説明

磁気共鳴イメージング装置用ファントム

【課題】試料交換に要する時間を大幅に短縮し、簡単な操作で試料の置き換えを行なうことのできる磁気共鳴イメージング装置用ファントムを提供する。
【解決手段】試料液を滞留させる液溜空間と、該液溜空間に試料液を流通させる試料流路とを備えた。液溜空間は小動物の腎臓とほぼ同じ大きさとし、時間に依存して濃度変化させることができるニトロオキシドラジカル水溶液を流通させる。これにより、試料交換に要する時間を大幅に短縮し簡単な操作で試料の置き換えを行なうことの出来きるファントムを提供できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気共鳴イメージング装置、例えば、電子スピン共鳴(ESR)イメージング装置や核磁気共鳴(NMR)イメージング装置に用いられるファントムに関する。
【背景技術】
【0002】
ESR装置は、静磁場中に置かれた試料に、静磁場の方向と直交する方向に高周波磁界を印加して、試料中に含まれる不対電子による高周波の共鳴吸収を観測する装置である。近年、このESR装置の静磁場に勾配磁場を重畳して、不対電子の空間分布を画像化するESRイメージング装置が開発され、マウス、ラットなどの小動物を生きたままイメージング測定することが可能になった。
【0003】
図1は、ESRイメージング装置の構成を模式的に表わしたものである。高周波発振器1から発振された高周波は、ステップアッテネータ2で適切な電力に減衰された後、サーキュレータ3と高周波線路4とを介して、ループギャップ共振器5に供給される。ループギャップ共振器5は、静磁場コイル6と勾配磁場コイル7から発生した磁場が重畳された磁極間隙に置かれている。
【0004】
ループギャップ共振器5の共振器軸は、静磁場方向(z軸方向)と直交する方向(すなわち、x軸方向)に配置されていて、高周波磁場と静磁場が互いに直交する構成になっている。ループギャップ共振器5内には、麻酔されたマウスやラットなどの実験小動物が、測定対象物8として試料台9上に載置された上で、共振器軸に沿って挿入されている。
【0005】
ループギャップ共振器5に供給された高周波は、移動式のカップラー10によって反射波のない状態に結合を調整されている。もし、測定対象物8がESR現象によって高周波の吸収を引き起こせば、ループギャップ共振器5と高周波線路4との結合がずれてループギャップ共振器5から反射波を生じる。この反射波を、サーキュレータ3を介して取り出し、高周波検出器11に送り、高周波検出器11で検波した結果をデータ処理装置12で画像データに変換している。
【0006】
尚、高周波検出器11に適当なバイアスをかけるため、高周波発振器1から発振された高周波の一部を方向性結合器13によって分岐させ、移相器14で位相を調節した後、再び方向性結合器15で合流させる操作を加えている。
【0007】
【特許文献1】特開2000−166891号公報。
【0008】
【特許文献2】特開2001−104283号公報。
【0009】
【特許文献3】実開昭63−137612号公報。
【0010】
【特許文献4】実開昭62−44248号公報。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところで、従来、ESRイメージング装置の性能チェックには、ファントムが用いられてきた。ファントムは、特許文献1の図13にもあるように、試料として、単一濃度のニトロキシドラジカル水溶液を用いている。そして、試料の濃度を変える場合には、ESRイメージング装置をいったん待機状態にした上で、ファントムをESRイメージング装置から取り出して、人の手で試料を入れ替える作業を行なっていた。そのため、試料を交換する毎に、ESRイメージング装置への再設定を行なわなければならず、時間がかかり、作業も煩雑であった。
【0012】
本発明の目的は、上述した点に鑑み、試料交換に要する時間を大幅に短縮し、簡単な操作で試料の置き換えを行なうことのできる磁気共鳴イメージング装置用ファントムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この目的を達成するため、本発明にかかる磁気共鳴イメージング装置用ファントムは、
試料液を滞留させる液溜空間と、該液溜空間に試料液を流通させる試料流路とを備えたことを特徴としている。
【0014】
また、前記液溜空間は、小動物の腎臓とほぼ同じ大きさを有することを特徴としている。
【0015】
また、前記流通する試料液は、時間に依存して、濃度変化させ得ることを特徴としている。
【0016】
また、前記試料液はニトロキシドラジカル溶液、前記磁気共鳴装置は電子スピン共鳴装置であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る磁気共鳴イメージング装置用ファントムによれば、
試料液を滞留させる液溜空間と、該液溜空間に試料液を流通させる試料流路とを備えたので、
試料交換に要する時間を大幅に短縮し、簡単な操作で試料の置き換えを行なうことのできる磁気共鳴イメージング装置用ファントムを提供することが可能になった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。
【実施例1】
【0019】
図2は、本発明に係るESRイメージング装置用ファントムの一実施例である。ファントムBSは、試料溶液(例えば、ニトロキシドラジカル水溶液)を滞留させる4つの液溜空間s、s、L、Lを備え、sとsとがマウスの腎臓サイズの空間、LとLとがラットの腎臓サイズの空間となっている。
【0020】
液溜空間Lの左側には、試料液を注入する流路A、液溜空間Lの左側には、試料液を注入する流路Aが設けられている。また、液溜空間sの右側には、試料液を注出する流路B、液溜空間sの右側には、試料液を注出する流路Bが設けられている。
【0021】
液溜空間Lと液溜空間sとの間、および、液溜空間Lと液溜空間sとの間は、ともに流路で連通されているので、試料液は、流路A→液溜空間L→液溜空間s→流路B、および、流路A→液溜空間L→液溜空間s→流路Bのように流れることができる。
【0022】
このとき、2つの流系を流れる試料液の濃度を意図的に異ならせておけば、このファントムから、濃淡の異なる2種類の液溜空間、L+sとL+sのESR画像を取得することができる。これにより、ファントム由来のESRシグナルを、ESRイメージング用ソフトウェアの評価に利用することができる。
【0023】
また、ESR画像としてではなく、ESRスペクトロスコピーとして見た場合は、試料濃度を時間に依存して増加または減少させれば、生体中の試料濃度の経時変化に類似した模擬的なデータとして、取り扱うことができる。
【0024】
また、ファントムに手を触れることなく、試料液の濃度をコントロールできるので、試料交換に要する時間を大幅に短縮し、簡単な操作で試料の置き換えを行なうことのできるESRイメージング装置用ファントムを提供することが可能になる。
【0025】
また、ファントムで得られたESRデータと、実験動物で得られたESRデータを比較することにより、実験動物の腎臓に分布するラジカルの量、移動速度、および、代謝速度などを考察することができる。
【0026】
また、試料混合装置を用いて、試料液注入口AまたはA付近で2種類の試料液を混合させるようにすれば、ファントム内で試料が混和するようすを観察することができる。
【0027】
尚、ニトロキシドラジカル水溶液の代わりに、NMR用試料を流通させれば、NMRイメージング装置用のファントムとしても使用できる。
【実施例2】
【0028】
図3は、本発明に係るESRイメージング装置用ファントムの別の実施例である。ファントムBSは、試料溶液(例えば、ニトロキシドラジカル水溶液)を滞留させる4つの液溜空間s、s、L、Lを備え、sとsとがマウスの腎臓サイズの空間、LとLとがラットの腎臓サイズの空間となっている。
【0029】
液溜空間Lの左側には、試料液を注入する流路A、液溜空間Lの左側には、試料液を注入する流路Aが設けられている。また、液溜空間sの右側には、試料液を注出する流路B、液溜空間sの右側には、試料液を注出する流路Bが設けられている。
【0030】
液溜空間Lと液溜空間sとの間、液溜空間Lと液溜空間sとの間、および、流路Bと流路Bとの間は、ともに流路で連通されているので、試料液は、流路A→液溜空間L→液溜空間s→流路B→流路B→液溜空間s→液溜空間L→流路Aのように流れることができる。
【0031】
この場合は、4つの液溜空間s、s、L、Lを流れる試料液の濃度が同一なので、このファントムから、濃淡の等しい4つの液溜空間s、s、L、LのESR画像を取得することができる。これにより、ESR画像を、測定部の静磁場均一性の評価などに利用することができる。
【0032】
また、ESR画像としてではなく、ESRスペクトロスコピーとして見た場合は、試料濃度を時間に依存して増加または減少させれば、生体中の試料濃度の経時変化に類似した模擬的なデータとして、取り扱うことができる。
【0033】
また、ファントムに手を触れることなく、試料液の濃度をコントロールできるので、試料交換に要する時間を大幅に短縮し、簡単な操作で試料の置き換えを行なうことのできるESRイメージング装置用ファントムを提供することが可能になる。
【0034】
また、ファントムで得られたESRデータと、実験動物で得られたESRデータを比較することにより、実験動物の腎臓に分布するラジカルの量、移動速度、および、代謝速度などを考察することができる。
【0035】
また、試料混合装置を用いて、試料液注入口A付近で2種類の試料液を混合させるようにすれば、ファントム内で試料が混和するようすを観察することができる。
【0036】
尚、ニトロキシドラジカル水溶液の代わりに、NMR用試料を流通させれば、NMRイメージング装置用のファントムとしても使用できる。
【実施例3】
【0037】
図4は、本発明に係るESRイメージング装置用ファントムの別の実施例である。ファントムBSは、試料溶液(例えば、ニトロキシドラジカル水溶液)を滞留させる4つの液溜空間s、s、L、Lを備え、sとsとがマウスの腎臓サイズの空間、LとLとがラットの腎臓サイズの空間となっている。
【0038】
液溜空間sの右側には、試料液を注入する流路B、液溜空間sの右側には、試料液を注入する流路Bが設けられている。また、液溜空間Lの左側には、試料液を注出する流路A、液溜空間Lの左側には、試料液を注出する流路Aが設けられている。
【0039】
液溜空間sと液溜空間Lとの間、および、液溜空間sと液溜空間Lとの間は、ともに流路で連通されているので、試料液は、流路B→液溜空間s→液溜空間L→流路A、および、流路B→液溜空間s→液溜空間L→流路Aのように流れることができる。
【0040】
このとき、一方の流系、流路B→液溜空間s→液溜空間L→流路Aの側の、試料液の流れを停止させ、所望の濃度の試料液を流系内に閉じ込める。残ったもう一方の流系、流路B→液溜空間s→液溜空間L→流路Aの側のみ、試料液を流すようにする。
【0041】
そして、前者の流系を標準、あるいは基準のファントムとして取り扱い、後者の流系を流れる試料液の濃度を、時間に依存させて増加または減少させれば、このファントムから、一方の流系をスタンダードにした、濃淡の異なる2種類の液溜空間、L+sとL+sのESR画像を取得することができる。これにより、ファントム由来のESRシグナルを、ESRイメージング用ソフトウェアの評価に利用することができる。
【0042】
また、ESR画像としてではなく、ESRスペクトロスコピーとして見た場合は、試料濃度を時間に依存して増加または減少させれば、生体中の試料濃度の経時変化に類似した模擬的なデータとして、取り扱うことができる。
【0043】
また、ファントムに手を触れることなく、試料液の濃度をコントロールできるので、試料交換に要する時間を大幅に短縮し、簡単な操作で試料の置き換えを行なうことのできるESRイメージング装置用ファントムを提供することが可能になる。
【0044】
また、ファントムで得られたESRデータと、実験動物で得られたESRデータを比較することにより、実験動物の腎臓に分布するラジカルの量、移動速度、および、代謝速度などを考察することができる。
【0045】
また、試料混合装置を用いて、試料液注入口B付近で2種類の試料液を混合させるようにすれば、ファントム内で試料が混和するようすを観察することができる。
【0046】
尚、ニトロキシドラジカル水溶液の代わりに、NMR用試料を流通させれば、NMRイメージング装置用のファントムとしても使用できる。
【産業上の利用可能性】
【0047】
磁気共鳴イメージング装置に、広く利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】従来のESRイメージング装置を示す図である。
【図2】本発明にかかるESRイメージング装置用ファントムの一実施例を示す図である。
【図3】本発明にかかるESRイメージング装置用ファントムの別の実施例を示す図である。
【図4】本発明にかかるESRイメージング装置用ファントムの別の実施例を示す図である。
【符号の説明】
【0049】
1:高周波発振器、2:ステップアッテネータ、3:サーキュレータ、4:高周波線路、5:ループギャップ共振器、6:静磁場コイル、7:勾配磁場コイル、8:測定対象物、9:試料台、10:カップラー、11:高周波検出器、12:データ処理装置、13:方向性結合器、14:移相器、15:方向性結合器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料液を滞留させる液溜空間と、該液溜空間に試料液を流通させる試料流路とを備えたことを特徴とする磁気共鳴イメージング装置用ファントム。
【請求項2】
前記液溜空間は、小動物の腎臓とほぼ同じ大きさを有することを特徴とする請求項1記載の磁気共鳴イメージング装置用ファントム。
【請求項3】
前記流通する試料液は、時間に依存して、濃度変化させ得ることを特徴とする請求項1または2記載の磁気共鳴イメージング装置用ファントム。
【請求項4】
前記試料液はニトロキシドラジカル溶液、前記磁気共鳴装置は電子スピン共鳴装置であることを特徴とする請求項1、2、または、3記載の磁気共鳴イメージング装置用ファントム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−102019(P2006−102019A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−290977(P2004−290977)
【出願日】平成16年10月4日(2004.10.4)
【出願人】(000004271)日本電子株式会社 (811)
【Fターム(参考)】