磁気転写用マスター担体のレーザ切断加工方法
【課題】被加工物より良好な切断面品質を有する磁気転写用マスター担体を切り出すことが可能なレーザ切断加工方法を提供する。
【解決手段】レーザ光源より被加工物の表面にレーザ光を照射して該被加工物の切断加工を行う際に、前記レーザ光のピーク出力を曲線100a〜100cよりも大きく且つ前記レーザ光の総照射時間を直線102a〜102cよりも短い領域104に適合するように切断加工条件を設定する。すなわち、前記領域104は、logY≧bXcloga及びX≦d(a=2、c=−0.13)の条件を満足し、例えば、前記レーザ光の波長λが1064[nm]で且つ前記被加工物の厚みtが0[mm]<t≦0.6[mm]の場合、b=3.4〜3.8且つd=0.09〜0.2である。
【解決手段】レーザ光源より被加工物の表面にレーザ光を照射して該被加工物の切断加工を行う際に、前記レーザ光のピーク出力を曲線100a〜100cよりも大きく且つ前記レーザ光の総照射時間を直線102a〜102cよりも短い領域104に適合するように切断加工条件を設定する。すなわち、前記領域104は、logY≧bXcloga及びX≦d(a=2、c=−0.13)の条件を満足し、例えば、前記レーザ光の波長λが1064[nm]で且つ前記被加工物の厚みtが0[mm]<t≦0.6[mm]の場合、b=3.4〜3.8且つd=0.09〜0.2である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、板状の被加工物にレーザ光を照射して該被加工物を所定形状に切断加工することにより磁気転写用マスター担体を形成するレーザ切断加工方法であって、より詳細には、磁気記録再生装置用の磁気記録媒体への各種信号の磁気転写に好適な磁気転写用マスター担体のレーザ切断加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近時、デジタル画像情報の利用により、パーソナルコンピュータ等で取り扱う情報量が飛躍的に増大しており、前記情報の記録及び再生のために大容量、安価且つ短時間でアクセス可能な磁気記録媒体が望まれている。このような磁気記録媒体としては、ハードディスク等の磁気記録媒体やリムーバブル型の高密度磁気記録媒体があり、これらの磁気記録媒体は、フレキシブルディスクと比較して、情報記録領域である各トラックのトラック幅が小さい。従って、前記磁気記録媒体では、情報の記録及び再生を行う際にトラッキングサーボ技術を利用して磁気ヘッドを前記磁気記録媒体の半径方向に沿って所望位置にまで正確に走査すると共に、前記情報の記録及び再生に必要なトラッキング用サーボ信号、アドレス情報信号及び再生クロック信号等が、高い位置決め精度で前記磁気記録媒体の円周方向に沿って所定角度間隔で予め記憶(プリフォーマット)されている必要がある。
【0003】
前記プリフォーマットでは、上記した各信号を磁気記録媒体の1トラック毎に記録する方法があるが、この方法では、記録の完了までに長時間を要するので、プリフォーマットすべき前記各信号が予め記憶されたマスター担体よりスレーブ媒体に対して磁気転写を行い、前記磁気転写されたスレーブ媒体を前記磁気記録媒体とする方法が一般的に採られている。この場合、前記マスター担体と前記スレーブ媒体とを密着した状態で転写磁界を印加することにより、該マスター担体における前記各信号の磁気パターンが前記スレーブ媒体に磁気的に転写される。
【0004】
このようなマスター担体は、先ず、鋳型となる原盤に金属(例えば、ニッケル)を電鋳し、前記電鋳された金属板を前記スレーブ媒体のサイズに合わせてレーザ切断加工を施すことにより形成される。この場合、レーザ出力の大きな切断加工装置を用いて一回のレーザ光照射で前記マスター担体の切断加工を行うと、前記レーザ光によって過度のエネルギーが切断部分に供給されて、前記エネルギーによる発熱でソリやバリ等の表面変形が発生する。この結果、前記プリフォーマットにおいて、前記マスター担体と前記スレーブ媒体との密着性を確保することができないという問題が露呈する。また、切断加工時に発生する溶融痕が切断面に付着して、該切断面の品質を確保することができないという問題もある。
【0005】
一方、上記した一回のレーザ光照射による切断加工に起因する問題点を改善するために、レーザ出力を十分に低減した状態で、被加工物の厚み方向にレーザ光を繰り返し照射しながら切断加工を行う特許文献1に記載の技術や、被加工物に対するレーザ切断加工を行った後に切断部分にレーザ光を再度照射して、該被加工物に付着した凝集物を除去する特許文献2に記載の技術が提案されている(特許文献1、2参照)。
【0006】
【特許文献1】特開2001−150170号公報
【特許文献2】特開平2−34291号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述した特許文献1の技術は、コンクリートや岩石のような厚みのある材料に対する切断加工であり、マスター担体が切り出される薄肉の被加工物に対して切断加工を行うと、レーザ光の照射によって前記被加工物に過度のエネルギーが供給され、この結果、該被加工物における溶融領域が拡大されて加工線幅が広くなり、前記マスター担体の寸法精度が低下する。また、前記溶融領域の拡大によって多量のドロスが切断面近傍に発生して付着するという問題がある。さらに、過度のエネルギーを前記被加工物に供給することにより、切断面近傍におけるソリやバリ等の表面変形が発生する。
【0008】
一方、特許文献2の技術は、非金属材料に対する切断加工に関するものであり、金属材料からなる被加工物を切断する際には、レーザ光の波長やピーク出力、照射時間等の照射条件を適切に設定しなければ、前記被加工物に付着した凝集物を除去することはできない。
【0009】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、被加工物より良好な切断面品質を有する磁気転写用マスター担体を切り出すことが可能なレーザ切断加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、板状の被加工物にレーザ光を照射して該被加工物を所定形状に切断加工することにより形成される磁気転写用マスター担体のレーザ切断加工方法において、前記被加工物は、ニッケル又はニッケル合金を表面に有する円盤からなり、前記被加工物の一面側に前記レーザ光を照射して照射部分に対する切断加工を行う際に、前記レーザ光のピーク出力をYとし、前記被加工物に対する前記レーザ光の総照射時間をXとしたときに、logY≧bXcloga及び0<X≦d(a=2、c=−0.13)となるように前記ピーク出力Y及び前記総照射時間Xを設定し、前記b及び前記dは、前記レーザ光の波長及び前記被加工物の厚みによって変化することを特徴とする。
【0011】
上記した構成によれば、前記被加工物の厚みと前記レーザ光の波長とに対応して前記ピーク出力Yと前記総照射時間Xとを設定することにより、前記被加工物に対する過度のエネルギー供給が抑制され、前記レーザ光の照射部分における溶融領域の拡大を防止することが可能となる。この結果、前記マスター担体の寸法精度を確保することができると共に、切断加工におけるドロスの発生や切断面近傍におけるソリやバリ等の表面変形を抑制することが可能となる。従って、磁気転写工程における前記マスター担体と前記スレーブ媒体との密着性が向上し、該マスター担体に記録された各信号を確実に前記スレーブ媒体に磁気転写することができる。
【0012】
ここで、前記レーザ光の波長をλとし、前記被加工物の厚みをtとしたときに、355[nm]≦λ≦1064[nm]及び0[mm]<t≦0.6[mm]である場合、b=2.8〜3.8且つd=0.09〜0.28であることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、被加工物の厚みとレーザ光の波長とに対応して、前記レーザ光のピーク出力Yと、前記被加工物の総照射時間Xとを設定することにより、前記被加工物に対する過度のエネルギー供給が抑制され、前記レーザ光の照射部分における溶融領域の拡大を防止することが可能となる。この結果、マスター担体の寸法精度を確保することができると共に、切断加工におけるドロスの発生や切断面近傍におけるソリやバリ等の表面変形を抑制することが可能となる。従って、磁気転写工程における前記マスター担体と前記スレーブ媒体との密着性が向上し、該マスター担体に記録された各信号を確実に前記スレーブ媒体に磁気転写することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明に係る磁気転写用マスター担体のレーザ切断加工方法について好適な実施の形態を挙げ、添付の図面を参照しながら以下詳細に説明する。
【0015】
図1は、本実施形態に係るレーザ切断加工システムにより形成された磁気転写用マスター担体(以下、マスター担体ともいう。)10の平面図であり、図2は、前記マスター担体10の一面側とスレーブ媒体12とを重畳させた状態を示す一部拡大断面図である。また、図3Aは、前記スレーブ媒体12に初期磁界を印加した状態を示す一部拡大断面図であり、図3Bは、前記マスター担体10と前記スレーブ媒体12とを重畳させて転写磁界を印加した状態を示す一部拡大断面図であり、図3Cは、プリフォーマット後の前記スレーブ媒体12内の前記初期磁界及び前記転写磁界を示す一部拡大断面図である。
【0016】
マスター担体10は、図1及び図2に示すように、ニッケル又はニッケルを含む合金材料からなる円環状のディスクであり、その一面側に円環状の転写領域14と該転写領域14の外方及び内方の非転写領域16とが各々形成されている。この場合、前記転写領域14には、複数の溝18が同心円状に形成されている。前記各溝18によって形成される前記転写領域14の凹凸パターンは、スレーブ媒体12に転写すべき信号(トラッキング用サーボ信号、アドレス情報信号及び再生クロック信号等)に対応したパターンとされている。
【0017】
一方、スレーブ媒体12は、磁性体からなるディスクであり、このようなディスクとしては、例えば、剛性の磁性体からなるハードディスク用の磁気記録媒体や、可撓性の磁性体からなるリムーバブル型の高密度磁気記録媒体や、フレキシブルディスク用の高密度磁気記録媒体がある。
【0018】
マスター担体10よりスレーブ媒体12に前記信号を磁気転写(プリフォーマット)する場合には、先ず、図3Aに示すように、前記スレーブ媒体12の半径方向(トラック方向)に初期磁界を印加して該スレーブ媒体12内を磁化させる。次いで、図3Bに示すように、前記マスター担体10の一面側と前記スレーブ媒体12とを密接させた状態で、該スレーブ媒体12の前記初期磁界の保磁力に対して2倍の磁界強度を有する転写磁界を該初期磁界と反対方向に印加する。これにより、前記マスター担体10及び前記スレーブ媒体12内において、前記転写磁界が各溝18を回避するように通過し、この結果、図3Cに示すように、前記スレーブ媒体12は、前記溝18と対向する部分が前記転写磁界で磁化され、一方で、前記マスター担体10との密着部分が前記初期磁界で磁化されるので、前記凹凸パターンに対応する前記各信号が前記マスター担体10より前記スレーブ媒体12に転写される。
【0019】
次に、本実施形態に係るレーザ切断加工方法を用いて被加工物32よりマスター担体10を切り出すレーザ切断加工システム30について、図4及び図5を参照しながら説明する。
【0020】
このレーザ切断加工システム30は、前記被加工物32に対する最適な切断加工条件を求めるための実験用装置と、前記切断加工条件に基づいて該被加工物32よりマスター担体10(図1及び図2参照)を切り出す実際の装置との機能を兼ね備えている。
【0021】
レーザ切断加工システム30は、マスター担体10(図1〜図3C参照)が切り出されるニッケル又はニッケル合金からなる板状の被加工物32の一面側(図4及び図5に示す上面側)にレーザ光34を照射して照射部分の切断加工を行うレーザ光源(レーザ光照射手段)36と、前記被加工物32を回転可能な被加工物回転機構38と、前記被加工物32の他面側(底面側)に配置され且つ前記レーザ光34を検出し、検出結果を検出信号として出力するセンサ(レーザ光検出手段)40と、前記検出信号の入力に基づいて前記被加工物32の照射部分が切断されたことを判定し、判定結果を前記照射部分での切断加工を停止するための切断停止信号として出力する切断判定処理部(切断判定手段)42と、前記切断停止信号の入力に基づいて前記レーザ光源36から前記照射部分に対するレーザ光34の照射を停止させるレーザ発振制御部(レーザ光照射制御手段)44とを有する。
【0022】
なお、被加工物32の一面側(上面側)には、前記した凹凸パターンが形成され、前記被加工物32を該凹凸パターンを含んで円環状に切り出すことにより、マスター担体10(図1及び図2参照)が得られる。
【0023】
レーザ光源36は、所定波長を有するレーザ光34を所定時間間隔で生成するレーザ本体46と、該レーザ本体46に連結され前記レーザ光34を被加工物32の一面側に間欠的に照射するレーザヘッド48とから構成されるパルス発振レーザである。前記所定波長としては、被加工物32を構成する材料にとって吸収効率の良い波長を選択することが好ましく、例えば、ニッケル又はニッケル合金に対して1064[nm]、532[nm]又は355[nm]の波長とすると好適である。
【0024】
レーザ発振制御部44は、レーザ光源36を駆動するためのパルス電源であり、該レーザ発振制御部44からレーザ本体46に所定時間間隔でパルス電圧を供給すると、該レーザ本体46は、前記パルス電圧のパルス幅の時間内において所定波長のレーザ光34を生成し、レーザヘッド48は、前記被加工物32に対して前記生成されたレーザ光34を照射する。
【0025】
この場合、レーザ発振制御部44は、被加工物回転機構38によって被加工物32が1回転する間に、前記レーザ光34が前記被加工物32に対して所定の回転角度間隔(例えば、1′毎)で1回づつ照射されるように、レーザ発振制御部44からレーザ本体46にパルス電圧を供給する。すなわち、前記被加工物32の回転数と前記被加工物32の照射部分に対する前記レーザ光34の照射回数とは対応することになる。
【0026】
これにより、前記被加工物32における前記レーザ光34の照射部分では、該レーザ光34が間欠的に照射され、従って、時間経過と共に前記照射部分におけるニッケル又はニッケル合金が切断されて、切断加工位置が底面側に変位する。そのため、前記レーザヘッド48は、前記レーザ光34の焦点位置が前記切断加工位置と常時一致するように、前記被加工物32表面に対して進退自在な図示しない位置合わせ機構を備えている。このような位置合わせ機構としては、例えば、前記レーザ光34が通過する集光レンズの位置を前記被加工物32表面に対して進退させる機構のほか、前記レーザヘッド48自体が前記被加工物32表面に対して進退する機構でよい。
【0027】
また、被加工物32表面とレーザ光34の光軸とのなす角度は、前記レーザ光34がP偏光である場合には、ブリュースター角を含めて30°〜60°とすることが好ましい。また、前記レーザ光34がS偏光、ランダム偏光又は不定波偏光である場合には、被加工物32表面と直交するように前記レーザ光34を照射することが好ましい。上述した各照射条件であれば、前記被加工物32表面での反射率を小さくして切断加工時のエネルギー効率を向上することができる。
【0028】
レーザ本体46は、テーブル50上に配置されたレーザ光源移動機構52により、該レーザ光源36の長手方向と直交する方向(図4の左右方向)に移動可能である。すなわち、前記レーザ光源移動機構52は、前記テーブル50上に配置されたステージ54と、該ステージ54上で前記直交方向に沿って並設されたガイドレール56、58と、該レーザ本体46を支持し且つ前記ガイドレール56、58に配置された支持部材60、62を介して前記直交方向に摺動可能なスライドテーブル64と、前記ステージ54上に配置されたモータ68と、前記モータ68に軸着され且つガイドレール56、58間で前記直交方向に沿って延在するスクリューロッド70と、前記モータ68と共働して前記スクリューロッド70を回動自在に軸支する支持部材72とを有する。
【0029】
この場合、スクリューロッド70は、スライドテーブル64よりステージ54側に延在する係合部材74と係合しており、モータ68を駆動して前記スクリューロッド70をその軸線を中心に回転させると、前記係合部材74、スライドテーブル64及びレーザ光源36は、ガイドレール56、58の案内作用下に前記直交方向に変位可能である。
【0030】
被加工物回転機構38は、被加工物32を配置する円環状の回転ステージ(被加工物固定手段)76と、モータ(回転駆動手段)78と、該モータ78の回転角度を検出するロータリーエンコーダ(回転角度検出手段)80とを有し、前記回転ステージ76は、円環状の回転スライドリング82を介してテーブル84上に配置されている。そして、回転ステージ76上には、前記被加工物32を固定する4つのクランパ92が、90°毎に配置されている。また、前記モータ78の回転軸86に軸支されたプーリ88と前記回転ステージ76とにベルト90が懸架されている。
【0031】
これにより、モータ78を駆動すると、ベルト90を介して回転ステージ76及び被加工物32が所定方向に回転し、この状態でレーザヘッド48から前記被加工物32表面の所定位置にレーザ光34が間欠的に照射される。すなわち、前記被加工物32が1回転する毎に所定の回転角度間隔で前記レーザ光34が照射されるので、この結果、前記被加工物32の各照射部分が切断されて円状の溝93が形成される。この場合、前記被加工物32における前記溝93内方は図示しない吸着機構によって吸着されているので、前記溝93の内方が前記被加工物32より切り抜かれても落下することはない。
【0032】
また、ロータリーエンコーダ80は、モータ78の回転角度、換言すれば、回転ステージ76の回転角度を検出し、検出結果を回転角度信号として切断判定処理部42に出力する。
【0033】
さらに、テーブル50における回転ステージ76側の側部には、ガイドレール56、58に沿ってガイドレール94が取着され、該ガイドレール94の案内作用下に摺動自在な支持部材96を介して、被加工物32下方にセンサ40が配設されている。この場合、前記支持部材96の基端部分96aは、前記ガイドレール94より被加工物32に沿って延在し且つ連結部材98を介してスライドテーブル64に連結され、一方で、前記基端部分96aより略L字状の先端部分96bがテーブル50から離間する方向に延在している。そして、前記先端部分96bにおいて、前記センサ40は、その受光面がレーザ光34の略直下となるように配置されている。
【0034】
この結果、支持部材60、62を介してスライドテーブル64をガイドレール56、58の案内作用下に摺動すると、支持部材96及びセンサ40は、ガイドレール94の案内作用下に、連結部材98を介して前記スライドテーブル64と一体的に摺動する。また、被加工物32の照射部分が切断されてレーザ光34が前記センサ40に到達すると、該センサ40は、前記到達したレーザ光34を検出し、検出結果を検出信号としてアンプ99に出力する。前記アンプ99は、前記検出信号を増幅して切断判定処理部42に出力する。
【0035】
切断判定処理部42は、図示しないメモリを有し、該メモリのデータ格納領域にロータリーエンコーダ80(図4及び図5参照)から入力された回転角度信号の示すモータ78(回転ステージ76)の回転角度に関するデータを格納すると共に、センサ40からアンプ99を介して入力された信号をセンサ出力として前記データ格納領域に格納する。また、切断判定処理部42は、レーザ光源36から被加工物32に対するレーザ光34の照射開始のタイミングと、回転ステージ76による被加工物32の回転開始のタイミングとが同期するように、レーザ発振制御部44及びモータ78に対する駆動制御を行う。
【0036】
切断判定処理部42では、ロータリーエンコーダ80より回転角度が入力され、且つセンサ40からアンプ99を介して所定のセンサ出力が入力されたときに、前記データ格納領域内の前記回転角度に対応するセンサ出力の格納箇所に前記入力されたセンサ出力を格納する。また、前記切断判定処理部42では、回転ステージ76が回転開始角度から1回転するまでの回転角度範囲におけるレーザ光34の照射回数を1回分と設定し、前記データ格納領域内には、前記レーザ光34を最初に照射した前記回転開始角度を基準としたときの前記回転ステージ76(前記被加工物32)の回転数が前記レーザ光34の照射回数として格納されている。すなわち、レーザ光源36は、前記被加工物32が1回転する毎に前記各回転角度に対して前記レーザ光34を照射するので、前記被加工物32の回転数を前記レーザ光34の照射回数としても構わない。
【0037】
さらに、切断判定処理部42は、センサ40よりアンプ99を介して前記検出信号が入力された際に、前記検出信号の示すセンサ出力を前記データ格納領域に格納すると共に、前記センサ出力が所定の閾値を越えているか否かを判定する。ここで、前記センサ出力が前記閾値を越えている場合、前記切断判定処理部42は、前記センサ出力に対応する回転角度において被加工物32が局部的に切断されたものと判断し、前記センサ出力に対応する回転角度を示す切断停止信号をレーザ発振制御部44に出力する。すなわち、切断判定処理部42は、次回以降のレーザ光照射の際に、前記回転角度に対してレーザ光照射を行わずにスキップするように、前記回転角度を示す切断停止信号をレーザ発振制御部44に出力する。
【0038】
レーザ発振制御部44は、前記回転角度においてレーザ光源36に対するパルス電圧の供給を停止し、この結果、前記レーザ光源36は、前記切断停止信号の示す回転角度において次回以降はレーザ光照射をスキップする。
【0039】
本実施形態に係るレーザ切断加工方法に用いられるレーザ切断加工システム30は、以上のように構成されるものであり、次に、前記レーザ切断加工方法の作用効果について、図1〜図11を参照しながら説明する。
【0040】
図6は、マスター担体10の形成と、前記形成されたマスター担体10よりスレーブ媒体12に磁気転写を行う一連の工程を示すフローチャートである。
【0041】
先ず、複数の溝が同心円状に形成された凹凸パターンを有する原盤より被加工物32を形成する(ステップS1)。この場合、前記原盤の凹凸パターンに対してニッケル又はニッケル合金を電鋳した後に、該電鋳部分を剥離することにより前記凹凸パターン(溝18)を有する被加工物32が形成される。
【0042】
次いで、スレーブ媒体12の寸法に合わせて、レーザ切断加工システム30(図4及び図5参照)により被加工物32から円環状のマスター担体10を切り出す(ステップS2)。
【0043】
この場合、先ず、前記凹凸パターンがレーザ光源36側となるように被加工物32を回転ステージ76に載置し、前記載置された被加工物32をクランパ92で前記回転ステージ76に固定する。この場合、前記各溝18と回転ステージ76とが略同心となるように前記被加工物32を前記回転ステージ76に固定する。
【0044】
次いで、切断判定処理部42からの制御によってモータ68を駆動してスクリューロッド70を回転させ、ガイドレール56、58、94の案内作用下にスライドテーブル64上に配置されたレーザ光源36及び支持部材96上に配置されたセンサ40を所定加工位置にまで変位させる。
【0045】
レーザ光源36及びセンサ40が前記所定加工位置にまで移動した場合、モータ68の駆動を停止し、次いで、切断判定処理部42からの制御によってモータ78を駆動して回転軸86を回転し、プーリ88及びベルト90を介して回転ステージ76を所定方向に回転させる。また、レーザ発振制御部44は、前記切断判定処理部42からの制御によりレーザ光源36に所定時間毎にパルス電圧を供給する。この結果、レーザ本体46は、レーザ光34を生成し、レーザヘッド48は、前記レーザ本体46dで生成した前記レーザ光34を下方に向かって前記レーザ光34を間欠的に照射する。なお、前記切断判定処理部42は、前記回転ステージ76の回転開始のタイミングと、前記レーザ光34の照射開始のタイミングとが同期するように、前記モータ78及び前記レーザ発振制御部44を制御する。
【0046】
回転ステージ76による被加工物32の回転と該被加工物32に対するレーザ光34の照射とによって、前記被加工物32における前記レーザ光34の照射箇所では、該レーザ光34が間欠的に照射されることになると共に、前記被加工物32表面には円形の溝93が形成され、所定角度における前記レーザ光34の照射回数の増加に伴って、前記溝93における切断加工位置も前記被加工物32の底面側に移動する。
【0047】
ここで、モータ78(回転ステージ76)の回転角度は、ロータリーエンコーダ80で検出され、該ロータリーエンコーダ80は、前記検出した回転角度を回転角度信号として切断判定処理部42に出力する。また、センサ40は、アンプ99を介して切断判定処理部42に信号を出力する。
【0048】
切断判定処理部42では、前記入力された信号の示すセンサ出力を前記入力された回転角度信号の示す回転角度に対応するセンサ出力としてデータ格納領域に格納すると共に、前記センサ出力が前記閾値を越えているか否かを判定する。この場合、レーザ光34が被加工物32の他面側にまで貫通していなければ、前記センサ出力は前記閾値以下であり、従って、切断判定処理部42は、前記回転角度における前記被加工物32の切断が完了していないものと判断する。
【0049】
次いで、溝93の一部が切断され、レーザ光34が切断部分を介してセンサ40に到達すると、該センサ40は、前記到達したレーザ光34を検出し、前記検出したレーザ光34に対応するセンサ出力を検出信号としてアンプ99を介して切断判定処理部42に出力する。前記切断判定処理部42では、前記検出信号の示すセンサ出力を前記データ格納領域に格納すると共に、前記センサ出力が前記閾値を越えているか否かを判定する。この場合、前記センサ出力が前記閾値を越えていれば、前記切断判定処理部42は、前記回転角度における被加工物32の切断が完了したものと判断し、次回以降のレーザ光34の照射では前記回転角度についてスキップするように、該回転角度を示す切断停止信号をレーザ発振制御部44に出力する。
【0050】
レーザ発振制御部44では、入力された切断停止信号に基づいて、前記回転角度においてレーザ光源36に対するパルス電圧の供給を停止し、この結果、前記レーザ光源36は、前記回転角度では前記レーザ光34の生成を停止する。従って、前記レーザ光34の照射回数が次回以降の前記回転角度において、レーザヘッド48からのレーザ光34の照射がないので、センサ40は前記レーザ光34を検出することができず、前記データ格納領域には、略0[V]のセンサ出力が格納される。このようにして、溝93の各部分において切断加工が順次完了すると、次回以降は、レーザ光34の照射がスキップされる。
【0051】
そして、溝93の全ての部分で切断が完了して、被加工物32より円盤が切り出され、各検出信号に対応する回転角度が前記データ格納領域に格納されると、切断判定処理部42は、レーザ発振制御部44に前記切断停止信号を出力する一方で、モータ78に対する駆動停止の制御も行う。この結果、レーザ発振制御部44は、前記切断停止信号に基づいてレーザ光源36の駆動を停止する。また、モータ78の駆動停止により回転ステージ76の回転も停止する。なお、マスター担体10は、図1に示すように、円環状のディスクであるので、レーザ切断加工システム30では、被加工物32に対する1回目の切断加工を行った後に、レーザ光源移動機構52によってレーザ照射位置が1回目の切断加工箇所よりも外方となるようにレーザ光源36を移動させて2回目の切断加工を行う。これにより、前記被加工物32より前記マスター担体10が切り出される。
【0052】
次いで、図6のステップS3では、ステップS2で被加工物32(図5及び図6参照)より切り出されたマスター担体10からスレーブ媒体12への磁気転写を行う(図1〜図3C参照)。
【0053】
この場合、先ず、図3Aに示すように、スレーブ媒体12の半径方向に初期磁界を印加して該スレーブ媒体12内を磁化させる。次いで、図3Bに示すように、前記スレーブ媒体12と、凹凸パターン(転写領域14)が形成されたマスター担体10の一面側とを密接させた状態で、前記スレーブ媒体12の前記初期磁界の保磁力に対して2倍の磁界強度を有する転写磁界を、該初期磁界と反対方向に印加する。これにより、前記マスター担体10及び前記スレーブ媒体12内において、前記転写磁界が溝18を回避するように通過する。この結果、図3Cに示すように、前記スレーブ媒体12は、前記溝18と対向する部分が前記転写磁界で磁化され、一方で、前記マスター担体10との密着部分が前記初期磁界で磁化される。この結果、前記凹凸パターンに対応する各信号が前記マスター担体10より前記スレーブ媒体12に転写される。
【0054】
次いで、マスター担体10(図1及び図2参照)に記録されたトラッキング用サーボ信号、アドレス情報信号及び再生クロック信号等の各信号が、マスター担体10よりスレーブ媒体12に確実に磁気転写されたか否かを検査する(ステップS4)。
【0055】
この検査では、前記スレーブ媒体12の半径方向に沿って外方より内方に向かって、あるいは内方より外方に向かって検査用磁気ヘッドを該スレーブ媒体12上方で走査し、前記検査用磁気ヘッドから出力された走査結果を示す信号をA/D変換してパーソナルコンピュータに取り込む。
【0056】
この場合、前記走査は、スレーブ媒体12の全面にわたって行われ、前記パーソナルコンピュータは、前記スレーブ媒体12全面における走査結果を再生出力信号としてマッピングし、前記再生出力信号のレベルの全体平均値に対して70%以下の箇所が、前記スレーブ媒体12全体の0.5%以下であれば、マスター担体10からスレーブ媒体12に前記各信号(転写信号)が確実に転写されたものと判断して、前記スレーブ媒体12における転写信号の品位が良好であるものと判定する。
【0057】
一方、前記70%以下の箇所が、スレーブ媒体12全体の0.5%を越えると、マスター担体10から前記スレーブ媒体12に前記転写信号が良好に転写されていないものと判断して、前記スレーブ媒体12における転写信号の品位が不良であると判定する。
【0058】
次に、ステップS2において、被加工物32からマスター担体10を切り出すための最適条件について説明する。
【0059】
ここでは、先ず、レーザ切断加工システム30(図4及び図5参照)において、厚みの異なる各被加工物122表面に波長の異なるレーザ光34を照射して前記各被加工物32からマスター担体10を切り出し、各切断加工における前記レーザ光34のピーク出力と前記レーザ光34の総照射時間とを算出する。次いで、前記切り出されたマスター担体10からスレーブ媒体12に磁気転写を行う(図6のステップS3)。最後に、ステップS4において、前記スレーブ媒体12の転写信号の品位評価試験を行って、前記評価試験に合格したスレーブ媒体12に磁気転写を行ったマスター担体10を切り出した際におけるピーク出力及び総照射時間を被加工物32に対する切断加工の最適条件とする。
【0060】
ここで、レーザ光34のピーク出力とは、1回のレーザ光照射によってレーザ光源36から被加工物32に供給される前記レーザ光34の全エネルギーを該レーザ光34のパルス幅(半値全幅)で割った値である。また、前記レーザ光34の総照射時間とは、前記被加工物32を前記レーザ光34によって1[mm]切断するために必要な時間であり、この場合、前記被加工物32を1[mm]切断するために該被加工物32に照射された前記レーザ光34の照射時間の総和である。
【0061】
すなわち、前記レーザ光34の周波数をf[kHz]とし、そのパルス幅をλ[ns]とし、前記レーザ光34による被加工物32の加工速度をv[mm/s]とし、前記レーザ光34の照射回数をn[回]とし、前記レーザ光34の総照射時間をX[μs/mm]とすれば、下記の(1)で表わされる。
【0062】
X=f×λ×n/v (1)
本実施形態では、被加工物32の最適な切断加工条件を求めるために、回転ステージ76に厚みが0.15[mm]、0.30[mm]又は0.50[mm]のニッケル又はニッケル合金からなる板体を被加工物32として配置し、YAGレーザをレーザ光源36とし、その基本波(波長λ=1064[nm])、2倍波(λ=532[nm])又は3倍波(λ=355[nm])のレーザ光34を被加工物32に照射して、該被加工物32に対する切断加工を行った。
【0063】
図7は、λ=1064[nm]における切断加工結果の表を一例として示し、図7において、「切断可否」とは、被加工物32の切断を行えたか否かを示すものであり、○印は切断加工を行えた場合であり、一方で、×印は被加工物32を切断できなかった場合である。
【0064】
前記ピーク出力をY[kW]とすると、同一波長でレーザ光34のピーク出力Yが略同じ値であっても総照射時間Xが小さいと、全ての被加工物32を切断することができない。例えば、図7において、実施例7は、Y=20[kW]及びX=0.1[ms]の切断加工条件で全ての被加工物32を切断できた場合(切断可否:○)であり、一方で、実施例9は、Y=20[kW]及びX=0.01[ms]の切断加工条件で全ての被加工物32を切断できなかった場合(切断可否:×)である。
【0065】
また、同一波長でレーザ光34の総照射時間Xが略同じ値であっても、ピーク出力Yが小さいと全ての被加工物32を切断することができない。例えば、図7の実施例2は、Y=200[kW]及びX=0.024[ms]の切断加工条件で全ての被加工物32を切断できた場合(切断可否:○)であり、一方で、図9の実施例8は、Y=20[kW]及びX=0.03[ms]で且つ一部の被加工物32の切断ができなかった場合である。
【0066】
次いで、被加工物32より切り出されたマスター担体10(λ=1064[nm]では、図7において切断可否が○印の実施例)からスレーブ媒体12に対して磁気転写を行い(図6のステップS3)、最後に前記スレーブ媒体12の転写信号の品位評価試験を行った(ステップS4)。
【0067】
図7における「信号品位」とは、前記転写信号の品位評価試験の結果を示し、○印は、再生出力信号のレベルの全体平均値に対して70%以下の箇所が、前記スレーブ媒体12全体の0.5%以下である場合であり、×印は、前記70%以下の箇所が、前記スレーブ媒体12全体の0.5%を越える場合である。
【0068】
図8〜図10は、前記品位評価試験に合格した各実施例のピーク出力Y及び総照射時間Xより得られた被加工物32の最適な切断加工条件を示すグラフである。この場合、曲線100a〜100cよりも前記ピーク出力Yが大きく且つ直線102a〜102cよりも総照射時間Xの短い領域104に前記合格した各実施例が存在し、該領域104の範囲内でレーザ光34のピーク出力Yと総照射時間Xとを設定すれば前記被加工物32よりマスター担体10を効率よく切り出すことが可能となる。すなわち、これらの曲線100a〜100c及び直線102a〜102cは、前記品位評価試験に合格するか否かの境界線である。
【0069】
前記領域104の範囲は、波長λや被加工物32の厚みtによって変化する。例えば、図8において、厚みtを0.15mmから0.5mmに変更すると、領域104におけるピーク出力Yの境界線は、曲線100aより曲線100cに変化し、総照射時間Xの境界線は、直線102aより直線102cに変化する。また、切断加工後における過度のエネルギー供給を防止するために、切断加工時におけるピーク出力Yは、前記領域104のうち曲線100a〜100c近傍に設定することが好ましい。
【0070】
ここで、前記曲線100a〜100cよりも前記ピーク出力Yが低ければ、切断加工の際に、レーザ光34より被加工物32に供給されるエネルギーが小さいので、該被加工物32を切断することができない。一方、前記直線102a〜102cよりも総照射時間Xが長いと、レーザ光34から被加工物32に過度のエネルギーが供給されるので、該被加工物32での溶融領域が拡大されて、マスター担体10の寸法精度が低下するほか、切断面近傍に多量のドロスが発生する。また、前記過度のエネルギー供給により、前記切断面近傍におけるソリやバリ等の表面変形が発生しやすい。
【0071】
従って、被加工物32より良好な切断面品質を有するマスター担体10を切り出すには、上記した領域104に適合するように切断加工条件を設定すればよい。
【0072】
そして、図8〜図10における領域136の範囲は、下記の(2)式で表わすことができる。
【0073】
logY≧bXcloga
(0<X≦d、a=2、c=−0.13) (2)
ここで、λ=1064[nm]の場合(図8参照)、0[mm]<t≦0.2[mm]であればb=3.4及びd=0.09であり、0.2[mm]<t≦0.4[mm]であればb=3.6及びd=0.13であり、0.4[mm]<t≦0.6[mm]であればb=3.8及びd=0.2である(0[mm]<t≦0.6[mm]においてb=3.4〜3.8且つd=0.09〜0.2)。
【0074】
また、λ=532[nm]の場合(図9参照)、0[mm]<t≦0.2[mm]であればb=3.0及びd=0.13であり、0.2[mm]<t≦0.4[mm]であればb=3.2及びd=0.18であり、0.4[mm]<t≦0.6[mm]であればb=3.4及びd=0.25である(0[mm]<t≦0.6[mm]においてb=3.0〜3.4且つd=0.13〜0.25)。
【0075】
さらに、λ=355[nm]の場合(図10参照)、0[mm]<t≦0.2[mm]であればb=2.8及びd=0.15であり、0.2[mm]<t≦0.4[mm]であればb=3.0及びd=0.18であり、0.4[mm]<t≦0.6[mm]であればb=3.2及びd=0.28である(0[mm]<t≦0.6[mm]においてb=2.8〜3.2且つd=0.15〜0.28)。
【0076】
従って、本実施形態では、355[nm]≦λ≦1064[nm]及び0[mm]<t≦0.6[mm]である場合、b=2.8〜3.8且つd=0.09〜0.28となる。
【0077】
図11Aは、レーザ切断加工システム30(図4及び図5参照)により切り出されたマスター担体10の切断面を示す一部拡大側面図であり、図11B及び図11Cは、従来技術に係るレーザ切断加工装置を用いて切断加工されたマスター担体10の切断面を示す一部拡大側面図である。なお、図11Bは、レーザ光の照射回数が少ない場合又はレーザ光のエネルギーが小さい場合であり、マスター担体10の底面側は非切断領域である。また、図11Cは、レーザ光の照射回数が多すぎる場合又はレーザ光のエネルギーが大きすぎる場合である。
【0078】
図11Aでは、マスター担体10の両面側にバリやソリ等の表面変形が発生していないと共に、切断面に溶融痕が付着していない。これは、従来技術に係るレーザ切断加工システムと比較して、レーザ光34の強度が低く、さらに、切断加工が完了した部分よりレーザ光34の照射を順次停止するので、被加工物32に対する過度のエネルギー供給が防止されるためである。
【0079】
これに対して、図11Bでは、レーザ光の照射回数が少ないか、あるいは、レーザ光のエネルギーが小さいので、照射面側でのバリやソリ等の表面変形は発生しないが、切断加工に必要なエネルギーが被加工物32に対して十分に供給されていないので該被加工物32を完全に切断することはできない。
【0080】
また、図11Cでは、レーザ光の照射回数が多いか、あるいは、レーザ光のエネルギーが大きすぎるので、被加工物32の切断が可能であっても、該被加工物32に対して過度のエネルギー供給が行われ、この結果、マスター担体10の両面側でバリやソリ等の表面変形が発生したり、切断面において溶融痕が付着する。
【0081】
このように、本実施形態に係る磁気転写用マスター担体10のレーザ切断加工方法によれば、被加工物32の厚みtとレーザ光34の波長λとに対応して、前記レーザ光34のピーク出力Yと、前記被加工物32の前記レーザ光34の総照射時間Xとを設定することにより、前記被加工物32に対する過度のエネルギー供給が抑制され、前記レーザ光34の照射部分における溶融領域の拡大を防止することが可能となる。この結果、マスター担体10の寸法精度を確保することができると共に、切断加工におけるドロスの発生や切断面近傍におけるソリやバリ等の表面変形を抑制することが可能となる。従って、磁気転写工程における前記マスター担体10とスレーブ媒体12との密着性を向上し、該マスター担体10に記録された各信号を確実に前記スレーブ媒体12に磁気転写することができる。
【0082】
なお、本発明に係るレーザ切断加工方法は、上述の実施の形態に限らず、本発明の要旨を逸脱することなく、種々の構成を採り得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】マスター担体の平面図である。
【図2】マスター担体とスレーブ担体とを重畳した状態における図1のII−II線に沿った一部拡大断面図である。
【図3】図3Aは、スレーブ媒体に初期磁界を印加した状態を示す一部拡大断面図であり、図3Bは、マスター担体及び前記スレーブ媒体に転写磁界を印加した状態を示す一部拡大断面図であり、図3Cは、スレーブ媒体に対する磁気転写が完了した状態を示す一部拡大断面図である。
【図4】本実施形態に係るレーザ切断加工方法に用いられるレーザ切断加工システムの平面図である。
【図5】図4のレーザ切断加工システムの側面図である。
【図6】被加工物よりマスター担体を形成し、前記形成されたマスター担体からスレーブ媒体に磁気転写を行う一連の処理を示すフローチャートである。
【図7】レーザ光の波長が1064[nm]における切断加工の結果を示す表である。
【図8】レーザ光の波長が1064[nm]における転写信号の品位評価試験に合格した各実施例が存在する領域を示すグラフである。
【図9】レーザ光の波長が532[nm]における転写信号の品位評価試験に合格した各実施例が存在する領域を示すグラフである。
【図10】レーザ光の波長が355[nm]における転写信号の品位評価試験に合格した各実施例が存在する領域を示すグラフである。
【図11】図11Aは、図4及び図5のレーザ切断加工システムにおいて被加工物から切り出されたマスター担体の切断面を示す断面図であり、図11B及び図11Cは、従来技術に係るレーザ切断加工システムにおいて被加工物から切り出されたマスター担体の切断面を示す断面図である。
【符号の説明】
【0084】
10…マスター担体 12…スレーブ媒体
30…レーザ切断加工システム 32…被加工物
34…レーザ光 36…レーザ光源
100a〜100c…曲線 102a〜102c…直線
104…領域
【技術分野】
【0001】
本発明は、板状の被加工物にレーザ光を照射して該被加工物を所定形状に切断加工することにより磁気転写用マスター担体を形成するレーザ切断加工方法であって、より詳細には、磁気記録再生装置用の磁気記録媒体への各種信号の磁気転写に好適な磁気転写用マスター担体のレーザ切断加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近時、デジタル画像情報の利用により、パーソナルコンピュータ等で取り扱う情報量が飛躍的に増大しており、前記情報の記録及び再生のために大容量、安価且つ短時間でアクセス可能な磁気記録媒体が望まれている。このような磁気記録媒体としては、ハードディスク等の磁気記録媒体やリムーバブル型の高密度磁気記録媒体があり、これらの磁気記録媒体は、フレキシブルディスクと比較して、情報記録領域である各トラックのトラック幅が小さい。従って、前記磁気記録媒体では、情報の記録及び再生を行う際にトラッキングサーボ技術を利用して磁気ヘッドを前記磁気記録媒体の半径方向に沿って所望位置にまで正確に走査すると共に、前記情報の記録及び再生に必要なトラッキング用サーボ信号、アドレス情報信号及び再生クロック信号等が、高い位置決め精度で前記磁気記録媒体の円周方向に沿って所定角度間隔で予め記憶(プリフォーマット)されている必要がある。
【0003】
前記プリフォーマットでは、上記した各信号を磁気記録媒体の1トラック毎に記録する方法があるが、この方法では、記録の完了までに長時間を要するので、プリフォーマットすべき前記各信号が予め記憶されたマスター担体よりスレーブ媒体に対して磁気転写を行い、前記磁気転写されたスレーブ媒体を前記磁気記録媒体とする方法が一般的に採られている。この場合、前記マスター担体と前記スレーブ媒体とを密着した状態で転写磁界を印加することにより、該マスター担体における前記各信号の磁気パターンが前記スレーブ媒体に磁気的に転写される。
【0004】
このようなマスター担体は、先ず、鋳型となる原盤に金属(例えば、ニッケル)を電鋳し、前記電鋳された金属板を前記スレーブ媒体のサイズに合わせてレーザ切断加工を施すことにより形成される。この場合、レーザ出力の大きな切断加工装置を用いて一回のレーザ光照射で前記マスター担体の切断加工を行うと、前記レーザ光によって過度のエネルギーが切断部分に供給されて、前記エネルギーによる発熱でソリやバリ等の表面変形が発生する。この結果、前記プリフォーマットにおいて、前記マスター担体と前記スレーブ媒体との密着性を確保することができないという問題が露呈する。また、切断加工時に発生する溶融痕が切断面に付着して、該切断面の品質を確保することができないという問題もある。
【0005】
一方、上記した一回のレーザ光照射による切断加工に起因する問題点を改善するために、レーザ出力を十分に低減した状態で、被加工物の厚み方向にレーザ光を繰り返し照射しながら切断加工を行う特許文献1に記載の技術や、被加工物に対するレーザ切断加工を行った後に切断部分にレーザ光を再度照射して、該被加工物に付着した凝集物を除去する特許文献2に記載の技術が提案されている(特許文献1、2参照)。
【0006】
【特許文献1】特開2001−150170号公報
【特許文献2】特開平2−34291号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述した特許文献1の技術は、コンクリートや岩石のような厚みのある材料に対する切断加工であり、マスター担体が切り出される薄肉の被加工物に対して切断加工を行うと、レーザ光の照射によって前記被加工物に過度のエネルギーが供給され、この結果、該被加工物における溶融領域が拡大されて加工線幅が広くなり、前記マスター担体の寸法精度が低下する。また、前記溶融領域の拡大によって多量のドロスが切断面近傍に発生して付着するという問題がある。さらに、過度のエネルギーを前記被加工物に供給することにより、切断面近傍におけるソリやバリ等の表面変形が発生する。
【0008】
一方、特許文献2の技術は、非金属材料に対する切断加工に関するものであり、金属材料からなる被加工物を切断する際には、レーザ光の波長やピーク出力、照射時間等の照射条件を適切に設定しなければ、前記被加工物に付着した凝集物を除去することはできない。
【0009】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、被加工物より良好な切断面品質を有する磁気転写用マスター担体を切り出すことが可能なレーザ切断加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、板状の被加工物にレーザ光を照射して該被加工物を所定形状に切断加工することにより形成される磁気転写用マスター担体のレーザ切断加工方法において、前記被加工物は、ニッケル又はニッケル合金を表面に有する円盤からなり、前記被加工物の一面側に前記レーザ光を照射して照射部分に対する切断加工を行う際に、前記レーザ光のピーク出力をYとし、前記被加工物に対する前記レーザ光の総照射時間をXとしたときに、logY≧bXcloga及び0<X≦d(a=2、c=−0.13)となるように前記ピーク出力Y及び前記総照射時間Xを設定し、前記b及び前記dは、前記レーザ光の波長及び前記被加工物の厚みによって変化することを特徴とする。
【0011】
上記した構成によれば、前記被加工物の厚みと前記レーザ光の波長とに対応して前記ピーク出力Yと前記総照射時間Xとを設定することにより、前記被加工物に対する過度のエネルギー供給が抑制され、前記レーザ光の照射部分における溶融領域の拡大を防止することが可能となる。この結果、前記マスター担体の寸法精度を確保することができると共に、切断加工におけるドロスの発生や切断面近傍におけるソリやバリ等の表面変形を抑制することが可能となる。従って、磁気転写工程における前記マスター担体と前記スレーブ媒体との密着性が向上し、該マスター担体に記録された各信号を確実に前記スレーブ媒体に磁気転写することができる。
【0012】
ここで、前記レーザ光の波長をλとし、前記被加工物の厚みをtとしたときに、355[nm]≦λ≦1064[nm]及び0[mm]<t≦0.6[mm]である場合、b=2.8〜3.8且つd=0.09〜0.28であることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、被加工物の厚みとレーザ光の波長とに対応して、前記レーザ光のピーク出力Yと、前記被加工物の総照射時間Xとを設定することにより、前記被加工物に対する過度のエネルギー供給が抑制され、前記レーザ光の照射部分における溶融領域の拡大を防止することが可能となる。この結果、マスター担体の寸法精度を確保することができると共に、切断加工におけるドロスの発生や切断面近傍におけるソリやバリ等の表面変形を抑制することが可能となる。従って、磁気転写工程における前記マスター担体と前記スレーブ媒体との密着性が向上し、該マスター担体に記録された各信号を確実に前記スレーブ媒体に磁気転写することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明に係る磁気転写用マスター担体のレーザ切断加工方法について好適な実施の形態を挙げ、添付の図面を参照しながら以下詳細に説明する。
【0015】
図1は、本実施形態に係るレーザ切断加工システムにより形成された磁気転写用マスター担体(以下、マスター担体ともいう。)10の平面図であり、図2は、前記マスター担体10の一面側とスレーブ媒体12とを重畳させた状態を示す一部拡大断面図である。また、図3Aは、前記スレーブ媒体12に初期磁界を印加した状態を示す一部拡大断面図であり、図3Bは、前記マスター担体10と前記スレーブ媒体12とを重畳させて転写磁界を印加した状態を示す一部拡大断面図であり、図3Cは、プリフォーマット後の前記スレーブ媒体12内の前記初期磁界及び前記転写磁界を示す一部拡大断面図である。
【0016】
マスター担体10は、図1及び図2に示すように、ニッケル又はニッケルを含む合金材料からなる円環状のディスクであり、その一面側に円環状の転写領域14と該転写領域14の外方及び内方の非転写領域16とが各々形成されている。この場合、前記転写領域14には、複数の溝18が同心円状に形成されている。前記各溝18によって形成される前記転写領域14の凹凸パターンは、スレーブ媒体12に転写すべき信号(トラッキング用サーボ信号、アドレス情報信号及び再生クロック信号等)に対応したパターンとされている。
【0017】
一方、スレーブ媒体12は、磁性体からなるディスクであり、このようなディスクとしては、例えば、剛性の磁性体からなるハードディスク用の磁気記録媒体や、可撓性の磁性体からなるリムーバブル型の高密度磁気記録媒体や、フレキシブルディスク用の高密度磁気記録媒体がある。
【0018】
マスター担体10よりスレーブ媒体12に前記信号を磁気転写(プリフォーマット)する場合には、先ず、図3Aに示すように、前記スレーブ媒体12の半径方向(トラック方向)に初期磁界を印加して該スレーブ媒体12内を磁化させる。次いで、図3Bに示すように、前記マスター担体10の一面側と前記スレーブ媒体12とを密接させた状態で、該スレーブ媒体12の前記初期磁界の保磁力に対して2倍の磁界強度を有する転写磁界を該初期磁界と反対方向に印加する。これにより、前記マスター担体10及び前記スレーブ媒体12内において、前記転写磁界が各溝18を回避するように通過し、この結果、図3Cに示すように、前記スレーブ媒体12は、前記溝18と対向する部分が前記転写磁界で磁化され、一方で、前記マスター担体10との密着部分が前記初期磁界で磁化されるので、前記凹凸パターンに対応する前記各信号が前記マスター担体10より前記スレーブ媒体12に転写される。
【0019】
次に、本実施形態に係るレーザ切断加工方法を用いて被加工物32よりマスター担体10を切り出すレーザ切断加工システム30について、図4及び図5を参照しながら説明する。
【0020】
このレーザ切断加工システム30は、前記被加工物32に対する最適な切断加工条件を求めるための実験用装置と、前記切断加工条件に基づいて該被加工物32よりマスター担体10(図1及び図2参照)を切り出す実際の装置との機能を兼ね備えている。
【0021】
レーザ切断加工システム30は、マスター担体10(図1〜図3C参照)が切り出されるニッケル又はニッケル合金からなる板状の被加工物32の一面側(図4及び図5に示す上面側)にレーザ光34を照射して照射部分の切断加工を行うレーザ光源(レーザ光照射手段)36と、前記被加工物32を回転可能な被加工物回転機構38と、前記被加工物32の他面側(底面側)に配置され且つ前記レーザ光34を検出し、検出結果を検出信号として出力するセンサ(レーザ光検出手段)40と、前記検出信号の入力に基づいて前記被加工物32の照射部分が切断されたことを判定し、判定結果を前記照射部分での切断加工を停止するための切断停止信号として出力する切断判定処理部(切断判定手段)42と、前記切断停止信号の入力に基づいて前記レーザ光源36から前記照射部分に対するレーザ光34の照射を停止させるレーザ発振制御部(レーザ光照射制御手段)44とを有する。
【0022】
なお、被加工物32の一面側(上面側)には、前記した凹凸パターンが形成され、前記被加工物32を該凹凸パターンを含んで円環状に切り出すことにより、マスター担体10(図1及び図2参照)が得られる。
【0023】
レーザ光源36は、所定波長を有するレーザ光34を所定時間間隔で生成するレーザ本体46と、該レーザ本体46に連結され前記レーザ光34を被加工物32の一面側に間欠的に照射するレーザヘッド48とから構成されるパルス発振レーザである。前記所定波長としては、被加工物32を構成する材料にとって吸収効率の良い波長を選択することが好ましく、例えば、ニッケル又はニッケル合金に対して1064[nm]、532[nm]又は355[nm]の波長とすると好適である。
【0024】
レーザ発振制御部44は、レーザ光源36を駆動するためのパルス電源であり、該レーザ発振制御部44からレーザ本体46に所定時間間隔でパルス電圧を供給すると、該レーザ本体46は、前記パルス電圧のパルス幅の時間内において所定波長のレーザ光34を生成し、レーザヘッド48は、前記被加工物32に対して前記生成されたレーザ光34を照射する。
【0025】
この場合、レーザ発振制御部44は、被加工物回転機構38によって被加工物32が1回転する間に、前記レーザ光34が前記被加工物32に対して所定の回転角度間隔(例えば、1′毎)で1回づつ照射されるように、レーザ発振制御部44からレーザ本体46にパルス電圧を供給する。すなわち、前記被加工物32の回転数と前記被加工物32の照射部分に対する前記レーザ光34の照射回数とは対応することになる。
【0026】
これにより、前記被加工物32における前記レーザ光34の照射部分では、該レーザ光34が間欠的に照射され、従って、時間経過と共に前記照射部分におけるニッケル又はニッケル合金が切断されて、切断加工位置が底面側に変位する。そのため、前記レーザヘッド48は、前記レーザ光34の焦点位置が前記切断加工位置と常時一致するように、前記被加工物32表面に対して進退自在な図示しない位置合わせ機構を備えている。このような位置合わせ機構としては、例えば、前記レーザ光34が通過する集光レンズの位置を前記被加工物32表面に対して進退させる機構のほか、前記レーザヘッド48自体が前記被加工物32表面に対して進退する機構でよい。
【0027】
また、被加工物32表面とレーザ光34の光軸とのなす角度は、前記レーザ光34がP偏光である場合には、ブリュースター角を含めて30°〜60°とすることが好ましい。また、前記レーザ光34がS偏光、ランダム偏光又は不定波偏光である場合には、被加工物32表面と直交するように前記レーザ光34を照射することが好ましい。上述した各照射条件であれば、前記被加工物32表面での反射率を小さくして切断加工時のエネルギー効率を向上することができる。
【0028】
レーザ本体46は、テーブル50上に配置されたレーザ光源移動機構52により、該レーザ光源36の長手方向と直交する方向(図4の左右方向)に移動可能である。すなわち、前記レーザ光源移動機構52は、前記テーブル50上に配置されたステージ54と、該ステージ54上で前記直交方向に沿って並設されたガイドレール56、58と、該レーザ本体46を支持し且つ前記ガイドレール56、58に配置された支持部材60、62を介して前記直交方向に摺動可能なスライドテーブル64と、前記ステージ54上に配置されたモータ68と、前記モータ68に軸着され且つガイドレール56、58間で前記直交方向に沿って延在するスクリューロッド70と、前記モータ68と共働して前記スクリューロッド70を回動自在に軸支する支持部材72とを有する。
【0029】
この場合、スクリューロッド70は、スライドテーブル64よりステージ54側に延在する係合部材74と係合しており、モータ68を駆動して前記スクリューロッド70をその軸線を中心に回転させると、前記係合部材74、スライドテーブル64及びレーザ光源36は、ガイドレール56、58の案内作用下に前記直交方向に変位可能である。
【0030】
被加工物回転機構38は、被加工物32を配置する円環状の回転ステージ(被加工物固定手段)76と、モータ(回転駆動手段)78と、該モータ78の回転角度を検出するロータリーエンコーダ(回転角度検出手段)80とを有し、前記回転ステージ76は、円環状の回転スライドリング82を介してテーブル84上に配置されている。そして、回転ステージ76上には、前記被加工物32を固定する4つのクランパ92が、90°毎に配置されている。また、前記モータ78の回転軸86に軸支されたプーリ88と前記回転ステージ76とにベルト90が懸架されている。
【0031】
これにより、モータ78を駆動すると、ベルト90を介して回転ステージ76及び被加工物32が所定方向に回転し、この状態でレーザヘッド48から前記被加工物32表面の所定位置にレーザ光34が間欠的に照射される。すなわち、前記被加工物32が1回転する毎に所定の回転角度間隔で前記レーザ光34が照射されるので、この結果、前記被加工物32の各照射部分が切断されて円状の溝93が形成される。この場合、前記被加工物32における前記溝93内方は図示しない吸着機構によって吸着されているので、前記溝93の内方が前記被加工物32より切り抜かれても落下することはない。
【0032】
また、ロータリーエンコーダ80は、モータ78の回転角度、換言すれば、回転ステージ76の回転角度を検出し、検出結果を回転角度信号として切断判定処理部42に出力する。
【0033】
さらに、テーブル50における回転ステージ76側の側部には、ガイドレール56、58に沿ってガイドレール94が取着され、該ガイドレール94の案内作用下に摺動自在な支持部材96を介して、被加工物32下方にセンサ40が配設されている。この場合、前記支持部材96の基端部分96aは、前記ガイドレール94より被加工物32に沿って延在し且つ連結部材98を介してスライドテーブル64に連結され、一方で、前記基端部分96aより略L字状の先端部分96bがテーブル50から離間する方向に延在している。そして、前記先端部分96bにおいて、前記センサ40は、その受光面がレーザ光34の略直下となるように配置されている。
【0034】
この結果、支持部材60、62を介してスライドテーブル64をガイドレール56、58の案内作用下に摺動すると、支持部材96及びセンサ40は、ガイドレール94の案内作用下に、連結部材98を介して前記スライドテーブル64と一体的に摺動する。また、被加工物32の照射部分が切断されてレーザ光34が前記センサ40に到達すると、該センサ40は、前記到達したレーザ光34を検出し、検出結果を検出信号としてアンプ99に出力する。前記アンプ99は、前記検出信号を増幅して切断判定処理部42に出力する。
【0035】
切断判定処理部42は、図示しないメモリを有し、該メモリのデータ格納領域にロータリーエンコーダ80(図4及び図5参照)から入力された回転角度信号の示すモータ78(回転ステージ76)の回転角度に関するデータを格納すると共に、センサ40からアンプ99を介して入力された信号をセンサ出力として前記データ格納領域に格納する。また、切断判定処理部42は、レーザ光源36から被加工物32に対するレーザ光34の照射開始のタイミングと、回転ステージ76による被加工物32の回転開始のタイミングとが同期するように、レーザ発振制御部44及びモータ78に対する駆動制御を行う。
【0036】
切断判定処理部42では、ロータリーエンコーダ80より回転角度が入力され、且つセンサ40からアンプ99を介して所定のセンサ出力が入力されたときに、前記データ格納領域内の前記回転角度に対応するセンサ出力の格納箇所に前記入力されたセンサ出力を格納する。また、前記切断判定処理部42では、回転ステージ76が回転開始角度から1回転するまでの回転角度範囲におけるレーザ光34の照射回数を1回分と設定し、前記データ格納領域内には、前記レーザ光34を最初に照射した前記回転開始角度を基準としたときの前記回転ステージ76(前記被加工物32)の回転数が前記レーザ光34の照射回数として格納されている。すなわち、レーザ光源36は、前記被加工物32が1回転する毎に前記各回転角度に対して前記レーザ光34を照射するので、前記被加工物32の回転数を前記レーザ光34の照射回数としても構わない。
【0037】
さらに、切断判定処理部42は、センサ40よりアンプ99を介して前記検出信号が入力された際に、前記検出信号の示すセンサ出力を前記データ格納領域に格納すると共に、前記センサ出力が所定の閾値を越えているか否かを判定する。ここで、前記センサ出力が前記閾値を越えている場合、前記切断判定処理部42は、前記センサ出力に対応する回転角度において被加工物32が局部的に切断されたものと判断し、前記センサ出力に対応する回転角度を示す切断停止信号をレーザ発振制御部44に出力する。すなわち、切断判定処理部42は、次回以降のレーザ光照射の際に、前記回転角度に対してレーザ光照射を行わずにスキップするように、前記回転角度を示す切断停止信号をレーザ発振制御部44に出力する。
【0038】
レーザ発振制御部44は、前記回転角度においてレーザ光源36に対するパルス電圧の供給を停止し、この結果、前記レーザ光源36は、前記切断停止信号の示す回転角度において次回以降はレーザ光照射をスキップする。
【0039】
本実施形態に係るレーザ切断加工方法に用いられるレーザ切断加工システム30は、以上のように構成されるものであり、次に、前記レーザ切断加工方法の作用効果について、図1〜図11を参照しながら説明する。
【0040】
図6は、マスター担体10の形成と、前記形成されたマスター担体10よりスレーブ媒体12に磁気転写を行う一連の工程を示すフローチャートである。
【0041】
先ず、複数の溝が同心円状に形成された凹凸パターンを有する原盤より被加工物32を形成する(ステップS1)。この場合、前記原盤の凹凸パターンに対してニッケル又はニッケル合金を電鋳した後に、該電鋳部分を剥離することにより前記凹凸パターン(溝18)を有する被加工物32が形成される。
【0042】
次いで、スレーブ媒体12の寸法に合わせて、レーザ切断加工システム30(図4及び図5参照)により被加工物32から円環状のマスター担体10を切り出す(ステップS2)。
【0043】
この場合、先ず、前記凹凸パターンがレーザ光源36側となるように被加工物32を回転ステージ76に載置し、前記載置された被加工物32をクランパ92で前記回転ステージ76に固定する。この場合、前記各溝18と回転ステージ76とが略同心となるように前記被加工物32を前記回転ステージ76に固定する。
【0044】
次いで、切断判定処理部42からの制御によってモータ68を駆動してスクリューロッド70を回転させ、ガイドレール56、58、94の案内作用下にスライドテーブル64上に配置されたレーザ光源36及び支持部材96上に配置されたセンサ40を所定加工位置にまで変位させる。
【0045】
レーザ光源36及びセンサ40が前記所定加工位置にまで移動した場合、モータ68の駆動を停止し、次いで、切断判定処理部42からの制御によってモータ78を駆動して回転軸86を回転し、プーリ88及びベルト90を介して回転ステージ76を所定方向に回転させる。また、レーザ発振制御部44は、前記切断判定処理部42からの制御によりレーザ光源36に所定時間毎にパルス電圧を供給する。この結果、レーザ本体46は、レーザ光34を生成し、レーザヘッド48は、前記レーザ本体46dで生成した前記レーザ光34を下方に向かって前記レーザ光34を間欠的に照射する。なお、前記切断判定処理部42は、前記回転ステージ76の回転開始のタイミングと、前記レーザ光34の照射開始のタイミングとが同期するように、前記モータ78及び前記レーザ発振制御部44を制御する。
【0046】
回転ステージ76による被加工物32の回転と該被加工物32に対するレーザ光34の照射とによって、前記被加工物32における前記レーザ光34の照射箇所では、該レーザ光34が間欠的に照射されることになると共に、前記被加工物32表面には円形の溝93が形成され、所定角度における前記レーザ光34の照射回数の増加に伴って、前記溝93における切断加工位置も前記被加工物32の底面側に移動する。
【0047】
ここで、モータ78(回転ステージ76)の回転角度は、ロータリーエンコーダ80で検出され、該ロータリーエンコーダ80は、前記検出した回転角度を回転角度信号として切断判定処理部42に出力する。また、センサ40は、アンプ99を介して切断判定処理部42に信号を出力する。
【0048】
切断判定処理部42では、前記入力された信号の示すセンサ出力を前記入力された回転角度信号の示す回転角度に対応するセンサ出力としてデータ格納領域に格納すると共に、前記センサ出力が前記閾値を越えているか否かを判定する。この場合、レーザ光34が被加工物32の他面側にまで貫通していなければ、前記センサ出力は前記閾値以下であり、従って、切断判定処理部42は、前記回転角度における前記被加工物32の切断が完了していないものと判断する。
【0049】
次いで、溝93の一部が切断され、レーザ光34が切断部分を介してセンサ40に到達すると、該センサ40は、前記到達したレーザ光34を検出し、前記検出したレーザ光34に対応するセンサ出力を検出信号としてアンプ99を介して切断判定処理部42に出力する。前記切断判定処理部42では、前記検出信号の示すセンサ出力を前記データ格納領域に格納すると共に、前記センサ出力が前記閾値を越えているか否かを判定する。この場合、前記センサ出力が前記閾値を越えていれば、前記切断判定処理部42は、前記回転角度における被加工物32の切断が完了したものと判断し、次回以降のレーザ光34の照射では前記回転角度についてスキップするように、該回転角度を示す切断停止信号をレーザ発振制御部44に出力する。
【0050】
レーザ発振制御部44では、入力された切断停止信号に基づいて、前記回転角度においてレーザ光源36に対するパルス電圧の供給を停止し、この結果、前記レーザ光源36は、前記回転角度では前記レーザ光34の生成を停止する。従って、前記レーザ光34の照射回数が次回以降の前記回転角度において、レーザヘッド48からのレーザ光34の照射がないので、センサ40は前記レーザ光34を検出することができず、前記データ格納領域には、略0[V]のセンサ出力が格納される。このようにして、溝93の各部分において切断加工が順次完了すると、次回以降は、レーザ光34の照射がスキップされる。
【0051】
そして、溝93の全ての部分で切断が完了して、被加工物32より円盤が切り出され、各検出信号に対応する回転角度が前記データ格納領域に格納されると、切断判定処理部42は、レーザ発振制御部44に前記切断停止信号を出力する一方で、モータ78に対する駆動停止の制御も行う。この結果、レーザ発振制御部44は、前記切断停止信号に基づいてレーザ光源36の駆動を停止する。また、モータ78の駆動停止により回転ステージ76の回転も停止する。なお、マスター担体10は、図1に示すように、円環状のディスクであるので、レーザ切断加工システム30では、被加工物32に対する1回目の切断加工を行った後に、レーザ光源移動機構52によってレーザ照射位置が1回目の切断加工箇所よりも外方となるようにレーザ光源36を移動させて2回目の切断加工を行う。これにより、前記被加工物32より前記マスター担体10が切り出される。
【0052】
次いで、図6のステップS3では、ステップS2で被加工物32(図5及び図6参照)より切り出されたマスター担体10からスレーブ媒体12への磁気転写を行う(図1〜図3C参照)。
【0053】
この場合、先ず、図3Aに示すように、スレーブ媒体12の半径方向に初期磁界を印加して該スレーブ媒体12内を磁化させる。次いで、図3Bに示すように、前記スレーブ媒体12と、凹凸パターン(転写領域14)が形成されたマスター担体10の一面側とを密接させた状態で、前記スレーブ媒体12の前記初期磁界の保磁力に対して2倍の磁界強度を有する転写磁界を、該初期磁界と反対方向に印加する。これにより、前記マスター担体10及び前記スレーブ媒体12内において、前記転写磁界が溝18を回避するように通過する。この結果、図3Cに示すように、前記スレーブ媒体12は、前記溝18と対向する部分が前記転写磁界で磁化され、一方で、前記マスター担体10との密着部分が前記初期磁界で磁化される。この結果、前記凹凸パターンに対応する各信号が前記マスター担体10より前記スレーブ媒体12に転写される。
【0054】
次いで、マスター担体10(図1及び図2参照)に記録されたトラッキング用サーボ信号、アドレス情報信号及び再生クロック信号等の各信号が、マスター担体10よりスレーブ媒体12に確実に磁気転写されたか否かを検査する(ステップS4)。
【0055】
この検査では、前記スレーブ媒体12の半径方向に沿って外方より内方に向かって、あるいは内方より外方に向かって検査用磁気ヘッドを該スレーブ媒体12上方で走査し、前記検査用磁気ヘッドから出力された走査結果を示す信号をA/D変換してパーソナルコンピュータに取り込む。
【0056】
この場合、前記走査は、スレーブ媒体12の全面にわたって行われ、前記パーソナルコンピュータは、前記スレーブ媒体12全面における走査結果を再生出力信号としてマッピングし、前記再生出力信号のレベルの全体平均値に対して70%以下の箇所が、前記スレーブ媒体12全体の0.5%以下であれば、マスター担体10からスレーブ媒体12に前記各信号(転写信号)が確実に転写されたものと判断して、前記スレーブ媒体12における転写信号の品位が良好であるものと判定する。
【0057】
一方、前記70%以下の箇所が、スレーブ媒体12全体の0.5%を越えると、マスター担体10から前記スレーブ媒体12に前記転写信号が良好に転写されていないものと判断して、前記スレーブ媒体12における転写信号の品位が不良であると判定する。
【0058】
次に、ステップS2において、被加工物32からマスター担体10を切り出すための最適条件について説明する。
【0059】
ここでは、先ず、レーザ切断加工システム30(図4及び図5参照)において、厚みの異なる各被加工物122表面に波長の異なるレーザ光34を照射して前記各被加工物32からマスター担体10を切り出し、各切断加工における前記レーザ光34のピーク出力と前記レーザ光34の総照射時間とを算出する。次いで、前記切り出されたマスター担体10からスレーブ媒体12に磁気転写を行う(図6のステップS3)。最後に、ステップS4において、前記スレーブ媒体12の転写信号の品位評価試験を行って、前記評価試験に合格したスレーブ媒体12に磁気転写を行ったマスター担体10を切り出した際におけるピーク出力及び総照射時間を被加工物32に対する切断加工の最適条件とする。
【0060】
ここで、レーザ光34のピーク出力とは、1回のレーザ光照射によってレーザ光源36から被加工物32に供給される前記レーザ光34の全エネルギーを該レーザ光34のパルス幅(半値全幅)で割った値である。また、前記レーザ光34の総照射時間とは、前記被加工物32を前記レーザ光34によって1[mm]切断するために必要な時間であり、この場合、前記被加工物32を1[mm]切断するために該被加工物32に照射された前記レーザ光34の照射時間の総和である。
【0061】
すなわち、前記レーザ光34の周波数をf[kHz]とし、そのパルス幅をλ[ns]とし、前記レーザ光34による被加工物32の加工速度をv[mm/s]とし、前記レーザ光34の照射回数をn[回]とし、前記レーザ光34の総照射時間をX[μs/mm]とすれば、下記の(1)で表わされる。
【0062】
X=f×λ×n/v (1)
本実施形態では、被加工物32の最適な切断加工条件を求めるために、回転ステージ76に厚みが0.15[mm]、0.30[mm]又は0.50[mm]のニッケル又はニッケル合金からなる板体を被加工物32として配置し、YAGレーザをレーザ光源36とし、その基本波(波長λ=1064[nm])、2倍波(λ=532[nm])又は3倍波(λ=355[nm])のレーザ光34を被加工物32に照射して、該被加工物32に対する切断加工を行った。
【0063】
図7は、λ=1064[nm]における切断加工結果の表を一例として示し、図7において、「切断可否」とは、被加工物32の切断を行えたか否かを示すものであり、○印は切断加工を行えた場合であり、一方で、×印は被加工物32を切断できなかった場合である。
【0064】
前記ピーク出力をY[kW]とすると、同一波長でレーザ光34のピーク出力Yが略同じ値であっても総照射時間Xが小さいと、全ての被加工物32を切断することができない。例えば、図7において、実施例7は、Y=20[kW]及びX=0.1[ms]の切断加工条件で全ての被加工物32を切断できた場合(切断可否:○)であり、一方で、実施例9は、Y=20[kW]及びX=0.01[ms]の切断加工条件で全ての被加工物32を切断できなかった場合(切断可否:×)である。
【0065】
また、同一波長でレーザ光34の総照射時間Xが略同じ値であっても、ピーク出力Yが小さいと全ての被加工物32を切断することができない。例えば、図7の実施例2は、Y=200[kW]及びX=0.024[ms]の切断加工条件で全ての被加工物32を切断できた場合(切断可否:○)であり、一方で、図9の実施例8は、Y=20[kW]及びX=0.03[ms]で且つ一部の被加工物32の切断ができなかった場合である。
【0066】
次いで、被加工物32より切り出されたマスター担体10(λ=1064[nm]では、図7において切断可否が○印の実施例)からスレーブ媒体12に対して磁気転写を行い(図6のステップS3)、最後に前記スレーブ媒体12の転写信号の品位評価試験を行った(ステップS4)。
【0067】
図7における「信号品位」とは、前記転写信号の品位評価試験の結果を示し、○印は、再生出力信号のレベルの全体平均値に対して70%以下の箇所が、前記スレーブ媒体12全体の0.5%以下である場合であり、×印は、前記70%以下の箇所が、前記スレーブ媒体12全体の0.5%を越える場合である。
【0068】
図8〜図10は、前記品位評価試験に合格した各実施例のピーク出力Y及び総照射時間Xより得られた被加工物32の最適な切断加工条件を示すグラフである。この場合、曲線100a〜100cよりも前記ピーク出力Yが大きく且つ直線102a〜102cよりも総照射時間Xの短い領域104に前記合格した各実施例が存在し、該領域104の範囲内でレーザ光34のピーク出力Yと総照射時間Xとを設定すれば前記被加工物32よりマスター担体10を効率よく切り出すことが可能となる。すなわち、これらの曲線100a〜100c及び直線102a〜102cは、前記品位評価試験に合格するか否かの境界線である。
【0069】
前記領域104の範囲は、波長λや被加工物32の厚みtによって変化する。例えば、図8において、厚みtを0.15mmから0.5mmに変更すると、領域104におけるピーク出力Yの境界線は、曲線100aより曲線100cに変化し、総照射時間Xの境界線は、直線102aより直線102cに変化する。また、切断加工後における過度のエネルギー供給を防止するために、切断加工時におけるピーク出力Yは、前記領域104のうち曲線100a〜100c近傍に設定することが好ましい。
【0070】
ここで、前記曲線100a〜100cよりも前記ピーク出力Yが低ければ、切断加工の際に、レーザ光34より被加工物32に供給されるエネルギーが小さいので、該被加工物32を切断することができない。一方、前記直線102a〜102cよりも総照射時間Xが長いと、レーザ光34から被加工物32に過度のエネルギーが供給されるので、該被加工物32での溶融領域が拡大されて、マスター担体10の寸法精度が低下するほか、切断面近傍に多量のドロスが発生する。また、前記過度のエネルギー供給により、前記切断面近傍におけるソリやバリ等の表面変形が発生しやすい。
【0071】
従って、被加工物32より良好な切断面品質を有するマスター担体10を切り出すには、上記した領域104に適合するように切断加工条件を設定すればよい。
【0072】
そして、図8〜図10における領域136の範囲は、下記の(2)式で表わすことができる。
【0073】
logY≧bXcloga
(0<X≦d、a=2、c=−0.13) (2)
ここで、λ=1064[nm]の場合(図8参照)、0[mm]<t≦0.2[mm]であればb=3.4及びd=0.09であり、0.2[mm]<t≦0.4[mm]であればb=3.6及びd=0.13であり、0.4[mm]<t≦0.6[mm]であればb=3.8及びd=0.2である(0[mm]<t≦0.6[mm]においてb=3.4〜3.8且つd=0.09〜0.2)。
【0074】
また、λ=532[nm]の場合(図9参照)、0[mm]<t≦0.2[mm]であればb=3.0及びd=0.13であり、0.2[mm]<t≦0.4[mm]であればb=3.2及びd=0.18であり、0.4[mm]<t≦0.6[mm]であればb=3.4及びd=0.25である(0[mm]<t≦0.6[mm]においてb=3.0〜3.4且つd=0.13〜0.25)。
【0075】
さらに、λ=355[nm]の場合(図10参照)、0[mm]<t≦0.2[mm]であればb=2.8及びd=0.15であり、0.2[mm]<t≦0.4[mm]であればb=3.0及びd=0.18であり、0.4[mm]<t≦0.6[mm]であればb=3.2及びd=0.28である(0[mm]<t≦0.6[mm]においてb=2.8〜3.2且つd=0.15〜0.28)。
【0076】
従って、本実施形態では、355[nm]≦λ≦1064[nm]及び0[mm]<t≦0.6[mm]である場合、b=2.8〜3.8且つd=0.09〜0.28となる。
【0077】
図11Aは、レーザ切断加工システム30(図4及び図5参照)により切り出されたマスター担体10の切断面を示す一部拡大側面図であり、図11B及び図11Cは、従来技術に係るレーザ切断加工装置を用いて切断加工されたマスター担体10の切断面を示す一部拡大側面図である。なお、図11Bは、レーザ光の照射回数が少ない場合又はレーザ光のエネルギーが小さい場合であり、マスター担体10の底面側は非切断領域である。また、図11Cは、レーザ光の照射回数が多すぎる場合又はレーザ光のエネルギーが大きすぎる場合である。
【0078】
図11Aでは、マスター担体10の両面側にバリやソリ等の表面変形が発生していないと共に、切断面に溶融痕が付着していない。これは、従来技術に係るレーザ切断加工システムと比較して、レーザ光34の強度が低く、さらに、切断加工が完了した部分よりレーザ光34の照射を順次停止するので、被加工物32に対する過度のエネルギー供給が防止されるためである。
【0079】
これに対して、図11Bでは、レーザ光の照射回数が少ないか、あるいは、レーザ光のエネルギーが小さいので、照射面側でのバリやソリ等の表面変形は発生しないが、切断加工に必要なエネルギーが被加工物32に対して十分に供給されていないので該被加工物32を完全に切断することはできない。
【0080】
また、図11Cでは、レーザ光の照射回数が多いか、あるいは、レーザ光のエネルギーが大きすぎるので、被加工物32の切断が可能であっても、該被加工物32に対して過度のエネルギー供給が行われ、この結果、マスター担体10の両面側でバリやソリ等の表面変形が発生したり、切断面において溶融痕が付着する。
【0081】
このように、本実施形態に係る磁気転写用マスター担体10のレーザ切断加工方法によれば、被加工物32の厚みtとレーザ光34の波長λとに対応して、前記レーザ光34のピーク出力Yと、前記被加工物32の前記レーザ光34の総照射時間Xとを設定することにより、前記被加工物32に対する過度のエネルギー供給が抑制され、前記レーザ光34の照射部分における溶融領域の拡大を防止することが可能となる。この結果、マスター担体10の寸法精度を確保することができると共に、切断加工におけるドロスの発生や切断面近傍におけるソリやバリ等の表面変形を抑制することが可能となる。従って、磁気転写工程における前記マスター担体10とスレーブ媒体12との密着性を向上し、該マスター担体10に記録された各信号を確実に前記スレーブ媒体12に磁気転写することができる。
【0082】
なお、本発明に係るレーザ切断加工方法は、上述の実施の形態に限らず、本発明の要旨を逸脱することなく、種々の構成を採り得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】マスター担体の平面図である。
【図2】マスター担体とスレーブ担体とを重畳した状態における図1のII−II線に沿った一部拡大断面図である。
【図3】図3Aは、スレーブ媒体に初期磁界を印加した状態を示す一部拡大断面図であり、図3Bは、マスター担体及び前記スレーブ媒体に転写磁界を印加した状態を示す一部拡大断面図であり、図3Cは、スレーブ媒体に対する磁気転写が完了した状態を示す一部拡大断面図である。
【図4】本実施形態に係るレーザ切断加工方法に用いられるレーザ切断加工システムの平面図である。
【図5】図4のレーザ切断加工システムの側面図である。
【図6】被加工物よりマスター担体を形成し、前記形成されたマスター担体からスレーブ媒体に磁気転写を行う一連の処理を示すフローチャートである。
【図7】レーザ光の波長が1064[nm]における切断加工の結果を示す表である。
【図8】レーザ光の波長が1064[nm]における転写信号の品位評価試験に合格した各実施例が存在する領域を示すグラフである。
【図9】レーザ光の波長が532[nm]における転写信号の品位評価試験に合格した各実施例が存在する領域を示すグラフである。
【図10】レーザ光の波長が355[nm]における転写信号の品位評価試験に合格した各実施例が存在する領域を示すグラフである。
【図11】図11Aは、図4及び図5のレーザ切断加工システムにおいて被加工物から切り出されたマスター担体の切断面を示す断面図であり、図11B及び図11Cは、従来技術に係るレーザ切断加工システムにおいて被加工物から切り出されたマスター担体の切断面を示す断面図である。
【符号の説明】
【0084】
10…マスター担体 12…スレーブ媒体
30…レーザ切断加工システム 32…被加工物
34…レーザ光 36…レーザ光源
100a〜100c…曲線 102a〜102c…直線
104…領域
【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状の被加工物にレーザ光を照射して該被加工物を所定形状に切断加工することにより形成される磁気転写用マスター担体のレーザ切断加工方法において、
前記被加工物は、ニッケル又はニッケル合金を表面に有する円盤からなり、
前記被加工物の一面側に前記レーザ光を照射して照射部分に対する切断加工を行う際に、前記レーザ光のピーク出力をYとし、前記被加工物に対する前記レーザ光の総照射時間をXとしたときに、logY≧bXcloga及び0<X≦d(a=2、c=−0.13)となるように前記ピーク出力Y及び前記総照射時間Xを設定し、
前記b及び前記dは、前記レーザ光の波長及び前記被加工物の厚みによって変化する
ことを特徴とする磁気転写用マスター担体のレーザ切断加工方法。
【請求項2】
請求項1記載のレーザ切断加工方法において、
前記レーザ光の波長をλとし、前記被加工物の厚みをtとしたときに、355[nm]≦λ≦1064[nm]及び0[mm]<t≦0.6[mm]である場合、b=2.8〜3.8且つd=0.09〜0.28である
ことを特徴とする磁気転写用マスター担体のレーザ切断加工方法。
【請求項1】
板状の被加工物にレーザ光を照射して該被加工物を所定形状に切断加工することにより形成される磁気転写用マスター担体のレーザ切断加工方法において、
前記被加工物は、ニッケル又はニッケル合金を表面に有する円盤からなり、
前記被加工物の一面側に前記レーザ光を照射して照射部分に対する切断加工を行う際に、前記レーザ光のピーク出力をYとし、前記被加工物に対する前記レーザ光の総照射時間をXとしたときに、logY≧bXcloga及び0<X≦d(a=2、c=−0.13)となるように前記ピーク出力Y及び前記総照射時間Xを設定し、
前記b及び前記dは、前記レーザ光の波長及び前記被加工物の厚みによって変化する
ことを特徴とする磁気転写用マスター担体のレーザ切断加工方法。
【請求項2】
請求項1記載のレーザ切断加工方法において、
前記レーザ光の波長をλとし、前記被加工物の厚みをtとしたときに、355[nm]≦λ≦1064[nm]及び0[mm]<t≦0.6[mm]である場合、b=2.8〜3.8且つd=0.09〜0.28である
ことを特徴とする磁気転写用マスター担体のレーザ切断加工方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2006−318569(P2006−318569A)
【公開日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−139980(P2005−139980)
【出願日】平成17年5月12日(2005.5.12)
【出願人】(000005201)富士写真フイルム株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年5月12日(2005.5.12)
【出願人】(000005201)富士写真フイルム株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】
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