説明

磁気記録媒体の製造方法

【課題】保護層の表面に形成される潤滑剤膜の膜厚分布のバラツキを無くして、この潤滑剤膜の保護層に対する被覆率を飛躍的に高めることを可能とした磁気記録媒体の製造方法を提供する。
【解決手段】非磁性基板31の上に少なくとも磁性層34を形成した後に、減圧した成膜室内に炭素を含む原料の気体を導入し、この気体をプラズマによりイオン化し、このイオンを用いて非磁性基板31の表面に炭素膜からなる保護層35を形成した磁気記録媒体の製造方法であって、保護層35を形成した後に、水素水を含む洗浄液を用いて磁気記録媒体を洗浄する工程を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハードディスク装置(HDD)等に用いられる磁気記録媒体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ハードディスクドライブ(HDD)等に用いられる磁気記録媒体の分野では、記録密度の向上が著しく、最近では記録密度が1年間で1.5倍程度と、驚異的な速度で伸び続けている。このような記録密度の向上を支える技術は多岐にわたるが、キーテクノロジーの一つとして、磁気ヘッドと磁気記録媒体との間における摺動特性の制御技術を挙げることができる。
【0003】
例えば、ウインチェスター様式と呼ばれる、磁気ヘッドの起動から停止までの基本動作を磁気記録媒体に対して接触摺動−浮上−接触摺動としたCSS(接触起動停止)方式がハードディスクドライブの主流となって以来、磁気記録媒体上での磁気ヘッドの接触摺動は避けることのできないものとなっている。
【0004】
このため、磁気ヘッドと磁気記録媒体との間のトライボロジーに関する問題は、宿命的な技術課題となって現在に至っており、磁気記録媒体の磁性膜上に積層される保護膜を改善する努力が営々と続けられていると共に、この媒体表面における耐摩耗性及び耐摺動性が、磁気記録媒体の信頼性向上の大きな柱となっている。
【0005】
磁気記録媒体の保護層としては、様々な材質からなるものが提案されているが、成膜性や耐久性等の総合的な見地から、主に炭素膜が採用されている。また、この炭素膜の硬度、密度、動摩擦係数等は、磁気記録媒体のCSS特性、あるいは耐コロージョン特性に如実に反映されるため、非常に重要である。
【0006】
一方、磁気記録媒体の記録密度の向上、並びに読み書き速度の向上を図るためには、磁気ヘッドの飛行高さ(フライングハイト)の低減や、磁気記録媒体の高回転数化等を行うことが好ましい。このため、磁気記録媒体の表面に形成される保護層には、磁気ヘッドの偶発的な接触等に対応するように、より高い摺動耐久性や平坦性が要求されるようになってきている。さらに、磁気記録媒体と磁気ヘッドとのスペーシングロスを低減して記録密度を高めるためには、保護層の厚さをできるだけ薄く、例えば30Å以下の厚みにすることが要求されている。したがって、平滑性は勿論のこと、薄く、緻密で且つ強靭な保護層が強く求められている。
【0007】
また、上述した磁気記録媒体の保護層に用いられる炭素膜は、スパッタリング法やCVD法、イオンビーム蒸着法等によって形成される。このうち、スパッタリング法で形成した炭素膜は、例えば100Å以下の膜厚とした場合に、その耐久性が不十分となることがある。一方、CVD法で形成した炭素膜は、その表面の平滑性が低く、膜厚を薄くした場合に、磁気記録媒体の表面の被覆率が低下して、磁気記録媒体のコロージョンが発生する場合がある。一方、イオンビーム蒸着法は、上述したスパッタリング法やCVD法に比べて、高硬度で平滑性が高く、緻密な炭素膜を形成することが可能である。
【0008】
イオンビーム蒸着法による炭素膜の形成方法としては、例えば、真空雰囲気下の成膜室内で、加熱されたフィラメント状カソードとアノードとの間の放電により成膜原料ガスをプラズマ状態とし、これをマイナス電位の基板表面に加速衝突させることにより、硬度の高い炭素膜を安定して成膜する方法が提案されている(特許文献1を参照)。
【0009】
また、上記構成において保護層を設けただけでは、磁気記録媒体の耐久性は十分ではない。このため、保護層の表面に潤滑剤を塗布して、厚さが0.5〜3nm程度の潤滑剤膜を形成している。これにより、磁気記録媒体の保護層等が大気に直接触れることを防ぎ、その耐食性を高めることができる。また、潤滑剤膜を設けることによって、磁気ヘッド(磁気ヘッドスライダ)が保護層と直接接触するのを防止すると共に、磁気記録媒体上を摺動する磁気ヘッドスライダの摩擦力を著しく低減させることができる。
【0010】
また、保護層の表面に形成される潤滑剤膜は、サブnm単位で膜厚を厳密に管理するようにしており、その潤滑剤膜の形成方法としては、液体潤滑剤の入った浸漬槽に磁気記録媒体を浸漬した後、この浸漬槽から磁気記録媒体を引き上げることによって、磁気記録媒体の表面に潤滑剤膜を均一の膜厚で形成する、いわゆるディッピング法が従来より広く用いられている(例えば、特許文献2を参照。)。また、このディッピング法では、量産性の面から一般にバッチ処理方式が採られており、磁気記録媒体を複数並べた状態で浸漬槽に浸漬し、一括して処理するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2000−226659公報
【特許文献2】特開平6−150307号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ところで、上述したディッピング法を用いた潤滑剤の塗布方法では、浸漬槽から磁気記録媒体を引き上げる際に、液体潤滑剤の液面を揺らさないように一定の速度で引き上げることが重要となる。これは、液体潤滑剤の液面が揺れてしまうと、磁気記録媒体の表面に塗布される潤滑剤膜の膜厚分布にバラツキ(いわゆる塗布ムラ)が生じてしまうためである。しかしながら、このような方法を用いた場合でも、上述した炭素膜からなる保護層の上に潤滑剤を塗布すると、この保護層の表面に形成される潤滑剤膜に塗布ムラが生じてしまうことがある。
【0013】
本発明は、このような従来の事情に鑑みて提案されたものであり、保護層の表面に形成される潤滑剤膜の膜厚分布のバラツキを無くして、この潤滑剤膜の保護層に対する被覆率を飛躍的に高めることを可能とした磁気記録媒体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、先ず、上記保護層の表面に形成される潤滑剤膜の膜厚分布にバラツキ(塗布ムラ)が生じる原因について検討を行った。その結果、減圧した成膜室内に炭素を含む原料の気体を導入し、この気体を例えば、DCプラズマ、高周波プラズマ、熱プラズマなどのプラズマによりイオン化し、このイオンを用いて非磁性基板の表面に炭素膜からなる保護層を形成した直後に、成膜室内に残留する原料の気体が炭素膜とならずに、有機重合膜となって炭素膜の表面に付着することを解明した。
【0015】
具体的に、この有機重合膜は、成膜室内で発生させたプラズマを消した後に、成膜室内に残留する炭素を含む原料の気体又はその分解物が有機的に熱重合して形成された膜であり、特に炭素と水素を多く含む。これについては、成膜室内にプラズマが発生している最中は、原料の気体が励起分解されて媒体表面に硬質の炭素膜が形成されるものの、この炭素膜の形成後にプラズマを消した後は、成膜室内に原料の気体やその分解物が残留しているため、更に媒体表面が成膜時のプラズマにより加熱されて高温となっているために、その残留物が媒体表面で熱重合し、炭化水素系の有機重合膜を形成したものと考えられる。
【0016】
そして、本発明者らは、このような炭素膜の表面に形成された有機重合膜が保護層の表面において潤滑剤の塗布ムラを生じさせる原因となることを解明した。すなわち、この有機重合膜は、基板表面の温度分布等によって膜厚が変化するために、このような有機重合膜が保護層(炭素膜)の表面に残留すると、この上に形成される潤滑剤膜の膜厚分布にバラツキを生させることになる。
【0017】
次に、本発明者らは、上記有機重合膜を炭素膜の表面から除去する方法について検討を行った。一般に、磁気記録媒体の製造工程で行われる基板表面等のクリーニングは、洗浄液を用いた湿式クリーニングと、ワイピングテープ等を用いた乾式クリーニングとに大別される。前者の湿式クリーニングは、後者の乾式クリーニングに比べ、クリーニングする能力に優れるものの、洗浄液に含まれる磁気記録媒体から除去された汚れが媒体表面に再付着する場合がある。このため、湿式クリーニングは、それほど高い洗浄性が要求されないアルミニウム合金やガラス等の磁気記録媒体用非磁性基板の洗浄に主に用いられている。
【0018】
また、磁気記録媒体の洗浄に湿式クリーニングが用いられる場合もあるが、磁気記録媒体に含まれるFeやCo等の腐食や汚れの再付着を防ぐため、純水を用いた数秒間程度の短時間のスピン洗浄に限られる。また、磁気記録媒体の表面に付着するのは、スパッタダスト等のような粒状物が多く、これらを除去するためには、織布や不織布を用いたワイピングの方が効果的と考えられている。
【0019】
しかしながら、本発明者らの検討によると、上記有機重合膜は、通常のバーニッシュ処理、ワイピング、洗浄等では除去不能なレベルのものであり、上述した磁気記録媒体の表面に対するバーニッシュ処理や、磁気記録媒体の表面に対する織布等を用いたワイピング処理、湿式洗浄等を行っても、極微量の有機重合膜が媒体表面に残留することによって、保護層の表面に形成される潤滑剤膜の膜厚分布にバラツキが生じることがわかった。
【0020】
そこで、本発明者らは、更に鋭意研究を重ねた結果、アルカリ洗浄剤を含む洗浄液を用いて磁気記録媒体を洗浄することで、上記有機重合膜を効率良く除去できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0021】
すなわち、本発明は、以下の手段を提供する。
(1) 非磁性基板の上に少なくとも磁性層を形成した後に、減圧した成膜室内に炭素を含む原料の気体を導入し、この気体をプラズマによりイオン化し、このイオンを用いて前記非磁性基板の表面に炭素膜からなる保護層を形成した磁気記録媒体の製造方法であって、
前記保護層を形成した後に、アルカリ洗浄剤を含む洗浄液を用いて磁気記録媒体を洗浄する工程を含むことを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
(2) 前記磁気記録媒体の洗浄を洗浄槽内の洗浄液に浸漬して行うことを特徴とする前項(1)に記載磁気記録媒体の製造方法。
(3) 前記洗浄槽内で洗浄液を横方向に流しながら、前記磁気記録媒体の洗浄を行うことを特徴とする前項(2)に記載の磁気記録媒体の製造方法。
(4) 前記洗浄槽に洗浄液を供給する複数の供給口と、前記洗浄槽から洗浄液を排出する複数の排出口とのうち、何れかの供給口及び/又は排出口を流れる洗浄液の流量を調整することによって、前記洗浄槽内の洗浄液が層流の状態で流れるようにすることを特徴とする前項(3)に記載の磁気記録媒体の製造方法。
(5) 前記アルカリ洗浄剤が、有効成分として、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、アンモニア、テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイドのうち少なくとも1種以上を含むことを特徴とする前項(1)〜(4)の何れか一項に記載の磁気記録媒体の製造方法。
(6) 前記洗浄液中におけるアルカリ洗浄剤の濃度を0.0001質量%〜0.1質量%の範囲とすることを特徴とする前項(5)に記載の磁気記録媒体の製造方法。
(7) 前記アルカリ洗浄剤を含む洗浄液を用いて磁気記録媒体の洗浄を行った後に、この磁気記録媒体に対して純水を用いたスピン洗浄を行うことを特徴とする前項(2)〜(6)の何れか一項に記載の磁気記録媒体の製造方法。
(8) 前記洗浄槽内の洗浄液に超音波振動を印加することを特徴とする前項(2)〜(7)の何れか一項に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【発明の効果】
【0022】
以上のように、本発明では、アルカリ洗浄剤を含む洗浄液を用いて磁気記録媒体を洗浄することで、磁気記録媒体に含まれるFeやCo等の腐食を防止しつつ、上記有機重合膜を効率良く除去できることから、保護層の表面に形成される潤滑剤膜の膜厚分布のバラツキを無くして、この潤滑剤膜の保護層に対する被覆率を飛躍的に高めることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1は、流水式洗浄装置の構成を示す平面図である。
【図2】図2は、流水式洗浄装置の構成を示す断面図である。
【図3】図3は、洗浄槽内に発生する乱流を説明するための断面図である。
【図4】図4は、洗浄槽内に発生する乱流を説明するための平面図である。
【図5】図5は、炭素膜の形成装置を模式的に示す概略構成図である。
【図6】図6は、永久磁石が印加する磁場とその磁力線の方向を示す模式図である。
【図7】図7は、磁気記録媒体の一例を示す断面図である。
【図8】図8は、磁気記録再生装置の一例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を適用した磁気記録媒体の製造方法について、図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を模式的に示している場合があり、各部の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
【0025】
本発明を適用した磁気記録媒体の製造方法は、非磁性基板の上に少なくとも磁性層を形成した後に、減圧した成膜室内に炭素を含む原料の気体を導入し、この気体をプラズマによりイオン化し、このイオンを用いて非磁性基板の表面に炭素膜からなる保護層を形成する工程(保護層形成工程という。)を含む磁気記録媒体の製造方法であって、保護層を形成した後に、アルカリ洗浄剤を含む洗浄液を用いて磁気記録媒体を洗浄する工程(媒体洗浄工程という。)を含むことを特徴とする。
【0026】
なお、本発明で言うプラズマとは、炭素を含む原料の気体を励起分解してこれをイオン化することが可能なプラズマのことであり、具体的には、DCアークプラズマ、グロー放電、高周波プラズマ、マイクロ波プラズマ、通電加熱したフィラメントによって形成した熱プラズマなどを例示することができる。
【0027】
(媒体洗浄工程)
具体的に、本発明の媒体洗浄工程では、洗浄液が層流の状態で流れる洗浄槽内に磁気記録媒体を浸漬しながら、この磁気記録媒体の湿式洗浄を行う。これにより、磁気記録媒体の表面に僅かに残留し、バーニッシュ処理や、ワイピング、スピン洗浄、従来の湿式洗浄等では除去不可能なレベルの量の汚染物質、特に、減圧した成膜室内に炭素を含む原料の気体を導入し、この気体をプラズマによりイオン化し、このイオンを用いて非磁性基板の表面に炭素膜からなる保護層を形成した直後に、成膜室内に残留する原料の気体が炭素膜とならずに、上記有機重合膜となって炭素膜の表面に付着したものを、効率よく除去することが可能である。
【0028】
また、本発明では、洗浄槽内で洗浄液を横方向に流しながら、磁気記録媒体の洗浄を行うことが好ましい。この場合、汚染物質等を含む洗浄液を浸漬槽の外へと速やかに排出することができるため、磁気記録媒体の表面に汚染物質等が再付着することを防止することが可能である。その結果、従来の方法では得られない清浄な表面を有する磁気記録媒体を得ることが可能である。
【0029】
ここで、例えば図1及び図2に示すような本発明の媒体洗浄工程で使用される流水式洗浄装置1の一例について説明する。
この流水式洗浄装置1は、上記転写工程の前に、ハードディスクドライブ(磁気記録再生装置)に搭載される磁気記録媒体Wを洗浄するのに好適に用いられるものであり、磁気記録媒体Wを保持したホルダ50を洗浄液Lに浸漬させて磁気記録媒体Wの洗浄を行う洗浄槽2を備えている。
【0030】
ホルダ50には、中心孔が形成された円盤状の磁気記録媒体Wが互いに平行な状態で複数並んで保持されている。また、各磁気記録媒体Wは、ホルダ50に設けられた一対の支持プレート51a,51bによって、その中心孔を通る鉛直方向の中心線を挟んだ両側の外周部が支持されている。なお、これら一対の支持プレート51a,51bには、各磁気記録媒体Wの外周部が係合されるV字状の溝部(図示せず。)が設けられている。
【0031】
各磁気記録媒体Wは、これら一対の支持プレート51a,51bに支持されることによって、縦置き状態(磁気記録媒体Wの主面が鉛直方向と平行となる状態)でホルダ50に保持されている。そして、このホルダ50は、各磁気記録媒体Wの主面が洗浄液Lの流れる方向と平行となるようにして、洗浄槽2の底面上に配置されている。なお、図1では、磁気記録媒体Wを1列に5枚並べた状態を図示しているが、実際の例では、直径3.5インチの磁気記録媒体Wを約5mm間隔で1列に50枚程度並べてホルダ50に保持している。
【0032】
洗浄槽2は、長方形を為す底壁2aと、底壁2aの周囲から立ち上がる4つの側壁2b,2c,2d,2eと、底壁2aと対向する上面の開口部2fとを有して、全体が略直方体状に形成されると共に、その内側に上記ホルダ50が浸漬される略直方体状の浸漬空間Sを形成している。
【0033】
また、洗浄槽2の上流側の側壁2bには、洗浄液Lを供給する複数の供給口3が設けられている。これら複数の供給口3は、側壁2bの幅方向と高さ方向とに所定の間隔で並んで配置されている。また、各供給口3には、流量調整バルブ(流量調整手段)4が接続されており、この流量調整バルブ4の開度を調整することによって、各供給口3から供給される洗浄液Lの流量を個別に調整することが可能となっている。
【0034】
また、洗浄槽2の下流側の側壁2dには、洗浄液Lを排出する複数の排出口5が設けられている。これら複数の排出口5は、側壁2dの幅方向と高さ方向とに所定の間隔で並んで配置されている。また、各排出口5には、流量調整バルブ(流量調整手段)6が接続されており、この流量調整バルブ6の開度を調整することによって、各供給口3から排出される洗浄液Lの流量を個別に調整することが可能となっている。
【0035】
なお、本実施形態において、上記供給口3と上記排出口5とは、それぞれ側壁2b,2dの相対向する位置に、幅方向に5cm間隔で7列、高さ方向に5cm間隔で6列並んで計42つ配置されているが、これら供給口3及び排出口5の配置や数、間隔等については、適宜変更して実施することが可能である。
【0036】
また、洗浄槽2の底壁2aには、磁気記録媒体Wに対する洗浄能力を高めるため、浸漬空間S2内の洗浄液Lに超音波振動を印加する超音波発振器(超音波発生手段)7が設けられている。この超音波発振器7は、洗浄槽2の底壁2a側から洗浄槽2の洗浄液Lに対して、例えば200kHzで500W程度の超音波振動を印加する。
【0037】
さらに、この流水式洗浄装置1には、洗浄槽2内を流れる洗浄液Lを循環的に再使用するための機構として、排出口5から排出された洗浄液Lを吸引し、再び供給口3に圧送するポンプ8と、このポンプ8により圧送された洗浄液Lを浄化するフィルタ9とが設けられている。
【0038】
本発明の媒体洗浄工程では、以上のような構造を有する流水式洗浄装置1を用いて、ホルダ50に保持された複数の磁気記録媒体Wに対する洗浄を行う。具体的に、この流水式洗浄装置1を用いた媒体洗浄工程では、洗浄槽2の浸漬空間S内で洗浄液Lを層流の状態で横方向(水平方向)に流し、洗浄液Lに超音波振動を印加しながら、この浸漬空間S内の洗浄液Lに複数の磁気記録媒体Wを保持したホルダ50を浸漬させる。
【0039】
このとき、洗浄槽2内では、ホルダ50に保持された各磁気記録媒体Wの主面が洗浄液Lの流れる方向と平行とされて、これら各磁気記録媒体Wの間を層流状態の洗浄液Lが流れることになる。これにより、各磁気記録媒体Wの表面が洗浄液Lにより洗浄されて、これら各磁気記録媒体Wの表面に付着した塵埃や異物などの他に、上述した磁気記録媒体Wの表面に僅かに残留し、バーニッシュ処理や、ワイピング、スピン洗浄、従来の湿式洗浄等では除去不可能なレベルの量の汚染物質、特に、上述した保護層となる炭素膜の表面に付着した有機重合膜を効率よく除去することが可能である。
【0040】
また、この流水式洗浄装置1では、洗浄槽2内で洗浄液Lを横方向に流しながら、磁気記録媒体Wの洗浄を行うため、上述した汚染物質等を含む洗浄液を洗浄槽2の外へと速やかに排出することが可能である。これにより、磁気記録媒体Wの表面に汚染物質等が再付着することを防止することが可能であり、その結果、従来の方法では得られない清浄な表面を有する磁気記録媒体Wを得ることが可能である。
【0041】
ところで、洗浄槽2の底面側から超音波振動を印加した場合には、洗浄槽2内の洗浄液Lの液面が盛り上がり、これによって洗浄槽2内を流れる洗浄液Lが乱流となり、磁気記録媒体Wに対する洗浄能力が低下することが本発明者らの解析によって明らかになった。
【0042】
具体的に、本発明者らの解析によると、超音波振動を印加しない状態で洗浄槽2内に洗浄液Lを層流の状態で流し、その後、超音波振動を印加した場合、洗浄液Lの流れは、図3中の矢印の方向で示すように、洗浄槽2の底面側から超音波振動を印加することによって、洗浄槽2内の洗浄液Lの液面が盛り上がり、この盛り上がった洗浄液Lが四方に分散するものの、この洗浄液Lの流れに層流が加わるため、洗浄槽2内に複雑な流れ(乱流)が生じることになる。さらに、図4に示すように、洗浄槽2内に磁気記録媒体Wを浸漬した場合には、この洗浄槽2内を流れる洗浄液Lが磁気記録媒体Wに乱されて乱流となり、この乱流によって磁気記録媒体Wに対する洗浄能力が低下することになる。
【0043】
なお、図3は、洗浄槽2を側面側から見たときに、洗浄槽2内に超音波振動を加えた場合の洗浄液Lの流れを表したものである。一方、図4は、洗浄槽2を上面側から見たときに、洗浄槽2内を流れる洗浄液Lのうち、上層の流れを破線で表し、中層の流れを一点鎖線で表し、下層の流れを二点鎖線で表したものである。
【0044】
そこで、本発明では、図1及び図2に示すように、上述した流量調整バルブ4,6を制御しながら、何れかの供給口3及び/又は排出口5を流れる洗浄液Lの流量を調整し、洗浄液Lの流れを乱れのない一様な流れ(層流)となるように、洗浄槽2内における洗浄液Lの流れを調整する。
【0045】
これにより、洗浄槽2内の洗浄液Lを乱流の状態から層流の状態で流すことが可能である。特に、本発明では、洗浄液Lの供給口3からの供給に加え、洗浄液Lの排出口5からの排出も、流量調整バルブ4,6によって流量の制御を行うため、洗浄槽2内の層流の形成をより高い制御性で行うことが可能であり、層流が超音波振動や被洗浄物の配置によって乱されることを防ぐことが可能である。
【0046】
また、本発明では、上記流水式洗浄装置1のように、洗浄槽2内に流れる洗浄液Lを循環的に再使用することが好ましい。これより、洗浄槽2に供給される洗浄液Lと、洗浄槽2から排出される洗浄液Lとを量的にバランスさせることが容易となり、洗浄槽2内を流れる洗浄液Lを層流の状態でより安定して流すことが可能となる。
【0047】
なお、上記流水式洗浄装置1の場合、洗浄槽2の開口部2fからの洗浄液Lの蒸発等により、洗浄液Lが僅かに減少するため、その減少した量の洗浄液Lを適宜補充することが好ましい。また、上記流水式洗浄装置1では、洗浄液Lと空気との接触によって洗浄液L中に気泡が混入することを防ぐため、洗浄槽2の開口部2fに蓋を設けることも可能である。
【0048】
また、本発明では、上述したホルダ50に互いに平行な状態で複数並んで保持された磁気記録媒体Wに対して洗浄を行う際に、このホルダ50に保持された複数の磁気記録媒体Wの間隔を、その間を流れる洗浄液Lの流水抵抗が増加する範囲まで密とすることが好ましい。
【0049】
例えば、直径3.5インチ、板厚1.27mmの円盤状の磁気記録媒体Wを洗浄する場合には、基板面の間隔が10mm以下となるあたりから、洗浄液の流水抵抗が顕著に増加し始める。
【0050】
一方、従来の流水式洗浄方法では、洗浄槽2内を流れる洗浄液の層流を安定化させるため、洗浄槽2内に配置する被洗浄物を、各々の間隔を空けて疎に配置し、また洗浄槽内に配置された被洗浄物の周辺に空間を設けることが一般的であった。これは、洗浄槽内での被洗浄物の有無による水流抵抗分布を減らし、洗浄槽内を流れる洗浄液Lの層流を安定化させるためである。
【0051】
これに対して、本発明の流水式洗浄方法では、基板(被洗浄物)Wを洗浄槽2内に密に配置することによって、洗浄槽2内を流れる洗浄液Lの水流抵抗を高め、且つ、その状態で供給口3からの洗浄液Lの供給と、排出口5からの強制的な洗浄液Lの排出によって、強力で均一な層流を形成する。これにより、洗浄槽2内を流れる洗浄液Lの層流を安定化させると共に、この洗浄槽2による洗浄能力を高めることが可能である。
【0052】
また、本発明では、洗浄槽2の内面と磁気記録媒体Wとの最短距離を当該磁気記録媒体Wの直径の1倍以下とすることが好ましい。特に、本発明では、被洗浄物として、円盤状を為す磁気記録媒体Wを洗浄する場合に、この磁気記録媒体Wの主面が洗浄液Lの流れる方向と平行となるように磁気記録媒体Wを洗浄槽2内に配置し、この洗浄槽2の内面と磁気記録媒体Wとの最短距離を当該磁気記録媒体Wの直径の1倍以下とすることで、磁気記録媒体Wを高精度に効率良く洗浄することが可能となる。
【0053】
なお、本発明の媒体洗浄工程で用いられる流水式洗浄装置は、上記流水式洗浄装置1の構成に必ずしも限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0054】
例えば、上記ホルダ50は、一対の支持プレート51a,51bにより各磁気記録媒体Wの外周部を2点で支持する構成となっているが、このような構成に限らず、各磁気記録媒体Wを支持する外周部の位置や点数などについては、適宜変更して実施することが可能であり、例えば各磁気記録媒体Wの外周部を3点で支持したり、4点で支持したりすることが可能である。
【0055】
また、各磁気記録媒体Wの外周部を支持する部材についても、上記支持プレート51a,51bのようなものに限定されるものではなく、洗浄槽2内を流れる洗浄液Lの流れを乱さないものであれば、その形状等については適宜変更して実施することが可能である。
【0056】
本発明の媒体洗浄工程では、上記磁気記録媒体Wの洗浄にアルカリ洗浄剤を含む洗浄液Lを用いることが好ましい。これは、磁気記録媒体Wの表面にわずかに残留し、バーニッシュ処理や、ワイピング、スピン洗浄等では除去不能なレベルの量の汚染物質、特に、上述した保護層となる炭素膜の表面に付着した有機重合膜の除去を目的とし、このアルカリ洗浄剤を含む洗浄液Lを用いることによりFeやCo等を含む磁性層の腐食を低減し、また高い洗浄力でこれらの汚染物質を除去することができるからである。
【0057】
アルカリ洗浄剤は、液性がアルカリ性を示す洗浄剤のことであり、一般的には、ポリオキシエチレンアルキルエーテル等の界面活性剤、NaOH又はKOH等のアルカリ成分、グリコールエーテル等の溶剤、増粘剤等を含む。本発明では、アルカリ洗浄剤の有効成分として、例えば、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、アンモニア、テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイドなどを含むものを用いることができる。なお、本発明者らの検討によると、NaOHとKOHとの何れも、ほぼ等々の洗浄効果が得られた。
【0058】
磁気記録媒体には、上述したFeやCo等の腐食しやすい元素が含まれているため、磁気記録媒体の洗浄はフッ素化合物等を用いた非水系洗浄液による洗浄に限られていた。本発明では、アルカリ洗浄剤を含む洗浄液を用いるため、この洗浄液による磁気記録媒体の腐食が発生しにくく、磁気記録媒体の表面に付着した汚染物質を高い洗浄力で除去することが可能となる。特に、洗浄液中におけるアルカリ洗浄剤の濃度を0.0001質量%(1ppm)〜0.1質量%(1000ppm)の範囲とすることによって、その効果を高めることが可能である。
【0059】
また、本発明の媒体洗浄工程は、多段工程としてもよい。具体的には、アルカリ洗浄剤を含む洗浄液を用いて磁気記録媒体の洗浄を行った後に、この磁気記録媒体に対して純水を用いたスピン洗浄、又は極短時間の浸漬洗浄を行うことが好ましい。本発明の媒体洗浄工程では、洗浄液にアルカリ洗浄剤を加えることによって、その洗浄力を高めることができる。しかしながら、磁気記録媒体の表面に、これらのアルカリ洗浄剤が残留すると、これが磁気記録媒体やマスター情報担体の汚染原因となる。
【0060】
これを防ぐため、本発明では、アルカリ洗浄剤を含む洗浄液を用いて磁気記録媒体の洗浄を行った後に、この磁気記録媒体に対して純水を用いたスピン洗浄、又は極短時間の浸漬洗浄を行うことで、磁気記録媒体の表面にアルカリを残留させることなく、この磁気記録媒体に対する洗浄力を高めることが可能である。そして、洗浄後は、スピン乾燥法やドライエア乾燥法等を用いて磁気記録媒体を速やかに乾燥させることが好ましい。
【0061】
以上のようにして、本発明の媒体洗浄工程では、磁気記録媒体Wの表面に付着した塵埃や異物などの他に、上述した磁気記録媒体Wの表面に僅かに残留し、バーニッシュ処理や、ワイピング、スピン洗浄、従来の湿式洗浄等では除去不可能なレベルの量の汚染物質、特に、保護層となる炭素膜の表面に付着した有機重合膜を効率よく除去することが可能である。また、洗浄後に、これらが磁気記録媒体Wの表面に再付着することを防止した高度な媒体洗浄を行うことが可能である。その結果、従来の方法では得られない清浄な表面を有する磁気記録媒体Wを得ることが可能である。
【0062】
したがって、本発明によれば、上記保護層となる炭素膜の表面から有機重合膜を効率良く除去できるため、磁気記録媒体Wの保護層の表面に形成される潤滑剤膜の膜厚分布のバラツキを無くして、この潤滑剤膜の保護層に対する被覆率を飛躍的に高めることが可能である。
【0063】
(保護層形成工程)
次に、上記磁気記録媒体Wの保護層となる炭素膜の形成方法及び形成装置について説明する。
図5は、炭素膜の形成装置を模式的に示す概略構成図である。
この炭素膜の形成装置は、図5に示すように、炭素を含む原料の気体(以下、原料気体という。)Gを高周波プラズマにより励起分解し、これによって生じた炭素イオンを用いて、上記磁気記録媒体Wとなる円盤状の基板Dの両表面に炭素膜を形成する成膜装置である。
【0064】
具体的に、この炭素膜の形成装置は、図5に示すように、減圧可能な成膜室101と、成膜室101内で基板Dを保持するホルダ102と、成膜室101内に原料気体Gを導入する導入管103と、成膜室101内に配置された高周波電極104と、高周波電極104に高周波を印加する高周波電源105と、高周波電極104内において原料気体Gをイオン化するプラズマ空間106と、高周波電極104と基板Dとの間に電位差を与えて、プラズマ空間106で発生した炭素イオンを基板D側へと加速させる加速用電源107と、プラズマ空間106に連続して炭素イオンが加速される加速空間108と、プラズマ空間106及び加速空間108に磁場を印加する永久磁石109とを備えて概略構成されている。
【0065】
なお、本装置は、実際は成膜室101内の基板Dを挟んだ両側に炭素膜を形成するための構成を備えているが、図5においては、基板Dの片側の面のみに炭素膜を形成する構成を図示するものとする。
【0066】
成膜室101は、チャンバ壁101aによって気密に構成されると共に、真空ポンプ(図示せず。)に接続された排気管110を通じて内部を減圧排気することが可能となっている。高周波電源105は、高周波電極104に接続された電源であり、高周波電極104内にプラズマ空間106を形成し、このプラズマ空間106内で原料気体Gを高周波プラズマにより励起分解し、イオン化する。なお、高周波電源105については、日本国内では一般的に13.56MHzの電源が使用されるが、この周波数に限定されず3MHz〜30MHzの範囲で電源が使用可能である。
【0067】
以上のような構造を有する炭素膜の形成装置を用いて、基板Dの表面に炭素膜を形成する際は、排気管110を通じて減圧された成膜室101の内部に、導入管103を通じて原料気体Gを導入する。この原料気体Gは、高周波電源105からの電力の供給により高周波電極104に発生した高周波プラズマによって励起分解されてイオン化した気体(炭素イオン)となる。
【0068】
そして、このプラズマ中で励起された炭素イオンは、加速用電源107により高周波電極104と基板Dとの間に加速電位が加えられている場合は、加速空間108で加速される、すなわち加速用電源107によりマイナス電位とされた基板Dに向かって加速しながら、この基板Dの表面に衝突することになる。
【0069】
一方、加速用電源107をゼロ電位とした場合、すなわち加速電位が加えられていない場合は、高周波プラズマによって励起分解された気体は加速空間108でほとんど加速されずに基板Dに到達し、基板Dの表面に炭素膜として析出することになる。
【0070】
また、本実施形態では、成膜室101内においてプラズマ空間106と加速空間108とが直線状に連続した空間を形成していることが好ましい。一般に、加速空間108では、イオン以外の飛行粒子をフィルターリングするため、偏向電極を用いる場合が多い。しかしながら、偏向電極を用いた場合には、加速空間が曲線状となるため、加速されていないイオン又は低加速のイオンを高密度で形成することが困難となる。すなわち、偏向電極を用いた場合は、イオンを通過させるのに、ある程度イオンを加速する必要が生じてしまう。
一方、本発明では、プラズマ空間106と加速空間108とが直線状に連続した空間を形成することによって、加速されていないイオン又は低加速のイオンを高密度で簡便に形成することが可能である。
【0071】
また、本実施形態では、基板Dのサイズにもよるが、外径3.5インチの円盤状の基板に炭素膜を成膜する場合、高周波電源105については、100W〜1kWの範囲内の電力を高周波電極104に供給することが好ましく、加速用電源107については、電圧を0〜500Vの範囲、電流を0〜1Aの範囲に設定することが好ましい。
【0072】
また、本実施形態では、チャンバ壁101aの周囲を囲むように配置された永久磁石109によって、プラズマ空間106及び加速空間108(以下、励起空間という。)に磁場を印加する。
【0073】
本実施形態では、炭素イオンを基板Dの表面に加速照射又は単に照射するときに、外部から磁場を印加することによって、この基板Dの表面に照射される炭素イオンのイオン密度を高めることができる。このように、励起空間内のイオン密度が高められると、この励起空間内の励起力が高められ、より高いエネルギー状態となった炭素イオンを基板Dの表面に照射することができ、その結果、基板Dの表面に硬度が高く緻密性の高い炭素膜を成膜することが可能となる。
【0074】
本実施形態では、上述したプラズマ空間106及び加速空間108の周囲を囲むように設けられた永久磁石109によって成膜室101内の励起空間に磁場を印加することができるが、この永久磁石109が印加する磁場とその磁力線の方向については、例えば図6(a)〜(c)に示すような構成を採用することができる。
【0075】
すなわち、図6(a)に示す構成(図5に示す場合と同様な構成)では、成膜室101のチャンバ壁101aの周囲に、S極が基板D側、N極が高周波電極104側となるように永久磁石109が配置されている。この構成の場合、永久磁石109によって生ずる磁力線Mは、成膜室101の中央付近においては、イオンビームBの加速方向とほぼ平行となる。成膜室101内の磁力線Mの方向をこのような方向に設定することにより、励起空間における炭素イオンを、その磁気モーメントにより成膜室101内の中央付近に集中させ、この励起空間内のイオン密度を効率良く高めることが可能である。
【0076】
一方、図6(b)に示す構成では、成膜室101のチャンバ壁101aの周囲に、S極が高周波電極104側、N極が基板D側となるように永久磁石109が配置されている。
一方、図6(c)に示す構成では、成膜室101のチャンバ壁101aの周囲に、N極とS極との向きを内周側と外周側とで交互に入れ替えた複数の永久磁石109が配置されている。何れの場合も、永久磁石109によって生ずる磁力線Mは、成膜室101の中央付近においては、イオンビームBの加速方向とほぼ平行となり、これにより励起空間内のイオン密度を効率良く高めることが可能である。
【0077】
また、本実施形態では、上記原料気体Gとして、例えば炭化水素を含むものを用いることができる。炭化水素としては、低級飽和炭化水素、低級不飽和炭化水素、低級環式炭化水素のうち何れか1種又は2種以上の低炭素炭化水素を用いることが好ましい。なお、ここでいう低級とは、炭素数が1〜10の場合を指す。
【0078】
このうち、低級飽和炭化水素としては、メタン、エタン、プロパン、ブタン、オクタン等を用いることができる。一方、低級不飽和炭化水素としては、イソプレン、エチレン、プロピレン、ブチレン、ブタジエン等を用いることができる。一方、低級環式炭化水素としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、スチレン、ナフタレン、シクロヘキサン、シクロヘキサジエン等を用いることができる。
【0079】
本実施形態において、低級炭化水素を用いることが好ましいとしたのは、炭化水素の炭素数が上記範囲を越えると、導入管103から気体として供給することが困難となることに加え、放電時の炭化水素の分解が進行しににくくなり、炭素膜が強度に劣る高分子成分を多く含むものとなるためである。
【0080】
さらに、本実施形態では、成膜室101内でのプラズマの発生を誘発するため、上記原料気体Gに、不活性ガスや水素ガスなどを含有させた混合ガス等を用いることが好ましい。この混合ガスにおける炭化水素と不活性ガス等との混合割合は、炭化水素:不活性ガスを2:1〜1:100(体積比)の範囲に設定することが好ましく、これにより、高硬度の耐久性の高い炭素膜を形成することができる。
【0081】
なお、上記原料気体Gの励起手段としては、上記高周波プラズマの他にも、例えば、DCアークプラズマ、グロー放電、マイクロ波プラズマ、通電加熱したフィラメントによって形成した熱プラズマなどを用いることが可能である。
【0082】
以上のようにして、本発明の保護層形成工程では、密着性が高く高硬度で緻密な炭素膜を形成することが可能であり、この炭素膜を上記磁気記録媒体Wの保護層に用いた場合には、炭素膜の膜厚を薄くすることが可能となるため、磁気記録媒体Wと磁気ヘッドとの距離を狭く設定することが可能となり、その結果、磁気記録媒体Wの記録密度を高めると共に、磁気記録媒体Wの耐コロージョン性を高めることが可能である。
【0083】
(磁気記録媒体)
次に、本発明を適用して製造される磁気記録媒体Wの一例を図7に示す。
この磁気記録媒体Wは、図7に示すように、非磁性基板31上に、スペーサ層32bにより反強磁性結合させた2層の軟磁性層32aを含む軟磁性下地層32と、配向制御層33と、垂直磁性層34と、保護層35と、潤滑剤膜36とを順次積層した構造を有している。
【0084】
また、垂直磁性層34は、下層の磁性層34aと、中層の磁性層34bと、上層の磁性層34cとの3層を含み、磁性層34aと磁性層34bの間で非磁性層37aを、磁性層34bと磁性層34cの間で非磁性層37bを挟み込むことで、これら磁性層34a〜34cと非磁性層37a,37bとが交互に積層された構造を有している。
【0085】
非磁性基板31としては、例えば、アルミニウムやアルミニウム合金などの金属材料からなる金属基板を用いてもよく、例えば、ガラスや、セラミック、シリコン、シリコンカーバイド、カーボンなどの非金属材料からなる非金属基板を用いてもよい。また、これら金属基板や非金属基板の表面に、例えばメッキ法やスパッタ法などを用いて、NiP層又はNiP合金層が形成されたものを用いることもできる。
【0086】
ガラス基板としては、例えば、アモルファスガラスや結晶化ガラスなどを用いることができ、アモルファスガラスとしては、例えば、汎用のソーダライムガラスや、アルミノシリケートガラスなどを用いることができる。また、結晶化ガラスとしては、例えば、リチウム系結晶化ガラスなどを用いることができる。セラミック基板としては、例えば、汎用の酸化アルミニウムや、窒化アルミニウム、窒化珪素などを主成分とする焼結体、又はこれらの繊維強化物などを用いることができる。
【0087】
非磁性基板31は、その平均表面粗さ(Ra)が1nm(10Å)以下、好ましくは0.5nm以下であるとことが、磁気ヘッドを低浮上させた高記録密度記録に適している点から好ましい。また、表面の微小うねり(Wa)が0.3nm以下(より好ましくは0.25nm以下。)であることが、磁気ヘッドを低浮上させた高記録密度記録に適している点から好ましい。また、端面のチャンファー部の面取り部と、側面部との少なくとも一方の表面平均粗さ(Ra)が10nm以下(より好ましくは9.5nm以下。)のものを用いることが、磁気ヘッドの飛行安定性にとって好ましい。なお、微少うねり(Wa)は、例えば、表面荒粗さ測定装置P−12(KLM−Tencor社製)を用い、測定範囲80μmでの表面平均粗さとして測定することができる。
【0088】
また、非磁性基板31は、Co又はFeが主成分となる軟磁性下地層32と接することで、表面の吸着ガスや、水分の影響、基板成分の拡散などにより、腐食が進行する可能性がある。この場合、非磁性基板31と軟磁性下地層32の間に密着層を設けることが好ましく、これにより、これらを抑制することが可能となる。なお、密着層の材料としては、例えば、Cr、Cr合金、Ti、Ti合金など適宜選択することが可能である。また、密着層の厚みは2nm(20Å)以上であることが好ましい。
【0089】
軟磁性層32a,32cとしては、Fe:Coを40:60〜70:30(原子比)の範囲で含む材料を用いることが好ましい。また、その透磁率や耐食性を高めるために、Ta、Nb、Zr、Crの中から選ばれる何れか1種を1〜8原子%の範囲で含有させることが好ましい。スペーサ層32bとしては、Ru、Re、Cu等を用いることができるが、この中で特にRuを用いることが好ましい。
【0090】
配向制御層33は、垂直磁性層34の結晶粒を微細化して、記録再生特性を改善するためのものである。この配向制御層33としては、特に限定されるものではないが、hcp構造、fcc構造、アモルファス構造を有するものを用いることが好ましい。特に、Ru系合金、Ni系合金、Co系合金、Pt系合金、Cu系合金を用いることが好ましい。また、これらの合金を多層化してもよい。例えば、基板側からNi系合金とRu系合金との多層構造、Co系合金とRu系合金との多層構造、Pt系合金とRu系合金との多層構造を採用することが好ましい。
【0091】
ここで、配向制御層33直上の垂直磁性層34の初期部には、結晶成長の乱れが生じやすく、これがノイズの原因となる。この場合、配向制御層33と垂直磁性層34の間に非磁性下地層38を設けることが好ましい。この初期部の乱れた部分を非磁性下地層38で置き換えることで、ノイズの発生を抑制することができる。
【0092】
非磁性下地層38としては、Coを主成分とし、更に酸化物を含んだ材料からなるものを用いることが好ましい。Crの含有量は、25原子%以上、50原子%以下とすることが好ましい。酸化物としては、例えばCr、Si、Ta、Al、Ti、Mg、Coなどの酸化物を用いることが好ましく、その中でも特に、TiO、Cr、SiOなどを好適に用いることができる。酸化物の含有量としては、磁性粒子を構成する、例えばCo、Cr、Pt等の合金を1つの化合物として算出したmol総量に対して、3mol%以上、18mol%以下とすることが好ましい。
【0093】
磁性層34a,34b,34cとしては、Coを主成分とし、更に酸化物を含んだ材料を用いることが好ましく、この酸化物としては、例えばCr、Si、Ta、Al、Ti、Mg、Coなどの酸化物を用いることが好ましい。その中でも特に、TiO、Cr、SiOなどを好適に用いることができる。また、下層の磁性層34aは、酸化物を2種類以上添加した複合酸化物からなることが好ましい。その中でも特に、Cr−SiO、Cr−TiO、Cr−SiO−TiOなどを好適に用いることができる。
【0094】
磁性層34a,34b,34cに適した材料としては、例えば、90(Co14Cr18Pt)−10(SiO){Cr含有量14原子%、Pt含有量18原子%、残部Coからなる磁性粒子を1つの化合物として算出したモル濃度が90mol%、SiOからなる酸化物組成が10mol%}、92(Co10Cr16Pt)−8(SiO)、94(Co8Cr14Pt4Nb)−6(Cr)の他、(CoCrPt)−(Ta)、(CoCrPt)−(Cr)−(TiO)、(CoCrPt)−(Cr)−(SiO)、(CoCrPt)−(Cr)−(SiO)−(TiO)、(CoCrPtMo)−(TiO)、(CoCrPtW)−(TiO)、(CoCrPtB)−(Al)、(CoCrPtTaNd)−(MgO)、(CoCrPtBCu)−(Y)、(CoCrPtRu)−(SiO)などを挙げることができる。
【0095】
また、本発明では、上記垂直磁性層34を4層以上の磁性層で構成することも可能である。例えば、上記磁性層34a,34bに加えて、グラニュラー構造の磁性層を3層で構成し、その上に、酸化物を含まない磁性層34cを設けた構成とし、また、酸化物を含まない磁性層34cを2層構造として、磁性層34a,34bの上に設けた構成とすることができる。
【0096】
また、本発明では、垂直磁性層34を構成する3層以上の磁性層間に非磁性層37を設けることが好ましい。非磁性層37を適度な厚みで設けることで、個々の膜の磁化反転が容易になり、磁性粒子全体の磁化反転の分散を小さくすることができる。その結果S/N比をより向上させることが可能である。
【0097】
保護層35は、垂直磁性層34の腐食を防ぐと共に、磁気ヘッドが磁気記録媒体Wに接触したときに媒体表面の損傷を防ぐためのものであり、上記図5に示す炭素膜の形成装置を用いて形成された高硬度で緻密な炭素膜からなる。この磁気記録媒体Wでは、炭素膜の膜厚を薄くすることが可能であり、具体的には炭素膜の膜厚を2nm程度以下とすることが可能である。
【0098】
潤滑剤膜36は、例えば、パーフルオロポリエーテル、フッ素化アルコール、フッ素化カルボン酸などのフッ素系潤滑剤や、炭化水素系潤滑剤、これらの混合物等からなる潤滑剤を保護層35上に塗布することにより形成することができる。また、潤滑剤膜36の膜厚は、通常は1〜4nm程度である。
【0099】
また、潤滑剤を生成する未精製潤滑剤としては、化学的に安定で、低摩擦で、低吸着性を有するものが好適に用いられる。具体的には、パーフルオロポリエーテル構造を有する化合物を含むパーフルオロポリエーテル系潤滑剤などのフッ素樹脂系潤滑剤を用いることが好ましい。
【0100】
パーフルオロポリエーテル系潤滑剤としては、1種類のパーフルオロポリエーテル系潤滑剤を用いてもよいし、環状トリフォスファゼン系潤滑剤とパーフルオロポリエーテル系潤滑剤を組み合わせた潤滑剤や、末端基にホスファゼン環を有するパーフルオロポリエーテル化合物と末端基に水酸基を有するパーフルオロポリエーテル化合物をと組み合わせた潤滑剤を用いてもよい。
【0101】
パーフルオロポリエーテル構造を有する化合物を含む潤滑剤としては、例えばSolvay Solexis社製のFomblin Z−DOL、Fomblin Z−TETRAOL(商品名)等が挙げられる。また、環状トリフォスファゼン系潤滑剤としては、DowChemical社製のX−1p(商品名)などが挙げられる。また、末端基にホスファゼン環を有するパーフルオロポリエーテル化合物としては、松村石油研究所(MORESCO)社製のMORESCO PHOSPHAROLA20H−2000(商品名)などが挙げられる。
【0102】
続いて、このようにして得られた潤滑剤を溶媒に溶解し、塗布方法に適した濃度を有する塗布溶液(液体潤滑剤)とする。ここで用いる溶媒としては、上述した潤滑剤を希釈する溶剤と同じく、フッ素系溶媒などが用いられる。
【0103】
その後、このようにして得られた塗布溶液を保護層上に塗布する。塗布工程には、従来公知のディッピング装置を用いて、ディッピング法(ディップコート法)により行う。ディップコート法は、塗布溶液(液体潤滑剤)をディッピング装置の浸漬槽に入れ、この浸漬槽に保護層までの各層が形成された非磁性基板を浸漬し、その後、浸漬槽から非磁性基板を所定の速度で引き上げて非磁性基板の保護層上の表面に均一な膜厚の潤滑剤膜を形成する方法である。
【0104】
上述したように、本発明を適用した磁気記録媒体の製造方法では、保護層35を形成した後に、保護層35を形成した後に、アルカリ洗浄剤を含む洗浄液Lを用いて磁気記録媒体Wを洗浄することで、上述した有機重合膜を効率良く除去できることから、保護層35の表面に形成される潤滑剤膜36の膜厚分布のバラツキを無くして、この潤滑剤膜36の保護層35に対する被覆率を飛躍的に高めることが可能である。
【0105】
上記潤滑剤膜36の塗布工程の後には、ワイピング工程、バーニッシュ工程が行われる。ここで、上記媒体洗浄工程は、ワイピング工程やバーニッシュ工程では除去できない磁気記録媒体Wの表面の汚染物質等を除去する目的で行われる。これらの汚染物質は、潤滑剤の塗布工程、ワイピング工程、バーニッシュ工程の後では洗浄除去することが困難となる場合がある。その理由は、推測ではあるが、汚染物質が潤滑剤膜36に覆われると、その撥水性により除去が困難となること、ワイピング工程、バーニッシュ工程の後では、汚染物質等が磁気記録媒体Wの表面に塗り込められ、除去しにくくなることが考えられる。
【0106】
また、上記媒体洗浄工程では、スパッタダスト等の粉状物をある程度除去することが可能であるが、ワイピング工程、バーニッシュ工程のように磁気記録媒体Wの表面をスクラブし、ワイプし、また削る効果が低いため、磁気記録媒体Wの表面に強固に付着した粉状物を除去することは困難である。したがって、上記媒体洗浄工程は、ワイピング工程、バーニッシュ工程と併用することが好ましい。
【0107】
ワイピング工程は、例えば、布製のワイピングテープ等を用いて行われる。すなわち、このワイピング工程は、ワイピングテープを磁気記録媒体Wの表面に対して相対走行させつつ、ゴム製のコンタクトロール又はパッドによってワイピングテープの表面を磁気記録媒体Wの表面に押し当てることにより、媒体表面を軽く拭く工程である。このような処理を行うことにより、磁気記録媒体Wの表面に付着したスパッタダスト等が除去されるので、磁気ヘッドの浮上量をより小さくすることが可能となる。
【0108】
また、ワイピング工程に用いられるワイピングテープとしては、超極細繊維よりなる布帛を帯状にスリットしたワイピングテープや、超極細繊維マルチフィラメント糸の織編物などが用いられる。
【0109】
また、このようなワイピングテープを用いる磁気記録媒体Wのワイピング方法は、具体的には、磁気記録媒体Wを回転させつつ、この磁気記録媒体Wの磁性層側の面に、ワイピングテープの表面(拭き面)を押し当てることにより行われる。これにより、磁気記録媒体Wの表面に付着したスパッタダスト等が拭き取られ、媒体表面が清浄化される。
【0110】
ワイピングテープは、供給リールと巻取リールとの間に掛け渡されており、供給リールから順次供給され、巻取リールに順次巻き取られる。そして、この供給リール側から巻取リール側に走行する途中で、ワイピングテープの拭き面と反対側の面(裏面)がゴム等のバッキングロール又はフェルト等により押圧され、その拭き面が磁気記録媒体Wの表面に押し当てられる。
【0111】
バーニッシュ工程は、磁気記録媒体Wの表面にある突起物を除去するため、研磨テープを用いてその表面を研磨する工程である。これにより、ハードディスクドライブでの磁気ヘッドの浮上量をより小さくし、また、上記磁気転写工程で磁気記録媒体Wとマスター情報担体Mとの間に隙間が生じて転写パターンが不鮮明となり、マスター情報担体Mが損傷を受けることを防止することができる。
【0112】
このようなバーニッシュ工程は、例えば、アルミナ砥粒を塗布した研磨テープ等を用いて行われる。すなわち、このバーニッシュ工程は、研磨テープをゴム製のコンタクトロールを磁気記録媒体Wの表面に押し当てることにより、媒体表面を軽く研磨する工程である。このような処理を行うことにより、磁気記録媒体Wの表面にある異常突起等が除去される。
【0113】
バーニッシュ工程に用いられる研磨テープ(バーニッシュテープ)としては、通常ポリエステル製のベースフィルム上に研磨材層を形成してなるテープを使用する。そして、この研磨材層が磁気記録媒体Wの表面と接触して摺動することによって、媒体表面に付着した微小な塵埃が除去されると共に、その媒体表面に存在する異常突起等が研磨・除去されて、その媒体表面が平滑化される。
【0114】
研磨材としては、平均粒子径が0.05μm〜50μm程度の、酸化クロム、α−アルミナ、炭化珪素、非磁性酸化鉄、ダイヤモンド、γ−アルミナ、α,γ−アルミナ、熔融アルミナ、コランダム、人造ダイヤモンド等が用いられる。
【0115】
また、このようなバーニッシュ加工は、磁気記録媒体Wを回転させつつ、この磁気記録媒体Wの表面に、研磨テープの砥粒面を押し当てることにより行われる。これにより、磁気記録媒体Wの表面にある突起が研磨除去され、その媒体表面が平滑化される。ここで、研磨テープは、供給リールと巻取リールとの間に掛け渡されており、供給リールから順次供給され、巻取リールに順次巻き取られる。そして、この供給リール側から巻取リール側に走行する途中で、研磨テープの砥粒面と反対側の面(裏面)がゴム等のバッキングロール又はフェルト等により押圧され、研磨テープの研磨面が磁気記録媒体Wの表面に押し当てられる。
【0116】
上記バーニッシュ工程の後は、得られた磁気記録媒体Wに対してグライド検査が行われる。グライド検査とは、磁気記録媒体Wの表面に突起物が無いかどうか検査する工程である。すなわち、磁気ヘッドを用いて磁気記録媒体Wに対して記録再生を行う際に、磁気記録媒体Wの表面に浮上量(媒体と磁気ヘッドの間隔)以上の高さの突起があると、磁気ヘッドが突起に衝突して磁気ヘッドが損傷したり、磁気記録媒体Wに欠陥が発生したりする原因となる。グライド検査では、そのような高い突起の有無を検査する。
【0117】
グライド検査をパスした磁気記録媒体Wには、通常ではサーティファイ検査が実施される。サーティファイ検査とは、通常のハードディスクドライブの記録再生と同様に、磁気記録媒体Wに対して磁気ヘッドで所定の信号を記録した後、その信号を再生し、得られた再生信号によって磁気記録媒体Wの記録不能を検出し、磁気記録媒体Wの電気特性や欠陥の有無など媒体の品質を確かめるものである。
【0118】
(磁気記録再生装置)
次に、本発明を適用して製造された磁気記録媒体Wを備える磁気記録再生装置(ハードディスクドライブ)の一例を図8に示す。
この磁気記録再生装置は、上記図7に示す本発明を適用して製造された磁気記録媒体70と、磁気記録媒体70を回転駆動させる媒体駆動部71と、磁気記録媒体70に情報を記録再生する磁気ヘッド72と、この磁気ヘッド72を磁気記録媒体70に対して相対運動させるヘッド駆動部73と、記録再生信号処理系74とを備えている。また、記録再生信号処理系74は、外部から入力されたデータを処理して記録信号を磁気ヘッド72に送り、磁気ヘッド72からの再生信号を処理してデータを外部に送ることが可能となっている。また、この磁気記録再生装置が備える磁気ヘッド72には、再生素子として巨大磁気抵抗効果(GMR)を利用したGMR素子などを有した、より高記録密度に適した磁気ヘッドを用いることができる。
【0119】
上記磁気記録再生装置によれば、上記磁気記録媒体70に、本発明を適用して製造された高記録密度、高速書き込み、優れた電磁変換特性の磁気記録媒体Wを採用することで、優れたハードディスクドライブとすることが可能である。
【実施例】
【0120】
以下、実施例により本発明の効果をより明らかなものとする。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することができる。
【0121】
(実施例)
実施例では、先ず、洗浄済みのガラス基板(コニカミノルタ社製、外形2.5インチ)をDCマグネトロンスパッタ装置(アネルバ社製C−3040)の成膜チャンバ内に収容して、到達真空度1×10−5Paとなるまで成膜チャンバ内を排気した後、このガラス基板の上に、60Cr−40Tiターゲットを用いて層厚10nmの密着層を成膜した。また、この密着層の上に、46Fe−46Co−5Zr−3B{Fe含有量46原子%、Co含有量46原子%、Zr含有量5原子%、B含有量3原子%}のターゲットを用いて100℃以下の基板温度で、層厚34nmの軟磁性層を成膜し、この上にRu層を層厚0.76nmで成膜した後、さらに46Fe−46Co−5Zr−3Bの軟磁性層を層厚34nm成膜して、これを軟磁性下地層とした。
【0122】
次に、上記軟磁性下地層の上に、Ni−6W{W含有量6原子%、残部Ni}ターゲット、Ruターゲットを用いて、それぞれ5nm、20nmの層厚で順に成膜し、これを配向制御層とした。
【0123】
次に、配向制御層の上に、多層構造の磁性層として、Co12Cr16Pt−16TiO(膜厚3nm)、Co5Cr22Pt−4SiO−3Cr−2TiO(膜厚3nm)、Ru47.5Co(膜厚0.5nm)、Co10Cr16Pt3Ru−4SiO−3Cr−2TiO(膜厚3nm)、Co6Cr16Pt6Ru−4SiO−3Cr−2TiO(膜厚3nm)、Ru47.5Co、Co11.5Cr13Pt10Ru−4SiO−3Cr−2TiO(膜厚3nm)、Co15Cr16Pt6B(膜厚3nm)を積層した。
【0124】
次に、上記図5に示す炭素膜の形成装置を用いて、高周波プラズマCVD法により層厚2.5nmの炭素保護層を成膜した。具体的に、上記成膜室101は、外径が180mm、長さが250mmの円筒形状を有する処理チャンバであり、SUS304からなるチャンバ壁によって構成されている。また、成膜室101内には、上記高周波電極104が配置され、この高周波電極104と上記ホルダ102に保持される基板Dとの距離は160mmである。さらに、チャンバ壁の周囲を囲むように、内径が185mm、長さが40mmの円筒状の上記永久磁石109を、その中心に高周波電極104が位置すると共に、S極が基板側となり、N極がカソード電極側となるように配置した。そして、この永久磁石109のトータル磁力は50G(5mT)である。
【0125】
そして、上記原料気体Gとして、トルエンをガス化したものを用い、上記導入管103から成膜室10に導入される原料気体Gの流量を2.9SCCM、反応圧力を0.3Pa、高周波電極104に印加する電力を1kW(13.56MHz)、高周波電極104とアノード電極との間の電圧を75V、電流を1650mA、イオンの加速電圧を200V、電流値を60mA、成膜時間を8秒間とする成膜条件で、上記磁性層上に膜厚3.5nmの炭素膜からなる保護層を形成した。
【0126】
なお、成膜後(上記高周波電源105を切った後)は、成膜室101から原料気体Gを排気したものの、成膜室101内の圧力が0.01Paに至るまでの時間は約2秒であった。
【0127】
次に、以上の方法で作製した磁気記録媒体を、上記図1及び図2に示す流水式洗浄装置1を用いて洗浄した。具体的には、長さ40cm、幅40cm、深さ35cmのSUS304製の洗浄槽2を用い、この洗浄槽2の側壁2b,2dには、それぞれ直径15mmの供給口3及び排出口5が相対向しながら、幅方向に5cm間隔で7列、高さ方向に5cm間隔で6列、計42(=7×6)つが格子状に並んで配置されて、各々に流量調整バルブ4,6が接続されている。また、洗浄槽2の底面の外側には、周波数950kHz、出力600Wの超音波発振器7が配置されている。フィルタ9には、0.5ミクロンフィルタ及びイオンフィルタを各1段で使用し、洗浄槽2内を流れる洗浄液Lを循環的に再使用した。
【0128】
また、磁気記録媒体Wは、10mm間隔で主面と直交する方向に1列当たり39枚として5列(計395枚)並べてホルダ50に保持した後、このホルダ50を各磁気記録媒体Wの主面が洗浄液Lの流れる方向と平行となるように洗浄槽2の底面上に配置した。そして、洗浄槽2内の洗浄液Lにホルダ50を浸漬させた状態で、洗浄液Lを層流の状態で横方向に流し、この洗浄液Lに超音波振動を印加しながら洗浄を行った。
【0129】
また、洗浄液Lの水温は23±3℃、洗浄槽2内を層流の状態で流れる洗浄液Lの平均流速(被洗浄物を浸漬し、超音波振動を印加した状態での流速)が3m/分となるように、各供給口3及び排出口5に接続された流量調整バルブ4,6の開度を調整しながら、各供給口3及び排出口5を流れる洗浄液Lの流量を調整した。
【0130】
具体的には、表1に示すように、各供給口3及び排出口5に接続された流量調整バルブ4,6の開度を調整した。なお、表1は、上流側及び下流側の側壁2b,2dをそれぞれ洗浄槽2の内側から見たときに、幅方向及び高さ方向に並ぶ42つの供給口3及び排出口5側のバルブ開度(%)を示したものである。
【0131】
【表1】

【0132】
実施例の洗浄工程は、2段の洗浄槽2を用い、1段目の洗浄槽2の洗浄液には、超純水を用いて調整したKOH5ppmを有効成分とするアルカリ洗剤を用いた。アルカリ洗剤には、他に、ポリオキシエチレンアルキルエーテルを0.01質量%、グリコールエーテルを0.01質量%添加した。また、2段目の洗浄槽2の洗浄液には、超純水のみを用いた。この2段の洗浄槽2に順に磁気記録媒体を浸漬し、1段目の洗浄時間を30秒間、2段目の洗浄時間を5秒間とし、2段目の洗浄後は磁気記録媒体を速やかにドライエアで乾燥させた。
【0133】
次に、この磁気記録媒体の表面に、ディッピング法によりパーフルオロポリエーテルからなる潤滑剤膜を厚さ15オングストロームで形成した。
【0134】
次に、潤滑剤を塗布した磁気記録媒体に対してワイピング処理を施した。ワイピングテープには、ナイロン樹脂とポリエステル樹脂による線径2μmの剥離型複合繊維を用いた。ワイピング処理は、磁気記録媒体の回転数を300rpm、ワイピングテープの送り速度は10mm/秒、ワイピングテープを磁気記録媒体に押し当てる際の押圧力は98mN、処理時間は5秒間とした。ワイピング処理に際してワイピングテープにパーフルオロポリエーテルを噴霧し、テープ表面に約0.01μmの潤滑剤層を形成した。
【0135】
次に、ワイピング処理を施した磁気記録媒体に対してバーニッシュ加工を施した。バーニッシュテープには、ポリエチレンテレフタレート製のフィルム上に、平均粒径0.5μmの結晶成長タイプのアルミナ粒子をエポキシ樹脂で固着したものを用いた。バーニッシュ加工は、磁気記録媒体の回転数は300rpm、研磨テープの送り速度は10mm/秒、研磨テープを磁気ディスクに押し当てる際の押圧力は98mN、処理時間は5秒間とした。
【0136】
(比較例)
比較例では、上記洗浄工程を行わなかった以外は、実施例と同じ条件で磁気記録媒体を作製した。
【0137】
(磁気記録媒体の評価)
以上のように作製された実施例及び比較例の磁気記録媒体の潤滑剤膜の膜厚分布を測定した。この膜厚分布の測定には、光学式表面検査装置、(米国)KLA−Tencor社製、Candela 6100(商品名)を使用した。
【0138】
その結果、比較例の磁気記録媒体では、基板の外端部分の約5mmの範囲とその内側の部分で潤滑剤膜の塗布ムラによる縞模様が観察された。これに対して、実施例の磁気記録媒体では、潤滑剤膜の塗布ムラによる縞模様は一切観察されなかった。なお、比較例1で観察された縞模様による潤滑剤膜の膜厚変動は±2Åであった。
【符号の説明】
【0139】
1…流水式洗浄装置 2…洗浄槽 3…供給口 4…流量調整バルブ(流量調整手段) 5…排出口 6…流量調整バルブ(流量調整手段) 7…超音波発振器(振動発生手段) 8…ポンプ 9…フィルタ W…磁気記録媒体
31…非磁性基板 32…軟磁性下地層 32a…軟磁性層 32b…スペーサ層 33…配向制御層 34…垂直磁性層 34a,34b,34c…磁性層 35…保護層 36…潤滑剤膜 37a,37b…非磁性層 38…非磁性下地層
70…磁気記録媒体 71…媒体駆動部 72…磁気ヘッド 73…ヘッド駆動部 74…記録再生信号処理系
101…成膜室 102…ホルダ 103…導入管 104…高周波電極 105…高周波電源 106…プラズマ空間 107…加速用電源 108…加速空間 109…永久磁石 110…排気管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非磁性基板の上に少なくとも磁性層を形成した後に、減圧した成膜室内に炭素を含む原料の気体を導入し、この気体をプラズマによりイオン化し、このイオンを用いて前記非磁性基板の表面に炭素膜からなる保護層を形成した磁気記録媒体の製造方法であって、
前記保護層を形成した後に、アルカリ洗浄剤を含む洗浄液を用いて磁気記録媒体を洗浄する工程を含むことを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
【請求項2】
前記磁気記録媒体の洗浄を洗浄槽内の洗浄液に浸漬して行うことを特徴とする請求項1に記載磁気記録媒体の製造方法。
【請求項3】
前記洗浄槽内で洗浄液を横方向に流しながら、前記磁気記録媒体の洗浄を行うことを特徴とする請求項2に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項4】
前記洗浄槽に洗浄液を供給する複数の供給口と、前記洗浄槽から洗浄液を排出する複数の排出口とのうち、何れかの供給口及び/又は排出口を流れる洗浄液の流量を調整することによって、前記洗浄槽内の洗浄液が層流の状態で流れるようにすることを特徴とする請求項3に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項5】
前記アルカリ洗浄剤が、有効成分として、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、アンモニア、テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイドのうち少なくとも1種以上を含むことを特徴とする請求項1〜4の何れか一項に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項6】
前記洗浄液中におけるアルカリ洗浄剤の濃度を0.0001質量%〜0.1質量%の範囲とすることを特徴とする請求項5に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項7】
前記アルカリ洗浄剤を含む洗浄液を用いて磁気記録媒体の洗浄を行った後に、この磁気記録媒体に対して純水を用いたスピン洗浄を行うことを特徴とする請求項2〜6の何れか一項に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項8】
前記洗浄槽内の洗浄液に超音波振動を印加することを特徴とする請求項1〜7の何れか一項に記載の磁気記録媒体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−222063(P2011−222063A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−87643(P2010−87643)
【出願日】平成22年4月6日(2010.4.6)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】