:0.5MPa
・噴射時間:120秒
・噴射口と積層体の外周端部までの距離:100mm
なお、ブラスト材を投射するノズルを積層体の積層方向に移動させて、ガラス基板の積層体中の位置にかかわらず各ガラス基板で取り代が均一となるようにした。
【0050】
(5)端面研磨工程
次に、ガラス基板の積層体を端面研磨装置に装填し、研磨ブラシ(ナイロン繊維の毛を用いたロールブラシ)による端面研磨を行った。先ず、端面研磨装置内で積層体を固定して保持し、積層体の内周にセットした研磨ブラシを1000rpmで60分間回転させた。このときに使用するスラリーは、平均粒子径1μmの酸化セリウム(CeO)砥粒を10重量%、純水ろ過水(RO水)もしくは純水に混入し十分に攪拌して生成した。次に、積層体の外周にセットした研磨ブラシを3500rpmで30分間回転させた。外周の研磨についても、内周を研磨したときと同一のスラリーを使用した。
【0051】
以上の各工程によって実施例のガラス基板を得た。
一方、上記外周加工工程の代わりに外周側のチャンファリングを行うことで従来例のガラス基板を得た。この外周側のチャンファリングでは、#500のダイヤモンド砥石によって外周端部を研削し、所定の面取り加工を施した。端面研磨工程は、実施例と従来例で同一である。
【0052】
従来例と実施例のガラス基板の外周端部を200倍に拡大してビデオスコープで拡大して端部形状のプロファイルを観察した。従来例は、主表面と側壁部の間に40〜50度の角度で面取り部(チャンファ)が形成されていることが確認された。また、実施例は、表側と裏側の主表面にかけて全体として丸みを帯びたプロファイルが確認された。さらに、外周端部の面に傷(ヒビ、カケ等)が無いか観察したところ、従来例および実施例ともに特に傷(ヒビ、カケ等)は確認されなかった。
また、端面研磨工程前の実施例および従来例について、キーエンス社製レーザー顕微鏡(VK9700)を用いて従来例の外周端部の面取り部と実施例の外周端部を20倍に拡大して150μm角の領域について表面粗さを計測したところ、測定領域における最も高い点と最も低い点の距離は、従来例で20μm、実施例で9μmであった。クラック深さはこの距離と同等か、もしくはこの距離に比例すると考えられる。よって実施例ではクラック深さ及び研磨取り代を従来例の半分以下とすることができる。
なお、仮に砥石を使用してガラス基板の外周端部にラウンドエッジを形成できたとしても、その表面粗さは従来例と同等であると予想される。
【0053】
以上、本発明の実施形態について詳細に説明したが、本発明の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法は上記実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよいのは勿論である。
【符号の説明】
【0054】
(磁気ディスク用ガラス基板)
10…主表面
15…内孔
20…外周端部
(外周加工装置)
70…噴射ノズル
70a…噴射口
80…回転駆動装置
81…載置台
82…回転シャフト
83…保持具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向する2つの主表面と、この主表面の間に介在する端部を有する磁気ディスク用ガラス基板の製造方法であって、
前記2つの主表面の少なくともいずれかの主表面の周縁部分に隣接する前記端部の一部をブラスト処理することにより、所望の端部形状に加工することを特徴とする、磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。
【請求項2】
円環状のガラス基板の外周端部を加工する外周加工工程を有する磁気ディスク用ガラス基板の製造方法であって、
前記外周加工工程では、ガラス基板の外側からガラス基板の外周端部に向けてブラスト材を投射させることでガラス基板の外周端部を所望の形状に加工することを特徴とする、磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法であって、
ブラスト処理により、前記端部部分の少なくとも一部を丸み形状に加工することを特徴とする、磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。
【請求項4】
請求項1または2に記載の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法であって、
ブラスト処理により、前記端部の一部に面取部を形成することを特徴とする、磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載された磁気ディスク用ガラス基板の製造方法であって、
前記外周加工工程では、ガラス基板を複数枚積層させた積層体に対してブラスト材を投射させることにより加工することを特徴とする、磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2012−216255(P2012−216255A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−79570(P2011−79570)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】