磁気識別センサ及び磁気識別装置
【課題】パターン分解能が高く、特性の安定した磁気識別センサ及びそれを用いた磁気識別装置を提供する。
【解決手段】表面に磁気量分布を有する媒体90に磁界を印加する磁石10と、磁石10のNS方向を法線とし、磁石10のNS軸と交わる平面上に配置された磁界検出素子30を具備する。そして、磁石10の極性に対して逆極性で、媒体90の移動方向に沿うように磁石10に隣接して補助磁石20を配置する。また、補助磁石20と媒体90の移動平面との距離を磁石10と媒体90の移動平面との距離より大きくする。
【解決手段】表面に磁気量分布を有する媒体90に磁界を印加する磁石10と、磁石10のNS方向を法線とし、磁石10のNS軸と交わる平面上に配置された磁界検出素子30を具備する。そして、磁石10の極性に対して逆極性で、媒体90の移動方向に沿うように磁石10に隣接して補助磁石20を配置する。また、補助磁石20と媒体90の移動平面との距離を磁石10と媒体90の移動平面との距離より大きくする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有価証券や紙幣等、磁気インク等の磁性材料を含有する媒体の磁気量分布を検出する磁気識別センサ及びそれを用いた磁気識別装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、磁気インク等の磁性材料を含有する媒体を識別または鑑別するセンサとして、磁気ヘッドや磁気抵抗素子を用いたものが知られている。これに対して、本願発明者は、特許文献1で磁気インピーダンス素子や直交フラックスゲート素子等の高感度な磁界検出素子を用いた磁性体検出センサを提案している。
【0003】
このセンサは磁石のNS極の中央付近に磁界検出素子を配置することで、高々数十エルステッドの検出磁界範囲しか持たない高感度な磁界検出素子を有効に動作させることが可能である。
【特許文献1】特開2006−184201号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の構成では、磁石の一方の磁極に媒体を近接して検出するため、媒体に加わる磁界の拡がりが大きく、磁界検出素子は広範囲に発生した磁化の磁界を同時に検出してしまう。このため、磁気インクで描画された媒体等の磁気量分布を検出する際にパターン分解能が低いという課題がある。
【0005】
磁界の広がりを抑えるには、磁気シールドで囲う方法が容易に考えられるが、この方法ではシールド材の透磁率の温度特性や設置誤差に伴う磁界分布の変化が問題となる。即ち、磁界検出素子に加わるバイアス磁界の変化や媒体に加わる磁界分布の変化により、センサの特性に悪影響を及ぼしてしまう。
【0006】
本発明の目的は、パターン分解能が高く、特性の安定した磁気識別センサ及びそれを用いた磁気識別装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、磁気量分布を有する媒体に磁界を印加する磁石と、前記磁石のNS方向を法線とし、且つ、前記磁石のNS軸と交わる平面上に配置された磁界検出素子とを有する磁気識別センサであって、前記磁石の極性に対して逆極性で、且つ、前記媒体の移動方向に沿うように前記磁石に隣接して補助磁石を配置したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、媒体に加わる磁界の拡がりを抑えられ、検出の寄与が大きい媒体の表面に平行な磁化の発生する領域を狭めることができる。そのため、パターン分解能の高い磁気識別センサを提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
次に、発明を実施するための最良の実施形態について図面を用いて詳細に説明する。図1は本発明に係る磁気識別センサの一実施形態を示す図である。なお、図1(a)は斜視図であり、図1(b)は上から見た図であり、図1(c)は横から見た図である。本発明に係る磁気識別センサ1は、例えば、有価証券や紙幣等、磁気インク等の磁性材料を含有する媒体の磁気量分布を検出するのに用いられる。
【0010】
図1(a)に示すように磁石10のNS方向を法線とする平面上に磁界検出素子30が配置され、磁石10と逆極性の補助磁石20が磁石10と隣接して配置されている。磁石10は表面に磁気量分布を有する媒体90に対して磁界を印加する。補助磁石20は後述するようにパターン分解能を向上させるものである。
【0011】
磁気パターンを有する媒体90は、磁界検出素子30が配置された平面と平行に磁石10の一方の磁極に近接して図1(a)のD方向に移動し、磁界検出素子30によって磁気量分布を検出する。磁界検出素子30は磁石10のNS方向を法線とし、磁石10のNS軸と交わる平面上に配置されている。磁石10及と補助磁石20は、同じ温度特性を持つように同じ材質の磁石であることが好ましいが、異なる材質であっても良い。
【0012】
磁界検出素子30は、基板40上にミアンダ状の磁性膜50が形成され、その両端に電極60が形成されている。磁界検出素子30は高周波電流を印加することで磁気インピーダンス素子として動作する。磁界検出素子30の磁界検出方向は図1のE方向である。磁界検出素子30はこれに限定されるものではなく、薄膜コイルを積層した直交フラックスゲート素子等も好適に用いることが可能である。
【0013】
次に、本発明により分解能が向上する理由を説明する。以下の説明で使用する座標軸は、図1(b)、図1(c)に示すように定義する。x軸は、媒体90の移動方向Dに平行で、媒体90面上にあり、磁石10のNS軸の延長線と交わる。原点Oは、磁石10の磁界検出素子30側の側面を含む面とx軸の交点にとる。y軸は媒体90の面内、z軸は媒体90の面に垂直とする。
【0014】
また、説明の為の一例として、磁石10のx方向の大きさが1mm程度の場合を扱うが、以下の説明はこの大きさに依存するものではなく、分解能向上の効果が得られる条件を限定しているものではない。また、磁石の形成する磁界の大きさや、グラフ上に現れる数値も一例であり、これらに限定されることなく、本発明の効果が得られる。
【0015】
図2及び図3は補助磁石20の有無による媒体90上の発生磁化の分布、磁界の拡がり、磁界検出素子30の検出信号を示す。図2は補助磁石が無い場合、図3は補助磁石がある場合の媒体90上の発生磁化の分布、磁界の拡がり等を示す。
【0016】
補助磁石20が無い場合には、図2(b)に示すような磁界が媒体90に加わる。ここで、グラフの横軸は媒体90上の位置x[mm]であり、縦軸は媒体90の面上に形成される磁界の大きさHx(x)[Oe]、及び、Hz(x)[Oe]である。グラフの実線はx方向の磁界Hxの分布、破線はz方向の磁界Hzの分布である。この磁界分布により、媒体90上の磁性材料を含有する位置では図2(a)に示すような磁化が生じる(M0、M1、M2等の矢印は磁化示す)。
【0017】
図2(c)は図4に示すストライプ状の磁気インクパターン91を有する媒体90を、図2(a)のD方向に移動させた場合の磁界検出素子30の検出信号を示す。図4の例では、媒体の中央付近に幅2mmのストライプパターン91が形成されている。図2(c)のグラフの横軸は、ストライプパターン91の位置xm[mm]である。xmは、図1(c)に示すようにx軸上のストライプパターン91の位置として定義される。
【0018】
図2(c)の縦軸は磁界検出素子30のインピーダンス変化に応じた出力電圧Vout[μV]であるが、その数値は磁界検出素子の感度や駆動回路に依存するものであり、あくまでも一例である。ストライプパターン91には媒体90の移動に伴って図2(a)に示すようにM2、M1、M0、…の磁化が順次生じる。それらの磁界の磁界検出方向(E方向)成分が磁界検出素子30により検出され、図2(c)に示す検出信号が得られる。
【0019】
これに対して、磁石10に隣接して補助磁石20を有する場合には、補助磁石20の磁力と寸法を最適に設定することにより、媒体90上の磁界分布は図3(b)に示すようになり、磁石10に対して補助磁石20側の磁界の拡がりを抑えることができる。ここで、グラフの縦横軸、及び、実線、破線の定義は、図2と同様である。
【0020】
この時、媒体90に発生する磁化は図3(a)に示すようになり、磁化の発生する範囲を狭めることが可能となる。図3(a)に矢印で示すM2’、M1’、M0’等は磁化を示すものである。
【0021】
また、シート状の媒体の場合には、媒体に垂直方向の磁化は磁気モーメントが非常に小さく、磁界検出素子30から遠ざかるに従ってそれの発生する磁界は急激に減衰する。このため、図3(a)の磁化M2’から磁界検出素子30に加わる磁界は小さく、M2’の磁化は殆ど検出されない。
【0022】
本実施形態では、磁石10に隣接して補助磁石20を配置することにより、磁化の発生する範囲を狭めると同時に磁界検出素子30による検出範囲も狭めることができる。図3(c)は図4の媒体90を図1の磁界検出素子30で検出した検出信号を示す。ここで、グラフの書式は図2と同様である。図3(c)の検出信号は、図2(c)の検出信号に比べて同じパターンの検出が狭い範囲で行われていることを示す。つまり、図3(c)に矢印で示す範囲が図2(c)に矢印で示す範囲に比べて狭くなっている。
【0023】
図5は本発明の磁気識別センサの他の実施形態を示す斜視図である。図5では図1と同一部分には同一符号を付している。図5(a)は補助磁石20の位置を媒体90から遠ざかる方向にずらした実施形態を示す。即ち、本実施形態の磁気識別センサ2においては補助磁石20と媒体10の移動平面との距離が磁石10と媒体90の移動平面との距離よりも大きくなっている。磁石10と補助磁石20との極性は、図1の実施形態の場合と同様に逆極性である。
【0024】
図5(a)の実施形態では、補助磁石20の位置を最適化することで、図1と同様に磁界の拡がりを抑えることができる。図5(a)の構成では補助磁石20に磁石10と同じものを用いることができるメリットがある。即ち、図1の構成では所望の磁界分布を得るには補助磁石20の形状を磁石10とは異なるものにする必要があるが、図5(a)のように2つの磁石をずらして配置すれば、同じ形状・材質の磁石を用いても所望の磁界分布が得られる。
【0025】
図5(b)は図5(a)の構成を媒体90の移動方向(D方向)と直交する方向に連続的に延長した実施形態を示す。本実施形態の磁気識別センサ3は磁界検出素子30もその移動方向(D方向)と直交する方向に複数配置されている。磁石10と補助磁石20は図1と同様に逆極性に配置されている。図5(b)の実施形態では、媒体全体の磁気量分布を漏れなく検出することが可能となる。また、磁石10の形状が細長くなるため、図1の補助磁石20を延長した形状では脆く、取り扱いが難しくなる。図5(b)の構成では補助磁石20の磁石10とのずれ量を調整するのが好ましい。
【0026】
図5(c)は媒体90の移動方向と直交する方向に磁界検出素子30の磁界検出方向(E方向)を向けた場合の実施形態を示す。図5(c)の磁気識別センサ4では、磁石10の両側に補助磁石20、22が配置され、磁石11の両側に21、23が配置されている。つまり、磁界検出素子30の両側に、それぞれ磁石とそれを挟む2つの補助磁石が配置されている。一方の磁石10に隣接する補助磁石20と22は磁石10の極性に対して逆極性である。他方側の磁石11に隣接する補助磁石21と23も磁石11の極性に対して逆極性である。
【0027】
図7はこの図5(c)の構成で媒体90に発生する磁化分布のイメージと、媒体90に加わる磁界分布、及び磁界検出素子30の出力信号を示す。図7(a)は図5(c)を上から見た図、図7(b)は媒体90に加わる磁界分布、図7(c)は磁界検出素子30の検出信号を示す。
【0028】
また、図7との比較として、図6は補助磁石が無い場合の磁化分布のイメージ等を示す。図6(a)は補助磁石が無い場合の上から見た図、図6(b)は媒体90に加わる磁界分布、図6(c)は磁界検出素子30の検出信号を示す。媒体90には図4のものを用いるものとする。図6、及び、図7の書式は図2と同様であり、座標軸の方向も同様であるが、座標系の原点は、図12(a)、図12(b)のように磁石10と11のNS軸の中線上に定義している。
【0029】
検出に最も寄与する磁界検出方向(E方向)の磁界Hy(x)の拡がりは、図6(b)と比較して図7(b)では大幅に狭まっている。これに伴って、発生する磁化も図6(a)に比較して図7(a)では磁界検出素子30の近傍のみに範囲が狭くなっており、図4の媒体のストライプパターンの検出は図6(c)に比較して図7(c)では短い範囲で検出が完了していることが分かる。
【0030】
図8は図5(b)の磁気識別センサをケース内に収納して実際の完成品とした場合の一例を示す。図5(b)の構成に加えてシールド70とプレート80が設置されている。磁石10及び補助磁石20は同形状で、高さ1.7×幅1.0×奥行き40mmの細長い形状の磁石であり、フェライトの焼結磁石を用いている。
【0031】
補助磁石20は磁石10に対して媒体90から離れる方向に0.6mm移動した位置に配置され、媒体90に加わる磁界の拡がりを最適に抑えている。磁界検出素子30はチタン酸カルシウムのセラミック基板上にFe−Ta−C系の磁性膜がミアンダパターンに形成され、それの両端にCuの電極が形成されている。
【0032】
磁界検出素子30は図9の駆動回路に接続され、高周波電流を印加することで磁気インピーダンス素子として動作する。磁界検出素子30にはバイアス磁界として磁石10と補助磁石20の作る合成磁界が加わっている。シールド70には、例えば、コの字形に成形されたパーマロイ板が用いられ、媒体90が接触するプレート80には、例えば、SUS板に無電解Niメッキを施したものが用いられる。プレート80は図9の駆動回路100の接地部に接続されている。
【0033】
図10(a)は図8の構成での検出信号を示す。この例では、図10(c)に示す媒体90を一定の速度で移動させて、2つのストライプパターン91を検出したものである。グラフの横軸は時間(×10ms)であり、縦軸は図9の駆動回路の出力Vout[mV]である。また、図10(b)は図8の構成で補助磁石20が無い場合の検出信号を示す。グラフの書式は図10(a)と同様である。図10(b)では2本のパターンを分解できないのに対して図10(a)の本発明の磁気識別センサによる検出では2本のパターンを分解できている。
【0034】
図11は本発明の磁気識別センサを用いた磁気識別装置の一実施形態を示す。媒体90の検出には図1または図5の磁気識別センサが用いられ、センサ駆動回路100には、例えば、図9の回路が用いられる。センサ駆動回路100の出力信号はA/D変換器101でA/D変換され、CPU102に取り込まれる。
【0035】
CPU102では、A/D変換器101からの磁気識別センサで検出された媒体の磁気量分布の検出信号と、予め記憶手段としてのメモリ103に記憶された参照信号とを比較し、その比較結果に基づいて判定信号を出力する。本発明の磁気識別センサはパターン分解能が高いため、より詳細な磁気量分布を検出することができ、媒体の種別や真偽判定を高精度で行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明に係る磁気識別センサの一実施形態を示す図である。
【図2】補助磁石が無い場合の媒体上の磁化分布、磁界の拡がり、磁界検出素子の検出信号を示す図である。
【図3】本発明の場合の媒体上の磁化分布、磁界の拡がり、磁界検出素子の検出信号を示す図である。
【図4】媒体の一例を示す平面図である。
【図5】本発明の磁気識別センサの他の実施形態を示す斜視図である。
【図6】図5(c)の構成で補助磁界が無い場合の媒体に発生する磁化分布、媒体に加わる磁界分布、磁界検出素子の検出信号を示す図である。
【図7】図5(c)の構成で媒体に発生する磁化分布、媒体に加わる磁界分布、磁界検出素子の検出信号を示す図である。
【図8】本発明の磁気識別センサをケースに収納して完成品とした場合の一例を示す断面図である。
【図9】本発明の磁気識別センサの駆動回路の一例を示す回路図である。
【図10】図8の構成で補助磁界がある場合と無い場合で磁気識別センサの出力波形を比較して示す図である。
【図11】本発明の磁気識別センサを用いた磁気識別装置の一実施形態を示すブロック図である。
【図12】図6、図7の座標系の原点を説明する図である。
【符号の説明】
【0037】
1〜4 磁気識別センサ
9 磁気識別装置
10、11 磁石
20〜23 補助磁石
30 磁界検出素子
40 基板
50 磁性膜
60 電極膜
70 シールド
80 プレート
90 媒体
91 磁性材料
100 駆動回路
101 A/D変換器
102 CPU
103 メモリ
【技術分野】
【0001】
本発明は、有価証券や紙幣等、磁気インク等の磁性材料を含有する媒体の磁気量分布を検出する磁気識別センサ及びそれを用いた磁気識別装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、磁気インク等の磁性材料を含有する媒体を識別または鑑別するセンサとして、磁気ヘッドや磁気抵抗素子を用いたものが知られている。これに対して、本願発明者は、特許文献1で磁気インピーダンス素子や直交フラックスゲート素子等の高感度な磁界検出素子を用いた磁性体検出センサを提案している。
【0003】
このセンサは磁石のNS極の中央付近に磁界検出素子を配置することで、高々数十エルステッドの検出磁界範囲しか持たない高感度な磁界検出素子を有効に動作させることが可能である。
【特許文献1】特開2006−184201号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の構成では、磁石の一方の磁極に媒体を近接して検出するため、媒体に加わる磁界の拡がりが大きく、磁界検出素子は広範囲に発生した磁化の磁界を同時に検出してしまう。このため、磁気インクで描画された媒体等の磁気量分布を検出する際にパターン分解能が低いという課題がある。
【0005】
磁界の広がりを抑えるには、磁気シールドで囲う方法が容易に考えられるが、この方法ではシールド材の透磁率の温度特性や設置誤差に伴う磁界分布の変化が問題となる。即ち、磁界検出素子に加わるバイアス磁界の変化や媒体に加わる磁界分布の変化により、センサの特性に悪影響を及ぼしてしまう。
【0006】
本発明の目的は、パターン分解能が高く、特性の安定した磁気識別センサ及びそれを用いた磁気識別装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、磁気量分布を有する媒体に磁界を印加する磁石と、前記磁石のNS方向を法線とし、且つ、前記磁石のNS軸と交わる平面上に配置された磁界検出素子とを有する磁気識別センサであって、前記磁石の極性に対して逆極性で、且つ、前記媒体の移動方向に沿うように前記磁石に隣接して補助磁石を配置したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、媒体に加わる磁界の拡がりを抑えられ、検出の寄与が大きい媒体の表面に平行な磁化の発生する領域を狭めることができる。そのため、パターン分解能の高い磁気識別センサを提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
次に、発明を実施するための最良の実施形態について図面を用いて詳細に説明する。図1は本発明に係る磁気識別センサの一実施形態を示す図である。なお、図1(a)は斜視図であり、図1(b)は上から見た図であり、図1(c)は横から見た図である。本発明に係る磁気識別センサ1は、例えば、有価証券や紙幣等、磁気インク等の磁性材料を含有する媒体の磁気量分布を検出するのに用いられる。
【0010】
図1(a)に示すように磁石10のNS方向を法線とする平面上に磁界検出素子30が配置され、磁石10と逆極性の補助磁石20が磁石10と隣接して配置されている。磁石10は表面に磁気量分布を有する媒体90に対して磁界を印加する。補助磁石20は後述するようにパターン分解能を向上させるものである。
【0011】
磁気パターンを有する媒体90は、磁界検出素子30が配置された平面と平行に磁石10の一方の磁極に近接して図1(a)のD方向に移動し、磁界検出素子30によって磁気量分布を検出する。磁界検出素子30は磁石10のNS方向を法線とし、磁石10のNS軸と交わる平面上に配置されている。磁石10及と補助磁石20は、同じ温度特性を持つように同じ材質の磁石であることが好ましいが、異なる材質であっても良い。
【0012】
磁界検出素子30は、基板40上にミアンダ状の磁性膜50が形成され、その両端に電極60が形成されている。磁界検出素子30は高周波電流を印加することで磁気インピーダンス素子として動作する。磁界検出素子30の磁界検出方向は図1のE方向である。磁界検出素子30はこれに限定されるものではなく、薄膜コイルを積層した直交フラックスゲート素子等も好適に用いることが可能である。
【0013】
次に、本発明により分解能が向上する理由を説明する。以下の説明で使用する座標軸は、図1(b)、図1(c)に示すように定義する。x軸は、媒体90の移動方向Dに平行で、媒体90面上にあり、磁石10のNS軸の延長線と交わる。原点Oは、磁石10の磁界検出素子30側の側面を含む面とx軸の交点にとる。y軸は媒体90の面内、z軸は媒体90の面に垂直とする。
【0014】
また、説明の為の一例として、磁石10のx方向の大きさが1mm程度の場合を扱うが、以下の説明はこの大きさに依存するものではなく、分解能向上の効果が得られる条件を限定しているものではない。また、磁石の形成する磁界の大きさや、グラフ上に現れる数値も一例であり、これらに限定されることなく、本発明の効果が得られる。
【0015】
図2及び図3は補助磁石20の有無による媒体90上の発生磁化の分布、磁界の拡がり、磁界検出素子30の検出信号を示す。図2は補助磁石が無い場合、図3は補助磁石がある場合の媒体90上の発生磁化の分布、磁界の拡がり等を示す。
【0016】
補助磁石20が無い場合には、図2(b)に示すような磁界が媒体90に加わる。ここで、グラフの横軸は媒体90上の位置x[mm]であり、縦軸は媒体90の面上に形成される磁界の大きさHx(x)[Oe]、及び、Hz(x)[Oe]である。グラフの実線はx方向の磁界Hxの分布、破線はz方向の磁界Hzの分布である。この磁界分布により、媒体90上の磁性材料を含有する位置では図2(a)に示すような磁化が生じる(M0、M1、M2等の矢印は磁化示す)。
【0017】
図2(c)は図4に示すストライプ状の磁気インクパターン91を有する媒体90を、図2(a)のD方向に移動させた場合の磁界検出素子30の検出信号を示す。図4の例では、媒体の中央付近に幅2mmのストライプパターン91が形成されている。図2(c)のグラフの横軸は、ストライプパターン91の位置xm[mm]である。xmは、図1(c)に示すようにx軸上のストライプパターン91の位置として定義される。
【0018】
図2(c)の縦軸は磁界検出素子30のインピーダンス変化に応じた出力電圧Vout[μV]であるが、その数値は磁界検出素子の感度や駆動回路に依存するものであり、あくまでも一例である。ストライプパターン91には媒体90の移動に伴って図2(a)に示すようにM2、M1、M0、…の磁化が順次生じる。それらの磁界の磁界検出方向(E方向)成分が磁界検出素子30により検出され、図2(c)に示す検出信号が得られる。
【0019】
これに対して、磁石10に隣接して補助磁石20を有する場合には、補助磁石20の磁力と寸法を最適に設定することにより、媒体90上の磁界分布は図3(b)に示すようになり、磁石10に対して補助磁石20側の磁界の拡がりを抑えることができる。ここで、グラフの縦横軸、及び、実線、破線の定義は、図2と同様である。
【0020】
この時、媒体90に発生する磁化は図3(a)に示すようになり、磁化の発生する範囲を狭めることが可能となる。図3(a)に矢印で示すM2’、M1’、M0’等は磁化を示すものである。
【0021】
また、シート状の媒体の場合には、媒体に垂直方向の磁化は磁気モーメントが非常に小さく、磁界検出素子30から遠ざかるに従ってそれの発生する磁界は急激に減衰する。このため、図3(a)の磁化M2’から磁界検出素子30に加わる磁界は小さく、M2’の磁化は殆ど検出されない。
【0022】
本実施形態では、磁石10に隣接して補助磁石20を配置することにより、磁化の発生する範囲を狭めると同時に磁界検出素子30による検出範囲も狭めることができる。図3(c)は図4の媒体90を図1の磁界検出素子30で検出した検出信号を示す。ここで、グラフの書式は図2と同様である。図3(c)の検出信号は、図2(c)の検出信号に比べて同じパターンの検出が狭い範囲で行われていることを示す。つまり、図3(c)に矢印で示す範囲が図2(c)に矢印で示す範囲に比べて狭くなっている。
【0023】
図5は本発明の磁気識別センサの他の実施形態を示す斜視図である。図5では図1と同一部分には同一符号を付している。図5(a)は補助磁石20の位置を媒体90から遠ざかる方向にずらした実施形態を示す。即ち、本実施形態の磁気識別センサ2においては補助磁石20と媒体10の移動平面との距離が磁石10と媒体90の移動平面との距離よりも大きくなっている。磁石10と補助磁石20との極性は、図1の実施形態の場合と同様に逆極性である。
【0024】
図5(a)の実施形態では、補助磁石20の位置を最適化することで、図1と同様に磁界の拡がりを抑えることができる。図5(a)の構成では補助磁石20に磁石10と同じものを用いることができるメリットがある。即ち、図1の構成では所望の磁界分布を得るには補助磁石20の形状を磁石10とは異なるものにする必要があるが、図5(a)のように2つの磁石をずらして配置すれば、同じ形状・材質の磁石を用いても所望の磁界分布が得られる。
【0025】
図5(b)は図5(a)の構成を媒体90の移動方向(D方向)と直交する方向に連続的に延長した実施形態を示す。本実施形態の磁気識別センサ3は磁界検出素子30もその移動方向(D方向)と直交する方向に複数配置されている。磁石10と補助磁石20は図1と同様に逆極性に配置されている。図5(b)の実施形態では、媒体全体の磁気量分布を漏れなく検出することが可能となる。また、磁石10の形状が細長くなるため、図1の補助磁石20を延長した形状では脆く、取り扱いが難しくなる。図5(b)の構成では補助磁石20の磁石10とのずれ量を調整するのが好ましい。
【0026】
図5(c)は媒体90の移動方向と直交する方向に磁界検出素子30の磁界検出方向(E方向)を向けた場合の実施形態を示す。図5(c)の磁気識別センサ4では、磁石10の両側に補助磁石20、22が配置され、磁石11の両側に21、23が配置されている。つまり、磁界検出素子30の両側に、それぞれ磁石とそれを挟む2つの補助磁石が配置されている。一方の磁石10に隣接する補助磁石20と22は磁石10の極性に対して逆極性である。他方側の磁石11に隣接する補助磁石21と23も磁石11の極性に対して逆極性である。
【0027】
図7はこの図5(c)の構成で媒体90に発生する磁化分布のイメージと、媒体90に加わる磁界分布、及び磁界検出素子30の出力信号を示す。図7(a)は図5(c)を上から見た図、図7(b)は媒体90に加わる磁界分布、図7(c)は磁界検出素子30の検出信号を示す。
【0028】
また、図7との比較として、図6は補助磁石が無い場合の磁化分布のイメージ等を示す。図6(a)は補助磁石が無い場合の上から見た図、図6(b)は媒体90に加わる磁界分布、図6(c)は磁界検出素子30の検出信号を示す。媒体90には図4のものを用いるものとする。図6、及び、図7の書式は図2と同様であり、座標軸の方向も同様であるが、座標系の原点は、図12(a)、図12(b)のように磁石10と11のNS軸の中線上に定義している。
【0029】
検出に最も寄与する磁界検出方向(E方向)の磁界Hy(x)の拡がりは、図6(b)と比較して図7(b)では大幅に狭まっている。これに伴って、発生する磁化も図6(a)に比較して図7(a)では磁界検出素子30の近傍のみに範囲が狭くなっており、図4の媒体のストライプパターンの検出は図6(c)に比較して図7(c)では短い範囲で検出が完了していることが分かる。
【0030】
図8は図5(b)の磁気識別センサをケース内に収納して実際の完成品とした場合の一例を示す。図5(b)の構成に加えてシールド70とプレート80が設置されている。磁石10及び補助磁石20は同形状で、高さ1.7×幅1.0×奥行き40mmの細長い形状の磁石であり、フェライトの焼結磁石を用いている。
【0031】
補助磁石20は磁石10に対して媒体90から離れる方向に0.6mm移動した位置に配置され、媒体90に加わる磁界の拡がりを最適に抑えている。磁界検出素子30はチタン酸カルシウムのセラミック基板上にFe−Ta−C系の磁性膜がミアンダパターンに形成され、それの両端にCuの電極が形成されている。
【0032】
磁界検出素子30は図9の駆動回路に接続され、高周波電流を印加することで磁気インピーダンス素子として動作する。磁界検出素子30にはバイアス磁界として磁石10と補助磁石20の作る合成磁界が加わっている。シールド70には、例えば、コの字形に成形されたパーマロイ板が用いられ、媒体90が接触するプレート80には、例えば、SUS板に無電解Niメッキを施したものが用いられる。プレート80は図9の駆動回路100の接地部に接続されている。
【0033】
図10(a)は図8の構成での検出信号を示す。この例では、図10(c)に示す媒体90を一定の速度で移動させて、2つのストライプパターン91を検出したものである。グラフの横軸は時間(×10ms)であり、縦軸は図9の駆動回路の出力Vout[mV]である。また、図10(b)は図8の構成で補助磁石20が無い場合の検出信号を示す。グラフの書式は図10(a)と同様である。図10(b)では2本のパターンを分解できないのに対して図10(a)の本発明の磁気識別センサによる検出では2本のパターンを分解できている。
【0034】
図11は本発明の磁気識別センサを用いた磁気識別装置の一実施形態を示す。媒体90の検出には図1または図5の磁気識別センサが用いられ、センサ駆動回路100には、例えば、図9の回路が用いられる。センサ駆動回路100の出力信号はA/D変換器101でA/D変換され、CPU102に取り込まれる。
【0035】
CPU102では、A/D変換器101からの磁気識別センサで検出された媒体の磁気量分布の検出信号と、予め記憶手段としてのメモリ103に記憶された参照信号とを比較し、その比較結果に基づいて判定信号を出力する。本発明の磁気識別センサはパターン分解能が高いため、より詳細な磁気量分布を検出することができ、媒体の種別や真偽判定を高精度で行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明に係る磁気識別センサの一実施形態を示す図である。
【図2】補助磁石が無い場合の媒体上の磁化分布、磁界の拡がり、磁界検出素子の検出信号を示す図である。
【図3】本発明の場合の媒体上の磁化分布、磁界の拡がり、磁界検出素子の検出信号を示す図である。
【図4】媒体の一例を示す平面図である。
【図5】本発明の磁気識別センサの他の実施形態を示す斜視図である。
【図6】図5(c)の構成で補助磁界が無い場合の媒体に発生する磁化分布、媒体に加わる磁界分布、磁界検出素子の検出信号を示す図である。
【図7】図5(c)の構成で媒体に発生する磁化分布、媒体に加わる磁界分布、磁界検出素子の検出信号を示す図である。
【図8】本発明の磁気識別センサをケースに収納して完成品とした場合の一例を示す断面図である。
【図9】本発明の磁気識別センサの駆動回路の一例を示す回路図である。
【図10】図8の構成で補助磁界がある場合と無い場合で磁気識別センサの出力波形を比較して示す図である。
【図11】本発明の磁気識別センサを用いた磁気識別装置の一実施形態を示すブロック図である。
【図12】図6、図7の座標系の原点を説明する図である。
【符号の説明】
【0037】
1〜4 磁気識別センサ
9 磁気識別装置
10、11 磁石
20〜23 補助磁石
30 磁界検出素子
40 基板
50 磁性膜
60 電極膜
70 シールド
80 プレート
90 媒体
91 磁性材料
100 駆動回路
101 A/D変換器
102 CPU
103 メモリ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気量分布を有する媒体に磁界を印加する磁石と、前記磁石のNS方向を法線とし、且つ、前記磁石のNS軸と交わる平面上に配置された磁界検出素子とを有する磁気識別センサであって、
前記磁石の極性に対して逆極性で、且つ、前記媒体の移動方向に沿うように前記磁石に隣接して補助磁石を配置したことを特徴とする磁気識別センサ。
【請求項2】
前記補助磁石と前記媒体の移動平面との距離は、前記磁石と前記媒体の移動平面との距離よりも大きいことを特徴とする請求項1に記載の磁気識別センサ。
【請求項3】
前記磁石と補助磁石は、前記媒体の移動方向に対して直交する方向に延長して配置され、前記磁界検出素子は前記直交する方向に複数配置されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の磁気識別センサ。
【請求項4】
前記磁界検出素子は、その磁界検出方向が前記媒体の移動方向に対して直交する方向に配置され、前記磁界検出素子の両側に、それぞれ磁石とその磁石を挟む2つの補助磁石が前記磁石の極性に対して逆極性で配置されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の磁気識別センサ。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の磁気識別センサと、
参照信号を記憶する手段と、
前記磁気識別センサにより検出された前記媒体の磁気量分布の検出信号と前記参照信号とを比較して前記媒体を識別する手段と、
を有することを特徴とする磁気識別装置。
【請求項1】
磁気量分布を有する媒体に磁界を印加する磁石と、前記磁石のNS方向を法線とし、且つ、前記磁石のNS軸と交わる平面上に配置された磁界検出素子とを有する磁気識別センサであって、
前記磁石の極性に対して逆極性で、且つ、前記媒体の移動方向に沿うように前記磁石に隣接して補助磁石を配置したことを特徴とする磁気識別センサ。
【請求項2】
前記補助磁石と前記媒体の移動平面との距離は、前記磁石と前記媒体の移動平面との距離よりも大きいことを特徴とする請求項1に記載の磁気識別センサ。
【請求項3】
前記磁石と補助磁石は、前記媒体の移動方向に対して直交する方向に延長して配置され、前記磁界検出素子は前記直交する方向に複数配置されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の磁気識別センサ。
【請求項4】
前記磁界検出素子は、その磁界検出方向が前記媒体の移動方向に対して直交する方向に配置され、前記磁界検出素子の両側に、それぞれ磁石とその磁石を挟む2つの補助磁石が前記磁石の極性に対して逆極性で配置されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の磁気識別センサ。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の磁気識別センサと、
参照信号を記憶する手段と、
前記磁気識別センサにより検出された前記媒体の磁気量分布の検出信号と前記参照信号とを比較して前記媒体を識別する手段と、
を有することを特徴とする磁気識別装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2009−217339(P2009−217339A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−57733(P2008−57733)
【出願日】平成20年3月7日(2008.3.7)
【出願人】(000104652)キヤノン電子株式会社 (876)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年3月7日(2008.3.7)
【出願人】(000104652)キヤノン電子株式会社 (876)
【Fターム(参考)】
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