説明

磁気記録ヘッド及び磁気記録装置

【課題】効果的・効率的な高周波アシスト磁気記録を可能とした磁気記録ヘッド及びこれを用いた磁気記録装置を提供する。
【解決手段】主磁極と、第1の磁性層と、第2の磁性層と、前記第1の磁性層と前記第2の磁性層との間に設けられた第1の中間層と、前記第1の磁性層及び前記第2の磁性層の少なくともいずれかに磁界を及ぼす第3の磁性層と、を有する積層体と、を備え、前記第3の磁性層の飽和磁化が、前記第1の磁性層及び第2の磁性層の少なくともいずれかの飽和磁化より大きいことを特徴とする磁気記録ヘッドを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録ヘッド及び磁気記録装置に関し、特に高周波磁界を発生するスピントルク発振子を具備した磁気記録ヘッド及び磁気記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
1990年代においては、MR(Magneto-Resistive effect)ヘッドとGMR(Giant Magneto-Resistive effect)ヘッドの実用化が引き金となって、HDD(Hard Disk Drive)の記録密度と記録容量が飛躍的な増加を示した。しかし、2000年代に入ってから磁気記録媒体の熱揺らぎの問題が顕在化してきたために、記録密度増加のスピードが一時的に鈍化した。それでも、面内磁気記録よりも原理的に高密度記録に有利である垂直磁気記録が2005年に実用化されたことが牽引力となって、昨今、HDDの記録密度は年率約40%の伸びを示している。
【0003】
また、最新の記録密度実証実験では400Gbits/inchを超えるレベルが達成されており、このまま堅調に進展すれば、2012年頃には記録密度1Tbits/inchが実現されると予想されている。しかしながら、このような高い記録密度の実現は、垂直磁気記録方式を用いても、再び熱揺らぎの問題が顕在化するために容易ではないと考えられる。
【0004】
この問題を解消し得る記録方式として「高周波アシスト磁気記録方式」が提案されている。高周波アシスト磁気記録方式では、記録信号周波数より十分に高い、磁気記録媒体の共鳴周波数付近の高周波磁界を局所的に印加する。この結果、磁気記録媒体が共鳴し、高周波磁界を印加された磁気記録媒体の保磁力(Hc)はもともとの保磁力の半分以下となる。このため、記録磁界に高周波磁界を重畳することにより、より高保磁力(Hc)かつ高磁気異方性エネルギー(Ku)の磁気記録媒体への磁気記録が可能となる(例えば、特許文献1)。しかし、この特許文献1に開示された手法ではコイルにより高周波磁界を発生させており、高密度記録時に効率的に高周波磁界を印加することが困難であった。
【0005】
そこで高周波磁界の発生手段として、スピントルク発振子を利用する手法が提案されている(例えば、特許文献2)。この特許文献2に開示された技術においては、スピントルク発振子は、発振層、中間層、スピン注入層からなる。スピン注入層から発振層へ分極したスピン電流を注入することにより、発振層の磁化を数十GHz帯域の高周波で振動させることが提案されている。また、大きな垂直磁気異方性を持つバイアス層をBs=2.5TのFeCo合金からなる発振層に積層することにより、数十GHzの高周波発振と同時に3kOeの強い高周波磁界発生が実現できることが報告されている(非特許文献1)。
【特許文献1】米国特許第6011664号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2005/0023938号明細書
【非特許文献1】J.Zhu他、TMRC2007、B8
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしならが、バイアス層とFeCo合金発振層を積層すると、FeCo合金発振層からの交換結合による反作用によりバイアス層の磁化がFeCo合金発振層の磁化の変動に応じて変化する不安定現象が発生する。このためにバイアス層の磁化が経時変化を生じ、発振特性も変化する。逆にFeCo合金発振層とバイアス層との間に中間層を挿入してFeCo合金発振層とバイアス層との交換結合を弱めると、十分な磁界をFeCo合金発振層に付与することが困難になり、所望の高周波磁界を発生することができない。同様な課題は、スピン注入層にバイアス層を積層する場合にも存在する。すなわち、スピン注入特性に優れた高いスピン分極特性を有するFeCo合金などのスピン注入層とバイアス層を積層すると、その交換結合磁界によりバイアス層の磁化が不安定となる。一方、中間層を介して積層するとバイアス層からの磁界が弱くなってしまう。
【0007】
本発明は上記の状況を鑑み、発振層に十分な磁界を付与でき、且つ安定にバイアス層の磁化が存在し得るスピントルク発振子を提供して、効果的・効率的な高周波アシスト磁気記録を可能とした磁気記録ヘッド及びこれを用いた磁気記録装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様によれば、主磁極と、第1の磁性層と、第2の磁性層と、前記第1の磁性層と前記第2の磁性層との間に設けられた第1の中間層と、前記第1の磁性層及び前記第2の磁性層の少なくともいずれかに磁界を及ぼす第3の磁性層と、を有する積層体と、を備え、前記第3の磁性層の飽和磁化が、前記第1の磁性層及び第2の磁性層の少なくともいずれかの飽和磁化より大きいことを特徴とする磁気記録ヘッドが提供される。
【0009】
本発明の他の一態様によれば、主磁極と、第1の磁性層と、第2の磁性層と、前記第1の磁性層と前記第2の磁性層との間に設けられた第1の中間層と、前記第1及び第2の磁性層を挟むようにその両側に設けられた第3及び第4の磁性層と、を有する積層体と、を備え、前記第3及び第4の磁性層の飽和磁化が、前記第1及び第2の磁性層の少なくといずれかの飽和磁化よりも大きいことを特徴とする磁気記録ヘッドが提供される。
【0010】
また、本発明のさらに他の一態様によれば、磁気記録媒体と、上記のいずれかの磁気記録ヘッドと、前記磁気記録媒体と前記磁気記録ヘッドとを離間させまたは接触させた状態で対峙させながら相対的に移動可能とした可動手段と、前記磁気記録ヘッドを前記磁気記録媒体の所定記録位置に位置合せする制御手段と、前記磁気記録ヘッドを用いて前記磁気記録媒体への信号の書き込みと読出しを行う信号処理手段と、を備えたことを特徴とする磁気記録装置が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、発振層に十分な磁界を付与可能で、且つバイアス層の磁化を安定に保持可能な、スピントルク発振子を提供し、その結果、効果的・効率的な高周波アシスト磁気記録を可能とした磁気記録ヘッド及びこれを用いた磁気記録装置が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に、本発明の各実施の形態について図面を参照しつつ説明する。
本発明の高周波アシスト磁気ヘッドに関わる第1の実施の形態について、ここでは多粒子系の垂直磁気記録媒体に記録する場合を想定して、説明する。
図1は、本発明の実施の形態にかかる磁気記録ヘッドの概略構成を表す斜視図である。 また、図2は、この磁気記録ヘッドが搭載されるヘッドスライダーを表す斜視図である。
本実施形態の磁気記録ヘッド5は、再生ヘッド部70と、書込ヘッド部60と、を備えている。再生ヘッド部70は、磁気シールド層72aと、磁気シールド層72bと、磁気シールド層72aと磁気シールド層72bとの間に設けられた磁気再生素子71と、を有する。
また、書込ヘッド部60は、主磁極61と、リターンパス(シールド)62と、励磁コイル63と、スピントルク発振子11と、を有する。再生ヘッド部70の各要素、および書込ヘッド部60を構成する各要素は、図示しないアルミナ等の絶縁体により分離されている。磁気再生素子71としては、GMR素子やTMR(Tunnel Magneto-Resistive effect)素子などを利用することが可能である。また、再生分解能をあげるために、磁気再生素子71は、2枚の磁気シールド層72a、72bの間に設置される。
【0013】
この磁気記録ヘッド5は、図2に表したようにヘッドスライダー3に搭載される。ヘッドスライダー3は、Al/TiCなどからなり、磁気ディスクなどの磁気記録媒体80の上を浮上または接触しながら相対的に運動できるように設計・加工されている。そして、ヘッドスライダー3は、空気流入側3Aと空気流出側3Bとを有し、磁気記録ヘッド5、空気流出側3Bの側面などに配置される。
磁気記録媒体80は、媒体基板82とその上に設けられた磁気記録層81とを有する。書込ヘッド部60から印加される磁界により磁気記録層81の磁化が所定の方向に制御され、書込みがなされる。そして、再生ヘッド部70は、磁気記録層81の磁化の方向を読み取る。
【0014】
図3は、この磁気記録ヘッドに設けられるスピントルク発振子11の概略構成を表す斜視図である。
主磁極61及び磁気記録媒体80の記録トラック83の一例も示した。
【0015】
スピントルク発振子11は、バイアス層112a(第3の磁性層)、中間層113b(第2の中間層)、発振層114(第1の磁性層)、中間層113a(第1の中間層)、スピン注入層116(第2の磁性層)、中間層113c、バイアス層112b(第4の磁性層)と、がこの順に積層された構造を有する。バイアス層112aと112bは電極を兼ねることができ、電極を介してスピントルク発振子11に駆動電流を流すことにより、発振層114から高周波磁界を発生させることができる。駆動電流密度は、5×10A/cmから1×10A/cmにすることが望ましく、所望の発振状態になるよう適宜調整する。
【0016】
バイアス層112aと112bが共に設けられた場合を説明したが、いずれか一方のみとしてもよい。スピン注入層116側のバイアス層112bのみとした場合は、スピン注入層116とバイアス層112bとの間の中間層113cは不要とすることができる。
【0017】
発振層114は、弱い磁気異方性を持つ材料で、磁気異方性エネルギーは、Ku<1×10erg/cm、であることが望ましい。また、飽和磁束密度は、Bs<2.0T、であることが望ましい。材料としては、CoFe合金(Fe:0〜30at%)、CoFe合金(Fe:0〜30at%)/NiFe合金積層体またはNiFeCo合金を用いることができる。Fe濃度が高くて高BsのFeCo合金に比べると、Bsが低下するので単位膜厚当たりに発生する高周波磁界強度は減少するが、膜厚を厚くすることにより、全体での高周波磁界強度をFeCo合金を用いた場合と同程度に設定することが可能となり、十分な高周波磁界強度を得ることが可能となる。発振層114の膜厚は、高周波磁界強度確保の観点からは厚いことが望ましいが、発振に必要な駆動電流が増大するので、最適値が存在する。発振磁性層のBsと膜厚の積が10nm・Tから40nm・Tの範囲が望ましい。厚さは、5nmから20nmであることが望ましい。
【0018】
スピン注入層116は、垂直磁気異方性が強い材料で、磁気異方性エネルギーは、Ku>1×10erg/cm、であることが望ましい。材料としては、[Co(0.2〜2nm)/Pd(0.2〜2nm)]n/Co(0.2〜2nm)または[Co(0.2〜2nm)/Pd(0.2〜2nm)]n/CoPtの積層構造材料を用いることができる。積層回数nは、1乃至9とすることが望ましい。総膜厚は、1〜40nm程度となる。また、Co濃度の高いCoFe合金やCoFe合金に添加元素としてAl、Si、Cr、Ge、Mnなどを含有させた材料が適用可能である。CoFe合金よりも飽和磁化が下がり、スピン分極率が上昇する。偏極スピン電子を生成する上で好適である。
【0019】
中間層113aとしては、Cuなどのスピン透磁率の高い非磁性材料を用いることができる。これによりスピントルク発振性能を維持して発振層114とスピン注入層116の交換結合を少なくすることが可能となる。厚さは、0.2〜5nmであることが望ましい。
【0020】
バイアス層112a及び112bの飽和磁束密度Bsは、発振層114及びスピン注入層116の飽和磁束密度よりも高いことを特徴とする。Bs>2.0T、であることが望ましい。材料としては、bcc構造のFeCo合金(Fe:30〜100at%)、中間層113bまたは113cとの界面にはCo層が存在するhcp構造のCo/Pd人工格子積層膜、hcp構造のCoPt合金、hcp構造のCoを用いることができる。膜厚は、1〜5nmであることが望ましい。
【0021】
中間層113bは、発振層114とバイアス層112aの間の交換結合磁界を調整するための層であり、中間層113cは、スピン注入層116とバイアス層112bの間の交換結合磁界を調整するための層である。ともに、Taなどのスピン分極情報を乱し、スピントルクトランスファーを遮断する性質の材料が望ましい。他に、Nb、Ti、Cr、Zr、Hf、Ru、Pt、Rh、Pdなどを用いることができる。スピン注入層からの電子によりスピントランスファトルクを感じて、発振層の磁化が高周波で振動・発振した場合に、発振層114とバイアス層112aの交換結合によりバイアス層112aの磁化が変動するのを抑制する目的で中間層113bを設置する効果は大きい。磁気異方性が大きなスピン注入層116の磁化は発振層114に比べて動き難いので、中間層113cは省略することが可能である。高Bsのバイアス層112aが十分な磁化安定性、すなわち磁気異方性を有する場合には、中間層113bも除去可能である。交換結合磁界は中間層113b及び113cの厚さにより調整することができる。厚さは、0.2〜2nmが望ましい。
【0022】
図4及び図5は、図3に示したスピントルク発振子11に補助バイアス層111または117(第5の磁性層)を積層した場合のスピントルク発振子11の積層体構造を示す模式図である。
補助バイアス層111が、バイアス層112aにさらに積層され、補助バイアス層117が、バイアス層112bにさらに積層されている。
【0023】
補助バイアス層111及び117は、バイアス層112a及び112bより強い磁気異方性エネルギーを有することを特徴とし、Ku>1×10erg/cmであることが望ましい。
【0024】
材料としては、FePt合金、CoSm合金、CoPt合金などを用いることができる。また、[Co/Pd]nの積層膜を用いることができる。この場合、Coの膜厚により磁気異方性を制御することが可能となる。さらに、微粒子状のCoCrPtO酸化物も適用可能で、強い磁気異方性を得ることができる。厚さは、5〜40nmとすることが望ましい。
【0025】
補助バイアス層111とバイアス層112aの組み合わせ、または補助バイアス層117とバイアス層112bの組み合わせにより、高飽和磁束密度を生む高飽和磁化を有し且つ高保磁力を生む高い磁気異方性エネルギーを有するバイアス層を得ることが可能となる。これにより、従来のBsが小さなバイアス層では実現困難であった高強度のバイアス磁界を発振層114に付与でき、且つ主磁極61からの磁界などの影響によりバイアス層の磁化方向が乱れることを抑制できる。その結果、発振層114にかかる有効磁界を高く保持しつつ、安定な発振特性を得ることが可能となる。
【0026】
従って、本発明の実施の形態によれば、高飽和磁束密度を示すバイアス層112aにより発振層114に加わる高強度のバイアス磁界で高周波磁界を発生し、磁気異方性の高い補助バイアス層111によりバイアス層の磁化を安定化させることができ、その結果、発振層114に安定な高周波磁界を発生させ、安定な高周波アシスト磁気記録を可能とした磁気記録ヘッドを供給することが可能となる。
本実施形態では、補助バイアス層111が発振層114側のバイアス層112aに積層された場合と、補助バイアス層117がスピン注入層116側のバイアス層112bに積層された場合をそれぞれ説明したが、補助バイアス層111と117の双方が積層されていてもよい。
【0027】
図3乃至図5で説明した構成では、図1に示したシールド62を用いていない。シールドを用いない場合には、主磁極61からスピントルク発振子11へかかる磁界が抑制され、バイアス層の磁化が安定化することにより、発振周波数の乱れが小さくなるという利点がある。
一方、主磁極61からの磁界を吸い込むシールド62を設けることは、斜め磁界を発生させ、媒体の磁化反転を容易にするという利点を有する。
図6は、本実施の形態に係るスピントルク発振子11にシールド62を設けた場合の概略構成を表す斜視図である。
【0028】
主磁極61とシールド62間の距離や、主磁極61の形状を調整することにより、スピントルク発振子11への印加磁界の最適化が可能である。また、主磁極61とシールド62の距離が遠いと主磁極からの磁界は媒体内で垂直方向となるが、この距離を近づけることにより、媒体内で垂直方向に対し斜めの磁界が生じることとなり、低い磁界で媒体の磁化を反転し易くすることが可能となる。
【0029】
スピントルク発振子11は、主磁極61のトレーリング側、もしくはリーディング側のどちらにも設けることが可能である。これは主磁極61による記録磁界のみでは媒体磁化は反転せず、スピントルク発振子11による高周波磁界と、主磁極61による記録磁界とが重畳した領域でのみ、媒体磁化が反転するためである。
【0030】
本実施形態では、主磁極61のリーディング側にシールド62が設置され、主磁極61とシールド62との間にスピントルク発振子11が設置されている。主磁極61とシールド62の側面と、スピントルク発振子11の積層方向は垂直であり、スピン注入層116及び発振層114は、積層方向と平行である主磁極61からシールド62へ向かう方向、もしくは、逆方向に磁化している。
【0031】
スピントルク発振子11の積層体は、シールド62側から、補助バイアス層111、バイアス層112a、中間層113b、発振層114、中間層113、スピン注入層116、バイアス層112b、補助バイアス層117の順に積層された例を示している。スピン注入層116とバイアス層112bの間の中間層113cは省略してある。
【0032】
主磁極61とは反対側にシールド62を設けて、スピントルク発振子11を主磁極61とシールド62の間に配置することにより、媒体対向面垂直方向から傾いた記録磁界を高周波磁界と重畳することが可能となり、より高保磁力の媒体への記録が可能となる。
【0033】
図7は、比較例に係るスピントルク発振子11の積層体構造を示す模式図である。
図7(a)は、バイアス層112aと発振層114を積層した場合を示す。バイアス層112aとの交換結合磁界が発振層114に加わり、発振層114の有効磁界は高くなるが、スピン注入層116からのスピントルクにより発振層114の磁化が変動すると、バイアス層112aの磁化が変動してしまう。
【0034】
また、図7(b)に示すように、バイアス層の磁化が変動しないように、結合磁界を弱めるため中間層113bを挿入すると、従来は高Kuを優先してBsを犠牲にしたバイアス層を用いていたので発振層114にかかる有効磁界が小さくなり、発振周波数が低くなってしまう。
【0035】
次に、本発明の第2の実施の形態について説明する。
【0036】
図8及び図9は、本発明の第2の実施の形態に係るスピントルク発振子11の積層体構造を示す模式図である。
図8では、バイアス層112a及び112bの膜面積が、発振層114またはスピン注入層116の膜面積よりも大きくなっている。
また、図9では、補助バイアス層111及び117の膜面積が、発振層114またはスピン注入層116の膜面積よりも大きくなっている。
【0037】
磁界発生部分のみを高Bsとし、他の部分は面積を広げることにより安定な発振特性を得ることができる。
ここで、バイアス層と補助バイアス層は、一対で膜面積が大きい場合を示したが、片側のみ膜面積が大きくてもよい。
【0038】
次に、本発明の第3の実施の形態について説明する。
図9は、本発明の第3の実施の形態に係るスピントルク発振子11の積層体構造を示す模式図である。
【0039】
バイアス層112a及び112bは電極を兼ねることを特徴とし、特に、媒体対向面と離れる方向に長い形状となっている。このようにすることにより、バイアス層112a及び112bが電極を兼ねることが容易となる。ここで、電極と兼ねるのは、補助バイアス層111及び117であってもよい。電極と兼用したバイアス層112aと112bまたは補助バイアス層111と117を介して、スピントルク発振子11に所定の値の駆動電流を流すことにより、スピントルク発振子11から十分な強度の高周波磁界を記録媒体80に付与することが可能となり、また、スピントルク発振子11と隣接する主磁極61から、記録磁界を高周波磁界と合わせて付与することにより、高周波磁界無しでは困難であった高保磁力媒体への記録が可能となる。
ここで、バイアス層と補助バイアス層が一対で設けられた場合を説明したが、バイアス層と補助バイアス層は必ずしも一対で設けられている必要はなく、例えば、バイアス層112aと補助バイアス層117、或いは補助バイアス層111とバイアス層112bが設けられ、一対の電極として兼ねてもよい。
【0040】
次に、本発明の実施の形態に係る磁気記録装置について説明する。すなわち、図1〜図6及び図8〜図10に関して説明した本発明の磁気記録ヘッド5は、例えば、記録再生一体型の磁気ヘッドアセンブリに組み込まれ、磁気記録再生装置に搭載することができる。
【0041】
図11は、このような磁気記録再生装置の概略構成を例示する要部斜視図である。
すなわち、本発明の磁気記録再生装置150は、ロータリーアクチュエータを用いた形式の装置である。同図において、記録用媒体ディスク180は、スピンドル152に装着され、図示しない駆動装置制御部からの制御信号に応答する図示しないモータにより矢印Aの方向に回転する。本発明の磁気記録再生装置150は、複数の媒体ディスク180を備えたものとしてもよい。
【0042】
媒体ディスク180に格納する情報の記録再生を行うヘッドスライダー3は、図2に関して前述したような構成を有し、薄膜状のサスペンション154の先端に取り付けられている。ここで、ヘッドスライダー3は、例えば、前述したいずれかの実施の形態にかかる磁気記録ヘッドをその先端付近に搭載している。
【0043】
媒体ディスク180が回転すると、ヘッドスライダー3の媒体対向面100(ABS)は媒体ディスク180の表面から所定の浮上量をもって保持される。あるいはスライダーが媒体ディスク180と接触するいわゆる「接触走行型」であってもよい。
【0044】
サスペンション154は、図示しない駆動コイルを保持するボビン部などを有するアクチュエータアーム155の一端に接続されている。アクチュエータアーム155の他端には、リニアモータの一種であるボイスコイルモータ156が設けられている。ボイスコイルモータ156は、アクチュエータアーム155のボビン部に巻き上げられた図示しない駆動コイルと、このコイルを挟み込むように対向して配置された永久磁石および対向ヨークからなる磁気回路とから構成される。
【0045】
アクチュエータアーム155は、スピンドル157の上下2箇所に設けられた図示しないボールベアリングによって保持され、ボイスコイルモータ156により回転摺動が自在にできるようになっている。
【0046】
図12は、アクチュエータアーム155から先の磁気ヘッドアセンブリ160をディスク側から眺めた拡大斜視図である。すなわち、磁気ヘッドアッセンブリ160は、例えば駆動コイルを保持するボビン部などを有するアクチュエータアーム155を有し、アクチュエータアーム155の一端にはサスペンション154が接続されている。
【0047】
サスペンション154の先端には、図1〜図6及び図8〜図10に関して前述した、いずれかの磁気記録ヘッド5を具備するヘッドスライダー3が取り付けられている。サスペンション154は信号の書き込みおよび読み取り用のリード線164を有し、このリード線164とヘッドスライダー3に組み込まれた磁気ヘッドの各電極とが電気的に接続されている。図中165は磁気ヘッドアッセンブリ160の電極パッドである。
【0048】
本発明によれば、図1〜図6及び図8〜図10に関して前述したような磁気記録ヘッドを具備することにより、従来よりも高い記録密度で垂直磁気記録型の媒体ディスク180に情報を確実に記録することが可能となる。なお、効果的な高周波アシスト記録を行うためには、使用する媒体ディスク180の共鳴周波数とスピン発振子11の発振周波数とをほぼ等しくすることが望ましい。
【0049】
図13は、本実施形態において用いることができる磁気記録媒体を例示する模式図である。
すなわち、本実施形態の磁気記録媒体1は、非磁性体(あるいは空気)87により互いに分離された垂直配向した多粒子系の磁性ディスクリートトラック86を有する。この媒体1がスピンドルモータ4により回転され、媒体走行方向85に向けて移動する際に、図1〜図6及び図8〜図10に関して前述した磁気記録ヘッド5により、記録磁化84を形成することができる。
【0050】
スピントルク発振子11の記録トラック幅方向の幅(TS)を記録トラック86の幅(TW)以上で、且つ記録トラックピッチ(TP)以下とすることによって、スピントルク発振子11から発生する漏れ高周波磁界による隣接記録トラックの保磁力低下を大幅に抑制することができる。このため、本具体例の磁気記録媒体1では、記録したい記録トラック86のみを効果的に高周波磁界アシスト記録することができる。
【0051】
本実施形態によれば、いわゆる「べた膜状」の多粒子系垂直媒体を用いるよりも、狭トラックすなわち高トラック密度の高周波アシスト記録装置を実現することが容易になる。また、高周波磁界アシスト記録方式を利用し、さらに従来の磁気記録ヘッドでは書き込み不可能なFePtやSmCo等の高磁気異方性エネルギー(Ku)の媒体磁性材料を用いることによって、媒体磁性粒子をナノメートルのサイズまでさらに微細化することが可能となり、記録トラック方向(ビット方向)においても、従来より遥かに線記録密度の高い磁気記録装置を実現することができる。
【0052】
図14は、本実施形態において用いることができるもうひとつの磁気記録媒体を例示する模式図である。
すなわち、本具体例の磁気記録媒体1は、非磁性体87により互いに分離された磁性ディスクリートビット88を有する。この媒体1がスピンドルモータ4により回転され、媒体走行方向85に向けて移動する際に、図1〜図6及び図8〜図10に関して前述した磁気記録ヘッド5により、記録磁化84を形成することができる。
【0053】
本発明によれば、図13及び図14に表したように、ディスクリート型の磁気記録媒体1において、高い保磁力を有する記録層に対しても確実に記録することができ、高密度且つ高速の磁気記録が可能となる。
【0054】
この具体例においても、スピントルク発振子11の記録トラック幅方向の幅(TS)を記録トラック86の幅(TW)以上で、且つ記録トラックピッチ(TP)以下とすることによって、スピントルク発振子11から発生する漏れ高周波磁界による隣接記録トラックの保磁力低下を大幅に抑制することができるため、記録したい記録トラック86のみを効果的に高周波磁界アシスト記録することができる。本実施例を用いれば、使用環境下での熱揺らぎ耐性を維持できる限りは、磁性ディスクリートビット88の高磁気異方性エネルギー(Ku)化と微細化を進めることで、10Tbits/inch以上の高い記録密度の高周波磁界アシスト記録装置を実現できる可能性がある。
【0055】
以上、具体例を参照しつつ本発明の実施の形態について説明した。しかし、本発明は、上述した各具体例に限定されるものではない。例えば、図1〜図6及び図8〜図14に関して前述した各具体例のいずれか2つあるいはそれ以上を技術的に可能な範囲で組み合わせたものも、本発明の範囲に包含される。
すなわち、本発明は各具体例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で、種々変形して実施することが可能であり、これらすべては本発明の範囲に包含される。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の実施の形態に係る磁気記録ヘッドの概略構成を表す斜視図である。
【図2】磁気記録ヘッドが搭載されるヘッドスライダーを表す斜視図である。
【図3】磁気記録ヘッドに設けられるスピントルク発振子11の概略構成を表す斜視図である。
【図4】図3に示したスピントルク発振子11に補助バイアス層111を積層した場合の積層体構造を例示する模式図である。
【図5】図3に示したスピントルク発振子11に補助バイアス層117を積層した場合の積層体構造を例示する模式図である。
【図6】本実施形態に係るスピントルク発振子11にシールド62を設けた場合の概略構成を表す斜視図である。
【図7】比較例によるスピントルク発振子の積層体構造を例示する模式図である。
【図8】本発明の第2の実施の形態に係るスピントルク発振子11の積層体構造を例示する模式図である。
【図9】本発明の第2の実施の形態に係るスピントルク発振子11の積層体構造を例示する模式図である。
【図10】本発明の第3の実施の形態に係るスピントルク発振子11の積層体構造を例示する模式図である。
【図11】磁気記録再生装置の概略構成を例示する要部斜視図である。
【図12】アクチュエータアーム155から先の磁気ヘッドアセンブリをディスク側から眺めた拡大斜視図である。
【図13】本実施形態において用いることができる磁気記録媒体を例示する模式図である。
【図14】本実施形態において用いることができるもうひとつの磁気記録媒体を例示する模式図である。
【符号の説明】
【0057】
1 磁気記録媒体、 3 ヘッドスライダー、 3A 空気流入側、 3B 空気流出側、 4 スピンドルモータ、 5 磁気記録ヘッド、 11 スピントルク発振子、 60 書込みヘッド部、 61 主磁極、 62 シールド、 63 励磁コイル、 70 再生ヘッド部、 71 磁気再生素子、 80 磁気記録媒体、 81 磁気記録層、 82 媒体基板、 83 記録トラック、 84 磁化、 85 媒体移動方向、 86 磁性ディスクリートトラック、 87 非磁性体、 88 磁性ディスクリートビット、 100 媒体対向面、 111、117 補助バイアス層、 112a、112b バイアス層、 113a、113b 中間層、 114 発振層、 116 スピン注入層、 150 磁気記録再生装置、 160 磁気ヘッドアセンブリ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主磁極と、
第1の磁性層と、第2の磁性層と、前記第1の磁性層と前記第2の磁性層との間に設けられた第1の中間層と、前記第1の磁性層及び前記第2の磁性層の少なくともいずれかに磁界を及ぼす第3の磁性層と、を有する積層体と、
を備え、
前記第3の磁性層の飽和磁化が、前記第1の磁性層及び第2の磁性層の少なくともいずれかの飽和磁化より大きいことを特徴とする磁気記録ヘッド。
【請求項2】
主磁極と、
第1の磁性層と、第2の磁性層と、前記第1の磁性層と前記第2の磁性層との間に設けられた第1の中間層と、前記第1及び第2の磁性層を挟むようにその両側に設けられた第3及び第4の磁性層と、を有する積層体と、
を備え、
前記第3及び第4の磁性層の飽和磁化が、前記第1及び第2の磁性層の少なくともいずれかの飽和磁化よりも大きいことを特徴とする磁気記録ヘッド。
【請求項3】
前記積層体は、前記第3の磁性層からみて前記第1及び第2の磁性層とは反対側に設けられ、前記第3の磁性層よりも磁気異方性の大きな第5の磁性層をさらに有することを特徴とする請求項1または2に記載の磁気記録ヘッド。
【請求項4】
前記積層体は、前記第4の磁性層からみて前記第1及び第2の磁性層とは反対側に設けられ、前記第4の磁性層よりも磁気異方性の大きな第5の磁性層をさらに有することを特徴とする請求項2記載の磁気記録ヘッド。
【請求項5】
前記第3の磁性層の膜面積は、前記第1の磁性層及び前記第2の磁性層の膜面積よりも大きいことを特徴とする請求項1記載の磁気記録ヘッド。
【請求項6】
前記第5の磁性層の膜面積は、前記第3の磁性層の膜面積よりも大きいことを特徴とする請求項3または4に記載の磁気記録ヘッド。
【請求項7】
前記第3及び第4の磁性層が、電極を兼ねることを特徴とする請求項2記載の磁気記録ヘッド。
【請求項8】
前記第5の磁性層が、電極を兼ねることを特徴とする請求項3または4に記載の磁気記録ヘッド。
【請求項9】
前記主磁極との間に前記積層体を挟むように設けられたシールドをさらに備えたことを特徴とする請求項1〜8のいずれか1つに記載の磁気記録ヘッド。
【請求項10】
磁気記録媒体と、
請求項1〜9のいずれか1つに記載の磁気記録ヘッドと、
前記磁気記録媒体と前記磁気記録ヘッドとを離間させまたは接触させた状態で対峙させながら相対的に移動可能とした可動手段と、
前記磁気記録ヘッドを前記磁気記録媒体の所定記録位置に位置合せする制御手段と、
前記磁気記録ヘッドを用いて前記磁気記録媒体への信号の書き込みと読出しを行う信号処理手段と、
を備えたことを特徴とする磁気記録装置。
【請求項11】
前記積層体は、前記主磁極のトレーリング側に設けられたことを特徴とする請求項10記載の磁気記録装置。
【請求項12】
前記積層体は、前記主磁極のリーディング側に設けられたことを特徴とする請求項10記載の磁気記録装置。
【請求項13】
前記磁気記録媒体は、隣接し合う記録トラック同士が非磁性部材を介して形成されたディスクリートトラック媒体であることを特徴とする請求項10〜12のいずれか1つに記載の磁気記録装置。
【請求項14】
前記磁気記録媒体は、非磁性部材を介して孤立した記録磁性ドットが規則的に配列形成されたディスクリートビット媒体であることを特徴とする請求項10〜12のいずれか1つに記載の磁気記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2009−70439(P2009−70439A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−235114(P2007−235114)
【出願日】平成19年9月11日(2007.9.11)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】