磁気記録再生装置
【課題】記録媒体表面の平坦性を維持しながら、トラック密度を高めて面記録密度を向上し、熱揺らぎ耐性の低下を抑制し得る磁気記録媒体を提供する。
【解決手段】その記録トラックが、その表面領域に表面改質層を有し、この表面改質層は、隣り合う記録トラック間の領域よりもその異方性磁界Hkが低減されている。
【解決手段】その記録トラックが、その表面領域に表面改質層を有し、この表面改質層は、隣り合う記録トラック間の領域よりもその異方性磁界Hkが低減されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録技術を用いたハードディスク装置等に用いられる垂直磁気記録媒体及び磁気記録再生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
垂直磁気記録方式は、従来、媒体の面内方向に向けられていた磁気記録層の磁化容易軸を媒体の垂直方向に向けることにより、記録ビット間の境界である磁化遷移領域付近での反磁界が小さくなるため、記録密度が高くなるほど静磁気的に安定となって熱揺らぎ耐性が向上することから、面記録密度の向上に適した方式である。
【0003】
また、基板と垂直記録層との間に軟磁性材料からなる裏打ち層を設けた場合には、単磁極ヘッドと組み合わせることにより、いわゆる垂直二層媒体として機能し、高い記録能力を得ることができる。このとき、軟磁性裏打ち層は磁気ヘッドからの記録磁界を還流させる役割を果たしており、記録再生効率を向上させることができる。
【0004】
HDDの記録密度を更に向上するためには、さらなる磁化反転単位の微細化が有効なことがわかっているが、磁性結晶粒の微細化を進めていくと磁化状態が熱的に不安定になり熱減磁を起こしてしまうことが知られている。これは記録媒体における磁気異方性を高めることで抑制することができるが,その結果,高速での磁化反転が起きにくくなり,記録時の保磁力が高くなって来ている。高保磁力化した媒体に記録する為にはヘッドの主磁極の飽和磁化を上げることで、書き込み能力が向上されてきた。しかし、このような高記録密度媒体における書き込み能力の向上や読み取りヘッドの高感度化により,記録再生時、隣接トラックへの書き込むクロストラックイレージャや隣接トラックからの信号を読み取るクロストラックリードのような記録トラック間での磁気的相互干渉が起きてしまう問題点が発生している。
【0005】
この問題を解決する方法として、磁気ヘッドにおいては主磁極形状やリードトラック幅の縮小など改善が図られている。また媒体の構造に関しては、データトラック間を物理的に分離してトラック間の磁気的干渉を小さくするディスクリートメディア等が考案されている。これらはデータトラック間の記録磁性層をなくし、または凹凸をつけ、物理的にトラック間の磁気的相互作用を小さくしているが、これらの方法では、磁気記録媒体表面に凹凸ができるため、磁気ヘッドの浮上性に支障をきたす恐れがある。
【0006】
記録媒体表面の平坦性を維持しながら、記録トラック密度の向上が可能な垂直磁気記録媒体として、例えば、データトラック領域の保磁力と、データトラック間領域の保磁力とが異なるようにすることにより、トラック間の磁気的干渉を緩和し、クロストラックイレーズを低減する技術がある(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
しかしながら、記録密度の更なる向上が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−147046号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、記録媒体表面の平坦性を維持しながら、トラック密度を高めて面記録密度を向上し、熱揺らぎ耐性の低下を抑制し得る磁気記録媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の磁気記録再生装置は、非磁性基板、及び該非磁性基板上に形成され、同心円またはスパイラル形状の記録トラックを有し、グラニュラ構造をもつ磁気記録層を含む磁気記録媒体と、単磁極型磁気記録ヘッドと、前記単磁極型記録ヘッドの近傍に設けられた高周波磁界を発生する素子とを具備し、
該記録トラックは、その表面領域を改質することにより、該記録トラック間の領域よりも異方性磁界Hkが低減された表面改質層と、該表面改質層の下部に設けられ、改質されていない下層とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、記録媒体表面の平坦性を維持しつつ、熱揺らぎ耐性を抑制しながら、トラック密度を高めて面記録密度を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に用いられる磁気記録層の構造を模式的に表すモデル図である。
【図2】本発明に係る磁気記録媒体の製造方法の一例を説明するための図である。
【図3】本発明に係る磁気記録媒体の製造方法の一例を説明するための図である。
【図4】本発明に係る磁気記録媒体の製造方法の一例を説明するための図である。
【図5】本発明に係る磁気記録媒体の製造方法の一例を説明するための図である。
【図6】本発明に係る磁気記録媒体の製造方法の一例を説明するための図である。
【図7】本発明に係る磁気記録媒体の製造方法の一例を説明するための図である。
【図8】磁気記録媒体のクロストラックプロファイルの例を表すグラフ図である。
【図9】高周波磁界を加えた際のHcとHsの周波数依存性を表すグラフ図である。
【図10】本発明にかかる磁気記録再生装置の一例を表す概略図である。
【図11】本発明に使用できる磁気ヘッドアセンブリの一例を表す図である。
【図12】本発明に使用できる磁気記録再生ヘッドの一例を表す図である。
【図13】本発明に使用し得るスピントルク発振子の一例の構成を表す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に係る磁気記録媒体は、非磁性基板と、非磁性基板上に形成された、同心円またはスパイラル形状の記録トラックを持つ磁気記録層とを有する磁気記録媒体であって、この記録トラックは、その表面領域に表面改質層を有し、この表面改質層は、隣り合う記録トラック間の領域よりもその異方性磁界Hkが低減されている。
【0014】
また、本発明にかかる磁気記録再生装置は、上記磁気記録媒体と単磁極型磁気記録ヘッドとを具備する。
【0015】
本発明では,異方性磁界Hkを通常より高くして書き込みにくくした磁気記録媒体に対してインプリント処理を行い,レジストをマスクとして記録トラック領域に対してフッ化などの処理を行うことにより,磁性層上部の磁気特性の変化した多数の同心円状の記録トラックが形成される。フッ化などの処理によって磁気特性の変化した記録トラック間の領域は成膜直後の状態のままであり、Hkはフッ化などの処理を行った領域より大きい。このようにしてHkが減少したトラックと該トラック間のHkが高い領域の2つの領域が形成される。ここで高Hkとは14kOe以上のことであり、フッ化などの処理後は記録トラック領域における磁性層の上下部を合わせたHkが14〜10kOe程度であることが望ましい。
【0016】
ここで、記録トラック上に磁気ヘッドを用いて記録を行うことにより、主にフッ化などの処理を行った部分にのみ記録磁区が形成される。記録トラックと記録トラックの間の領域は保磁力が高いため磁気ヘッドでは十分な記録磁区が形成できない。つまり、媒体上に磁気ヘッドのトラック幅よりも微小な幅を持つ記録トラックが形成することができる。このようにして、微小なトラック幅を形成することにより、隣接するトラック間の相互作用を低減し、トラック間のクロストラックイレージャの影響を低減することができ、高密度な磁気記録媒体が得られる。
【0017】
また、本発明を用いると、その記録トラックの表面領域に低Hkの表面改質層があることにより、記録時には、この低Hkの表面改質層の磁化が先に回転しながら反転し始め、表面改質層と交換結合している下層の磁化反転を促進する効果があり、表面改質層と下層を合わせた反転磁界及び保磁力が低下する。このような磁化反転機構により、低Hkの表面改質層がない場合と比較して、反転磁界が同じであれば、記録トラック領域においてより高い熱安定性を得ることが可能となる。
【0018】
図1に、本発明に用いられる磁気記録層の構造を模式的に表すモデル図を示す。
【0019】
図示するように、この磁気記録層は、トラック幅11をもつ同心円またはスパイラル形状の記録トラック5を有し、隣り合う記録トラック5間にサイドイレーズ領域6が設けられている。記録トラック5は、表面改質層3とその下に位置する下層4とを有する。
【0020】
基板としては、例えばガラス基板、Al系合金基板、セラミック基板、カーボン基板や、酸化表面を有するSi単結晶基板等を用いることができる。
【0021】
ガラス基板の材料としては、例えばアモルファスガラス、結晶化ガラスがあげられる。アモルファスガラスとしては、例えば汎用のソーダライムガラス、及びアルミノシリケートガラス等を使用できる。また、結晶化ガラスとしては、例えばリチウム系結晶化ガラスを用いることができる。セラミック基板としては、例えば汎用の酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、及び窒化珪素などを主成分とする焼結体や、これらの繊維強化物などが使用可能である。
【0022】
あるいは、基板として、上記金属及び非金属の基板等の表面にメッキ法やスパッタ法を用いてNiP層が形成されたものを用いることもできる。
【0023】
また、基板上への薄膜の形成方法として、スパッタリング法のみを取り上げたが,真空蒸着法や電解メッキ法などでも同様の効果を得ることができる。
【0024】
本発明に用いられる磁気記録層は、例えば強磁性層であり、好ましくは、飽和磁化Msが,200≦Ms≦800emu/ccである。
【0025】
本発明に用いられる磁気記録層としては、例えばCoPt系合金を使用することができる。
【0026】
ここでCoPt系合金中におけるCoとPtの比率は、高い一軸結晶磁気異方性Kuを得るという観点からは、2:1ないし9:1が好ましい。
【0027】
さらに、CoPt系合金は、さらにCrを含むことが好ましい。
【0028】
また、磁気記録層は、さらに酸素を含むことが好ましい。
【0029】
酸素は、酸化物として添加することができる。酸化物としては、特に酸化シリコン、酸化クロム、及び酸化チタンからなる群から選択されるもののうち少なくとも1種が好適である。
【0030】
このような酸化物により、磁気記録層は、Coを含有する磁性結晶粒子と、その周りを取り囲む非晶質酸化物を含有する粒界相とを含む、いわゆるグラニュラー構造となる。
【0031】
この磁性結晶粒子は、垂直磁気記録層を上下に貫いた柱状構造であることが好ましい。このような微細構造を形成することにより、垂直磁気記録層の磁性結晶粒子の結晶配向および結晶性を良好なものとし、結果として高密度記録に適した再生信号出力/ノイズ比(S/N比)が得ることができる。
【0032】
このような微細構造を得るための酸化物の含有量は、Co、Cr、及びPtの総量に対して、3mol%ないし20mol%であることが好ましい。さらに好ましくは5mol%ないし18mol%である。垂直磁気記録層中の酸化物の含有量として上記範囲が好ましいのは、層を形成した際、磁性結晶粒子の周りに磁性が弱いかほとんどない非晶質粒界層が形成され、磁性結晶粒子の孤立化、微細化をすることができるためである。
【0033】
磁気記録層は、その酸化物の含有量が20mol%を超えた場合、酸化物が磁性結晶粒子中に残留し、磁性結晶粒子の配向性、結晶性を損ね、さらには、磁性結晶粒子の上下に酸化物が析出し、結果として、磁性結晶粒子が垂直磁気記録層を上下に貫いた柱状構造が形成されなくなる傾向がある。また、酸化物の含有量が3mol%未満である場合、磁性結晶粒子の分離、微細化が不十分となり、結果として記録再生時におけるノイズが増大し、高密度記録に適した信号/ノイズ比(S/N比)が得られなくなる傾向がある。
【0034】
磁気記録層は、そのCrの含有量が、0原子%ないし30原子%であることが好ましい。さらに好ましくは2原子%ないし28原子%である。Cr含有量が上記範囲であると、磁性結晶粒子の一軸結晶磁気異方性定数Kuを下げすぎず、また、高い磁化を維持し、結果として高密度記録に適した記録再生特性と十分な熱揺らぎ特性が得られる傾向がある。
【0035】
Cr含有量が28原子%を超えると、磁性結晶粒子のKuが小さくなるため熱揺らぎ特性が悪化し、また、磁化が小さくなり再生信号出力が低下することで、結果として記録再生特性が悪くなる傾向がある。
【0036】
磁気記録層は、そのPtの含有量が、10原子%ないし25原子%であることが好ましい。Pt含有量が上記範囲であるのは、垂直磁気記録層に必要なKuを得、さらに磁性結晶粒子の結晶性、配向性が良好であり、結果として高密度記録に適した熱揺らぎ特性、記録再生特性が得られるため、好適だからである。
【0037】
Pt含有量が25原子%を超えた場合、磁性結晶粒子中にfcc構造の層が形成され、結晶性、配向性が損なわれる傾向がある。また、Pt含有量が10原子%未満である場合、高密度記録に適した熱揺らぎ特性を得るためのKuが得られない傾向がある。
【0038】
また、磁気記録層としては、上記合金の他、他のCoPt系合金、CoCr系合金、CoPtCr系合金、CoPtO、CoPtCrO、CoPtSi、CoPtCrSi,およびPt、Pd、Rh、およびRuからなる群より選択された少なくとも一種を主成分とする合金とCoとの多層構造、さらに、これらにCr、BおよびOを添加したCoCr/PtCr、CoB/PdB、CoO/RhOなどを使用することができる。いずれにしても,Coはhcp構造で一軸結晶磁気異方性を持ち,高い保磁力を得やすいことから,垂直磁気記録層はCoを主成分とすることが好ましい。
【0039】
磁気記録層は、必要に応じて積層することができる。
【0040】
積層を行う場合、磁気記録層間に例えばCr、Fe、Co、Ni、Ru、Rh、Pd、及びPtからなる群より選択される少なくとも1種からなる中間層を設けることが出来る。
【0041】
磁気記録層は、単層あるいは積層で、好ましくは3ないし40nm、より好ましくは5ないし30nmの厚さを有する。この範囲であると、より高記録密度に適した磁気記録再生装置として動作し得る。垂直磁気記録層の厚さが3nm未満であると、結晶配向も低く偏析も不十分で再生出力も低過ぎるためノイズ成分の方が高くなる傾向があり、垂直磁気記録層の厚さが40nmを超えると、再生出力が高過ぎて波形を歪ませる傾向がある。
【0042】
垂直磁気記録層の保磁力は、237kA/m(3kOe)以上とすることが好ましい。保磁力が237kA/m(3kOe)未満であると、熱揺らぎ耐性が劣る傾向がある。
【0043】
垂直磁気記録層の垂直角型比は、0.8以上であることが好ましい。垂直角型比が0.8未満であると、熱揺らぎ耐性に劣る傾向がある。
【0044】
表面改質層は、改質前の磁気記録層よりもほんの僅かでもその異方性磁界Hkが低減されていれば、隣接する記録トラック間の磁気的干渉を低減する効果が期待できる。本発明の一実施態様によれば、表面改質層は、改質前の磁気記録層よりもその異方性磁界Hkが50%近く低減されており、その結果、表面改質層とその下部の改質されていない層を合わせた記録トラック領域は、隣り合う記録トラック間の領域よりもその異方性磁界Hkが20%近く低減されている。表面改質層のHk低減率は層厚や狙いの磁気特性などを考慮して決めれば良く、特に好ましい範囲はない。表面の改質が進み過ぎると記録トラック領域の磁気特性が低下し過ぎる傾向があるので、改質層の層厚は磁気記録層厚の半分以下が好ましい。仮に半分の層厚まで改質し、飽和磁化Msを維持したままHkを100%低減した場合を想定すると、上下層を合わせた記録トラック領域のHk低減率の上限は50%程度と考えられる。
【0045】
さらに、磁気記録層の下地層として、例えばRuを使用することが出来る。Ruは記録層の主成分のCoと同じhcpであり,Coとの格子ミスマッチも大き過ぎず,粒径も小さくて柱状成長させやすいなどの点で好ましい。
【0046】
また,製膜中のArガス圧を高めることにより,さらに粒径を微細化した上に,粒径の分散も改善し,粒子間の分断も促進することができる。この場合,結晶配向は悪化する傾向にあるが,必要に応じて,結晶配向を高めやすい低ガス圧のRuと組み合せることでそれを補うことができる。前半を低ガス圧,後半を高ガス圧とする方が好ましく,後半のガス圧については,相対的に前半のガス圧より高ければ同様の効果が期待でき,10Pa以上でも構わない。また,層圧比は,結晶配向を優先するのであれば低ガス圧層の方を厚く,粒径の微細化などを優先するのであれば高ガス圧層の方を厚くすると良い。
【0047】
粒子間の分断に関しては,酸化物を添加することによりさらに促進することができる。酸化物としては、特に酸化シリコン、酸化クロム、及び酸化チタンからなる群から選択されるもののうち少なくとも1種が好適である。
【0048】
非磁性下地層の厚さは,好ましくは2ないし50nm,より好ましくは4ないし30nmである。Ruに限らず,下地層が薄過ぎると十分な連続膜とならず,結晶性も高めにくいために,その上に形成する磁気記録層の微細構造を改善することが難しくなる。厚くした方が結晶性は高めやすくなり,その上の磁気記録層の保磁力も高めやすくなるが,厚くし過ぎるとスペーシングの増加により磁気ヘッドによる記録能力や記録分解能の低下を招くことになる。
【0049】
なお,ここまでは主にRuについて述べたが,非磁性下地層にはfccの金属を用いても,(111)配向とすることによりCo系記録層をhcp(00.1)配向とすることができるので,Coとの格子ミスマッチも考慮して例えばRhやPd,Ptなどを使用することができる。また,Ru、Rh、Pd、及びPtからなる群から選択される少なくとも1種と、Co、及びCrからなる群より選択された少なくとも一種とからなる合金を使用することもできる。
【0050】
本発明の垂直磁気記録媒体において、上記下地層と基板との間には、さらにシード層を設けることができる。
【0051】
シード層を設けることにより,非磁性下地層を通して,磁気記録層の結晶粒径や結晶配向を改善することができる。これらの改善によって非磁性下地層を薄くすることができれば,磁気ヘッドと軟磁性裏打ち層の距離(スペーシング)を短くして記録再生特性を改善することもできる。シード層の磁性については,軟磁気特性を持たせることができれば,裏打ち層としても機能するので,さらに磁気ヘッドとの距離を短くすることができて好適である。
【0052】
シード層の厚さは,好ましくは0.1ないし20nm,より好ましくは0.2ないし10nmである。平均層厚が1原子層以下となると完全に均一に形成できたとしても完全に連続した層とはならないが,島状に点在した構造となっても結晶粒径や結晶配向を改善する効果は期待できる。一方,シード層が良好な特性を示す軟磁性体であればスペーシングの観点からは最大値の制限はなくなるが,磁性がない場合にはスペーシングを増加させてしまうことになる。
【0053】
シード層の材料としては,hcpやfccの金属が結晶配向を高めやすいという利点があるが,bccの金属を用いた場合でも下地層との結晶構造の違いにより下地層の結晶粒径を微細化する効果が期待できる。シード層は必須ではないが,設けるのであれば好適な材料は、例えばPd,Pt,Ni,Ta,Ti、及びその合金からなる群から選択される少なくとも1種を含むことができる。さらに特性を改善するために,これらの材料を混ぜ合わせても良いし,別の元素を混ぜても良く,またそれらを積層しても良い。
【0054】
また、下地層やシード層と基板との間に軟磁性裏打ち層を設けることが出来る。
【0055】
本発明において、高透磁率な軟磁性裏打ち層を設けることにより、軟磁性裏打ち層上に垂直磁気記録層を有するいわゆる垂直二層媒体が構成される。この垂直二層媒体において、軟磁性裏打ち層は、垂直磁気記録層を磁化するための磁気ヘッド例えば単磁極ヘッドからの記録磁界を、水平方向に通して、磁気ヘッド側へ還流させるという磁気ヘッドの機能の一部を担っており、磁気記録層に急峻で充分な垂直磁界を印加させ、記録再生効率を向上させる役目を果たし得る。
【0056】
軟磁性裏打ち層は、単層あるいは積層で、好ましくは20ないし200nmの厚さを有する。
【0057】
軟磁性裏打ち層としては、例えばFe、Ni、及びCoを含む材料を使用することが出来る。このような材料として、FeCo系合金例えばFeCo、FeCoVなど、FeNi系合金例えばFeNi、FeNiMo、FeNiCr、FeNiSiなど、FeAl系合金、FeSi系合金例えばFeAl、FeAlSi、FeAlSiCr、FeAlSiTiRu、FeAlOなど、FeTa系合金例えばFeTa、FeTaC、FeTaNなど、FeZr系合金例えばFeZrNなどを挙げることができる。
【0058】
また、Feを60原子%以上含有するFeAlO、FeMgO、FeTaN、FeZrN等の微結晶構造、あるいは微細な結晶粒子がマトリクス中に分散されたグラニュラー構造を有する材料を用いることができる。
【0059】
軟磁性裏打ち層の他の材料として、Coと、Zr、Hf、Nb、Ta、Ti、及びYのうち少なくとも1種とを含有するCo合金を用いることができる。Coは、好ましくは80原子%以上含まれる。このようなCo合金は、スパッタ法により製膜した場合にアモルファス層が形成されやすく、アモルファス軟磁性材料は、結晶磁気異方性、結晶欠陥および粒界がないため、非常に優れた軟磁性を示す。
【0060】
このようなアモルファス軟磁性材料としては、コバルトを主成分とし,ジルコニウムを副成分として含有する合金例えばCoZr、CoZrNb、及びCoZrTaなどのCoZr系合金を挙げることができる。以上の材料には、アモルファスを形成しやすくするなどの目的で,さらにBを加えることができる。
【0061】
また、軟磁性裏打ち層にアモルファス材料を用いた場合には,アモルファス系の基板と同様に、その上に形成する金属層の結晶配向に直接的な影響をほとんど与えなくなるために,材料を変更しても磁気記録層の構造や結晶性に大きな変化はなく,基本的に同様の磁気特性および記録再生特性が期待できる。CoZr系合金のように3つ目の元素が異なる程度であれば,飽和磁化(Ms),保磁力(Hc),及び透磁率(μ)などの違いも小さいので,ほぼ同等の磁気特性および磁気記録再生特性が得られる。
【0062】
軟磁性層は、例えば軟磁性材料層を、例えばRu等の中間層を介して積層した構造を有し得る。Ruを中間層として用いた場合、その層厚を約0.8nmとすることにより、その上下の隣り合う軟磁性層間に層間相互作用が働き、互いの磁気モーメントを反並行に向けることができる。
【0063】
また、基板と軟磁性裏打ち層との間に例えばCoCrPt合金やSmCo合金等の面内硬磁性層を設けることも出来る。この面内硬磁性層を所望の方向例えばディスクの半径方向に着磁することにより、軟磁性裏打ち層の磁化容易軸をその方向に固定することができる。
【0064】
以下に、本発明に係る垂直磁気記録媒体の作製方法の一例を示す。
【0065】
実施例1
非磁性基板として、ディスク状の洗浄済みのガラス基板(外直径2.5インチ)を用意した。このガラス基板をマグネトロンスパッタ装置(キヤノンアネルバ社製C−3010)の製膜チャンバー内に収容して、到達真空度2×10−5Pa以下となるまで製膜チャンバー内を排気した後、特に断らない限りガス圧約0.6PaのAr雰囲気中で、以下のようにマグネトロンスパッタリングを行なった。
【0066】
非磁性基板上に、まず、軟磁性裏打ち層として、厚さ30nmのCoZrNb合金,厚さ0.7nmのRu,及び厚さ30nmのCoZrNb合金を順次形成した。なお,これら2層のCoZrNb層は,その間に設けたRuにより反強磁性的に結合している。
【0067】
次に、CoZrNb層上に、厚さ6nmのPdシード層を形成した。
【0068】
続いて、厚さ10nmのRu層を形成した後,Arガス圧を6Paまで高めてから,さらに厚さ10nmのRu層を積層して,合計20nmの非磁性下地層を形成した。
【0069】
第1の磁気記録層の形成
その後,(Co−16原子%Pt−10原子%Cr)−8mol%SiO2コンポジットターゲットを用いて,6PaのAr雰囲気中でスパッタリングを行うことにより、第1の磁気記録層を形成した。厚さは20nmとした。
【0070】
第2の磁気記録層の形成
磁気記録層は上記の1層のみでも良いけれども、必要に応じて第2磁気記録層をさらに形成することができる。第2磁気記録層として,Co,CoCr,CoPt,CoCrPtを主成分とした合金,およびさらにそれに酸化物を添加した磁気記録層を積層することができる。
【0071】
あるいは、PdやPtなどの非磁性中間層を厚さ1nm程度に形成してから,Co,CoPtを主成分とした合金,及びさらにそれに酸化物を添加した磁気記録層を積層することができる。
【0072】
続いて、厚さ5nmのC保護層を製膜した後,真空チャンバーから取り出した。
【0073】
インプリント処理
図2ないし図7に、本発明に係る磁気記録媒体の製造方法の一例を説明する。
【0074】
上記のようにして作製した垂直磁気記録媒体は、図2に示すように、基板1と、基板1上に積層された垂直磁気記録層2と、カーボン保護層7とを具備する。
【0075】
なお、この図では、簡単化のために、軟磁性下地層および中間層の図示を省略している。
【0076】
図3に示すように、保護層7上にレジスト8を約200nmの厚さにスピンコート成膜する。その後、記録トラック5とサーボ領域6の凹凸パターンに対応する凹凸パターンが形成されたスタンパ9を2000barで60秒間プレスし、レジスト8にそのパターンを転写する(高圧式インプリント)。
【0077】
ここで、プレスについて簡単に説明する。図示しないが、プレスは、ダイセットの下板および上板を具備している。ダイセットの下板上に、厚み0.1mmのPETで構成されるバッファ層、基板、スタンパの順に積層する。ここで基板のレジスト膜面とスタンパの凹凸面を対向させるように配置する。スタンパの上部にダイセットの上板を配置し、ダイセットの下板と上板とで、バッファ層、基板、スタンパを挟み込む。この形態でプレスを行う。ここで60秒間の保持時間はレジストの移動時間に相当する。
【0078】
図4に示すように、プレス後、図示しない真空ピンセットを用いてスタンパ9を剥離する。スタンパ9にはフッ素系の剥離剤が塗布されているため、レジストがスタンパに付着することはない。インプリントによって作製されたパターンの凹凸高さは約60〜70nmであるため、転写されたパターンの凹部に残るレジスト残渣の膜厚は120nm程度となる。
【0079】
図5に示すように、酸素ガスRIE(反応性イオンエッチング、Reactive Ion Etching)でレジスト8の残渣除去を行う。プラズマソースは、低圧で高密度プラズマが生成可能なICP(誘導結合プラズマ、Inductively Coupled Plasma)が好適だが、ECR(電子サイクロトン共鳴、Electron Cyclotron Resonance)プラズマ、一般的な並行平板型RIE装置でも構わない。ここではICPエッチング装置を用い、チャンバー圧は2mTorrとし、Coil RFとPlaten RFをそれぞれ100Wとした。30秒のエッチングを行い、インプリント工程で凹部に形成されたレジスト残渣を除去した。このエッチングにより、残渣除去に伴って凹部表面の保護層7も除去できる。
【0080】
その後,パターンの凸部上のレジスト8をマスクとし、記録トラック部5における磁気記録層2に対して表面処理を行い、磁気特性を調整した表面改質層3を形成することが出来る。
【0081】
この場合,改質して記録トラック領域表面のHkを低減させるには、以下の方法を用いることもできる。
【0082】
(1)活性なガス種、例えば酸素やフッ素に曝されると,凹部の磁性体は酸化・フッ化等の化学反応を起こし、磁気特性が変化する。この場合一般に,磁気異方性の他,飽和磁化も低下することが多く,異方性磁界および保磁力も低下傾向である。活性なガス種をイオン化し、あるエネルギーで加速して媒体に照射しても良い。
【0083】
また,Arイオンビームを用いたエッチング(Arイオンミリング)により,磁性層上部の加工を行っても良い。
【0084】
(2)凹部に相当する部分をエッチングする際に磁性層にダメージが入るようにする。たとえばArイオンミリングの加速電圧を高くする。このようにすることで、磁性層に欠陥が導入され磁気異方性が低下して異方性磁界も低下する。
【0085】
(3)凹部に相当する部分をエッチングする際にイオンを照射する。エッチングエネルギーよりも小さなエネルギーでイオンを照射することで磁気特性を変化させることができる。
【0086】
なお、媒体表面に凹凸ができない程度に処理を行うことで,媒体の平坦性を維持し,良好なヘッドの浮上特性を得ることができる。
【0087】
これに対し(1)の方法は,化学反応を使用しているので物理的ダメージがなく,特に処理を控え目にしなくとも表面の平滑性を維持することができる。
【0088】
さらに、フッ化などのハロゲン化反応を使用する場合には、一般的なレジストが利用でき、媒体表面へのダメージが極めて小さい酸素アッシングでレジストを簡便に剥離することができる。
【0089】
ハロゲンを含む反応ガスとしては、例えば、CF4、CHF3、CH2F2、C2F6、C4F8、SF6、Cl2、CCl2F2、CF3I、C2F4等のガスを使用できる。
【0090】
なお、活性な反応ガスの形態としては活性なラジカルとするのが望ましい。ラジカルの発生方法には種々の方法があるが、例えば、既存のプラズマCVD装置やドライエッチング装置を利用することができる。これらの装置のチャンバー内に反応ガスを導入し、高周波電圧をかけて、プラズマを発生させると、反応ガスに電界加速された電子が衝突し、反応ガスを分離して化学的に極めて活性なラジカルを生成できる。基板温度は常温で良いが、より反応速度を高めるために強磁性体領域の磁性に影響を与えない範囲で加熱してもよい。
【0091】
プラズマ発生装置として好適な例としては、例えばICP装置が挙げられる。ICP装置には、主にプラズマ発生機能を持つCoil RFと別にプラズマを基板側に誘導する機能を持つPlaten RFが備えられており、これらは別々に出力設定が可能である。例えばCoil RFを300W、Platen RFを0Wに設定することで、ラジカル反応に適した高密度プラズマを生成するとともに、媒体表面にダメージを与えないため、スパッタの効果を最小限に抑えることが可能となる。なお、媒体表面のスパッタを防止するためには、反応装置内の圧力を、やや高め、例えば10〜30mTorr、さらには約20mTorrにすることができる。また、反応ガスとしてCF4を使用する場合は、ガス流量を10〜50sccm、さらには約20sccmとすることができる。
【0092】
例えば、CF4ガスから生成した活性なFラジカルにレジストに被覆されていない磁性体層を曝した場合は、露出している磁性層表面はFラジカルにより次第に深さ方向にフッ化される傾向がある。十分にフッ化すると磁化が消失してしまうが,その前に処理をやめることで適度に磁気特性を低下させることができる。一方、レジストにより表面が被覆されている領域は、フッ化されず磁気特性も変化しない。
【0093】
なお、磁気特性が低下する領域の深さは、磁性層厚より薄くし、記録トラック部は磁気特性の異なる2種類の磁性層が積層される構成にするのが好ましい。上下の磁性層で機能を分けて割り当てることにより所望の磁気特性を実現しやすい他、上層が先に磁化反転を開始して下層の反転を促進する効果が期待できる。さらに,予め上下磁性層が適度に結合できる薄さの中間層を設け、中間層より上の部分だけの磁気特性を低下させた場合には、いわゆるECC(Exchange Coupled Composite)メディアの構成になる。この場合には,保磁力が同じままでもより高い熱安定性揺らぎ耐性を得ることができる。好ましい深さとしては,狙いの磁気特性にもよるが、上下を合わせた全体の保磁力を高く保つことを考えると、一般には磁性層の半分より薄い方が良い。
【0094】
また、媒体の異方性磁界Hkはフッ化などの処理前に比べて20%以上低下させることができる。
【0095】
hcp−CoPtをベースにした材料においては、CoはPtよりも化学反応を起こしやすく、エッチングにより結晶性が低下するため、プロセス条件を適切に調整することにより成膜直後のHkが高く、フッ化などの処理後に磁気ヘッドで記録できるようなHkまで低下する媒体を作製することが可能である。
【0096】
また、本発明の一実施態様によれば、表面改質層の異方性磁界Hkは、50%近く低減され得る。その結果、表面改質層とその下部の改質されていない層を合わせた記録トラック領域の異方性磁界Hkは、約20%の低減となっている。記録トラック領域のHk低減率が50%を超えるということは、例えば表面改質層のHk低減率が100%で、改質層の層厚が磁気記録層の半分を超えるような場合であり、保磁力などの磁気特性が低下し過ぎる傾向がある。記録トラック領域のHk低減率を50%以下とすることにより、記録トラック領域の磁気特性を適度に保ちつつ、記録トラック上と記録トラック間の領域の磁気特性の差を大きくして、主に記録トラックのみに記録し、記録トラック間の領域は記録し難くすることが可能となる。
【0097】
なお,磁気特性の低下の程度や深さは,レジストによるマスクを行わずに,媒体全面に対して上記のフッ化などの処理を全面に行った媒体について,磁気特性や深さ方向のプロファイルを調べることにより,プロセス条件の調整を行った。
【0098】
図6に示すように、残渣を除去して記録トラックが露出した状態で、パターンの凸部上のレジストをマスクとし、ICP装置中でFラジカルに10秒間の暴露を行った。記録トラック領域上部の磁気特性を低下させた後,マスクとして用いたレジストを酸素アッシャーを用いて除去した。一般的なフォトレジストを用いた場合は、酸素プラズマ処理を行うことで容易に剥離することが可能である。ここでは、酸素アッシング装置において1Torr、400Wの条件下で、5分間の処理を行うことにより、完全にレジストを剥離した。レジストの剥離と同時に、凸部の表面にある保護層も剥離される。
【0099】
一方、SOGをエッチングマスクとした場合、この工程はフッ素系ガスを用いたRIEで行う必要がある。この場合,上述のように磁性層がフッ化される化学反応が起きるので,SOGの剥離と記録トラック領域上部の磁気特性の低下を同時に行うことができる。フッ素系ガスとしてはSF6が好適だが、大気中の水と反応してHF、H2SO4等の酸が生じることがあるため、水洗を行う必要がある。
【0100】
図7に示すように、レジスト剥離後、C保護層10の形成を行う。C保護層10は、凹凸へのカバレッジを良くするためにCVD法で成膜することができるけれども、スパッタ法、真空蒸着法を使用することも出来る。CVD法を用いた場合、sp3結合炭素を多く含むDLC膜が形成される。膜厚は2nm以下であるとカバレッジが悪くなり、10nm以上であると、記録再生ヘッドと媒体との磁気スペーシングが大きくなってSNRが低下するので好ましくない。ここでは、スパッタ法を用いて5nmのC保護層を形成した。
【0101】
さらに、ディッピング法により、保護層10上に厚さ1.5nmのパーフルオロポリエーテルからなる潤滑層を形成して、実施例1の垂直磁気記録媒体を得た。
【0102】
なお、ここでは高圧インプリント法を例としてあげて説明したが、他のインプリント法を用いて本発明の磁気記録媒体を加工することも可能である。
【0103】
このようにして作製された磁気記録媒体について、試料表面の組成をAES(Auger Electron Spectroscopy;オージェ電子分光)装置を用いて,試料表面をスパッタして削りながら深さ方向の組成分析を行ったところ、媒体表面から深さ5nm程度までCoがフッ化されていることが分かった。
【0104】
さらに、レジストによるマスクなしで上層のみのフッ化処理を行った前後で,飽和磁化Ms,垂直磁気異方性Kuを測定し、異方性磁界Hkを、式Hk=2Ku/Msから求めたところ,Hkは15kOeから12.5kOeまで低下していることが分かった。これは上下磁性層を合わせて測定した値であるが,上層のみのHkを計算すると8kOeまで低下していることになる。
【0105】
このようにして、フッ化処理によって異方性磁界が低下した領域(表面改質層)、およびフッ化処理されておらず異方性磁界が変化していない領域の2つの領域が形成された。ここで、フッ化処理により異方性磁界が低下した領域を記録トラックとして用いる。
【0106】
記録再生特性の測定
記録再生特性に関しては、リードライトアナライザ及びスピンスタンドを用いて評価を行った。
【0107】
また、情報の記録再生には、補助磁極先端が主磁極近くまで伸びるように形成されたシールデッドポール型の単磁極型記録素子と巨大磁気抵抗効果(GMR)再生素子を備えた垂直記録用の複合型ヘッドを用いた。なお、ここではシールデッドポール型の記録素子を用いたが,補助磁極が主磁極から離れた従来型の単磁極型記録素子を用いても良い。また,記録磁極の材料としてはCoFeNiを用いたが、例えばCoFe,CoFeN,NbFeNi,FeTaZr、及びFeTaNなどの材料を用いても良い。また、これらの磁性材料を主成分としてさらに添加元素を加えても良い。
【0108】
ここで、フッ化処理により保磁力が低下した領域を中心にして、線記録密度200kfciの信号を記録して、その再生出力TAAの記録電流依存性を測定した。次に記録したトラックをはさんで、磁気ヘッドの半径位置を動かしながらクロストラックプロファイルを計測すると図8の結果が得られた。
【0109】
また、比較例1としてインプリント処理を行わないこと以外は実施例1と同様にして上記媒体のフッ化処理後と同程度である保磁力4.5kOeを有する別の磁気記録媒体,および,比較例2として実施例1においてインプリントやフッ化などの処理を行う前の保磁力6kOeを有する別の磁気記録媒体に,同一磁気ヘッドを用いて線記録密度200kfciの信号を記録し、実施例と同様に記録電流依存性およびクロストラックプロファイルを計測した。その時の結果を図8に示す。
【0110】
図中、101は実施例1、102は比較例1、及び103は比較例3を各々示す。
【0111】
図8におけるトラックプロファイルの半値幅がトラック幅である。このトラック幅が大きいと高密度記録をしたときに、隣接トラックへの信号の書き込み、もしくは隣接トラックからの信号の読み込みにつながるので、この値は小さい方が望ましい。
【0112】
実施例1と比較例1におけるトラックプロファイルからの求められた半値幅を比較すると、比較例1では160nmであるのに対して、実施例1は110nmとなり、その半値幅つまり記録領域の幅が小さくなったことがわかる。一方,半値幅に関して言えば,比較例2も110nmでほぼ変わりはないが,TAAが小さくなっており十分に書き込みができていないことが分かる。つまり、磁気ヘッドからの書き込み磁場に対し、フッ化処理で保磁力の小さくなった領域にだけ主に記録磁区が形成され、フッ化処理を行っていない領域は、媒体の保磁力が高く磁気ヘッドの起磁力を上回っており、媒体に十分に記録磁区が形成されなかったことがわかる。このように実施例では比較例に比べて、同一磁気ヘッドを用いて記録してもトラック幅が小さくなることがわかる。以上のように,記録トラック上部の異方性磁界を低下させることにより、クロストラックイレージャが低減でき、よりトラック密度を高めた磁気記録媒体を提供できることが確認できた。
【0113】
本実施例では磁気記録層としてCoPtCr−SiO2を用いたが、これに限らず、CoCrPtB系やCo/Pt,Co/Pd系多層膜、規則合金系のFePt系やそれ以外の磁気記録媒体に用いる磁性層において、フッ化などの処理により磁気特性が変化するものを用いることにより同様の効果を得ることは可能である。
【0114】
なお、実施例1の媒体について電磁石で一旦飽和させてから、インプリント前のHnまたはHc程度の逆向きの磁界を印加して磁気力顕微鏡(MFM)で観察を行ったところ、同心円状に磁化反転が進んでいる領域と遅れている領域がトラックピッチに対応する間隔で交互に現れた。このように、本発明にかかる磁気記録媒体は、同心円状に保磁力差が生じている様子が容易に確認できることがわかった。
【0115】
ここで,Hk=14kOe、Ms=980emu/ccの単層媒体、上層3nmをHk=7kOe、Ms=1300emu/ccとして下層との層間結合を弱めたECC媒体1、および上層3nmをHk=10 Oe、Ms=1300emu/ccとして下層との層間結合を弱めたECC媒体2について、高周波磁界を加えた際の保磁力Hcと飽和磁界Hsの周波数依存性についてシミュレーションを行った結果を図9に示す。なお、比較例1の磁気記録媒体は単層媒体に、実施例1はECC媒体1に近い。
【0116】
図中、201は単層媒体のHc、202は単層媒体のHs、203はECC媒体1のHc、204はECC媒体1のHs、205はECC媒体2のHc、206はECC媒体2のHsを各々示す。
【0117】
いずれもアシスト磁界の周波数を高めていくと、ある周波数まではHcおよびHsが減少して、DC磁界による書き込みがしやすくなるが、ある周波数を超えるとアシスト効果がなくなってしまうことが分かる。
【0118】
このような周波数依存性は強磁性共鳴現象によるものであり、共鳴周波数facは下記の式で与えられる。
【0119】
fac=γHeff=γ(Hkeff−Hd)/2π
Hkeffは実効異方性磁界、Hdcは外部から印加する共鳴磁界であり、Hdcで書き直すと以下のようになる。
【0120】
Hdc=Hkeff−2πfac/γ
この式により、図9のような周波数を高めていった時のHcなどの低下が説明でき、一つ目の式から異方性磁界が高いと共鳴周波数が高くなる、つまり図9におけるHcやHsの極小値を取る周波数が高くなることが分かる。
【0121】
記録トラック部はおおよそ図9におけるECC媒体1、サイドイレーズ部が単層媒体のような周波数依存性とみなせるので、高周波アシスト磁界の周波数が10GHz程度であったとすると、サイドイレーズ部の方がHcおよびHsの低下割合が小さいことが分かる。
【0122】
よって,単磁極方の素子のみを用いて磁気記録を行うよりも、同時に高周波磁界も印加すれば、記録トラック領域のHcをより高くしても記録が可能となり、さらに記録トラックと記録トラック間の書き込みやすさの差を広げることが可能となる。Hcを高くできるということは、HkおよびKuも高くすることができるということであり、熱揺らぎ安定性を高めることができる。また,書き込みやすさの差が広がるということは、クロストラックイレージャがさらに低減できるということである。
【0123】
上記の記録再生特性の評価結果はこのようなメカニズムにより生じたものと推定され、したがって、記録トラック上部の異方性磁界を低減したメディアに対して高周波磁界アシスト記録を行うことは、磁気記録媒体および磁気記録再生装置における熱揺らぎ安定性およびトラック密度をさらに高めるのに有効であると考えられる。
【0124】
なお、高周波磁界の発生源としては、主磁極からの磁界に高周波を重畳させたり、ヘッドの外で発生させた高周波を主磁極近傍まで導くなどの方法も考えられるが、より大きな高周波磁界を発生させてヘッドに組み込むことのできるスピントルク発振子を主磁極と補助磁極の間に配置するのが最も有効であると考えられる。
【0125】
本発明にかかる磁気記録再生装置の一例を表す概略図を図10に示す。
【0126】
また、図10に示す磁気記録再生装置に使用できる磁気ヘッドアセンブリの一例を表す図を図11に示す。
【0127】
さらに、図11に示す磁気ヘッドアセンブリに使用できる磁気記録再生ヘッドの一例を表す図を図12に示す。
【0128】
本発明の磁気記録再生装置150は、ロータリーアクチュエータを用いた形式の装置である。同図において、磁気記録媒体ディスク180は、スピンドル152に装着され、図示しない駆動装置制御部からの制御信号に応答する図示しないモータにより矢印Aの方向に回転する。本発明の磁気記録再生装置150は、単数または複数の媒体ディスク180を備えることができる。
【0129】
媒体ディスク180に格納する情報の記録再生を行うヘッドスライダー3は、薄膜状のサスペンション154の先端に取り付けられている。ここで、ヘッドスライダー3は、例えば実施の形態にかかる磁気記録ヘッド5をその先端付近に搭載している。
【0130】
媒体ディスク180が回転すると、ヘッドスライダー3の媒体対向面100(ABS)は媒体ディスク180の表面から所定の浮上量をもって保持される。あるいはスライダーが媒体ディスク180と接触するいわゆる「接触走行型」であってもよい。
【0131】
サスペンション154は、図示しない駆動コイルを保持するボビン部などを有するアクチュエータアーム155の一端に接続されている。アクチュエータアーム155の他端には、リニアモータの一種であるボイスコイルモータ156が設けられている。ボイスコイルモータ156は、アクチュエータアーム155のボビン部に巻き上げられた図示しない駆動コイルと、このコイルを挟み込むように対向して配置された永久磁石および対向ヨークからなる磁気回路とから構成される。
【0132】
アクチュエータアーム155は、スピンドル157の上下2箇所に設けられた図示しないボールベアリングによって保持され、ボイスコイルモータ156により回転摺動が自在にできるようになっている。
【0133】
図11は、アクチュエータアーム155から先の磁気ヘッドアセンブリ160をディスク側から眺めた拡大斜視図である。すなわち、磁気ヘッドアセンブリ160は、例えば駆動コイルを保持するボビン部などを有するアクチュエータアーム155を有し、アクチュエータアーム155の一端にはサスペンション154が接続されている。
【0134】
サスペンション154の先端には、磁気記録再生ヘッド5を具備するヘッドスライダー3が取り付けられている。サスペンション154は信号の書き込みおよび読み取り用のリード線164を有し、このリード線164とヘッドスライダー3に組み込まれた磁気ヘッドの各電極とが電気的に接続されている。図中165は、磁気ヘッドアセンブリ160の電極パッドである。
【0135】
本発明によれば、任意に、高周波磁界を発生する素子を備えた磁気記録ヘッドを具備する磁気記録再生装置を使用することにより、従来よりも高い記録密度で垂直磁気記録型の媒体ディスク180に情報を確実に記録することが可能となる。なお、効果的な高周波アシスト記録を行うためには、使用する媒体ディスク180の共鳴周波数とスピントルク発振子10の発振周波数とをほぼ等しくすることが望ましい。
【0136】
図12に示すように、磁気記録ヘッド5は、再生ヘッド部70と、書込ヘッド部60と、を備えている。再生ヘッド部70は、磁気シールド層72aと、磁気シールド層72bと、磁気シールド層72aと磁気シールド層72bとの間に設けられた磁気再生素子71と、を有する。
【0137】
また、書込ヘッド部60は、主磁極61と、リターンバス(シールド)62と、励磁コイル63と、スピントルク発振子10と、を有する。再生ヘッド部70の各要素、および書込ヘッド部60を構成する各要素は、図示しないアルミナ等の絶縁体により分離されている。磁気再生素子71としては、GMR素子やTMR(Tunnel Magneto−Resistive effect)素子などを利用することが可能である。また、再生分解能をあげるために、磁気再生素子71は、2枚の磁気シールド層72a、72bの間に設置される。
【0138】
図13に、本発明に使用し得るスピントルク発振子の一例の構成を表す概略図を示す。
【0139】
このスピントルク発振子10は、第1の電極41と、スピン注入層30(第2の磁性体層)と、スピン透過率の高い中間層22と、発振層10a(第1の磁性体層)と、第2の電極42と、がこの順に積層された構造を有する。この電極42から電極41へ駆動電子流52を流すことにより、発振層10aから高周波磁界を発生させることができる。
【符号の説明】
【0140】
1…非磁性基板、2…磁気記録層、3…表面改質層、4…下層、5…記録トラック、6…サイドイレーズ領域、7,10…保護膜、8…レジスト層、9…スタンパ
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録技術を用いたハードディスク装置等に用いられる垂直磁気記録媒体及び磁気記録再生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
垂直磁気記録方式は、従来、媒体の面内方向に向けられていた磁気記録層の磁化容易軸を媒体の垂直方向に向けることにより、記録ビット間の境界である磁化遷移領域付近での反磁界が小さくなるため、記録密度が高くなるほど静磁気的に安定となって熱揺らぎ耐性が向上することから、面記録密度の向上に適した方式である。
【0003】
また、基板と垂直記録層との間に軟磁性材料からなる裏打ち層を設けた場合には、単磁極ヘッドと組み合わせることにより、いわゆる垂直二層媒体として機能し、高い記録能力を得ることができる。このとき、軟磁性裏打ち層は磁気ヘッドからの記録磁界を還流させる役割を果たしており、記録再生効率を向上させることができる。
【0004】
HDDの記録密度を更に向上するためには、さらなる磁化反転単位の微細化が有効なことがわかっているが、磁性結晶粒の微細化を進めていくと磁化状態が熱的に不安定になり熱減磁を起こしてしまうことが知られている。これは記録媒体における磁気異方性を高めることで抑制することができるが,その結果,高速での磁化反転が起きにくくなり,記録時の保磁力が高くなって来ている。高保磁力化した媒体に記録する為にはヘッドの主磁極の飽和磁化を上げることで、書き込み能力が向上されてきた。しかし、このような高記録密度媒体における書き込み能力の向上や読み取りヘッドの高感度化により,記録再生時、隣接トラックへの書き込むクロストラックイレージャや隣接トラックからの信号を読み取るクロストラックリードのような記録トラック間での磁気的相互干渉が起きてしまう問題点が発生している。
【0005】
この問題を解決する方法として、磁気ヘッドにおいては主磁極形状やリードトラック幅の縮小など改善が図られている。また媒体の構造に関しては、データトラック間を物理的に分離してトラック間の磁気的干渉を小さくするディスクリートメディア等が考案されている。これらはデータトラック間の記録磁性層をなくし、または凹凸をつけ、物理的にトラック間の磁気的相互作用を小さくしているが、これらの方法では、磁気記録媒体表面に凹凸ができるため、磁気ヘッドの浮上性に支障をきたす恐れがある。
【0006】
記録媒体表面の平坦性を維持しながら、記録トラック密度の向上が可能な垂直磁気記録媒体として、例えば、データトラック領域の保磁力と、データトラック間領域の保磁力とが異なるようにすることにより、トラック間の磁気的干渉を緩和し、クロストラックイレーズを低減する技術がある(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
しかしながら、記録密度の更なる向上が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−147046号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、記録媒体表面の平坦性を維持しながら、トラック密度を高めて面記録密度を向上し、熱揺らぎ耐性の低下を抑制し得る磁気記録媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の磁気記録再生装置は、非磁性基板、及び該非磁性基板上に形成され、同心円またはスパイラル形状の記録トラックを有し、グラニュラ構造をもつ磁気記録層を含む磁気記録媒体と、単磁極型磁気記録ヘッドと、前記単磁極型記録ヘッドの近傍に設けられた高周波磁界を発生する素子とを具備し、
該記録トラックは、その表面領域を改質することにより、該記録トラック間の領域よりも異方性磁界Hkが低減された表面改質層と、該表面改質層の下部に設けられ、改質されていない下層とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、記録媒体表面の平坦性を維持しつつ、熱揺らぎ耐性を抑制しながら、トラック密度を高めて面記録密度を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に用いられる磁気記録層の構造を模式的に表すモデル図である。
【図2】本発明に係る磁気記録媒体の製造方法の一例を説明するための図である。
【図3】本発明に係る磁気記録媒体の製造方法の一例を説明するための図である。
【図4】本発明に係る磁気記録媒体の製造方法の一例を説明するための図である。
【図5】本発明に係る磁気記録媒体の製造方法の一例を説明するための図である。
【図6】本発明に係る磁気記録媒体の製造方法の一例を説明するための図である。
【図7】本発明に係る磁気記録媒体の製造方法の一例を説明するための図である。
【図8】磁気記録媒体のクロストラックプロファイルの例を表すグラフ図である。
【図9】高周波磁界を加えた際のHcとHsの周波数依存性を表すグラフ図である。
【図10】本発明にかかる磁気記録再生装置の一例を表す概略図である。
【図11】本発明に使用できる磁気ヘッドアセンブリの一例を表す図である。
【図12】本発明に使用できる磁気記録再生ヘッドの一例を表す図である。
【図13】本発明に使用し得るスピントルク発振子の一例の構成を表す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に係る磁気記録媒体は、非磁性基板と、非磁性基板上に形成された、同心円またはスパイラル形状の記録トラックを持つ磁気記録層とを有する磁気記録媒体であって、この記録トラックは、その表面領域に表面改質層を有し、この表面改質層は、隣り合う記録トラック間の領域よりもその異方性磁界Hkが低減されている。
【0014】
また、本発明にかかる磁気記録再生装置は、上記磁気記録媒体と単磁極型磁気記録ヘッドとを具備する。
【0015】
本発明では,異方性磁界Hkを通常より高くして書き込みにくくした磁気記録媒体に対してインプリント処理を行い,レジストをマスクとして記録トラック領域に対してフッ化などの処理を行うことにより,磁性層上部の磁気特性の変化した多数の同心円状の記録トラックが形成される。フッ化などの処理によって磁気特性の変化した記録トラック間の領域は成膜直後の状態のままであり、Hkはフッ化などの処理を行った領域より大きい。このようにしてHkが減少したトラックと該トラック間のHkが高い領域の2つの領域が形成される。ここで高Hkとは14kOe以上のことであり、フッ化などの処理後は記録トラック領域における磁性層の上下部を合わせたHkが14〜10kOe程度であることが望ましい。
【0016】
ここで、記録トラック上に磁気ヘッドを用いて記録を行うことにより、主にフッ化などの処理を行った部分にのみ記録磁区が形成される。記録トラックと記録トラックの間の領域は保磁力が高いため磁気ヘッドでは十分な記録磁区が形成できない。つまり、媒体上に磁気ヘッドのトラック幅よりも微小な幅を持つ記録トラックが形成することができる。このようにして、微小なトラック幅を形成することにより、隣接するトラック間の相互作用を低減し、トラック間のクロストラックイレージャの影響を低減することができ、高密度な磁気記録媒体が得られる。
【0017】
また、本発明を用いると、その記録トラックの表面領域に低Hkの表面改質層があることにより、記録時には、この低Hkの表面改質層の磁化が先に回転しながら反転し始め、表面改質層と交換結合している下層の磁化反転を促進する効果があり、表面改質層と下層を合わせた反転磁界及び保磁力が低下する。このような磁化反転機構により、低Hkの表面改質層がない場合と比較して、反転磁界が同じであれば、記録トラック領域においてより高い熱安定性を得ることが可能となる。
【0018】
図1に、本発明に用いられる磁気記録層の構造を模式的に表すモデル図を示す。
【0019】
図示するように、この磁気記録層は、トラック幅11をもつ同心円またはスパイラル形状の記録トラック5を有し、隣り合う記録トラック5間にサイドイレーズ領域6が設けられている。記録トラック5は、表面改質層3とその下に位置する下層4とを有する。
【0020】
基板としては、例えばガラス基板、Al系合金基板、セラミック基板、カーボン基板や、酸化表面を有するSi単結晶基板等を用いることができる。
【0021】
ガラス基板の材料としては、例えばアモルファスガラス、結晶化ガラスがあげられる。アモルファスガラスとしては、例えば汎用のソーダライムガラス、及びアルミノシリケートガラス等を使用できる。また、結晶化ガラスとしては、例えばリチウム系結晶化ガラスを用いることができる。セラミック基板としては、例えば汎用の酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、及び窒化珪素などを主成分とする焼結体や、これらの繊維強化物などが使用可能である。
【0022】
あるいは、基板として、上記金属及び非金属の基板等の表面にメッキ法やスパッタ法を用いてNiP層が形成されたものを用いることもできる。
【0023】
また、基板上への薄膜の形成方法として、スパッタリング法のみを取り上げたが,真空蒸着法や電解メッキ法などでも同様の効果を得ることができる。
【0024】
本発明に用いられる磁気記録層は、例えば強磁性層であり、好ましくは、飽和磁化Msが,200≦Ms≦800emu/ccである。
【0025】
本発明に用いられる磁気記録層としては、例えばCoPt系合金を使用することができる。
【0026】
ここでCoPt系合金中におけるCoとPtの比率は、高い一軸結晶磁気異方性Kuを得るという観点からは、2:1ないし9:1が好ましい。
【0027】
さらに、CoPt系合金は、さらにCrを含むことが好ましい。
【0028】
また、磁気記録層は、さらに酸素を含むことが好ましい。
【0029】
酸素は、酸化物として添加することができる。酸化物としては、特に酸化シリコン、酸化クロム、及び酸化チタンからなる群から選択されるもののうち少なくとも1種が好適である。
【0030】
このような酸化物により、磁気記録層は、Coを含有する磁性結晶粒子と、その周りを取り囲む非晶質酸化物を含有する粒界相とを含む、いわゆるグラニュラー構造となる。
【0031】
この磁性結晶粒子は、垂直磁気記録層を上下に貫いた柱状構造であることが好ましい。このような微細構造を形成することにより、垂直磁気記録層の磁性結晶粒子の結晶配向および結晶性を良好なものとし、結果として高密度記録に適した再生信号出力/ノイズ比(S/N比)が得ることができる。
【0032】
このような微細構造を得るための酸化物の含有量は、Co、Cr、及びPtの総量に対して、3mol%ないし20mol%であることが好ましい。さらに好ましくは5mol%ないし18mol%である。垂直磁気記録層中の酸化物の含有量として上記範囲が好ましいのは、層を形成した際、磁性結晶粒子の周りに磁性が弱いかほとんどない非晶質粒界層が形成され、磁性結晶粒子の孤立化、微細化をすることができるためである。
【0033】
磁気記録層は、その酸化物の含有量が20mol%を超えた場合、酸化物が磁性結晶粒子中に残留し、磁性結晶粒子の配向性、結晶性を損ね、さらには、磁性結晶粒子の上下に酸化物が析出し、結果として、磁性結晶粒子が垂直磁気記録層を上下に貫いた柱状構造が形成されなくなる傾向がある。また、酸化物の含有量が3mol%未満である場合、磁性結晶粒子の分離、微細化が不十分となり、結果として記録再生時におけるノイズが増大し、高密度記録に適した信号/ノイズ比(S/N比)が得られなくなる傾向がある。
【0034】
磁気記録層は、そのCrの含有量が、0原子%ないし30原子%であることが好ましい。さらに好ましくは2原子%ないし28原子%である。Cr含有量が上記範囲であると、磁性結晶粒子の一軸結晶磁気異方性定数Kuを下げすぎず、また、高い磁化を維持し、結果として高密度記録に適した記録再生特性と十分な熱揺らぎ特性が得られる傾向がある。
【0035】
Cr含有量が28原子%を超えると、磁性結晶粒子のKuが小さくなるため熱揺らぎ特性が悪化し、また、磁化が小さくなり再生信号出力が低下することで、結果として記録再生特性が悪くなる傾向がある。
【0036】
磁気記録層は、そのPtの含有量が、10原子%ないし25原子%であることが好ましい。Pt含有量が上記範囲であるのは、垂直磁気記録層に必要なKuを得、さらに磁性結晶粒子の結晶性、配向性が良好であり、結果として高密度記録に適した熱揺らぎ特性、記録再生特性が得られるため、好適だからである。
【0037】
Pt含有量が25原子%を超えた場合、磁性結晶粒子中にfcc構造の層が形成され、結晶性、配向性が損なわれる傾向がある。また、Pt含有量が10原子%未満である場合、高密度記録に適した熱揺らぎ特性を得るためのKuが得られない傾向がある。
【0038】
また、磁気記録層としては、上記合金の他、他のCoPt系合金、CoCr系合金、CoPtCr系合金、CoPtO、CoPtCrO、CoPtSi、CoPtCrSi,およびPt、Pd、Rh、およびRuからなる群より選択された少なくとも一種を主成分とする合金とCoとの多層構造、さらに、これらにCr、BおよびOを添加したCoCr/PtCr、CoB/PdB、CoO/RhOなどを使用することができる。いずれにしても,Coはhcp構造で一軸結晶磁気異方性を持ち,高い保磁力を得やすいことから,垂直磁気記録層はCoを主成分とすることが好ましい。
【0039】
磁気記録層は、必要に応じて積層することができる。
【0040】
積層を行う場合、磁気記録層間に例えばCr、Fe、Co、Ni、Ru、Rh、Pd、及びPtからなる群より選択される少なくとも1種からなる中間層を設けることが出来る。
【0041】
磁気記録層は、単層あるいは積層で、好ましくは3ないし40nm、より好ましくは5ないし30nmの厚さを有する。この範囲であると、より高記録密度に適した磁気記録再生装置として動作し得る。垂直磁気記録層の厚さが3nm未満であると、結晶配向も低く偏析も不十分で再生出力も低過ぎるためノイズ成分の方が高くなる傾向があり、垂直磁気記録層の厚さが40nmを超えると、再生出力が高過ぎて波形を歪ませる傾向がある。
【0042】
垂直磁気記録層の保磁力は、237kA/m(3kOe)以上とすることが好ましい。保磁力が237kA/m(3kOe)未満であると、熱揺らぎ耐性が劣る傾向がある。
【0043】
垂直磁気記録層の垂直角型比は、0.8以上であることが好ましい。垂直角型比が0.8未満であると、熱揺らぎ耐性に劣る傾向がある。
【0044】
表面改質層は、改質前の磁気記録層よりもほんの僅かでもその異方性磁界Hkが低減されていれば、隣接する記録トラック間の磁気的干渉を低減する効果が期待できる。本発明の一実施態様によれば、表面改質層は、改質前の磁気記録層よりもその異方性磁界Hkが50%近く低減されており、その結果、表面改質層とその下部の改質されていない層を合わせた記録トラック領域は、隣り合う記録トラック間の領域よりもその異方性磁界Hkが20%近く低減されている。表面改質層のHk低減率は層厚や狙いの磁気特性などを考慮して決めれば良く、特に好ましい範囲はない。表面の改質が進み過ぎると記録トラック領域の磁気特性が低下し過ぎる傾向があるので、改質層の層厚は磁気記録層厚の半分以下が好ましい。仮に半分の層厚まで改質し、飽和磁化Msを維持したままHkを100%低減した場合を想定すると、上下層を合わせた記録トラック領域のHk低減率の上限は50%程度と考えられる。
【0045】
さらに、磁気記録層の下地層として、例えばRuを使用することが出来る。Ruは記録層の主成分のCoと同じhcpであり,Coとの格子ミスマッチも大き過ぎず,粒径も小さくて柱状成長させやすいなどの点で好ましい。
【0046】
また,製膜中のArガス圧を高めることにより,さらに粒径を微細化した上に,粒径の分散も改善し,粒子間の分断も促進することができる。この場合,結晶配向は悪化する傾向にあるが,必要に応じて,結晶配向を高めやすい低ガス圧のRuと組み合せることでそれを補うことができる。前半を低ガス圧,後半を高ガス圧とする方が好ましく,後半のガス圧については,相対的に前半のガス圧より高ければ同様の効果が期待でき,10Pa以上でも構わない。また,層圧比は,結晶配向を優先するのであれば低ガス圧層の方を厚く,粒径の微細化などを優先するのであれば高ガス圧層の方を厚くすると良い。
【0047】
粒子間の分断に関しては,酸化物を添加することによりさらに促進することができる。酸化物としては、特に酸化シリコン、酸化クロム、及び酸化チタンからなる群から選択されるもののうち少なくとも1種が好適である。
【0048】
非磁性下地層の厚さは,好ましくは2ないし50nm,より好ましくは4ないし30nmである。Ruに限らず,下地層が薄過ぎると十分な連続膜とならず,結晶性も高めにくいために,その上に形成する磁気記録層の微細構造を改善することが難しくなる。厚くした方が結晶性は高めやすくなり,その上の磁気記録層の保磁力も高めやすくなるが,厚くし過ぎるとスペーシングの増加により磁気ヘッドによる記録能力や記録分解能の低下を招くことになる。
【0049】
なお,ここまでは主にRuについて述べたが,非磁性下地層にはfccの金属を用いても,(111)配向とすることによりCo系記録層をhcp(00.1)配向とすることができるので,Coとの格子ミスマッチも考慮して例えばRhやPd,Ptなどを使用することができる。また,Ru、Rh、Pd、及びPtからなる群から選択される少なくとも1種と、Co、及びCrからなる群より選択された少なくとも一種とからなる合金を使用することもできる。
【0050】
本発明の垂直磁気記録媒体において、上記下地層と基板との間には、さらにシード層を設けることができる。
【0051】
シード層を設けることにより,非磁性下地層を通して,磁気記録層の結晶粒径や結晶配向を改善することができる。これらの改善によって非磁性下地層を薄くすることができれば,磁気ヘッドと軟磁性裏打ち層の距離(スペーシング)を短くして記録再生特性を改善することもできる。シード層の磁性については,軟磁気特性を持たせることができれば,裏打ち層としても機能するので,さらに磁気ヘッドとの距離を短くすることができて好適である。
【0052】
シード層の厚さは,好ましくは0.1ないし20nm,より好ましくは0.2ないし10nmである。平均層厚が1原子層以下となると完全に均一に形成できたとしても完全に連続した層とはならないが,島状に点在した構造となっても結晶粒径や結晶配向を改善する効果は期待できる。一方,シード層が良好な特性を示す軟磁性体であればスペーシングの観点からは最大値の制限はなくなるが,磁性がない場合にはスペーシングを増加させてしまうことになる。
【0053】
シード層の材料としては,hcpやfccの金属が結晶配向を高めやすいという利点があるが,bccの金属を用いた場合でも下地層との結晶構造の違いにより下地層の結晶粒径を微細化する効果が期待できる。シード層は必須ではないが,設けるのであれば好適な材料は、例えばPd,Pt,Ni,Ta,Ti、及びその合金からなる群から選択される少なくとも1種を含むことができる。さらに特性を改善するために,これらの材料を混ぜ合わせても良いし,別の元素を混ぜても良く,またそれらを積層しても良い。
【0054】
また、下地層やシード層と基板との間に軟磁性裏打ち層を設けることが出来る。
【0055】
本発明において、高透磁率な軟磁性裏打ち層を設けることにより、軟磁性裏打ち層上に垂直磁気記録層を有するいわゆる垂直二層媒体が構成される。この垂直二層媒体において、軟磁性裏打ち層は、垂直磁気記録層を磁化するための磁気ヘッド例えば単磁極ヘッドからの記録磁界を、水平方向に通して、磁気ヘッド側へ還流させるという磁気ヘッドの機能の一部を担っており、磁気記録層に急峻で充分な垂直磁界を印加させ、記録再生効率を向上させる役目を果たし得る。
【0056】
軟磁性裏打ち層は、単層あるいは積層で、好ましくは20ないし200nmの厚さを有する。
【0057】
軟磁性裏打ち層としては、例えばFe、Ni、及びCoを含む材料を使用することが出来る。このような材料として、FeCo系合金例えばFeCo、FeCoVなど、FeNi系合金例えばFeNi、FeNiMo、FeNiCr、FeNiSiなど、FeAl系合金、FeSi系合金例えばFeAl、FeAlSi、FeAlSiCr、FeAlSiTiRu、FeAlOなど、FeTa系合金例えばFeTa、FeTaC、FeTaNなど、FeZr系合金例えばFeZrNなどを挙げることができる。
【0058】
また、Feを60原子%以上含有するFeAlO、FeMgO、FeTaN、FeZrN等の微結晶構造、あるいは微細な結晶粒子がマトリクス中に分散されたグラニュラー構造を有する材料を用いることができる。
【0059】
軟磁性裏打ち層の他の材料として、Coと、Zr、Hf、Nb、Ta、Ti、及びYのうち少なくとも1種とを含有するCo合金を用いることができる。Coは、好ましくは80原子%以上含まれる。このようなCo合金は、スパッタ法により製膜した場合にアモルファス層が形成されやすく、アモルファス軟磁性材料は、結晶磁気異方性、結晶欠陥および粒界がないため、非常に優れた軟磁性を示す。
【0060】
このようなアモルファス軟磁性材料としては、コバルトを主成分とし,ジルコニウムを副成分として含有する合金例えばCoZr、CoZrNb、及びCoZrTaなどのCoZr系合金を挙げることができる。以上の材料には、アモルファスを形成しやすくするなどの目的で,さらにBを加えることができる。
【0061】
また、軟磁性裏打ち層にアモルファス材料を用いた場合には,アモルファス系の基板と同様に、その上に形成する金属層の結晶配向に直接的な影響をほとんど与えなくなるために,材料を変更しても磁気記録層の構造や結晶性に大きな変化はなく,基本的に同様の磁気特性および記録再生特性が期待できる。CoZr系合金のように3つ目の元素が異なる程度であれば,飽和磁化(Ms),保磁力(Hc),及び透磁率(μ)などの違いも小さいので,ほぼ同等の磁気特性および磁気記録再生特性が得られる。
【0062】
軟磁性層は、例えば軟磁性材料層を、例えばRu等の中間層を介して積層した構造を有し得る。Ruを中間層として用いた場合、その層厚を約0.8nmとすることにより、その上下の隣り合う軟磁性層間に層間相互作用が働き、互いの磁気モーメントを反並行に向けることができる。
【0063】
また、基板と軟磁性裏打ち層との間に例えばCoCrPt合金やSmCo合金等の面内硬磁性層を設けることも出来る。この面内硬磁性層を所望の方向例えばディスクの半径方向に着磁することにより、軟磁性裏打ち層の磁化容易軸をその方向に固定することができる。
【0064】
以下に、本発明に係る垂直磁気記録媒体の作製方法の一例を示す。
【0065】
実施例1
非磁性基板として、ディスク状の洗浄済みのガラス基板(外直径2.5インチ)を用意した。このガラス基板をマグネトロンスパッタ装置(キヤノンアネルバ社製C−3010)の製膜チャンバー内に収容して、到達真空度2×10−5Pa以下となるまで製膜チャンバー内を排気した後、特に断らない限りガス圧約0.6PaのAr雰囲気中で、以下のようにマグネトロンスパッタリングを行なった。
【0066】
非磁性基板上に、まず、軟磁性裏打ち層として、厚さ30nmのCoZrNb合金,厚さ0.7nmのRu,及び厚さ30nmのCoZrNb合金を順次形成した。なお,これら2層のCoZrNb層は,その間に設けたRuにより反強磁性的に結合している。
【0067】
次に、CoZrNb層上に、厚さ6nmのPdシード層を形成した。
【0068】
続いて、厚さ10nmのRu層を形成した後,Arガス圧を6Paまで高めてから,さらに厚さ10nmのRu層を積層して,合計20nmの非磁性下地層を形成した。
【0069】
第1の磁気記録層の形成
その後,(Co−16原子%Pt−10原子%Cr)−8mol%SiO2コンポジットターゲットを用いて,6PaのAr雰囲気中でスパッタリングを行うことにより、第1の磁気記録層を形成した。厚さは20nmとした。
【0070】
第2の磁気記録層の形成
磁気記録層は上記の1層のみでも良いけれども、必要に応じて第2磁気記録層をさらに形成することができる。第2磁気記録層として,Co,CoCr,CoPt,CoCrPtを主成分とした合金,およびさらにそれに酸化物を添加した磁気記録層を積層することができる。
【0071】
あるいは、PdやPtなどの非磁性中間層を厚さ1nm程度に形成してから,Co,CoPtを主成分とした合金,及びさらにそれに酸化物を添加した磁気記録層を積層することができる。
【0072】
続いて、厚さ5nmのC保護層を製膜した後,真空チャンバーから取り出した。
【0073】
インプリント処理
図2ないし図7に、本発明に係る磁気記録媒体の製造方法の一例を説明する。
【0074】
上記のようにして作製した垂直磁気記録媒体は、図2に示すように、基板1と、基板1上に積層された垂直磁気記録層2と、カーボン保護層7とを具備する。
【0075】
なお、この図では、簡単化のために、軟磁性下地層および中間層の図示を省略している。
【0076】
図3に示すように、保護層7上にレジスト8を約200nmの厚さにスピンコート成膜する。その後、記録トラック5とサーボ領域6の凹凸パターンに対応する凹凸パターンが形成されたスタンパ9を2000barで60秒間プレスし、レジスト8にそのパターンを転写する(高圧式インプリント)。
【0077】
ここで、プレスについて簡単に説明する。図示しないが、プレスは、ダイセットの下板および上板を具備している。ダイセットの下板上に、厚み0.1mmのPETで構成されるバッファ層、基板、スタンパの順に積層する。ここで基板のレジスト膜面とスタンパの凹凸面を対向させるように配置する。スタンパの上部にダイセットの上板を配置し、ダイセットの下板と上板とで、バッファ層、基板、スタンパを挟み込む。この形態でプレスを行う。ここで60秒間の保持時間はレジストの移動時間に相当する。
【0078】
図4に示すように、プレス後、図示しない真空ピンセットを用いてスタンパ9を剥離する。スタンパ9にはフッ素系の剥離剤が塗布されているため、レジストがスタンパに付着することはない。インプリントによって作製されたパターンの凹凸高さは約60〜70nmであるため、転写されたパターンの凹部に残るレジスト残渣の膜厚は120nm程度となる。
【0079】
図5に示すように、酸素ガスRIE(反応性イオンエッチング、Reactive Ion Etching)でレジスト8の残渣除去を行う。プラズマソースは、低圧で高密度プラズマが生成可能なICP(誘導結合プラズマ、Inductively Coupled Plasma)が好適だが、ECR(電子サイクロトン共鳴、Electron Cyclotron Resonance)プラズマ、一般的な並行平板型RIE装置でも構わない。ここではICPエッチング装置を用い、チャンバー圧は2mTorrとし、Coil RFとPlaten RFをそれぞれ100Wとした。30秒のエッチングを行い、インプリント工程で凹部に形成されたレジスト残渣を除去した。このエッチングにより、残渣除去に伴って凹部表面の保護層7も除去できる。
【0080】
その後,パターンの凸部上のレジスト8をマスクとし、記録トラック部5における磁気記録層2に対して表面処理を行い、磁気特性を調整した表面改質層3を形成することが出来る。
【0081】
この場合,改質して記録トラック領域表面のHkを低減させるには、以下の方法を用いることもできる。
【0082】
(1)活性なガス種、例えば酸素やフッ素に曝されると,凹部の磁性体は酸化・フッ化等の化学反応を起こし、磁気特性が変化する。この場合一般に,磁気異方性の他,飽和磁化も低下することが多く,異方性磁界および保磁力も低下傾向である。活性なガス種をイオン化し、あるエネルギーで加速して媒体に照射しても良い。
【0083】
また,Arイオンビームを用いたエッチング(Arイオンミリング)により,磁性層上部の加工を行っても良い。
【0084】
(2)凹部に相当する部分をエッチングする際に磁性層にダメージが入るようにする。たとえばArイオンミリングの加速電圧を高くする。このようにすることで、磁性層に欠陥が導入され磁気異方性が低下して異方性磁界も低下する。
【0085】
(3)凹部に相当する部分をエッチングする際にイオンを照射する。エッチングエネルギーよりも小さなエネルギーでイオンを照射することで磁気特性を変化させることができる。
【0086】
なお、媒体表面に凹凸ができない程度に処理を行うことで,媒体の平坦性を維持し,良好なヘッドの浮上特性を得ることができる。
【0087】
これに対し(1)の方法は,化学反応を使用しているので物理的ダメージがなく,特に処理を控え目にしなくとも表面の平滑性を維持することができる。
【0088】
さらに、フッ化などのハロゲン化反応を使用する場合には、一般的なレジストが利用でき、媒体表面へのダメージが極めて小さい酸素アッシングでレジストを簡便に剥離することができる。
【0089】
ハロゲンを含む反応ガスとしては、例えば、CF4、CHF3、CH2F2、C2F6、C4F8、SF6、Cl2、CCl2F2、CF3I、C2F4等のガスを使用できる。
【0090】
なお、活性な反応ガスの形態としては活性なラジカルとするのが望ましい。ラジカルの発生方法には種々の方法があるが、例えば、既存のプラズマCVD装置やドライエッチング装置を利用することができる。これらの装置のチャンバー内に反応ガスを導入し、高周波電圧をかけて、プラズマを発生させると、反応ガスに電界加速された電子が衝突し、反応ガスを分離して化学的に極めて活性なラジカルを生成できる。基板温度は常温で良いが、より反応速度を高めるために強磁性体領域の磁性に影響を与えない範囲で加熱してもよい。
【0091】
プラズマ発生装置として好適な例としては、例えばICP装置が挙げられる。ICP装置には、主にプラズマ発生機能を持つCoil RFと別にプラズマを基板側に誘導する機能を持つPlaten RFが備えられており、これらは別々に出力設定が可能である。例えばCoil RFを300W、Platen RFを0Wに設定することで、ラジカル反応に適した高密度プラズマを生成するとともに、媒体表面にダメージを与えないため、スパッタの効果を最小限に抑えることが可能となる。なお、媒体表面のスパッタを防止するためには、反応装置内の圧力を、やや高め、例えば10〜30mTorr、さらには約20mTorrにすることができる。また、反応ガスとしてCF4を使用する場合は、ガス流量を10〜50sccm、さらには約20sccmとすることができる。
【0092】
例えば、CF4ガスから生成した活性なFラジカルにレジストに被覆されていない磁性体層を曝した場合は、露出している磁性層表面はFラジカルにより次第に深さ方向にフッ化される傾向がある。十分にフッ化すると磁化が消失してしまうが,その前に処理をやめることで適度に磁気特性を低下させることができる。一方、レジストにより表面が被覆されている領域は、フッ化されず磁気特性も変化しない。
【0093】
なお、磁気特性が低下する領域の深さは、磁性層厚より薄くし、記録トラック部は磁気特性の異なる2種類の磁性層が積層される構成にするのが好ましい。上下の磁性層で機能を分けて割り当てることにより所望の磁気特性を実現しやすい他、上層が先に磁化反転を開始して下層の反転を促進する効果が期待できる。さらに,予め上下磁性層が適度に結合できる薄さの中間層を設け、中間層より上の部分だけの磁気特性を低下させた場合には、いわゆるECC(Exchange Coupled Composite)メディアの構成になる。この場合には,保磁力が同じままでもより高い熱安定性揺らぎ耐性を得ることができる。好ましい深さとしては,狙いの磁気特性にもよるが、上下を合わせた全体の保磁力を高く保つことを考えると、一般には磁性層の半分より薄い方が良い。
【0094】
また、媒体の異方性磁界Hkはフッ化などの処理前に比べて20%以上低下させることができる。
【0095】
hcp−CoPtをベースにした材料においては、CoはPtよりも化学反応を起こしやすく、エッチングにより結晶性が低下するため、プロセス条件を適切に調整することにより成膜直後のHkが高く、フッ化などの処理後に磁気ヘッドで記録できるようなHkまで低下する媒体を作製することが可能である。
【0096】
また、本発明の一実施態様によれば、表面改質層の異方性磁界Hkは、50%近く低減され得る。その結果、表面改質層とその下部の改質されていない層を合わせた記録トラック領域の異方性磁界Hkは、約20%の低減となっている。記録トラック領域のHk低減率が50%を超えるということは、例えば表面改質層のHk低減率が100%で、改質層の層厚が磁気記録層の半分を超えるような場合であり、保磁力などの磁気特性が低下し過ぎる傾向がある。記録トラック領域のHk低減率を50%以下とすることにより、記録トラック領域の磁気特性を適度に保ちつつ、記録トラック上と記録トラック間の領域の磁気特性の差を大きくして、主に記録トラックのみに記録し、記録トラック間の領域は記録し難くすることが可能となる。
【0097】
なお,磁気特性の低下の程度や深さは,レジストによるマスクを行わずに,媒体全面に対して上記のフッ化などの処理を全面に行った媒体について,磁気特性や深さ方向のプロファイルを調べることにより,プロセス条件の調整を行った。
【0098】
図6に示すように、残渣を除去して記録トラックが露出した状態で、パターンの凸部上のレジストをマスクとし、ICP装置中でFラジカルに10秒間の暴露を行った。記録トラック領域上部の磁気特性を低下させた後,マスクとして用いたレジストを酸素アッシャーを用いて除去した。一般的なフォトレジストを用いた場合は、酸素プラズマ処理を行うことで容易に剥離することが可能である。ここでは、酸素アッシング装置において1Torr、400Wの条件下で、5分間の処理を行うことにより、完全にレジストを剥離した。レジストの剥離と同時に、凸部の表面にある保護層も剥離される。
【0099】
一方、SOGをエッチングマスクとした場合、この工程はフッ素系ガスを用いたRIEで行う必要がある。この場合,上述のように磁性層がフッ化される化学反応が起きるので,SOGの剥離と記録トラック領域上部の磁気特性の低下を同時に行うことができる。フッ素系ガスとしてはSF6が好適だが、大気中の水と反応してHF、H2SO4等の酸が生じることがあるため、水洗を行う必要がある。
【0100】
図7に示すように、レジスト剥離後、C保護層10の形成を行う。C保護層10は、凹凸へのカバレッジを良くするためにCVD法で成膜することができるけれども、スパッタ法、真空蒸着法を使用することも出来る。CVD法を用いた場合、sp3結合炭素を多く含むDLC膜が形成される。膜厚は2nm以下であるとカバレッジが悪くなり、10nm以上であると、記録再生ヘッドと媒体との磁気スペーシングが大きくなってSNRが低下するので好ましくない。ここでは、スパッタ法を用いて5nmのC保護層を形成した。
【0101】
さらに、ディッピング法により、保護層10上に厚さ1.5nmのパーフルオロポリエーテルからなる潤滑層を形成して、実施例1の垂直磁気記録媒体を得た。
【0102】
なお、ここでは高圧インプリント法を例としてあげて説明したが、他のインプリント法を用いて本発明の磁気記録媒体を加工することも可能である。
【0103】
このようにして作製された磁気記録媒体について、試料表面の組成をAES(Auger Electron Spectroscopy;オージェ電子分光)装置を用いて,試料表面をスパッタして削りながら深さ方向の組成分析を行ったところ、媒体表面から深さ5nm程度までCoがフッ化されていることが分かった。
【0104】
さらに、レジストによるマスクなしで上層のみのフッ化処理を行った前後で,飽和磁化Ms,垂直磁気異方性Kuを測定し、異方性磁界Hkを、式Hk=2Ku/Msから求めたところ,Hkは15kOeから12.5kOeまで低下していることが分かった。これは上下磁性層を合わせて測定した値であるが,上層のみのHkを計算すると8kOeまで低下していることになる。
【0105】
このようにして、フッ化処理によって異方性磁界が低下した領域(表面改質層)、およびフッ化処理されておらず異方性磁界が変化していない領域の2つの領域が形成された。ここで、フッ化処理により異方性磁界が低下した領域を記録トラックとして用いる。
【0106】
記録再生特性の測定
記録再生特性に関しては、リードライトアナライザ及びスピンスタンドを用いて評価を行った。
【0107】
また、情報の記録再生には、補助磁極先端が主磁極近くまで伸びるように形成されたシールデッドポール型の単磁極型記録素子と巨大磁気抵抗効果(GMR)再生素子を備えた垂直記録用の複合型ヘッドを用いた。なお、ここではシールデッドポール型の記録素子を用いたが,補助磁極が主磁極から離れた従来型の単磁極型記録素子を用いても良い。また,記録磁極の材料としてはCoFeNiを用いたが、例えばCoFe,CoFeN,NbFeNi,FeTaZr、及びFeTaNなどの材料を用いても良い。また、これらの磁性材料を主成分としてさらに添加元素を加えても良い。
【0108】
ここで、フッ化処理により保磁力が低下した領域を中心にして、線記録密度200kfciの信号を記録して、その再生出力TAAの記録電流依存性を測定した。次に記録したトラックをはさんで、磁気ヘッドの半径位置を動かしながらクロストラックプロファイルを計測すると図8の結果が得られた。
【0109】
また、比較例1としてインプリント処理を行わないこと以外は実施例1と同様にして上記媒体のフッ化処理後と同程度である保磁力4.5kOeを有する別の磁気記録媒体,および,比較例2として実施例1においてインプリントやフッ化などの処理を行う前の保磁力6kOeを有する別の磁気記録媒体に,同一磁気ヘッドを用いて線記録密度200kfciの信号を記録し、実施例と同様に記録電流依存性およびクロストラックプロファイルを計測した。その時の結果を図8に示す。
【0110】
図中、101は実施例1、102は比較例1、及び103は比較例3を各々示す。
【0111】
図8におけるトラックプロファイルの半値幅がトラック幅である。このトラック幅が大きいと高密度記録をしたときに、隣接トラックへの信号の書き込み、もしくは隣接トラックからの信号の読み込みにつながるので、この値は小さい方が望ましい。
【0112】
実施例1と比較例1におけるトラックプロファイルからの求められた半値幅を比較すると、比較例1では160nmであるのに対して、実施例1は110nmとなり、その半値幅つまり記録領域の幅が小さくなったことがわかる。一方,半値幅に関して言えば,比較例2も110nmでほぼ変わりはないが,TAAが小さくなっており十分に書き込みができていないことが分かる。つまり、磁気ヘッドからの書き込み磁場に対し、フッ化処理で保磁力の小さくなった領域にだけ主に記録磁区が形成され、フッ化処理を行っていない領域は、媒体の保磁力が高く磁気ヘッドの起磁力を上回っており、媒体に十分に記録磁区が形成されなかったことがわかる。このように実施例では比較例に比べて、同一磁気ヘッドを用いて記録してもトラック幅が小さくなることがわかる。以上のように,記録トラック上部の異方性磁界を低下させることにより、クロストラックイレージャが低減でき、よりトラック密度を高めた磁気記録媒体を提供できることが確認できた。
【0113】
本実施例では磁気記録層としてCoPtCr−SiO2を用いたが、これに限らず、CoCrPtB系やCo/Pt,Co/Pd系多層膜、規則合金系のFePt系やそれ以外の磁気記録媒体に用いる磁性層において、フッ化などの処理により磁気特性が変化するものを用いることにより同様の効果を得ることは可能である。
【0114】
なお、実施例1の媒体について電磁石で一旦飽和させてから、インプリント前のHnまたはHc程度の逆向きの磁界を印加して磁気力顕微鏡(MFM)で観察を行ったところ、同心円状に磁化反転が進んでいる領域と遅れている領域がトラックピッチに対応する間隔で交互に現れた。このように、本発明にかかる磁気記録媒体は、同心円状に保磁力差が生じている様子が容易に確認できることがわかった。
【0115】
ここで,Hk=14kOe、Ms=980emu/ccの単層媒体、上層3nmをHk=7kOe、Ms=1300emu/ccとして下層との層間結合を弱めたECC媒体1、および上層3nmをHk=10 Oe、Ms=1300emu/ccとして下層との層間結合を弱めたECC媒体2について、高周波磁界を加えた際の保磁力Hcと飽和磁界Hsの周波数依存性についてシミュレーションを行った結果を図9に示す。なお、比較例1の磁気記録媒体は単層媒体に、実施例1はECC媒体1に近い。
【0116】
図中、201は単層媒体のHc、202は単層媒体のHs、203はECC媒体1のHc、204はECC媒体1のHs、205はECC媒体2のHc、206はECC媒体2のHsを各々示す。
【0117】
いずれもアシスト磁界の周波数を高めていくと、ある周波数まではHcおよびHsが減少して、DC磁界による書き込みがしやすくなるが、ある周波数を超えるとアシスト効果がなくなってしまうことが分かる。
【0118】
このような周波数依存性は強磁性共鳴現象によるものであり、共鳴周波数facは下記の式で与えられる。
【0119】
fac=γHeff=γ(Hkeff−Hd)/2π
Hkeffは実効異方性磁界、Hdcは外部から印加する共鳴磁界であり、Hdcで書き直すと以下のようになる。
【0120】
Hdc=Hkeff−2πfac/γ
この式により、図9のような周波数を高めていった時のHcなどの低下が説明でき、一つ目の式から異方性磁界が高いと共鳴周波数が高くなる、つまり図9におけるHcやHsの極小値を取る周波数が高くなることが分かる。
【0121】
記録トラック部はおおよそ図9におけるECC媒体1、サイドイレーズ部が単層媒体のような周波数依存性とみなせるので、高周波アシスト磁界の周波数が10GHz程度であったとすると、サイドイレーズ部の方がHcおよびHsの低下割合が小さいことが分かる。
【0122】
よって,単磁極方の素子のみを用いて磁気記録を行うよりも、同時に高周波磁界も印加すれば、記録トラック領域のHcをより高くしても記録が可能となり、さらに記録トラックと記録トラック間の書き込みやすさの差を広げることが可能となる。Hcを高くできるということは、HkおよびKuも高くすることができるということであり、熱揺らぎ安定性を高めることができる。また,書き込みやすさの差が広がるということは、クロストラックイレージャがさらに低減できるということである。
【0123】
上記の記録再生特性の評価結果はこのようなメカニズムにより生じたものと推定され、したがって、記録トラック上部の異方性磁界を低減したメディアに対して高周波磁界アシスト記録を行うことは、磁気記録媒体および磁気記録再生装置における熱揺らぎ安定性およびトラック密度をさらに高めるのに有効であると考えられる。
【0124】
なお、高周波磁界の発生源としては、主磁極からの磁界に高周波を重畳させたり、ヘッドの外で発生させた高周波を主磁極近傍まで導くなどの方法も考えられるが、より大きな高周波磁界を発生させてヘッドに組み込むことのできるスピントルク発振子を主磁極と補助磁極の間に配置するのが最も有効であると考えられる。
【0125】
本発明にかかる磁気記録再生装置の一例を表す概略図を図10に示す。
【0126】
また、図10に示す磁気記録再生装置に使用できる磁気ヘッドアセンブリの一例を表す図を図11に示す。
【0127】
さらに、図11に示す磁気ヘッドアセンブリに使用できる磁気記録再生ヘッドの一例を表す図を図12に示す。
【0128】
本発明の磁気記録再生装置150は、ロータリーアクチュエータを用いた形式の装置である。同図において、磁気記録媒体ディスク180は、スピンドル152に装着され、図示しない駆動装置制御部からの制御信号に応答する図示しないモータにより矢印Aの方向に回転する。本発明の磁気記録再生装置150は、単数または複数の媒体ディスク180を備えることができる。
【0129】
媒体ディスク180に格納する情報の記録再生を行うヘッドスライダー3は、薄膜状のサスペンション154の先端に取り付けられている。ここで、ヘッドスライダー3は、例えば実施の形態にかかる磁気記録ヘッド5をその先端付近に搭載している。
【0130】
媒体ディスク180が回転すると、ヘッドスライダー3の媒体対向面100(ABS)は媒体ディスク180の表面から所定の浮上量をもって保持される。あるいはスライダーが媒体ディスク180と接触するいわゆる「接触走行型」であってもよい。
【0131】
サスペンション154は、図示しない駆動コイルを保持するボビン部などを有するアクチュエータアーム155の一端に接続されている。アクチュエータアーム155の他端には、リニアモータの一種であるボイスコイルモータ156が設けられている。ボイスコイルモータ156は、アクチュエータアーム155のボビン部に巻き上げられた図示しない駆動コイルと、このコイルを挟み込むように対向して配置された永久磁石および対向ヨークからなる磁気回路とから構成される。
【0132】
アクチュエータアーム155は、スピンドル157の上下2箇所に設けられた図示しないボールベアリングによって保持され、ボイスコイルモータ156により回転摺動が自在にできるようになっている。
【0133】
図11は、アクチュエータアーム155から先の磁気ヘッドアセンブリ160をディスク側から眺めた拡大斜視図である。すなわち、磁気ヘッドアセンブリ160は、例えば駆動コイルを保持するボビン部などを有するアクチュエータアーム155を有し、アクチュエータアーム155の一端にはサスペンション154が接続されている。
【0134】
サスペンション154の先端には、磁気記録再生ヘッド5を具備するヘッドスライダー3が取り付けられている。サスペンション154は信号の書き込みおよび読み取り用のリード線164を有し、このリード線164とヘッドスライダー3に組み込まれた磁気ヘッドの各電極とが電気的に接続されている。図中165は、磁気ヘッドアセンブリ160の電極パッドである。
【0135】
本発明によれば、任意に、高周波磁界を発生する素子を備えた磁気記録ヘッドを具備する磁気記録再生装置を使用することにより、従来よりも高い記録密度で垂直磁気記録型の媒体ディスク180に情報を確実に記録することが可能となる。なお、効果的な高周波アシスト記録を行うためには、使用する媒体ディスク180の共鳴周波数とスピントルク発振子10の発振周波数とをほぼ等しくすることが望ましい。
【0136】
図12に示すように、磁気記録ヘッド5は、再生ヘッド部70と、書込ヘッド部60と、を備えている。再生ヘッド部70は、磁気シールド層72aと、磁気シールド層72bと、磁気シールド層72aと磁気シールド層72bとの間に設けられた磁気再生素子71と、を有する。
【0137】
また、書込ヘッド部60は、主磁極61と、リターンバス(シールド)62と、励磁コイル63と、スピントルク発振子10と、を有する。再生ヘッド部70の各要素、および書込ヘッド部60を構成する各要素は、図示しないアルミナ等の絶縁体により分離されている。磁気再生素子71としては、GMR素子やTMR(Tunnel Magneto−Resistive effect)素子などを利用することが可能である。また、再生分解能をあげるために、磁気再生素子71は、2枚の磁気シールド層72a、72bの間に設置される。
【0138】
図13に、本発明に使用し得るスピントルク発振子の一例の構成を表す概略図を示す。
【0139】
このスピントルク発振子10は、第1の電極41と、スピン注入層30(第2の磁性体層)と、スピン透過率の高い中間層22と、発振層10a(第1の磁性体層)と、第2の電極42と、がこの順に積層された構造を有する。この電極42から電極41へ駆動電子流52を流すことにより、発振層10aから高周波磁界を発生させることができる。
【符号の説明】
【0140】
1…非磁性基板、2…磁気記録層、3…表面改質層、4…下層、5…記録トラック、6…サイドイレーズ領域、7,10…保護膜、8…レジスト層、9…スタンパ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非磁性基板、及び該非磁性基板上に形成され、同心円またはスパイラル形状の記録トラックを有し、グラニュラ構造をもつ磁気記録層を含む磁気記録媒体と、単磁極型磁気記録ヘッドと、前記単磁極型記録ヘッドの近傍に設けられた高周波磁界を発生する素子とを具備し、
該記録トラックは、その表面領域を改質することにより、該記録トラック間の領域よりも異方性磁界Hkが低減された表面改質層と、該表面改質層の下部に設けられ、改質されていない下層とを有することを特徴とする磁気記録再生装置。
【請求項1】
非磁性基板、及び該非磁性基板上に形成され、同心円またはスパイラル形状の記録トラックを有し、グラニュラ構造をもつ磁気記録層を含む磁気記録媒体と、単磁極型磁気記録ヘッドと、前記単磁極型記録ヘッドの近傍に設けられた高周波磁界を発生する素子とを具備し、
該記録トラックは、その表面領域を改質することにより、該記録トラック間の領域よりも異方性磁界Hkが低減された表面改質層と、該表面改質層の下部に設けられ、改質されていない下層とを有することを特徴とする磁気記録再生装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
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【図5】
【図6】
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【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2010−27207(P2010−27207A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−253481(P2009−253481)
【出願日】平成21年11月4日(2009.11.4)
【分割の表示】特願2008−158158(P2008−158158)の分割
【原出願日】平成20年6月17日(2008.6.17)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年11月4日(2009.11.4)
【分割の表示】特願2008−158158(P2008−158158)の分割
【原出願日】平成20年6月17日(2008.6.17)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
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