説明

磁気記録再生装置及び磁気記録媒体

【課題】高密度記録が可能なShingle記録方式を採用した場合に、書き換え時の実質的記録レート低下を防止する。
【解決手段】2番目の記録列が、直前に形成された1番目及び3番目の記録列のそれぞれに対して磁気記録媒体の半径方向に部分的に重複する重複部と、1番目の記録列及び3番目の記録列のいずれにも重複しない非重複部とを持つように、各記録列が形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Shingle記録(瓦記録)方式のような高密度に情報を記録可能な磁気記録再生装置及び磁気記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、画像又は映像の高画質化が進み、ユーザが扱う情報量は益々増加している。このため、HDD(Hard Disk Drive)と呼ばれる磁気記録装置の大容量化に向けて、面記録密度の高密度化の検討が広く行われている。高密度磁気記録における有望な技術の一つとして、特許文献1で開示されているような、トラックの幅方向に隣接する直前に記録された記録列と部分的に重複するように記録を行うShingle記録(瓦記録)方式が挙げられる。
【0003】
一般に、磁気記録媒体に形成されるトラックのピッチは、形成される最短マーク長より数倍程度大きくなる。しかしながら、Shingle記録方式では、直前に記録された隣接する記録列が部分的に重複するように記録が行われるため、最終的に形成されるトラックのピッチを最短マーク長程度に小さくすることが可能となる。つまり、直前に記録された隣接する記録列の一部を上書きする形で記録が行われるため、単位長さ当たりのトラック数が数倍程度多くなり、記録密度の大幅な向上を図ることが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−8881号公報(2011年1月13日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の装置では、ある記録列を書き換える際に、当該記録列以降に形成された記録列を書き換える動作が必要となり、実質的記録レート(書き換えられた記録列の情報量/書き換えるべき記録列を書き換え且つそれ以外の記録列の情報を書き換えないままとするために要する時間)が低下してしまう虞がある。この点について、図7(a)〜図7(d)を用いて説明する。
【0006】
図7(a)は、磁気記録媒体においてトラックの幅方向(媒体の半径方向)に隣接する記録列同士が部分的に重複するように複数の記録列を形成した状態を示す図である。具体的には、各記録列が半径方向に隣接する2つ記録列のいずれかと半径方向の全範囲において互いに重なり合った重複部となっている。図7(a)〜図7(d)では、最終的に得られる各トラック(再生時の各トラック)の境界線と各トラックの中心線とを、それぞれ点線と一点鎖線で示している。図7(b)は、図7(a)のトラックTr102を書き換えるために、トラックTr102´を形成するための記録列を記録した後の状態を示す図である。
【0007】
当初、トラックTr101を形成するための記録列は、トラックTr102を形成するための記録列よりも先に形成されていたため、トラックTr101の情報は書き換えられずに残っている。一方、トラックTr103においては、Tr102´を形成するための記録列によって上書きされてしまい、この状態で、トラックTr103を再生しようとすると、再生エラーが発生する。このため、当初、トラックTr102を形成するための記録列よりも後に形成されたトラックTr103を形成するための記録列と同じ情報の内容で、トラックTr103´を形成するための記録列を上書きしなければならない。図7(c)に、トラックTr103´を形成するための記録列を上書きした後の概略図を示す。同様にして、当初、トラックTr102を形成するための記録列よりも後に形成されていた記録列は全て、順次上書きをしなければならない。図7(d)に、当初、トラックTr102を形成するための記録列よりも後に形成されていた記録列を全て上書きした後の概略図を示す。
【0008】
このように、トラックTr102だけを書き換えるには、トータルで、トラックTr102´を形成するための記録列を形成する時間と、トラックTr102を形成するための記録列よりも後に形成されていた記録列を全て上書きする時間が必要となり、従来の記録方法と比較して、実質的に、数倍程度の長い書き換え時間を要することになる。
【0009】
本発明の目的は、高密度記録可能なShingle記録(瓦記録)方式を採用した場合において、書き換え時の実質的記録レートの低下を防止し、再生エラーが生じ難い磁気記録再生装置及び磁気記録媒体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の磁気記録再生装置は、情報記録領域を備えた円盤状の磁気記録媒体と、上記磁気記録媒体に記録磁界を印加して上記磁気記録媒体の周方向に延びる記録列を形成することで情報の記録を行う磁気記録素子と、上記磁気記録媒体からの漏洩磁界を検出して情報の再生を行う磁気再生素子と、上記磁気記録媒体と上記磁気記録素子及び上記磁気再生素子との相対位置を上記磁気記録媒体の上記周方向及び半径方向に移動させる移動機構と、上記情報記録領域において、上記半径方向に関して互いに隣接する上記記録列が上記半径方向に部分的に重複するように上記磁気記録素子及び上記移動機構を制御する磁気記録素子制御手段とを備えている。そして、上記磁気記録素子制御手段は、上記記録列のそれぞれに、互いに隣接する上記記録列のいずれかと上記半径方向に部分的に重複する重複部と、他のいずれの上記記録列とも上記半径方向に重複しない非重複部と、が形成されるように、制御する。
【0011】
本発明の磁気記録媒体は、周方向に延びる複数の記録列が形成された情報記録領域を備えた円盤状の磁気記録媒体であって、上記記録列のそれぞれに、互いに隣接する上記記録列のいずれかと半径方向に部分的に重複する重複部と、他のいずれの上記記録列とも上記半径方向に重複しない非重複部と、が形成されている。
【0012】
この磁気記録再生装置及び磁気記録媒体では、他のいずれの記録列とも重複しない非重複部に記録された情報は、他のいずれの記録列を書き換えた後も、書き換えられずに情報が保持されるため、書き換えた記録列以外の記録列を上書きする必要がなくなる。このため、高密度記録が可能なShingle記録を行う磁気記録再生装置であっても、書き換え時の実質的記録レートの低下を防止することが可能となる。
【0013】
本発明の磁気記録再生装置において、第1記録列の、内周側及び外周側の端の半径位置をそれぞれ、R1in及びR1outとし、上記第1記録列の外周側に隣接する第2記録列の、内周側及び外周側の端の半径位置をそれぞれ、R2in及びR2outとし、上記第2記録列の外周側に隣接する第3記録列の、内周側及び外周側の端の半径位置をそれぞれ、R3in及びR3outとするとき、上記磁気記録素子制御手段が、
R1in<R2in<R1out<R3in<R2out<R3out
となるように、制御することが好ましい。
【0014】
本発明の磁気記録媒体において、第1記録列の、内周側及び外周側の端の半径位置をそれぞれ、R1in及びR1outとし、上記第1記録列の外周側に隣接する第2記録列の、内周側及び外周側の端の半径位置をそれぞれ、R2in及びR2outとし、上記第2記録列の外周側に隣接する第3記録列の、内周側及び外周側の端の半径位置をそれぞれ、R3in及びR3outとするとき、
R1in<R2in<R1out<R3in<R2out<R3out
が成り立っていることが好ましい。
【0015】
この磁気記録再生装置及び磁気記録媒体では、非重複部に記録された情報(R1outからR3inまでの半径位置に記録された第1記録列の情報)は、他のいずれの記録列を書き換えた後も、書き換えられずに情報が保持されるため、書き換えた記録列以外の記録列を上書きする必要がなくなる。このため、高密度記録が可能なShingle記録を行う磁気記録再生装置であっても、書き換え時の実質的記録レートの低下を防止することが可能となる。
【0016】
本発明の磁気記録再生装置において、上記磁気再生素子の上記半径方向における幅をWとすると、
(R3in−R1out)>W/2
であることが好ましい。
【0017】
このようにすることで、磁気再生素子が検出する漏れ磁界の隣接トラックからのトラック間クロストーク等の成分は、再生を行うトラックよりも小さくなり、再生エラーが生じにくくなる。
【0018】
本発明の磁気記録再生装置において、上記磁気記録媒体にトラッキングパターンが形成されており、上記第2記録列に形成された上記非重複部の再生時において、上記トラッキングパターンから検出される信号に基づき、上記磁気再生素子の上記半径方向における中心位置Pが、
R1out<P<R3in
を満たすように、上記磁気再生素子及び上記移動機構を制御する磁気再生素子制御手段をさらに備えていることが好ましい。
【0019】
このようにすることで、任意の記録列を再生する際に、他のいずれの記録列を書き換えた後も、書き換えられずに保持された情報を再生することが可能となり、再生する記録列以外の記録列が書き換えられた場合でも、再生エラーが生じ難くなる。
【発明の効果】
【0020】
以上の説明に述べたように、本発明によれば、他のいずれの記録列とも重複しない非重複部に記録された情報は、他のいずれの記録列を書き換えた後も、書き換えられずに情報が保持されるため、書き換えた記録列以外の記録列を上書きする必要がなくなる。このため、高密度記録が可能なShingle記録を行う磁気記録再生装置であっても、書き換え時の実質的記録レートの低下を防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の第1実施形態に係る磁気記録媒体に形成された複数の記録列を模式的に示した図である。
【図2】図1に示す磁気記録媒体に対して記録再生を行う磁気記録再生装置の概略構成を示す図である。
【図3】図2に示す磁気記録再生装置の記録再生ヘッドの概略構成を示す図である。
【図4】本発明の第1実施形態の変形例に係る磁気記録媒体に形成された複数の記録列を模式的に示した図である。
【図5】本発明の第2実施形態に係る磁気記録媒体に形成された複数の記録列及びトラッキングパターンを模式的に示した図である。
【図6】図5に示す複数の記録列の一部の拡大図である。
【図7(a)(b)】従来例に係る磁気記録媒体に形成された複数の記録列を模式的に示した図である。
【図7(c)(d)】従来例に係る磁気記録媒体に形成された複数の記録列を模式的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
<第1実施形態>
以下、本発明の第1実施形態について説明する。本実施形態の磁気記録再生装置4は、図2に示すように、サスペンション5と、スピンドル6と、ボイスコイルモータ7と、ランプ機構8と、記録再生ヘッド9と、サスペンション5、ボイスコイルモータ7及び記録再生ヘッド9を制御する制御部20とを有している。また、図2では、磁気記録再生装置4は、円盤状の磁気記録媒体3を含んでいる。磁気記録媒体3の構造、磁気記録再生装置4による磁気記録媒体3の記録再生方法、及び制御部20の詳細については、後に詳述する。
【0023】
サスペンション5は、その一端側においてボイスコイルモータ7に固定されており、ボイスコイルモータ7とは反対側の端部に、磁気記録媒体3に対して磁界を印加する記録再生ヘッド9を有している。スピンドル6は、磁気記録再生装置4が磁気記録媒体3に情報の記録再生を行うときに、磁気記録媒体3を反時計周り(図2の矢印方向)に回転させるものである。なお、磁気記録媒体3の中心部にはスピンドル6と嵌合可能な孔が形成されている。ボイスコイルモータ7は、サスペンション5に取り付けられた記録再生ヘッド9が磁気記録媒体3上を磁気記録媒体3の半径方向(クロストラック方向)に移動するように、サスペンション5を移動させるものである。すなわち、記録再生ヘッド9は、ボイスコイルモータ7の作動に応じて、磁気記録媒体3の半径方向における位置を変更させることができる。ランプ機構8は、磁気記録媒体3に情報の記録再生を行わないときに、記録再生ヘッド9を退避させるためのものである。すなわち、情報の記録再生を行わないときには、ランプ機構8において記録再生ヘッド9が固定される。
【0024】
なお、本発明の「移動機構」は、スピンドル6及びこれを回転させる図示しないモータ(周方向)と、サスペンション5(半径方向)と、ボイスコイルモータ7(半径方向)とで構成されている。
【0025】
記録再生ヘッド9は、磁化情報の記録と再生を行うものである。具体的には、記録再生ヘッド9は、図3に示すように、磁気記録媒体3に近い面(すなわち、磁気記録媒体3と対向する面)に、垂直磁気記録媒体用の磁気記録素子10と磁気再生素子11とを有している。
【0026】
磁気記録素子10は、磁気記録媒体3に情報を記録するときに、この磁気記録媒体3に対して記録可能な強度の磁界を印加し、磁気記録媒体3の円周方向(トラック方向)に延びる記録列を形成するものである。これにより、例えば、磁気記録媒体3の磁化方向を決定することができる。磁気再生素子11は、磁気記録媒体3からの漏洩磁界を検出して磁化パターンを読み出し、情報の再生を行うものである。なお、磁気記録素子10と磁気再生素子11との磁気記録媒体3から見た円周方向における位置関係は、記録再生ヘッド9が回転する磁気記録媒体3の任意の位置を通過するとき、この任意の位置上を磁気再生素子11が先に通過し、磁気記録素子10がその後に通過するような位置関係となっている。
【0027】
以上のように、磁気記録再生装置4は、スピンドル6及びサスペンション5の動作と、記録再生ヘッド9による磁界の印加とを制御することにより、磁気記録媒体3の所定の位置に記録再生を行うことができる。そのために、磁気記録再生装置4は、サスペンション5、スピンドル6等の各種機能を制御するための所定の演算処理を行う制御部20を有している。制御部20は、例えばCPU(Central Processing Unit)等によって実現されている。図2に示すように、制御部20は、サスペンション5及びボイスコイルモータ7を制御することによって所定のトラック(追従して記録再生を行うトラック)へのトラッキングを実現するトラック位置制御部21と、記録再生ヘッド9を制御することによって所定のタイミングで磁気記録媒体3に対して情報の記録・再生を実現する記録再生ヘッド制御部22とを有している。
【0028】
次に、磁気記録再生装置4に含まれた磁気記録媒体3について説明する。本実施形態の磁気記録媒体3は、ガラス基板上に磁性層を形成した後、研磨により表面を平滑化し、潤滑剤を塗布することで作製される。磁気記録部を形成する材料(磁性層)としては、例えば、Co、Pt、Fe、Ni、Cr、Mn又はこれらの金属からなる合金が挙げられる。また、上記合金としては、例えば、CoPt、SmCo、CoCr又はTbFeCo合金を用いることができる。本実施形態では、磁気記録媒体3の片面にのみ磁気記録面が形成されているが、これに限らず、磁気記録媒体3の両面に磁気記録面が形成されていてもよい。この場合には、上記製造方法に示す工程が、磁気記録媒体3の両面に対して実施されればよい。なお、磁気記録媒体3の両面に形成される磁気記録面への潤滑剤の塗布については、同時に行うことも可能である。
【0029】
続いて、制御部20が行う制御について説明する。制御部20は、上述のようにサスペンション5、ボイスコイルモータ7及び記録再生ヘッド9を制御し、磁気記録媒体3に対して図1に示すような複数の記録列を形成する。磁気記録媒体3の回転方向は、図1に示すように、紙面右から左(図2の矢印方向)となっているため、記録列の形成は、紙面左側から右方に向けて順に行われる。なお、磁気記録媒体3は、例えば媒体面内方向に対して垂直方向に磁化されることで、情報が記録されるタイプの媒体である。本実施形態では、図1に示すように、紙面手前から奥に向かう磁化パターン1−1(極性プラス)を黒色で図示し、紙面奥から手前に向かう磁化パターン1−2(極性マイナス)を白色で図示する。以下、極性の区別が必要でない場合は、単純に磁化パターン1と記載する。
【0030】
制御部20は、図1に示すように、磁気記録媒体3に対して、磁気記録媒体3の円周方向に延びる複数の記録列(第n番目の記録列の、内周側及び外周側の端の半径位置をそれぞれ、R(n)in及びR(n)outとした場合に、R(n)out−R(n)inの幅を有している)が磁気記録媒体3の半径方向の一方側(図中下方)から他方側(図中上方)に向けて順に形成されるような制御を行う。磁気記録媒体3上に形成された複数の記録列は、半径方向に関して互いに隣接する記録列同士が半径方向に部分的に重複するように形成されている。すなわち、形成された各記録列は、その幅方向(半径方向)の一部の磁化パターンが直後に形成された記録列によって上書きされる。これにより、図1においては、図中下方から上方に向けて順にトラック(後述する非重複部を意味する)Tr1、Tr2、Tr3が形成される。なお、図1において、各トラックの境界線と各トラックの中心線とを、点線と一点鎖線でそれぞれ示している。
【0031】
制御部20で行われる処理手順、特に記録方法について説明する。
【0032】
本実施形態の磁気記録再生装置4において、n番目(n=1から最大Nまでの任意の自然数)の記録列を磁気記録媒体3に形成するとき、サスペンション5、ボイスコイルモータ7及び記録再生ヘッド9を制御する制御部20は、n番目の記録列を形成する際に、直前に形成されるn−1番目の記録列と半径方向に部分的に重複するように制御する。
【0033】
磁気記録素子制御手段としての制御部20は、半径方向に複数の記録列が一定の間隔で形成されるように制御を行う。より詳細には、制御部20は、第n番目のトラックを形成するための第n番目の記録列の、内周側及び外周側の端の半径位置をそれぞれ、R(n)in及びR(n)outとし、第n番目の記録列の内周側及び外周側に隣接する記録列をそれぞれ、第n−1番目の記録列及び第n+1番目の記録列とすると、
R(n−1)in<R(n)in<R(n−1)out<R(n+1)in<R(n)out<R(n+1)out (A)
となるように制御を行う。このようにすることで、いかなる状態においても、少なくともR(n−1)outからR(n+1)inの半径範囲は、他のいずれの記録列とも重複しない非重複部となり、この非重複部に第n番目の情報が残る。
【0034】
以下、図1(a)及び図1(b)を用いて、さらに詳しく説明する。磁気情報が記録されていない領域に記録を行う場合は、第1番目のトラックを形成するための第1番目の記録列から形成し、第2番目の記録列、第3番目の記録列、…と順に式(A)にしたがって複数の記録列を形成する。よって、R(3)outからR(5)inの半径範囲は、他のいずれの記録列とも重複しない非重複部となり、この非重複部に第4番目のトラックTr4の情報が残ることになる。ここで、仮に、R(3)out≧R(5)inである場合、第3番目のトラックTr3を形成するための記録列のみ書き換える際、第4番目のトラックTr4の情報は保持されず、第3番目のトラックTr3を形成するための記録列の記録情報がトラックTr4に上書きされた状態となる。結果、第4番目のトラックTr4に相当する半径位置で、第3番目のトラックTr3を形成するための記録列の情報を再生してしまい、再生エラーが生じてしまう。記録列がPLL(Phase Locked Loop)引き込み用のパターンを含む場合、PLL引き込み用のパターンの再生エラーによって、誤ったクロック生成等、PLL引き込みエラーを生じてしまう。よって、このような再生エラーを防止するにために、第4番目のトラックTr4を形成するための記録列を上書きしなければならず、同様にして、第5番目以降の記録列を上書きしなければならない。
【0035】
しかしながら、本実施形態においては、
R(4)in<R(3)out<R(5)in<R(4)out
となっているため、第4番目のトラックTr4の情報は、幅W(Tr4)を有するR(3)outからR(5)inの半径範囲で保持され、第5番目以降の記録列の上書きを行わなくてもよい。このため、書き換え時に要するトータルでの記録時間が短縮され、実質的記録レート低下を防止することができる。
【0036】
なお、各記録列の半径方向への幅が等しい場合は、
R(n−1)out<R(n)outであれば、R(n−1)in<R(n)inであり、また、
R(n)in<R(n+1)inであれば、R(n)out<R(n+1)outであるため、式(A)は、単純に、
R(n)in<R(n−1)out<R(n+1)in<R(n)out (B)
と表現することも可能である。
【0037】
同様に、各記録列の半径方向への幅が等しく、トラックピッチが一様である場合、式(A)は、トラックピッチWTr(例えば、R(n)in−R(n−1)in)及び磁気記録素子が形成する磁気パターンの半径方向への幅W(例えば、R(n)out−R(n)in)を用いて、
/2<WTr<W (C)
と表現することもできる。
【0038】
本実施形態では、式(A)を満たしているため、第n番目の記録列の情報が、R(n−1)outからR(n+1)inの半径範囲で保持される。したがって、磁気記録媒体の情報が記録されていない領域において、記録列は必ずしも内周から外周に向かう方向又はその逆方向に記録されなくてもよい。すなわち、記録列がランダムな順番で形成されるような制御を行うことも可能である。
【0039】
本実施形態においては、磁気再生素子11の半径方向における幅(センシング領域の幅)をWとすると、
{R(n+1)in−R(n−1)out}>W/2 (D)
を満たしている。
【0040】
式(D)を満たさない場合、第n番目のトラックTr(n)を書き換えた後に、第n番目のトラックTr(n)の再生を行う際、トラックTr(n)の情報が保持されている領域の半径方向への幅は、磁気再生素子11の幅Wrの半分未満となっている。したがって、いかにトラッキングを行おうとも、検出する漏れ磁界の半分以上は隣接トラックからのトラック間クロストーク等の成分となって、これは再生を行うトラックよりも大きくなる虞が大きい。
【0041】
一方、式(D)を満たす場合、第n番目のトラックTr(n)を書き換えた後に、第n番目のトラックTr(n)の再生を行う際、トラックTr(n)の情報が保持されている領域の半径方向への幅は、磁気再生素子11の幅Wrの半分より広くなる。このため、再生すべきトラックに対して磁気再生素子11がトラッキングされることで、漏れ磁界の隣接トラックからのトラック間クロストーク等の成分は、再生を行うトラックよりも小さくなり、再生エラーが生じにくくなる。
【0042】
このようにすることで、隣接する内周側及び外周側のトラックからの信号よりも、再生を行うトラックからの信号が強く検出されることになり、再生エラーを生じ難くすることが可能となる。
【0043】
<変形例>
実施形態1の変形例について説明する。本変形例においては、2本の隣接するトラック(例えば、トラックTr6とTr7)を1組として、図4(a)に示すように、R(7)inからR(6)outまでの半径範囲が、トラックTr6及びTr7を形成するための2つの記録列の重複部となっている。また、R(6)inからR(7)inまでの半径範囲及びR(6)outからR(7)outまでの半径範囲がそれぞれ、トラックTr6及びTr7を形成するための2つの記録列の非重複部となっている。同様にして、トラックTr8とTr9も形成されており、R(7)out≦R(8)in(図4(a)では、R(7)out=R(8)in)となっている。本変形例において、例えばトラックTr9の幅W(Tr9)は、R(9)out−R(8)outである(図4(b)参照)。
【0044】
このように、記録列のそれぞれに、半径方向において、互いに隣接する記録列のいずれかと部分的に重複する重複部と、半径方向において、他のいずれの記録列とも重複しない非重複部とが形成されるように、記録列を形成することで、他のいずれの記録列とも重複しない非重複部(R(6)inからR(7)inまでの半径範囲、R(6)outからR(7)outまでの半径範囲、R(8)inからR(9)inまでの半径範囲、R(8)outからR(9)outまでの半径範囲)に記録された情報は、他のいずれの記録列を書き換えた後も、書き換えられずに情報が保持される。例えば、図4(a)に示す状態から第8番目のトラックTr8を形成するための記録列のみ書き換えた場合(Tr8´)、図4(b)に示すように、当該記録列によって他のトラックが書き換えられることがない。したがって、書き換えた記録列以外の記録列を上書きする必要がなくなる。このため、高密度記録が可能なShingle記録を行う磁気記録再生装置であっても、書き換え時の実質的記録レートの低下を防止することが可能となる。
【0045】
<第2実施形態>
次に、本発明の第2実施形態について説明する。なお、第1実施形態と共通する各部位には同じ符号を付し、詳細な説明を省略する。
【0046】
図5は本実施形態における磁気記録媒体3の概略図であり、図6は、図5の一部を拡大し、一部を省略した詳細図である。図5及び6に示すように、磁気記録媒体3には、磁気記録媒体3上の各トラックへのトラッキングサーボ制御を行うための磁化パターンであるトラッキングパターン12(バーストパターン)が形成されている。トラッキングパターン12は、磁気記録再生装置4の製造時に、例えば、サーボトラックライタ(STW)により形成されたものである。磁気記録再生装置4に組み込む前の磁気記録媒体3を、STW用の磁気記録ヘッドを備えたSTWにセットし、磁気記録媒体3を回転させながら磁界を印加することで、磁気記録媒体3に、所定の磁気的なトラッキングパターン12が形成される。なお、トラッキングパターン12の形成方法は、上記限られるものではなく、例えば、予め磁気的にサーボ情報を記録したマスタとなる媒体を用いた磁気転写(スタンピング方式)によって、トラッキングパターン12を形成することもできる。トラッキングパターン12は、後述するように磁気記録媒体3上に形成された複数の記録列のそれぞれに対して形成されており、磁気再生素子11によって再生可能に記録されている。なお、図5に示すとおり、トラッキングパターン12は、複数の小パターン(例えば、12−1〜12−3)の集合である。
【0047】
(記録方法)
磁気記録素子制御手段としての制御部20は、半径方向に複数の記録列が一定の間隔で形成されるように制御を行う。より詳細には、制御部20は、第n番目のトラックを形成するための第n番目の記録列の、内周側及び外周側の端の半径位置をそれぞれ、R(n)in及びR(n)outとし、第n番目の記録列の内周側及び外周側に隣接する記録列をそれぞれ、第n−1番目の記録列及び第n+1番目の記録列とすると、式(A)が成り立つように制御を行う。このようにすることで、いかなる状態においても、少なくともR(n−1)outからR(n+1)inの半径範囲が非重複部となり、この非重複部に第n番目の情報が残る。
【0048】
磁気情報が記録されていない領域に記録を行う場合は、第1番目のトラックを形成するための第1番目の記録列から形成し、第2番目の記録列、第3番目の記録列、…と順に式(A)にしたがって複数の記録列を形成する。つまり、図5に示す通り、第2番目、第3番目及び第4番目のトラックをそれぞれトラックTr11、トラックTr12及びトラックTr13とすると、実施形態1と同様に、
R(12)in<R(11)out<R(13)in<R(12)out
となっているため、第3番目のトラックTr12の情報は、少なくともR(11)outからR(13)inの半径範囲で非重複部として保持されている。したがって、第3番目のトラックTr12を形成するための記録列のみ書き換えた際に、第4番目以降の記録列の上書きを行わなくてもよい。このため、書き換え時に要するトータルでの記録時間が短縮され、実質的記録レート低下を防止することができる。
【0049】
(再生方法)
磁気再生素子11は、トラッキングパターン12を検出することで、磁気記録媒体3に対する半径位置を検知し、所望のトラック(半径位置)に対してトラッキングを行いながら、情報の再生を行う。本実施形態では、トラッキングパターン12(詳細には後述する小パターンであって、偶数番目のトラックか奇数番目のトラックかを判別するための後述する小パターンを除く)がトラックピッチと同じピッチで形成されている。
【0050】
小パターン12−1の内周側の端及び小パターン12−2の外周側の端は、ともにトラックTr12の中心、つまり、{R(11)out+R(13)in}/2で表される半径位置に配置されている。このため、周方向において、小パターン12−1が配置された位置で検出される信号振幅と、小パターン12−2が配置された位置で検出される信号振幅とが等しくなるように、磁気再生素子11の半径位置を制御することによって、磁気再生素子11の半径方向における中心位置Pが、トラックTr12の中心、つまり、{R(11)out+R(13)in}/2で表される半径位置にあるように制御することができる。
【0051】
なお、小パターン12−3は偶数番目のトラックか奇数番目のトラックかを判別するためのパターンである。本実施形態においては、トラックTr12の再生に先立ち、小パターン12−1及び小パターン12−2の信号を連続的に検出した後に、一定の間隔(小パターン1つ分の間隔)をおいて小パターン12−3の信号を検出することで、奇数番目のトラックであると判断される。例えばTr11、Tr13の場合には、小パターン12−1及び小パターン12−2’、又は、小パターン12−1’及び小パターン12−2の信号を連続的に検出した後に、さらに連続して小パターン12−3の信号を検出した後、一定の間隔(小パターン1つ分の間隔)で信号が検出されない場合は、偶数番目のトラックと判断される。
【0052】
トラッキングパターンは、上記に限られるものではなく、トラッキングパターンに含まれる小パターンの配置が上記とは異なっていてもよく、また、検出される信号の位相に基づいてトラッキングが行われる形態のトラッキングパターンであってもよい。さらに、トラッキングパターンの前後に、アドレス情報が記録されたアドレスパターンが配置されていてもよい。
【0053】
また、磁気再生素子11の中心位置Pは、必ずしもトラックTr12の中心、つまり、{R(11)out+R(13)in}/2で表される半径位置とする必要はなく、磁気再生素子11の中心位置Pが、R(11)out<P<R(13)inとなるように制御することで、トラックTr12が書き換えられた後の状態においても、隣接するトラックTr11又はトラックTr13からの信号よりも、トラックTr12からの信号が強く検出されることになり、再生エラーを生じ難くすることが可能となる。
【0054】
この場合、小パターン12−1の内周側の端及び小パターン12−2の外周側の端は、R(11)outからR(13)inの間の半径位置に配置されていればよい。このようにすることで、周方向において、小パターン12−1が配置された位置で検出される信号振幅と、小パターン12−2が配置された位置で検出される信号振幅とが等しくなるように、磁気再生素子11の半径位置を制御することによって、磁気再生素子11の半径方向における中心位置Pが、R(11)out<P<R(13)inとなるように制御することができる。なお、信号高度やトラック間クロストーク、ノイズレベルに対応して、エラーレート等の再生信号品質を最適化するために、R(11)out<P<R(13)inを満たす範囲で、電気的なオフセットをかけることで、小パターン12−1及び小パターン12−2から検出される信号振幅が等しくなる位置とはわずかに異なる半径位置で再生を行ってもよい。
【0055】
また、磁気再生素子11がトラッキングパターン12から検出する信号に基づいてトラッキングを行いながら、磁気記録素子10が記録列を形成してもよい。再生を行うトラックの半径方向における中心位置と、形成する記録列の半径方向における中心位置とが異なる場合、記録列を形成する際に、電気的なオフセットをかけることで、小パターン12−1及び小パターン12−2から検出される信号振幅が等しくなる位置とは異なる半径位置でトラッキングを行うことができる。このようにすることで、記録列を形成する際にも、各トラックの半径位置に対応したトラッキングパターン12を利用してトラッキングを行うことができるため、再生時に対応したトラッキングパターンとは別に、さらに、記録列の形成時に対応したトラッキングパターンを設ける必要がないので、記録容量を減らすことなく記録エラーを低減させることができる。
【0056】
〔光(熱)アシスト型の磁気記録再生装置への応用〕
本発明は、光(熱)アシスト型の磁気記録再生装置についても同様に提供することができる。この場合、磁気記録再生装置は、記録媒体を局所的に昇温させるための光(熱)源を有しており、記録媒体は、光(熱)により昇温されることによって、所望の大きさまで反転磁界が低下する磁気記録膜を有する磁気記録媒体であればよい。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明に係る磁気記録再生装置は、Shingle方式を採用した高密度の磁気記録再生装置及び磁気記録媒体に好適である。
【符号の説明】
【0058】
1 磁化パターン
3 磁気記録媒体
4 磁気記録再生装置
5 サスペンション(移動機構)
6 スピンドル(移動機構)
7 ボイスコイルモータ(移動機構)
10 磁気記録素子
11 磁気再生素子
12 トラッキングパターン(バーストパターン)
20 制御部(磁気記録素子制御手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
情報記録領域を備えた円盤状の磁気記録媒体と、
上記磁気記録媒体に記録磁界を印加して上記磁気記録媒体の周方向に延びる記録列を形成することで情報の記録を行う磁気記録素子と、
上記磁気記録媒体からの漏洩磁界を検出して情報の再生を行う磁気再生素子と、
上記磁気記録媒体と上記磁気記録素子及び上記磁気再生素子との相対位置を上記磁気記録媒体の上記周方向及び半径方向に移動させる移動機構と、
上記情報記録領域において、上記半径方向に関して互いに隣接する上記記録列が上記半径方向に部分的に重複するように上記磁気記録素子及び上記移動機構を制御する磁気記録素子制御手段とを備えており、
上記磁気記録素子制御手段は、上記記録列のそれぞれに、
互いに隣接する上記記録列のいずれかと上記半径方向に部分的に重複する重複部と、
他のいずれの上記記録列とも上記半径方向に重複しない非重複部と、
が形成されるように、制御することを特徴とする磁気記録再生装置。
【請求項2】
第1記録列の、内周側及び外周側の端の半径位置をそれぞれ、R1in及びR1outとし、
上記第1記録列の外周側に隣接する第2記録列の、内周側及び外周側の端の半径位置をそれぞれ、R2in及びR2outとし、
上記第2記録列の外周側に隣接する第3記録列の、内周側及び外周側の端の半径位置をそれぞれ、R3in及びR3outとするとき、
上記磁気記録素子制御手段が、
R1in<R2in<R1out<R3in<R2out<R3out
となるように、制御することを特徴とする請求項1に記載の磁気記録再生装置。
【請求項3】
上記磁気再生素子の上記半径方向における幅をWとすると、
(R3in−R1out)>W/2
であることを特徴とする請求項2に記載の磁気記録再生装置。
【請求項4】
上記磁気記録媒体にトラッキングパターンが形成されており、
上記第2記録列に形成された上記非重複部の再生時において、上記トラッキングパターンから検出される信号に基づき、上記磁気再生素子の上記半径方向における中心位置Pが、
R1out<P<R3in
を満たすように、上記磁気再生素子及び上記移動機構を制御する磁気再生素子制御手段をさらに備えていることを特徴とする請求項2又は3に記載の磁気記録再生装置。
【請求項5】
周方向に延びる複数の記録列が形成された情報記録領域を備えた円盤状の磁気記録媒体であって、
上記記録列のそれぞれに、
互いに隣接する上記記録列のいずれかと半径方向に部分的に重複する重複部と、
他のいずれの上記記録列とも上記半径方向に重複しない非重複部と、
が形成されていることを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項6】
第1記録列の、内周側及び外周側の端の半径位置をそれぞれ、R1in及びR1outとし、
上記第1記録列の外周側に隣接する第2記録列の、内周側及び外周側の端の半径位置をそれぞれ、R2in及びR2outとし、
上記第2記録列の外周側に隣接する第3記録列の、内周側及び外周側の端の半径位置をそれぞれ、R3in及びR3outとするとき、
R1in<R2in<R1out<R3in<R2out<R3out
が成り立っていることを特徴とする請求項5に記載の磁気記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7(a)(b)】
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【図7(c)(d)】
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