説明

磁気記録媒体用ガラス素板および磁気記録媒体用ガラス基板の製造方法

【課題】主平面研磨工程の前に発生するキズ等の欠陥を防止し、主平面の平滑性に優れた磁気記録媒体用ガラス基板を高い生産性で歩留まりよく得る。
【解決手段】中央部に円孔を有する円盤形状の磁気記録媒体用ガラス基板を形成するためのガラス素板であって、少なくとも一方の主平面に、樹脂を含有する保護膜を有する磁気記録媒体用ガラス素板である。磁気記録媒体用ガラス基板の製造方法は、磁気記録媒体用ガラス素板準備工程と、前記ガラス素板を中央部に円孔を有する円盤形状のガラス基板に加工する形状付与工程と、前記ガラス基板の主平面を研磨する主平面研磨工程と、前記ガラス基板の洗浄工程とを有し、前記磁気記録媒体用ガラス素板準備工程は、ガラス素板の少なくとも一方の主平面に樹脂を含有する保護膜を形成し、磁気記録媒体用ガラス素板とする保護膜形成工程を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録媒体用ガラス素板と、それを用いる磁気記録媒体用ガラス基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、磁気記録媒体、特に磁気ディスク装置においては、急激な高記録密度化が進んでいる。磁気ディスク装置では、磁気ヘッドを高速回転する記録媒体(ディスク)上に僅かに浮上させて走査することによってランダムアクセスを実現しており、高記録密度と高速アクセスを両立させるために、磁気ディスクと磁気ヘッドとの間隔(ヘッド浮上量)を小さくすること、および磁気ディスクの回転数を上げることが求められる。磁気ディスクの基材は、従来アルミニウム(Al)にニッケル−リン(Ni−P)メッキを施した基板が主流であったが、アルミニウム合金基板に比べて硬く、磁気ヘッドによる基板表面への耐衝撃性に優れ、平坦性や平滑性に優れるガラス基板が使われるようになってきている。
【0003】
磁気ヘッドの浮上量を小さくする場合、磁気ディスクの主平面が平滑な面でないと、磁気ヘッドが主平面に接触して障害が生じるおそれがある。また、磁気ディスクの主平面の表面粗さが大きく磁気ヘッドとの距離が変動すると、リード・ライトの信頼性が低下するという問題がある。さらに、主平面にキズ等の欠陥があると、リード・ライトの歩留まりが低下するおそれがあるため、キズ等の欠陥がない主平面を有する磁気記録媒体用ガラス基板が要求されている。
【0004】
一般に、磁気記録媒体用ガラス基板は、ガラス素板を次の工程で加工しやすい形状に切断加工する工程、中央部に円孔を有する円盤形状に加工する円盤形状加工工程、円盤形状基板の内周端部および外周端部を研削加工する面取り工程、面取りされた内周端部および/または外周端部を研磨する端面研磨工程、端面研磨後のガラス基板の主平面を研磨する主平面研磨工程、およびガラス基板を洗浄して清浄度を高める洗浄工程などを経て製造される。上記各工程間には、必要に応じて、ガラス基板を洗浄する工程、ガラス基板をエッチングする工程を設けても良い。
【0005】
このような磁気記録媒体用ガラス基板の製造では、主平面研磨工程の前の加工工程で、複数枚のガラス基板の主平面同士を重ね合わせたり、あるいは主平面を直接保持したりすることが行われており、そのような重ね合わせや保持の際に、ガラスカレットや異物の挟み込みが生じやすかった。そのため、ガラス基板の主平面にキズ等の欠陥が生じやすいという問題があった。
【0006】
一般に、ガラス基板の主平面に生じたキズ等の欠陥は、主平面研磨工程で主平面を研磨することにより除去されるが、異物の挟み込み等により生じたキズの深さは一定ではないため、深いキズが主平面研磨工程で除去しきれず、キズ等の欠陥が製品に残留し、製品の歩留まりを低下させるおそれがあった。また、異物の挟み込み等により生じた深いキズ等の欠陥を除去するためには、主平面研磨工程における研磨量を多くする必要があり、かつ研磨量を多くする場合、製品として所定の板厚を確保するためにガラス素板の板厚を厚くする必要がある。そのため、材料のロスが大きく、かつ研磨加工等の作業に時間がかかる問題があった。
【0007】
なお、従来から、板ガラスの製造や搬送、輸送、加工工程でのキズ等の欠陥の発生を防止するために、ガラス板を亜硫酸ガス等で処理して表面に硫酸塩等の無機塩類からなる被膜を形成する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。しかしながら、特許文献1に記載された方法を、磁気記録媒体用ガラス基板の製造工程での前記キズ等の欠陥の防止に適用しようとしても、保護被膜の膜厚が極めて薄いため、ガラス基板の主平面の異物の挟み込み等によるキズ等の欠陥を十分に防止することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開WO2002/051767
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記問題を解決するためになされたもので、主平面研磨工程の前に発生するキズ等の欠陥、特に異物の挟み込み等により生じるキズ等の欠陥を防止し、主平面の平滑性に優れた磁気記録媒体用ガラス基板を歩留まりよく得るための磁気記録媒体用ガラス素板、および磁気記録媒体用ガラス基板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の磁気記録媒体用ガラス素板は、中央部に円孔を有する円盤形状の磁気記録媒体用ガラス基板を形成するための、主平面と側面とを有するガラス素板であって、少なくとも一方の主平面に、樹脂を含有する保護膜を有することを特徴とする。
【0011】
本発明の磁気記録媒体用ガラス素板において、前記保護膜は、中央部に円形の穴部を有する円環形の平面形状を有することが好ましい。また、前記保護膜は、0.01mm〜0.5mmの膜厚を有することが好ましい。
【0012】
本発明の磁気記録媒体用ガラス基板の製造方法は、主平面と側面とを有する磁気記録媒体用ガラス素板を準備する磁気記録媒体用ガラス素板準備工程と、前記磁気記録媒体用ガラス素板を、中央部に円孔を有する円盤形状のガラス基板に加工する形状付与工程と、前記ガラス基板の主平面を研磨する主平面研磨工程と、前記ガラス基板の洗浄工程とを有する磁気記録媒体用ガラス基板の製造方法であって、前記磁気記録媒体用ガラス素板準備工程は、ガラス素板の少なくとも一方の主平面に、樹脂を含有する保護膜を形成して磁気記録媒体用ガラス素板とする保護膜形成工程を有することを特徴とする。
【0013】
本発明の磁気記録媒体用ガラス基板の製造方法において、前記保護膜形成工程は、前記ガラス素板の少なくとも一方の主平面に液状の硬化性樹脂を含有する組成物を印刷または塗布する工程と、該印刷層または塗布層を硬化させる工程とを有することができる。また、前記保護膜形成工程は、前記ガラス素板の少なくとも一方の主平面に樹脂を含有する保護膜を貼り合わせる工程を有することができる。また、前記保護膜形成工程で形成された前記保護膜は、中央部に円形の穴部を有する円環形の平面形状を有することが好ましい。さらに、前記保護膜形成工程で形成された前記保護膜は、0.01mm〜0.5mmの膜厚を有することが好ましい。またさらに、前記形状付与工程と前記主平面研磨工程との間に、前記保護膜を除去する保護膜除去工程を有することが好ましい。
なお、本明細書において、保護膜形成前のガラス板を「ガラス素板」と記載する。そして、この「ガラス素板」の主平面に保護膜が形成された構造のものを、「磁気記録媒体用ガラス素板」とし、「ガラス素板」と「磁気記録媒体用ガラス素板」とは区別して記載する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の磁気記録媒体用ガラス素板および磁気記録媒体用ガラス基板の製造方法によれば、主平面研磨工程の前に発生するキズ等の欠陥を防止し、主平面の平滑性に優れ凹形状の欠陥がない磁気記録媒体用ガラス基板を歩留まりよく得ることができる。また、磁気記録媒体用ガラス基板の製造に提供する磁気記録媒体用ガラス素板およびガラス素板の厚さを薄くして研磨量を少なくすることができ、材料のロスの低減および生産性の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明により製造される磁気記録媒体用ガラス基板の断面斜視図である。
【図2】本発明の磁気記録媒体用ガラス素板の一実施形態を示す平面図である。
【図3】本発明の実施形態において、保護膜形成用の樹脂材料を印刷する方法の一例を示す図である。
【図4】本発明の実施形態において、印刷等により形成された樹脂組成物の硬化方法の一例を示す図である。
【図5】本発明の実施例である例1〜3の磁気記録媒体用ガラス基板の製造方法を示すフローチャートである。
【図6】本発明の実施例である例4〜6の磁気記録媒体用ガラス基板の製造方法を示すフローチャートである。
【図7】本発明の実施例である例7〜9の磁気記録媒体用ガラス基板の製造方法を示すフローチャートである。
【図8】本発明の実施例である例10、および比較例である例11の磁気記録媒体用ガラス基板の製造方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態について説明するが、本発明は以下に記載される実施形態に限定されない。
【0017】
<磁気記録媒体用ガラス素板>
本発明の磁気記録媒体用ガラス素板は、中央部に円孔を有する円盤形状の磁気記録媒体用ガラス基板を製造するためのガラス素板である。
まず、本発明の磁気記録媒体用ガラス素板を用いて製造される磁気記録媒体用ガラス基板の一例を、図1に示す。図1に示す磁気記録媒体用ガラス基板10は、中央部に円形の貫通孔である円孔11を有する円盤形状を有し、円孔11の内壁面である内周側面101と、外周側面102、および上下1対の主平面103からなる円盤形状を有している。そして、内周側面101および外周側面102と上下両方の主平面103との交差部に、それぞれ面取り部104(内周面取り部および外周面取り部)が形成されている。
【0018】
本発明の磁気記録媒体用ガラス素板の一例を、図2に示す。図2に示す磁気記録媒体用ガラス素板20は、上下1対の主平面と側面とを有しており、少なくとも一方の主平面21に、樹脂を含有する保護膜22を有する。保護膜22を構成する樹脂としては、液状で塗布後に硬化膜を形成する硬化型樹脂、例えば、熱硬化型樹脂、光硬化型樹脂などの反応硬化型樹脂を挙げることができる。硬化作業の安全性、作業環境、取り扱い容易性等の観点から、光硬化型樹脂が好ましく、可視光硬化型樹脂がより好ましい。また、硬化物のガラスに対する接着性(密着性)が良好であり、しかも剥離が容易である樹脂が好ましく、有機溶剤で剥離するタイプの樹脂よりも、水または温水で剥離可能な樹脂が好ましい。また、樹脂を含有する保護膜22は、樹脂フィルムを貼合して形成してもよい。
保護膜22を形成するための好ましい樹脂材料と保護膜22の形成方法については、後述する磁気記録媒体用ガラス基板の製造方法の項で説明する。
【0019】
保護膜22の平面形状は、図2に示すように、中央部に円形の穴部を有する円環形、すなわちドーナツ形とすることが好ましい。そして、そのようなドーナツ形の保護膜22の外径寸法および円形穴部の内径寸法は、いずれも、後述する円形加工工程後のガラス基板の主平面の外径寸法および円孔の内径寸法と同じであることが好ましく、面取り加工後の前記寸法と同じであることがより好ましい。さらに、主平面研磨前の加工工程で保護膜を削り取ることがなく、加工作業性が良好なうえに保護膜材料の損失分が少ないという理由で、保護膜22の外径寸法および円形穴部の内径寸法は、最終製品である磁気記録媒体用ガラス基板の前記寸法と同じであることが特に好ましい。
【0020】
なお、保護膜22は、前記ドーナツ形等の平面領域を隙間なく被覆した、いわゆるベタ膜状のものに限定されず、この平面領域を格子状またはドット状等の小サイズのパターンで埋めたものでもよい。格子状またはドット状等のパターンでドーナツ形状を形成した保護膜22は、主平面の保護の点では前記ベタ膜状の保護膜に劣るが、剥離が容易であるうえに、樹脂などの保護膜材料の使用量を低減できるというメリットがある。
【0021】
保護膜22の膜厚は0.01mm〜0.5mmとすることが好ましい。保護膜22の膜厚が0.01mm未満の場合には、ガラスカレットや異物の挟み込み等による主平面のキズ等の欠陥を十分に防止することができないおそれがある。また、膜厚が0.5mmを超える場合には、保護膜22の除去に時間がかかる、保護膜22を形成する樹脂材料の硬化に時間がかかる、などの不具合が生じるおそれがある。さらに、保護膜22の形成から主平面研磨までの間に実施する他の加工工程(例えば、端面研磨工程など)において、生産性を低下させるおそれもある。保護膜22の膜厚は、0.05mm〜0.5mmが好ましく、0.05mm〜0.4mmがさらに好ましく、0.06mm〜0.2mmが特に好ましい。
【0022】
このように、ガラス素板の少なくとも一方の主平面に樹脂を含有する保護膜を有する磁気記録媒体用ガラス素板を使用し、以下に示す方法で磁気記録媒体用ガラス基板を製造することで、主平面研磨工程の前に発生するキズ等の欠陥を防止し、平滑性に優れた主平面を有する磁気記録媒体用ガラス基板を歩留まりよく得ることができる。また、ガラス素板の厚さを薄くして研磨量を少なくすることができ、ガラス材料等のロスの低減および研磨時間の短縮などによる生産性の向上を図ることができる。
【0023】
<磁気記録媒体用ガラス基板の製造方法>
本発明の実施形態に係る磁気記録媒体用ガラス基板の製造方法は、
(1)磁気記録媒体用ガラス素板準備工程と、
(2)形状付与工程と、
(3)端面研磨工程と、
(4)保護膜除去工程と、
(5)主平面研磨工程と、
(6)洗浄工程と、を有している。そして、(1)磁気記録媒体用ガラス素板準備工程は、ガラス素板の少なくとも一方の主平面に、樹脂を含有する保護膜を形成する保護膜形成工程(1a)を有することを特徴とする。
【0024】
実施形態の磁気記録媒体用ガラス基板の製造方法において、各工程間に、ガラス基板の洗浄(工程間洗浄)やガラス基板表面(ガラス基板の一部または全面(例えば、主平面、内周端面および外周端面のうち少なくとも一部))のエッチング(工程間エッチング)を実施してもよい。また、磁気記録媒体用ガラス基板に高い機械的強度が求められる場合、ガラス基板の表層に強化層を形成する強化工程(例えば、化学強化工程)を、主平面研磨工程前または主平面研磨工程後、あるいは主平面研磨工程の間(一次研磨と二次研磨との間、または二次研磨と三次研磨との間)に実施してもよい。
以下、各工程について説明する。
【0025】
(1)磁気記録媒体用ガラス素板準備工程
(1)磁気記録媒体用ガラス素板準備工程は、主平面と側面とを有し、少なくとも一方の主平面に樹脂を含有する保護膜を有するガラス素板、すなわち磁気記録媒体用ガラス素板を準備する工程であり、ガラス素板の表面に保護膜を形成する保護膜形成工程(1a)と、表面に保護膜が形成されたガラス素板を所定の大きさに切断する切断工程(1b)を有する。
【0026】
ガラス素板を構成するガラスは、アモルファスガラスでも結晶化ガラスでもよく、表層に強化層を有する強化ガラス(例えば、化学強化ガラス)でもよい。また、ガラス素板は、フロート法で成形されたものでも、フュージョン法、ダウンドロー法、リドロー法、ロールアウト法またはプレス成形法で成形されたものでもよい。
【0027】
(1a)保護膜形成工程
保護膜形成工程においては、ガラス素板の少なくとも一方の主平面に樹脂を含有する保護膜を形成する。保護膜の形成は、ガラス素板の一方の主平面でもよいが、両方の主平面に保護膜を形成することが好ましい。
【0028】
保護膜を構成する樹脂としては、熱硬化型樹脂、光硬化型樹脂などの硬化型樹脂が挙げられる。これらの硬化型樹脂のうちで、光硬化型樹脂としては、可視光硬化型樹脂および紫外線硬化型樹脂が挙げられる。可視光硬化型樹脂として、具体的には、アクリル系樹脂、ポリチオール変性アクリル樹脂等が例示され、紫外線硬化型樹脂としては、エポキシ系樹脂、アクリル系樹脂、メタクリル系樹脂、ポリイミド系樹脂、シリコーン樹脂、エポキシアクリレート樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、オキセタン樹脂、ビニルエーテル樹脂、ベンゾオキサジン樹脂等が例示される。また、熱硬化型樹脂としては、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、酢酸ビニル樹脂等が例示される。
【0029】
樹脂を含有する保護膜を、ガラス素板の少なくとも一方の主平面に樹脂フィルムを貼り合わせて形成する場合、樹脂フィルムとしては、ポリエチレンテレフタレート系フィルム、シリコーン樹脂系フィルム、ポリ塩化ビニル樹脂フィルム、ポリエチレン系フィルム、ポリオレフィン系フィルム、ポリエステル系フィルム、フッ素樹脂系フィルム、ポリカーボネート系フィルム、ポリプロピレン系フィルム、ポリフェニレンサルファイド系フィルム、パラ系アラミドフィルム、ポリ乳酸フィルム、ポリイミド系フィルム、ナイロン系フィルム等が例示される。
【0030】
前記したように、硬化作業の安全性、作業環境、取り扱い容易性等の観点から、光硬化型樹脂が好ましく、可視光硬化型樹脂がより好ましい。また、硬化物のガラスに対する接着性(密着性)が良好であり、しかも剥離が容易である樹脂が好ましく、有機溶剤で剥離するタイプの樹脂よりも、水または温水で剥離可能な樹脂が好ましい。
なお、前記した硬化型樹脂は、熱、光により硬化可能な樹脂であり、本発明における保護膜は、実際にはそのような硬化型樹脂の硬化物により構成されるが、本明細書においては、保護膜を構成する樹脂で硬化後のもの(樹脂硬化物)を「硬化樹脂」とも記載し、そのような「硬化樹脂」を形成するための樹脂材料(硬化性樹脂を含有する組成物)を「硬化性樹脂組成物」とも記載するものとする。
【0031】
このような硬化型樹脂からなる保護膜中には、樹脂を主体とするマイクロビーズまたはマイクロカプセル(平均粒子径0.005〜0.5mm)、またはシリカ粒子(平均粒子径0.005〜0.1mm)を含有させることもできる。含有割合は、保護膜を構成する樹脂に対して88質量%以下が好ましい。なお、本明細書において、平均粒子径は、粒度分布の累積50%点の粒子直径であるd50を示すものとする。粒径は、レーザー回折方式またはレーザー散乱方式等の粒度分布計、または走査型電子顕微鏡(SEM)を使用して測定した値である。
【0032】
使用可能なマイクロビーズまたはマイクロカプセルとしては、以下のものを挙げることができる。
・高分子中空微小球コンポジットハイブリッド中空微小球
…………マツモトマイクロスフェアーMFLシリーズ(松本油脂製薬(株)製)
・高分子中空微小球コンポジット(外殻熱可塑性樹脂+内部脂肪族炭化水素発泡剤)
…………クレハマイクロスフェアー((株)クレハ製)
・熱膨張性マイクロカプセル(熱可塑性高分子外殻+低沸点炭化水素内核)
…………マツモトマイクロスフェアーF、FNシリーズ(松本油脂製薬(株)製)
・熱膨張性マイクロカプセル(外殻樹脂に発泡剤(液状の炭化水素)を内包)
…………EXPANCEL(日本フィライト(株)製)
・マイクロビーズ(ポリメタクリル酸メチルからなる微粒子)
…………マツモトマイクロスフェアーMシリーズ(松本油脂製薬(株)製)
・マイクロビーズ(架橋ポリアクリル酸アルキルからなるゴム状弾性を有する微粒子)
…………マツモトマイクロスフェアーSシリーズ(松本油脂製薬(株)製)
・親水性マイクロビーズ(アクリル系ポリマー微粒子)
・微小樹脂ビーズ(アクリルビーズ、ポリエチレンビーズ、ポリプロピレンビーズ、ポリ塩化ビニルビーズ、ポリスチレンビーズ)
【0033】
このような微小粒子(マイクロビーズまたはマイクロカプセル)を保護膜に含有させることで、保護膜を構成する硬化型樹脂の量を少なくすることができる、膜厚のコントロールが容易である、温水で剥がしやすい、ガラス基板同士が密着しにくい、端面研磨後にガラス基板積層体からガラス基板を分離することが容易となる、などの利点がある。
【0034】
硬化樹脂からなる保護膜を形成するための好ましい樹脂材料(硬化性樹脂組成物)として、例えば、クリアプレストCP3722(商品名:(株)アーデル製)を挙げることができる。この樹脂材料は、熱膨張性のマイクロカプセルを含有する高沸点メタクリレートおよび高沸点ジメタクリレートを主成分とする液状材料であり、可視光を照射することにより硬化し、アクリル系樹脂を主体とする接着性の良好な保護膜を形成する。また、こうして形成された保護膜は、温水に浸漬することで容易に剥離される。
【0035】
前記硬化樹脂からなる保護膜を形成するには、該硬化樹脂を形成するための樹脂材料である液状の硬化性樹脂組成物を、ガラス素板の少なくとも一方の主平面に印刷または塗布して印刷層または塗布層を形成した後、該印刷層または塗布層を硬化させる。印刷方法および塗布方法としては、以下に示す方法を挙げることができる。
【0036】
(1)印刷方法
凸版印刷(活版印刷)、凹版印刷(グラビア印刷)、平版印刷(オフセット印刷)、孔版印刷(スクリーン印刷)などの版式を用いて、あるいはインクジェット方式を用いて、液状の硬化性樹脂組成物を所定の形状に印刷する。
【0037】
なお、凸版印刷(活版印刷)としては、図3に示すように、浸透方式による印刷を行うこともできる。図3において、符号30は浸透式スタンパーを示し、符号31はガラス素板を示す。また、符号32は、印刷層を示す。このスタンパー30は、多孔質のゴム等からなり、印刷すべき所定のパターン形状(例えば、ドーナツ形状)を有する印刷部301と、印刷部301上に設けられ、微細な連続気泡内に液状の硬化性樹脂組成物を内蔵する吸蔵部302とを有している。そして、ガラス素板31の上に印刷部301を押し付けることで、吸蔵部302から印刷部301に浸透させた前記液状の硬化性樹脂組成物をガラス素板31の主平面に転写し、印刷部301と同形状の印刷層32を形成する。
【0038】
(2)塗布方法
刷毛塗り、ローラー塗り、吹付塗装(スプレー、エアレススプレー)、ロールコーターなどにより、ガラス素板の主平面に所定の平面形状(例えば、ドーナツ形状)の塗布層を形成する。
【0039】
こうしてガラス素板の主平面に形成された印刷層または塗布層(以下、印刷層等とも示す。)は、樹脂の種類に対応する硬化手段、すなわち可視光または紫外線の照射、加熱等の硬化手段を付加することにより、硬化させることができる。
例えば、光硬化性樹脂を主成分とする液状の樹脂組成物の硬化は、図4に示すように、行うことができる。すなわち、印刷層等41が形成されたガラス素板42を、コンベアベルト43により連続的に移動させながら、可視光源44からの光を印刷層等41に照射して硬化させる方式を採ることができる。
【0040】
なお、このような硬化型樹脂からなる保護膜の形成では、硬化により前記硬化樹脂を形成する液状の硬化性樹脂組成物を印刷または塗布し、印刷層等を硬化させる方法を採るが、予めドーナツ形状等の所定の形状に形成した粘着剤付き樹脂フィルムまたは自己粘着タイプの樹脂フィルムを、ガラス素板の主平面に貼り合せることにより、保護膜を形成することもできる。このような保護膜形成用の樹脂フィルムとしては、ポリ塩化ビニル樹脂フィルム、ポリエチレン系フィルム、ポリオレフィン系フィルム、ポリエステル系フィルム、フッ素樹脂系フィルム、ポリカーボネート系フィルム、ポリプロピレン系フィルム、ポリフェニレンサルファイド系フィルム、パラ系アラミドフィルム、ポリ乳酸フィルム、ポリイミド系フィルム、ポリエチレンテレフタレート系フィルム、シリコーン樹脂系フィルム、ナイロン系フィルム等が挙げられる。
【0041】
(1b)切断工程
(1b)切断工程では、主平面に所定の形状(例えば、ドーナツ形状)の保護膜が形成されたガラス素板を、保護膜の外周を囲むように所定の形状およびサイズに切断し、所定の平面形状(例えば正方形等の矩形の平面形状、または円盤形状)を有する小板とする。この切断工程(1b)は、保護膜形成工程(1a)の前に行ってもよい。すなわち、大サイズのガラス素板を、磁気記録媒体用ガラス基板の1枚に相当する大きさの小板に切断した後に、小板の一枚毎に前記ドーナツ形等の平面形状を有する保護膜を形成してもよい。または、プレス成型により円盤形状もしくはドーナツ形状に成型したガラス素板に対して、一枚ごとに、前記ドーナツ形状等の平面形状を有する保護膜を形成してもよい。こうして、所定の形状および大きさを有し、かつ少なくとも一方の主平面に保護膜を有する磁気記録媒体用ガラス素板が得られる。
【0042】
(1c)第1の主平面研削工程
(1c)第1の主平面研削工程においては、ガラス素板の上下両主平面、または、保護膜形成工程(1a)の前に設けられた切断工程(1b)で所定の大きさおよび形状に切断されたガラス素板の主平面を、研削する。この主平面研削では、両面研削装置または片面研削装置により、遊離砥粒を用いた遊離砥粒研削、または固定砥粒工具を用いた固定砥粒研削を行う。遊離砥粒および固定砥粒としては、平均粒子径が後述する第2の主平面研削工程で使用する砥粒の平均粒子径よりも大きいダイヤモンド粒子、アルミナ粒子、炭化ケイ素粒子等を使用することができる。
【0043】
(2)形状付与工程
(2)形状付与工程は、所定の大きさを有する平面形状を有し、少なくとも一方の主平面に保護膜を有する磁気記録媒体用ガラス素板を、中央部に円孔を有する円盤形状のガラス基板に加工する工程であり、(2a)円形加工工程と(2b)面取り工程を有する。なお、保護膜形成工程(1a)後に切断工程(1b)を行うフローでは、切断工程(1b)を(2)形状付与工程に入れることもできる。
【0044】
(2a)円形加工工程
(2a)円形加工工程では、前記磁気記録媒体用ガラス素板を円形に切り出すとともに、中央部に円孔(円形の貫通孔)を形成する。
(2b)面取り工程
(2b)面取り工程では、円形加工されたガラス基板の内周側面と上下両方の主平面との交差部、および外周側面と上下両方の主平面との交差部にそれぞれ面取り加工を行い、内周面取り部および外周面取り部を形成する。
【0045】
(3)端面研磨工程
(3)端面研磨工程では、ガラス基板の円形加工および面取り加工の際に生じたキズ等を除去するとともに、面取り加工で端面に形成された凸凹の研削面を平滑化し、端面の粗さを低減するために、内周端面(内周側面および内周面取り部)と外周端面(外周側面および外周面取り部)の研磨を行う。端面研磨後に内周端面のエッチングを行うこともできる。
【0046】
(3)端面研磨工程においては、例えば、複数のガラス基板の複数枚を積層してガラス基板積層体を形成し、砥粒を含有する研磨液と研磨ブラシを用いて内周端面と外周端面を研磨する。内周端面の研磨と外周端面の研磨を同時に行うことも、別々に行うこともできる。また、内周端面の研磨または外周端面の研磨のうち一方のみを実施してもよい。内周端面の研磨と外周端面の研磨を別々に行う場合、行う順序は特に限定されず、どちらの研磨を先に行ってもよい。例えば、ガラス基板を積層したガラス基板積層体に対して外周端面の研磨を行い、次いでガラス基板積層体のままで内周端面の研磨を行った後、ガラス基板積層をばらしてガラス基板を1枚ずつカセット等に収納し、次工程に送る方法を採ることができる。
【0047】
砥粒としては、酸化セリウム粒子、シリカ粒子、アルミナ粒子、ジルコニア粒子、ジルコン粒子、炭化ケイ素粒子、炭化ホウ素粒子、ダイヤモンド粒子等を用いることができる。研磨速度の点から、酸化セリウム粒子の使用が好ましい。砥粒の平均粒子径は、端面研磨の効率(研磨速度)と研磨により得られる端面の平滑性等の観点から、0.1〜5μmとすることが好ましい。なお、前記したように、本明細書において平均粒子径は、粒度分布の累積50%点の粒子直径であるd50を示すものとする。粒子径は、レーザー回折方式またはレーザー散乱方式等の粒度分布計を使用して測定した値である。
【0048】
(4)保護膜除去工程
保護膜除去工程では、ガラス基板の主平面の保護膜を、後述する(5)主平面研磨工程の前に除去する。保護膜の除去は、保護膜を直接剥がし取る方法や、水、温水、または有機溶剤等に浸漬して保護膜を剥離または溶解することにより行う。また、(5)主平面研磨工程の前に主平面を研削する工程(第2の主平面研削工程)を設け、この工程で保護膜を研削して除去してもよい。なお、水、温水または有機溶剤等により保護膜を剥離した後、さらに前記第2の主平面研削工程を行ってもよい。さらに、このような(4)保護膜除去工程を省くこともできる。すなわち、(5)主平面研磨工程における研磨速度は低下するが、保護膜が付いたままのガラス基板に対して主平面研磨を行うことも可能である。
【0049】
(4a)保護膜剥離工程
(4a)保護膜剥離工程では、ガラス基板を水、温水または有機溶剤等の剥離性または溶解性の溶媒に浸漬し、保護膜を構成する樹脂を軟化・膨潤・溶解させることにより保護膜をガラス基板から剥離し、または溶解して除去する。剥離性溶媒は、保護膜を構成する樹脂の種類に合わせて選択することができる。また、ガラス基板を水、温水または有機溶剤等の剥離性または溶解性の溶媒中に浸漬した際に、超音波を照射してもよい。
【0050】
(4b)第2の主平面研削工程
(4b)第2の主平面研削工程においては、ガラス基板の平坦度や板厚を調整する。また、ガラス基板の主平面を研削することで、主平面に形成された保護膜を削り落してもよい。第2の主平面研削では、両面研削装置または片面研削装置により、遊離砥粒を用いた遊離砥粒研削、または固定砥粒工具を用いた固定砥粒研削を行う。遊離砥粒および固定砥粒としては、例えば平均粒子径が0.5〜10μmのダイヤモンド粒子、アルミナ粒子、炭化ケイ素粒子等を使用することができる。
【0051】
(5)主平面研磨工程
磁気記録媒体用ガラス基板の製造において、主平面の研磨は、円形加工や面取り加工、主平面の研削等の際に生じたキズ等を除去し、凹凸を平滑化して鏡面とする目的で行われる。(5)主平面研磨工程では、砥粒を含有する研磨液と発泡樹脂製の研磨パッド(硬質研磨パッドまたは軟質研磨パッド)とを使用し、両面研磨装置により上下両主平面の研磨を行うことが好ましい。
【0052】
砥粒としては、シリカ粒子、アルミナ粒子、ジルコニア粒子、ジルコン粒子、酸化セリウム粒子等を使用できる。一次研磨のみを行ってもよいが、一次研磨を行った後、平均粒子径がより小さい砥粒を使用して二次研磨を行ってもよい。また、二次研磨の後にさらに粒子径の小さい砥粒を使用して三次研磨(仕上げ研磨)を行ってもよい。
【0053】
(6)洗浄工程
(6)洗浄工程では、主平面が研磨されたガラス基板に対して、例えば、洗剤を用いたスクラブ洗浄を行った後、洗剤溶液に浸漬した状態での超音波洗浄、純水に浸漬した状態での超音波洗浄を順次行う。洗浄後は、乾燥を実施する。乾燥方法としては、例えばイソプロピルアルコール蒸気による蒸気乾燥、温風による温水温風乾燥、スピン乾燥等がある。こうして得られた磁気記録媒体用ガラス基板の上に、磁性層などの薄膜を形成し、磁気ディスクを製造する。
【0054】
本発明の実施形態に係る磁気記録媒体用ガラス基板の製造方法によれば、主平面研磨工程の前に発生するキズ等の欠陥を防止し、主平面の平滑性に優れた磁気記録媒体用ガラス基板を歩留まりよく得ることができる。また、磁気記録媒体用ガラス基板の製造に提供するガラス素板の厚さを薄くして研磨量を少なくすることができ、材料のロスの低減および生産性の向上を図ることができる。
【実施例】
【0055】
以下、本発明の実施例について具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。なお、以下の例1〜11のうちで、例1〜10は本発明の実施例であり、例11は比較例である。
【0056】
例1
フロート法で成形されたSiOを主成分とする板厚0.7mmのガラス素板を、図5に示す例1のフローチャートに従って加工し、磁気記録媒体用ガラス基板を製造した。例1のフローチャートにおける各工程の詳細を、以下に示す。
【0057】
[第1の主平面固定砥粒研削工程](S101)
両面研削装置により、平均粒子径が20μmのダイヤモンド砥粒を含む固定砥粒工具を使用し、ガラス素板の両主平面の研削を行った。研削加工量(深さ)は両面で25μm(0.025mm)であった。
【0058】
[保護膜形成工程](S102)
ガラス素板の両主平面に、図3に示す浸透スタンプ式の印刷装置を用いて、可視光硬化型樹脂(アーデル社製、製品:クリアプレストCP3722)を中央部に円形の穴部を有する円環形状(ドーナツ形状)に印刷した。その後、可視光を10分間程度照射して印刷層を硬化させ、膜厚100μm(0.1mm)の保護膜を形成した。
【0059】
[角切り(小切り)工程](S103)
両主平面にドーナツ形状の保護膜が形成された磁気記録媒体用ガラス素板を、保護膜の外周を4辺で囲むように切断し、縦横75mmの正方形の平面形状を有する角板とした。こうして両主平面に保護膜を有する磁気記録媒体用ガラス素板を得た。
【0060】
[円形加工工程](S104)
前記角板を、最終的に外径65mm、内径20mmの磁気記録媒体用ガラス基板用に、円形の外周に沿って切り出すとともに中央部に円孔を形成した。
【0061】
[面取り工程](S105)
中央部に円孔を有する円盤形状に加工されたガラス基板の内周側面および外周側面を、最終的に面取り幅0.15mm、面取り角度45°の磁気記録媒体用ガラス基板が得られるように面取り加工した。
【0062】
[端面研磨工程](S106)
面取り加工されたガラス基板の外周端面(外周側面および外周面取り部)と内周端面(内周側面および内周面取り部)を、平均粒子径が1.3μmの酸化セリウム砥粒を含む研磨液と研磨ブラシを用いて研磨した。外周端面の研磨、次いで内周端面の研磨の順で研磨を行った。研磨量(深さ)は外周端面、内周端面ともに12μm(0.012mm)であった。
【0063】
[エッチング工程](S107)
端面研磨後のガラス基板の内周面をフッ酸−硝酸混酸水溶液にてエッチングした。そして、内周端面の加工キズの先端部を鈍化させた。
【0064】
[保護膜剥離工程](S108)
ガラス基板を60℃の温水に浸漬し、保護膜を剥離した。
【0065】
[第2の主平面固定砥粒研削工程](S109)
保護膜を剥離した後のガラス基板の主平面を、両面研削装置により、平均粒子径が3μmのダイヤモンド砥粒を含む固定砥粒工具を使用して研削した。研削加工量(深さ)は両面で20μm(0.02mm)であった。
【0066】
[主平面研磨工程](S110)
両面研磨装置を用いて、ガラス基板の主平面を研磨した。研磨は、一次研磨と仕上げ研磨の2段研磨とし、一次研磨では平均粒子径が0.8μmの酸化セリウム砥粒を含む研磨液とスウェードパッドを使用し、仕上げ研磨では平均粒子径が20nmのシリカ砥粒を含む研磨液とスウェードパッドを使用してそれぞれ行った。研磨量(深さ)は、一次研磨と仕上げ研磨の研磨量を合わせて両面で20μm(0.02mm)であった。
【0067】
[精密洗浄工程](S111)
主平面研磨後のガラス基板に、スクラブ洗浄、超音波洗浄を順次行い、イソプロピルアルにより蒸気乾燥した。こうして外径65mm、内径20mm、板厚0.635mmの磁気記録媒体用ガラス基板を得た。
【0068】
例2〜例10
フロート法で成形されたSiOを主成分とする板厚0.7mmのガラス素板を、図5〜図8に示す各フローチャートに従って加工し、外径65mm、内径20mm、板厚0.635mmの磁気記録媒体用ガラス基板を得た。例2〜例10の各フローチャートは、例1におけるフローと工程順だけが変えられており、各工程は例1と同じ条件で行った。なお、例3,4および例8,9における主平面固定砥粒研削工程は、例1における第2の主平面固定砥粒研削工程と同様にして行った。
【0069】
例11
フロート法で成形されたSiOを主成分とする板厚1.27mmのガラス素板を、図8に示す例11のフローチャートに従って加工し、外径65mm、内径20mm、板厚0.635mmの磁気記録媒体用ガラス基板を得た。なお、例11において、第1の主平面固定砥粒研削工程(S101)における研削加工量(深さ)は両面で365μm(0.365mm)、第2の主平面固定砥粒研削工程(S109)における研削加工量(深さ)は両面で250μm(0.25mm)、主平面研磨工程(S110)における研磨量(深さ)は両面で20μm(0.02mm)とし、その他の工程は例1と同じ条件で行った。
【0070】
次に、こうして例1〜例11で得られた磁気記録媒体用ガラス基板(各例500枚)に対して、暗室内で30万ルクスの光を当て、主平面のキズ欠陥を目視で検査した。そして、キズ欠陥が検出されたガラス基板の枚数を調べ、以下の式によって、各例についてのキズ欠陥率を求め、比較例である例11のキズ欠陥率に対する相対キズ欠陥率を算出した。こうして算出された目視による相対キズ欠陥率の値を表1に示す。
目視によるキズ欠陥率
=(目視によりキズが発見されたガラス基板枚数(枚)/目視検査した基板枚数(枚))×100
目視による相対キズ欠陥率(%)
=(各実施例の目視によるキズ欠陥率/比較例の目視によるキズ欠陥率)×100
【0071】
さらに、例1〜例11で得られた磁気記録媒体用ガラス基板のうちで、目視検査によってはキズ欠陥が検出されなかったガラス基板について、AOI(自動光学検査装置)による検査を行い、キズ欠陥を検出した。そして、以下の式によってキズ欠陥率を算出し、さらに比較例におけるキズ欠陥率に対する相対キズ欠陥率を算出した。
AOIによるキズ欠陥率
=(AOIによりキズが発見されたガラス基板枚数(枚)/AOI検査した基板枚数(枚))×100
AOIによる相対キズ欠陥率(%)
=(各実施例のAOIによるキズ欠陥率/比較例のAOIによるキズ欠陥率)×100
こうして算出されたAOIによる相対キズ欠陥率の値を表1に示す。
【0072】
【表1】

【0073】
表1からわかるように、例1〜10では、主平面に保護膜が形成された磁気記録媒体用ガラス素板を使用して、円形加工工程(S104)以後の各加工工程を行っているので、目視検査によって主平面にキズ欠陥が検出されるガラス基板の割合が、保護膜を有しないガラス素板を使用した例11に比べて、著しく小さくなっている。また、目視により主平面にキズ欠陥が検出されなかったガラス基板で、AOI検査により新たにキズ欠陥が検出されたガラス基板の割合も、例11に比べて著しく減少している。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明によれば、ガラス基板の主平面研磨工程の前に発生するキズ等の欠陥を防止し、主平面の平滑性に優れた磁気記録媒体用ガラス基板を歩留まりよく得ることができる。
【符号の説明】
【0075】
10…磁気記録媒体用ガラス基板、11…円孔、103…主平面、20…磁気記録媒体用ガラス素板、22…保護膜、30…浸透式スタンパー、31,42…ガラス素板、32,41…印刷層、301…印刷部、302…吸蔵部、44…可視光源。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中央部に円孔を有する円盤形状の磁気記録媒体用ガラス基板を形成するための、主平面と側面とを有するガラス素板であって、
少なくとも一方の主平面に、樹脂を含有する保護膜を有することを特徴とする磁気記録媒体用ガラス素板。
【請求項2】
前記保護膜は、中央部に円形の穴部を有する円環形の平面形状を有する請求項1に記載の磁気記録媒体用ガラス素板。
【請求項3】
前記保護膜は、0.01mm〜0.5mmの膜厚を有する請求項1または2に記載の磁気記録媒体用ガラス素板。
【請求項4】
主平面と側面とを有する磁気記録媒体用ガラス素板を準備する磁気記録媒体用ガラス素板準備工程と、
前記磁気記録媒体用ガラス素板を、中央部に円孔を有する円盤形状のガラス基板に加工する形状付与工程と、
前記ガラス基板の主平面を研磨する主平面研磨工程と、
前記ガラス基板の洗浄工程と
を有する磁気記録媒体用ガラス基板の製造方法であって、
前記磁気記録媒体用ガラス素板準備工程は、ガラス素板の少なくとも一方の主平面に、樹脂を含有する保護膜を形成して磁気記録媒体用ガラス素板とする保護膜形成工程を有することを特徴とする磁気記録媒体用ガラス基板の製造方法。
【請求項5】
前記保護膜形成工程は、前記ガラス素板の少なくとも一方の主平面に液状の硬化性樹脂を含有する組成物を印刷または塗布する工程と、該印刷層または塗布層を硬化させる工程とを有する請求項4に記載の磁気記録媒体用ガラス基板の製造方法。
【請求項6】
前記保護膜形成工程は、前記ガラス素板の少なくとも一方の主平面に樹脂を含有する保護膜を貼り合わせる工程を有する請求項4に記載の磁気記録媒体用ガラス基板の製造方法。
【請求項7】
前記保護膜形成工程で形成された前記保護膜は、中央部に円形の穴部を有する円環形の平面形状を有する請求項4〜6のいずれか1項に記載の磁気記録媒体用ガラス基板の製造方法。
【請求項8】
前記保護膜形成工程で形成された前記保護膜は、0.01mm〜0.5mmの膜厚を有する請求項4〜7のいずれか1項に記載の磁気記録媒体用ガラス基板の製造方法。
【請求項9】
前記形状付与工程と前記主平面研磨工程との間に、前記保護膜を除去する保護膜除去工程を有する請求項4〜8のいずれか1項に記載の磁気記録媒体用ガラス基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−25829(P2013−25829A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−156621(P2011−156621)
【出願日】平成23年7月15日(2011.7.15)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】