説明

磁気記録媒体

【目的】耐摩耗性、潤滑性の優れた強磁性金属層を有する磁気記録媒体を提供する。
【構成】非磁性基体上に、強磁性金属薄膜、保護膜、潤滑層を順に形成した磁気記録媒体において、強磁性金属薄膜がCoまたはCoを主成分とする金属磁性層であり、保護膜が炭素と水素から成り、該炭素が60〜70at%、水素が30〜40at%であり、潤滑層が極性基を有するパーフロロポリエーテル及びリン酸、亜リン酸、次亜リン酸の内一つを極性基として有する含ふっ素化合物の2成分からなるものであることを特徴とする磁気記録媒体。
【効果】電磁変換特性が優れていると共にスチル特性、耐摩耗性、潤滑性の優れた磁気記録媒体である。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は磁気記録媒体に関し、特に、耐久性、耐摩耗性、潤滑性を有する強磁性金属層を磁性層とする磁気記録媒体及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】強磁性金属層を磁性層とする磁気記録媒体は飽和磁束密度が大きく、保磁力が高い等すぐれた特性を有する。従来から、強磁性金属層を磁性層とする磁気記録媒体の、耐久性、耐摩耗性、潤滑性等を改善するにあたり種々の磁気記録媒体及びその製造方法が提案されている。例えば、強磁性金属薄膜を磁性層とする磁気記録媒体において、強磁性金属薄膜を有する高分子支持体の金属薄膜上に、厚さ20〜270Åのプラズマ重合層を付与し、更に末端に炭素炭素不飽和基を有する炭素数8以上の化合物の群から成る一種以上の化合物による潤滑層をプラズマ重合層の上に設けたことを特徴とする磁気記録媒体(特開昭59−154643号公報)、支持体上に強磁性金属薄膜を有し、この強磁性金属薄膜上にトップコート膜を有する磁気記録媒体において、トップコート膜が炭素および水素を含むプラズマ重合膜と、このプラズマ重合膜上に形成された酸化防止剤を含む被覆膜とから形成されていることを特徴とする磁気記録媒体(特開昭61−156524号公報)、非浮上型の磁気記録装置に用いられる硬質の基体を用いた磁気記録媒体において、該磁気記録媒体の表面を水素対酸素のモル比が30:70以上の水素を架橋させた炭素質プラズマ重合体で被覆し、水に対する接触角を65°以上にしたことを特徴とする磁気記録媒体(特開昭64−21718号公報)、非磁性支持体上に形成された強磁性金属薄膜と上記強磁性金属薄膜上に順次形成された硬質炭素膜と、アンモニアガス導入下でのグロー放電処理にて、上記硬質炭素膜を表面処理した後に形成された含フッ素カルボン酸を含む潤滑剤層からなる磁気記録媒体(特開平2−126418号公報)及び磁性膜上に被覆されたC−H結合を有するカーボン膜と、このカーボン膜上に被覆され、少なくとも1以上の極性基を有する潤滑剤層とを備えて成ることを特徴とした磁気記録媒体(特開平4−47524号公報)等が知られている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、前記従来の磁気記録媒体、例えば特開昭59−154643号公報記載の磁気記録媒体ではプラズマ重合膜+末端に炭素炭素不飽和基を有するC8以上の化合物から選択される化合物の滑剤からなるものであるが、C8の原料化合物は中には油状や水あめ状になるものがあり、その取扱いは容易ではなく、イニシャルコストが必要であり、生産性が大きいとは言えない。また特開昭61−156524号公報記載の磁気記録媒体では酸化防止剤をプラズマ重合膜上に塗布することを提案するものであるが、潤滑性は未だ不十分である。特開平1−21718号公報記載の磁気記録媒体では保護層としてC:H=70:30以上炭素を含む膜が提案されているが、本発明者が検討した結果は高硬度過ぎてヘッド摩耗が激しく使用できない。特開平2−126418号記載の磁気記録媒体は、炭素層をNH3プラズマ処理し潤滑剤を設けることが提案されているが工程が複雑になるのと、酸化防止剤が無いので保存特性がやや落ち、現行のハイ8蒸着テープでは問題なくても、次世代蒸着テープであるハイビジョンなどでは問題となるものである。またNH3プラズマ処理は本発明者らも確認しているが、磁性塗料とベースフィルムとの接着性が向上することは判明している。単なる処理によって接着以外の効果は見出していないのでおのずと特性アップには限界がある。さらに、特開平4−47524号記載の磁気記録媒体においては、プラズマ重合膜と極性基を有する潤滑層が提案されているが、これも同様、酸化防止剤が無いので保存特性がやや劣るものである。したがって、耐摩耗性、耐久性、潤滑性及び保持特性を併せ有する強磁性金属薄膜を磁性層とする磁気記録媒体が要望されている。
【0004】
【課題を解決するための手段】本発明者らは上記の課題を解決すべく、鋭意研究の結果、磁気記録媒体において、構造的に、基体上に磁性層+保護層+潤滑層を設けたものからなり、保護層が炭素と水素とからなる膜からなり、該保護膜中のC及びHを特定のat%のものとなし、更に潤滑層がふっ素系潤滑剤とリン酸系潤滑剤の混合系とするとき、該課題が解決できるのとを見出し、本発明に到達した。即ち、本発明は(1)非磁性基体上に、強磁性金属薄膜、保護膜及び潤滑層を順に形成した磁気記録媒体において、強磁性金属薄膜がCoまたはCoを主成分とする金属磁性層であり、保護膜が炭素と水素から成り、該炭素が60〜70at%、水素が30〜40at%(原子%)であり、潤滑層が極性基を有するパーフロロポリエーテルとリン酸、亜リン酸及び次亜リン酸の内の一つを極性基として有する含ふっ素化合物との2成分からなることを特徴とする磁気記録媒体、(2)保護膜がプラズマ重合法にて成膜されたものである上記(1)記載の磁気記録媒体、及び(3)強磁性金属薄膜が蒸着法、スパッタ法またはイオンプレーティング法にて成膜されたものである上記(1)記載の磁気記録媒体に関する。
【0005】強磁性金属層はCoまたはCoを主成分とする合金である。Coを主成分とする合金としては、Co−Ni,Co−Fe,Co−Cr,Co−Ni−Cr,Co−Pt−Cr,Co−Cu,Co−Sm,Co−Pなどが挙げられる。Co−Ni合金が好ましく、ヘッドと摺動する面の磁性層は特にモル比でCoを約80%以上、Niが20%以下含有するものが好ましい。多層とした場合は表面より2層目以降はNiが20at%以上が好ましい。これらの強磁性金属層としては、この種の金属層形成方法が用いられ、真空蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタ法等によって形成される。好ましくは蒸着法であり、この蒸着法は、10~6Torr以下に真空排気したチャンバー内に磁性材料をセットして電子線照射にて、材料を溶融蒸着する。基体は、冷却された回転ドラムに添わせて走行させ、シャッターにて蒸着領域を制限する。同時に系内に酸素などの酸化性ガスを導入しつつ蒸着する。イオンプレーティング法は、蒸着法とほとんど同じである。蒸着の磁性材料上にコイルを設け、そこにRFを印加し、放電を発生させ、同時にコイル内に酸素を導入して成膜する。その他は蒸着と全く同じである。スパッタ法は磁性材料ターゲットを真空チャンバー内にセットして、ArにてDCにて放電を発生させる。この場合は、ターゲットに対して角度をもって基体を走行させることにより成膜する。Arに酸化性ガスを混合してもよい。磁性層の厚さは1,000〜3,000Åであり、好ましくは1,500〜2,000Åである。
【0006】本発明の保護膜は炭素と水素からなり該炭素が60〜70at%、水素が30〜40at%からなるダイヤモンド状炭素膜(DLC膜)等である。DCL膜が好ましい。組成は、CHNコーダー(岩本製作所製)にて測定した。炭素及び水素のat%において、摩擦特性上満足する値が得られるのが上記範囲である。これは、ポリエチレンではその比がC=33.3%、H=66.6%となる。事実上これよりC量が減ることは考えにくい。条件を変更し、摩擦特性を変更すると上記範囲に最適値があることが判明した。実験ではこの値よりC量が増加するとヘッドが摩耗し、耐久性が向上しない。また、上記範囲よりC量が減少すると、テープ側に摩耗が生じる。これはヘッドとの硬さの相性によるものである。通常のビデオヘッドは、フェライトスライダーを使用している。フェライトスライダーはビッカース硬度としては、650〜750kg/mm2の値を有する。本発明者等が発見した膜は、硬度がこの値650〜750kg/mm2となる。ビッカース硬度と屈折率とは相関関係があり、これらの膜は、屈折率で約2.0程度でありこの値がフェライトのビッカース硬度に相当する。故に、膜コントロールには、これらの範囲は逸脱できない。DLC膜はプラズマ重合法で形成し、通常は、10~6 Torrまで真空に排気したチャンバー内に炭化水素ガスと水素ガスを添加し、所定の圧力になったなら放電を発生させ成膜する。送電電磁波としては50kHz〜450kHzの範囲が望ましい。この範囲であれば、特別差異はない。50kHzより低い周波数では、長時間安定に放電が継続しないし、450kHzを超える周波数では、膜がビッカース硬度としては、650kg/mm2以下になってしまう。また、炭化水素ガス(HC)と水素(H)の混合比(HC/H)は0.5〜2程度が望ましく、特に、1〜1.5程度がよい。保護層として形成されるDLC膜の原料としては、炭素および水素を含有する種々のものを用いることができるが、通常操作性のよいことから、常温で気体のメタン、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン、エチレン、プロビレン、ブテン、ブタジエン、アセチレン、メチルアセチレン、その他の飽和ないし不飽和の炭化水素の1種以上を、C源として用いる。本発明のDLC膜において、炭素と水素のat%がc=60〜70at%,H=30〜40at%である外に好ましくは屈折率が1.9〜2.1であり、又その膜厚は30〜150Åである。又、接触角は80度未満である。
【0007】本発明の潤滑層は極性基を有するパーフロロポリエーテルとリン酸、亜リン酸、及び次亜リン酸の内の一つを極性基として有する含ふっ素化合物との二成分からなるものであり、極性パーフロロポリエーテルとリン酸、亜リン酸及び、次亜リン酸等の内の一つの基を有する含ふっ素化合物の比は1:1乃至1:0.05程度が好ましい。この潤滑層はこれらの混合物を溶媒に溶解し、塗布して形成される。その際溶剤は例えばフロンが用いられる。又塗布はグラビア法、リバース塗布、ダイノズル法など適宜に選択して行なうことができる。極性基を有するパーフロロポリエーテルは例えば、クライトックス(デュポン社)、Z−DOL、AM2001(モンテジソン社)SA1、SY3(ダイキン工業社)などが挙げられる。又リン酸基を有する含ふっ素化合物、亜リン酸基を有する含ふっ素化合物及び次亜リン酸基を有する含ふっ素化合物は以下の一般式で示される化合物である。
【0008】
【化1】


【0009】これらの潤滑剤以外のものでは水がある場合に反応性が強かったり吸着性が弱かったりで好ましくない。シリコンオイル、カルボン酸系では、摩擦が低くならない。そして一つの化合物では、摩擦と水分透過を満足するものはない。特に本発明で使用する組合せは、パーフロロポリエーテルにて摩擦耐久性を、リン酸化合物では保存特性を向上させることができ、特にDLC膜上に成膜したのはDLC膜はある程度の特性を満足すれば非常によい摩擦特性と保存特性を示すが、これによりさらに安定した状態を作り出すことができる。特に、DLC膜は薄く硬度が高いために、急激なショックや、テープの折り曲げなどに対して、弱い場合があり、折れ曲がった箇所やその周辺では保存した時に局所的錆が発生することがある。特にDLC膜作製の原料として、CH4/Arを用い、パーフロロカルボン酸をトップコートに用いた場合発生することが多い。これらの錆の発生も今回の組成により防止できるという新たな効果を奏し得るものである。非磁性基体としては、通常のものが用いられ、強磁性金属薄膜蒸着時の熱に耐える各種フィルムが用いることができる。例えばポリエステル、ポリイミド、アラミド、ポリサルフォン、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)等のフィルムであり、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)のフィルム等が用いられる。これらは蒸着前処理として、Arなどを放電させ、除電及びエッチングを好ましく行なうことができる。
【0010】
【作用】強磁性金属層を磁性層とする磁気記録媒体において、強磁性金属層がCoまたはCoを主成分とする金属磁性層とし、保護層を炭素と水素からなり、該炭素が60〜70at%、水素が30〜40at%の保護膜とし、潤滑層として極性基を有するパーフロロポリエーテル及びリン酸、亜リン酸、次亜リン酸の内の一つを極性基として有する含ふっ素化合物の2成分からなるものとすることにより、強磁性金属層を磁性層とする優れた特性を有する磁気記録媒体において、その特性を保持するとともに、その耐食性、耐久性、耐摩耗性、潤滑性の改善されたものとすることができる。
【0011】
【実施例】以下に実施例を説明する。なお磁気記録テープの特性測定は以下の方法によった。
(1)スチルソニー社製S1500デッキで40度15%RHにて測定した。
(2)摩擦180度ピン摩擦試験機で1パス目の摩擦係数を測定した。
(3)摩耗試験RHESCA社製のCSR−02摩耗テスターにて測定。
(4)電磁変換特性50度80%RH雰囲気に1日放置した後、デッキで録画再生した画面より判断した。保存前を0dBとした時、保存後の出力低下が、1dB未満を○、1dB以上を×とした。
実施例1〜16、比較例1〜9厚さ10μmのポリエチレンテレフタレートフィルム基体に、蒸着法にて、Co−Ni=80:20at%の磁性層を形成した。磁性層の厚さは1,500Åであった。この磁性層上にプラズマ重合法にて、ダイヤモンド状炭素膜(DLC膜)を形成した。さらに該保護層上に極性基を有するパーフロロポリエーテル及びリン酸、亜リン酸、次亜リン酸の内一つを極性基として有するふっ素化合物からなる潤滑剤をダイノズルにて潤滑層を形成した。各炭素含有量(at%)、各潤滑剤及び潤滑剤の濃度を表に示す。また得られた磁気記録テープの摩擦、スチル時間、摩耗試験及び電磁変換特性を表1に示す。PFPE(パーフロロポリエーテル)はクライトックス(デュポン社)を使用した。
【0012】
【表1】


【0013】表中、潤滑剤1,2,3は下記の通りである。
【0014】
【化2】


【0015】
【表2】


【0016】
【発明の効果】本発明では強磁性金属層を磁性層とする磁気記録媒体において、強磁性金属薄膜をCoまたはCoを主成分とする金属薄膜とし、保護層を特定炭素と水素のat%からなる保護膜とし、且つ潤滑層を極性パ−フロロポリエ−テル及びリン酸、亜リン酸、次亜リン酸の内の一つを極性基として有する含ふっ素化合物の混合系を用いることにより、電磁変換特性が優れ、スチル特性、耐摩耗性、潤滑性等の優れた磁気記録媒体が得られる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】非磁性基体上に、強磁性金属薄膜、保護膜及び潤滑層を順に形成した磁気記録媒体において、強磁性金属薄膜がCoまたはCoを主成分とする金属磁性層であり、保護膜が炭素と水素から成り、該炭素が60〜70at%、水素が30〜40at%であり、潤滑層が極性基を有するパーフロロポリエーテルとリン酸、亜リン酸及び次亜リン酸の内の一つを極性基として有する含ふっ素化合物との2成分からなることを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項2】保護膜がプラズマ重合法にて成膜されたものである請求項1記載の磁気記録媒体。
【請求項3】強磁性金属薄膜が蒸着法、スパッタ法またはイオンプレーティング法にて成膜されたものである請求項1記載の磁気記録媒体。