説明

磁気光学デバイス

本発明の目的は、小型化、光制御の高速化を図り、電源構成やその制御を簡素化すること、また励磁電流の遮断後もファラデー回転角を任意の状態で保持できるようにすることにある。板状部16と、その片面に突設した4本の柱状部18とが連続一体となっている構造をなし、高透磁率磁性材料からなる磁気ヨーク10と、その各柱状部に巻装したコイル12と、4本の柱状部の先端部分で囲まれた開磁路領域に配置した磁気光学素子14とを具備している。磁気光学素子にコイルによる磁界が印加されるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可変光アッテネータや光スイッチなどに用いる磁気光学デバイスに関し、更に詳しく述べると、板状部に少なくとも3本以上の柱状部を突設した磁気ヨークを用い、各柱状部に巻装したコイルによる磁界で磁気光学素子の磁化方向を制御するようにした磁気光学デバイスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
光通信システムあるいは光計測システムなどでは、透過光量を可変制御するためのデバイスである可変光アッテネータが組み込まれている。このデバイスは、ファラデー効果を有する磁気光学素子と、該磁気光学素子に固定磁界を印加する永久磁石と、磁気光学素子に可変磁界を印加する電磁石から構成されている。通常、電磁石は、C型(環状の一部が開いている形状)の磁気ヨークにコイルを巻装した構造である。C型磁気ヨークの開いている部分に磁気光学素子を挿入し、コイルに通電することによって該磁気光学素子に所望の可変磁界を印加する。
【0003】
永久磁石が作る一定磁界Hrの方向を磁気光学素子の光軸とほぼ平行とし、磁気光学素子の磁化を飽和させると共に実使用時の最大のファラデー回転を起こさせる。即ち、永久磁石と磁気光学素子によるファラデー配置時のファラデー回転角θf0と実使用時の最大のファラデー回転角θfMAXを同じ(θf0=θfMAX)とする。次に、永久磁石の作る磁界Hの方向とほぼ垂直な方向に電磁石により磁界Hを作り、磁気光学素子を永久磁石の磁界と電磁石の磁界の合成磁界中に置き、電磁石のコイルに流れる電流の大きさで電磁石の作る磁界の大きさを可変し、合成磁界の向きを制御する。この合成磁界の光軸方向成分の大きさに対応し偏光方向を制御することができる。合成磁界Hの向きθは、
θ=tan−1(H/H
で表される。可変磁界Hを可変すれば合成磁界Hの向きθが変わる。ファラデー回転角θは合成磁界Hの光軸方向成分に対応するので、
θ=θf0×cosθ
となり、θを可変することによりθを制御することができる。すなわち、θを制御するにはHを発生させる電磁石のコイルに流れる電流を制御すればよい。
【0004】
永久磁石による固定磁界Hによりファラデー回転θf0を起こし、電磁石による可変磁界Hとの合成磁界Hの向きθによりファラデー回転θを得る。Hは永久磁石による磁界なので0(ゼロ)にすることは出来ず一定であるので、大きなθを得るには大きなHが必要である。大きなHを得るには電磁石のコイルの巻数を多くしたり流す電流を大きくする必要があり、電磁石が大きくなったり駆動電圧が大きくなってしまう。また駆動電圧を変化させてから合成磁界の向きθが変わるまで時間が長くかかる、即ち動作速度が遅い問題もあった。
【0005】
可変光アッテネータの場合は、第1の偏光子と磁気光学素子と第2の偏光子を光軸に沿って順に配置し、永久磁石によって磁気光学素子に飽和磁界を印加すると共に、電磁石によって該磁気光学素子に異なる向きの可変磁界を印加する構造である。永久磁石と電磁石とによって、磁気光学素子に2方向以上から外部磁界を印加し、それらの合成磁界ベクトルを変化させることにより磁気光学素子の磁化方向を変え、透過する光のファラデー回転角を制御している。このような磁気光学デバイスは、例えば、特許文献1に開示されており、そこでは固定磁界を印加する手段としてブロック形状の永久磁石を光路の上下に配置する構成を採用している。その他、リング状などの永久磁石を光軸に沿って配置し光軸と平行な方向に固定磁界を印加する構成もある。
【0006】
上記のように、従来の可変光アッテネータは、飽和磁界を印加するために永久磁石を用い、電磁石に電流を供給していないときでも、磁気光学素子は永久磁石により一定方向に磁化されている。そのため、磁化制御に用いる電磁石の磁気ヨーク寸法が大きくなったり駆動電圧が高くなり、小型化並びに高速化が困難である。
【0007】
また、電磁石のコイルに電流を流していないときには、電磁石による可変磁界が実質ゼロとなるため、磁気光学素子への合成磁界が永久磁石による成分のみとなり、ファラデー回転角が初期状態に戻ってしまう。
【0008】
これに対して、自己保持型光スイッチ等で用いられるファラデー回転子は、コイルへの励磁電流を遮断した後もファラデー回転角が初期状態に戻ることなく、電流印加時の状態を保持することができる。この自己保持機能を有するファラデー回転子は、ファラデー効果を有する磁気光学素子と、該磁気光学素子に磁界を印加する磁界印加手段とからなり、通常永久磁石は用いられず、電磁石のみによって磁界印加手段が構成されている。電磁石には、例えば特許文献2に示すように、C型の磁気ヨークにコイルを巻装した構造のものが使用される。C型磁気ヨークの開いている部分に磁気光学素子を挿入し、コイルに電流を供給することによって該磁気光学素子に磁界を印加する。通常は、電流の絶対値を一定としてその反転動作により制御するので、磁気光学素子に印加可能な磁界の向きは、一直線上の正逆2方向のみであり、そのためファラデー回転角のとり得る状態は2状態に限定されている。
【0009】
また、このファラデー回転子においては、磁気ヨークと磁気光学素子の少なくとも一方が半硬質磁性材料で形成され、それらが励磁電流によって磁化されるとともに、励磁電流を遮断した後には、半硬質磁性材料に磁化が残留する。磁気光学素子が半硬質磁性材料からなる場合には、自身に磁化が残留することとなるが、磁気ヨークが半硬質磁性材料からなる場合には、磁気ヨークの残留磁化による磁界が磁気光学素子に印加されることとなる。何れの場合においても、残留する磁界ベクトルは電流印加時の磁界ベクトルと大きさは違うがその方向は同じである。そのため、励磁電流を遮断した後も、励磁電流を流しているときと同じ状態でファラデー回転角を保持することができるが、その状態は、電流印加時にとり得る2状態のみであり、任意の状態を保持することはできない。
【0010】
上記のように、従来の可変光アッテネータでは、電磁石のコイルに供給する励磁電流を制御することによって磁気光学素子の磁化方向を任意の方向に変えることができ、それに対応してファラデー回転角を自由に調整することができるが、その状態を励磁電流の遮断後に保持することができない。一方、自己保持機能を有する従来のファラデー回転子では、励磁電流を遮断した後も、磁気光学素子の磁化方向並びにファラデー回転角を保持することができるが、その状態が2状態に限られてしまう。
【特許文献1】特開平9−061770号公報
【特許文献2】特開平8−211347号公報
【発明の開示】
【0011】
本発明が解決しようとする第1の課題は、永久磁石と電磁石を組み合わせる従来方式の磁気光学デバイスでは、常に永久磁石の磁界が作用し続けるために可変磁界を形成するコイルの巻数を多くしたり供給する電流を多くする必要があり、そのため小型化できず、光制御の高速化が困難である点である。
第2の課題は、永久磁石を単に電磁石で置き換えたとしても、電源構成が複雑化し、制御が面倒になる点である。
第3の課題は、永久磁石と電磁石を組み合わせる従来方式の磁気光学デバイスでは、励磁電流を遮断した後にファラデー回転角を保持することできず、また自己保持機能を有する従来方式の磁気光学デバイスでは、励磁電流を遮断した後に保持できる磁気光学素子の磁化方向並びにファラデー回転角の状態が任意ではなく2状態に限られてしまう点である。
【0012】
[本発明の第1の態様]
本発明の第1の態様に係る磁気光学デバイスは、板状部と、該板状部の片面から垂直方向に突設した少なくとも3本以上の柱状部とを有し、全体が高透磁率磁性材料からなる磁気ヨークと、各柱状部に巻装したコイルと、各柱状部の先端部分で囲まれた開磁路領域に配置した磁気光学素子とを具備しており、該磁気光学素子にコイルにより生じる磁界が印加されるようにしたことを特徴とするものである。
【0013】
最も単純な磁気ヨークの構成は、ほぼ四角形の板状部と、その四隅近傍から垂直方向に同じ向きで突設した4本の四角柱状部とが連続一体となっている構造である。この場合、板状部は正方形とすることが好ましく、柱状部も断面正方形とすることが好ましい。
【0014】
これらにおいて、好ましくは、高透磁率磁性材料としてフェライト(例えばNi−Zn系フェライト)を使用し、磁気光学素子にはビスマス置換希土類鉄ガーネット単結晶を用いる。そして、各コイルに供給する電流の向き及び/又は電流値を制御することにより、磁気光学素子の磁化方向を変化させる。
【0015】
このような磁気光学デバイスの光路の前後に、それぞれ偏光子を設置し、入射光に対する出射光の減衰量を制御することで、可変光アッテネータが構成できる。また、磁気光学デバイスの光路の前後に、それぞれ偏光子を設置し、入射光に対して出射光を切換制御することで、光スイッチが構成できる。
【0016】
これらの磁気光学デバイスを複数並設することにより、各種の磁気光学デバイスアレイが構成できる。
【0017】
本発明の第1の態様に係る磁気光学デバイスは、可変光アッテネータあるいは光スイッチに利用できる。可変光アッテネータでは、永久磁石による固定磁界を必要とせず、全て電磁石による可変磁界にすることで、瞬時に磁化方向を変化させることができ小型化、高速化できる。また磁化方向をどの方向にも制御できるため、必要な90度のファラデー回転角の変化量を得るのに、0度から90度の範囲ではなく、−45度から+45度の範囲を使用することができ、その点でも使用部品の小型化を図ることができる。光スイッチでは、自己保持機能をもつ磁気光学素子を用いることで、磁気ヨーク材として半硬質磁性材料を使用する必要が無くなり、コイルと磁気ヨークによる発生磁界は磁気光学素子の磁化反転に必要最小限の磁界でよいために、小型化、高速化、低消費電力化できる。更に、漏れ磁界が少なく磁気光学素子のみに磁界が集中する構造なので、複数並設しても磁気的に干渉する恐れがなく、容易にアレイ構造を実現できる。
【0018】
[本発明の第2の態様]
本発明の第2の態様に係る磁気光学デバイスは、板状部の片面から垂直方向に突設した2n(但しn≧2)本の柱状部を有し、全体が高透磁率磁性材料からなる磁気ヨークと、各柱状部に巻装したコイルと、各柱状部の先端部分で囲まれた開磁路領域に配置した磁気光学素子を具備し、該磁気光学素子にコイルにより生じる磁界が印加されるようにした磁気光学デバイスであって、磁気光学素子を挟んで対向する位置関係にあるコイルによって磁気光学素子に印加する磁界の極性は互いに逆であり、且つ磁気光学素子を挟んで対向する位置関係にあるコイルを対とし、並列もしくは直列に接続して共通の電源で駆動することを特徴とするものである。なお、電源は可変電圧源もしくは可変電流源である。
【0019】
最も単純な磁気ヨークの構成は、ほぼ正方形の板状部と、その四隅近傍から垂直方向に同じ向きで突設した4本の柱状部を有する構造である。ここで、板状部と柱状部は一体構造でもよいし、柱状部を板状部に設けられてる穴に挿入し固定する構造でもよい。
【0020】
磁気ヨークは、板状部と、その片面から同じ向きで突設した柱状部を有し、磁気光学素子を挟んで対向する位置関係にある柱状部対の一方は光軸に垂直に配置され、他方は光軸に対してある角度(±90度未満)となるように配置されている構造でもよい。この構造の場合には、一方の柱状部対によって形成される第1の磁界の方向と、他方の柱状部対によって形成される第2の磁界の方向のなす角度θが、飽和合成磁界の向きが光軸と平行の時の磁気光学素子のファラデー回転角をθf0、実使用時の磁気光学素子の最大ファラデー回転角をθfMAXとしたとき、
θ=sin−1(θfMAX/θf0
とするのがよい。
【0021】
また本発明の第2の態様に係る磁気光学デバイスは、板状部の片面から垂直方向に突設した2n(但しn≧2)本の柱状部を有し、全体が高透磁率磁性材料からなる磁気ヨークを2個、各柱状部にコイルを巻装し、柱状部の先端面同士を突き合わせるように組み合わせ、各柱状部の先端部分で囲まれた開磁路領域に磁気光学素子を配置し、該磁気光学素子にコイルにより生じる磁界が印加されるようにした磁気光学デバイスであって、各柱状部に巻装したコイル同士は逆向きの磁界を発生し、磁気光学素子を挟んで対向する位置関係にあるコイルによって磁気光学素子に印加する磁界の極性は互いに逆であり、一方の磁気ヨークによる磁界と他方の磁気ヨークによる磁界が協働して磁気光学素子に作用するようにし、且つ磁気光学素子を挟んで対向する位置関係にあるコイルは同じ組となって共通の電源で駆動されるようにしたことを特徴とするものである。
【0022】
更に本発明の第2の態様に係る磁気光学デバイスは、間隔をおいて対向する板状部の間に、2n(但しn≧2)本の柱状部を配設し、全体が高透磁率磁性材料からなる磁気ヨークと、各柱状部に巻装した複数のコイルと、各柱状部の中央部分で囲まれた開磁路領域に配置した磁気光学素子を有し、該磁気光学素子にコイルにより生じる磁界が印加されるようにした磁気光学デバイスであって、各柱状部に巻装したコイル同士は逆向きの磁界を発生し、磁気光学素子を挟んで対向する位置関係にあるコイルによって磁気光学素子に印加する磁界の極性は互いに逆であり、柱状部の中央を境として磁気ヨークの片方による磁界と磁気ヨークの他方による磁界が協働して磁気光学素子に作用するようにし、且つ磁気光学素子を挟んで対向する位置関係にあるコイルは同じ組となって共通の電源で駆動されるようにしたことを特徴とするものである。
【0023】
これらにおいて、飽和合成磁界の向きが光軸と平行な時の磁気光学素子のファラデー回転角を127.3度以上となるように設定し、コイルを片極性の可変電源で駆動する方式が好ましい。
【0024】
本発明の第2の態様に係る磁気光学デバイスは、上述した第1の態様に係る磁気光学デバイスと同様、可変光アッテネータあるいは光スイッチにおけるファラデー回転子として利用できる。永久磁石による固定磁界を必要とせず、全て電磁石による可変磁界にすることで、瞬時に磁化方向を変化させることができ小型化、高速化できる。合成磁界の向きにかかわらず大きな磁界を必要としないので、コイルを小さくすることができ、駆動電圧も小さくできる。
【0025】
磁気光学素子を挟んで対向する位置関係にあるコイルを対とし、並列もしくは直列に接続して共通の電源で駆動するため、少ない電源で効率よく駆動でき、周辺回路を簡素化できる。特に、コイルを並列に接続し駆動すると、低電圧化できる。また、飽和合成磁界の向きが光軸と平行な時の磁気光学素子のファラデー回転角を127.3度以上に設定すると、コイルを片極性の可変電源で駆動してもファラデー回転角を0〜90度の範囲で可変できる。
【0026】
板状部の片面から垂直方向に突設した2n(但しn≧2)本の柱状部を有し、全体が高透磁率磁性材料からなる磁気ヨークを2個、柱状部の先端面同士を突き合わせるように組み合わせる構成、あるいは間隔をおいて対向する板状部の間に、2n本の柱状部を配設して、全体が高透磁率磁性材料からなる磁気ヨークを用いる構成にすると、磁気光学素子に対してより大きな磁界を印加することが可能となる。
【0027】
[本発明の第3の態様]
本発明の第3の態様に係る磁気光学デバイスは、半硬質磁性材料からなる板状部と、該板状部の片面に突設した少なくとも3本以上の高透磁率磁性材料からなる柱状部とを有する磁気ヨークと、各柱状部に巻装したコイルと、各柱状部の先端部分で囲まれた開磁路領域に配置した磁気光学素子とを具備し、該磁気光学素子にコイルにより生じる磁界が印加されるようにしたことを特徴とするものである。
【0028】
上記構成の磁気光学デバイスにおいて、各コイルに電流を流すと、開磁路領域のみならず、磁気ヨークにも磁界が発生し、磁気ヨークを構成する板状部と柱状部はともに磁化される。励磁電流を遮断すると、軟磁性材料からなる柱状部はヒステリシス曲線に従い自身の磁化が無くなる方向に遷移しようとするが、その一方で半硬質磁性材料からなる板状部は残留磁化を示し、その残留磁化が柱状部を磁化して開磁路領域に合成磁界を形成する。この合成磁界は電流印加時の合成磁界と大きさは違うがその方向は同じとなる。したがって、各コイルの起磁力比率を制御して、板状部に保持させる磁化状態を制御することにより、励磁電流の遮断後に開磁路領域に残留する合成磁界の向きを任意の方向に制御することができる。
【0029】
磁気ヨークは、高透磁率磁性材料からなる板状部と、該板状部の片面に突設した少なくとも3本以上の半硬質磁性材料からなる柱状部とを有する構造でもよい。この構造の場合には、励磁電流を遮断した後に、柱状部に磁化が残留し、その残留磁化によって開磁路領域に合成磁界が形成される。
【0030】
このような磁気光学デバイスの光路の前後に、偏光子および検光子をそれぞれ設置し、入射光に対する出射光の減衰量を制御することで、自己保持型可変光アッテネータが構成できる。また、磁気光学デバイス、偏光子、検光子及び波長板を所定順序で配列し、磁気光学デバイスにおいて光の分岐比率を制御することで、自己保持型可変光分岐器が構成できる。
【0031】
また本発明の第3の態様に係る磁気光学デバイスは、半硬質磁性材料からなるブロック状のベース部と、該ベース部から延びて先端部が開磁路領域となる空間近傍にまで至る少なくとも4本以上の高透磁率磁性材料からなる柱状部とを有する磁気ヨークと、各柱状部に巻装したコイルと、各柱状部の先端部分で囲まれた開磁路領域に配置した磁気光学素子とを具備し、該磁気光学素子にコイルにより生じる磁界が3方向以上から印加されるようにしたことを特徴とするものである。この構成の場合、磁気光学素子に印加する合成磁界の向きを3次元空間における任意の方向に制御することができ、その磁界方向を励磁電流の遮断後も保持することができる。
【0032】
本発明の第3の態様に係る磁気光学デバイスは、上述した第1および第2の態様に係る磁気光学デバイスと同様、可変光アッテネータ、可変光分岐器あるいは光スイッチにおけるファラデー回転子として利用できる。永久磁石による固定磁界を必要とせず、全て電磁石による可変磁界にすることで、デバイスの小型化を図ることができる。合成磁界の向きにかかわらず大きな磁界を必要としないので、コイルを小さくすることができ、駆動電圧も小さくできる。
【0033】
また、各コイルに供給する電流の向きと電流値を制御することで、開磁路領域に形成される合成磁界の向き(磁気光学素子の磁化方向)を任意の方向に制御することができ、これによってファラデー回転角を自由に調整することができる。しかも、磁気ヨークの板状部または柱状部を半硬質磁性材料により形成したので、励磁電流を遮断した後においても、開磁路領域に残留する合成磁界の向きを任意の方向に制御することができ、ファラデー回転角を任意の状態で保持することができる。
【0034】
このような磁気光学デバイスを可変光アッテネータにおけるファラデー回転子として利用した場合には、励磁電流を遮断した後も、光減衰量を任意の状態で保持できるようになる。また可変光分岐器におけるファラデー回転子として利用した場合には、励磁電流の遮断後に、入射光の分岐比率を任意の状態で保持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1A】本発明に係る磁気光学デバイスの第1の実施形態を示す分解斜視図である。
【図1B】図1Aの磁気光学デバイスの側面図である。
【図1C】図1Aの磁気光学デバイスの平面図である。
【図2】図1Aの磁気光学デバイスの動作説明図である。
【図3】磁化方向をパラメータとして電流に対するファラデー回転角の関係を示すグラフである。
【図4】可変光アッテネータあるいは光スイッチの構成図である。
【図5】磁気光学デバイスの応答性能の一例を示す説明図である。
【図6A】本発明に係る磁気光学デバイスの第2の実施形態を示す説明図である。
【図6B】図6Aの磁気ヨークに空芯コイルを取り付けた状態を示す説明図である。
【図6C】図6Bの開磁路領域に磁気光学素子を配置した状態を示す説明図である。
【図7A】コイル配置の説明図である。
【図7B】印加磁界の説明図である。
【図8】磁極と印加磁界の向きの関係を示す説明図である。
【図9A】コイル結線と電源を示す回路図で、コイルを並列接続した構成例を示している。
【図9B】コイル結線と電源を示す回路図で、コイルを直列接続した構成例を示している。
【図10A】θf0が90度の磁気光学素子を使用した時のファラデー回転角と電流の関係を示すグラフである。
【図10B】θf0が127.3度の磁気光学素子を使用した時のファラデー回転角と電流の関係を示すグラフである。
【図11A】磁気ヨークの他の構造例を示す説明図である。
【図11B】図11Aの磁気ヨークに空芯コイルを取り付けた状態を示す説明図である。
【図11C】図11Bの開磁路領域に磁気光学素子を配置した状態を示す説明図である。
【図12】コイル配置と印加磁界の他の例を示す説明図である。
【図13】ファラデー回転角と電流の関係の他の例を示すグラフである。
【図14】磁気光学デバイスの他の構造例を示す説明図である。
【図15A】磁気光学デバイスの更に他の構造例を示す説明図である。
【図15B】図15Aの磁気ヨークどうしを互いに接合した状態を示す説明図である。
【図15C】図15Bの開磁路領域に磁気光学素子を配置した状態を示す説明図である。
【図16A】コイルの位置関係を示す説明図である。
【図16B】コイル結線と電源を示す回路図で、コイルを並列接続した構成例を示している。
【図16C】コイル結線と電源を示す回路図で、コイルを直列接続した構成例を示している。
【図17A】磁気光学デバイスの他の構造例を示す説明図である。
【図17B】図17Aの磁気光学デバイスの組立後の状態を示す斜視図である。
【図18】可変光アッテネータへの応用例を示す説明図である。
【図19A】可変光アッテネータの光減衰特性の一例を示す説明図である。
【図19B】可変光アッテネータの応答特性の一例を示す説明図である。
【図20】本発明に係る磁気光学デバイスの第3の実施形態を示す説明図である。
【図21A】電流印加時における磁気ヨークの磁化方向と合成磁界の向きの一例を示す説明図である。
【図21B】電流遮断後における磁気ヨークの磁化方向と合成磁界の向きの一例を示す説明図である。
【図22】磁気ヨークの他の構造例を示す説明図である。
【図23】磁気ヨークの更に他の構造例を示す説明図である。
【図24】合成磁界の向きと光線進行方向とのなす角度の一例を示す説明図である。
【図25A】合成磁界の向きと電流の関係の一例を示すグラフである。
【図25B】電流印加時と電流遮断後のファラデー回転角の測定結果の一例を示すグラフである。
【図26】可変光アッテネータへの応用例を示す説明図である。
【図27】図26の可変光アッテネータの光減衰特性の一例を示す説明図である。
【図28】可変光分岐器への応用例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0036】
10 磁気ヨーク
12 コイル
14 磁気光学素子
16 板状部
18 柱状部
110 板状部
112 柱状部
114 磁気ヨーク
116 コイル
120 磁気光学結晶
122,123,126,127 電源
124,128 制御手段
210 磁気ヨーク
211 板状部
212 柱状部
215 コイル
220 磁気光学素子
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
[第1の実施形態]
本発明に係る磁気光学デバイスの第1の実施形態について図1A〜図5に基づいて説明する。この実施形態における磁気光学デバイスの最も単純な構成では、正方形の板状部の四隅近傍から垂直方向に同じ向きで四角柱状部を突設した連続一体構造の高透磁率磁性材料製の磁気ヨークを用いて、その各四角柱状部にコイルを巻装し、4本の四角柱状部の先端部分で囲まれた開磁路領域に磁気光学素子を配置する。そして、コイルによる可変磁界を磁気光学素子に印加する。
【0038】
本発明に係る磁気光学デバイスの一実施例を図1A〜図1Cに示す。図1Aは分解斜視図であり、図1Bは側面を、図1Cは平面をそれぞれ表している。この磁気光学デバイスは、磁気ヨーク10と、それに巻装するコイル12と、磁気光学素子14とを備えている。磁気ヨーク10は、正方形の板状部16と、その四隅から垂直方向に同じ向きで突設した4本の等長で断面正方形の柱状部18とが連続一体となっている構造をなし、高透磁率磁性材料からなる。コイル12は、各柱状部18に巻装する。磁気光学素子14は、4本の柱状部18の先端部分で囲まれた開磁路領域に配置する。これによって、磁気光学素子14にコイル12による磁界が印加されるようにする。
【0039】
高透磁率磁性材料としては、例えばNi−Zn系フェライトなどを用いる。所定形状に一体成形し焼結した構造とする。単結晶フェライトを使用すると、より高性能化することができる。その場合には、ブロックから所定形状に切削加工して製造する。磁気光学素子としては、例えばビスマス置換希土類鉄ガーネット単結晶を用いる。この単結晶は、LPE(液相エピタキシャル)法により育成できる。その他、YIG(イットリウム鉄ガーネット)単結晶等でもよい。
【0040】
この磁気光学デバイスでは、4個のコイルに供給する電流の向き及び/又は電流値を制御することにより磁気光学素子の磁化方向を変化させることができる。
【0041】
図2は本発明に係る磁気光学デバイスの動作説明図であり、平面から見た状態を示している。磁気ヨークの各柱状部の先端をそれぞれ符号a,b,c,dで表し、それに対応して各柱状部に巻装するコイルも同様の符号(コイル12a,…,コイル12d)で表す。ここで、光は、矢印に示すように、図面左手から右手方向に磁気光学素子を透過するものとする。コイル12aとコイル12bとは直列に巻く。そしてaとbは極性を逆にする。またコイル12cとコイル12dとは直列に巻く。そしてcとdは極性を逆にする。磁化の方向を白抜き矢印で示す。
【0042】
(面内磁化)
コイル12aとコイル12bに一方向に電流を流すと共に、コイル12cとコイル12dにも一方向に電流を流す。これによってaはN極、bはS極、同様にcはN極、dはS極に磁化する。従って磁気光学素子14には光軸に垂直方向の磁界が印加され、面内磁化(磁気光学素子の入出射面に平行な磁化)が生じる。
【0043】
(45度磁化)
コイル12aとコイル12bのみに一方向に電流を流す。コイル12cとコイル12dには通電しない。これによってaはN極、bはS極に磁化し、従って磁気光学素子14には光軸に対して45度傾いた方向の磁界が印加され、45度磁化(磁気光学素子の入出射面に対して45度傾いた磁化)が生じる。
【0044】
(垂直磁化)
コイル12aとコイル12bに一方向に電流を流すと共に、コイル12cとコイル12dには面内磁化の場合とは逆の方向に電流を流す。これによってaはN極、bはS極に磁化し、cはS極、dはN極に磁化する。従って磁気光学素子には光軸と平行方向の磁界が印加され、垂直磁化(磁気光学素子の入出射面に垂直な磁化)が生じる。
【0045】
いずれにしても、コイル12aとコイル12bには常に同一方向に電流を流し、従って常に同一極性に(例えばaは常にN極、bは常にS極に)磁化している。面内磁化の状態から45度磁化の状態までは、コイル12cとコイル12dにも一方向に電流を流すが、その電流値を減少させることで任意の磁化方向を実現できる。45度磁化の状態から垂直磁化の状態までは、コイル12cとコイル12dに逆方向に電流を流し、その電流値を増加させることで任意の磁化方向を実現できる。このようにしてコイルに流す電流の方向と値を制御することで、磁界の向きを制御することができる。
【0046】
磁化方向をパラメータとしてコイル電流に対するファラデー回転角の関係を測定した結果の一例を図3に示す。磁気ヨークの構造や材質などにもよるが、コイルに流す電流をある値以上にすると、ファラデー回転角は一定値に達することが分かる。
【0047】
図4は本発明に係る可変光アッテネータの一実施例を示す説明図である。磁気光学デバイス20の光路の前後に、第1の偏光子22と第2の偏光子24を設置した構成である。磁気光学デバイス20は、図1A〜図1Cに示すものと同様であってよく、説明を簡略化するために対応する部材には同一符号を付す。
【0048】
ここで、磁気光学素子14は、45度以上のファラデー回転角を生じる厚さとする。また、第1の偏光子22と第2の偏光子24は、例えば吸収型偏光子、偏光ガラス(商品名ポーラコア、キューポなど)、あるいは積層型偏光子等の直線偏光子であり、それらの光学軸は互いに平行な面内にあり且つ所定の角度差(例えば光学軸が光路方向に見て45度以上の所定の角度差)をもつように配置されている。
【0049】
磁気光学デバイス20によって磁気光学素子14のファラデー回転角を−45度から+45度の範囲で制御することにより、第1の偏光子22に向かう入射光量に対する第2の偏光子24からの出射光量を可変制御する。
【0050】
上記構成の可変光アッテネータは、永久磁石による固定磁界を用いず、全て電磁石による可変磁界で構成しているため、瞬時に磁化方向を変化させることができ高速化になる。また磁化方向をどの方向にも制御できるため、光アッテネータに必要な90度のファラデー回転角の変化量を得るのに、−45度から+45度の範囲を使用することができ、従来構成に比べ、磁気光学素子は半分の回転角(つまり45度の厚み)でよい。
【0051】
磁気ヨーク寸法(縦×横×高さ)が2.8mm×2.8mm×4.5mm、透磁率が2000のNi−Znフェライト製の磁気ヨークを使用し、磁気光学素子を磁気飽和又は磁化反転させるのに必要な磁界の強さ約12000A/m(150Oe)を得るための条件を求めた結果は、次の通りである。
・コイル巻数:130
・コイル抵抗(導体線径φ=50μm):5.17Ω
・起磁力:11.9AT
・電流値:96mA
・消費電力:48mW
・時定数:50.1μ秒
【0052】
磁気回路の応答速度の測定結果の一例を図5に示す。両方のコイルの組への入力電圧を同時に切り換えてから光出力が安定化するまでの時間を測定した。図5では、応答速度は約40μ秒であった。因みに、従来品では約200μ秒を要している。本発明品では永久磁石を必要としないため、応答速度が速くなっている。
【0053】
光スイッチは、基本的には図4と同様に、磁気光学デバイスの光路の前後に、それぞれ偏光子を配置する構成で得られる。光スイッチの場合、自己保持機能を持つ磁気光学素子を用いるのが望ましい。それによって、コイルへの電流を遮断しても、その状態を維持できるからである。自己保持機能を持つ磁気光学素子としては、例えば残留磁化を有するビスマス置換希土類鉄ガーネット単結晶が使用でき、LPE法により育成した膜を熱処理せずにそのまま用いることで自己保持機能が発現する。磁気光学デバイスによってファラデー回転角を切り替えることにより、入射光に対して出射光を切換制御できる。これによって、従来のように磁気ヨーク材を半硬質磁性材料に限定する必要がなくなる。従って、コイルと磁気ヨークによる発生磁界は、磁気光学素子の磁化反転に必要最小限な磁界でよく、これによりデバイスを小型化でき、低消費電力化できる。
【0054】
また本発明に係る磁気光学デバイスは、永久磁石を使用せず、漏れ磁界が少なく磁気光学素子のみに磁界が集中する構造であるため、複数並設しても磁気的に干渉することがなく、そのため容易にアレイ構造が可能となる。可変光アッテネータアレイや光スイッチアレイなどが実現できる。
【0055】
なお本実施形態では、板状部に対して4本の柱状部を設ける構成としたが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば3本或いは5本以上の柱状部を設ける構成とすることも可能である。板状部に対して少なくとも3本以上の柱状部を設けるようにすれば、その各々に巻装したコイルに供給する電流の向きと電流値を制御することによって、4本の場合と同様に、合成磁界の向きを任意の方向に制御することが可能である。また、板状部の形状も正方形に限定されるものではなく、例えば、その他の多角形や円形などであってもよい。
【0056】
[第2の実施形態]
本発明に係る磁気光学デバイスの第2の実施形態について図6A〜図19Bに基づいて説明する。この実施形態における磁気光学デバイスの最も単純な構成では、図6A〜図6Cに示すように、正方形の板状部110の四隅近傍から垂直方向に同じ向きで四角柱状部112を突設した連続一体構造の高透磁率磁性材料製の磁気ヨーク114を用いる(図6A参照)。その各四角柱状部112にコイル116を巻装(図6B参照)し、4本の四角柱状部112の先端部分で囲まれた開磁路領域に、非磁性の保持部材118に搭載した磁気光学素子120を配置する(図6C参照)。そして、コイル116により生じる可変磁界を磁気光学素子120に印加するように構成する。
【0057】
各コイルについて、図7Aに示すように符号a〜dを付すと、各コイルへの通電により柱状部先端に現れる磁極によって磁気光学素子120へ印加される合成磁界の向きが変化する。図7Bに示すように、コイルaによりS極、コイルbによりN極ができると、磁気光学素子120を通過する光軸に対して−45度方向に磁界H1が生じ、コイルcによりN極、コイルdによりS極ができると、磁気光学素子120を通過する光軸に対して+45度方向に磁界H2が生じる。両者が同時に加わると、それらによる合成磁界HCが磁気光学素子120に印加される。従って、各コイルへの通電電流の大きさや向きを制御することで、任意の向きに磁界を印加できることになる。
【0058】
各コイルへの通電電流の大きさや向きの制御によって、合成磁界の向きを360度回転することができる。典型的な合成磁界の向きを図8に示す。図8では、合成磁界の向きを45度ずつ変えた状態を、状態1〜8の順に表している。図8から、コイルに通電して磁界を発生させる時、磁気光学素子120を挟んで対向する位置関係にあるコイル同士(aとb、cとd)により柱状部先端に現れる磁極は必ず極性が逆であることが分かる。このことに着目すると、極性が逆になるように同じ電源に接続できることが分かる。これによって、コイルが4個であるにもかかわらず、2個ずつ対として共通の電源で駆動でき、従って電源は2個でよく、制御も比較的単純なものとすることができる。
【0059】
コイル接続の例を図9Aおよび図9Bに示す。図9Aは、コイルaとbを並列接続し共通の第1の電源122に接続すると共にコイルcとdを並列接続し共通の第2の電源123に接続し、制御手段124で制御する例である。図9Bは、コイルaとbを直列接続し共通の第1の電源126に接続すると共にコイルcとdを直列接続し共通の第2の電源127に接続し、制御手段128で制御する例である。ここでコイルの符号a〜dは、図7Aに対応している。各電源は、可変電圧源でもよいし、可変電流源でもよい。コイル電流をCPU等の制御手段124,128で制御することにより、合成磁界の大きさと向きを制御できる。合成磁界は向きによらず磁気光学素子の磁化が飽和される大きさで一定でよい。本発明では、永久磁石による固定磁界が無いため、合成磁界の大きさを過度に大きくする必要がないのでコイルの巻数を少なくでき小型化が図れる。
【0060】
複数のコイルを電源に並列に接続すると、抵抗が小さくなる。例えば抵抗Rのコイルを2個並列接続した場合の総抵抗Rと直列接続した場合の総抵抗Rを比較すると、RはR/2となり、Rは2Rであるから、RはRの1/4となる。並列の場合のコイル1個当たりに流れる電流IはV/Rである。直列の場合のコイル1個当たりに流れる電流IはV/2Rとなり、直列と並列で電流Iを同じとすると、印加する電圧は、並列は直列の1/2でよいことになり、低電圧駆動ができる。対となるコイルは、巻数が同じで線材の長さもほぼ同じであるので、抵抗はほぼ一致し、並列に接続してもほぼ同じ電流を流すことができる。
【0061】
図6A〜図6Cに示すような磁気光学デバイスは、例えば次のようにして製造することができる。NiCuZn系フェライト等の高透磁率磁性材料の長方体ブロックを直交する2方向から切り込みを入れることによって一体となった4本の柱状部112を有する磁気ヨーク114ができる(図6A参照)。勿論、プレス成形で所望の形状に成形し焼成することもできる。4本の柱状部112のそれぞれに予め作製しておいた空芯コイル116を挿入し接着剤等で固定する(図6B参照)。この場合、空芯コイル116の線材をエナメル被覆の線材とすれば、柱状部112に挿入後、エチルアルコール等の有機溶剤を塗布することでエナメルが溶けコイル116を柱状部112に固着することもできる。この構成では、磁気ヨーク114が一体化されていることにより、磁気抵抗を最小限に抑えることができ、効率のよい磁気回路が得られる。次に磁気光学素子120を接着固定した非磁性材からなるステージ118を、柱状部112の上端部に接着剤等により固定する(図6C参照)。磁気光学素子120としては、例えばビスマス置換希土類鉄ガーネット単結晶を用いる。この単結晶は、LPE(液相エピタキシャル)法により育成できる。その他、YIG(イットリウム鉄ガーネット)単結晶等でもよい。
【0062】
そして、磁気光学素子を挟んで対向する位置にあるコイル同士を、電源に並列(図9A参照)に、もしくは電源に直列(図9B参照)に接続する。この時、磁気光学素子に印加する磁界の極性は逆になるようにする。4個のコイルを別々の電源に接続し、その4個の電源を制御し合成磁界の大きさと向きをコントロールする方式に比べて、はるかに制御が容易となり、コストも少なくて済む。
【0063】
図7Bに示すように、第1の回路により発生する磁界をH、第2の回路により発生する磁界をHとする。Hは入射光軸から−45度傾き、Hは+45度傾いている。このような磁界の向きは、図6A〜図6Cに記載したような安価で容易に製造できる構造の磁気ヨークで得られる角度である。この時の合成磁界の向きθは、
θ=45−tan−1(H/H
となる。各回路により発生する磁界の強さは電流に比例するので、上記式のH、Hはそれぞれ、第1の回路に流れる電流I、第2の回路に流れる電流Iに置き換えることができる。
θ=θf0×cosθ
であるので、これにより電流I、Iを制御すれば所望のファラデー回転角を得ることができる。
【0064】
ファラデー回転角θが0〜θfMAXの範囲で使用する場合、飽和合成磁界の向きが光軸と平行の時の磁気光学素子のファラデー回転角θf0がθfMAXと同じ磁気光学素子を使用することが多い。θf0が90度の磁気光学素子を使用した時のθと電流I、Iの関係を図10Aに示す。この場合、合成磁界の向きθが45度を下回る値にしたい時、Hの極性を逆にする必要がある。即ち、電流を逆に流すことになる。図10Aでは、θが64度付近でIの極性が逆になっていることがわかる。これは実使用時の最大ファラデー回転角θfMAXがθf0と同じだからである。この構成は、θを0〜90度まで可変とすることは可能であるが、両極性の電源が必要となるため高価となる。また電流Iには変曲点があり、そのため電流制御がやや複雑となる。
【0065】
この問題は、飽和合成磁界の向きが光軸と平行の時の磁気光学素子のファラデー回転角θf0をθfMAXよりも大きくし、印加磁界がHだけの時にθがθfMAX以上となるようにすれば解決できる。例えば上記例のようにHが入射光軸から45度傾いており、印加磁界がHのみ、θf0が90度の場合、θは、
θ=90×cos45=63.6度
となる。これではθfMAXが90度必要な時に26.4度足りない。
そこでθf0が127.3度と大きな磁気光学素子を使用すると、
θ=127.3×cos45=90度
となり、Hの逆磁界を印加しなくてもθfMAXを満足することができる。即ち、
θfMAX=θf0×cosθ
が成立すればよい。
【0066】
図10Bは、飽和合成磁界の向きが光軸と平行のときの磁気光学素子のファラデー回転角θf0が127.3度の磁気光学素子を使用した時のファラデー回転角θと電流I、Iの関係を示している。同図から、電流Iに極性反転が無く、電流Iに変曲点が無いことが分かる。従って、このような構成にすれば、いずれも片極性の電源でよく、電流制御も容易となる。
【0067】
磁気ヨークの他の例を図11A〜図11Cに示す。これは、フェライト等からなる正方形の板状部130の四隅に貫通孔132を設け、そこに同じくフェライト等からなる円柱状部材134を挿入し(図11A参照)、接着剤などにより固定する構造(図11B参照)である。このようにして、実質的に一体となった磁気ヨークを比較的容易に作製することができる。磁気光学素子138は4本の円柱状部材134の先端中央に位置するように固定する。そのためには、例えば非磁性の正方形板状のステージ140の四隅に前記円柱部材が機械的に位置決め固定されるように穴(図示せず)を設け、その位置を基準に磁気光学素子138を位置決め固定する穴を設けて固定することにより容易に実現可能である(図11C参照)。
【0068】
電流制御を更に単純化するためには、図12のように第1の磁界Hをファラデー回転が0度となる入射光軸と垂直方向とし、第2の磁界Hをθまで傾けるように設定する。こうすることにより、θ=0としたい場合はIのみ、θ=θfMAXとしたい場合にはIのみ供給するようにする。図13は、飽和合成磁界の向きが光軸と平行の時の磁気光学素子のファラデー回転角θf0が127.3度の磁気光学素子を使用した時のファラデー回転角θと電流I、Iの関係である。θは45度である。I、I共にθに対し直線的に変化させることができることが分かる。この場合のθは、
θ=90−θ
θ=θfMAX
θ=cos−1(θfMAX/θf0
なので、
θ=90−cos−1(θfMAX/θf0)=sin−1(θfMAX/θf0
と表すことができる。すなわちこれを満足すれば制御を単純化することができる。
【0069】
これを実現できる磁気ヨークは、図14のように、高透磁率磁性材料からなる直方体ブロックに3箇所(平行に2箇所、垂直に1箇所)の切り込みを入れることで製造できる。この磁気ヨーク144では、H方向に比べH方向では磁極の位置が磁気光学素子146の中心より離れ印加磁界が弱くなるが、その分コイルの巻数を多くするなどで対応できる。なお、一体構造ではなく、図11A〜図11Cなどと同様、板状部の所定の位置に貫通孔を設け、柱状部材を挿入し固定することで磁気ヨークを作製することもできる。
【0070】
図15A〜図15Cは本発明に係る磁気光学デバイスの更に他の実施例を示す説明図である。図6A〜図6Cに示すような磁気ヨーク150を2個対向配置する。即ち、両磁気ヨーク150は、それぞれほぼ正方形の板状部152と、該板状部152の片面四隅から垂直方向に突設した4本の柱状部154とを有し、全体がフェライトなどの高透磁率磁性材料からなる一体構造である。そして各柱状部154にコイル156を巻装する(図15A参照)。このようにコイル156を巻装した2個の磁気ヨーク150を、互いの柱状部154の先端面同士を突き合わせるように組み合わせ、接着剤などで固定する(図15B参照)。中央部に貫通孔を持つ非磁性ステージ158に、磁気光学素子160を接着した円筒状のサポート162を挿入して固定し(図15B参照)、各柱状部154の先端部分で囲まれた開磁路領域に磁気光学素子160が位置するように前記ステージ158を磁気ヨーク150に接着等により固定する(図15C参照)。
【0071】
これによって、磁気光学素子160にコイル156により生じる磁界が印加されるように構成する。そのため、同じ柱状部154に巻装したコイル同士は逆向きの磁界を発生するように電流を流す。つまり、柱状部154の先端部では両側のコイル156で同じ磁極が現れるようにする。このようにすると、柱状部154の先端部で磁束が外部に漏れ出て、磁気光学素子160に効率よく磁界が作用する。図6A〜図6Cの場合と同様、磁気光学素子160を挟んで対向する位置関係にあるコイル156によって磁気光学素子160に印加する磁界の極性は互いに逆である。また、上方の磁気ヨークによる磁界と下方の磁気ヨークによる磁界とが協働して(互いに加算されて)磁気光学素子160に作用するように構成する。
【0072】
そして磁気光学素子を挟んで対向する位置関係にある4個のコイルが組となって、共通の電源で駆動される。コイルの位置関係を図16Aで表したとき、図16Bに示すように、入射光軸と垂直方向で向かいあうコイル同士とそれらと磁気光学素子を挟んで対向する位置にあるコイルの合計4個(a,a,b,b)を並列に結線して一方の電源に接続し、残りの4個(c,c,d,d)も並列に結線して他方の電源に接続する。従って、入射光軸と垂直方向で向かいあうコイル同士、例えばaとaはN極とし、それらと磁気光学素子を挟んで対向する位置にあるコイルbとbはS極となるようにする。同様に、コイルcとcがS極であればdとdはN極とする。
【0073】
その他、図16Cに示すように、4個のコイル(a,a,b,b)を直列に結線して一方の電源に接続し、残りの4個(c,c,d,d)も直列に結線して他方の電源に接続してもよい。あるいは、2個ずつ並直列、あるいは直並列にして共通の電源に接続する方式も可能である。いずれにしても、8個のコイルを別々の電源に接続し別々に制御する方法に比べて、回路構成を大幅に簡素化でき低コスト化できるし、制御が複雑になることもない。所望のファラデー回転角を得る制御の方法は、磁気ヨークが片側のみにある場合と同様である。
【0074】
図17Aおよび図17Bは、本発明に係る磁気光学デバイスの他の実施例を示す説明図である。間隔をおいて対向する板状部164の間に4本の柱状部166を配設し、各柱状部166に2個のコイル156を巻装する。各柱状部166の中央部分で囲まれた領域に磁気光学素子160を配置し、該磁気光学素子160にコイル156により生じる磁界が印加されるように構成する。両方の板状部164の四隅位置に穴165を設け、柱状部166の両端を挿入して接着剤などで固定することで、全体が高透磁率磁性材料からなる磁気ヨークが得られる。同じ柱状部166に巻装したコイル同士は逆向きの磁界を発生し、磁気光学素子160を挟んで対向する位置関係にあるコイルによって磁気光学素子に印加する磁界の極性は互いに逆であり、柱状部の中央を境として上半分の磁気ヨークによる磁界と下半分の磁気ヨークによる磁界が協働して磁気光学素子に作用するようにし、且つ磁気光学素子160を挟んで対向する位置関係にあるコイルは組となって共通の電源で駆動される。この磁気光学デバイスの動作は、前記実施例と同様である。
【0075】
なお上記の実施例は、板状部に対して4本の柱状部が設けられている例であるが、6本など、より多くの柱状体を設ける構造も可能である。
【0076】
図18は本発明に係る磁気光学デバイスを組み込んだ反射型可変光アッテネータの応用例を示している。磁気光学デバイス170の光路の前方に、複屈折結晶からなる偏光子172とレンズ174を配置し、後方にミラー176を設置した構成である。磁気光学デバイス170は、図6A〜図6Cに示すものと同様であってよく、説明を簡略化するために対応する部材には同一符号を付す。入力ファイバから光を入射し、出射光を出力ファイバから取り出す。この例は、コイルを直列接続した(図9B参照)構成である。
【0077】
試作品の測定結果の一例を図19A及び図19Bに示す。図19Aは、コイル2(コイルcとd)の電流を80mAに固定したとき、コイル1(コイルaとb)の電流に対する光減衰特性を示している。また図19Bは、減衰量16dB、26dBのコイル1のステップ入力に対する応答特性を示している。減衰量が26dBのときの応答時定数(減衰量:63%到達)は24μ秒であった。
【0078】
[第3の実施形態]
本発明に係る磁気光学デバイスの第3の実施形態について図20〜図28に基づいて説明する。本実施形態の磁気光学デバイスは、図20に示すように、磁気ヨーク210と、それに巻装するコイル215と、磁気光学素子220とを備えている。磁気ヨーク210は、円形の板状部211と、その片面の周縁部に突設された逆L字型の4本の柱状部212とを有し、各柱状部212が周方向に沿ってほぼ等間隔に配置されて、それぞれの先端部が互いの中心方向に向けられた構成となっている。板状部211は例えばSUS420J2等の半硬質磁性材料からなり、柱状部212は例えばMn−Zn系フェライト等の軟磁性材料からなる。板状部211と各柱状部212とは接着剤などにより相互に固定されている。
【0079】
各柱状部212にはコイル215が巻装されるとともに、4本の柱状部212の先端部分で囲まれた開磁路領域には磁気光学素子220が配置され、これによって、磁気光学素子220に各コイル215による合成磁界が印加されるようになっている。また、前述した第1および第2の実施形態と同様、磁気光学素子220を挟んで対向する位置関係にあるコイル215によって磁気光学素子220に印加する磁界の極性は互いに逆であり、それらコイル215どうしが、電源に並列に若しくは電源に直列に接続されている。なお、コイル215の巻数は任意に設定することが可能であり、その設定を変えることによって、コイル215の起磁力を調整することが可能であるが、ここでは、説明を簡略化するために、コイル215に供給する電流で起磁力を調整するものとして説明する。
【0080】
上記構成の磁気光学デバイスにおいては、4つのコイル215に電流を流すことによって、各コイル215に起磁力が発生する。そして、4つのコイル215に流す電流の方向と比率を制御することにより、目的空間となる開磁路領域に任意方向の合成磁界(空間磁界)を形成することができる。各コイル215に電流を流したときには、例えば図21Aに示すように、磁気ヨーク210の各柱状部212が所定方向(例えば、図中矢印の方向)に磁化されるが、同時に、半硬質磁性材料からなる板状部211も、柱状部212とともに磁路を形成して所定方向(例えば、図中矢印の方向)に磁化される。板状部211の磁化方向は分布を持っていて、実際には図に示したよりも複雑であるが、板状部211全体として表した場合、例えば図示のようになる。
【0081】
この状態から、各コイル215への励磁電流を遮断すると、コイル215の起磁力は消滅するが、半硬質磁性材料である板状部211には磁化が残留する。励磁電流の遮断後には、板状部211の残留磁化によって、図21Bに示すように、軟磁性材料である柱状部212が磁化されて、目的空間となる開磁路領域に、電流印加時と同じ方向の合成磁界が形成される。すなわち、各コイル215に流す励磁電流の比率を制御することによって、板状部211全体の残留磁化方向を任意に制御でき、その結果、開磁路領域に残留する磁界方向を任意に制御することができる。板状部211を目的の方向に磁化する際には、各コイル215に流す励磁電流の比率を保ったまま電流の絶対値を大きくする。このとき柱状部212が磁気飽和しないように電流値を調整することが制御上望ましい。
【0082】
また、磁気光学素子220に印加する合成磁界の向きを変更する際には、板状部211の残留磁化よりも十分に大きな磁力を印加すること、若しくは各コイル215に供給する電流を制御して板状部211を消磁した後に、開磁路領域に合成磁界を形成することが好ましい。そうすることで、磁界の向きを変更する前の残留磁化の影響をなくして、合成磁界の向きを所望方向に適切に制御することができる。また、上述した図20の磁気回路では、磁気光学素子220に印加する合成磁界の向きを平面(各柱状部212の先端部が位置する平面)上の任意の方向に制御することが可能となっているが、これに、例えば図22および図23に示すように、上記平面と垂直な成分を有する磁界ベクトルを生成可能な磁気回路を組み合わせるようにすれば、磁気光学素子220に印加する合成磁界の向きを3次元空間における任意の方向に制御することが可能である。
【0083】
図22においては、半硬質磁性材料からなるブロック状のベース部231と、該ベース部231の上面および側面に突設された6本の柱状部232,233,234とにより磁気ヨーク230が構成されている。ベース部231は例えば立方体形状となっていて、その上面の四隅近傍からは垂直方向に4本の柱状部232が突設されて、それぞれの先端部が互いの中央位置にある開磁路領域に向けられるとともに、ベース部231の一側面には、その上部および下部から延びて先端部が上記開磁路領域の下方位置および上方位置にそれぞれ至る柱状部234,233がそれぞれ突設されている。各柱状部232,233,234にはコイル235が巻装されている。一方、図23では、前述した図20に示すような4本の柱状部212を有する第1磁気ヨーク210と、2本の柱状部242を有する第2磁気ヨーク240とが設けられて、第1磁気ヨーク210の柱状部212の先端部分で囲まれた開磁路領域を、第2磁気ヨーク240の2本の柱状部242の先端部分で上下両方向から挟むように各々が配置されている。第2磁気ヨーク240の板状部241は半硬質磁性材料により形成され、柱状部242は軟磁性材料により形成されている。各柱状部242にはコイル245が巻装されている。何れの場合においても、磁気光学素子220に印加する合成磁界の向きを3次元空間における任意の方向に制御することができ、その磁界方向を励磁電流の遮断後も保持することができる。
【0084】
本発明に係る磁気光学デバイスの一実施例として、図20に示すようなファラデー回転子を製作した。柱状部212には軟磁性材料であるケイ素鋼を用い、その太さを3mm×3.3mm、高さを14mmとした。板状部211には半硬質磁性材料であるSUS420J2を用い、その大きさをφ40×0.4mm(厚さ)とした。磁気光学素子220にはビスマス置換ガーネット単結晶を選択し、そのサイズを1mm×1.2mm×0.98mmとして、ファラデー回転角の最大値が波長1550nmの入射光において90度を示す結晶長とした。また、コイル215の巻数は何れも800ターンとし、磁気光学素子220を挟んで対向する位置関係にあるコイル215どうしを電源に直列に接続して、電流系統を2系統とした。図24に示すように、直列に接続された2組のコイル対の一方をコイル215a、他方をコイル215bとして、それぞれに流す電流をそれぞれ電流1、電流2とした場合、開磁路領域における合成磁界(空間磁界)の方向と光線進行方向のなす角度θと、各電流系統の電流値との関係は、図25Aに示すようになった。電流1および電流2を制御すれば、開磁路領域に任意の方向の合成磁界を形成できることが分かる。
【0085】
上記構成の自己保持型ファラデー回転子によれば、各コイル215a,215bに流す電流値を最大250mAとしてコイル電流比と向きを制御することにより、ファラデー回転角を−90度〜+90度の範囲内で自由に調整することができ、各コイル215a,215bへの電流を遮断した後には、電流印加時のファラデー回転角を保持することができる。すなわち、各コイル215a,215bへの電流遮断後に示すファラデー回転角が−90度〜+90度の範囲内で任意の角度である自己保持型ファラデー回転子を実現することができる。
図25Bに、開磁路領域における合成磁界の方向と光線進行方向のなす角度θが−45度〜+135度の範囲にあるときのファラデー回転角の測定結果を示す。各コイル215a,215bへの電流遮断後も、電流印加時とほぼ同じ状態でファラデー回転角を保持できることが分かる。
【0086】
図26は本発明に係る磁気光学デバイスを組み込んだ自己保持型可変光アッテネータの一実施例を示す説明図である。磁気光学デバイスの光路の前後に、偏光子221と検光子222をそれぞれ設置した構成である。磁気光学デバイスは、図20に示すものと同様であってよく、説明を簡略化するために対応する部材には同一符号を付す。
【0087】
ここで、4本の柱状部212には軟磁性材料であるケイ素鋼を用い、板状部211には半硬質磁性材料であるSUS410J1を用い、何れも適切な条件で熱処理を施した。各コイル215の巻数は何れも400ターンとし、磁気光学素子220を挟んで対向する位置関係にある柱状部212の先端に現れる極性が互いに逆となるように、対向するコイル215どうしを電源に直列に接続して、2系統の電流系統で制御する方式とした。磁気光学素子220はビスマス置換ガーネット単結晶であり、偏光子221と検光子222はルチル単結晶である。磁気光学素子220は、1mm×1.7mm×0.98mmのサイズで、ファラデー回転角の最大値が波長1550nmの入射光において90度を示す結晶長とした。ルチル単結晶はクロスニコル配置として、ファラデー回転子の回転角が90度のときに最小減衰量を、0度のときに最大減衰量を示すようにした。
【0088】
上記構成の自己保持型可変光アッテネータによれば、各コイル215に流す電流値を最大250mAとしてコイル電流比と向きを制御することにより、ファラデー回転角を所望角度に変換することができ、図27に示すように、光減衰量を1〜22dBの範囲で任意の値に調整することができる。そして、各コイル215への電流を遮断した後には、ファラデー回転角が電流印加時の状態で保持されるため、光減衰量も電流印加時の状態で保持することができる。すなわち、各コイル215への電流遮断後に示す光減衰量値が1〜22dBの間で任意である自己保持型可変光アッテネータを実現することができる。デバイスサイズは47mm×47mm×25mmである。
【0089】
図28は本発明に係る磁気光学デバイスを組み込んだ自己保持型可変光分岐器の一実施例を示す説明図である。入力ポート側から出力ポート側に向かって、ルチル単結晶板251a、磁気光学デバイス、1/2波長板252a,252b、ルチル単結晶板251b、1/2波長板252c,252d、ルチル単結晶板251cをその順序で配列した構成である。磁気光学デバイスは、図20に示す自己保持型ファラデー回転子のうち、ファラデー回転角が90度を示す磁気光学素子220を用いた自己保持型ファラデー回転子である。図中、ファラデー回転子は磁気回路部分を省略してある。また、3枚のルチル単結晶板251a,251b,251cの結晶軸方向は図中の矢印で示す通りであり、ルチル単結晶板251aは偏波方向が直交関係にある同じ光路上の光を分離する機能、ルチル単結晶板251bは偏波方向に応じて光路を制御する機能、ルチル単結晶板251cは偏波方向が直交関係にある異なる光路上の光を合成する機能をそれぞれ有している。また、4枚の波長板252a,252b,252c,252dはそれぞれ光の偏波方向を所定角度回転させる機能を有している。
【0090】
上記構成の自己保持型可変光分岐器においては、入力ポートへの入射光が出力ポート1と出力ポート2に分岐して出射することとなるが、その分岐比率がファラデー回転子に供給する電流値によって制御可能となっている。挿入損失を差し引いた分岐比率は0:100〜100:0の範囲で可変であり、クロストーク値としては42dB以上が得られた。ファラデー回転子への電流を遮断した後には、ファラデー回転角が電流印加時の状態で保持されるため、電流印加時と同様に任意の分岐比率を保持することができる。
【0091】
なお、図20に示す磁気光学デバイスに、ルチル単結晶板と1/2波長板を組み合わせることによって自己保持型可変光スイッチを構成することも可能である。この自己保持型可変光スイッチによれば、各コイル215に流す電流比と向きを制御することにより、所望の状態に光路を切り換えることができ、コイル215への電流を遮断した後は、その状態を保持することができる。
また、本実施形態においては、柱状部を軟磁性材料、板状部を半硬質磁性材料で形成したが、これとは反対に、柱状部を半硬質磁性材料、板状部を軟磁性材料で形成することも可能である。この場合にも、励磁電流を遮断した後に、開磁路領域に残留する合成磁界の向きを任意の方向に制御することができ、ファラデー回転角を任意の状態で保持することができる。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明に係る磁気光学デバイスは、可変光アッテネータ、可変光分岐器あるいは光スイッチにおけるファラデー回転子として利用できる。永久磁石による固定磁界を必要とせず、全て電磁石による可変磁界にすることで、瞬時に磁化方向を変化させることができ小型化、高速化できる。合成磁界の向きにかかわらず大きな磁界を必要としないので、コイルを小さくすることができ、駆動電圧も小さくできる。
【0093】
磁気光学素子を挟んで対向する位置関係にあるコイルを対とし、並列もしくは直列に接続して共通の電源で駆動するため、少ない電源で効率よく駆動でき、周辺回路を簡素化できる。
【0094】
また、磁気ヨークの板状部または柱状部を半硬質磁性材料により形成することにより、励磁電流を遮断した後においても、開磁路領域に残留する合成磁界の向きを任意の方向に制御することができ、ファラデー回転角を任意の状態で保持することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状部と、該板状部の片面から垂直方向に突設した少なくとも3本以上の柱状部とを有し、全体が高透磁率磁性材料からなる磁気ヨークと、各柱状部に巻装したコイルと、各柱状部の先端部分で囲まれた開磁路領域に配置した磁気光学素子とを具備し、該磁気光学素子にコイルにより生じる磁界が印加されるようにしたことを特徴とする磁気光学デバイス。
【請求項2】
磁気ヨークは、ほぼ四角形の板状部と、その四隅近傍から垂直方向に同じ向きで突設した4本の四角柱状部とが連続一体となっている構造である請求項1記載の磁気光学デバイス。
【請求項3】
高透磁率磁性材料としてフェライトを使用し、磁気光学素子にビスマス置換希土類鉄ガーネット単結晶を用いる請求項1記載の磁気光学デバイス。
【請求項4】
各コイルに供給する電流の向き及び/又は電流値を制御することにより磁気光学素子の磁化方向を変化させる請求項1記載の磁気光学デバイス。
【請求項5】
磁気ヨークは、板状部の片面から垂直方向に突設した2n(但しn≧2)本の柱状部を有する構造であり、
磁気光学素子を挟んで対向する位置関係にあるコイルによって磁気光学素子に印加する磁界の極性は互いに逆であり、且つ磁気光学素子を挟んで対向する位置関係にあるコイルを対とし、並列もしくは直列に接続して共通の電源で駆動する請求項1記載の磁気光学デバイス。
【請求項6】
磁気ヨークの板状部を半硬質磁性材料により形成し、柱状部を軟磁性材料により形成したことを特徴とする請求項1記載の磁気光学デバイス。
【請求項7】
磁気光学デバイスの光路の前後に、それぞれ偏光子を設置し、入射光に対する出射光の減衰量を制御する可変光アッテネータであって、
磁気光学デバイスは、板状部と、該板状部の片面から垂直方向に突設した少なくとも3本以上の柱状部とを有し、全体が高透磁率磁性材料からなる磁気ヨークと、各柱状部に巻装したコイルと、各柱状部の先端部分で囲まれた開磁路領域に配置した磁気光学素子とを具備し、該磁気光学素子にコイルにより生じる磁界が印加されるように構成され、且つ各コイルに供給する電流の向き及び/又は電流値を制御することにより磁気光学素子の磁化方向を変化させるようにした磁気光学デバイスであることを特徴とする可変光アッテネータ。
【請求項8】
磁気光学デバイスの光路の前後に、それぞれ偏光子を設置し、磁気光学素子として残留磁化を有するビスマス置換希土類鉄ガーネット単結晶を用い、入射光に対して出射光を切換制御する光スイッチであって、
磁気光学デバイスは、板状部と、該板状部の片面から垂直方向に突設した少なくとも3本以上の柱状部とを有し、全体が高透磁率磁性材料からなる磁気ヨークと、各柱状部に巻装したコイルと、各柱状部の先端部分で囲まれた開磁路領域に配置した磁気光学素子とを具備し、該磁気光学素子にコイルにより生じる磁界が印加されるように構成され、且つ各コイルに供給する電流の向き及び/又は電流値を制御することにより磁気光学素子の磁化方向を変化させるようにした磁気光学デバイスであることを特徴とする光スイッチ。
【請求項9】
磁気光学デバイスを複数並設した磁気光学デバイスアレイであって、
磁気光学デバイスは、板状部と、該板状部の片面から垂直方向に突設した少なくとも3本以上の柱状部とを有し、全体が高透磁率磁性材料からなる磁気ヨークと、各柱状部に巻装したコイルと、各柱状部の先端部分で囲まれた開磁路領域に配置した磁気光学素子とを具備し、該磁気光学素子にコイルにより生じる磁界が印加されるようにした磁気光学デバイスであることを特徴とする磁気光学デバイスアレイ。
【請求項10】
板状部の片面から垂直方向に突設した2n(但しn≧2)本の柱状部を有し、全体が高透磁率磁性材料からなる磁気ヨークと、各柱状部に巻装したコイルと、各柱状部の先端部分で囲まれた開磁路領域に配置した磁気光学素子を具備し、該磁気光学素子にコイルにより生じる磁界が印加されるようにした磁気光学デバイスであって、磁気光学素子を挟んで対向する位置関係にあるコイルによって磁気光学素子に印加する磁界の極性は互いに逆であり、且つ磁気光学素子を挟んで対向する位置関係にあるコイルを対とし、並列もしくは直列に接続して共通の電源で駆動することを特徴とする磁気光学デバイス。
【請求項11】
磁気ヨークは、ほぼ正方形の板状部と、その四隅近傍から垂直方向に同じ向きで突設した4本の柱状部を有する構造である請求項10記載の磁気光学デバイス。
【請求項12】
磁気ヨークは、板状部と、その片面から同じ向きで突設した柱状部を有し、磁気光学素子を挟んで対向する位置関係にある柱状部対の一方は光軸に垂直に配置され、他方は光軸に対してある角度(±90度未満)となるように配置されている請求項10記載の磁気光学デバイス。
【請求項13】
一方の柱状部対によって形成される第1の磁界の方向と、他方の柱状部対によって形成される第2の磁界の方向のなす角度θが、飽和合成磁界の向きが光軸と平行の時の磁気光学素子のファラデー回転角をθf0、実使用時の磁気光学素子の最大ファラデー回転角をθfMAXとしたとき、
θ=sin−1(θfMAX/θf0
である請求項12記載の磁気光学デバイス。
【請求項14】
板状部の片面から垂直方向に突設した2n(但しn≧2)本の柱状部を有し、全体が高透磁率磁性材料からなる磁気ヨークを2個、各柱状部にコイルを巻装して、柱状部の先端面同士を突き合わせるように組み合わせ、各柱状部の先端部分で囲まれた開磁路領域に磁気光学素子を配置し、該磁気光学素子にコイルにより生じる磁界が印加されるようにした磁気光学デバイスであって、各柱状部に巻装したコイル同士は逆向きの磁界を発生し、磁気光学素子を挟んで対向する位置関係にあるコイルによって磁気光学素子に印加する磁界の極性は互いに逆であり、一方の磁気ヨークによる磁界と他方の磁気ヨークによる磁界が協働して磁気光学素子に作用するようにし、且つ磁気光学素子を挟んで対向する位置関係にあるコイルは同じ組となって共通の電源で駆動されるようにしたことを特徴とする磁気光学デバイス。
【請求項15】
間隔をおいて対向する板状部の間に、2n(但しn≧2)本の柱状部を配設し、全体が高透磁率磁性材料からなる磁気ヨークと、各柱状部に巻装した複数のコイルと、各柱状部の中央部分で囲まれた開磁路領域に配置した磁気光学素子を有し、該磁気光学素子にコイルにより生じる磁界が印加されるようにした磁気光学デバイスであって、各柱状部に巻装したコイル同士は逆向きの磁界を発生し、磁気光学素子を挟んで対向する位置関係にあるコイルによって磁気光学素子に印加する磁界の極性は互いに逆であり、柱状部の中央を境として磁気ヨークの片方による磁界と磁気ヨークの他方による磁界が協働して磁気光学素子に作用するようにし、且つ磁気光学素子を挟んで対向する位置関係にあるコイルは同じ組となって共通の電源で駆動されるようにしたことを特徴とする磁気光学デバイス。
【請求項16】
飽和合成磁界の向きが光軸と平行な時の磁気光学素子のファラデー回転角が127.3度以上に設定され、コイルを片極性の電源で駆動するようにした請求項10記載の磁気光学デバイス。
【請求項17】
半硬質磁性材料からなる板状部と、該板状部の片面に突設した少なくとも3本以上の高透磁率磁性材料からなる柱状部とを有する磁気ヨークと、各柱状部に巻装したコイルと、各柱状部の先端部分で囲まれた開磁路領域に配置した磁気光学素子とを具備し、該磁気光学素子にコイルにより生じる磁界が印加されるようにしたことを特徴とする磁気光学デバイス。
【請求項18】
高透磁率磁性材料からなる板状部と、該板状部の片面に突設した少なくとも3本以上の半硬質磁性材料からなる柱状部とを有する磁気ヨークと、各柱状部に巻装したコイルと、各柱状部の先端部分で囲まれた開磁路領域に配置した磁気光学素子とを具備し、該磁気光学素子にコイルにより生じる磁界が印加されるようにしたことを特徴とする磁気光学デバイス。
【請求項19】
偏光子、磁気光学デバイスおよび検光子をその順序で配列し、入射光に対する出射光の減衰量を制御する自己保持型可変光アッテネータであって、
磁気光学デバイスは、半硬質磁性材料からなる板状部と、該板状部の片面に突設した少なくとも3本以上の高透磁率磁性材料からなる柱状部とを有する磁気ヨークと、各柱状部に巻装したコイルと、各柱状部の先端部分で囲まれた開磁路領域に配置した磁気光学素子とを具備し、該磁気光学素子にコイルにより生じる磁界が印加されるようにした磁気光学デバイスであることを特徴とする自己保持型可変光アッテネータ。
【請求項20】
磁気光学デバイス、偏光子、検光子及び波長板により構成され、磁気光学デバイスにより光の分岐比率を制御する自己保持型可変光分岐器であって、
磁気光学デバイスは、半硬質磁性材料からなる板状部と、該板状部の片面に突設した少なくとも3本以上の高透磁率磁性材料からなる柱状部とを有する磁気ヨークと、各柱状部に巻装したコイルと、各柱状部の先端部分で囲まれた開磁路領域に配置した磁気光学素子とを具備し、該磁気光学素子にコイルにより生じる磁界が印加されるようにした磁気光学デバイスであることを特徴とする自己保持型可変光分岐器。
【請求項21】
半硬質磁性材料からなるブロック状のベース部と、該ベース部から延びて先端部が開磁路領域となる空間近傍にまで至る少なくとも4本以上の高透磁率磁性材料からなる柱状部とを有する磁気ヨークと、各柱状部に巻装したコイルと、各柱状部の先端部分で囲まれた開磁路領域に配置した磁気光学素子とを具備し、該磁気光学素子にコイルにより生じる磁界が3方向以上から印加されるようにしたことを特徴とする磁気光学デバイス。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【図7A】
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【図7B】
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【図8】
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【図9A】
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【図9B】
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【図10A】
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【図10B】
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【図11A】
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【図11B】
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【図11C】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15A】
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【図15B】
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【図15C】
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【図16A】
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【図16B】
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【図16C】
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【図17A】
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【図17B】
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【図18】
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【図19A】
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【図19B】
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【図20】
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【図21A】
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【図21B】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25A】
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【図25B】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【国際公開番号】WO2005/022243
【国際公開日】平成17年3月10日(2005.3.10)
【発行日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−513456(P2005−513456)
【国際出願番号】PCT/JP2004/012279
【国際出願日】平成16年8月26日(2004.8.26)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 
【出願人】(000237721)FDK株式会社 (449)
【Fターム(参考)】