説明

磁気共鳴映像装置

【課題】3次元の高速スピンエコー法撮影を用いる磁気共鳴映像装置において、アーチファクトが低減されたフローイメージ(血流像)を得ることを目的としており、最終的には、信頼性の高い臨床診断用の画像を提供することを可能にすること。
【解決手段】3次元高速スピンエコー法に応じたパルスシーケンスにより映像化に必要なデータを収集する磁気共鳴映像装置は、前記パルスシーケンスには、読み出し傾斜磁場パルスの前後に当該読み出し傾斜磁場パルスに対して面積が半分で逆極性の傾斜磁場パルスを印加し、前記読み出し傾斜磁場パルスの印加方向とは異なるスライスエンコード方向にスポイラー用傾斜磁場パルスを印加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高速スピンエコー(FSE)法でフロー(主に血流)の3次元形態を映像化する磁気共鳴映像装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、「Hennig J, Multiecho imaging sequences with a low flip angles, JMR, 78: 397-407. 1988」や「Keifer B, et. al, Image acquisition in a second with half Fourier acquisition single shot turbo spin echo. J磁気共鳴映像装置 1994: 4(P): 1986」等多くの文献から伺えるように磁気共鳴映像装置の断面撮影の方法としては、リフォーカス用RFパルスを繰り返し印加することにより複数のエコーを発生させ、各エコーに異なる位相エンコード情報を付加することで撮影の高速化を図る高速スピンエコー法(Fast Spin Echo法:高速スピンエコー法)が一般的であり、また「Y. Kassai, et. al, 3D half-Fourier fast SE for heavy T2-weighted imaging, , In "Proceedings, ISMRM, 4th Annual Meeting", p736, 1996.」や「葛西由守、Fast ASEとその臨床応用、メディカルレビュー 69号, p. 28-34, 1998」等の文献に見られるように、高速スピンエコー法で3D撮影を行うことも選択肢のひとつとして実用化されている。図6に3D高速スピンエコー法によるパルスシーケンスの典型例を示している。
【0003】
また、最近の傾向としては、「RC Selmeka, et. al, HASTE imaging: Description of technique and preliminary results in the abdomen, J磁気共鳴映像装置, 6: 698-699, 1996」にも記述されているように、エコー間隔(Echo Train Spacing:ETS)を短縮することが可能となってきており、これまで以上に実質臓器や血流等動きのあるものも描出のターゲットとなってきた(「Y. Kassai, et. al, 3D Half-Fourier RARE with MTC for Cardiac Imaging, ISMRM, p806, 1998.」、「Miyazaki M, et al, A Novel MR Angiography Technique: SPEED Acquisition Using Half-Fourier RARE, J磁気共鳴映像装置 8: p. 505-507, 1998」、「Miyazaki M, et al, Fresh Blood Imaging at 0.5T: Natural Blood Contrast 3D MRA within Single Breathhold, ISMRM, p. 780, 1998」参照)。造影剤を用いない非侵襲血流描出法として重要性を増している。
【0004】
一方、傾斜磁場波形に対して定義される「モーメント」をゼロ化することで、動いているスピンに生じる「位相シフト」をゼロ化するグラディエント・モーメント・ヌリング(GMN法)が古くから提案されている。FSEにおける流れのアーチファクトの抑制手法として、図7に示すように、2次元(2D)の撮影法におけるグラディエント・モーメント・ヌリング法(「Hinks RS, et al, Gradient Moment Nulling in Fast Spin Echo, MRM 32: 698-706 (1994)」参照)があるが、3D撮影については十分に開示されていない。また、FSEにおいて、「ハーンスピンエコー成分のみをリフェーズ」するように傾斜磁場波形を工夫した。ベロシティ・インディペンデント・フェーズシフト・スタビライゼーション法(VIPS法、当初VISS法)があるが、一部の信号のみにしかリフェーズが行われないため、その有効性には限界があった(「Machida Y, et al. Velocity Independent Phase-Shift Stabilization (VIPS) Technique in FSE Flow Imaging, In "Proceedings, ISMRM. 7th Annual Meeting" ,p1910, 1999.」、「特願平11−4734号」参照)。
【0005】
このような従来の手法においては、血流からのゴーストアーチファクトの発生や血流信号のロスが生じるという現象がある。臨床診断での信頼性向上のために、こうしたアーチファクトを十分に抑制する必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の事情を鑑み、本発明の目的は、特に3次元の高速スピンエコー法撮影を用いる磁気共鳴映像装置において、アーチファクトが低減されたフローイメージ(血流像)を得ることを目的としており、最終的には、信頼性の高い臨床診断用の画像を提供することを可能にするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
3次元高速スピンエコー法に応じたパルスシーケンスにより映像化に必要なデータを収集する磁気共鳴映像装置は、前記パルスシーケンスには、読み出し傾斜磁場パルスの前後に当該読み出し傾斜磁場パルスに対して面積が半分で逆極性の傾斜磁場パルスを印加し、前記読み出し傾斜磁場パルスの印加方向とは異なるスライスエンコード方向にスポイラー用傾斜磁場パルスを印加する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の実施形態に係る磁気共鳴映像装置の構成を示す図。
【図2】本実施形態による第1のパルスシーケンス(3DでGMNを用い、スライス方向にCFS(コンスタント・フロップ・スポイラ)を用いる)を示す図。
【図3】本実施形態による第2のパルスシーケンス(3DでGMNを用いる)を示す図。
【図4】本実施形態よる第3のパルスシーケンス(3DでGMNを用い、スライス方向にVIPSを用いる)の読み出し用傾斜磁場の波形を示す図。
【図5】本実施形態による第4のパルスシーケンス(ミッシング・グラディエント法適用)を示す図。
【図6】従来例のパルスシーケンス(3DでGMNを用いない)を示す図。
【図7】従来例のパルスシーケンス(2DでGMNを用いる)を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して本発明による装置を好ましい実施形態により説明する。図1に本実施形態に係る磁気共鳴映像装置の構成を示す。静磁場磁石1は、被検体が挿入される例えば略円筒形状の撮影領域に静磁場を発生する。この静磁場磁石1の内側には、シムコイル3、傾斜コイル2、プローブ(RFコイル)4が配置されている。シムコイル電源6は、磁場均一性を向上するために磁場を発生するためにシムコイル3を駆動する。傾斜コイル電源5は、シーケンサ10の制御に従って、磁場強度が変化する向きが異なる3種類の傾斜磁場パルスを傾斜コイル2から発生させるために、傾斜コイル2を駆動する。なお、これら3種類の傾斜磁場をそれぞれ単独で又は適当に組み合わすことにより、スライス選択用傾斜磁場、位相エンコード用傾斜磁場、読み出し用傾斜磁場が形成される。送信部7は、シーケンサ10の制御に従って、高周波磁場パルスをプローブ4から発生させるために、プローブ4を駆動する。受信部9は、プローブ4を介して、横磁化成分から発生する磁気共鳴信号(ここではエコー)を受信し、これを増幅し、位相検波し、そしてディジタル信号に変換してからデータ収集部11に出力する。計算器システム12は、ディジタル信号に基づいて2Dまたは3Dのフーリエ変換処理によって画像データを再構成する。画像データはディスプレイ14に送られ表示される。
【0010】
次に、本実施形態において、シーケンサ10の傾斜コイル電源5、送信部7及び受信部9に対する制御により実現されるパルスシーケンスについて説明する。なお、シーケンサ10は、少なくとも以下に順番に説明する4種類のパルスシーケンスをユーザによる指定に従って選択的に実行可能である。
【0011】
図2に示す第1のパルスシーケンスは、3D高速スピンエコー法撮影に、グラディエント・モーメント・ヌリング(GMN)を適用したものである。高速スピンエコー法は、周知の通り、励起用高周波パルス(90゜)で磁化を1度励起した後に、リフォーカス用高周波パルス(180゜)を一定の間隔で連続的に印加することで、複数のエコーを連続的に発生させ、この複数のエコーを1つの画像生成のために用いるというもので、このように1つの画像を作成するのに必要なデータを1度の励起で多数収集することで撮影時間の短縮を図ることを実現したものである。このような高速スピンエコー法を3D化するには、読み出し方向と位相エンコード方向との両方に直交する方向(スライス方向)に位相エンコードをかけるものである。
【0012】
もともとグラディエント・モーメント・ヌリングは、フロー(主に血流)のアーチファクトを抑制することを目的として検討されたものであり、特に、2Dの高速スピンエコー法で、例えば頚部サジタルの一般画像を撮影することを目的として用いられている。一方、近年、高速スピンエコー法を3D化することによって、血管形態画像を得るいわゆるMRアンギオグラフィーとして利用できることが分かってきた。
【0013】
そこで、3D化した高速スピンエコー法による撮影に対して、GMNを適用する。GMN法としては、種々のパルス波形が取り得るが、その中で典型的なパルスシーケンスとしては、図2に示すように、読み出し用傾斜磁場パルス(斜線部分)の前後に、それに対して面積半分で逆極性の傾斜磁場パルス(網掛け部分)を印加するというものである。これにより、エコー時間において位相シフトを起こしている血流の磁化スピンは、次のリフォーカス用傾斜磁場パルス印加前に、リフェーズされる。これにより血流からの信号は複数のエコーにわたって高信号が維持されて、フローエンハンスされたイメージ(血流強調像)が得られることとなる。
【0014】
もちろん、短い撮影時間で血流描出に必要な3Dデータを収集し終えるために、2次元としてはシングルショットのハーフフーリエ法を併用した撮影を3次元に拡張した手法が有用である。ここにハーフフーリエ法とは、MRIデータの対象性を利用して、半分強の収集データから画像化に必要なデータを作成して高速化を図る手法である。このハーフフーリエ法を併用した3D高速スピンエコー法に対して、GMN法を適用することも可能である。
【0015】
図3に示す第2のパルスシーケンスは、3D高速スピンエコー法撮影に、GMN法とスポイラー法とを併用するものである。
GMN波形には複数の種類があるが、図2に示した波形は、リフォーカスパルス(フロップパルス)から発生するFID信号が、映像に必要なエコー信号を収集する際に信号を形成してしまう。そこで、これを無信号化するためのスポイラー用の傾斜磁場パルスを印加するのが、図3に示す第2パルスシーケンスの特徴である。この第2パルスシーケンスは、図2に示したGMNを併用した3D高速スピンエコー法撮影において、特定の方向については、GMNでフローエンハンスを図り、他の方向についてはFID信号をスポイラーパルスで無信号化するものである。
【0016】
特に、スポイラーの印加法としては、RFパルス印加後の傾斜磁場を一定量印加する図3に斜線で示すコンスタント・フロップ・スポイラ(CSF)を採用する(特願平11−353168号)。このCSF方式は、非常に効率的にスポイル効果を得ることができるため、FID信号によるアーチファクトが出やすいGMN法との相性がすこぶるよい。従って、FID信号によるアーチファクトの無いフローイメージを得ることが可能になる。
【0017】
次に第3のパルスシーケンスについて説明する。上述の方法では、スライス方向の流れについては、ディフェーズが生じてしまうことが避けられない。しかもスポイラーの印加は必須である。そこでさらに、スポイラー用の傾斜磁場パルスに対し、VIPS法を適用する。このVIPS法について、図4を参照して詳細に説明する。図4(a)は、図3のCFS併用のスライス選択用傾斜磁場パルス列に等価である。
【0018】
このスライス選択用傾斜磁場は、図4(b)に示すスライスエンコード(2)と、図4(c)に示すスライス選択(1)及びスポイラー(3)の3つの働きが合成されてなる。この中でスライス方向の位相エンコード(スライスエンコード)用の可変部分でないスライス選択(1)とスポイラー用傾斜磁場(3)に対して、VIPS法を併用する。VIPS法は、図4(c′)の矢印で示すように、スポイラーパルスの印加時期をずらして、初期のグラディエントモーメント(GM)、例えば第2エコーまでの1次のGMを、後続のエコー間のGMの半分になるようにするものである。従って、最終的に形成されるスライス選択用傾斜磁場の波形としては、図4(b)のスライスエンコードのための波形に、図4(c′)の波形を合成することにより得られる図4(a′)に示す波形になる。
【0019】
これにより、スポイラーとして用いるスライス方向のディフェーズを最小限に抑制して、アーチファクトを抑圧することができる。
【0020】
次に第4のパルスシーケンスについて説明する。このパルスシーケンスは、GMN法を併用した高速スピンエコー法に、ミッシング・グラディエント(Missing Gradient:MG) 法を適用したものである。
【0021】
GMNの高速スピンエコー系の撮影で、図2に示したようなGMNの代表的な手法では、周期的に印加されるリフォーカスパルス(180゜)間の読み出し用傾斜磁場の面積がゼロになるように設定されている。また、高速スピンエコー法で、最も一般的な撮影法では、位相エンコード用傾斜磁場の面積は一般的にはゼロになるように設定されている。従ってこれらの傾斜磁場パルスの一部は省略可能である。
【0022】
特に、実効エコー時間(TE)が長いMRCPのような撮影では、ハーフ再構成(ハーフフーリエ法)に必要なk空間中心付近のデータは残すものとして、k空間中心付近以外の途中までのエコーは必ずしも取得せずとも画像を作成することができる。
【0023】
図5に点線で示すように、GMNを用いた方向、位相エンコードを印加する方向のどちらかまたは両方について、部分的に傾斜磁場印加を印加しない区間を設ける手法、つまりミッシング・グラディエント法(一般的にMIGHT法(Missing Gradient Half-Fourier 高速スピンエコー法 Technique)と略称される)を適用する。
【0024】
例えばエコー間隔6ms、実効エコー時間=240msと仮定すると、通常は第40番目のエコーが実効エコー時間に相当するエコーとなる。そこで本来第34エコーが発生する部分までは傾斜磁場の印加を省略して、第35番目のエコーから初めて第40番目のエコーを中心にデータを取得することが可能である。この場合SN比はデータを取得しない分低下するが血流の描出能は向上することになる。
【0025】
スライス方向の傾斜磁場は図示していないが、ここまでに示したどの方法を使用してもよく、単純なスポイラー併用手法、CFS併用手法、CFS+VIPS併用手法などが可能である。
【0026】
なお、MIGHT法については3Dに限定されるものではない。2Dにおいても単純なスライス方向のスポイラー手法と併用することで実現が可能である。
【0027】
本発明は上述した実施形態に限定されず、種々変形して実施可能である。
【符号の説明】
【0028】
1…静磁場磁石、2…傾斜コイル、3…シムコイル、4…プローブ(RFコイル)、5…傾斜コイル電源、6…シムコイル電源、7…送信部、9…受信部、10…シーケンサ、11…データ収集部、12…計算器システム、13…コンソール、14…ディスプレイ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
3次元高速スピンエコー法に応じたパルスシーケンスにより映像化に必要なデータを収集する磁気共鳴映像装置において、
前記パルスシーケンスには、読み出し傾斜磁場パルスの前後に当該読み出し傾斜磁場パルスに対して面積が半分で逆極性の傾斜磁場パルスを印加し、前記読み出し傾斜磁場パルスの印加方向とは異なるスライスエンコード方向にスポイラー用傾斜磁場パルスを印加することを特徴とする磁気共鳴映像装置。
【請求項2】
前記スポイラー傾斜磁場パルスは、初期のグラディエントモーメントが後続のエコー間のグラジエントモーメントの半分になるように印加されることを特徴とする請求項1記載の磁気共鳴イメージング装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2011−62569(P2011−62569A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−112(P2011−112)
【出願日】平成23年1月4日(2011.1.4)
【分割の表示】特願2000−18894(P2000−18894)の分割
【原出願日】平成12年1月27日(2000.1.27)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】