磁気回路、及びアクチュエータ
【課題】簡易な構成で強磁場を発生させることができ、小型化が可能な磁気回路を用いたアクチュエータを提供する。
【解決手段】磁場を環状に形成できる環状部2を有するヨーク1と、定常磁場を環状部に印加する定常磁場印加手段4と、強度を変更可能な磁場を環状部に印加できる可変磁場印加手段7とを備え、環状部が他の部位より細く形成された磁場集中部3を備えている、磁気回路、及び、該磁気回路と、該磁気回路の磁場集中部に配置された磁歪材料9とを備えるアクチュエータとする。
【解決手段】磁場を環状に形成できる環状部2を有するヨーク1と、定常磁場を環状部に印加する定常磁場印加手段4と、強度を変更可能な磁場を環状部に印加できる可変磁場印加手段7とを備え、環状部が他の部位より細く形成された磁場集中部3を備えている、磁気回路、及び、該磁気回路と、該磁気回路の磁場集中部に配置された磁歪材料9とを備えるアクチュエータとする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気回路、及び該磁気回路と磁歪材料とを備えたアクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、振動子や小型アクチュエータには、ピエゾ圧電素子が用いられていた。しかしながら、ピエゾ圧電素子は、機械的強度が弱く脆い等の問題があった。このような問題に対して、磁性金属の磁歪を利用したアクチュエータが開発されている。磁歪とは、磁場中で磁性金属に歪みが生じ、該磁性金属が伸び縮みする現象である。
【0003】
例えば、特許文献1には、磁歪材料を用いたアクチュエータやモータに関する技術が開示されている。また、特許文献2には、磁歪材料に最適な磁場を印加する方法に関する技術が開示されている。
【0004】
特許文献1等に記載されているFeGa系合金等の磁歪材料では、所定の大きさの磁場を印加することによって、最大で数10ppm程度の磁歪を発生させることができる。一方、A.E.Clarkらにより開発された、Feと希土類元素Dy、Tbとの合金であるTerfenol−D(登録商標)では、最大で2000ppmもの磁歪を発生させることができる。このような大きな磁歪が発生する合金は、超磁歪材料と呼ばれる。超磁歪材料は、ピエゾ圧電素子に比べて磁歪による変位量が桁違いに大きく、超磁歪材料をアクチュエータに用いた場合には、ピエゾ圧電素子に比べて非常に大きな機械的出力を得ることができる。また、超磁歪材料は、ピエゾ圧電素子に比べて交流磁場に対する磁歪の応答速度が速いという優位性も有する。さらに、超磁歪材料は、ピエゾ圧電素子に比べて加工が容易である、簡単な構造の機器に組み込むことができる、形状自由度が高い、使用可能温度域が広い等の優位性も有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−130988号公報
【特許文献2】特開平9−168197号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
超磁歪材料に磁歪を生じさせるためには、特許文献1に開示されているFeGa系合金等に磁歪を生じさせる場合に比べて強い磁場を印加する必要がある。例えば、Terfenol−D(登録商標)をアクチュエータとして利用する場合には、数千エルステッドから1テスラ程度の強磁場を必要とする。そのため、超磁歪材料をアクチュエータに適用するには、強い磁場を発生させることができる磁気回路が必要である。しかしながら、従来技術では、小型で強い磁場を発生させることができる磁気回路を作製することが困難であり、超磁歪材料を用いたアクチュエータを小型化することが困難であった。
【0007】
そこで、本発明は、簡易な構成で強磁場を発生させることができ、小型化が可能な磁気回路、及び該磁気回路を用いたアクチュエータを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下、本発明について説明する。
第1の本発明は、環状に形成された環状部を有するヨークと、定常磁場を環状部に印加する定常磁場印加手段と、強度を変更可能な磁場を環状部に印加できる可変磁場印加手段とを備え、環状部が、他の部位より細く形成された磁場集中部を備えている、磁気回路である。
【0009】
ここに、「環状に形成された」とは、磁場を印加された際に環状の磁場を形成できる形態に形成されていることを意味し、完全な環状の形態に形成されていることに限定される概念ではない。すなわち、環状部は、後に説明するように一部が切り欠かれている形態であってもよい。
【0010】
第1の本発明の磁気回路は、磁場集中部の一部が切り欠かれていることが好ましい。かかる形態とすることによって、切り欠かれた間隙部に磁歪材料を配置し、第1の本発明の磁気回路を後述する第2の本発明のアクチュエータに好適に用いることができる。
【0011】
第1の本発明の磁気回路は、ヨークが複数の環状部を備えており、複数の環状部がそれぞれ備える磁場集中部が一点に集中するように、複数の環状部が配置されていることが好ましい。かかる形態とすることによって、磁場集中部に大きな磁場を生じさせることが容易になる。
【0012】
第2の本発明は、上記第1の本発明の磁気回路と、該磁気回路の磁場集中部に配置された磁歪材料と、を備えるアクチュエータである。
【0013】
第2の本発明のアクチュエータは、磁場集中部に配置された磁歪材料がTbDyFe系合金であることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
第1の本発明によれば、簡易な構成で、強磁場を発生させることができ、小型化が可能な磁気回路を提供することができる。第1の本発明の磁気回路は、小型化することによってミリメートルオーダーの微小空間に強磁場を発生させることが可能である。また、第2の本発明によれば、第1の本発明の磁気回路を用いることによって、小型化が可能なアクチュエータを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】一つの実施形態にかかる本発明の磁気回路を概略的に示した平面図である。
【図2】図1に示した磁気回路のうち、ヨークを概略的に示した平面図である。
【図3】図2に示したヨークのうち、IIIの部分を拡大して示した図である。
【図4】他の実施形態にかかる本発明の磁気回路のうち、ヨークを概略的に示した平面図である。
【図5】他の実施形態にかかる本発明の磁気回路のうち、ヨークを概略的に示した平面図である。
【図6】他の実施形態にかかる本発明の磁気回路のうち、ヨークを概略的に示した斜視図である。
【図7】一つの実施形態にかかる本発明のアクチュエータを概略的に示した平面図である。
【図8】校正試験に用いた装置の構成を概略的に示した図である。
【図9】校正試験の結果を示した図である。
【図10】磁歪材料に印加した磁場と磁歪材料に生じた磁歪との関係を示す図である。
【図11】実施例で作製した実験用装置を概略的に示した平面図である。
【図12】オーディオアンプのスピーカー端子からの出力電圧と時間との関係を示す図(上段)及び磁歪材料の変位量と時間との関係を示す図(下段)である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の上記した作用及び利得は、次に説明する発明を実施するための形態から明らかにされる。以下、本発明を図面に示す実施形態に基づき説明する。ただし、本発明はこれら実施形態に限定されるものではない。
【0017】
<磁気回路>
図1は、一つの実施形態にかかる本発明の磁気回路10を概略的に示した平面図である。また、図2は、図1に示した磁気回路10のうち、ヨーク1を概略的に示した平面図である。図3は、図2に示したヨーク1のうち、IIIの部分を拡大して示した図である。図1に示した磁気回路10は、ヨーク1と、定常磁場印加手段4、4と、可変磁場印加手段7、7とを備えている。
【0018】
(ヨーク)
図1に示したように、ヨーク1は環状部2を2つ備えている。2つの環状部2には、それぞれ、後に説明する定常磁場印加手段4及び可変磁場印加手段7によって磁場が印加されている。図1に示した矢印M、M、…は、環状部2に形成される磁場の方向を示しており、矢印M、M、…で示したように、環状部2には環状の磁場が形成されている。また、環状部2は、他の部位より細く形成されるとともに一部が切り欠かれた部位3を備えている。後に説明するように、当該部位3は、磁場を集中させることができる部位であり、以下、磁場集中部3と記載する。2つの環状部2は、それぞれ磁場集中部3を備えており、それぞれが備える磁場集中部3が一点に集中するように、2つの環状部2が配置されている。よって、図1には、一つの磁場集中部3が表れている。
【0019】
また、環状部2は、図2に示すように、後に詳述する定常磁場印加手段4を配置できる切り欠き4aを備えている。図1に示したように、当該切り欠き4aに定常磁場印加手段4を配置することにより、定常磁場印加手段4によって環状部2に定常磁場を印加し、矢印M、M、…で示したような環状の磁場を環状部2に形成することができる。なお、図1に示した形態では、環状部2に切り欠き4aを設け、当該切り欠き4aに定常磁場印加手段4を配置しているが、本発明はかかる形態に限定されない。定常磁場印加手段は、環状部に定常磁場を印加できる状態で配置されていればよい。すなわち、環状部に切り欠きを設けずに、定常磁場印加手段を環状部上に載置した形態であってもよい。
【0020】
また、環状部2は、後に詳述する可変磁場印加手段7に備えられた円筒状のコイル5の中空部を通すようにして配置されている。そのため、当該コイル5に任意の大きさの電流を供給することによって、コイル5から環状部2に任意の強さの磁場を印加し、矢印M、M、…で示したような環状の磁場を環状部2に形成することができる。
【0021】
上述したようにして環状部2に環状の磁場が印加されると、磁場集中部3は環状部2の他の部位より細く形成されているため、磁場集中部3の磁力線の密度が環状部2の他の部位より高くなる。すなわち、磁場集中部3付近の磁場が強くなる。例えば、磁場集中部3における環状部2の端部の幅(図3に示したW1)と、交流磁場が印加される部位(コイル5が備えられる部位)の幅(図2に示したW2)との比は、W2:W1=10:5から10:2の範囲であることが好ましい。当該比が10:2よりも大きいと、磁場集中部3が小さくなり過ぎて実用的でなくなるうえに、磁場集中部3付近のヨーク1の磁化が飽和して、結果としてコイル5に加えた電圧に比例した磁場が磁場集中部3に生じなくなる虞がある。
【0022】
また、磁場集中部3に設けられた切り欠き部の間隔(図3に示したD)は、より狭い方が該切り欠き部に空間的に均一な磁場を生成することができるので有利である。切り欠き部の間隔(D)と磁場集中部3における環状部2の端部の幅(W1)との比は、D:W1=2:1程度であることが好ましい。この比よりも間隙(D)を広げると、磁場の漏れが大きくなり、磁場集中部3に磁場を集中させる効果が低下する虞がある。
【0023】
なお、磁場集中部3の切り欠き部に強磁性の磁性材料や超磁歪材料を設置する場合は、当該材料自体の強磁性により磁力線は当該材料内を通るので、切り欠き部の間隙は実質的に狭まることとなり、磁場集中部3における磁場の均一性が高まる。
【0024】
また、環状部2を通る磁束が磁場集中部3で集中し易くするためには、図1に示したように、鋭角がないように環状部2を形成し、磁力線の流れをスムーズにすることが好ましい。
【0025】
さらに、磁場集中部における磁場をより高め易くするには、図1に示したヨーク1のように略上下左右対称形状とし、対称軸が交わる位置に磁場集中部を形成することが好ましい。磁場の偏りのないスムーズな磁力線の流れを生じさせ、磁場集中部の磁場を高め易くなるからである。
【0026】
磁場集中部3に生じる磁場の大きさは、定常磁場印加手段4及び可変磁場印加手段7によって環状部2に印加する磁場の大きさを調整することにより、適宜調整可能である。磁場集中部3に生じさせる最大磁場は、例えば、0.2T以上2T以下とすることが好ましい。上述したように、超磁歪材料に磁歪を生じさせるためには強い磁場を印加する必要がある。磁場集中部3に生じさせる磁場を上記範囲にすることによって、磁場集中部3に超磁歪材料を配置した場合に、該超磁歪材料に大きな磁歪を生じさせやすくなる。
【0027】
これまでの磁気回路10の説明では、図1に示したように、ヨーク1が2つの環状部2を備え、該環状部2がそれぞれ、他の部位より細く形成されるとともに一部が切り欠かれた磁場集中部3を備え、それらの磁場集中部3が一点に集中するように2つの環状部2が配置されている形態について例示した。ただし、本発明はかかる形態に限定されない。図4は、他の実施形態にかかる本発明の磁気回路のうち、ヨークを概略的に示した平面図である。図5は、さらに他の実施形態にかかる本発明の磁気回路のうち、ヨークを概略的に示した平面図である。図6は、さらに他の実施形態にかかる本発明の磁気回路のうち、ヨークを概略的に示した斜視図である。
【0028】
本発明の磁気回路に備えられるヨークは、環状に形成された環状部を備え、該環状部が他の部位より細く形成された磁場集中部を備えていればよい。したがって、図4に示したヨーク1aのように、単に他の部位より細くすることによって切り欠きを有さない磁場集中部3aを形成してもよい。かかる形態であっても、磁場集中部3aでの磁束密度が他の部位より高くなり、磁場集中部3aに強い磁場を生じさせることができる。ただし、後に説明するように磁場集中部に磁歪材料を配置して該磁歪材料に磁場を印加する場合、図1に示した磁場集中部3のように磁場集中部の一部が切り欠かれていた方が、当該切り欠きの間隙に磁歪材料を配置することによって該磁歪材料に強い磁場を印加し易くなる。
【0029】
また、本発明の磁気回路に備えられるヨークは、環状に形成された環状部を備えていればよく、該環状部の数は特に限定されない。したがって、図5に示したヨーク1bのように、環状部2bを1つだけ備える形態であってもよく、図6に示したヨーク1cように、環状部2cを3つ以上(図6に示した形態では4つ。)備える形態であってもよい。ただし、ヨークが複数の環状部を備える場合には、ヨーク1、1a、及び1cのように、複数の環状部がそれぞれ備える磁場集中部が一点に集中するように、複数の環状部が配置された形態とする。それぞれの環状部に形成された磁場を一点(磁場集中部)に集中させるためである。
【0030】
このように、本発明の磁気回路に備えられるヨークの環状部の数は特に限定されないが、環状部を複数備えた形態とする方が磁場集中部の磁束密度を上げ易くなる。また、ヨークが環状部を複数備える場合、作製が容易であるという観点からは、ヨーク1及び1aのように、同一平面上に環状部を備える形態が好ましい。複数の環状部を同一平面上に形成する形態とすれば、1枚の板材からヨークを容易に作製することができる。
【0031】
なお、図4〜図6では定常磁場印加手段を配置するための切り欠きを示していないが、図1に示したヨーク1と同様に、定常磁場印加手段を配置するには、ヨーク1a、1b、及び1cも、その一部を切り欠いて配置することができる。
【0032】
このようなヨークは、高透磁材料や磁性体によって作製することができる。ヨークを構成する材料としては、例えば、鉄、ステンレス鋼、ニッケルなどを挙げることができる。
【0033】
(定常磁場印加手段)
図1に示した磁気回路10は、2つの定常磁場印加手段4を備えている。定常磁場印加手段4は、所定の強さの定常磁場を環状部2に印加する手段である。定常磁場印加手段4の具体例としは、永久磁石を挙げることができる。図1に示した形態では、定常磁場印加手段4として永久磁石を用いる形態を想定しているため、以下の説明では、定常磁場印加手段4を永久磁石4と記載する。用いることができる永久磁石としては、フェライト磁石、サマリウムコバルト磁石などを例示できる。ただし、本発明はかかる形態に限定されず、直流電流を供給したコイル等を定常磁場印加手段として用いることもできる。永久磁石によれば、所定の強さの定常磁場を環状部に印加することが簡単であるため、本実施形態では定常磁場印加手段として永久磁石を用いる形態を例示した。
【0034】
なお、図1に示した形態では環状部2の一部を切り欠いて永久磁石4を配置しているが、上述したように、本発明において永久磁石の設置位置はかかる形態に限定されない。永久磁石は、環状部に定常磁場を印加できるように設置されていればよく、永久磁石を環状部上に載置してもよい。ただし、環状部に定常磁場を印加し易くするためには、環状部の一部を切り欠いて永久磁石を挿入することが好ましい。また、永久磁石は、環状部と接するように配置することが好ましい。かかる形態とすることによって、永久磁石から環状部に磁場を印加し易くなる。
【0035】
永久磁石によって環状部に印加する定常磁場の強さは、永久磁石の設置位置、永久磁石を構成する材料や永久磁石の設置数を調整することによって、調整することができる。
【0036】
(可変磁場供給手段)
図1に示した磁気回路10は、2つの可変磁場供給手段7を備えている。可変磁場供給手段7は、任意の強さの磁場を環状部2に印加できる手段である。可変磁場供給手段7は、永久磁石4が環状部2に形成する磁場の方向と同じ方向で、任意の強さの磁場を環状部2に形成できる手段であれば、その形態は特に限定されない。可変磁場供給手段7の具体例としては、図1に示したように、コイル5と、該コイル5に電力を供給する電源6とを備えた電磁石を挙げることができる。図1に示した形態では、可変磁場供給手段7として電磁石を用いる形態を想定しているため、以下の説明では、可変磁場供給手段7を電磁石7と記載する。電磁石によれば、任意の強さの磁場を環状部に印加することが容易であるため、本実施形態では可変磁場供給手段として電磁石を用いる形態を例示した。
【0037】
上述したように、超磁歪材料に磁歪を生じさせるためには、強い磁場を印加する必要がある。また、超磁歪材料に生じる磁歪の程度を調整するには、該超磁歪材料に印加する磁場の強さを調整しなければならない。すなわち、超磁歪材料に生じる磁歪の程度を変化させるためには、超磁歪材料に磁歪を生じさせる程度の強い範囲で超磁歪材料に印加する磁場の強さを変化させなければならない。このように磁場を変化させることは、永久磁石のみ又は電磁石のみでは困難である。磁気回路10によれば、永久磁石4によって所定の強さの定常磁場を磁場集中部3に生じさせつつ、電磁石7によって磁場集中部3に生じる磁場の強さを変化させることができる。また、上述したように、磁場集中部3には強い磁場を生じさせることができる。すなわち、磁気回路10によれば、超磁歪材料に磁歪を生じさせる程度の強い範囲で磁場集中部3に生じる磁場を変化させることができる。したがって、磁場集中部3に超磁歪材料を配置すれば、該超磁歪材料に生じる磁歪の程度を調整することが容易になる。
【0038】
磁気回路10によれば、電源6を交流電源とし、該交流電源からコイル5に供給される電流の振動数をかえることによって、任意の周波数(例えば、1kHz以上。)の振動磁場を磁場集中部3に生じさせることも可能である。ただし、電源6としては、直流電源でもよい。直流電源からコイル5に供給される電流の強さを調整することによって、磁場集中部3に生じる磁場の強さを任意の強さにすることができる。
【0039】
(用途)
本発明の磁気回路は、磁場集中部に強い磁場を発生させることができる。そのため、上述したように強い磁場を印加しなければ磁歪を生じさせられない超磁歪材料を磁場集中部に設置した場合、該超磁歪材料に磁歪を生じさせることができる。よって、本発明の磁気回路は、後述するように、超磁歪材料を用いたアクチュエータに適用することができる。また、本発明の磁気回路は、これまでに説明したように構成が簡易なため、小型化することが容易である。そのため、本発明の磁気回路は小型の機器に組み込むことが可能であり、ミリメートルオーダーの微小空間に強磁場を発生させる磁気回路として使用が可能である。さらに、本発明の磁気回路によれば、ヨークに交流電流を流して交流磁場を発生させた状態で、磁性体や方位磁石などの磁針、あるいは他の永久磁石を近づけることで磁気力による振動現象を観測できる。したがって、本発明の磁気回路は、小学生から高校生の電磁気の理科実験教材としても使用可能である。また、本発明の磁気回路は、安価でかつ加工し易い材料で構成することができる。そのため、従来の磁気回路を本発明の磁気回路にかえることによって、磁気回路を備えた機器の低コスト化を図ることができる。
【0040】
<アクチュエータ>
次に、本発明のアクチュエータについて説明する。本発明のアクチュエータは、上述した本発明の磁気回路と、該磁気回路の磁場集中部に配置された磁歪材料と、を備えている。図7は、一つの実施形態にかかる本発明のアクチュエータ100を概略的に示した平面図である。図7に示したアクチュエータ100は、磁気回路10と、磁気回路10の磁場集中部3に配置された磁歪材料9とを備えている。図7において、図1に示したものと同様のものには同符号を付し、説明を省略する。
【0041】
上述したように、磁気回路10は、磁場集中部3に強い磁場を生じさせることができる。よって、磁場集中部3に磁歪材料9を配置することによって、磁歪材料9に強い磁場を印加することができる。そのため、磁歪材料9として超磁歪材料を用いた場合であっても、該超磁歪材料に磁歪を生じさせることができる。磁歪材料9としては、例えば、TbFe系合金やTbDyFe系合金等の超磁歪材料を用いることができる。TbDyFe系合金としては、例えば、組成がTb0.27Dy0.73Fe1.9であるTeffenol−D(登録商標)がある。
【0042】
超磁歪材料は、零磁場付近で交流磁場を印加しただけでは変位が小さい。しかしながら、数千エルステッド付近では変位が大きくなる。上述したように、本発明の磁気回路は、定常磁場印加手段によって所定の強さの定常磁場を印加したうえで、可変磁場印加手段によってバイアスとなる磁場を加えることで、所定の強さを中心として所定の範囲で強さが変化する磁場を磁場集中部に生じさせることができる。よって、磁場集中部に超磁歪材料を配置することによって、交流磁場のみよりも超磁歪材料を大きく変位させることができる。
【0043】
また、可変磁場印加手段の電源に備えられた発振器の出力をmVオーダーで制御することによって、超磁歪材料の変位を10nm程度の精度で制御することが可能である。よって、本発明のアクチュエータは、原子間力顕微鏡などのように高精度の位置決めが要求される装置の位置決め手段として用いることができる。
【0044】
また、本発明の磁気回路は小型化が容易であるため、本発明のアクチュエータも小型化が容易である。本発明のアクチュエータは、小型化することによって、医療機器や小型電子機器などに適用可能である。
【0045】
本発明のアクチュエータの医療機器への適用例としては、マイクロカテーテルに適用する例が挙げられる。医療現場では、外径1.5mm程度のマイクロカテーテルが利用されている。超磁歪材料を備えた本発明のアクチュエータを小型化し、このようなマイクロカテーテルに挿入して用いることにより、腫瘍や血管の中の老廃物を除去することが可能となる。
【0046】
本発明のアクチュエータの小型電子機器への適用例としては、マイクロスイッチやマイクロ振動子に適用する例が挙げられる。本発明のアクチュエータは1mmサイズのスイッチとしても適用可能であり、マイクロマシンや小型電子基板のスイッチとして利用することが考えられる。なお、磁歪材料は金属でそれ自身に電流を流せるため、本発明のアクチュエータは電気スイッチとしても利用できる。
【0047】
さらに、本発明のアクチュエータは、スピーカーなどに適用することもできると考えられる。
【0048】
これまでの本発明のアクチュエータの説明では、磁気回路10を備える形態について例示したが、本発明のアクチュエータに備えられる磁気回路はかかる形態に限定されない。本発明のアクチュエータは、本発明の磁気回路と磁歪材料とを備えていればよい。すなわち、本発明のアクチュエータは、磁気回路10にかえて、他の形態の本発明の磁気回路を備えていてもよい。また、磁気回路10のように磁場集中部に切り欠きがある場合は、当該切り欠きの間隙に磁歪材料を配置することによって該磁歪材料に強い磁場を印加することができる。一方、磁場集中部に切り欠きがない磁気回路を用いる場合は、磁場集中部上に磁歪材料を載置することによって、該磁歪材料に強い磁場を印加することができる。
【実施例】
【0049】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明する。ただし本発明は実施例に限定されるものではない。
【0050】
(校正試験)
本発明の磁気回路の性能を評価するにあたって、まず、以下に説明する校正試験によって磁歪材料(Terfenol−D(登録商標))に印加した磁場の強度と磁歪材料に生じた磁歪の大きさとの関係を調べた。図8は、校正試験に用いた装置の構成を概略的に示した図である。
【0051】
水冷パルス磁石71(3.0mmの厚さのビッター板(円盤形)を30枚重ねて作ったパルス強磁場用磁石)及び該パルス磁石71に電力を供給するパルス磁場用電源72(ニチコン株式会社製、コンデンサーバンク(A4サイズのコンデンサー40個)、最大5kV、C=8mF、E=100kJ)を用意し、パルス磁場用電源72に電荷を蓄えて、パルス磁場を形成した。充電圧は、200Hz水冷パルス磁石の場合、1kVで7Tを目処に行った。例えば、0.20kVならば1.4Tとなる。このようにして形成したパルス磁場を試料(磁歪材料)9に印加した。
【0052】
磁歪材料9に生じた磁歪、すなわち歪みの量は、静電容量法で測定した。一対の電極(銅泊シールドテープ)73a、73bを用意し、一方の電極73aを磁歪材料9の端面(磁歪によって伸び縮みする方向の一方の端面)に貼り付け、他方の電極73bは、電極73aから所定の距離を設けて固定した。このとき、電極73a(磁歪材料9の端面)と電極73bとの距離は、磁歪材料9と電極73bとをベークライト板を用いて固定することにより設定した。そして、この一対の電極73a、73bによって、C0=1.5pF程度のコンデンサーを構成した。このコンデンサーの両端を、静電容量を測定するキャパシタンスブリッジ74(Quadtech社製「1615A」)に繋いだ。キャパシタンスブリッジ74は発振器75(株式会社エヌエフ回路設計ブロック製「WF1945」)で作動させた。キャパシタンスブリッジ74の中には可変キャパシタンスの交流ブリッジ回路が備えられており、ブリッジ回路からの交流出力をロックインアンプ76(株式会社エヌエフ回路設計ブロック製「LI5640」、交流電圧計に相当。)で検出し、デジタルオシロスコープ77(岩崎通信機株式会社製「BRINGO DS−8814」)で解析した。
【0053】
まずは零磁場(磁歪材料9に磁場を印加していない状態)での静電容量C0をキャパシタンスブリッジ74のノブをまわして測定し、それからパルス磁場を印加する際にキャパシタンスブリッジ74の出力をデジタルオシロスコープ(株式会社TFF製「TDS460A」)に入力して磁歪の信号電圧を検出した。この信号の電圧の大きさが静電容量の変化量ΔCに比例する。磁歪材料9に磁場を印加する前に、電極73aと電極73bの間の距離d0をマイクロメータで測定しておくことによって、磁歪材料9に磁場を印加したときの静電容量の変化量ΔCが電極73a、73b間距離の変化量Δdに比例することから、C0、d0、ΔCからΔdを求めることができ、このΔdが磁歪材料9の磁歪量になる。
【0054】
上記校正用試験の結果を図9及び図10に示した。図9に示したのは、周期τ=2.6ms、周波数にすると200Hzのパルス磁場中で磁歪材料9に生じた磁歪を測定した結果である。上記校正用試験は、室温(297K、23℃)で行った。図9に示したように、磁歪材料9に印加したパルス磁場強度は横軸の読み通りで最大1.4Tであった。磁歪材料9に生じた磁歪は、10倍して%となるように表示しており、最大で0.22%(2200ppm)であった。なお、ロックインアンプ76からの出力電圧は磁歪材料9に生じた磁歪量に比例している。パルス磁場がゼロに戻った後の磁歪の振動は、ベークライトの固定台に磁歪材料9を固定するために使用した両面テープによる振動だと考えられる。
【0055】
図10のグラフは、図8の装置系を用いて実験した結果の磁場‐磁歪校正曲線である。横軸が磁歪材料9に印加した最大磁場の強さ、縦軸が磁歪材料9に生じた磁歪(変位量)の大きさである。図10からわかるように、パルス磁石71によって最大1.4T程度の磁場を磁歪材料9に印加することができた。また、パルス磁石71によって磁歪材料9に印加する交流磁場の周波数を80Hzにした場合でも200Hzにした場合でも、磁歪材料9に印加した磁場の大きさの変化に対して磁歪材料9の変位量の傾きが大きくなる範囲があることがわかる。このように、磁歪材料9には変位量を大きくすることができる磁場の強さの範囲が存在するため、この範囲で磁歪材料9に印加する磁場の強さを振れさせることによって、磁歪材料9の変位量の変化を大きくできることがわかる。よって、本発明の磁気回路を、このような範囲の強さの磁場を磁歪材料に印加できる形態とすることによって、アクチュエータとして好適に用いることができる。本発明の磁気回路は、定常磁場印加手段と可変磁場印加手段とによって磁場集中部に磁場を生じさせることができる。そのため、例えば、定常磁場印加手段によって、磁歪材料の変位量の傾きが大きくなる磁場範囲の下限強さの定常磁場を磁場集中部に生じさせ、可変磁場印加手段によって、磁歪材料の変位量の傾きが大きくなる範囲内で、磁場集中部に生じさせる磁場の強度を変化させることによって、磁場集中部に配置された磁歪材料の変位量を微調整し易くなるため、本発明の磁気回路をアクチュエータとして好適に用いることができる。
【0056】
上記校正試験によって磁歪材料9に印加した磁場の強度と磁歪材料9に生じた磁歪の大きさとの関係を確認しておくことによって、磁歪材料9に生じた磁歪の大きさから、磁歪材料9に印加されている磁場の強さを見積もることができる。すなわち、以下に説明するようにして磁気回路10によって磁歪材料9に磁場を印加したときに磁歪材料9に生じた磁歪の大きさから、磁歪材料9に印加されている磁場(磁気回路10の磁場集中部に生じている磁場)の強さを見積もることができる。
【0057】
(本発明の磁気回路の性能評価)
図11に示した構成の実験用装置101を作製し、本発明の磁気回路の性能を評価した。図11において、図7と同様の構成のものには、同符号を付している。
【0058】
ヨーク1は厚さ2mmの純鉄の板材で作製した。ヨーク1の寸法は、上下方向の長さ(図2に示したL1)及び左右方向の長さ(図2に示したL2)をそれぞれ100mmとした。磁場集中部3に形成された切り欠き部において、ヨーク1の端部の幅(図3に示したW1)は3.0mmとし、当該切り欠き部の間隔(図3に示したD)は6.0mmとした。コイル5が備えられる部分の幅(図2に示したW2)は、10mmとした。この磁場集中部3に形成された切り欠き部の中心には、磁歪材料9として2mm×2mm×長さ(磁場を印加していないときの、磁歪によって伸び縮みする方向の長さ)5.8mmの大きさのTerfenol−D(登録商標)を設置した。永久磁石4としては、厚さ5mmの円盤型のフェライト磁石を用いた。実験用装置101では、アクチュエータ100と同様に2つの永久磁石4を設置し、さらに図10に示したように同様の永久磁石4を2つ、環状部2上に載置した。これら4つの永久磁石4によって、磁場集中部3には0.3Tの定常磁場を生じさせることができた。コイル5としては、外径φ0.20mmのポリエステル被覆銅線を用いた巻き数が10のコイルを用いた。コイル5の電源6としては、発振器(株式会社エヌエフ回路ブロック製、WF1945)及びオーディオアンプ(マランツ社製、PM5003)を用いた。
【0059】
上記のようにして実験用装置101を作製し、磁歪材料9に生じた磁歪を測定した。磁歪の測定は、歪みゲージ(株式会社共和電業製)、歪ゲージブリッジ(自作、ブリッジ電源は3.0V(単三電池2個直列))、ブリッジ回路出力増幅用アンプ(岩崎通信機株式会社製「DA‐2B」、ブリッジ出力電圧を1000倍に増幅)、及びデジタルオシロスコープ(岩崎通信機株式会社製「BRINGO DS−8814」)を用いて行った。その結果を、図12に示した。
【0060】
図12の上段のグラフは、横軸が磁歪材料9に磁場を印加した時間、縦軸がオーディオアンプのスピーカー端子からの出力電圧である。図12の下段のグラフは、横軸が磁歪材料9に磁場を印加した時間、縦軸が磁歪材料9に生じた磁歪の大きさである。
【0061】
図12からわかるように、磁歪材料9の磁歪は磁歪材料9に印加した交流磁場の周波数に依存しており、最大で約680ppm変位させることができた。本実験には長さ6mmの磁歪材料9を用いたため、磁歪材料9の最大変位量は約4.0μmであった。このように、本発明の磁気回路を用いれば、容易に超磁歪材料に大きな磁歪を生じさせることができた。
【符号の説明】
【0062】
1、1a、1b、1c ヨーク
2、2a、2b、2c 環状部
3、3a、3b、3c 磁場集中部
4 永久磁石(定常磁場印加手段)
5 コイル
6 電源
7 電磁石(可変磁場印加手段)
9 磁歪材料
10、10a、10b 磁気回路
100 アクチュエータ
101 実験用装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気回路、及び該磁気回路と磁歪材料とを備えたアクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、振動子や小型アクチュエータには、ピエゾ圧電素子が用いられていた。しかしながら、ピエゾ圧電素子は、機械的強度が弱く脆い等の問題があった。このような問題に対して、磁性金属の磁歪を利用したアクチュエータが開発されている。磁歪とは、磁場中で磁性金属に歪みが生じ、該磁性金属が伸び縮みする現象である。
【0003】
例えば、特許文献1には、磁歪材料を用いたアクチュエータやモータに関する技術が開示されている。また、特許文献2には、磁歪材料に最適な磁場を印加する方法に関する技術が開示されている。
【0004】
特許文献1等に記載されているFeGa系合金等の磁歪材料では、所定の大きさの磁場を印加することによって、最大で数10ppm程度の磁歪を発生させることができる。一方、A.E.Clarkらにより開発された、Feと希土類元素Dy、Tbとの合金であるTerfenol−D(登録商標)では、最大で2000ppmもの磁歪を発生させることができる。このような大きな磁歪が発生する合金は、超磁歪材料と呼ばれる。超磁歪材料は、ピエゾ圧電素子に比べて磁歪による変位量が桁違いに大きく、超磁歪材料をアクチュエータに用いた場合には、ピエゾ圧電素子に比べて非常に大きな機械的出力を得ることができる。また、超磁歪材料は、ピエゾ圧電素子に比べて交流磁場に対する磁歪の応答速度が速いという優位性も有する。さらに、超磁歪材料は、ピエゾ圧電素子に比べて加工が容易である、簡単な構造の機器に組み込むことができる、形状自由度が高い、使用可能温度域が広い等の優位性も有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−130988号公報
【特許文献2】特開平9−168197号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
超磁歪材料に磁歪を生じさせるためには、特許文献1に開示されているFeGa系合金等に磁歪を生じさせる場合に比べて強い磁場を印加する必要がある。例えば、Terfenol−D(登録商標)をアクチュエータとして利用する場合には、数千エルステッドから1テスラ程度の強磁場を必要とする。そのため、超磁歪材料をアクチュエータに適用するには、強い磁場を発生させることができる磁気回路が必要である。しかしながら、従来技術では、小型で強い磁場を発生させることができる磁気回路を作製することが困難であり、超磁歪材料を用いたアクチュエータを小型化することが困難であった。
【0007】
そこで、本発明は、簡易な構成で強磁場を発生させることができ、小型化が可能な磁気回路、及び該磁気回路を用いたアクチュエータを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下、本発明について説明する。
第1の本発明は、環状に形成された環状部を有するヨークと、定常磁場を環状部に印加する定常磁場印加手段と、強度を変更可能な磁場を環状部に印加できる可変磁場印加手段とを備え、環状部が、他の部位より細く形成された磁場集中部を備えている、磁気回路である。
【0009】
ここに、「環状に形成された」とは、磁場を印加された際に環状の磁場を形成できる形態に形成されていることを意味し、完全な環状の形態に形成されていることに限定される概念ではない。すなわち、環状部は、後に説明するように一部が切り欠かれている形態であってもよい。
【0010】
第1の本発明の磁気回路は、磁場集中部の一部が切り欠かれていることが好ましい。かかる形態とすることによって、切り欠かれた間隙部に磁歪材料を配置し、第1の本発明の磁気回路を後述する第2の本発明のアクチュエータに好適に用いることができる。
【0011】
第1の本発明の磁気回路は、ヨークが複数の環状部を備えており、複数の環状部がそれぞれ備える磁場集中部が一点に集中するように、複数の環状部が配置されていることが好ましい。かかる形態とすることによって、磁場集中部に大きな磁場を生じさせることが容易になる。
【0012】
第2の本発明は、上記第1の本発明の磁気回路と、該磁気回路の磁場集中部に配置された磁歪材料と、を備えるアクチュエータである。
【0013】
第2の本発明のアクチュエータは、磁場集中部に配置された磁歪材料がTbDyFe系合金であることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
第1の本発明によれば、簡易な構成で、強磁場を発生させることができ、小型化が可能な磁気回路を提供することができる。第1の本発明の磁気回路は、小型化することによってミリメートルオーダーの微小空間に強磁場を発生させることが可能である。また、第2の本発明によれば、第1の本発明の磁気回路を用いることによって、小型化が可能なアクチュエータを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】一つの実施形態にかかる本発明の磁気回路を概略的に示した平面図である。
【図2】図1に示した磁気回路のうち、ヨークを概略的に示した平面図である。
【図3】図2に示したヨークのうち、IIIの部分を拡大して示した図である。
【図4】他の実施形態にかかる本発明の磁気回路のうち、ヨークを概略的に示した平面図である。
【図5】他の実施形態にかかる本発明の磁気回路のうち、ヨークを概略的に示した平面図である。
【図6】他の実施形態にかかる本発明の磁気回路のうち、ヨークを概略的に示した斜視図である。
【図7】一つの実施形態にかかる本発明のアクチュエータを概略的に示した平面図である。
【図8】校正試験に用いた装置の構成を概略的に示した図である。
【図9】校正試験の結果を示した図である。
【図10】磁歪材料に印加した磁場と磁歪材料に生じた磁歪との関係を示す図である。
【図11】実施例で作製した実験用装置を概略的に示した平面図である。
【図12】オーディオアンプのスピーカー端子からの出力電圧と時間との関係を示す図(上段)及び磁歪材料の変位量と時間との関係を示す図(下段)である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の上記した作用及び利得は、次に説明する発明を実施するための形態から明らかにされる。以下、本発明を図面に示す実施形態に基づき説明する。ただし、本発明はこれら実施形態に限定されるものではない。
【0017】
<磁気回路>
図1は、一つの実施形態にかかる本発明の磁気回路10を概略的に示した平面図である。また、図2は、図1に示した磁気回路10のうち、ヨーク1を概略的に示した平面図である。図3は、図2に示したヨーク1のうち、IIIの部分を拡大して示した図である。図1に示した磁気回路10は、ヨーク1と、定常磁場印加手段4、4と、可変磁場印加手段7、7とを備えている。
【0018】
(ヨーク)
図1に示したように、ヨーク1は環状部2を2つ備えている。2つの環状部2には、それぞれ、後に説明する定常磁場印加手段4及び可変磁場印加手段7によって磁場が印加されている。図1に示した矢印M、M、…は、環状部2に形成される磁場の方向を示しており、矢印M、M、…で示したように、環状部2には環状の磁場が形成されている。また、環状部2は、他の部位より細く形成されるとともに一部が切り欠かれた部位3を備えている。後に説明するように、当該部位3は、磁場を集中させることができる部位であり、以下、磁場集中部3と記載する。2つの環状部2は、それぞれ磁場集中部3を備えており、それぞれが備える磁場集中部3が一点に集中するように、2つの環状部2が配置されている。よって、図1には、一つの磁場集中部3が表れている。
【0019】
また、環状部2は、図2に示すように、後に詳述する定常磁場印加手段4を配置できる切り欠き4aを備えている。図1に示したように、当該切り欠き4aに定常磁場印加手段4を配置することにより、定常磁場印加手段4によって環状部2に定常磁場を印加し、矢印M、M、…で示したような環状の磁場を環状部2に形成することができる。なお、図1に示した形態では、環状部2に切り欠き4aを設け、当該切り欠き4aに定常磁場印加手段4を配置しているが、本発明はかかる形態に限定されない。定常磁場印加手段は、環状部に定常磁場を印加できる状態で配置されていればよい。すなわち、環状部に切り欠きを設けずに、定常磁場印加手段を環状部上に載置した形態であってもよい。
【0020】
また、環状部2は、後に詳述する可変磁場印加手段7に備えられた円筒状のコイル5の中空部を通すようにして配置されている。そのため、当該コイル5に任意の大きさの電流を供給することによって、コイル5から環状部2に任意の強さの磁場を印加し、矢印M、M、…で示したような環状の磁場を環状部2に形成することができる。
【0021】
上述したようにして環状部2に環状の磁場が印加されると、磁場集中部3は環状部2の他の部位より細く形成されているため、磁場集中部3の磁力線の密度が環状部2の他の部位より高くなる。すなわち、磁場集中部3付近の磁場が強くなる。例えば、磁場集中部3における環状部2の端部の幅(図3に示したW1)と、交流磁場が印加される部位(コイル5が備えられる部位)の幅(図2に示したW2)との比は、W2:W1=10:5から10:2の範囲であることが好ましい。当該比が10:2よりも大きいと、磁場集中部3が小さくなり過ぎて実用的でなくなるうえに、磁場集中部3付近のヨーク1の磁化が飽和して、結果としてコイル5に加えた電圧に比例した磁場が磁場集中部3に生じなくなる虞がある。
【0022】
また、磁場集中部3に設けられた切り欠き部の間隔(図3に示したD)は、より狭い方が該切り欠き部に空間的に均一な磁場を生成することができるので有利である。切り欠き部の間隔(D)と磁場集中部3における環状部2の端部の幅(W1)との比は、D:W1=2:1程度であることが好ましい。この比よりも間隙(D)を広げると、磁場の漏れが大きくなり、磁場集中部3に磁場を集中させる効果が低下する虞がある。
【0023】
なお、磁場集中部3の切り欠き部に強磁性の磁性材料や超磁歪材料を設置する場合は、当該材料自体の強磁性により磁力線は当該材料内を通るので、切り欠き部の間隙は実質的に狭まることとなり、磁場集中部3における磁場の均一性が高まる。
【0024】
また、環状部2を通る磁束が磁場集中部3で集中し易くするためには、図1に示したように、鋭角がないように環状部2を形成し、磁力線の流れをスムーズにすることが好ましい。
【0025】
さらに、磁場集中部における磁場をより高め易くするには、図1に示したヨーク1のように略上下左右対称形状とし、対称軸が交わる位置に磁場集中部を形成することが好ましい。磁場の偏りのないスムーズな磁力線の流れを生じさせ、磁場集中部の磁場を高め易くなるからである。
【0026】
磁場集中部3に生じる磁場の大きさは、定常磁場印加手段4及び可変磁場印加手段7によって環状部2に印加する磁場の大きさを調整することにより、適宜調整可能である。磁場集中部3に生じさせる最大磁場は、例えば、0.2T以上2T以下とすることが好ましい。上述したように、超磁歪材料に磁歪を生じさせるためには強い磁場を印加する必要がある。磁場集中部3に生じさせる磁場を上記範囲にすることによって、磁場集中部3に超磁歪材料を配置した場合に、該超磁歪材料に大きな磁歪を生じさせやすくなる。
【0027】
これまでの磁気回路10の説明では、図1に示したように、ヨーク1が2つの環状部2を備え、該環状部2がそれぞれ、他の部位より細く形成されるとともに一部が切り欠かれた磁場集中部3を備え、それらの磁場集中部3が一点に集中するように2つの環状部2が配置されている形態について例示した。ただし、本発明はかかる形態に限定されない。図4は、他の実施形態にかかる本発明の磁気回路のうち、ヨークを概略的に示した平面図である。図5は、さらに他の実施形態にかかる本発明の磁気回路のうち、ヨークを概略的に示した平面図である。図6は、さらに他の実施形態にかかる本発明の磁気回路のうち、ヨークを概略的に示した斜視図である。
【0028】
本発明の磁気回路に備えられるヨークは、環状に形成された環状部を備え、該環状部が他の部位より細く形成された磁場集中部を備えていればよい。したがって、図4に示したヨーク1aのように、単に他の部位より細くすることによって切り欠きを有さない磁場集中部3aを形成してもよい。かかる形態であっても、磁場集中部3aでの磁束密度が他の部位より高くなり、磁場集中部3aに強い磁場を生じさせることができる。ただし、後に説明するように磁場集中部に磁歪材料を配置して該磁歪材料に磁場を印加する場合、図1に示した磁場集中部3のように磁場集中部の一部が切り欠かれていた方が、当該切り欠きの間隙に磁歪材料を配置することによって該磁歪材料に強い磁場を印加し易くなる。
【0029】
また、本発明の磁気回路に備えられるヨークは、環状に形成された環状部を備えていればよく、該環状部の数は特に限定されない。したがって、図5に示したヨーク1bのように、環状部2bを1つだけ備える形態であってもよく、図6に示したヨーク1cように、環状部2cを3つ以上(図6に示した形態では4つ。)備える形態であってもよい。ただし、ヨークが複数の環状部を備える場合には、ヨーク1、1a、及び1cのように、複数の環状部がそれぞれ備える磁場集中部が一点に集中するように、複数の環状部が配置された形態とする。それぞれの環状部に形成された磁場を一点(磁場集中部)に集中させるためである。
【0030】
このように、本発明の磁気回路に備えられるヨークの環状部の数は特に限定されないが、環状部を複数備えた形態とする方が磁場集中部の磁束密度を上げ易くなる。また、ヨークが環状部を複数備える場合、作製が容易であるという観点からは、ヨーク1及び1aのように、同一平面上に環状部を備える形態が好ましい。複数の環状部を同一平面上に形成する形態とすれば、1枚の板材からヨークを容易に作製することができる。
【0031】
なお、図4〜図6では定常磁場印加手段を配置するための切り欠きを示していないが、図1に示したヨーク1と同様に、定常磁場印加手段を配置するには、ヨーク1a、1b、及び1cも、その一部を切り欠いて配置することができる。
【0032】
このようなヨークは、高透磁材料や磁性体によって作製することができる。ヨークを構成する材料としては、例えば、鉄、ステンレス鋼、ニッケルなどを挙げることができる。
【0033】
(定常磁場印加手段)
図1に示した磁気回路10は、2つの定常磁場印加手段4を備えている。定常磁場印加手段4は、所定の強さの定常磁場を環状部2に印加する手段である。定常磁場印加手段4の具体例としは、永久磁石を挙げることができる。図1に示した形態では、定常磁場印加手段4として永久磁石を用いる形態を想定しているため、以下の説明では、定常磁場印加手段4を永久磁石4と記載する。用いることができる永久磁石としては、フェライト磁石、サマリウムコバルト磁石などを例示できる。ただし、本発明はかかる形態に限定されず、直流電流を供給したコイル等を定常磁場印加手段として用いることもできる。永久磁石によれば、所定の強さの定常磁場を環状部に印加することが簡単であるため、本実施形態では定常磁場印加手段として永久磁石を用いる形態を例示した。
【0034】
なお、図1に示した形態では環状部2の一部を切り欠いて永久磁石4を配置しているが、上述したように、本発明において永久磁石の設置位置はかかる形態に限定されない。永久磁石は、環状部に定常磁場を印加できるように設置されていればよく、永久磁石を環状部上に載置してもよい。ただし、環状部に定常磁場を印加し易くするためには、環状部の一部を切り欠いて永久磁石を挿入することが好ましい。また、永久磁石は、環状部と接するように配置することが好ましい。かかる形態とすることによって、永久磁石から環状部に磁場を印加し易くなる。
【0035】
永久磁石によって環状部に印加する定常磁場の強さは、永久磁石の設置位置、永久磁石を構成する材料や永久磁石の設置数を調整することによって、調整することができる。
【0036】
(可変磁場供給手段)
図1に示した磁気回路10は、2つの可変磁場供給手段7を備えている。可変磁場供給手段7は、任意の強さの磁場を環状部2に印加できる手段である。可変磁場供給手段7は、永久磁石4が環状部2に形成する磁場の方向と同じ方向で、任意の強さの磁場を環状部2に形成できる手段であれば、その形態は特に限定されない。可変磁場供給手段7の具体例としては、図1に示したように、コイル5と、該コイル5に電力を供給する電源6とを備えた電磁石を挙げることができる。図1に示した形態では、可変磁場供給手段7として電磁石を用いる形態を想定しているため、以下の説明では、可変磁場供給手段7を電磁石7と記載する。電磁石によれば、任意の強さの磁場を環状部に印加することが容易であるため、本実施形態では可変磁場供給手段として電磁石を用いる形態を例示した。
【0037】
上述したように、超磁歪材料に磁歪を生じさせるためには、強い磁場を印加する必要がある。また、超磁歪材料に生じる磁歪の程度を調整するには、該超磁歪材料に印加する磁場の強さを調整しなければならない。すなわち、超磁歪材料に生じる磁歪の程度を変化させるためには、超磁歪材料に磁歪を生じさせる程度の強い範囲で超磁歪材料に印加する磁場の強さを変化させなければならない。このように磁場を変化させることは、永久磁石のみ又は電磁石のみでは困難である。磁気回路10によれば、永久磁石4によって所定の強さの定常磁場を磁場集中部3に生じさせつつ、電磁石7によって磁場集中部3に生じる磁場の強さを変化させることができる。また、上述したように、磁場集中部3には強い磁場を生じさせることができる。すなわち、磁気回路10によれば、超磁歪材料に磁歪を生じさせる程度の強い範囲で磁場集中部3に生じる磁場を変化させることができる。したがって、磁場集中部3に超磁歪材料を配置すれば、該超磁歪材料に生じる磁歪の程度を調整することが容易になる。
【0038】
磁気回路10によれば、電源6を交流電源とし、該交流電源からコイル5に供給される電流の振動数をかえることによって、任意の周波数(例えば、1kHz以上。)の振動磁場を磁場集中部3に生じさせることも可能である。ただし、電源6としては、直流電源でもよい。直流電源からコイル5に供給される電流の強さを調整することによって、磁場集中部3に生じる磁場の強さを任意の強さにすることができる。
【0039】
(用途)
本発明の磁気回路は、磁場集中部に強い磁場を発生させることができる。そのため、上述したように強い磁場を印加しなければ磁歪を生じさせられない超磁歪材料を磁場集中部に設置した場合、該超磁歪材料に磁歪を生じさせることができる。よって、本発明の磁気回路は、後述するように、超磁歪材料を用いたアクチュエータに適用することができる。また、本発明の磁気回路は、これまでに説明したように構成が簡易なため、小型化することが容易である。そのため、本発明の磁気回路は小型の機器に組み込むことが可能であり、ミリメートルオーダーの微小空間に強磁場を発生させる磁気回路として使用が可能である。さらに、本発明の磁気回路によれば、ヨークに交流電流を流して交流磁場を発生させた状態で、磁性体や方位磁石などの磁針、あるいは他の永久磁石を近づけることで磁気力による振動現象を観測できる。したがって、本発明の磁気回路は、小学生から高校生の電磁気の理科実験教材としても使用可能である。また、本発明の磁気回路は、安価でかつ加工し易い材料で構成することができる。そのため、従来の磁気回路を本発明の磁気回路にかえることによって、磁気回路を備えた機器の低コスト化を図ることができる。
【0040】
<アクチュエータ>
次に、本発明のアクチュエータについて説明する。本発明のアクチュエータは、上述した本発明の磁気回路と、該磁気回路の磁場集中部に配置された磁歪材料と、を備えている。図7は、一つの実施形態にかかる本発明のアクチュエータ100を概略的に示した平面図である。図7に示したアクチュエータ100は、磁気回路10と、磁気回路10の磁場集中部3に配置された磁歪材料9とを備えている。図7において、図1に示したものと同様のものには同符号を付し、説明を省略する。
【0041】
上述したように、磁気回路10は、磁場集中部3に強い磁場を生じさせることができる。よって、磁場集中部3に磁歪材料9を配置することによって、磁歪材料9に強い磁場を印加することができる。そのため、磁歪材料9として超磁歪材料を用いた場合であっても、該超磁歪材料に磁歪を生じさせることができる。磁歪材料9としては、例えば、TbFe系合金やTbDyFe系合金等の超磁歪材料を用いることができる。TbDyFe系合金としては、例えば、組成がTb0.27Dy0.73Fe1.9であるTeffenol−D(登録商標)がある。
【0042】
超磁歪材料は、零磁場付近で交流磁場を印加しただけでは変位が小さい。しかしながら、数千エルステッド付近では変位が大きくなる。上述したように、本発明の磁気回路は、定常磁場印加手段によって所定の強さの定常磁場を印加したうえで、可変磁場印加手段によってバイアスとなる磁場を加えることで、所定の強さを中心として所定の範囲で強さが変化する磁場を磁場集中部に生じさせることができる。よって、磁場集中部に超磁歪材料を配置することによって、交流磁場のみよりも超磁歪材料を大きく変位させることができる。
【0043】
また、可変磁場印加手段の電源に備えられた発振器の出力をmVオーダーで制御することによって、超磁歪材料の変位を10nm程度の精度で制御することが可能である。よって、本発明のアクチュエータは、原子間力顕微鏡などのように高精度の位置決めが要求される装置の位置決め手段として用いることができる。
【0044】
また、本発明の磁気回路は小型化が容易であるため、本発明のアクチュエータも小型化が容易である。本発明のアクチュエータは、小型化することによって、医療機器や小型電子機器などに適用可能である。
【0045】
本発明のアクチュエータの医療機器への適用例としては、マイクロカテーテルに適用する例が挙げられる。医療現場では、外径1.5mm程度のマイクロカテーテルが利用されている。超磁歪材料を備えた本発明のアクチュエータを小型化し、このようなマイクロカテーテルに挿入して用いることにより、腫瘍や血管の中の老廃物を除去することが可能となる。
【0046】
本発明のアクチュエータの小型電子機器への適用例としては、マイクロスイッチやマイクロ振動子に適用する例が挙げられる。本発明のアクチュエータは1mmサイズのスイッチとしても適用可能であり、マイクロマシンや小型電子基板のスイッチとして利用することが考えられる。なお、磁歪材料は金属でそれ自身に電流を流せるため、本発明のアクチュエータは電気スイッチとしても利用できる。
【0047】
さらに、本発明のアクチュエータは、スピーカーなどに適用することもできると考えられる。
【0048】
これまでの本発明のアクチュエータの説明では、磁気回路10を備える形態について例示したが、本発明のアクチュエータに備えられる磁気回路はかかる形態に限定されない。本発明のアクチュエータは、本発明の磁気回路と磁歪材料とを備えていればよい。すなわち、本発明のアクチュエータは、磁気回路10にかえて、他の形態の本発明の磁気回路を備えていてもよい。また、磁気回路10のように磁場集中部に切り欠きがある場合は、当該切り欠きの間隙に磁歪材料を配置することによって該磁歪材料に強い磁場を印加することができる。一方、磁場集中部に切り欠きがない磁気回路を用いる場合は、磁場集中部上に磁歪材料を載置することによって、該磁歪材料に強い磁場を印加することができる。
【実施例】
【0049】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明する。ただし本発明は実施例に限定されるものではない。
【0050】
(校正試験)
本発明の磁気回路の性能を評価するにあたって、まず、以下に説明する校正試験によって磁歪材料(Terfenol−D(登録商標))に印加した磁場の強度と磁歪材料に生じた磁歪の大きさとの関係を調べた。図8は、校正試験に用いた装置の構成を概略的に示した図である。
【0051】
水冷パルス磁石71(3.0mmの厚さのビッター板(円盤形)を30枚重ねて作ったパルス強磁場用磁石)及び該パルス磁石71に電力を供給するパルス磁場用電源72(ニチコン株式会社製、コンデンサーバンク(A4サイズのコンデンサー40個)、最大5kV、C=8mF、E=100kJ)を用意し、パルス磁場用電源72に電荷を蓄えて、パルス磁場を形成した。充電圧は、200Hz水冷パルス磁石の場合、1kVで7Tを目処に行った。例えば、0.20kVならば1.4Tとなる。このようにして形成したパルス磁場を試料(磁歪材料)9に印加した。
【0052】
磁歪材料9に生じた磁歪、すなわち歪みの量は、静電容量法で測定した。一対の電極(銅泊シールドテープ)73a、73bを用意し、一方の電極73aを磁歪材料9の端面(磁歪によって伸び縮みする方向の一方の端面)に貼り付け、他方の電極73bは、電極73aから所定の距離を設けて固定した。このとき、電極73a(磁歪材料9の端面)と電極73bとの距離は、磁歪材料9と電極73bとをベークライト板を用いて固定することにより設定した。そして、この一対の電極73a、73bによって、C0=1.5pF程度のコンデンサーを構成した。このコンデンサーの両端を、静電容量を測定するキャパシタンスブリッジ74(Quadtech社製「1615A」)に繋いだ。キャパシタンスブリッジ74は発振器75(株式会社エヌエフ回路設計ブロック製「WF1945」)で作動させた。キャパシタンスブリッジ74の中には可変キャパシタンスの交流ブリッジ回路が備えられており、ブリッジ回路からの交流出力をロックインアンプ76(株式会社エヌエフ回路設計ブロック製「LI5640」、交流電圧計に相当。)で検出し、デジタルオシロスコープ77(岩崎通信機株式会社製「BRINGO DS−8814」)で解析した。
【0053】
まずは零磁場(磁歪材料9に磁場を印加していない状態)での静電容量C0をキャパシタンスブリッジ74のノブをまわして測定し、それからパルス磁場を印加する際にキャパシタンスブリッジ74の出力をデジタルオシロスコープ(株式会社TFF製「TDS460A」)に入力して磁歪の信号電圧を検出した。この信号の電圧の大きさが静電容量の変化量ΔCに比例する。磁歪材料9に磁場を印加する前に、電極73aと電極73bの間の距離d0をマイクロメータで測定しておくことによって、磁歪材料9に磁場を印加したときの静電容量の変化量ΔCが電極73a、73b間距離の変化量Δdに比例することから、C0、d0、ΔCからΔdを求めることができ、このΔdが磁歪材料9の磁歪量になる。
【0054】
上記校正用試験の結果を図9及び図10に示した。図9に示したのは、周期τ=2.6ms、周波数にすると200Hzのパルス磁場中で磁歪材料9に生じた磁歪を測定した結果である。上記校正用試験は、室温(297K、23℃)で行った。図9に示したように、磁歪材料9に印加したパルス磁場強度は横軸の読み通りで最大1.4Tであった。磁歪材料9に生じた磁歪は、10倍して%となるように表示しており、最大で0.22%(2200ppm)であった。なお、ロックインアンプ76からの出力電圧は磁歪材料9に生じた磁歪量に比例している。パルス磁場がゼロに戻った後の磁歪の振動は、ベークライトの固定台に磁歪材料9を固定するために使用した両面テープによる振動だと考えられる。
【0055】
図10のグラフは、図8の装置系を用いて実験した結果の磁場‐磁歪校正曲線である。横軸が磁歪材料9に印加した最大磁場の強さ、縦軸が磁歪材料9に生じた磁歪(変位量)の大きさである。図10からわかるように、パルス磁石71によって最大1.4T程度の磁場を磁歪材料9に印加することができた。また、パルス磁石71によって磁歪材料9に印加する交流磁場の周波数を80Hzにした場合でも200Hzにした場合でも、磁歪材料9に印加した磁場の大きさの変化に対して磁歪材料9の変位量の傾きが大きくなる範囲があることがわかる。このように、磁歪材料9には変位量を大きくすることができる磁場の強さの範囲が存在するため、この範囲で磁歪材料9に印加する磁場の強さを振れさせることによって、磁歪材料9の変位量の変化を大きくできることがわかる。よって、本発明の磁気回路を、このような範囲の強さの磁場を磁歪材料に印加できる形態とすることによって、アクチュエータとして好適に用いることができる。本発明の磁気回路は、定常磁場印加手段と可変磁場印加手段とによって磁場集中部に磁場を生じさせることができる。そのため、例えば、定常磁場印加手段によって、磁歪材料の変位量の傾きが大きくなる磁場範囲の下限強さの定常磁場を磁場集中部に生じさせ、可変磁場印加手段によって、磁歪材料の変位量の傾きが大きくなる範囲内で、磁場集中部に生じさせる磁場の強度を変化させることによって、磁場集中部に配置された磁歪材料の変位量を微調整し易くなるため、本発明の磁気回路をアクチュエータとして好適に用いることができる。
【0056】
上記校正試験によって磁歪材料9に印加した磁場の強度と磁歪材料9に生じた磁歪の大きさとの関係を確認しておくことによって、磁歪材料9に生じた磁歪の大きさから、磁歪材料9に印加されている磁場の強さを見積もることができる。すなわち、以下に説明するようにして磁気回路10によって磁歪材料9に磁場を印加したときに磁歪材料9に生じた磁歪の大きさから、磁歪材料9に印加されている磁場(磁気回路10の磁場集中部に生じている磁場)の強さを見積もることができる。
【0057】
(本発明の磁気回路の性能評価)
図11に示した構成の実験用装置101を作製し、本発明の磁気回路の性能を評価した。図11において、図7と同様の構成のものには、同符号を付している。
【0058】
ヨーク1は厚さ2mmの純鉄の板材で作製した。ヨーク1の寸法は、上下方向の長さ(図2に示したL1)及び左右方向の長さ(図2に示したL2)をそれぞれ100mmとした。磁場集中部3に形成された切り欠き部において、ヨーク1の端部の幅(図3に示したW1)は3.0mmとし、当該切り欠き部の間隔(図3に示したD)は6.0mmとした。コイル5が備えられる部分の幅(図2に示したW2)は、10mmとした。この磁場集中部3に形成された切り欠き部の中心には、磁歪材料9として2mm×2mm×長さ(磁場を印加していないときの、磁歪によって伸び縮みする方向の長さ)5.8mmの大きさのTerfenol−D(登録商標)を設置した。永久磁石4としては、厚さ5mmの円盤型のフェライト磁石を用いた。実験用装置101では、アクチュエータ100と同様に2つの永久磁石4を設置し、さらに図10に示したように同様の永久磁石4を2つ、環状部2上に載置した。これら4つの永久磁石4によって、磁場集中部3には0.3Tの定常磁場を生じさせることができた。コイル5としては、外径φ0.20mmのポリエステル被覆銅線を用いた巻き数が10のコイルを用いた。コイル5の電源6としては、発振器(株式会社エヌエフ回路ブロック製、WF1945)及びオーディオアンプ(マランツ社製、PM5003)を用いた。
【0059】
上記のようにして実験用装置101を作製し、磁歪材料9に生じた磁歪を測定した。磁歪の測定は、歪みゲージ(株式会社共和電業製)、歪ゲージブリッジ(自作、ブリッジ電源は3.0V(単三電池2個直列))、ブリッジ回路出力増幅用アンプ(岩崎通信機株式会社製「DA‐2B」、ブリッジ出力電圧を1000倍に増幅)、及びデジタルオシロスコープ(岩崎通信機株式会社製「BRINGO DS−8814」)を用いて行った。その結果を、図12に示した。
【0060】
図12の上段のグラフは、横軸が磁歪材料9に磁場を印加した時間、縦軸がオーディオアンプのスピーカー端子からの出力電圧である。図12の下段のグラフは、横軸が磁歪材料9に磁場を印加した時間、縦軸が磁歪材料9に生じた磁歪の大きさである。
【0061】
図12からわかるように、磁歪材料9の磁歪は磁歪材料9に印加した交流磁場の周波数に依存しており、最大で約680ppm変位させることができた。本実験には長さ6mmの磁歪材料9を用いたため、磁歪材料9の最大変位量は約4.0μmであった。このように、本発明の磁気回路を用いれば、容易に超磁歪材料に大きな磁歪を生じさせることができた。
【符号の説明】
【0062】
1、1a、1b、1c ヨーク
2、2a、2b、2c 環状部
3、3a、3b、3c 磁場集中部
4 永久磁石(定常磁場印加手段)
5 コイル
6 電源
7 電磁石(可変磁場印加手段)
9 磁歪材料
10、10a、10b 磁気回路
100 アクチュエータ
101 実験用装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状に形成された環状部を有するヨークと、定常磁場を前記環状部に印加する定常磁場印加手段と、強度を変更可能な磁場を前記環状部に印加できる可変磁場印加手段と、を備え、
前記環状部が、他の部位より細く形成された磁場集中部を備えている、磁気回路。
【請求項2】
前記磁場集中部の一部が切り欠かれている、請求項1に記載の磁気回路。
【請求項3】
前記ヨークが複数の前記環状部を備えており、
前記複数の環状部がそれぞれ備える前記磁場集中部が一点に集中するように、前記複数の環状部が配置されている、請求項1又は2に記載の磁気回路。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の磁気回路と、
前記磁気回路の前記磁場集中部に配置された磁歪材料と、を備えるアクチュエータ。
【請求項5】
前記磁歪材料がTbDyFe系合金である、請求項4に記載のアクチュエータ。
【請求項1】
環状に形成された環状部を有するヨークと、定常磁場を前記環状部に印加する定常磁場印加手段と、強度を変更可能な磁場を前記環状部に印加できる可変磁場印加手段と、を備え、
前記環状部が、他の部位より細く形成された磁場集中部を備えている、磁気回路。
【請求項2】
前記磁場集中部の一部が切り欠かれている、請求項1に記載の磁気回路。
【請求項3】
前記ヨークが複数の前記環状部を備えており、
前記複数の環状部がそれぞれ備える前記磁場集中部が一点に集中するように、前記複数の環状部が配置されている、請求項1又は2に記載の磁気回路。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の磁気回路と、
前記磁気回路の前記磁場集中部に配置された磁歪材料と、を備えるアクチュエータ。
【請求項5】
前記磁歪材料がTbDyFe系合金である、請求項4に記載のアクチュエータ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−165537(P2012−165537A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−23116(P2011−23116)
【出願日】平成23年2月4日(2011.2.4)
【出願人】(504409543)国立大学法人秋田大学 (210)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年2月4日(2011.2.4)
【出願人】(504409543)国立大学法人秋田大学 (210)
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