説明

磁気ディスク装置及び磁気ヘッドの制御方法

【課題】磁気ヘッドの下にデータセクタが来たときに速やかにデータを書き込むことができる磁気ディスク装置及び磁気ヘッドの制御方法を提供する。
【解決手段】磁気ディスクに情報を磁気的に記録再生する磁気ヘッドを移動させる駆動部と、前記磁気ヘッドの目標位置と検出位置との差に基づいて前記駆動部をフィードバック制御する位置誤差フィードバック制御系と、前記磁気ヘッドの移動前の位置と、前記磁気ヘッドの目標位置と、記録再生を行うデータセクタの位置と、に基づき、目標速度曲線を可変とし、前記駆動部の制御数式モデルを用いて前記駆動部の速度が前記目標速度曲線に追従するように前記駆動部を制御する速度制御系と、を備えたことを特徴とする磁気ディスク装置が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気ディスク装置及び磁気ヘッドの制御方法に関し、具体的には、回転する磁気ディスク上で、磁気ヘッドを移動させる磁気ディスク装置及び磁気ヘッドの制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気ディスク装置の磁気ヘッド位置決め制御系においては、マイクロコンピュータを用いたディジタル制御系が構成されることが一般的である。すなわち、離散的に得られたヘッドの位置情報からマイクロプロセッサ内部で制御指令を計算し、D/A(ディジタル・アナログ変換器)を通してアクチュエータの駆動ドライブに制御指令を与えている。一般的に、アクチュエータは高周波帯域に機械共振を有するので、磁気ヘッドを高速・低振動・低騒音で目標位置に移動させるには、機械共振を励起しないフィードフォワード制御入力を生成することが非常に重要である。
【0003】
磁気ヘッドを短い距離だけ高速で移動させる方法として、機械共振を励起しないようなアクチュエータへのフィードフォワード制御入力と、フィードバック制御系への目標位置指令と、を最適化手法を用いて予め計算しておき、テーブルとして持っていることも考えられる。しかしながら、あらゆるシーク距離に対して、このような方法を取ることはマイクロプロセッサのメモリ容量から不可能である。そのため、長距離シークの場合、オンラインでアクチュエータへのフィードフォワード制御入力と目標位置指令とを生成しなければならない。
【0004】
このための方法として、制御系内部にアクチュエータモデルを設け、モデル速度を目標速度曲線に追従させることにより、モデルへの制御指令とモデル位置とをアクチュエータへのフィードフォワード制御入力と目標位置指令としてフィードバック制御系にそれぞれ与える方法が考えられる。しかし、オンラインでデータを生成するために最適化手法を用いることが困難であり、機械共振を励起させないような高速なシークを実現することは難しい。
【0005】
ところで、磁気ディスク装置の場合、データの読み書きは、所望とするデータセクタがヘッド下に到達して初めてできる。つまり、シーク開始時に所望とするデータセクタが離れている場合は、アクチュエータの機械共振を励起しやすいような高速スピードでヘッドを移動させても、目標トラックに到達してから書き込むデータセクタがヘッド下に来るのを待たなければいけなくなり、無駄である。これに対して、シーク開始時の書き込むデータセクタの位置によって、ヘッドの目標速度の最大値を変える方法が開示されている(特許文献1)。
【特許文献1】特開2000−40317号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示されている方法は、消費電力の低減には有効であるが、目標速度の減速が同じであるので減速時の電流変化を少なくすることができない。そのため、セトリング時の機械共振励起が生ずる点で、改善の余地がある。すなわち、アームを急減速させた場合、アクチュエータの機械共振による振動が起きやすい。そのため、磁気ヘッドが目標トラックに到達してからデータセクタがヘッド下に来た時に、磁気ヘッドの振動のためデータを書き込めないことがある。
【0007】
本発明は、かかる課題の認識に基づいてなされたものであり、磁気ヘッドの下にデータセクタが来たときに速やかにデータを書き込むことができる磁気ディスク装置及び磁気ヘッドの制御方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様によれば、磁気ディスクに情報を磁気的に記録再生する磁気ヘッドを移動させる駆動部と、前記磁気ヘッドの目標位置と検出位置との差に基づいて前記駆動部をフィードバック制御する位置誤差フィードバック制御系と、前記磁気ヘッドの移動前の位置と、前記磁気ヘッドの目標位置と、記録再生を行うデータセクタの位置と、に基づき、目標速度曲線を可変とし、前記駆動部の制御数式モデルを用いて前記駆動部の速度が前記目標速度曲線に追従するように前記駆動部を制御する速度制御系と、を備えたことを特徴とする磁気ディスク装置が提供される。
【0009】
また、本発明の他の一態様によれば、磁気ディスクに情報を磁気的に記録再生する磁気ヘッドを移動させる磁気ヘッドの制御方法であって、前記磁気ヘッドの目標位置と検出位置との差に基づいて前記駆動部をフィードバック制御しつつ、前記磁気ヘッドの移動前の位置と、前記磁気ヘッドの目標位置と、記録再生を行うデータセクタの位置と、に基づき、目標速度曲線を可変とし、前記駆動部の制御数式モデルを用いて前記駆動部の速度が前記目標速度曲線に追従するように前記駆動部を制御することを特徴とする磁気ヘッドの制御方法が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、磁気ヘッドの下にデータセクタが来たときに速やかにデータを書き込むことができる磁気ディスク装置及び磁気ヘッドの制御方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
図1は、本発明の実施の形態にかかる磁気ディスク装置の要部を表す概念図である。 本実施形態の磁気ディスク装置は、マイクロプロセッサー(MPU)18を主構成要素とするヘッド位置決め制御機構を備える。磁気ヘッド11はアーム12に支持されており、アーム12はボイスコイルモータ(VCM)13の駆動力により磁気ヘッド11をディスク14の半径方向に移動させる。VCM13は、マグネット15と駆動コイル16とを有し、パワーアンプ17から供給される電流により駆動される。MPU18は制御指令を演算し、この制御指令がD/Aコンバータ19によりアナログ信号に変換され、パワーアンプ17に与えられる。パワーアンプ17は、MPU18からの制御指令を駆動電流に変換してVCM13に供給する。
【0012】
ディスク14は1枚または複数枚設けられており、スピンドルモータにより高速回転する。ディスク14上には同心円状に複数のトラックが形成されており、一定間隔でサーボエリア20が設けられている。サーボエリア20にはトラックの位置情報が予め埋め込まれており、磁気ヘッド11がサーボエリア20を横切ることにより磁気ヘッド11からの信号をヘッドアンプ21で取り込み、このリード信号を増幅してサーボデータ処理回路22に信号を供給する。サーボデータ処理回路22は、増幅されたリード信号からサーボ情報を生成し、一定時間間隔でMPU18に出力する。MPUはI/O23から取り込んだサーボ情報から磁気ヘッド11の位置を算出し、得られたヘッド位置からVCM13に流すべき制御指令を一定時間間隔で計算する。
【0013】
図2は、本実施形態の磁気ディスク装置のシーク制御系を表す模式図である。
図3は、このシーク制御系において実行される処理を表す概念図である。
図4は、比較例の磁気ディスク装置のシーク制御系において実行される処理を表す概念図である。
図5は、磁気ヘッドとディスクとの関係を例示した模式図である。
【0014】
図2に表したシーク制御系は、位置誤差フィードバック制御系(C2(z))100と、モデル側制御系200と、を備えている。モデル側制御系200においては、アクチュエータの仮想的な数式モデルに対する速度制御系が構築されており、モデル速度を目標速度に追従させることにより、位置誤差フィードバック制御系100へ与える目標位置指令と、フィードフォワード制御入力と、を生成する。モデル側制御系200から出力されたフィードフォワード制御入力は、目標トラックの位置(Target Positon)の情報とともに、速度フィードバックコントローラ300に入力され、リミッタ400を介して、ボイスコイルモータ13へのフィードフォワード制御入力として出力される。
【0015】
アクチュエータ(VCM18)のシーク性能を向上させるには、滑らかなフィードフォワード制御入力をアクチュエータに与えることが重要である。そのため、モデル側制御系200においては、フィードバック制御系100のn倍のサンプリング周期で演算が実行されている。
【0016】
位置誤差フィードバック制御系100は、シーク時においては「オブザーバモード」と、「2自由度制御モード」と、を実行可能とされている。シーク前半のオブザーバモードでは、フィードバック制御系100の出力をモデル側制御系200の入力端に加えて(スイッチsw1を端子2に接続)、モデルの状態(位置と速度)がアクチュエータの動きに近くなるようにしている。そして、シーク後半では、フィードバック制御系100の出力をアクチュエータ(VCM18)に入れ(スイッチsw1を端子1に接続)、通常の2自由度制御系としている。このようにすれば、シーク時の電流飽和の影響と位置検出ノイズの影響を小さくできる。
【0017】
このようなシーク制御系において、図4に表した比較例のように、目標トラックの位置(目標トラック番号)のみが与えられ、できるだけ早く目標トラックに移動させるような目標速度曲線と速度制御系を構成することも考えられる。また、特許文献1に開示されているように、書き込むデータセクタの位置から目標速度の最大速度のみを可変にするような構成も考えられる。
【0018】
しかし、常に同じ目標速度曲線と速度制御系パラメータを用いた場合、すなわち、加速・減速の変化が一定の場合は、アームの機械共振を励振する場合がある。例えば、図5(a)に表したように、書き込まれるデータセクタ14Aが磁気ヘッド11から離れた位置にある場合がある。つまり、データセクタ14Aが磁気ヘッド11の下に到達するまでには時間的な余裕がある。このような場合に、磁気ヘッド11を最大速度でシークすると、図5(b)に表したように、磁気ヘッド11が目標トラック14Tに到達しても、書き込まれるデータセクタ14Aはまだ磁気ヘッド11の下に到達していないので待ち時間が生ずる。しかし、磁気ヘッドを高速でシークし急減速すると、アーム12の機械共振を励起しやすくなってしまい、データセクタ14Aが磁気ヘッド11の下に到達した時に磁気ヘッド11の振動により書き込み禁止になりやすい。
【0019】
また、目標速度の最大速度のみを可変にする方法は、消費電力を少なくするためには有効であるが、最大速度に達するまでの加速区間と、最大速度から停止するまでの減速区間は同じ目標速度を用いているので、減速の仕方は変わらない。そのため、減速時の電流変化の挙動は同じになり、目標トラックに到達時の機械共振による振動を避ける効果は低い。
【0020】
一般に、磁気ヘッド11が目標トラック14Tに到達したら直ぐにデータ書き込みができるわけではない。データが書き込まれるデータセクタ14Aが磁気ヘッド11の下に来て初めて書き込みが可能となる。そのため、磁気ヘッド11を高速に移動しても、データセクタ14Aが磁気ヘッド11の下に来るまでは待つ必要が出てくる。そして、磁気ヘッド11を急減速させると、磁気ヘッド11を目標トラック14Tに停止させる時に磁気ヘッド11の振動が励起されやすく、データセクタ14Aが到達するまでに磁気ヘッド11の振動が収まらないこともある。そのような場合は、ディスク14がもう一周回転するまでデータを書き込めなくなってしまう。
【0021】
これに対して、本実施形態によれば、目標速度曲線と速度フィードバックのゲインをそれぞれ可変とする。つまり、最大速度に加え、減速区間の速度変化の割合も変化させる。そして、図3に表したように、シーク開始時に磁気ヘッド11がいるトラックとデータセクタ、データを書き込むトラックとデータセクタからシークに許される時間を求め、この時間内に目標トラックに移動するように目標速度曲線のパラメータと、速度フィードバックゲインと、を予め用意されているテーブルから選択する。このようにすれば、不必要に磁化ヘッドを急加速、急減速させずに、データを書き込むトラックが磁気ヘッドの目標位置の下に到達するまでの時間に磁気ヘッドを滑らかにシークさせることができる。
【0022】
図6は、本実施形態の磁気ディスク装置のシーク制御系を例示するブロック図である。 また、図7は、比較例の磁気ディスク装置のシーク制御系を例示するブロック図である。
【0023】
これらいずれのシーク制御系においても、モデル側制御系200には、状態方程式であるAマトリックス210、Bマトリックス220、Cマトリックス240と、1サンプル遅れ230と、が組み合わされている。
【0024】
そして、図7に表した比較例の場合、速度フィードバックコントローラ300に設けられた目標速度曲線決定部360と速度フィードバックゲイン決定部370には、それぞれ固定値の目標速度曲線Vrefと速度フィードバックゲインkとが格納されている。つまり、速度フィードバックコントローラ300は、加速・減速の変化が常に一定の目標速度曲線と、一定の速度フィードバックゲインと、に基づいて速度フィードバックを実行する。
【0025】
これに対して、図6に表した本実施形態のシーク制御系においては、速度フィードバックコントローラ300に設けられた目標速度曲線決定部310と速度フィードバックゲイン決定部320には、可変パラメータが格納されている。そして、シーク開始時に磁気ヘッド11がいるトラックとデータセクタ、データを書き込むトラックとデータセクタからシークに許される時間を求め、この時間内に磁気ヘッド11が目標トラックにゆるやかに移動するように目標速度曲線のパラメータと、速度フィードバックゲインと、を予め用意されているテーブルから選択する。具体的には、例えば図3にも表したように、目標トラック番号をキャッシュ350に出力し、シークに許容される時間TSEをキャッシュ350から受け取ることができる。
【0026】
目標速度曲線Vref は、例えば、以下の式により与えることができる。
【数1】


ここで、xはシークすべき距離である。この場合、目標速度曲線は、パラメータaにより定義される直線部と、パラメータb、c、dにより定義される曲線部と、の組み合わせにより表される。そして、これら直線と曲線との接点よりも距離xが小さい範囲においては直線に従い、接点よりも距離xが大きい範囲では曲線に従う。
【0027】
図8は、目標速度曲線決定部310と速度フィードバックゲイン決定部320にそれぞれ格納されるパラメータセットのテーブルを例示する概念図である。
すなわち、シーク距離と、シーク許容時間と、の組み合わせに応じて、目標速度曲線のパラメータa、b、c、dと、速度フィードバックゲインkと、をそれぞれ設定しておくことができる。そして、速度フィードバックコントローラ300は、シーク開始時に磁気ヘッド11がいるトラックとデータセクタ、データを書き込むトラックとデータセクタからシークに許される時間(シーク許容時間)、すなわち、データを書き込むデータセクタが磁気ヘッド11の目標位置の下に到達するまでの時間を求め、この時間内に目標トラックにゆるやかに移動するように、目標速度曲線のパラメータと速度フィードバックゲインとを図8のテーブルから選択する。
【0028】
後に具体例を挙げて詳述するように、目標速度曲線のパラメータa、b、c、dについては、できるだけ急減速をしないで所定の距離を所定の時間内に磁気ヘッドが移動できるように設定することが望ましい。つまり、図8のテーブルにおいて、シーク許容時間が長くなるほど、目標速度が低くなるように、パラメータa、b、c、dが決定される。例えば、パラメータaは、シーク許容時間が長くなるほど小さくなるように設定することが望ましい。
【0029】
図9は、目標速度の時間変化を例示するグラフ図である。
本具体例において、目標速度曲線Vref1は、高速、急減速で短時間に磁気ヘッド11を移動させ、目標速度曲線Vref2は、低速、ゆるやかな減速でより長い時間で磁気ヘッド11を移動させる。本実施形態においては、このように、目標速度の減速の割合を変化させる。そして、所定のシーク距離を所定の時間内に磁気ヘッド11を移動させるに際して、これら目標速度曲線Vref1及びVref2のいずれもが採用可能であれば、ゆるやかな減速のVref2を採用することが望ましい。こうすることにより、急減速を抑制し、磁気ヘッド11の振動を抑制できる。
【0030】
一方、フィードバックゲインkについては、一般的には目標速度が高い場合は大きく設定し、目標速度が低い場合には小さく設定することが望ましい。目標速度が高い場合には、これに追従させるためにフィードバックゲインをある程度大きくする必要があるが、目標速度が低い場合には、フィードバックゲインも小さくして、急加速や急減速を抑制することが望ましいからである。
【0031】
以下、本発明のシミュレーションによる実施例について説明する。
図10は、本実施例における制御対象の周波数特性を表すグラフ図である。すなわち、図10(a)は、シーク制御系の制御指令から磁気ヘッド位置までのゲインを表し、図10(b)はその位相の周波数特性を表す。
【0032】
本実施例のシミュレーションに用いる制御対象(VCM)には、9.5kHz近くに機械共振を持たせている。また、モデル側制御系200のVCMモデル(図2、図6参照)には2重積分を用いた。なお、サンプリング周期は10.08kHz、モデル側制御系の計算周期は20.16kHzとした。
【0033】
まず、第1のケースとして、この制御対象に対して、式(2)により表される目標速度曲線と、式(3)により表される速度フィードバックゲインと、を用いてシークさせた。式(2)及び式(3)は、できるだけ高速で目標トラックに移動させることを主目的として設定したものである。
【数2】

【0034】
【数3】


次に、第2のケースとして、式(4)により表される目標速度曲線と、式(5)により表される速度フィードバックゲインと、を用いてシークさせた。
【数4】

【0035】
【数5】


これらの条件は、シーク許容時間が16ミリ秒あるとして設定したものであり、第1のケースと比較して、より低速に目標トラックに移動させることを目的としたものである。
【0036】
図11は、VCMへの制御指令を表すグラフ図である。すなわち、図11(a)は第1のケース、図11(b)は第2のケースの制御指令を表し、これらグラフ図の横軸は時間(ミリ秒)で、縦軸はD/Aコンバータ19(図1参照)に与える制御指令数値である。
【0037】
図11(a)に表した第1のケースの場合、目標速度曲線のパラメータa、b、cが大きく、また速度フィードバックゲインkも大きいため、指令値は、上限のプラス3700からマイナス3000近くまで急激に低下している。つまり、VCMは、急加速、急減速されている。これに対して、図11(b)に表した第2のケースの場合、上限値からの低下は緩やかになり、その最小値もマイナス1700程度に抑えられている。つまり、より緩やかにVCMが制御されることが分かる。
【0038】
図12は、VCMのセトリング時の応答波形を表すグラフ図である。すなわち、図12(a)は第1のケース、図12(b)は第2のケースの応答波形を表す。これらグラフ図の横軸は時間(ミリ秒)で、縦軸は現在のトラックから目標トラックまでの残りトラック数である。
【0039】
図12に(a)に表した第1のケースの場合、速い目標速度曲線と大きい速度フィードバックゲインを用いているので、データセクタが磁気ヘッド11の下に来た時にはまだ振動しておりデータが書き込めない。このような場合、もう1周の回転待ちになってしまう。このシミュレーション場合は、回転数は5400rpmであるので、シーク時間に11ミリ秒以上を加算した時間がデータ書き込みにかかる。
【0040】
これに対して、図12(b)に表した第2のケースの場合には、セトリング時の機械共振による振動が抑制され、書き込むデータセクタが磁気ヘッド11の下に到達した時に直ぐにデータを書き込むことができる。
【0041】
以上説明したように、本実施形態によれば、シーク開始時の書き込むデータセクタの位置と移動距離とによりシーク許容時間を算出し、このシーク許容時間によって目標速度曲線のパラメータと速度フィードバックゲインを変えることによりデータセクタがヘッド下に到達すると直ぐにデータの読み書きができる。
以上、具体例を参照しつつ本発明の実施の形態について説明した。しかし、本発明は、上述した各具体例に限定されるものではない。すなわち、図1〜図12に関して前述した各具体例のふたつまたはそれ以上を技術的に可能な範囲で組み合わせたものも、本発明の範囲に包含される。
【0042】
また、例えば目標速度曲線についても、式(1)に表したように直線と曲線とを組み合わせたものには限定されず、これら直線及び曲線の代わりに、他の数式により表されるふたつまたはそれ以上の直線や曲線の組み合わせ、あるいは単一の曲線により表現したものでもよい。
【0043】
その他、磁気ヘッド、アーム、ボイスコイルモータ、ディスク、MPU、D/Aコンバータ、サーボデータ処理回路、位置誤差フィードバック制御系、モデル側制御系、速度フィードバックコントローラ、目標速度曲線決定部、速度フィードバックゲイン決定部などについては、前述した具体例には限定されず、当業者が適宜設計変更したものも、本発明の特徴を有する限り本発明の範囲に包含される。すなわち、本発明は各具体例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で、種々変形して実施することが可能であり、これらすべては本発明の範囲に包含される。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の実施の形態にかかる磁気ディスク装置の要部を表す概念図である。
【図2】本実施形態の磁気ディスク装置のシーク制御系を表す模式図である。
【図3】シーク制御系において実行される処理を表す概念図である。
【図4】比較例の磁気ディスク装置のシーク制御系において実行される処理を表す概念図である。
【図5】磁気ヘッドとディスクとの関係を例示した模式図である。
【図6】本実施形態の磁気ディスク装置のシーク制御系を例示するブロック図である。
【図7】比較例の磁気ディスク装置のシーク制御系を例示するブロック図である。
【図8】目標速度曲線決定部310と速度フィードバックゲイン決定部320にそれぞれ格納されるパラメータセットのテーブルを例示する概念図である。
【図9】目標速度の時間変化を例示するグラフ図である。
【図10】本実施例における制御対象の周波数特性を表すグラフ図である。
【図11】VCMへの制御指令を表すグラフ図である。
【図12】VCMのセトリング時の応答波形を表すグラフ図である。
【符号の説明】
【0045】
11 磁気ヘッド、 12 アーム、 13 ボイスコイルモータ、 14 ディスク、 14A データセクタ、 14T 目標トラック、 15 マグネット、 16 駆動コイル、 17 パワーアンプ、 18 MPU、 19 D/Aコンバータ、 20 サーボエリア、 21 ヘッドアンプ、 22 サーボデータ処理回路、100 位置誤差フィードバック制御系、200 モデル側制御系、210 Aマトリックス、220 Bマトリックス、230 1サンプル遅れ、240 Cマトリックス、300 速度フィードバックコントローラ、310 目標速度曲線決定部、320 速度フィードバックゲイン決定部、360 目標速度曲線決定部、370 速度フィードバックゲイン決定部、400 リミッタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気ディスクに情報を磁気的に記録再生する磁気ヘッドを移動させる駆動部と、
前記磁気ヘッドの目標位置と検出位置との差に基づいて前記駆動部をフィードバック制御する位置誤差フィードバック制御系と、
前記磁気ヘッドの移動前の位置と、前記磁気ヘッドの目標位置と、記録再生を行うデータセクタの位置と、に基づき、目標速度曲線を可変とし、前記駆動部の制御数式モデルを用いて前記駆動部の速度が前記目標速度曲線に追従するように前記駆動部を制御する速度制御系と、
を備えたことを特徴とする磁気ディスク装置。
【請求項2】
前記速度制御系は、前記磁気ヘッドの移動前の位置と、前記磁気ヘッドの目標位置と、前記記録再生を行うデータセクタの位置と、に基づき、前記目標速度曲線を定義するパラメータを変更することを特徴とする請求項1記載の磁気ディスク装置。
【請求項3】
前記速度制御系は、前記データセクタが前記磁気ヘッドの前記目標位置の下に到達するまでの時間が長いときには前記磁気ヘッドをゆるやかに減速するように制御することを特徴とする請求項1または2に記載の磁気ディスク装置。
【請求項4】
前記速度制御系は、前記駆動部の速度のフィードバックゲインを可変としたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の磁気ディスク装置。
【請求項5】
前記速度制御系は、前記データセクタが前記磁気ヘッドの前記目標位置の下に到達するまでの時間が長いときには前記フィードバックゲインを小さくすることを特徴とする請求項4記載の磁気ディスク装置。
【請求項6】
前記駆動部が駆動すべき量xと前記駆動部の目標速度vとの関係は、v=ax により近似される場合を有し、
前記速度制御系は、前記データセクタが前記磁気ヘッドの前記目標位置の下に到達するまでの時間が長いときに定数aを小さくすることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つに記載の磁気ディスク装置。
【請求項7】
磁気ディスクに情報を磁気的に記録再生する磁気ヘッドを移動させる磁気ヘッドの制御方法であって、
前記磁気ヘッドの目標位置と検出位置との差に基づいて前記駆動部をフィードバック制御しつつ、
前記磁気ヘッドの移動前の位置と、前記磁気ヘッドの目標位置と、記録再生を行うデータセクタの位置と、に基づき、目標速度曲線を可変とし、前記駆動部の制御数式モデルを用いて前記駆動部の速度が前記目標速度曲線に追従するように前記駆動部を制御することを特徴とする磁気ヘッドの制御方法。
【請求項8】
前記磁気ヘッドの移動前の位置と、前記磁気ヘッドの目標位置と、前記記録再生を行うデータセクタの位置と、に基づき、前記目標速度曲線を定義するパラメータを変更することを特徴とする請求項7記載の磁気ヘッドの制御方法。
【請求項9】
前記データセクタが前記磁気ヘッドの前記目標位置の下に到達するまでの時間が長いときには前記磁気ヘッドをゆるやかに減速するように制御することを特徴とする請求項7または8に記載の磁気ヘッドの制御方法。
【請求項10】
前記駆動部の速度のフィードバックゲインを可変としたことを特徴とする請求項7〜9のいずれか1つに記載の磁気ヘッドの制御方法。
【請求項11】
前記データセクタが前記磁気ヘッドの前記目標位置の下に到達するまでの時間が長いときには前記フィードバックゲインを小さくすることを特徴とする請求項9記載の磁気ヘッドの制御方法。
【請求項12】
前記駆動部が駆動すべき量xと前記駆動部の目標速度vとの関係は、v=ax により近似される場合を有し、
前記データセクタが前記磁気ヘッドの前記目標位置の下に到達するまでの時間が長いときに定数aを小さくすることを特徴とする請求項7〜11のいずれか1つに記載の磁気ヘッドの制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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