説明

磁気共鳴イメージングにおける造影剤としての使用のための長いスピン緩和時間を有する過分極化された固形物

核磁気共鳴イメージングで使用する造影剤が開示される。造影剤は第1物質および第2物質を含む。第1物質は、分極帯磁方向を提供する非ゼロ核スピンを有する少なくとも1つの原子を含む。第2物質は第1物質に結合され、少なくとも1つの原子と他の原子および分子との間の物理的接触を阻止することによって、少なくとも1つの原子の分極帯磁方向のスピン緩和を抑制する。第1物質は、29Si、13C、19F、31P、129XeおよびHeのうちの少なくとも1つを含む。造影剤は粉末として固体で提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(優先権)
本出願は、米国仮特許出願第60/721,292(2005年9月28日出願)に対する優先権を主張する。
【0002】
本発明は一般に核磁気共鳴法(NMR)の分野に関し、特に磁気共鳴イメージング(MRI)に関する。
【背景技術】
【0003】
MRIシステムは一般に、印加された外部磁場における原子核の磁気モーメントの歳差運動を検出することによって、被写体内の部位の画像診断を提供する。造影を可能にする空間的選択性は、印加された無線周波数(rf)振動磁場の周波数を準静磁場における原子核の歳差運動周波数に一致させることによって得られる。制御された勾配を準静印加磁場に導入することによって、被写体の特定スライスを選択的に共鳴させることができる。複数方向のこれらの勾配を制御すると同様に、rf共鳴磁場のパルス印加を制御する種々の方法によって、核歳差運動の種々の特性を表す3次元画像を検知し、原子核の密度、それらの環境、および緩和プロセスに関する情報を提供することができる。印加された準静磁場の大きさおよびrf周波数を適切に選択することによって、異なる原子核を造影できる。一般に、MRIの医療用途において、例えばプロトンなどの水素原子核が造影される。当然のことながら、可能性はこれだけではない。着目原子核を囲む環境に関する情報は、緩和プロセスを監視することによって得られる。それによって、原子核の歳差運動は、先端パルスに続いて準静磁場と一致するように戻る核モーメント方向の緩和(タイムスケールT1)、または印加されたrf周波数に対して、比較的高速の歳差運動を生じさせる環境効果による歳差運動の離調(タイムスケールT2)によって減衰される。
【0004】
ガドリニウム化合物に基づく造影剤など従来のMRI造影剤は、プロトンのT1またはT2緩和プロセスを局所的に変えることによって作用する。一般に、これはプロトンの局所磁場環境を変える造影剤の磁場特性に依存する。この場合、画像がこれらの緩和時間のいずれかを被写体における位置の関数として表示する場合、造影剤の位置は画像の上部に現れ、診断情報を提供する。
【0005】
MRI画像化の代替アプローチは、造影剤を被写体に導入することであり、その原子核自体が上述の技術によって造影される。つまり、体内のプロトンの局所環境に影響してプロトン画像にコントラストを提供するのではなく、造影剤自体が造影される。そのような造影剤は、He、129Xe、31P、29Si、13Cなどの非ゼロ核スピンを有する物質を含む。これらの物質における原子核は、種々の方法(相当量の印加磁場を任意で含むか、または室温および低温で使用すること)によって分極化し、体内への導入に先立って、造影剤中で相当の割合を占める原子核を配向して(過分極化)、分極物質を体内に導入する。一旦体内に入ると、造影剤の高度分極化によって強力な画像信号が得られる。また造影剤は体内でプロトンを励起しない共鳴周波数を有するため、体からの小さなバックグラウンド信号のみが存在する。例えば、特許文献1は、MRIに対する過分極化貴ガスの使用について開示している。
【0006】
過分極MRIに対して提案されている造影剤の多くは緩和(T1)時間が短いため、物質を過分極化装置から体内に素早く移行し、体内に導入した後、速やかに(多くの場合、タイムスケール数10秒で)撮像する必要がある。いくつかの用途では、より長いT1時間を有する造影剤を使用することが望ましい。例えば、特許文献2は、数分(最長16分(1000秒))のT1時間を提供する過分極化ガスを使用して、磁気共鳴映像を提供する方法を開示している。ガスと比較して、固体または液体材料は、一般にその過分極を急速に失う。そのため過分極化物質は、一般にガスとして使用される。しかしながら、過分極化されたガスであっても、その帯磁方向を失わないよう保護することは、特定の用途において困難である。例えば、特許文献3は、接触誘発スピン緩和を最小限に抑えながらHeおよび129Xeを収集および輸送するための専用容器の使用について開示している。特許文献4は、体内に導入される129XeおよびHeの超微粒気泡の提供について開示している。T1時間を増加させる目的で、ガスは超微粒気泡で提供される。しかし、そのようなガスの緩和時間は依然として制限される。
【0007】
特許文献5は、濃縮水素を使用するホスト分子中に含まれる13C、15N、29Si、19F、Li、H、および31Pなどの非ゼロ核スピン原子を使用するパラ水素標識造影剤の使用について開示している。そこで水素化された造影剤は、MRI用液体または溶剤において水溶性の形態で採用され、好ましくは約1000秒以上のT1時間を有することが開示されている。
【0008】
特許文献6は、19F、13C、15N、29Si、31P、129XeおよびHeなどの非ゼロ核スピン原子を含む微粒子造影剤の使用について開示している。微粒子組成は被写体の生理的状態に応答し、コントラスト特性を変えることによってより良い映像を提供することが開示されている。生理的状態に対する応答は、被写体の粘度または化学組成を融解または変更することを含むと開示されている。しかしながら、スピン緩和時間は一般に1秒未満である。
【0009】
そのため、核磁気共鳴イメージング中の緩和時間の設定において優れた柔軟性を提供する造影剤が必要となる。
【特許文献1】米国特許第5,545,396号明細書
【特許文献2】米国特許第6,453,188号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2003/0009126号明細書
【特許文献4】米国特許第6,488,910号明細書
【特許文献5】米国特許出願公開第2004/0024307号明細書
【特許文献6】米国特許出願公開第2005/0136002号明細書
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の実施形態に従って、第1物質および第2物質を含む核磁気共鳴イメージングで使用する造影剤が提供される。第1物質は、非ゼロ核スピンを有する少なくとも1つの原子を含む。第2物質は第1物質に結合され、第1物質を環境から保護し、第1物質の長い核スピン緩和を可能にすることによって、第1物質の少なくとも1つの原子を長い緩和時間で過分極化する。
【0011】
種々の実施形態に従って、第1物質は、29Si、13C、19F、31P、129XeおよびHeのうちの少なくとも1つを含む。造影剤は粉末として固体で提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下の説明は、添付の図面を参照してさらに理解される。
【0013】
これらの図面は説明の目的で示され、正確な縮尺ではない。
【0014】
出願人は、液体および固体は一般に短い緩和時間を有するが、極めて長いT1時間をもたらす特定の固形物を製造できること、およびこれらの物質は優れた過分極造影剤となり得ることを発見した。出願人は、ホスト物質が核スピンを有さず、非ゼロ核スピンを有する不純物または添加物を含む材料を使用して、長いT1を有する過分極MRI用造影剤を形成できること発見した。例えば、自然発生的なSiまたはCは、それぞれゼロ核原子である28Siおよび12Cで主に構成されるが、同時に核スピン1/2を有する29Siおよび13Cをそれぞれ含む。ゼロ核スピンホスト中の非ゼロスピン構成要素の濃度は、種々の方法を用いて数%から80‐90%までの範囲で制御できる。また、非ゼロスピン物質は、ホスト中の添加材料、例えばSi中の31Pであってもよい。別の実施形態において、12Cにおける13Cの自然濃度または人工濃度がそのようなシステムを構成する。他の実施形態は、シリカまたは石英中に29Siを含む。
【0015】
これらの固形物に含まれる非ゼロ核構成要素の緩和時間(T1)は、ガスなどの他の過分極化された造影剤に比べて著しく長く、T1時間は室温で少なくとも30分から1時間、さらには4時間以上であることが分かった。固形物は粉末として提供してもよく、粉末は液体に懸濁できる。粉末のサイズは、直径数ナノメータのナノ粒子から直径数ミクロン以上の粒子であってもよい。これらの材料は生体適合性を有すると考えられるが、粉末のサイズは生物系との適合性について慎重に考慮する必要がある。
【0016】
図1の10に示されるように、分子は28Siまたは12Cなどのゼロスピン物質の原子、あるいは28SiOなどの化合物に囲まれた29Si、13C、31P、129XeまたはHeなどの非ゼロスピン物質の中心原子を含んでもよい。図2の12に示されるように、本発明の別の実施形態に基づく分子は、ゼロスピン物質に囲まれた非ゼロスピン物質を含んでもよい。分子14は、図3に示されるように、ゼロスピン原子16および非ゼロスピン原子18を含む。分子14が回転(例えば90度)すると、非ゼロスピン原子18の帯磁方向は、図4に示されるように同一方向を保つ。
【0017】
特定の結晶構造、例えばSiまたはC(ダイアモンド)において自然発生的に見られる結晶構造などの場合、非ゼロスピン構成要素の電子環境は等方性であり、電子の原子核への結合が弱いと好ましい配向性を有さないようになっている。これは、非ゼロスピン構成要素の核磁気モーメントの方向が材料の結晶軸、または材料の粒子にロックされないことを意味する。結果として、個別の粒子が混濁したとしても核磁気モーメントはその過分極方向を保持する。
【0018】
別の実施形態において、固体造影剤粉末(ナノ粒子)の表面上に結合剤を含み、特異性を有する特定の生体物質と結合してもよい。例えば、好ましくは特定の癌細胞に接着する物質を用いてナノ粒子造影剤をコーティングすることによって、体内におけるこれら細胞の位置をMRIによって造影できる。シリコン、ダイアモンド、またはシリカといった固形物のナノ粒子を表面上で官能化させて、長いT1時間を維持しながら種々の特定タンパク質、細胞、または器官に付着するようにしてもよい。これによって、特定の生物表面またはプロセスが過分極化材料によって標識される。
【0019】
種々の技術を使用して、材料の過分極を行った後、生物系または医療患者に導入してもよい。これらは、光動力学的核分極、種々のオーバーハウザー技術(固体効果、熱硬化)および永久磁石で生成された磁場を含む高磁場および/または低温での分極を含むが、それらに限定されない。
【0020】
長い(最大数時間)T1時間を有する過分極粉末の種々の潜在用途は、血管造影または血液脳関門における破裂を検査するための血流へのボーラス注入、例えば過分極化仮想結腸内視鏡および関連する診断を可能にする体管腔(口腔、鼻腔、消化管、食道、大腸、膣)への過分極物質の配置、および過分極化された吸入抗原(エアロゾル中10‐100nm粒子)を使用する肺造影を含む。
【0021】
当業者であれば、本発明の精神および範囲から逸脱することなく、上述の実施形態に多くの修正および変形を行ってもよいことが理解される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1は、本発明の実施形態に基づく造影剤の分子の例示的な図を示す。
【図2】図2は、本発明の別の実施形態に基づく造影剤の分子の例示的な図を示す。
【図3】図3は、本発明の別の実施形態に基づく造影剤の粒子の例示的な図を示す。
【図4】図4は、図3に示される粒子を90度回転させた例示的な図を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分極帯磁方向を提供する非ゼロ核を有する少なくとも1つの原子を含む第1物質と、
該第1物質に結合され、少なくとも1つの原子と他の原子や分子との間の物理的接触を阻止することによって該少なくとも1つの原子の分極帯磁方向のスピン緩和を抑制する第2物質と
を含む、核磁気共鳴イメージングで使用するための造影剤。
【請求項2】
前記第1物質および前記第2物質は分子を形成する、請求項1に記載の造影剤。
【請求項3】
前記第1物質および前記第2物質は、約10nm〜約10μmの粒子を形成する、請求項1に記載の造影剤。
【請求項4】
前記第1物質は、29Si、19F、13C、31P、129XeおよびHeのうちの少なくとも1つを含む、請求項1に記載の造影剤。
【請求項5】
前記造影剤は固体として使用される、請求項1に記載の造影剤。
【請求項6】
前記造影剤は粉末として提供される、請求項1に記載の造影剤。
【請求項7】
前記造影剤は、28Siまたは石英などのSiの酸化物のホスト中に29Siを含む、請求項1に記載の造影剤。
【請求項8】
前記造影剤は12Cのホスト中に13Cを含む、請求項1に記載の造影剤。
【請求項9】
前記造影剤は、少なくとも1時間のスピン緩和(T1)時間を提供する、請求項1に記載の造影剤。
【請求項10】
前記第1物質は過分極化される、請求項1に記載の造影剤。
【請求項11】
非ゼロ核または電子スピンを有する少なくとも1つの原子を含む過分極第1物質と、
該第1物質に結合され、該第1物質を囲むことによって該過分極第1物質と他の材料との間の物理的接触を阻止し、それによって該過分極第1物質のスピン緩和を抑制する第2物質と
を含む、核磁気共鳴イメージングで使用するための造影剤。
【請求項12】
前記第1物質および前記第2物質は分子を形成する、請求項11に記載の造影剤。
【請求項13】
前記第1物質および前記第2物質は、約10nm〜約10μmの粒子を形成する、請求項11に記載の造影剤。
【請求項14】
前記第1物質は、29Si、13C、19F、31P、129XeおよびHeのうちの少なくとも1つを含む、請求項11に記載の造影剤。
【請求項15】
前記造影剤は固体として使用される、請求項11に記載の造影剤。
【請求項16】
前記造影剤は粉末として提供される、請求項11に記載の造影剤。
【請求項17】
前記造影剤は、28Siのホスト中に29Siの不純物を含む、請求項11に記載の造影剤。
【請求項18】
前記造影剤は、12Cのホスト中に13Cの不純物を含む、請求項11に記載の造影剤。
【請求項19】
前記造影剤は、少なくとも1時間のスピン緩和(T1)時間を提供する、請求項1に記載の造影剤。
【請求項20】
複数の分子を含む、核磁気共鳴イメージングで使用するための造影剤であって、
該複数の分子の各分子は、
非ゼロ核または電子スピンを有する少なくとも1つの原子とともに29Si、13C、19F、31P、129XeおよびHeのうちの少なくとも1つの過分極化された第1物質と、
該第1物質に結合され、該第1物質を囲むことによって該過分極化された第1物質と他の材料との間の物理的接触を阻止し、それによって該過分極化された第1物質のスピン緩和を抑制する第2物質とを含む、
造影剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2009−510081(P2009−510081A)
【公表日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−533582(P2008−533582)
【出願日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際出願番号】PCT/US2006/037725
【国際公開番号】WO2007/038626
【国際公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【出願人】(504000410)プレジデント アンド フェローズ オブ ハーバード カレッジ (10)
【Fターム(参考)】