説明

磁気分離器およびそれを用いた分析装置

【課題】
免疫学的な分析方法に磁性粒子の捕集を適用する分析装置の、磁性粒子を非磁性粒子と分離する磁気分離器及びそれを用いた分析装置において、反応容器内で混合液から測定対象物と磁性粒子などが結合した反応生成物とそれ以外の非磁性成分を短時間に効率よく分離させること。
【解決手段】
磁性粒子が浮遊した液体を保持する反応容器の外側に、複数の磁石と磁性体が交互に積層した、各磁石の向かい合った面の磁極が同極である磁石複合体を配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は容器中に浮遊する磁性粒子を捕集する磁気分離器およびそれを用いた分析装置に係り、特に従来のものに比べ捕集効率の高い磁気分離器およびそれを用いた分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
媒体中に分散させた磁性粒子に磁場をかけて捕集する装置は各種分析に用いられているが、以下では血液等の生体サンプル中の抗原,抗体の有無およびその量を測定する免疫分析装置を例にして従来の技術を説明する。
【0003】
免疫学的な分析の一手法として、分析過程で、磁性粒子を試料中の測定対象物と結合させる抗体と、標識物質を含む標識抗体とを反応容器中で抗原抗体反応を行わせ、試料中の測定対象物と磁性粒子および標識抗体が結合した反応生成物を磁気分離手段により非磁性成分と分離する方法が知られている。
【0004】
この方法は例えば反応容器の外側に配置した磁石もしくは磁石複合体により反応容器中の溶媒に浮遊している磁性粒子を容器壁の内側に吸引させ、その間に容器壁に吸引しなかった溶媒、非磁性粒子を洗い流すことにより磁性粒子と非磁性体を分離するというものである(Bond/Free分離 B/F分離と呼称される)。
【0005】
従来の技術としては特許文献1に開示されたものが知られている。
【0006】
特許文献1には、コロイド状磁性材料を分離するために、反応容器の外側に4個の磁石がおおむね等間隔に、一方の隣り合う磁極が同極、他方の隣り合う磁極は異極であり、かつ対向する磁極は異極という配置をしていて、また、隣り合う異極の磁石同士を反応容器と反対側で磁性体を用いて連結する構造が記載されている。また、特許文献2には別の磁石配置を備えた磁気分離器が記載されている。更に磁石の配置に関してはこれら以外にも種々の方式が提案されているが、磁石の配置と浮遊している磁性粒子の捕集効率の関係をシミュレートするのが現実的に困難なことから、いずれも実験的な知見に基づいて提案されていると思われる。
【0007】
【特許文献1】特開2005−28201号公報
【特許文献2】特開2004−535591号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
免疫学的な分析方法に磁性粒子の捕集を適用する場合は、反応容器中の液体に分散/浮遊している磁性粒子を捕集するわけであるが、単純に磁場強度を大きい磁石を使えば捕集効率が向上するわけではない。磁石の近傍の容器壁付近に浮遊する磁性粒子、磁石から最も遠い位置にある容器の中心付近に浮遊する粒子などをまんべんなく捕集するための磁場分布をどのように設定すれば良いかについての理論は現在のところ明確になっていない。
【0009】
一方で、免疫学的な分析方法では分析時間の短縮化が求められており、B/F分離時間の短縮が望まれている。本発明の目的は、反応容器内の磁性粒子を、従来の技術よりもより短時間で捕集することのできる磁気分離器およびそれを用いた分析装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するための本発明の構成は以下の通りである。
【0011】
磁性粒子を含む液体試料を収容する反応容器を載置する反応容器支持手段と、該反応容器支持手段に該反応容器が設置された際に、該反応容器の外側に、複数の層状の磁石と、該磁石に挟まれた層状の磁性体とからなり、該磁石の対向する面の磁極が同極である磁石複合体を配置できる磁気分離器。また、該磁気分離器を備えた分析装置。
【0012】
免疫学的な分析手法に適用される磁性粒子は一般的に磁気ビーズと称される、直径が
μmオーダの球状粒子であるが、ここではそのようなものに限定されず、磁気を帯びた粒子であればどのようなものであっても良い。反応容器はガラス、プラスチック等からなる試験管状の容器が一般的であるが、液体試料を保持できるものであればどのような形状のものであっても良い。反応容器の外側とは、反応容器内の磁性粒子により強い磁場が与えられるように反応容器に接して設けられることが望ましいが、数mm〜数cmの間隔があってもかまわない。層状の磁石,層状の磁性体の層状とは、厚さ数mm〜数cmの板状部材である。
【発明の効果】
【0013】
磁性粒子を含む液体を収容する反応容器の内側壁に反応生成物を短時間に効率よく吸着させる磁気分離器を提供することができる。これを用いた分析装置は従来に比べ測定時間を短縮できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の磁気分離器は、試料と、磁性粒子と、この磁性粒子を前記試料中の測定対象物と結合させる抗体と、標識物質を含む標識抗体とを反応容器内もしくは管内で混合し抗原抗体反応を行わせ、試料中の測定対象物を磁性粒子および標識物質が結合した反応性生物を含む混合液を磁気分離手段により反応生成物と磁気的に補足されなかった非磁性成分を分離するための磁気分離器を備えた自動分析装置において有効に利用される。前記混合液に含まれる試料中には、分析精度低下の要因となる不純物が含まれる。そのため、磁気分離手段により反応生成物と不純物を含む非磁性成分を分離して、不純物を含む非磁性成分を除去した後に、検出器で反応性生物量を定量することにより、分析精度を向上できる。
【0015】
ここでは、試料と磁性粒子と試料中の測定対象物に結合する抗体と標識物質を含む標識抗体との抗原抗体反応を段付き円筒状の反応容器にて行う方法を前提に、以下本発明の実施例を示す。
【0016】
図1に本発明の磁気分離器の基本構成を示す平面図を、図2に図1の磁気分離器の断面図を示す。本実施例で示す磁気分離器では、反応容器1内の混合液中の反応生成物を磁気によって反応容器1の内側壁に効率よく捕捉するため、反応容器1を覆うように磁石複合体2を配置する。磁石複合体2は複数の磁石2aと磁性体2bが交互に積層しており、各磁石の向かい合った面の磁極は同極という構成をしている。また、本実施例では1個の磁石複合体2によって反応容器を覆っているが、2個以上で覆っても構わない。反応容器1は、段付き面が乗る穴をあけた保持部材3により保持される。
【0017】
また、図3で示すように、磁石複合体2に上下移動させる駆動手段を設けることにより、反応容器1に対して磁性複合体2を上下移動4させることにより、磁気分離器を広く応用することができる。
【0018】
例えば、一度反応容器1に磁石複合体2を接触あるいは接近させると、反応容器1内側壁に磁性粒子を含む反応生成物が補足される。その状態で、反応容器1の内側壁に補足されなかった不純物を含む非磁性成分を、吸引用ノズルで吸引除去できる。磁石複合体2を充分に離して洗浄液を分注すると、反応生成物は反応容器1内側壁から離れやすくなり、反応生成物全体に洗浄液が行き渡り、前記の吸引のみでは除去しきれなかった反応生成物に付着していた不純物を剥離できる。再び磁石複合体2を反応容器1に接触あるいは接近させると、反応容器1内側壁に磁性粒子を含む反応生成物が補足され、さらに前記と同様に吸引用ノズルにて不純物を含んだ洗浄液を吸引除去できる。以上の操作を繰り返すことで反応生成物の洗浄効果が高まり、より高精度な分析結果が得られる。なお洗浄液を分注した後に、反応生成物の結合が壊れない程度の攪拌作業を実施すれば、さらなる洗浄効果の向上が期待できる。従って、反応容器1に対して磁石複合体2を移動させる駆動手段を設けることは、特に磁性粒子を含む反応生成物の繰り返し洗浄を効果的に実施でき、非常に有用である。
【0019】
ここで、本実施例における磁気分離器の有用性確認のため、本実施例および従来の磁気分離器一例について、磁性粒子捕集時間および捕集効率を比較した。
【0020】
従来の磁気分離器例は図4のような構成となり、4個の磁石5を反応容器1の周囲に放射状等間隔で磁石の向きを反応容器1の中心に向け、一方の隣り合う磁極が同極、他方の隣り合う磁極は異極であり、かつ対向する磁極は異極という配置をしていて、また、隣り合う異極の磁石同士を反応容器と反対側で強磁性体6を用いて連結した。本実施例は、図1および図2で示すような構成となり、4個の磁石2aと3個の磁性体を交互に積層させ、各磁石の向かい合った面が同極になるようなリング形状の磁石複合体2を反応容器1のまわりに配置した。構成要素の寸法は、丸底円柱形状の反応容器1の外径は6mm、高さは26mm、リング形状の磁石複合体2の高さは7.5mm、内径は6mm、外径は15mmとし、磁石2aの厚さは1.5mm 、磁性体2bの厚さは0.5mmで、磁石5は、高さ7.5mm、幅5mm、奥行7mm(7.5×5mmの面が反応容器に接している)、磁性体6の高さは7.5mm、厚さは4mmとし、磁石複合体2の内面および磁石5と反応容器1は接触している。本実施例にて使用した反応容器1はポリプロピレン製の容器、磁石2aおよび磁石5は、ネオジウム系(信越化学コードN45相当品)のマグネット材、磁性体2bおよび磁性体6は、SS400相当(一般構造用圧延鋼材相当品)の強磁性体である。また、磁性粒子数の測定にはベックマンコールター社のMultisizer3を用い、磁性粒子溶液としては、Roche・Diagnostics社製Elecsys用TSH試薬中のMP液(以下、MP液とする)を用いた。
【0021】
つぎに磁性粒子捕集時間および捕集効率の測定手順について述べる。まず、充分に攪拌したMP液150μLを分注した反応容器1を反応容器保持部材3に設置し、2秒,3秒,5秒,8秒経過後に、吸引ノズルにてMP液を反応容器より吸引させた後、残液に150μLのMultisizer3用の希釈液アイソトンII_pcをピペッタにて分注,攪拌する。さらに攪拌後の溶液30μLを10mLのMultisizer3用の希釈液アイソトンII_pcで希釈した溶液500μLの磁性粒子数を測定した。また、リファレンスとして充分に攪拌したMP液30μLを10mLのMultisizer3用の希釈液アイソトンII_pcで希釈した溶液500μLの磁性粒子数も測定した。本測定は、図1および図2に示す本実施例での磁気分離器および図4に示す従来の磁気分離器の各々について、各捕集時間にて5重測定を行った。またリファレンスでの磁性粒子数に対する各測定条件での平均値の比を磁性粒子回収率として計算した。
【0022】
表1に本実施例での磁気分離器および従来の磁気分離器での、捕集時間2秒,3秒,5秒,8秒での磁性粒子回収率を示す。
【0023】
【表1】

従来の磁気分離器では、95%以上の磁性粒子回収率の達成には5秒の捕集時間が必要だったのに対し、本発明での磁気分離器では3秒の捕集時間で済むことが判った。
【0024】
ここで、免疫自動分析装置への本実施例の磁気分離器適用事例を示す。免疫自動分析装置は、図5の下側を前部とし、試料を載せるサンプルラック10,免疫反応に必要な試薬および磁性粒子の入った蓋付き試薬容器11aを収納する試薬ディスク11,蓋付き試薬容器11aの蓋の開閉を行う容器開閉機構12,試料の分取・分注を行う試料分注機構
13,蓋付き試薬容器11aから試薬および磁性粒子の分取・分注を行う試薬分注機構
14,蓋付き試薬容器11aの磁性粒子を攪拌する磁性粒子攪拌機構15,反応に用いる反応容器16a(以下ベッセルと呼ぶ)および試料の分取・分注に用いる分注チップ16bが収納されているマガジン16,ベッセル16a内の試料および試薬の反応を行う温度制御が可能な反応槽17、そして、ベッセル16aを反応槽17,ベッセル廃棄部18へ、分注チップ16bを、試料分注のため一時保管するバッファ19へ搬送する搬送機構20,試料の分注に用いた分注チップ16bを廃棄するチップ廃棄部21,反応槽17から磁気分離器22に、あるいは磁気分離器22から反応槽17にベッセル16aを搬送する搬送機構23,磁気分離器22に搬送されたベッセル16a内の不純物を含む液体を吸引する不純物吸引機構24,磁気分離器22に搬送されたベッセル16a内へ洗浄液を吐出する洗浄液吐出機構25,反応槽17から検出部26に、あるいは検出部26から反応槽
17へベッセル16aを搬送する搬送機構27,検出部26に搬送されたベッセル16aに対して検出用の試薬を吐出する試薬吐出機構28などから構成される。
【0025】
次に標準的な動作の説明をする。まず、ベッセル16aが搬送機構20によって、マガジン16から反応槽17へ、また分注チップ16bがバッファ19へ搬送される。反応槽17は回転し、搬送されたベッセル16aが試薬分注位置まで移動する。試薬分注機構
14により、試薬ディスク11から反応槽17上のベッセル16aへ試薬が分注される。再び反応槽17は回転し、ベッセル16aが試料分注位置まで移動する。バッファ19へ搬送されたチップ16bは、試料分注機構13の上下動によりチップ保持部へ装着され、サンプルラック10から試料を分取し、試料分注位置まで移動したベッセル16aへ分注される。使用された分注チップ16bは、試料分注機構13の上下動作によって、チップ廃棄部21へ廃棄される。試料と試薬の分注が終了したベッセル16aは、反応槽17で一定時間反応を待った後、反応槽17の回転により試薬分注位置まで移動し、試薬分注機構14によって、試薬ディスク11から、磁性粒子が分取・分注される。さらに反応槽
17で一定時間反応を待った後、反応槽17は回転し、搬送機構23によって反応槽17上のベッセル16aが磁気分離器22へ搬送される。磁気分離器22上では、ベッセル
16a内の反応生成物を含んだ磁性成分と不純物を含む非磁性成分を分離するために、不純物吸引機構24による吸引と洗浄液吐出機構25による洗浄液の吐出を繰り返し、最終的にベッセル16aないに反応生成物を含んだ磁性成分のみを残して、搬送機構23によって反応槽17にベッセル16aが戻される。反応槽17は回転し、搬送機構27によって検出部26へベッセル16aが搬送された後、試薬吐出機構28により検出のための試薬がベッセル16aに対して吐出され検出が行われる。検出が終了したベッセル16aは、搬送機構27により反応槽17へ戻され、反応槽17は回転し、搬送機構20によって廃棄部18へ廃棄される。以降、前述した動作をその後の試料に対して繰り返す。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の磁気分離器の簡単な構成を示す平面図。
【図2】図1に示した磁気分離器の断面図。
【図3】磁石複合体の駆動手段を備えた磁気分離器の実施例の図。
【図4】従来技術での磁気分離器の簡単な構成を示す平面図および断面図。
【図5】本発明の磁気分離器を適用した免疫自動分析装置の平面図。
【符号の説明】
【0027】
1,16a 反応容器
2 磁石複合体
2a,5 磁石
2b,6 磁性体
3 保持部材
4 上下移動
10 サンプルラック
11 試薬ディスク
11a 蓋付き試薬容器
12 容器蓋開閉手段
13 試料分注機構
14 試薬分注機構
15 磁性粒子攪拌機構
16 マガジン
16b 分注チップ
17 反応槽
18 反応容器廃棄部
19 バッファ
20,23,27 搬送機構
21 チップ廃棄部
22 磁気分離器
24 不純物吸引機構
25 洗浄液吐出機構
26 検出部
28 試薬吐出機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性粒子を含む液体試料を収容する反応容器を支持する反応容器支持手段と、
該反応容器支持手段に該反応容器が設置された際に、該反応容器の外側に、複数の層状の磁石と、該磁石に挟まれた層状の磁性体とからなり、該磁石の対向する面の磁極が同極である磁石複合体を配置する磁石配置手段と、
を備えたことを特徴とする磁気分離器。
【請求項2】
請求項1記載の磁気分離器において、
前記磁性体は強磁性体であることを特徴とする磁気分離器。
【請求項3】
請求項1記載の磁気分離器において、
前記磁石複合体は、前記反応容器を挿入可能な筒状の穴が前記磁石の層に対しほぼ直交する方向に設けられていることを特徴とする磁気分離器。
【請求項4】
請求項1に記載の磁気分離器と、
該磁気分離器に載置される反応容器に試料を分注する分注機構と、
該反応容器内で分離された磁性粒子に結合している標識体を検出する検出手段と、
を備えたことを特徴とする分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−209330(P2008−209330A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−48362(P2007−48362)
【出願日】平成19年2月28日(2007.2.28)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】