説明

磁気温熱療法用発熱体および製造方法

【課題】本発明は、新規な磁気温熱療法用発熱体を提供することを目的とする。
【解決手段】アルギン酸ナトリウム水溶液に粒径10〜25nmのフェライト微粒子を分散させてフェライト微粒子分散液を調製し、当該フェライト微粒子分散液をインクジェットノズルを使用して塩化カルシウム水溶液に対して滴下すると、複数のフェライト微粒子を包含するアルギン酸ゲル粒子が形成され、これを磁気温熱療法用発熱体として使用する。本発明の磁気温熱療法用発熱体は、高い生体適合性と生体内分解性に加え、高い発熱効率を備えるものであり、その粒径を自在に制御でき、且つ、低廉な製造コストで簡便に製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気温熱療法用発熱体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、癌の治療法として温熱療法が注目されている。癌の温熱療法(抗癌ハイパーサーミア)とは、癌細胞が健常細胞に比べて熱に弱く、また、加温に対して癌組織が健常組織より早く昇温することに着目した治療法であり、癌患部を加温することによって癌細胞のみを死滅させることを目的とするものである。抗癌ハイパーサーミアの最も大きな特徴は、癌の種類に関係なくその効果が期待できる上に、目立った副作用がなく、患者のQOL(Quality of Life)を高く維持できる点にある。
【0003】
現在、採用されている抗癌ハイパーサーミアの多くは誘電型加温法によるものであり、癌細胞が存在する身体の部位を電極で挟み、ラジオ波と同程度の周波数の交流電流を流すことによって、ジュール損失と誘電損失で患部を加温するものである。しかしながら、この原理は、電界の印加によって組織内の水分子を加熱するものであり、癌組織だけでなく正常組織まで加温してしまうため、実際には、患者の負担を考慮して、42℃までの加温が限界となっており、癌細胞をハイパーサーミアのみで完全に退縮させることは困難であった。
【0004】
この点に鑑み、近年、磁性微粒子を癌組織に導入し、これに交流磁界を印加することによって、癌組織のみを選択的に加温することを特徴とした磁気温熱療法用(磁気ハイパーサーミア)の採用が検討されている。この磁気ハイパーサーミアは、交流磁界の印加によって、癌組織に集積した磁性微粒子を発熱させるものであり、組織中の水分子を直接加熱するものではないため、健常組織を限界温度まで加温することなく、癌細胞だけを選択的に42.5℃以上の高温にまで加温して死滅させることが可能となる。
【0005】
これを受けて、近年、磁気ハイパーサーミア用発熱体について広く研究開発がなされている。例えば、国際公開第2006/080243号(特許文献1)は、磁性粒子をリポソームで被覆してなる温熱療法用治療剤を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2006/080243号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
磁気温熱療法用発熱体には、当然にして高い生体適合性が要求される。また、ハイパーサーミア治療は一般に数日間にわたり複数回実施されるので、この間、磁気温熱療法用発熱体を患部に滞留させることが望ましく、一方で、治療終了後には、完全に体外へ排出されることが要請される。さらに、身体への負担軽減の観点から、その投入量をできるだけ少なくする必要があり、そのために、磁気温熱療法用発熱体には、より高い発熱効率が要求される。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、本発明は、高い生体適合性と生体内分解性に加え、高い発熱効率を備え、その粒径を自在に制御でき、且つ、低廉な製造コストで簡便に製造することができる新規な磁気温熱療法用発熱体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、高い生体適合性と生体内分解性に加え、高い発熱効率を備え、その粒径を自在に制御でき、且つ、低廉な製造コストで簡便に製造することができる新規な磁気温熱療法用発熱体につき鋭意検討した結果、フェライト微粒子をアルギン酸ゲル粒子に包含させてなる発熱体の構成に想到し、本発明に至ったのである。
【0010】
すなわち、本発明によれば、複数のフェライト微粒子を包含するアルギン酸ゲル粒子として構成される磁気温熱療法用発熱体が提供される。本発明においては、前記フェライト微粒子の粒径を10〜25nmとすることが好ましい。また、本発明によれば、アルギン酸塩水溶液にフェライト微粒子を分散させてフェライト微粒子分散液を調製する工程と、前記フェライト微粒子分散液の微細液滴を多価金属塩水溶液に対して導入し、該微細液滴をゲル化する工程とを含む、磁気温熱療法用発熱体の製造方法が提供される。本発明においては、分散させる前記フェライト微粒子をクエン酸被覆しておくことが好ましい。また、本発明においては、前記フェライト微粒子の粒径を10〜25nmとすることが好ましい。さらに、本発明においては、インクジェットノズルによって前記微細液滴の大きさを制御して導入することができ、あるいは、前記フェライト微粒子分散液を噴霧することによって、前記微細液滴を前記多価金属塩水溶液に対して導入することができる。また、本発明においては、前記アルギン酸塩水溶液としてアルギン酸ナトリウム水溶液を、前記多価金属塩水溶液として塩化カルシウム水溶液を用いることができる。
【発明の効果】
【0011】
上述したように、本発明によれば、高い生体適合性と生体内分解性に加え、高い発熱効率を備え、その用途に応じて粒径を自在に制御でき、且つ、低廉な製造コストで簡便に製造することができる新規な磁気温熱療法用発熱体が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の磁気温熱療法用発熱体の製造方法を概念的に示す図。
【図2】本実施例の発熱評価用実験装置を示す図。
【図3】本実施例で作製したフェライトナノ粒子のXRD測定の結果を示す図。
【図4】本実施例で作製したフェライトナノ粒子を含むサンプル(水・寒天)の室温からの上昇温度(℃)と磁界印加時間(min)の関係を示した図。
【図5】フェライトナノ粒子の結晶子径d(nm)と磁界印加時間(min)毎の室温からの上昇温度(℃)の関係を示した図。
【図6】磁気温熱療法用発熱体のレーザ顕微鏡像を示す図。
【図7】本実施例で作製した磁気温熱療法用発熱体を含む寒天サンプルの室温からの上昇温度(℃)と磁界印加時間(min)の関係を示した図。
【図8】本実施例で作製した磁気温熱療法用発熱体と非被覆のフェライトナノ粒子について室温からの上昇温度(℃)と磁界印加時間(min)の関係を示した図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を図面に示した実施の形態をもって説明するが、本発明は、図面に示した実施の形態に限定されるものではない。
【0014】
アルギン酸は、褐藻類より抽出されるきわめて親水性の高い天然高分子であり、我が国では食品添加物として指定されるなど、人体に無害な物質として知られている。アルギン酸は、分子中のカルボン酸基が水酸化アルカリ金属や炭酸アルカリ金属などと塩を形成する条件下では高粘性の水溶液となり、分子中のカルボン酸基が多価金属イオンとキレート構造を形成することによってゲル化する性質を有する。一方、フェライトは、水溶液中でも安定で毒性がなく、酸化物の中で最も高い磁化量を有する磁性体である。そこで、本発明においては、発熱媒体としてフェライト微粒子を採用し、これをアルギン酸ゲル内に包含させることによって磁気温熱療法用発熱体を形成する。
【0015】
図1は、本発明の磁気温熱療法用発熱体の製造方法を概念的に示す図である。本発明の磁気温熱療法用発熱体は、アルギン酸塩水溶液にフェライト微粒子を分散させてフェライト微粒子分散液10を調製し、フェライト微粒子分散液10の微細液滴を多価金属塩水溶液12に導入することによって作製する。なお、フェライト微粒子は、共沈法、部分酸化法、錯体沈澱法などの方法によって適宜作製することができる。微細液滴が多価金属塩水溶液12に導入されると、アルギン酸分子中のカルボン酸基が多価金属塩水溶液12中の多価金属イオンとキレート構造を形成することにより、微細液滴は、その大きさを維持したままゲル化し、アルギン酸ゲル粒子14を形成する。その結果、紙面右下に拡大して示すように、アルギン酸ゲル粒子14内に複数のフェライト微粒子16を包含した磁気温熱療法用発熱体20が形成される。なお、本発明においては、人体への影響を考慮し、アルギン酸塩水溶液としてアルギン酸ナトリウム水溶液を、多価金属塩水溶液として塩化カルシウム水溶液を用いることが好ましい。
【0016】
本発明においては、既存のインクジェットノズルを用いてフェライト微粒子分散液の微細液滴を多価金属塩水溶液12に滴下して導入することができる。例えば、ピエゾ式ノズルによれば、数十μmオーダーの液量を均一に吐出することができ、この吐出量を制御することによって、所望の粒径のアルギン酸ゲル粒子(すなわち、磁気温熱療法用発熱体)を作製することができる。
【0017】
また、別法としては、スプレー装置を利用してフェライト微粒子分散液を噴霧することによって、フェライト微粒子分散液の微細液滴を多価金属塩水溶液に導入することもできる。なお、当該方法においては、得られたアルギン酸ゲル粒子を適切なふるいにかけて所望の粒径範囲のアルギン酸ゲル粒子を分取することもできる。
【0018】
上述したように、本発明においては、企図する使用態様に応じて、導入するフェライト微粒子分散液の微細液滴の大きさ(液量)を制御するだけで、所望の粒径の磁気温熱療法用発熱体を自在に作製することができる。例えば、毛細血管の管径(3〜10 μm)より十数倍大きいサイズ(50〜1000μm)の粒径の磁気温熱療法用発熱体を作製し、これを目的とする癌患部近傍に直接注射して導入する方法が考えられる。この場合、導入された磁気温熱療法用発熱体は、毛細血管から血流と共にすぐに流出せず、数日間にわたって患部に滞留することが期待できる。
【0019】
以上、説明したように、本発明の磁気温熱療法用発熱体は、人体に無害なフェライトとアルギン酸塩から構成され、またその製造過程において有機溶媒を使用しないので、人体に悪影響を及ぼすことがない。また、治療終了後は、アルギン酸ゲルは代謝分解され、フェライト微粒子とともに体外へ排出される。さらに、本発明の磁気温熱療法用発熱体は、安価な材料で簡便に作製することができるため、製造コストの面でも有利である。
【0020】
次に、本発明の磁気温熱療法用発熱体に包含されるフェライト微粒子について説明する。磁気ハイパーサーミアにおける磁性微粒子の発熱特性は、磁性微粒子の粒子径に大きく依存し、一般に、フェライトでは、粒径が数十nm以上の場合はヒステリシス損失が発熱を支配する一方、粒径がこれを下回る場合には、ヒステリシス損失はほとんど無くなり、ブラウン緩和損失とネール緩和損失が支配的となる。この点に鑑み、本発明においては、高い発熱効率を実現すべく、粒径10〜25nmのフェライト微粒子を包含させることが好ましい。
【0021】
本発明の磁気温熱療法用発熱体は、フェライト微粒子をアルギン酸ゲル中に保持する構成を採用しているが、アルギン酸ゲル粒子の内部はある程度の流動性を備えていることが予想され、フェライト微粒子のブラウン緩和の寄与による発熱を期待することができる。しかしながら、ゲル内でフェライト微粒子が凝集していたのでは、ブラウン緩和に基づく発熱効果が期待できない。この点に鑑み、本発明においては、フェライト微粒子をクエン酸で表面修飾した後にアルギン酸塩水溶液に分散させることが好ましい。このようにすれば、フェライト微粒子を高分散状態に維持したまま、アルギン酸ゲル内に内包することができ、ブラウン緩和の寄与を期待することができる。
【0022】
一方、アルギン酸ゲル粒子内のゲル化の度合いよっては、フェライト微粒子のブラウン運動(力学的遥道)が制限されることもあり得る。このような場合、発熱においては、ブラウン緩和よりもネール緩和の寄与が支配的になることが予想される。この点につき、本発明者らは、フェライト微粒子の粒径(結晶子径)と発熱効率の相関について検証を重ねた。その結果、フェライト微粒子について、ネール緩和(結晶中における磁気モーメントの回転)に基づく発熱の効率が最大となる最適粒径範囲を見出した。すなわち、本発明の磁気温熱療法用発熱体においては、包含させるフェライト微粒子の粒径を、10〜18nmとすることが好ましく、11〜15nmとすることがより好ましい。本発明においては、包含させるフェライト微粒子について上記粒径を採用することによって、仮に、アルギン酸ゲル粒子の内部でゲルが高粘度化し、フェライト微粒子のブラウン運動が制限されるような状態であっても、フェライト微粒子のネール緩和に基づいて高い発熱効率を実現することができる。
【実施例】
【0023】
以下、本発明の磁気温熱療法用発熱体について、実施例を用いてより具体的に説明を行なうが、本発明は、後述する実施例に限定されるものではない。
【0024】
(1)フェライトナノ粒子の作製
作製条件を変えることによって、異なる結晶子径dを有するフェライトナノ粒子を作製し、それぞれの発熱特性を検証した。以下、その具体的な手順を示す。
【0025】
(共沈法)
ビーカに取った純水(80 ml)にFeCl2・4H2O(0.3976 g) および FeCl3・6H2O(1.0812g)を加え、攪拌して完全に溶かしておき、この溶液に対し、純水32 mlにNaOH(5M)を8 ml添加してなる溶液を加えて30分攪拌した。その後、磁洗により回収したフェライトナノ粒子に純水を加えて25mlとした(フェライト濃度:18.4 mg/ml)。これを以下、フェライトナノ粒子(No.1)として参照する。
【0026】
(部分酸化法)
ビーカに取った純水(21 ml)に対し、28 %アンモニア水溶液(15 ml)を加えてA液とし、ビーカに取った純水(36 ml)に、FeCl2・4H2O(0.3578g) および FeCl3・6H2O(0.4865 g)を加え、攪拌して完全に溶かしてB液とした。A液およびB液を5ml/minの速度でビーカに取った純水(72 ml)に攪拌(500 rpm)しながら滴下し、さらに30分攪拌した。その後、磁洗により回収したフェライトナノ粒子に純水を加えて15mlとした(フェライト濃度:18.4 mg/ml)。これを以下、フェライトナノ粒子(No.2)として参照する。
【0027】
(錯体沈澱法)
オートクレーブ用50 ml容器に取った純水(15 ml)にFeCl2・4H2O(0.3976 g) および FeCl3・6H2O(1.0812g)を加え、攪拌して完全に溶かしてA液とし、ビーカに取った純水(15 ml)にオレイン酸ナトリウム(C17H33COONa)を0.05327 g加え、攪拌して完全に溶かしてB液とした。A液にB液(15ml)を加え、5秒ほど攪拌した後、さらに、28%アンモニア水溶液(NH3・H2O)を4.5 mlを加えてC液とした。
【0028】
C液を室温で30分攪拌した後、磁洗をして溶媒を排除したものに対し、NaOH(5M)を少々加え、再度磁洗をして溶媒を排除し、さらに、純水、アセトン洗浄を行なった。最後に磁洗により回収したフェライトナノ粒子に純水を加えて25mlとした(フェライト濃度:18.4 mg/ml)。これを以下、フェライトナノ粒子(No.3)として参照する。
【0029】
さらに上述したC液を5つの容器に用意し、各容器に蓋をして、ステンレスオートクレーブで密封した。各C液について異なる温度T °C (T = 100,125, 150, 200, 230) の炉に3時間保持した。それぞれについて自然冷却した後、磁洗をして溶媒を排除したものに対し、NaOH(5M)を少々加え、再度磁洗をして溶媒を排除し、さらに、純水、アセトン洗浄を行なった。最後に磁洗により回収したフェライトナノ粒子に純水を加えて25mlとした(フェライト濃度:18.4 mg/ml)。以下、保持温度100℃で作製したものをフェライトナノ粒子(No.4)、保持温度125℃で作製したものをフェライトナノ粒子(No.5)、保持温度150℃で作製したものをフェライトナノ粒子(No.6)、保持温度200℃で作製したものをフェライトナノ粒子(No.7)、保持温度230℃で作製したものをフェライトナノ粒子(No.8)、として参照する。
【0030】
(2)フェライトナノ粒子の発熱特性評価
上述した手順で作製したフェライトナノ粒子(No.1〜No.8)について、XRDおよびDLSによる測定を行なうと共に、以下の手順で2種類の発熱特性評価用サンプルを作製し、それぞれの発熱特性を評価した。
【0031】
(発熱特性評価実験)
まず、作製したフェライトナノ粒子(No.1〜No.8)の水分散液に超音波処理を90分施した後、当該水分散液をプラスチック容器に1.5mlを取り、これに純水1.5 mlを加えて、発熱特性評価用サンプルA(フェライトナノ粒子を水に分散した試料)とした(フェライト濃度:9.2 mg/ml)。
【0032】
一方、作製したフェライトナノ粒子(No.1〜No.8)の水分散液をプラスチック容器に1.5 mlを取り、これに対して、ビーカーに取った純水(20 ml)に粉寒天0.200gを加え湯煎して完全に溶かしたもの(以下、寒天溶液という)を1.5 ml加えて固め、発熱特性評価用サンプルB(フェライトナノ粒子を寒天中に分散して固定した試料)とした(フェライト濃度:9.2mg/ml)。
【0033】
図2は、本実施例で使用した発熱評価用実験装置30を示す。図2に示すように、発熱特性評価用サンプル32が入ったプラスチック容器34を発砲スチロール35で覆ったものをコイル36(長さ150mm:/直径:70mm)内に静置して磁界を印加すると共に、光ファイバー温度計38によってサンプルの温度を測定した。なお、光ファイバー温度計38のプローブはサンプルの中心に位置決めして差し込み、印加する交流磁界の周波数は120
kHz、磁界強度は112 Oeで固定した。
【0034】
(発熱特性評価)
作製したサンプルの発熱特性の評価を行なうにあたり、まず、フェライトナノ粒子の粒径を特定した。なお、粒径が20nm以下のフェライト微粒子は単結晶であることが推定されることから、各サンプルについてのXRD測定の結果から結晶子径を算出し、これをもって各フェライトナノ粒子の粒径と見なした。図3(a)および図3(b)は、それぞれ、フェライトナノ粒子(No.1〜No.2)およびフェライトナノ粒子(No.3〜No.8)のXRD測定の結果を示す。図3(a)、(b)に示したXRD測定の結果に基づいて、Debye-Scherrerの式よりフェライトナノ粒子(No.1〜No.8)の結晶子径dを算出した。算出したフェライトナノ粒子(No.1〜No.8)の結晶子径dを下記表1に示す。
【0035】
【表1】

【0036】
図4(a)〜(h)は、それぞれ、フェライトナノ粒子(No.1〜No.8)を含む発熱特性評価用サンプルの室温からの上昇温度(℃)と磁界印加時間(min)の関係を示した図である。なお、図4(a)〜(h)中、実線(Water)は発熱特性評価用サンプルAについての結果を示し、破線(Agar)は発熱特性評価用サンプルBについての結果を示す。
【0037】
図4(a)〜(h)に示されるように、フェライトナノ粒子(No.1〜No.8)による温度上昇は、いずれも水に分散させたサンプルの方が寒天で固めたサンプルよりも大きかった。これは、フェライトナノ粒子が寒天で固定されるサンプルにおいては、ブラウン緩和が発熱に寄与していないためだと考えられる。
【0038】
また、図5は、フェライトナノ粒子(No.1〜No.8)の結晶子径d(nm)と磁界印加時間(min)毎の室温からの上昇温度(℃)との関係を示した図であり、図5(a)は、発熱特性評価用サンプルAについての結果を示し、図5(b)は、発熱特性評価用サンプルBについての結果を示す。図5(a)と図5(b)を対比するとわかるように、結晶子径dが11nm 〜 15 nm の範囲にあるフェライトナノ粒子は、水に分散した状態(発熱特性評価用サンプルA)および寒天中に固定された状態(発熱特性評価用サンプルB)のいずれにおいても大きな温度上昇を示し、フェライトナノ粒子(No.5:結晶子径d=13.5nm)を含んだサンプルにおいて最も大きい温度変化が見られた。
【0039】
(3)磁気温熱療法用発熱体の作製
上述した発熱特性評価実験の結果を受け、最も大きい温度変化が見られたフェライトナノ粒子(No.5:結晶子径d=13.5 nm)を使用して本実施例の磁気温熱療法用発熱体を以下の手順で作製した。
【0040】
ビーカに取ったフェライトナノ粒子(No.5:結晶子径d=13.5 nm)に純水を加えて14 mlとし、これに2.0 wt%アルギン酸ナトリウム水溶液を5 ml加え、攪拌して均一にした上で、HCl水溶液を適量加えてpHを7.02±0.02の範囲に調製した。最後に純水を加えて全量を20mlとした(フェライト濃度:46 mg/ml)。上述した手順でフェライトナノ粒子を分散させたアルギン酸ナトリウム水溶液(以下、フェライトナノ粒子分散液として参照する)に対してホーン型超音波装置を用いて10分間超音波処理を行なった後、これをインクジェット用母液容器に移してインクジェット装置(ピエゾ式ノズル:φ= 60 μm)にセットした。
【0041】
その後、予めビーカーに取っておいた、10 wt%塩化カルシウム水溶液(25 ml)に対してインクジェット装置からフェライトナノ粒子分散液を吐出した(500000個)。最後に純水で磁気洗浄を5回行なって、本実施例の磁気温熱療法用発熱体を得た。図6は、磁気温熱療法用発熱体のレーザ顕微鏡像を示す。図6に示されるように、得られた磁気温熱療法用発熱体の形状はほぼ球状であり、その粒径は50〜60nm であった。
【0042】
(4)磁気温熱療法用発熱体の発熱効果の検証
プラスチック容器に寒天溶液(1.5 ml)を加えて固めた後、その上に上述した手順で作製した磁気温熱療法用発熱体(500000個)を移し、さらにその上から寒天溶液(1.5ml)を加えて固め、発熱効果検証用サンプルとした。これを図2に示したのと同様の態様でコイル内に静置して磁界を印加すると共に、光ファイバー温度計によってサンプルの温度を測定した。なお、印加する交流磁界の周波数は120kHz、磁界強度は112 Oeで固定した。
【0043】
図7は、発熱効果検証用サンプルの室温からの上昇温度(℃)と磁界印加時間(min)の関係を示した図である。図7に示されるように、本実施例の磁気温熱療法用発熱体が導入された寒天において、磁界を20分間印加した結果、11.6 °Cの温度上昇が確認された。
【0044】
(5)アルギン酸ゲル被覆がフェライトナノ粒子の発熱に与える影響の検証
アルギン酸ゲルで被覆したフェライトナノ粒子と非被覆のフェライトナノ粒子単体の発熱特性を以下の手順で比較した。まず、部分酸化法によってフェライトナノ粒子を作製した。作製したフェライトナノ粒子のTEM画像を解析した結果、その平均粒径は約19nmであった。作製したフェライトナノ粒子に対し、クエン酸三ナトリウムとクエン酸を添加して撹拌し、粒子表面をクエン酸によって被覆した。クエン酸被覆の前後でフェライトナノ粒子の水懸濁液について、粒径の重量換算分布の測定を行なったところ、クエン酸被覆前には4000nm前後にあった粒径分布が、クエン酸被覆後には30nm前後に粒径分布が観察され、フェライトナノ粒子の分散性が向上していることが確認できた。
【0045】
上述したフェライトナノ粒子(クエン酸被覆)の水懸濁液に2.0 wt%アルギン酸ナトリウム水溶液を加えて攪拌した後、噴霧器にセットした。容器に入った10 wt%塩化カルシウム水溶液(30 cm×35cm×2 cm)に対し、液面上50 cmの高さからフェライトナノ粒子−アルギン酸ナトリウム分散液を噴霧した後(Nガス:15L/min,0.2Mpa)、容器内に形成されたアルギン酸ゲル粒子を45μmと212μmのふるいにかけて分級した。分級したアルギン酸ゲル粒子の顕微鏡画像を解析した結果、その平均粒径は約80μmであった。
【0046】
上述した手順で作製したアルギン酸ゲル粒子を水に分散させたものをサンプルXとし、先に作製した非被覆のフェライトナノ粒子を水に分散させたものをサンプルYとした。なお、両サンプルは、その鉄濃度がいずれも10.5mgFe/mlとなるように調製した。調製した両サンプルについて、図2に示したのと同様の装置を使って交流磁界を印加した。なお、印加する交流磁界の周波数は900kHz、磁界強度は45 Oeで固定した。
【0047】
図8は、上記両サンプルの室温からの上昇温度(℃)と磁界印加時間(min)の関係を示した図である。図8に示されるように、アルギン酸ゲルで被覆したフェライトナノ粒子のサンプルXは、非被覆のフェライトナノ粒子のサンプルYとほぼ同様の温度上昇カーブを描いており、フェライトナノ粒子の発熱特性は、アルギン酸ゲルの被覆によって大きく損なわれないことが示された。特に、実際の適用において目標とされる上昇温度7℃に至るまでに関しては、アルギン酸ゲルで被覆したフェライトナノ粒子は、非被覆のフェライトナノ粒子と全く遜色のない発熱特性を示し、わずか1分で目標温度に達成した。
【0048】
上述した実施例より、本発明の磁気温熱療法用発熱体が温熱療法に適用するのに十分な発熱効果を発揮することが示された。また、本発明の磁気温熱療法用発熱体は、高い発熱効率を有することが示された。よって、本発明の磁気温熱療法用発熱体によれば、最低限の投入量で高い加温効果が期待でき、患者の負担を軽減することが可能になる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
以上、説明したように、本発明によれば、高い生体適合性と生体内分解性に加えて高い発熱効率を備え、その用途に応じて粒径を自在に制御でき、且つ、低廉な製造コストで簡便に製造することができる新規な磁気温熱療法用発熱体が提供される。本発明の磁気温熱療法用発熱体を臨床に適用することによって、患者のQOLを損なうことのない、新しい癌の治療方法が確立されることを期待する。
【符号の説明】
【0050】
10…フェライト微粒子分散液、12…多価金属塩水溶液、14…アルギン酸ゲル粒子、16…フェライト微粒子、20…磁気温熱療法用発熱体、30…発熱評価用実験装置、32…発熱特性評価用サンプル、34…プラスチック容器、35…発砲スチロール、36…コイル、38…光ファイバー温度計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェライト微粒子を包含するアルギン酸ゲル粒子として構成される磁気温熱療法用発熱体。
【請求項2】
前記フェライト微粒子の粒径が10〜25nmである、請求項1に記載の磁気温熱療法用発熱体。
【請求項3】
アルギン酸塩水溶液にフェライト微粒子を分散させてフェライト微粒子分散液を調製する工程と、
前記フェライト微粒子分散液の微細液滴を多価金属塩水溶液に対して導入し、該微細液滴をゲル化する工程とを含む、
磁気温熱療法用発熱体の製造方法。
【請求項4】
分散させる前記フェライト微粒子はクエン酸被覆されたものである、請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記フェライト微粒子の粒径が10〜25nmである、請求項3または4に記載の製造方法。
【請求項6】
インクジェットノズルによって前記微細液滴の大きさを制御して導入する、請求項3〜5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記フェライト微粒子分散液を噴霧することによって、前記微細液滴を前記多価金属塩水溶液に対して導入する、請求項3〜5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項8】
前記アルギン酸塩水溶液は、アルギン酸ナトリウム水溶液であり、前記多価金属塩水溶液は、塩化カルシウム水溶液である、請求項3〜7のいずれか1項に記載の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2011−32238(P2011−32238A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−181597(P2009−181597)
【出願日】平成21年8月4日(2009.8.4)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】