説明

磁気記録媒体及びその製造方法

【課題】分散性の向上した微細な非磁性無機粉末を用いて下層非磁性層の表面平滑性を向上させ、上層磁性層の表面平滑性及び電磁変換特性に優れる磁気記録媒体、及びその製造方法を提供する。
【解決手段】非磁性支持体と、非磁性支持体の一方の面上の下層非磁性層と、下層非磁性層上の上層磁性層とを少なくとも有する磁気記録媒体であって、
前記上層磁性層は、強磁性粉末、及び結合剤樹脂材料を少なくとも含み、
前記下層非磁性層は、カーボンブラック、酸化鉄、及び結合剤樹脂材料を少なくとも含み、前記酸化鉄は、平均長軸長が30〜100nm、BET法による比表面積が80〜120m2 /gであり、単位比表面積当たり0.13〜0.25mg/m2 の水分を含んでいるものである、磁気記録媒体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録媒体及びその製造方法に関し、より詳しくは、磁性層の表面平滑性及び電磁変換特性に優れる磁気記録媒体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、記録データ量の増大に対応すべく、磁気記録媒体の高密度記録化が求められている。特に、コンピュータのデータ記録に用いられるLTOR (登録商標:Linear Tape Open)、DLTR (登録商標:Digital Linear Tape)と称される磁気テープ等の磁気記録媒体の高密度記録化が求められている。高密度記録化のために記録波長が短波長化され、磁性層が薄膜化されている。また、記録波長の短波長化に伴い、スペーシングロスの観点から、磁性層表面はより平滑であることが要求される。
【0003】
磁性層が薄膜化されると、磁性層表面に支持体の表面粗さが反映して磁性層表面の平滑性が損なわれ、電磁変換特性が悪化する。このため、支持体表面に下塗り層としての非磁性層を設け、これを介して磁性層が設けられる。従って、非磁性層表面もより平滑であることが要求される。
【0004】
特開平9−170003号公報には、平均長軸径が0.3μm以下、粒子の長軸径の分布が幾何標準偏差値で1.50以下、BET比表面積値が35m2 /g以上であって、粉体pH値が8以上、且つ、可溶性ナトリウム塩の含有量がNa換算で300ppm以下、可溶性硫酸塩の含有量がSO4 換算で150ppm以下である針状ヘマタイト粒子粉末を下層非磁性層に用いた磁気記録媒体が開示されている(請求項1、4)。
【0005】
特開2004−5932号公報には、平均長軸長が20〜200nmで、長軸と直角方向に切断した短軸断面が長い方の幅と短い方の幅をもち、この長幅と短幅の短軸断面比が長軸方向にほぼ一様に1.3より大きくなっている平針状の酸化鉄粒子からなり、BET法による比表面積が30〜100m2 /gである粉末を下層非磁性層に用いた磁気記録媒体が開示されている(請求項1、4)。
【0006】
特開2005−149623号公報には、平均粒子径80nm以下の非磁性無機粉末を下層非磁性層に用いた磁気記録媒体が開示されている(請求項1)。
【0007】
【特許文献1】特開平9−170003号公報
【特許文献2】特開2004−5932号公報
【特許文献3】特開2005−149623号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特開2005−149623号公報によれば、平均粒子径80nm以下の非磁性無機粉末を非磁性層塗料成分として用いて最適の分散条件で処理することにより、良好な表面平滑性を有する下層非磁性層が得られ、その結果、上層磁性層の良好な表面平滑性が実現される。非磁性無機粉末の微細化は比表面積の増加を伴い、そのため、非磁性層塗料作製の際に適切な分散条件で処理しなければ、微細粒子の凝集や、塗料粘度の増加が起こり、すなわち非磁性層塗料の経時安定性は悪くなる。経時安定性の悪い非磁性層塗料を用いたのでは、下層非磁性層の良好な表面平滑性は得られにくく、上層磁性層の良好な表面平滑性は実現されない(同号公報の比較例4)。
【0009】
本発明の目的は、分散性の向上した微細な非磁性無機粉末を用いて下層非磁性層の表面平滑性を向上させ、上層磁性層の表面平滑性及び電磁変換特性に優れる磁気記録媒体、及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、下層非磁性層用の微細な非磁性無機粉末が、その単位比表面積当たりの特定の範囲の量の水分を含んでいると、分散性が向上し、非磁性層塗料の安定性が向上することを見いだした。
【0011】
本発明には、以下の発明が含まれる。
(1) 非磁性支持体と、非磁性支持体の一方の面上の下層非磁性層と、下層非磁性層上の上層磁性層とを少なくとも有する磁気記録媒体であって、
前記上層磁性層は、強磁性粉末、及び結合剤樹脂材料を少なくとも含み、
前記下層非磁性層は、カーボンブラック、酸化鉄、及び結合剤樹脂材料を少なくとも含み、前記酸化鉄は、平均長軸長が30〜100nm、BET法による比表面積が80〜120m2 /gであり、単位比表面積当たり0.13〜0.25mg/m2 の水分を含んでいるものである、磁気記録媒体。
【0012】
(2) 前記下層非磁性層に含まれる結合剤樹脂材料は、電子線硬化性樹脂の硬化物である、上記(1)に記載の磁気記録媒体。
【0013】
(3) 前記下層非磁性層に含まれる結合剤樹脂材料には、極性基が含まれている、上記(1)又は(2)に記載の磁気記録媒体。
【0014】
(4) 前記下層非磁性層は0.3〜2.5μm以下の厚さを有する、上記(1)〜(3)のうちのいずれかに記載の磁気記録媒体。
【0015】
(5) 前記上層磁性層は0.30μm以下の厚さを有する、上記(1)〜(4)のうちのいずれかに記載の磁気記録媒体。
【0016】
(6) 前記磁気記録媒体は、非磁性支持体の他方の面上に、カーボンブラック、カーボンブラック以外の非磁性無機粉末、及び結合剤樹脂材料を少なくとも含むバックコート層を有する、上記(1)〜(5)のうちのいずれかに記載の磁気記録媒体。
【0017】
(7) 前記磁気記録媒体は、磁気抵抗型ヘッド(MRヘッド)で再生する磁気記録再生システムに用いられる、上記(1)〜(6)のうちのいずれかに記載の磁気記録媒体。
【0018】
(8) 非磁性支持体と、非磁性支持体の一方の面上の下層非磁性層と、下層非磁性層上の上層磁性層とを少なくとも有する磁気記録媒体の製造方法であって、
非磁性支持体の一方の面上に、カーボンブラック、酸化鉄、及び結合剤樹脂材料を少なくとも含み、前記酸化鉄は、平均長軸長が30〜100nm、BET法による比表面積が80〜120m2 /gであり、単位比表面積当たり0.13〜0.25mg/m2 の水分を含んでいるものである非磁性層用塗料を塗布、乾燥し、硬化させて下層非磁性層を形成する工程と、
前記下層非磁性層上に、強磁性粉末、及び結合剤樹脂材料を少なくとも含む磁性層用塗料を塗布、乾燥して、上層磁性層を形成する工程と
を含む磁気記録媒体の製造方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、下層非磁性層に非磁性無機粉末として、平均長軸長が30〜100nm、BET法による比表面積が80〜120m2 /gであり、単位比表面積当たり0.13〜0.25mg/m2 の水分を含んでいる酸化鉄が用いられている。このような特定範囲の水分量を有する酸化鉄は、平均長軸長30〜100nm、BET法による比表面積80〜120m2 /gという微細な粉末でありながら非磁性層塗料中において良好な分散性を示し、均一分散され安定性に優れた非磁性層塗料が作製される。そのため、下層非磁性層の良好な表面平滑性が得られ、上層磁性層の良好な表面平滑性が実現される。その結果、電磁変換特性に優れる磁気記録媒体が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明の磁気記録媒体は、非磁性支持体と、非磁性支持体の一方の面上の下層非磁性層と、下層非磁性層上の上層磁性層とを少なくとも有し、非磁性支持体の他方の面上のバックコート層を通常有する。下層非磁性層は例えば厚さ0.3〜2.5μmであり、上層磁性層は例えば厚さ0.30μm以下、好ましくは0.03〜0.30μmであり、バックコート層は例えば厚さ0.3〜0.8μmであり、磁気記録媒体の全厚さは好ましくは4.0〜10.0μmである。なお、上層磁性層上に潤滑剤塗膜や磁性層保護用の各種塗膜などが必要に応じて設けられてもよい。また、非磁性支持体の磁性層が設けられる前記一方の面には、下層非磁性層と非磁性支持体との接着性の向上等を目的として、下塗り層(易接着層)が設けられてもよい。その際、下塗り層の厚さは0.05〜0.30μmが好ましい。接着性向上等の効果が発現するために下塗り層の厚さは0.05μm以上が好ましく、0.05μm以上0.30μm以下の厚さで十分な効果が得られる。
【0021】
[下層非磁性層]
下層非磁性層は、カーボンブラック、非磁性無機粉末として酸化鉄、及び結合剤樹脂材料を少なくとも含む。
【0022】
下層非磁性層に含まれるカーボンブラックとしては、ゴム用ファーネスブラック、ゴム用サーマルブラック、カラー用ブラック、アセチレンブラック等を用いることができる。比表面積は5〜600m2 /g、DBP吸油量は30〜400ml/100g、粒子径は10〜100nmが好ましい。使用できるカーボンブラックは具体的には「カーボンブラック便覧」、カーボンブラック協会編を参考にすることができる。
【0023】
カーボンブラックの配合量は、下層非磁性層において5〜30質量%、好ましくは10〜25質量%である。
【0024】
下層非磁性層に含まれる酸化鉄は、針状のα−Fe2 3 であり、平均長軸長が30〜100nm、BET法による比表面積が80〜120m2 /gであり、単位比表面積当たり0.13〜0.25mg/m2 の水分を含んでいるものである。下層非磁性層に含まれる非磁性無機粉末として酸化鉄を用いることは、磁気記録媒体の走行耐久性の観点から重要である。
【0025】
酸化鉄の平均長軸長が100nmを超えると、非磁性層塗料中における分散性は良くなるが、非磁性層表面の平滑性は低下する。一方、平均長軸長が30nm未満では、微細すぎて分散性が悪く非磁性層塗料の安定性が低下し、均一な塗膜形成が困難となり、やはり非磁性層表面の平滑性が低下する。酸化鉄が微細化されるほど一般にBET法による比表面積は大きくなるが、本発明においては、酸化鉄のBET法比表面積は80〜120m2 /gの範囲である。平均長軸長が30nmの酸化鉄の場合、そのBET法比表面積は120m2 /g程度が適切であり、120m2 /gを超えると、粉末の表面に凹凸が多く存在する形状となり、塗料中における分散性が悪い。一方、平均長軸長が100nmの酸化鉄の場合、そのBET法比表面積は80m2 /g程度が適切であり、80m2 /g未満では、粉末の凝集が起こりやすく、やはり塗料中における分散性が悪い。
【0026】
酸化鉄の平均長軸長は好ましくは30〜70nmの範囲、さらに好ましくは30〜50nmの範囲である。また、酸化鉄のBET法比表面積は好ましくは80〜100m2 /gの範囲である。
【0027】
平均長軸長30〜100nm、BET法による比表面積80〜120m2 /gという微細な酸化鉄粉末をそのまま用いたのでは、良好な分散性は得られない。本発明者らは検討の結果、酸化鉄粉末に単位比表面積当たり0.13〜0.25mg/m2 の範囲の量の水分を含ませることにより、微細な酸化鉄粉末でありながら良好な分散性が得られることを見いだした。前記特定範囲の水分量とすることにより、非磁性層塗料中において、酸化鉄粉末の表面に存在する水分と結合剤樹脂中に存在する極性基との相互作用が働き、いわゆる濡れ性が向上して、酸化鉄粉末の良好な分散性が得られるものと考えられる。酸化鉄粉末の分散性が向上し、酸化鉄粉末の凝集の発生が起こらない。そのため、均一分散され安定性に優れた非磁性層塗料が作製され、この非磁性層塗料を用いて均一な且つ表面平滑性に優れた非磁性層が形成される。また、前記の濡れ性向上効果は、非磁性層塗料中においてのみならず、形成された非磁性層中においても同様に得られるので、磁気記録媒体の非磁性層中においても、酸化鉄粉末の良好な分散性が維持される。これらの結果、上層磁性層の良好な表面平滑性が実現され、電磁変換特性に優れる磁気記録媒体が得られる。
【0028】
酸化鉄粉末の単位比表面積当たりの水分量が0.13mg/m2 未満であると、水分量が少ないので、前記の濡れ性向上効果が得られず、微細な酸化鉄粉末の良好な分散性は得られない。一方、前記水分量が0.25mg/m2 を超えると、水分量が多すぎるので、結合剤樹脂の有機溶剤への溶解性が阻害され、微細な酸化鉄粉末の良好な分散性は得られない。酸化鉄粉末の単位比表面積当たりの水分量は好ましくは0.17〜0.25mg/m2 の範囲である。酸化鉄粉末の水分量は、例えば酸化鉄の調製において、酸化鉄粉末を水蒸気を含有する窒素ガス流の中に保持する際の水蒸気濃度によってコントロールすることができる。
【0029】
本発明で用いる酸化鉄粉末の調製の概略を述べる。針状の酸化鉄α−Fe2 3 は、針状のオキシ水酸化鉄α−FeOOHを高温で脱水処理することにより生成させる。
【0030】
(オキシ水酸化鉄の生成工程)
オキシ水酸化鉄の製法としては、例えば、第二鉄塩水溶液に、Feに対し1.0〜3.5当量の水酸化アルカリ水溶液を攪拌しながら10〜90℃の液温で加え、水酸化第二鉄の沈殿を含む懸濁液を得る。その後、水酸化第二鉄の沈殿を含む懸濁液を30〜50℃の温度に保持して2〜20時間熟成してから加水分解し、オキシ水酸化鉄を生成させる。
【0031】
水酸化第二鉄の沈殿を含む懸濁液を上記のように30〜50℃の温度に保持するとよい。この保持温度を低くすると、オキシ水酸化鉄の平均長軸長が短くなり、保持温度を高くすると、オキシ水酸化鉄の平均長軸長が長くなる傾向にある。また、保持時間(熟成時間)を短くすると、オキシ水酸化鉄の平均長軸長が短くなり、保持時間を長くすると、オキシ水酸化鉄の平均長軸長が長くなる傾向にある。
【0032】
(リン及びイットリウムの被着処理工程)
オキシ水酸化鉄の沈殿を含む懸濁液に、オキシ水酸化鉄に対しPが0.1〜5.0重量%となる量のリン化合物の水溶液、例えばリン酸水溶液を攪拌しながら加える。その後、オキシ水酸化鉄のFeに対するYの原子比百分率(Y/Fe)が、0.1〜10at.%となる量のイットリウム水溶液を攪拌しながら加え、pH9以下として、オキシ水酸化鉄にリン及びイットリウムを被着させる。
【0033】
リン及びイットリウムの被着処理工程を行うことにより、次工程の焼成において、粒子間の焼結を抑制することができる。また、イットリウムの被着量が多くなるほど、得られる酸化鉄のBET法比表面積が大きくなる。
【0034】
(焼成工程)
リン及びイットリウムが被着されたオキシ水酸化鉄の懸濁液を濾過、水洗、乾燥する。その後、オキシ水酸化鉄の粉末を大気中、300〜900℃、好ましくは400〜700℃、10〜60分間の焼成処理に付し、酸化鉄に変換する。焼成温度が高すぎると、粒子の焼結が起こるので注意を要する。適切な焼成により、オキシ水酸化鉄の平均長軸長が維持された酸化鉄が得られる。
【0035】
(水分量制御工程)
得られた酸化鉄粉末を、0.1〜2.0体積%の水蒸気を含有する30〜60℃の窒素ガス流の中に、1分〜120分間保持して、所望の単位比表面積当たりの水分量とされた酸化鉄粉末とする。窒素ガス流中の水蒸気含有量が多いほど、また、前記保持時間が長いほど、酸化鉄粉末の水分量は多くなる。
【0036】
前記酸化鉄の配合量は、下層非磁性層において50〜80質量%、好ましくは50〜70質量%である。
【0037】
下層非磁性層には、カーボンブラック及び前記酸化鉄以外の非磁性無機粉末、例えば、α−オキシ水酸化鉄(α−FeOOH)、CaCO3 、酸化チタン、硫酸バリウム、α−Al2 3 等の無機粉末が含まれていてもよい。α−オキシ水酸化鉄は針状のものが好ましい。
【0038】
カーボンブラックと、カーボンブラック以外の非磁性無機粉末(前記酸化鉄+前記酸化鉄以外の非磁性無機粉末の合計)の配合比率は、質量比(カーボンブラック/カーボンブラック以外の非磁性無機粉末)で95/5〜5/95が好ましい。カーボンブラックの配合比率が5質量部を下回ると、表面電気抵抗に問題が生じることがある。カーボンブラック以外の非磁性無機粉末の配合比率が5質量部を下回ると、下層非磁性層の表面平滑性の悪化及び機械的強度の低下の可能性がある。下層非磁性層の表面平滑性の悪化は、上層磁性層の表面平滑性の悪化の原因となる。
【0039】
下層非磁性層の結合剤樹脂材料として、熱可塑性樹脂、熱硬化性ないし反応型樹脂、放射線(電子線又は紫外線)硬化性樹脂等が、媒体の特性、工程条件に合わせて適宜組み合わせて選択されて使用される。これらのうち、電子線硬化性樹脂が好ましく、以下に示すような電子線硬化性の塩化ビニル系共重合体及びポリウレタン樹脂の組み合わせが好ましい。
【0040】
塩化ビニル系共重合体としては、塩化ビニル含有量50〜95質量%、特に55〜90質量%のものが好ましく、その平均重合度は100〜500程度であることが好ましい。特に塩化ビニルとエポキシ(グリシジル)基を含有する単量体との共重合体が好ましい。塩化ビニル系共重合体は、公知の手法により(メタ)アクリル系二重結合等を導入して電子線感応変性を行ったものである。
【0041】
上記塩化ビニル系樹脂と併用するポリウレタン樹脂とは、ポリエステルポリオール及び/又はポリエーテルポリオール等のヒドロキシ基含有樹脂とポリイソシアネート含有化合物との反応により得られる樹脂の総称であって、数平均分子量5,000 〜200,000 程度で、Q値(質量平均分子量/数平均分子量)1.5〜4程度のものである。ポリウレタン樹脂は、公知の手法により(メタ)アクリル系二重結合を導入して電子線感応変性を行ったものである。
【0042】
本発明において、電子線硬化性樹脂には、前記酸化鉄の分散性向上のために、極性基が含まれていることが好ましい。極性基としては、−OSO3 M、−SO3 M、−SR等のS含有極性基、−POM、−PO2 M、−PO3 M等のP含有極性基、−COOM(Mは水素又はアルカリ金属)、−NR2 、−N+ 3 - (Rは水素又は炭化水素基、Xはハロゲン原子)、ホスホベタイン、スルホベタイン、ホスファミン、スルファミン等が挙げられる。
【0043】
塩化ビニル系共重合体及びポリウレタン樹脂に加えて、非磁性層において全結合剤の20質量%以下の範囲で、公知の各種樹脂が含有されてもよい。
【0044】
下層非磁性層に用いる結合剤樹脂の含有量は、下層非磁性層中のカーボンブラックとカーボンブラック以外の前記非磁性無機粉末の合計100質量部に対し、好ましくは10〜100質量部、より好ましくは12〜30質量部である。結合剤の含有量が少なすぎると、下層非磁性層における結合剤樹脂の比率が低下し、十分な塗膜強度が得られない。結合剤の含有量が多すぎると、テープ媒体の場合にテープ幅方向の湾曲が強く起きやすく、ヘッドとの接触が悪くなる傾向にある。
【0045】
下層非磁性層には必要に応じて潤滑剤を含有することが好ましい。潤滑剤としては、飽和、不飽和に関わらず、ステアリン酸、ミリスチン酸等の脂肪酸、ブチルステアレート、ブチルパルミテート等の脂肪酸エステル、糖類など公知のものを、単独であるいは2種以上混合して用いることができ、融点の異なる脂肪酸を2種以上混合し用いることや、融点の異なる脂肪酸エステルを2種以上混合し用いることも好ましい。これは、磁気記録媒体の使用される、あらゆる温度環境に応じた潤滑剤を、媒体表面に持続して供給する必要があるからである。
【0046】
下層非磁性層の潤滑剤の含有量は、目的に応じ適宜調整すればよいが、下層非磁性層中のカーボンブラックとカーボンブラック以外の前記非磁性無機粉末の合計質量に対し、1〜20質量%が好ましい。
【0047】
下層非磁性層形成用の塗料は、公知の方法で、上記各成分に有機溶剤を加えて、混合、攪拌、混練、分散等を行い調製する。用いる有機溶剤は特に制限はなく、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤や、トルエン等の芳香族系溶剤などの各種溶媒の1種又は2種以上を、適宜選択して用いればよい。有機溶剤の添加量は、カーボンブラック、カーボンブラック以外の各種無機粉末等、及び結合剤樹脂の合計量100質量部に対し100〜900質量部程度とすればよい。
【0048】
本発明においては、前記特定の酸化鉄粉末を用いているので、塗料調製の際に酸化鉄粉末の凝集の発生が起こらず、塗料の粘度の増加も起こらない。均一分散され安定性に優れた非磁性層塗料が調製される。
【0049】
下層非磁性層の厚さは、通常0.3〜2.5μm、好ましくは0.5〜2.0μmである。非磁性層が薄すぎると、非磁性支持体の表面粗さの影響を受けやすくなり、その結果、非磁性層の表面平滑性が悪化して磁性層の表面平滑性も悪化しやすくなり、電磁変換特性が低下する傾向にある。また、光透過率が高くなるので、媒体端を光透過率の変化により検出する場合に問題となる。一方、非磁性層をある程度以上厚くしても性能は向上しない。
【0050】
[上層磁性層]
上層磁性層は、少なくとも強磁性粉末及び結合剤樹脂材料を含有する。
【0051】
本発明において、強磁性粉末としては、金属磁性粉末又は六方晶形板状微粉末を用いることが好ましい。金属磁性粉末としては、保磁力Hcが118.5〜278.5kA/m(1500〜3500Oe)、飽和磁化σsが70〜160Am2/kg(emu/g)、平均長軸長が0.02〜0.1μm、平均短軸長が5〜20nm、アスペクト比が1.2〜20であることが好ましい。また、金属磁性粉末を用いて作製した媒体のHcは118.5〜278.5kA/m(1500〜3500Oe)が好ましい。六方晶形板状微粉末としては、保磁力Hcが79.6〜278.5kA/m(1000〜3500Oe)、飽和磁化σsが40〜70Am2/kg(emu/g)、平均板粒径が15〜80nm、板比が2〜7であることが好ましい。また、六方晶形板状微粉末を用いて作製した媒体のHcは94.8〜318.3kA/m(1200〜4000Oe)が好ましい。
【0052】
強磁性粉末は、磁性層を基準として70〜90質量%程度含まれていればよい。強磁性粉末の含有量が多すぎると、結合剤の含有量が減少するためカレンダー加工による表面平滑性が悪化しやすくなり、一方、強磁性粉末の含有量が少なすぎると、高い再生出力を得られない。
【0053】
上層磁性層の結合剤樹脂材料として、特に制限なく、熱可塑性樹脂、熱硬化性ないし反応型樹脂、放射線(電子線又は紫外線)硬化性樹脂等が、媒体の特性、工程条件に合わせて適宜組み合わせて選択されて使用される。
【0054】
上層磁性層に用いる結合剤樹脂の含有量は、強磁性粉末100質量部に対し、好ましくは5〜40質量部、特に好ましくは10〜30質量部である。結合剤の含有量が少なすぎると、磁性層の強度が低下し、走行耐久性が悪化しやすくなる。一方、結合剤の含有量が多すぎると、強磁性粉末の含有量が低下するため、電磁変換特性が低下する傾向にある。
【0055】
さらに上層磁性層中には、磁性層の機械的強度を高めるためと、磁気ヘッドの目詰まりを防ぐために、例えばα−アルミナ(モース硬度9)等のモース硬度6以上の研磨材を含有させる。このような研磨材は通常、不定形状であり、磁気ヘッドの目詰まりを防ぎ、塗膜の強度を向上させる。
【0056】
研磨材の平均粒径は、例えば0.01〜0.2μmであり、0.05〜0.2μmであることが好ましい。平均粒径が大きすぎると、磁性層表面からの突出量が大きくなって、電磁変換特性の低下、ドロップアウトの増加、ヘッド摩耗量の増大等を招く。平均粒径が小さすぎると、磁性層表面からの突出量が小さくなって、ヘッド目詰まりの防止効果が不十分となる。
【0057】
平均粒径は、通常、透過型電子顕微鏡により測定する。研磨材の含有量は、強磁性粉末100質量部に対し、3〜25質量部、好ましくは5〜20質量部含有すればよい。
また、磁性層中には、必要に応じ、界面活性剤等の分散剤、高級脂肪酸、脂肪酸エステル、シリコンオイル等の潤滑剤、その他の各種添加物を添加してもよい。
【0058】
上層磁性層形成用の塗料は、公知の方法で、上記各成分に有機溶剤を加えて、混合、攪拌、混練、分散等を行い調製する。用いる有機溶剤は特に制限はなく、下層非磁性層に使用するものと同様のものが使用可能である。
【0059】
上層磁性層の厚さは0.03〜0.30μm、更に好ましくは0.05〜0.25μmとする。磁性層が厚すぎると、自己減磁損失や厚み損失が大きくなる。
【0060】
上層磁性層表面の中心線平均粗さ(Ra)は、好ましくは1.0〜5.0nm、より好ましくは1.0〜4.0nmとする。Raが1.0nm未満では表面が平滑すぎて、走行安定性が悪化して走行中のトラブルが生じやすくなる。一方、5.0nmを越えると、磁性層表面が粗くなり、MR型ヘッドを用いた再生システムでは、再生出力等の電磁変換特性が劣化する。
【0061】
[バックコート層]
バックコート層は、走行安定性の改善や磁性層の帯電防止等のために必要に応じて設けられ、特に構造や組成は限定されないが、例えば、カーボンブラック、カーボンブラック以外の非磁性無機粉末、及び結合剤樹脂を含むものを用いることができる。
【0062】
バックコート層は、バックコート層を基準として30〜80重量%のカーボンブラックを含有することが好ましい。
【0063】
バックコート層には、前記カーボンブラック以外に、機械的強度をコントロールするために、各種非磁性無機粉末を用いることができ、無機粉末として例えば、α−Fe2 3 、CaCO3 、酸化チタン、硫酸バリウム、α−Al2 3 等を挙げることができる。
【0064】
バックコート層形成用の塗料は、公知の方法で、上記各成分に有機溶剤を加えて、混合、攪拌、混練、分散等を行い調製する。用いる有機溶剤は特に制限はなく、上層磁性層や下層非磁性層に使用するものと同様のものが使用可能である。
【0065】
バックコート層の厚さ(カレンダー加工後)は、1.0μm以下、好ましくは0.1〜1.0μm、より好ましくは0.2〜0.8μmである。
【0066】
[非磁性支持体]
非磁性支持体として用いる材料には特に制限はなく、目的に応じて各種可撓性材料、各種剛性材料から選択し、各種規格に応じてテープ状、シート状、カード状、ディスク状などの所定形状及び寸法とすればよい。例えば、可撓性材料としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル類、ポリプロピレン等のポリオレフィン類、ポリアミド(PA)、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリカーボネートなどの各種樹脂が挙げられる。非磁性支持体として、PEN、PA、PI、及びPAIから選ばれる樹脂製のフィルムが好ましい。非磁性支持体の厚さは、例えば3.0〜15.0μmであり、2.0〜6.0μmであることが好ましい。
【0067】
[磁気記録媒体の製造]
本発明において、調製された各非磁性層形成用塗料、磁性層形成用塗料、バックコート層形成用塗料を用いて、塗布、乾燥、カレンダー、硬化等により、それぞれの塗膜(塗層)を形成し、磁気記録媒体を製造する。
【0068】
本発明において、下層非磁性層及び上層磁性層は、いわゆるウェット・オン・ドライ塗布方式によって形成することが好ましい。しかしながら、ウェット・オン・ウェット塗布方式によって形成してもよい。ウェット・オン・ドライ塗布方式の場合には、まず、非磁性支持体の一方の面上に、非磁性層用塗料を塗布、乾燥し、必要に応じてカレンダー処理を行い、未硬化の下層非磁性層を得る。その後、未硬化の下層非磁性層を硬化させる。下層非磁性層の結合剤樹脂材料として電子線硬化性樹脂を用いた場合には、電子線照射を行い下層非磁性層を硬化させる。次に、硬化された下層非磁性層上に磁性層用塗料を塗布、配向、乾燥して、上層磁性層を形成する。バックコート層の形成の順序は任意であり、すなわち、下層非磁性層の形成前、下層非磁性層の形成後であり上層磁性層の形成前、上層磁性層の形成後のいずれであってもよい。
【0069】
塗布方法としては、グラビアコート、リバースロールコート、ダイノズルコート、バーコート等の公知の種々の塗布手段を用いることができる。
【実施例】
【0070】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0071】
[粉体特性の測定方法]
(平均長軸長の測定)
測定対象の粉体の100,000倍の透過型電子顕微鏡(TEM; Transmission Electron Microscope) 写真を撮影し、写真から不作為に抽出した100個の粒子について、長軸長を測定した。これらの値の平均値を平均長軸長とした。
【0072】
(BET法比表面積の測定)
Quantachrome社製 NOVA2000seriesを使用し、BET法により比表面積を求めた。より具体的には、以下のように行った。
90℃オーブン内にてセルを乾燥し、乾燥したセルを20℃、45%RH雰囲気にて20℃まで放冷した。以降の操作はすべて20℃、45%RH雰囲気にて行った。
セル風袋の重量(w1 )を測定した。測定すべき粉体試料を0.2〜0.3g程度計量し、その測定試料を測定用セルに充填し、粉体飛散防止用のフィルターをセル端部に挿入した。BET測定装置(Quantachrome社製 NOVA2000)付属のマントルヒーターにセルをセットして、150℃、1時間の脱気処理を行った。セルを取外し、フィルターを外して20℃、45%RH雰囲気にて粉体試料入りセルの重量(w2 )を測定した。測定すべき粉体試料の重量(w)を算出した(w=w2 −w1 )。
上記粉体試料入りセルを上記BET測定装置にセットして、付属のデュワー瓶に液体窒素を所定量充填した。測定プログラムを起動し、液体窒素温度(77K)にて測定を行った。測定終了後、粉体試料を回収した。
【0073】
(水分量の測定)
三菱化学株式会社製の電量滴定法式自働水分測定装置を使用し、陽極液試薬としてアクアミクロンAX、陰極液試薬としてアクアミクロンCXUを使用した。
測定装置のSense安定後、電極正常確認のため、測定前にチェック液を電解セルに600mg程度投入し、経過観察値が出ることを確認した。
CA−100型およびVA−100型を使用し、滴定パラメータは以下の通りに設定した。
Delay: 1 min, Min Titr: 2 min, Titr Stop: 0 min, End Sense: 0.1 μg/sec, Print Form: 3, Calc Form: 1, Calc Unit: 0, VA Select: 1, VA Temp: 100℃指定温度, Purge: 1 min, Preheat: 2 min, Cooling: 2 min
予想される水分量に見合う試料量(g)を投入し、5回測定を行い、最大値と最小値を除いた3値の平均値を抽出総水分値(g)とした。
粉体の単位重量当たりの水分量を次式により算出した。

単位重量当たりの水分量(wt%)=[抽出総水分値(g)/試料量(g)]×100

測定終了後に、チェック液の経過観察値が測定前の値と同じであることを確認した。
【0074】
粉体の単位比表面積当たりの水分量(mg/m2 )は、上記BET比表面積値(m2 /g)と上記単位重量当たりの水分量(wt%)とから算出した。
【0075】
[酸化鉄の調製例]
実施例1で用いる酸化鉄を次のようにして調製した。
濃度0.5モル/LのFe3+水溶液に、Fe3+に対し1.3当量の水酸化ナトリウム水溶液を、液温10℃に保って攪拌しながら添加し、水酸化第二鉄の沈殿を生成させた。その後、この沈殿を含む懸濁液を30℃の温度に保持して10時間熟成して長軸長を調整し、オキシ水酸化鉄α−FeOOHを生成させた。次いで、このα−FeOOHを含む懸濁液に、α−FeOOHに対しPが2.0重量%となる量のリン酸水溶液を攪拌しながら添加し、α−FeOOHにP被着処理を施した。その後、さらに、α−FeOOHのFeに対するYの原子比百分率(Y/Fe)が1.0at.%となる量のイットリウム水溶液を攪拌しながら添加し、pH9以下として、α−FeOOHにY被着処理を施した。P及びYが被着されたα−FeOOHの懸濁液を濾過、水洗、乾燥した。得られたα−FeOOHの粉末を大気中、650℃、60分間の焼成処理に付し、酸化鉄α−Fe2 3 の粉末を得た。
【0076】
さらに、得られたα−Fe2 3 粉末を、2体積%の水蒸気を含有する60℃の窒素ガス流の中に30分間保持して、所望の単位比表面積当たりの水分量0.13mg/m2 とされたα−Fe2 3 粉末(I)を得た。
【0077】
得られたα−Fe2 3 (I)粉末の粉体特性[平均長軸長(nm)、BET比表面積(m2 /g)、単位重量当たりの水分量(wt%)、単位比表面積当たりの水分量(mg/m2 )]、及び、調製工程における各条件[水酸化第二鉄の懸濁液の保持温度(℃)、α−FeOOHのY/Fe比(at.%)、窒素ガス流の含有水蒸気濃度(Vol%)]を表1に示す。この酸化鉄(I)を実施例1で用いた。
【0078】
調製工程における各条件[水酸化第二鉄の懸濁液の保持温度(℃)、α−FeOOHのY/Fe比(at.%)、窒素ガス流の含有水蒸気濃度(Vol%)]を表1及び表2に示すように変更することによって、種々の粉体特性[平均長軸長(nm)、BET比表面積(m2 /g)、単位重量当たりの水分量(wt%)、単位比表面積当たりの水分量(mg/m2 )]を有するα−Fe2 3 粉末を得た。得られた酸化鉄粉末を、それぞれ実施例2〜20、比較例1〜28で用いた。
【0079】
[実施例1]
(非磁性層用塗料の調製)
酸化鉄(I) 80.0質量部
カーボンブラック 20.0質量部
(三菱化学(株)製 商品名:#950B、平均粒径:17nm、BET比表面積:250m2 /g、DBP吸油量:70ml/100g、pH:8)
電子線硬化型結合剤 電子線硬化性塩化ビニル樹脂 12.0質量部
(東洋紡績(株)製 商品名:TB−0246)
電子線硬化型結合剤 電子線硬化性ポリウレタン樹脂 10.0質量部
(東洋紡績(株)製 商品名:TB−0216)
分散剤 リン酸系界面活性剤 3.2質量部
(東邦化学工業(株)製 商品名:RE−610)
研磨材 α−アルミナ 5.0質量部
(住友化学(株)製 商品名:HIT60A、平均粒径:0.18μm)
NV(固形分濃度)=70%(質量百分率)
溶剤比率 MEK/トルエン/シクロヘキサン=2/2/1(質量比)
【0080】
上記の材料をニーダーで混練した後、混練物をNV(固形分濃度)=33%になるように上記と同じ混合比率の溶剤を用いて希釈し、この希釈物を0.8mmのジルコニアビーズを充填率80%(空隙率50vol%)で充填した横型のピンミルによって滞留時間60分にて分散した。分散途中においてサンプリングを行い、適宜、粘度を測定した。測定した粘度のうち最も高い粘度の値を「分散粘度(cp)」として表1に示す。
【0081】
その後、さらに、下記潤滑剤材料:
潤滑剤 脂肪酸 0.5質量部
(日本油脂(株)製 商品名:NAA180)
潤滑剤 脂肪酸アマイド 0.5質量部
(花王(株)製 商品名:脂肪酸アマイドS)
潤滑剤 脂肪酸エステル 1.0質量部
(日光ケミカルズ(株)製 商品名:NIKKOLBS)
を添加して、
NV(固形分濃度)=25%(質量百分率)
溶剤比率 MEK/トルエン/シクロヘキサン=2/2/1(質量比)
となるように希釈した後、分散を行いタンクに出筒した。出筒時点における塗料の粘度を測定したところ、100cpであった。
【0082】
得られた塗料をタンク内に24時間静置し、24時間静置時点における塗料の粘度を測定した。この粘度の値を「24時間後粘度(cp)」として表1に示す。
【0083】
続いて、得られた塗料をさらに絶対濾過精度1.0μmのフィルターで濾過して、実施例1の非磁性塗料を作製した。
【0084】
(磁性層用塗料の調製)
強磁性粉末 Fe系針状強磁性粉末 100.0質量部
(Fe/Co/Al/Y=100/24/5/8(原子比)、Hc:188kA/m、σs:140Am2 /kg、BET比表面積値:50m2 /g、平均長軸長:0.10μm)
熱硬化型塩化ビニル樹脂 塩化ビニル共重合体 10.0質量部
(日本ゼオン(株)製 商品名:MR110)
熱硬化型ポリウレタン樹脂 ポリエステルポリウレタン 6.0質量部
(東洋紡績(株)製 商品名:UR8300)
分散剤 リン酸系界面活性剤 3.0質量部
(東邦化学工業(株)製、商品名:RE610)
研磨材 α−アルミナ 10.0質量部
(住友化学(株)製 商品名:HIT60A、平均粒径:0.18μm)
NV(固形分濃度)=70%(質量百分率)
溶剤比率 MEK/トルエン/シクロヘキサノン=4/4/2(質量比)
【0085】
上記の材料をニーダーで混練した後、混練物をNV(固形分濃度)=30%になるように上記と同じ混合比率の溶剤を用いて希釈し、この希釈物を前分散として、0.8mmのジルコニアビーズを充填率80%(空隙率50vol%)で充填した横型のピンミルによって分散した。
【0086】
その後、さらに、前分散された塗料を、
NV(固形分濃度)=15%(質量百分率)
溶剤比率 MEK/トルエン/シクロヘキサン=22.5/22.5/55(質量比)
となるように希釈してから、仕上げ分散を行った。続いて、得られた塗料に熱硬化剤(日本ポリウレタン工業(株)製 コロネートL)4質量部を添加混合した後、さらに絶対濾過精度0.5μmのフィルターで濾過して、磁性層用塗料を作製した。
【0087】
(バックコート層用塗料の調製)
カーボンブラック 75.0質量部
(キャボット社製 商品名:BP−800、平均粒径17nm、DBP吸油量68ml/100g、BET比表面積210m2 /g)
カーボンブラック 15.0質量部
(キャボット社製 商品名:BP−130、平均粒径75nm、DBP吸油量69ml/100g、BET比表面積25m2 /g)
炭酸カルシウム
(白石工業(株)製 商品名:白艶華0、平均粒径30nm) 10.0質量部
ニトロセルロース 65.0質量部
(旭化成工業(株)製 商品名:BTH1/2)
ポリウレタン樹脂 35.0質量部
(脂肪族ポリエステルジオール/芳香族ポリエステルジオール=43/57)
NV(固形分濃度)=30%(質量百分率)
溶剤比率 MEK/トルエン/シクロヘキサン=1/1/1(質量比)
【0088】
上記の材料のうち有機溶剤の一部を除いた状態で、上記材料をニーダーにて高粘度状態で十分に混練処理した。次いで、混練処理された材料に除いておいた有機溶剤を添加して、ディゾルバにて十分に攪拌し、その後、上記材料をニーダーにて混練処理した。その後、前分散として、0.8mmのジルコニアビーズを充填率80%(空隙率50vol%)で充填した横型のピンミルによって分散した。
【0089】
その後、さらに、前分散された材料を、
NV(固形分濃度)=10%(質量百分率)
溶剤比率 MEK/トルエン/シクロヘキサン=50.0/40.0/10.0(質量比)となるように希釈してから、仕上げ分散を行った。続いて、得られた塗料に熱硬化剤(日本ポリウレタン工業(株)製 コロネートL)10質量部を添加混合した後、さらに絶対濾過精度0.5μmのフィルターで濾過して、バックコート層用塗料を作製した。
【0090】
(非磁性層形成工程)
厚さ6.2μmのベースフィルム(ポリエチレンナフタレートフィルム)の一方の面上に、カレンダー加工後の厚さが2.0μmになるように、上記の非磁性層用塗料をノズルにより押し出し塗布法で塗布して、乾燥した。その後、プラスチックロールと金属ロールとを組み合わせたカレンダーによって、ニップ数4回、加工温度100℃、線圧3500N/cmで加工を行い、さらに、照射量4.0Mrad、加速電圧200kVにて電子線照射を行い、下層非磁性層を形成した。
【0091】
(磁性層形成工程)
上記のようにして形成した下層非磁性層上に、上記の磁性層用塗料を、加工後の厚さが0.2μmになるようにノズルにより押し出し塗布法で塗布して、配向を行い、乾燥した。その後、プラスチックロールと金属ロールとを組み合わせたカレンダーによって、ニップ数4回、加工温度100℃、線圧3500N/cmで加工を行い、上層磁性層を形成した。
【0092】
(バックコート形成工程)
ベースフィルムの他方の面上に、上記のバックコート層用塗料を、加工後の厚さが0.7μmになるようにノズルにより押し出し塗布法で塗布して、乾燥した。その後、プラスチックロールと金属ロールとを組み合わせたカレンダーによって、ニップ数4回、加工温度100℃、線圧3500N/cmで加工を行い、バックコート層を形成した。
【0093】
以上のようにして得られた磁気記録テープ原反を、60℃で48時間熱硬化させて、次いで、1/2inch(=12.650mm)幅にスリット(裁断)し、実施例1の磁気記録テープサンプルとしてのデータ用テープを作製した。
【0094】
[実施例2〜12及び比較例1〜28]
非磁性層用塗料の調製において、実施例1で用いた酸化鉄(I)80.0質量部の代わりに、それぞれ表1及び表2に示す酸化鉄80.0質量部を用いた以外は、実施例1と同様にして、非磁性層用塗料をそれぞれ作製した。いずれの非磁性層用塗料の調製においても、NV(固形分濃度)=25%(質量百分率)となるように希釈した後、出筒時点における塗料の粘度を測定したところ、約100cpであった。得られた各非磁性層用塗料を用いて、実施例1と同様にして、各磁気記録テープサンプルを作製した。
【0095】
[磁気テープの評価]
各磁気記録テープサンプルについて、次の評価を行った。
【0096】
(表面粗さ(中心線平均粗さ:Ra))
「TALYSTEPシステム」(テーラーホブソン社製)を用い、JIS B0601−1982に基づいて、テープの磁性層表面の中心線平均粗さRaの測定を行った。
測定の条件は、フィルター0.18〜9Hz、触針0.1×2.5μmスタイラス、触針圧2mg、測定スピード0.03mm/sec、測定長さ500μmとした。なお、磁性層表面のRaの測定は、最終的なカレンダー処理及び硬化処理後に行った。
【0097】
(ビットエラーレートb−ERTの測定)
カートリッジに組み込んだ各磁気テープサンプルについて、磁気記録ヘッドで記録波長0.25μmの単一記録波長を記録し、信号のP−P値(振幅)に対して50%以下のP−P値(振幅)の信号をミッシングパルスとし、4個以上連続したミッシングパルスを欠陥Long Defectとして検出した。基準テープとしての実施例18の磁気テープサンプルの1m当たりのLong Defectの個数をNとし、各磁気テープサンプルの1m当たりのLong Defectの個数をXとし、各磁気テープサンプルについてLog10(X/N)をビットエラーレートとしてそれぞれ算出した。算出した各ビットエラーレートの比較を行った。なお、再生ヘッドとしては、磁気抵抗効果型磁気ヘッド(MRヘッド)を用いた。
【0098】
以上の結果を表1及び表2に示す。
【0099】
表1から分かるように、実施例1〜20ではいずれも、出筒時点の粘度約100cpに対する24時間静置後の粘度上昇が少なく、非磁性層用塗料が安定であった。すなわち、平均長軸長30〜100nm、BET法による比表面積80〜120m2 /gという微細な酸化鉄粉末を用いたにも係わらず、酸化鉄が単位比表面積当たり0.13〜0.25mg/m2 の水分を含んでいるために、分散性が良好であり、非磁性層用塗料の安定化が達成された。このような非磁性層用塗料を用いたので、下層非磁性層の良好な表面平滑性が得られ、実施例1〜20の磁気テープサンプルはいずれも、上層磁性層の良好な表面平滑性が実現され、電磁変換特性に優れていた。
【0100】
一方、比較例1〜28の磁気テープサンプルは、上層磁性層の表面平滑性が劣り、電磁変換特性に劣っていた。
【0101】
比較例5〜8、比較例25〜28では、酸化鉄の平均長軸長150nmであり酸化鉄粉末が粗大であった。このような粗大な酸化鉄粉末を用いると、含水分量によらず分散性は良好であり、安定な非磁性層用塗料が得られた。しかしながら、粗大な酸化鉄粉末を用いたのでは、下層非磁性層の表面平滑性が劣り、これらの磁気テープサンプルはいずれも、上層磁性層の表面平滑性も劣り、電磁変換特性にも劣っていた。
【0102】
【表1】

【0103】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
非磁性支持体と、非磁性支持体の一方の面上の下層非磁性層と、下層非磁性層上の上層磁性層とを少なくとも有する磁気記録媒体であって、
前記上層磁性層は、強磁性粉末、及び結合剤樹脂材料を少なくとも含み、
前記下層非磁性層は、カーボンブラック、酸化鉄、及び結合剤樹脂材料を少なくとも含み、前記酸化鉄は、平均長軸長が30〜100nm、BET法による比表面積が80〜120m2 /gであり、単位比表面積当たり0.13〜0.25mg/m2 の水分を含んでいるものである、磁気記録媒体。
【請求項2】
前記下層非磁性層に含まれる結合剤樹脂材料は、電子線硬化性樹脂の硬化物である、請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項3】
非磁性支持体と、非磁性支持体の一方の面上の下層非磁性層と、下層非磁性層上の上層磁性層とを少なくとも有する磁気記録媒体の製造方法であって、
非磁性支持体の一方の面上に、カーボンブラック、酸化鉄、及び結合剤樹脂材料を少なくとも含み、前記酸化鉄は、平均長軸長が30〜100nm、BET法による比表面積が80〜120m2 /gであり、単位比表面積当たり0.13〜0.25mg/m2 の水分を含んでいるものである非磁性層用塗料を塗布、乾燥し、硬化させて下層非磁性層を形成する工程と、
前記下層非磁性層上に、強磁性粉末、及び結合剤樹脂材料を少なくとも含む磁性層用塗料を塗布、乾燥して、上層磁性層を形成する工程と
を含む磁気記録媒体の製造方法。

【公開番号】特開2008−251143(P2008−251143A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−94976(P2007−94976)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】