磁気記録媒体および磁気記録装置
【課題】生産性を高めるのに適したビットパターンド型磁気記録媒体、および、そのような磁気記録媒体を備える磁気記録装置を提供する。
【解決手段】磁気ディスクY1は、複数の磁気ビット21aを含むデータ領域20Dと、磁気ビット21aよりも大きな保磁力を有する複数の磁気ビット21bを含むROM領域20Rとを備える。ROM領域20R内の複数の磁気ビット21bは、第1方向に磁化された少なくとも一つの磁気ビット21b、および、第1方向とは反対の第2方向に磁化された少なくとも一つの磁気ビット21bを含む。
【解決手段】磁気ディスクY1は、複数の磁気ビット21aを含むデータ領域20Dと、磁気ビット21aよりも大きな保磁力を有する複数の磁気ビット21bを含むROM領域20Rとを備える。ROM領域20R内の複数の磁気ビット21bは、第1方向に磁化された少なくとも一つの磁気ビット21b、および、第1方向とは反対の第2方向に磁化された少なくとも一つの磁気ビット21bを含む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビットパターンド磁気記録媒体、および、ビットパターンド磁気記録媒体を備えた磁気記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ハードディスク等の磁気記録装置の大容量化にともない磁気記録媒体の記録密度の向上が進められている。記録密度の向上を図るのに適した磁気記録媒体として、ビットパターンドメディア(BPM)が知られている。BPMは、パターニングされた磁性部を記録層に有する。パターニングされた磁性部には、ユーザデータを記録するための磁気ビット群が含まれる。BPMについては、下記の特許文献1,2に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平3−22211号公報
【特許文献2】特開2005−108361号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、生産性を高めるのに適した、ROM領域を備えるBPM型磁気記録媒体、および、そのような磁気記録媒体を備える磁気記録装置を提供することを、目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る磁気記録媒体は、複数の第1磁気ビットを含むデータ領域と、第1磁気ビットよりも大きな保磁力を有する複数の第2磁気ビットを含むROM領域とを備える。ROM領域内の複数の第2磁気ビットは、第1方向に磁化された少なくとも一つの第2磁気ビット、および、第1方向とは反対の第2方向に磁化された少なくとも一つの第2磁気ビットを含む。
【発明の効果】
【0006】
本発明に係る磁気記録媒体によると、製造過程において同じ凹部パターンのスタンパを使用しつつ、ROM領域のROM情報を作り分けることができる。したがって、本媒体の構成によると、ROM領域に形成すべきROM情報に応じて、転写面の凹部パターンが異なるスタンパないしその原盤を作製する必要はない。形成すべきROM情報ごとにスタンパないしその原盤を作製する必要のない本媒体は、BPM型磁気記録媒体の生産性を高めるのに好適である。このように、本発明に係る磁気記録媒体は、BPM型磁気記録媒体の生産性を高めるのに適するのである。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明の第1実施形態に係る磁気記録装置の平面図である。
【図2】図1に示す磁気記録装置の具備する磁気ディスクの平面図である。
【図3】図2の線III−IIIに沿った一部省略断面図である。
【図4】図2に示す磁気ディスクの製造方法における一部の工程を表す。
【図5】図4の後に続く工程を表す。
【図6】図5の後に続く工程を表す。
【図7】図6の後に続く工程を表す。
【図8】図2に示す磁気ディスクの変形例の平面図である。
【図9】本発明の第2実施形態に係る磁気記録装置の平面図である。
【図10】図9に示す磁気記録装置の具備する磁気ディスクの平面図である。
【図11】図10の線XI−XIに沿った一部省略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
図1は、本発明の第1の実施形態に係る磁気記録装置X1の平面図である。磁気記録装置X1は、複数の磁気ディスクY1と、基板1と、回転機構2と、磁気ヘッド3と、スイングアーム4と、アクチュエータ5と、コネクタ6とを備える。
【0009】
複数の磁気ディスクY1は、所定の間隔を空けて配されている(図1では、一の磁気ディスクY1を図示する)。磁気ディスクY1は、ビットパターンドメディア(BPM)であり、両面に記録面を有する。基板1には、本装置X1にて記録再生処理を実行するための回路が設けられている。そのような回路には、回転機構2、磁気ヘッド3、およびアクチュエータ5の動作を制御する制御回路や、コネクタ6を介して外部との信号の送受を行う信号処理回路が含まれる。回転機構2は、例えばスピンドルモータであり、磁気ディスクY1を所定の回転数で回転させるためのものである。磁気ヘッド3は、磁気ディスクY1の記録面ごとに設けられ、再生時や記録時において磁気ディスクY1の記録面に対して対向配置されるものであり、記録ヘッド部および再生ヘッド部を有する。記録ヘッド部は、磁気ディスクY1のユーザデータをなす磁気ビットの磁化方向を反転させるための磁界を発生させるための素子である。記録ヘッド部は、コアないし磁極が導線で巻かれた構造を有する。再生ヘッド部は、磁気ディスクY1からの磁界を検出可能で且つ検出磁界に応じて出力可能な素子である。そのような素子としては、MR素子やGMR素子を挙げることができる。スイングアーム4は、磁気ヘッド3を先端にて支持するためのものである。アクチュエータ5は、磁気ディスクY1に対向する磁気ヘッド3(記録ヘッド部と再生ヘッド部を伴う)のディスク径方向における位置を変化させるべくスイングアーム4を動作させるためのものである。アクチュエータ5は、例えばボイスコイルモータである。
【0010】
図2および図3は、磁気ディスクY1を表す。図2は、磁気ディスクY1の平面図である。図3は、図2の線III−IIIに沿った一部省略断面図である。
【0011】
磁気ディスクY1は、図3に示すように、ディスク基板10、記録層20、軟磁性層30、および保護層40(図3では省略)を含む積層構造を有する、情報記録と情報再生とを実行可能なBPMである。
【0012】
ディスク基板10は、主に、磁気ディスクY1の剛性を確保するための部位であり、例えば、アルミニウム合金、ガラス、シリコン、またはポリカーボネート樹脂よりなる。
【0013】
記録層20は、図3に示すように、相互に離隔する複数の磁気ビット21a、相互に離隔する複数の磁気ビット21b、および、磁気ビット21a,21b間に介在する非磁性部22を含む。また、記録層20は、図2に示すように、データ領域20DおよびROM領域20Rを備える。磁気ビット21aは、データ領域20Dに含まれ、図2にて拡大して示すように、例えばマトリクス状に配置されている。磁気ビット21bは、ROM領域20Rに含まれ、図2にて拡大して示すように、例えばマトリクス状に配置されている。磁気ビット21a,21bのそれぞれは、例えば硬磁性材料よりなり、垂直磁気異方性を有する。磁気ビット21a,21bのための硬磁性材料としては、例えばCoPt、CoPtCr、またはSmCoを採用することができる。非磁性部22は、例えばSiN、C、またはSiO2などの非磁性材料よりなる。非磁性部22の存在により、磁気ビット21a,21b間の磁気的相互作用が充分に抑制される。記録層20の厚さは例えば30〜50nmである。このような記録層20には、磁気ディスクY1の図2に示す回転中心Aを共通中心として同心円状に配された複数のトラック(図示略)が設定されている。
【0014】
データ領域20Dにおける複数の磁気ビット21aは、ユーザデータが書換え可能に記録されるものである。各磁気ビット21aは、図2に示すようにドット状の単一の記録セルであり、上述の磁気ヘッド3の再生ヘッド部が検出可能な磁界を発生している。また、磁気ビット21aは、磁気ヘッド3の記録ヘッド部による磁界印加によって磁化方向が反転可能な程度の保磁力を有する。磁気ビット21aの例えば図2に表れている表面の直径は、例えば20〜30nmである。データ領域20Dでは、各磁気ビット21aが所定方向に磁化されて、ディスク周方向に連なる磁気ビット21a列において所定のユーザデータが書き換え可能に記録されている。垂直磁気異方性を有する磁気ビット21aの磁化方向は、図3中の上方向および下方向の二方向である。磁気ディスクY1についてセクタサーボ方式を採用する場合、データ領域20Dには、ディスク周方向に離隔する複数のサーボセクタが設けられ、当該サーボセクタ外に磁気ビット21aは位置する。
【0015】
ROM領域20Rにおける複数の磁気ビット21bは、書換え不可の情報をなすものである。各磁気ビット21bは、図2に示すようにドット状の単一の記録セルであり、上述の磁気ヘッド3の再生ヘッド部が検出可能な磁界を発生している。磁気ビット21bの例えば図2に表れている表面の直径は、磁気ビット21aの前記の直径より小さい限りにおいて、例えば5〜10nmである。磁気ビット21bの例えば図2に表れている記録面側の面積(ビット面積)は、磁気ビット21aの例えば図2に表れている記録面側の面積より、小さい。このようにビット面積が磁気ビット21aよりも小さい磁気ビット21bは、磁気ビット21aよりも大きな保磁力を有する(磁気ビットについては、そのビット面積が小さいほど保磁力が大きい傾向にある)。具体的には、磁気ビット21bの保磁力は、上述の磁気ヘッド3の記録ヘッド部による磁界印加によっては磁化方向が変化しない程度の大きさに設定されている。ROM領域20Rでは、各磁気ビット21bが所定方向に磁化されて、ディスク周方向に連なる磁気ビット21b列において、エンドユーザによっては書換え不可の情報(ROM情報)が保持ないし記憶されている。ROM情報としては、例えば、データを暗号化するための鍵情報や、出荷段階でプリインストールするアプリケーション情報などが挙げられる。垂直磁気異方性を有する磁気ビット21bの磁化方向は、図3中の上方向(第1方向)および下方向(第2方向)の二方向である。ROM領域20Rに保持ないし記憶されるべきROM情報に応じて、磁気ビット21bの少なくとも一つは第1方向に磁化され、磁気ビット21bの少なくとも一つは第2方向に磁化されている。磁気ディスクY1についてセクタサーボ方式を採用する場合、ROM領域20Rには、ディスク周方向に離隔する複数のサーボセクタが設けられ、当該サーボセクタ外に磁気ビット21bは位置する。
【0016】
軟磁性層30は、磁気ディスクY1への書込み時等に保護膜40に対向する上述の磁気ヘッド3の記録ヘッド部からの磁束を再び当該記録ヘッド部に環流させる磁路を効率よく形成するためのものである。このような軟磁性層30は、高透磁率を有して大きな飽和磁化を有するとともに小さな保磁力を有する軟磁性材料よりなる。書込み時には、記録ヘッド部による記録磁界の印加によって、データ領域20Dの所定の磁気ビット21aが所定方向に磁化されるところ、軟磁性層30が存在することにより、磁気ビット21aを磁化反転させるのに必要な実効的な記録磁界を低減させることが可能となる。軟磁性層30のための軟磁性材料としては、例えば、FeC、FeNi、FeCoB、FeCoSiC、またはFeCo−AlOを採用することができる。
【0017】
保護膜40は、記録層20や軟磁性層30を外界から物理的および化学的に保護するための部位であり、例えば、SiN、SiO2、またはダイアモンドライクカーボン(DLC)よりなる。保護膜40の厚さは、例えば1〜5nmである。保護膜40の露出面は、磁気ディスクY1の記録面をなす。
【0018】
以上のような記録層20、軟磁性層30、および保護膜40を含む積層構造を磁気ディスクY1はディスク基板10の両面上に有する。また、記録層20、軟磁性層30、および保護膜40を含む積層構造中には、必要に応じて他の層が含まれてもよい。
【0019】
図4から図7は、磁気ディスクY1の製造方法の一例を表す。本方法では、まず、図4(a)に示すように、ディスク基板10上に、軟磁性層30、磁性膜21、およびレジスト膜61を順次形成する。軟磁性層30の形成においては、例えばスパッタリング法により、軟磁性層30に関して上述した軟磁性材料をディスク基板10上に成膜する。磁性膜21の形成においては、例えばスパッタリング法により、磁気ビット21a,21bに関して上述した磁性材料を軟磁性層30上に成膜する。レジスト膜61の形成においては、熱硬化型レジスト材料または紫外線硬化型レジスト材料をスピンコーティング法によって磁性膜21上に成膜する。
【0020】
次に、図4(b)および図5(a)に示すように、スタンパ62を使用してインプリント工程を行う。スタンパ62は、転写面62’を有し、転写面62’側に凹部62a,62bを有する。凹部62aは、上述の磁気ビット21aに対応するパターン形状を有する。凹部62bは、上述の磁気ビット21bに対応するパターン形状を有する。凹部62bの開口径は、凹部62aの開口径より小さい。レジスト膜61として紫外線硬化型レジスト材料よりなるものを採用する場合、スタンパ62としては、紫外線が透過可能なものを使用する。
【0021】
インプリント工程では、このようなスタンパ62の転写面62’をレジスト膜61に押し付ける。レジスト膜61が熱硬化型レジスト材料よりなる場合、スタンパ62をレジスト膜61に押し付けた状態で加熱してレジスト膜61を硬化させる。レジスト膜61が紫外線硬化型レジスト材料よりなる場合、スタンパ62をレジスト膜61に押し付けた状態でレジスト膜61に対して紫外線を照射してレジスト膜61を硬化させる。このようなインプリント工程によって、転写面62’の凹凸形状がレジスト膜61に転写されて、レジストマスク61Aが形成される。レジストマスク61Aには、スタンパ62の凹部62a,62bに応じて形成された凸部61a,61bが含まれる。また、インプリント工程では、図5(a)に示すように、スタンパ62は磁性膜21に至らず、磁性膜21とスタンパ62との間にレジスト材料が残存するのが好ましい。スタンパ62が磁性膜21に至ると、形成されるレジストマスク61Aと磁性膜21との接触面積が低下するなどしてレジストマスク61Aが磁性膜21から剥離しやすくなってしまう。そのような剥離が生じないように、スタンパ62と磁性膜21との間にレジスト材料が意図的に残されるのが好ましいのである。
【0022】
本方法では、スタンパ62を使用して行う上述のインプリント工程の後、図5(b)に示すように、スタンパ62をレジストマスク61Aから取り外す。
【0023】
次に、凸部61a,61bを有するレジストマスク61Aの側から磁性膜21に対して異方性ドライエッチングを施すことにより、図6(a)に示すように、上述の磁気ビット21a,21bを形成する。この後、例えば所定の溶解液を作用させることにより、レジストマスク61Aの残渣を除去する。
【0024】
次に、図6(b)に示すように非磁性部22を形成する。具体的には、磁気ビット21a,21b間の隙間を充填しつつ磁気ビット21a,21bを覆うように、非磁性部22に関して上述した非磁性材料を堆積させた後、過剰分を例えば研磨除去して磁気ビット21a,21bを露出させる。本工程にて、記録層20が形成されることとなる。
【0025】
次に、図7(a)に示すように保護膜40を形成する。保護膜40の形成においては、例えばスパッタリング法により、保護膜40に関して上述した材料を記録層20上に成膜する。本工程を終えた時点では、磁気ビット21a,21bの磁化方向はランダムである。
【0026】
次に、磁気ビット21a,21bに対して磁界を印加することによって、当該磁気ビット21a,21bの磁化方向を揃える(初期化工程)。本工程では、例えば、磁気ビット21a,21bの保磁力より大きな磁界を、記録層20内の全ての磁気ビット21a,21bに対して一括的に印加する。
【0027】
次に、図7(b)に示すように、ROM領域20Rにおける磁気ビット21b群から選択された磁気ビット21bに対して磁界を印加することによって、ROM領域20RにROM情報を記録する(ROM情報記録工程)。本工程は、磁気ビット21aよりも保磁力の大きい磁気ビット21bの磁化方向を反転可能な磁界を発生させることのできる記録ヘッド63を備える装置を使用して行う。以上のようにして、磁気ディスクY1を適切に製造することができる。
【0028】
磁気記録装置X1における情報記録時には、記録層20のデータ領域20Dにデータが書き込まれる。具体的には、磁気記録装置X1の各部が協働して、回転される磁気ディスクY1の記録層20のデータ領域20D(磁気ビット21a群)に対し、磁気ヘッド3の記録ヘッド部の磁界印加によってデータが書き込まれる。磁気ディスクY1では、上述のように、磁気ビット21bの保磁力は、磁気ビット21aの保磁力より大きく、磁気ヘッド3の記録ヘッド部による磁界印加によっては磁化方向が変化しない程度の大きさに設定されている。そのため、仮に、情報記録実行中に、磁気ヘッド3ないし記録ヘッド部が、ROM領域20Rの近傍を通過したり、ROM領域20R内に進入したとしても、ROM領域20Rの磁気ビット21bは磁化反転を生じず、ROM情報は書き換えられない。
【0029】
磁気記録装置X1における情報再生時には、記録層20のデータ領域20Dからデータが読み取られたり、ROM領域20RからROM情報が読み取られる。具体的には、磁気記録装置X1の各部が協働して、磁気ヘッド3の再生ヘッド部により、回転される磁気ディスクY1の記録層20におけるデータ領域20Dのデータや、ROM領域20RのROM情報が読み取られる。
【0030】
磁気記録装置X1の磁気ディスクY1においては、上述のように、ROM領域20Rに含まれる磁気ビット21bはデータ領域20Dに含まれる磁気ビット21aよりも、保磁力が大きい。この磁気ディスクY1では、磁気記録装置X1(エンドユーザ装置)での記録ヘッド部による磁界印加によって磁化反転し得るように磁気ビット21aの保磁力を設定しつつ、当該磁界印加によっては磁化反転しないように磁気ビット21bの保磁力を設定できる。また、磁気ディスクY1では、上述のように、ROM領域20Rの磁気ビット21b群は、第1方向に磁化された少なくとも一つの磁気ビット21bと、第1方向とは反対の第2方向に磁化された少なくとも一つの磁気ビット21bとを含む。磁気ビット21bに関するこのような磁化反転構成は、磁気記録装置X1(エンドユーザ装置)の磁気ヘッド3の記録ヘッド部が発する磁界よりも大きな磁界を発生可能な上述のような記録ヘッド63を利用して例えば、実現することができる。したがって、磁気ディスクY1では、ROM情報について、磁気記録装置X1(エンドユーザ装置)では書換え不可としつつ、ROM領域20Rの磁気ビット21b群の配置パターンではなくて磁気ビット21b群の磁化方向によって形成することができる。このような磁気ディスクY1では、記録層20に形成すべき磁性部のパターンに対応する一の凹部パターンを転写面に伴うスタンパによるインプリント法を経る製造手法を採る場合であっても、ROM領域20RのROM情報を作り分けることができる。すなわち、磁気ディスクY1の構成によると、例えば上述のスタンパ62のような、同じ凹部パターンのスタンパを使用しつつ、ROM領域20RのROM情報を作り分けることができるのである。したがって、磁気ディスクY1の構成によると、ROM領域20Rに形成すべきROM情報に応じて、転写面の凹部パターンが異なるスタンパないしその原盤を作製する必要はない。形成すべきROM情報ごとにスタンパないしその原盤を作製する必要のない本媒体は、BPM型磁気記録媒体たる磁気ディスクY1の生産性を高めるのに好適である。以上のように、磁気ディスクY1は、生産性を高めるのに適するのである。磁気ディスクY1の生産性の向上は、磁気ディスクY1ないし磁気記録装置X1の製造コストの削減を図るうえで、好ましい。
【0031】
図8は、磁気ディスクY1の変形例たる磁気ディスクY1’の平面図である。磁気ディスクY1’は、ROM領域20Rの配置について、磁気ディスクY1と異なる。磁気ディスクY1’のROM領域20Rは、データ領域20Dの外側に位置する外環部20Aと、データ領域20Dの内側に位置する内環部20Bとを有する。
【0032】
ROM領域20Rがこのような配置をとる場合、ROM情報について、エンドユーザがアクセスできない領域に格納しやすい。したがって、磁気ディスクY1’におけるROM領域20Rの当該配置は、ユーザレベルでアクセスされることが望ましくない情報、例えばセキュリティ情報を格納するための領域としてROM領域20Rを利用するのに好適である。
【0033】
図9は、本発明の第2の実施形態に係る磁気記録装置X2の平面図である。磁気記録装置X2は、複数の磁気ディスクY2と、基板1と、回転機構2と、磁気ヘッド3’と、スイングアーム4と、アクチュエータ5と、コネクタ6とを備える。磁気記録装置X2は、複数の磁気ディスクY1に代えて複数の磁気ディスクY2を備える点、および、磁気ヘッド3に代えて磁気ヘッド3’を備える点において、磁気記録装置X1と異なる。
【0034】
図10および図11は、磁気ディスクY2を表す。図10は、磁気ディスクY2の平面図である。図11は、図10の線XI−XIに沿った一部省略断面図である。
【0035】
磁気ディスクY2は、図11に示すように、ディスク基板10、記録層20’、軟磁性層30、および保護層40(図10では省略)を含む積層構造を有する、情報記録と情報再生とを実行可能なBPMである。磁気ディスクY2は、記録層20に代えて記録層20’を積層構造中に含む点において、磁気ディスクY1と異なる。
【0036】
記録層20’は、図11に示すように、相互に離隔する複数の磁気ビット21a、相互に離隔する複数の磁気ビット21b、相互に離隔する複数の磁気ビット21c、および、磁気ビット21a,21b,21c間に介在する非磁性部22を含む。また、記録層20’は、図10に示すように、データ領域20D、外環部20Aと内環部20Bを含むROM領域20R、および、ROM領域20R’を備える。磁気ビット21aは、データ領域20Dに含まれ、図10にて拡大して示すように、例えばマトリクス状に配置されている。磁気ビット21bは、ROM領域20Rに含まれ、図10にて拡大して示すように、例えばマトリクス状に配置されている。磁気ビット21cは、ROM領域20R’に含まれ、図10にて拡大して示すように、例えばマトリクス状に配置されている。磁気ビット21a,21b,21cのそれぞれは、例えば硬磁性材料よりなり、垂直磁気異方性を有する。磁気ビット21a,21b,21cのための硬磁性材料としては、例えばCoPt、CoPtCr、またはSmCoを採用することができる。非磁性部22は、例えばSiN、C、またはSiO2などの非磁性材料よりなる。このような記録層20’は、ROM領域20R’を更に備える点において、上述の磁気ディスクY1’と異なる。
【0037】
データ領域20Dにおける複数の磁気ビット21aは、ユーザデータが書換え可能に記録されるものであり、磁気ディスクY1における磁気ビット21aに関して上述したのと同様の構成を有する。
【0038】
ROM領域20R(外環部20A,内環部20B)における複数の磁気ビット21bは、書換え不可の情報をなすものであり、磁気ディスクY1における磁気ビット21aに関して上述したのと同様の構成を有する。
【0039】
ROM領域20R’は、仮想ROM領域であり、エンドユーザ装置にて形成し得る擬似的なROM情報を保持ないし記憶するための領域である。そのようなROM情報としては、例えば、セキュリティログ情報など、書換えが制限されるべき情報が挙げられる。ROM領域20R’における複数の磁気ビット21cのそれぞれは、図10に示すようにドット状の単一の記録セルであり、上述の磁気ヘッド3の再生ヘッド部が検出可能な磁界を発生している。磁気ビット21cの例えば図10に表れている表面の直径は、磁気ビット21aの直径より小さく且つ磁気ビット21bの直径より大きい限りにおいて、例えば10〜20nmである。磁気ビット21cの例えば図10に表れている記録面側の面積(ビット面積)は、磁気ビット21aの例えば図10に表れている記録面側の面積より小さく、且つ、磁気ビット21bの例えば図10に表れている記録面側の面積より大きい。このようにビット面積が磁気ビット21aよりも小さく且つ磁気ビット21bよりも大きい磁気ビット21cの、保磁力は、磁気ビット21aの保磁力より大きく且つ磁気ビット21bの保磁力より小さい。ROM領域20R’では、各磁気ビット21cが所定方向に磁化されて、ディスク周方向に連なる磁気ビット21c列において、所定の情報が保持ないし記憶されている。垂直磁気異方性を有する磁気ビット21cの磁化方向は、図11中の上方向(第1方向)および下方向(第2方向)の二方向である。ROM領域20R’に保持ないし記憶されるべき情報に応じて、磁気ビット21cの少なくとも一つは第1方向に磁化され、磁気ビット21cの少なくとも一つは第2方向に磁化されている。磁気ディスクY2についてセクタサーボ方式を採用する場合、ROM領域20R’には、ディスク周方向に離隔する複数のサーボセクタが設けられ、当該サーボセクタ外に磁気ビット21cは位置する。
【0040】
以上のような記録層20’を積層構造中に含む磁気ディスクY2は、磁気ディスクY1の製造手法として上述したのと同様の手法(スタンパを使用したインプリント法を経る手法)によって製造することができる。
【0041】
磁気ヘッド3’は、磁気ディスクY2の記録面ごとに設けられ、再生時や記録時において磁気ディスクY2の記録面に対して対向配置されるものであり、記録ヘッド部および再生ヘッド部を有する。磁気ヘッド3’の記録ヘッド部は、第1磁界および当該第1磁界より大きい第2磁界を発生可能な素子である。この記録ヘッド部は、コアないし磁極が導線で巻かれた構造を有し、駆動電流や駆動電圧の制御によって第1磁界および第2磁界の一方を選択的に発生可能である。第1磁界は、データ領域20Dの磁気ビット21aの磁化方向を反転可能な強度に設定されている。第2磁界は、ROM領域20R’の磁気ビット21cの磁化方向を反転可能であってROM領域20Rの磁気ビット21bの磁化方向を変化させることができない強度に設定されている。また、磁気ヘッド3’の再生ヘッド部は、磁気ディスクY2からの磁界を検出可能で且つ検出磁界に応じて出力可能な素子である。そのような素子としては、MR素子やGMR素子を挙げることができる。
【0042】
磁気記録装置X2における第1の情報記録時には、記録層20’のデータ領域20Dにデータが書き込まれる。具体的には、磁気記録装置X2の各部が協働して、回転される磁気ディスクY2の記録層20’のデータ領域20D(磁気ビット21a群)に対し、磁気ヘッド3’の記録ヘッド部によってデータが書き込まれる。第1の情報記録時に磁気ヘッド3’の記録ヘッド部が発する磁界は、上述の第1磁界(第2磁界より小さい)である。磁気ディスクY2では、磁気ビット21b,21cの保磁力は、磁気ビット21aの保磁力より大きく、磁気ヘッド3’の記録ヘッド部による第1磁界の印加によっては磁化方向が変化しない程度の大きさに設定されている。そのため、仮に第1の情報記録実行中に磁気ヘッド3’ないし記録ヘッド部がROM領域20R,20R’の近傍を通過したりROM領域20R,20R’内に進入したとしても、ROM領域20R,20R’の磁気ビット21b,21cは磁化反転を生じない。すなわち、第1の情報記録実行中にはROM情報は書き換えられない。
【0043】
磁気記録装置X2における第2の情報記録時(擬似的なROM情報を記録する時)には、記録層20’のROM領域20R’に所定情報が書き込まれる。具体的には、磁気記録装置X2の各部が協働して、回転される磁気ディスクY2の記録層20’のROM領域20R’(磁気ビット21c群)に対し、磁気ヘッド3’の記録ヘッド部による第2磁界の印加によって所定情報が書き込まれる。第2の情報記録時に磁気ヘッド3’の記録ヘッド部が発する磁界は、上述の第2磁界(第1磁界より大きい)である。磁気ディスクY2では、磁気ビット21bの保磁力は、磁気ビット21cの保磁力より大きく、磁気ヘッド3’の記録ヘッド部による第2磁界の印加によっては磁化方向が変化しない程度の大きさに設定されている。そのため、仮に第2の情報記録実行中に磁気ヘッド3’ないし記録ヘッド部がROM領域20Rの近傍を通過したりROM領域20R内に進入したとしても、ROM領域20Rの磁気ビット21bは磁化反転を生じない。すなわち、第2の情報記録実行中には、ROM領域20R内のROM情報は書き換えられない。
【0044】
磁気記録装置X2における情報再生時には、記録層20’のデータ領域20Dからデータが読み取られたり、ROM領域20R,20R’からROM情報が読み取られる。具体的には、磁気記録装置X2の各部が協働して、磁気ヘッド3’の再生ヘッド部により、回転される磁気ディスクY2の記録層20’におけるデータ領域20Dのデータや、ROM領域20R,20R’のROM情報が読み取られる。
【0045】
磁気記録装置X2の磁気ディスクY2においては、上述のように、ROM領域20Rの磁気ビット21bは、データ領域20Dの磁気ビット21aや、仮想ROM領域たるROM領域20R’の磁気ビット21cよりも、保磁力が大きい。この磁気ディスクY2では、磁気記録装置X2での記録ヘッド部による磁界印加によって磁化反転し得るように磁気ビット21a,21cの保磁力を設定しつつ、当該磁界印加によっては磁化反転しないように磁気ビット21bの保磁力を設定できる。また、磁気ディスクY2では、ROM領域20Rの磁気ビット21b群は、第1方向に磁化された少なくとも一つの磁気ビット21bと、第1方向とは反対の第2方向に磁化された少なくとも一つの磁気ビット21bとを含む。磁気ビット21bに関するこのような磁化反転構成は、磁気ビット21bの磁化方向を反転可能な磁界を発生可能な上述の記録ヘッド63を利用して例えば、実現することができる。したがって、磁気ディスクY2では、ROM領域20RのROM情報について、磁気記録装置X2では書換え不可としつつ、ROM領域20Rの磁気ビット21b群の配置パターンではなくて磁気ビット21b群の磁化方向によって形成することができる。このような磁気ディスクY2では、記録層20’に形成すべき磁性部のパターンに対応する一の凹部パターンを転写面に伴うスタンパによるインプリント法を経る製造手法を採る場合であっても、ROM領域20RのROM情報を作り分けることができる。すなわち、磁気ディスクY2の構成によると、例えば上述のスタンパ62のような、同じ凹部パターンのスタンパを使用しつつ、ROM領域20RのROM情報を作り分けることができるのである。したがって、磁気ディスクY2の構成によると、ROM領域20Rに形成すべきROM情報に応じて、転写面の凹部パターンが異なるスタンパないしその原盤を作製する必要はない。形成すべきROM情報ごとにスタンパないしその原盤を作製する必要のない本媒体は、BPM型磁気記録媒体たる磁気ディスクY2の生産性を高めるのに好適である。以上のように、磁気ディスクY2は、生産性を高めるのに適するのである。磁気ディスクY2の生産性の向上は、磁気ディスクY2ないし磁気記録装置X2の製造コストの削減を図るうえで、好ましい。
【0046】
加えて、磁気記録装置X2の磁気ディスクY2においては、ROM領域20RのROM情報とは別に、エンドユーザが書き換え可能な擬似的なROM情報をROM領域20R’に保持させることができる。このような構成によると、複数種類のROM情報について、例えばその種類ないし役割に応じて、書換え性に差異を設けることが可能である。
【0047】
磁気ディスクY2の記録層20’には、仮想ROM領域として、それぞれが複数の磁気ビット21cを含む複数のROM領域20R’を設けてもよい(磁気ビット21cの保磁力は、磁気ビット21aの保磁力より大きく且つ磁気ビット21bの保磁力より小さい)。この場合、一のROM領域20R’の磁気ビット21cの保磁力と、他のROM領域20R’の磁気ビット21cの保磁力とを異ならしめるのが好ましい。すなわち、ROM領域20R’間で磁気ビット21cの保磁力を異ならしめるのが好ましい。ROM領域20R’ごとに磁気ビット21cのビット面積を異ならしめることによって、ROM領域20R’間で磁気ビット21cの保磁力を異ならしめることが可能である。磁気ビット21cの保磁力がROM領域20R’ごとに異なるこのような構成は、例えば、重要な情報ほど書換えるのに強い磁界が必要となるように、情報の重要度に応じて記録する仮想ROM領域を分類したい場合などに利用可能である。そして、このような磁気ディスクY2を磁気記録装置X2において採用する場合には、上述の磁気ヘッド3’は、磁気ビット21cの保磁力が異なるROM領域20R’(仮想ROM領域)ごとに異なる磁界を当該仮想ROM領域に印加可能に設定ないし制御される。
【0048】
本発明に係る磁気記録媒体においては、上述のように、ROM領域に含まれる磁気ビット(第2磁気ビット)はデータ領域に含まれる磁気ビット(第1磁気ビット)よりも、保磁力が大きい。そのため、本媒体では、エンドユーザの使用する装置(エンドユーザ装置)の記録ヘッドによる磁界印加によって磁化方向が反転し得るように第1磁気ビットの保磁力を設定し、且つ、当該磁界印加によっては磁化方向が反転しないように第2磁気ビットの保磁力を設定することができる。また、本媒体では、上述のように、ROM領域内の複数の第2磁気ビットは、第1方向に磁化された少なくとも一つの第2磁気ビットと、第1方向とは反対の第2方向に磁化された少なくとも一つの第2磁気ビットとを含む。第2磁気ビットに関するこのような磁化反転構成は、エンドユーザ装置の記録ヘッドが発する磁界よりも大きな磁界を発生可能な記録ヘッドを利用して例えば、実現することができる。具体的には、第2磁気ビットの磁化反転構成は、ROM領域の第2磁気ビット群から選択された第2磁気ビットに対して当該第2磁気ビットの保磁力より大きな磁界を印加することによって、実現することができる。したがって、本媒体では、ROM領域に保持ないし記憶させるべき情報(ROM情報)について、エンドユーザ装置では書換え不可としつつ、ROM領域の第2磁気ビット群の配置パターンではなくて第2磁気ビット群の磁化方向によって形成することができる。このような本媒体では、記録層に形成すべき磁性部(第1および第2磁気ビットを含む)のパターンに対応する一の凹部パターンを転写面に伴うスタンパによるインプリント法を経る製造手法を採る場合であっても、ROM領域のROM情報を作り分けることができる。すなわち、本媒体の構成によると、同じ凹部パターンのスタンパを使用しつつ、ROM領域のROM情報を作り分けることができるのである。したがって、本媒体の構成によると、ROM領域に形成すべきROM情報に応じて、転写面の凹部パターンが異なるスタンパないしその原盤を作製する必要はない。形成すべきROM情報ごとにスタンパないしその原盤を作製する必要のない本媒体は、BPM型磁気記録媒体の生産性を高めるのに好適である。以上のように、本発明に係る磁気記録媒体は、BPM型磁気記録媒体の生産性を高めるのに適するのである。
【0049】
ROM領域を有するBPMに関連する技術の延長線上に想定される、以下のような比較例たるBPM製造技術について、検討する。比較例たるBPM製造技術においては、記録層の磁性部へとパターニングされることとなる磁性膜上にレジスト材料が成膜された後、スタンパを使用して行ういわゆるインプリント法によって当該レジスト膜からレジストパターンが形成される。スタンパは、記録層において形成すべき磁性部に対応するパターン形状を有する凹部を表面に伴う転写面を有する。インプリント法では、スタンパの転写面がレジスト膜に押し付けられた後、レジスト材料が硬化されて前記のレジストパターンが形成される。レジスト材料が硬化した後、スタンパはレジストパターンから取り外される。レジストパターンは、記録層において形成すべき磁性部に対応するパターン形状を有し、前記の磁気ビット群に対応するビットパターン部を含む。このように磁性膜上にレジストパターンが形成された後、レジストパターンをマスクとして利用して当該レジストパターンの側から磁性膜に対して異方性ドライエッチングが施されることにより、磁性部がパターン形成される。この後、磁性部間に介在する非磁性部が形成される。これにより、所定のパターンを有する磁性部を含む記録層が形成されることとなる。記録層の形成の後、記録層上に保護層が形成される。比較例たるBPM製造技術では、以上のようにしてBPMは製造される。そして、比較例たるBPM製造技術では、記録層において書換え不可の情報を保持ないし記憶するためのROM領域を設ける場合、情報に応じたパターン形状を有する磁性部がROM領域に形成される。比較例たるBPM製造技術では、情報に応じたパターン形状の磁性部をROM領域に形成するうえで、転写面の凹部のパターン形状にROM領域磁性部のパターン形状を含むスタンパを使用して上述のインプリント法が行われる。このような比較例たるBPM製造技術では、ROM領域に保持ないし記憶されるべき情報(ROM情報)が、ROM領域磁性部のパターン形状として固定される。そのため、比較例たるBPM製造技術おいて、ROM情報が異なるBPMを製造するためには、転写面の凹部のパターン形状(ROM領域磁性部のパターン形状を含む)が異なるスタンパが作製される。
【0050】
しかしながら、ROM領域のROM情報に応じて、転写面の凹部パターンの異なるスタンパを作製するのは、効率的でなく、BPMの生産性の観点から好ましくない。その理由は次のとおりである。
【0051】
比較例たるBPM製造技術では、上述のBPM製造過程において、表面に凹凸パターンを有する原盤が上記スタンパとして使用されるか、或は、このような原盤の凹凸パターンがインプリント法によって転写された樹脂性スタンパが上記スタンパとして使用される。スタンパの原盤または原盤たるスタンパの作製においては、まず、例えば石英基板上にレジスト材料が成膜される。次に、当該レジスト膜に対し、電子線描画装置を使用して行う露光処理と、その後の現像処理とが施されて、レジストパターンが形成される。次に、当該レジストパターンがマスクとして利用されて石英基板に異方性エッチング処理が施され、石英基板表面に凹凸パターンが形成される。このような原盤作製過程における電子線描画装置による露光処理には長時間を要し、従って、原盤の作製には長時間を要することが知られている。原盤に形成すべき凹凸パターンが微細であるほど、露光処理は長時間化し、原盤の作製は長時間化する(例えば数カ月にわたる)。
【0052】
したがって、ROM領域のROM情報に応じて、転写面の凹部パターンの異なるスタンパ(ないしその原盤)を、比較例たるBPM製造技術のように作製するのは、効率的でなく、BPMの生産性の観点から好ましくないのである。
【符号の説明】
【0053】
X1,X2 磁気記録装置
Y1,Y1’,Y2 磁気ディスク
1 基板
2 回転機構
3,3’ 磁気ヘッド
4 スイングアーム
5 アクチュエータ
6 コネクタ
10 ディスク基板
20,20’ 記録層
20D データ領域
20R,20R’ ROM領域
21a,21b,21b 磁気ビット
21 磁性膜
22 非磁性部
30 軟磁性層
40 保護層
62 スタンパ
63 記録ヘッド
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビットパターンド磁気記録媒体、および、ビットパターンド磁気記録媒体を備えた磁気記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ハードディスク等の磁気記録装置の大容量化にともない磁気記録媒体の記録密度の向上が進められている。記録密度の向上を図るのに適した磁気記録媒体として、ビットパターンドメディア(BPM)が知られている。BPMは、パターニングされた磁性部を記録層に有する。パターニングされた磁性部には、ユーザデータを記録するための磁気ビット群が含まれる。BPMについては、下記の特許文献1,2に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平3−22211号公報
【特許文献2】特開2005−108361号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、生産性を高めるのに適した、ROM領域を備えるBPM型磁気記録媒体、および、そのような磁気記録媒体を備える磁気記録装置を提供することを、目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る磁気記録媒体は、複数の第1磁気ビットを含むデータ領域と、第1磁気ビットよりも大きな保磁力を有する複数の第2磁気ビットを含むROM領域とを備える。ROM領域内の複数の第2磁気ビットは、第1方向に磁化された少なくとも一つの第2磁気ビット、および、第1方向とは反対の第2方向に磁化された少なくとも一つの第2磁気ビットを含む。
【発明の効果】
【0006】
本発明に係る磁気記録媒体によると、製造過程において同じ凹部パターンのスタンパを使用しつつ、ROM領域のROM情報を作り分けることができる。したがって、本媒体の構成によると、ROM領域に形成すべきROM情報に応じて、転写面の凹部パターンが異なるスタンパないしその原盤を作製する必要はない。形成すべきROM情報ごとにスタンパないしその原盤を作製する必要のない本媒体は、BPM型磁気記録媒体の生産性を高めるのに好適である。このように、本発明に係る磁気記録媒体は、BPM型磁気記録媒体の生産性を高めるのに適するのである。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明の第1実施形態に係る磁気記録装置の平面図である。
【図2】図1に示す磁気記録装置の具備する磁気ディスクの平面図である。
【図3】図2の線III−IIIに沿った一部省略断面図である。
【図4】図2に示す磁気ディスクの製造方法における一部の工程を表す。
【図5】図4の後に続く工程を表す。
【図6】図5の後に続く工程を表す。
【図7】図6の後に続く工程を表す。
【図8】図2に示す磁気ディスクの変形例の平面図である。
【図9】本発明の第2実施形態に係る磁気記録装置の平面図である。
【図10】図9に示す磁気記録装置の具備する磁気ディスクの平面図である。
【図11】図10の線XI−XIに沿った一部省略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
図1は、本発明の第1の実施形態に係る磁気記録装置X1の平面図である。磁気記録装置X1は、複数の磁気ディスクY1と、基板1と、回転機構2と、磁気ヘッド3と、スイングアーム4と、アクチュエータ5と、コネクタ6とを備える。
【0009】
複数の磁気ディスクY1は、所定の間隔を空けて配されている(図1では、一の磁気ディスクY1を図示する)。磁気ディスクY1は、ビットパターンドメディア(BPM)であり、両面に記録面を有する。基板1には、本装置X1にて記録再生処理を実行するための回路が設けられている。そのような回路には、回転機構2、磁気ヘッド3、およびアクチュエータ5の動作を制御する制御回路や、コネクタ6を介して外部との信号の送受を行う信号処理回路が含まれる。回転機構2は、例えばスピンドルモータであり、磁気ディスクY1を所定の回転数で回転させるためのものである。磁気ヘッド3は、磁気ディスクY1の記録面ごとに設けられ、再生時や記録時において磁気ディスクY1の記録面に対して対向配置されるものであり、記録ヘッド部および再生ヘッド部を有する。記録ヘッド部は、磁気ディスクY1のユーザデータをなす磁気ビットの磁化方向を反転させるための磁界を発生させるための素子である。記録ヘッド部は、コアないし磁極が導線で巻かれた構造を有する。再生ヘッド部は、磁気ディスクY1からの磁界を検出可能で且つ検出磁界に応じて出力可能な素子である。そのような素子としては、MR素子やGMR素子を挙げることができる。スイングアーム4は、磁気ヘッド3を先端にて支持するためのものである。アクチュエータ5は、磁気ディスクY1に対向する磁気ヘッド3(記録ヘッド部と再生ヘッド部を伴う)のディスク径方向における位置を変化させるべくスイングアーム4を動作させるためのものである。アクチュエータ5は、例えばボイスコイルモータである。
【0010】
図2および図3は、磁気ディスクY1を表す。図2は、磁気ディスクY1の平面図である。図3は、図2の線III−IIIに沿った一部省略断面図である。
【0011】
磁気ディスクY1は、図3に示すように、ディスク基板10、記録層20、軟磁性層30、および保護層40(図3では省略)を含む積層構造を有する、情報記録と情報再生とを実行可能なBPMである。
【0012】
ディスク基板10は、主に、磁気ディスクY1の剛性を確保するための部位であり、例えば、アルミニウム合金、ガラス、シリコン、またはポリカーボネート樹脂よりなる。
【0013】
記録層20は、図3に示すように、相互に離隔する複数の磁気ビット21a、相互に離隔する複数の磁気ビット21b、および、磁気ビット21a,21b間に介在する非磁性部22を含む。また、記録層20は、図2に示すように、データ領域20DおよびROM領域20Rを備える。磁気ビット21aは、データ領域20Dに含まれ、図2にて拡大して示すように、例えばマトリクス状に配置されている。磁気ビット21bは、ROM領域20Rに含まれ、図2にて拡大して示すように、例えばマトリクス状に配置されている。磁気ビット21a,21bのそれぞれは、例えば硬磁性材料よりなり、垂直磁気異方性を有する。磁気ビット21a,21bのための硬磁性材料としては、例えばCoPt、CoPtCr、またはSmCoを採用することができる。非磁性部22は、例えばSiN、C、またはSiO2などの非磁性材料よりなる。非磁性部22の存在により、磁気ビット21a,21b間の磁気的相互作用が充分に抑制される。記録層20の厚さは例えば30〜50nmである。このような記録層20には、磁気ディスクY1の図2に示す回転中心Aを共通中心として同心円状に配された複数のトラック(図示略)が設定されている。
【0014】
データ領域20Dにおける複数の磁気ビット21aは、ユーザデータが書換え可能に記録されるものである。各磁気ビット21aは、図2に示すようにドット状の単一の記録セルであり、上述の磁気ヘッド3の再生ヘッド部が検出可能な磁界を発生している。また、磁気ビット21aは、磁気ヘッド3の記録ヘッド部による磁界印加によって磁化方向が反転可能な程度の保磁力を有する。磁気ビット21aの例えば図2に表れている表面の直径は、例えば20〜30nmである。データ領域20Dでは、各磁気ビット21aが所定方向に磁化されて、ディスク周方向に連なる磁気ビット21a列において所定のユーザデータが書き換え可能に記録されている。垂直磁気異方性を有する磁気ビット21aの磁化方向は、図3中の上方向および下方向の二方向である。磁気ディスクY1についてセクタサーボ方式を採用する場合、データ領域20Dには、ディスク周方向に離隔する複数のサーボセクタが設けられ、当該サーボセクタ外に磁気ビット21aは位置する。
【0015】
ROM領域20Rにおける複数の磁気ビット21bは、書換え不可の情報をなすものである。各磁気ビット21bは、図2に示すようにドット状の単一の記録セルであり、上述の磁気ヘッド3の再生ヘッド部が検出可能な磁界を発生している。磁気ビット21bの例えば図2に表れている表面の直径は、磁気ビット21aの前記の直径より小さい限りにおいて、例えば5〜10nmである。磁気ビット21bの例えば図2に表れている記録面側の面積(ビット面積)は、磁気ビット21aの例えば図2に表れている記録面側の面積より、小さい。このようにビット面積が磁気ビット21aよりも小さい磁気ビット21bは、磁気ビット21aよりも大きな保磁力を有する(磁気ビットについては、そのビット面積が小さいほど保磁力が大きい傾向にある)。具体的には、磁気ビット21bの保磁力は、上述の磁気ヘッド3の記録ヘッド部による磁界印加によっては磁化方向が変化しない程度の大きさに設定されている。ROM領域20Rでは、各磁気ビット21bが所定方向に磁化されて、ディスク周方向に連なる磁気ビット21b列において、エンドユーザによっては書換え不可の情報(ROM情報)が保持ないし記憶されている。ROM情報としては、例えば、データを暗号化するための鍵情報や、出荷段階でプリインストールするアプリケーション情報などが挙げられる。垂直磁気異方性を有する磁気ビット21bの磁化方向は、図3中の上方向(第1方向)および下方向(第2方向)の二方向である。ROM領域20Rに保持ないし記憶されるべきROM情報に応じて、磁気ビット21bの少なくとも一つは第1方向に磁化され、磁気ビット21bの少なくとも一つは第2方向に磁化されている。磁気ディスクY1についてセクタサーボ方式を採用する場合、ROM領域20Rには、ディスク周方向に離隔する複数のサーボセクタが設けられ、当該サーボセクタ外に磁気ビット21bは位置する。
【0016】
軟磁性層30は、磁気ディスクY1への書込み時等に保護膜40に対向する上述の磁気ヘッド3の記録ヘッド部からの磁束を再び当該記録ヘッド部に環流させる磁路を効率よく形成するためのものである。このような軟磁性層30は、高透磁率を有して大きな飽和磁化を有するとともに小さな保磁力を有する軟磁性材料よりなる。書込み時には、記録ヘッド部による記録磁界の印加によって、データ領域20Dの所定の磁気ビット21aが所定方向に磁化されるところ、軟磁性層30が存在することにより、磁気ビット21aを磁化反転させるのに必要な実効的な記録磁界を低減させることが可能となる。軟磁性層30のための軟磁性材料としては、例えば、FeC、FeNi、FeCoB、FeCoSiC、またはFeCo−AlOを採用することができる。
【0017】
保護膜40は、記録層20や軟磁性層30を外界から物理的および化学的に保護するための部位であり、例えば、SiN、SiO2、またはダイアモンドライクカーボン(DLC)よりなる。保護膜40の厚さは、例えば1〜5nmである。保護膜40の露出面は、磁気ディスクY1の記録面をなす。
【0018】
以上のような記録層20、軟磁性層30、および保護膜40を含む積層構造を磁気ディスクY1はディスク基板10の両面上に有する。また、記録層20、軟磁性層30、および保護膜40を含む積層構造中には、必要に応じて他の層が含まれてもよい。
【0019】
図4から図7は、磁気ディスクY1の製造方法の一例を表す。本方法では、まず、図4(a)に示すように、ディスク基板10上に、軟磁性層30、磁性膜21、およびレジスト膜61を順次形成する。軟磁性層30の形成においては、例えばスパッタリング法により、軟磁性層30に関して上述した軟磁性材料をディスク基板10上に成膜する。磁性膜21の形成においては、例えばスパッタリング法により、磁気ビット21a,21bに関して上述した磁性材料を軟磁性層30上に成膜する。レジスト膜61の形成においては、熱硬化型レジスト材料または紫外線硬化型レジスト材料をスピンコーティング法によって磁性膜21上に成膜する。
【0020】
次に、図4(b)および図5(a)に示すように、スタンパ62を使用してインプリント工程を行う。スタンパ62は、転写面62’を有し、転写面62’側に凹部62a,62bを有する。凹部62aは、上述の磁気ビット21aに対応するパターン形状を有する。凹部62bは、上述の磁気ビット21bに対応するパターン形状を有する。凹部62bの開口径は、凹部62aの開口径より小さい。レジスト膜61として紫外線硬化型レジスト材料よりなるものを採用する場合、スタンパ62としては、紫外線が透過可能なものを使用する。
【0021】
インプリント工程では、このようなスタンパ62の転写面62’をレジスト膜61に押し付ける。レジスト膜61が熱硬化型レジスト材料よりなる場合、スタンパ62をレジスト膜61に押し付けた状態で加熱してレジスト膜61を硬化させる。レジスト膜61が紫外線硬化型レジスト材料よりなる場合、スタンパ62をレジスト膜61に押し付けた状態でレジスト膜61に対して紫外線を照射してレジスト膜61を硬化させる。このようなインプリント工程によって、転写面62’の凹凸形状がレジスト膜61に転写されて、レジストマスク61Aが形成される。レジストマスク61Aには、スタンパ62の凹部62a,62bに応じて形成された凸部61a,61bが含まれる。また、インプリント工程では、図5(a)に示すように、スタンパ62は磁性膜21に至らず、磁性膜21とスタンパ62との間にレジスト材料が残存するのが好ましい。スタンパ62が磁性膜21に至ると、形成されるレジストマスク61Aと磁性膜21との接触面積が低下するなどしてレジストマスク61Aが磁性膜21から剥離しやすくなってしまう。そのような剥離が生じないように、スタンパ62と磁性膜21との間にレジスト材料が意図的に残されるのが好ましいのである。
【0022】
本方法では、スタンパ62を使用して行う上述のインプリント工程の後、図5(b)に示すように、スタンパ62をレジストマスク61Aから取り外す。
【0023】
次に、凸部61a,61bを有するレジストマスク61Aの側から磁性膜21に対して異方性ドライエッチングを施すことにより、図6(a)に示すように、上述の磁気ビット21a,21bを形成する。この後、例えば所定の溶解液を作用させることにより、レジストマスク61Aの残渣を除去する。
【0024】
次に、図6(b)に示すように非磁性部22を形成する。具体的には、磁気ビット21a,21b間の隙間を充填しつつ磁気ビット21a,21bを覆うように、非磁性部22に関して上述した非磁性材料を堆積させた後、過剰分を例えば研磨除去して磁気ビット21a,21bを露出させる。本工程にて、記録層20が形成されることとなる。
【0025】
次に、図7(a)に示すように保護膜40を形成する。保護膜40の形成においては、例えばスパッタリング法により、保護膜40に関して上述した材料を記録層20上に成膜する。本工程を終えた時点では、磁気ビット21a,21bの磁化方向はランダムである。
【0026】
次に、磁気ビット21a,21bに対して磁界を印加することによって、当該磁気ビット21a,21bの磁化方向を揃える(初期化工程)。本工程では、例えば、磁気ビット21a,21bの保磁力より大きな磁界を、記録層20内の全ての磁気ビット21a,21bに対して一括的に印加する。
【0027】
次に、図7(b)に示すように、ROM領域20Rにおける磁気ビット21b群から選択された磁気ビット21bに対して磁界を印加することによって、ROM領域20RにROM情報を記録する(ROM情報記録工程)。本工程は、磁気ビット21aよりも保磁力の大きい磁気ビット21bの磁化方向を反転可能な磁界を発生させることのできる記録ヘッド63を備える装置を使用して行う。以上のようにして、磁気ディスクY1を適切に製造することができる。
【0028】
磁気記録装置X1における情報記録時には、記録層20のデータ領域20Dにデータが書き込まれる。具体的には、磁気記録装置X1の各部が協働して、回転される磁気ディスクY1の記録層20のデータ領域20D(磁気ビット21a群)に対し、磁気ヘッド3の記録ヘッド部の磁界印加によってデータが書き込まれる。磁気ディスクY1では、上述のように、磁気ビット21bの保磁力は、磁気ビット21aの保磁力より大きく、磁気ヘッド3の記録ヘッド部による磁界印加によっては磁化方向が変化しない程度の大きさに設定されている。そのため、仮に、情報記録実行中に、磁気ヘッド3ないし記録ヘッド部が、ROM領域20Rの近傍を通過したり、ROM領域20R内に進入したとしても、ROM領域20Rの磁気ビット21bは磁化反転を生じず、ROM情報は書き換えられない。
【0029】
磁気記録装置X1における情報再生時には、記録層20のデータ領域20Dからデータが読み取られたり、ROM領域20RからROM情報が読み取られる。具体的には、磁気記録装置X1の各部が協働して、磁気ヘッド3の再生ヘッド部により、回転される磁気ディスクY1の記録層20におけるデータ領域20Dのデータや、ROM領域20RのROM情報が読み取られる。
【0030】
磁気記録装置X1の磁気ディスクY1においては、上述のように、ROM領域20Rに含まれる磁気ビット21bはデータ領域20Dに含まれる磁気ビット21aよりも、保磁力が大きい。この磁気ディスクY1では、磁気記録装置X1(エンドユーザ装置)での記録ヘッド部による磁界印加によって磁化反転し得るように磁気ビット21aの保磁力を設定しつつ、当該磁界印加によっては磁化反転しないように磁気ビット21bの保磁力を設定できる。また、磁気ディスクY1では、上述のように、ROM領域20Rの磁気ビット21b群は、第1方向に磁化された少なくとも一つの磁気ビット21bと、第1方向とは反対の第2方向に磁化された少なくとも一つの磁気ビット21bとを含む。磁気ビット21bに関するこのような磁化反転構成は、磁気記録装置X1(エンドユーザ装置)の磁気ヘッド3の記録ヘッド部が発する磁界よりも大きな磁界を発生可能な上述のような記録ヘッド63を利用して例えば、実現することができる。したがって、磁気ディスクY1では、ROM情報について、磁気記録装置X1(エンドユーザ装置)では書換え不可としつつ、ROM領域20Rの磁気ビット21b群の配置パターンではなくて磁気ビット21b群の磁化方向によって形成することができる。このような磁気ディスクY1では、記録層20に形成すべき磁性部のパターンに対応する一の凹部パターンを転写面に伴うスタンパによるインプリント法を経る製造手法を採る場合であっても、ROM領域20RのROM情報を作り分けることができる。すなわち、磁気ディスクY1の構成によると、例えば上述のスタンパ62のような、同じ凹部パターンのスタンパを使用しつつ、ROM領域20RのROM情報を作り分けることができるのである。したがって、磁気ディスクY1の構成によると、ROM領域20Rに形成すべきROM情報に応じて、転写面の凹部パターンが異なるスタンパないしその原盤を作製する必要はない。形成すべきROM情報ごとにスタンパないしその原盤を作製する必要のない本媒体は、BPM型磁気記録媒体たる磁気ディスクY1の生産性を高めるのに好適である。以上のように、磁気ディスクY1は、生産性を高めるのに適するのである。磁気ディスクY1の生産性の向上は、磁気ディスクY1ないし磁気記録装置X1の製造コストの削減を図るうえで、好ましい。
【0031】
図8は、磁気ディスクY1の変形例たる磁気ディスクY1’の平面図である。磁気ディスクY1’は、ROM領域20Rの配置について、磁気ディスクY1と異なる。磁気ディスクY1’のROM領域20Rは、データ領域20Dの外側に位置する外環部20Aと、データ領域20Dの内側に位置する内環部20Bとを有する。
【0032】
ROM領域20Rがこのような配置をとる場合、ROM情報について、エンドユーザがアクセスできない領域に格納しやすい。したがって、磁気ディスクY1’におけるROM領域20Rの当該配置は、ユーザレベルでアクセスされることが望ましくない情報、例えばセキュリティ情報を格納するための領域としてROM領域20Rを利用するのに好適である。
【0033】
図9は、本発明の第2の実施形態に係る磁気記録装置X2の平面図である。磁気記録装置X2は、複数の磁気ディスクY2と、基板1と、回転機構2と、磁気ヘッド3’と、スイングアーム4と、アクチュエータ5と、コネクタ6とを備える。磁気記録装置X2は、複数の磁気ディスクY1に代えて複数の磁気ディスクY2を備える点、および、磁気ヘッド3に代えて磁気ヘッド3’を備える点において、磁気記録装置X1と異なる。
【0034】
図10および図11は、磁気ディスクY2を表す。図10は、磁気ディスクY2の平面図である。図11は、図10の線XI−XIに沿った一部省略断面図である。
【0035】
磁気ディスクY2は、図11に示すように、ディスク基板10、記録層20’、軟磁性層30、および保護層40(図10では省略)を含む積層構造を有する、情報記録と情報再生とを実行可能なBPMである。磁気ディスクY2は、記録層20に代えて記録層20’を積層構造中に含む点において、磁気ディスクY1と異なる。
【0036】
記録層20’は、図11に示すように、相互に離隔する複数の磁気ビット21a、相互に離隔する複数の磁気ビット21b、相互に離隔する複数の磁気ビット21c、および、磁気ビット21a,21b,21c間に介在する非磁性部22を含む。また、記録層20’は、図10に示すように、データ領域20D、外環部20Aと内環部20Bを含むROM領域20R、および、ROM領域20R’を備える。磁気ビット21aは、データ領域20Dに含まれ、図10にて拡大して示すように、例えばマトリクス状に配置されている。磁気ビット21bは、ROM領域20Rに含まれ、図10にて拡大して示すように、例えばマトリクス状に配置されている。磁気ビット21cは、ROM領域20R’に含まれ、図10にて拡大して示すように、例えばマトリクス状に配置されている。磁気ビット21a,21b,21cのそれぞれは、例えば硬磁性材料よりなり、垂直磁気異方性を有する。磁気ビット21a,21b,21cのための硬磁性材料としては、例えばCoPt、CoPtCr、またはSmCoを採用することができる。非磁性部22は、例えばSiN、C、またはSiO2などの非磁性材料よりなる。このような記録層20’は、ROM領域20R’を更に備える点において、上述の磁気ディスクY1’と異なる。
【0037】
データ領域20Dにおける複数の磁気ビット21aは、ユーザデータが書換え可能に記録されるものであり、磁気ディスクY1における磁気ビット21aに関して上述したのと同様の構成を有する。
【0038】
ROM領域20R(外環部20A,内環部20B)における複数の磁気ビット21bは、書換え不可の情報をなすものであり、磁気ディスクY1における磁気ビット21aに関して上述したのと同様の構成を有する。
【0039】
ROM領域20R’は、仮想ROM領域であり、エンドユーザ装置にて形成し得る擬似的なROM情報を保持ないし記憶するための領域である。そのようなROM情報としては、例えば、セキュリティログ情報など、書換えが制限されるべき情報が挙げられる。ROM領域20R’における複数の磁気ビット21cのそれぞれは、図10に示すようにドット状の単一の記録セルであり、上述の磁気ヘッド3の再生ヘッド部が検出可能な磁界を発生している。磁気ビット21cの例えば図10に表れている表面の直径は、磁気ビット21aの直径より小さく且つ磁気ビット21bの直径より大きい限りにおいて、例えば10〜20nmである。磁気ビット21cの例えば図10に表れている記録面側の面積(ビット面積)は、磁気ビット21aの例えば図10に表れている記録面側の面積より小さく、且つ、磁気ビット21bの例えば図10に表れている記録面側の面積より大きい。このようにビット面積が磁気ビット21aよりも小さく且つ磁気ビット21bよりも大きい磁気ビット21cの、保磁力は、磁気ビット21aの保磁力より大きく且つ磁気ビット21bの保磁力より小さい。ROM領域20R’では、各磁気ビット21cが所定方向に磁化されて、ディスク周方向に連なる磁気ビット21c列において、所定の情報が保持ないし記憶されている。垂直磁気異方性を有する磁気ビット21cの磁化方向は、図11中の上方向(第1方向)および下方向(第2方向)の二方向である。ROM領域20R’に保持ないし記憶されるべき情報に応じて、磁気ビット21cの少なくとも一つは第1方向に磁化され、磁気ビット21cの少なくとも一つは第2方向に磁化されている。磁気ディスクY2についてセクタサーボ方式を採用する場合、ROM領域20R’には、ディスク周方向に離隔する複数のサーボセクタが設けられ、当該サーボセクタ外に磁気ビット21cは位置する。
【0040】
以上のような記録層20’を積層構造中に含む磁気ディスクY2は、磁気ディスクY1の製造手法として上述したのと同様の手法(スタンパを使用したインプリント法を経る手法)によって製造することができる。
【0041】
磁気ヘッド3’は、磁気ディスクY2の記録面ごとに設けられ、再生時や記録時において磁気ディスクY2の記録面に対して対向配置されるものであり、記録ヘッド部および再生ヘッド部を有する。磁気ヘッド3’の記録ヘッド部は、第1磁界および当該第1磁界より大きい第2磁界を発生可能な素子である。この記録ヘッド部は、コアないし磁極が導線で巻かれた構造を有し、駆動電流や駆動電圧の制御によって第1磁界および第2磁界の一方を選択的に発生可能である。第1磁界は、データ領域20Dの磁気ビット21aの磁化方向を反転可能な強度に設定されている。第2磁界は、ROM領域20R’の磁気ビット21cの磁化方向を反転可能であってROM領域20Rの磁気ビット21bの磁化方向を変化させることができない強度に設定されている。また、磁気ヘッド3’の再生ヘッド部は、磁気ディスクY2からの磁界を検出可能で且つ検出磁界に応じて出力可能な素子である。そのような素子としては、MR素子やGMR素子を挙げることができる。
【0042】
磁気記録装置X2における第1の情報記録時には、記録層20’のデータ領域20Dにデータが書き込まれる。具体的には、磁気記録装置X2の各部が協働して、回転される磁気ディスクY2の記録層20’のデータ領域20D(磁気ビット21a群)に対し、磁気ヘッド3’の記録ヘッド部によってデータが書き込まれる。第1の情報記録時に磁気ヘッド3’の記録ヘッド部が発する磁界は、上述の第1磁界(第2磁界より小さい)である。磁気ディスクY2では、磁気ビット21b,21cの保磁力は、磁気ビット21aの保磁力より大きく、磁気ヘッド3’の記録ヘッド部による第1磁界の印加によっては磁化方向が変化しない程度の大きさに設定されている。そのため、仮に第1の情報記録実行中に磁気ヘッド3’ないし記録ヘッド部がROM領域20R,20R’の近傍を通過したりROM領域20R,20R’内に進入したとしても、ROM領域20R,20R’の磁気ビット21b,21cは磁化反転を生じない。すなわち、第1の情報記録実行中にはROM情報は書き換えられない。
【0043】
磁気記録装置X2における第2の情報記録時(擬似的なROM情報を記録する時)には、記録層20’のROM領域20R’に所定情報が書き込まれる。具体的には、磁気記録装置X2の各部が協働して、回転される磁気ディスクY2の記録層20’のROM領域20R’(磁気ビット21c群)に対し、磁気ヘッド3’の記録ヘッド部による第2磁界の印加によって所定情報が書き込まれる。第2の情報記録時に磁気ヘッド3’の記録ヘッド部が発する磁界は、上述の第2磁界(第1磁界より大きい)である。磁気ディスクY2では、磁気ビット21bの保磁力は、磁気ビット21cの保磁力より大きく、磁気ヘッド3’の記録ヘッド部による第2磁界の印加によっては磁化方向が変化しない程度の大きさに設定されている。そのため、仮に第2の情報記録実行中に磁気ヘッド3’ないし記録ヘッド部がROM領域20Rの近傍を通過したりROM領域20R内に進入したとしても、ROM領域20Rの磁気ビット21bは磁化反転を生じない。すなわち、第2の情報記録実行中には、ROM領域20R内のROM情報は書き換えられない。
【0044】
磁気記録装置X2における情報再生時には、記録層20’のデータ領域20Dからデータが読み取られたり、ROM領域20R,20R’からROM情報が読み取られる。具体的には、磁気記録装置X2の各部が協働して、磁気ヘッド3’の再生ヘッド部により、回転される磁気ディスクY2の記録層20’におけるデータ領域20Dのデータや、ROM領域20R,20R’のROM情報が読み取られる。
【0045】
磁気記録装置X2の磁気ディスクY2においては、上述のように、ROM領域20Rの磁気ビット21bは、データ領域20Dの磁気ビット21aや、仮想ROM領域たるROM領域20R’の磁気ビット21cよりも、保磁力が大きい。この磁気ディスクY2では、磁気記録装置X2での記録ヘッド部による磁界印加によって磁化反転し得るように磁気ビット21a,21cの保磁力を設定しつつ、当該磁界印加によっては磁化反転しないように磁気ビット21bの保磁力を設定できる。また、磁気ディスクY2では、ROM領域20Rの磁気ビット21b群は、第1方向に磁化された少なくとも一つの磁気ビット21bと、第1方向とは反対の第2方向に磁化された少なくとも一つの磁気ビット21bとを含む。磁気ビット21bに関するこのような磁化反転構成は、磁気ビット21bの磁化方向を反転可能な磁界を発生可能な上述の記録ヘッド63を利用して例えば、実現することができる。したがって、磁気ディスクY2では、ROM領域20RのROM情報について、磁気記録装置X2では書換え不可としつつ、ROM領域20Rの磁気ビット21b群の配置パターンではなくて磁気ビット21b群の磁化方向によって形成することができる。このような磁気ディスクY2では、記録層20’に形成すべき磁性部のパターンに対応する一の凹部パターンを転写面に伴うスタンパによるインプリント法を経る製造手法を採る場合であっても、ROM領域20RのROM情報を作り分けることができる。すなわち、磁気ディスクY2の構成によると、例えば上述のスタンパ62のような、同じ凹部パターンのスタンパを使用しつつ、ROM領域20RのROM情報を作り分けることができるのである。したがって、磁気ディスクY2の構成によると、ROM領域20Rに形成すべきROM情報に応じて、転写面の凹部パターンが異なるスタンパないしその原盤を作製する必要はない。形成すべきROM情報ごとにスタンパないしその原盤を作製する必要のない本媒体は、BPM型磁気記録媒体たる磁気ディスクY2の生産性を高めるのに好適である。以上のように、磁気ディスクY2は、生産性を高めるのに適するのである。磁気ディスクY2の生産性の向上は、磁気ディスクY2ないし磁気記録装置X2の製造コストの削減を図るうえで、好ましい。
【0046】
加えて、磁気記録装置X2の磁気ディスクY2においては、ROM領域20RのROM情報とは別に、エンドユーザが書き換え可能な擬似的なROM情報をROM領域20R’に保持させることができる。このような構成によると、複数種類のROM情報について、例えばその種類ないし役割に応じて、書換え性に差異を設けることが可能である。
【0047】
磁気ディスクY2の記録層20’には、仮想ROM領域として、それぞれが複数の磁気ビット21cを含む複数のROM領域20R’を設けてもよい(磁気ビット21cの保磁力は、磁気ビット21aの保磁力より大きく且つ磁気ビット21bの保磁力より小さい)。この場合、一のROM領域20R’の磁気ビット21cの保磁力と、他のROM領域20R’の磁気ビット21cの保磁力とを異ならしめるのが好ましい。すなわち、ROM領域20R’間で磁気ビット21cの保磁力を異ならしめるのが好ましい。ROM領域20R’ごとに磁気ビット21cのビット面積を異ならしめることによって、ROM領域20R’間で磁気ビット21cの保磁力を異ならしめることが可能である。磁気ビット21cの保磁力がROM領域20R’ごとに異なるこのような構成は、例えば、重要な情報ほど書換えるのに強い磁界が必要となるように、情報の重要度に応じて記録する仮想ROM領域を分類したい場合などに利用可能である。そして、このような磁気ディスクY2を磁気記録装置X2において採用する場合には、上述の磁気ヘッド3’は、磁気ビット21cの保磁力が異なるROM領域20R’(仮想ROM領域)ごとに異なる磁界を当該仮想ROM領域に印加可能に設定ないし制御される。
【0048】
本発明に係る磁気記録媒体においては、上述のように、ROM領域に含まれる磁気ビット(第2磁気ビット)はデータ領域に含まれる磁気ビット(第1磁気ビット)よりも、保磁力が大きい。そのため、本媒体では、エンドユーザの使用する装置(エンドユーザ装置)の記録ヘッドによる磁界印加によって磁化方向が反転し得るように第1磁気ビットの保磁力を設定し、且つ、当該磁界印加によっては磁化方向が反転しないように第2磁気ビットの保磁力を設定することができる。また、本媒体では、上述のように、ROM領域内の複数の第2磁気ビットは、第1方向に磁化された少なくとも一つの第2磁気ビットと、第1方向とは反対の第2方向に磁化された少なくとも一つの第2磁気ビットとを含む。第2磁気ビットに関するこのような磁化反転構成は、エンドユーザ装置の記録ヘッドが発する磁界よりも大きな磁界を発生可能な記録ヘッドを利用して例えば、実現することができる。具体的には、第2磁気ビットの磁化反転構成は、ROM領域の第2磁気ビット群から選択された第2磁気ビットに対して当該第2磁気ビットの保磁力より大きな磁界を印加することによって、実現することができる。したがって、本媒体では、ROM領域に保持ないし記憶させるべき情報(ROM情報)について、エンドユーザ装置では書換え不可としつつ、ROM領域の第2磁気ビット群の配置パターンではなくて第2磁気ビット群の磁化方向によって形成することができる。このような本媒体では、記録層に形成すべき磁性部(第1および第2磁気ビットを含む)のパターンに対応する一の凹部パターンを転写面に伴うスタンパによるインプリント法を経る製造手法を採る場合であっても、ROM領域のROM情報を作り分けることができる。すなわち、本媒体の構成によると、同じ凹部パターンのスタンパを使用しつつ、ROM領域のROM情報を作り分けることができるのである。したがって、本媒体の構成によると、ROM領域に形成すべきROM情報に応じて、転写面の凹部パターンが異なるスタンパないしその原盤を作製する必要はない。形成すべきROM情報ごとにスタンパないしその原盤を作製する必要のない本媒体は、BPM型磁気記録媒体の生産性を高めるのに好適である。以上のように、本発明に係る磁気記録媒体は、BPM型磁気記録媒体の生産性を高めるのに適するのである。
【0049】
ROM領域を有するBPMに関連する技術の延長線上に想定される、以下のような比較例たるBPM製造技術について、検討する。比較例たるBPM製造技術においては、記録層の磁性部へとパターニングされることとなる磁性膜上にレジスト材料が成膜された後、スタンパを使用して行ういわゆるインプリント法によって当該レジスト膜からレジストパターンが形成される。スタンパは、記録層において形成すべき磁性部に対応するパターン形状を有する凹部を表面に伴う転写面を有する。インプリント法では、スタンパの転写面がレジスト膜に押し付けられた後、レジスト材料が硬化されて前記のレジストパターンが形成される。レジスト材料が硬化した後、スタンパはレジストパターンから取り外される。レジストパターンは、記録層において形成すべき磁性部に対応するパターン形状を有し、前記の磁気ビット群に対応するビットパターン部を含む。このように磁性膜上にレジストパターンが形成された後、レジストパターンをマスクとして利用して当該レジストパターンの側から磁性膜に対して異方性ドライエッチングが施されることにより、磁性部がパターン形成される。この後、磁性部間に介在する非磁性部が形成される。これにより、所定のパターンを有する磁性部を含む記録層が形成されることとなる。記録層の形成の後、記録層上に保護層が形成される。比較例たるBPM製造技術では、以上のようにしてBPMは製造される。そして、比較例たるBPM製造技術では、記録層において書換え不可の情報を保持ないし記憶するためのROM領域を設ける場合、情報に応じたパターン形状を有する磁性部がROM領域に形成される。比較例たるBPM製造技術では、情報に応じたパターン形状の磁性部をROM領域に形成するうえで、転写面の凹部のパターン形状にROM領域磁性部のパターン形状を含むスタンパを使用して上述のインプリント法が行われる。このような比較例たるBPM製造技術では、ROM領域に保持ないし記憶されるべき情報(ROM情報)が、ROM領域磁性部のパターン形状として固定される。そのため、比較例たるBPM製造技術おいて、ROM情報が異なるBPMを製造するためには、転写面の凹部のパターン形状(ROM領域磁性部のパターン形状を含む)が異なるスタンパが作製される。
【0050】
しかしながら、ROM領域のROM情報に応じて、転写面の凹部パターンの異なるスタンパを作製するのは、効率的でなく、BPMの生産性の観点から好ましくない。その理由は次のとおりである。
【0051】
比較例たるBPM製造技術では、上述のBPM製造過程において、表面に凹凸パターンを有する原盤が上記スタンパとして使用されるか、或は、このような原盤の凹凸パターンがインプリント法によって転写された樹脂性スタンパが上記スタンパとして使用される。スタンパの原盤または原盤たるスタンパの作製においては、まず、例えば石英基板上にレジスト材料が成膜される。次に、当該レジスト膜に対し、電子線描画装置を使用して行う露光処理と、その後の現像処理とが施されて、レジストパターンが形成される。次に、当該レジストパターンがマスクとして利用されて石英基板に異方性エッチング処理が施され、石英基板表面に凹凸パターンが形成される。このような原盤作製過程における電子線描画装置による露光処理には長時間を要し、従って、原盤の作製には長時間を要することが知られている。原盤に形成すべき凹凸パターンが微細であるほど、露光処理は長時間化し、原盤の作製は長時間化する(例えば数カ月にわたる)。
【0052】
したがって、ROM領域のROM情報に応じて、転写面の凹部パターンの異なるスタンパ(ないしその原盤)を、比較例たるBPM製造技術のように作製するのは、効率的でなく、BPMの生産性の観点から好ましくないのである。
【符号の説明】
【0053】
X1,X2 磁気記録装置
Y1,Y1’,Y2 磁気ディスク
1 基板
2 回転機構
3,3’ 磁気ヘッド
4 スイングアーム
5 アクチュエータ
6 コネクタ
10 ディスク基板
20,20’ 記録層
20D データ領域
20R,20R’ ROM領域
21a,21b,21b 磁気ビット
21 磁性膜
22 非磁性部
30 軟磁性層
40 保護層
62 スタンパ
63 記録ヘッド
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の第1磁気ビットを含むデータ領域と、
前記第1磁気ビットよりも大きな保磁力を有する複数の第2磁気ビットを含むROM領域と、を備え、
前記複数の第2磁気ビットは、第1方向に磁化された少なくとも一つの第2磁気ビット、および、前記第1方向とは反対の第2方向に磁化された少なくとも一つの第2磁気ビットを含む、磁気記録媒体。
【請求項2】
前記第2磁気ビットのビット面積は、前記第1磁気ビットのビット面積より小さい、請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項3】
複数の第1磁気ビットを含むデータ領域と、
前記第1磁気ビットよりも大きな保磁力を有する複数の第2磁気ビットを含む第1ROM領域と、
前記第1磁気ビットよりも大きな保磁力であり且つ前記第2磁気ビットよりも小さな保磁力、を有する複数の第3磁気ビットを含む少なくとも一つの第2ROM領域と、を備え、
前記複数の第2磁気ビットは、第1方向に磁化された少なくとも一つの第2磁気ビット、および、前記第1方向とは反対の第2方向に磁化された少なくとも一つの第2磁気ビットを含む、磁気記録媒体。
【請求項4】
一の前記第2ROM領域に含まれる前記複数の第3磁気ビットは、第1方向に磁化された少なくとも一つの第3磁気ビット、および、前記第1方向とは反対の第2方向に磁化された少なくとも一つの第3磁気ビットを含む、請求項3に記載の磁気記録媒体。
【請求項5】
複数の前記第2ROM領域を備え、各第2ROM領域に含まれる前記第3磁気ビットの保磁力は、前記複数の第2ROM領域の間で異なる、請求項3または4に記載の磁気記録媒体。
【請求項6】
前記第2磁気ビットのビット面積は、前記第1磁気ビットのビット面積より小さく、前記第3磁気ビットのビット面積は、前記第1磁気ビットのビット面積より小さく且つ前記第2磁気ビットのビット面積より大きい、請求項3から5のいずれか一つに記載の磁気記録媒体。
【請求項7】
磁気記録媒体および記録ヘッドを備え、
前記磁気記録媒体は、
複数の第1磁気ビットを含むデータ領域と、
前記第1磁気ビットよりも大きな保磁力を有する複数の第2磁気ビットを含むROM領域と、を備え、
前記複数の第2磁気ビットは、第1方向に磁化された少なくとも一つの第2磁気ビット、および、前記第1方向とは反対の第2方向に磁化された少なくとも一つの第2磁気ビットを含み、
前記記録ヘッドは、前記第1磁気ビットの磁化方向を変化させるための磁界を前記第1磁気ビットに対して印加可能である、磁気記録装置。
【請求項8】
磁気記録媒体および記録ヘッドを備え、
前記磁気記録媒体は、
複数の第1磁気ビットを含むデータ領域と、
前記第1磁気ビットよりも大きな保磁力を有する複数の第2磁気ビットを含む第1ROM領域と、
前記第1磁気ビットよりも大きな保磁力であり且つ前記第2磁気ビットよりも小さな保磁力、を有する複数の第3磁気ビットを含む少なくとも一つの第2ROM領域と、を備え、
前記複数の第2磁気ビットは、第1方向に磁化された少なくとも一つの第2磁気ビット、および、前記第1方向とは反対の第2方向に磁化された少なくとも一つの第2磁気ビットを含み、
前記記録ヘッドは、前記第1磁気ビットの磁化方向を変化させるための磁界を前記第1磁気ビットに対して印加可能であり、且つ、前記第3磁気ビットの磁化方向を変化させるための磁界を前記第3磁気ビットに対して印加可能である、磁気記録装置。
【請求項1】
複数の第1磁気ビットを含むデータ領域と、
前記第1磁気ビットよりも大きな保磁力を有する複数の第2磁気ビットを含むROM領域と、を備え、
前記複数の第2磁気ビットは、第1方向に磁化された少なくとも一つの第2磁気ビット、および、前記第1方向とは反対の第2方向に磁化された少なくとも一つの第2磁気ビットを含む、磁気記録媒体。
【請求項2】
前記第2磁気ビットのビット面積は、前記第1磁気ビットのビット面積より小さい、請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項3】
複数の第1磁気ビットを含むデータ領域と、
前記第1磁気ビットよりも大きな保磁力を有する複数の第2磁気ビットを含む第1ROM領域と、
前記第1磁気ビットよりも大きな保磁力であり且つ前記第2磁気ビットよりも小さな保磁力、を有する複数の第3磁気ビットを含む少なくとも一つの第2ROM領域と、を備え、
前記複数の第2磁気ビットは、第1方向に磁化された少なくとも一つの第2磁気ビット、および、前記第1方向とは反対の第2方向に磁化された少なくとも一つの第2磁気ビットを含む、磁気記録媒体。
【請求項4】
一の前記第2ROM領域に含まれる前記複数の第3磁気ビットは、第1方向に磁化された少なくとも一つの第3磁気ビット、および、前記第1方向とは反対の第2方向に磁化された少なくとも一つの第3磁気ビットを含む、請求項3に記載の磁気記録媒体。
【請求項5】
複数の前記第2ROM領域を備え、各第2ROM領域に含まれる前記第3磁気ビットの保磁力は、前記複数の第2ROM領域の間で異なる、請求項3または4に記載の磁気記録媒体。
【請求項6】
前記第2磁気ビットのビット面積は、前記第1磁気ビットのビット面積より小さく、前記第3磁気ビットのビット面積は、前記第1磁気ビットのビット面積より小さく且つ前記第2磁気ビットのビット面積より大きい、請求項3から5のいずれか一つに記載の磁気記録媒体。
【請求項7】
磁気記録媒体および記録ヘッドを備え、
前記磁気記録媒体は、
複数の第1磁気ビットを含むデータ領域と、
前記第1磁気ビットよりも大きな保磁力を有する複数の第2磁気ビットを含むROM領域と、を備え、
前記複数の第2磁気ビットは、第1方向に磁化された少なくとも一つの第2磁気ビット、および、前記第1方向とは反対の第2方向に磁化された少なくとも一つの第2磁気ビットを含み、
前記記録ヘッドは、前記第1磁気ビットの磁化方向を変化させるための磁界を前記第1磁気ビットに対して印加可能である、磁気記録装置。
【請求項8】
磁気記録媒体および記録ヘッドを備え、
前記磁気記録媒体は、
複数の第1磁気ビットを含むデータ領域と、
前記第1磁気ビットよりも大きな保磁力を有する複数の第2磁気ビットを含む第1ROM領域と、
前記第1磁気ビットよりも大きな保磁力であり且つ前記第2磁気ビットよりも小さな保磁力、を有する複数の第3磁気ビットを含む少なくとも一つの第2ROM領域と、を備え、
前記複数の第2磁気ビットは、第1方向に磁化された少なくとも一つの第2磁気ビット、および、前記第1方向とは反対の第2方向に磁化された少なくとも一つの第2磁気ビットを含み、
前記記録ヘッドは、前記第1磁気ビットの磁化方向を変化させるための磁界を前記第1磁気ビットに対して印加可能であり、且つ、前記第3磁気ビットの磁化方向を変化させるための磁界を前記第3磁気ビットに対して印加可能である、磁気記録装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2010−244597(P2010−244597A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−90014(P2009−90014)
【出願日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】
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