説明

磁気共鳴イメージング装置及びT2マップ取得方法

【課題】 SARを低減しつつ、T2マップを精度よく求めることが可能なMRI装置及びT2マップ取得方法を提供する。
【解決手段】 CPMG法に基づくマルチSEシーケンスの複数の再収束RFパルスの内の少なくとも一つのフリップ角を180°未満として複数のエコー信号を計測し、複数のエコー信号の内から偶数番目に計測されたエコー信号のみを用いてT2マップを取得する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検体中の水素や燐等からの核磁気共鳴(以下、「NMR」という)信号を測定し、核の密度分布や緩和時間分布等を画像化する核磁気共鳴イメージング(以下、「MRI」という)装置に関し、特に比吸収率(SAR:Specific Absorption Rate)を低減して、T2マップを求める技術に関する。
【背景技術】
【0002】
MRI装置は、被検体、特に人体の組織を構成する原子核スピンが発生するNMR信号を計測し、その頭部、腹部、四肢等の形態や機能を2次元的に或いは3次元的に画像化する装置である。撮像においては、NMR信号には、傾斜磁場によって異なる位相エンコードが付与されるとともに周波数エンコードされて、時系列データとして計測される。計測されたNMR信号は、2次元又は3次元フーリエ変換されることにより画像に再構成される。
【0003】
近年、上記MRI装置において、被検体組織のT2値を求め、求めたT2値に応じて色付けして画像(T2マップ)化するカラーマッピング(以下、T2マッピング)技術が、関節軟骨評価に使用されている(例えば、非特許文献1)。T2マッピングを行う際のT2値の算出に用いるエコー信号の計測には、CPMG(Carr-Purcell-Meiboom-Gill)法に基づく高速スピンエコー(FSE)シーケンスを基本構成とするマルチスピンエコー計測シーケンス(以下、マルチSEシーケンスという)が用いられている。
【0004】
FSEシーケンスは、短い繰り返し時間(TR)で複数のエコー信号を計測する高速撮像用のパルスシーケンスである。具体的には、被検体の原子核スピンを90°励起のための高周波磁場(以下、RF)パルスの後に、励起された原子核スピンを180°反転させて、該原子核スピンの位相を再収束させるための再収束RFパルスが計測するエコー信号数だけ被検体に印加される。また、各エコー信号は、そのエコー番号に応じて異なる位相エンコード量が付与されて計測される。
【0005】
このFSEシーケンスの基礎となるCPMG法は、90°励起するRFパルスと180°反転するRFパルスの位相(印加軸)を90°変えるパルス系列である。そのため、奇数番目のエコー信号はRFパルスの不完全性の影響を受けるが、偶数番目のエコー信号はこの影響を受けない。なおCPMG法のパルス列については、例えば、特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許4818940号公報
【特許文献2】特許第2570957号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】ジャーナル オブ マグネティック レゾナンス 第28巻 第175頁〜180頁2008年発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
MRI装置では、磁場強度と比例してNMR周波数が高くなる。これに伴いSAR(Specific Absorption Rate;比吸収率)と呼ばれる人体へのRF電力吸収が増大するため、それに対する対策が課題になっている。SARとは、被検体(人体)が電磁波にさらされることによって単位質量の組織に単位時間に吸収されるエネルギー量を意味し、MRI装置においては、RFパルスの励起角度(フリップ角)の2乗の時間積分値に比例する。
【0009】
上述したとおり、T2値の算出に用いるエコー信号を計測するパルスシーケンスとして、マルチSEシーケンスを用いる場合、励起RFパルスの後に、複数の再収束RFパルスが印加されるため、SARが増大する可能性がある。特にマルチSEシーケンスにおいては、複数の再収束RFパルスがSARに大きく寄与することになる。
【0010】
マルチSEシーケンスにおいてSARを低減するためには、例えば、再収束RFパルスのフリップ角を小さくすることが考えられる。しかし、再収束RFパルスを180°以外の不完全なフリップ角とすると、上述したとおり、奇数番目のエコー信号はRFパルスの不完全性の影響を受けてしまい、このような奇数番目のエコー信号からT2値を精度良く求めることが困難となる。
【0011】
そこで、本発明は、上記課題を鑑みて成されたものであり、SARを低減しつつ、T2マップを精度よく求めることが可能なMRI装置及びT2マップ取得方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明は、CPMG法に基づくFSEシーケンスの複数の再収束RFパルスの内の少なくとも一つのフリップ角を180°未満として複数のエコー信号を計測し、複数のエコー信号の内から偶数番目に計測されたエコー信号のみを用いてT2マップを取得する。
【0013】
具体的には、本発明のMRI装置は、CPMG法に基づいて複数の再収束RFパルスを被検体に印加するマルチSEシーケンスを用いて、該被検体から複数のエコー信号の計測を制御する計測制御部と、複数のエコー信号を用いて被検体のT2マップを取得する演算処理部と、を備え、複数の再収束RFパルスの内の少なくとも一つのフリップ角は180°未満であり、演算処理部は、複数のエコー信号の内から偶数番目に計測されたエコー信号のみを用いてT2マップを取得することを特徴とする。
【0014】
また、本発明のT2マップ取得方法は、複数の再収束RFパルスの内の少なくとも一つのフリップ角を180°未満にしたマルチSEシーケンスを用いて、被検体から複数のエコー信号を計測するステップと、複数のエコー信号の内から偶数番目に計測されたエコー信号のみを用いてT2マップを取得するステップと、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明のMRI装置及びT2マップ取得方法によれば、SARを低減しつつ、T2マップを精度よく求めることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係るMRI装置の全体基本構成を示すブロック図
【図2】実施例1に係るCPMG法に基づくマルチSEシーケンスを用いたマルチエコー計測を示すシーケンスチャート
【図3】実施例1に係る処理フローを示すフローチャート
【図4】実施例2に係るCPMG法に基づくマルチSEシーケンスを用いたマルチエコー計測を示すシーケンスチャート
【図5】実施例3に係るCPMG法に基づくマルチSEシーケンスを用いたマルチエコー計測を示すシーケンスチャート
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面に従って本発明のMRI装置の好ましい実施例について詳説する。なお、発明の実施例を説明するための全図において、同一機能を有するものは同一符号を付け、その繰り返しの説明は省略する。
【0018】
最初に、本発明に係るMRI装置を図1に基づいて説明する。図1は、本発明に係るMRI装置の一実施例の全体構成を示すブロック図である。
【0019】
このMRI装置は、NMR現象を利用して被検体101の断層画像を得るもので、図1に示すように、静磁場発生磁石102と、傾斜磁場コイル103及び傾斜磁場電源109と、RF送信コイル104及びRF送信部110と、RF受信コイル105及び信号検出部106と、信号処理部107と、計測制御部111と、全体制御部108と、表示・操作部113と、被検体101を搭載する天板を静磁場発生磁石102の内部に出し入れするベッド112と、を備えて構成される。
【0020】
静磁場発生磁石102は、垂直磁場方式であれば被検体101の体軸と直交する方向に、水平磁場方式であれば体軸方向に、それぞれ均一な静磁場を発生させるもので、被検体101の周りに永久磁石方式、常電導方式あるいは超電導方式の静磁場発生源が配置されている。
【0021】
傾斜磁場コイル103は、MRI装置の実空間座標系(静止座標系)であるX、Y、Zの3軸方向に巻かれたコイルであり、それぞれの傾斜磁場コイルは、それを駆動する傾斜磁場電源109に接続され電流が供給される。具体的には、各傾斜磁場コイルの傾斜磁場電源109は、それぞれ後述の計測制御部111からの命令に従って駆動されて、それぞれの傾斜磁場コイルに電流を供給する。これにより、X、Y、Zの3軸方向に傾斜磁場Gx、Gy、Gzが発生する。
【0022】
2次元スライス面の撮像時には、スライス面(撮像断面)に直交する方向にスライス傾斜磁場パルス(Gs)が印加されて被検体101に対するスライス面が設定され、そのスライス面に直交して且つ互いに直交する残りの2つの方向に位相エンコード傾斜磁場パルス(Gp)と周波数エンコード(リードアウト)傾斜磁場パルス(Gf)が印加されて、NMR信号(エコー信号)にそれぞれの方向の位置情報がエンコードされる。
【0023】
RF送信コイル104は、被検体101にRFパルスを照射するコイルであり、RF送信部110に接続され高周波パルス電流が供給される。これにより、被検体101の生体組織を構成する原子のスピンにNMR現象が誘起される。具体的には、RF送信部110が、後述の計測制御部111からの命令に従って駆動されて、高周波パルスが振幅変調され、増幅された後に被検体101に近接して配置されたRF送信コイル104に供給されることにより、RFパルスが被検体101に照射される。
【0024】
RF受信コイル105は、被検体101の生体組織を構成するスピンのNMR現象により放出されるエコー信号を受信するコイルであり、信号検出部106に接続されて受信したエコー信号が信号検出部106に送られる。
【0025】
信号検出部106は、RF受信コイル105で受信されたエコー信号の検出処理を行う。具体的には、RF送信コイル104から照射されたRFパルスによって誘起された被検体101の応答のエコー信号が被検体101に近接して配置されたRF受信コイル105で受信され、後述の計測制御部111からの命令に従って、信号検出部106が、受信されたエコー信号を増幅し、直交位相検波により直交する二系統の信号に分割し、それぞれを所定数(例えば128、256、512等)サンプリングし、各サンプリング信号をA/D変換してディジタル量に変換し、後述の信号処理部107に送る。 従って、エコー信号は所定数のサンプリングデータからなる時系列のデジタルデータ(以下、エコーデータという)として得られる。
【0026】
信号処理部107は、エコーデータに対して各種処理を行い、処理したエコーデータを計測制御部111に送る。
【0027】
計測制御部111は、被検体101の断層画像の再構成に必要なエコーデータ収集のための種々の命令を、主に、傾斜磁場電源109と、RF送信部110と、信号検出部106に送信してこれらを制御する制御部である。具体的には、計測制御部111は、後述する全体制御部108の制御で動作し、ある所定のパルスシーケンスに基づいて、傾斜磁場電源109、RF送信部110及び信号検出部106を制御して、被検体101へのRFパルスの照射及び傾斜磁場パルスの印加と、被検体101からのエコー信号の検出と、を繰り返し実行し、被検体101の撮像領域についての画像の再構成に必要なエコーデータの収集を制御する。繰り返しの際には、2次元撮像の場合には位相エンコード傾斜磁場の印加量を、3次元撮像の場合には更にスライスエンコード傾斜磁場の印加量も、変えて行なう。位相エンコードの数は通常1枚の画像あたり128、256、512等の値が選ばれ、スライスエンコードの数は、通常16,32,64等の値が選ばれる。これらの制御により信号処理部107からのエコーデータを全体制御部108に出力する。
【0028】
全体制御部108は、計測制御部111の制御、及び、各種データ処理と処理結果の表示及び保存等の制御を行うものであって、CPU及びメモリを内部に有する演算処理部114と、光ディスク、磁気ディスク等の記憶部115とを有して成る。具体的には、計測制御部111を制御してエコーデータの収集を実行させ、計測制御部111からのエコーデータが入力されると、演算処理部114がそのエコーデータに印加されたエンコード情報に基づいて、メモリ内のK空間に相当する領域に記憶させる。以下、エコーデータをk空間に配置する旨の記載は、エコーデータをメモリ内のK空間に相当する領域に記憶させることを意味する。また、メモリ内のK空間に相当する領域に記憶されたエコーデータ群をK空間データともいう。そして演算処理部114は、このK空間データに対して信号処理やフーリエ変換による画像再構成等の処理を実行し、その結果である被検体101の画像を、後述の表示・操作部113に表示させると共に記憶部115に記録させる。
【0029】
表示・操作部113は、再構成された被検体101の画像を表示する表示部と、MRI装置の各種制御情報や上記全体制御部108で行う処理の制御情報を入力するトラックボール又はマウス及びキーボード等の操作部と、から成る。この操作部は表示部に近接して配置され、操作者が表示部を見ながら操作部を介してインタラクティブにMRI装置の各種処理を制御する。
【0030】
現在MRI装置の撮像対象核種は、臨床で普及しているものとしては、被検体の主たる構成物質である水素原子核(プロトン)である。プロトン密度の空間分布や、励起状態の緩和時間の空間分布に関する情報を画像化することで、人体頭部、腹部、四肢等の形態または、機能を2次元もしくは3次元的に撮像する。
【実施例1】
【0031】
次に、本発明のMRI装置及びT2マップ取得方法の実施例1を説明する。本実施例は、マルチSEシーケンスにおいて、再収束RFパルスのフリップ角を180°未満とし、偶数番目に計測されたエコー信号を用いてT2値及びT2マップを計算する。以下、図2に基づいて本実施例を説明する。
【0032】
図2は、本実施例のCPMG法に基づくFSEシーケンスを基本構成とするマルチSEシーケンスを表すシーケンスチャートである。RF、Gs、Gp、Gf、Signalは、それぞれRFパルス、スライス選択傾斜磁場、位相エンコード傾斜磁場、周波数エンコード傾斜磁場の各印加タイミングとエコー信号の計測タイミングを示す。計測制御部111は、図2に示すシーケンスチャートに基づいて、エコー信号の計測を制御する。具体的には、計測制御部111は以下の制御を行なう。即ち、所定の断面を選択する最初のスライス選択傾斜磁場200と同時に90°励起RFパルス201を印加し、その断面内の原子核スピンを励起する。また、位相エンコード傾斜磁場203を印加する。その後、スライス選択傾斜磁場200’と180°未満のα°(たとえば140°)再収束RFパルス202とを印加時間間隔τで順次に印加し、エコー信号をそれぞれ発生させる。これらのエコー信号の発生毎に周波数エンコード傾斜磁場204を印加してエコー信号を計測する。周波数エンコード方向の傾斜磁場に関しては、エコー信号の発生に先立ってディフェイズ傾斜磁場204’が印加される。なお、図2は6個のエコー信号を計測する例を示すが、本実施例のマルチSEシーケンスは6個に限らず5個以下又は7個以上でも良い。
【0033】
また、図示する本実施例のマルチSEシーケンスはCPMG法に基づくFSEシーケンスを基本構成とするので、90°励起RFパルス201の印加軸x’に対し、α°再収束RFパルス202の印加軸y’は直交し、α°再収束RFパルスの印加時間間隔(τ)は、90°励起パルスと最初のα°反転パルスとの時間間隔の2倍になるように設定される。計測制御部111は、このようなCPMG法に基づいて複数のスピンエコーを計測するマルチSEシーケンスを、繰り返し時間TR内に複数スライス分をスライス毎に繰り返し実行し、即ちマルチスライス撮像で実行し、スライス毎に画像再構成に必要な数のエコー信号の計測を制御する。
【0034】
このように、本実施例のマルチSEシーケンスは、再収束RFパルスとして、原子核スピンを180°反転する180°反転RFパルスではなく、フリップ角が180°未満のα°再収束RFパルスを用いるので、SARを低減することが可能になる。SAR低減の程度は、フリップ角に依存し、フリップ角が小さい程SARを低減できるが、得られる信号強度及びT2値を求める精度に応じてフリップ角α°を決めればよい。
【0035】
なお、再収束パルス202のフリップ角を小さくすれば、再収束パルス202の印加時間を短くできるので、スライス選択傾斜磁場200’の印加時間も短くすることができる。スライス選択傾斜磁場200’の印加時間を短くすれば、周波数方向の傾斜磁場204の印加時間に余裕ができ、受信バンド幅を小さくすることができるので、S/Nを向上することもできる。
【0036】
前述したように、CPMG法では、奇数番目のエコー信号(以下、奇エコー信号)はRFパルスの不完全性の影響を受けるが、偶数番目のエコー信号(以下、偶エコー信号)はRFパルスの不完全性の影響を受けない。また、再収束RFパルスのフリップ角が180°でなくとも偶エコー信号では位相が再収束する。このため、偶エコー信号205、206、207を用いて、好ましくはこれらの偶エコー信号のみを用いて、これらの信号強度の時間変化に基づいて、撮像組織のT2値及びT2マップを求めることが可能になる。つまり、リップ角が180°未満の再収束RFパルスを用いてSARを低減しつつ、T2値及びT2マップを精度よく求めることができる。
【0037】
T2値及びT2マップを求める処理の概要は次の通りである。即ち、各偶エコー信号のデータをそれぞれ異なるk空間に配置する。つまり、同じエコー時間(90°励起RFパルス201からエコー信号のピーク位置までの時間)のエコーデータを同じk空間に配置して、エコー時間毎のk空間データを作成する。そして、エコー時間毎のk空間データをそれぞれフーリエ変換して、エコー時間毎の画像を得る。最後に、エコー時間毎の画像から同じ画素位置の画像値をそれぞれ取得し、これらの画像値の時間変化から、その画素位置の組織のT2値を求める。この処理を全画素で行い、T2値をその画素位置にマッピングすることでT2マップを取得する。T2値を算出する方法については、例えば特許文献2に記載されており、この計算方法を用いることができるので、詳細な説明は省略する。
【0038】
次に、本実施例のT2マップ作成の処理フローを図3に示すフローチャートに基づいて説明する。
ステップ301で、操作者は上述のマルチSEシーケンスの撮像条件(TR,TE,フリップ角、FOV、スライス厚、スライス枚数等)を表示・操作部113を介して設定し、撮像を起動する。演算処理部114は、設定入力された撮像条件に基づいて、マルチSEシーケンスの各パルスの振幅や印加タイミング等のパラメータ値を具体的に決定して、これらのパラメータ値を計測制御部111に通知すると共に、撮像の起動を指示する。
【0039】
ステップ302で、計測制御部111は、ステップ301で演算処理部114から通知されたマルチSEシーケンスの各パラメータ値に基づいて、マルチSEシーケンスを実行して撮像を制御し、撮像部位の画像再構成に必要な数のエコー信号を計測し、そのエコーデータを演算処理部114に通知する。
【0040】
ステップ303で、演算処理部114は、ステップ302で計測された複数のエコー信号の内の偶エコー信号のデータ(以下、偶エコーデータという)を選択する。好ましくは、偶エコーデータのみを選択する。なお、偶エコーデータの選択については、演算処理部114が偶エコーデータを自動選択してもよい。或いは、T2値の算出に用いるエコー信号のエコー時間(TE)範囲を操作者が操作部を介して指定できるようにして、演算処理部114が指定されたTE範囲内の偶エコーデータを選択してもよい。
【0041】
ステップ304で、演算処理部114は、ステップ303で選択した偶エコーデータを用いて、好ましくは、偶エコーデータのみを用いて、撮像部位のT2値を計算し、T2マップを取得する。具体的には、同じエコー時間の偶エコーデータを集めてエコー時間毎のk空間データを作成し、各k空間データをフーリエ変換してエコー時間毎の画像を作成し、同じ画素位置の画像値からその画素位置のT2値を算出し、この処理を全画素で行い、T2値をその画素位置にマッピングすることでT2マップを取得する。そして、表示部に取得したT2マップを表示させる。
以上迄が本実施例のT2マップ作成の処理フローの説明である。
【0042】
以上説明したように、本実施例のMRI装置及びT2マップ取得方法は、マルチSEシーケンスにおいて、再収束RFパルスのフリップ角を180°未満とし、RFパルスの不完全性の影響を受けない偶数番目に計測されたエコー信号を用いてT2値を計算する。その結果、180°反転RFパルスを用いる場合と比較してSARを低減しつつT2値を精度良く求めることが可能になり、T2マップを高精度な画像とすることができる。
【実施例2】
【0043】
次に、本発明のMRI装置及びT2マップ取得方法の実施例2を説明する。本実施例は、前述の実施例1と同様に、マルチSEシーケンスの再収束RFパルスのフリップ角を180°未満とする。そして、偶エコー信号のエコー時間(TE)を異ならせた複数のマルチSEシーケンスを用いて、前述の実施例1と比較して、より多くの偶エコー信号を計測し、これらのより多くの偶エコー信号を用いてT2値及びT2マップをさらに高精度に求める。以下、図4に基づいて本実施例を説明する。
【0044】
図4は、本実施例のマルチSEシーケンスの内のRFパルス(RF)とエコー信号(Signal)のみのシーケンスチャートを示す。他のGs,Gp,及びGfについては、それらの印加タイミングが各RFパルスの印加タイミングに対応して変わるのみで形状は図2と同様なので、記載を省略してある。
【0045】
(a)部は、α°(180°未満)再収束RFパルスの印加時間間隔を図2と同じτとした第1のマルチSEシーケンスを示し、(b)部はα°(180°未満)再収束RFパルスの印加時間間隔をτ’(≠τ)とした第2のマルチSEシーケンスを示す。即ち、(b)部のマルチSEシーケンスは、90°励起RFパルス401の後に、時間間隔τ’/2を空けて、印加時間間隔τ’の複数のα°再収束RFパルス402を順次に印加し、偶エコー信号405,406,407を発生させる。α°再収束RFパルスの印加時間間隔を変えることによって、偶エコー信号のエコー時間(即ち計測タイミング)を異ならせることができる。
【0046】
即ち、第1のマルチSEシーケンスと第2のマルチSEシーケンスとで、90°励起RFパルスから各偶エコー信号が計測されるまでの時間間隔、つまり、各偶エコー信号のエコー時間が異なる。従って、第1のマルチSEシーケンスの偶エコー信号と第2のマルチSEシーケンスの偶エコー信号とでは、T2減衰の程度が異なることになり、これらの偶エコーデータを用いてT2値及びT2マップを算出することによって、前述の実施例1の場合と比較して、より高精度にT2値及びT2マップを算出することが可能になる。なお、α°再収束RFパルスの印加時間間隔が異なる3つ以上のマルチSEシーケンスを用いて、それぞれ計測された偶エコーデータを用いれば、更に高精度にT2値及びT2マップを算出することが可能である。α°再収束RFパルスの印加時間間隔が異なるマルチSEシーケンスの数及びマルチSEシーケンス毎のα°再収束RFパルスの印加時間間隔は、予め設定しておいた値を用いても良いし、操作者が設定してもよい。
【0047】
次に、本実施例のT2マップ作成の処理フローを説明する。本実施例の処理フローは、前述の実施例1の処理フローを示す図3のフローチャートと基本的には同じであるが、ステップ301と302の処理内容が異なるので、異なる処理ステップのみ以下に説明する。
【0048】
本実施例のステップ301では、実施例1のステップ301の処理内容に加えて、α°再収束RFパルスの印加時間間隔が異なるマルチSEシーケンスの数、及び、マルチSEシーケンス毎のα°再収束RFパルスの印加時間間隔が設定される。演算処理部114が所定の値を設定しても良いし、操作者が操作部を介してこれらの値を設定しても良い。
【0049】
本実施例のステップ302では、実施例1のステップ302の処理内容に加えて、計測制御部111は、α°再収束RFパルスの印加時間間隔が異なる各マルチSEシーケンスをそれぞれ実行して、マルチSEシーケンス毎にエコー信号の計測を制御する。
以降は、前述の実施例1と同様なので、説明を省略する。
以上迄が本実施例のT2マップ作成の処理フローの説明である。
【0050】
以上説明したように、本実施例のMRI装置及びT2マップ取得方法は、フリップ角が180°未満の再収束RFパルスで、偶エコー信号のエコー時間(TE)を異ならせた、複数のマルチSEシーケンスを用いて、それぞれエコー信号を計測し、これらの偶エコーデータを用いてT2値及びT2マップを計算する。その結果、前述の実施例1と比較して、エコー時間の異なるより多くの偶エコーデータを用いてT2値及びT2マップをより高精度に計算することが可能になる。
【実施例3】
【0051】
次に、本発明のMRI装置及びT2マップ取得方法の実施例3を説明する。本実施例は、前述の実施例1、2のように全ての再収束RFパルスのフリップ角を一定のα°とするのではなく、隣接する奇数再収束RFパルスと偶数再収束RFパルスを一対として同じフリップ角とし、少なくとも一対の再収束RFパルスのフリップ角を180°未満とする。複数対の再収束RFパルスのフリップ角を180°未満としてさらにSARを低減してもよい。その際、二つの対の再収束RFパルスのフリップ角を互いに異ならせても良い。これにより、撮像目的や撮像条件に応じてSARの低減を柔軟に対応させる。以下、図5に基づいて本実施例を説明する。
【0052】
図5は、本実施例のマルチSEシーケンスの内のRFパルス(RF)とエコー信号(Signal)のみのシーケンスチャートを示す。具体的には、90°励起RFパルス501とフリップ角がαn°の複数対の再収束RFパルス(n=1〜3)502を順次に印加し、偶エコー信号505,506,507を発生させる。他のGs,Gp,及びGfについては、それらの印加タイミングが各RFパルスの印加タイミングに対応して変わるのみで形状は図2と同様なので、記載を省略してある。
【0053】
図5のマルチSEシーケンスは、奇数再収束RFパルス502-1と偶数再収束RFパルス502-2を一対としてそのフリップ角をα1°にして偶数エコー信号505を発生させ、次の一対の奇数再収束RFパルス502-3と偶数再収束RFパルス502-4を一対としてそのフリップ角をα2°にして偶数エコー信号506を発生させ、次の奇数再収束RFパルス502-5と偶数再収束RFパルス502-6を一対としてそのフリップ角をα3°にして偶数エコー信号507を発生させる。例えば、α1°〜α3°の何れか1つ以上が180°未満で、他は180°でもよい。或いは、α1°〜α3°の何れか複数が同じ180°未満で、他が異なるフリップ角でもよい。或いは全て180°未満の異なるフリップ角でもよい。
【0054】
このように、本実施例のマルチSEシーケンスにおける再収束RFパルスのフリップ角は全て一定とするものではなく、隣接する奇数再収束RFパルスと偶数再収束RFパルスを一対として同じフリップ角とし、少なくとも一対の再収束RFパルスのフリップ角を180°未満とする。その際、二つの対の再収束RFパルスのフリップ角を互いに異ならせても良い。ただし、各再収束RFパルスの印加軸はCPMG法に基づいて決定され、例えば前述の実施例1と同じにすることができる。このように、各再収束RFパルスのフリップ角を柔軟に制御することにより、撮像目的や撮像条件に応じてSARの低減を柔軟に対応させる。
【0055】
しかし、各再収束RFパルスのフリップ角を一定とせずに異ならせると、その異ならせ方に応じてエコー信号の信号強度が変動し、単純なT2減衰とならない。そこで、予め、T2=∞(無限大)と仮定して、再収束RFパルスのフリップ角を本実施例の様に変化させた場合に計測される各エコー信号の信号強度を、理論計算又はT2の非常に長い部材(例えば純水)を用いて計測したエコー信号に基づいて、エコー時間毎の基準値として求めておく。そして、実際の被検体を本実施例の各対の再収束RFパルスのフリップ角が一定でないマルチSEシーケンスを用いて計測して得た各エコー信号の強度を、同じエコー時間の基準値でそれぞれ割り算して規格化し、規格化された各エコー信号を用いてT2値及びT2マップを算出する。これにより、各対の再収束RFパルスのフリップ角を一定としないことに基づくエコー信号強度の変動をキャンセルして、正しいT2値及びT2マップを算出することができる。
【0056】
次に、本実施例のT2マップ作成の処理フローを説明する。本実施例の処理フローは、前述の実施例1の処理フローを示す図3のフローチャートと基本的には同じであるが、ステップ304の処理が異なるので、異なる処理ステップのみ以下に説明する。
【0057】
本実施例のステップ304では、演算処理部114は、最初に、前述したように、予め取得しておいた基準値を用いて、同じエコー時間の基準値と計測された各エコー信号とで規格化処理を行う。そして、演算処理部114は、規格化された各エコー信号を用いて実施例1のステップ304の処理内容を実施する。
以上迄が本実施例のT2マップ作成の処理フローの説明である。
【0058】
以上説明したように、本実施例のMRI装置及びT2マップ取得方法は、少なくとも一つの対の再収束RFパルスのフリップ角を180°未満とする。或いは、複数対の再収束RFパルスのフリップ角を互いに異ならせる。その結果、撮像目的や撮像条件に応じてSARの低減を柔軟に対応させつつ、T2値及びT2マップを求めることが可能になる。
【符号の説明】
【0059】
101 被検体、102 静磁場発生磁石、103 傾斜磁場コイル、104 送信RFコイル、105 受信RFコイル、106 信号検出部、107 信号処理部、108 全体制御部、109 傾斜磁場電源、110 RF送信部、111 計測制御部、112 ベッド、113 表示・操作部、114 演算処理部、115 記憶部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
CPMG法に基づいて複数の再収束RFパルスを被検体に印加するマルチSEシーケンスを用いて、該被検体から複数のエコー信号の計測を制御する計測制御部と、
前記複数のエコー信号を用いて、前記被検体のT2マップを取得する演算処理部と、
を備えた磁気共鳴イメージング装置であって、
前記計測制御部は、前記複数の再収束RFパルスの内の少なくとも一つのフリップ角を180°未満とし、
前記演算処理部は、前記複数のエコー信号の内から偶数番目に計測されたエコー信号のみを用いて前記T2マップを取得することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項2】
請求項1記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記計測制御部は、全ての前記再収束RFパルスのフリップ角を180°未満の一定とすることを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項3】
請求項1記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記計測制御部は、再収束RFパルス間の時間間隔が異なる複数のマルチSEシーケンスを用いて、それぞれエコー信号の計測を制御し、
前記演算処理部は、各マルチSEシーケンスで偶数番目に計測されたエコー信号を用いて前記T2マップを取得することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項4】
請求項1記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記計測制御部は、隣接する奇数再収束RFパルスと偶数再収束RFパルスを一対として同じフリップ角とし、少なくとも一対の再収束RFパルスのフリップ角を180°未満として、二つの対の再収束RFパルスのフリップ角を互いに異ならせることを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項5】
磁気共鳴イメージング装置が作動して、CPMG法に基づいて複数の再収束RFパルスを被検体に印加するマルチSEシーケンスを用いて、前記被検体のT2マップを取得するT2マップ取得方法であって、
前記複数の再収束RFパルスの内の少なくとも一つのフリップ角を180°未満にしたマルチSEシーケンスを用いて、前記被検体からの複数のエコー信号を計測するステップと、
前記複数のエコー信号の内から偶数番目に計測されたエコー信号のみを用いて前記T2マップを取得するステップと、
を有することを特徴とするT2マップ取得方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2012−10728(P2012−10728A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−147182(P2010−147182)
【出願日】平成22年6月29日(2010.6.29)
【出願人】(000153498)株式会社日立メディコ (1,613)
【Fターム(参考)】