説明

磁気共鳴映像装置

【課題】マルチエコーを用いた撮像法で、撮像時間及びS/Nを犠牲にすることなく、N/2アーチファクトを低減すること。
【解決手段】磁気共鳴映像装置は、送信コイル2、勾配コイル3と、所定のパルスシーケンスに従って高周波磁場パルスにより被検体の核スピンを1回励起しそれに続いて複数のエコーを連続的に発生させるために送信コイルと勾配コイルを制御するシーケンサ10と、エコーを受信する複数の独立した受信コイル41、42と、連続的に発生された複数のエコーのうちの奇数エコーと偶数エコーとに基づいて、複数の独立した受信コイルに関わる再構成手法を適用して、奇数画像と偶数画像とをそれぞれ発生する計算機12とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、FSE(Fast Spin Echo)やEPI(Echo Planar Imaging)に代表されるマルチエコー高速撮影法を用いる磁気共鳴映像装置に関する。
【背景技術】
【0002】
EPIは、傾斜磁場の極性を高速に交番することによりエコーを連続的に発生させ、一回の励起で1枚の画像再構成に必要なデータのすべてを収集する撮影方法であり、例えば、50msで1枚の画像撮像が終了するため心臓などの動く臓器の瞬時撮像が可能である。なお、一回の励起後に連続的に発生する一連のエコーは、一般的に、マルチエコー又はエコートレインと呼ばれている。また、FSEは反転高周波パルス(一般的には180°パルス)を連続的に印加することにより、エコーを連続的に発生させるものである。
【0003】
周知の通り、対象部位の特定プロトンのラーモア周波数は、当該プロトンの位置の磁界強度に比例する。上述したようにEPIでは、マルチエコーを発生させるために、正負に交番する傾斜磁場を用いている。従って、奇数番目に発生するエコーと偶数番目に発生するエコーとで、静磁場不均一による位置ズレの向きが反対になる。これによりN/2アーチファクトが生じやすい。なお、Nはエンコードステップの数である。
【0004】
図1,図2,図3は、N/2アーチファクトの説明図である。まず、図1に示すように、奇数番目のエコーと、偶数番目のエコーとを別々にフーリエ変換する。エンコードステップ数が半分になるので、図1に示すように、折り返り現象(aliasing)が起き、その結果、データ数Nの半分の距離に折り返り画像(偽像)が生じる。この偽像は、図2に示すように、奇数番目のエコーから生成した画像と、偶数番目のエコーから生成した画像とを加算することにより、原理的には消える。
【0005】
しかし、実際には、静磁場の不均一性等の影響は、奇数番目のエコーと、偶数番目のエコーとで周波数軸に関して逆向きに利いてくるため、周波数軸方向の位置シフトが逆向きになる。その結果、上記加算により得られる画像には、図3に示すように、偽像が部分的に残留する。これがいわゆるN/2アーチファクトと呼ばれるものである。
【0006】
このN/2アーチファクトは、上記磁場不均一性の他にも、装置の不安定性等様々な不確定な要因により起こるため、完全に除去することは現実的に不可能である。このN/2アーチファクトをソフトウエア処理にて除去する方法も多数考案されているが、それらは、繰り返し処理が必要で処理時間がかかるという問題や、画像上に折り返し部分がない場所が必要等、利用上に制限があった。また、次に述べる、血流アーチファクトも同時に低減できる方法としては提案されていなかった。
【0007】
次に、マルチエコーを用いる高速撮像法と血流アーチファクトの関係について述べる。まず血流イメージングは、勾配磁界中を移動するスピンが静止スピンに対して位相差を持つという現象を利用して、流れに対して感度が制御された像を形成できるようにする一種のMR像形成方法である。
【0008】
EPIやFSEなどのマルチエコー高速撮像法では、血流アーチファクトを生じ易いという問題がある。マルチエコー撮像法は、even−echo rephasing(以下、EERと略す)という現象があるが、これは周知の通り、一定速度の流れの場合、エコーの位相が偶数番目でリフォーカスし、奇数番目ではある一定の位相シフトを持つと共にディフェイズを起こす現象である。従って、偶数番目と奇数番目のエコーの両方で画像再構成を行うと、位相が1エコーごとに変化するので、血流アーチファクトが生じるという問題があった。
【0009】
この血流アーチファクトの問題及び先述したN/2アーチファクトの問題をあわせて解決する方法として、従来、奇数番目のエコーと偶数番目のエコーとの一方だけを用いる、フライバック法という方法が考案されている。しかしながら、この方法は約半分のエコーしか用いないため、データの収集効率が低下する、撮像時間(データ収集時間)が延長する、同一撮像時間であれば、空間分解能が低下するなどの問題があった。
【0010】
一方、ほぼすべての磁気共鳴撮像法を高速化する方法として、近年、マルチRFコイルの感度分布を用いた再構成法が注目を集めている(10th Ann.Scientific Meeting SMRM.1240,1991参照)。この方法は、1枚の画像再構成に必要なエンコードステップ数を減らして撮像を行ない、その結果生じる折り返しを、マルチRFコイルの各々のコイル感度分布が異なることを利用して分解し、折り返しのない画像を得る方法である。通常の撮像に比べ、基本的にコイル数に反比例してエンコードステップ数を減らせるため、撮像時間の短縮化を図ることが可能である。以下に、その概略について述べる。
【0011】
今、マルチコイル数を2とし、求めたい画像をI0(x,y)と表し、それぞれのコイルに由来する画像をI1(x,y)、I2(x,y)と表し、各RFコイルの感度分布をS1(x,y)、S2(x,y)と表すものとする。また、撮像領域のエンコード方向の長さをDとし、エンコードステップ数は、K空間上の1ラインごとに間引くようにして合計で1/2に減らして撮像するものと仮定する。この場合、D/2の折り返しが生じ、折り返しの生じている画像I1(x,y)、I2(x,y)は、以下のように記述される。
【数1】

【0012】
従って、画像I0(x,y)はSの逆行列を掛けて、
【数2】

【0013】
として求めることが出来る。一般的には、Nコイルの場合はN×Nの行列式で表わされる。但し、マルチエコーを用いた撮像法の場合、このマルチRFコイルの感度分布を用いる再構成法を用いても、基本的に奇数エコーと偶数エコーとを同時に用いるため位相差は維持されており、マルチエコーの血流アーチファクトを低減させることはできない。
【0014】
以上のように、EPIは、正負に交番する傾斜磁場を用いてマルチエコーを生じさせ、データ収集及び再構成を行うため、N/2アーチファクトが残りやすいという問題があった。また、EPIやFSEなどのマルチエコーを用いる高速撮像法の場合、偶数番目のエコーと奇数番目のエコーで位相が異なるため血流アーチファクトが生じ易いという問題があった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】10th Ann.Scientific Meeting SMRM.1240,1991
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の目的は、マルチエコーを用いた撮像法で、撮像時間及びS/Nを犠牲にすることなく、N/2アーチファクトを低減することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の磁気共鳴映像装置は、送信コイル、勾配コイルと、所定のパルスシーケンスに従って高周波磁場パルスにより被検体の核スピンを1回励起しそれに続いて複数のエコーを連続的に発生させるために送信コイルと勾配コイルを制御するシーケンサと、エコーを受信する複数の独立した受信コイルと、連続的に発生された複数のエコーのうちの奇数エコーと偶数エコーとに基づいて、複数の独立した受信コイルに関わる再構成手法を適用して、奇数画像と偶数画像とをそれぞれ発生する計算機とを具備する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】従来において、奇数番目のエコーと偶数番目のエコーとを別々にフーリエ変換にかける処理の説明図。
【図2】従来において、奇数番目のエコーの画像と偶数番目のエコーの画像との加算処理の説明図。
【図3】従来において、図2の加算処理後に、静磁場が不均一等を原因として残留する部分的な偽像の説明図。
【図4】本発明の実施例に係る磁気共鳴映像装置の構成図。
【図5】図4の計算機による画像生成手順を示すフローチャート。
【図6】図4のシーケンス制御部により実行されるパルスシーケンスの一例としてのEPIパルスシーケンスを示す図。
【図7】図6の他のEPIパルスシーケンスを示す図。
【図8】図4のシーケンス制御部により実行されるパルスシーケンスの一例としてのFSEパルスシーケンスを示す図。
【図9】本実施例において、4つのRF受信コイルを示す図。
【図10】本実施例において、3次元EPIのパルスシーケンスを示す図。
【図11】本実施例において、3次元画像生成手順を示すフローチャート。
【図12】3次元の場合に2方向に発生する折返りを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照し、本発明の実施例について詳細に説明する。
(構成)
図4は本実施例に係る磁気共鳴映像装置の構成を示している。静磁場磁石1は、例えば円筒形状を有し、その内部領域(撮像領域)に静磁場を発生する。この静磁場には、傾斜磁場コイル3が傾斜磁場コイル電源5から電力供給を受けて発生する3種の傾斜磁場が重畳される。また、体軸方向に感度分布が長いホールボディ型RF送信コイル2は、送信部7から高周波電流を供給されることにより上記撮影領域に高周波磁場を発生する。シーケンス制御部10は、高周波磁場パルス及び勾配磁場パルスがパルスシーケンスに応じた順番で発生するために、所定のパルスシーケンスに従って送信コイル2及び傾斜磁場コイル電源5を制御する。これにより、被検体から磁気共鳴信号(ここではエコー)が発生する。ここでは、パルスシーケンスは、フリップ角が例えば90°の高周波磁場パルスで核スピンを1回励起した後に、複数のエコーを連続的に発生させるいわゆるマルチエコーパルスシーケンスが採用される。マルチエコーパルスシーケンスは、典型的には、EPI(エコープラナーイメージング)法、又はFSE(高速スピンエコー)法である。ここではEPIとして説明する。
【0020】
RF受信コイルアレイ4は、RF送信コイル2の内側に配置される。RF受信コイルアレイ4は、RF送信コイル2よりも感度分布の空間的な幅が狭い複数のRF受信コイル41,42を有する。複数のRF受信コイル41,42は、例えば体軸方向にそって整列される。体軸方向は、典型的にはスライス軸に対応する。ここでは説明の便宜上、RF受信コイルアレイ4は、第1のRF受信コイル41と、第2のRF受信コイル42とから構成されているものと仮定するが、RF受信コイルの数が2より多くてもよい。
【0021】
受信部9は、第1RF受信コイル41と第2RF受信コイル42とを介して複数のエコーを受信し、増幅、検波及びAD変換を含む前処理を施してデータ収集部11に出力する。データ収集部11は、第1,第2RF受信コイル41,42の区別及び各エコーの発生順番を関連付けてエコーデータを収集する。
【0022】
計算機12は、データ収集部11で収集されたエコーデータに基づいて後述する手順に従ってMR画像データを発生する。
【0023】
第1RF受信コイルを介して受信されたエコーと第2RF受信コイルを介して受信されたエコーとを再構成処理にかけることで、N/2アーチファクトが無くしかも血流信号を強調した画像と、N/2アーチファクトが無くしかも血流信号を抑圧した画像と、N/2アーチファクト及び血流アーチファクトの低減され、しかもS/N低下のない画像との3種類の画像の取得を実現している。画像ディスプレイ29は、これらの画像を表示するために設けられている。
【0024】
(画像生成処理)
図5に、画像生成処理の手順を示している。まず、EPI又はFSEのマルチエコーパルスシーケンスに従って、複数のエコーが連続的に発生する。EPIであれば、図6、図7に示すように、1回の励起後、傾斜磁場を正負両極性間で振動させることにより、複数のエコーを連続的に発生させる。また、図8に示すように、FSEでは、反転高周波パルス(一般的には180°パルス)を連続的に印加することにより、エコーを連続的に発生させる。
【0025】
このデータ収集は、マルチRF受信コイル4の第1RF受信コイルと第2RF受信コイルとを介してデータ収集部11により個別に行われる。
【0026】
計算機12は、まず、第1RF受信コイルを介して収集されたエコートレインを、奇数番目に収集したエコーのセットd1oと、偶数番目に収集したエコーのセットd1eとに分ける。同様に、計算機12は、第2RF受信コイルを介して収集されたエコートレインを、奇数番目に収集したエコーのセットd2oと、偶数番目に収集したエコーのセットd2eとに分ける。
【0027】
次に、計算機12は、エコーセットd1oに基づいて、2次元フーリエ変換(2DFT)により、画像I1o(x,y) を発生する。計算機12は、エコーセットd1eに基づいて、2次元フーリエ変換(2DFT)により、画像I1e(x,y) を発生する。計算機12は、エコーセットd2oに基づいて、2次元フーリエ変換(2DFT)により、画像I2o(x,y) を発生する。計算機12は、エコーセットd2eに基づいて、2次元フーリエ変換(2DFT)により、画像I2e(x,y) を発生する。このように4つのエコーセットd1o,d1e,d2o,d2eから、4種類の画像I1o(x,y) ,I1e(x,y) ,I2o(x,y) ,I2e(x,y) がそれぞれ発生される。受信エコーを奇数エコーと偶数エコーとに分離したため各々の画像データはエンコードステップ数が1/2になるので、これら4種類の画像には、Dを再構成領域のエンコード方向の長さとして、D/2の折り返りが生じている。
【0028】
次に、第1RF受信コイルの奇数エコーセットから再構成した画像I1o(x,y) と、第2RF受信コイルの奇数エコーセットから再構成した画像I2o(x,y) とを、第1RF受信コイルの感度分布行列S1(x,y)の逆行列と、第2RF受信コイルの感度分布行列S2(x,y)の逆行列とを用いてアンフォールド処理をすることにより、奇数エコーのみからなる折り返りのない奇数画像I0o(x,y) が生成される。
【0029】
同様に、第2RF受信コイルの偶数エコーセットから再構成した画像I1e(x,y) と、第2RF受信コイルの偶数エコーセットから再構成した画像I2e(x,y) とから、第1RF受信コイルの感度分布行列S1(x,y)の逆行列と、第2RF受信コイルの感度分布行列S2(x,y)の逆行列とを用いてアンフォールド処理をすることにより、奇数エコーのみからなる折り返りのない偶数画像I0e(x,y) が生成される。
【0030】
この手順は、文献(10th Ann.Scientific Meeting SMRM.1240,1991他)にある通りであり、概略手法は従来説明の項で述べた通りである。
【0031】
上述のように本実施例では、エンコードステップを減らして撮像する代わりに、EPIデータを奇数と偶数の2つに分け、奇数エコーセットd1o,d2o及び偶数エコーセットd1e,d2eの全てを計算対象とする。このように、奇数エコーセットと偶数エコーセットとに分けると、各々セットは、ちょうどエンコードステップ数を半分に減らして撮像したケースと等しくなる。従って、マルチRFコイルに関わる再構成手法が適用でき、別々の画像を得ることが可能となる。
【0032】
即ち、奇数画像I0o(x,y) 、偶数画像I0e(x,y) それぞれに対して以下の関係式が得られる。
【数3】

【0033】
従って、画像I0o(x,y) 、I0e(x,y) は逆行列を掛けて、
【数4】

【0034】
により求めることが出来る(アンフォールド処理)。
【0035】
このようにして得られた偶数画像I0o(x,y) と奇数画像I0e(x,y) とはそれぞれ異なった特徴を有している。特に、血流に関して大きな違いがある。ここで、撮像対象として一定流速で流れている血流を仮定する。
【0036】
偶数画像I0e(x,y) は、いわゆるEERと呼ばれるように流れによる位相分散がリフォーカスされた偶数エコーセットから再構成された画像であり、従って血流の描出能が高く、血流アーチファクトも少ない。つまり画像I0e(x,y) は、血流強調画像としての臨床上の有効性を備えている。
【0037】
一方、奇数画像I0o(x,y) は、血流による位相分散を受けた奇数エコーセットから再構成された画像であるため、フロー部分の描出能が低い、つまり血流抑圧画像として臨床上の有効性を備える。
【0038】
但し、各エコーは血流による位相分散は受けているが、その位相シフト量は各エコーとも一定であり、偶数エコーと奇数エコーを同時に用いた場合にくらべ、位相の不連続性、つまり1エコーおきに位相シフトゼロとある一定量の位相シフト量が交互に現れるという現象が少ないため、こちらも、血流アーチファクトは少ない。また、N/2アーチファクトの面から見ても、各々、奇数又は偶数の片側エコーのみからなる画像のため、N/2アーチファクトは原理的に生じない。
【0039】
最終ステップとして、奇数画像I0o(x,y) と偶数画像I0e(x,y) とを合成して1枚の最終画像I0(x,y) を得る。具体的には、奇数画像I0o(x,y) と偶数画像I0e(x,y) との二乗和の平方根により、最終画像I0(x,y) を得る。この最終画像I0(x,y) は、血流アーチファクト及びN/2アーチファクトの無い画像I0o(x,y) 、I0e(x,y) から合成されたものであるため、当然のこととして、血流アーチファクト、N/2アーチファクトはない。しかも、各々の画像I0o(x,y) 、I0e(x,y) は、エンコードステップ数が半分に減っているため、S/Nが1/√2に低下しているが、合成された最終画像では、S/Nは低下しない。このように、S/Nを犠牲にせず、かつ、撮像速度も犠牲にせずに、血流アーチファクト、N/2アーチファクトのない良好な画像が得られる。
【0040】
一方、上記の手法で得られた奇数画像I0o(x,y) と、偶数画像I0e(x,y) とを用いて、血流の情報を示す画像を得ることも可能である。例えば、奇数エコーセットに由来する奇数画像I0o(x,y) と、偶数エコーセットに由来する偶数画像I0e(x,y) との位相差を求め、血流等の移動体の速度を反映した位相画像、若しくは、その時使用した傾斜磁場強度を用いて速度の絶対値に換算して速度画像を得ることもできる。具体的には、まず、血流等の移動体が、速度vの定速で初期位置x0 から、時刻tでの位置x(t) =v・t+x0 まで移動したとき、その移動に伴う位相シフトθは、
【数5】

【0041】
で与えられる。ただし、γは磁気回転比、Gは印加する傾斜磁場の強度、Tは傾斜磁場パルスGの印加時間である。ここで簡単のために、x0 =0とすると、
【数6】

【0042】
により速度vが求まる。
【0043】
ここで、偶数画像I0e(x,y) には、偶数エコーのリフォーカシング効果により、基本的に、位相シフトは生じない。ただし、装置の不完全性等による他の要因による位相誤差θ0 は含んでいる。一方、奇数画像I0o(x,y) は、移動に伴って、
【数7】

【0044】
で与えられる位相シフトが生じている。この奇数画像I0o(x,y) にも、偶数画像I0e(x,y) と同様に、装置の不完全性等による他の要因による位相誤差θ0 が含まれている。装置の不完全性等による他の要因による位相誤差θ0 を除去し、血流等の移動体の速度成分による位相差を求めるために、偶数画像I0e(x,y) と奇数画像I0o(x,y) との位相差を求める。ここで、偶数画像I0e(x,y) の実数部をIre(x,y)even と表し、偶数画像I0e(x,y) の虚数部をIim(x,y)even と表し、奇数画像I0o(x,y) の実数部をIre(x,y)oddと表し、奇数画像I0o(x,y) の虚数部をIim(x,y)oddと表すと、偶数画像I0e(x,y) と奇数画像I0o(x,y) はそれぞれ次のように与えられる。
【数8】

【0045】
従って、速度が次のように求められる。
【数9】

【0046】
また、上述の方法は、3次元にも適用できる。ここでは図9に示すように、4つのRF受信コイルC1,C2,C3,C4が配置されるものとする。また、図10に示すように、y軸に関して位相エンコードGe1をかけると共に、スライス方向(z軸)にも位相エンコードGe2をかけるものとする。Ge1のエンコードステップ数をMとし、Ge2方向には通常のマルチRFコイルを用いた高速化方法を適用するとしてエンコードステップ数はM/2で変化するとする。なお、ここでは、説明の便宜上、Ge1のエンコードステップ数は、Ge2のエンコードステップ数と同じMとして説明するが、実際には、Ge1のエンコードステップ数はM1で、Ge2のエンコードステップ数M2と相違する。図11には3次元の場合の画像生成手順を示している。これら4つのコイルC1,C2,C3,C4によりそれぞれ独立してデータ収集が行われる。4つのコイルC1,C2,C3,C4により収集されたデータをそれぞれrawC1、rawC2、rawC3、rawC4とする。各データを2次元の場合と同様に偶数データセットrawC1-e、rawC2-e、rawC3-e、rawC4-eと、奇数データセットrawC1-o、rawC2-o、rawC3-o、rawC4-oとに分離する。そして、各データセットをそれぞれ個々に3次元フーリエ変換処理(3DFT)にかける。これにより偶数画像ImC1-e、ImC2-e、ImC3-e、ImC4-eと、奇数画像ImC1-o、ImC2-o、ImC3-o、ImC4-oとが得られる。Ge1方向に関しては奇数データと偶数データとに分離し、またGe2方向にはエンコード数を1/2にしているので、両方向にアンダーサンプリングが生じて、これら画像には、図12に示すように、Ge1とGe2との2方向に折り返りが発生する。なお、dは、エンコード方向Ge1,Ge2の長さとする。なお、ここでは説明の便宜上、dは各エンコード方向で同じとしているが、各エンコード方向で互いに異なる長さを持つ場合には、それぞれの方向の長さd1,d2を与える。
【0047】
ここで、3Dデータで2方向に折り返りが生じている場合のアンフォールド処理について説明する。各コイルの感度分布を、Scl1、Scl2、Scl3、Scl4とすると、各コイルの画像Icl1、Icl2、Icl3、Icl4は、次のように与えられる。I0 は、折り返りのない元の画像である。
【数10】

【0048】
これを行列式にまとめると次のようになる。
【数11】

【0049】
従って、元の画像I0 は、逆行列をかけることで求めることができる(アンフォールド処理)。
【数12】

【0050】
このアンフォールド処理を、奇数画像と偶数画像とに対してそれぞれ適用することで、偶数画像I0-e(x,y)と、奇数画像I0-o(x,y)とが得られる。偶数画像I0-e(x,y) は、いわゆるEERと呼ばれるように流れによる位相分散がリフォーカスされた偶数エコーセットから再構成された画像であり、従って血流の描出能が高く、血流アーチファクトも少ない。つまり画像I0e(x,y)は、血流強調画像としての臨床上の有効性を備えている。一方、奇数画像I0-o(x,y)は、血流による位相分散を受けた奇数エコーセットから再構成された画像であるため、フロー部分の描出能が低い、つまり血流抑圧画像として臨床上の有効性を備える。
【0051】
さらに偶数画像I0-e と、奇数画像I0-o とを二乗和により合成することでS/Nの低下しない合成画像I0-synthを求めるようにしてもよい。また、位相差を求めて流れの情報を抽出するようにしてもよい。
【0052】
また、上記の3Dでは、4つのコイル各々のエコーをGe1に関しては奇数エコーと偶数エコーとに分けて処理し、一方、Ge2に関してはエンコードステップM/2でデータ収集していたが、Ge2に関してはエンコードステップMでデータ収集する場合、コイルは2つでよい。
【0053】
また、上記手法は、マルチスライスイメージングの場合にも適用可能である。つまり、上記説明では、シングルスライスであるが、選択励起を用いた撮影法において、繰り返し時間内に他のスライスの励起及びエコー収集を繰り返すマルチスライス型パルスシーケンスで収集したエコーから、第1、第2RFコイル各々に対応する奇数画像I1o,I2oを複数スライス各々に関して個別に再構成し、同様に第1、第2RFコイル各々に対応する偶数画像I1e,I2eを複数スライス各々に関して個別に再構成し、第1、第2RFコイル各々に対応する奇数画像I1o,I2oを2つのコイルの感度分布に基づいてアンフォールド処理して奇数画像I0oを生成し、第1、第2RFコイル各々に対応する偶数画像I1e,I2eをそれぞれのコイルの感度分布に基づいてアンフォールド処理して偶数画像I0eを作成し、奇数画像I0oと偶数画像I0eとを合成して最終画像I0を複数スライス各々関して個別に生成する。
【0054】
また、他のマルチエコーを用いる撮像法についても同様に適用可能である。たとえば、多重180度パルスを用いてマルチエコーを発生させる、シングルショットFSE法や、ハーフフーリエ法を併用するFSE等でも同様に適用可能である。
【0055】
また、マルチショットEPIの場合も、マルチコイル数を増やすことにより、同様に対応可能である。例えば、シングルショットの場合は、2つのRFコイルで、また2ショットの場合は、4つのRFコイルを用いればよい。つまり、Nショットの場合には、2×NのRFコイルを用いればよい。
【0056】
さらに、上記アーチファクトを低減するために必要なRFコイル数(シングルショットの場合、1方向あたり2以上のRFコイル)よりも多くのRFコイルを用いることで、空間分解能を落とすことなく、撮像時間の短縮を図ることができるようになる。
【0057】
本発明によれば、複数のRFコイルに対応する複数の画像から少なくとも2以上のRFコイルの感度分布を使って画像を生成するため、N/2アーチファクト及び血流アーチファクトの問題に関して、奇数番目と偶数番目のエコーを別々に再構成処理にかけることで、撮像時間及びS/Nを犠牲にすることなく、解決している。なお、偶数画像は血流強調傾向があり、また奇数画像は逆に血流抑圧傾向があり、臨床上有効である。さらに、これら画像を合成することで、N/2アーチファクト及び血流アーチファクトの無いしかもS/N低下のない画像を得ることができる。さらに、上記アーチファクトを低減するために必要なRFコイル数(シングルショットの場合、1方向あたり2以上のRFコイル)よりも多くのRFコイルを用いることで、空間分解能を落とすことなく、撮像時間の短縮を図ることができる。
【0058】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することが可能である。さらに、上記実施形態には種々の段階が含まれており、開示される複数の構成要件における適宜な組み合わせにより種々の発明が抽出され得る。例えば、実施形態に示される全構成要件から幾つかの構成要件が削除されてもよい。
【符号の説明】
【0059】
1…静磁場磁石、2…ホールボディ型RF送信コイル、3…傾斜磁場コイル、4…RF受信コイルアレイ、5…傾斜磁場コイル電源、7…送信部、9…受信部、10…シーケンス制御部、11…データ収集部、12…計算機、14…ディスプレイ、41…第1RF受信コイル、42…第2RF受信コイル。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
静磁場中に置かれた被検体に対して高周波磁場パルスを発生する送信コイルと、
前記被検体に対して勾配磁場パルスを発生する勾配コイルと、
所定のパルスシーケンスに従って、前記高周波磁場パルスにより前記被検体の核スピンを1回励起し、それに続いて複数のエコーを連続的に発生させるために、前記送信コイルと前記勾配コイルを制御するシーケンサと、
前記エコーを受信する複数の独立した受信コイルと、
前記連続的に発生された複数のエコーのうちの奇数エコーと偶数エコーとに基づいて、前記複数の独立した受信コイルに関わる再構成手法を適用して、奇数画像と偶数画像とをそれぞれ発生する計算機とを具備することを特徴とする磁気共鳴映像装置。
【請求項2】
前記計算機は、前記受信コイルの感度分布に基づいて前記奇数画像と前記偶数画像とを発生することを特徴とする請求項1記載の磁気共鳴映像装置。
【請求項3】
静磁場中に置かれた被検体に対して高周波磁場パルスを発生する送信コイルと、
前記被検体に対して勾配磁場パルスを発生する勾配コイルと、
所定のパルスシーケンスに従って、前記高周波磁場パルスにより前記被検体の核スピンを1回励起し、それに続いて複数のエコーを連続的に発生させるために、前記送信コイルと前記勾配コイルを制御するシーケンサと、
前記エコーを受信する複数の独立した受信コイルと、
前記連続的に発生された複数のエコーのうちの奇数エコーに基づいて、前記複数の独立した受信コイルに関わる再構成手法を適用して、奇数画像を発生する計算機とを具備することを特徴とする磁気共鳴映像装置。
【請求項4】
静磁場中に置かれた被検体に対して高周波磁場パルスを発生する送信コイルと、
前記被検体に対して勾配磁場パルスを発生する勾配コイルと、
所定のパルスシーケンスに従って、前記高周波磁場パルスにより前記被検体の核スピンを1回励起し、それに続いて複数のエコーを連続的に発生させるために、前記送信コイルと前記勾配コイルを制御するシーケンサと、
前記エコーを受信する複数の独立した受信コイルと、
前記連続的に発生された複数のエコーのうちの偶数エコーに基づいて、前記複数の独立した受信コイルに関わる再構成手法を適用して、偶数画像を発生する計算機とを具備することを特徴とする磁気共鳴映像装置。
【請求項5】
前記計算機は、前記受信コイルの感度分布に基づいて前記奇数画像又は前記偶数画像を発生することを特徴とする請求項3又は4記載の磁気共鳴映像装置。
【請求項6】
前記シーケンサは、前記連続的に発生される複数のエコー全てに対して位相エンコードをかけることを特徴とする請求項1、2又は3記載の磁気共鳴映像装置。
【請求項7】
前記計算機は、前記奇数画像と前記偶数画像とから前記被検体内の移動体の移動速度を表す位相画像を発生することを特徴とする請求項1記載の磁気共鳴映像装置。
【請求項8】
前記パルスシーケンスは、周波数エンコードを第1軸、位相エンコードを第2軸に関してかける2次元FTに対応し、且つ前記勾配磁場の高速反転により前記エコーを連続的に発生させるタイプのパルスシーケンスであることを特徴とする請求項1、3又は4記載の磁気共鳴映像装置。
【請求項9】
前記パルスシーケンスは、周波数エンコードを第1軸、位相エンコードを第2軸と第3軸とに関してかける3次元FTに対応し、且つ前記勾配磁場の高速反転により前記エコーを連続的に発生させるタイプのパルスシーケンスであることを特徴とする請求項1、3又は4記載の磁気共鳴映像装置。
【請求項10】
前記パルスシーケンスは、周波数エンコードを第1軸、位相エンコードを第2軸に関してかける2次元FTに対応し、且つ反転RFパルスの連続的な印加により前記エコーを連続的に発生させるタイプのパルスシーケンスであることを特徴とする請求項1、3又は4記載の磁気共鳴映像装置。
【請求項11】
前記パルスシーケンスは、周波数エンコードを第1軸、位相エンコードを第2軸と第3軸とに関してかける3次元FTに対応し、且つ反転RFパルスの連続的な印加により前記エコーを連続的に発生させるタイプのパルスシーケンスであることを特徴とする請求項1、3又は4記載の磁気共鳴映像装置。
【請求項12】
前記第2軸に関してかける位相エンコードのステップ数は、前記第3軸に関してかける位相エンコードのステップ数に対して前記受信コイルの数分の1をかけた数に設定されることを特徴とする請求項10記載の磁気共鳴映像装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−136194(P2011−136194A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−45308(P2011−45308)
【出願日】平成23年3月2日(2011.3.2)
【分割の表示】特願2010−255136(P2010−255136)の分割
【原出願日】平成13年3月8日(2001.3.8)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】