説明

磁気検知デバイス及び磁歪力センサ

【課題】本発明は、良好なセンサ特性を確保しながら小型化を図るようにする。
【解決手段】本発明は、検知対象物10に固定された磁歪部材20からの磁束漏れの変化に基づき、その検知対象物10に作用する力を検知する磁気センサS,Sと板状ヨーク部材40とを備えた磁気検知デバイスBにおいて、上記磁気センサS,Sの入出力線9,9を挿通するための挿通孔41を、板状ヨーク部材10の面中心O1に穿設した構成のものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車のミッションの出力軸に作用するトルクを逆磁歪効果により非接触で検出する磁気検知デバイス及び磁歪力センサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車の制御には廉価で小型な力センサの要望が潜在的にあり、これまでに数々のものが研究開発されてきているが、そのひとつに例えばトルクセンサがある。
トルクセンサは、電動パワーステアリングに必須のものであり、変位方式のものが採用されているが、低価格化の要望が強く、磁歪方式のトルクセンサの開発が多くなされてきている。
【0003】
また、次世代のステアリングであるステア・バイ・ワイヤにおいても廉価なトルクセンサの要望が強く、また、将来的には電動車が普及すると考えられ、省電力センサであることも重要要件である。それらのことを考慮し、本出願人等はリング方式の磁歪式トルクセンサを開発し提案してきている。
【0004】
これまで提案してきた磁歪式トルクセンサにおいても、さらに小型化を図りたいという要望がある。すなわち、小型化によってコストの低減を図ることができるとともに、搭載スペース的にも余裕を生じさせ、汎用性が高まるからである。本発明は更なる小型化を検討した結果なされたものである。
【0005】
ところで、この種の磁歪式トルクセンサとして、特許文献1に開示された構成のものがある。特許文献1に開示されている磁歪式トルクセンサは、軸に固定された磁歪リングからの磁束漏れの変化に基づき、その軸に作用するトルクを検知するホールICと板状ヨーク部材とを備えた磁気検知デバイスを有する構成のものである。
【0006】
上記特許文献1に開示された従来の磁歪式トルクセンサは、軸にトルクを作用させると磁歪リングから漏れ磁束が発生するので、その漏れ磁束の変化をホールICによって検知することによって、加えられるトルクの方向に対応した信号を得ている。
なお、上記の軸に嵌合されている磁歪リングには周方向に引張応力が作用しているので、周方向には着磁成分がより多く残存しており、応力誘起の磁気異方性を活用しているのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008‐026210号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記磁歪力センサは、ホールICに接続された入出力線を、軸に近設した板状ヨーク部材を避けるようにして、その板状ヨーク部材の周囲に配線しなければならず、そのために小型化を阻害するという問題がある。
【0009】
そこで本発明は、良好なセンサ特性を確保しながら小型化を図った磁気検知デバイス及び磁歪力センサの提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するための本発明に係る磁気検知デバイスは、検知対象物に固定された磁歪部材からの磁束漏れの変化に基づき、その検知対象物に作用する力を検知する磁気センサと板状ヨーク部材とを備えたものであり、上記磁気センサの入出力線を挿通するための挿通孔を、板状ヨーク部材のほぼ面中心に穿設したことを特徴としている。
【0011】
上記目的を達成するための本発明に係る磁歪力センサは、上記の磁気検知デバイスを有することを特徴としたものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、良好なセンサ特性を確保しながら小型化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態に係る磁気検知デバイスを適用した磁歪力センサの基本構造を示す断面図である。
【図2】同上の磁歪力センサの一部をなす磁歪部材、板状ヨーク部材及び軸状体の相対的な位置関係を示す平面図である。
【図3】(A)は、従来における板状ヨーク部材と磁歪部材との配置関係を示す平面図、(B)は、本願発明における板状ヨーク部材と磁歪部材との配置関係を示す平面図、(C)は、それらの磁場解析を示すグラフである。
【図4】従来の磁歪力センサの基本構造を示す断面図である。
【図5】他例に係る板状ヨーク部材の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明を実施するための形態について、図面を参照して説明する。図1は、本発明の一例に係る磁気検知デバイスを適用した磁歪力センサの基本構造を示す断面図、図2は、その磁歪力センサの一部をなす磁歪部材、板状ヨーク部材とともに、軸状体の相対的な位置関係を示す平面図である。
【0015】
本発明の一実施形態に係る磁歪力センサAは、検知対象物10に作用する力を検知するためのものであり、その検知対象物10に固定された磁歪部材20、磁気検知デバイスB及びケース30を有している。
【0016】
本実施形態において示す検知対象物10は、SUS304やSUS303等のオーステナイト系ステンレス(非磁性材)で形成された軸状体を一例として示している。なお、以下には、検知対象物を「軸状体」という。
【0017】
磁歪部材20は、これに作用する力、従ってまたトルクによって磁束漏れが変化する機能を有するものであり、軸状体10に嵌合固定できるように、両端を開口した円筒形に形成されている。
この磁歪部材20は、本実施形態においてはFeGaAl合金で形成しているが、FeCoV合金で形成してもよい。
本実施形態に示すように、磁歪部材20をFeGaAl合金又はFeCoV合金で形成することにより、磁気の検知感度を高めることができる。
【0018】
磁気検知デバイスBは、軸状体10に嵌合固定された磁歪部材20からの磁束漏れの変化に基づき、その軸状体10に作用する力を検知するホールIC等の磁気センサS,Sと、板状ヨーク部材40とを有して構成されている。
板状ヨーク部材40は漏れ磁束を集めるとともに、強める役目をする。また、2個のホールIC信号は差動動作をする。もちろんホールIC1個のみによっても機能するが、2個のホールICで差動させることにより信号の大きさが2倍になる点及び温度安定性が増す点等で有利となる。
【0019】
板状ヨーク部材40は、図1,2に示すように、平面視において軸状体10に沿って磁歪部材20の幅W1よりも長い長さW2(図2参照)にした長方形に形成されているとともに、磁歪部材20の軸方向と平行に配設されている。
この板状ヨーク部材40の面中心O1には、磁気センサS,Sの入出力線9,9を挿通するための挿通孔41を貫通させて穿設している。
【0020】
挿通孔41は、面中心O1に対して対称な平面視長方形にして形成されている。すなわち、磁気検知デバイスBの一部をなしているので、挿通孔41は面中心O1に対して対称であることが必要である。これは、漏れ磁束分布の対称性を確保できるため、熱膨張等の変形による微妙な位置ずれの影響を回避することができる。
【0021】
磁気センサS,Sは、軸線O上であって、磁歪部材20の両端近傍に位置するようにして、板状ヨーク部材40の下面40a両側に固定されている。
また、磁気センサS,Sに接続されている入出力線9,9を挿通孔41を通じて板状ヨーク部材40の上面40b側に導出しており、その入出力線9,9には図示しない磁気検知回路が接続されている。
【0022】
ケース30は、側面視において円形にしかつ互いに所要の間隔にした両端壁30a,30aの外周縁部に沿って周壁30bを囲繞形成した円筒形のものであり、これの内部に上記した板状ヨーク部材40、磁気センサS,S及びこれらを支持するホルダHが配置されている。
【0023】
上記両端壁30a,30aの中央部には、軸状体10を遊挿するための軸孔31,31が形成されているとともに、それらの軸孔31,31には、軸状体10を転動支持するためベアリング(図示しない)が配設されている。
また、周壁30bであって、上記挿通孔41に対向する位置には、入出力線9,9を外部に導出するための導出孔32が形成されている。
【0024】
以上の構成からなる磁歪トルクセンサB1の検知動作は、次のとおりである。
磁歪部材20が周方向に磁化しているので、これにトルクが働くと+/−45度方向に引張・圧縮応力が働き、磁化が45度方向に倒れる(引張応力方向を向く)ことから、その磁歪部材20の端面に磁極が生じて、漏れ磁束がトルクとともに出てくる。
その漏れ磁束の変化が磁気センサS,Sによって検知され、図示しない磁気検知回路によって処理される。
【0025】
図3(A)は、従来における板状ヨーク部材と磁歪部材との配置関係を示す平面図、(B)は、本願発明における板状ヨーク部材と磁歪部材との配置関係を示す平面図、(C)は、それらの磁場解析を示すグラフである。
【0026】
図3(A),(B)において、磁歪部材の外側1.5mm離れた位置にPBパーマロイの板状ヨーク部材(幅6mm、長さ20mm、厚さ1mm)が配置されている。磁歪部材は内径12.6mm、外径14.2mm、長さ13mmである。なお、図3(A)においては、磁歪部材を「20´」、板状ヨーク部材を「40´」で示している。
【0027】
図3(C)においては、磁歪部材の軸方向に対し、板状ヨーク部材の下側、0.5mm離れた位置での径方向の磁束密度成分の変化を示している。板状ヨーク部材に幅3mm、長さ6.5mmの長方形の挿通孔を穿設した場合の分布は、挿通孔付近では多少変わるものの、高さの変化はないことがわかる。
このピーク高さは、磁歪力センサのねじり感度に対応している。換言すると、ホールICが検知する磁場の大きさである。
【0028】
上記した本発明の一実施形態に係る磁歪力センサによれば、次の各効果を得ることができる。
1)磁歪力センサの入出力線を挿通孔を通じて外部に導出させることができるので、良好なセンサ特性を確保しながら小型化を図ることができる。
具体的には、軸線O方向において10mmの短縮化が図れている(約18%の小型化)。また、板状ヨーク部材、磁気センサの保持も挿通孔を介して行うことができるので、構造の簡素化を図ることができる。
【0029】
2)磁歪部材以外を非磁性材で作製したときには、感度減少の小さい磁歪力センサとすることができる。
3)磁歪部材をFeGaAl合金又はFeCoV合金で形成したときには、感度の大きい磁歪力センサを提供できる。
【実施例】
【0030】
(参考例1)
図4に示す従来構成の磁歪力センサを製作した。図4は、従来の磁歪力センサの基本構造を示す断面図である。なお、図1,2において説明したものと同等のものには、それらに同一の符号を付して説明を省略する。また、板状ヨーク部材とケースについては、本願のものとは基本構造が同等のものであるので、同一の符号に「´」を付している。
【0031】
磁歪部材20として、内径12.6mm、外径14.2mm、幅13mmのパーメンヂュール製リングをφ12.61のSUS製の軸状体に冷やし嵌めにて嵌合固定した。締め代は10μmであった。
磁歪部材20は、日立金属製のパーメンヂュールであるYEP−2Vを機械加工して作製した。また、真空中にて850℃にて3時間の保持、その後400℃まで100〜200℃/Hrで冷却し、その後、炉冷の熱処理を行った。
【0032】
軸状体10はSUS303製のものである。その軸方向に通電することにより、磁歪部材20´を周方向に着磁した。通電着磁はピーク電流値、約8500Aのパルス電流で行った。
板状ヨーク部材40´はPBパーマロイにて作製した。幅6mm、長さ20mm、厚さ1mmの大きさで板状であった。機械加工後、真空中にて850℃にて1時間の保持、その後、炉冷の熱処理を行った。
【0033】
樹脂(ベークライト)製のホルダH´で板状ヨーク部材40´とホールIC(磁気センサ)S,Sを保持した。ホールIC(厚さ1mm)を、図4に示すように、感磁部が磁歪部材20の端面と対向するように配置した。ホールICと磁歪部材とのキャップは0.5mmとした。ホールICと板状ヨーク部材とは密着させた。また、ケース30´は4mm厚さのS45Cで作製した。
トルクを+/−5Nm印加したときの感度はホールIC1個分に換算すると1.5G/Nmとなった。
【0034】
(実施例1)
図1に示す構成の磁歪力センサを製作した。板状ヨーク部材40に上記した挿通孔41を形成し、その挿通孔41にホールIC(磁気センサ)S,Sからの入出力線9,9を配線するとともにホルダHを変更し、ケース30を短縮化した以外は参考例1と同様とした。
【0035】
すなわち、軸状体10、磁歪部材20及び板状ヨーク部材10の材質、熱処理も同じとしている。ケース30は10mm、軸方向に短縮した。板状ヨーク部材40の挿通孔41は幅3mm、長さ6.5mmの長方形とした。板状ヨーク部材40及びホールIC(磁気センサ)S,Sは、その板状ヨーク部材10の挿通孔41を介してホルダHで保持した。
この場合、+/−5NmでのホールIC1個分の換算感度は1.5G/Nmであり、参考例1と同じであった。
【0036】
図5は、他例に係る板状ヨーク部材の平面図である。
他例に係る板状ヨーク部材50は、上記した軸状体10に沿って長い平面視において長方形に形成されている。
この板状ヨーク部材50の面中心O1には、磁気センサS,Sの入出力線9,9を挿通するための挿通孔51を平面視において軸線Oに沿った長軸を有する楕円形にして貫通穿設している。
【0037】
なお、本発明は上述した実施形態に限るものではなく、次のような変形実施が可能である。
・上記した実施形態においては、板状ヨーク部材の面中心に、磁気センサの入出力線を挿通するための挿通孔を平面視長方形にして貫通穿設した例について説明したが、長方形に限らず円形や楕円形若しくは異形に形成してもよく、また、単一のものに限らず、2つ以上形成してもよい。
【0038】
・上記の実施形態においては、磁気検知デバイスの磁気センサとしてホールICを例示したが、省電力で小型であるGMRセンサを使うこともできることは勿論である。
以上の例示では板状ヨーク部材としてPBパーマロイを例示したが、他の軟磁性材料であるケイ素鉄、電磁軟鉄、パーメンジュール、フェライト等も用いてもよい。また、ケースをS45Cで形成したものを示したが、ケイ素鉄、電磁軟鉄、PBパーマロイ等でもよいことは勿論である。
【0039】
・上記した実施形態においては、検知対象物をSUSのみで形成した例について説明したが、例えばチタン合金や非磁性鋼を用いることもできる。また、温度特性を確保するには熱膨張係数差を考慮しさえすればよい。
【符号の説明】
【0040】
9 入出力線
10 検知対象物
20 磁歪部材
40 板状ヨーク部材
41 挿通孔
B 磁気検知デバイス
S 磁気センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検知対象物に固定された磁歪部材からの磁束漏れの変化に基づき、その検知対象物に作用する力を検知する磁気センサと板状ヨーク部材とを備えた磁気検知デバイスにおいて、
上記磁気センサの入出力線を挿通するための挿通孔を、板状ヨーク部材のほぼ面中心に穿設していることを特徴とする磁気検知デバイス。
【請求項2】
挿通孔を、面中心に対して対称に形成していることを特徴とする請求項1に記載の磁気検知デバイス。
【請求項3】
請求項1又は2に記載した磁気検知デバイスを有することを特徴とする磁歪力センサ。
【請求項4】
請求項1又は2に記載した磁気検知デバイスを有する磁歪力センサであって、
検知対象物を軸状体として形成しているとともに、リング状に形成されかつ周方向に着磁された磁歪部材を軸状体として形成した検知対象物に嵌合しており、
上記磁気センサを、検知対象物に作用するトルクによる磁束漏れの変化を検知するように、軸状体として形成した検知対象物に嵌合した磁歪部材に近接配置していることを特徴とする磁歪力センサ。
【請求項5】
板状ヨーク部材を磁歪部材の軸方向と平行に配設していることを特徴とする請求項4に記載の磁歪力センサ。
【請求項6】
板状ヨーク部材がPBパーマロイであることを特徴とする請求項4又は5に記載の磁歪力センサ。
【請求項7】
磁気センサと信号処理回路とが挿通孔を通じて導出した入出力線を介して接続されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の磁歪力センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−88185(P2012−88185A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−235395(P2010−235395)
【出願日】平成22年10月20日(2010.10.20)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)