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磁気記録媒体
説明

磁気記録媒体

【課題】優れた電磁変換特性と繰り返し走行耐久性を兼ね備えた磁気記録媒体を提供すること。
【解決手段】非磁性支持体上に、非磁性粉末および結合剤と強磁性粉末および結合剤を含む磁性層とをこの順に有する磁気記録媒体。前記磁性層または非磁性層は、下記有機酸Aおよび有機酸Bを含み、かつ有機酸Aの酸強度pKa(A)と有機酸Bの酸強度pKa(B)とは、pKa(A)<pKa(B)の関係を満たす。
有機酸A:カルボキシル基、リン酸基およびホスホン酸基からなる群から選ばれる置換基を1分子中に1つ含む不飽和結合含有有機酸
有機酸B:分子内の隣接する炭素原子に置換した置換基を1分子中に2つ以上有し、かつ該置換基の少なくとも1つはカルボキシル基である脂肪族または脂環式有機酸。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録媒体に関するものであり、詳しくは、優れた電磁変換特性および繰り返し走行耐久性を発揮し得る磁気記録媒体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
磁気記録技術は、媒体の繰り返し使用が可能であること、信号の電子化が容易であり周辺機器との組み合わせによるシステムの構築が可能であること、信号の修正も簡単にできること等の他の記録方式にはない優れた特長を有することから、ビデオ、オーディオ、コンピューター用途等を始めとして様々な分野で幅広く利用されている。
【0003】
コンピューター用途の磁気記録媒体において、記録密度の増加が急速に進んでおり、これを達成するには電磁変換特性の向上が不可欠である。電磁変換特性の向上のための手段としては、強磁性粉末の微粒子化および高分散化、磁性層の厚みの薄層化および均一化、媒体表面の超平滑化などが知られている。例えば、微粒子磁性体の分散性を高める方法としては、SO3Na基のような極性基を高分子結合剤(バインダー)に含有させる方法が広く用いられている(例えば特許文献1参照)。
【0004】
また、骨格中に磁性体と親和性の高い部分とバインダーと親和性の高い部分を併せ持つ比較的低分子の有機添加剤を磁性粉末の表面に吸着させることで磁性体表面をバインダーと馴染みやすい性質へと表面改質させ、高い分散性を得る方法が知られている。磁性体と親和性の高い代表的な置換基としては、特許文献2および特許文献3に記載されているようにスルホン酸基、カルボキシル基、リン酸基といった酸性基が挙げられる。
【0005】
一方、媒体とヘッドとを直接接触させて記録信号の記録再生を行うためには、走行耐久性を確保することが重要である。例えば特許文献4および5には、媒体とヘッドの摺動性を安定化し走行耐久性を確保するために、磁性層中や磁性層下層の非磁性層に高級脂肪酸や高級脂肪酸エステル等の潤滑剤を配合することが提案されている。また、特許文献6〜8には、多価有機酸で磁性体表面を酸処理することにより、磁性体の耐酸化性や耐錆性を向上させたり、磁性層表面にて摺動特性を向上させる目的で投入された特定の添加物が磁性体に吸着することを抑制させることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−132531号公報
【特許文献2】特開昭63−42025号公報
【特許文献3】特開平1−189025号公報
【特許文献4】特開2001−76333号公報
【特許文献5】特開2003−85733号公報
【特許文献6】特開平4−302818号公報
【特許文献7】特開平6−301965号公報
【特許文献8】特開2005−353222号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記従来の技術には、それぞれ以下の課題がある。
【0008】
特許文献1に記載されているようなバインダーへの極性基導入は、バインダーを磁性体表面に効率的に吸着させることにより分散性を改良する有効な手段であるが、バインダーへの極性基導入量が過剰になると、バインダーが磁性体粒子間で橋掛け吸着し、凝集が促進されることで逆に分散性が低下するおそれがある。
【0009】
特許文献2および3に記載されている有機添加剤は、分子中の酸性基が磁性体表面の塩基性点に吸着するため、磁性体の表面積が増えると添加剤の添加量を増やす必要がある。高密度磁気記録媒体において良好な電磁変換特性を得るために使用される微粒子磁性体は、必然的に磁性体の表面積が増える。よって、微粒子磁性体を使用するためには、添加剤の添加量の増量が必要となる。しかし、前述の有機添加剤は酸性基を有するため、多量に添加すると酸による磁性体表面の腐食が発生し、磁性体表面に存在する金属原子、例えばFe、Co、Al、Yが陽イオン化して放出される現象が発生することがある。この金属陽イオンは、特許文献4および5に記載されている摺動特性改善のための素材である高級脂肪酸や脂肪酸エステルと反応して脂肪酸金属塩を生成する場合がある。この脂肪酸金属塩が磁性層表面に生成すると、繰り返し走行によって脂肪酸金属塩がヘッドに堆積しドロップアウトやエラーレートの劣化を引き起こしたり、潤滑剤の絶対量の減少による摩擦力の上昇といったいわゆる繰り返し走行耐久性の劣化の問題が発生する。
この問題を防止するために有機添加剤を減らすと、分散性が確保できなくなるとともに磁性体の塩基性点の被覆が不足する弊害が発生する。この被覆されていない塩基性点が多数存在すると、脂肪酸や脂肪酸エステルが直接この塩基性点と反応し、やはり脂肪酸金属塩を生成する問題が発生する。
【0010】
これに対し、前述のように特許文献6〜8には多価有機酸で磁性体表面を酸処理することが提案されている。しかし、多価有機酸を用いる磁性体の表面改質では磁性体表面が酸性化するだけでなく、磁性体表面が親水化するため、疎水性である高分子バインダーと親水化した磁性体との間の親和性が悪くなり、磁性体表面へのバインダーの吸着が阻害され、結果として分散性が劣化してしまう。その結果、磁気記録媒体の表面性が粗面化し媒体とヘッド間のスペーシングが広くなったり、磁性体の凝集による粒子性ノイズの増加を引き起こし、記録密度の高いシステムにおいては十分な電磁変換特性を得ることができない。
【0011】
上記の通り、従来の技術では、電磁変換特性と繰り返し走行耐久性を両立することは困難であった。
【0012】
そこで本発明の目的は、優れた電磁変換特性と繰り返し走行耐久性を兼ね備えた磁気記録媒体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、特定の二種の有機酸を磁性層および/または非磁性層に添加することにより、分散性向上と脂肪酸金属塩生成の抑制が可能となり、これにより優れた電磁変換特性と繰り返し走行耐久性を有する磁気記録媒体が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
即ち、上記目的は、下記手段により達成された。
[1]非磁性支持体上に、非磁性粉末および結合剤と強磁性粉末および結合剤を含む磁性層とをこの順に有する磁気記録媒体であって、
前記磁性層は、下記有機酸Aおよび有機酸Bを含み、かつ有機酸Aの酸強度pKa(A)と有機酸Bの酸強度pKa(B)とは、pKa(A)<pKa(B)の関係を満たすことを特徴とする磁気記録媒体。
有機酸A:カルボキシル基、リン酸基およびホスホン酸基からなる群から選ばれる置換基を1分子中に1つ含む不飽和結合含有有機酸
有機酸B:分子内の隣接する炭素原子に置換した置換基を1分子中に2つ以上有し、かつ該置換基の少なくとも1つはカルボキシル基である脂肪族または脂環式有機酸。
[2]非磁性支持体上に、非磁性粉末および結合剤と強磁性粉末および結合剤を含む磁性層とをこの順に有する磁気記録媒体であって、
前記非磁性層は、下記有機酸Aおよび有機酸Bを含み、かつ有機酸Aの酸強度pKa(A)と有機酸Bの酸強度pKa(B)とは、pKa(A)<pKa(B)の関係を満たすことを特徴とする磁気記録媒体。
有機酸A:カルボキシル基、リン酸基およびホスホン酸基からなる群から選ばれる置換基を1分子中に1つ含む不飽和結合含有有機酸
有機酸B:分子内の隣接する炭素原子に置換した置換基を1分子中に2つ以上有し、かつ該置換基の少なくとも1つはカルボキシル基である脂肪族または脂環式有機酸。
[3]前記磁性層は、前記有機酸Aを含む[2]に記載の磁気記録媒体。
[4]有機酸Bに含まれる前記置換基の少なくとも1つは水酸基である[1]〜[3]のいずれかに記載の磁気記録媒体。
[5]有機酸Aに含まれる不飽和結合は、芳香族複素環またはベンゼン環に含まれる[1]〜[4]のいずれかに記載の磁気記録媒体。
[6]前記結合剤は、芳香環成分を含む[1]〜[5]のいずれかに記載の磁気記録媒体。
[7]前記結合剤は、スルホン酸(塩)基含有結合剤を含む[1]〜[6]のいずれかに記載の磁気記録媒体。
[8]前記結合剤は、ガラス転移温度が75℃〜150℃の範囲であるポリウレタンを含む[1]〜[7]のいずれかに記載の磁気記録媒体。
[9]前記結合剤は、二塩基酸とグリコール成分とを構成成分とするポリエステルポリオール(A)と、芳香族イソシアネート(B)と、イソシアネート基と反応し得る官能基を1分子中に2個以上有する分子量1000未満の分岐側鎖を有する化合物(C)との反応生成物であるポリエステルポリウレタンを含む[1]〜[8]のいずれかに記載の磁気記録媒体。
[10]前記グリコール成分は、下記一般式(I)または(II)で表されるグリコール成分である[9]に記載の磁気記録媒体。
【化1】

[一般式(I)中、R1およびR2は、それぞれ独立にメチル基またはエチル基を表す。]
【化2】

[一般式(II)中、R3はメチル基またはエチル基を表す。]
[11]ポリエステルポリオール(A)は、構成成分中の80モル%以上が芳香族二塩基酸であり、かつグリコール成分中の60〜100モル%が前記一般式(I)または(II)で表されるグリコールである[10]に記載の磁気記録媒体。
[12]前記磁性層および/または非磁性層は、脂肪酸または脂肪酸エステルを更に含む[1]〜[11]のいずれかに記載の磁気記録媒体。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、磁性層および/または非磁性層に有機酸Bを含有させることで、脂肪酸金属塩に起因するヘッド汚れを抑制し繰り返し走行耐久性を向上させるとともに、pKa(A)<pKa(B)の関係を満たす有機酸Aを併用することで分散性を高め磁性層表面性を確保することができ、高い電磁変換特性を有する磁気記録媒体を得ることができる。こうして本発明によれば、優れた電磁変換特性と繰り返し走行耐久性を両立した磁気記録媒体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の磁気記録媒体は、
非磁性支持体上に、非磁性粉末および結合剤と強磁性粉末および結合剤を含む磁性層とをこの順に有する磁気記録媒体であって、
前記磁性層は、下記有機酸Aおよび有機酸Bを含み、かつ有機酸Aの酸強度pKa(A)と有機酸Bの酸強度pKa(B)とは、pKa(A)<pKa(B)の関係を満たす磁気記録媒体(以下、「態様1」という);
非磁性支持体上に、非磁性粉末および結合剤と強磁性粉末および結合剤を含む磁性層とをこの順に有する磁気記録媒体であって、
前記非磁性層は、下記有機酸Aおよび有機酸Bを含み、かつ有機酸Aの酸強度pKa(A)と有機酸Bの酸強度pKa(B)とは、pKa(A)<pKa(B)の関係を満たすことを特徴とする磁気記録媒体(以下、「態様2」という)
の2つの態様を含む。
有機酸Aは、カルボキシル基(−COOH)、リン酸基(−PO42)およびホスホン酸基(−P(=O)(OH2))からなる群から選ばれる置換基を1分子中に1つ含む不飽和結合含有有機酸であり、有機酸Bは、分子内の隣接する炭素原子に置換した置換基を1分子中に2つ以上有し、かつ該置換基の少なくとも1つはカルボキシル基である脂肪族または脂環式有機酸である。
以下において、態様1と態様2とをあわせて、「本発明の磁気記録媒体」ということがある。
【0017】
本発明の磁気記録媒体は、少なくとも磁性層、非磁性層のいずれかに上記有機酸Aと有機酸Bを含むものであり、磁性層および非磁性層に上記有機酸Aと有機酸Bを含むこともできる。有機酸Aおよび有機酸Bを組み合わせて使用することにより、優れた電磁変換特性と繰り返し走行耐久性を有する磁気記録媒体が得られる理由を、本発明者らは以下のように推察している。
【0018】
有機酸Aは強磁性粉末または非磁性粉末表面へ吸着することよって、該粉末と結合剤との親和性を高め、分散性を向上させる機能を有すると考えられる。有機酸Aの有する特徴とその効果は下記の通りであると推察される。
(1)カルボキシル基、リン酸基およびホスホン酸基からなる群から選ばれる置換基を1分子中に1つ含む:上記置換基は有機酸Aを強磁性粉末または非磁性粉末表面に吸着させるために必須であるが、親水性の性質を有するため1分子中に置換基を複数有すると強磁性粉末表面が過剰に親水化し、結合剤との親和力が下がり、分散性が劣化する。カルボキシル基、リン酸基およびホスホン酸基から選ばれる置換基は粉末表面の塩基性点に強固に吸着するため有機酸Aの粉末からの脱離が起き難く、分散性向上に寄与する。
(2)不飽和結合を有する:有機酸A中に不飽和結合を有すると、結合剤中の不飽和結合との間でΠ−Π相互作用が発生し結合力が上がり、分散性が向上する。有機酸Aの不飽和結合が芳香族複素環またはベンゼン環に含まれると、特にΠ−Π相互作用が強く分散性に優れ、さらに芳香族複素環は電子求引性基であるため、この作用によって有機酸Aに含まれる酸性官能基の酸性度が高まり、強磁性粉末により強固に吸着して分散性が向上するので好ましく、ピリジン環が特に好ましい。
【0019】
有機酸Bは、強磁性粉末表面へ吸着することよって脂肪酸または脂肪酸エステル(以下、「潤滑剤成分」ともいう)と粉末の塩基性点の反応を抑制するとともに、キレート効果によって一度生成してしまった脂肪酸金属塩を脂肪酸に戻して、磁性層中の脂肪酸金属塩の生成を抑制する機能を有する。有機酸Bの有する特徴とその効果は下記の通りであると推察される。
(1)分子内の隣接する炭素に置換した置換基を1分子中に2つ以上有する:キレート効果とは複数の官能基で1つの金属イオンを包み込むように結合する様式であり、複数の分子中の官能基で結合するより1つの分子内の官能基で結合したほうがエントロピー的に安定なため、有機酸Bは分子内に置換基を2つ以上有することが必要である。また、1つの分子内で安定なキレートを形成するためには、キレートを結んでいる環が安定である必要がある。有機分子が作る環としては、5員環または6員環が圧倒的に安定である。後述するように有機酸Bには置換基として少なくとも1つのカルボキシル基が含まれ、このカルボキシル基によって6員環等の安定な環構造を形成するには、少なくとも隣接する炭素原子にカルボキシル基が置換されていることが必要である。
(2)脂肪族または脂環式有機酸である:分子構造がフレキシブルでキレートを形成しやすいため、有機酸Bは、脂肪族化合物または脂環式化合物である必要がある。
(3)上記置換基の少なくとも1つはカルボキシル基である:酸強度の強いカルボキシル基は強磁性粉末や遊離した金属陽イオン成分への吸着作用が高いため、キレート効果を発現させる官能基として少なくとも1つ分子中に含まれる必要がある。
【0020】
以上説明したように、本発明によれば、有機酸Aにより分散性を高め電磁変換特性を向上することができ、有機酸Bにより脂肪酸金属塩の生成を抑制し繰り返し走行耐久性を確保することができると考えられる。ここで有機酸Aは、粉末と結合剤の親和性を高めるため磁性体に優先的に吸着する必要がある。逆に、有機酸Bは多官能有機酸であるので親水性の性質を有し、粉末に過剰に吸着してしまうと強磁性粉末表面が親水化し、結合剤の親和性を低減させ分散性が劣化してしまう。つまり有機酸Aを粉末に優先的に吸着させる必要がある。ここで粉末へ優先的に吸着させる方法のひとつとして有機酸の酸強度を高め、粉末の塩基性点と強く反応させることが有効である。よって、有機酸Aを粉末に優先的に吸着させるには、有機酸Aの酸強度(pKa)を有機酸Bのそれより高める必要がある。そこで本発明では、有機酸Aの酸強度pKa(A)と有機酸Bの酸強度pKa(B)とが、pKa(A)<pKa(B)の関係を満たす2種の有機酸を組み合わせて使用する。
以下、本発明の磁気記録媒体について更に詳細に説明する。なお本発明において、有機酸AおよびBは、プロトンが脱離した状態または塩の状態で存在するものが含まれていても本発明の範囲内にあるものとする。
【0021】
有機酸A
有機酸Aは、カルボキシル基、リン酸基およびホスホン酸基からなる群から選ばれる置換基を1分子中に1つ含む不飽和結合含有有機酸である。
【0022】
有機酸Aは、不飽和結合として二重結合を含むものが好ましく、不飽和結合を芳香環に含むものがより好ましい。芳香環としては、後述の例示化合物に含まれる各種芳香環を挙げることができる。中でも、結合剤とのΠ−Π相互作用が強く分散性向上効果が高いため、ピリジン環、ピラジン環、トリアジン環、フラン環、チオフェン環、ピロール環等の芳香族複素環またはベンゼン環が好ましい。なお、上記環構造は単環であってもよく、縮合環を形成していてもよい。有機酸A中に含まれる不飽和結合の数は少なくとも1つであればよく特に限定されるものではない。
【0023】
有機酸Aは、カルボキシル基、リン酸基およびホスホン酸基からなる群から選ばれる置換基を1分子中に1つ含むものであるが、該置換基以外の置換基を含むこともできる。そのような置換基としては、特に限定されるものではないが、例えばハロゲン原子(例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、シアノ基、ニトロ基、炭素数1〜16のアルキル基、炭素数1〜16のアルケニル基、炭素数2〜16のアルキニル基、炭素数1〜16のハロゲン原子で置換されたアルキル基、炭素数1〜16のアルコキシ基、炭素数2〜16のアシル基、炭素数1〜16のアルキルチオ基、炭素数2〜16のアシルオキシ基、炭素数2〜16のアルコキシカルボニル基、カルバモイル基、炭素数2〜16のアルキル基で置換されたカルバモイル基および炭素数2〜16のアシルアミノ基が含まれる。該置換基としては、ハロゲン原子、シアノ基、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のハロゲン原子で置換されたアルキル基が好ましく、ハロゲン原子、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のハロゲン原子で置換されたアルキル基がより好ましく、ハロゲン原子、炭素数1〜3のアルキル基、トリフルオロメチル基が特に好ましい。なお、一分子中の該置換基の数は特に限定されるものではない。
【0024】
以下、有機酸Aの具体例を示す。ただし本発明は下記具体例に限定されるものではない。
【0025】
【化3】

【0026】
有機酸B
有機酸Bは、分子内の隣接する炭素原子に置換した置換基を1分子中に2つ以上有し、かつ該置換基の少なくとも1つはカルボキシル基である脂肪族または脂環式有機酸である。分子内の隣接する炭素原子に置換した置換基の1つはカルボキシル基であるが、該カルボキシル基以外に更にカルボキシル基を含むこともできる。また、カルボキシル基以外の上記置換基としては、キレート効果を効果的に発現させるためには水酸基が好ましい。1分子中に含まれる前記置換基の数は2つ以上であればよく特に限定されるものではないが、例えば2〜6つ程度であることができる。なお、有機酸Bは、キレート効果を効果的に発現させるためには、同一炭素原子に水酸基とカルボキシル基とを有する態様を除き、分子内の隣接する炭素原子に置換した置換基以外の置換基は有さないことが好ましい。
【0027】
有機酸Bは脂肪族化合物または脂環式化合物であり、置換基を除く骨格部分の炭素数は、例えば2〜8、好ましくは2〜6である。また有機酸Bは、骨格部分は飽和結合のみから形成され不飽和結合を含まないことが好ましい。これは、不飽和結合を含むと結合剤との親和性が高まり、キレート形成の妨げとなる場合があるからである。
【0028】
以下、有機酸Bの具体例を示す。ただし本発明は下記具体例に限定されるものではない。
【0029】
【化4】

【0030】
前述の理由から、磁性層および/または非磁性層では、有機酸Aの酸強度pKa(A)と有機酸Bの酸強度pKa(B)とが、pKa(A)<pKa(B)の関係を満たす組み合わせで有機酸Aと有機酸Bを使用する。有機酸Aを粉末表面に優先的に吸着させる観点から、pKa(A)とpKa(B)との差は、0.2以上であることが好ましく、0.5以上であることがより好ましい。その上限は特に限定されるものではないが、入手可能な有機酸A、Bの酸強度を考慮すると、例えば3.0以下程度である。有機酸Aの酸強度pKa(A)は、例えば3.00〜5.50程度、有機酸Bの酸強度pKa(B)は、例えば5.00超〜6.50程度であるが、pKa(A)<pKa(B)の関係を満たせばよく、上記範囲に限定されるものではない。
【0031】
本発明における酸強度とは、以下の方法によって測定される値をいうものとする。
有機酸Aまたは有機酸Bについて、試料50mgを水20ml、テトラヒドロフラン30mlの混合液に溶解させる。三菱化学アナリテック社製GT−100Win型自動滴定装置を用いて、0.1N−NaOH(和光純薬)を滴下し、中和滴定を行う。中和点までに滴下した量の半分の滴下量に相当するpHを読み取り、このpHを酸強度とする。
【0032】
本発明において使用する有機酸Aおよび有機酸Bは、いずれも公知の方法で合成可能であり、多くは市販品として入手可能である。
【0033】
有機酸AおよびBの添加量や混合比は、用いる粉末の比表面積や表面に存在する塩基性点(有機酸や潤滑剤成分が吸着するサイト)の量によって、適正に調節できる。例えば、BET法による比表面積10〜150m2/gの強磁性粉末および非磁性粉末に対しては、下記の通りである。
【0034】
有機酸Aの添加量は、強磁性粉末または非磁性粉体100質量部に対して、0.5質量部以上10質量部以下が好ましく、0.5質量部以上7.5質量部以下がさらに好ましく、0.5質量部以上5.0質量部以下が最も好ましい。有機酸Aの添加量が0.5質量部以上であれば、分散性を確保し媒体の表面平滑性を高めることができ、高い電磁変換特性を得ることができる。有機酸Aの添加量が10質量部以下であれば、磁性層の適切な充填度を確保し高い電磁変換特性を得ることができる。また、有機酸Aの添加量が過剰では、酸による腐食が過剰に起こって粉末の特性を劣化させたり、脂肪酸金属塩の原因となる金属陽イオンの発生が過剰に起こり、有機酸Bによる脂肪酸金属塩の抑制効果が不足しヘッド汚れ増加によるエラーレートの劣化が発生するおそれがあるが、10質量部以下であればそのような現象が発生することがなく好ましい。
【0035】
有機酸Bの添加量は、強磁性粉末または非磁性粉体100質量部に対して、0.5質量部以上5.0質量部以下が好ましく、0.5質量部以上4.0質量部以下がさらに好ましく、0.5質量部以上3.0質量部以下が最も好ましい。有機酸Bの添加量が0.5質量部以上であれば、脂肪酸金属塩を効果的に抑制することができ、ヘッド汚れを低減し良好なエラーレートを確保することができる。また、有機酸Bの添加量が過剰では、強磁性粉末または非磁性粉体の表面への吸着によって過剰に親水化し、結合剤との親和性が低下することで分散性が確保できず、媒体の表面性が劣化し、電磁変換特性が劣化するおそれがあるが、5.0質量部以下であればそのような現象が発生することがなく好ましい。
【0036】
有機酸Aと有機酸Bとの添加量については、磁性層または非磁性層に含まれる有機酸AおよびBの質量部をそれぞれaおよびbとすると、a/bは0.1以上20以下が好ましく、0.13以上15以下がさらに好ましく、0.15以上10以下が最も好ましい。a/bが0.1を下回る、つまり有機酸Bの比率があまりにも多いと、pKa(A)<pKa(B)の関係を満たす有機酸を使用したとしても、有機酸Bの強磁性粉末または非磁性粉体の表面への吸着が過剰に起こり親水化し、結合剤との親和性が低下することで分散性が確保できず、媒体の表面性が劣化し、電磁変換特性が劣化するおそれがある。逆に、a/bが20を超える、つまり有機酸Aの比率があまりにも多いと、有機酸Aの酸による腐食が過剰に起こって粉末の特性を劣化させたり、脂肪酸金属塩の原因となる金属陽イオンの発生が過剰に起こり、有機酸Bによる脂肪酸金属塩の抑制効果が不足しヘッド汚れ増加によるエラーレートの劣化が発生するおそれがある。
【0037】
結合剤
次に、有機酸AおよびBとの併用が好ましい結合剤について説明する。
【0038】
Π−Π相互作用により有機酸Aと結合剤を強固に親和させて、強磁性粉末または非磁性粉末への結合剤の吸着を促進させ分散性を高めるためには、結合剤が芳香環成分を有することが好ましい。芳香環成分としては、後述のポリウレタンの構成成分に含まれる各種芳香環を挙げることができる。
【0039】
本発明によれば、有機酸Bによるヘッド汚れの原因物質(脂肪酸金属塩)の低減効果により繰り返し走行耐久性を向上することができるが、組み合わせる結合剤のガラス転移温度が高い場合には、繰り返し走行耐久性の向上に対して相乗効果が現れるため、併用する結合剤のガラス転移温度は75℃以上であることが好ましい。結合剤のガラス転移温度が75℃以上であれば、媒体とヘッドの摺動で発生する摩擦熱による結合剤の軟化が起こりにくく、結合剤のヘッドへの付着が起き難く、ヘッド汚れを効果的に抑制することができる。一方、結合剤のガラス転移温度が高すぎると、溶媒への溶解性が低下し粉末の分散性が低下したり、媒体に熱および圧力加えて表面を平滑化する処理、いわゆるカレンダー処理の効率が低下し媒体の平滑性が低下するおそれがあるため、結合剤のガラス転移温度は150℃以下が好ましい。即ち、結合剤のガラス転移温度は、75〜150℃の範囲であることが好ましい。なお、本発明における結合剤のガラス転移温度は、動的粘弾性測定の損失弾性率の極大点をいい、例えば以下の方法によって測定された値である。
アラミドベース(旭化成株式会社製)に結合剤のポリマー溶液を膜厚30μmになるように塗布し、140℃/真空3時間乾燥させる。このフィルムを3.35mm×60.0mmの大きさに打ち抜き、ガラス転移温度測定サンプルを作製する。作製したサンプルについて、バイブロン動的粘弾性装置:Model RHE0-2000(TOYO BACDWIN)を用いて動的粘弾性測定を行い、損失弾性率(E‘’)の変曲点温度をガラス転移温度とする。
【0040】
また、極性基を有する結合剤であれば、粉末表面の塩基性点と極性基が反応し、粉末表面への結合剤の吸着が促進され分散性が向上するため、分子中に極性基を含有する結合剤が好ましい。極性基としては、−COOM、−SO3M、−OSO3M、−P=O(OM)2、−O−P=O(OM)2(以上につきMは水素原子、またはアルカリ金属塩基)、−OH、−NR2、−N+3(Rは炭化水素基)、エポキシ基、−SH、−CN、などから選ばれる少なくともひとつ以上の極性基を挙げることができる。これら極性基は共重合または付加反応で結合剤に導入することができる。結合剤中の極性基の量は、例えば10-1〜10-8モル/gであり、好ましくは10-2〜10-6モル/gである。有機酸A、Bと併用する結合剤としては、粉末との親和性の点から、スルホン酸(塩)基含有結合剤が好ましい。なお本発明において、スルホン酸(塩)基とは、スルホン酸基(−SO3H)とスルホン酸塩基(SO3':M'はリチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属原子)を含むものとする。
【0041】
好ましい結合剤の具体例としては、二塩基酸とグリコール成分とを構成成分とするポリエステルポリオール(A)と、芳香族イソシアネート(B)と、イソシアネート基と反応し得る官能基を1分子中に2個以上有する分子量1000未満の分岐側鎖を有する化合物(C)との反応生成物であるポリエステルポリウレタンを挙げることができる。
【0042】
ポリエステルポリオール(A)を構成する二塩基酸成分としては、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、4,4‘−ジフェニルジカルボン、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸などのカルボン酸が挙げられる。中でも、芳香族二塩基酸が好ましい。また、全酸性成分中に5−ナトリウムスルホイソフタル酸、5−カリウムスルホイソフタル酸、ナトリウムスルホテレフタル酸、カリウムスルホテレフタル酸等のスルホン酸金属塩含有芳香族ジカルボン酸およびこれらのカルボン酸部位がエステル化されているスルホン酸(塩)基含有成分を共重合してもよい。有機酸Aとの親和性の高い結合剤を得るためには、ポリエステルポリオール(A)は、構成成分中の80モル%以上が芳香族二塩基酸であることが好ましい。
【0043】
ポリエステルポリオール(A)を構成するグリコール成分としては、塗膜強度および分散性の観点から、下記一般式(I)または(II)で表されるグリコールが望ましい。
【0044】
【化5】

[一般式(I)中、R1およびR2は、それぞれ独立にメチル基またはエチル基を表す。]
【0045】
【化6】

[一般式(II)中、R3はメチル基またはエチル基を表す。]
【0046】
一般式(I)または(II)で表されるグリコールとしては、具体的には、1,2−プロピレングリコール、1,2−ブチレングリコール、ネオペンチルグリコールなどが挙げられる。
【0047】
ポリエステルポリオール(A)を構成するグリコール成分としては、一般式(I)、(II)で示される成分以外のグリコール成分を含んでもよいが、グリコール成分中の60〜100モル%が前記一般式(I)または(II)で表されるグリコールであることが好ましい。他のグリコール成分としては、例えば、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,3−ブチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−ドデカンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、2−メチルオクタンジオール、ネオペンチルヒドロキシピバリン酸エステル、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,2−シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノール、水素添加ビスフェノールA、水素添加ビスフェノールAノアルキレンオキサイド付加物、ポリテトラメチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコールなどのポリエーテルポリオールが挙げられる。中でも、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルヒドロキシピバリン酸エステル、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノール、水素添加ビスフェノールAが望ましい。また、ポリエステルジオールの原料の一部に無水トリメリット酸、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールなどの三官能以上の化合物をポリエステルポリオールの有機溶剤溶解性の特性を損なわない範囲で使用してもよい。
【0048】
芳香族イソシアネート(B)としては、芳香環および1分子中に2つ以上のイソシアネート基を含む芳香族ポリイソシアネートが好ましく、具体例としては、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、4,4‘−ジフェニルメタンジイソシアネート、m−フェニレンジイソシアネート、3,3’−ジメトキシー4,4‘−ビフェニレンジイソシアネート、2,6−ナフタレンジイソシアネート、3,3’−ジメチルー4,4‘−ビフェニレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニレンジイソシアネート、4,4‘−ジイソシアネートジフェニルエーテル、1,5−ナフタレンジイソシアネート、m−キシレンジイソシアネート等が挙げられる。中でも、4,4‘−ジフェニルメタンジイソシアネートが望ましい。
【0049】
イソシアネート基と反応し得る官能基を1分子中に2個以上有する分子量1000未満の分岐側鎖を有する化合物(C)としては、下記のような成分が挙げられる。具体的には1,2−プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブチレングリコール、1,3−ブチレングリコール、2,3−ブチレングリコール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2,2−ジメチルー3−ヒドロキシプロピルー2,2‘−ジメチル−3−ヒドロキシプロパネート、2−ノルマルブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、3−エチル−1,5−ペンタンジオール、3−プロピル−1,5−ペンタンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、3−オクチル−1,5−ペンタンジオール、3−フェニル−1,5−ペンタンジオール、2,5−ジメチル−3−ナトリウムスルホ−2,5−ヘキサンジオール等が挙げられ、これらの中で、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジメチル−3−ヒドロキシプロピル−2,2‘−ジメチル−3−ヒドロキシプロパネート、2−ノルマルブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオールが特に好ましい。また、化合物(C)として、極性基を有する化合物を用いてもよい。例えば、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、5−カリウムスルホイソフタル酸、ナトリウムスルホテレフタル酸、カリウムスルホテレフタル酸等のスルホン酸金属塩含有芳香族ジカルボン酸およびこれらのエステルと側鎖含有グリコールから得られる数平均分子量1000以下のポリエステルジオールがあげられる。具体的には、5−ナトリウムスルホイソフタル酸ジメチルエステルと2,2−ジメチル−3−ヒドロキシプロピル−2’、2‘−ジメチル−3−ヒドロキシプロパネートからなるエステル縮合物、または、5−ナトリウムスルホイソフタル酸ジメチルエステルとネオペンチルグリコールからなるエステル縮合物が挙げられる。
【0050】
ポリエステルポリオール(A)と、芳香族イソシアネート(B)と、化合物(C)との反応生成物であるポリエステルポリウレタンは、上記(A)〜(C)を公知の方法で共重合することによって得ることができる。芳香族イソシネート(B)は、ポリエステルポリオール(A)100質量部に対して5〜120質量部の量で共重合することが好ましい。また、化合物(C)の共重合量は、得られるポリウレタンのウレタン結合基濃度が4.0×10-3モル/gを越えない範囲とすることが好ましい。ウレタン結合基濃度が4.0×10-3モル/gを越えた場合では、ポリウレタンとしての力学物性をさらに向上することは可能であるものの、汎用溶剤に対する溶解性が低下することがある。ウレタン結合基濃度は分岐状化合物である化合物(C)の共重合量、およびポリエステルポリオール(A)の分子量により、調節可能である。単位はポリウレタン質量1g当たりのモル数(モル/g)を表す。尚、ウレタン基濃度は以下のようにして算出する。
〔{(芳香族イソシアネート(B)の質量×2)/(ポリエステルポリオール(A)の質量+芳香族イソシアネート(B)の質量+化合物(C)の質量)}/芳香族イソシアネート(B)の分子量〕=ウレタン基濃度(単位;モル/g)
【0051】
上記(A)〜(C)の反応生成物であるポリエステルポリウレタンの数平均分子量は1,000〜200,000であることが好ましく、10,000〜100,000であることがより好ましく、重量平均分子量は20,000〜400.000であることが好ましく、20,000〜200,000であることがより好ましい。
【0052】
磁性層および/または非磁性層には、上記(A)〜(C)の反応生成物であるポリエステルポリウレタンのみを結合剤成分として使用することもできるが、後述する他の結合剤成分を併用することも可能である。他の結合剤成分を併用する場合、各層における硬化剤を含む結合剤全質量に対し、10質量%以上を上記ポリエステルポリウレタンが占めることが好ましく、15〜75質量%を上記ポリエステルポリウレタンが占めることが好ましい。
【0053】
磁性層塗布液および非磁性層塗布液の調製時、有機酸A、B、結合剤および粉末の添加順序は特に限定されるものではなく、有機酸A、B、結合剤および粉末、更に必要に応じて添加される各種添加剤は同時または順次添加すればよい。
【0054】
以下、本発明の磁気記録媒体の磁性層、非磁性層等について更に詳細に説明する。
【0055】
磁性層
磁性層は、強磁性粉末および結合剤を含む。態様1の磁気記録媒体では、磁性層には強磁性粉末および結合剤とともに、前記の有機酸A、Bが含まれる。態様2では、磁性層塗布液中に有機酸A、Bを添加することは必須ではないが、非磁性層に有機酸A、Bが含まれるため、非磁性層からのマイグレートによって結果的に磁性層に有機酸A、Bが存在する場合がある。態様2では、少なくとも磁性層塗布液調製時には、磁性層塗布液に分散性を向上するための添加剤(分散剤)を添加することが好ましく、有機酸Aを添加することがより好ましい。これは、磁性層塗布液調製時に強磁性粉末の分散性を高めることにより、磁性層の表面平滑性を確保するためである。したがって、態様2では、磁性層に分散剤が含まれることが好ましく、有機酸Aが含まれることがより好ましい。この場合の有機酸Aの添加量は、前述の好ましい範囲に設定することができる。
【0056】
強磁性粉末としては、一般に磁気記録媒体の磁性層に使用される強磁性粉末を用いることができる。有機酸A、Bとの組み合わせが好ましい強磁性粉末としては、六方晶フェライト粉末および強磁性金属粉末を挙げることができる。いずれの種類の強磁性粉末についても、有機酸Aと有機酸Bとの組み合わせによる効果を良好に得る観点から、BET法による比表面積は、10〜150m2/gであることが好ましく、20〜120m2/gであることがより好ましく、45〜100m2/gであることが更に好ましく、50〜80m2/gであることがよりいっそう好ましい。
以下、六方晶フェライト粉末および強磁性金属粉末について更に詳細に説明する。
【0057】
(i)六方晶フェライト粉末
六方晶フェライト粉末には、例えば、バリウムフェライト、ストロンチウムフェライト、鉛フェライト、カルシウムフェライト、それらのCo等の置換体等がある。より具体的には、マグネトプランバイト型のバリウムフェライトおよびストロンチウムフェライト、スピネルで粒子表面を被覆したマグネトプランバイト型フェライト、さらに一部にスピネル相を含有したマグネトプランバイト型のバリウムフェライトおよびストロンチウムフェライト等が挙げられる。その他、所定の原子以外にAl、Si、S、Sc、Ti、V、Cr、Cu、Y、Mo、Rh、Pd、Ag、Sn、Sb、Te、Ba、Ta、W、Re、Au、Hg、Pb、Bi、La、Ce、Pr、Nd、P、Co、Mn、Zn、Ni、Sr、B、Ge、Nbなどの原子を含んでもかまわない。一般には、Co−Zn、Co−Ti、Co−Ti−Zr、Co−Ti−Zn、Ni−Ti−Zn、Nb−Zn−Co、Sb−Zn−Co、Nb−Zn等の元素を添加したものを使用できる。また原料・製法によっては特有の不純物を含有するものもある。
【0058】
六方晶フェライト粉末として、平均板径10〜50nmのものを使用することが好ましく、より好ましくは15〜40nm、更に好ましくは15〜30nmである。上記サイズの六方晶フェライト粉末は、高密度記録用磁気記録媒体に使用される磁性体として好適である。本発明によれば、上記平均板径を有する微粒子状の六方晶フェライト粉末の分散性を高めることができる。
【0059】
六方晶フェライト粉末の平均板状比[(板径/板厚)の算術平均]は1〜15であることが好ましく、1〜7であることが更に好ましい。平均板状比が1〜15であれば、磁性層で高充填性を保持しながら充分な配向性が得られ、かつ、粒子間のスタッキングによるノイズ増大を抑えることができる。
【0060】
六方晶フェライト粉末の粒子板径・板厚の分布は、通常狭いほど好ましい。粒子板径・板厚は、粒子TEM写真より、例えば500粒子を無作為に測定することで測定できる。粒子板径・板厚の分布は正規分布ではない場合が多いが、計算して平均サイズに対する標準偏差で表すと、σ/平均サイズ=0.1〜1.0である。粒子サイズ分布をシャープにするには、一般に、粒子生成反応系をできるだけ均一にすると共に、生成した粒子に分布改良処理を施すことも行われている。例えば、酸溶液中で超微細粒子を選別的に溶解する方法等も知られている。また、六方晶フェライト粉末のpHは、通常4〜12程度で分散媒、ポリマーにより最適値があるが、一般に、媒体適用時の化学的安定性、保存性から6〜11程度が選択される。六方晶フェライト粉末に含まれる水分も分散に影響する。分散媒、ポリマーにより最適値があるが通常0.01〜2.0%が選ばれる。
【0061】
六方晶フェライト粉末の製法としては、(1)酸化バリウム・酸化鉄・鉄を置換する金属酸化物とガラス形成物質として酸化ホウ素等を所望のフェライト組成になるように混合した後溶融し、急冷して非晶質体とし、次いで再加熱処理した後、洗浄・粉砕してバリウムフェライト結晶粉体を得るガラス結晶化法、(2)バリウムフェライト組成金属塩溶液をアルカリで中和し、副生成物を除去した後100℃以上で液相加熱した後洗浄・乾燥・粉砕してバリウムフェライト結晶粉体を得る水熱反応法、(3)バリウムフェライト組成金属塩溶液をアルカリで中和し、副生成物を除去した後乾燥し1100℃以下で処理し、粉砕してバリウムフェライト結晶粉体を得る共沈法等があるが、本発明において使用される六方晶フェライト粉末は、いずれの製法で製造されたものであってもよい。六方晶フェライト粉末は、必要に応じ、Al、Si、Pまたはこれらの酸化物などで表面処理を施してもかまわない。その量は強磁性粉末に対し、例えば0.1〜10質量%であり表面処理を施すと脂肪酸などの潤滑剤の吸着が100mg/m2以下になり好ましい。六方晶フェライト粉末には可溶性のNa、Ca、Fe、Ni、Srなどの無機イオンを含む場合がある。これらは、本質的に無い方が好ましいが、200ppm以下であれば特に特性に影響を与えることは少ない。
【0062】
(ii)強磁性金属粉末
強磁性金属粉末としては、特に制限されるべきものではないが、α−Feを主成分とする強磁性金属粉末を用いることが好ましい。これらの強磁性金属粉末には、所定の原子以外にAl、Si、S、Sc、Ca、Ti、V、Cr、Cu、Y、Mo、Rh、Pd、Ag、Sn、Sb、Te、Ba、Ta、W、Re、Au、Hg、Pb、Bi、La、Ce、Pr、Nd、P、Co、Mn、Zn、Ni、Sr、Bなどの原子を含んでもかまわない。特に、Al、Si、Ca、Y、Ba、La、Nd、Co、Ni、Bの少なくとも1つをα−Fe以外に含むことが好ましく、Co、Y、Alの少なくとも一つを含むことがさらに好ましい。Coの含有量はFeに対して0原子%以上40原子%以下であることが好ましく、さらに好ましくは15原子%以上35原子%以下、より好ましくは20原子%以上35原子%以下である。Yの含有量は1.5原子%以上12原子%以下であることが好ましく、さらに好ましくは3原子%以上10原子%以下、特に好ましくは4原子%以上9原子%以下である。Alは1.5原子%以上12原子%以下であることが好ましく、さらに好ましくは3原子%以上10原子%以下、より好ましくは4原子%以上9原子%以下である。
【0063】
強磁性金属粉末には少量の水酸化物、または酸化物が含まれてもよい。強磁性金属粉末は公知の製造方法により得られたものを用いることができ、下記の方法を挙げることができる。複合有機酸塩(主としてシュウ酸塩)と水素などの還元性気体で還元する方法、酸化鉄を水素などの還元性気体で還元してFeまたはFe−Co粒子などを得る方法、金属カルボニル化合物を熱分解する方法、強磁性金属の水溶液に水素化ホウ素ナトリウム、次亜リン酸塩あるいはヒドラジンなどの還元剤を添加して還元する方法、金属を低圧の不活性気体中で蒸発させて微粉末を得る方法などである。このようにして得られた強磁性金属粉末には、公知の徐酸化処理、すなわち有機溶剤に浸漬したのち乾燥させる方法、有機溶剤に浸漬したのち酸素含有ガスを送り込んで表面に酸化膜を形成したのち乾燥させる方法、有機溶剤を用いず酸素ガスと不活性ガスの分圧を調整して表面に酸化皮膜を形成する方法のいずれを施すこともできる。
【0064】
強磁性金属粉末の結晶子サイズは40〜180Åであることが好ましく、より好ましくは40〜150Å、更に好ましくは40〜110Åである。強磁性金属粉末の平均長軸長(平均粒子サイズ)は、好ましくは10〜50nmであり、より好ましくは10〜40nmであり、さらに好ましくは15〜30nmである。本発明によれば、上記平均長軸長を有する微粒子状の強磁性金属粉末の分散性を高めることができる。強磁性金属粉末の針状比は3以上15以下であることが好ましく、さらには3以上12以下であることが好ましい
【0065】
強磁性金属粉末の含水率は0.01〜2%とすることが好ましい。結合剤の種類によって強磁性金属粉末の含水率は最適化することが好ましい。強磁性金属粉末のpHは、用いる結合剤との組合せにより最適化することが好ましい。その範囲は4〜12とすることができ、好ましくは6〜10である。強磁性金属粉末は必要に応じ、Al、Si、Pまたはこれらの酸化物などで表面処理を施してもかまわない。その量は強磁性金属粉末に対し0.1〜10%とすることができ、表面処理を施すと脂肪酸などの潤滑剤の吸着量が100mg/m2以下になり好ましい。強磁性金属粉末は可溶性のNa、Ca、Fe、Ni、Srなどの無機イオンを含む場合がある。これらは、本質的に無い方が好ましいが、200ppm以下であれば特性に影響を与えることは少ない。また、本発明に用いられる強磁性金属粉末は空孔が少ないほうが好ましく、その値は20容量%以下、さらに好ましくは5容量%以下である。また形状については先に示した粒子サイズについての特性を満足すれば針状、米粒状、紡錘状のいずれでもかまわない。
【0066】
強磁性粉末の平均サイズは、以下の方法により測定することができる。
強磁性粉末を、日立製透過型電子顕微鏡H−9000型を用いて粒子を撮影倍率100000倍で撮影し、総倍率500000倍になるように印画紙にプリントして粒子写真を得る。粒子写真から目的の磁性体を選びデジタイザーで粉体の輪郭をトレースしカールツァイス製画像解析ソフトKS−400で粒子のサイズを測定する。500個の粒子のサイズを測定する。上記方法により測定される粒子サイズの平均値を強磁性粉末の平均サイズとする。
【0067】
なお、本発明において、磁性体等の粉体のサイズ(以下、「粉体サイズ」と言う)は、(1)粉体の形状が針状、紡錘状、柱状(ただし、高さが底面の最大長径より大きい)等の場合は、粉体を構成する長軸の長さ、即ち長軸長で表され、(2)粉体の形状が板状乃至柱状(ただし、厚さ乃至高さが板面乃至底面の最大長径より小さい)場合は、その板面乃至底面の最大長径で表され、(3)粉体の形状が球形、多面体状、不特定形等であって、かつ形状から粉体を構成する長軸を特定できない場合は、円相当径で表される。円相当径とは、円投影法で求められるものを言う。
また、該粉体の平均粉体サイズは、上記粉体サイズの算術平均であり、500個の一次粒子について上記の如く測定を実施して求めたものである。一次粒子とは、凝集のない独立した粉体をいう。
【0068】
また、該粉体の平均針状比は、上記測定において粉体の短軸の長さ、即ち短軸長を測定し、各粉体の(長軸長/短軸長)の値の算術平均を指す。ここで、短軸長とは、上記粉体サイズの定義で(1)の場合は、粉体を構成する短軸の長さを、同じく(2)の場合は、厚さ乃至高さを各々指し、(3)の場合は、長軸と短軸の区別がないから、(長軸長/短軸長)は、便宜上1とみなす。
そして、粉体の形状が特定の場合、例えば、上記粉体サイズの定義(1)の場合は、平均粉体サイズを平均長軸長と言い、同定義(2)の場合は平均粉体サイズを平均板径と言い、(最大長径/厚さ乃至高さ)の算術平均を平均板状比という。同定義(3)の場合は平均粉体サイズを平均直径(平均粒径、平均粒子径ともいう)という。
【0069】
結合剤
有機酸A、Bとの併用が好ましい結合剤は前述の通りであるが、本発明においては前記した結合剤以外の結合剤を使用することも可能である。そのような結合剤としては従来公知の熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、反応型樹脂やこれらの混合物を使用することができる。熱可塑性樹脂としては、ガラス転移温度が−100〜150℃、数平均分子量が1,000〜200,000、好ましくは10,000〜100,000、重合度が約50〜1000程度のものを使用することができる。
【0070】
このような例としては、塩化ビニル、酢酸ビニル、ビニルアルコール、マレイン酸、アクルリ酸、アクリル酸エステル、塩化ビニリデン、アクリロニトリル、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、スチレン、ブタジエン、エチレン、ビニルブチラール、ビニルアセタール、ビニルエーテル、等を構成単位として含む重合体または共重合体、ポリウレタン樹脂、各種ゴム系樹脂がある。また、熱硬化性樹脂または反応型樹脂としてはフェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン硬化型樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、アルキド樹脂、アクリル系反応樹脂、ホルムアルデヒド樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ−ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂とイソシアネートプレポリマーの混合物、ポリエステルポリオールとポリイソシアネートの混合物、ポリウレタンとポリイソシアネートの混合物等が挙げられる。これらの樹脂については朝倉書店発行の「プラスチックハンドブック」に詳細に記載されている。また、公知の電子線硬化型樹脂を各層に使用することも可能である。これらの例とその製造方法については特開昭62−256219号公報に詳細に記載されている。以上の樹脂は単独または組合せて使用できるが、好ましいものとして、ポリウレタン樹脂、塩化ビニル樹脂、塩化ビニル酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル酢酸ビニルビニルアルコール共重合体、塩化ビニル酢酸ビニル無水マレイン酸共重合体から選ばれる少なくとも1種とポリウレタン樹脂の組合せ、またはこれらにポリイソシアネートを組み合わせたものが挙げられる。結合剤として使用する樹脂は、公知の方法で合成することができ、また市販品として入手することもできる。
【0071】
ポリウレタン樹脂の構造はポリエステルポリウレタン、ポリエーテルポリウレタン、ポリエーテルポリエステルポリウレタン、ポリカーボネートポリウレタン、ポリエステルポリカーボネートポリウレタン、ポリカプロラクトンポリウレタンなど公知のものが使用できる。ここに示したすべての結合剤について、より優れた分散性と耐久性を得るためには必要に応じ、前述の極性基を共重合または付加反応で導入したものを用いることが好ましい。このような極性基の量は、例えば10-1〜10-8モル/gであり、好ましくは10-2〜10-6モル/gである。
【0072】
磁性層には、磁性粉末に対し、例えば5〜50質量%の範囲、好ましくは10〜30質量%の範囲で結合剤を用いることができる。塩化ビニル系樹脂を用いる場合は5〜30質量%、ポリウレタン樹脂を用いる場合は2〜20質量%、ポリイソシアネートは2〜20質量%の範囲でこれらを組み合わせて用いることが好ましい。但し、例えば、微量の脱塩素によりヘッド腐食が起こる場合は、ポリウレタンのみまたはポリウレタンとイソシアネートのみを使用することも可能である。
【0073】
ポリイソシアネートとしては、トリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ナフチレン−1,5−ジイソシアネート、o−トルイジンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート等のイソシアネート類、また、これらのイソシアネート類とポリアルコールとの生成物、また、イソシアネート類の縮合によって生成したポリイソシアネート等を使用することができる。これらのイソシアネート類は、市販品として入手可能であり、それらを単独または硬化反応性の差を利用して二つもしくはそれ以上の組合せで各層とも用いることができる。
【0074】
磁性層、更に後述する非磁性層には、必要に応じて添加剤を加えることができる。添加剤としては、一般に磁気記録媒体に使用される研磨剤、潤滑剤、防黴剤、帯電防止剤、酸化防止剤、溶剤、カーボンブラックなどを挙げることができる。特に、有機酸Bは脂肪酸または脂肪酸エステルを含む系における脂肪酸金属塩の生成を抑制する作用があるため、有機酸Bは脂肪酸および/または脂肪酸エステルを含む磁気記録媒体において使用することが好ましい。脂肪酸としては、カプリン酸、カプリル酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、オレイン酸、エライジン酸、リノール酸、リノレン酸、イソステアリン酸、などが挙げられる。脂肪酸エステルとしては、ブチルステアレート、オクチルステアレート、アミルステアレート、イソオクチルステアレート、ブチルミリステート、オクチルミリステート、ブトキシエチルステアレート、ブトキシジエチルステアレート、2−エチルヘキシルステアレート、2−オクチルドデシルパルミテート、2−ヘキシルドデシルパルミテート、イソヘキサデシルステアレート、オレイルオレエート、ドデシルステアレート、トリデシルステアレート、エルカ酸オレイル、ネオペンチルグリコールジデカノエート、エチレングリコールジオレイルが挙げられる。これら脂肪酸および脂肪酸エステルは、磁性層および/または非磁性層に添加することにより潤滑性を向上する潤滑剤として機能し得る。その種類、量、および相乗的効果を生み出す潤滑剤の併用比率は目的に応じ最適に定められるべきものである。非磁性層、磁性層で融点の異なる脂肪酸を用い表面へのにじみ出しを制御する、沸点、融点や極性の異なるエステル類を用い表面へのにじみ出しを制御する、など考えられ、無論ここに示した例のみに限られるものではない。一般には潤滑剤の総量は、強磁性粉末または非磁性粉末に対し、0.1〜50質量%、好ましくは2〜25質量%の範囲とすることができる。
【0075】
本発明で用いられる添加剤のすべてまたはその一部は、磁性層塗布液および非磁性層塗布液製造のどの工程で添加してもかまわない、例えば、混練工程前に強磁性粉末と混合する場合、強磁性粉末と結合剤と溶剤による混練工程で添加する場合、分散工程で添加する場合、分散後に添加する場合、塗布直前に添加する場合などがある。また、目的に応じて磁性層を塗布した後、同時または逐次塗布で、添加剤の一部または全部を塗布することにより目的が達成される場合がある。また、目的によってはカレンダーした後、またはスリット終了後、磁性層表面に潤滑剤を塗布することもできる。本発明は、公知の有機溶剤を使用することができ、例えば特開昭6−68453に号公報記載の溶剤を用いることができる。
【0076】
非磁性層
非磁性層は、非磁性粉末および結合剤を含む。上記非磁性粉末は、無機物質でも有機物質でもよい。また、カーボンブラック等も使用できる。無機物質としては、例えば金属、金属酸化物、金属炭酸塩、金属硫酸塩、金属窒化物、金属炭化物、金属硫化物などが挙げられる。表面改質効果の点では、非磁性金属粉末への適用が有効である。
【0077】
具体的には二酸化チタン等のチタン酸化物、酸化セリウム、酸化スズ、酸化タングステン、ZnO、ZrO2、SiO2、Cr23、α化率90〜100%のα−アルミナ、β−アルミナ、γ−アルミナ、α−酸化鉄、ゲータイト、コランダム、窒化珪素、チタンカーバイト、酸化マグネシウム、窒化ホウ素、2硫化モリブデン、酸化銅、MgCO3、CaCO3、BaCO3、SrCO3、BaSO4、炭化珪素、炭化チタンなどが単独または2種類以上を組み合わせて使用することができる。好ましいものは、α−酸化鉄、酸化チタンである。
【0078】
非磁性粉末の形状は、針状、球状、多面体状、板状のいずれでもあってもよい。非磁性粉末の結晶子サイズは、4nm〜500nmが好ましく、40〜100nmがさらに好ましい。これら非磁性粉末の平均粒径は、5nm〜500nmが好ましく、10〜200nmが更に好ましい。上記サイズを有する非磁性粉末は、高い表面平滑性が求められる高密度記録用磁気記録媒体の非磁性層塗布液に使用する非磁性粉末として好適である。本発明の表面改質剤によれば、上記サイズの非磁性粉末を非磁性塗料中で良好に分散させることができる。
【0079】
非磁性粉末のBET法による比表面積は、有機酸Aと有機酸Bとの組み合わせによる効果を良好に得る観点から、好ましくは1〜150m2/gであり、より好ましくは20〜120m2/gであり、さらに好ましくは50〜100m2/gである。ジブチルフタレート(DBP)を用いた吸油量は、例えば5〜100ml/100g、好ましくは10〜80ml/100g、さらに好ましくは20〜60ml/100gである。比重は、例えば1〜12、好ましくは3〜6である。タップ密度は、例えば0.05〜2g/ml、好ましくは0.2〜1.5g/mlである。タップ密度が0.05〜2g/mlの範囲であれば、飛散する粒子が少なく操作が容易であり、また装置にも固着しにくくなる傾向がある。非磁性粉末のpHは2〜11であることが好ましく、6〜9の間が特に好ましい。pHが2〜11の範囲にあれば、高温、高湿下または脂肪酸の遊離により摩擦係数が大きくなることを防ぐことができる。非磁性粉末の含水率は、例えば0.1〜5質量%、好ましくは0.2〜3質量%、さらに好ましくは0.3〜1.5質量%である。含水量が0.1〜5質量%の範囲であれば、分散も良好で、分散後の塗料粘度も安定するため好ましい。強熱減量は、20質量%以下であることが好ましく、強熱減量が小さいものが好ましい。
【0080】
また、非磁性粉末が無機粉体である場合には、モース硬度は4〜10のものが好ましい。モース硬度が4〜10の範囲であれば磁気記録媒体の耐久性を確保することができる。非磁性粉末の25℃での水への湿潤熱は、200〜600erg/cm2(200〜600mJ/m2)の範囲にあることが好ましい。また、この湿潤熱の範囲にある溶媒を使用することができる。100〜400℃での表面の水分子の量は1〜10個/100Åが適当である。水中での等電点のpHは、3〜9の間にあることが好ましい。これらの非磁性粉末の表面には表面処理が施されることによりAl23、SiO2、TiO2、ZrO2、SnO2、Sb23、ZnOが存在することが好ましい。特に分散性に好ましいのはAl23、SiO2、TiO2、ZrO2であるが、さらに好ましいものはAl23、SiO2、ZrO2である。これらは組み合わせて使用してもよいし、単独で用いることもできる。また、目的に応じて共沈させた表面処理層を用いてもよいし、先ずアルミナで処理した後にその表層をシリカで処理する方法、またはその逆の方法を採ることもできる。また、表面処理層は目的に応じて多孔質層にしても構わないが、均質で密である方が一般には好ましい。
【0081】
前記非磁性粉末の具体的な例としては、例えば、昭和電工製ナノタイト、住友化学製HIT−100、ZA−G1、戸田工業社製DPN−250、DPN−250BX、DPN−245、DPN−270BX、DPB−550BX、DPN−550RX、石原産業製酸化チタンTTO−51B、TTO−55A、TTO−55B、TTO−55C、TTO−55S、TTO−55D、SN−100、MJ−7、α−酸化鉄E270、E271、E300、チタン工業製STT−4D、STT−30D、STT−30、STT−65C、テイカ製MT−100S、MT−100T、MT−150W、MT−500B、T−600B、T−100F、T−500HDなどが挙げられる。堺化学製FINEX−25、BF−1、BF−10、BF−20、ST−M、同和鉱業製DEFIC−Y、DEFIC−R、日本アエロジル製AS2BM、TiO2P25、宇部興産製100A、500A、チタン工業製Y−LOPおよびそれを焼成したものが挙げられる。特に好ましい非磁性粉末は二酸化チタンとα−酸化鉄である。
【0082】
非磁性層に含まれる結合剤の詳細は、磁性層に含まれる結合剤と同様である。非磁性層は、更に磁気記録媒体に使用される各種添加剤や溶剤を含むことができる。非磁性層中の各成分、添加量等の詳細は、磁性層に関する前述の記載と同様である。
【0083】
非磁性支持体
非磁性支持体としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル類、ポリオレフィン類、セルローストリアセテート、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリスルフォン、芳香族ポリアミド、ポリベンゾオキサゾールなどの公知のフィルムが使用できる。ガラス転移温度が100℃以上の支持体を用いることが好ましく、ポリエチレンナフタレート、アラミドなどの高強度支持体を用いることが特に好ましい。また必要に応じ、磁性面とベース面の表面粗さを変えるため、特開平3−224127号公報に示されるような積層タイプの支持体を用いることもできる。これらの支持体にはあらかじめコロナ放電処理、プラズマ処理、易接着処理、熱処理、除塵処理、などを行ってもよい。
【0084】
非磁性支持体としては、WYKO社製光干渉式表面粗さ計HD−2000で測定した中心面平均表面粗さ(Ra)が8.0nm以下、好ましくは4.0nm以下、さらに好ましくは2.0nm以下のものを使用することが好ましい。これらの支持体は単に中心面平均表面粗さ(Ra)が小さいだけではなく、0.5μm以上の粗大突起がないことが好ましい。また表面の粗さ形状は必要に応じて支持体に添加されるフィラーの大きさと量により自由にコントロールされるものである。これらのフィラーとしては一例としてはCa、Si、Tiなどの酸化物や炭酸塩の他、アクリル系などの有機微粉末が挙げられる。支持体の最大高さRmaxは1μm以下、十点平均粗さRzは0.5μm以下、中心面山高さRpは0.5μm以下、中心面谷深さRvは0.5μm以下、中心面面積率Srは10%以上、90%以下、平均波長λaは5μm以上、300μm以下であることがそれぞれ好ましい。所望の電磁変換特性と耐久性を得るため、これら支持体の表面突起分布をフィラーにより任意にコントロールすることができ、0.01μmから1μmの大きさのものを各々を0.1mm2あたり0個から2000個の範囲でコントロールすることができる。
【0085】
本発明に用いられる支持体のF−5値は好ましくは5〜50kg/mm2(49〜490MPa)である。また、支持体の100℃30分での熱収縮率は好ましくは3%以下、さらに好ましくは1.5%以下、80℃30分での熱収縮率は好ましくは1%以下、さらに好ましくは0.5%以下である。破断強度は5〜100kg/mm2(49〜980MPa)、弾性率は100〜2000kg/mm2(0.98〜19.6GPa)であることがそれぞれ好ましい。温度膨張係数は10-4〜10-8/℃であることが好ましく、より好ましくは10-5〜10-6/℃である。湿度膨張係数は10-4/RH%以下であることが好ましく、より好ましくは10-5/RH%以下である。これらの熱特性、寸法特性、機械強度特性は支持体の面内各方向に対し10%以内の差でほぼ等しいことが好ましい。
【0086】
また、本発明の磁気記録媒体の製造方法において、下塗り層を設けてもよい。下塗り層を設けることによって支持体と磁性層または非磁性層との接着力を向上させることができる。密着性向上のための下塗り層としては、溶剤への可溶性のポリエステル樹脂を使用することができる。また後述するように、下塗り層として平滑化層を設けることもできる
【0087】
層構成
本発明の磁気記録媒体の製造方法により製造する磁気記録媒体の厚み構成は、非磁性支持体の厚みが、好ましくは3〜80μm、より好ましくは3〜50μm、特に好ましくは3〜10μmである。また、非磁性支持体と非磁性層または磁性層の間に下塗り層を設ける場合、下塗り層の厚みは、例えば0.01〜0.8μm、好ましくは0.02〜0.6μmである。
【0088】
また支持体と非磁性層または磁性層との間、支持体とバックコート層との間に平滑化を目的とした中間層を設けることができ、例えば非磁性支持体の表面に、ポリマーを含有した塗布液を塗布、乾燥して形成するか、分子中に放射線硬化官能基を有する化合物(放射線硬化型化合物)を含有した塗布液を塗布し、その後、放射線を照射し、塗布液を硬化させて形成することができる。
【0089】
磁性層の厚みは、用いる磁気ヘッドの飽和磁化量やヘッドギャップ長、記録信号の帯域により最適化されるものであるが、一般には10〜150nmであり、好ましくは20〜120nmであり、さらに好ましくは30〜100nmであり、特に好ましくは30〜80nmである。また、磁性層の厚み変動率(σ/δ)は±50%以内が好ましく、さらに好ましくは±30%以内である。磁性層は少なくとも一層あればよく、磁性層を異なる磁気特性を有する2層以上に分離してもかまわず、公知の重層磁性層に関する構成が適用できる。
【0090】
非磁性層の厚みは、例えば0.1〜3.0μmであり、0.2〜2.0μmであることが好ましく、0.3〜1.5μmであることが更に好ましい。なお、本発明において非磁性層は、実質的に非磁性であればその効果を発揮するものであり、例えば不純物として、あるいは意図的に少量の磁性体を含んでいても、本発明の効果を示すものであり、本発明の磁気記録媒体と実質的に同一の構成とみなすことができる。なお、実質的に同一とは、非磁性層の残留磁束密度が10mT以下または抗磁力が7.96kA/m(100Oe)以下であることを示し、好ましくは残留磁束密度と抗磁力を持たないことを意味する。
【0091】
バックコート層
本発明の磁気記録媒体は、非磁性支持体の磁性層を有する面とは反対の面にバックコート層を有することもできる。バックコート層には、カーボンブラックと無機粉末が含有されていることが好ましい。バックコート層の結合剤、各種添加剤は、磁性層や非磁性層の処方を適用することができる。特に前記非磁性層の処方を適用することが好適である。バックコート層の厚みは、0.9μm以下が好ましく、0.1〜0.7μmが更に好ましい。
【0092】
製造方法
磁気記録媒体の製造工程では、例えば、走行下にある非磁性支持体の表面に、非磁性層塗布液を所定の膜厚となるように塗布して非磁性層を形成し、次いでその上に、磁性層塗布液を所定の膜厚となるようにして磁性層を塗布して形成する。複数の磁性層塗布液を逐次または同時に重層塗布してもよく、非磁性層塗布液と磁性層塗布液とを逐次または同時に重層塗布してもよい。上記磁性層塗布液または非磁性層塗布液を塗布する塗布機としては、エアードクターコート、ブレードコート、ロッドコート、押出しコート、エアナイフコート、スクイズコート、含浸コート、リバースロールコート、トランスファーロールコート、グラビヤコート、キスコート、キャストコート、スプレイコート、スピンコート等が利用できる。これらについては例えば(株)総合技術センター発行の「最新コーティング技術」(昭和58年5月31日)を参考にできる。
【0093】
磁性層塗布液の塗布層は、磁気テープの場合、磁性層塗布液の塗布層中に含まれる強磁性粉末にコバルト磁石やソレノイドを用いて磁場配向処理してもかまわない。ディスクの場合、配向装置を用いず無配向でも十分に等方的な配向性が得られることもあるが、コバルト磁石を斜めに交互に配置すること、ソレノイドで交流磁場を印加するなど公知のランダム配向装置を用いることが好ましい。等方的な配向とは強磁性金属粉末の場合、一般的には面内2次元ランダムが好ましいが、垂直成分をもたせて3次元ランダムとすることもできる。また異極対向磁石など公知の方法を用い、垂直配向とすることで円周方向に等方的な磁気特性を付与することもできる。特に高密度記録を行う場合は垂直配向が好ましい。また、スピンコートを用いて円周配向することもできる。
【0094】
乾燥風の温度、風量、塗布速度を制御することで塗膜の乾燥位置を制御できる様にすることが好ましく、塗布速度は20m/分〜1000m/分、乾燥風の温度は60℃以上が好ましい。また磁石ゾーンに入る前に適度の予備乾燥を行うこともできる。
【0095】
このようにして得られた塗布原反は、通常、一旦巻き取りロールにより巻き取られ、しかる後、この巻き取りロールから巻き出され、次いでカレンダー処理に施され得る。
カレンダー処理には、例えばスーパーカレンダーロールなどを利用することができる。カレンダー処理によって、表面平滑性が向上するとともに、乾燥時の溶剤の除去によって生じた空孔が消滅し磁性層中の強磁性粉末の充填率が向上するので、電磁変換特性の高い磁気記録媒体を得ることができる。カレンダー処理する工程は、塗布原反の表面の平滑性に応じて、カレンダー処理条件を変化させながら行うことが好ましい。
【0096】
カレンダーロールとしてはエポキシ、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド等の耐熱性プラスチックロールを使用することができる。また金属ロールで処理することもできる。カレンダー処理条件としては、カレンダーロールの温度を、例えば60〜100℃の範囲、好ましくは70〜100℃の範囲、特に好ましくは80〜100℃の範囲とすることができ、圧力は、例えば100〜500kg/cm(98〜490kN/m)の範囲であり、好ましくは200〜450kg/cm(196〜441kN/m)の範囲で、特に好ましくは300〜400kg/cm(294〜392kN/m)の範囲とすることができる。また、磁性層表面の平滑性を高めるため、非磁性層表面にカレンダー処理をすることもできる。非磁性層に対するカレンダー処理も、上記条件で行うことが好ましい。
【0097】
得られた磁気記録媒体は、裁断機などを使用して所望の大きさに裁断して使用することができる。裁断機としては、特に制限はないが、回転する上刃(雄刃)と下刃(雌刃)の組が複数設けられたものが好ましく、適宜、スリット速度、噛み合い深さ、上刃(雄刃)と下刃(雌刃)の周速比(上刃周速/下刃周速)、スリット刃の連続使用時間等を選定することができる。
【0098】
物理特性
磁性層の表面粗さは、原子間力顕微鏡(AFM)により磁性層表面について40μm×40μmの面積で測定される中心線表面粗さRaとして、1.0〜3.5nmの範囲であることが好ましい。磁性層の中心線平均粗さが3.5nm以下であることにより、より良好な電磁変換特性を得ることができ、1.0nm以上とすることにより、安定走行が増す。また、磁性層の中心線平均粗さは、1.5〜3.0nmであることが好ましく、1.5〜2.5nmであることがより好ましい。本発明では有機酸Aを使用することにより表面平滑性に優れた磁性層を形成することができ、更に、強磁性粉末の粒子サイズ、磁性層塗布液の分散条件、カレンダー条件、非磁性支持体中のフィラー量の調整、平滑化のための下塗り層の使用、等によって磁性層の表面平滑性を制御することもできる。
【0099】
磁性層の抗磁力(Hc)は、143.2〜318.3kA/m(1800〜4000Oe)が好ましく、159.2〜278.5kA/m(2000〜3500Oe)が更に好ましい。抗磁力の分布は狭い方が好ましく、SFDおよびSFDrは0.8以下、さらに好ましくは0.5以下である。
【0100】
本発明の磁気記録媒体のヘッドに対する摩擦係数は、温度−10〜40℃、湿度0〜95%の範囲において、例えば0.50以下であり、好ましくは0.3以下である。また、表面固有抵抗は、好ましくは磁性面104〜108Ω/sq、帯電位は−500V〜+500V以内が好ましい。磁性層の0.5%伸びでの弾性率は、面内各方向で好ましくは0.98〜19.6GPa(100〜2000kg/mm2)、破断強度は、好ましくは98〜686MPa(10〜70kg/mm2)、磁気記録媒体の弾性率は、面内各方向で好ましくは0.98〜14.7GPa(100〜1500kg/mm2)、残留のびは、好ましくは0.5%以下、100℃以下のあらゆる温度での熱収縮率は、好ましくは1%以下、さらに好ましくは0.5%以下、最も好ましくは0.1%以下である。
【0101】
磁性層のガラス転移温度(動的粘弾性測定装置(例えばレオバイブロン等)により、110Hzで測定した動的粘弾性測定の損失弾性率の極大点)は50〜180℃が好ましく、非磁性層のそれは0〜180℃が好ましい。損失弾性率は1×107〜8×108Pa(1×108〜8×109dyne/cm2)の範囲にあることが好ましく、損失正接は0.2以下であることが好ましい。損失正接が大きすぎると粘着故障が発生しやすい。これらの熱特性や機械特性は媒体の面内各方向において10%以内でほぼ等しいことが好ましい。
【0102】
磁性層中に含まれる残留溶媒は、好ましくは100mg/m2以下、さらに好ましくは10mg/m2以下である。塗布層が有する空隙率は非磁性層、磁性層とも好ましくは40容量%以下、さらに好ましくは30容量%以下である。空隙率は高出力を果たすためには小さい方が好ましいが、目的によってはある値を確保した方が良い場合がある。例えば、繰り返し用途が重視されるディスク媒体では空隙率が大きい方が走行耐久性は好ましいことが多い。
【0103】
本発明の磁気記録媒体は、目的に応じ非磁性層と磁性層でこれらの物理特性を変えることができる。例えば、磁性層の弾性率を高くし走行耐久性を向上させると同時に非磁性層の弾性率を磁性層より低くして磁気記録媒体のヘッドへの当たりを良くすることができる。
【実施例】
【0104】
以下に本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。なお、ここに示す成分、割合、操作、順序等は本発明の精神から逸脱しない範囲で変更し得るものであり、下記の実施例に制限されるべきものではない。以下において、特記しない限り、「部」は「質量部」を示し、「%」は「質量%」を示す。
【0105】
(実施例1)
(1)磁性層塗布液の調製
強磁性金属粉末:100部
組成 Fe/Co=100/25
Hc 195kA/m(≒2450Oe)
BET法による比表面積 65m2/g
表面処理剤 Al23、SiO2、Y23
粒子サイズ(長軸径) 45nm
針状比 5
σs 110A・m2/kg(≒110emu/g)
有機酸A(フェニルホスホン酸):1.5部
塩化ビニル共重合体 MR104(日本ゼオン社製):10部
ポリウレタン系樹脂:PU−(1):10部
メチルエチルケトン:150部
シクロヘキサノン:150部
α−Al23 モ−ス硬度9(平均粒径0.1μm):15部
カーボンブラック(平均粒径0.08μm):0.5部
【0106】
上記の塗料について、各成分をオープンニ−ダで混練したのち、サンドミルを用いて分散させた。得られた分散液に下記の成分を加え撹拌した後、超音波処理し、1μmの平均孔径を有するフィルターを用いて濾過し、磁性層塗布液を調製した。
有機酸B(クエン酸):1.5部
ブチルステアレート:1.5部
ステアリン酸:0.5部
メチルエチルケトン:50部
シクロヘキサノン:50部
トルエン:3部
ポリイソシアネート化合物(日本ポリウレタン工業社製コロネート3041):5部
【0107】
(2)非磁性層塗布液の調製
非磁性粉体(αFe23 ヘマタイト):80部
長軸長 0.15μm
BET法による比表面積 52m2/g
pH 6
タップ密度 0.8
DBP吸油量 27〜38g/100g、
表面処理剤 Al23、SiO2
カーボンブラック:20部
平均一次粒子径 0.020μm
DBP吸油量 80ml/100g
pH 8.0
BET法による比表面積:250m2/g
揮発分:1.5%
塩化ビニル共重合体 MR104(日本ゼオン社製):12部
ポリウレタン系樹脂:PU−(1):7.5部
メチルエチルケトン:150部
シクロヘキサノン:150部
【0108】
上記の塗料について、各成分をオープンニ−ダで混練したのち、サンドミルを用いて分散させた。得られた分散液に下記の成分を加え撹拌した後、1μmの平均孔径を有するフィルターを用いて濾過し、下層塗布層(非磁性層)用の塗布液を調製した。
【0109】
ブチルステアレート:1.5部
ステアリン酸:1部
メチルエチルケトン:50部
シクロヘキサノン:50部
トルエン:3部
ポリイソシアネート化合物(日本ポリウレタン工業社製コロネート3041):5部
【0110】
(3)バックコート層塗布液の調製
カーボンブラック(平均粒径40nm):85部
カーボンブラック(平均粒径100nm):3部
ニトロセルロース:28部
ポリウレタン樹脂:58部
銅フタロシアニン系分散剤:2.5部
ニッポラン2301(日本ポリウレタン工業社製):0.5部
メチルイソブチルケトン:0.3部
メチルエチルケトン:860部
トルエン:240部
【0111】
上記成分をロールミルで予備混練した後サンドミルで分散し、ポリエステル樹脂(東洋紡績株式会社製バイロン500)4部、ポリイソシアネート化合物(日本ポリウレタン工業社製コロネート3041)14部、α−Al23(住友化学社製)5部を添加、攪拌濾過してバックコート層塗布液を調製した。
【0112】
上記の非磁性層塗布液を、乾燥後の厚さが1.0μmになるように、さらにその直後にその上に磁性層の厚さが0.1μmになるように、厚さ5μmで磁性層塗布面の中心線表面粗さが0.001μmの、予めコロナ処理を施してベース表面を親水性にしたポリエチレンナフタレート樹脂支持体上に同時重層塗布を行い、両層がまだ湿潤状態にあるうちに0.5T(5000G)の磁力をもつコバルト磁石と0.4T(4000G)の磁力をもつソレノイドにより配向させ乾燥後、その後、やはり予めコロナ処理を施したベース面に上記のバックコート層用塗布液を乾燥後の厚さが0.5μmとなるように塗布し、その後金属ロールから構成される7段のカレンダーで温度100℃にて分速80m/minで処理を行い、1/2mm幅にスリットして磁気記録テープを作製した。
【0113】
(実施例2〜10、比較例1〜10)
表1に示すように磁性層に投入する有機酸A、有機酸Bの種類を変更した点以外は実施例1と同様の方法で磁気記録テープを作製した。
【0114】
(実施例11〜16)
表2に示すように磁性層に使用するポリウレタン系樹脂を変更した点以外は実施例1と同様の方法で磁気記録テープを作製した。表2中の成分Aは、二塩基酸とグリコール成分とを構成成分とするポリエステルポリオール(A)、成分B中、MDIは芳香族イソシアネート(B)、成分Cは、イソシアネート基と反応し得る官能基を1分子中に2個以上有する分子量1000未満の分岐側鎖を有する化合物(C)に相当する。表2に示すガラス転移温度は以下の方法で測定した。重量平均分子量は、0.3質量%の臭化リチウムを含有するDMF溶媒を用いて標準ポリスチレン換算で求めた。
[ガラス転移温度測定方法]
アラミドベース(旭化成株式会社製)に各ポリウレタン樹脂のポリマー溶液を膜厚30μmになるように塗布し、140℃/真空3時間乾燥させた。このフィルムを3.35mm×60.0mmの大きさに打ち抜き、ガラス転移温度測定サンプルを作製した。作製したサンプルの動的粘弾性特性をバイブロン動的粘弾性装置:Model RHE0-2000(TOYO BACDWIN)を用いて測定し損失弾性率(E‘’)の変曲点温度をガラス転移温度とした。
【0115】
また、表2中の略語の詳細を以下に示す。
NPG:ネオペンチルグリコール
PG:プロピレングリコール
MDI:4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート
HDM:2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール
TCDM:トリシクロデカンジメタノール
【0116】
(実施例17)
下記非磁性層塗布液を使用した点以外は実施例1と同様の方法で磁気記録テープを作製した。
非磁性粉体(αFe23 ヘマタイト):80部
長軸長 0.15μm
BET法による比表面積 52m2/g
pH 6
タップ密度 0.8
DBP吸油量 27〜38g/100g、
表面処理剤 Al23、SiO2
カーボンブラック:20部
平均一次粒子径 0.020μm
DBP吸油量 80ml/100g
pH 8.0
BET法による比表面積:250m2/g
揮発分:1.5%
有機酸A(フェニルホスホン酸):1.5部
塩化ビニル共重合体 MR104(日本ゼオン社製):12部
ポリウレタン系樹脂:PU−(1):7.5部
メチルエチルケトン:150部
シクロヘキサノン:150部
【0117】
上記の塗料について、各成分をオープンニ−ダで混練したのち、サンドミルを用いて分散させた。得られた分散液に下記の成分を加え撹拌した後、1μmの平均孔径を有するフィルターを用いて濾過し、下層塗布層(非磁性層)用の塗布液を調製した。
有機酸B(クエン酸):1.5部
ブチルステアレート:1.5部
ステアリン酸:1部
メチルエチルケトン:50部
シクロヘキサノン:50部
トルエン:3部
ポリイソシアネート化合物(日本ポリウレタン工業社製コロネート3041):5部
【0118】
(実施例18)
比較例9で使用した磁性層塗布液(有機酸A含有、有機酸B未含有)を使用した点以外は実施例17と同様の方法で磁気記録テープを作製した。
【0119】
(実施例19)
下記の方法で磁性層塗布液を作製した点(有機酸Aと有機酸Bを同時添加)以外は実施例1と同様の方法で磁気記録テープを作製した。
実施例1と同じ強磁性金属粉末:100部
有機酸A(フェニルホスホン酸):1.5部
有機酸B(クエン酸):1.5部
塩化ビニル共重合体 MR104(日本ゼオン社製):10部
ポリウレタン系樹脂:PU−(1):10部
メチルエチルケトン:150部
シクロヘキサノン:150部
α−Al23 モ−ス硬度9(平均粒径0.1μm):15部
カーボンブラック(平均粒径0.08μm):0.5部
上記の各成分をオープンニーダで混練したのち、サンドミルを用いて分散させた。得られた分散液に下記の成分を加え撹拌した後、超音波処理し、1μmの平均孔径を有するフィルターを用いて濾過し、磁性層塗布液を調製した。
ブチルステアレート:1.5部
ステアリン酸:0.5部
メチルエチルケトン:50部
シクロヘキサノン:50部
トルエン:3部
ポリイソシアネート化合物(日本ポリウレタン工業社製コロネート3041):5部
【0120】
実施例および比較例で使用した有機酸の構造を、以下に示す。
【0121】
【化7】

【0122】
(評価方法)
<有機酸A、有機酸Bの酸強度>
有機酸Aまたは有機酸Bについて、試料50mgを水20ml、テトラヒドロフラン30mlの混合液に溶解させた。三菱化学アナリテック社製GT−100Win型自動滴定装置を用いて、0.1N−NaOH(和光純薬)を滴下し、中和滴定を行った。中和点までに滴下した量の半分の滴下量に相当するpHを読み取り、このpHを酸強度とした。
【0123】
<テープの平均表面粗さ>
原子間力顕微鏡(AFM:DIGITAL INSTRUMENT社製のNANOSCOPE III)を用い、コンタクトモードで磁性層面について40μm×40μmの面積を測定し、中心線平均表面粗さ(Ra)を測定した。
【0124】
<電磁変換特性:SN比>
LTO−Gen4ドライブを用いて、記録トラック11.5μm、再生トラック幅5.3μm、線記録密度172kfciと86kfciの信号を記録し、再生信号をスペクトラムアナライザーで周波数分析し、172kfci信号記録時のキャリア信号の出力と、86kfci信号記録時のスペクトル全帯域の積分ノイズとの比をSN比とした。レファレンスには富士フイルム製LTO−Gen4テープを用い、0dBとした。0dB以上を電磁変換特性が良好とした。
【0125】
<テープ表面にある汚れ量>
Al23/TiC製の7mm×7mmの断面を有する角柱バーのエッジに磁性層面を接触させるように150度の角度でテープを渡し、荷重100g、秒速6mの条件で100mの長さを1パス摺動させて、角柱バーのエッジ部分を顕微鏡にて観察し、汚れの付着状態を評価した。評価は官能評価とし、10段階評価した。10は汚れが少なく、1は最も汚れが多いとし、8以上を汚れが少なく良好と判断した。
【0126】
<繰り返し走行前後のエラーレート>
SN比と同様に、LTO−Gen4ドライブを用いて、記録トラック11.5μm、再生トラック幅5.3μmのデータ信号をテープ長300mに渡って記録および再生し、エラーレート(ER1)を測定した。その後、テープ長300mに渡って走行速度6m/sで15000パス(7500往復)走行し、テープとヘッドを摺動させた。走行後に再びER1と同条件でエラーレート(ER2)を測定した。ER2/ER1の比を計算し、10以下である(つまり、繰り返し走行後のエラーレートの悪化が走行前の10倍以下であること)を繰り返し走行耐久性が良好とした。
【0127】
以上の結果を表1〜表5に示す。
【0128】
【表1】

【0129】
【表2】

【0130】
【表3】

【0131】
【表4】

【0132】
【表5】

【0133】
(評価結果)
表1〜5に示すように、実施例1〜19は、高い電磁変換特性を得られ、かつ走行後のエラーレートの劣化が少なく繰り返し走行耐久性に優れていることが分かる。一方、有機酸Aの構造について本願請求項に合致していなかったり、pKaの関係が合致していない比較例1〜4は、媒体の表面性が粗くS/Nも劣化した。特に有機酸Aを含有せず、有機酸Bのみを含有する比較例10は、表面が粗すぎてLTO−Gen4ドライブでの評価が出来なかった。また、有機酸Bの構造について本願請求項に合致していない比較例5〜9は、ヘッド汚れが多く、走行後のエラーレートの劣化が顕著で繰り返し走行耐久性が悪かった。
以上の結果から、本発明によれば優れた電磁変換特性と繰り返し走行耐久性を両立できることが確認できる。
【産業上の利用可能性】
【0134】
本発明の磁気記録媒体は、繰り返し走行耐久性が要求されるバックアップテープとして好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非磁性支持体上に、非磁性粉末および結合剤と強磁性粉末および結合剤を含む磁性層とをこの順に有する磁気記録媒体であって、
前記磁性層は、下記有機酸Aおよび有機酸Bを含み、かつ有機酸Aの酸強度pKa(A)と有機酸Bの酸強度pKa(B)とは、pKa(A)<pKa(B)の関係を満たすことを特徴とする磁気記録媒体。
有機酸A:カルボキシル基、リン酸基およびホスホン酸基からなる群から選ばれる置換基を1分子中に1つ含む不飽和結合含有有機酸
有機酸B:分子内の隣接する炭素原子に置換した置換基を1分子中に2つ以上有し、かつ該置換基の少なくとも1つはカルボキシル基である脂肪族または脂環式有機酸。
【請求項2】
非磁性支持体上に、非磁性粉末および結合剤と強磁性粉末および結合剤を含む磁性層とをこの順に有する磁気記録媒体であって、
前記非磁性層は、下記有機酸Aおよび有機酸Bを含み、かつ有機酸Aの酸強度pKa(A)と有機酸Bの酸強度pKa(B)とは、pKa(A)<pKa(B)の関係を満たすことを特徴とする磁気記録媒体。
有機酸A:カルボキシル基、リン酸基およびホスホン酸基からなる群から選ばれる置換基を1分子中に1つ含む不飽和結合含有有機酸
有機酸B:分子内の隣接する炭素原子に置換した置換基を1分子中に2つ以上有し、かつ該置換基の少なくとも1つはカルボキシル基である脂肪族または脂環式有機酸。
【請求項3】
前記磁性層は、前記有機酸Aを含む請求項2に記載の磁気記録媒体。
【請求項4】
有機酸Bに含まれる前記置換基の少なくとも1つは水酸基である請求項1〜3のいずれか1項に記載の磁気記録媒体。
【請求項5】
有機酸Aに含まれる不飽和結合は、芳香族複素環またはベンゼン環に含まれる請求項1〜4のいずれか1項に記載の磁気記録媒体。
【請求項6】
前記結合剤は、芳香環成分を含む請求項1〜5のいずれか1項に記載の磁気記録媒体。
【請求項7】
前記結合剤は、スルホン酸(塩)基含有結合剤を含む請求項1〜6のいずれか1項に記載の磁気記録媒体。
【請求項8】
前記結合剤は、ガラス転移温度が75℃〜150℃の範囲であるポリウレタンを含む請求項1〜7のいずれか1項に記載の磁気記録媒体。
【請求項9】
前記結合剤は、二塩基酸とグリコール成分とを構成成分とするポリエステルポリオール(A)と、芳香族イソシアネート(B)と、イソシアネート基と反応し得る官能基を1分子中に2個以上有する分子量1000未満の分岐側鎖を有する化合物(C)との反応生成物であるポリエステルポリウレタンを含む請求項1〜8のいずれか1項に記載の磁気記録媒体。
【請求項10】
前記グリコール成分は、下記一般式(I)または(II)で表されるグリコール成分である請求項9に記載の磁気記録媒体。
【化1】

[一般式(I)中、R1およびR2は、それぞれ独立にメチル基またはエチル基を表す。]
【化2】

[一般式(II)中、R3はメチル基またはエチル基を表す。]
【請求項11】
ポリエステルポリオール(A)は、構成成分中の80モル%以上が芳香族二塩基酸であり、かつグリコール成分中の60〜100モル%が前記一般式(I)または(II)で表されるグリコールである請求項10に記載の磁気記録媒体。
【請求項12】
前記磁性層および/または非磁性層は、脂肪酸または脂肪酸エステルを更に含む請求項1〜11のいずれか1項に記載の磁気記録媒体。