説明

磁気記録媒体、及び磁気記録媒体の製造方法

【課題】耐候性及び高記録密度を共に有する磁気記録媒体を提供すること。
【解決手段】本発明の磁気記録媒体2は、SmCo系磁性微粒子12と、疎水性バインダと、を少なくとも含む磁性層6を備え、SmCo系磁性微粒子12が、SmCo系ナノ粒子からなるコア14と、コア14の表面の少なくとも一部を被覆する親水性高分子16と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録媒体、及び磁気記録媒体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気記録媒体の一種である磁気記録テープは、通常、ベースフィルムと、ベースフィルムの一方の面上に形成された磁性層と、ベースフィルムの他方の面上に形成されたバックコート層とから構成される。磁性層は、磁性材料及びバインダ(樹脂材料)等を含有する層であり、バックコート層は、カーボンブラック等の非磁性粉末及びバインダ等を含有する層である。近年、SOX法、e−文書法の導入等に見られるようなIT社会化の進展に対応すべく、磁気記録媒体の長期保存化及び高記録密度化が求められている。
【0003】
磁気記録媒体の磁性層に含まれる磁性材料の一例としては、下記特許文献1に、SmCo合金からなるSmCo系磁性微粒子が開示されている。SmCo合金は、極めて高い一軸性の結晶磁気異方性を示すため、高記録密度を実現する磁気記録媒体用の磁性材料として好適である。
【0004】
【特許文献1】特開2006−245313号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のSmCo系磁性微粒子の表面は親水性を示すため、SmCo系磁性微粒子は、一般的なバインダの中でも特に親水性バインダとの親和性が高く、親水性バインダ中に分散し易い。そのため、SmCo系磁性微粒子と親水性バインダとを用いて磁性層を形成すれば、磁性層中にSmCo系磁性微粒子を均一に分散させ易くなる。しかしながら、このような磁性層では、親水性バインダが大気中の水分(湿気)を吸収し、この水分によってSmCo系磁性微粒子が酸化してしまい、磁性微粒子の磁気特性が劣化する傾向があった。磁気記録媒体には、記録データの長期保存中において磁性微粒子が酸化し難く、磁性微粒子及び磁気記録媒体の磁気特性が劣化し難い特性(以下、耐候性と記す。)が要求されるため、上述の親水性バインダによる水分の吸収及び水分によるSmCo系磁性微粒子の酸化が問題であった。
【0006】
また、磁気記録媒体を高記録密度化するためには、磁気特性に優れたSmCo系磁性微粒子を微細化することが要求されるが、SmCo系磁性微粒子を微細化するほど、SmCo系磁性微粒子の比表面積が増加し、SmCo系磁性微粒子が酸化し易くなる傾向があった。このように、磁気記録媒体の高記録密度化を図るほど、SmCo系磁性微粒子が酸化し易くなり、磁気記録媒体の耐候性が損なわれ易いことも問題であった。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、耐候性及び高記録密度を共に有する磁気記録媒体、及び当該磁気記録媒体を容易に得るための磁気記録媒体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の磁気記録媒体は、SmCo系磁性微粒子と、疎水性バインダと、を少なくとも含む磁性層を備え、SmCo系磁性微粒子が、SmCo系ナノ粒子からなるコアと、コアの表面の少なくとも一部を被覆する親水性高分子と、を有する。
【0009】
なお、本発明におけるSmCo系ナノ粒子とは、SmCo系合金から構成され、且つ平均粒径が1nm以上100nm未満の粒子を意味する。
【0010】
上記本発明の磁気記録媒体が備える磁性層では、親水性のSmCo系ナノ粒子からなるコアと、コアの表面の少なくとも一部を被覆する親水性高分子とを有するSmCo系磁性微粒子が、疎水性バインダ中に分散しており、いわば疎水性バインダによって囲まれた状態となっている。SmCo系ナノ粒子は、疎水性バインダとも親和性を示す親水性高分子に被覆されているため、疎水性バインダ中に良好に分散される。そして、この疎水性バインダは大気中の水分を吸収し難いため、疎水性バインダ中のSmCo系ナノ粒子が水分によって酸化することを抑制できる。したがって、上記本発明では、疎水性バインダを用いない場合に比べて、SmCo系ナノ粒子の酸化及び磁気特性の劣化を抑制でき、磁気記録媒体の耐候性を向上させることができる。
【0011】
また、本発明では、極めて高い一軸性の結晶磁気異方性を示し、且つ平均粒径が1nm以上100nm未満となる程度に微細化したSmCo系ナノ粒子をコアとして有するSmCo系磁性微粒子を磁性材料として用いるため、磁気記録媒体を高記録密度化することができる。
【0012】
本発明の磁気記録媒体の製造方法は、Sm塩、Co塩、及び親水性高分子を溶媒に溶解又は分散させた反応溶液を加熱して、SmCo系ナノ粒子及び親水性高分子を含む混合物を得る工程と、混合物に疎水性バインダを加えて、磁性塗料を得る工程と、磁性塗料を用いて、SmCo系ナノ粒子からなるコアと、コアの表面の少なくとも一部を被覆する親水性高分子と、を有するSmCo系磁性微粒子と、疎水性バインダと、を少なくとも含む磁性層を形成する工程と、を備えることを特徴する。
【0013】
上記本発明の製造方法によれば、上記本発明の磁気記録媒体を容易に形成することができる。
【0014】
上記本発明の磁気記録媒体の製造方法では、磁性塗料に界面活性剤を更に含有させることが好ましい。
【0015】
界面活性剤を含有する磁性塗料から形成した磁性層においては、SmCo系磁性微粒子が疎水性バインダ中に更に分散し易くなり、疎水性バインダに囲まれ易くなるため、SmCo系ナノ粒子が水分により酸化することを更に抑制できると共に、磁気記録媒体の耐候性及び電磁変換特性を向上させることができる。また、磁性層に界面活性剤を含ませることによって、磁性層の剛性を向上させることもできる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、耐候性及び高記録密度を共に有する磁気記録媒体を提供することが可能となる。また本発明によれば、耐候性及び高記録密度を共に有する磁気記録媒体を容易に得るための製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の好適な一実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。なお、図面の説明において、同一または相当要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。また、各図面の寸法比率は、必ずしも実際の寸法比率とは一致していない。
【0018】
(磁気記録媒体)
図1に示すように、本実施形態の磁気記録媒体(磁気記録テープ2)は、ベースフィルム4と、磁性層6と、バックコート層8と、を備える。ベースフィルム4の一方の面には、バックコート層8が積層されている。また、ベースフィルム4の他方の面にはアンダーコート層10が積層されていることが好ましく、このアンダーコート層10の上に磁性層6が積層されていることが好ましい。このように、磁気記録テープ2は、記録再生装置による各種記録データの記録再生が可能となるように構成されている。
【0019】
(磁性層6)
磁性層6は、SmCo系磁性微粒子12と、疎水性バインダと、を少なくとも含む。磁性層6中には疎水性バインダが均一に分布しており、この疎水性バインダ中にSmCo系磁性微粒子12が分散している。
【0020】
磁性層6の表面の中心線平均粗さRaは1〜2nmであることが好ましい。磁性層6の表面の中心線平均粗さRaが小さ過ぎる場合、磁性層6の表面が平滑すぎて、磁気記録テープ2の走行安定性が悪化して走行中のトラブルが生じ易くなる傾向がある。一方、磁性層6の表面の中心線平均粗さRaが大き過ぎる場合、MR型ヘッドを用いた再生システムにおいて再生出力等の電磁変換特性が劣化する傾向にある。そこで、磁性層6の表面の中心線平均粗さRaを上記の好適範囲内とすることにより、これらの傾向を抑制でき、磁気記録テープ2の電磁変換特性を向上させることができる。
【0021】
磁性層6の厚さは0.01〜0.08μmであることが好ましい。磁性層6の厚さが薄過ぎる場合、磁性層6の厚み方向におけるSmCo系磁性微粒子12の個数が少なくなり、磁束密度が低下し、キャリア出力を得難くなる傾向がある。また、磁性層6の厚さが厚過ぎる場合、自己減磁損失や厚み損失が大きくなる傾向がある。そこで、磁性層6の厚さを上記の好適範囲内とすることによって、これらの傾向を抑制でき、磁気記録テープ2の電磁変換特性を向上させることができる。
【0022】
<SmCo系磁性微粒子12>
図2に示すように、磁性層6に含まれるSmCo系磁性微粒子12は、SmCo系ナノ粒子14(コア)と、SmCo系ナノ粒子14の表面の少なくとも一部を被覆する親水性高分子16とを備える。なお、図2に示す親水性高分子16は、親水性高分子16の一分子を示すものではなく、コア14の表面を被覆する複数の親水性高分子16から形成される層を模式的に示したものである。
【0023】
<SmCo系ナノ粒子14>
SmCo系磁性微粒子12がコアとして備えるSmCo系ナノ粒子14は、SmCo系合金から構成される。SmCo系合金は、酸化物磁性体、単一金属、又はFe−Co合金等の従来の磁性材料と比較して、非常に大きな結晶磁気異方性を持つため、従来の磁性材料より優れた磁気特性を発現できる。従来の磁性材料の代わりに、SmCo系磁性微粒子12を磁性層6に含有させることにより、磁気記録テープ2の熱安定性が向上し、磁気記録テープ2の信頼性が高くなる。
【0024】
SmCo系合金としては、SmとCoとのモル比が異なる種々の合金を用いることができる。これらのSmCo系合金は、その合成時において、Sm及びCo等の各材料物質の仕込み量や反応条件を適宜調整することにより形成することができる。
【0025】
SmCo系ナノ粒子14の平均粒径は1nm以上100nm未満であり、2〜80nmであることが好ましい。SmCo系ナノ粒子14の平均粒径が80nmより大きい場合、磁性層6の表面性が悪化したり、磁性層6におけるSmCo系磁性微粒子12の充填密度が低下して短波長記録における磁気記録テープ2の磁気特性が低下したりする傾向がある。また、SmCo系ナノ粒子14の平均粒径が2nmより小さい場合、SmCo系ナノ粒子14の体積に対する表面酸化層の割合が多くなるため、SmCo系ナノ粒子14の磁気特性が低下する傾向がある。そこで、SmCo系ナノ粒子14の平均粒径を2〜20nmとすることによって、これらの傾向を抑制でき、磁気記録テープ2の磁気特性及び電磁変換特性を向上させることができる。
【0026】
なお、一般的な磁気記録テープの磁性層の厚みは、湿潤状態で0.1〜0.2μmであり、この膜厚を超える磁性微粒子は使用できない。したがって一般的な磁気記録テープの磁性層に使用できる磁性微粒子の平均粒径は0.1μm(100nm)以下とする必要がある。平均粒径が0.1μmより大きい磁性微粒子を使用すると、磁性層表面の中心線粗さRaが大きくなるため、磁性層表面との接触によりヘッドが磨耗し易く、またヘッドの磨耗防止のためにテープ(磁性層)とヘッドとの間のスペースを余分に確保することにより、記録又は再生の出力が低下したりするなどの不具合が生じる傾向がある。このような傾向を回避する観点からも、SmCo系ナノ粒子14の平均粒径を上記の好適範囲内とすることが好ましい。
【0027】
SmCo系ナノ粒子14は球状であることが好ましい。これにより、SmCo系ナノ粒子14の比表面積が小さくなるため、SmCo系ナノ粒子14の酸化を抑制でき、磁気テープ2の耐候性を向上させることができる。また、SmCo系ナノ粒子14を球状とすると、SmCo系磁性微粒子12も球状となり、磁性層6におけるSmCo系磁性微粒子12の充填密度を高くすることが可能となるため、磁気記録テープ2の記録密度を更に向上させることができる。
【0028】
<親水性高分子16>
SmCo系磁性微粒子12においてSmCo系ナノ粒子14を被覆する親水性高分子16は、分子内において極性の高い基又は電荷を有する基を有し、水に対する親和性の高い高分子である。具体的な親水性高分子16としては、例えば、ポリ(N−ビニル−2−ピロリドン)、ポリアクリル酸、ポリマレイン酸、ポリグルタミン酸、およびこれらの塩、ビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリアクリルアミド、ポリビニルアミン、ポリエチレンイミン、あるいはこれらの誘導体および共重合体、セルロース、水溶性アクリル樹脂、水溶性ポリビニルアセタール、水溶性ポリビニルブチラール及び水溶性ウレタン樹脂等を用いることができる。なお、これらの親水性高分子16は、互いに架橋可能な構造を有していてもよい。
【0029】
親水性高分子16の平均分子量は、100〜10000であることが好ましく、500〜8000であることがより好ましい。親水性高分子16の分子量が小さ過ぎる場合、親水性高分子16の合成が困難となり、またSmCo系微粒子12の表面を親水性高分子16で充分に被覆し難い傾向がある。一方、親水性高分子16の分子量が大き過ぎる場合、磁性層6を形成するための塗布液に含まれる溶媒に対して親水性高分子16が溶解し難くなる傾向があり、また、親水性高分子16の分子鎖が長くなり過ぎるため、1つの親水性高分子16に複数のSmCo系ナノ粒子14が吸着し易く、SmCo系ナノ粒子14が単分散粒子となり難い傾向がある。そこで、親水性高分子16の平均分子量を上記の好適範囲内とすることにより、これらの傾向を抑制でき、疎水性バインダ中におけるSmCo系微粒子12の分散性を向上させることができる。
【0030】
<疎水性バインダ>
磁性層6に含まれる疎水性バインダは、電気的に中性であり、且つ低極性であって、水に対する親和性が低いバインダである。この疎水性バインダは、磁性層6の耐湿性を向上させる他に、磁性層6の塗膜強度を向上させる機能も有している。すなわち、疎水性バインダの分子量、キュリー温度(Tg)、又は分子構造を適切に選択することによって、磁気記録テープ2に要求される耐湿性や塗膜強度等の諸特性を満足することができる。具体的な疎水性バインダとしては、例えば、疎水性ウレタン、塩化ビニル、ポリアミド及びポリエステル等を用いることができる。なお、疎水性バインダは、その疎水性を損なわない限りにおいて、分子中に水酸基を有することが好ましい。これにより、磁性層6の塗膜強度を向上させることができる。また、これらの疎水性バインダは、互いに架橋可能な構造を有していてもよい。
【0031】
疎水性バインダの平均分子量は、5000〜100000程度であることが好ましく、10000〜50000程度であることがより好ましい。疎水性バインダの平均分子量が小さ過ぎる場合、磁性層6の塗膜強度を向上させる効果が小さくなる傾向があり、疎水性バインダの平均分子量が大き過ぎる場合、磁性層6を形成するための塗布液に含まれる溶媒に対して疎水性バインダが溶解し難くなる傾向がある。そこで、疎水性バインダの平均分子量を上記の好適範囲内とすることにより、これらの傾向を抑制できる。
【0032】
<界面活性剤>
磁性層6は、SmCo系磁性微粒子12及び疎水性バインダに加えて、界面活性剤を更に含むことが好ましい。これにより、磁性層6中のSmCo系磁性微粒子12が界面活性剤で被覆される。SmCo系磁性微粒子12を被覆した界面活性剤は、疎水性バインダとの親和性を示す疎水性基を分子中に有するため、界面活性剤で被覆されたSmCo系磁性微粒子12を疎水性バインダ中に均一に分散させる機能を有する。すなわち、界面活性剤は、SmCo系磁性微粒子12を疎水性バインダ中に分散させるための分散剤として機能することができる。このように、磁性層6に界面活性剤を含有させることにより、SmCo系磁性微粒子12が疎水性バインダ中に更に分散し易くなり、疎水性バインダに囲まれ易くなるため、SmCo系ナノ粒子14が水分により酸化することを更に抑制できると共に、磁気記録テープ2の耐候性及び電磁変換特性を向上させることができる。また、磁性層6に界面活性剤を含ませることによって、磁性層6とアンダーコート層10との接着性を向上させることができ、また磁性層6の剛性を向上させることもできる。
【0033】
界面活性剤としては、例えば、アニオン系活性剤、ノニオン系活性剤及び高分子系活性剤等を用いることができる。アニオン系活性剤としては、スルホン酸系活性剤等が挙げられる。ノニオン系活性剤としては、脂肪酸系、脂肪酸エステル系、アルキルアミン系、及びポリオキシエチレンアルキルアミン系の各活性剤が挙げられる。高分子系活性剤としては、アクリル系、ウレタン系、ビニルアルコール系、及びビニルピロリドン系の各活性剤等が挙げられる。なお、これらの界面活性剤は、SmCo磁性微粒子12を被覆した際に、SmCo磁性微粒子12の外側に向けて界面活性剤同士の立体障害が大きくなるような構造を有することが好ましい。これによりSmCo系磁性微粒子12がナノスケールでは互いに凝集し難くなるが、磁気記録テープ2の磁性層6中においては均一且つ高密度に分布し易くなる。また、これらの界面活性剤は、互いに架橋可能な構造を有していてもよい。
【0034】
上述の界面活性剤の中でも、脂肪酸系活性剤、アルキルアミン系活性剤、または高分子系活性剤は、磁性層6を形成するための塗布液を調製する際に、SmCo系ナノ微粒子14を被覆した親水性高分子16のうち、過剰な分の親水性高分子16を洗浄で除去した後、SmCo系ナノ微粒子14を疎水性バインダと混練するための分散剤として特に好適である。また、オレイン酸やステアリン酸などの脂肪酸系活性剤、またはオレイルアミンやステアリルアミンなどのアルキルアミン系活性剤は、安価な点において界面活性剤として好適であり、これらを単独もしくは併用することが好ましい。なお、チオール等の硫黄化合物も界面活性剤としては有用である。ただし、場合によってはテープドライ部内の部品の腐食を生じさせるおそれもあるため、上述した界面活性剤を用いることがより好ましい。
【0035】
上述の高分子系活性剤は、その分子内における活性点(SmCo系磁性微粒子12が吸着し易い点)の数を制御し易く、高分子系活性剤の一分子に吸着するSmCo系磁性微粒子12の数を制御し易い点において、界面活性剤として好適である。しかし、高分子系活性剤の平均分子量が高過ぎる場合は、高分子系活性剤がその分子鎖中に微細なSmCo系磁性微粒子12を多数取り込み易く、SmCo系磁性微粒子12を疎水性バインダ中に単分散させ難い傾向がある。また、SmCo系磁性微粒子12の平均粒径と高分子系活性剤の分子の大きさとの比率に応じて、高分子系活性剤の一分子に吸着できるSmCo系磁性微粒子12の数は変動する。したがって、SmCo系磁性微粒子12の平均粒径に応じて、高分子系活性剤の平均分子量(活性剤の大きさ)の好適範囲は変動する。
【0036】
本実施形態では、SmCo系ナノ粒子12の平均粒径が100nm未満であるため、高分子系活性剤の平均分子量は8000以下であることが好ましい。また、SmCo系ナノ粒子12の平均粒径が小さいほど高分子系活性剤の平均分子量は小さいことが好ましく、SmCo系ナノ粒子12の平均粒径が20nm以下である場合、高分子系活性剤の平均分子量は5000以下であることが好ましい。
【0037】
なお、上述したSmCo系ナノ粒子12の平均粒径と、それに対応する高分子系活性剤の平均分子量の好適範囲との関係は、比較的簡単な構造を有するアクリル系活性剤やウレタン系高分子活性剤の場合において成立し得るものであり、特殊で複雑な構造を有する高分子系活性剤を用いる場合はこの限りではない。
【0038】
本実施形態の磁気記録テープ2が備える磁性層6では、親水性の表面を有するSmCo系ナノ粒子14(コア)と、SmCo系ナノ粒子14の表面を被覆する親水性高分子16とを有するSmCo系磁性微粒子12が、疎水性バインダ中に分散しており、疎水性バインダによって囲まれている。この疎水性バインダは大気中の水分を吸収し難いため、疎水性バインダ中のSmCo系ナノ粒子12が水分によって酸化することを抑制できる。このように、上記本実施形態では、疎水性バインダを用いない場合に比べて、SmCo系ナノ粒子12の酸化及び磁気特性の劣化を抑制でき、磁気記録テープ2の耐候性を向上させることができる。
【0039】
また、本実施形態では、極めて高い一軸性の結晶磁気異方性を示し、且つ平均粒径が1nm以上100nm未満となる程度に微細化したSmCo系ナノ粒子14をコアとして有するSmCo系磁性微粒子12を磁性材料として用いるため、磁気記録テープ2を高記録密度化することができる。
【0040】
(アンダーコート層10)
上述のように、磁気記録テープ2は、ベースフィルム4と磁性層6との間に、アンダーコート層10を備えることが好ましい。これにより、磁気記録テープ2の電磁変換特性を向上させることができると共に、ベースフィルム4と磁性層6との密着性を向上させることができる。
【0041】
アンダーコート層10の中心線平均粗さRaは、1〜3nmであることが好ましい。アンダーコート層10の中心線平均粗さRaが大き過ぎる場合、アンダーコート層10の中心線平均粗さRaが、アンダーコート層10の上層に形成される磁性層6のRaにも影響を与えるため、ヘッド−テープ間のスペーシング変動による出力変動が顕著となる傾向がある。また、アンダーコート層10の中心線平均粗さRaが小さ過ぎる場合、ドライブ内のガイドピン表面との摩擦力が高まることにより、磁気記録テープ2の走行が不安定となる傾向がある。そこで、アンダーコート層10の中心線平均粗さRaを上記の好適範囲内とすることによって、これらの傾向を抑制し、磁気記録テープ2の電磁変換特性を向上させることができる。
【0042】
アンダーコート層10の厚さは、0.1〜1.0μmであることが好ましい。アンダーコート層10の厚さをこの範囲に設定することにより、磁気記録テープ2の走行耐久性を保証するための諸添加物をアンダーコート層10に必要量貯留することが可能となる。また、アンダーコート層10の厚さを上記範囲に設定することによって、ベースフィルム4の表面粗度が磁性層6に与える影響を最小限に抑えることができるため、磁気記録テープ2の記録再生時におけるエラーの発生を低減することができる。したがって、アンダーコート層10の厚さを、0.1〜1.0μmの範囲に設定することは、製造される磁気記録テープ2の信頼性を担保するために重要である。
【0043】
(ベースフィルム4)
ベースフィルム4は、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル樹脂、ポリアミド、ポリイミド及びポリアミドイミド等の樹脂材料等の材料から形成することができる。
【0044】
(バックコート層8)
バックコート層8は、公知の構造や組成を有する層であればよく、例えば、カーボンブラック、カーボンブラック以外の非磁性無機粉末、及び結合剤等から形成することができる。このバックコート層8によって、磁気記録テープ2の走行性を向上させることができると共に、ベースフィルム4の傷付き(摩耗)や磁気記録テープ2の帯電を防止することができる。
【0045】
(磁気記録テープ2の製造方法)
本実施形態の磁気記録テープ2の製造方法は、Sm塩、Co塩、及び親水性高分子を溶媒に溶解又は分散させた反応溶液を加熱して、SmCo系ナノ粒子及び親水性高分子を含む混合物を得る工程(ステップ1)と、混合物に疎水性バインダを加えて、磁性塗料を得る工程(ステップ2)と、磁性塗料を用いて、SmCo系ナノ粒子からなるコアと、コアの表面の少なくとも一部を被覆する親水性高分子と、を有するSmCo系磁性微粒子と、疎水性バインダと、を少なくとも含む磁性層を形成する工程(ステップ3)と、を備える。本実施形態の製造方法によれば、上述の磁気記録テープ2を容易に形成することができる。
【0046】
<ステップ1>
まずステップ1では、例えば、Sm塩(サマリウム塩)、Co塩(コバルト塩)、及び親水性高分子を、グリコール類等の溶媒に溶解して反応溶液を作る。
【0047】
上記反応溶液を作る過程においては、サマリウム塩を第1の溶媒に溶解させて第1の溶液を作り、コバルト塩を第2の溶媒に溶解させて第2の溶液を作り、第3の溶媒に親水性高分子16を溶解させて第3の溶液を作り、第1の溶液と第2の溶液を第3の溶液に添加し混合して上記反応溶液を作ればよい。
【0048】
上記サマリウム塩としては、サマリウムアセチルアセトナート水和物が好ましく、上記コバルト塩としては、コバルトアセチルアセトナートが好ましい。
【0049】
上記第1、2、3の溶媒としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ペンタエチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,2−へキサンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオールなどのグリコール類のいずれかを用いればよい。特に、親水性高分子16を溶解させるための第3の溶媒としては、親水性高分子16を溶解できる溶媒であれば特に限定されないが、得られるSmCo系ナノ粒子14の結晶性を高めるためには、沸点が200〜300℃と比較的高温である溶媒を用いることが好ましい。なお、第3の溶媒として、反応溶液中に存在するSmCo錯体の還元剤としても機能するものを用いてもよい。また、還元作用のない第3の溶媒を用いる場合、又は第3の溶液中での還元反応を促進する場合は、LiAlH又はNaBHのような固体還元剤を適切な溶媒に溶解して、これを第3の溶媒に加えてもよい。さらに、SmCo系ナノ粒子に界面活性剤を吸着させた構造を形成する場合は、第3の溶媒に界面活性剤を含有させることもできる。
【0050】
次に、上記反応溶液を十分に攪拌した後、反応溶液を110℃程度に保持して、水分を除去する。次に、反応溶液を150〜320℃に保って反応させる。このように、加熱による反応溶液の反応過程が終わった後、室温になるまで放置し、その後、ウルトラフィルターを用い脱水エタノール等で溶液変換と粒子の洗浄を行い、さらに、エバポレータを用いて溶媒を留去し、最後に、真空乾燥させることにより、生成物であるSmCo系ナノ粒子14及び親水性高分子16を含む混合物を、固体粉末として取り出すことができる。
【0051】
<ステップ2>
ステップ2では、SmCo系ナノ粒子14と親水性高分子16との混合物及び疎水性バインダ(結合剤)を溶剤中に分散させ、磁性層6を形成するための磁性塗料を調製する。
【0052】
磁性塗料には、界面活性剤を更に含有させることが好ましい。界面活性剤を含有する磁性塗料から形成した磁性層6においては、SmCo系磁性微粒子12が疎水性バインダ中に更に分散し易くなり、疎水性バインダに囲まれ易くなるため、SmCo系ナノ粒子14が水分により酸化することを更に抑制できると共に、磁気記録テープ2の耐候性及び電磁変換特性を向上させることができる。また、界面活性剤を含有する磁性塗料から形成した磁性層6では、その剛性が向上する。
【0053】
なお、磁性塗料には、必要に応じて、更に、公知の分散剤、潤滑剤、研磨剤、硬化剤、及び帯電防止剤等を添加してもよい。また、磁性層6を形成するための磁性塗料を作製する際は、分子量1万程度の高分子量ポリウレタンを磁性塗料に添加してもよい。これにより、磁気記録テープ2の塗膜強度を確保することができる。更に、硬化剤として日本ポリウレタン製のコロネート3041のような熱硬化剤を添加してもよい。この硬化剤によりSmCo系ナノ粒子14を被覆する親水性高分子16と高分子量ポリウレタンとの間において強固な架橋が形成されるため、磁気記録テープ2に、高速走行に耐えうる塗膜強度を付与することができる。
【0054】
次に、アンダーコート層10、バックコート層8をそれぞれ形成するための各材料を混合、混練、分散、希釈することにより、各層を形成するための塗料を作成する。
【0055】
なお、アンダーコート層10を形成するための塗料としては、非磁性粉末及び結合剤等を溶剤中に分散させた塗料を用いればよい。この塗料には、必要に応じて、磁性層6を形成するための塗料に用いたものと同様の分散剤、研磨剤、潤滑剤等を添加してもよい。非磁性粉末としては、カーボンブラック、α酸化鉄、酸化チタン、炭酸カルシウム、αアルミナ、等の無機質粉末、又はこれらの混合物を用いることができる。
【0056】
<ステップ3>
ステップ3では、公知の塗布方法により、ベースフィルム4の表面に対して、アンダーコート層4形成用の塗料を塗布し、この上に磁性層6形成用の磁性塗料を塗布する。更に、ベースフィルム4において、アンダーコート層10形成用の塗料を塗布した面とは反対側の面に、バックコート層8形成用の塗料を塗布することで、各層の前駆体が積層された構造を有する積層体を形成する。必要に応じて、各層の前駆体に対して、配向、乾燥、カレンダー処理等を行うことができる。各層の前駆体の硬化処理を行った後、積層体を所望の形状に切断したり、またはカートリッジに組み込んだりすることによって、磁気記録テープ2が得られる。磁気記録テープ2が備える磁性層6には、SmCo系ナノ粒子14からなるコアと、コアの表面の少なくとも一部を被覆する親水性高分子16と、を有するSmCo系磁性微粒子12と、疎水性バインダと、が少なくとも含有されている。
【0057】
以上、本発明に係る磁気記録媒体の好適な実施形態について説明したが、本発明は必ずしも上述した実施形態に限定されるものではない。
【0058】
例えば、上述した実施形態では、1つのSmCo系磁性微粒子12につき1つのSmCo系ナノ粒子14のみが含まれる形態を説明したが、これに限定されず、SmCo系磁性微粒子12は、親水性高分子16中に複数のSmCo系ナノ粒子14が分散したような構成を有していてもよい。また、例えば、SmCo系ナノ粒子からなるコアは、上述した実施形態のように、単一のSmCo系ナノ粒子(一次粒子)であることが好ましいが、複数のSmCo系ナノ粒子からなる二次粒子であってもよい。
【0059】
また、上述の実施形態の磁気記録テープ2は、ベースフィルム4の上にアンダーコート層10が積層され、アンダーコート層10の上に磁性層6が積層されている構造を有するが、磁気記録テープ2の構造はこれに限定されない。例えば、磁気記録テープにおいて、ベースフィルム(支持体)の上に下層磁性層が積層され、下層磁性層の上に上層磁性層が積層されていてもよく、またはベースフィルムの上に下層非磁性層が積層され、下層磁性層の上に上層磁性層が積層されていてもよい。
【0060】
また、上述の実施形態の磁気記録テープ2は、ベースフィルム4と磁性層6との間に、軟磁性材料を含有する軟磁性層を更に備えることができる。磁気記録テープ2が軟磁性層を備えることにより、垂直磁気記録が可能となり、従来の長手磁気記録の場合に比べて、磁気記録テープ2の記録密度を更に向上させることができる。このような効果を確実に得るためには、軟磁性層が磁性層6に隣接していることが好ましい。例えば、図1の磁気記録テープ2は、アンダーコート層10と磁性層6との間に軟磁性層を備えることができる。なお、軟磁性材料としては、Fe合金又はCo合金等を用いることができる。
【0061】
上述の実施形態の磁気記録テープ2の製造方法では、Sm塩、Co塩、及び親水性高分子を溶媒に溶解して得た反応溶液を加熱後、反応溶液中に生成したSmCo系ナノ粒子14と親水性高分子16とを含む混合物を固体粉末として反応溶液から取り出した後、固体粉末を用いて磁性塗料を調製したが、磁性塗料の調製法はこれに限定されない。例えば、SmCo系ナノ粒子14と親水性高分子16とを含む混合物を、固体粉末として反応溶液から取り出すことなく、SmCo系ナノ粒子14と親水性高分子16との混合物を含む反応溶液の溶媒を塗料用溶媒に置換して固形分濃度を調整した後の溶液に、直接疎水性バインダ等を加え、これに分散処理を施したものを磁性塗料として用いても良い。また、SmCo系磁性微粒子12は、主として上述のステップ1で得られる混合物中に生じていると考えられるが、ステップ1、ステップ2、又はステップ3のいずれかの時点において生じていればよい。
【0062】
また、本発明の磁気記録媒体は、上述の磁気記録テープ2以外に、磁気カード、磁気ディスク等の公知の形状であってもよい。
【実施例】
【0063】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0064】
(実施例1)
<SmCo系磁性微粒子の合成>
以下のようにして、実施例1の磁気記録テープを作成した。先ず、サマリウムアセチルアセトナート水和物([CHCOCH=C(O−)CH]Sm・xHO)223.8重量部を、1,4ジオキサン20000重量部に溶解させ、Sm溶液を調製した。次に、コバルトアセチルアセトナート([CHCOCH=C(O−)CH]Co)534.4重量部を、1,4ジオキサン20000重量部に溶解させ、Co溶液を調製した。また、テトラエチレングリコール90000重量部に、ポリ(N−ビニル−2−ピロリドン)を1000重量部溶解させて高分子溶液を調製した。なお、ポリ(N−ビニル−2−ピロリドン)は、後述するSmCo系磁性微粒子において、SmCo系ナノ粒子からなるコアを被覆する親水性高分子である。
【0065】
次に、Sm溶液とCo溶液とを高分子溶液に添加したものを混合して反応溶液を調整し、これを約12時間攪拌混合した。攪拌後の反応溶液から、Sm塩原料及びアルコール溶媒中に含まれる水分を除去するため、不活性ガス(窒素、アルゴン)の気流下で反応溶液を110℃に保ち、約1時間加熱した。これにより、Sm塩やCo塩の溶解に使用された1,4ジオキサンも一緒に除去し、Sm塩及びCo塩を反応溶液のアルコール溶媒中に移行させた。続いて、不活性ガスの気流下で、反応溶液を250〜300℃で約3時間加熱還流し、化学反応を起させた。これによって、反応溶液中にSmCo系磁性微粒子を生成させた。
【0066】
この反応溶液をキャピラリーで分取して無水エタノールで溶媒置換した後、TEM観察用グリッドに滴下して乾燥させた。TEM観察より、合成されたSmCo系磁性微粒子の平均粒径は2〜7nmの範囲であることが確認された。
【0067】
次に、反応溶液を静置し、ウルトラフィルターにより濾過してテトラエチレングリコールを除去した。その後、得られた濾過物を、脱水処理したアセトンを加えて洗浄することにより、SmCo系磁性微粒子においてSmCo系ナノ粒子からなるコアを被覆している親水性高分子のうち一部を溶解除去した。これにより、親水性高分子に対するSmCo系ナノ微粒子の総重量の重量比を7/1とし、固形分濃度80wt%のスラリーとした。なお、固形分濃度は、[{(SmCo系ナノ粒子の重量)+(ポリ(N−ビニル−2−ピロリドン)の重量)}/{(SmCo系ナノ粒子の重量)+(ポリ(N−ビニル−2−ピロリドン)の重量)+(アセトンの重量)}]によって求めた。
【0068】
<磁性層用塗料の調製>
SmCo系磁性微粒子を含む上述のスラリー:143重量部(SmCo系ナノ粒子:100重量部、ポリ(N−ビニル−2−ピロリドン):14重量部、アセトン:29重量部、(SmCo系ナノ粒子/ポリ(N−ビニル−2−ピロリドン))の重量比=7/1、固形分濃度80wt%)、疎水性バインダである高分子ウレタン(東洋紡:UR8700):2.7重量部、α−Al:6質量部、フタル酸:2質量部、及び混合溶媒(メチルエチルケトン(MEK)/トルエン/シクロヘキサノン=2/2/6重量比)を加え合わせて、固形分濃度80wt%のスラリーを調整し、これを加圧ニーダーで2時間混練した。混練後のスラリーに、混合溶媒(MEK/トルエン/シクロヘキサノン=2/2/6重量比)を加えて固形分濃度30wt%のスラリーとした後、このスラリーに対して、ジルコニアビーズを充填した横型ピンミルによる分散処理を行った。分散処理のスラリーに対して、混合溶媒(MEK/トルエン/シクロヘキサノン=2/2/6重量比)、ステアリン酸:1質量部、及びステアリン酸ブチル:1質量部を加えて、固形分濃度10wt%のスラリーとした。このスラリー100質量部にイソシアネート化合物(日本ポリウレタン製、コロネートL)0.82質量部を加え、磁性層用の最終塗料(磁性塗料)とした。
【0069】
<下層非磁性層(アンダーコート層)用塗料の調製>
針状α−Fe:85質量部、カーボンブラック:15質量部、電子線硬化型塩化ビニル系樹脂:15質量部、電子線硬化型ポリエステルポリウレタン樹脂:10質量部、α−Al:5質量部、o−フタル酸:2質量部、メチルエチルケトン(MEK):10重量部、トルエン:10重量部、及びシクロヘキサノン:10重量部を加圧ニーダーに投入し、2時間混練を行い、スラリーを得た。混練後のスラリーに、混合溶媒(MEK/トルエン/シクロヘキサノン=2/2/6重量比)を加えて固形分濃度30wt%のスラリーとした後、このスラリーに対して、ジルコニアビーズを充填した横型ピンミルにて8時間分散処理を行った。分散処理後のスラリーに、混合溶媒(MEK/トルエン/シクロヘキサノン=2/2/6重量比)、ステアリン酸:1質量部、及びステアリン酸ブチル:1質量部を加えて、固形分濃度10wt%のスラリーとして下層非磁性層用の塗料とした。
【0070】
<バックコート層用塗料の調製>
ニトロセルロース:50質量部、ポリエステルポリウレタン樹脂:40質量部、カーボンブラック:85質量部、BaSO:15質量部、オレイン酸銅:5質量部、及び銅フタロシアニン:5質量部をボールミルに投入し、24時間分散を行って、混合物を得た。この混合物に、混合溶媒(MEK/トルエン/シクロヘキサノン=1/1/1重量比)を加えて、固形分濃度10wt%のスラリーとした。続いて、このスラリー100質量部にイソシアネート化合物1.1質量部を加えて、バックコート層用塗料とした。
【0071】
<磁気記録テープの製造>
厚さ6.1μmのポリエチレンテレフタレートフィルムの表面上に、下層非磁性層用塗料を乾燥厚み2.0μmとなるよう塗布し、これを乾燥した後、カレンダー処理をして、最後に電子線照射により塗膜を硬化させて下層非磁性層を形成した。次に、下層非磁性層上に磁性層用塗料を乾燥厚み0.20μmとなるように塗布し、磁場配向処理を行い、これを乾燥した後、カレンダー処理をして磁性層を形成した。次いで、ポリエチレンテレフタレートフィルムの裏面上に上記バックコート層用塗料を乾燥厚み0.6μmとなるように塗布し、これを乾燥した後、カレンダー処理してバックコート層を形成した。このようにして、ポリエチレンテレフタレートフィルムの両面に各層が形成された磁気記録テープ原反を得た。その後、磁気記録テープ減反を60℃のオーブンに24時間入れ、熱硬化を行った。熱硬化後の磁気記録テープ原反を、1/2インチ(12.65mm)幅に裁断し、実施例1の磁気記録テープを得た。
【0072】
<電磁変換特性の評価>
MIGヘッドを用いて0.2μmの記録波長で記録し、GMRヘッドを用いて再生して、実施例1の磁気記録テープの電磁変換特性を測定した。なお、電磁変換特性の測定にはドラムテスタを用いた。測定の結果、実施例1の磁気記録テープでは良好な電磁変換特性が得られた。
【0073】
(比較例1)
<磁性層用塗料の調製>
実施例1で用いたものと同様のSmCo系磁性微粒子:143重量部(SmCo:100重量部、ポリ(N−ビニル−2−ピロリドン):14重量部、アセトン:29重量部、(SmCo系ナノ粒子/ポリ(N−ビニル−2−ピロリドン))の重量比=7/1、固形分濃度80wt%)のスラリーに、親水性バインダであるポリビニルアルコール(分子量:10000):2.7重量部、α−Al:6質量部、フタル酸:2質量部、及びブチルアルコールを加えて固形分濃度80wt%とし、これを加圧ニーダーで2時間混練を行った。混練後のスラリーに、ブチルアルコールを加えて固形分濃度30wt%のスラリーとした後、このスラリーに対して、ジルコニアビーズを充填した横型ピンミルによる分散処理を行った。分散処理後のスラリーに、ブチルアルコール、ステアリン酸:1質量部、及びステアリン酸ブチル:1質量部を加えて固形分濃度10wt%のスラリーとした。このスラリー100質量部に水溶性ポリイソシアネート化合物(大日本インキ製)0.82質量部を加え、磁性層用の最終塗料とした。
【0074】
<下層非磁性層用塗料及びバックコート層用塗料の調製>
下層非磁性層用塗料及びバックコート層用塗料は、実施例1と同様のものを調製した。
【0075】
<磁気記録テープの製造>
厚さ6.1μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(ベースフィルム)の表面上に、下層非磁性層用塗料を乾燥厚み2.0μmとなるよう塗布し、これを乾燥した後、カレンダー処理して、最後に電子線照射によって塗膜を硬化させて下層非磁性層を形成した。次に、下層非磁性層上に比較例1の磁性層用塗料を乾燥厚み0.20μmとなるように塗布し、磁場配向処理を行い、これを乾燥した後、カレンダー処理して磁性層を形成した。次に、磁性層上に、フッ素溶液(パーフルオロポリエーテル:1重量部、n−ヘキサン:1000重量部)を塗布し、これを乾燥し、撥水層を形成した。次いで、ポリエチレンテレフタレートフィルムの裏面上に、バックコート層用塗料を乾燥厚み0.6μmとなるように塗布し、これを乾燥した後、カレンダー処理してバックコート層を形成した。このようにして、ポリエチレンテレフタレートフィルムの両面に各層が形成された磁気記録テープ原反を得た。この磁気記録テープ原反を60℃のオーブンに24時間入れ、熱硬化を行った。熱硬化後の磁気記録テープ原反を、1/2インチ(12.65mm)幅に裁断し、比較例1の磁気記録テープを得た。
【0076】
(耐候性試験)
温度が65℃であり、且つ湿度が90%RHである環境下に、実施例1及び比較例1の各磁気記録テープを、1週間放置した。1週間前後、実施例1及び比較例1の各磁気記録テープにおける磁化量減衰率を測定したところ、実施例1では5%であり、比較例1では6%であった。このことから、磁性層の表面に撥水層を備え、磁性層に水分が浸入しにくく、磁気特性の劣化し難い構造を有する比較例1に対して、実施例1の耐候性が優れていることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係る磁気記録テープの断面模式図である。
【図2】図2は、本発明の一実施形態に係る磁気記録テープの磁性層が含有するSmCo系磁性粒子の断面模式図である。
【符号の説明】
【0078】
2…磁気記録テープ(磁気記録媒体)、4…ベースフィルム、6…磁性層、8…バックコート層、10…アンダーコート層、12…SmCo系磁性微粒子、14…SmCo系ナノ粒子(コア)、16…親水性高分子。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
SmCo系磁性微粒子と、疎水性バインダと、を少なくとも含む磁性層を備え、
前記SmCo系磁性微粒子が、SmCo系ナノ粒子からなるコアと、前記コアの表面の少なくとも一部を被覆する親水性高分子と、を有する磁気記録媒体。
【請求項2】
Sm塩、Co塩、及び親水性高分子を溶媒に溶解又は分散させた反応溶液を加熱して、SmCo系ナノ粒子及び前記親水性高分子を含む混合物を得る工程と、
前記混合物に疎水性バインダを加えて、磁性塗料を得る工程と、
前記磁性塗料を用いて、前記SmCo系ナノ粒子からなるコアと、前記コアの表面の少なくとも一部を被覆する前記親水性高分子と、を有するSmCo系磁性微粒子と、前記疎水性バインダと、を少なくとも含む磁性層を形成する工程と、を備える磁気記録媒体の製造方法。
【請求項3】
前記磁性塗料に界面活性剤を更に含有させる、請求項2に記載の磁気記録媒体の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2009−129500(P2009−129500A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−303504(P2007−303504)
【出願日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】