説明

磁気記録媒体の作製方法および磁気記録媒体

【課題】磁気記録媒体の硬質炭素膜からなる保護膜上に形成される潤滑膜中に、凝集物が生じず、保護膜と潤滑膜との結合性が高く、かつ生産性の高い作製方法を可能とする。
【解決手段】基板上に磁気記録膜を成膜し、次に、水素を含まない高硬質炭素膜を、例えばFCA法で形成後、直ちに真空中のまま、水素化チャンバー中に移動させて、その高硬質炭素膜の表面を水素化処理して、水素含有表面層を形成する。次いで、これを大気中に取り出し、DIP法などにより潤滑剤の塗布と紫外線などの反応促進処理を行って潤滑膜を形成し、時期記録媒体を完成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録媒体の製造方法および磁気記録媒体に関し、特にハードディスクドライブ(HDD)装置に用いられる磁気記録媒体において、磁気記録膜の保護膜上の潤滑膜の作製において、その潤滑膜中に凝集物などが発生せず、かつ、この塗布を大気中で実施可能とする、効率的な磁気記録媒体の作製方法およびその磁気記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
記録密度の向上に伴い、HDD装置の磁気ヘッドと磁気記録媒体との距離の狭小化が進行している。磁気記録媒体表面に近接して飛行する磁気ヘッドの挙動を安定化するには、磁気記録媒体表面の平坦化が必要となる。つまり、磁気記録媒体表面上に何らかの突起などが存在すると、その突起と磁気ヘッドが接触して磁気ヘッドと磁気記録媒体との間の距離が変化し、記録や読み出しが不安定になったり、磁気記録媒体や磁気ヘッドを損傷してHDD装置が動作しなくなる(ヘッドクラッシュの)原因となったりするためである。
【0003】
通常、磁気記録媒体は、Al‐Mg合金やガラス基板などの硬質非磁性体の基板上に、良好な磁気特性を示す、CoCrPtなどのコバルト系の合金の薄膜磁性合金膜(磁気記録膜)として設けられたものが主体であるが、このような薄膜磁性合金膜は、耐久性、耐蝕性に著しく劣るため、この膜の表面に2〜8nm程度の厚さの磁気記録膜用の保護膜、近年は特に硬質炭素からなる保護膜を設け、さらにその上を、厚さが1〜3nm程度の潤滑剤による潤滑膜を被覆することで、耐久性、耐蝕性の向上を図っている。
【0004】
上記のヘッドクラッシュに対処するために、磁気記録媒体の、磁気記録膜と保護膜からなる積層膜の製膜時に、突起が発生しないようなプロセスや製膜後に突起を除去するプロセスが用いられている。
【0005】
しかしながら、近年では、これらの製膜時に発生する突起に加えて、積層膜表面に塗布される潤滑剤の凝集も「突起」とみなされるようになり、その制御が重要となってきている。つまり、潤滑剤分子が磁気記録媒体表面上で凝集して大きな「ダマ」ができると、前述の不安定性の原因となるだけでなく、潤滑剤の磁気ヘッドへの移着や、磁気ヘッドによって掃き集められることでさらに大きく凝集したダマによって、最終的に磁気ヘッドをクラッシュさせる原因となる。
【0006】
潤滑剤が凝集するのは、
(1)媒体表面と潤滑剤との相互作用が弱く、潤滑剤同士が引き合う。
(2)潤滑剤を引き寄せる特定のポイントが保護膜を含む媒体上に存在し、そのポイントに潤滑剤が集まる。
などが原因であると考えられる。
【0007】
ところで、潤滑剤が塗布される硬質炭素保護膜には、薄く、高硬度のものが要求され、化学気相成長法(CVD法;Chemical Vapor Deposition法)やフィルタード・カソーディック・アーク法(FCA法;Filterd Cathodic Arc法)などによる製膜が検討されている。これらの手法で製膜された膜に共通することとして、堆積された膜には炭素の未反応のダングリングボンドが必ず残留しているということがある。これは、いずれの製膜手法も、プラズマなどを利用した非平衡な方法であることが原因である。ダングリングボンドは化学的に非常に活性なものであるため、製膜後大気に暴露されると、大気中の有機酸やSO、NOなどの極性分子を吸着する。このような極性を持った分子が表面に存在していると、潤滑剤を塗布した際に潤滑剤を引き寄せるポイントのひとつとなり、前述(2)のような理由で「ダマ」を形成する核となっていた。
【0008】
さて、上記のような潤滑剤の凝集を回避するため、さまざまな保護膜の処理方法、潤滑材の塗布方法が提案されている。例えば、硬質炭素からなる保護膜を製膜したのち、保護膜表面を希ガスイオンによりプラズマ処理し、炭素のダングリングボンドを多数生成させ、さまざまな物質を含んだ大気に触れさせることなく潤滑剤を塗布することが開示されている。その他、保護膜の表面や膜中を酸化もしくは窒化する方法など、主に保護膜の表面活性を向上させ方が提案されている。
【0009】
また、潤滑剤処理方法として、潤滑剤を塗布してから紫外線を照射して保護層の表面を極性化し、潤滑剤を保護膜へ強固に結合させる方法も開示されている。
【特許文献1】特開2003−077119号公報
【特許文献2】特開2001−014657号公報
【特許文献3】特開平07−262555号公報
【特許文献4】特開平08−124142号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、前述の、保護膜表面への希ガスイオンでのプラズマ処理で炭素のダングリングボンドを多数生成させて、大気に触れさせることなく潤滑剤を塗布する方法は、保護膜表面が活性となっているため、活性化処理後、潤滑材塗布までに空く時間を短くする必要がある。そのため、磁気記録膜と保護膜の積層製膜・プラズマ活性化処理室と潤滑剤塗布処理室が直結され、活性化後直ちに潤滑剤の塗布が行われるようにプロセスを構成する必要がある。このプロセス中でもっとも時間のかかる工程は、潤滑剤の塗布プロセスであり、結果として、この潤滑剤の塗布プロセスが磁気記録媒体製造の時間を決定するようになり、磁気記録媒体一枚あたりの製造時間が長時間化するという問題が生じる。
【0011】
また、保護膜の表面や膜中を酸化もしくは窒化する方法は、潤滑剤との結合力を増加させるため保護膜の基本特性である硬度を犠牲にしなければならないといった問題が生じる。さらに、潤滑材塗布のために大気中に暴露した際には、酸化性物質の吸着サイトが表面に非常に多く存在するため、さらに多くの吸着を引き起こし、ダマの問題は解決できない。
【0012】
一方、潤滑剤処理方法として、潤滑剤を塗布してから紫外線を照射して保護層の表面を極性化し、潤滑剤を保護膜へ強固に結合させる方法は、潤滑剤を塗布される保護膜表面に酸化性物質などが着していては、やはり、ダマの問題を解決することはできない。
【0013】
そこで、本発明の課題は、磁気記録媒体の耐久性や製造効率を落とすことなく、硬質炭素保護膜上における潤滑剤の凝集を抑えることのできる、磁気記録媒体の製造方法および磁気記録媒体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の磁気記録媒体の作製方法は、
基板上に磁気記録層を形成する工程と、
前記記録層上に、保護膜を形成する工程と、
前記保護膜の表面を水素化処理する工程と、
次いで、前記基板の表面を活性化処理しながら、潤滑剤を塗布する工程と
を有することを特徴とする。
【0015】
また、本発明の磁気記録媒体は、
基板上に形成された磁気記録層と、
前記記録層上に形成された炭素保護膜と、
前記炭素保護膜上に形成された潤滑剤と
を有する磁気記録媒体であって、
前記炭素保護膜の表面に水素原子を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の磁気記録媒体の作製方法によって、大気中へ取り出しての潤滑膜形成が可能であり、これによって生産性を上げることができる上、水素を含まない高硬度炭素膜を成膜した後、直ちに真空中でその表面を水素化処理し、それを、大気中で反応促進処理をしつつ潤滑剤を表面に塗布して完成させるといったプロセスをとることで、炭素膜に十分な強度で固着した潤滑膜と、その中に凝集物などの発生の無い、回転時での磁気ヘッドに接触することの無い表面を有する、磁気記録媒体を作製することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に、本発明の実施の形態を、添付図を参照しつつ説明する。
(実施例)
図1は、本発明の磁気記録媒体の製造方法を工程順に示した、磁気記録媒体の断面模式図である。図1(1)に示すように、基板1(例えば、直径2.5インチのガラス基板)の両面に、例えば、スッパッタリング法を用いて、NiP層を介して、CrMo下地層(厚さが、例えば、3nm)及びCoCrPt磁気記録層(厚さが、例えば、20nm)を、順次積層し、磁気記録膜2を形成する。
【0018】
次に、この上に、図1(2)に示すように、保護膜として、FCA法を用いて硬質炭素膜3を積層する。FCA法による硬質炭素膜3の積層は、例えば、ナノフィルム・テクノロジー社製のFCVA真空製膜装置を用いて実施可能である。このときの成膜条件は、例えば、成膜室圧力:3×10−3Pa、放電電圧:120V、電流:20Aとし、グラファイトターゲット上にアーク放電を発生させ、ターゲットを蒸発させて硬質炭素膜3(例えば、厚さ、3.5nm)を堆積させる。
【0019】
成膜後、真空排気し、この基板1上に磁気記録膜2と硬質炭素膜3が積層された積層体4を、真空中で、水素化のためのチャンバー(水素化チャンバー)に移送する。即ち、積層体4は大気中に暴露されること無く、真空状態でFCA法の成膜室に隣接する水素化チャンバー内に移すようにする。
【0020】
水素化チャンバー内は、本発明の製造方法に好適の様に構成するとよい。例えば、水素化チャンバー内において、直径8cmの出口をも持つノズルを、積層体4の両側に配置して両側から挟みこむようにする。ノズル出口と積層体4表面の距離は、約5cmとする。またノズルの出口には、直径0.2mmのタングステンワイヤーを1mmピッチでメッシュ状に張ってある。タングステンワイヤーのメッシュを、1800℃に通電加熱したノズルの出口から、HOの混入の無い水素(H)ガスを通過させて、積層体4の表面に5秒間吹きつけ、図1(3)に示すように、積層体4の表面、即ち硬質炭素膜3の露出表面側に対して水素化処理を行い、水素含有表面層5を形成する。このとき、水素ガスの流量は、チャンバー内圧力が、0.5Torrとなるように調節する。
【0021】
その後、水素含有表面層5が形成された積層体4‘を大気中に取り出し、イタリアのアウジモンド社製のFomblin AM3001を約0.2vol%程度に希釈した潤滑剤溶液中に浸漬し、DIP法にて潤滑剤を塗布し、図1(4)に示しように、潤滑膜6を形成する。このとき、潤滑剤液面直上に、例えば、紫外線照射装置を配置し、引き上げと同時に、塗布された潤滑剤に対して紫外線が照射されるようにして、反応促進処理を実施する。こうして、本発明になる、磁気記録媒体を完成する。
【0022】
以上の工程で明らかのように、本発明の製造方法は、次のような、ポイントとなるプロセスが実施される。すなわち、
基板上に磁気記録膜が形成された媒体基板上に、
(1)FCA法によりグラファイトターゲットを用いて硬質炭素膜を成膜し、
(2)大気に暴露すること無く、直ちに硬質炭素膜表面近傍のみの水素化処理(硬質炭素膜表面に水素含有表面層の形成)をし、
(3)紫外線照射による反応促進処理を行いながら潤滑剤を塗布して潤滑膜を形成する
と、いったプロセスがなされる。
【0023】
FCA法は、高い硬度の、耐久性に優れた硬質炭素膜を形成できる方法として知られる。なおかつ、グラファイトターゲットなどの水素成分の無い原材料をターゲットなどに用いることで、その形成された膜には、水素が含有されない炭素膜が形成可能である。こうした手法で成膜することで、テトラヘドラル形アモルファス炭素に分類されるような、(sp結合)対(sp結合)比の大きな、高硬度・高耐磨耗性のアモルファス炭素膜を得ることが可能である。
【0024】
従来、硬度の高い炭素保護膜を形成する方法としてCVD法が多く用いられてきた。これは、例えば、原料ガスとしてCHと放電補助ガスであるArの混合ガスを用い、RFプラズマCVD装置によって成膜する方法がなされる。従って、こうして成膜される炭素膜は、水素と反応した炭素が積層されており、この水素は炭素のネットワークを分断するようにして膜に取り込まれる。すなわち、膜全体の水素化により膜の硬度は低下する。
【0025】
炭化水素化物気体(例えば、CHなど)を原料ガスとして用いないため全く水素が入りこむ余地の無い本発明が採用するFCA法による炭素膜に比べ、一般に、従来の方法のCVD法によって製膜された炭素膜の硬度は、硬度が低く、耐久性の点でも劣る。
【0026】
こうして形成された高硬度の水素が含まれない硬質炭素膜は、成膜室中で磁気記録膜上に堆積した時点では、表面に多数のダングリングボンドを有している。これを大気に暴露すること無く、真空中で、直ちに水素化チャンバー内に移し、結合手を一つしか持たない水素によって表面近傍のみを水素化することで薄い水素含有表面層を形成し、膜中に浸透するなどして膜の硬度を低下させることなく、表面に存在するダングリングボンドを終端させることができる。
【0027】
このように表面に存在するダングリングボンドを終端すれば、この積層体を大気中に曝しても大気中の有機酸やSO、NOなどの極性分子が吸着することがなく、コンタミネーションを阻止することができる。また、その後の潤滑剤塗布プロセスにいたるまでの表面状態変動を抑えることが可能となるため、潤滑剤塗布プロセスの安定化が実現できることとなる。
【0028】
図2に、上記のように、水素含有のないようにFCA法で成膜した高硬質炭素膜の試料において、表面への水素化処理前後における、表面での水素含有量を、弾性反跳粒子検出法(ERDA;Elastic Recoil Detection Analysis)で測定した結果例を示す。図2において、横軸は検出エネルギー(keV)で、縦軸は水素の検出カウント数(counts)である。図中、線Aは、水素化処理を実施前の表面測定結果、線Bは、水素化処理を実施後での表面測定結果を示す。線Aでは、表面での水素量は、測定環境状態での僅かな付着量を示す。線Bの測定結果からは、水素化処理により、この場合、表面1nm程度の深さまでの、水素含有表面層における水素量の含有量が10〜20%程度以上と大きく増加しており、この水素化処理後の硬質炭素膜の表面に水素含有表面層を有する高硬質炭素膜全体(即ち、水素化硬質炭素膜)における定量測定では、炭素量に対して水素量はおよそ5%に達していることが解った。実験の結果では、この水素化処理により、水素化硬質炭素膜において、炭素と水素の元素比が、0.05より少量ではダングリングボンドを終端させ、コンタミネーションを阻止するのには必ずしも十分とは言えない。炭素と水素の元素比が、0.05以上とすることで、表面に存在するダングリングボンドを十分終端させ、表面でのコンタミネーションを防ぐことが可能である。
【0029】
そして、保護膜を成膜した積層体の表面に、大気中で潤滑膜形成を行う。その際、潤滑剤を塗布しながら紫外線を照射するといった、反応促進処理を行う。
【0030】
この紫外線照射などによる反応促進処理を実施しない場合、炭素膜表面の水素化処理によって炭素膜表面にはダングリングボンドが無い状況となっていることから、炭素膜の表面活性が低くなっている。そのため保護膜表面−潤滑剤の相互作用(両者の固定化)より、潤滑剤同士の相互作用のほうが強いといった状態となり、その結果、水素化未処理(ダングリングボンド有り)の炭素膜への潤滑剤塗布の場合より、この場合の状況のほうが潤滑剤が凝集しやすくなるという傾向もあった。しかし、この反応促進処理により、潤滑剤と硬質炭素膜表面の炭素の間の化学結合を促進させることで、潤滑剤を炭素膜に強く固定化することができ、同時に、潤滑剤塗布後に潤滑剤同士の凝集、つまり潤滑膜中の「ダマ」発生も抑制できることとなる。
【0031】
図3に、これらの効果を比較する図を示す。これは、試料表面から7nm上方の位置に振動検出器を配置した状態で、試料を回転させ、回転動作時間の経過とともに、振動検出器から検出される振動をプロットして試料の評価(アコースティックエミッション評価)を実施した結果の例であり、横軸が回転の経過の時間、縦軸は振動の強度を表す。
【0032】
図3において、線Cは、本発明の「水素無し高硬度炭素膜+表面水素化処理+(大気中取り出し後)潤滑剤塗布(紫外線照射含む)」プロセスによって作製した磁気記録媒体による評価結果、線Dは、従来の「水素無し高硬度炭素膜+(大気中取り出し後)潤滑剤塗布(紫外線照射含む)」(つまり表面水素化処理無し)プロセスによって作製した磁気記録媒体の評価結果である。この場合、線Dは、20,000秒辺りから、振動が検出し始め、以降その振動検出は止まない。一方、線Cでは、少なくとも、この測定時間範囲内では、振動は全く観測されない。
【0033】
この評価実験においては、試料表面上に少なくとも7nm以上の高さの「突起物」が発生すると、これが振動検出器に触れて振動が検出される。線Dは、試料の回転時間が一定時間経過すると、潤滑膜表面に「突起物」が発生しはじめて振動検出器に接触し、振動が検出されるようになる。時間経過とともに、更に「突起物」の個数が増加し、以降、これらが頻繁に振動検出器に触れて振動が検出し続けると理解できる。
【0034】
本実験例においては、この「突起物」は、線Dの試料の潤滑膜中にある凝集物に起因するものと考えられる。線Dの試料である磁気記録媒体において、作製過程の結果、潤滑膜中に凝集物(ダマ)が存在すると、この磁気記録媒体を回転させるうちに、凝集物(ダマ)が潤滑膜表面に突出するようになり、その結果、振動検出器に接触することとなると、想定できる。従って、線Cの試料である、本発明の磁気記録媒体においては、全測定時間にわたって振動は検出されず、従って、潤滑膜中の凝集物の発生は先ず無いものと判断することができよう。このアコースティックエミッション評価は、磁気記録媒体に対する磁気ヘッドの長時間の接触評価実験にも相応している。つまり振動が検出されないということは、長時間磁気記録媒体を使用し続けても、磁気ヘッドとの重大な接触を回避することができるといった効果を得ることができる。
【0035】
以上の結果から、明らかなように、本発明の磁気記録媒体の作製方法によって、大気中へ取り出しての潤滑膜形成といった効率的かつ安定した製造工程を採用して、生産性を上げることが可能な上、水素を含まない高硬度炭素膜を例えば、FCA法で成膜後、直ちに真空中でその表面を水素化処理し、その後、大気中で紫外線照射などの反応促進処理をしつつ潤滑剤を表面に塗布して完成させるといったプロセスをとることで、炭素膜に十分な強度で固着した潤滑膜の中に凝集物などの発生の無い、平坦な表面を有する、磁気記録媒体を作製することが可能となる。
【0036】
なお、上記に実施例で示した具体的なプロセス上の方法については、発明の趣旨に合致する限り、他のプロセス手法が適用可能であることは言うまでもない。
【0037】
硬質炭素膜の表面の水素化手法としては、硬質炭素膜の表面近傍のみを水素化できる手法であれば何でもよく、たとえば、水素プラズマによるプラズマ水素化や、タングステン(W) や白金(Pt) などの水素分子を解離させる作用のある金属を用いた熱フィラメントによる水素化などを挙げることができる。
【0038】
潤滑剤塗布方法としては、潤滑剤の塗布と同時に潤滑剤と炭素膜表面との反応を促進させる、反応促進処理の手法を備えたものであればなんでもよい。紫外線を塗布面に照射できるようにしたDIP法以外に、たとえば、スピンコート法、スプレー法などの方法を挙げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の製造方法を説明する図
【図2】硬質炭素膜の表面に含まれる水素量の測定結果を示す図
【図3】アコースティックエミッッション評価結果を示す図
【符号の説明】
【0040】
1 基板
2 磁気記録膜
3 硬質炭素膜
4、4‘ 積層体
5 水素含有表面層
6 潤滑膜



【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に磁気記録層を形成する工程と、
前記記録層上に、保護膜を形成する工程と、
前記保護膜の表面を水素化処理する工程と、
次いで、前記基板の表面を活性化処理しながら、潤滑剤を塗布する工程と
を有することを特徴とする磁気記録媒体の作製方法。
【請求項2】
前記保護膜が、炭素原料を用いたFCA法によって形成されることを特徴とする請求項1記載の磁気記録媒体の作製方法。
【請求項3】
前記水素化処理は真空中で水素ガスによる表面処理であることを特徴とする請求項1または2に記載の磁気記録媒体の作製方法。
【請求項4】
前記活性化処理は紫外線照射であることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の磁気記録媒体の作製方法。
【請求項5】
基板上に形成された磁気記録層と、
前記記録層上に形成された炭素保護膜と、
前記炭素保護膜上に形成された潤滑剤と
を有する磁気記録媒体であって、
前記炭素保護膜の表面に水素原子を含むことを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項6】
前記表面における、水素(H)と炭素(C)との元素比(H/C)は、0.05以上であることを特徴とする請求項5記載の磁気記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−113759(P2010−113759A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−285493(P2008−285493)
【出願日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】