説明

磁気回路の梱包板、それを用いた磁気回路の梱包方法および磁気回路梱包体

【課題】 磁気回路の梱包において、磁気回路の開口部からの漏洩磁界を小さくすると共に、梱包板への吸引力を軽減し、梱包作業工程を減らす。
【解決手段】 1以上の非磁性層2と1以上の磁性層3とを有する永久磁石型磁気回路の梱包板1およびこの磁気回路梱包板の少なくとも1枚を用いて、永久磁石型磁気回路の開口部の少なくとも一部を塞ぐ永久磁石型磁気回路の梱包方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気回路の梱包板およびそれを用いた磁気回路の梱包方法に関するものである。特に、磁気共鳴イメージング装置(MRI)用の永久磁石型磁気回路の搬送、保管時の梱包に関するものである。
【背景技術】
【0002】
磁気共鳴イメージング装置向けの永久磁石を用いた磁気回路は、希土類磁石を用いた磁石型磁気回路が主流となっている。この磁石型磁気回路は、磁石と、磁石からの磁束を通すための継鉄と、磁石間の空隙に均一な磁界を発生させるための一般に磁石表面に軟鉄など軟質磁性体からなる磁極片とを備えてなる。
【0003】
図3,4を参照して従来の永久磁石型磁気回路の1例を説明する。図3は永久磁石型磁気回路101の正面方向から見た断面模式図である。図4は永久磁石型磁気回路101の側面方向から見た断面模式図である。図3,4において、永久磁石型磁気回路101は、空隙を隔てて対向し、厚み方向に磁化された1対の永久磁石105,106と、該1対の永久磁石間の空隙の外側に設けられ、該永久磁石を支持する継鉄102〜104と、該永久磁石の該空隙側の対向面の夫々に設けられ、対向する向きに周辺突起部を有する1対の磁極片107,108とを備え、該1対の磁極片間に磁場を発生させることができる。
【0004】
このような磁石型磁気回路では、上下の磁極を持つベース板(板状継鉄)とそのベースをつなぐ柱(柱状継鉄)の1本または2本とで継鉄が構成され、柱以外のところは全て開口部とみなすことができる。このような磁石型磁気回路は、超伝導のソレノイドコイル型磁気回路に比べ、開口部が広く被験者の受ける閉塞感が緩和されるという特長を持つ。しかし、同時に外部からの磁性体の侵入も起こり易いという問題点があった。一般に病院内ではMRIが設置される部屋は管理区域となり磁性体の持ち込みも制限されるが、工場から病院までの輸送時や病院内での搬送、倉庫内での一時的な保管の際等には、永久磁石型では磁場が常時発生しているため、予期しない形で磁気回路に磁性体が近づくことがあり、磁性体が磁気回路に吸引されて設備および人体への危険が発生することが考えられ、問題となっていた。また、トラックなどで磁気回路を輸送する際は、磁気回路からの漏れ磁場を低減するため鉄製のコンテナ内に磁気回路を入れて運ぶ必要があり、手間が煩雑でもあった。
【0005】
上記の問題は、磁気回路開口部からの漏洩磁界によるものである。このため、上記問題を軽減するためには、開口部からの漏洩磁界を小さくするように、磁気回路を梱包すればよい。漏洩磁界を小さくするには、磁気回路を磁性体で覆ってしまうことが効果的である。しかし、磁性体の板を磁気回路の開口部に近づけると、磁気回路が備える永久磁石による吸引力が発生するため、磁性体の板を取り付ける時に危険が生じ、外すことも難しくなる。そのため、磁気回路の梱包には通常非磁性の板が用いられてきた(特許文献1参照)。しかしながら、それだけでは、漏れ磁場は低減できないため、さらに鉄製のコンテナに入れるということがなされて大規模な輸送が強いられてきた。
【特許文献1】特許第2965968号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、磁気回路の梱包において、磁気回路の開口部からの漏洩磁界を小さくすると共に、梱包板への吸引力を軽減し、梱包作業工程を減らすことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記問題点を解決し、開口部からの漏洩磁界を小さくし、梱包板への吸引力も小さくなるような、磁気回路の梱包板、それを用いた磁気回路の梱包方法および磁気回路梱包体を提供するものである。
【0008】
本発明の1つの側面によると、1以上の非磁性層と1以上の磁性層とを含んでなる永久磁石型磁気回路の梱包板が提供される。また、本発明の別の側面によると、永久磁石型磁気回路の開口部の少なくとも一部を、前記磁気回路梱包板の少なくとも1枚を用いて塞ぐ永久磁石型磁気回路の梱包方法が提供される。さらに、本発明の別の側面によると、空隙を隔てて対向し、厚み方向に磁化された1対の永久磁石と、該永久磁石間の空隙の外側に設けられ、該永久磁石を支持する継鉄と、該永久磁石の該空隙側の対向面の夫々に設けられ、対向する向きに周辺突起部を有する1対の磁極片とを含んでなり、さらに、該磁極片間に磁場を発生させる永久磁石型磁気回路と、該磁気回路の開口部の少なくとも一部を塞ぐように、該磁気回路に固定されている上記磁気回路梱包板の1以上とを含んでなる永久磁石型磁気回路梱包体が提供される。
【発明の効果】
【0009】
以下に詳細に説明するように、本発明によると、磁気回路の梱包において、磁気回路の開口部からの漏洩磁界が小さくなり、同時に梱包板への吸引力が軽減され、鉄コンテナへの収容が不要になるため、梱包作業工程が減少する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に、本発明の実施の形態を、添付図面を参照しながら説明する。もっとも、以下に説明する実施の形態は本発明を限定するものではない。図1は、本発明にかかる梱包板を示す断面模式図である。図2は、本発明にかかる梱包板により永久磁石型磁気回路を梱包した状態の下部永久磁石等を上方向から見た模式図である。
【0011】
本発明にかかる梱包板は、公知の永久磁石型磁気回路に適用することができる。特に限定されるものではないが、上記したように、永久磁石型磁気回路において、実質的に平行な板状継鉄102,103は、柱状継鉄104で支持されている。この一対の板状継鉄102,103には、好ましくは、Nd−Fe−B系、Sm−Co系、Sm−N−Fe系からなる群から選ばれる永久磁石であって、略円盤状の永久磁石105,106が対向して設けられている。さらに、これらの永久磁石105,106の対向する面には、好ましくは夫々ベース(基部)が略円盤形の磁極片107,108が取り付けられている。永久磁石105,106は夫々厚み方向で、実質的に同じ向きに磁化されている。
【0012】
一方、磁極片107,108の周辺部(即ちベースの周辺部)には、夫々対向する向きに周辺突起部が設けられている。周辺突起部の夫々は、磁極片107,108間の空間の略々中央部に形成される磁場の強度を均一にするためのものであり、好ましくは、突起部の高さは略一定である。磁極片107,108として、軟磁性層を用いることができ、例えば、低炭素鋼や継鉄などの軟鉄材からなるベースの上にソフト磁性材料からなる周辺突起部を積層したものである。本発明は、磁気回路の中央部に形成される磁場強度が好ましくは1T以下において特に有効である。
【0013】
本発明にかかる梱包板は、1以上の非磁性層と1以上の磁性層とを有し、磁気回路の空隙部である開口部を塞ぐことにより、磁気回路の開口部からの漏洩磁界を小さくすることができる。図1に示すように、本願の梱包板1は、磁性層3を非磁性層2ではさみ、非磁性層が外側に配置される構成、すなわち、非磁性層−磁性層−非磁性層の三層構造とすると好ましい。非磁性層と磁性層の二層構造であってもよいが、磁性層側が磁気回路側になった場合、外す際に要する力が大きくなるため、非磁性層側を磁気回路側にするようにした方がよいが、磁性層を非磁性層で挟んだ三層構造とするならば、向きを考慮せずとも作業できるためである。また、梱包板は、非磁性層を外側に配置した五層以上の構造等とすることもできるが、この場合、梱包板を製造する際に一層ずつ積層する必要があり、作業性が低くなる。このため、磁性層および非磁性層の1層ごとの厚さを調節することで、梱包板を三層構造とすると好ましい。なお、磁性層と非磁性層とは、任意の方法で固定することができ、特に限定されるものではないが、例えば、接着剤または釘等で固定することができる。なお、本発明にかかる梱包板において、非磁性層と磁性層とは、必ずしもあらかじめ固定されていなくてもよく、磁気回路を梱包する際に、非磁性層と磁性層とがそれぞれ磁気回路に固定されることで、梱包板を構成してもよい。本発明にかかる梱包板として、弾性または塑性を有するシート状の梱包板を用いることもできる。例えば、弾性を有し、上記三層構造のシート状梱包板により、永久磁石型磁気回路の開口部を塞ぐことで、本発明の目的を達成することができる。
【0014】
本梱包板の構成は、磁気回路の磁場強度等に応じて適宜最適化することができる。特に限定されるものではないが、以下に詳細に説明するように、梱包板1枚あたり非磁性層の厚さの合計が5mm以上、磁性層の厚さの合計が1mm以下が好ましい。さらに好ましくは、梱包板1枚あたり非磁性層の厚さの合計が10mm以上20mm以下、磁性層の厚さの合計が0.1mm以上0.5mm以下である。非磁性層がこれより薄いと磁性層への吸引が強くなり外すことが出来なくなってしまう場合がある。一方、磁性層がこれより厚いとやはり磁場吸引が強くなり梱包、開梱時の扱いが難しくなる場合がある。
【0015】
また、特に限定されるものではないが、非磁性層の材質として、ベニヤ板等の木材、プラスチック(塩化ビニル、アクリル、ポリカーボネート、ポリスチレン等)、アルミニウム、SUS316等のSUS300系オーステナイト系ステンレス等が挙げられる。また、特に限定されるものではないが、磁性層の材質として、軟鉄、珪素鋼鈑、パーマロイ、SUS400系のフェライト系またはマルテンサイト系ステンレス等透磁率の高い材料が好ましく、最大透磁率が1000H/m(m・kg・s-2・A-2)以上あると好ましい。また、飽和磁束密度も1T(テスラ:kg・s-2・A-1)以上あると好ましい。
【0016】
本発明によると、梱包板を少なくとも1枚用いて、永久磁石型磁気回路の開口部の少なくとも一部、好ましくは全体を塞ぐことで、漏洩磁界を軽減することができる。さらに、必要に応じて、梱包板を複数枚重ねて磁気回路に取り付けることで漏洩磁界をより低減することができる。特に限定されるものではないが、複数枚の梱包板で磁気回路を梱包する場合、磁気回路の開口部を塞ぐように、開口部である磁気回路の側面に梱包板を設置し、継鉄にボルト等で固定すると、複数の梱包板を1枚ずつ別々に外すことができる。このように複数枚の梱包板で磁気回路を梱包し、複数の梱包板を1枚ずつ別々に外すことができるようにしておくことで、梱包、開梱作業時等における梱包板への磁場吸引力を最小限にすることができる。
【0017】
複数枚の梱包板を使用する場合、梱包板の枚数は、永久磁石の磁力、達成すべき漏洩磁界の大きさ等に応じて、適宜最適化されるべきものである。
【0018】
特に限定されるものではないが、梱包板を磁気回路に固定する方法として、以下の方法が挙げられる。すなわち、まず継鉄に長いボルトを4箇所ほど仮止めし、そのボルトの頭部よりも大きな穴を設けた梱包板をそのボルトに掛ける。必要な枚数の梱包板を掛けたあとで、ボルトを、重ねた梱包板を締めて固定するのに適当な長さのものに1箇所ずつ交換する。その際に、ボルトに梱包板の穴よりも大きなワッシャを用いて固定することで、複数の梱包板を固定することが可能となる。
【0019】
本発明によれば、搬送、保管時等の漏洩磁界を小さくした形で、磁気回路を小さく梱包できる。このため、別途鉄製コンテナ等を用意する必要が無くなる。もちろん、漏洩磁界が小さいので磁性体が磁気回路へ吸引される事故も発生しなくなる。
【0020】
なお、上記したように、梱包は開口部の全体を塞ぐ形、すなわち開口部の側面の全体に梱包板を取りつけ、外部から撮像空間を含む磁極片周辺が完全に見えないようにすると好ましい。また、梱包板は継鉄に直接取りつける形が好ましい。そうすることで、梱包後の、磁気回路と梱包板とを含む梱包体の体積を最小限にすることができる。
【実施例】
【0021】
以下に、本発明の実施例を、比較例を挙げて説明する。もっとも、以下に説明する実施例は本発明を限定するものではない。本実施例では、中心磁場強度0.2TのC型の磁気回路を用い、中心から開口部側に1m離れたところの漏洩磁界をガウスメータ(FWBELL社製No.9900)により測定した(図2参照)。梱包板は、0.3mmの軟鉄製の薄板を10mmの木製の合板で挟み、非磁性層−磁性層−非磁性層の三層構造としたものを用いた。表1に示すように複数枚の梱包板を、ボルトにより開口部に取り付けた。なお、図2は、梱包板を3枚(すなわち、磁性層3枚、非磁性層6枚)重ねた状態を示す。
【0022】
【表1】

【0023】
表1から明らかなように、本発明によると、磁気回路の漏洩磁界を小さくした安全な状態で磁気回路を梱包できるようになった。なお、非磁性部は本実施例では木製合板を使用したが、取り扱い上問題がなければ木製部は枠の部分のみとしあとは発砲スチロールを使用することで軽量化することもできる。一方で、比較例として、実施例における梱包板の代りに10mmの合板のみを開口部に取り付けたところ、梱包板を取り付けない場合と同じく、漏洩磁界が14mTとなり、漏洩磁場は低減できなかった。また、磁性部の厚さを2mmとしたところ、吸引力が強くなり取り外す際にかなりの力を要した。このことから磁性層の厚さは1mm以下が好ましい。また、非磁性層の厚さを3mmとしたところやはり磁性層が強く吸引されてしまう場合があった。
【0024】
また、磁性層としてSUS410を0.3mm使用し、その両側をSUS304のフレームと0.3mmの板で実質10mmの厚さになるような全てSUSで構成した梱包板も製作可能である。このような梱包板は腐食に強いため、繰り返しの使用や海上輸送などの場合に都合が良い。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明にかかる梱包板を示す断面模式図である。
【図2】本発明にかかる梱包板により永久磁石型磁気回路を梱包した状態の下部永久磁石等を上方向から見た模式図である。
【図3】永久磁石型磁気回路101の正面方向から見た断面模式図である。
【図4】永久磁石型磁気回路101の側面方向から見た断面模式図である。
【符号の説明】
【0026】
1:梱包板
2:非磁性層
3:磁性層
101:永久磁石型磁気回路
102,103:板状継鉄
104:柱状継鉄
105,106:永久磁石
107,108:磁極片

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1以上の非磁性層と1以上の磁性層とを含んでなる永久磁石型磁気回路の梱包板。
【請求項2】
前記非磁性層の厚さの合計が5mm以上であり、前記磁性層の厚さの合計が1mm以下である請求項1に記載の磁気回路梱包板。
【請求項3】
前記梱包板が、非磁性層−磁性層−非磁性層の三層構造を有する請求項1または2に記載の磁気回路梱包板。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の磁気回路梱包板の少なくとも1枚を用いて、永久磁石型磁気回路の開口部の少なくとも一部を塞ぐ永久磁石型磁気回路の梱包方法。
【請求項5】
空隙を隔てて対向し、厚み方向に磁化された1対の永久磁石と、
該永久磁石間の空隙の外側に設けられ、該永久磁石を支持する継鉄と、
該永久磁石の該空隙側の対向面の夫々に設けられ、対向する向きに周辺突起部を有する1対の磁極片と
を含んでなり、さらに、該磁極片間に磁場を発生させる永久磁石型磁気回路と、
該磁気回路の開口部の少なくとも一部を塞ぐように、該磁気回路に固定されている請求項1〜2のいずれかに記載の磁気回路梱包板の1以上と
を含んでなる永久磁石型磁気回路梱包体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−89044(P2006−89044A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−263160(P2004−263160)
【出願日】平成16年9月10日(2004.9.10)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】