説明

磁気記録媒体の製造方法、磁気記録媒体及び磁気記録装置

【課題】離型剤を使用した金型で成形された基板であっても、磁性層の成膜異常の無い、高い耐久性を有する磁気記録媒体の製造方法を得る。
【解決手段】金型に離型剤を成膜する工程と、離型剤が成膜された金型により基板を成形する工程と、基板に付着した離型剤を除去する洗浄工程と、洗浄工程の後、基板に磁性層を形成する工程と、を有する磁気記録媒体の製造方法とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンピュータ等に接続又は搭載される磁気記録装置の磁気記録媒体及び、当該磁気記録媒体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、コンピュータ等に接続又は搭載される磁気記録装置の磁気記録媒体用の基板の基材としては、一般にアルミニウム合金もしくはガラスが用いられてきた。
【0003】
一方、従来のアルミニウム合金やガラスを用いる場合に必要であった研磨工程を不要とし、加えて素材費の軽減を目的として、樹脂材料を射出成形して形成した基板に磁性層を成膜し、磁気記録媒体(ハードディスクや磁気ディスクとも称される)として用いるものが提案されている。
【0004】
この樹脂材料で形成される基板は、磁気記録媒体用の基板として必要とされる高いレベルの表面精度(平坦度、うねり、粗さ等)が確保されていなければならない。しかし、射出成形を行う場合、金型の離型性の低下や変化により離型時に基板自体が変形し、表面精度を低下させる場合があることが知られていた。
【0005】
このような離型性の問題に対し、型の表面に特定のフッ素含有化合物を形成する成形型(例えば、特許文献1参照)が、知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−266441号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のような離型剤を使用する金型を用いて成形された樹脂の基板は、この後、磁性層が成膜され磁気記録媒体となるが、磁性層の膜剥がれ等の成膜異常により耐久性に乏しく信頼性に欠ける問題があった。
【0008】
本発明は上記問題に鑑み、離型剤を使用した金型で成形された基板であっても、磁性層の成膜異常がなく、高い耐久性を有する磁気記録媒体の製造方法を得ることを目的とし、これにより、高い耐久性を有する磁気記録媒体及び磁気記録装置を得ることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題は、下記の構成により達成される。
【0010】
(1)金型により成形された樹脂の基板に磁性層を形成し、磁気記録媒体を製造する磁気記録媒体の製造方法であって、前記金型に離型剤を成膜する工程と、前記離型剤が成膜された金型により前記基板を成形する工程と、前記基板に付着した前記離型剤を除去する洗浄工程と、前記洗浄工程の後、前記基板に磁性層を形成する工程と、を有することを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
【0011】
(2)前記洗浄工程は、非接触乾式洗浄であることを特徴とする前記(1)に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【0012】
(3)前記非接触乾式洗浄は、紫外線オゾン洗浄であることを特徴とする前記(2)に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【0013】
(4)前記(1)から前記(3)までのいずれかに記載の磁気記録媒体の製造方法により製造されたことを特徴とする磁気記録媒体。
【0014】
(5)磁気ヘッドと、該磁気ヘッドの位置決め制御を行なうヘッド位置決め機構と、該ヘッド位置決め機構の動作制御及び磁気ヘッドの記録再生制御を行なう入出力制御装置と、前記(4)に記載の磁気記録媒体と、を有することを特徴とする磁気記録装置。
【0015】
即ち、本発明は、磁性層の成膜異常について鋭意検討を行った結果、成形された基板に付着した離型剤が膜剥がれの原因であることを見いだし、なされたものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、離型剤を使用した金型で成形された基板であっても、磁性層の成膜異常の無い、高い耐久性を有する磁気記録媒体の製造方法を得ることができ、これにより、高い耐久性を有する磁気記録媒体及び磁気記録装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本実施の形態に係る磁気記録媒体の製造方法により得られる磁気記録媒体の適用される磁気記録装置の構成を概略的に示した図である。
【図2】本実施の形態に係る磁気記録媒体用の基板を形成する射出成形装置の一例を示す図である。
【図3】本実施の形態に係る磁気記録媒体(磁気ディスク)用の基板の製造手順を示すフローチャートである。
【図4】図2に示す金型の拡大模式図である。
【図5】図3に示す手順で形成された基板を磁気記録媒体とする手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、実施の形態により本発明を詳しく説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0019】
図1は、本実施の形態に係る磁気記録媒体の製造方法により得られる磁気記録媒体の適用される磁気記録装置の構成を概略的に示した図である。
【0020】
同図において、例えば、コンピュータ等に付設される磁気記録装置は、記録媒体としての複数の磁気記録媒体(以下、磁気ディスクとも称す)10と、不図示のスピンドルモータの出力軸に連結され、磁気ディスク10の中央部を出力軸に支持するクランプ部18と、磁気ディスク10の記録面に記録された情報を再生するとともに、記録面に情報を記録する磁気ヘッド12と、磁気ヘッド12の磁気ディスク10のトラックに対する位置決め制御を行なうヘッド位置決め機構14と、ヘッド位置決め機構14の動作制御および磁気ヘッド12の記録再生制御を行なう入出力制御装置16と、を筐体CA内に含んで構成されている。
【0021】
磁気ディスク10は、例えば、厚さ1.27mmであって3.5インチ規格サイズのディスクである。なお、磁気ディスク10のサイズはこれに限るものでない。磁気ディスク10は、プラスチック材料、例えば、ポリカーボネートで成形された円盤状の基板と、基板の一対の表層部にそれぞれ記録面として形成される磁性層および保護層とを含んで構成されている。各記録面には、情報が記録されるトラックが同心円上に形成されている。
【0022】
磁気ヘッド12は、磁気ディスク10の双方の記録面にそれぞれ対向して配されている。
【0023】
ヘッド位置決め機構14は、磁気ヘッド12を支持する弾性体からなるアーム部材と、アーム部材の基端を所定の角度範囲内で回動させるアクチュエータと、を主な要素として含んで構成されている。
【0024】
入出力制御装置16には、不図示のインタフェース回路を通じて接続されている、例えばコンピュータ等の制御装置からの制御データ群、記録されるべきデータ群等が供給される。入出力制御装置16は、供給される制御データ群、および磁気ディスク10の回転位置を検出する回転検出部からの信号に基づいてヘッド位置決め機構14を制御するとともに、データに基づいて磁気ヘッド12の磁気ディスク10の記録面への書き込み制御または記録されたデータの再生制御を行うようになっている。
【0025】
図2は、本実施の形態に係る磁気記録媒体用の基板を形成する射出成形装置の一例を示す図である。同図に示す射出成形装置は、インラインスクリュー式射出成形装置の模式断面図である。
【0026】
同図に示す射出成形装置は、加熱手段24及び金型30に対する射出口26を備えた加熱シリンダ23と、該加熱シリンダ23内にあり、樹脂の溶融、計量および射出を行うための(可動)スクリュー21と、スクリュー21に対して樹脂を供給する樹脂供給手段25(ホッパなど)と、スクリュー21の計量および射出駆動を行うためのスクリュー駆動手段22とを備える。金型30としては、分離可能な2つの部分(固定部32及び可動部31)からなる金型を用い、さらに金型30に型締め圧力を与え、可動部31を駆動するための駆動手段29を備えることが好ましいが、それに限定されるものではない。この金型内部に鏡面化された、あるいはパターンを有するスタンパ31S、32Sがセットされている。
【0027】
なお、このスタンパ31S、32Sは、成形される基板の用途等に応じて、固定部32もしくは可動部31のいずれか一方に設けてもよい。なお、スタンパを用いず、金型30の固定部32及び可動部31の対応する位置に直接、鏡面あるいはパターンが形成されていてもよい。
【0028】
以下、本実施の形態に係る磁気記録媒体の製造方法について説明する。
【0029】
図3は、本実施の形態に係る磁気記録媒体(磁気ディスク)10用の基板の製造手順を示すフローチャートである。図4は、図2に示す金型30の拡大模式図である。なお、図4は型閉じ時又は型締め時の状態を示している。
【0030】
以下、図3のフローに従いつつ、適宜、図4を参照して説明する。
【0031】
なお、金型30内部の基板と接する部位、少なくともスタンパ31S、32Sの表面には、予め離型剤が成膜されている。
【0032】
本実施の形態において、金型またはスタンパに離型剤を成膜する方法は任意であり、例えば、金型またはスタンパを回転させながら、溶媒に溶かした離型剤をそれぞれの表面上に滴下し、更にそれらを高速回転させることにより余分な溶液を振り切る、いわゆるスピン塗布方法やテフロン(登録商標)などの固形物をスパッタリングして成膜する方法などを利用することができる。また、金型の可動部と固定部が離間した型開き時に、塗布するものであってもよい。
【0033】
また、本実施の形態において、成膜する離型剤の種類は任意であり、脂肪酸部分がエステル化したステアリン酸モノグリセリドやフッ素系樹脂、パラフィンワックス、シリコーンオイル、エステルロウ、ポリエチレンワックス、アミド化合物、有機酸エステルワックスなどを用いることができ、例えば、基板の素材がポリカーボネートの場合は、飽和脂肪酸と多価アルコールから得られたエステルなどを用いることができる。
【0034】
まず、金型30は型締めが行われる(ステップS101)。すなわち、金型30は図4に示す状態で、駆動手段29(図2参照)により、可動部31及び固定部32に所定の圧力が加えられる。
【0035】
次いで、加熱シリンダ23(図2参照)内に予め計量された溶融樹脂が、スプルー部36となる部位を介してゲート38からキャビティ35内に充填される。その後、充填された溶融樹脂を冷却硬化させ、基板を成形する(ステップS102)。
【0036】
この冷却硬化の時間中に、スクリュー駆動手段22(図2参照)が動作し、次の成形に備えた樹脂の溶融と計量を行う。さらにゲートカット手段であるパンチ37を移動させ、スプルー部36をキャビティ35内の基板から切断し、更に冷却硬化させた後、駆動手段29(図2参照)を駆動して可動部31を移動させ、型開きが行われる(ステップS103)。
【0037】
この後、キャビティ35内の基板を取り出す(ステップS104)ことで、磁気記録媒体用の基板が得られる。
【0038】
なお、本実施の形態に係る磁気記録媒体用基板の基材に用いられる熱可塑性樹脂は、一般的に光磁気ディスク基板に使用されているポリカーボネートおよびポリメチルメタクリレートに加えて、ポリオレフィン系樹脂を含む。特に、高耐熱性でありかつ低吸湿性である剛直構造のポリオレフィン系樹脂、たとえばノルボルネン系ポリシクロオレフィン樹脂を用いることが好ましい。
【0039】
上記のように作製した磁気記録媒体用の基板上に磁気記録層が積層され、磁気記録媒体となる。
【0040】
図5は、図3に示す手順で形成された基板を磁気記録媒体とする手順を示すフローチャートである。以下、フローに従い説明する。
【0041】
同図に示すように、図3に示す手順で形成された基板は、離型剤を除去するために洗浄が行われ(ステップS201)、この洗浄工程の後、基板に磁性層が形成される(ステップS202)。
【0042】
このように、基板の成形後、基板への磁性層形成の前に、基板の洗浄を行うことで、磁性層の膜剥がれの原因である、基板に付着した離型剤を除去することができ、以降に形成される磁性層の膜剥がれがなくなる。すなわち、磁性層形成の前に、基板に付着した離型剤を除去する洗浄工程を製造工程に追加することにより、基板全面にわたり磁性層の接着性を向上させた磁気記録媒体を得ることができる。
【0043】
これにより、高耐久性を有する磁気記録媒体を得ることができる。また、これにより、高耐久性を有する磁気記録装置を得ることができる。
【0044】
なお、ステップS201における、基板の洗浄工程は非接触乾式洗浄方式であることが好ましい。樹脂で形成された基板は、湿式の洗浄では溶解や変形をおこし易いが、非接触の乾式洗浄方式を用いることで、樹脂で形成された基板の溶解や変形等の基板へのダメージをなくすことができる。
【0045】
更に、非接触乾式洗浄方式のうち、紫外線(UV)オゾン洗浄であることが、より好ましい。紫外線オゾン洗浄は、紫外線を用いて活性酸素を発生させ、同時に基板表面に付着した有機物を分解酸化し揮発除去するもので、エキシマランプを用いるもの、低圧水銀ランプを用いるもの等がある。紫外線(UV)オゾン洗浄とすることで、金型から取り出された基板に付着した有機物である離型剤を分解し、気体として離散させることができ、基板へのダメージがなく、高い洗浄効果を得ることができる。
【0046】
なお、樹脂で形成された基板には、必要に応じて下地層、保護層、潤滑層等を設けてもよい。さらに、用途に応じて、磁性層を基板の片面または両面上に設けて、それぞれ片面および両面型磁気記録媒体を得ることができる。
【0047】
また、水平記録方式の磁気記録媒体である場合には、下地層、磁性層、保護層、潤滑層をこの順に設けることが好ましい。磁性層の性能向上などを目的として、下地層と磁性層との間に、中間層を設けてもよい。また、記録密度向上の可能性等によって近年注目を集めている垂直記録方式の磁気記録媒体である場合には、下地層、軟磁性裏打ち層、磁性層、保護層、潤滑層をこの順に設けることが好ましい。この場合にも、記録特性などの向上を目的として、下地層と軟磁性裏打ち層との間、及び/又は軟磁性裏打ち層と磁性層との間に、中問層を設けてもよい。
【0048】
上記の各層は、当該技術において知られている任意の材料から作製することができる。たとえば下地層はCrまたはCrを主とする合金の非磁性金属材料から作製することができ、磁性層はCoおよびCrを主とする合金のような磁性材料から作製することができ、および保護層は炭素(特にダイヤモンド様炭素)等から作製することができる。さらに潤滑層は、含フッ素ポリエーテルのような液体潤滑剤から作製することができ、軟磁性裏打ち層は、非晶質Co合金、NiFe合金、あるいはセンダスト(FeSiAl)合金などを用いて作製することができる。中間層として、TiまたはTiCr合金などの材料を用いてもよい。
【0049】
潤滑層を除く上記の各層は、スパッタ法、蒸着法、CVD法などの従来知られている方法によって基板上に積層することができる。特に、スパッタ法を用いることが好ましい。また、潤滑層は、ディップコート、スピンコート、吹付などの方法により作成することができる。
【符号の説明】
【0050】
10 磁気記録媒体(磁気ディスク)
12 磁気ヘッド
14 ヘッド位置決め機構
16 入出力制御装置
18 クランプ部
21 スクリュー
22 スクリュー駆動手段
23 加熱シリンダ
24 加熱手段
25 樹脂供給手段
26 射出口
29 駆動手段
30 金型
31 可動部
31S スタンパ
32 固定部
32S スタンパ
35 キャビティ
36 スプルー部
37 パンチ
38 ゲート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金型により成形された樹脂の基板に磁性層を形成し、磁気記録媒体を製造する磁気記録媒体の製造方法であって、
前記金型に離型剤を成膜する工程と、
前記離型剤が成膜された金型により前記基板を成形する工程と、
前記基板に付着した前記離型剤を除去する洗浄工程と、
前記洗浄工程の後、前記基板に磁性層を形成する工程と、を有することを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
【請求項2】
前記洗浄工程は、非接触乾式洗浄であることを特徴とする請求項1に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項3】
前記非接触乾式洗浄は、紫外線オゾン洗浄であることを特徴とする請求項2に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の磁気記録媒体の製造方法により製造されたことを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項5】
磁気ヘッドと、
該磁気ヘッドの位置決め制御を行なうヘッド位置決め機構と、
該ヘッド位置決め機構の動作制御及び磁気ヘッドの記録再生制御を行なう入出力制御装置と、
請求項4に記載の磁気記録媒体と、を有することを特徴とする磁気記録装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2010−257526(P2010−257526A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−106287(P2009−106287)
【出願日】平成21年4月24日(2009.4.24)
【出願人】(303000408)コニカミノルタオプト株式会社 (3,255)
【Fターム(参考)】