説明

磁気記録媒体及び熱アシスト磁気記録装置

【課題】熱アシスト磁気記録方式を用いて多層記録を行うための磁気記録媒体及び記録方法を提供する。
【解決手段】基板21上に磁気的に分離して形成された複数の記録層23を有し、各記録層は、磁気的に相互に分離された複数の磁気セル28を含み、基板に近い磁気セルほどキュリー温度が高い磁気記録媒体を用いる。記録時には、基板に近い記録層から順次記録を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高記録密度の情報記録に関し、熱アシスト磁気記録用の多層磁気記録媒体及び熱アシスト磁気記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現代の情報化社会を支える情報記憶システムの1つとして、コンピュータ等に装着されている磁気ディスク装置は、高記録密度化と高速化及び小型化が急速に進んでいる。磁気ディスク装置の高記録密度化を実現するためには、磁気ディスクと磁気ヘッドの距離を狭めること、磁気記録媒体の磁性膜を構成する結晶粒径を微細化すること、磁気記録媒体の保磁力(異方性磁界)を増大させること、信号処理の高速化等が必要である。
【0003】
高記録密度化を実現するために、磁気記録媒体においては、結晶粒径を微細化して、磁性粒子間に結晶粒界領域を設け、磁性粒子間の磁気的結合を弱めることでノイズを低減することが図られてきた。しかし、記録磁化を保持するためのエネルギーは磁性粒子の体積に比例しているため、磁性粒子の体積が小さくなると熱エネルギーに対する耐性が低下する(熱揺らぎ問題)。
【0004】
この熱揺らぎ問題を解決するための一つの方法は、異方性エネルギーKuを増加させることである。異方性エネルギーKuは磁化方向を安定させるための物性値であり、磁性粒子の結晶構造やそれを構成する材料によって決まっている。環境温度をT、孤立した磁性粒子の体積をv、ボルツマン定数をkBとすると(Ku・v)/(kB・T)が小さくなるほど熱揺らぎによる磁化反転が起こり易い。即ちKuが高くなれば熱揺らぎを抑制することができる。Kuが高い材料の検討は数多くなされている。例えば、特開2002−25032号公報、特開2005−190538号公報に示されているCo層とPd層もしくはPt層を交互に積層した高Kuの人工格子膜をグラニュラー化した媒体、又は、特開2010−118147号公報に示されているCoCr,CoPt,FePtを用いたグラニュラー媒体を使えば高記録密度化が図れる。
【0005】
人工格子膜や高異方性合金膜等のように高Ku媒体を用いた場合、ヘッド磁界強度の限界から、光記録技術と磁気記録技術を結合した熱アシスト磁気記録が有効な手段の1つである。例えば、Jpn. J. Appl. Phys. Vol.38, p.1839, 1999に記載されている記録再生ヘッドは、記録磁界を発生する部分に光を発生させる機構を付加したものである。記録時には、磁界印加とともに光照射することにより、媒体を加熱して異方性エネルギー(保磁力)を低下させて記録を行う。この方法によれば、従来の磁気ヘッドでは記録磁界が不足して記録が困難であった超高記録密度用の高い保磁力を有する媒体にも記録が容易に行える。しかし、磁気ディスク装置の高記録密度化には、微小な加熱領域を速やかに加熱・冷却することが必要であるため、従来、光記録で用いられているレーザー光をレンズにより絞りこむ方法では限界が生じる。これを解決する方法として、金属表面プラズモンで近接場光を発生させる方法が提案され、研究が行われてきた(Optics Japan 2002 Extended Abstracts, 3pA6, 2002、特開2003−45004号公報等)。再生は、従来の磁気記録で用いられているGMR(巨大磁気抵抗効果型)ヘッド又はTMR(トンネル磁気抵抗効果型)ヘッドを用いる。
【0006】
熱揺らぎ問題を解決するための別の方法として、ビットパターン媒体(Bit Patterned Media;BPM)も注目を浴びている(J. Appl. Phys., vol.76, p.6673, 1994, 米国特許第5,820,768号明細書、特開平10−233015号公報)。
【0007】
これは、1粒子に1ビットの記録を行う方式である。本方式では、1ビットは規則的に配列された1つの磁性粒子(セル)に記録されるため,粒子の大きさはビットと同程度まで大きくすることが可能である。従って耐熱性に優れた媒体を提供できる。しかし、BPMにおいても、5Tb/in2以上の面記録密度を達成するためには磁性粒子の更なる狭小化のために熱揺らぎ問題が予想される。従って、FePt等の高Ku材料とともに熱アシスト記録との組み合わせが必要と考えられる。例えば、ビットパターン媒体と熱アシスト磁気記録との組み合わせが、特開2010−55722号公報及び特開2005−166239公報(米国特許第6,906,879号明細書)に記載されている。前者には、記録ビットが絶縁体により分離されており、磁気ヘッドに設けられたトンネル電流配線からトンネル電流を印加して、記録ビットを昇温させて記録を行う方式が示されている。後者には、パターン媒体を用いて多重レベル記録(本明細書では多層記録と呼ぶ)を実現する方式が示されている。詳しくは、基板上に非磁性層を挟んだ2層の記録層を有する記録媒体において、基板に近い記録層を下層、基板から遠い記録層を上層とした時、上層の保磁力を下層より低くして、一度ヘッド磁界と熱をかけて上層と下層の磁化を同時に反転させた後(下層が記録される)、ヘッド磁界だけで上層を反転させる(上層が記録される)多重レベル記録を実現させる方法が示されている。しかし、高Ku材料を用いるとヘッド磁界だけでは磁化を反転させることはできず、また、3層以上の多重レベル記録方法については記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−25032号公報
【特許文献2】特開2005−190538号公報
【特許文献3】特開2010−118147号公報
【特許文献4】特開2003−45004号公報
【特許文献5】米国特許第5,820,768号明細書
【特許文献6】特開平10−233015号
【特許文献7】特開2010−55722号公報
【特許文献8】特開2005−166239号公報(米国特許第6,906,879号明細書)
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Jpn. J. Appl. Phys. Vol.38, p.1839, 1999
【非特許文献2】Optics Japan 2002 Extended Abstracts, 3pA6, 2002
【非特許文献3】J. Appl. Phys., vol.76, p.6673 1994
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記背景に鑑み、超高記録密度化を実現するという課題に対して、本発明は、熱アシスト磁気記録方式を用いて多層記録を行うための記録媒体及び記録方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の磁気記録媒体は、基板上に形成された2層以上の記録層を有し、各記録層は非磁性層等により磁気的に分離され、各記録層は分離領域によって囲まれた複数の磁気セルから構成されているパターン媒体である。上下の記録層の磁気セルは、膜厚方向に重なるように配置することができる。ここで、各記録層の磁気セルのキュリー温度は基板に近いほど高くする。
【0012】
熱アシスト磁気記録方式によって本発明の磁気記録媒体に記録を行うには、所望の磁気セルをそのキュリー温度近傍まで昇温し、記録磁界を印加して記録する。その際、所望の磁気セルよりも基板から遠い側にある磁気セルもキュリー温度以上に昇温されるため、所望の磁気セルと同じ方向に磁化が向く。次に、所望の磁気セルよりも基板から遠い側の磁気セルを、所望の磁気セルに近いものから順次記録していく。記録を行う時の記録温度は、そのターゲットとなる磁気セルのキュリー温度近傍とし、その磁気セルよりも基板に近い側の磁気セルのキュリー温度よりは低く、その磁気セルよりも基板から遠い側の磁気セルのキュリー温度よりは高くする。
【0013】
パターン媒体の磁気セルは、記録媒体の厚さ方向と記録媒体が回転する方向が作る面(同一トラックの媒体断面)において、各記録層の磁気セルに対してその記録層に隣接している上下記録層の磁気セルが記録媒体の回転方向に略重ならずに配置されていてもよい。即ち、媒体膜厚方向に磁気セルは隔層で配置されていてもよい。記録方法は、前記したように基板側の磁気セルから順次記録するが、このようなパターン媒体では、隔層おきに磁気セルがあるため、記録時間は、上下記録層の磁気セルが重なっているパターン媒体の最大半分ですむ。また、本パターン媒体のキュリー温度は、媒体回転方向と媒体半径方向が作る面(媒体平面)において同じ位置にある磁気セルにおいて、基板に近い側ほど高くすればよい。
【0014】
更に、再生信号が基板側の磁気セルほど弱くなることを鑑みて、基板に近い記録層の磁気セルは基板から遠い記録層の磁気セルに比べて飽和磁化値を大きくしたパターン媒体を用いてもよい。同じ理由で、基板に近い記録層の磁気セルの体積を基板から遠い記録層の磁気セルに比べて大きくしたパターン媒体を用いてもよい。
【0015】
更に、2層媒体に限定した場合、基板に近い記録層は従来のグラニュラー垂直磁気記録膜で、基板から遠い記録層をパターン膜としてもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の熱アシスト磁気記録用の多層磁気記録媒体及び記録方法によれば、超高記録密度化が実現可能となる。
【0017】
上記した以外の、課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施例1のパターン媒体の断面構造例を示す模式図。
【図2A】実施例1のパターン媒体の製造工程を示す図。
【図2B】実施例1のパターン媒体の製造工程を示す図。
【図2C】実施例1のパターン媒体の製造工程を示す図。
【図2D】実施例1のパターン媒体の製造工程を示す図。
【図2E】実施例1のパターン媒体の製造工程を示す図。
【図2F】実施例1のパターン媒体の製造工程を示す図。
【図3】本発明の垂直磁気記録媒体の異方性磁界Hkの温度依存性を示す図。
【図4】磁気ディスク装置の構造例を示す模式図。
【図5】熱アシスト磁気記録ヘッドの構成例を示す図。
【図6A】記録層が3層のパターン媒体に記録する手順を示した図。
【図6B】記録層が3層のパターン媒体に記録する手順を示した図。
【図6C】記録層が3層のパターン媒体に記録する手順を示した図。
【図6D】記録層が3層のパターン媒体に記録する手順を示した図。
【図7】計算機シミュレーションのための媒体モデル図。
【図8A】計算機シミュレーションを用いた記録手順を示す図。
【図8B】計算機シミュレーションを用いた記録手順を示す図。
【図8C】計算機シミュレーションを用いた記録手順を示す図。
【図8D】計算機シミュレーションを用いた記録手順を示す図。
【図9A】計算機シミュレーション結果を示す図。
【図9B】計算機シミュレーション結果を示す図。
【図9C】計算機シミュレーション結果を示す図。
【図9D】計算機シミュレーション結果を示す図。
【図10】記録磁化パターンと再生波形の一例を示す図。
【図11】実施例2のパターン媒体の断面構造例を示す模式図。
【図12】実施例2のパターン媒体の断面構造例を示す模式図。
【図13A】実施例2のパターン媒体の製造工程を示す図。
【図13B】実施例2のパターン媒体の製造工程を示す図。
【図13C】実施例2のパターン媒体の製造工程を示す図。
【図13D】実施例2のパターン媒体の製造工程を示す図。
【図13E】実施例2のパターン媒体の製造工程を示す図。
【図13F】実施例2のパターン媒体の製造工程を示す図。
【図13G】実施例2のパターン媒体の製造工程を示す図。
【図13H】実施例2のパターン媒体の製造工程を示す図。
【図13I】実施例2のパターン媒体の製造工程を示す図。
【図13J】実施例2のパターン媒体の製造工程を示す図。
【図14】計算機シミュレーションのための媒体モデル図。
【図15A】計算機シミュレーションを用いた記録手順を示す図。
【図15B】計算機シミュレーションを用いた記録手順を示す図。
【図16A】計算機シミュレーション結果を示す図。
【図16B】計算機シミュレーション結果を示す図。
【図17A】計算機シミュレーションを用いた記録手順を示す図。
【図17B】計算機シミュレーションを用いた記録手順を示す図。
【図17C】計算機シミュレーションを用いた記録手順を示す図。
【図18】実施例3のパターン媒体の断面構造例を示す模式図。
【図19】実施例3のパターン媒体の平面構造例を示す模式図。
【図20】実施例3のパターン媒体の断面構造例を示す模式図。
【図21】実施例4のパターン媒体の断面構造例を示す模式図。
【図22】実施例4のパターン媒体の記録パターンの一例を示す図。
【図23A】実施例4のパターン媒体の製造工程を示す図。
【図23B】実施例4のパターン媒体の製造工程を示す図。
【図23C】実施例4のパターン媒体の製造工程を示す図。
【図23D】実施例4のパターン媒体の製造工程を示す図。
【図23E】実施例4のパターン媒体の製造工程を示す図。
【図23F】実施例4のパターン媒体の製造工程を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【0020】
[実施例1]
図1は、本発明の実施例1によるパターン媒体の概略図である。図は媒体の膜厚方向zと媒体走行方向(ダウントラック方向)xがなす面(断面図)を示した。図において、媒体は、非磁性基板21、下地層22、垂直磁気記録層23がn層積層された多層記録層24、保護層25からなる。各垂直磁気記録層23の各磁気セル28は、FePt合金膜,CoCr合金膜,CoPd合金膜,CoPt合金膜,SmCo合金膜,Co/Pd多層膜,Co/Pt多層膜等の高Ku垂直磁気異方性材料で構成されている。各層の磁気セル28は、非磁性充填層26により分離されている。非磁性充填層は、例えばNiTi,SiO2,アルミナ(Al23等),スピン・オン・ガラス,CrTi,酸化物(酸化タングステン、酸化タンタル等),窒化物等からなる。更に、垂直磁気記録層の各層は例えばMgO,Ru,SiO2,Al23,Fe34,酸化物,窒化物等の非磁性層27によって磁気的に分離独立している。即ち、各記録層の上下の磁気セル28は磁気的に分離独立しており、それぞれ別のビットである。
【0021】
次に、本実施例のパターン媒体の製造方法について、垂直磁気記録層が3層の場合について、図2Aから図2Fを用いて説明する。まず、図2Aに示すように非磁性基板21上に下地層22、第一の垂直磁気記録層231を順次スパッタ法等により形成する。更に、非磁性層27、第二の垂直磁気記録層232、非磁性層27、第三の垂直磁気記録層233の順に垂直磁気記録層が合計3層になるまで形成し、その上に保護層29を形成する。ここで、各垂直磁気記録層のキュリー温度は、Ni,Ag,Cu等を添加することにより変えることができる。もしくは、上記高Ku材料の組み合わせで実現しうる。続いて、図2Bに示すように保護層29の上にレジストパターン30を形成する。続いて、図2Cに示すように、Arイオン等の不活性ガスを用いてエッチングによりレジストパターンを記録層に転写する。続いて、反応性イオンエッチングを用いて、残ったレジスト30と保護層29を除去する。この際、水素ガスを用いることにより記録層表面を変質させることなく除去できる。続いて、図2Dに示すようにスパッタ等を用いて、パターンを覆うように非磁性充填層26となる材料を溝に充填し、図2Eに示すように、反応性イオンエッチングや不活性ガスを用いたイオンエッチングなどにより非磁性充填層26の表面を平坦化する。続いて、不活性ガスを用いたイオンエッチングにより非磁性充填層を削り、最後に、図2Fに示すように、保護層25と潤滑層(図では省略)を形成してパターン媒体が製造できる。
【0022】
更に詳細には、非磁性基板21として例えば直径65mmのガラス基板を用いる。ガラス基板の上に下地層22として10nmのMgO、その上に、第一の垂直磁気記録層231として4nmのFePtにNiを添加して積層する。ここで、Fe元素は50原子%、Pt元素は45原子%、Ni元素は5原子%とする。続いて、非磁性層27としてMgOを2nm、第二の垂直磁気記録層232としてFePtを4nm積層する。ここで、第二の垂直磁気記録層232のキュリー温度を第一の垂直磁気記録層231のキュリー温度よりも低くするために、Fe元素は45原子%、Pt元素は45原子%、Ni元素は10原子%とする。同様に、非磁性層、第三の垂直磁気記録層233を積層する。第三の垂直磁気記録層233のキュリー温度を第二の垂直磁気記録層232のキュリー温度よりも低くするために、Fe元素は40原子%、Pt元素は45原子%、Ni元素は15原子%とした。保護層29は4nmのスパッタカーボンを用いる。次に、インプリント装置を用いて、インプリントレジストパターン30を形成する。レジストパターン30の総厚は70nmで、パターン301の高さは60nm、レジストの残渣302は10nmとする。なお、レジストパターンは露光装置を用いてフォトリソグラフィーにより形成することもできる。
【0023】
次に、リアクティブイオンエッチング装置を用いて、酸素ガス中でエッチングを行い、レジストパターンの凹部のレジスト残渣302と保護層29を除去する。次に、レジストをマスクとし、Arイオンビームを用いて記録層のエッチングを行う。次に、リアクティブイオンエッチング装置を用いて、水素ガス中でエッチングを行い、残ったレジストと保護層29を除去する。次に、非磁性充填層となるNiTiを成膜する。次に、エッチング装置を用いて非磁性充填層の表面の凹凸を2nm以下に減少させる。次に、イオンビームエッチング装置を用いて、非磁性充填層のエッチングをArイオンビームで行い、記録部の非磁性充填層を除去する。2次イオン質量分析でFeの検出を行い、検出量がバックグランドの2倍以上に増加したところでエッチングを終了する。次に、スパッタ装置を用いてカーボン保護層25、潤滑層(図では省略)を形成する。
【0024】
更に別の製造方法として、まず、リソグラフィにより基板にパターンを描き、パターン上のレジストの上に下地層、垂直磁気記録層を順次スパッタ法等により形成する。更に、非磁性層、下地層、垂直磁気記録層の順に合計n層形成し、その上に保護層を形成する。続いてレジストを除去することによりパターンを形成する。もしくは、基板の上にまず記録層を積層し、記録層にリソグラフィによりパターンを描き、リソグラフマスクによって記録層をエッチングし、レジストを除去してパターンを形成する。続いて、スパッタ等を用いて、パターンを覆うように非磁性材料を溝に充填し、続いて、反応性イオンエッチングや不活性ガスを用いたイオンエッチングなどを用いて非磁性充填層の表面を平坦化する。続いて不活性ガスを用いたイオンエッチングにより非磁性充填層を削り、最後に保護層と潤滑層を形成してパターン媒体が製造できる。
【0025】
さらに別の製造方法として、マスクを通したイオン照射により被照射領域の特性を変えることによっても製造することができる。イオン照射によるパターン状媒体製造工程の一例では、間隙は磁性パターンの垂直磁気特性に影響を与えない磁性材料によって形成される。
【0026】
図3は、各記録層の異方性磁界Hkの温度依存性を示した図である。これは、基板の上にMgO下地層とFePtNi記録層を1層だけ積層して、MHループ及びトルク曲線を、温度を変えて測定して求めた結果である。詳しくは、例えば、VSM(Vibrating Sample Magnetometer)などでMHループを測定して、飽和磁化Msの温度特性を測定する。次に、Kuの温度特性を、磁気異方性トルク計等で、電磁石を回転させることにより磁界の方向を変えて、媒体の各方向に働くトルクを測定して求める。Hkの温度特性は、Hk(T)=2×Ku(T)/Ms(T)の式(Tは温度)から求める。
【0027】
FePtNi記録層の組成は上記に示した3種類とした。即ち、Fe元素50原子%、Pt元素45原子%、Ni元素5原子%の記録層と、Fe元素45原子%、Pt元素45原子%、Ni元素10原子%の記録層と、Fe元素40原子%、Pt元素45原子%、Ni元素15原子%の記録層である。曲線401は図2Aから図2Fの工程で製造した多層媒体の第一の垂直磁気記録層231におけるHkの温度依存性、曲線402は第二の垂直磁気記録層232におけるHkの温度依存性、曲線403は第三の垂直磁気記録層233におけるHkの温度依存性にそれぞれ対応する。図3のTc1(=720K)は第一の垂直磁気記録層231のキュリー温度、Tc2(=650K)は第二の垂直磁気記録層232のキュリー温度、Tc3(=590K)は第三の垂直磁気記録層233のキュリー温度を意味する。ここで、各層の磁気セルは、キュリー温度前後に昇温して記録磁界を印加すれば、磁化が反転して記録される。更にTc3<Tc2<Tc1の関係があり、上下の記録層のTc間には十分な温度差があることが望ましい。
【0028】
こうして製造された本実施例の磁気記録媒体は、ディスク状の基板上に磁気的に相互に分離されて積層された複数の記録層を備え、各記録層は磁気的に相互に分離された複数の磁気セルを含む。各記録層の磁気セルは膜面垂直方向に互いに重なった状態で基板の回転方向に規則的に配置されており、複数の記録層に含まれる磁気セルのキュリー温度は、基板に近い記録層に含まれる磁気セルほど高く設定されている。
次に、垂直磁気記録層が3層の場合の記録方法について説明する。
【0029】
図4は、磁気ディスク装置の構造例を示す模式図である。磁気ディスク装置のドライブ内には通常一枚ないし数枚の磁気ディスク15が実装されている。本例の磁気ディスク15は、矢印10の方向に回転駆動される。図4中の拡大図に示すように、キャリッジ13の先端に固定された磁気ヘッドスライダー11の後端にある磁気ヘッド12は、ボイスコイルモータ14によって任意のトラックにアクセスし、磁気ディスク(媒体)上で情報の記録再生を行う。
【0030】
図5は、熱アシスト磁気記録装置で用いる記録ヘッドの構成例を示す断面模式図である。図5は、記録ヘッド100と再生ヘッド130を、媒体の膜厚方向z(図中の上下方向)かつ媒体走行方向xに平行な面で切断した場合における記録ヘッド周辺の断面構造を表している。
【0031】
記録ヘッド100は、上部磁極101と下部磁極102と主磁極103を備えている。上部磁極と下部磁極は接続部104で接続されている。更にこの上部磁極101には、導体パターン105が螺旋状に形成され、その両終端は外部に引き出されて磁気ヘッド駆動回路に接続されている。主磁極103は一端が上部磁極101に接続されている。上部磁極101、下部磁極102、主磁極103、接続部104、及び導体パターン105は全体として電磁石を構成しており、駆動電流によって主磁極103の先端部分近傍の磁気記録媒体120に記録磁界が印加される。更に、記録ヘッド100には、上部磁極101と下部磁極の間に挟まれた近接場光発生部110が設けられている。つまり、記録ヘッド100は磁気記録媒体120に対して矢印134の方向に移動するので、近接場光発生部110はヘッドリーディングエッジ135に設けられていることがわかる。近接場光発生部110は、レーザー光源111から照射された例えば波長720nmのレーザー光112が光導波路113を通り、記録媒体対向面の主磁極近傍に設けられた金属散乱体114に達すると、金属散乱体114先端部から近接場光115が発生され、磁気記録媒体120を加熱する。加熱された磁気記録媒体120に記録磁界を印加することにより記録が行われる。以上の構造を有する記録ヘッドは、薄膜形成プロセスとリソグラフィ・プロセスによって作製することができる。一方、再生ヘッド130は上部シールド131と下部シールド132で挟まれたGMR(巨大磁気抵抗効果)素子、又はTMR(トンネル磁気抵抗効果)素子133等で構成されている。
【0032】
図6Aから図6Dは、記録層が3層の本実施例のパターン媒体に記録する手順を示した図である。上下に重なった3層の磁気セル内の矢印は、磁化(磁気モーメント)の方向を示している。図6Aは初期記録磁化状態を示し、全ての層の磁化は下向きになっているとする。記録は、第一の垂直磁気記録層(最下層)の磁気セル136の磁化を上向き、第二の垂直磁気記録層(中層)の磁気セル137の磁化を下向き、第三の垂直磁気記録層(最上層)の磁気セル138の磁化を上向きに反転させるとする。
【0033】
記録温度をTrecとすると、まず、TrecがTc1近傍となり、Tc2<Trecの条件を満たすようにレーザーのパワーを調整して媒体に近接場光を照射し、上向きの記録磁界を印加する。記録磁界強度は、室温において印加しても磁化が反転しないような最適な磁界強度を設定すればよい。この条件にて記録を行うと、図6Bに示すように、全ての垂直磁気記録層の磁気セル136〜138は上向きに磁化反転する。次に、図6Cに示すように、TrecがTc2近傍となり、Tc3<Trec<Tc1を満たすように媒体を昇温して、下向きの記録磁界を印加する。これによって、第一の垂直磁気記録層の磁気セル136の磁化は反転しないが、第二、第三の垂直磁気記録層の磁気セル137,138の磁化は下向きに反転する。最後に図6Dに示すように、TrecがTc3近傍で、Trec<Tc2を満たすように媒体を昇温し、上向きの記録磁界を印加する。すると、第三の垂直磁気記録層の磁気セル138の磁化は上向きに反転する。これで記録が完了である。図6Aと図6Dを比較すると、第一の垂直磁気記録層の磁気セル136の磁化は上向き、第二の垂直磁気記録層の磁気セル137の磁化は下向き、第三の垂直磁気記録層の磁気セル138の磁化は上向きに反転して記録された状態となっている。ここで、記録は磁気ディスクを3回回転させることで完了する。
【0034】
他の層を記録する時も同様の記録方法で行う。即ち、磁気ディスクは最大3回回転させることになる。
【0035】
以下に、マイクロマグネティクスを用いた計算機シミュレーション手段によって、本実施例の媒体への記録を検証した結果を示す。
【0036】
計算には、Landau-Lifshitz-Gilbert方程式(J.Appl.Phys.75(2),15 Jan.1994)を用いた。媒体の構造は、図7に示すように、ビット長が20nm、磁気セル径が12nm、垂直磁気記録層231,232,233の厚さが4nm、非磁性層27の厚さが2nmのビットパターン媒体を仮定した。Hkの温度特性は図3と同じとした。ヘッド磁界は市販の三次元磁界解析プログラムJMAGを用いてシミュレートした。媒体膜中心に印加される実効的なヘッド磁界(Hx2+Hy21/2+|Hz|は、ヘッドリーディングエッジから20nm離れた位置(光照射位置に相当)で、全ての層の厚さ中心位置で約8kOeとなった。ヘッド・媒体間の磁気的なスペーシングは6nmとした。温度プロファイルは各層の厚さ中心位置で、半値幅15nmのガウシアン分布を仮定した。
【0037】
図8Aから図8Dは、計算機シミュレーションの記録手順を示した図である。初めに、図8Aに示すように媒体の磁化を全て上向きの磁化状態に初期化した。最終的に、第一の垂直磁気記録層の磁気セル136の磁化は下向き、第二の垂直磁気記録層の磁気セル137の磁化は上向き、第三の垂直磁気記録層のセル138の磁化は下向きに記録することとする。記録はまず、図8Bに示すように、主磁極103のヘッドリーディング側135から20nm離れた位置に近接場光115を照射して温度をTc1近傍の値である730Kまで昇温し、下向きのヘッド磁界139を印加し、3層ともに磁化を下向きにする。次に、温度をTc2近傍の値である660K(Tc1よりも低い)まで昇温し、上向きの磁界を印加して、図8Cに示すように、第二、第三の垂直磁気記録層の磁気セル137,138の磁化を上向きにする。最後に温度をTc3近傍の値である580Kまで昇温し、下向きの磁界を印加して、図8Dに示すように、第三の磁気セル138のみ下向きにする。
【0038】
図9Aから図9Dに、シミュレーションの結果を示す。図はダウントラック方向xとクロストラック方向yが作る平面図であり、第一から第三の磁気記録層を示した。また、平面の磁気セルの数を32×8で計算を行ったが、図は記録近傍のみを示している。図において、○印は磁気セルの磁化が上を向いていることを意味する。また、●は磁気セルの磁化が下を向いていることを意味する。図9Aは初期磁化状態である。全て磁化は上を向いている。図9Bは、左から10番目上から4番目の磁気セルを730Kまで昇温し、下向きの磁界を印加した結果である。これより、全ての層で磁化が下向きなった。図9Cは、660Kまで昇温し、上向きの磁界を印加した結果である。これより、第二、第三の垂直磁気記録層の磁気セル137,138の磁化は上向きとなったが第一の磁気セル136の磁化は下向きのままとなった。図9Dは、580Kまで昇温し、下向きの磁界を印加した結果である。これより、第三の垂直磁気記録層の磁気セルの磁化は下向きとなった。以上より、本記録方法によって、第一の磁気セル136は下向き、第二の磁気セル137は上向き、第三の磁気セル138は下向きに記録されることを確認した。
【0039】
図10に、本実施例の記録方法で記録した多層媒体の記録磁化パターンと再生信号の一例を示す。図は3層の記録層を仮定した。3層の場合、第一から第三の垂直磁気記録層の膜面垂直方向に重なった磁気セルの磁化パターンの組み合わせは2の3乗(=8)種類ある。従って、いま、図5の再生MR素子133で再生する第一層から第三層の信号の大きさの比を1:3:5とすると、図10に示したようにa〜hの8種類の記録磁化パターンに対して、それぞれ異なる再生信号が検出される。従って、再生信号の大きさにより、各層の磁化情報を判別することができる。
【0040】
[実施例2]
実施例1では、記録を行うのに磁気ディスクを最大、層数nに相当する回数だけ回転させるため、記録時間が通常の磁気ディスク装置のn倍となる。そこで、実施例2では、実施例1より記録時間を低減し、最大記録時間を偶数層ならばn/2倍、奇数層の場合は(n+1)/2にするための方法を示す。
【0041】
図11は、本実施例のパターン媒体の断面模式図(同一トラック)である。垂直磁気記録層は2層とした。図において、媒体は、非磁性基板21、下地層22、第一の垂直磁気記録層231、非磁性層27、第二の垂直磁気記録層232、保護膜25からなる。各層のセルは非磁性充填層26により分離されている。各垂直磁気記録層231,232の各セル28は、FePt合金膜、CoCr合金膜、CoPd合金膜、CoPt合金膜、SmCo合金膜、Co/Pd多層膜、Co/Pt多層膜等、高Ku垂直磁気異方性材料からなる。非磁性充填層26の材料としては、例えばNiTi,SiO2,アルミナ(Al23等),スピン・オン・ガラス,CrTi,酸化物(酸化タングステン,酸化タンタル等),窒化物等がある。更に、垂直磁気記録層の各層は例えばMgO,Ru,SiO2,Al23,Fe34,酸化物,窒化物等の非磁性層27によって磁気的に分離独立している。即ち、各層の上下の磁気セルは磁気的に分離独立しており、それぞれ別のビットである。
【0042】
実施例2の多層磁気記録媒体は、図のように、各記録層の磁気セルに対して、その記録層に隣接している上下記録層の磁気セルを、記録媒体の回転する方向に、略重ならずに配置させることを特徴とする。より具体的には、上下層の磁気セル28のサイズをビット長の半分とし、磁気セルの中心をビット長の半分の距離だけずらして配置した。更に、上下層の磁気セルのサイズを、図12に示すように、ビット長の半分以下にすれば、上下層の磁気セルを更に分離独立させて記録することができる。
【0043】
次に、本実施例のパターン媒体の製造方法について、図13Aから図13Jを用いて説明する。まず、図13Aに示すように、非磁性基板21として例えば直径65mmのガラス基板を用いる。ガラス基板の上に下地層22として10nmのMgO、第一の垂直磁気記録層231として4nmのFePtにNiを添加して積層する。ここで、Fe元素は50原子%、Pt元素は45原子%、Ni元素は5原子%とする。その上に保護層29を形成する。
【0044】
次に、図13Bに示すように、インプリント装置を用いて、インプリントレジストパターンを形成する。レジスト30の総厚は70nmでパターン301の高さは60nm、レジストの残渣302は10nmとする。なお、レジストパターンは露光装置を用いてフォトリソグラフィーにより形成することもできる。
【0045】
次に、図13Cに示すように、リアクティブイオンエッチング装置を用いて、酸素ガス中で、エッチングを行い、レジストパターンの凹部のレジスト残渣302と保護層29を除去する。次に、レジストをマスクとし、Arイオンビームを用いて記録層のエッチングを行う。次に、リアクティブイオンエッチング装置を用いて、水素ガス中でエッチングを行い、残ったレジスト30と保護層29を除去する。次に、図13Dに示すように、非磁性充填層26となるNiTiを成膜する。次に、エッチング装置を用いて非磁性充填層の表面の凹凸を2nm以下に減少させ、更に、図13Eに示すように、イオンビームエッチング装置を用いて非磁性充填層をArイオンビームでエッチングを行い記録部の非充填層を除去する。2次イオン質量分析でFeの検出を行い、検出量がバックグランドの2倍以上に増加したところでエッチングを終了する。
【0046】
続いて、図13Fに示すように、非磁性層27としてMgOを2nm形成し、その上に第二の垂直磁気記録層232としてFePtを4nm積層する。ここで、第二の垂直磁気記録層232のキュリー温度は第一の垂直磁気記録層231のキュリー温度と同じとするため、Fe元素は50原子%、Pt元素は45原子%、Ni元素は5原子%とした。その上に保護層29を形成する。続いて、図13Gに示すように、インプリント装置を用いて、インプリントレジストパターンを形成する。レジスト30の総厚は70nmでパターン301の高さは60nm、レジストの残渣302は10nmとする。なお、レジストパターンは露光装置を用いてフォトリソグラフィーにより形成することもできる。
【0047】
次に、図13Hに示すように、リアクティブイオンエッチング装置を用いて、酸素ガス中でエッチングを行い、レジストパターンの凹部のレジスト残渣302と保護層29を除去する。次に、レジストをマスクとし、Arイオンビームを用いて記録層のエッチングを行う。次に、リアクティブイオンエッチング装置を用いて、水素ガス中でエッチングを行い、残ったレジスト30と保護層29を除去する。次に、図13Iに示すように、非磁性充填層26となるNiTiを成膜する。次に、エッチング装置を用いて非磁性充填層26の表面の凹凸を2nm以下に減少させ、更にイオンビームエッチング装置を用いて非磁性充填層26をArイオンビームでエッチングを行い記録部の非磁性充填層を除去する。最後に図13Jに示すように、スパッタ装置を用いて保護層25、潤滑層(図では省略)を形成する。
【0048】
こうして製造された本実施例の磁気記録媒体は、ディスク状の基板上に磁気的に相互に分離されて積層された複数の記録層を備える。記録層は磁気的に相互に分離された複数の磁気セルを含み、上下に隣接する記録層の磁気セルは膜面垂直方向に互いに重ならない状態で基板の回転方向に規則的に配置されている。
【0049】
次に、マイクロマグネティクスを用いた計算機シミュレーション手段によって本実施例の媒体に対する記録を検証した結果を示す。
【0050】
ヘッド及び、温度分布の条件は実施例1と同じである。媒体の構造は、図14に示すようにビット長が20nm、磁気セルサイズが10nm(磁気セルサイズ=ビット長/2)、垂直磁気記録層231、232の厚さが4nm、非磁性層27の厚さが2nmのビットパターン媒体を仮定した。Hkの温度特性は、全ての層において図3に示した第一の垂直磁気記録層のHkの温度特性401とした。
【0051】
図15A、図15Bに計算手順を示す。本実施例の媒体において、まず、図15Aに示すように、媒体の磁化を全て上向きの磁化状態に初期化した。その後、反転させたい磁気セル136の温度をTc1近傍の値730Kまで昇温し、下向きの磁界を印加して、図15Bに示すように磁化を下向きに反転させる。本実施例の媒体は2層であり、上下の垂直磁気記録層の磁気セルを膜面垂直方向に互いに重ならないように配置しているので、1層の場合と同様に1回の記録過程だけで記録を完了させることができる。計算結果を図16A及び図16Bに示す。図16Aは初期状態を示す図である。上下層とも磁化は上向きである。図16Bは、第一の垂直磁気記録層の左から5番目上から4番目の磁気セルを730Kまで昇温し、下向きの磁界を印加した結果である。これより、第一の垂直磁気記録層の磁化は反転するが、第二の垂直磁気記録層は影響なく全て上向きの磁化であることを確認した。
【0052】
以上より、実施例2は実施例1と比較すると記録時間は半分で済むことが明らかになり、実施例2の効果を確認できた。
【0053】
上記実施例では2層を仮定したが、3層以上の場合は奇数層と偶数層のキュリー温度について、それぞれ基板側に近いほど高くしなければならない。
【0054】
図17Aから図17Cは、多層磁気記録媒体が3層の場合に、パターン媒体に記録する手順を示した概略図である。図において、図6Aなどと同様に、セル内の矢印は磁化(磁気モーメント)の方向を示している。今、第一の垂直磁気記録層の記録セル136の磁化は下向きに、第三の垂直磁気記録層の磁気セル138の磁気セルは上向きに反転させて記録することを考える。磁気セル136を含む第一の垂直磁気記録層231のキュリー温度をTc1とする。磁気セル136の上層の磁気セル138は、第二の垂直磁気記録層232ではなくて、第三の垂直磁気記録層233に含まれる。第三の垂直磁気記録層のキュリー温度をTc3とすると、Tc1>Tc3の関係があり、各層のキュリー温度には十分に温度差があることが望ましい。ただし、磁気セル136と138が十分に離れている場合は、Tc1とTc3は近接した値でもよい。この理由は後で示す。ここで、第二の垂直磁気記録層232のキュリー温度Tc2はTc1及びTc3に制限されない。なぜならば、第二の垂直磁気記録層232の磁気セルは第一、第三の垂直磁気記録層231,233の磁気セルとは磁気的に分離独立しているからである。
【0055】
図17Aのように、初期記録磁化状態を仮定する。第一の垂直磁気記録層の磁気セル136と第三の垂直磁気記録層の磁気セル138の磁化はともに上向きとなっている。まず、記録温度をTrecとすると、TrecはTc1近傍でありTc3<Trecの条件を満たすようにレーザーのパワーを調整して媒体に近接場光を照射し、下向きの記録磁界を印加する。記録磁界強度は、室温において印加しても磁化が反転しないような最適な磁界強度を設定すればよい。この条件にて記録を行うと、図17Bに示すように、第一の垂直磁気記録層と第三の垂直磁気記録層の磁気セル136,138の磁化は、下向きに磁化反転する。次に、記録温度TrecがTc3近傍で、Trec<Tc1を満たすように媒体を昇温して、上向きの記録磁界を印加する。これによって、図17Cに示すように、第一の垂直磁気記録層の磁気セル136の磁化は反転しないが、第三の垂直磁気記録層の磁気セル138の磁化は上向きに反転する。これで記録が完了である。即ち、第一の垂直磁気記録層の磁気セル136の磁化は下向きに、第三の垂直磁気記録層の磁気セル138の磁気セルは上向きに反転して記録された状態となっている。ここで、記録は、磁気ディスクを2回回転させることで完了する。従って、実施例1と比較すると記録時間は低減される。
【0056】
次に、磁気セル136と138が十分に離れている場合、Tc1とTc3は近接した値でもいい理由を示す。上下磁気セル間を適切な距離にすると、上下磁気セルに温度差が生じる。これより、例えば、磁気セル138はキュリー温度まで昇温するが、磁気セル136はキュリー温度よりも十分低温にすることができる。図17Aの初期状態から図17Bに示すように磁気セル136及び138の磁化をともに下向きにする時は、磁気セル136の温度がキュリー温度近傍になるようにレーザーパワーを高くすればよい。また、図17Cに示すように磁気セル138の磁化のみを上向きに反転させるためには、磁気セル138の温度のみがキュリー温度近傍になるようにレーザーパワーを低くすればよい。このように上下磁気セルが十分に離れている場合、膜厚方向に温度差が生じるため、キュリー温度は近接させることができる。
【0057】
[実施例3]
実施例3においては、再生時の出力信号がヘッドから遠ざかるほど劣化するのを防ぐための一例を示す。ここでは、本実施例を、実施例2のパターン媒体に対して適用した例について説明する。図18は、本実施例によるパターン媒体の膜厚方向と媒体走行方向がなす面(断面図)を示した。層数は簡単のため2層とした。図19は、パターン媒体の媒体走行方向とトラックに垂直方向(媒体半径方向)がなす面から見た平面模式図である。
【0058】
磁気セル136は第一の垂直磁気記録層231の磁気セル、磁気セル137は、第二の垂直磁気記録層232の磁気セルである。即ち、本実施例は、基板側に近い層の磁気セルほど磁気セルサイズを大きくした。磁気セルの体積を大きくすることにより、磁気セルの総磁化量を増加できる。即ち、ヘッドからの距離が離れても再生時の出力信号は劣化しない。
【0059】
図20は、基板側に近い層の磁気セルほど膜厚を厚くした例を示す断面模式図である。第一の垂直磁気記録層231の磁気セル136の膜厚140を第二の垂直磁気記録層232の磁気セル137の膜厚141よりも厚くすることにより、第二の垂直磁気記録層の磁気セルの体積を大きくすることができ、磁気セルの総磁化量を増加できる。更に、磁気セルサイズは同じでも、基板側に近いセルほど飽和磁化値を大きくすることにより、磁気セルの総磁化量を増加できる。
上記に示した方法は実施例1のパターン媒体についても適用できる。
【0060】
[実施例4]
実施例4の多層磁気記録媒体は、図21に示すように、非磁性基板21、下地層22、第一の垂直磁気記録層231、第二の垂直磁気記録層232、保護膜25を備える。ここで、第一の垂直磁気記録層231はグラニュラー膜であり、第二の垂直磁気記録層232はパターン膜である。グラニュラー記録膜とは、磁性結晶粒子が非磁性の粒界領域によって取り囲まれた構造を有し、非磁性粒界によって磁性粒子間の磁気的結合を弱めた記録膜である。第二の垂直磁気記録層232の磁気セル28は非磁性充填層26により互いに分離されている。本実施例の多層磁気記録媒体は上記実施例の媒体よりも製造過程が簡単であるが、第一の垂直磁気記録層231の粒径が十分小さいことが必要である。記録磁化パターンは、例えば図22のようになる。これは、第一の垂直磁気記録層231の磁化は全て上向きに、第二の垂直磁気記録層232の磁化は全て下向きに記録された場合である。
【0061】
本実施例のグラニュラー記録膜とパターン膜を組み合わせた複合媒体の製造方法を図23Aから図23Fに示す。まず、図23Aに示すように、非磁性基板21として例えば直径65mmのガラス基板を用いる。ガラス基板の上に下地層22として10nmのMgOを形成し、その上に第一の垂直磁気記録層231としてFePtにNiを添加した膜をスパッタ法により4nm形成する。ここで、Fe元素は50原子%、Pt元素は45原子%、Ni元素は5原子%とする。また、磁性粒子を微小化し、かつ磁性粒子を孤立させてグラニュラー記録膜を作るためにCを添加する。C以外にはOやSiO2を添加してもよい。その上に非磁性層27としてMgOを2nm形成する。非磁性層27は他に、Ru,SiO2,Al23,Fe34,酸化物,窒化物等でもよい。続いて、第二の垂直磁気記録層232として、FePtを同様に4nm積層する。ここで、第二の垂直磁気記録層232のキュリー温度を第一の垂直磁気記録層231のキュリー温度よりも低くするために、Fe元素は45原子%、Pt元素は45原子%、Ni元素は10原子%とする。続いて、その上に保護層29を形成する。
【0062】
次に、図23Bに示すようにインプリント装置を用いて、インプリントレジストパターンを形成する。レジスト30の総厚は70nmで、パターン301の高さは60nm、レジストの残渣302は10nmとする。なお、レジストパターンは露光装置を用いてフォトリソグラフィーにより形成することもできる。
【0063】
次に、図23Cに示すように、リアクティブイオンエッチング装置を用いて、酸素ガス中でエッチングを行い、レジストパターンの凹部のレジスト残渣302と保護層30を除去する。次に、レジストをマスクとし、Arイオンビームを用いて記録層のエッチングを行う。次に、リアクティブイオンエッチング装置を用いて、水素ガス中でエッチングを行い、残ったレジスト30と保護層29を除去する。次に、図23Dに示すように、非磁性充填層26となるNiTiを成膜する。次に、図23Eに示すように、エッチング装置を用いて非磁性充填層26の表面の凹凸を2nm以下に減少させ、更にイオンビームエッチング装置を用いて非磁性充填層26をArイオンビームでエッチングし、記録部の非磁性充填層を除去する。最後に、図23Fに示すように、スパッタ装置を用いて保護層25、潤滑層(図では省略)を形成する。
磁化情報の記録は実施例2に示した方法で行うことができる。
【0064】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0065】
11 磁気ヘッドスライダー
12 磁気ヘッド
13 キャリッジ
14 ボイスコイルモータ
15 磁気ディスク
100 記録ヘッド
101 上部磁極
102 下部磁極
103 主磁極
104 上部磁極と下部磁極の接続部
105 導体パターン
110 近接場光発生部
111 レーザー光源
112 レーザー光
113 光導波路
114 金属散乱体
115 近接場光
120 記録媒体
130 再生ヘッド
131 上部シールド
132 下部シールド
133 GMR又はTMR素子
135 ヘッドリーディングエッジ
136 第一の垂直磁気記録層の磁気セル
137 第二の垂直磁気記録層の磁気セル
138 第三の垂直磁気記録層の磁気セル
139 ヘッド磁界
140 第一の垂直磁気記録層の膜厚
141 第二の垂直磁気記録層の膜厚
21 非磁性基板
22 下地層
23 垂直磁気記録層
231 第一の垂直磁気記録層
232 第二の垂直磁気記録層
233 第三の垂直磁気記録層
24 多層記録層
25 保護層
26 非磁性充填層
27 非磁性層
28 磁気セル
29 保護層
30 レジストパターン
301 パターン
302 レジストの残渣

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディスク状の基板と、
前記基板上に形成され、磁気的に相互に分離されて積層された複数の記録層とを備え、
前記記録層は磁気的に相互に分離された複数の磁気セルを含み、
各記録層の磁気セルは膜面垂直方向に互いに重なった状態で前記基板の回転方向に規則的に配置されており、
前記複数の記録層に含まれる磁気セルのキュリー温度は、前記基板に近い記録層に含まれる磁気セルほど高いことを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項2】
請求項1記載の磁気記録媒体において、前記基板に近い記録層の磁気セルは前記基板から遠い記録層の磁気セルに比べて飽和磁化値が大きいことを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項3】
請求項1又は2記載の磁気記録媒体において、前記基板に近い記録層の磁気セルは前記基板から遠い記録層の磁気セルに比べて体積が大きいことを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項4】
磁気記録媒体と、前記磁気記録媒体に記録磁界を印加する磁極と、前記磁気記録媒体を加熱する加熱手段とを有する熱アシスト磁気記録装置において、
前記磁気記録媒体は、ディスク状の基板と、前記基板上に形成され、磁気的に相互に分離されて積層された複数の記録層とを備え、前記記録層は磁気的に相互に分離された複数の磁気セルを含み、各記録層の磁気セルは膜面垂直方向に互いに重なった状態で前記基板の回転方向に規則的に配置されており、前記複数の記録層に含まれる磁気セルのキュリー温度は前記基板に近い記録層に含まれる磁気セルほど高い磁気記録媒体であり、
記録時には、記録を行う所望の磁気セルを、当該磁気セルのキュリー温度近傍であって、当該磁気セルより前記基板に近い位置の磁気セルのキュリー温度よりは低く、当該磁気セルより前記基板から遠い位置の磁気セルのキュリー温度よりは高い温度に前記加熱手段によって加熱して、前記磁極から記録磁界を印加して記録を行い、
前記基板に近い側の記録層に含まれる磁気セルから前記基板から遠い側の記録層に含まれる磁気セルの順で順次記録を行うことを特徴とする熱アシスト磁気記録装置。
【請求項5】
ディスク状の基板と、
前記基板上に形成され、磁気的に相互に分離されて積層された複数の記録層とを備え、
前記記録層は磁気的に相互に分離された複数の磁気セルを含み、
隣接する記録層の磁気セルは膜面垂直方向に互いに重ならない状態で前記基板の回転方向に規則的に配置されていることを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項6】
請求項5記載の磁気記録媒体において、前記磁気記録媒体の回転方向及び半径方向に対して同じ位置にある磁気セルのキュリー温度は前記基板に近いほど高いことを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項7】
請求項5又は6記載の磁気記録媒体において、前記基板に近い記録層の磁気セルは前記基板から遠い記録層の磁気セルに比べて飽和磁化値が大きいことを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項8】
請求項5〜7のいずれか1項記載の磁気記録媒体において、前記基板に近い記録層の磁気セルは前記基板から遠い記録層の磁気セルに比べて磁気セルの体積が大きいことを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項9】
磁気記録媒体と、前記磁気記録媒体に磁界を印加する磁極と、前記磁気記録媒体を加熱する加熱手段とを有する熱アシスト磁気記録装置において、
前記磁気記録媒体は、ディスク状の基板と、前記基板上に形成され、磁気的に相互に分離されて積層された複数の記録層とを備え、前記記録層は磁気的に相互に分離された複数の磁気セルを含み、隣接する記録層の磁気セルは膜面垂直方向に互いに重ならない状態で前記基板の回転方向に規則的に配置されている磁気記録媒体であり、
記録時には、記録を行う所望の磁気セルを、当該磁気セルのキュリー温度近傍であって、当該磁気セルと膜厚方向に重なる位置にあり当該磁気セルより前記基板に近い位置の磁気セルのキュリー温度よりは低く、当該磁気セルと膜厚方向に重なる位置にあり当該磁気セルより前記基板から遠い位置の磁気セルのキュリー温度よりは高い温度に前記加熱手段によって加熱して、前記磁極から記録磁界を印加して記録を行い、
前記基板に近い側の記録層に含まれる磁気セルから前記基板から遠い側の記録層に含まれる磁気セルの順で順次記録を行うことを特徴とする熱アシスト磁気記録装置。
【請求項10】
ディスク状の基板と、
前記基板上に形成され、磁気的に相互に分離して積層された2層の記録層とを備え、
前記基板から遠い側の記録層は磁気的に相互に分離された複数の磁気セルを含み、前記複数の磁気セルは前記基板の回転方向に規則的に配置されており、
前記基板に近い側の記録層は磁性粒子が非磁性の粒界領域によって取り囲まれたグラニュラー記録膜であることを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項11】
請求項10記載の磁気記録媒体において、前記グラニュラー記録膜のキュリー温度が、前記磁気セルのキュリー温度よりも高いことを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項12】
請求項10又は11記載の磁気記録媒体において、前記グラニュラー記録膜の飽和磁化値が、前記磁気セルの飽和磁化値よりも大きいことを特徴とする磁気記録媒体。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図2D】
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【図2E】
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【図2F】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【図6D】
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【図7】
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【図8A】
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【図8B】
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【図8C】
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【図8D】
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【図9A】
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【図9B】
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【図9C】
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【図9D】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13A】
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【図13B】
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【図13C】
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【図13D】
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【図13E】
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【図13F】
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【図13G】
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【図13H】
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【図13I】
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【図13J】
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【図14】
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【図15A】
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【図15B】
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【図16A】
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【図16B】
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【図17A】
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【図17B】
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【図17C】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23A】
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【図23B】
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【図23C】
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【図23D】
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【図23E】
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【図23F】
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【公開番号】特開2012−198951(P2012−198951A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−61220(P2011−61220)
【出願日】平成23年3月18日(2011.3.18)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、超高密度ナノビット磁気記録技術の開発(グリーンITプロジェクト)委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】