説明

磁気記録媒体の製造方法及び磁気記録媒体及び磁気記録再生装置

【課題】本発明はイオンイオン注入により磁気パターンを形成する磁気記録媒体及びその製造方法及び磁気記録再生装置に関し、主磁性膜内の記録領域に対する良好な磁気記録を可能とすることを課題とする。
【解決手段】ガラス基板2上に形成された硬磁性層6に、複数の記録領域9Aと、この記録領域9Aを磁気的に分離する分離領域10とを有した磁気記録媒体の製造方法であって、前記ガラス基板2上に磁気記録不能な保磁力を有した硬磁性体よりなる硬磁性層6を形成する工程と、この硬磁性層6の前記磁気記録領域に対応する位置に局所的にイオン注入を行い、当該イオン注入箇所の保磁力を磁気記録可能な保磁力まで低減させて記録領域9Aを形成すると共に、記録領域9Aの形成領域以外の領域を磁気記録不能な分離領域10とする工程とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン注入により磁気パターンを形成する磁気記録媒体の製造方法及び磁気記録媒体及び磁気記録再生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ハードディスクドライブ(HDD)は、データの高速アクセス及び高速転送が可能な大容量記憶装置として主流であり、年率100%近く面記録密度が向上しており、さらなる記録密度向上が求められている。
【0003】
HDDの記録密度を向上させるためには、トラック幅の縮小、記録ビット長の短縮が必要であるが、トラック幅を縮小させると、隣接するトラック同士が干渉し易くなる問題が発生する。トラック幅の縮小は、記録時においては磁気記録情報が隣接するトラックに重ね書きされ易いという問題や、再生時においては隣接するトラックからの漏洩磁界によるクロストークの問題が起き易い問題を生じる。
【0004】
これらの問題は、いずれも再生信号のS/N比の低下を招き、エラーレートが劣化するという問題を引き起こす要因となる。また、記録ビット長の短縮を進めると、ビットの安定性が低下する、熱揺らぎ現象が発生する。
【0005】
これに対して垂直磁気記録は、ディスク媒体の隣接するビットの磁化は対向せず、互いのビットを強め合う性質があり、隣接ビットの磁化が対向する長手磁気記録に比べ、原理的に高密度化に向いており、すでに多くのメーカが垂直磁気記録方式への転換を開始している。
【0006】
しかし、従来の連続媒体を用いる垂直磁気記録方式では、1 Tbpsi以上の超高密度記録を実現することは難しい。このため、超高密度記録を可能とする方式として媒体記録膜を加工して予めディスク上にビットパターンを作りこむ、ビットパターンド媒体(以下、BPMと略称する)が注目されている。
【0007】
しかしながら、BPMによる磁気記録媒体の作成方法は、ビット以外の部分をエッチング加工して磁性膜を除去し、その後非磁性物質を充填して平坦化加工することで、磁気記録媒体上での磁気ヘッドの浮上特性を安定なものとする、非常に複雑な製造プロセスを行う必要があり、製造コストも増大する問題が生じる。
【0008】
これらの問題を回避するための方法として、イオンを磁性膜にイオン注入して局所的に磁気状態を変える加工方法が検討されている(特許文献1参照)。イオン注入して磁気状態を変えるため、エッチングや充填、平坦化などの複雑な製造プロセスが必要ではなくなり、製造コスト増大を押さえることが可能となる。
【0009】
従来におけるイオン注入によるBPMの製造方法としては、例えば高い磁気異方性を有するCuAuI型規則構造のFePt磁性膜に局所的イオン注入を行うことにより低保磁力化させる方法が用いられていた。この従来の方法では、イオン注入がされた領域を磁気記録不能な領域(分離領域)とし、イオン注入が行われなかった領域を磁気記録可能な記録領域とする。
【特許文献1】特開2005−228912号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記のように従来のBPMの製造方法は、基板上に形成される磁性膜として磁気記録可な材料を選定すると共に、記録領域層以外の部位にイオン注入を行うことにより分離層を形成し、これにより同一磁性膜内に記録領域と分離領域とを形成する方法とされていた。
【0011】
しかしながら、従来のBPMの製造方法では、記録領域の磁気特性は基板上に形成される磁性膜の磁気特性と同一特性となり、磁気特性の改良を行うことができなかった。
【0012】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、磁気記録が行われる記録層の磁気特性を調整しうる磁気記録媒体の製造方法及び磁気記録媒体及び磁気記録再生装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の課題は、本発明の第一の観点からは、非磁性基板上に形成された磁気記録層に、複数の磁気記録領域と、該磁気記録領域を磁気的に分離する分離領域とを有する磁気記録媒体の製造方法であって、前記非磁性基板上に磁気記録不能な保磁力を有した硬磁性体よりなる磁性膜を形成する工程と、該磁性膜の前記複数の磁気記録領域に対応する位置に局所的にイオン注入を行い、当該イオン注入箇所の保磁力を磁気記録可能な保磁力まで低減させて前記磁気記録領域を形成すると共に、該磁気記録領域の形成領域以外の領域を磁気記録不能な保磁力を維持した分離領域とする工程とを有する磁気記録媒体の製造方法により解決することができる。
【発明の効果】
【0014】
上記の磁気記録媒体によれば、イオン注入を行うイオン種の選択、またイオン注入時の加速電圧の調整等により、磁気記録領域の磁気特性を任意に設定することが可能となる。また、磁気記録領域の磁気特性を磁気記領域ごとに個々に設定することも可能となり、多様な磁気記録媒体を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
次に、本発明を実施するための最良の実施形態について図面と共に説明する。
【0016】
図1(A)は第1実施形態明に係る垂直磁気記録媒体1A(以下、磁気記録媒体1Aという)、図1(B)は磁気記録媒体1Aの平面図である。
【0017】
図1(A)に示すように、磁気記録媒体1Aは非磁性基板2の上に磁気記録膜3を積層した構成とされている。また、磁気記録膜3は、軟磁性層4、中間層5、及び硬磁性層6を積層した構成とされている。更に、磁気記録膜3の上面には、硬磁性層6を保護する保護層(図示せず)が形成されている。この磁気記録媒体1Aは、例えばハードディスクドライブ(HDD)の磁気記録再生媒体として使用されるものである。
【0018】
非磁性基板2は磁気記録膜3の支持部材として機能するものであり、ガラス、アルミニウム、Si等の非磁性材料で形成されている。本実施形態では、非磁性基板1としてガス板を用いている(以下、ガラス基板2という)。
【0019】
このガラス基板2の上部には、磁気記録膜3を構成する軟磁性層4が形成されている。軟磁性層4は磁気ヘッドと共に磁気閉回路を形成するための磁性層であり、例えば非晶質のCo合金であるCoZrNb,CoZrTa,COZrTa,FeCoB,FeCoB等を用いることができる。また軟磁性層4は、これらの各Co合金と非磁性層とを積層した構成のものも適用することができる。この軟磁性層4は、最もBs(飽和磁束密度)の高くなるFe:Co=65:35を主成分としたFeCoBの他に、高Bs(1.5T以上)材料となる材料を選定することが望ましい。
【0020】
中間層5は配向制御層として機能するものであり、その上部に形成される硬磁性層6の結晶性を向上する機能を奏する。この中間層5は、例えば、Ru層、FeCoB層、Ru層の積層等で形成できる。Ru層は、その上に形成する結晶性金属層の配向を向上できる機能を有する。
【0021】
硬磁性層6は、例えば膜面垂直方向保磁力が8kOe以上の高保磁力を有している。この硬磁性層6は、例えば厚さが0.2nmのCo層と、厚さが0.8nmのPd層を交互に15層形成した構成としている。本発明者は、上記構成とされた硬磁性層6の電磁変換特性の測定を試みたが、保磁力が非常に大きいために書き込みが不能(磁気記録が不能)であった。
【0022】
尚、保護層としては、硬磁性層6上に例えばCN等を被膜形成することが考えられる。
【0023】
ここで、硬磁性層6に形成される記録領域9Aと分離領域10について説明する。図1(B)に示すように、記録領域9Aは分離領域10に所定のピッチで形成されている。この記録領域9Aは、磁気記録媒体1AをHDDの媒体して用いた場合には、データ記録領域やサーボパターン領域となる。
【0024】
前記のように、記録領域9Aが形成される硬磁性層6は8kOe以上の高保磁力を有しており、この記録領域9Aに磁気記録を行うことはできない。本実施形態では、後述する製造方法により、硬磁性層6にイオン注入することにより、イオン注入位置における硬磁性層6の保磁力を硬磁性層6の保磁力よりも小さくし、これにより硬磁性層6内に磁気記録再生が可能な記録領域9Aを形成している。また、硬磁性層6において、記録領域9Aの形成領域以外の領域が分離領域10となる。この際、記録領域9Aの保磁力は、記録再生時のノイズ低減の観点からは約5kOe以下であることが望ましい。
【0025】
上記構成とされた磁気記録媒体1Aは、磁気記録が行われる記録領域9Aが硬磁性層6の厚さ方向(図1(A)における上下方向)に貫通して形成されており、また記録領域9Aが磁気記録可能な保磁力とされており、かつ分離領域10が記録領域9Aをその上下面を残して内部に埋設した構成とされている。このため、記録領域9Aに磁気記録が行われても分離領域10の保磁力が大きいため、記録領域9Aの磁性の消失が発生するようなことはない。
【0026】
次に、本発明の第1実施形態である磁気記録媒体の製造方法について説明する。以下の説明では、図1に示した磁気記録媒体1Aを製造する例について説明するものとする。図2は、磁気記録媒体1Aの製造方法を説明するための図である。尚、図2において、図1に示した構成と対応する構成については同一符号を付してその説明を省略する。
【0027】
磁気記録媒体1Aを製造するには、先ずガラス基板1上に軟磁性層4となる厚さ25nmのFeCoB膜をArガス圧0.5Pa、スパッタ電力1kWで成膜する。本実施例では、軟磁性層4を単層の磁性裏打ち層としている。図2(A)は、ガラス基板2上に軟磁性層4が形成された状態を示している。
【0028】
次に、軟磁性層4の上に、中間層5を成膜する。中間層5は、厚さ0.8nmのRu層をアルゴンガス圧0.8Pa,スパッタ電力100Wのスパッタリングで成膜し、その上に厚さ25nmのFeCoB層をArガス圧0.5Pa,スパッタ電力1kWのスパッタリングで成膜し、更にその上に厚さ10nmのRu層をArガス圧0.8Pa、スパッタ電力0.3kWのスパッタリングで成膜することにより形成する。このように本実施例では、Ru層、FeCoB層、Ru層が3層積層構造の中間層5を構成する。図2(B)は、軟磁性層4上に中間層5が形成された状態を示している。
【0029】
上記のように中間層5が形成されると、この中間層5上に硬磁性層6を成膜する。この硬磁性層6を形成するには、先ず中間層5上に厚さ0.2nmのCo層をArガス圧1Pa,スパッタ電力0.5kWのスパッタリングで成膜し、更にその上に厚さ0.8nmのPd層をArガス圧1Pa、スパッタ電力0.5kWのスパッタリングで成膜することにより形成する。
【0030】
そして、これを1サイクルとして、15回上記の処理を繰り返し実施する。これにより、Co膜とPd膜の人工格子構造が形成される。このようにして形成された硬磁性層6の、膜面垂直方向保磁力は8kOe以上となる。図2(C)は、中間層5上に硬磁性層6が形成された状態を示している。尚、硬磁性層6はCo膜とPd膜の人工格子構造に限定されるものではなく、例えばFe膜とPt膜を積層した人工格子構造とすることも可能である。
【0031】
そして、最後に硬磁性層6の上部に、厚さ3nmのCN層を保護膜(図示せず)として形成した。尚、実際に使用する場合は、保護膜の上部に更に液体潤滑層を塗布することが好ましい。上記の図2(A)〜(C)に示す各工程を行うことにより、ガラス基板2上に軟磁性層4,中間層5,及び硬磁性層6を含む磁気記録膜3が形成される。
【0032】
上記のようにガラス基板2上に磁気記録膜3が形成されると、続いて磁気記録膜3の上部に記録領域9Aの形成領域に対応する位置にのみ開口を有してマスク(図示せず)を用意する。そして、このマスクを介して磁気記録膜3に対し、イオン注入処理が行われる。このイオン注入処理は、周知のイオン注入装置を用いて実施される。
【0033】
この際実施されるイオン注入は、打ち込みエネルギ等を調整することにより、硬磁性層6の厚さ方向全体にイオン注入が行われるように設定する。また、イオン注入するイオンとしては、硬磁性層6の飽和磁化を低減しうるイオン種であれば特定されることはない。本実施形態では、ドープイオンとしてArイオンを用いた。また、イオン注入条件は、電圧25keV、ドーズ量5×1015atoms/cm2とした。図2(D)は、硬磁性層6に対してイオン注入を行っている状態を示している。
【0034】
前記のように、硬磁性層6に対するイオン注入処理は記録領域9Aの形成領域に対して実施され、硬磁性層6の他の領域に対しては実施されない。イオン注入処理が実施された領域においては、硬磁性層6の不純物の浸入による質が発生し、保磁力がイオン注入前に比べて低下する。このイオン注入領域の保磁力の低下量は、ドープイオンの種類、ドープ時の加速電圧、及びドーズ量等により調整することが可能である。
【0035】
上記のイオン注入処理を実施することにより、硬磁性層6には磁気記録が可能な保磁力を有した記録領域9Aと、磁気記録が不能な高い保磁力(8kOe以上)を有した分離領域10が形成される。図2(E)は、硬磁性層6内に記録領域9A及び分離領域10が形成された状態を示している。
【0036】
上記した説明から明らかなように、本実施例により製造される磁気記録媒体1Aは、イオン注入処理後も、分離領域10は図2(C)で形成された硬磁性層6の磁気特性(高い保磁力を有した特性)を維持する。これに対して記録領域9Aは、イオン注入が行われることにより磁気記録が可能な保磁力まで低減される。また、記録領域9Aにおける保磁力は、前記のようにドープイオンの種類、ドープ時の加速電圧、及びドーズ量等により調整することが可能である。
【0037】
従って、記録領域9Aの磁気特性を任意に設定することができ、よって磁気記録媒体1Aを使用する機器の条件に対応した磁気特性に記録領域9Aを設定することができる。これにより、例えば磁気記録媒体1AをHDDに用いた場合には、エリア毎(データ記録領域、サーボパターン領域など)に磁気特性を分けることにより、より高精度で自由度の高い磁気記録再生処理を可能とすることができる。また、本実施形態に係る製造方法は、従来から行われている成膜処理及びイオン注入処理を用いて行うことができるため、特に製造工程が複雑化したり製造コストが上昇したりするようなことはない。
【0038】
次に、上記のように製造される磁気記録媒体1Aの特性を、図3を用いて説明する。
【0039】
図3は、イオン注入による保磁力低減効果を調べた実験結果を示している。実験方法としては、先に説明した磁気記録媒体1Aの製造方法によりガラス基板2上に硬磁性層6を成膜した媒体(以下、これを試験媒体という)を作製し、これを10mm角にパターニングする。そして、このパターニングされた領域内に上記した第1実施形態に係る製造方法を用いてイオン注入を行った。
【0040】
そして、Arイオンの注入エネルギは一定とした上で、注入時間を変化させたときの保磁力(Hc)及び和磁化(Ms)の結果を求めた。尚、これら磁気特性評価は、振動試料型磁力計(VSM)を用いて行った。
【0041】
図3に示す参考例は、イオン注入を行わないときの硬磁性層6の磁気特性を示している。硬磁性層6の保磁力は8.5kOeと高い値となっており、この硬磁性層6に対しては磁気記録を行うことはできない。
【0042】
実施例1−1〜1−4は、イオン注入時間を120,300,480,600secと変化させた実験結果を示している。同図に示すように、注入時間が長くなるにつれて、保磁力が漸次低下することが分る。よって、硬磁性層6に対するイオン注入時間を調整することにより、形成される記録領域9Aの磁気特性を調整(改良)することができることが証明された。
【0043】
また、注入時間がある一定の時間(300sec)を越えると、保磁力の低下率は小さくなることが分った。また、480sec以上のイオン注入により、硬磁性層の保磁力を磁気記録処理が行える値まで低下させることができた。尚、実施例1−3と同じ条件にて複数の試験媒体にイオン注入を行い、これに対して電磁変換特性の測定を試みたところ、磁気記録が可能なものと、不可能なものとが発生した。よって、書き込み可能な保磁力の上限として、6kOe程度が基準になると判断される。
【0044】
次に、第2実施例に係る磁気記録媒体1B及びその製造方法について説明する。
【0045】
図4は第2実施例に係る磁気記録媒体1B及びその製造方法を説明するための図である。尚、図4において、図1及び図2に示した構成と対応する構成については同一符号を付してその説明を省略する。
【0046】
図4(A)は、ガラス基板2上に磁気記録膜3が形成された状態を示している。この図4(A)に示す積層体は図2(C)に示したものと等価のものであり、第1実施形態と同様の製造方法で作製される。図4(B)は、硬磁性層6に対してイオン注入を行っている状態を示している。本実施形態においても、イオン注入処理は基本的には第1実施形態で行ったと同じ方法で硬磁性層6に対してイオン注入される。
【0047】
しかしながら、第1実施形態に係る磁気記録媒体1Aは、記録領域9Aを硬磁性層6の厚さ方向の全体に形成していたのに対し、本実施形態に係る磁気記録媒体1Bは記録領域9Bを硬磁性層6の厚さ方向に部分的に形成したことを特徴としている。よって、本実施形態に係る磁気記録媒体1Bは、記録領域9Bが分離領域10(硬磁性層6)を厚さ方向に貫通して形成されることなく、図4(B)に示すように部分的に島状に形成された構成とされている。
【0048】
図5は、第2実施形態に係る磁気記録媒体1Bに対し、イオン注入による保磁力低減効果を調べた実験結果を示している。実験方法としては先に図3を用いて説明した実験と同様に、試験媒体を作製し、これを10mm角にパターニングすると共にパターニングされた領域内に上記した第2実施形態に係る製造方法を用いてイオン注入を行った。
【0049】
本実験の実施例1−1,2−1,2−2は、注入時間を一定(120sec)とし、注入エネルギを変化させたときの実験結果を示している。また、実施例2−2,2−3は、注入エネルギを5keVと低いエネルギに設定すると共に、注入時間を変化させた場合の実験結果を示している。
【0050】
同図より、注入時間が一定の場合、注入エネルギが小さくなると、保磁力が低下することが分った。また、注入エネルギを低い値(5keV)で一定とし、注入時間を増やした場合、保磁力が低下することが分った。
【0051】
また本発明者は、実施例2−1〜2−4について透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて断面観察を行った。その結果、実施例2−1〜2−4においては、硬磁性層部分にて組成傾斜があり、その変調域の位置は、注入エネルギが低くなるほど媒体表面方向に近くなっていることを確認した。特に、注入エネルギを低く設定し、適度な注入量とすることで、媒体表面付近の保磁力が低下し、硬磁性層全体の保磁力も低下するものと考えられる。
【0052】
次に、第3実施例に係る磁気記録媒体1C及びその製造方法について説明する。
【0053】
図6は第3実施例に係る磁気記録媒体1C及びその製造方法を説明するための図である。尚、図5において、図1及び図2に示した構成と対応する構成については同一符号を付してその説明を省略する。
【0054】
図5(A)は、ガラス基板2上に磁気記録膜3が形成された状態を示している。この図5(A)に示す積層体は図2(C)に示したものと等価のものであり、第1実施形態と同様の製造方法で作製される。
【0055】
図5(B)は、硬磁性層6に対して第1のイオン注入を行っている状態を示している。この第1のイオン注入における注入エネルギは25keV,30keVと高い注入エネルギに設定されている。よって、イオン注入位置の特に深い位置において保磁力の低減が行われる。図6(C)は、第1のイオン注入が終了した状態を示している。
【0056】
続いて、上記のように記録領域9Cが形成された媒体に対し、第2のイオン注入が行われる(図6(D)参照)。この第2のイオン注入は、前記した第1のイオン注入における注入エネルギよりも小さい注入エネルギ(5KeV)とされている。
【0057】
これにより、記録領域9Cの上部に、記録領域9Cよりも更に保磁力が小さい記録領域9Dが形成される。即ち、本実施形態に係る磁気記録媒体1Cは、互いに保磁力が異なる複数(本実施形態では2層)の記録領域層9C,9Dが積層された構成とされている。図6(E)は、記録領域層9C,9Dが積層された磁気記録媒体1Cが製造された状態を示している。
【0058】
図7は、第3実施形態に係る磁気記録媒体1Cの製造過程において、第1のイオン注入を行うことにより形成された記録領域9Cにおける保磁力低減効果を調べた実験結果を示している。実験方法としては先に図6(A)〜(C)を用いて説明した方法と同様に、ガラス基板2上に形成された硬磁性層6を10mm角にパターニングし、このパターニングされた領域内に上記した第3実施形態に係る製造方法を用いて第1及び第2のイオン注入を行った。
【0059】
本実験の実施例1−1,3−1,3−2は第1のイオン注入を行った結果であり、注入時間を一定(120sec)とし、注入エネルギを変化させたときの実験結果を示している。具体的には、実施例1−1では注入エネルギを20keVとし、実施例3−1では注入エネルギを25keVとし、実施例3−2では注入エネルギを30keVとしている。
【0060】
また、実施例3−3,3−4は、第2のイオン注入を行った結果であり、注入エネルギを5keVと一定とし、注入時間を変化させた実験結果を示している。具体的には、実施例3−3では注入時間を300secとし、実施例3−4では注入時間を480secとしている。
【0061】
同図より、注入エネルギを高く設定した方が、硬磁性層全体の保磁力の低下が少ない結果が得られた。よって、引き続き図6(D)に示す第2のイオン注入を行うことにより、硬磁性層6を所望の多層構造を有する記録領域9C,9Dとすることができる。
【0062】
また本発明者は、実施例1−1,3−3,3−4について透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて断面観察を行った。その結果、第1及び第2のイオン注入を行うことにより硬磁性層部分にて組成傾斜が発生することが分った。また、記録領域9Cにおける保磁力は、ガラス基板2側に位置する記録領域層の保磁力に対して、媒体表面側に位置する磁気記録領域層の保磁力の方が小さい値であることが分った。
【0063】
次に、本実施形態の磁気記録媒体10A〜10Cを装着しうる磁気記録再生装置20ついて説明する。図8は、磁気記録再生装置20の平面図である。この磁気記録再生装置20は、パーソナルコンピュータやテレビの録画装置に搭載されるハードディスク装置である。
【0064】
この磁気記録再生装置20では、磁気記録媒体10が、スピンドルモータ等によって回転可能な状態でハードディスクとして筐体17に収められる。更に、筐体17の内部には、軸16を中心にしてVCM18(ボイスコイルモータ)により回転可能なキャッリッジアーム14が設けられている。磁気ヘッド13はキャリッジアーム14の先端に設けられており、磁気ヘッド13が磁気記録媒体10の上方を走査することにより磁気記録媒体10への磁気情報の書き込みと読み取りが行われる。
【0065】
尚、磁気ヘッド13の種類は特に限定されず、GMR(Giant Magneto-Resistive)素子やTuMR(Tunneling Magneto-Resistive)素子等の磁気抵抗素子で磁気ヘッドを構成してよい。また、磁気記録再生装置20は、上記のようなハードディスク装置に限定されず、可撓性のテープ状の磁気記録媒体に対して磁気情報を記録するための装置であってもよい。
【0066】
以上、本発明の好ましい実施例について詳述したが、本発明は上記した特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能なものである。
【0067】
以上の説明に関し、更に以下の項を開示する。
(付記1)
非磁性基板上に形成された磁気記録層に、複数の磁気記録領域と、該磁気記録領域を磁気的に分離する分離領域とを有する磁気記録媒体の製造方法であって、
前記非磁性基板上に磁気記録不能な保磁力を有した硬磁性体よりなる磁性膜を形成する工程と、
該磁性膜の前記複数の磁気記録領域に対応する位置に局所的にイオン注入を行い、当該イオン注入箇所の保磁力を磁気記録可能な保磁力まで低減させて前記磁気記録領域を形成すると共に、該磁気記録領域の形成領域以外の領域を磁気記録不能な保磁力を維持した分離領域とする工程と、
を有する磁気記録媒体の製造方法。
(付記2)
前記磁気記録領域を形成する工程では、前記磁気記録領域を、前記磁気記録層の厚さ方向の全体に亘り形成する付記1記載の磁気記録媒体の製造方法。
(付記3)
前記磁気記録領域を形成する工程では、表面からの前記磁気記録領域の深さを、前記磁気記録層の厚さに対して小さくなるよう形成する付記1記載の磁気記録媒体の製造方法。
(付記4)
前記磁気記録領域を形成する工程では、第1のイオン注入を行った後、該第1のイオン注入エネルギと異なるイオン注入エネルギで第2のイオン注入を行う付記1記載の磁気記録媒体の製造方法。
(付記5)
前記硬磁性体がCo膜とPt膜とを積層した多層膜である付記1乃至4のいずれか一項に記載の磁気記録媒体の製造方法。
(付記6)
前記硬磁性体がCo膜とPd膜とを積層した多層膜である付記1乃至4のいずれか一項に記載の磁気記録媒体の製造方法。
(付記7)
非磁性基板上に形成された磁気記録層に、複数の磁気記録領域と、該磁気記録領域を磁気的に分離する分離領域とを有する磁気記録媒体であって、
前記磁気記録領域は、磁気記録不能な保磁力を有し、
前記分離領域は、前記磁気記録領域より低く磁気記録可能な保磁力を有する磁気記録媒体。(2)
(付記8)
前記磁気記録領域が、前記分離領域内に島状に形成されてなる付記7記載の磁気記録媒体。
(付記9)
前記磁気記録領域が、互いに保磁力が異なる複数の磁気記録領域層が積層された構成である付記7記載の磁気記録媒体。
(付記10)
前記複数の磁気記録領域層の保磁力は、前記非磁性基板側に位置する磁気記録領域層の保磁力に対して、媒体表面側に位置する磁気記録領域層の保磁力の方が小さい値である付記9記載の磁気記録媒体。
(付記11)
前記硬磁性体がCo膜とPt膜とを積層した多層膜である付記7乃至10のいずれか一項に記載の磁気記録媒体の製造方法。
(付記12)
前記硬磁性体がCo膜とPd膜とを積層した多層膜である付記7乃至10のいずれか一項に記載の磁気記録媒体の製造方法。
(付記13)
付記7乃至12のいずれ一項に記載の磁気記録媒体と、
該磁気記録媒体に対して磁気記録再生処理を行う磁気ヘッドと、
該磁気ヘッドを支持するアームと、
該アームを移動させる移動手段とを有する磁気記録再生装置。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】図1は、本発明の第1実施形態である磁気記録媒体を示しており、(A)は断面図、(B)は平面図である。
【図2】図2は、本発明の第1実施形態である磁気記録媒体の製造方法を説明するための断面図である。
【図3】図3は、本発明の第1実施形態である磁気記録媒体の磁気特性を比較例と共に示す図である。
【図4】図4は、本発明の第2実施形態である磁気記録媒体及びその製造方法を示す断面図である。
【図5】図5は、本発明の第2実施形態である磁気記録媒体の磁気特性を比較例と共に示す図である。
【図6】図6は、本発明の第3実施形態である磁気記録媒体及びその製造方法を示す断面図である。
【図7】図7は、本発明の第3実施形態である磁気記録媒体の磁気特性を比較例と共に示す図である。
【図8】図8は、本発明の一実施形態である磁気記録再生装置を示す平面図である。
【符号の説明】
【0069】
1A〜1C 磁気記録媒体
2 ガラス基板
3 磁気記録膜
4 軟磁性層
5 中間層
6 硬磁性層
9A〜9D 記録領域
10 分離領域
11 ディスク
13 磁気ヘッド
14 アーム
16 回転中心
17 ハウジング
18 VCM
20 磁気記録再生装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非磁性基板上に形成された磁気記録層に、複数の磁気記録領域と、該磁気記録領域を磁気的に分離する分離領域とを有する磁気記録媒体の製造方法であって、
前記非磁性基板上に磁気記録不能な保磁力を有した硬磁性体よりなる磁性膜を形成する工程と、
該磁性膜の前記複数の磁気記録領域に対応する位置に局所的にイオン注入を行い、当該イオン注入箇所の保磁力を磁気記録可能な保磁力まで低減させて前記磁気記録領域を形成すると共に、該磁気記録領域の形成領域以外の領域を磁気記録不能な保磁力を維持した分離領域とする工程と、
を有する磁気記録媒体の製造方法。
【請求項2】
非磁性基板上に形成された磁気記録層に、複数の磁気記録領域と、該磁気記録領域を磁気的に分離する分離領域とを有する磁気記録媒体であって、
前記磁気記録領域は、磁気記録不能な保磁力を有し、
前記分離領域は、前記磁気記録領域より低く磁気記録可能な保磁力を有する磁気記録媒体。
【請求項3】
前記磁気記録領域が、互いに保磁力が異なる複数の磁気記録領域層が積層された構成である請求項2記載の磁気記録媒体。
【請求項4】
前記複数の磁気記録領域層の保磁力は、前記非磁性基板側に位置する磁気記録領域層の保磁力に対して、媒体表面側に位置する磁気記録領域層の保磁力の方が小さい値である請求項3記載の磁気記録媒体。
【請求項5】
請求項2乃至4のいずれ一項に記載の磁気記録媒体と、
該磁気記録媒体に対して磁気記録再生処理を行う磁気ヘッドと、
該磁気ヘッドを支持するアームと、
該アームを移動させる移動手段とを有する磁気記録再生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−238287(P2009−238287A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−81639(P2008−81639)
【出願日】平成20年3月26日(2008.3.26)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】