説明

磁気ディスク記憶装置および磁気ディスク記憶装置の制御方法

【課題】ディスク面をサーボ領域の基本周波数が異なるゾーンに分割した磁気ディスクを用いた際の記録密度をより高めることを可能とする。
【解決手段】ホストコンピュータから供給されるW/Rコマンドに含まれるアドレス情報に基づき、磁気ヘッドがシークされる目標位置を求める。また、磁気ヘッドの現在位置を取得し、目標位置と現在位置との関係からシークの軌道を計算して、次に読み出すサーボ領域の位置を推定する。推定位置がゾーン境界を跨いでいたら、磁気ヘッドが当該推定位置におけるサーボ領域を読み込む前に、クロック信号を生成するPLLを、クロック信号の周波数を当該サーボ領域の基本周波数に引き込むように、フィードフォワード制御する。それと共に、サーボゲート信号をゾーン内部の場合よりも手前からアサートする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディスク面をサーボ領域の基本周波数が異なるゾーンに分割した磁気ディスクを用いた磁気ディスク記憶装置および磁気ディスク記憶装置の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気ディスク記憶装置は、再生ヘッドの高出力化、記憶媒体における記録ドメインの微細化などの進歩により年々記録密度が向上しており、1平方インチ当たり300ギガビット以上の記録密度を実現した磁気ディスク記憶装置が既に実用化されている。近年では、従来の連続記録膜を用いた記憶媒体に代えて、磁気ディスク上に非磁性の溝を設けて隣接書き込みによる再生信号劣化を防止する、所謂サイドイレーズ耐力を付加することで記録密度を向上させる、ディスクリートトラック媒体の採用が提案されている。
【0003】
このディスクリートトラック媒体では、サーボ領域においては、媒体作成時にパターンニングを施すことでサーボパターンを形成する方法が多く用いられている。特許文献1には、ディスクリートトラック媒体の作成方法について記載されている。
【0004】
従来の連続記録膜によるディスクでは、データ領域への書き込みと同様に、サーボライタにより浮上ヘッドに備えた記録コイルに通電することで、サーボパターンの磁気記録が行われていた。一方、ディスクリートトラック媒体は、原盤を電子ビーム描画装置にて作成し、ナノインプリント方法などの加工を経て形成されるため、数々のプロセスで発生する劣化要因が重なって、サーボ品質を高めることが困難であった。そのため、ディスクリートトラック媒体は、従来の連続記録膜における磁気記録によるサーボパターンと比べて、単純に記録密度を同等とすることが困難である。
【0005】
ところで、磁気ディスク記憶装置においては、高速アクセスが求められるため、記録再生ヘッドがディスク上の何処にあっても位置フィードバック制御が可能であるように、サーボ領域の基本周波数をディスクの内外周で一定として、同一条件の信号検出回路でサーボ信号を復調可能となっている。
【0006】
ところが、ディスクリートトラック媒体においては、最内周のサーボ品質を確保できる記録密度に基づきサーボ領域の基本周波数を決定すると、連続記録膜と比べて記録密度が低くなってしまうと共に、ディスク当たりのデータ領域に対してサーボ領域が占める割合が高くなり、記憶媒体としての大容量化が困難である。
【0007】
一方、ディスク上を半径方向に複数のゾーンに分割し、分割されたゾーンのそれぞれでサーボ領域の基本周波数を異ならせるようにした磁気ディスク記憶装置が開発されている。この技術を用いることで、上述したディスクリートトラック媒体における問題を解決可能である。特許文献2には、サーボ領域の基本周波数を、ディスクの外周側のゾーンに対して内周側のゾーンで低く設定し、磁気ディスクヘッドがシークしたゾーンに応じてシーケンサを切り替えるようにした技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−12118号公報
【特許文献2】特開平10−255416号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上述した特許文献2では、シーク中にタイミングおよびシーケンサの周波数が変更しないことが前提となっていると共に、異なるゾーンにシークされた際に、サーボ領域中のプリアンブルをPLL(Phase Locked Loop)によるクロック周波数の引き込みに用いない構成となっている。そのため、異なるゾーンにシークされた際に復調エラーを起こすおそれがあるという問題点があった。
【0010】
本発明は、上述の課題を鑑みてなされたもので、ディスク面をサーボ領域の基本周波数が異なるゾーンに分割した磁気ディスクを用いた際の記録密度をより高めることが可能な磁気ディスク記憶装置および磁気ディスク記憶装置の制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上述の課題を解決するために、各トラックに対してサーボ領域とサーボ領域に対応するデータ領域とが設けられ、ディスク面が半径方向にサーボ領域の基本周波数の異なるゾーンに分割された磁気ディスクと、磁気ディスクの半径方向に駆動され、磁気ディスクに記録された信号を読み取るヘッドと、ヘッドによりサーボ領域から読み取った信号に基づき、ヘッドがサーボ領域に対応するデータ領域から読み取る信号を復調するためのクロック信号を生成するクロック生成手段と、ヘッドが磁気ディスクの半径方向に駆動される際に、ヘッドが次に信号を読み取るサーボ領域の、磁気ディスクにおける半径方向の位置を推定する推定手段と、推定手段により推定された推定位置に基づき、ヘッドが次に信号を読み取るサーボ領域に到達する前に、クロック生成手段がサーボ領域に対応する基本周波数のクロック信号を生成するように制御する制御手段とを有することを特徴とする。
【0012】
また、本発明は、各トラックに対してサーボ領域とサーボ領域に対応するデータ領域とが設けられ、ディスク面が半径方向にサーボ領域の基本周波数の異なるゾーンに分割された磁気ディスクに記録された信号を、磁気ディスクの半径方向に駆動されるヘッドで読み取る磁気ディスク記憶装置の制御方法であって、ヘッドによりサーボ領域から読み取った信号に基づき、ヘッドがサーボ領域に対応するデータ領域から読み取る信号を復調するためのクロック信号を生成するクロック生成ステップと、ヘッドが磁気ディスクの半径方向に駆動される際に、ヘッドが次に信号を読み取るサーボ領域の、磁気ディスクにおける半径方向の位置を推定する推定ステップと、推定ステップにより推定された推定位置に基づき、ヘッドが次に信号を読み取るサーボ領域に到達する前に、クロック生成ステップがサーボ領域に対応する基本周波数のクロック信号を生成するように制御する制御ステップとを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、ディスク面をサーボ領域の基本周波数が異なるゾーンに分割した磁気ディスクを用いた際の記録密度をより高めることが可能となる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、実施形態に適用可能な磁気ディスク記憶装置の一例の構成を示すブロック図である。
【図2】図2は、実施形態に適用可能な磁気ディスクを模式的に示す模式図である。
【図3】図3は、サーボの基本周波数の、磁気ディスクの半径位置に対する変位の例を示す略線図である。
【図4】図4は、サーボの基本周波数の、磁気ディスクの半径位置に対する変位の例を示す略線図である。
【図5】図5は、サーボの基本周波数の、磁気ディスクの半径位置に対する変位の例を示す略線図である。
【図6】図6は、サーボの基本周波数の、磁気ディスクの半径位置に対する変位の例を示す略線図である。
【図7】図7は、実施形態に適用可能なサーボパターンのより具体的な例を示す略線図である。
【図8】図8は、実施形態に適用可能なサーボパターンのより具体的な例を示す略線図である。
【図9】図9は、実施形態による復調部の一例の構成を示すブロック図である。
【図10】図10は、実施形態によるシーク動作の例を示すフローチャートである。
【図11】図11は、実施形態によるシーク動作を説明するためのタイミングチャートである。
【図12】図12は、予期せず磁気ヘッドがゾーン境界を跨いでしまった場合の動作を説明するためのタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に添付図面を参照して、本発明に係る磁気ディスク記憶装置の最良な実施の形態を詳細に説明する。図1は、本実施形態に適用可能な磁気ディスク記憶装置1の一例の構成を示す。この磁気ディスク記憶装置1は、既知の磁気ディスク記憶装置と同様に、トラックフォローイング時およびシーク時において常時フィードバックループを形成して、磁気ヘッドの駆動制御を行う。
【0016】
図1において、磁気ディスク10は、図示されないスピンドルモータにより、回転軸を中心に所定の回転速度で回転される。スピンドルモータの回転は、SPM(Spindle Motor)駆動回路11により駆動される。なお、詳細は後述するが、磁気ディスク10には、ディスク上の位置情報を含むサーボ情報が記録されるサーボ領域が配置される。
【0017】
磁気ヘッド12は、記録ヘッドおよび再生ヘッドを有し、磁気ディスク10に対する信号の書き込みや読み出しを行う。磁気ヘッド12は、ヘッドアクチュエータ13の先端に取り付けられ、VCM駆動回路15により駆動されるボイスコイルモータ(VCM)14により、磁気ディスク10の半径方向に移動される。アウタストッパ16Aおよびインナストッパ16Bは、それぞれヘッドアクチュエータ13の回転範囲を制限するために設けられる。
【0018】
プリアンプ17は、磁気ヘッド12が磁気ディスク10から読み取った信号を増幅して出力し、RDC(Read Write Channel)18に供給する。また、プリアンプ17は、RDC18から供給された、磁気ディスク10に書き込むための信号を増幅して、磁気ヘッド12に供給する。
【0019】
RDC18は、後述するMCU(Micro Control Unit)20から供給される、磁気ディスク10に書き込むためのディジタルデータをコード変調してプリアンプ17に供給する。また、RDC18は、磁気ディスク10から読み取られプリアンプ17から供給された信号を、復調部19でコード復調してディジタルデータとして出力する。このとき、復調部19は、磁気ディスク10上に設けられたサーボ領域から読み取られた信号に基づきPLL(Phase Locked Loop)回路によりクロックを生成し、このクロックを用いてディジタルデータの再生を行う。
【0020】
MCU20は、例えばマイクロプロセッサ、RAM(Random Access Memory)およびROM(Read Only Memory)を有する。MCU20は、ROMに予め記憶されたファームウェアに従い、必要に応じて不揮発領域21に予め記憶されたプログラムを読み出してこの磁気ディスク記憶装置1の全体的な制御を行う。
【0021】
HDC(Hard Disk Controller)22は、図示されないホストI/Fを介してホストコンピュータ100との間で行われるデータの送受信の制御や、バッファおよびキャッシュの制御、記録データに対するデータの誤り訂正処理、サーボ制御などを行う。また、HDC22は、この磁気ディスク記憶装置1に対する衝撃や振動などを検知するショックセンサも有する。バッファ23は、ホストコンピュータ100との間で送受信されるデータのバッファリングなどに用いられる。
【0022】
図2は、本実施形態に適用可能な磁気ディスク10を模式的に示す。図2の例では、磁気ディスク10の外周側に、磁気ヘッド12をランプ機構16により退避させるためのランプロード領域30が設けられる。また、磁気ディスク10に対して、磁気ヘッド12を位置付ける位置決め制御を行うために用いられる情報が記録されるサーボ領域が配置される。図2の例では、各トラックに同数のサーボ領域が記録され、これにより、回転中心から半径方向に円弧状に延びるパターン31、31、…が形成されている。
【0023】
図2の右側に例示するように、1のサーボ領域と、サーボ領域に続くデータ領域とで1フレームが構成される。1フレームにおけるサーボ領域は、プリアンブルと、サーボマークと、トラック番号と、位置決め情報とを含む。プリアンブルは、PLL(Phase Locked Loop)によりサーボの基本周波数を引き込むための領域である。プリアンブルから読み出された信号に基づきPLLで生成されたクロックを用いて、データ領域のデータが復調される。サーボマークは、例えば、2桁の16進数で表現され、当該フレームがサーボ情報のフレームであることを示す識別情報である。トラック番号は、グレイコードによって記録される。位置決め情報は、バースト信号により、トラックに対する磁気ヘッド12の相対位置情報として示される。
【0024】
本実施形態では、図2に示した磁気ディスク10として、トラック上のサーボ領域の数が内周から外周にかけて一定であって、サーボ領域の基本周波数が少なくとも2種類の値をもつゾーンに分割された媒体を用いる。サーボ領域の基本周波数は、最外周のゾーンにおける周波数を基準として、最内周のゾーンに向けてゾーン毎に順次周波数が低くなるように設定されている。つまり、磁気ディスク10上の記録密度が外周側から内周側へ向けて緩やかに増加するように設定している。
【0025】
図3〜図6は、サーボ領域の基本周波数の、磁気ディスク10の半径位置に対する変位の例を示す。サーボ領域の基本周波数が変位する半径位置がゾーンの境界となる。図3は、磁気ヘッド12の退避位置が磁気ディスク10の外周のランプロード領域30にある場合の例である。この場合、ランプロード領域30を含む磁気ディスク10の外周側に、サーボ領域の基本周波数が一定になる領域を設ける。図3の例では、この領域の周波数を基準として、磁気ディスク10の外周側から内周側へ向けてサーボ領域の基本周波数がより低い周波数に段階的に変位するように、サーボ領域が形成される。
【0026】
一方、図4は、磁気ヘッド12の退避位置が磁気ディスク10の内周側のロード領域に設けられた場合の例である。この場合、磁気ディスク10の内周側に、サーボ領域の基本周波数が一定となる領域を設ける。図4の例では、この領域の周波数を基準として、磁気ディスク10の内周側から外周側へ向けてサーボ領域の基本周波数がより高い周波数に段階的に変位するように、サーボ領域が形成される。
【0027】
図3および図4の例では、サーボ領域の基本周波数が磁気ディスク10の半径位置に対して直線的に変位しているが、これはこの例に限定されない。例えば、図5に例示されるように、サーボ領域の基本周波数を、磁気ディスク10の半径位置に対して曲線的に変位させてもよい。また、図6は、サーボ領域の基本周波数を磁気ディスク10の半径位置に対して1箇所のみで変位させ、ゾーン分割数を最小の2とした例である。
【0028】
なお、磁気ディスク記憶装置1が複数の磁気ディスク10、10、…を備えている場合、これら複数の磁気ディスク10、10、…毎にサーボ領域のゾーン分割方法が異なっていてもよい。勿論、これら複数の磁気ディスク10、10、…でサーボ領域のゾーン分割方法を同一としてもよい。また、磁気ディスク10は、ディスクリートトラック媒体に限らず、連続記録媒体を用いてもよい。
【0029】
このような構成において、電源投入後、MCU20は、ファームウェアにより不揮発領域21に記憶されたプログラムを必要に応じて読み出して実行し、SPM駆動回路11を制御してスピンドルモータを回転させる。スピンドルモータの回転が定常回転数に達すると、MCU20は、VCM駆動回路15を制御してVCM14によりヘッドアクチュエータ13を駆動して、磁気ヘッド12を退避位置であるランプロード領域30から磁気ディスク10上に一定速度で移動させ、磁気ヘッド12をロードさせる。
【0030】
磁気ヘッド12のロードの際に、MCU20は、磁気ディスク10上のサーボ領域をサーチしてサーボマークの検出を試みる。MCU20は、連続でサーボマークが検出できる状態になると、サーボ領域を復調して得られた位置情報に基づき、磁気ディスク10上のシステム領域が存在するトラックに磁気ヘッド12を移動させるシーク制御モードへ移行する。
【0031】
システム領域には、磁気ヘッド12や磁気ディスク10毎のキャリブレーション情報などが記録されている。MCU20は、磁気ヘッド12がシステム領域の存在するトラックに到達すると、磁気ディスク10から当該トラックに記録されている記録情報を読み取り、磁気ヘッド12や磁気ディスク10毎のキャリブレーションデータなどを、バッファ23に展開する。その後、磁気ディスク記憶装置1は、本格的な動作を行う。一例として、MCU20は、例えばホストコンピュータ100からのコマンドに応じて磁気ヘッド12の位置制御などを行う。
【0032】
ここで、例えば不揮発領域21に対して、サーボ領域のゾーン分割に関する情報が予め記憶される。より具体的には、磁気ディスク10の半径位置すなわちトラック番号と、サーボ領域の基本周波数の変位量との関係を示すテーブルが、磁気ディスク10のシステム領域に予め記憶される。これに限らず、このテーブルを不揮発領域21やMCU20が有するROMなどに予め記憶させてもよい。より具体的な例として、このテーブルは、上述した図3〜図6に例示したような、半径位置とサーボ領域の基本周波数の変位量との関係が格納される。
【0033】
MCU20は、シーク処理の際に、シーク先である目標位置におけるサーボ領域を読み込む前までに、当該テーブルを参照して当該サーボ領域の基本周波数の変位量を求める。そして、MCU20は、復調部19のPLL回路に対してサーボ領域単位でフィードフォワード制御を行って、PLL回路から出力されるクロック周波数を、テーブルを参照して求めた変位量に応じた周波数に遷移させる。
【0034】
本実施形態では、復調部19のPLL回路に対するフィードフォワード制御により、目標位置におけるサーボ領域を読み込む直前に、信号の復調に用いるクロックの周波数を予め目標位置におけるサーボ領域の基本周波数に設定しておく。これにより、シーク動作により磁気ヘッド12が磁気ディスク10上のどの位置に移動した場合でも、サーボ復調を容易に行うことが可能となる。
【0035】
なお、実際には、磁気ディスク10における欠陥などでサーボ復調が一時的に不能になった場合でも、即座にエラーとはならない。これに対し、本実施形態は、ゾーン境界部においても容易にサーボ復調を行うことが可能とされ、より優位性がある。
【0036】
図7および図8は、本実施形態に適用可能なサーボパターンのより具体的な例を示す。図7は、ゾーンの境界部に配置されるサーボ領域におけるサーボパターンの例である。ゾーン境界では、磁気ヘッド12がゾーンを跨いで移動した際にPLLによるクロック生成が容易なように、プリアンブルの長さを長くする。一方、ゾーンの内部においては、図8に例示されるようにプリアンブルの長さを短くして、記録密度の向上を図る。
【0037】
図9は、本実施形態による復調部19の一例の構成を示す。図9から分かるように、復調部19は、PLL回路を含む。磁気ヘッド12における再生ヘッドで磁気ディスク10から読み取られた再生信号が、プリアンプ17を介してRDC18内の復調部19に供給される。再生信号は、LPF(Low Pass Filter)130で積分されコンパレータ131で所定の電圧と比較されることで2値化される。コンパレータ131の出力は、変調データとしてサーボ復調部38に供給されると共に、位相比較器32の一方の入力端に入力される。位相比較器32の他方の入力端には、後述する分周器36の出力が入力される。
【0038】
位相比較器32は、一方および他方の入力端に入力された信号の位相を比較する。比較結果の位相差信号は、ラグリードフィルタ33で積分されて電圧値とされ、加算器34を介してVCO(Voltage Controlled Oscillator)35に供給される。VCO35は、供給された電圧値に応じた周波数の信号を出力する。この信号は、分周器36に供給されると共に、クロック信号としてサーボ復調部38に供給される。分周器36は、VCO35から供給された信号を所定の分周比で分周して位相比較器32の他方の入力端に入力する。
【0039】
サーボ復調部38は、コンパレータ131から供給された変調データを、VCO35から供給されたクロック信号に基づき、例えばビタビ復号など所定の復号方法を用いて復号し、ディジタルデータとして出力する。
【0040】
なお、図示は省略するが、サーボ復調部38の動作は、磁気ヘッド12が読み出した信号がサーボ領域およびデータ領域の何れから読み出した信号であるかを示す、サーボゲート(SG)信号により制御される。サーボゲート信号は、例えばHDC22により生成され、ハイ(High)状態で、磁気ヘッド12が読み出した信号がサーボ領域の信号であることを示す。サーボ復調部38は、サーボゲート信号がサーボ領域を示している期間に、サーボ領域の信号の復調を行う。
【0041】
本実施形態では、MCU20は、次に読み込むサーボ領域の位置を推定する。例えば、MCU20は、ホストコンピュータ100から送信されたライトコマンドまたはリードコマンド(以下、これらを纏めてW/Rコマンドと呼ぶ)に含まれるアドレス情報が示す目標位置に基づき、磁気ヘッド12が次に移動するサーボ領域を推定する。そして、MCU20は、上述したトラック番号と、サーボ領域の基本周波数の変位量との関係を示すテーブルを参照して、推定されたサーボ領域の基本周波数の変位量を求める。
【0042】
この変位量を示す情報は、MCU20から復調部19に供給され、オフセット電圧付加部37に入力される。オフセット電圧付加部37は、入力されたこの変位量を示す情報に基づき、VCO35の発振周波数を変位量の分だけ変化させるためのオフセット電圧Voffset(r)を出力する。このオフセット電圧Voffset(r)は、加算器34に供給される。
【0043】
加算器34は、ラグリードフィルタ33から出力された電圧値に対してこのオフセット電圧Voffset(r)を加算して、VCO35に供給する。これにより、VCO35は、推定されたサーボ領域の基本周波数に応じた周波数のクロック信号を出力することができる。そのため、サーボ復調部38では、サーボ領域における変調データの復調を迅速に行うことができ、高速なアクセスが可能となる。したがって、磁気ディスク10をゾーン分割したそれぞれのゾーン毎に適切なサーボ領域の基本周波数を設定することができ、磁気ディスク10の記録密度を高めることができる。
【0044】
次に、本実施形態によるシーク動作の例について、図10のフローチャートおよび図11のタイミングチャートを用いて説明する。例えばホストコンピュータ100から磁気ディスク記憶装置1に対してW/Rコマンドが発行される。W/Rコマンドは、HDC22を介してMCU20に供給される。MCU20は、このW/Rコマンドに含まれるアドレス情報に基づき、磁気ヘッド12をアドレス情報に示される目標位置のトラックに移動させるためのシークコマンドを発行する(ステップS10)。
【0045】
MCU20は、磁気ヘッド12によりサーボ領域から読み取られた信号が復調部19で復調されたデータに基づき、磁気ヘッド12の現在位置を取得する(ステップS11)。MCU20は、次のステップS12で、ステップS11で取得された磁気ヘッド12の現在位置と、W/Rコマンドに示される目標位置との関係から、シーク動作に伴う磁気ヘッド12の軌道を計算する。MCU20は、計算されたシーク軌道に従い、VCM駆動回路15を制御して磁気ヘッド12のシーク動作を開始する。
【0046】
MCU20は、磁気ヘッド12が目標位置に到達しシーク動作が完了するまで、サーボ領域毎に、次のサーボ領域の位置を推定した推定位置を算出する(ステップS13)。例えば、MCU20は、既知のシーク速度と、磁気ディスク10の回転速度とに基づき、磁気ヘッド12が次のサーボ領域に達した際の磁気ディスク10における半径位置を求める。より具体的には、MCU20は、磁気ヘッド12の現在位置すなわち復調位置において、直後に到達すると推定されるサーボ領域の、磁気ディスク10における半径位置を算出する。
【0047】
図11の例では、復調位置を黒丸(●)、推定位置を白丸(○)でそれぞれ示している。復調位置は例えばグレイコード終端で示され、推定位置は例えばサーボ領域の先頭で示される。
【0048】
次に、MCU20は、磁気ヘッド12をシークさせるために、VCM駆動回路15を制御してVCM14を駆動するための電流を出力させる(ステップS14)。
【0049】
次のステップS15で、MCU20は、上述したサーボ領域の基本周波数の変位量のテーブルを参照して、ステップS13で算出された推定位置が現在位置と同一のゾーン内に存在するか否かを判定する。若し、推定位置と現在位置とが同一のゾーン内に存在すると判定されたら、処理は後述するステップS18に移行され、磁気ヘッド12が目標位置に到達したか否かが判定される。
【0050】
一方、ステップS15で、推定位置が現在位置と異なるゾーンに存在すると判定されたら、処理はステップS16に移行され、MCU20によりオフセット電圧Voffset(r)が設定される。例えば、図11における現在位置である復調位置200で推定される推定位置201は、ゾーン境界上にある。復調位置は、例えばグレイコードの終端となる。そのため、推定位置201に対応する復調位置は、推定位置201よりシーク方向に進んだ位置202となり、ゾーン境界を跨ぐ。図11の例では、現在位置である復調位置200がゾーンnに存在するのに対し、推定位置201に対応する復調位置202は、次のゾーンn+1に存在している。
【0051】
ステップS16では、MCU20は、復調部19内のオフセット電圧付加部37を制御して、当該推定位置におけるサーボ領域の基本周波数の信号を出力するように、VCO35に供給される電圧に対してオフセット電圧Voffset(r)を付加する。
【0052】
一例として、図11の例では、MCU20は、サーボ領域におけるグレイコードが復調されて取得されたトラック番号に基づき、上述のサーボ領域の基本周波数の変位量のテーブルを参照し、現在位置における変位量と、推定位置における変位量との差分を算出する。そして、MCU20は、VCO35で生成される信号の周波数を、算出された変位量の差分に対応して変化させるオフセット電圧Voffset(r)を設定する。
【0053】
この設定されたオフセット電圧Voffset(r)を示す情報は、MCU20からオフセット電圧付加部37に対して供給され、オフセット電圧付加部37によりオフセット電圧Voffset(r)が出力される。このオフセット電圧Voffset(r)は、加算器34に供給され、ラグリードフィルタ33から出力された電圧に加算されてVCO35に供給される。
【0054】
次のステップS17で、MCU20は、HDC22を制御して、サーボ復調部38を動作させるためのサーボゲート信号をアサートするタイミングを早めて手前に変位させ、サーボゲート信号をアサートする期間を長く設定する。図11の例では、対応する復調位置がゾーン境界を跨ぐ推定位置201が算出された復調位置200の直前までのサーボゲート信号203、203、…に対して、当該推定位置201以降のサーボゲート信号204、204、…が長く設定されている。これにより、同一ゾーン内でシークが行われる場合に比べてサーボ領域のプリアンブルを長く使用することができ、PLLによる引き込みが容易となる。
【0055】
なお、サーボゲート信号は、後述するフォローイング制御が開始されると、図11にサーボゲート信号207として例示されるように、元の長さおよびタイミングに戻される。
【0056】
なお、若し、ここで推定位置がゾーンを越えたにも関わらず、実際のシーク位置がゾーンを跨いでいない場合、一時的にサーボ領域の復調を行えない状態となる。しかしながら、次以降のサーボ領域でゾーンを跨ぐと考えられるため、特別な処理を行わなくても復調を再開させることが可能であり、数サーボ領域の復調エラーは無視できる。
【0057】
ステップS17でサーボゲート信号の変位が行われると、処理はステップS18に移行され、磁気ヘッド12が目標位置に到達したか否かが判定される。若し、到達していないと判定されたら、処理はステップS21に移行され、磁気ヘッド12が次のサーボ領域の信号を読み取るのが待機される。磁気ヘッド12により次のサーボ領域の信号が読み取られたら、処理はステップS11に戻される。
【0058】
一方、ステップS18で、磁気ヘッド12が目標位置に到達したと判定されたら、処理はステップS19に移行され、フォローイング制御が開始される。図11の例では、復調位置205で推定された推定位置206が目標位置に到達しているので、復調位置205の後ろからフォローイング制御が開始されている。そして、フォローイング制御における制定条件を満たせば、シークコマンドが完了する(ステップS20)。
【0059】
なお、サーボ領域のゾーン境界近辺は、ライト時とリード時でゾーンが変わってしまうため、データ領域としては使用しないことが望ましい。これを、トラックスリップ処理と呼ぶことにする。磁気ヘッド12のリード素子とライト素子、Yaw角の大きさに応じてトラックスリップするトラック本数を変更する。トラックスリップ情報は、例えば磁気ディスク10のシステム領域に予め格納し、磁気ディスク記憶装置1を起動する度にバッファ23に展開する。
【0060】
また、一般的には、ゾーン境界においてフォローイング制御が行われることは少ない。しかしながら、フォローイング制御中に磁気ディスク記憶装置1に対して振動または衝撃が加わり、予期せず磁気ヘッド12がゾーン境界を跨いでしまう事態も生じうる。この場合の動作の例について、図12のタイミングチャートを用いて説明する。
【0061】
フォローイング制御下において、磁気ヘッド12がゾーン境界付近に位置している状態で、磁気ディスク記憶装置1に対して振動または衝撃が加わり、HDC22が有するショックセンサの検出値が閾値±thの範囲を超えたものとする。HDC22は、当該検出値が閾値±thの範囲を超えた旨が通知されると、次のサーボ領域からサーボゲート信号を長くし、復調部19においてPLLが追従し易くなるように準備をする。図12の例では、振動または衝撃の検知前のサーボゲート信号210に対して、検知後のサーボゲート信号211が長く設定されている。
【0062】
振動または衝撃により磁気ヘッド12が揺動してゾーン境界を跨いでしまい、サーボ領域の復調が不能となった場合(図12中にバツ印「×」で示す)、MCU20は、VCM駆動回路15を制御して、磁気ヘッド12を元のゾーンに引き戻す方向のVCM電流をVCM14に対して印加する。これにより、サーボ領域の復調が不能となる状態が続くことを防止する。
【0063】
図12の例では、振動または衝撃により磁気ヘッド12の位置がゾーンnからゾーンn+1に移動され、サーボ領域の復調が不能となると、その旨がMCU20に検知される。MCU20は、サーボ領域の復調が不能となったことを検知すると、VCM駆動回路15を制御して、VCM電流を一時的に変化(図12の例では減少)させる。その後、磁気ヘッド12がゾーンnに戻るとサーボ領域の復調が回復する。MCU20は、サーボ領域の復調が回復したことを検知すると、VCM駆動回路15を制御してVCM電流を元の値に戻す。それと共に、MCU20は、HDC22を制御して、図12のサーボゲート信号212に例示されるように、サーボゲート信号の長さを短くして元の長さに戻す。
【0064】
このように、フォローイング制御時においてもサーボ領域の復調を可能とするように制御することで、サーボ領域の基本周波数がゾーンで変化している媒体においても、安定的な制御が可能である。
【0065】
ここで、サーボ領域の基本周波数の可変量を、例えば磁気ディスク10上で最大10%として見込み、上述した図3に例示されるように、ランプロード領域30からインナストッパ16Bの位置まで10段階で変位させるようにゾーン分割を行ったものとする。この場合、磁気ディスク10上においてサーボ領域の基本周波数を一律とした場合と比べ、サーボ領域の占有率を約5%減少させることが可能である。
【符号の説明】
【0066】
1 磁気ディスク記憶装置
10 磁気ディスク
12 磁気ヘッド
13 ヘッドアクチュエータ
14 VCM
15 VCM駆動回路
17 プリアンプ
18 RDC
19 復調部
20 MCU
22 HDC
30 ランプロード領域
32 位相比較器
33 ラグリードフィルタ
34 加算器
35 VCO
37 オフセット電圧付加部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
各トラックに対してサーボ領域と該サーボ領域に対応するデータ領域とが設けられ、ディスク面が半径方向に該サーボ領域の基本周波数の異なるゾーンに分割された磁気ディスクと、
前記磁気ディスクの半径方向に駆動され、該磁気ディスクに記録された信号を読み取るヘッドと、
前記ヘッドにより前記サーボ領域から読み取った信号に基づき、該ヘッドが該サーボ領域に対応する前記データ領域から読み取る信号を復調するためのクロック信号を生成するクロック生成手段と、
前記ヘッドが前記磁気ディスクの半径方向に駆動される際に、該ヘッドが次に信号を読み取る前記サーボ領域の、前記磁気ディスクにおける半径方向の位置を推定する推定手段と、
前記推定手段により推定された推定位置に基づき、前記ヘッドが前記次に信号を読み取るサーボ領域に到達する前に、前記クロック生成手段が該サーボ領域に対応する前記基本周波数のクロック信号を生成するように制御する制御手段と
を有する
ことを特徴とする磁気ディスク記憶装置。
【請求項2】
前記磁気ディスクは、
前記サーボ領域における、前記クロック生成手段が前記クロック信号を生成するために用いる信号が記録されたプリアンブル領域が、前記ゾーンの境界で該ゾーンの内部より長く形成される
ことを特徴とする請求項1に記載の磁気ディスク記憶装置。
【請求項3】
前記サーボ領域に記録された信号を復調する期間を示すゲート信号を生成するゲート信号生成手段をさらに有し、
前記ゲート信号生成手段は、
前記ヘッドが前記ゾーンの境界を跨ぐ際に、前記ゲート信号の前記サーボ領域に対する生成タイミングを、該ゾーンの内部での前記サーボ領域に対する生成タイミングよりも早くする
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の磁気ディスク記憶装置。
【請求項4】
前記ゾーンの境界の位置と前記サーボ領域の基本周波数との対応関係を示すテーブルを記憶する記憶手段をさらに有し、
前記制御手段は、
前記推定位置に基づき前記テーブルを参照して該推定位置に対応する前記基本周波数を取得し、取得された該基本周波数のクロック信号を生成するように前記クロック生成手段を制御する
ことを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載の磁気ディスク記憶装置。
【請求項5】
各トラックに対してサーボ領域と該サーボ領域に対応するデータ領域とが設けられ、ディスク面が半径方向に該サーボ領域の基本周波数の異なるゾーンに分割された磁気ディスクに記録された信号を、該磁気ディスクの半径方向に駆動されるヘッドで読み取る磁気ディスク記憶装置の制御方法であって、
前記ヘッドにより前記サーボ領域から読み取った信号に基づき、該ヘッドが該サーボ領域に対応する前記データ領域から読み取る信号を復調するためのクロック信号を生成するクロック生成ステップと、
前記ヘッドが前記磁気ディスクの半径方向に駆動される際に、該ヘッドが次に信号を読み取る前記サーボ領域の、前記磁気ディスクにおける半径方向の位置を推定する推定ステップと、
前記推定ステップにより推定された推定位置に基づき、前記ヘッドが前記次に信号を読み取るサーボ領域に到達する前に、前記クロック生成ステップが該サーボ領域に対応する前記基本周波数のクロック信号を生成するように制御する制御ステップと
を有する
ことを特徴とする磁気ディスク記憶装置の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−8897(P2011−8897A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−154377(P2009−154377)
【出願日】平成21年6月29日(2009.6.29)
【出願人】(309033264)東芝ストレージデバイス株式会社 (255)
【Fターム(参考)】