説明

磁気式ジャイロ

【課題】高速回転の際にも低速回転の際にも回転角度を精確に計測することができる磁気式ジャイロを提供すること。
【解決手段】3軸磁気センサ21と、3軸加速度センサ22と、メモリ3と、第1回転軸決定手段41と、第2回転軸決定手段42と、被測定体の回転角度を磁気ベクトルのデータを基に算出する第1回転角度算出手段51と、被測定体の回転角度を磁気ベクトルのデータ及び加速度ベクトルのデータを基に算出する第2回転角度算出手段52と、回転速度判別手段6と、高速モードのとき第1回転角度算出手段による算出結果を出力し、低速モードのとき第2回転角度算出手段による算出結果を出力する出力手段8とを有する磁気式ジャイロ1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被測定体がコマ等のように回転軸及び回転速度を時間とともに変えながら、回転運動している場合であっても地磁気ベクトルを磁気センサに微小時間毎に連続的に測定することにより、刻々と変化する瞬間的な回転軸、回転角度を測定することが可能な磁気式ジャイロに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、例えば携帯電話機やPDA等の携帯電子機器を傾けたり振り回したりしたときのピッチ、ヨー、ロール方向の回転角度(機器の姿勢)や、回転角速度を検出し、これらを上記携帯電子機器へのインプット信号とする技術が開発されている。
また、カメラの回転角度や回転角速度を検出して、写真(撮影画像)の手振れ防止用の補正信号とする技術も開発されている。
これらの技術において、機器の回転角度や回転角速度を検出する手段として、ジャイロが利用されている。
【0003】
上記ジャイロとしては、例えば、ディレクショナルジャイロ(特許文献1)や、レートジャイロ(特許文献2)など、運動力学的な原理を利用したものが一般的である。
しかし、これらのジャイロは、測定対象とする回転運動以外の力学的な振動や衝撃等が印加されたときにもこれらに反応してしまうおそれがあり、ノイズが出力信号に重畳され、精確な計測が困難となるおそれがあるという問題がある。
【0004】
また、上記従来のジャイロは、複雑な機構を必要とするため、低コスト化や小型化が困難である。
それ故、これらのジャイロは、例えば、小型化、高密度化が進んでいる携帯電子機器等に組み込むことは困難であるという問題もある。
【0005】
そこで、地磁気を利用して、任意の姿勢を基準とした回転角度を測定する磁気式ジャイロが提案されている(特許文献3)。
特許文献3に開示された磁気式ジャイロは、3軸磁気センサによって検出した地磁気ベクトルの時間変化を基に、被測定体の回転角度を計測することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第3143892号明細書
【特許文献2】特開平7−139951号公報
【特許文献3】国際公開第2007/099599号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献3に記載の磁気式ジャイロを用いて回転角度を計測する際、被測定体に対する地磁気ベクトルの変化に基づいて回転軸を算出する必要があるが、被測定体の回転運動が低速回転である場合、地磁気ベクトルの変化が小さく(遅く)なるため、回転軸の算出に時間がかかる。そのため、低速回転時において、被測定体の回転角度を迅速に精確に測定することが困難となるという問題がある。
【0008】
本発明は、かかる問題点に鑑みてなされたもので、高速回転の際にも低速回転の際にも回転角度を精確に計測することができる磁気式ジャイロを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、被測定体に固定された3軸直交座標系における磁気ベクトルとして地磁気を検出する3軸磁気センサと、
上記3軸直交座標系における加速度ベクトルとして重力加速度を検出する3軸加速度センサと、
上記3軸磁気センサによって時系列的に検出される上記磁気ベクトルのデータ、及び上記3軸加速度センサによって時系列的に検出される上記加速度ベクトルのデータを蓄積するメモリと、
該メモリに蓄積された異なる2時点以上の上記磁気ベクトルのデータを基に、上記被測定体の回転運動の基準とする回転軸を決定する第1回転軸決定手段と、
上記メモリに蓄積された異なる2時点以上の上記磁気ベクトルのデータ及び上記加速度ベクトルのデータを基に、上記被測定体の回転運動の基準とする回転軸を決定する第2回転軸決定手段と、
上記第1回転軸決定手段によって決定された上記回転軸を中心とした上記被測定体の回転角度を、上記磁気ベクトルのデータを基に算出する第1回転角度算出手段と、
上記第2回転軸決定手段によって決定された上記回転軸を中心とした上記被測定体の回転角度を、上記磁気ベクトルのデータ及び上記加速度ベクトルのデータを基に算出する第2回転角度算出手段と、
上記3軸磁気センサによって時系列的に検出される上記磁気ベクトルのデータを基に、上記被測定体が、基準となる回転速度以上の高速回転を行っているか、あるいは、基準となる回転速度未満の低速回転を行っているかを判別する回転速度判別手段と、
該回転速度判別手段によって、上記被測定体が上記高速回転を行っていると判断された高速モードのとき、上記第1回転角度算出手段による上記被測定体の回転角度の算出結果を出力し、上記回転速度判別手段によって、上記被測定体が上記低速回転を行っていると判断された低速モードのとき、上記第2回転角度算出手段による上記被測定体の回転角度の算出結果を出力する出力手段とを有することを特徴とする磁気式ジャイロにある(請求項1)。
【発明の効果】
【0010】
上記磁気式ジャイロは、上記回転速度判別手段を有する。そして、上記出力手段は、回転速度判別手段によって上記高速モードと判定されたとき、上記第1回転角度算出手段による上記被測定体の回転角度(姿勢変化量)の算出結果を出力し、上記低速モードと判定されたとき、上記第2回転角度算出手段による上記被測定体の回転角度の算出結果を出力する。
【0011】
ここで、上記第1回転角度算出手段は、上記回転軸を中心とした上記被測定体の回転角度を、上記磁気ベクトルのデータを基に算出するよう構成されている。すなわち、回転角度の算出に当たって、加速度ベクトルのデータを用いないため、被測定体が高速回転していても、これに伴う加速度は、回転角度の算出時にノイズとなることはなく、精確な回転角度の算出を行うことができる。また、この第1回転角度算出手段は、上記高速モードにて用いられるため、上記第1回転軸決定手段によって上記磁気ベクトルのデータのみから回転軸を迅速に決定することができ、その回転軸を中心とする回転角度を、第1回転角度算出手段によって迅速に算出することができる。
【0012】
一方、上記第2回転角度算出手段は、上記被測定体の回転角度を、上記磁気ベクトルのデータ及び上記加速度ベクトルのデータを基に算出するよう構成されている。すなわち、回転角度の算出に当たって、磁気ベクトルのデータに加えて加速度ベクトルのデータをも用いるため、上記低速モードにおいても、上記第2回転軸決定手段によって、磁気ベクトルのデータと加速度ベクトルのデータとを用いて回転軸を迅速に決定することができる。そして、これによって決定された回転軸を基準に、上記第2回転角度算出手段が被測定体の回転角度を迅速に算出することができる。
被測定体が低速回転している低速モードにおいては、回転運動に伴う加速度、すなわち重力加速度以外の加速度は充分に小さく、無視できるため、この加速度が回転角度の算出時にノイズとなることもない。
【0013】
このように、高速モードと低速モードとで、回転角度算出手段を使い分けることにより、上記磁気式ジャイロは、従来のジャイロでは実現することのできなかった被測定体の低速回転から高速回転までのあらゆる運動状況における精確な回転角度の検出を行うことができる。
【0014】
以上のごとく、本発明によれば、高速回転の際にも低速回転の際にも回転角度を精確に計測することができる磁気式ジャイロを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施例1における、磁気式ジャイロの概念図。
【図2】実施例1における、磁気式ジャイロによる回転角度及び回転角速度の計測のフロー図。
【図3】実施例1における、3軸直交座標系、回転軸、磁気ベクトル等の説明図。
【図4】実施例1における、回転中心座標の算出方法の補助説明図。
【図5】実施例1における、回転角度の算出方法の補助説明図。
【図6】実施例1における、3軸磁気センサの斜視図。
【図7】マグネト・インピーダンス・センサ素子と他の磁気センサとの性能比較図。
【図8】実施例2における、オフセット誤差がある場合の回転中心座標の算出方法の補助説明図。
【図9】実施例2における、回転角度の算出方法の補助説明図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明において、上記磁気式ジャイロは、例えば、携帯電話機やPDA等の携帯電子機器、カメラ、車両、ロボット、航空機、船舶等、種々の被測定体に搭載することができる。
また、上記磁気ベクトルは、上記3軸直交座標系における原点を始点とした地磁気に平行なベクトルであり、場所によっては大きさが異なることもあるが、同じ位置であればその大きさは一定である。また、上記加速度ベクトルは、上記3軸直交座標系における原点を始点とした鉛直下方(重力方向)のベクトルであり、その大きさは一定である。
【0017】
また、上記第1回転角度算出手段又は上記第2回転角度算出手段によって算出された異なる2時点間における上記被測定体の回転角度と、その2時点における上記磁気ベクトルのデータの採取時刻の差とを基に、上記回転軸を中心とする上記被測定体の回転角速度を算出する角速度算出手段を有することが好ましい。
本発明では、微小時間(概ね数m秒以下)間隔で連続的に磁気ベクトルを測定し、そのデータから各時間における瞬間的な回転軸と回転角度を求めている。従って、求めた回転角度を、メモリ内に保存された磁気ベクトルの測定時刻データを用いることにより、被測定体の各時刻における瞬間的な回転角速度(姿勢変化速度)を容易に検出することができる磁気式ジャイロを得ることができる。それ故、被測定体の姿勢変化量だけでなく、姿勢変化速度も検出することができる。
【0018】
また、上記第1回転軸決定手段は、上記メモリに蓄積された異なる3時点以上の上記磁気ベクトルのデータを基に、上記3軸直交座標系の3軸に限定されない任意の回転軸を上記回転軸として決定するよう構成してあることが好ましい。
この場合には、上記回転軸を、上記被測定体の実際の回転軸と略一致させることができ、より精確な回転角度を計測することができる。
【0019】
また、上記第1回転軸決定手段は、異なる3時点以上の上記磁気ベクトルのうちの2つの磁気ベクトルの差である差分ベクトルを2つ算出し、これら2つの差分ベクトルの外積をとることにより、上記回転軸と同方向の回転軸ベクトルを算出することが好ましい。
この場合には、容易かつ精確に上記回転軸を算出することができる。
【0020】
また、上記第1回転角度算出手段は、上記3軸直交座標系における異なる3時点以上の上記磁気ベクトルのデータを基に、該3つ以上の磁気ベクトルの座標点を通る軌跡円の中心座標を算出する回転中心座標算出手段と、該回転中心座標算出手段によって算出された上記中心座標と、上記磁気ベクトルの座標点との距離を算出することにより、上記軌跡円の半径を算出する半径算出手段とを有し、該半径算出手段によって算出した上記軌跡円の半径と、異なる2時点の上記磁気ベクトルの座標点とを基に、上記計算に用いた磁気ベクトルデータの測定時刻間における回転角度を算出するよう構成してあることが好ましい(請求項2)。
【0021】
この場合には、上記3軸磁気センサにオフセット誤差が存在しても、被測定体の回転角度を、容易かつ精確に計測することができる。
すなわち、被測定体の磁気センサの近傍に磁化された部品が存在する場合、その部品により生じる磁気ベクトルが、地磁気ベクトルに加算された値を測定させることになる。しかし、本発明ではこの加算分(オフセット)が存在した環境で測定しても被測定体の回転角度の算出過程における適切な処理により、オフセット誤差の有無にかかわらず、直接精確な回転角度を計測することができる。しかも、オフセットされた原点を算出することなく、磁気ベクトルの回転中心座標を直接求めることで、被測定体の回転角度を算出するため、特別な補正計算も不要となる。
それゆえ、簡易な構成にて、3軸磁気センサにオフセット誤差が生じていても、被測定体の回転角度を精確に計測することができる。すなわち、従来の振動式ジャイロのように使用時間に伴って計測原点がドリフトすることによる計測誤差が発生するという現象を招くことを、簡易な構成にて防ぐことができる。
【0022】
また、上記第1回転軸決定手段は、上記3軸直交座標系の3軸のうち、上記磁気ベクトルの成分の変化が最も小さい方向の軸を上記回転軸として決定するよう構成してあることが好ましい。
この場合には、上記第1回転軸決定手段において行われる演算を簡素化することができ、上記回転軸を容易に決定することができる。本例の磁気式ジャイロでは、基本的にはユーザーが被測定体に対し、いかなる操作を行っても精確に回転軸を求める必要があることから、求める回転軸は時間とともに変化する任意軸となる。しかし、回転軸が3軸直交座標系のいずれかの回転軸と略一致する場合や非常に近いと判断できる場合には、任意軸を求める演算を行なわなくても、それほど精度を低下させることはなく、その場合には、上記3軸方向のいずれかを上記回転軸として設定することができる。
これにより、演算を簡略化することができる。
すなわち、携帯電話機等に与える回転方向は、その筐体を基準に、ヨー、ロール、ピッチの方向とすることが多いため、これらのいずれの回転であるかが識別できれば、回転運動による入力が可能となるため、携帯電話機等を被測定体とする場合等に効果的である。
【0023】
また、上記高速モードと上記低速モードとが切り替わった直後に算出される上記被測定体の回転角度の算出結果は、少なくとも上記高速モードと上記低速モードとが切り替わる直前の1又は複数のデータを用いて修正し、上記高速モードと上記低速モードとが切り替わる直前に算出された上記被測定体の回転角度の算出結果との間の平滑的な連続性を確保するよう構成してあることが好ましい(請求項3)。
この場合には、上記高速モードと上記低速モードとの間の切り替わりに伴う計測誤差を小さくすることができる。すなわち、上記高速モードと上記低速モードとが切り替わると、用いられる回転角度算出手段が、上記第1回転角度算出手段と上記第2回転角度算出手段との間で切り替わり、これに伴い、用いられる回転軸決定手段が、上記第1回転軸決定手段と上記第2回転軸決定手段との間で切り替わる。それゆえ、この切り替わりの前後で、演算に用いられる上記回転軸が変わることとなるため、その算出結果も変わることとなる。この変化を平滑化、連続化することにより、回転角度の算出誤差を小さくすることができる。
【0024】
また、上記被測定体の実際の回転軸の方向が上記磁気ベクトルの方向と一致したとき、上記第1回転角度算出手段又は第2回転角度算出手段に代わって上記回転軸を中心とした上記被測定体の回転角度を上記加速度ベクトルのデータを基に算出する第3回転角度算出手段を有することが好ましい(請求項4)。
この場合には、被測定体の回転に伴って上記磁気ベクトルが変化しないため、磁気ベクトルのデータを用いて被測定体の回転角度を算出することができない。すなわち、上記第1回転角度算出手段も上記第2回転角度算出手段も用いることができない。そこで、上記第3回転角度算出手段によって、上記加速度ベクトルのデータのみを用いて回転角度を算出する。これにより、上記被測定体の実際の回転軸の方向が上記磁気ベクトルの方向と一致したときでも、被測定体の回転角度を算出することが可能となる。
ここで、「上記被測定体の実際の回転軸の方向が上記磁気ベクトルの方向と一致」とは、これらの方向が完全一致の場合のみならず、上記第1回転軸決定手段や上記第2回転軸決定手段によって回転軸を決定することが困難な程度に略一致する場合も含まれる。
【0025】
また、上記3軸磁気センサは、マグネト・インピーダンス・センサ素子によって構成してあることが好ましい(請求項5)。
この場合には、より高精度、高感度、高応答性、かつ小型の磁気式ジャイロを得ることができる。すなわち、目まぐるしく回転軸、回転角、回転角速度が変化している被測定体の回転運動状況を精確に測定可能とするためには、極めて短時間の時間間隔毎(概ね数m秒以下)毎に磁気ベクトルを連続して測定しなければならない。すなわち、このような回転状況が変化している物体の回転角速度を精確に求めるためには、角速度の定義、すなわち回転角を時間で微分した値(Δtを限りなく無限小とした場合の回転角を時間で除した値)と略一致する値を求める必要がある。そのためには、極めて短時間に精度良く測定可能な磁気センサが求められる。
マグネト・インピーダンス・センサ素子(MI素子)は、前記した測定条件に対応可能な優れた素子であり、高感度であるため、微弱な地磁気を高精度にて検出することができる。更には、マグネト・インピーダンス・センサ素子は小型であるため、小型の3軸磁気センサを得ることができる。また、これにより、磁気式ジャイロをICチップ内に納めることも可能となる。
なお、上記3軸磁気センサは、3個の上記マグネト・インピーダンス・センサ素子を、それぞれの感磁方向が互いに直交する3軸方向となるように配設することにより、形成することができる。
【0026】
なお、上記3軸磁気センサは、上記した通り、極めて短時間で測定可能とする必要があり、現在のセンサの性能であれば、マグネト・インピーダンス・センサ素子が最適であるが、高精度、高感度、高応答が実現できるセンサであれば他のセンサを用いても何ら問題はない。例えば、ホール素子、磁気抵抗素子、フラックスゲート等、種々の磁気検出用の素子であっても、短時間に高精度で測定可能な素子を選択できれば同様の精度の良い磁気式ジャイロを構成することもできる。
また、3軸加速度センサは、例えば、静電容量型加速度センサによって構成することができる。
【0027】
また、上記磁気式ジャイロは、上記被測定体が回転運動状態にある場合において、地磁気ベクトルを連続的に測定し、測定した地磁気ベクトルから測定した時間における瞬間的な回転軸及び該回転軸を中心とする瞬間的な回転角度を求めるものであって、上記メモリは、測定した瞬間の時刻情報と共に上記磁気ベクトルのデータ及び上記加速度ベクトルのデータを蓄積するよう構成してあり、上記第1回転軸決定手段及び上記第2回転軸決定手段は、上記2時点以上の磁気ベクトルの測定時間内における上記被測定体の瞬間的な回転運動の基準とする回転軸を決定するよう構成してあり、上記第1回転角度算出手段及び上記第2回転角度算出手段は、上記回転軸を中心とした上記被測定体の瞬間的な回転角度を算出するよう構成してあることが好ましい(請求項6)。
この場合には、被測定体がコマ等のように回転軸及び回転速度を時間とともに変えながら、回転運動している場合であっても地磁気ベクトルを磁気センサに微小時間毎に連続的に測定することにより、刻々と変化する瞬間的な回転軸、回転角度を測定することができる。
【実施例】
【0028】
(実施例1)
本発明の実施例にかかる磁気式ジャイロにつき、図1〜図6を用いて説明する。
本例の磁気式ジャイロ1は、図1に示すごとく、3軸磁気センサ21と、3軸加速度センサ22と、メモリ3と、第1回転軸決定手段41と、第2回転軸決定手段42と、第1回転角度算出手段51と、第2回転角度算出手段52と、回転速度判別手段6と、角速度算出手段7と、出力手段8とを有する。
【0029】
3軸磁気センサ21は、図3に示す、被測定体に固定された3軸直交座標系10における磁気ベクトルとして地磁気を検出する。
3軸加速度センサ22は、3軸直交座標系10における加速度ベクトルとして重力加速度を検出する。
【0030】
メモリ3は、3軸磁気センサ21によって時系列的に検出される磁気ベクトルのデータ、及び3軸加速度センサ22によって時系列的に検出される加速度ベクトルのデータを測定した瞬間の時刻情報とともに、蓄積する。
【0031】
第1回転軸決定手段41は、メモリ3に蓄積された異なる2時点以上の磁気ベクトルのデータを基に、3軸直交座標系10の原点を通ると共に被測定体の回転運動の基準とする回転軸を決定する(図3の符号K参照)。
第2回転軸決定手段42は、メモリ3に蓄積された異なる2時点以上の磁気ベクトルのデータ及び加速度ベクトルのデータを基に、3軸直交座標系10の原点を通ると共に被測定体の回転運動の基準とする回転軸を決定する。
【0032】
第1回転角度算出手段51は、第1回転軸決定手段41によって決定された回転軸を中心とした被測定体の回転角度を、磁気ベクトルのデータを基に算出する。
第2回転角度算出手段52は、第2回転軸決定手段42によって決定された回転軸を中心とした被測定体の回転角度を、磁気ベクトルのデータ及び加速度ベクトルのデータを基に算出する。
【0033】
回転速度判別手段6は、3軸磁気センサ21によって時系列的に検出される磁気ベクトルのデータを基に、被測定体が、基準となる回転速度以上の高速回転を行っているか、あるいは、基準となる回転速度未満の低速回転を行っているかを判別する。
【0034】
角速度算出手段7は、第1回転角度算出手段51又は第2回転角度算出手段52によって算出された異なる2時点間における被測定体の回転角度と、その2時点における磁気ベクトルのデータの採取時刻の差とを基に、回転軸を中心とする被測定体の回転角速度を算出する。
【0035】
出力手段8は、回転速度判別手段6によって、被測定体が高速回転を行っていると判断された高速モードのとき、第1回転角度算出手段51による被測定体の回転角度の算出結果を出力し、回転速度判別手段6によって、被測定体が低速回転を行っていると判断された低速モードのとき、第2回転角度算出手段52による被測定体の回転角度の算出結果を出力する。
【0036】
3軸磁気センサ2は、図6に示すごとく、マグネト・インピーダンス・センサ素子20によって構成してある。即ち、3軸磁気センサ2は、3個のマグネト・インピーダンス・センサ素子20を、それぞれの感磁方向が互いに直交する3軸方向(X軸方向、Y軸方向、Z軸方向)となるように配設することにより、形成してある。また、3軸加速度センサは、シリコンを櫛歯状に微細加工した部品を2つ組合せ、加速度の印加によって生じる部品同士の間隙の変化を静電容量の変化として検出する、いわゆるMEMS加速度センサを3軸方向に組み合せてある。なお、図6においては、マグネト・インピーダンス・センサ素子20以外の電子部品や配線は省略してある。
【0037】
本例の磁気式ジャイロ1による被測定体の回転角度(姿勢変化量)と回転速度(姿勢変化速度)の検出のための一連の処理の流れにつき、図2を用いて説明する。
まず、検出開始(ステップS1)の後、3軸磁気センサ21及び3軸加速度センサ22によってそれぞれ計測した磁気ベクトルのデータ及び加速度ベクトルのデータを測定した瞬間の時刻情報とともに、逐次、メモリ3に入力する。
【0038】
これらのデータを用いて、第1回転軸決定手段41、第2回転軸決定手段42、第1回転角度算出手段51、及び第2回転角度算出手段52において、それぞれ回転軸を決定し、その回転軸を中心とする被測定体の回転角度を算出する(ステップS3〜S6)。
これにより、被測定体の実際の回転軸の方向が地磁気ベクトルの方向と一致ないし略一致しない限り、第1回転角度算出手段51と第2回転角度算出手段52との少なくともいずれか一方において精確な回転角度が算出される。なお、被測定体の実際の回転軸の方向が地磁気ベクトルの方向と一致ないし略一致している場合についての回転軸決定手段については、実施例4において第3回転軸決定手段として後述する。
【0039】
次いで、回転速度判別手段6によって、被測定体の運動状況が、高速回転の高速モードか、あるいは低速回転の低速モードかを判別する(ステップS7)。
すなわち、3軸磁気センサ21によって時系列的に検出される磁気ベクトルのデータを基に、所定の回転速度を基準として、被測定体が基準以上の高速回転をしている(高速モード)か、基準未満の低速回転をしている(低速モード)かを判別する。その具体的手段については後述する。
【0040】
ここで、高速モードと判断された場合には、上記の第1回転角度算出手段51による算出結果と第2回転角度算出手段52による算出結果のうち、前者がより精確であると判断できるため、これを採用する(ステップS8)。
一方、低速モードと判断された場合には、上記の第1回転角度算出手段51による算出結果と第2回転角度算出手段52による算出結果のうち、後者がより精確であると判断できるため、これを採用する(ステップS9)。
【0041】
次いで、得られた回転角度の算出結果を、ローパスフィルタによって平滑化、連続化する(ステップS10)。すなわち、得られた回転角度のデータを、その直前に得られた回転角度のデータを用いて平滑化、連続化することにより、途中で低速モードと高速モードの切替がされている場合であったとしても第1回転角度算出手段で算出された角度と第2回転角度算出手段で算出された角度をまたがって出力する際の不連続を平滑化、連続化することができ、モードの切替が生じていないとしても、データを平滑化し、また、ノイズを除去することができる。
【0042】
そして、修正された回転角度の算出結果を、出力手段8によって出力する(ステップS11)。
また、回転角度の算出結果を用いて、角速度算出手段7によって回転角速度を算出し(ステップS12)、その結果を出力手段8によって出力する(ステップS13)。
【0043】
次に、本例の磁気式ジャイロ1を用いた被測定体の姿勢変化量及び姿勢変化速度の検出方法につき、具体的に説明する。
磁気式ジャイロ1は、図1に示すごとく、3軸磁気センサ21及び3軸加速度センサ222と、3軸磁気センサ21及び3軸加速度センサ22によってそれぞれ検出した磁気ベクトルのデータ及び加速度ベクトルのデータを測定した瞬間の時刻情報とともに蓄積すると共にこれらを基に被測定体の姿勢変化量及び姿勢変化速度を算出する演算を行うコンピュータ11と、コンピュータ11によって算出した算出結果を出力するモニタ等の出力手段8とを有する。すなわち、該コンピュータ11には、上記メモリ3と、上記第1回転軸決定手段41及び上記第2回転軸決定手段42と、上記第1回転角度算出手段51及び上記第2回転角度算出手段52と、上記回転速度判別手段6と、上記角速度算出手段7とが設けてある。
【0044】
上記メモリ3は、ハードウェアからなるものであり、上記第1回転軸決定手段41及び上記第2回転軸決定手段42と、上記第1回転角度算出手段51及び上記第2回転角度算出手段52と、上記回転速度判別手段6と、上記角速度算出手段7とは、ソフトウェア内に演算プログラムとして構築されている。
第1回転軸決定手段41と第1回転角度算出手段51、あるいは第2回転軸決定手段42と第2回転角度算出手段52は、互いに明確に区別される必要は必ずしもなく、これらによる一連の演算によって回転軸と回転角度とを算出するものであってもよい。
【0045】
3軸磁気センサ21は、被測定体の一部に固定されており、時系列的に地磁気を磁気ベクトルm1、m2、m3として検出する。磁気ベクトルm1、m2、m3は、被測定体に固定された3軸直交座標系10の原点Oを始点とするベクトルである。このとき、被測定体が動いて、姿勢を変化させている場合には、時系列的に検出される複数の磁気ベクトルm1、m2、m3は、互いに異なる。
【0046】
3軸加速度センサ22も、被測定体の一部に固定されており、時系列的に重力加速度を加速度ベクトルa1、a2、a3として検出する。加速度ベクトルa1、a2、a3も、3軸直交座標系10の原点Oを始点とするベクトルであり、被測定体が動いて、姿勢を変化させている場合には、時系列的に検出される複数の加速度ベクトルa1、a2、a3は、互いに異なる。
【0047】
これらの時系列的に検出される磁気ベクトルm1、m2、m3のデータ及び加速度ベクトルa1、a2、a3のデータを、測定した瞬間の時刻情報とともにコンピュータ11内のメモリ3に送り、時系列的なデータとして記憶させる(図2のS2)。また、このときメモリ3に送る磁気ベクトル及び加速度ベクトルのデータは、デジタルローパスフィルタを作用させたものをm1、m2、m3およびa1、a2、a3とみなしてもよい。これにより、測定値のノイズを減少することができ、より精確な角度及び角速度を算出することが可能となる。
これらのデータを基に、第1回転軸決定手段41と第1回転角度算出手段51とによって、あるいは、第2回転軸決定手段42と第2回転角度算出手段52とによって、被測定体の回転角度(姿勢変化量)を算出する(図2のS3〜S6)。
【0048】
まず、第1回転軸決定手段41と第1回転角度算出手段51とによる、回転角度の算出方法につき説明する。
第1回転軸決定手段41においては、メモリ3に蓄積された異なる2時点以上の磁気ベクトルのデータを基に、被測定体の回転軸Kを算出する。本例では、3軸直交座標系10の3軸に限定されない任意の回転軸を上記回転軸Kとして決定するために、異なる3時点以上の磁気ベクトルm1、m2、m3のデータを用いる。
【0049】
即ち、例えば、異なる3時点(t1、t2、t3)の磁気ベクトルのデータを、メモリ3から読み出す。そして、時刻t1における磁気ベクトルをm1=(m1x、m1y、m1z)とし、時刻t2における磁気ベクトルをm2=(m2x、m2y、m2z)とし、時刻t3における磁気ベクトルをm3=(m3x、m3y、m3z)とする。ここで、時刻t1、t2、t3の互いの間隔は、数m秒以下である。
【0050】
これらの磁気ベクトルの終点M1、M2、M3は、図3に示すごとく、3軸直交座標系10において、一つのデータ平面Sの上に存在し、一つの軌跡円Qの周上に存在することとなる。このデータ平面Sに直交すると共に、軌跡円Qの中心を通る軸が、回転軸Kとなる。
なお、磁気ベクトルのデータは、ここでは3個としたが、4個以上とって、これらを通る平均的な軌道円を描くこともでき、磁気ベクトルのデータは多数とるほど、精度のよい演算が可能となる。
【0051】
そこで、まず、図5に示すごとく、磁気ベクトルm1とm2との差である差分ベクトルn1と、磁気ベクトルm3とm2との差である差分ベクトルn2とを算出する。そして、以下の式(1)、(2)のように、差分ベクトルn1、n2のX、Y、Z成分を整理することができる。
【0052】
1=m1−m2=(m1x−m2x、m1y−m2y、m1z−m2z)=(n1x、n1y、n1z
・・・(1)
2=m3−m2=(m3x−m2x、m3y−m2y、m3z−m2z)=(n2x、n2y、n2z
・・・(2)
【0053】
そして、差分ベクトルn1と差分ベクトルn2との外積n1×n2をとることにより、差分ベクトルn1,n2に垂直なベクトル、即ち上記データ平面Sに垂直なベクトルとして、回転軸ベクトルkを、下記の式(3)に示すように得ることができる。
k=n1×n2=(n1y2z−n1z2y、n1z2x−n1x2z、n1x2y−n1y2x
=(k1,k2,k3) ・・・(3)
【0054】
ここで算出される回転軸ベクトルkは3軸磁気センサ2のノイズの影響を大きく受ける。また、一般的に被測定体の回転軸の変化は連続的で、急激な変化は考えられない。以上から、回転軸ベクトルkの算出精度が実用に達しない場合には、kに対し、デジタルローパスフィルタを作用させたものを回転軸ベクトルkとみなしてもよい。その際、回転方向が急激に反転する場合や回転速度が低速の場合では、異なる2時点以上のkの向きが反転し、フィルタ等の平滑化処理の際に不具合を生じる可能性がある。これに対しては、前時刻におけるkと現時刻におけるkとのなす角度をベクトルの内積計算等を用いて算出し、90度以上の場合には現時刻のkを反転するという処理を行ってもよい。
【0055】
3軸磁気センサ2にオフセット誤差がなく、被測定体の回転軸Kが3軸直交座標系10の原点Oを通る場合においては、上記のようにして得られた回転軸ベクトルkに平行であり、3軸直交座標系10の原点Oを通る直線を回転軸Kとすることができる。この回転軸Kとデータ平面Sとが交わる点が、上記軌跡円Qの中心座標Cとなる。そこで、第1回転角度算出手段51においては、回転軸Kとデータ平面Sとの交点として、以下のように中心座標Cを求める。
【0056】
図4に示すごとく、中心座標ベクトルOCの大きさは、回転軸ベクトルkと軌跡円Q上に終点M1(或いはM2又はM3)を有する磁気ベクトルm1(或いはm2又はm3)との内積によって求めることができる。また、中心座標ベクトルOCの向きは、回転軸ベクトルkと同じである。そこで、中心座標ベクトルOCをベクトルakとおくと以下の等式(4)が成り立つ。ここで、aは任意の係数である。
k・ak=k・m1 ・・・(4)
【0057】
この等式(4)から、係数aを下記の式(5)のように求めることができる。
a=(mxx+myy+mzz)/(kx2+ky2+kz2) ・・・(5)
そして、データ平面Sにおける中心座標ベクトルOCがakに等しいことから、中心座標C(中心座標ベクトルOC)は(akx,aky,akz)により得られる。
【0058】
このようにして得られた中心座標Cは軌跡円Qの中心である。そして、この中心座標Cを終点とする中心座標ベクトルOCと、軌跡円Qの円周上の点M1(或いはM2又はM3)を終点とする磁気ベクトルm1(或いはm2又はm3)との差から、下記の式(6)により、軌跡円Qの半径Rを求める。
2=(m1−OC)2=(m2−OC)2=(m3−OC)2 ・・・(6)
【0059】
ここで、演算に用いる磁気ベクトルは一つだけでもよいが、上記3個のデータm1、m2、m3を用いて平均をとることにより、より精度のよい演算が可能となる。また、4個以上の磁気ベクトルのデータを用いて、それらを基に演算した半径Rの平均を求めることにより、更に精度のよい演算が可能となる。
【0060】
上記のようにして得られる半径Rを基に、以下のようにして、回転角度を算出する。
例えば、図5に示すごとく、時刻t1から時刻t2までの間に磁気ベクトルがm1からm2に変化したとき、軌跡円Qにおける回転角度θは、以下の式(7)によって算出される。
【0061】
【数1】

【0062】
上記式(7)は、図5に示すごとく、軌跡円Qに内接すると共に磁気ベクトルm1、m2の終点M1、M2を2つの頂点とする直角三角形M12Gに、正弦定理を適用することにより得ることができる。即ち、三角形M12Gにおいて、以下の式(8)が成り立つ。ここで、線分M1Gは、軌跡円Qの直径2Rに該当する。そして、角M1GM2と角M1CM2とは円周角と中心角との関係を有するため、角M1GM2は、角M1CM2(即ち回転角度θ)の半分である。
【0063】
【数2】

【0064】
それ故、この式(8)から上記式(7)が導かれ、回転角度θを求めることができる。この回転角度θの信号を出力手段8から出力する(図1)。
以上により、回転軸Kとその周りの回転角度θを得ることができるため、時刻t1から時刻t2までの間における被測定体の姿勢変化量が分かることとなる。
【0065】
次に、第2回転軸決定手段42と第2回転角度算出手段52とによる、回転角度の算出方法につき説明する。
第2回転軸決定手段42においては、メモリ3に蓄積された異なる2時点の磁気ベクトルm1、m2のデータ及び加速度ベクトルa1、a2のデータを基に、3軸直交座標系10の原点を通ると共に被測定体の回転運動の基準とする回転軸Kを決定する。
【0066】
即ち、例えば、異なる2時点(t1、t2)の磁気ベクトル及び加速度ベクトルのデータを、メモリ3から読み出す。そして、時刻t1における磁気ベクトル及び加速度ベクトルをそれぞれ、m1=(m1x、m1y、m1z)、a1=(a1x、a1y、a1z)とし、時刻t2における磁気ベクトル及び加速度ベクトルをそれぞれ、m2=(m2x、m2y、m2z)、a2=(a2x、a2y、a2z)とする。また、第2回転軸決定手段42と第2回転角度算出手段52は後述のように使用する領域が低回転領域のため、上記で得られたm1、a1、m2、a2にデジタルローパスフィルタを作用させたものをm1、a1、m2、a2とみなしてもよい。
【0067】
まず、例えば、下記の式(9)によって、時刻t1における磁気ベクトルと加速度ベクトルとの外積を用いて、東方向の単位ベクトルeEを算出する。
また、鉛直方向の単位ベクトルeUは、加速度ベクトルa1と方向が一致するため、下記の式(11)によって算出できる。
また、北方向の単位ベクトルeNは、東方向の単位ベクトルeEと鉛直方向の単位ベクトルeUとの外積から、下記の式(10)によって算出できる。
そして、各単位ベクトルのX、Y、Z方向成分をそれぞれ下記の式(9)〜(11)のように置く。
【0068】
【数3】

【0069】
これらの単位ベクトルを組み合わせることにより、時刻t1における被測定体(3軸直交座標系10)の姿勢行列P(t1)が、下記式(12)のように得られる。
【0070】
【数4】

【0071】
上記と同様に、時刻t2における被測定体(3軸直交座標系10)の姿勢行列P(t2)をも算出する。
そして、これら2つの姿勢行列は、上記2時刻(t1、t2)の間における被測定体の回転を表す回転行列R(t2)によって一致する関係にある。すなわち、下記の式(13)の関係を有する。
【0072】
P(t1)R(t2)=P(t2) ・・・(13)
この関係から、Rは、下記式(14)によって得られる。
R(t2)=P-1(t1)P(t2) ・・・(14)
【0073】
この回転(姿勢変化)を、ある任意の回転軸周りの回転と仮定すると、回転行列(相対姿勢行列)R(t2)は、回転軸の方向の単位ベクトルである回転軸ベクトルk=(kx、ky、kz)と、その周りの回転角度θを用いて、下記式(15)のように表わせる。
【0074】
【数5】

【0075】
上記式(15)に基づいて、下記式(16)〜(18)が導かれる。
【0076】
【数6】

【0077】
このように導かれた回転軸ベクトルkを有する回転軸が、求める回転軸Kである。
そして、この回転軸Kの周りの回転角度θは、以下のように算出される。
すなわち上記式(15)から、以下の式(19)、(20)を導くことができ、式(21)のように、被測定体の回転角度θが得られる。
【0078】
【数7】

【0079】
次に、回転速度判別手段6が、被測定体が基準以上の高速回転をしている(高速モード)か、基準未満の低速回転をしている(低速モード)かを判別し、その判定結果に基づき、第1回転角度算出手段51が算出した回転角度θと、第2回転角度算出手段52が算出した回転角度θとのいずれを採用するかを決定する(図2のS7)。
【0080】
ここで、高速モードか低速モードかの判別方法としては、例えば以下の方法がある。
すなわち、上記で算出した差分ベクトルn1及びn2が変化に要する時間Δt1及びΔt2を算出し、それらを用いて差分の時間変化率ベクトルv1及びv2を算出する。
ここで得られた差分の時間変化率ベクトルv1及びv2の外積をLとおく。
【0081】
ここでLは回転軸ベクトルkと同じ方向を向き、その大きさは回転軸及び回転角度算出に用いた磁気ベクトルの単位時間あたりの変化の割合の自乗に比例する。被測定体の回転速度が速くなるにつれて磁気ベクトルの単位時間あたりの変化の割合は大きくなるので、Lが所定の大きさ(例えば5000(mG/秒)2〔ミリガウス毎秒の自乗〕)以上か否かによって、判別することができる。
すなわち、例えばL<5000(mG/秒)2の場合には、低速モードであると判定し、L≧5000(mG/秒)2の場合には、高速モードであると判定する。
【0082】
あるいは、他の方法として以下の方法もある。
まず、3軸磁気センサ21は、検出された磁気ベクトルm2が、直前に採取した磁気ベクトルm1との差(差分ベクトルn1の大きさ)が、所定の大きさ(例えば100mG)を超えたときに、次のデータとしてメモリ3に蓄積(採取)するようにしている。
そこで、磁気ベクトルのデータの今回の採取時刻t2が、前回の採取時刻t1から、所定時間(例えば500m秒)以上経過したか否かによって判別することができる。すなわち、例えばt2−t1=Δt<500m秒の場合には、高速モードであると判定し、Δt≧500m秒の場合には、低速モードであると判定する。
【0083】
あるいは、新たに採取した磁気ベクトルm2と、前回採取した磁気ベクトルm1との差(差分ベクトルn1の大きさ)が所定の大きさ(例えば250mG〔ミリガウス〕)以上か否かによって、判別することもできる。すなわち、例えば差分ベクトルn1の大きさが250mG以上の場合には、高速モードであると判定し、250mG未満の場合には、低速モードであると判定する。
【0084】
あるいは、上記2つの条件、すなわち、採取時間の間隔Δtが、所定時間(例えば500m秒)未満であり、かつ差分ベクトルn1の大きさが所定の大きさ(例えば250mG)以上である場合にのみ、高速モードであると判定し、その他の場合には低速モードであると判定することもできる。
【0085】
このようにして回転速度判別手段6が、高速モードと判定したとき、上記第1回転角度算出手段51によって算出した回転角度θを採用する(図2のS8)。一方、回転速度判別手段6が、低速モードと判定したとき、上記第2回転角度算出手段52によって算出した回転角度θを採用する(図2のS9)。
【0086】
そして、採用された回転角度θを、ローパスフィルタによって平滑化、連続化する(図2のS10)。
このローパスフィルタは、例えば、サンプリングレート50Hzのときのカットオフが5Hzであるような2次IIRバタワース特性のローパスフィルタとすることができる。
【0087】
また、修正した回転角度θを、前記した通りメモリ内に保存されている測定時刻情報データを用い、上記2時点間の間隔Δtによって除算することにより、角速度ωを得ることができる(図2のS12)。即ち、ω=θ/Δtとなる。
以上により、回転軸Kとその周りの回転角度θ及び回転角速度ωを得ることができるため、被測定体の姿勢変化量及び姿勢変化速度が分かることとなる。
この回転角度θ及び角速度ωの信号を出力手段8から出力する(図2のS11、S13)。
【0088】
次に、本例の作用効果につき説明する。
上記磁気式ジャイロ1は、回転速度判別手段6を有する。そして、出力手段8は、回転速度判別手段6によって高速モードと判定されたとき、第1回転角度算出手段51による被測定体の回転角度の算出結果を出力し、低速モードと判定されたとき、第2回転角度算出手段52による被測定体の回転角度の算出結果を出力する。
【0089】
ここで、第1回転角度算出手段51は、回転軸を中心とした被測定体の回転角度を、磁気ベクトルのデータを基に算出するよう構成されている。すなわち、回転角度の算出に当たって、加速度ベクトルのデータを用いないため、被測定体が高速回転していても、これに伴う加速度は、回転角度の算出時にノイズとなることはなく、精確な回転角度の算出を行うことができる。また、この第1回転角度算出手段51は、高速モードにて用いられるため、第1回転軸決定手段41によって磁気ベクトルのデータのみから回転軸を迅速に決定することができ、その回転軸を中心とする回転角度を、第1回転角度算出手段51によって迅速に算出することができる。
【0090】
一方、第2回転角度算出手段52は、被測定体の回転角度を、磁気ベクトルのデータ及び加速度ベクトルのデータを基に算出するよう構成されている。すなわち、回転角度の算出に当たって、磁気ベクトルのデータに加えて加速度ベクトルのデータをも用いるため、低速モードにおいても、第2回転軸決定手段42によって、磁気ベクトルのデータと加速度ベクトルのデータとを用いて回転軸を迅速に決定することができる。そして、これによって決定された回転軸を基準に、第2回転角度算出手段52が被測定体の回転角度を迅速に算出することができる。
被測定体が低速回転している低速モードにおいては、回転運動に伴う加速度、すなわち重力加速度以外の加速度は充分に小さく、無視できるため、この加速度が回転角度の算出時にノイズとなることもない。
【0091】
このように、高速モードと低速モードとで、回転角度算出手段を使い分けることにより、磁気式ジャイロ1は、後述する回転軸の方向が磁気ベクトルの方向と一致又は略一致したような場合を除けば、被測定体のあらゆる運動状況において、精確な回転角度の検出を行うことができる。
【0092】
また、本例の磁気式ジャイロ1は、角速度算出手段7を有するため、被測定体の回転角速度(姿勢変化速度)を容易に検出することができる。
また、本例において高速モードが選択された場合では、第1回転軸決定手段51が、異なる3時点以上の瞬間瞬間に得られた磁気ベクトルのデータを基に任意の回転軸を回転軸Kとして決定するよう構成してある。また、本例において、低速モードが選択された場合には、異なる2時点以上の瞬間瞬間を得られた磁気ベクトル及び加速度ベクトルのデータを基に任意の回転軸を回転軸Kとして決定するよう構成してある。そのため、ユーザーが被測定体をどのような軸でどのような速度で回転操作した場合であっても各瞬間瞬間における被測定体の実際の瞬間的な回転軸を精確に求めることができ、より精確な回転角度θを計測することができる。
【0093】
また、第1回転角度算出手段51は、データ平面Sと回転軸Kとの交点を算出することにより中心座標Cを算出し、中心座標Cと磁気ベクトルの座標点M1、M2、M3との距離を算出することにより軌跡円Qの半径を算出して回転角度θを算出するよう構成してある。これにより、容易かつ精確に上記回転角度θを算出することができる。
【0094】
また、図6に示すごとく、3軸磁気センサ21は、マグネト・インピーダンス・センサ素子20によって構成してあるため、より高精度、高感度、高応答性、かつ小型の磁気式ジャイロ1を得ることができる。即ち、図7に示すように、マグネト・インピーダンス・センサ素子(MI)は、ホールセンサ(Hall)や磁気抵抗素子(MR)のような他の磁気センサに比較して、高感度かつ極めて短い計測時間(例えば1m秒)で低ノイズかつ高精度の測定が可能であるため、例えば、携帯電話内に保存されたゴルフゲーム等にユーザーが楽しむために、意図的に振り回して使用するような極めて回転速度が速いような場合で、非常に短い時間間隔で複数の磁気ベクトルデータを連続して測定しなければならない場合であっても、地磁気ベクトルを高精度にて検出することができる。従って、このような場合でも被測定体の瞬間的な回転軸、回転角、回転各速度を精確に求めることができる。更には、マグネト・インピーダンス・センサ素子20は小型であるため、小型の3軸磁気センサ21を得ることができる。また、これにより、磁気式ジャイロ1をICチップ内に納めることも可能となる。
【0095】
また、上記磁気式ジャイロ1は、上記ローパスフィルタを備えている。これにより、仮に測定途中で高速モードと低速モードとが切り替わった場合であっても、算出される被測定体の回転角度の算出結果も、少なくとも高速モードと低速モードとが切り替わる直前の1又は複数のデータを用いて平滑化、連続化することができる。
それゆえ、高速モードと低速モードとの間の切り替わりに伴う計測誤差を小さくすることができる。すなわち、高速モードと低速モードとが切り替わると、用いられる回転角度算出手段が、第1回転角度算出手段51と第2回転角度算出手段52との間で切り替わり、これに伴い、用いられる回転軸決定手段が、第1回転軸決定手段41と第2回転軸決定手段42との間で切り替わる。それゆえ、この切り替わりの前後で、演算に用いられる回転軸Kが変わることとなるため、その算出結果が不連続に変わる可能性がある。しかしながら、この変化を平滑化、連続化することにより、回転角度θの算出誤差を小さくすることができる。
【0096】
以上のごとく、本例によれば、高速回転の際にも低速回転の際にも回転角度を精確に計測することができる磁気式ジャイロを提供することができる。
【0097】
(実施例2)
本例は、図8、図9に示すごとく、3軸磁気センサ2にオフセット誤差があり、被測定体の回転軸Kが3軸直交座標系10の原点Oを通らない場合にも、精確な被測定体の回転角度を計測できるようにした磁気式ジャイロの例である。
すなわち、実施例1においては、3軸磁気センサ2にオフセット誤差がなく、或いはオフセット誤差が無視できる程度であり、被測定体の回転軸Kが3軸直交座標系10の原点Oを通る、或いは通るとみなしても問題ない場合について、容易に被測定体の回転角度を計測できる磁気式ジャイロを紹介した。
【0098】
しかし、実際の使用においては、被測定体に付属する磁性体が磁化することによって生じる磁界の影響や、センサの温度特性の変化等、種々の要因によって、3軸直交座標系10の原点が、センサによる地磁気の測定の原点からずれてしまうこともある。この原点のずれを、各計測結果に対して個別に補正することも考えられるが、その場合には、補正計算という操作が入るため、計測が煩雑となり、構成も複雑となるおそれがある。
【0099】
そこで、本例は、以下に示すごとく、被測定体の回転角度の算出過程における適切な処理により、オフセット誤差の有無にかかわらず、直接精確な回転角度を計測することができるようにしたものである。
【0100】
すなわち、本例においては、第1回転角度算出手段51が、下記の回転中心座標算出手段及び半径算出手段を備える。
回転中心座標算出手段は、3軸直交座標系10における異なる3時点以上の磁気ベクトルのデータを基に、該3つ以上の磁気ベクトルの座標点を通る軌跡円Qの中心座標を算出する。
半径算出手段は、回転中心座標算出手段によって算出された中心座標と、磁気ベクトルの座標点との距離を算出することにより、軌跡円の半径を算出する。
そして、半径算出手段によって算出した軌跡円Qの半径と、異なる2時点の磁気ベクトルの座標点とを基に、回転角度θを算出する。
【0101】
以下、具体的に説明する。
まず、3軸磁気センサ2にオフセット誤差が存在する、すなわち、例えば、3軸磁気センサ2によって検出される磁気ベクトル(例えば図8におけるm1)が、地磁気ベクトル(例えば図8におけるm1’)に、ノイズとなる磁気ベクトルが重なった合成ベクトルである場合について、説明する。
【0102】
この場合、地磁気ベクトル(m1’)は3軸直交座標系10の原点Oを通らず、原点Oからずれた点O’を通る。なお、点O’は、この点O’は、回転軸Kが通る点でもある。そして、実施例1において得たデータ平面Sと回転軸Kとの交点が、図8に示すごとく、軌跡円Qの中心座標C’である。すなわち、中心座標ベクトルはOC’となる。回転中心座標算出手段は、この中心座標ベクトルOC’を求めることにより、精確な中心座標C’を求め、この中心座標C’を中心とした磁気ベクトルの終点の精確な回転角度を求めることができるため、回転軸Kを中心とした被測定体の精確な回転角度を得ることができる。
【0103】
ここでは、実施例1と同様に得られる磁気ベクトルm1、m2、m3の終点(座標点)M2を原点とする相対座標ベクトルM2C’を算出した後、中心座標ベクトルOC’=OM2+M2C’を算出する。以下に中心座標ベクトルOC’の算出方法を記述する。
まず、M2C’=(a、b、c)とおき、他の座標M1、M2、M3も次のように座標変換を行う。
【0104】
12=m1−m2=(m1x−m2x、m1y−m2y、m1z−m2z
=n1=(n1x、n1y、n1z) ・・・(22)
22=m2−m2=(0、0、0) ・・・(23)
32=m3−m2=(m3x−m2x、m3y−m2y、m3z−m2z
=n2=(n2x、n2y、n2z) ・・・(24)
【0105】
このとき、図9に示すごとく、軌跡円Qの半径をRとおくと、上記3点は円周上の点を(X、Y、Z)としたときの円の方程式(X−a)2+(Y−b)2+(Z−c)2=R2を満たす。つまり、以下の式(25)〜(27)が成り立つ。
(n1x−a)2+(n1y−b)2+(n1z−c)2=R2 ・・・(25)
2+b2+c2=R2 ・・・(26)
(n2x−a)2+(n2y−b)2+(n2z−c)2=R2 ・・・(27)
またベクトルM2C’はデータ平面S内に存在するため、回転軸ベクトルkと直交し、以下の式(28)が成り立つ。
akx+bky+ckz=0 ・・・(28)
【0106】
以上を整理すると下記の式(29)〜(31)を得る。
an1x+bn1y+cn1z=(n1x2+n1y2+n1z2)/2 ・・・(29)
an2x+bn2y+cn2z=(n2x2+n2y2+n2z2)/2 ・・・(30)
akx+bky+ckz=0 ・・・(31)
この連立方程式を、線形代数を利用して解くことにより、下記の式(32)、(33)のように、ベクトルM2C’=(a、b、c)を得る。
【0107】
【数8】

【0108】
以上により算出したM2C’=(a、b、c)から、中心座標C’(中心座標ベクトルOC’)はOC’=OM2+M2C’=(m2x+a、m2y+b、m2z+c)により、得られる。
半径算出手段は、上記のように算出された中心座標C’と、磁気ベクトルの座標点M1、M2、M3との距離を算出することにより、軌跡円Qの半径Rを算出する。
ここで得られた中心座標ベクトルOC’に基づく中心座標C’は、実施例1に示した式(6)においてCとみなして計算しても問題ないため、式(6)におけるOCにOC’のデータを代入することにより、半径Rが得られる。以後の計算は、中心座標Cを中心座標C’に置き換えて実施例1と同様に行うことで、被測定体の回転角度を精確に算出することができる。
【0109】
なお、3軸磁気センサ2にオフセット誤差がなく、被測定体の回転軸Kが3軸直交座標系10の原点Oを通る場合には、上述した中心座標C’は、回転軸ベクトルkに平行であると共に3軸直交座標系10の原点Oを通る回転軸Kが、上記データ平面Sと交差する中心座標C(図3〜図5、図9参照)と一致する。それゆえ、この場合にも、上述したオフセット誤差がある場合と同様の一連の演算を行うことで、被測定体の回転角度を精確に算出することができる。
その他は、実施例1と同様である。
【0110】
本例の場合には、被測定体の回転角度の算出過程における適切な処理により、オフセット誤差の有無にかかわらず、直接精確な回転角度を計測することができる。しかも、オフセットされた原点O’を算出することなく、磁気ベクトルの回転中心座標C’を直接求めることで、被測定体の回転角度を算出するため、特別な補正計算も不要となる。
【0111】
それゆえ、簡易な構成にて、3軸磁気センサ2にオフセット誤差が生じていても、被測定体の回転角度を精確に計測することができる。すなわち、従来の振動式ジャイロのように使用時間に伴って計測原点がドリフトすることによる計測誤差が発生するという現象を招くことを、簡易な構成にて防ぐことができる。
その他、実施例1と同様の作用効果を有する。
【0112】
なお、オフセット誤差がある場合に、実施例1と同様の方法で中心座標を算出すると、図8、図9に示されるCが中心座標として得られ、このCを中心とするM1、M2間の中心角ηが、被測定体の回転角度として算出されてしまう。それゆえ、本来の回転角度θとの間にずれが生じてしまう。これに対し、本例によれば、このようなずれがない状態で、回転角度θを直接計測することができる。
【0113】
(実施例3)
本例は、第1回転軸決定手段41が、3軸直交座標系10の3軸(X軸、Y軸、Z軸)のうち、磁気ベクトルの成分の変化が最も小さい方向の軸を回転軸として決定するよう構成された磁気式ジャイロ1の例である。すなわち、実施例1又は2に記載の回転軸算出手段では、最低でも異なる3時点以上の磁気ベクトルデータが、回転軸算出に必要になるとともに、必要な演算も複雑になる。従って、それほどの高精度の回転軸を必要としない場合や、ある程度の高精度が必要であるが、実際の回転軸が3軸直交座標系のいずれかの直交軸に近い場合には、必ずしも実施例1又は2に記載のような直交座標系の3軸に限定されない回転軸決定方法を採用する必要性が生じない場合がある。本例はそのような場合に演算を簡略化できる回転軸決定方法として有効である。
【0114】
本例の場合、例えば、異なる2時点において採取した地磁気ベクトルm1、m2のデータを用い、両者の差分ベクトルn1を算出する。すなわち、実施例1における式(1)に示す差分ベクトルn1が得られる。
この差分ベクトルn1におけるX、Y、Z成分(n1x、n1y、n1z)のうち最も大きさが小さい成分の方向の軸を回転軸として設定する。
【0115】
具体的には、例えば、以下のような決定方法が考えられる。
すなわち、差分ベクトルn1の各成分の大きさを、ある閾値N(例えば20mG)と比較する。
まず、差分ベクトルn1の成分であるn1x、n1y、n1zの全てが閾値Nより大きい場合は、「判定不可」として判定する。なお、この場合には、実施例1又は2に記載の回転軸算出方法により、回転軸を求めればよい。次に、被測定体の変化が静止又は非常に遅い速度である場合には、n1x、n1y、n1zの全てが閾値Nより小さくなるため、前記した第2回転軸算出手段により回転軸を求めるか、或いは差分ベクトルがほぼ0と判断できるのであれば、3軸直交座標系10の全ての軸が「静止と判定」され、この時点の瞬間的な回転角度、回転角速度を0と判断する。
これに対し、n1x、n1y、n1zのいずれか1成分又は2成分が閾値Nより小さいときには、以下のように回転軸を決定することができる。
【0116】
3軸直交座標系10の直交軸を構成するX軸、Y軸、Z軸の任意の軸をi軸、j軸、k軸とする。
まず、差分ベクトルn1の、i軸、j軸、k軸方向の各成分である、n1i、n1j、n1kのいずれか1成分が閾値Nより小さい場合について説明する。
例えば、被測定体がi軸の周りで回転しているときには、差分ベクトルn1のi軸方向の成分は変化しないためn1iは閾値Nより小さくなる。他の2つの軸方向であるj軸方向、k軸方向の成分はそれぞれ大きく変化するため、n1j、n1kは閾値Nより大きくなる。よって、閾値Nより小さい成分の方向であるi軸を回転軸と判定する。
【0117】
次に、差分ベクトルn1の各成分であるn1i、n1j、n1kのいずれか2成分が閾値Nより小さい場合について説明する。
3軸磁気センサ21が地磁気とのなす位置関係により、例えば、上記のi軸方向の成分n1iと、j軸方向の成分n1jとの2成分が閾値Nより小さくなり、k軸方向の1成分n1kのみが閾値Nより大きくなる場合がある。このとき、回転軸として、i軸及びj軸を候補に挙げる。
【0118】
そして、この場合、i軸とj軸とのうち、メモリ3に記録されている前回の異なる2時点(t0、t1)の間の回転の回転軸を今回の回転軸として選択する。たとえば、前回の回転軸がi軸であるときは今回の回転軸もi軸と判定し、前回の回転軸がj軸であるときは、今回の回転軸もj軸と判定する。ただし、上記のように候補に挙げた回転軸がi軸及びj軸である場合において、前回の回転軸がk軸あるいは判定不可であったときは、今回の回転軸は判定不可とする。この場合も本回転軸算出方法での判定は不可となるが、前記した実施例1又は2に記載の回転軸決定方法に切替えて、回転軸を算出するようにすればよい。
【0119】
上記のようにして得られた回転軸を基に、第1回転角度算出手段51は、以下のようにして被測定体の回転角度を求める。
例えば、回転軸がi軸と判定され、時刻t1から時刻t2までの間に磁気ベクトルがm1からm2に変化したとき、i軸周りの回転角度θは以下の式(34)によって求められる。
θ=tan-1(m2k/m2j)−tan-1(m1k/m1j) ・・・(34)
【0120】
ここで、回転軸iがZ軸のとき、
θ=tan-1(m2y/m2x)−tan-1(m1y/m1x) ・・・(35)
となり、Z軸を回転軸とする回転角度θを得ることができる。この回転角度θの信号を出力手段8へ出力する(図1)。
【0121】
また、この結果を利用して、回転角速度算出手段7においては、回転角度θをΔtで除算することにより、回転軸の周りの被測定体の回転角速度ωを得ることができる。即ち、ω=θ/Δtとなる。この回転角速度ωの信号を出力手段8へ出力する(図1)。
その他は、実施例1と同様である。
【0122】
本例の場合には、第1回転軸決定手段41において行われる演算を簡素化することができ、回転軸を容易に決定することができる。また、互いに直交する3軸(X軸、Y軸、Z軸)のいずれかを回転軸として設定することができれば、被測定体として例えば携帯電話機等の姿勢変化を効果的に計測することができる。すなわち、携帯電話機等に与える回転方向は、その筐体を基準に、ヨー、ロール、ピッチの方向とすることが多いため、これらのいずれの回転であるかが識別できれば、回転運動による入力が可能となるからである。
その他、実施例1と同様の作用効果を有する。
【0123】
(実施例4)
本例は、被測定体の実際の回転軸の方向が磁気ベクトルの方向と一致したとき、回転軸を中心とした被測定体の回転角度を加速度ベクトルのデータを基に算出する第3回転角度算出手段を有する磁気式ジャイロ1の例である。
すなわち、被測定体の実際の回転軸の方向が磁気ベクトルの方向と一致すると、3軸直交座標系10における磁気ベクトルは時間変化しなくなる。それゆえ、磁気ベクトルのデータを用いる第1回転軸決定手段41や第2回転軸決定手段42では、回転軸を算出することができず、第1回転角度算出手段51や第2回転角度算出手段52を使うことができない。
【0124】
そこで、この場合には、上記第3回転角度算出手段が、3軸加速度センサ22によって得た加速度ベクトルのデータを用いて、被測定体の回転角度を算出する。なお、上記とは逆に、磁気ベクトルのデータが変化しているにもかかわらず、加速度ベクトルのデータの時間変化が生じない場合は、なんらかの磁気ノイズが加わっているだけで、回転はしていないとみなすことができ、回転角度は算出する必要がないと判断してもよい。
【0125】
まず、被測定体の実際の回転軸の方向が磁気ベクトルの方向と一致したか否かの判断は、磁気ベクトルの変化が極めて小さく、かつ加速度ベクトルの変化がある程度大きいという条件を満たしたか否かによって行う。すなわち、加速度ベクトルの変化がある程度大きく、かつ磁気ベクトルがほとんど変化しない状況としては、回転軸が磁気ベクトル(地磁気)と一致して被測定体が回転している状況しか、基本的には考えられない。
【0126】
そこで、例えば、磁気ベクトルの変化の大きさとして、実施例1の式(1)に示した差分ベクトルn1の大きさを利用する。また、加速度ベクトルの変化の大きさとして、時刻t1と時刻t2とにおける加速度ベクトルa1、a2の差分ベクトルb1=a1−a2の大きさを用いる。そして、磁気の差分ベクトルn1が所定値(例えば20mG)未満であり、かつ、加速度の差分ベクトルb1が所定値(例えば0.2g〔gは重力加速度〕)より大きい場合、被測定体の実際の回転軸の方向が磁気ベクトルの方向と一致したと判断する。
【0127】
そして、このときの回転軸の向きは、地磁気ベクトルm1、m2と略一致しているため、回転軸ベクトル(単位ベクトル)kを、例えば、k=m1/|m1|にて得ることができる。
そして、3軸加速度センサによって検出された加速度ベクトルの時間変化に基づいて、地磁気ベクトルと一致した上記回転軸の周りの回転角度を算出する。
【0128】
具体的には、例えば、実施例1において説明した第1回転角度算出手段51による回転角度の算出方法において、磁気ベクトルを加速度ベクトルに置き換えることにより、加速度ベクトルのデータに基づく回転角度の算出が可能である。
なお、被測定体の回転速度が速くなると算出精度が低下するが、回転がある程度低速であれば、充分な精度の算出結果を得ることは可能である。
その他は、実施例1と同様である。
【0129】
本例の場合には、被測定体の回転に伴って磁気ベクトルが変化しない状況においても、上記第3回転角度算出手段によって、加速度ベクトルのデータのみを用いて回転角度を算出する。これにより、被測定体の実際の回転軸の方向が磁気ベクトルの方向と一致したときでも、被測定体の回転角度を算出することが可能となる。
その他、実施例1と同様の作用効果を有する。
【符号の説明】
【0130】
1 磁気式ジャイロ
21 3軸磁気センサ
22 3軸加速度センサ
3 メモリ
41 第1回転軸決定手段
42 第2回転軸決定手段
51 第1回転角度算出手段
52 第2回転角度算出手段
6 回転速度判別手段
7 角速度算出手段
8 出力手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定体に固定された3軸直交座標系における磁気ベクトルとして地磁気を検出する3軸磁気センサと、
上記3軸直交座標系における加速度ベクトルとして重力加速度を検出する3軸加速度センサと、
上記3軸磁気センサによって時系列的に検出される上記磁気ベクトルのデータ、及び上記3軸加速度センサによって時系列的に検出される上記加速度ベクトルのデータを蓄積するメモリと、
該メモリに蓄積された異なる2時点以上の上記磁気ベクトルのデータを基に、上記被測定体の回転運動の基準とする回転軸を決定する第1回転軸決定手段と、
上記メモリに蓄積された異なる2時点以上の上記磁気ベクトルのデータ及び上記加速度ベクトルのデータを基に、上記被測定体の回転運動の基準とする回転軸を決定する第2回転軸決定手段と、
上記第1回転軸決定手段によって決定された上記回転軸を中心とした上記被測定体の回転角度を、上記磁気ベクトルのデータを基に算出する第1回転角度算出手段と、
上記第2回転軸決定手段によって決定された上記回転軸を中心とした上記被測定体の回転角度を、上記磁気ベクトルのデータ及び上記加速度ベクトルのデータを基に算出する第2回転角度算出手段と、
上記3軸磁気センサによって時系列的に検出される上記磁気ベクトルのデータを基に、上記被測定体が、基準となる回転速度以上の高速回転を行っているか、あるいは、基準となる回転速度未満の低速回転を行っているかを判別する回転速度判別手段と、
該回転速度判別手段によって、上記被測定体が上記高速回転を行っていると判断された高速モードのとき、上記第1回転角度算出手段による上記被測定体の回転角度の算出結果を出力し、上記回転速度判別手段によって、上記被測定体が上記低速回転を行っていると判断された低速モードのとき、上記第2回転角度算出手段による上記被測定体の回転角度の算出結果を出力する出力手段とを有することを特徴とする磁気式ジャイロ。
【請求項2】
請求項1に記載の磁気式ジャイロにおいて、上記第1回転角度算出手段は、上記3軸直交座標系における異なる3時点以上の上記磁気ベクトルのデータを基に、該3つ以上の磁気ベクトルの座標点を通る軌跡円の中心座標を算出する回転中心座標算出手段と、該回転中心座標算出手段によって算出された上記中心座標と、上記磁気ベクトルの座標点との距離を算出することにより、上記軌跡円の半径を算出する半径算出手段とを有し、該半径算出手段によって算出した上記軌跡円の半径と、異なる2時点の上記磁気ベクトルの座標点とを基に、上記計算に用いた磁気ベクトルデータの測定時刻間における回転角度を算出するよう構成してあることを特徴とする磁気式ジャイロ。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の磁気式ジャイロにおいて、上記高速モードと上記低速モードとが切り替わった直後に算出される上記被測定体の回転角度の算出結果は、少なくとも上記高速モードと上記低速モードとが切り替わる直前の1又は複数のデータを用いて修正し、上記高速モードと上記低速モードとが切り替わる直前に算出された上記被測定体の回転角度の算出結果との間の平滑的な連続性を確保するよう構成してあることを特徴とする磁気式ジャイロ。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の磁気式ジャイロにおいて、上記被測定体の実際の回転軸の方向が上記磁気ベクトルの方向と一致したとき、上記第1回転角度算出手段又は第2回転角度算出手段に代わって上記回転軸を中心とした上記被測定体の回転角度を上記加速度ベクトルのデータを基に算出する第3回転角度算出手段を有することを特徴とする磁気式ジャイロ。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の磁気式ジャイロにおいて、上記3軸磁気センサは、マグネト・インピーダンス・センサ素子によって構成してあることを特徴とする磁気式ジャイロ。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の磁気式ジャイロにおいて、該磁気式ジャイロは、上記被測定体が回転運動状態にある場合において、地磁気ベクトルを連続的に測定し、測定した地磁気ベクトルから測定した時間における瞬間的な回転軸及び該回転軸を中心とする瞬間的な回転角度を求めるものであって、上記メモリは、測定した瞬間の時刻情報と共に上記磁気ベクトルのデータ及び上記加速度ベクトルのデータを蓄積するよう構成してあり、上記第1回転軸決定手段及び上記第2回転軸決定手段は、上記2時点以上の磁気ベクトルの測定時間内における上記被測定体の瞬間的な回転運動の基準とする回転軸を決定するよう構成してあり、上記第1回転角度算出手段及び上記第2回転角度算出手段は、上記回転軸を中心とした上記被測定体の瞬間的な回転角度を算出するよう構成してあることを特徴とする磁気式ジャイロ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−252857(P2011−252857A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−128241(P2010−128241)
【出願日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【特許番号】特許第4599502号(P4599502)
【特許公報発行日】平成22年12月15日(2010.12.15)
【出願人】(501034106)アイチ・マイクロ・インテリジェント株式会社 (42)
【出願人】(508237823)株式会社OTSL (11)