説明

磁気共鳴装置

【課題】物質の定量解析の際に必要な複数の多次元スペクトルを短縮した計測時間で取得することができる磁気共鳴装置を提供する。
【解決手段】本発明は、上記課題を解決するため、少なくともt軸、t軸から構成される2次元以上の多次元全時間領域データから部分的に抽出された時間領域データから再構成によって2次元以上の多次元スペクトルを取得し、該部分的に抽出された時間領域データとt軸方向に重複する領域を一部有するが、該部分的に抽出された時間領域データと異なる領域である、該全時間領域データから部分的に抽出された時間領域データから再構成によって多次元スペクトルを取得し、これ等のスペクトルを用いて物質の濃度を算出する構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気共鳴現象を利用する磁気共鳴装置の磁気共鳴スペクトロスコピーを用いた物質の濃度や化学反応などの定量分析に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気共鳴装置は、磁気共鳴現象を利用して物質の様々な情報を取得でき、化学分析をはじめとして広く用いられている装置である。特に、医学の分野で用いられているMagnetic Resonance Imaging(MRI)装置は、生体内の水の分布を緩和時間等の情報を付与して画像化することにより非侵襲に形態情報を取得することが可能であり、必須の磁気共鳴装置となっている。また、その他の様々な物質の内部を画像化できる磁気共鳴装置としてMRI装置は期待を集めている。
【0003】
一般の磁気共鳴装置のイメージングでは、観測対象が水(水分子中のH)のみであるのに対して、Magnetic Resonance Spectroscopy (MRS)、あるいは分布を求めることのできるMagnetic Resonance Spectroscopic Imaging (MRSI)のイメージングでは、水以外の物質を観測対象としている。それらのイメージングでは、生体内あるいは物質内の化合物のH、13Cあるいは31P等の磁気共鳴(Nuclear Magnetic Resonance(NMR))信号を検出することによって生体内の代謝情報などや物質内部の水以外の情報をも非侵襲に取得することができる。
【0004】
それらのイメージングでは、化合物の分子構造の違いから生ずるH等の磁場環境の差、すなわち化学シフトの差が共鳴周波数の若干の差となり、各化合物ピークを周波数軸上で分離できるようになる。
【0005】
例えば、H MRSでは脳内でNアセチルアスパラギン酸(NAA)、クレアチン(Cr)、コリン(Cho)等の化合物ピークを取得することができる。また、生体内の代謝物に関しては、それらの化合物は脳内の化学変化、すなわち代謝変化により合成される物質、すなわち代謝物であるため、この代謝物の定量化、すなわち濃度計測により代謝異常を診断できると期待されている。
【0006】
その代謝物の定量化の方法として現在、一般的に用いられている方法は、所望の部位から得られた1次元スペクトルを非特許文献1に記載の線形結合モデル(LCModel:Linear Combination Model)を利用して解析を行い、代謝物の濃度を算出する方法である。具体的には、図12に示すPRESS法や、図13に示すSTEAM法といったパルスシーケンスを利用して、観測対象物内の空間3次元の局所領域からの磁気共鳴信号を取得した後、1次元フーリエ変換を主要素とする1次元再構成により1次元スペクトルを得て濃度を算出する。
【0007】
この磁気共鳴信号、そして再構成の結果得られる1次元スペクトルは、Tの時定数の信号減衰で特徴付けられるスピン−スピン緩和の影響を受けて減衰するため、定量化のためにはスピン−スピン緩和(以下、T緩和という。)による減衰の補正(以下、T補正という)を行うか、あるいはT緩和の影響を無視できるようにして磁気共鳴の信号取得を行う必要がある。
【0008】
緩和は、上述のパルスシーケンスのエコー時間(TE)の時間長で生ずるため、T補正を行う方法では、異なるTEでの磁気共鳴信号を取得し、TEに依存した磁気共鳴信号の変化からモデル式を用いたフィッティングなどの解析方法でTを算出し(以下、この解析をT解析と呼ぶ)、これを用いて信号強度を補正する。これに対して、T緩和による信号減衰(以下、Tによる信号減衰ということもある。)を無視できるようにする方法では、信号減衰を小さくするために、できるだけ短縮したTEで磁気共鳴信号を取得する。
【0009】
例えば、磁場強度が4.7 Tの磁気共鳴装置を用いて、5ms(ミリ秒)のTEで取得したヒト脳から非侵襲に取得したSTEAMスペクトルを図14に示す。一般的に、TEによる信号変化は、exp(−TE/T)で表せるので、例えば、T=100msとすると、上記のTE=5msでは、高々5%の信号減衰に留まる。可能な限りTEを短く設定しなければならないため、装置性能に依存するところはあるが、1次元スペクトルでは定量化のために後者の方法がとられていることが多い。
【0010】
一方、図14に示した4.7T上のスペクトルでは、上述のNAA、Cr、Choといったピークが検出できている。しかし、神経伝達物質であるグルタミン酸(Glu)やγ−アミノ酪酸(GABA)といった代謝物では、分子内に多くのHを有しており、様子が異なる。
【0011】
例えば、図15に構造式を示すグルタミン酸では、図15に示す様に、分子内のHが電子を介在した相互作用であるスピンスピン結合、所謂Jカップリング(H間の同核種カップリング、JHHカップリング)をしており、本来、図16(A)の様なピークが、(B)の様に分裂したピークを呈する。これに、T緩和や磁場不均一性の影響が加わり、結果的に幅広のピークとなる(図16(C))。このため、それぞれのピークがオーバーラップし、ピーク分解能が不十分な1次元スペクトルとなる。
【0012】
例えば、図14のヒト脳スペクトルでは、良好なピーク分解能という特長を有する4.7Tという高磁場にあっても、例えば、2.3ppm付近では、グルタミン酸(Glu)、グルタミン(Gln)、γ−アミノ酪酸(GABA)がオーバーラップしたピークとして観測されている。このピークのオーバーラップが、上述の線形結合モデルを用いても定量化を阻害する要因となっていた。
【0013】
このピークのオーバーラップの問題を克服する一つの方法が2次元NMR法である。例えば、COSY(Correlation Spectroscopy)と呼ばれる相関スペクトロスコピー法では、図17の様に、1次元スペクトル上のピークに相当する対角ピークの他に、スピンスピン結合情報を示す交差ピークが得られ、従って、1次元スペクトルよりも分解能が向上したスペクトルが得られる。このCOSYパルスシーケンスは、2つの高周波パルス(以下、「RFパルス」という。)で構成される。
【0014】
例えば、核種としてHの場合を説明する。図18の様にHチャンネルより2つのRFパルスが被検体などの対象物に印加されて第1番目の磁気共鳴信号を収集し、磁気共鳴装置のデータ収集部を経て計算機システムに格納する。次に、繰り返し時間(以下、「TR」という。)後に、図18(B)の様に、第1のRFパルスの印加時刻と第2のRFパルスのそれとをずらして、すなわち2つのRFパルス間の遅れ時間長をΔtだけ時間シフトさせて得られた第2番目の磁気共鳴信号を収集する。この磁気共鳴信号を第1番目の磁気共鳴信号とは別個に計算機システムに格納する。続いて、次のTR後に、上述の遅れ時間長をさらにΔt時間シフトさせて第2のRFパルスを印加して第3番目の磁気共鳴信号を収集し、第1番目、第2番目の磁気共鳴信号とは別個に計算機システムに格納する。
【0015】
図19に示す2次元の時間領域データでは、磁気共鳴信号の時間軸(t)方向は、横軸方向、すなわち行方向としており、この場合、異なるTRの磁気共鳴信号は、異なる行に格納される。この図の縦軸方向、すなわち列方向を、t軸方向と呼ぶのは一般的である。COSYパルスシーケンスの第1のRFパルスによって横磁化の生起以降、化学シフトとJHHカップリングが展開し、それぞれが位相情報として横磁化に付与される。第2のRFパルスが印加されると、これらの位相情報を加味した横磁化、すなわち磁気共鳴信号が生起する。この磁気共鳴信号に対しても、化学シフトおよびJHHカップリングがそれぞれ展開し、それぞれの情報が付与される。従って、これ等の磁気共鳴信号を上述の様に格納して得られた2次元の時間領域データを2次元フーリエ変換を主要素とする2次元再構成することで、2次元スペクトルが得られる。そして、この2次元COSYスペクトル上では、1次元スペクトル上で現れるピークと同等である対角ピークの他に、スピンスピン結合、HとHとの場合は、JHHカップリングの情報を示す交差ピークが取得できる。従って、対角ピークでは分離できなかったものが、交差ピークで分離できるようになる。
【0016】
一方、定時間法、すなわちConstant Time法は、JHHカップリングを切る、すなわちデカップリングすることでさらにピーク分解能を向上させることができる方法である。図20には、Constant Time COSY(CT−COSY)パルスシーケンスを示す。このパルスシーケンスは、3つのRFパルスで構成される。第1と第3のRFパルスとが、COSYパルスシーケンスの第1と第2のRFパルスに相当する役割を呈し、CT−COSYパルスシーケンスの中の第2のRFパルスは、再結像パルスの役割であり、所謂180°パルスである。この180°パルスは、横磁化に対しては位相反転の結果、再結像の役割を呈する一方で、縦磁化に対しては反転の役割となる。横磁化に付与される位相情報の中で、化学シフトによる展開は、再結像される。
【0017】
一方、JHHカップリングによる展開は、位相反転と同時に、上述の様にスピンスピン結合する相手の核スピンの縦磁化の方向も反転する。この相手の核スピンの縦磁化の方向が回転方向を決めるため、結果的に再結像とは反対方向の回転方向となる。
【0018】
まとめると、180°パルスは、化学シフトによる展開は再結像するものの、JHHカップリングによる展開は再結像しない。従って、TR間で第1と第2のRFパルスの遅れ時間長は一定、すなわち一定時間長(Tct)として一定時間長条件を満たして、TRによる繰り返しが進む度に、すなわちTR毎に、180°パルスの印加時刻を時間シフト、すなわちt軸方向の時間シフトをしながら、第2のRFパルス以降に生起する磁気共鳴信号を検出すると、JHHカップリングの展開量がt軸方向には一定となる。
【0019】
そこで、得られる2次元の時間領域データを2次元フーリエ変換すると、t軸方向のフーリエ変換対であるF方向には、JHHカップリングによる分裂のないスペクトル、すなわちデカップリングされたスペクトルを得ることができる。このCT−COSYパルスシーケンスを、空間3次元の局所領域からのCT−COSY信号を取得できる様に応用した図21の局所励起CT−COSYパルスシーケンスを用いて、4.7T MR装置上で、ヒト脳の後頭−頭頂葉領域から取得したCT−COSYスペクトルを図22に示した(非特許文献2)。これにより、1次元スペクトル上では困難であったGlu、GABA、Glnを分離検出できる様になった。
【0020】
Constant Time法の他の方法として、CT−PRESS法(非特許文献3)が報告されている。この方法の基本骨格は、2つのRFパルスであり、第1のRFパルスに続く第2のRFパルスを180°パルスとして、この第2のRFパルスの印加時刻をTR毎に時間シフトして、磁気共鳴信号を収集し、2次元の時間領域データを取得する。
【0021】
図23には、非特許文献3に記載されているパルスシーケンスとは異なるものの、この基本骨格をもとにしたCT−PRESSパルスシーケンスを示す。このパルスシーケンスでは、JHHカップリングの展開量を一定とするために、全てのTRで、第1のRFパルスから磁気共鳴信号のデータ収集開始時刻までの遅れ時間長を一定時間長(Tct)とする。この方法では、CT−COSYスペクトルで得られるJHHカップリングの情報を示す交差ピークは検出されず対角ピークのみの検出となる。これは、全ての信号の成分を対角ピークに集めることができていることを意味しており、すなわち、CT−COSY法よりも感度の良いスペクトルを取得でき、JHHカップリングのデカップリングにより、対角ピークのピーク分解能が向上し、オーバーラップのない、あるいは小さいスペクトルを取得することができる。
【0022】
このCT−PRESS法を用いることで、ピーク分解能の良好な、感度の良いスペクトルを得ることが出来るため、精度良く代謝物濃度を計測、すなわち定量化することが期待できる。しかし、この濃度計測には、前述の通り、Tctの時間長で生ずるT緩和による信号減衰を補正する必要がある。この補正方法として、図24に示す様に、1次元スペクトルの定量化技術の際に述べたT計測法、すなわちTによる信号減衰を生ずる時間長、(CT−PRESSの場合には、Tctに相当する)を変化させてスペクトルを取得した後に、Tを算出およびT補正を行う方法を利用することができる。すなわち、Tctの異なる少なくとも2つのConstant Timeスペクトルを取得し、Tを算出して信号減衰を補正することが考えられる。
【0023】
具体的には、図24を参照して説明する。まず図24(A1)に示す様に、Tct_の条件で磁気共鳴信号を取得し、この再構成の結果、スペクトルを取得する。次に、(C1)で、スペクトル解析を行い、例えば、物質a、b、cのそれぞれのピーク体積を算出する。続いて、(D1)で得られたピーク体積を濃度換算可能な値、すなわち、この値を後述のT解析することで濃度が算出できる値に変換する。ここでは、変換された値を濃度基準量と呼ぶこととする。
【0024】
_
濃度算出に利用される値の変換方法としては、例えば、物質の内部の水Hの信号を用いてRFコイルの負荷因子を求めるなどの方法、あるいは外部標準を利用する方法などがある。同様に、Tct_の条件での磁気共鳴信号取得図24(A2)後、再構成によるスペクトル取得(B2)を行い、同様に、(C2)、(D2)のステップで、物質a、b、cのTct_での濃度基準量を求める。図24(D1)、(D2)で算出された値を用いて、(E)のT解析を実施し、物質a、b、cの濃度が算出できる。
【0025】
しかし、この方法では、複数の2次元スペクトルを取得する必要があり、時間がかかるという問題があった。例えば、2次元スペクトルのデータ収集には、おおよそ30分程度かかる。この結果、少なくとも2つのTctでのスペクトルを収集すると、少なくとも1時間程度の計測時間が必要であり、定量化のために時間がかかるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0026】
【非特許文献1】Provencher S. W. Estimation of metabolite concentrations from localized in vivo proton NMR spectra. Magn. Reson. Med. 1993; 30(6): 672−679.
【非特許文献2】Watanabe, H. − Takaya, N. − Mitsumori, F. Simultaneous observation of glutamate, γ−aminobutyric acid, and glutamine in human brain at 4.7 T using localized two−dimensional constant−time correlation spectroscopy, NMR in Biomed., 2008; 21(5): 518−526
【非特許文献3】Dreher W, Leibfritz D. Detection of homonuclear decoupled in vivo proton NMR spectra using constant time chemical shift encoding: CT−PRESS. Magn Reson Imaging. 1999; 17(1): 141−150.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0027】
本発明の目的は、物質の定量解析の際に必要な複数の多次元スペクトルを、ピーク分解能の良好かつ短縮した計測時間で取得し、物質の濃度計測をも可能とする磁気共鳴装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0028】
上記課題を解決するため、本発明は、第1に、静磁場中に設置された対象物に対して、少なくとも2つのRFパルスを、一定の時間毎に、第1のRFパルス以外の他のRFパルスの印加時刻を時間シフトさせて磁気共鳴信号を収集し、計算機システム内に少なくともt軸、磁気共鳴信号の時間軸(t)から構成される2次元以上の多次元全時間領域データとして格納する手段を具備する磁気共鳴装置において、該全時間領域データから部分的に抽出された時間領域データから再構成によって2次元以上の多次元スペクトルを取得し、該部分的に抽出された時間領域データとt軸方向に重複する領域を一部有するが、該部分的に抽出された時間領域データと異なる領域である、該全時間領域データから部分的に抽出された他の時間領域データから再構成によって他の多次元スペクトルを繰り返し複数の多次元スペクトルを取得することを特徴とする磁気共鳴装置の構成とした。また、第2の発明では、前記RFパルスを、スライス選択する勾配磁場パルスと同時に印加する90°パルス、180°パルス、180°パルスの3つのRFパルスとし、それらの中で、一定の時間間毎に、180°パルスのいずれか一方を時間シフトして印加し、前記磁気共鳴信号を収集することを特徴とする前記磁気共鳴装置の構成とした。
【0029】
第3の発明では、前記複数の多次元スペクトルからそれぞれのスペクトル上の物質のピーク体積を算出し、算出された該ピーク体積のT解析によって物質の濃度を算出することを特徴とする前記何れかに記載の磁気共鳴装置の構成とし、第4の発明では、前記複数の多次元スペクトルからそれぞれのスペクトル上の物質のピーク体積を算出し、計算あるいは計測からJカップリングによるピーク体積の変調を求め、算出された該ピーク体積より、求めたJカップリングによる該ピーク体積の変調を乗算した、Tによるピーク体積変化を用いて物質の濃度を算出することを特徴とする前記何れかに記載の磁気共鳴装置の構成とした。
【0030】
第5の発明では、前記部分的に抽出された時間領域データに対して、t軸方向に最大値を1つ有する関数をt軸方向に対して乗算し、最大値を示すt軸上の前記全時間領域データでの値を該部分的に抽出された時間領域データの代表値とすることを特徴とする前記何れかに記載の磁気共鳴装置の構成とした。第6の発明では、前記部分的に抽出された時間領域データの再構成から得られるスペクトル上に示されたピーク体積を前記代表値で重み付けされた関数でフィッティングすることで物質の濃度を算出することを特徴とする前記磁気共鳴装置の構成とした。
【0031】
さらに、第7の発明では、前記RFパルスによって得られる所望の物質に関する磁気共鳴信号を計算あるいは計測によって取得して、それぞれの物質に対して全時間領域データを求め、それぞれの該時間領域データに対して少なくともt軸方向にTによる信号強度変化の重み付けを行い、得られた時間領域データの線形結合モデルを用いてT解析を行い、所望の物質の濃度を算出することを特徴とする前記何れかに記載の磁気共鳴装置の構成とした。
【0032】
加えて、第8の発明では、前記複数の多次元スペクトルからそれぞれのスペクトル上の物質のピーク体積を算出し、算出された該ピーク体積から物質の反応速度を算出することを特徴とする磁気共鳴装置の構成とした。また前記RFパルスによって得られる所望の物質に関する磁気共鳴信号を計算あるいは計測によって取得して、それぞれの物質に対して全時間領域データを求め、それぞれの該時間領域データに対して少なくともt軸方向に化学反応による信号強度変化の重み付けを行い、得られた時間領域データの線形結合モデルを用いて化学反応の解析を行い、所望の物質の反応速度を算出することを特徴とする前記磁気共鳴装置の構成とすることもできる。
【発明の効果】
【0033】
本発明は、上記構成であるため、次の効果を有する。即ち、第1の発明によれば、短縮した計測時間で、異なるTctで重み付けされた複数の多次元スペクトルを取得することが可能となる。第2〜8の発明においては、上記効果に加え次の効果も発揮する。第2の発明によれば、空間3次元に局所化された領域から、短縮した計測時間で、異なるTctで重み付けされた複数の多次元スペクトルを取得することが可能となる。第3の発明によれば、得られた多次元スペクトルから物質の濃度を求めることが可能となる。第4の発明によれば、JHHカップリングを有する物質に対しても濃度を求めることが可能となる。第5の発明によれば部分的に抽出した時間領域データの代表値を制御することが可能となる。第6の発明によれば、制御した代表値を用いて濃度を算出することが可能となる。第7の発明によれば、得られた多次元スペクトルから所望の物質の濃度を求めることが可能となる。第8の発明によれば、物質の反応速度を求めることが可能となる。さらに、得られた多次元スペクトルから所望の物質の反応速度を求めることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の磁気共鳴装置の一実施の形態の構成図である。
【図2】本発明である濃度計測を行うためのパルスシーケンスである。
【図3】本発明の図2のパルスシーケンスによって得られる磁気共鳴信号を格納した全時間領域データに対して、0補填を適用したデータを示した図である。
【図4】本発明の全時間領域データから部分抽出時間領域データを抽出する方法を示した図である。
【図5】本発明の部分抽出時間領域データに対してt軸方向に適用する窓関数を示した図である。
【図6】本発明の物質の濃度を求める方法を示した図である。
【図7】本発明のT解析でのJHHカップリングの影響を示した図である。
【図8】本発明のJHHカップリングの影響を考慮したT解析を示した図である。
【図9】本発明のスペクトル解析を示した図である。
【図10】本発明の図9で得られる各物質の濃度基準量から各物質の濃度を算出する方法を示した図である。
【図11】本発明の濃度計測で用いるCT−PRESSパルスシーケンスの一実施の形態を示した図である。
【図12】従来技術であるPRESS法のパルスシーケンスを示した図である。
【図13】従来技術であるSTEAM法のパルスシーケンスを示した図である。
【図14】STEAM法のパルスシーケンスを用いて4.7Tの磁気共鳴装置で取得したヒト脳Hスペクトルである。
【図15】グルタミン酸の構造式とJHHカップリングの様子を示した図である。
【図16】JHHカップリングによるピークの分裂と、線幅の広がりを示した図である。
【図17】従来技術であるCOSYパルスシーケンスによって得られる2次元スペクトルの概念図である。
【図18】従来技術であるCOSYパルスシーケンスを示した図である。
【図19】COSYパルスシーケンスによって得られる磁気共鳴信号を2次元時間領域データに格納する様子を示した図である。
【図20】従来技術であるConstant Time−COSY(CT−COSY)パルスシーケンスを示した図である。
【図21】従来技術である局所領域からの磁気共鳴信号を取得できるCT−COSYパルスシーケンスを示した図である。
【図22】ヒト脳から得られたCT−COSYスペクトルである。
【図23】従来技術であるCT−PRESSパルスシーケンスを示した図である。
【図24】CT−PRESSパルスシーケンスから得られる2次元スペクトルを用いて物質の濃度を算出する方法を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明を実施するための形態である実施例を図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0036】
図1は、本発明の磁気共鳴装置の一実施例の構成図である。図1において、静磁場磁石1とその内側に設けられた勾配コイル2及びシムコイル3により、図示しない被検体に一様な静磁場とそれと同一方向で互いに直交するx、y,z三方向に線形勾配磁場分布を持つ勾配磁場が印加される。勾配コイル2は、勾配コイル電源5により駆動され、シムコイル4はシムコイル電源6により駆動される。勾配コイル2の内側に設けられた高周波磁場(RF)コイル4は、送信部7から高周波信号が供給されることによって被検体などの対象物にRFを印加し、対象物からの磁気共鳴信号を受信する。この結果、受信された磁気共鳴信号は受信部8で検波された後、データ収集部9に転送され、ここでA/D変換されてから計算機システム11に送られ、データ処理がなされる。
【0037】
以上の勾配コイル電源5、シムコイル電源6、送信部7、受信部8およびデータ収集部9は、全てシーケンス制御部10によって制御され、またシーケンス制御部10は計算機システム11によって制御される。計算機システム11はコンソール12からの指令により制御される。データ収集部9から計算機システム11に入力された磁気共鳴信号に対して後処理、すなわちフーリエ変換等の再構成等が行われ、それに基づいて被検体内の所望核スピンのスペクトルデータあるいは画像データが求められる。このスペクトルデータあるいは画像データはディスプレイ13に送られ、スペクトルあるいは画像等々として表示される。
【0038】
特に、シーケンス制御部10は、繰り返し時間(TR)毎に、RFパルスの印加時刻を時間シフトすることが可能な装置となっている。
【0039】
次に、本発明に関する良好なピーク分解能を有する多次元スペクトルの濃度計測方法について、2次元スペクトルの例を用いて説明する。
【0040】
このときのパルスシーケンスとして、従来技術で説明した図23のCT−PRESSシーケンスの中で、すなわち少なくとも第1のRFパルスと第2のRFパルスで構成されるパルスシーケンス(図2)を用いる実施例を説明する。
【0041】
ここでのパルスシーケンスでは、第1のRFパルス以外のRFパルスの印加時刻をTR毎に時間シフトして得られた磁気共鳴信号を収集し、計算機システムに格納される。第1のRFパルスと第2のRFパルスで構成されるパルスシーケンスの場合には、図2(B)に示す様に、第2のRFパルスの印加時刻を時間シフトする。
【0042】
HHカップリングをデカップリングするために全てのTRの磁気共鳴信号で、第1のRFパルスからの遅れ時間長が一定時間長(Tct)となる様に、すなわち一定時間長条件を満たす様にする。データ収集開始時刻をこの一定時間長条件に合致する様に設定していれば、得られた2次元の時間領域データを再構成に利用できる。あるいは、データ収集開始時刻がこの条件に合致していなければ、図3に示す様に合致する様に0補填(ゼロ補填)などを行う。これ等のいずれの場合でも、上述のJHHデカップリングの条件に合致した様に格納された磁気共鳴信号の集団を、全時間領域データと呼ぶこととする。
【0043】
次に、前記全時間領域データから図4に示す様に、t軸方向に部分的に時間領域データを抽出する。これを部分抽出時間領域データと呼ぶこととする。この部分抽出時間領域データ(これをTD1とする)に対して再構成を施す。例えば、窓関数などの処理後、2次元フーリエ変換を行う。この結果、F方向にJHHカップリングがデカップリングされた、すなわちピーク分解能の良好な2次元スペクトルを取得することができる。
【0044】
次に、図4に示す様に、前述の全時間領域データから上記の部分抽出時間領域データとt軸方向に重複する領域を有するものの異なる領域である別の部分抽出時間領域データ(これをTD2とする)を抽出する。全時間領域データから抽出された部分抽出時間領域データTD2についても上述の一定時間長条件を満たしているから、再構成によりF方向にJHHデカップリングされたスペクトルを取得できる。同様にして、複数の部分抽出時間領域データを抽出することができ、これ等からピーク分解能の良好な複数のスペクトルが取得できる。
【0045】
例えば、全時間領域データについては、t軸方向に、TRによる繰り返しが進む度に、すなわちTR毎に、収集される磁気共鳴信号が格納されている。すなわち、第1のRFパルスと第2のRFパルスとの遅れ時間長が異なるパルスシーケンスによって得られる磁気共鳴信号が格納されており、すなわち、それぞれのTEが異なる。
【0046】
ここで、例えば、TR毎に上述の遅れ時間長が長くなるようにパルスシーケンスを設計した場合、TR毎にTEが長くなっているため、TR毎の磁気共鳴信号の信号強度は、T緩和の影響を受けて減衰している。つまり、TR毎に、すなわち、t軸の正方向(図4下方向)に進むにつれて、T緩和の影響により信号強度が減衰した磁気共鳴信号が格納されている。これは、部分抽出時間領域データについても同様であり、従って、部分抽出時間領域データTD1から得られるスペクトルと、TD2から得られるスペクトルとでは、T緩和の影響を受けて、スペクトル上で信号強度を示す代謝物ピークのピーク体積が異なっている(以下、Tによるピーク体積変化ということもある)。
【0047】
図4の場合では、TD1よりもTD2の方が、T緩和の影響によりピーク強度が小さいスペクトルが得られる。つまり、全時間領域データからそれぞれが重複する複数の部分抽出時間領域データを抽出することで、T緩和の影響を受けた、ピーク体積の異なる複数のスペクトルが得られる。従って、これ等のスペクトルのそれぞれの代謝物ピーク体積のTの解析をすることで、後述のT補正が可能となる。この方法では、全時間領域データに相当する1セットの計測を行えば良いので、計測時間を短縮できる。
【0048】
このT解析としては、例えば、信号強度の変化が、exp(−TE/T)で表せる場合には、この式を用いてフィッティングすれば良い。この場合、TEに相当する時間長は、Tctである。CT−PRESSパルスシーケンスの場合、部分抽出時間領域データ内では、TR毎にTEが長くなっているため、格納された磁気共鳴信号の信号強度は、T緩和の影響により小さくなっている。そこで、部分抽出時間領域データに施す窓関数で、Tctを制御する。
【0049】
例えば、図5(A)の様に、部分領域時間データのt軸方向の中央の重みを1として、中央から遠くなるにしたがって徐々に小さくなるという窓関数を用いることで、中央でのTEが代表値、すなわち、この部分抽出時間領域データのTctとなる。この重み付けを行う窓関数は、図5(B)に示す様に、t軸方向の中央から偏った箇所を最大値である1とする様にすることも可能であり、この場合、この最大値の箇所がTctに設定される。
【0050】
複数の部分抽出時間領域データのTct、例えば、上述の図4で示した、部分抽出領域TD1とTD2のTctは異なる。これを利用して、定量化することができる。これを図6で説明する。
【0051】
最初に、図6(A)に示す様に、磁気共鳴信号を収集して、全時間領域データとして格納される。次に、例えば、(B1)から(C1)の様に部分抽出時間領域データTD1を抽出し、窓関数、0補填などを適用後、フーリエ変換を施し、スペクトルを得る(D1)。これが、Tct_で重み付けされたスペクトルである。この、部分領域の抽出、窓関数、0補填などの適用およびフーリエ変換、すなわち、全時間領域データ取得後からスペクトルを得る前までの工程を「再構成」と呼ぶこととする。
【0052】
次に、図6(E1)に示すように、Tct_で重み付けされたスペクトルのスペクトル解析を行い、それぞれのピークのピーク体積を算出する。図6の例では、得られるピークが物質a、b、cであるとしている。
【0053】
次に、図6(F1)に示す様に、内部水標準や、外部標準などの方法を用いてTct_での濃度基準量を算出する。
【0054】
同様に、全時間領域データからの部分抽出領域TD2に対しても、上述の方法を適用し、すなわち、(B2)、(C2)、(D2)、(E2)、(F2)を実施し、Tct_での濃度基準量を算出する。
【0055】
以上の結果、Tct_、Tct_でのそれぞれの濃度基準量が算出できる。次に、図6(G)で示す様に、それぞれの代謝物ピーク体積であるVolumeをTctの関数であるモデル式でフィッティングし、代謝物濃度を算出することができる。このモデル式として、例えば、1成分のTで構成される

Volume(Tct) ∝ M×exp(−Tct/T)・・・式(1)

が利用できる。
【0056】
式(1)で、Mは、熱平衡状態のスピン数であり、これから代謝物濃度を算出することができる。ここで示した式(1)は、例えば、複数成分のTのモデル式とすることも可能であり、この場合、上述の方法で、多くのTctでの濃度基準量を算出すれば良い。ここで示す方法では、計測としては、1回の全時間領域データの収集で十分であり、すなわち、重複した時間領域からスペクトルを取得することで、複数のTctでの濃度基準量を算出することができる。従って、定量化には複数のスペクトルが必要であるが、ここで示す方法では複数のスキャンが不要であり、従って、計測間が短縮できる。
【0057】
一方、例えばグルタミン酸やγ−アミノ酪酸などのJHHカップリングを有する代謝物では、TEを変化させたパルスシーケンスでは、得られる信号強度は、T緩和の影響の他に、JHHカップリングによる変調を受ける。この概念図を、図7に示す。従って、上述の様にT解析を行う場合に、図8の様に、JHHカップリングによる変調を考慮しなければならない。
【0058】
この変調については、例えば密度行列を用いた計算にから求めることができ、あるいは、別途、それぞれの物質を溶解した溶液サンプルでの磁気共鳴信号取得により求めることができる。T緩和による減衰とこの算出、あるいは計測したJHHによる変調を乗算したモデル式でフィッティングすることで、T解析が可能であり、定量化が可能である(図8)。
【0059】
このJHHカップリングによる変調を加味して解析する別の実施形態を次に説明する。この実施形態では、上述の全時間領域データに相当する、所望の物質に関するデータを用意しておく。これをそれぞれの物質に関する基底全時間領域データと呼ぶこととする。
【0060】
ここで、所望の物質とは、例えば、ヒト脳では、代謝物として、NAA、Cr、Choの他に、グルタミン酸(Glu)、γ−アミノ酪酸(GABA)、グルタミン(Gln)、Myoイノシトール(m−Ins)などが検出できる。そこで、これ等の検出可能な物質に関して、それぞれの基底全時間領域データを取得しておく。
【0061】
このような解析方法の一つとしては、例えば、前記代謝物を溶解した溶液をそれぞれ予め作製し、例えば、NAA溶液、Cr溶液、Glu溶液などを作製し、定量化を行いたい対象物に対して印加するパルスシーケンスを用いて、それぞれの溶液の基底全時間領域データを取得しておく。
【0062】
もう一つの解析方法としては、個々の物質の化学シフト、JHH情報をもとに例えば密度行列を用いて基底全時間領域データを計算しておく。以下、この方法(以下、「基底モデル」という。)を説明するために、図9を用いる。
【0063】
図9の中の、(A)、(B)、(C)、(D)、(E)、(F)は、それぞれ図6に示した(A)、(B1)、(C1)、(D1)、(E1)、(F1)に相当する。図9では、特に、この基底モデルの説明のために、図の中に、「各物質の基底全時間領域データを用いた線形結合モデル」を示している。ここでは、所望の物質として、物質a、b、cとしている。
【0064】
上述の様にして得られたそれぞれの物質の基底全時間領域データから、上述の対象物から得られた部分抽出時間領域データと同一条件の領域を抽出する。図9では、例えば、TD1と同一の領域を抽出している。
【0065】
次に、それぞれの物質の部分抽出時間領域データに対して、それぞれ物質a、b、c毎にT(物質a)、T(物質b)、T(物質c)による影響を重み付けし、これに加えて、線幅、ピーク体積などによる重み付けを行う。次に、この重み付けしたそれぞれの基底部分抽出時間領域データを加算し、すなわち、各物質の基底全時間領域データを用いた線形結合部分抽出時間領域モデルが計算できる。
【0066】
次に、この線形結合部分抽出時間領域モデルに対して、対象物から得られたそれに施したものと同一の再構成、すなわち、図9の(B)、(C)の再構成を施し、基底モデルによる線形結合スペクトルを得る。
【0067】
次に、図9(A)、(B)、(C)、から得られた対象物の部分抽出時間領域データから得られるスペクトル((D))に対して、上述の基底モデルによる線形結合モデルをあてはめて(E)のスペクトル解析を行う。
【0068】
図9(E)では、例えば、SIMPLEX法などの最小化方法を用いて、両者の間の残差二乗和が最小となるように、上述の「各物質の基底全時間領域データを用いた線形結合モデル」内に示したそれぞれの物質の線幅、ピーク体積などを変化させる。この結果、物質a、b、cのスペクトル上のピーク体積を算出することができる。続いて、(F)に示す様に、濃度基準量を算出後、図10に示すT解析を実施する。
【0069】
この方法では、それぞれの代謝物溶液を用いて計測した全時間領域データ、あるいは計算より算出した全時間領域データに、上述のJHHカップリングの影響が加わっている。この結果、この解析で算出されるピーク体積は、T緩和の影響のみを受けており、従って、式(1)で示した、T緩和の影響のみを考慮したモデル式でフィッティングすることで十分であり、T補正を行うことができる。この結果、定量化、すなわち物質の濃度を算出することができる。
【0070】
ここで、基底全時間領域データとして、代謝物溶液から収集した磁気共鳴信号を用いる場合には、これ等の磁気共鳴信号はそれぞれの溶液のT、すなわちT2_基底溶液の影響を受けている。従って、これ等の基底全時間領域データを用いたスペクトル解析から算出されるT2_apparentは、それぞれの溶液のTが加わった値であり、対象物の代謝物のT、すなわちT2_対象物よりも長い値となる。具体的には、

1/T2_apparent = 1/T2_対象物 − 1/T2_基底溶液・・・式(2)

で表すことができるが、この場合でもT解析により対象物の代謝物のMを算出することができ、従って、代謝物濃度を算出することができる。
【0071】
次に、CT−PRESSパルスシーケンスのより具体的な実施形態として、図11のパルスシーケンスを示す。このパルスシーケンスでは、対象物の中の所望の領域を限定することのできる、すなわち、空間3次元からの磁気共鳴信号を取得が可能であるCT−PRESSに係わるRFパルス列が全てスライス勾配磁場と同時に印加されるスライスパルスである例を示した。
【0072】
図11でのRFパルス列は、90°―180°―180°で構成される。加えて、このCT−PRESSパルス列の前段に印加するパルス、すなわちプリパルスとして、水信号抑圧パルス列や領域外飽和パルス列を設定している。このパルスシーケンスの場合には、TR毎に印加時刻を時間シフトするスライスパルスは、CT−PRESSパルス列の第2あるいは第3のRFパルス、すなわち90°パルス以降のいずれかの180°パルスとすれば良い。
【0073】
以上の実施形態では、全時間領域データが、T緩和の影響を受けている場合について述べた。これに加えて他の信号強度変化を受けている場合にも、この信号強度変化が式としてあるいは数値として表現できれば、本発明の方法を用いることができる。
【0074】
具体的な一つの例としては、全時間領域データの収集時間の中で化学反応を起こしている場合が挙げられる。化学反応は、反応速度を用いて、式として、あるいは数値として取り扱うことができるため、これを上述のスペクトル解析に加えることで反応速度を算出することができる。
【0075】
より具体的には、図9の「各物質の基底全時間領域を用いた線形結合モデル」で、T(物質a)、T(物質b)、T(物質c)による影響を重み付けしているが、これに加えて、化学反応によるそれぞれの物質の信号強度変化もこの線形結合モデルの中で重み付けすれば、反応速度を算出することが可能となる。パルスシーケンスとして、CT−COSYを用いる場合には、TR毎の全ての磁気共鳴信号のT緩和の影響が同じであるので、化学反応による信号強度変化だけを重み付けすれば良い。
【0076】
以上、2次元スペクトルを例として用いて説明したが、1次元よりも次元の多い多次元スペクトルでも、多次元の中の一つの次元に対して本発明の方法を適用することにより、計測時間を短縮することができる。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明である磁気共鳴装置は、短時間、かつ高いピーク分解で対象の物質濃度、反応速度をも定量化可能であるので、医療、生化学、化学分野に利用可能で、産業の発達に大きく貢献する。
【符号の説明】
【0078】
1 静磁場磁石
2 勾配コイル
3 シムコイル
4 RFコイル
5 勾配コイル電源
6 シムコイル電源
7 送信部
8 受信部
9 データ収集部
10 シーケンス制御部
11 計算機システム
12 コンソール
13 ディスプレイ
14 磁気共鳴装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
静磁場中に設置された対象物に対して、少なくとも2つのRFパルスを、一定の時間毎に、第1のRFパルス以外の他のRFパルスの印加時刻を時間シフトさせて磁気共鳴信号を収集し、計算機システム内に少なくともt軸、磁気共鳴信号の時間軸(t)から構成される2次元以上の多次元全時間領域データとして格納する手段を具備する磁気共鳴装置において、
該全時間領域データから部分的に抽出された時間領域データから再構成によって2次元以上の多次元スペクトルを取得し、該部分的に抽出された時間領域データとt軸方向に重複する領域を一部有するが、該部分的に抽出された時間領域データと異なる領域である、該全時間領域データから部分的に抽出された他の時間領域データから再構成によって他の多次元スペクトルを繰り返し複数の多次元スペクトルを取得することを特徴とする磁気共鳴装置。
【請求項2】
前記RFパルスを、スライス選択する勾配磁場パルスと同時に印加する90°パルス、180°パルス、180°パルスの3つのRFパルスとし、それらの中で、一定の時間間毎に、180°パルスのいずれか一方を時間シフトして印加し、前記磁気共鳴信号を収集することを特徴とする請求項1に記載の磁気共鳴装置。
【請求項3】
前記複数の多次元スペクトルからそれぞれのスペクトル上の物質のピーク体積を算出し、算出された該ピーク体積のT解析によって物質の濃度を算出することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の磁気共鳴装置。
【請求項4】
前記複数の多次元スペクトルからそれぞれのスペクトル上の物質のピーク体積を算出し、計算あるいは計測からJカップリングによるピーク体積の変調を求め、算出された該ピーク体積より、求めたJカップリングによる該ピーク体積の変調を乗算した、Tによるピーク体積変化を用いて物質の濃度を算出することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の磁気共鳴装置。
【請求項5】
前記部分的に抽出された時間領域データに対して、t軸方向に最大値を1つ有する関数をt軸方向に対して乗算し、最大値を示すt軸上の前記全時間領域データでの値を該部分的に抽出された時間領域データの代表値とすることを特徴とする請求項1〜請求項4の何れか1項に記載の磁気共鳴装置。
【請求項6】
前記部分的に抽出された時間領域データの再構成から得られるスペクトル上に示されたピーク体積を前記代表値で重み付けされた関数でフィッティングすることで物質の濃度を算出することを特徴とする請求項5に記載の磁気共鳴装置。
【請求項7】
前記RFパルスによって得られる所望の物質に関する磁気共鳴信号を計算あるいは計測によって取得して、それぞれの物質に対して全時間領域データを求め、それぞれの該時間領域データに対して少なくともt軸方向にTによる信号強度変化の重み付けを行い、得られた時間領域データの線形結合モデルを用いてT解析を行い、所望の物質の濃度を算出することを特徴とする請求項1〜請求項6の何れか1項に記載の磁気共鳴装置。
【請求項8】
前記複数の多次元スペクトルからそれぞれのスペクトル上の物質のピーク体積を算出し、算出された該ピーク体積から物質の反応速度を算出することを特徴とする請求項1に記載の磁気共鳴装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【公開番号】特開2010−249746(P2010−249746A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−101311(P2009−101311)
【出願日】平成21年4月17日(2009.4.17)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成21年4月3日 インターネットアドレス「http://www.ismrm.org/09/deadlines.htm」に発表
【出願人】(501273886)独立行政法人国立環境研究所 (30)