説明

磁気共鳴イメージング装置

【課題】FAを変化させてMR信号の収集を行うVFA法による撮像において、より短い撮像時間でコントラストの異なる複数のMR画像を適切な画質で収集することが可能な磁気共鳴イメージング装置を提供することである。
【解決手段】実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置は、データ収集手段及び画像生成手段を備える。データ収集手段は、励起パルスに続いてフリップ角を変えながらリフォーカスパルスを繰り返し印加するスピンエコー法によって被検体から磁気共鳴信号の信号列を収集する。画像生成手段は、前記磁気共鳴信号の信号列の互いに異なる複数の部分に基づいてコントラストの異なる複数の画像データを生成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、磁気共鳴イメージング(MRI: Magnetic Resonance Imaging)装置に関する。
【背景技術】
【0002】
MRIは、静磁場中に置かれた被検体の原子核スピンをラーモア周波数の高周波(RF: radio frequency)信号で磁気的に励起し、この励起に伴って発生する核磁気共鳴(NMR: nuclear magnetic resonance)信号から画像を再構成する撮像法である。
【0003】
MRIにおける撮像法の1つとしてVFA (variable flip angle)法が知られている。VFA法は、SAR(specific absorption rate)の低減や横緩和(T2緩和)による信号の減衰に起因するブラー(blurring)の低減を目的として、リフォーカスパルスのフリップ角(FA: flip angle)を変化させたFSE(fast spin echo)シーケンスによりMR信号を収集する撮像法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−323016号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
VFA法は、主に3次元(3D: three dimensional)シーケンスに対して適用される。また、VFA法では、等方ピクセルのMR画像データが収集され、MPR(multi-planar reconstruction)処理によって任意の断面における画像の観察が行われる。そのため、VFA法による撮像では、一般的にスライス枚数が多くなり、撮像時間が長くなる傾向がある。
【0006】
加えて、VFA法におけるFAのスイープパターンは、特定の代謝物からの信号の減衰が少なくなるように設計される。このため、互いにコントラストが異なる複数の画像を収集する場合には、複数のコントラストにそれぞれ対応するFAのスイープパターンを有する複数のシーケンスによる撮像が必要となる。従って、コントラストが異なる複数の画像を収集する場合には、一層撮像時間が長くなる。例えば、関節を撮像する場合には、一般的に異なるコントラストのMR画像が収集されるが、VFA法による撮像を行うと撮像時間が長くなるという問題がある。
【0007】
そこで、本発明は、FAを変化させてMR信号の収集を行うVFA法による撮像において、より短い撮像時間でコントラストの異なる複数のMR画像を適切な画質で収集することが可能な磁気共鳴イメージング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置は、データ収集手段及び画像生成手段を備える。データ収集手段は、励起パルスに続いてフリップ角を変えながらリフォーカスパルスを繰り返し印加するスピンエコー法によって被検体から磁気共鳴信号の信号列を収集する。画像生成手段は、前記磁気共鳴信号の信号列の互いに異なる複数の部分に基づいてコントラストの異なる複数の画像データを生成する。
また、本発明の実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置は、データ収集手段及び画像生成手段を備える。データ収集手段は、複数のコントラストに適切なフリップ角の変化を表すスイープパターンで、励起パルスに続いて前記フリップ角を変えながらリフォーカスパルスを繰り返し印加するスピンエコー法によって被検体から磁気共鳴信号の信号列を収集する。画像生成手段は、前記磁気共鳴信号の信号列の互いに異なる複数の部分に基づいてコントラストの異なる複数の画像データを生成する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置の構成図。
【図2】図1に示すコンピュータの機能ブロック図。
【図3】図2に示すVFA設定部において設定されたFAのスイープパターンの一例を示すグラフ。
【図4】図3に示すFAに対応して収集されるMR信号の強度を示すグラフ。
【図5】図1に示す磁気共鳴イメージング装置において、VFA法によって異なるコントラストを有するMR画像の収集を行う際の流れを示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置について添付図面を参照して説明する。
【0011】
図1は本発明の実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置の構成図である。
【0012】
磁気共鳴イメージング装置20は、静磁場を形成する筒状の静磁場用磁石21、この静磁場用磁石21の内部に設けられたシムコイル22、傾斜磁場コイル23及びRFコイル24を備えている。
【0013】
また、磁気共鳴イメージング装置20には、制御系25が備えられる。制御系25は、静磁場電源26、傾斜磁場電源27、シムコイル電源28、送信器29、受信器30、シーケンスコントローラ31及びコンピュータ32を具備している。制御系25の傾斜磁場電源27は、X軸傾斜磁場電源27x、Y軸傾斜磁場電源27y及びZ軸傾斜磁場電源27zで構成される。また、コンピュータ32には、入力装置33、表示装置34、演算装置35及び記憶装置36が備えられる。
【0014】
静磁場用磁石21は静磁場電源26と接続され、静磁場電源26から供給された電流により撮像領域に静磁場を形成させる機能を有する。尚、静磁場用磁石21は超伝導コイルで構成される場合が多く、励磁の際に静磁場電源26と接続されて電流が供給されるが、一旦励磁された後は非接続状態とされるのが一般的である。また、静磁場用磁石21を永久磁石で構成し、静磁場電源26が設けられない場合もある。
【0015】
また、静磁場用磁石21の内側には、同軸上に筒状のシムコイル22が設けられる。シムコイル22はシムコイル電源28と接続され、シムコイル電源28からシムコイル22に電流が供給されて静磁場が均一化されるように構成される。
【0016】
傾斜磁場コイル23は、X軸傾斜磁場コイル23x、Y軸傾斜磁場コイル23y及びZ軸傾斜磁場コイル23zで構成され、静磁場用磁石21の内部において筒状に形成される。傾斜磁場コイル23の内側には寝台37が設けられて撮像領域とされ、寝台37には被検体Pがセットされる。RFコイル24にはガントリに内蔵されたRF信号の送受信用の全身用コイル(WBC: whole body coil)や寝台37や被検体P近傍に設けられるRF信号の受信用の局所コイルなどがある。
【0017】
また、傾斜磁場コイル23は、傾斜磁場電源27と接続される。傾斜磁場コイル23のX軸傾斜磁場コイル23x、Y軸傾斜磁場コイル23y及びZ軸傾斜磁場コイル23zはそれぞれ、傾斜磁場電源27のX軸傾斜磁場電源27x、Y軸傾斜磁場電源27y及びZ軸傾斜磁場電源27zと接続される。
【0018】
そして、X軸傾斜磁場電源27x、Y軸傾斜磁場電源27y及びZ軸傾斜磁場電源27zからそれぞれX軸傾斜磁場コイル23x、Y軸傾斜磁場コイル23y及びZ軸傾斜磁場コイル23zに供給された電流により、撮像領域にそれぞれX軸方向の傾斜磁場Gx、Y軸方向の傾斜磁場Gy、Z軸方向の傾斜磁場Gzを形成することができるように構成される。
【0019】
RFコイル24は、送信器29及び受信器30の少なくとも一方と接続される。送信用のRFコイル24は、送信器29からRF信号を受けて被検体Pに送信する機能を有し、受信用のRFコイル24は、被検体P内部の原子核スピンのRF信号による励起に伴って発生したNMR信号を受信して受信器30に与える機能を有する。
【0020】
一方、制御系25のシーケンスコントローラ31は、傾斜磁場電源27、送信器29及び受信器30と接続される。シーケンスコントローラ31は傾斜磁場電源27、送信器29及び受信器30を駆動させるために必要な制御情報、例えば傾斜磁場電源27に印加すべきパルス電流の強度や印加時間、印加タイミング等の動作制御情報を記述したシーケンス情報を記憶する機能と、記憶した所定のシーケンスに従って傾斜磁場電源27、送信器29及び受信器30を駆動させることによりX軸傾斜磁場Gx、Y軸傾斜磁場Gy,Z軸傾斜磁場Gz及びRF信号を発生させる機能を有する。
【0021】
また、シーケンスコントローラ31は、受信器30におけるNMR信号の検波及びA/D (analog to digital)変換により得られた複素データである生データ(raw data)を受けてコンピュータ32に与えるように構成される。
【0022】
このため、送信器29には、シーケンスコントローラ31から受けた制御情報に基づいてRF信号をRFコイル24に与える機能が備えられる一方、受信器30には、RFコイル24から受けたNMR信号を検波して所要の信号処理を実行するとともにA/D変換することにより、デジタル化された複素データである生データを生成する機能と生成した生データをシーケンスコントローラ31に与える機能とが備えられる。
【0023】
また、コンピュータ32の記憶装置36に保存されたプログラムを演算装置35で実行することにより、コンピュータ32には各種機能が備えられる。ただし、プログラムの少なくとも一部に代えて、各種機能を有する特定の回路を磁気共鳴イメージング装置20に設けてもよい。
【0024】
図2は、図1に示すコンピュータ32の機能ブロック図である。
【0025】
コンピュータ32の演算装置35は、記憶装置36に保存されたプログラムを実行することにより撮像条件設定部40及びデータ処理部41として機能する。撮像条件設定部40は、第1のエコー時間(TE: echo time)入力部40A、第2のTE入力部40B及びVFA設定部40Cを有する。また、記憶装置36は、k空間データ記憶部42、画像データ記憶部43及び撮像パラメータ記憶部44として機能する。
【0026】
撮像条件設定部40は、入力装置33からの指示情報に基づいてVFA法によるパルスシーケンスを含む撮像条件を設定し、設定した撮像条件をシーケンスコントローラ31に出力する機能を有する。VFA法は、RF励起パルスに続いて繰返し印加される複数のRFリフォーカスパルスのFAを一定としないFSEシーケンスを用いてイメージングを行う撮像法である。換言すれば、VFA法は、励起パルスに続いてFAを変えながらリフォーカスパルスを繰り返し印加することによって被検体PからMR信号の信号列を収集するスピンエコー(SE: spin echo)法による撮像法である。VFA法では、典型的には3D-FSEシーケンスを用いてMRデータが収集される。
【0027】
特に、撮像条件設定部40は、共通のFSEシーケンスを用いた1回のスキャンで、互いにコントラストが異なる複数のMR画像データを収集するための撮像条件を設定する機能を備えている。そのために、撮像条件設定部40は、各画像データのコントラストに応じた適切なFAを可変設定するように構成されている。すなわち、複数のコントラストに適切なFAの変化を表すスイープパターンで、励起パルスに続いてFAを変えながらリフォーカスパルスを繰り返し印加するSE法による撮像条件が撮像条件設定部40において設定される。換言すれば、撮像条件設定部40は、互いにコントラストが異なる複数の画像データに対応する複数のTEに適切なFAを設定する機能を備えている。
【0028】
より具体的には、FSEシーケンスにより収集されるMRエコー信号列を、複数の信号列の部分に振り分け、複数のMRエコー信号列の部分をそれぞれ異なる画像データ用に割り当てることによって、MRエコー信号列からコントラストの異なる複数の画像データを生成することができる。複数の画像データ用にグループ分けされたMR信号列の各セットは、互いにオーバーラップさせてもよいし、オーバーラップさせなくてもよい。また、あるMR信号列のセットが他のMR信号列に含まれるようにしてもよい。
【0029】
更に、脳組織等の強調すべき各代謝物のそれぞれの縦緩和時間(T1)、横緩和時間(T2)及びT1ρ等の緩和時間に対応するタイミングで印加されるリフォーカスパルスのFAを調整することにより、各代謝物が強調された異なるコントラストを有する複数の画像データを得ることができる。例えば、2種類の代謝物に合わせたコントラストを有する画像データを収集する場合には、前半のリフォーカスパルスのFAの時間変化を示すスイープパターンを緩和時間が短い側の代謝物からのMRエコー信号の強度が十分となるように調整する一方、後半のリフォーカスパルスのFAのスイープパターンを緩和時間が長い側の代謝物からのMRエコー信号の強度が十分となるように調整すればよい。
【0030】
尚、リフォーカスパルスが印加されるタイミングを決定するための代謝物ごとのT1, T2又はT1ρ等の緩和時間やTEのみならず、コントラストに影響を与える他のパラメータを更に調整することによっても所望のコントラストを有する複数の画像データを収集することができる。コントラストを調整するための代表的な他のパラメータとしては、反転回復(IR: inversion recovery)プレパルスやサチュレーションパルス等のプレパルスを印加するか否か、プレパルスの種類及び数、IRプレパルスの反転時間(TI: inversion time)並びに繰り返し時間(TR: repetition time)等のパラメータが挙げられる。これらのパラメータを調整する場合、調整されたパラメータに応じて適切なカーブとなるようにFAのスイープパターンも調整される。
【0031】
以下、2種類のコントラストを有するMR画像データを収集する場合を例に説明する。
【0032】
撮像条件設定部40の第1のTE入力部40Aは、第1の代謝物に合わせたコントラストを有する画像データを収集するために適切な第1のTEを入力装置33から入力し、入力した第1のTEをVFA設定部40Cに与える機能を有する。第2のTE入力部40Bは、第2の代謝物に合わせたコントラストを有する画像データを収集するために適切な第2のTEを入力装置33から入力し、入力した第2のTEをVFA設定部40Cに与える機能を有する。
【0033】
尚、第1のTE及び第2のTEに代えて、第1の代謝物の特定情報及び第2の代謝物の特定情報がそれぞれ第1のTE入力部40A及び第2のTE入力部40Bに入力装置33から入力された場合に、第1のTE入力部40A及び第2のTE入力部40Bが、代謝物ごとの既知の物性値である緩和時間に基づいてMRエコー信号の強度が適切な強度となるタイミングを第1及び第2のTEに設定してVFA設定部40Cに与えるようにしてもよい。
【0034】
VFA設定部40Cは、第1のTE入力部40Aから取得した第1のTE、第2のTE入力部40Bから取得した第2のTE及び各代謝物の緩和時間に基づいて、第1のコントラストを有する画像データ及び第2のコントラストを有する画像データの双方を、FSEシーケンスを用いた1回のイメージングスキャンによって適切な画質となるように収集するためのFAのスイープパターンを設定する機能を備えている。
【0035】
具体的には、第1のTEで収集されるエコー信号を含むエコー信号列の各強度が適切な強度となり、かつ第2のTEで収集されるエコー信号を含むエコー信号例の各強度も適切な強度となるように、FAのスイープパターンの最適化計算を行うことによって第1及び第2のコントラストを良好に得るためのFAのスイープパターンを自動計算することができる。尚、所要の信号強度を得るためのFAのスイープパターンの算出方法については、既に知られている任意の方法を用いることができる。
【0036】
従って、ユーザが入力装置33の操作によって2つの代謝物の緩和時間に対応する2つのTEを設定すると、2つのTEに適切なVFA-FSEシーケンス用のFAのスイープパターンがVFA設定部40Cにおける計算によって自動設定される。但し、2つのTEと適切なFAのスイープパターンとを予め関連付けてデータベース化しておくこともできる。
【0037】
撮像パラメータ記憶部44には、2つのTEと適切なFAのスイープパターンとを関連付けたテーブル又は関数が保存される。テーブルが保存される場合には、例えば、第1のTEの範囲及び第2のTEの範囲に対して、適切なFAのスイープパターンを関連付けることができる。従って、第1のTE及び第2のTEの変化に対してFAのスイープパターンは断続的に変わることになる。一方、関数が保存される場合には、第1のTE及び第2のTEの各値に応じたFAのスイープパターンが特定されることとなる。
【0038】
尚、共通のMR信号列から3つ以上の複数の画像データを生成する場合には、複数の画像データに対応する複数のTEの組合せごとに適切なFAの変化を表すスイープパターンを撮像パラメータ記憶部44に保存すればよい。
【0039】
そして、VFA設定部40Cは、撮像パラメータ記憶部44を参照し、第1のTE入力部40Aから取得した第1のTE及び第2のTE入力部40Bから取得した第2のTEに対応するFAのスイープパターンを取得できるように構成されている。また、3つ以上の複数の画像データを生成する場合には、VFA設定部40Cは、複数の画像データに対応する複数のTEに関連付けられたFAのスイープパターンを撮像パラメータ記憶部44から取得するように構成される。
【0040】
図3は、図2に示すVFA設定部40Cにおいて設定されたFAのスイープパターンの一例を示すグラフである。
【0041】
図3において横軸はエコー信号の収集順位を表すエコー番号を示し、縦軸はエコー信号列を収集するために繰返し印加されるリフォーカスパルスのFAを示す。
【0042】
図3中の実線は、第1及び第2のコントラストを有する画像データとして関節におけるプロトン密度(PD: proton density)画像データ及びT2強調画像データの双方を収集するためのFAのスイープパターン(FAPD_T2)を示す。また、図3中の点線はPD画像データのみを収集するための従来のFAのスイープパターン(FAPDref)を、波線はT2強調画像データのみを収集するための従来のFAのスイープパターン(FAT2ref)を、それぞれ参考用に示したものである。
【0043】
PD画像データを得るためのT1値は800×10-3[s]程度であり、T1ρ値は80×10-3[s]程度である。従ってPD画像データの生成のためのエコー信号列の第1のTE(TE1)は、50×10-3[s]程度に設定することができる。エコー信号列の間隔(ETS: echo train space)が5×10-3[s]であれば、励起パルスの印加から50×10-3[s]経過後のタイミングで収集されるのは10番目のエコー信号である。従って、PD画像データのみを収集するための従来のFAのスイープパターン(FAPDref)は、点線で示すように10番目のエコー信号を含むプロトンからのエコー信号列が同等な強度で収集されるように調整されている。
【0044】
一方、T2強調画像データを得るためのT1値及びT1ρ値がPD画像データを得るためのT1値及びT1ρ値よりも長く設定される。そのために、T2強調画像データの生成用に第1のTEよりも長い第2のTE(TE2)が設定される。第2のTEが例えば400×10-3[s]程度であれば、第2のTEに対応するタイミングで収集されるのは、80番目のエコー信号である。従って、T2強調画像データのみを収集するための従来のFAのスイープパターン(FAT2ref)は、波線で示すように強調対象となる代謝物からの80番目のエコー信号を含むエコー信号列が同等な強度で収集されるように調整されている。
【0045】
更に、PD画像データ及びT2強調画像データの双方用にエコー信号列を収集する場合には、エコー信号列の一部をPD画像データ用の第1のエコー信号列として用いる一方、エコー信号列の他の一部をT2強調画像データ用の第2のエコー信号列として用いることが必要となる。
【0046】
図3に示すような第1のTE及び第2のTEでPD画像データ及びT2強調画像データをそれぞれ収集する場合には、第1のTE及び第2のTEのタイミングでそれぞれ収集されるエコー信号を含む40個のエコー信号列を、それぞれPD画像データ及びT2強調画像データ用に割り当てることができる。すなわち、1番目から40番目までのエコー信号で構成されるエコー信号列をPD画像データ用の第1のエコー信号列として設定することができる。一方、51番目から90番目までのエコー信号で構成されるエコー信号列をT2強調画像データ用の第2のエコー信号列として設定することができる。
【0047】
従って、FAのスイープパターンについては、1番目から40番目までのエコー信号に対応するFAをPD画像データ用のプロトンからの第1のエコー信号列の強度に合わせてチューニングし、41番目以降のエコー信号に対応するFAをT2強調画像データ用の強調対象となる代謝物からの第2のエコー信号列の強度に合わせてチューニングすればよい。その結果、図3の実線で示すようなFAのスイープパターン(FAPD_T2)が得られる。
【0048】
すなわち、2つの異なる物質からのエコー信号が十分な強度を有し、かつ時間的にフラットになるように、第1のTE及び第2のTEの双方に適切となるようにFAのスイープパターン(FAPD_T2)が最適化される。このため、FAのスイープパターン(FAPD_T2)は、図3に示すように2つの極小値を有する不連続なカーブとなる。
【0049】
尚、PD画像データ及びT2強調画像データ用に割り当てられるエコー信号の数もPD画像データ及びT2強調画像データの撮像目的などに応じて調整することができる。例えば、1番目から40番目までの40個のエコー信号をPD画像データ用に割り当て、41番目から100番目までの60個のエコー信号をT2強調画像データ用に割り当てるようにしてもよい。
【0050】
このように、FAのスイープパターンの前半をPD画像データ用に設計し、後半をT2強調画像データ用に設計することができる。同様に、他の2つ又は3つ以上の互いに異なるコントラストを有する画像データを収集する場合にも、FAのスイープパターンを画像データごとの部分に分けて設計することができる。3つ以上の画像データを収集する場合には、FAのスイープパターンが画像データの数に応じた数の極小値を有するカーブとなる。
【0051】
尚、複数のTE間の間隔及び画像データの生成に必要なエコー信号の数によっては、前述のように異なる画像データに対応する複数のエコー信号列が互いにオーバーラップしたり、あるエコー信号列が他のエコー信号列に含まれる場合もある。従って、FAのスイープパターンについても、共通の部分が複数の画像データに対応して設計される場合がある。
【0052】
図4は、図3に示すFAに対応して収集されるMR信号の強度を示すグラフである。
【0053】
図4において横軸はエコー信号の収集順位を表すエコー番号を示し、縦軸はエコー信号の相対信号強度を示す。
【0054】
図4中の一点鎖線は、PD画像データ及びT2強調画像データの双方を収集するためのFAのスイープパターン(FAPD_T2)に対応して収集される、PD画像データにおいて描出対象となる代謝物からのエコー信号の相対信号強度を示すカーブ(SPD)であり、二点鎖線は、T2強調の対象となる代謝物からのエコー信号の相対信号強度を示すカーブ(ST2)である。また、図4中の点線はPD画像データのみを収集するための従来のFAのスイープパターン(FAPDref)に対応するエコー信号の相対信号強度を参考用に示すカーブ(SPDref)であり、波線はT2強調画像データのみを収集するための従来のFAのスイープパターン(FAT2ref)に対応するエコー信号の相対信号強度を参考用に示すカーブ(ST2ref)である。
【0055】
図4によれば、図3に示すFAのスイープパターン(FAPD_T2)によって、第1のTEを含む第1のエコー信号列の収集期間において、変動が少なく安定した強度でPD画像用のエコー信号を収集できることが確認できる。同様に、第2のTEを含む第2のエコー信号列の収集期間において、安定した強度でT2強調の対象となる代謝物からのエコー信号を収集できることが確認できる。
【0056】
従って、第1のTEを含む第1のエコー信号列の収集期間において収集される40個のエコー信号からPD画像データを良好な画質で生成する一方、第2のTEを含む第2のエコー信号列の収集期間において収集される40個のエコー信号からT2強調画像データを良好な画質で生成することが可能となる。
【0057】
撮像条件設定部40では、このように良好な画質を有するPD画像データ及びT2強調画像データ等の異なるコントラストを有する画像データを生成するためのFSEシーケンスが設定される。例えば、図3及び図4に示すようなVFAの条件でエコー信号列を収集する場合には、1番目から40番目までのエコー信号を収集するために相対強度が-20から19に変化する位相エンコード(PE: phase encode)傾斜磁場ステップパルスを印加し、41番目から50番目までのエコー信号に対応するPE傾斜磁場ステップパルスを印加せず、更に51番目から90番目までのエコー信号を収集するために再び相対強度が-20から19に変化するPE傾斜磁場ステップパルスを印加するFSEシーケンスを設定すればよい。すなわち、PE傾斜磁場パルスは、コントラストの数に対応する回数だけ同じ強度で繰り返し印加されることになる。
【0058】
データ処理部41は、撮像条件設定部40において設定された撮像条件下におけるイメージングスキャンによって収集されたMR信号をシーケンスコントローラ31から取得してk空間データ記憶部42に形成されたk空間に配置する機能、k空間データ記憶部42からk空間データを取り込んでフーリエ変換(FT: Fourier transform)を含む画像再構成処理を施すことにより画像データを再構成する機能、再構成して得られた画像データを画像データ記憶部43に書き込む機能、画像データ記憶部43から取り込んだ画像データに必要な画像処理を施して表示装置34に表示させる機能を有する。
【0059】
特に、データ処理部41は、異なるコントラストを有する複数の画像データの生成用に収集された複数のエコー信号列を、各画像データに対応するk空間にそれぞれ配置し、複数のk空間データに対する画像再構成処理によって異なるコントラストを有する複数の画像データを生成するように構成される。換言すれば、データ処理部41は、MR信号の信号列の互いに異なる複数の部分に基づいて互いにコントラストが異なる複数の画像データを生成する機能を備えている。
【0060】
次に磁気共鳴イメージング装置20の動作及び作用について説明する。ここでは、被検体PのイメージングによってPD画像データ及びT2強調画像データを収集する場合を例に説明する。
【0061】
図5は、図1に示す磁気共鳴イメージング装置20において、VFA法によって異なるコントラストを有するMR画像の収集を行う際の流れを示すフローチャートである。
【0062】
まずステップS1において、表示装置34に表示された撮像条件の設定画面を通じた入力装置33の操作によって、プロトン及びT2強調対象となる代謝物の特定情報又はこれらに対応する第1のTE(TE1)及び第2のTE(TE2)が撮像条件設定部40に入力される。
【0063】
すなわち、プロトンの特定情報又はPD画像データに適した第1のTEが第1のTE入力部40Aに入力される。そうすると、第1のTE入力部40AはPD画像データに適した第1のTEをVFA設定部40Cに与える。一方、T2強調対象となる代謝物の特定情報又はT2強調画像データに適した第2のTEが第2のTE入力部40Bに入力される。そうすると、第2のTE入力部40BはT2強調画像データに適した第2のTEをVFA設定部40Cに与える。
【0064】
次にステップS2において、VFA設定部40Cは、第1のTE(TE1)及び第2のTE(TE2)に対応するVFA-FSEシーケンスにおけるFAのスイープパターン(FAPD_T2)をVFA条件として設定する。具体的には、VFA設定部40Cが第1のTEを含む第1のエコー信号列の収集期間においてPD画像データ用のエコー信号列の部分が安定した強度で収集され、かつ第2のTEを含む第2のエコー信号列の収集期間においてT2強調画像データ用のエコー信号列の部分が安定した強度で収集されるようなFAの変化を表すスイープパターン(FAPD_T2)を算出する。或いは、VFA設定部40Cが撮像パラメータ記憶部44を参照し、撮像パラメータ記憶部44から第1のTE及び第2のTEに対応する適切なFAのスイープパターン(FAPD_T2)を取得する。
【0065】
次にステップS3において、撮像条件設定部40は、VFA設定部40Cにおいて設定されたFAのスイープパターン(FAPD_T2)を有するVFA-FSEシーケンスを含む撮像条件を設定する。
【0066】
次にステップS4において、撮像条件設定部40により設定された撮像条件に従ってイメージングスキャンが実行される。すなわち、磁気共鳴イメージング装置20を構成する傾斜磁場コイル23やRFコイル24等のMR信号のデータ収集を行うための構成要素は、VFA-FSEシーケンスに従って被検体PからMR信号の信号列を収集する。
【0067】
そのために予め寝台37に被検体Pがセットされ、静磁場電源26により励磁された静磁場用磁石21(超伝導磁石)の撮像領域に静磁場が形成される。また、シムコイル電源28からシムコイル22に電流が供給されて撮像領域に形成された静磁場が均一化される。
【0068】
そして、入力装置33から撮像条件設定部40にスキャン開始指示が与えられると、撮像条件設定部40はVFA-FSEシーケンスを含む撮像条件をシーケンスコントローラ31に出力する。シーケンスコントローラ31は、パルスシーケンスに従って傾斜磁場電源27、送信器29及び受信器30を駆動させることにより被検体Pがセットされた撮像領域に傾斜磁場を形成させるとともに、RFコイル24からRF信号を発生させる。
【0069】
このとき、VFA-FSEシーケンスのリフォーカスパルスは、PD画像データ及びT2強調画像データに対応する第1のTE及び第2のTEの双方に適切なFAで繰り返し被検体Pの撮像部位に印加される。
【0070】
このため、被検体Pの内部における核磁気共鳴により生じたMR信号が、RFコイル24により受信されて受信器30に与えられる。受信器30は、MR信号に所要の信号処理を実行した後、A/D(analog to digital)変換することにより、デジタルデータのMR信号である生データを生成する。受信器30は、生成した生データをシーケンスコントローラ31に与える。シーケンスコントローラ31は、生データをデータ処理部41に与え、データ処理部41はk空間データ記憶部42に形成されたk空間に生データをk空間データとして配置する。
【0071】
尚、データ処理部41が取得したエコー信号列のうち第1のTEに対応して収集された第1のエコー信号列はPD画像データ用の信号であり、第2のTEに対応して収集された第2のエコー信号列はT2強調画像データ用の信号である。従って、第1のエコー信号列はPD画像データ用の第1のk空間に配置される。一方、第2のエコー信号列はT2強調画像データ用の第2のk空間に配置される。
【0072】
次にステップS5において、データ処理部41は、第1のk空間から取得した第1のk空間データに対する画像再構成処理によってPD画像データを生成する。一方、データ処理部41は、第2のk空間から取得した第2のk空間データに対する画像再構成処理によってT2強調画像データを生成する。
【0073】
このように生成されたPD画像データ及びT2強調画像データは、いずれもエコー信号が安定的な強度で収集されるようなFAのスイープパターン(FAPD_T2)を適用して得られたものである。しかも、単一のVFA-FSEシーケンスによって収集されたエコー信号列に基づいてPD画像データ及びT2強調画像データが生成される。従って、良好な画質を維持しつつ、より短い撮像時間でPD画像データ及びT2強調画像データを生成することができる。
【0074】
更に、生成されたPD画像データ及びT2強調画像データは、データ処理部41により必要な画像処理を施した後、表示装置34に表示させることができる。
【0075】
つまり以上のような磁気共鳴イメージング装置20は、VFA-FSE法によるMRデータ収集においてFAのスイープパターンを複数のTEに合わせて適切に調整することによって、コントラストの異なる複数の画像データを、画質を劣化させることなく、1回のイメージングスキャンで収集できるようにしたものである。
【0076】
このため、磁気共鳴イメージング装置20によれば、互いに異なるコントラストを有する複数の画像データを、VFA法によって良好な画質で短時間に収集することができる。
【0077】
以上、特定の実施形態について記載したが、記載された実施形態は一例に過ぎず、発明の範囲を限定するものではない。ここに記載された新規な方法及び装置は、様々な他の様式で具現化することができる。また、ここに記載された方法及び装置の様式において、発明の要旨から逸脱しない範囲で、種々の省略、置換及び変更を行うことができる。添付された請求の範囲及びその均等物は、発明の範囲及び要旨に包含されているものとして、そのような種々の様式及び変形例を含んでいる。
【符号の説明】
【0078】
20 磁気共鳴イメージング装置
21 静磁場用磁石
22 シムコイル
23 傾斜磁場コイル
24 RFコイル
25 制御系
26 静磁場電源
27 傾斜磁場電源
28 シムコイル電源
29 送信器
30 受信器
31 シーケンスコントローラ
32 コンピュータ
33 入力装置
34 表示装置
35 演算装置
36 記憶装置
37 寝台
40 撮像条件設定部
40A 第1のTE入力部
40B 第2のTE入力部
40C VFA設定部
41 データ処理部
42 k空間データ記憶部
43 画像データ記憶部
44 撮像パラメータ記憶部
P 被検体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
励起パルスに続いてフリップ角を変えながらリフォーカスパルスを繰り返し印加するスピンエコー法によって被検体から磁気共鳴信号の信号列を収集するデータ収集手段と、
前記磁気共鳴信号の信号列の互いに異なる複数の部分に基づいてコントラストの異なる複数の画像データを生成する画像生成手段と、
を備える磁気共鳴イメージング装置。
【請求項2】
複数のコントラストに適切なフリップ角の変化を表すスイープパターンで、励起パルスに続いて前記フリップ角を変えながらリフォーカスパルスを繰り返し印加するスピンエコー法によって被検体から磁気共鳴信号の信号列を収集するデータ収集手段と、
前記磁気共鳴信号の信号列の互いに異なる複数の部分に基づいてコントラストの異なる複数の画像データを生成する画像生成手段と、
を備える磁気共鳴イメージング装置。
【請求項3】
前記データ収集手段は、前記複数の画像データに対応する複数のエコー時間に適切なフリップ角の変化を表し、前記複数の画像データの数に応じた数の極小値を有する不連続なスイープパターンで前記リフォーカスパルスを繰り返し印加するように構成される請求項1又は2記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項4】
前記データ収集手段は、前記複数の画像データに対応する複数のエコー時間に適切なフリップ角の変化を表すスイープパターンで前記リフォーカスパルスを繰り返し印加するように構成される請求項1又は2記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項5】
複数のエコー時間の組合せごとに適切なフリップ角のスイープパターンを保存する記憶手段を更に備え、
前記データ収集手段は、前記複数の画像データに対応する前記複数のエコー時間に関連付けられたフリップ角のスイープパターンを前記記憶手段から取得するように構成される請求項3又は4記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項6】
前記データ収集手段は、前記複数の画像データを生成するための前記磁気共鳴信号の信号列の前記複数の部分が安定した強度で収集されるようなフリップ角のスイープパターンを算出するように構成される請求項3又は4記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項7】
前記画像生成手段は、前記複数の画像データとしてプロトン密度画像データ及び横緩和強調画像データを生成するように構成される請求項1乃至6のいずれか1項に記載の磁気共鳴イメージング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−78562(P2013−78562A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−173490(P2012−173490)
【出願日】平成24年8月3日(2012.8.3)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(594164542)東芝メディカルシステムズ株式会社 (4,066)
【Fターム(参考)】