説明

磁気共鳴イメージング装置

【課題】 結露させずに、傾斜磁場コイルを好適に冷却することが可能なMRI装置を提供する。
【解決手段】 被検体に静磁場および傾斜磁場を与える磁場発生系と、前記被検体の生体組織を構成する原子核に核磁気共鳴を起こさせるための高周波磁場を照射する送信系と、この核磁気共鳴により放出される核磁気共鳴信号を検出する受信系と、前記受信系で検出された核磁気共鳴信号を用いて画像再構成演算を行う信号処理系と、装置全体の動作を制御する中央処理装置とを備えた磁気共鳴イメージング装置であって、
前記磁気共鳴イメージング装置の傾斜磁場電源、傾斜磁場コイル、核磁気共鳴の為の高周波を印可する高周波増幅器、ヘリウム冷凍機等の水冷装置の発熱量を、MRI計測前に予測し、環境温度及び/または湿度を加味した上で、MRI冷却水を設定温度下限まで冷却し、MRI計測終了間際に冷却水設定温度を適温に戻し、水冷却装置の効率運転する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気共鳴イメージング装置(以下、MRI装置という。)に係り、特に、MRI装置各部の冷却技術に関する。
【背景技術】
【0002】
MRI装置は、被検体、特に人体の組織を構成する原子核スピンが発生するNMR信号を計測し、その頭部、腹部、四肢等の形態や機能を2次元的に或いは3次元的に画像化する装置である。撮影においては、NMR信号には、傾斜磁場によって異なる位相エンコードが付与されるとともに周波数エンコードされて、時系列データとして計測される。計測されたNMR信号は、2次元又は3次元フーリエ変換されることにより画像に再構成される。
【0003】
MRI装置では、特に傾斜磁場を発生するための傾斜磁場コイル等が熱を発生させるため、水又は空気循環による冷却装置を必要とする場合があるが、特許文献1では、傾斜磁場コイルから流出する冷媒の温度の単位時間当たりの変化量を測定し、冷媒の温度の変化量に応じて、傾斜磁場コイルに流入する冷媒の温度の変化量を決定し、決定された温度の変化量に基づいて、冷却装置から傾斜磁場コイルに流入する冷媒の温度を変化させることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開WO2009/113397号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1記載の従来技術は、シールド室内の温度や湿度について考慮していない。また、MRI装置の起動(パルスシーケンスを用いた撮影)に応じた冷却水の温度制御となっていない。一方、MRI装置の高性能化に伴って従来の冷却装置の冷却能力以上に発熱する計測方法が増えてきており、その対応の為に、より高性能な冷却装置が必要となってきた。しかしながら高性能な冷却装置はある特定の計測方法でかつ計測が連続する場合のみ必要としており、通常は高性能な冷却装置は必要としない。高性能な冷却装置は一般に高価な為、高性能な冷却装置を使用せずに、発熱が多い特定の計測方法でも問題にならないように、冷却水の設定温度を通常の設定よりも、低く運用する場合が多い。
【0006】
ここで、冷却水の設定温度を常に低くすると、冷却水周辺の湿度が高い場合には、水冷を必要とする装置内に結露が発生し、装置に障害を与え、故障に至ってしまう。
【0007】
本発明の目的は、結露させずにMRI装置の各部を冷却することが可能なMRI装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明によれば、前記磁気共鳴イメージング装置の傾斜磁場電源、傾斜磁場コイル、核磁気共鳴の為の高周波を印加する高周波増幅器、ヘリウム冷凍機等の水冷装置の発熱量を、MRI計測前に予測し、環境温度及び/または湿度に応じて、MRI冷却水を設定温度下限まで冷却し、MRI計測終了間際に冷却水設定温度を適温に戻し、水冷却装置の効率運転することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、結露させずに、MRI装置の各部を好適に冷却することが可能なMRI装置を提供する効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に係るMRI装置の一例の全体概要に係る図
【図2】本発明の実施例1に係る図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
以下、添付図面に従って本発明のMRI装置の好ましい実施形態について詳説する。なお、発明の実施形態を説明するための全図において、同一機能を有するものは同一符号を付け、その繰り返しの説明は省略する。
【0012】
最初に、本発明に係るMRI装置の一例の全体概要を図1に基づいて説明する。図1は、本発明に係るMRI装置の一実施例の全体構成を示すブロック図である。このMRI装置は、NMR現象を利用して被検体の断層画像を得るもので、図1に示すように、MRI装置は静磁場発生系2と、傾斜磁場発生系3と、送信系5と、受信系6と、信号処理系7と、シーケンサ4と、中央処理装置(CPU)8とを備えて構成される。
【0013】
静磁場発生系2は、垂直磁場方式であれば、被検体1の周りの空間にその体軸と直交する方向に、水平磁場方式であれば、体軸方向に均一な静磁場を発生させるもので、被検体1の周りに永久磁石方式、常電導方式あるいは超電導方式の静磁場発生源が配置されている。
【0014】
傾斜磁場発生系3は、MRI装置の座標系(静止座標系)であるX,Y,Zの3軸方向に傾斜磁場を印加する傾斜磁場コイル9と、それぞれの傾斜磁場コイルを駆動する傾斜磁場電源10とから成り、後述のシ−ケンサ4からの命令に従ってそれぞれのコイルの傾斜磁場電源10を駆動することにより、X,Y,Zの3軸方向に傾斜磁場Gx,Gy,Gzを印加する。撮影時には、スライス面(撮影断面)に直交する方向にスライス方向傾斜磁場パルス(Gs)を印加して被検体1に対するスライス面を設定し、そのスライス面に直交して且つ互いに直交する残りの2つの方向に位相エンコード方向傾斜磁場パルス(Gp)と周波数エンコード方向傾斜磁場パルス(Gf)を印加して、エコー信号にそれぞれの方向の位置情報をエンコードする。
【0015】
シーケンサ4は、高周波磁場パルス(以下、「RFパルス」という)と傾斜磁場パルスをある所定のパルスシーケンスで繰り返し印加する制御手段で、CPU8の制御で動作し、被検体1の断層画像のデータ収集に必要な種々の命令を送信系5、傾斜磁場発生系3、および受信系6に送る。
【0016】
送信系5は、被検体1の生体組織を構成する原子の原子核スピンに核磁気共鳴を起こさせるために、被検体1にRFパルスを照射するもので、高周波発振器11と変調器12と高周波増幅器13と送信側の高周波コイル(送信コイル)14aとから成る。高周波発振器11から出力されたRFパルスをシーケンサ4からの指令によるタイミングで変調器12により振幅変調し、この振幅変調されたRFパルスを高周波増幅器13で増幅した後に被検体1に近接して配置された高周波コイル14aに供給することにより、RFパルスが被検体1に照射される。
【0017】
受信系6は、被検体1の生体組織を構成する原子核スピンの核磁気共鳴により放出されるエコー信号(NMR信号)を検出するもので、受信側の高周波コイル(受信コイル)14bと信号増幅器15と直交位相検波器16と、A/D変換器17とから成る。送信側の高周波コイル14aから照射された電磁波によって誘起された被検体1の応答のNMR信号が被検体1に近接して配置された高周波コイル14bで検出され、信号増幅器15で増幅された後、シーケンサ4からの指令によるタイミングで直交位相検波器16により直交する二系統の信号に分割され、それぞれがA/D変換器17でディジタル量に変換されて、信号処理系7に送られる。
信号処理系7は、各種データ処理と処理結果の表示及び保存等を行うもので、光ディスク19、磁気ディスク18等の外部記憶装置と、CRT等からなるディスプレイ20とを有する。受信系6からのデータがCPU8に入力されると、CPU8が信号処理、画像再構成等の処理を実行し、その結果である被検体1の断層画像をディスプレイ20に表示すると共に、外部記憶装置の磁気ディスク18等に記録する。
【0018】
操作部25は、MRI装置の各種制御情報や上記信号処理系7で行う処理の制御情報を入力するもので、トラックボール又はマウス23、及び、キーボード24から成る。この操作部25はディスプレイ20に近接して配置され、操作者がディスプレイ20を見ながら操作部25を通してインタラクティブにMRI装置の各種処理を制御する。
【0019】
なお、図1において、送信側の高周波コイル14aと傾斜磁場コイル9は、被検体1が挿入される静磁場発生系2の静磁場空間内に、垂直磁場方式であれば被検体1に対向して、水平磁場方式であれば被検体1を取り囲むようにして設置されている。また、受信側の高周波コイル14bは、被検体1に対向して、或いは取り囲むように設置されている。
【0020】
現在MRI装置の撮像対象核種は、臨床で普及しているものとしては、被検体の主たる構成物質である水素原子核(プロトン)である。プロトン密度の空間分布や、励起状態の緩和時間の空間分布に関する情報を画像化することで、人体頭部、腹部、四肢等の形態または、機能を2次元もしくは3次元的に撮像する。
【実施例1】
【0021】
次に本発明の実施例1を、図2を用い説明する。図2は、本発明では、MRI装置とMRI装置から直接制御可能な遠隔制御装置を持った水冷却装置が接続されている。より詳細な各構成要素の接続関係は以下の通りである。すなわち、本実施例に係るMRI装置には、水冷却装置26が備えられ、それにはMRI装置のCPU8からリモートで制御可能な遠隔制御装置26aが備えられている。水冷却装置26には冷却水監視装置27が接続され、それにはMRI装置のCPU8、傾斜磁場コイル9、傾斜磁場電源10、高周波増幅器13、ヘリウム冷凍機28が接続されている。水冷却装置26と冷却水監視装置27、高周波増幅器13、傾斜磁場コイル9、傾斜磁場電源10と、ヘリウム冷凍機28との間には、水が循環するようになっている。また、CPU8には温湿度計29が接続されている。
【0022】
上記構成のMRI装置の動作は次のようである。すなわち、本実施例に係るMRI装置は、CPU8において、傾斜磁場電源10、傾斜磁場コイル9、核磁気共鳴の為の高周波を印加する高周波増幅器13、ヘリウム冷凍機28等の水冷装置の発熱量を、MRI計測前に予測する。具体的には、傾斜磁場コイルの温度上昇は、使用するパルスシーケンスの種類に応じて定まる傾斜磁場コイルの電流値と傾斜磁場コイルのインピーダンスの積算値等を用い、予測したりする。その他、傾斜磁場電源10、高周波増幅器13、ヘリウム冷凍機の温度上昇も、それぞれの消費電力に基づいて、温度上昇を計算する。
【0023】
そして、シールド室内の環境温度及び/または湿度を測定し、その測定値に応じて、MRI冷却水を水冷却装置26において、水路において凝結しない温度まで冷却する。具体的には、環境温度が高く、環境湿度が高い程、結露しやすいため冷却水の温度を低くできなくなるため、あまり冷却水の温度を低くできず、この場合、該温度は高くなる。この場合、冷却水の温度を低くできないため、パルスシーケンスの設定を傾斜磁場コイル等の温度が上限以下になるよう設定する。
【0024】
一方、MRI計測終了間際に冷却水設定温度を水冷却装置26において、ヘリウム冷凍機のみを冷却すれば良いようなより高い所望温度に戻し、水冷却装置の効率運転をする。すなわち、温湿度計29による温度又は湿度の測定結果に応じて、配水管が結露しないように、適切な温度で冷却水の温度を設定する。
【0025】
上記本実施例によれば、冷却水の温度を好適にして、MRI装置を好適に冷却することが可能なMRI装置を提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明は、MRI装置に利用することができる。
【符号の説明】
【0027】
25 水冷却装置、25a 遠隔制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体に静磁場および傾斜磁場を与える磁場発生系と、前記被検体の生体組織を構成する原子核に核磁気共鳴を起こさせるための高周波磁場を照射する送信系と、この核磁気共鳴により放出される核磁気共鳴信号を検出する受信系と、前記受信系で検出された核磁気共鳴信号を用いて画像再構成演算を行う信号処理系と、装置全体の動作を制御する中央処理装置とを備えた磁気共鳴イメージング装置であって、
前記磁気共鳴イメージング装置の傾斜磁場電源、傾斜磁場コイル、核磁気共鳴の為の高周波を印可する高周波増幅器、ヘリウム冷凍機等の水冷装置の発熱量を、磁気共鳴イメージング計測前に予測し、環境温度及び/または湿度を加味した上で、磁気共鳴イメージング冷却水を設定温度下限まで冷却し、磁気共鳴イメージング計測終了間際に冷却水設定温度を適温に戻し、水冷却装置の効率運転することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−110131(P2011−110131A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−267043(P2009−267043)
【出願日】平成21年11月25日(2009.11.25)
【出願人】(000153498)株式会社日立メディコ (1,613)
【Fターム(参考)】