説明

磁気記録媒体とその製造方法

【課題】高記録密度特性に対応しうる磁気記録媒体として、耐久性において信頼性の高い磁気テープを提供する。
【解決手段】非磁性支持体の一方の面に、磁性粉末と結合剤樹脂とを含む磁性層(塗布型の磁性層)を有し、かつ、他方の面にバックコート層を有する磁気記録媒体において、前記磁性層の上に厚さが2nm〜10nmのカーボン層を設けた構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗布型の磁性層を有する磁気記録媒体とその製造方法、特に塗布型の磁気テープとその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気記録媒体は、オーディオテープ、ビデオテープ、コンピュータテープ、磁気ディスク、磁気カードなど種々の用途があるが、特にデータバックアップ用テープの分野では、バックアップの対象となるハードディスクの大容量化にともない、1巻当たり数100GB以上の記録容量を持つ磁気テープが商品化されている。また、今後1TBを超える大容量バックアップテープが提案されており、その高記録密度化は不可欠である。
【0003】
高記録密度化に対応した磁気テープを製造するにあたっては、磁性粉末(以下、磁性粒子ともいう)の微粒子化(以下、微粉末化ともいう)とそれらの塗膜中への高密度充填化、塗膜の平滑化、磁性層の薄層化に関する高度な技術が用いられている。
【0004】
磁性粉末の改良に関しては、主として、短波長記録に対応するために、微粒子化とともに、磁気特性の改善が図られており、平均粒子径が100nm以下の針状の金属磁性粉末が提案されている。また、短波長記録時の減磁による出力低下を防止するために、年々、高保磁力化が図られている。
【0005】
保磁力に関しては、磁気ヘッドの技術革新により、さらに高保磁力を有する磁気テープに対しても記録は可能な状況にある。特に長手記録方式においては、磁気ヘッドで記録消去が可能な限り、記録および再生減磁による出力低下を防止するため、保磁力はできる限り高くすることが好ましい。したがって、磁気テープの記録密度を向上させるための現実的な方法で効果的な方法は、磁気テープを高保磁力化することといえる。
【0006】
一方、記録波長の短波長化に伴い、従来それほど問題とならなかった記録再生時の自己減磁損失や磁性層の厚さに起因する厚み損失の影響が大きくなってきた。そのため、磁性層を薄くする(薄層化する)ことが必要となってきている。
【0007】
ところが、磁性層を薄層化すると、非磁性支持体の表面粗さが磁性層表面に影響を及ぼし、磁性層の表面性を劣化させやすいという問題が生じる。また、塗布型の磁気記録媒体において、磁性層単層のみを薄層化する場合、磁性塗料の固形分濃度を低下させるか、その塗布量を少なくするといった方法が考えられるが、これらの手法によっては、磁性粉末の充填性の向上が期し難いばかりか、塗布時に例えば塗りムラ等の欠陥が生じたり、塗膜強度が低下したりしやすい。このため、媒体製造技術の改良により磁性層を薄層化する場合、非磁性支持体と磁性層との間に非磁性の下塗層を設け、この下塗層が湿潤状態にあるうちに上層の磁性層を塗布する、いわゆる同時重層塗布方式が提案されている(例えば特許文献1)。
【0008】
記録波長の短波長化と磁性層の薄層化に伴い、磁性層からの漏れ磁束は極めて微弱化しつつあり、これらの磁気記録媒体を使用するシステムにおいては、高感度なMR(磁気抵抗効果)型ヘッドを再生ヘッドに用いたものが主流になりつつある。MR型ヘッド(以下、単に「MRヘッド」という)は、誘導コイルを持たないために機器ノイズが小さく、したがって磁気記録媒体のノイズを小さくすることで優れたC/Nを得ることが可能になる。ところが、磁気誘導型ではあまり問題にならなかった磁性層表面の微小な凹凸でもMRヘッドでは磁気記録媒体のノイズに大きく影響するため、MRヘッドを備えたシステムで使用される磁気記録媒体においては従来以上に磁性層表面の粗さを制御する必要がある。
【0009】
また、磁性層を薄層化すると、その耐久性が低下しやすくなるため、これを防止する必要がある。塗布型の磁気記録媒体において磁性層の耐久性を確保ないし向上させるための手段としては、例えば特許文献1や特許文献2に記載されているように、磁性層中に非磁性粉末を含ませるというものが知られている。特許文献1記載の磁気記録媒体は、ウエット・オン・ウエット方式で形成される磁性層中に、磁性層の厚さ(1.0μm以下)よりも平均粒子径が大きい研磨剤を含有させたもの、特許文献2記載の磁気記録媒体は、磁性層中に、研磨剤として2種以上の異なる結晶系を有するAl23 を含有させたものであり、いずれも磁性層の耐久性を向上させるために磁性層中に比較的モース硬度の大きい非磁性粉末粒子を含ませるという手段が採られている。
【0010】
一方、金属薄膜型の磁性層を有する磁気記録媒体においては、例えば特許文献3や特許文献4に記載されているように、磁性層の耐久性を向上させる手段として、磁性層の表面にカーボン層を設けたものが知られている。特許文献3記載の磁気記録媒体は、Fe,C及びOを有する一層または二層以上のFe−C−O系金属磁性膜と、このFe−C−O系金属磁性膜の上に設けられたダイヤモンドライクカーボン膜と、このダイヤモンドライクカーボン膜の上に設けられたフッ素系潤滑剤の膜とを具備したものであり、特許文献4記載の磁気記録媒体は、非磁性基板上に金属薄膜型の磁性層を設け、この磁性層の表面に、Filtered Cathodic Arc法によって堆積された窒素を含有するカーボン保護膜を設けたものである。
【0011】
【特許文献1】特開平5−197946号公報(第2−4頁)
【特許文献2】特開平11−238226号公報(第2−3頁)
【特許文献3】特開平9- 91662号公報(第2−3頁)
【特許文献4】特開2002−32907公報(第2−4頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかし、前記特許文献1や特許文献2に開示されている磁気記録媒体においては、磁性層に非磁性粉末が含まれているために、記録波長が小さくなったり、磁性層厚さが小さくなると十分な電磁変換特性を得ることは困難であった。また、磁性層の厚さが次第に小さくなるにつれて、磁性層中の非磁性粉末が磁性粉末の配向性を乱したり、磁性層の表面平滑性を低下させたりする傾向が大きくなり、この点も記録密度を大きくするための障害となってきた。
【0013】
一方、特許文献3記載のものでは、金属薄膜型の磁性層であるためにその内部に、潤滑剤を保持することができず、記録層の最上層に潤滑剤の膜を設けているものの、磁性膜の耐久性は十分ではなかった。同様に、特許文献4記載のものにおいても、金属薄膜型の磁性層であるためにその内部に、潤滑剤を保持することができず、記録層の最上層に潤滑剤の膜を設けているものの、磁性膜の耐久性は十分ではなかった。
【0014】
このように、磁気記録媒体の高記録密度化を達成するには、先に述べたような従来技術では不十分であった。
【0015】
本発明は、以上のような事情に鑑みてなされたもので、高記録密度化に対応しうる磁気記録媒体として、十分な耐久性を有する塗布型の磁気記録媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記の目的を達成するため、本発明は、非磁性支持体の一方の面に、磁性粉末と結合剤樹脂とを含む塗膜からなる磁性層を有し、かつ、他方の面にバックコート層を有する磁気記録媒体において、前記磁性層の上に、厚さが2nm〜10nmのカーボン層を設けたことを特徴とする。ここで、カーボン層の厚さを2nm〜10nmとしたのは、10nm以上であると、耐久性向上の効果が飽和するだけでなく、磁気ヘッドと磁性層とのスペーシングが大きくなりすぎて、短波長記録特性の低下が大きくなり、厚さが2nm未満ではカーボン層が薄すぎて耐久性向上の効果が期待できなくなるからである。
【0017】
このような磁気記録媒体は、非磁性支持体の一方の面に、磁性粉末と結合剤樹脂とを含む磁性塗料を塗布し、得られた塗布層(磁性層)を乾燥させた後、これの表面を平滑化処理し、この平滑化処理された後の磁性層の表面に、厚さが2nm〜10nmのカーボン層を形成することによって製造することができる。
【0018】
前記カーボン層におけるカーボンのC−C結合のうち、sp3 結合の割合は25〜85%とするのが好ましい(理由は後述する)。なお、本願では、カーボンのC−C結合のうち、sp3 混成軌道による結合をsp3 結合といい、sp2 混成軌道による結合をsp2 結合という。
【発明の効果】
【0019】
本発明の磁気記録媒体によれば、磁性層の上に、厚さが2nm〜10nmのカーボン層が設けられているので、このカーボン層が磁性層表面に対する保護層として機能し、その結果として磁性層の耐久性が向上することとなる。また、このようなカーボン層が磁性層上に設けられていることにより、磁性層側の面の摩擦係数が低減し、走行性も向上する。しかも、本発明の磁気記録媒体は塗布型であるから、金属薄膜型の磁性層を有する磁気記録媒体とは異なり、磁性層や、これと非磁性支持体との間に配置される下塗層を形成するための塗料中に潤滑剤を添加しておくことができる。したがって、このような潤滑剤による良好な走行性の維持という効果も確保できる。さらに、磁性層に対する表面保護効果が期待できる範囲内でカーボン層の厚みは2nm〜10nmと薄く設定されているので、カーボン層が非磁性支持体と磁性層との間に存在することによるスペーシングの影響、すなわちスペーシングロスによる出力低下もほとんど生じない。
【0020】
一方、本発明の製造方法によれば、非磁性支持体の一方の面に塗布形成された磁性層を乾燥させた後、その表面を平滑化処理し、この平滑化処理された後の磁性層の表面に上記のカーボン層を形成するので、磁性層/カーボン層間の界面の変動を抑えることができる。したがって、磁性層やカーボン層のそれぞれの厚さの均一化を図ることでき、ひいては再生出力の変動も回避ないし抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明者らは、高密度記録媒体に必要な優れた短波長記録特性を向上させるために種々の検討を行った。磁性層には、通常、磁性層の耐久性や走行性を向上させるための研磨剤粉末やカーボンブラックが添加される。これらの研磨剤粉末やカーボンブラックは、その効果を発揮するために、磁性粉末の短軸径よりも粒子径の大きなものが使用され、どうしても磁性層の表面が粗くなることが避けられず、また、その存在が磁性層内での磁性粉の配向を乱すために、磁気ヘッドとのスペーシングが大きくなるとともに、磁気特性の低下により短波長記録特性が低下するのが実情であった。さらに、これらの粉末は、非磁性粉末であるために、磁性層の単位体積当たりの磁化量を低下させるため、再生出力を低下させる。そのため磁性層に含まれるこれらの非磁性粉末を可能な限り少なくして、別の手段で耐久性や走行性を向上させることが、例えばテープ1巻当たり1TB以上の記録容量に対応しうる高密度記録媒体を開発するための一つの課題であった。
【0022】
本発明者らは、非磁性支持体の一方の面に、磁性粉末と結合剤樹脂とを含む磁性層を有し、かつ、他方の面にバックコート層を有する磁気記録媒体(塗布型の磁気記録媒体)において、磁性層の上に、厚さが2nm〜10nmのカーボン層を設けることにより上記課題を解決した。カーボン層のカーボンのC−C結合のうち、sp3 結合の割合を25〜85%とすることにより、より耐久性を向上させることができる。カーボン層を形成しているカーボンのC−C結合は、sp2 結合とsp3 結合とから成り立っているが、sp3 結合の割合が25%以上になるとカーボン層の強度がさらに大きくなるので好ましい。また、カーボンのC−C結合のうち、sp3 結合の割合が大きいほどカーボン層の強度が大きくなるとともに磁性層側の面の摩擦係数が低減し、保護層としての機能に優れるとともに、走行性も向上して好ましいが、85%を超える含率の成膜は技術的に困難である。
【0023】
非磁性層であるカーボン層を磁性層上に設けることによって生じる磁気ヘッドと磁性層との間のスペーシングを成るべく小さくするために、カーボン層の厚さは、2〜10nmが好ましく、2〜5nmがさらに好ましい。ここでいうカーボン層の厚さは、以下のようにして得たものである。まず、試料の磁気記録媒体を樹脂埋めし、それを集束イオンビーム加工装置で切り出し、その断面を透過型電子顕微鏡(TEM)で10万〜100万倍の適宜の倍率にて、10視野の写真撮影を行い、最上層カーボン層表面、最上層カーボン層−磁性層界面の境界を縁取りする。次に、写真1視野当り、任意の5個所(計50個所)を、それぞれ縁取りした線間の距離を最上層カーボン層(以下、カーボン層とも言う)の厚さとして計測し、それらを平均して前記カーボン層の厚さとした。
【0024】
カーボン層の中心線平均表面粗さRaは、5nm以下が好ましく、0.5〜4nmがより好ましく、1〜4nmがさらに好ましく、1〜3nmが最も好ましい。カーボン層のP−V(微視的に見てカーボン層表面に存在する凹凸の最も低い「谷底」から最も高い「山頂」までの高低差)は、70nm以下が好ましく、6〜50nmがより好ましく、8〜50nmがさらに好ましく、8〜40nmが最も好ましい。Raが0.5〜4nm、P−Vが6〜50nmの範囲がより好ましいのは、これらの下限未満では、磁気記録媒体が磁気テープである場合に当該磁気テープの走行が不安定になり、上限を越えると、スペーシングロスにより、短波長記録の解像度が悪くなったり出力が低下したりして、エラーレートが高くなるためである。
【0025】
磁性層上に設けるカーボン層は連続層であることが好ましいが、層厚さが薄い場合には磁性層上の全面にカーボン層が形成されず、磁性層上にカーボン層が「海・島」状に存在する場合もある。磁性層の耐久性向上の効果が認められる限り、そのような形状であってもかまわない。
【0026】
本発明は、金属薄膜型の磁性層に比べて潤滑剤を保持させやすい塗布型の磁性層(磁性層塗膜)を有する磁気記録媒体に適用することを前提としている。このような塗布型の磁気記録媒体には、磁気テープのみならずフレキシブルディスク(FD)も含まれるが、本発明の主たる対象は塗布型の磁気テープである(ただし、本発明の適用対象から塗布型の磁性層を有するフレキシブルディスクを排除するものではない)。そこで、以下では塗布型の磁性層を有する磁気テープに本発明を適用する場合についてさらに詳細に説明する。
【0027】
〈カーボン層〉
磁性層上へのカーボン層の形成は、半導体装置、金属薄膜型磁気記録媒体の製造などにおいて用いられる、従来公知のスパッタリング法、プラズマCVD(Chemical
Vapor Deposition)法、イオンプレーティング法、FCVA(Filtered Cathdic Vacuum Arc)法などによって行うことができる。カーボンに高い耐久性を付与するため、そのカーボン層に水素や窒素を添加することも可能である。なかでも、比較的新しい技術であるFCVA法にて形成することがより好ましい。
【0028】
FCVA法によるカーボン層の形成は、次のようにして行われる。すなわち、カソードターゲットとアノードの間でアーク放電をおこし、そのアークによって形成されるターゲット表面のカソードスポットからターゲット構成原子、電子をはじき出す。はじき出された原子は、カソードスポット近傍で電子との衝突によりイオン化される。また、カソードスポットから原子、電子の他にマクロパーティクル(カソード構成材料の分解成分粗大粒子)が放出される。放出されたこれらイオン、電子、中性原子およびマクロパーティクルは、電場、プラズマの影響により加速され、フィルタ部へと進むが、ここで中性原子とマクロパーティクルはフィルタによってトラップされ、イオンと電子のみがカーボン層被着体まで到達する。その結果、カーボン層被着体表面に到達したイオンと電子とからカーボン薄膜が形成される。FCVA法は他の方法に比較して、低温での処理が可能で、かつC−C結合中のsp3 結合の含有率を大きくできることが特徴であり、磁性層、下塗層、非磁性支持体への影響を最小限に抑えて、薄くて強度の大きなカーボン層を形成することができる。
【0029】
FCVA法で使用される成膜装置(FCVA装置)は、所定のウェブ(非磁性支持体上に少なくとも磁性層を有する磁気シート)を走行させる搬送部、成膜室、フィルタ部および放電室を有する。放電室はカソードターゲット、アノード、カソードコイルおよびストライカからなる。カソードコイルには純グラファイトを使用しており、ストライカでカソードターゲット表面を叩くことでアーク放電を開始させる。カソードコイルはイオン化を促進させるためのものである。放電室で発生したカーボン粒子群は、ビーム状になって隣のフィルタ部へと進む。
【0030】
フィルタ部にはフィルタコイルを装備した45度ベントタイプのフィルタが設けられている。磁場によって、カーボンイオンと電子とが曲げられ、成膜室に向かうが、中性元素、マイクロパーティクルは曲がりきれずトラップされる。また、ラスターマグネットによってビームを上下左右に振ることで膜面内の膜厚分布を均一にする。
【0031】
成膜室での真空度はビームの安定性に影響するが、通常は0.8〜10-4Paの範囲に設定する。各電流・電圧設定値は次のとおりである。
・アーク電流:50〜100A
・カソード電流:5〜10A
・フィルタコイル電流:5〜10A、3〜8A
・ラスタコイル電流:X=0 A、Y=10A
・バイアス電圧2〜2000kV
【0032】
これらの設定値は、装置や成膜されるカーボン層によって最適値が存在する。しかしカーボン層のC−C結合の割合はバイアス電圧によって決定され、膜厚は処理時間よって決まる。また、従来のDLC法では成膜時の温度が200℃と高温であるためロール等で冷却処置を行っても、非磁性支持体の熱変形等、熱に起因する諸問題を引き起す場合があるが、FCVA法では成膜温度が80℃と低くできることから上記の問題は無い。
【0033】
カーボン層のC−C結合のうちsp3 結合の割合は、EELS(電子エネルギー損失分光法:Electron Energy Loss Spectroscopy)の280〜288eVに現れるピークにて分析を行うことができる。
【0034】
本発明の磁気記録媒体は、磁性粉末と結合剤樹脂とを含む磁性層(すなわち塗布型の磁性層)を有するものであり、また場合によっては非磁性支持体と磁性層との間に非磁性下塗層を設ける構成とすることができるため、これらの層中に後述する潤滑剤を含ませることができる。したがって、金属薄膜型の磁気記録媒体の層構成とは異なり、必ずしもカーボン層上に潤滑剤層を設ける必要はない。
【0035】
〈非磁性支持体〉
磁性支持体の厚さは、用途によって異なるが、通常、1.5〜11.0μmのものが使用される。より好ましくは2.0〜7.0μmである。この範囲の厚さの非磁性支持体が使用されるのは、1.5μm未満では製膜が難しく、またテープ強度が小さくなり、11.0μmを越えるとテープ全厚が厚くなり、テープ1巻当りの記録容量が小さくなるためである。
【0036】
非磁性支持体の長手方向のヤング率は5.8GPa(590kg/mm2 )以上が好ましく、7.1GPa(720kg/mm2 )以上がより好ましい。非磁性支持体の長手方向のヤング率が5.8GPa(590kg/mm2 )以上がよいのは、長手方向のヤング率5.8GPa(590kg/mm2 )未満では、テープ走行が不安定になるためである。ヘリキャルスキャンタイプでは、長手方向のヤング率(MD)/幅方向のヤング率(TD)は、0.60〜0.80の特異的範囲が好ましく、0.65〜0.75の範囲がより好ましい。長手方向のヤング率/幅方向のヤング率が、0.60〜0.80の特異的範囲がよいのは、この範囲を外れると、メカニズムは現在のところ不明であるが、磁気ヘッドのトラックの入り側から出側間の出力のばらつき(フラットネス)が大きくなるためである。このばらつきは長手方向のヤング率/幅方向のヤング率が0.70付近で最小になる。リニアレコーディングタイプでは、長手方向のヤング率/幅方向のヤング率は、理由は明らかではないが、0.70〜11.30が好ましい。
【0037】
非磁性支持体の幅方向の温度膨張係数は、−10〜10×10-6、湿度膨張係数は、0〜10×10-6が好ましい。この範囲が好ましいのは、この範囲を外れると温度・湿度の変化によりオフトラックが生じエラーレートが大きくなるからである。
【0038】
このような特性を満足する非磁性支持体には二軸延伸のポリエチレンテレフタレートフイルム、ポリエチレンナフタレートフイルム、芳香族ポリアミドフィルム、芳香族ポリイミドフィルムなどがある。
【0039】
〈磁性層〉
磁性層の厚さは、0.01μm以上、3.5μm以下が好ましい。磁性層の厚さが0.01μm未満では得られる出力が小さいのと、均一な磁性層を塗布するのが困難であり、3.5μmを超えるとテープの全厚が大きくなりすぎてテープ1巻当たりの容量が小さくなるからである。
【0040】
短波長記録特性をさらに向上させるためには、磁性層と非磁性支持体との間に下塗層を設けたうえで、磁性層の厚さを0.01〜0.1μmとするのが好ましく、0.02〜0.08μmとするのがより好ましく、0.02〜0.06μmとするのが最も好ましい。
【0041】
磁性層の保磁力は、80〜320kA/mが好ましく、100〜320kA/mがより好ましく、120〜320kA/mがさらに好ましい。この範囲が好ましいのは、80kA/m未満では記録波長を短くすると反磁界減磁で出力低下が起こり、320kA/mを越えると磁気ヘッドによる記録が困難になるためである。
【0042】
磁性層(後述する下塗層の場合も同様)に用いる結合剤樹脂(バインダ樹脂)としては、塩化ビニル樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂、塩化ビニル−ビニルアルコール共重合体樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル−ビニルアルコール共重合体樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル−無水マレイン酸共重合体樹脂、塩化ビニル−水酸基含有アルキルアクリレート共重合体樹脂、ニトロセルロースなどのセルロース系樹脂の中から選ばれる少なくとも1種と、ポリウレタン樹脂とを組み合わせたものなどが挙げられる。中でも、塩化ビニル−水酸基含有アルキルアクリレート共重合体樹脂とポリウレタン樹脂を併用するのが好ましい。ポリウレタン樹脂には、ポリエステルポリウレタン樹脂、ポリエーテルポリウレタン樹脂、ポリエーテルポリエステルポリウレタン樹脂、ポリカーボネートポリウレタン樹脂、ポリエステルポリカーボネートポリウレタン樹脂などがある。
【0043】
官能基として−COOH、−SO3 M、−OSO3 M、−P=O(OM)3 、−O−P=O(OM)2 [これらの式中、Mは水素原子、アルカリ金属塩基又はアミン塩を示す]、−OH、−NR' R''、−N+ R''' R''''R''''' [これらの式中、R' 、R''、R''' 、R''''、R''''' は水素または炭化水素基を示す]、エポキシ基を有する高分子からなるウレタン樹脂等の結合剤樹脂が使用される。このような結合剤樹脂を使用するのは、上述のように磁性粉末などの分散性が向上するためである。2種以上の樹脂を併用する場合には、官能基の極性を一致させるのが好ましく、中でも−SO3 M基同士の組み合わせが好ましい。
【0044】
これらの結合剤樹脂は、磁性粉100重量部に対して、7〜50重量部、好ましくは10〜35重量部の範囲で用いられる。特に、結合剤樹脂として、塩化ビニル系樹脂5〜30重量部と、ポリウレタン樹脂2〜20重量部とを、複合して用いるのが最も好ましい。
【0045】
これらの結合剤樹脂とともに、結合剤樹脂中に含まれる官能基などと結合させて架橋する熱硬化性の架橋剤を併用するのが好ましい。この架橋剤としては、トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートなどや、これらのイソシアネート類とトリメチロールプロパンなどの水酸基を複数個有するものとの反応生成物、上記イソシアネート類の縮合生成物などの各種のポリイソシアネートが好ましい。これらの架橋剤は、結合剤樹脂100重量部に対して、通常1〜30重量部の割合で用いられる。より好ましくは5〜20重量部である。しかし、下塗層の上にウエット・オン・ウエットで磁性層が塗布される場合には下塗塗料からある程度のポリイソシアネートが拡散供給されるので、ポリイソシアネートを併用しなくても磁性層はある程度架橋される。
【0046】
上記のような熱硬化性の結合剤樹脂の代わりに、放射線硬化性樹脂を用いてもよい。放射線硬化性樹脂としては、上記熱硬化性樹脂をアクリル変性し放射線感応性二重結合を持たせたものや、アクリルモノマー、アクリルオリゴマーが用いられる。
【0047】
磁気テープの各塗膜(磁性層、下塗層、バックコート層)を硬化させるために結合剤樹脂として用いられる放射線硬化性樹脂としては、従来公知のものが用いられる。これらの公知例から放射線硬化性樹脂を使用した結合剤樹脂の構成としては以下のように分類することができる。
【0048】
(1)熱可塑性樹脂+放射線硬化性樹脂(モノマー)
(2)熱可塑性樹脂+放射線硬化性樹脂(ポリマー(オリゴマー))
(3)熱可塑性樹脂+放射線硬化性樹脂(モノマー)+放射線硬化性樹脂(オリゴマー、ポリマー)
(4)放射線硬化性樹脂(モノマー)
(5)放射線硬化性樹脂(ポリマー(オリゴマー))
(6)放射線硬化性樹脂(モノマー)+放射線硬化性樹脂(ポリマー(オリゴマー))
【0049】
これらの各々の使い方についてはそれぞれ特徴があり磁気テープの要求仕様に応じて、使い分けるのが好ましい。例えば上記(1)〜(3)の場合、磁性粉、非磁性粉などに対して分散性の大変優れたものが数多く提供されている熱可塑性樹脂が使用できるので、記録再生特性の優れた磁性層を設計しやすい。しかし、放射線硬化処理を行うと放射線硬化性樹脂の分子間には架橋ネットワークが形成されそのネットワークで塗膜を硬化させることはできるが、熱可塑性樹脂と放射線硬化性樹脂の分子間には架橋ネットワークが形成されないので、塗膜の樹脂全体が架橋ネットワークで結合しているとはいえず、耐久性の優れた塗膜を設計するためには、結合剤樹脂、潤滑剤、非磁性粉の選択に関して工夫が必要である。
【0050】
上記(4)〜(6)は、結合剤樹脂としてすべて放射線硬化性樹脂を使用するものであり、すべての樹脂分子間に架橋ネットワークが形成されるので、耐久性の優れた塗膜を設計しやすい。しかし、磁性粉、非磁性粉などに対して、分散性の優れた放射線硬化性樹脂は、まだ、十分に提供されているとは言えず、優れた記録再生特性の磁性層を設計するためには、磁性粉の表面処理、分散方法等に工夫が必要となる。
【0051】
放射線硬化性樹脂としては、通常、一分子中に放射線感応性二重結合が2個以上あるアクリル酸エステル類、アクリルアミド類、メタクリル酸エステル類、メタクリル酸アミド類、アリル化合物、ビニルエ−テル類、ビニルエステル類が用いられ、二重結合1個当りの重量平均分子量が50〜4000の放射線硬化性樹脂が好ましい。このような放射線硬化性樹脂としては、1,3−ブタンジオールジアクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、エチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、プロピレングリコールジアクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、エトキシ化ビスフェノールAジアクリレート、ノボラックジアクリレート、プロポキシ化ネオペンチルグルコールジアクリレートなどの二官能アクリレートおよび上記アクリレートと同様の二官能メタクリレート、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、エトキシ化トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、プロポキシ化トリメチロールプロパントリアクリレート、プロポキシ化グリセリルトリアクリレート、カプロラクトン変性トリメチロールプロパントリアクリレートなどの三官能アクリレートおよび上記アクリレートと同様の三官能メタクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールヒドロキシペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートなどの四官能以上のアクリレートおよび上記アクリレートと同様の四官能以上のメタクリレートなどのモノマーアクリレート(メタクリレート)やエーテル、エステル、カーボネート、エポキシ、塩化ビニル、ウレタンなどの骨格を有するオリゴマーやポリマーを上記モノマーで変性し、放射線感応性二重結合を含有させたものが用いられる。放射線感応性二重結合を含有させたポリマーとしては、放射線硬化性塩化ビニル系共重合体(東洋紡績(株) 製:TB0246)(重合度=300、極性基:−OSO3 K=1.5個/1分子)、放射線硬化性ポリウレタン樹脂(東洋紡績(株) 製:TB0242)(数平均分子量Mn= 25000、極性基:リン化合物=1個/1分子)などの具体例がある。
【0052】
磁性層中に含ませる磁性粉の平均粒子径は10〜100nmの範囲が好ましく、15〜80nmの範囲がより好ましい。この範囲が好ましいのは、平均粒子径が10nm未満では、粒子の表面エネルギーが大きくなって分散が困難になり、平均粒子径が100nmを越えるとノイズが大きくなるためである。磁性粉としては、強磁性鉄系金属磁性粉や窒化鉄磁性粉、板状の六方晶Ba−フエライト磁性粉等が好ましい。
【0053】
強磁性鉄系金属磁性粉には、Mn、Zn、Ni、Cu、Coなどの遷移金属を合金として含ませてもよい。その中でも、Co、Niが好ましく、とくにCoは飽和磁化を最も向上できるので、好ましい。上記の遷移金属元素の量としては、鉄に対して、5〜50原子%とするのが好ましく、10〜30原子%とするのがより好ましい。また、イットリウム、セリウム、イッテルビウム、セシウム、プラセオジム、サマリウム、ランタン、ユーロピウム、ネオジム、テルビウムなどから選ばれる少なくとも1種の希土類元素を含ませても良い。その中でも、セリウム、ネオジムとサマリウム、テルビウム、イットリウムは、これらを用いたときに高い保磁力が得られるので好ましい。希土類元素の量は鉄に対して0.2〜20原子%、好ましくは0.3〜15原子%、より好ましくは0.5〜10原子%である。
【0054】
強磁性鉄系金属磁性粉にホウ素を含ませてもよい。ホウ素を含ませることにより、平均粒子径が50nm以下の粒状ないし楕円状の超微粒子が得られる。含ませるホウ素の量は、磁性粉末全体中、鉄に対して0.5〜30原子%、好ましくは1〜25原子%、より好ましくは2〜20原子%である。上記両原子%は、蛍光X線分析により測定される値である(特開2001−181754号公報参照)。
【0055】
窒化鉄磁性粉としては公知のものを用いることができ、針状の他に球状や立方体形状などの不定形の粒子形状のものを用いることができる。粒子径や比表面積については磁気記録用の磁性粉としての要求特性をクリアするためには,限定した磁性粉末の製造条件とすることが必要である( 国際公開WO03/079333A1号パンフレット参照) 。
【0056】
強磁性鉄系金属磁性粉および窒化鉄磁性粉の保磁力は、80〜320kA/mが好ましく、飽和磁化量は、80〜200A・m2 /kg(80〜200emu/g)が好ましく、100〜180A・m2 /kg(100〜180emu/g)がより好ましい。
【0057】
強磁性鉄系金属磁性粉および窒化鉄磁性粉の平均粒子径は、10〜100nmが好ましく、15〜80nmがより好ましい。この範囲が好ましいのは、平均粒子径が10nm未満となると、保磁力が低下したり、粒子の表面エネルギーが増大するため塗料中での分散が困難になったりするからであり、平均粒子径が100nmより大きいと、粒子の大きさに基づく粒子ノイズが大きくなるためである。これらの強磁性粉末のBET比表面積は、35m2 /g以上が好ましく、40m2 /g以上がより好ましく、50m2 /g以上が最も好ましい。通常100m2 /g以下である。
【0058】
上記強磁性鉄系金属時性粉、窒化鉄磁性粉を、Al、Si、P、Y、Zrまたはこれらの酸化物で表面処理したうえで使用してもかまわない。
【0059】
六方晶Ba−フエライト磁性粉の保磁力は、120〜320kA/mが好ましく、飽和磁化量は、40〜70A・m2 /kg(40〜70emu/g)が好ましい。六方晶Ba−フエライト磁性粉の粒径(板面方向の大きさ)は10〜50nmが好ましく、10〜30nmがより好ましく、10〜20nmがさらに好ましい。粒径が10nm未満だと、粒子の表面エネルギーが増大するため塗料中への分散が困難になり、50nmを越えると、粒子の大きさに基づく粒子ノイズが大きくなる。六方晶Ba−フエライト磁性粉の板状比(板径/板厚)は2〜10が好ましく、2〜5がより好ましく、2〜4がさらに好ましい。六方晶Ba−フエライト磁性粉のBET比表面積は、1〜100m2 /gが好ましい。
【0060】
なお、これらの強磁性粉末の磁気特性は、いずれも試料振動形磁束計で外部磁場1 273.3kA/m(16kOe)での測定値をいうものである。
【0061】
また、上記の平均粒子径は、透過型電子顕微鏡(TEM)にて撮影した写真から各粒子の最大径(針状粉では長軸径、板状粉では板径)を実測し、100個の平均値により求めたものである。
【0062】
本発明の磁気記録媒体では、磁性層に非磁性粉末を含ませないことが好ましいが、必要ならば従来公知の研磨剤を添加してもよい。これらの研磨剤としては、α−アルミナ、β−アルミナ、炭化ケイ素、酸化クロム、酸化セリウム、α−酸化鉄、コランダム、人造ダイアモンド、窒化珪素、炭化珪素、チタンカーバイト、酸化チタン、二酸化珪素、窒化ホウ素、など主としてモース硬度6以上のものが単独または組み合わせで使用される。研磨剤の粒子サイズとしては、厚みが0.01〜0.09μmと薄い磁性層では、通常、平均粒子径で10〜150nmとすることが好ましい。
【0063】
さらに、必要に応じて、導電性向上と表面潤滑性向上を目的に従来公知のカーボンブラックを添加してもよい。カーボンブラックとしては、アセチレンブラック、ファーネスブラック、サーマルブラックなどを使用できる。この場合のカーボンブラックの平均粒子径は10〜100nmが好ましい。この範囲が好ましいのは、平均粒子径が10nm以下になるとカーボンブラックの分散が難しく、100nm以上では多量のカーボンブラックを添加することが必要になり、何れの場合も表面が粗くなり、出力低下の原因になるためである。また、必要に応じて、異なる平均粒子径のカーボンブラックを2種類以上用いてもかまわない。
【0064】
〈下塗層〉
磁気記録媒体の短波長記録特性の向上のため磁性層の厚さを0.5μm以下にする場合には、磁性層の厚さむら低減や耐久性向上等を図るため、非磁性支持体と磁性層との間に非磁性の下塗層を設けることが好ましい。
【0065】
下塗層の厚さは0.2μm以上、1.5μm以下が好ましく、1.0μm以下がより好ましく、0.8μm以下がさらにより好ましい。下塗層の厚さが0.2μm未満では、磁性層の厚さむら低減効果、耐久性向上効果が小さく、1.5μmを越えると磁気テープの全厚が厚くなり過ぎてテープ1巻当りの記録容量が小さくなる。
【0066】
下塗層には非磁性粉末を添加する。添加する非磁性粉末としては、酸化チタン、酸化鉄、酸化アルミニウム等があるが、酸化鉄単独または酸化鉄と酸化アルミニウムとの混合系が好ましく使用される。非磁性粉末の粒子形状は球状、板状、針状、紡錘状のいずれでもよいが、針状、紡錘状の場合は、通常、長軸長50〜200nm、短軸長5〜200nmのものが好ましい。非磁性酸化鉄粉末を主とし、必要に応じて粒子径0.01〜0.1μmのカーボンブラック、粒子径0.05〜0.5μmの酸化アルミニウムを補助的に含有させることが多い。下塗層を塗布形成する際に、その表面を平滑に、かつ厚みムラを少なくするためには、上記非磁性粒子およびカーボンブラックは特に粒度分布のシャープなものを用いることが好ましい。
【0067】
下塗層には、平均粒子径が10〜100nmの非磁性板状粉末を添加することが好ましい。非磁性板状粉末の成分としては、セリウムなどの希土類元素、ジルコニウム、珪素、チタン、マンガン、鉄等の元素の酸化物または複合酸化物が用いられる。導電性改良の目的で、平均粒子径10〜100nmのグラファイトのような板状炭素性粉末や平均粒子径10〜100nmの板状ITO(インジウム、スズ複合酸化物)粉末などを添加してもよい。前記非磁性板状粉末を添加することで、膜厚の均一性、表面平滑性、剛性、寸法安定性が改善される。
【0068】
なお、下塗層に使用する結合剤樹脂は、磁性層におけるものと同様のものを用いることができる。
【0069】
〈潤滑剤〉
磁性層、下塗層には、磁性層、下塗層に含まれるそれぞれ全粉体に対して、0.5〜3.0重量%の脂肪酸アミド、0.5〜5.0重量%の高級脂肪酸、0.2〜3.0重量%の高級脂肪酸のエステルを含有させることが好ましい。前記範囲の脂肪酸アミドが好ましいのは、0.5重量%未満ではヘッド/磁性層界面での直接接触が起こりやすく焼付き防止効果が小さく、3.0重量%を越えるとブリードアウトしてしまいドロップアウトなどの欠陥が発生するおそれがあるからである。前記範囲の高級脂肪酸添加が好ましいのは、0.5重量%未満では、摩擦係数低減効果が小さく、5.0重量%を越えると下塗層が可塑化してしまい強靭性が失われるおそれがあるからである。前記範囲の高級脂肪酸のエステル添加が好ましいのは、0.2重量%未満では、摩擦係数低減効果が小さく、3.0重量%を越えると磁性層への移入量が多すぎるため、テープとヘッドが貼り付く等の副作用を生じるおそれがあるからである。高級脂肪酸としては、炭素数10以上の脂肪酸を用いるのが好ましく、高級脂肪酸エステルは前記高級脂肪酸のエステルを用いるのが好ましい。炭素数10以上の脂肪酸としては、直鎖、分岐、シス・トランスなどの異性体のいずれでもよいが、潤滑性能にすぐれる直鎖型が好ましい。このような脂肪酸としては、たとえば、ラウリン酸、ミリスチン酸、ステアリン酸、パルミチン酸、ベヘン酸、オレイン酸、リノール酸などが挙げられる。これらの中でも、ミリスチン酸、ステアリン酸、パルミチン酸などが好ましい。なお、磁性層の潤滑剤と下塗層の潤滑剤の相互移動を排除するものではなく、上記潤滑剤が下塗層に含まれる場合には、磁性層に潤滑剤を含ませなくてもよい。逆に磁性層に含ませるだけで効果が発現する場合には、下塗層に含ませなくてもよい。
【0070】
また、必要に応じて磁性層や下塗層に用いる潤滑剤をカーボン層の上から塗布にて供給してもよい。
【0071】
〈分散剤〉
下塗層や磁性層に含まれる非磁性粉末やカーボンブラック、磁性粉末は、分散剤としては、例えば、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、オレイン酸、エライジン酸、リノール酸、リノレン酸、ステアロール酸等の炭素数12〜18個の脂肪酸(RCOOH:Rは炭素数11〜17個のアルキル基、又はアルケニル基)、前記脂肪酸のアルカリ金属又はアルカリ土類金属からなる金属石けん、前記脂肪酸エステルのフッ素を含有した化合物、前記脂肪酸のアミド、ポリアルキレンオキサイドアルキルリン酸エステル、レシチン、トリアルキルポリオレフィンオキシ第四級アンモニウム塩(アルキルは炭素数1〜5個、オレフィンは、エチレン、プロピレンなど)、硫酸塩、スルホン酸塩、りん酸塩、及び銅フタロシアニン等のような従来公知の分散剤で表面処理したり、分散剤とともに塗料製造工程を行ってもよい。これらは、単独でも組み合わせて使用しても良い。分散剤は、いずれの層においても結合剤100重量部に対して通常、0.5〜20重量部の範囲で添加される。
【0072】
〈バックコート層〉
本発明の磁気記録媒体を構成する非磁性支持体の他方の面(磁性層が形成されている面とは反対側の面)には、走行性の向上等を目的としてバックコート層を設けることができる。バックコート層は、通常、カーボンブラックを主成分とする非磁性粉末と結合剤樹脂とを含有してなる。
【0073】
バックコート層の厚さは0.2〜0.8μmが好ましい。この範囲が良いのは、0.2μm未満では、走行性向上効果が不充分で、0.8μmを越えるとテープ全厚が厚くなり、1巻当たりの記録容量が小さくなるためである。カーボンブラックとしては、アセチレンブラック、ファーネスブラック、サーマルブラック等を使用できる。通常、小粒子径カーボンブラックと大粒子径カーボンブラックを使用する。小粒子径カーボンブラックには、平均粒子径が5〜200nmのものが使用されるが、中でも平均粒子径10〜100nmのものがより好ましい。この範囲がより好ましいのは、平均粒子径が10nm未満だとカーボンブラックの分散が難しく、平均粒子径が100nm以上では多量のカーボンブラックを添加することが必要になり、何れの場合も表面が粗くなり、磁性層への裏移り(エンボス)の原因となるためである。大粒子径カーボンブラックとして、小粒子径カーボンブラックの5〜15重量%の割合で、平均粒子径200〜400nmの大粒子径カーボンブラックを使用すると、表面も粗くならず、走行性向上効果も大きくなる。小粒子径カーボンブラックと大粒子径カーボンブラック合計の添加量は無機粉体重量を基準にして60〜98重量%が好ましく、70〜95重量%がより好ましい。バックコート層の中心線平均表面粗さRaは3〜8nmが好ましく、4〜7nmがより好ましい。バックコート層に磁性があると磁気記録層の磁気信号が乱れる場合があるので、通常、バックコート層は非磁性である。
【0074】
バックコート層には、強度、温度・湿度寸法安定性の向上等を目的に、平均粒子径が10〜100nmの非磁性板状粉末を添加することができる。非磁性板状粉末の成分は、酸化アルミニウムに限らず、セリウムなどの希土類元素、ジルコニウム、珪素、チタン、マンガン、鉄等の元素の酸化物または複合酸化物が用いられる。導電性改良の目的で、平均粒子径が10〜100nmの板状炭素性粉末や、平均粒子径が10〜100nmの板状ITO粉末などを添加してもよい。また、必要に応じて、平均粒子径が0.1〜0.6μmの粒状酸化鉄粉末を添加してもよい。添加量はバックコート層中の全無機粉体の重量を基準にして2〜40重量%が好ましく、5〜30重量%がより好ましい。平均粒子径が0.1μm〜0.6μmのアルミナを添加すると、耐久性がさらに向上するので好ましい。
【0075】
バックコート層には、結合剤樹脂として、前述した磁性層や下塗層に用いる樹脂と同じものを使用できるが、これらの中でも摩擦係数を低減し走行性を向上させるため、セルロース系樹脂とポリウレタン系樹脂とを複合して併用することが好ましい。結合剤樹脂の含有量は、通常、前記カーボンブラックと前記無機非磁性粉末との合計量100重量部に対して40〜150重量部、好ましくは50〜120重量部、より好ましくは60〜110重量部、さらに好ましくは70〜110重量部である。前記範囲が好ましいのは、50重量部未満では、バックコート層の強度が不十分であり、120重量部を越えると摩擦係数が高くなりやすいためである。セルロース系樹脂を30〜70重量部、ポリウレタン系樹脂を20〜50重量部使用することが好ましい。さらに結合剤樹脂を硬化するために、ポリイソシアネート化合物などの架橋剤を用いることが好ましい。
【0076】
バックコート層には、前述した磁性層や下塗層に用いる架橋剤と同様の架橋剤を使用することができる。架橋剤の量は、結合剤樹脂100重量部に対して、通常、10〜50重量部の割合で用いられ、好ましくは10〜35重量部、より好ましくは10〜30重量部である。前記範囲が好ましいのは、10重量部未満ではバックコート層の塗膜強度が弱くなりやすく、35重量部を越えるとSUSに対する動摩擦係数が大きくなるためである。
【0077】
バックコート層には、塗膜を架橋硬化させるために、磁性層や下塗層と同様の電子線硬化性樹脂を架橋剤として使用することができる。組み合わせる電子線硬化性樹脂としては、特に硬化性に優れた樹脂が好ましく、二重結合1個当りの重量平均分子量が50〜300の電子線硬化性樹脂が好ましい。前記、二重結合1個当りの重量平均分子量が50〜300の電子線硬化性樹脂はモノマータイプがより好ましい。電子線硬化性樹脂の量は、結合剤樹脂100重量部に対して、通常、5〜30重量部の割合で用いられ、好ましくは7〜25重量部、より好ましくは10〜20重量部である。前記範囲が好ましいのは、7重量部未満ではバックコート層の塗膜強度が弱くなりやすく、25重量部を越えるとテープドライブの走行系に備えられたガイドローラやガイドピンに対する動摩擦係数が大きくなるためである。
【0078】
バックコート層における結合剤樹脂として、2種以上の電子線硬化性樹脂を組み合わせたものを使用することができる。この場合、ポリマータイプとモノマータイプを組み合わせることが好ましい。ポリマータイプは重量平均分子量が1万〜10万、モノマータイプは重量平均分子量が100〜2000のものが好ましい。前記モノマータイプの電子線硬化性樹脂は、二重結合1個当りの重量平均分子量が50〜300の範囲であることがより好ましい。
【0079】
本発明では、磁性層上にカーボン層を設けるために、磁性層、下塗層から供給される潤滑剤成分が磁性層側の表面に供給されにくい場合がある。その場合には、バックコート層に潤滑剤を含ませ、バックコート層から磁性層側の表面に潤滑剤を供給するのが好ましい。潤滑剤の種類は、磁性層、下塗層に用いるものと同様のものが用いられる。具体的には、バックコート層中の全非磁性粉末に対して0.5〜3.0重量%の脂肪酸アミド、0.2〜3.0重量%の高級脂肪酸エステル、0.5〜5.0重量%の高級脂肪酸を含有させるのが好ましい。
【0080】
また、以上のようなバックコート層に代えて、磁性層上に設けるカーボン層と同様のカーボン層を設けてもよい。この場合は、磁性層の上に設けるカーボン層と同様の方法で非磁性支持体の他方の面(磁性層が設けられている面とは反対側の面)にカーボン層を設けることができる。
【0081】
〈有機溶剤〉
磁性塗料、下塗塗料(下塗層用塗料)、バックコート層用塗料等に使用する有機溶剤としては、例えば、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系溶剤、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル系溶剤、酢酸エチル、酢酸ブチルなどの酢酸エステル系溶剤等が挙げられる。これらの溶剤は、単独で又は混合して使用され、さらにトルエンなどと混合して使用される。
【0082】
〈製造工程〉
本発明の磁気記録媒体を形成する方法としては、非磁性支持体上に磁性層をエクストルージョン型コータやスライド式コータもしくはカーテン式コータを用いて塗布する方法が好ましい。磁性層と非磁性支持体との間に下塗層を設ける場合は、下塗層と磁性層とをエクストルージョン型コータやスライド式コータもしくはカーテン式コータを用いて同時に塗布することが好ましい。非磁性支持体上に下塗層をグラビアロールコータやエクストルージョン型コータやスライド式コータもしくはカーテン式コータを用いて塗布した後、未乾燥または乾燥後、若しくは乾燥後平滑化処理した後に磁性層をエクストルージョン型コータやスライド式コータもしくはカーテン式コータを用いて塗布しても良い。非磁性支持体上に下塗層と磁性層を塗布、乾燥後、カレンダにて平滑化処理した後にカーボン層を前述した従来公知の方法にて形成することが好ましいが、表面平滑性に問題が無い場合は、非磁性支持体上に下塗層と磁性層を塗布、乾燥後に最上層非磁性層のカーボン層を形成し、その後にカレンダにて平滑化処理を行っても良い。非磁性カーボン層を形成した後、エクストルージョン型コータやスライド式コータもしくはカーテン式コータさらにはスプレー式コータを用いて潤滑剤を塗布しても良いし、カーボン層を形成した後、磁性記録媒体を形成する非磁性支持体の反対側にバックコート層をグラビアロールコータやエクストルージョン型コータやスライド式コータもしくはカーテン式コータを用いて塗布、乾燥後、カレンダにて平滑化処理し、その後に巻き取ることでバックコート層より潤滑剤を磁性層側に転移させても良い。
【0083】
[実施例]
以下、本発明の実施例について説明する。なお、特に断らない限り、下記の実施例および比較例における「部」は「重量部」を意味し、「平均粒子径」は「数平均粒子径」を意味する。
【実施例1】
【0084】
《下塗塗料成分》
(1)
・非磁性板状酸化鉄粉末(平均粒子径:50nm) 76部
・カーボンブラック(平均粒子径:25nm) 24部
・ステアリン酸 2.0部
・塩化ビニル−ヒドロキシプロピルアクリレート共重合体 8.8部
(含有−SO3 Na基:0.7×10-4当量/g)
・ポリエステルポリウレタン樹脂 4.4部
(Tg:40℃、含有−SO3 Na基:1×10-4当量/g)
・シクロヘキサノン 25部
・メチルエチルケトン 40部
・トルエン 10部
(2)
・ステアリン酸 1部
・ステアリン酸ブチル 1部
・シクロヘキサノン 70部
・メチルエチルケトン 50部
・トルエン 20部
(3)
・ポリイソシアネート 1.4部
・シクロヘキサノン 10部
・メチルエチルケトン 15部
・トルエン 10部
【0085】
《磁性塗料成分》
(1)混練工程
・磁性粉末 (Co−Fe−Al−Y) 100部
(Co/Fe:24at%、
Al/(Fe+Co):4.7wt%
Y/(Fe+Co):7.9at%
σs:119A・m2 /kg(119emu/g)、
Hc:181.4kA/m(2280Oe)、
平均粒子径:60nm、軸比:5)
・塩化ビニル−ヒドロキシプロピルアクリレート共重合体 13部
(含有−SO3 Na基:0.7×10-4当量/g)
・ポリエステルポリウレタン樹脂(PU) 4.5部
(含有−SO3 Na基:1.0×10-4当量/g)
・メチルアシッドホスフェート(MAP) 2部
・テトラヒドロフラン(THF) 20部
・メチルエチルケトン/シクロヘキサノン(MEK/A) 9部
(2)希釈工程
・パルミチン酸アミド(PA) 1.5部
・ステアリン酸n−ブチル(SB) 1部
・メチルエチルケトン/シクロヘキサノン(MEK/A) 350部
(3)配合工程
・ポリイソシアネート 1.5部
・メチルエチルケトン/シクロヘキサノン(MEK/A) 29部
【0086】
上記の下塗塗料成分において、(1)を回分式ニーダで混練したのち、(2)を加えて攪拌の後サンドミルで滞留時間を60分として分散処理を行い、これに(3)を加え攪拌・濾過した後、下塗塗料(下塗層用塗料)とした。
【0087】
これとは別に、上記の磁性塗料の成分において、(1)混連工程成分を予め高速混合しておき、その混合粉末を連続式2軸混練機で混練し、さらに(2)希釈工程成分を加え連続式2軸混練機で少なくとも2段階以上に分けて希釈を行い、サンドミルで滞留時間を45分として分散し、これに(3)配合工程成分を加え攪拌・ろ過後、磁性塗料とした。
【0088】
上記の下塗塗料を、芳香族ポリアミドフィルム(厚さ3.9μm、MD=11GPa、MD/TD=0.7、商品名:ミクトロン、東レ社製)からなる非磁性支持体(ベースフィルム)上に、乾燥、カレンダ後の下塗層の厚さが0.9μmとなるように塗布し、この塗布層(下塗層)上に、さらに上記の磁性塗料を磁場配向処理、乾燥、カレンダ処理後の磁性層の厚さが0.04μmとなるようにエクストルージョン型コータにてウエット・オン・ウエットで塗布し、磁場配向処理後、ドライヤおよび遠赤外線を用いて乾燥し、磁気シートを得た。
【0089】
《バックコート層用塗料成分》
・カーボンブラック(平均粒子径:25nm) 80部
・カーボンブラック(平均粒子径:350nm) 10部
・非磁性板状酸化鉄粉末(平均粒子径:50nm) 10部
・ニトロセルロース 45部
・ポリウレタン樹脂(−SO3 Na基含有) 30部
・シクロヘキサノン 260部
・トルエン 260部
・メチルエチルケトン 525部
【0090】
上記バックコート層用塗料成分をサンドミルで滞留時間45分として分散した後、ポリイソシアネート15部を加えてバックコート層用塗料を調整しろ過後、上記で作製した磁気シートの磁性層の反対面に、乾燥、カレンダ後の厚みが0.5μmとなるように塗布し、乾燥した。
【0091】
このようにして得られた磁気シートを金属ロールからなる7段カレンダで、温度100℃、線圧196kN/mの条件で鏡面化処理し、磁気シートをコアに巻いた状態で70℃にて72時間エージングし、バックコート層付きの磁気シートを得た。
【0092】
《カーボン層》
磁性層上に設けるカーボン層はFCVA法により作製した。カーボン層の作製手段としては、バックコート層付き磁気シートウェブを走行させる搬送部、成膜室、フィルタ部および放電室からなるFCVA装置を使用した。
【0093】
成膜室での真空度を10-2Paに設定し、バイアス電圧を400V、処理時間10秒でsp3 結合の割合65%、厚さ5nmのカーボン層を磁性層の上に形成し、得られたカーボン層付き磁気シートをスリットマシンにより1/2インチ(約12.65mm)幅に裁断した。
【0094】
なお、スリットマシン(磁気テープ原反を所定幅の磁気テープに裁断する装置)は、構成要素を下記のように改良したものを用いた。巻き出し原反からスリット刃物群に至るウェブ経路中にテンションカットローラを設け、このテンションカットローラをサクションタイプとし、吸引部は多孔質金属を埋め込んだメッシュサクションとした。刃物駆動部に動力を伝達する機構を持たないモータ直結のダイレクトドライブとした。
【0095】
上記のようにして得られた磁気テープを、カートリッジに組み込み、コンピュータ用テープ(コンピュータのデータバックアップ用の磁気テープ)を作製した。
【実施例2】
【0096】
実施例1のカーボン層作製条件でバイアス電圧を400V、処理時間を22秒でsp3 結合の割合65%、厚さ10nmのカーボン層を作製した。それ以外は実施例1と同様にして実施例2のコンピュータ用テープを作製した。
【実施例3】
【0097】
実施例1のカーボン層作製条件でバイアス電圧を400V、処理時間5秒でsp3 結合の割合65%、厚さ2nmのカーボン層を作製した。それ以外は実施例1と同様にして実施例3のコンピュータ用テープを作製した。
【実施例4】
【0098】
実施例1のカーボン層作製条件でバイアス電圧を100V、処理時間10秒でsp3 結合の割合85%、厚さ5nmのカーボン層を作製した。それ以外は実施例1と同様にして実施例4のコンピュータ用テープを作製した。
【実施例5】
【0099】
実施例1のカーボン層作製条件でバイアス電圧を2000V、処理時間22秒でsp3 結合の割合25%、厚さ10nmのカーボン層を作製した。それ以外は実施例1と同様にして実施例5のコンピュータ用テープを作製した。
【実施例6】
【0100】
実施例1のカーボン層作製条件でバイアス電圧を3000V、処理時間22秒でsp3 結合の割合23%、厚さ10nmのカーボン層を作製した。それ以外は実施例1と同様にして実施例6のコンピュータ用テープを作製した。
【実施例7】
【0101】
カーボン層の作製方法として、プラズマCVD装置を用いマイクロ波の周波数2.45GHz、投入電力3kW、搬送室の真空度3×10-5Torr、成膜室の真空度0.02Torr、導入ガスのメタン、水素、酸素の体積割合を1:2:0.2とし、バイアス電圧200V、処理時間15秒の条件で、磁性層上にsp3 結合の割合20%、厚さ10nmのカーボン層を作製した。それ以外は実施例1と同様にして実施例7のコンピュータ用テープを作製した。
【実施例8】
【0102】
バックコート層用塗料中に、パルミチン酸アミド(PA)0.8部、ステアリン酸n−ブチル(SB)0.8部、ステアリン酸(SA)1.0部を加えた以外は、実施例1と同様にして実施例8のコンピュータ用テープを作製した。
【実施例9】
【0103】
FCVA装置により磁性層上にカーボン層を作製した後、このカーボン層上に、ステアリン酸n−ブチル(SB)0.8部、ステアリン酸(SA)1.0部、メチルエチルケトン200部からなる潤滑剤溶液をグラビア塗布方式で塗布して、乾燥させた。それ以外は実施例1と同様にして実施例9のコンピュータ用テープを作製した。
【0104】
[比較例1]
実施例1の磁性塗料中、混練工程の成分にアルミナ粉末(平均粒子径:80nm)8部を添加して、磁性層を形成したが、カーボン層の形成は行わなかった。これらの点以外は実施例1と同様にして比較例1のコンピュータ用テープを作製した。
【0105】
[比較例2]
実施例1のカーボン層作製条件でバイアス電圧を400V、処理時間28秒でsp3 結合の割合65%、厚さ12nmのカーボン層を作製した。それ以外は実施例1と同様にして比較例2のコンピュータ用テープを作製した。
【0106】
[比較例3]
実施例1のカーボン層作製条件でバイアス電圧を400V、処理時間3秒でsp3 結合の割合65%、厚さ1nmのカーボン層を作製した。それ以外は実施例1と同様にして比較例3のコンピュータ用テープを作製した。
【0107】
[比較例4]
実施例1においてカーボン層の作製を行わなかったこと以外は、実施例1と同様にして比較例4のコンピュータ用テープを作製した。
【0108】
得られた各コンピュータ用テープについて下記の測定をそれぞれ行って特性を評価した。
【0109】
〈C/N測定〉
テープの電磁変換特性の測定(C/N測定)には、ドラムテスターを用いた。ドラムテスターには電磁誘導型ヘッド(トラック幅25μm、ギャップ0.2ミクロン)とMRヘッド(8μm)を装着し、誘導型ヘッドで記録、MRヘッドで再生を行った。両ヘッドは回転ドラムに対して異なる場所に設置されており、両ヘッドを上下方向に操作することで、トラッキングを合わせることができる。磁気テープはカートリッジに巻き込んだ状態から適切な量を引き出して廃棄し、更に60cmを切り出し、更に4mm幅に加工して回転ドラムの外周に巻き付けた。
【0110】
出力及びノイズは、ファンクションジェネレータにより矩形波を記録電流電流発生器に入力制御し、波長0.2μmの信号を書き込み、MRヘッドの出力をプリアンプで増幅後、スペクトラムアナライザーに読み込んだ。0.2μmのキャリア値を媒体出力Cとした。また0.2μmの矩形波を書き込んだときに、記録波長0.2μm以上に相当するスペクトルの成分から、出力及びシステムノイズを差し引いた値の積分値をノイズ値Nとして用いた。更に両者の比をとってC/Nとし、比較例1のテープの値との相対値を求めた。
【0111】
〈スチル耐久性〉
コンピュータ用テープにおける磁性層側の耐久性を示すスチル耐久性は同様にドラムテスターを用いて評価した。上記のようにテープを装着し同様の書き込み方法で0.9μmのキャリア信号を書き込み、両ヘッドを当てたまま出力を測定し続ける。その後初期の出力値から80%にまで落ち込んだ時間をもって、スチル寿命と定義した。
【0112】
〈摩擦係数〉
得られたコンピュータ用テープの磁性層側の摩擦係数を、ECMA−320に準じて測定した。すなわち、直径25.4mmのカルシウムチタネートセラミックの丸棒(表面粗さRa=0.05μm)に磁性層側が接触するように試料テープを掛け、一端に0.64Nの荷重をかけ他端に応力センサーを取り付け水平方向に、1mm/secの速度で引いた時のセンサーに生じる応力をF2Nとして下式より摩擦係数γを求めた。
γ=(2/π)ln(F2/0.64)
【0113】
〈カーボン層のsp3 結合の割合〉
カーボン層のsp3 結合の割合は、オージェ電子分光(AES:Auger Electron Spectroscopy)にEELS(電子エネルギー損失分光法:Electron Energy Loss Spectroscopy)検出器を取り付け、300eVの低速電子を照射し、非弾性散乱された電子エネルギー分布を測定し、280〜288eVに現れるピーク高さにより求めた。C−C結合が100%sp2 結合からなるグラファイトのピーク高さと、C−C結合が100%sp3 結合からなるダイヤモンドのピーク高さとを参照して、カーボン層のC−C結合のsp3 結合の割合を求めた。
【0114】
表1および表2に、各コンピュータ用テープの評価結果を示す。これらの表には、各実施例および比較例におけるカーボン層作製条件(バイアス電圧・処理時間)、磁性層中の非磁性粉末の有無等も併せて記載した。これらの表中の「CB層」はカーボン層を示し、「BC層」はバックコート層を示す。
【0115】
【表1】

【0116】
【表2】

【0117】
表1および表2から明らかなように、実施例1〜9の各コンピュータ用テープは、磁性層に非磁性粉末を含まないために、請求項1の要件を満たさない比較例1〜4の各コンピュータ用テープに比較してC/Nが良好で、カーボン層を最上層に有するために、耐久性も大きい。また、請求項2の要件を満たす実施例1〜5・8・9の各コンピュータ用テープは、請求項2の要件を満たさない実施例6・7の各コンピュータ用テープに比較して、カーボン層のSP結合の割合が大きいために耐久性がより高くなっていることがわかる。さらに、バックコート層に潤滑剤を含ませたコンピュータ用テープ(実施例8)や、カーボン層に潤滑剤を塗布して乾燥させたコンピュータ用テープ(実施例9)では、これらの層に潤滑剤を含有もしくは塗布しなかった点以外は同様の構成を有する実施例1のコンピュータ用テープに比べると、スチル耐久性がやや高く、摩擦係数も若干低いことがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非磁性支持体の一方の面に、磁性粉末と結合剤樹脂とを含む塗膜からなる磁性層を有し、かつ、他方の面にバックコート層を有する磁気記録媒体であって、
前記磁性層の上に、厚さが2nm〜10nmのカーボン層が設けられていることを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項2】
カーボン層におけるカーボンのC−C結合のうち、sp3 結合の割合が25〜85%である、請求項1記載の磁気記録媒体。
【請求項3】
非磁性支持体の一方の面に、磁性粉末と結合剤樹脂とを含む塗膜からなる磁性層を有し、かつ、他方の面にバックコート層を有する磁気記録媒体を製造する方法であって、
非磁性支持体の一方の面に、磁性粉末と結合剤樹脂とを含む磁性塗料を塗布する工程と、
この塗布により形成される磁性層を乾燥させる工程と、
この乾燥後に磁性層の表面を平滑化処理する工程と、
この平滑処理された後の磁性層の表面に、厚さが2nm〜10nmのカーボン層を形成する工程とを有することを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。

【公開番号】特開2006−53995(P2006−53995A)
【公開日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−234907(P2004−234907)
【出願日】平成16年8月11日(2004.8.11)
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)
【Fターム(参考)】