説明

磁石構造

【課題】本発明は、磁石にテーパ部を形成することにより、固定子の極歯の磁束発生及びコギングトルクの改善を行うことを目的とする。
【解決手段】本発明による磁石構造は、磁石(12)は直線長手形状よりなり、磁石(12)の極歯(14)に面する第1長さ(B)は、前記可動子(1)に固定される磁石(12)の固定面(1b)の第2長さ(D)より短く、磁石(12)の長さ方向(A)に沿う各端部(12a,12b)には、テーパ部(12c,12d)が形成されている構成である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁石構造に関し、特に、固定子の極歯の磁束発生及びコギングトルクの改善を行うための新規な改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、用いられていたこの種の磁石構造としては、特許文献1のリニアモータの構造を図4から図8に挙げることができる。
すなわち、図4から図8において、1は可動子、2は第1永久磁石ユニット、3は第2永久磁石ユニット、4はリニアガイド、5は固定子、6は固定子フレーム、7は山形の固定部材、8は第1電機子ユニット、9は第2電機子ユニット、10は第3電機子ユニット、11は第4電機子ユニット、12は第1永久磁石、13は第2永久磁石、14は分割コア、15は電機子巻線である。まず、可動子1について説明する。可動子1は、両サイドにこれを支持するためのリニアガイド4、テーブル面に対し垂直に配置された界磁用の2個の永久磁石ユニット2,3から構成される。1個の磁石ユニットには2種類の永久磁石12と永久磁石13が全部で9個一列に並んで配置されている。まず、第1永久磁石12は可動子1の内側にあり、極性が交互になるように極ピッチλごとに配置されている。
【0003】
第2永久磁石13は可動子1の両端にあり、それに隣接する第1永久磁石12の極性とは逆の極性となるように配置されている。ここで、第1永久磁石12の幅Wと第2永久磁石13の幅W’の関係は、
W:W’=1:0.54
となっている。
【0004】
次に、固定子5について説明する。固定子5は、2個の磁石ユニット2,3を挟み込んでいる4個の電機子ユニット8〜11、その電機子ユニット8〜11を貼り付けている山形の固定部材7、リニアガイド4と山形の固定部材7を受けている固定子フレーム6より構成される。1個の電機子ユニットは、18個の分割コア14とそれに予め集中巻した電機子巻線15より構成される。さらに、この電機子巻線15の表面は熱伝導の良い樹脂でスタイキャストされている。このような構成において、スロットピッチτと極ピッチλの関係は、
τ:λ=8:9
となっており、また、第2永久磁石13の中心からその隣の第1永久磁石12の中心までの距離λ’との関係は、
τ:λ’=1:0.94
となっている。また、第2永久磁石13の左端面からその隣の第1永久磁石12の左端面までの距離Lは、
L=λ’+(W−W’)/2=0.94×τ+0.23×W
と表される。Wが
W=0.9×τ
であるとすれば、スロットピッチτと第1永久磁石12の左端面から第2永久磁石13の左端面までの距離Lの関係は、
L=0.94×τ+0.23×0.9×τ=1.15×τ
τ:L=1:1.15
となる。
【0005】
以上のような構成により、可動子1両端の永久磁石12,13の影響によって発生するコギング力は、殆んど無くすことができる。そこで、この効果を従来例と比較して説明する。従来技術によるとスロットピッチτと上述した距離1との関係が
τ:L=2:3=1.5
となっている。また、磁石幅W,W’やスロットピッチτが本実施例と同じである場合、スロットピッチτと上述した距離λ’の関係を導くと、
τ:λ’=1:1.29
となる。つまり、本発明実施例に比べ従来技術の方がL、λ’が長くなる。このような構造の違いによるコギング力を比較した結果を図7に示す。図7からもわかるように、従来技術による磁石の配置にすれば本案の約8倍の振幅でコギング力が発生する。また、コギング力はλ’/τの大きさによって変化し、実施例で示したλ’/τ=0.94のとき最小となる。λ’/τとコギング力の関係を図8に示す。なお、コギング力が最小となる形状は、第1永久磁石12の幅Wと第2永久磁石13の幅W’の比によって若干前後するが、条件が
0.9τ<λ’<1.0τ・・・・・(1)式
かつ、
0.5W<W’<0.6W・・・・・(2)式
であれば、コギング力を比較的小さくできる。つまり、W=W’としたものに比べ、(2)式のみを採用すれば、コギング力を約1/3に低減することができ、さらに(1)式の条件を満たすことによって、本発明は従来技術のものに比べ、約1/8にまでコギング力を低減できるのである。
【0006】
また、他の従来構成としては、図示していないが、特許文献2及び3の構成を挙げることができる。
すなわち、特許文献2の永久磁石回転電機及びそれを用いた電気車両の場合、構造としては筒状固定子の複数の磁極に対して1個のアーク形状の磁石が対応し、回転子に溝を形成することによって、回転時のコギングトルクを打ち消すようにしていた。
【0007】
さらに、他の従来構成としては、図示していないが、前述の特許文献3の永久磁石回転電機及びそれを用いた電動車両の場合、前述の筒状固定子の複数の磁極に対して1個の磁石が対応し、その磁石の断面形状は、長方形形状、台形形状、アーチ形状、アーク形状、V字形状、U字形状の何れかで構成され、誘起電圧の波形を正弦波に近似させていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平11−308850号公報
【特許文献2】特開2001−145284号公報
【特許文献3】特開2001−112202号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来のリニアモータ及び回転電機は、以上のように構成されていたため、次のような課題が存在していた。
すなわち、特許文献1の構成の場合、固定子の各磁極に対する磁石の位置関係を細かく規定しないとコギング力を低減することはできず、製作が容易ではなかった。
また、特許文献2の構成の場合、回転子内に弧状の磁石を埋設すると共に、回転子の外周面に溝を形成することにより、コギングの低減を行っていたため、各磁石の埋設がコストアップとなっていた。
また、リニアモータに適用すると各磁石の埋設により可動子が肉厚となり、薄形化への障害となっていた。
また、特許文献3の構成の場合、回転子の周縁に形成された収容部の中に磁石支持させなければならず、リニアモータに適用した場合、可動子の厚さの薄形化に障害となっていた。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明による磁石構造は、スロットと極歯を交互に並列かつ直線状に配設した固定子に対して対向移動自在な可動子に設けられた磁石からなる磁石構造において、前記磁石は直線長手形状よりなり、前記磁石の前記極歯に面する第1長さは、前記可動子に固定される前記磁石の固定面の第2長さより短く、前記磁石の長さ方向に沿う各端部には、テーパ部が形成されている構成であり、また、前記極歯の第1横幅と前記第1長さとは一致している構成であり、また、前記磁石の各端部において、前記テーパ部における前記第1長さの長さ方向と直交する直交方向のテーパ高さと、前記各端部の前記第1長さの長さ方向と直交する直交方向の磁石高さとは、H=4/5hの関係である構成である。
【発明の効果】
【0011】
本発明による磁石構造は、以上のように構成されているため、次のような効果を得ることができる。
すなわち、スロットと極歯を交互に並列かつ直線状に配設した固定子に対して対向移動自在な可動子に設けられた磁石からなる磁石構造において、前記磁石は直線長手形状よりなり、前記磁石の前記極歯に面する第1長さは、前記可動子に固定される前記磁石の固定面の第2長さより短く、前記磁石の長さ方向に沿う各端部には、テーパ部が形成されていることにより、構造が簡単で製作が容易、出力波形の歪みやコギングの改善が得られる。
また、前記極歯の第1横幅と前記第1長さとは一致していることにより、製作が極めて容易である。
また、前記磁石の各端部において、前記テーパ部における前記第1長さの長さ方向と直交する直交方向のテーパ高さと、前記各端部の前記第1長さの長さ方向と直交する直交方向の磁石高さとは、H=4/5hの関係であることにより、出力波形の歪みの低減化、及び、コギングトルクの大幅な低減化が可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明によるリニアモータにおける磁石構造を示す要部の構成図である。
【図2】図1の磁石構造と従来の磁束の出力波形図である。
【図3】図1の磁石構造と従来のコギングトルクの出力波形図である。
【図4】第1従来構成を示す構成図である。
【図5】図4の可動子を除いた状態を示す平面構成図である。
【図6】図5の要部の拡大平面図である。
【図7】図6のコギングトルクの波形図である。
【図8】図6の従来構成のコギングトルクの振幅値である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、固定子の極歯の磁束及びコギングの改善を行うようにした磁石構造を提供することを目的とする。
【実施例】
【0014】
以下、図面と共に本発明による磁石構造の好適な実施の形態について説明する。
尚、従来例と同一又は同等部分には同一符号を用いて説明する。
図1において符号1で示されるものは長手形状の可動子であり、この可動子1の一面1a側には、平板状の複数の磁石12が所定間隔で接着等により取り付けられている。
【0015】
前記各磁石12の対向位置には、極歯14とスロット20とが交互に並列かつ直線状に配設されてなる固定子5が長手状に横方向に配設されており、前記各スロット20内には前記極歯14に巻回された固定子巻線21が配設されている。
従って、前記可動子1と固定子5とによってリニアモータ30が構成されている。
【0016】
前記可動子1の一面1aを固定面1bとして設けられた磁石12には、その長さ方向Aに沿う各端部12a,12bにテーパ部12c,12dが前記長さ方向Aに沿って下がるように形成されており、前記各テーパ部12c,12dの外側には、前記長さ方向Aと直交する直交方向ABに沿う側面12e,12fが形成されている。
【0017】
前記磁石12の前記各テーパ部12c,12d間に位置すると共に前記極歯14の極歯面14aと直接対面する磁石面12gの第1長さBは前記極歯14の第1横幅Cと一致している。
前記第1長さBは、前記磁石12の固定面1bにおける第2長さDよりも短く構成されている。
【0018】
前記第1長さBは、前記各スロット20の各スロット中心S,S間のスロット横幅SWよりも長くなるように構成されている。
前記固定面1bから前記直交方向ABに沿う磁石12の厚さを示す磁石高さhは、前記直交方向ABに沿うテーパ高さHよりも高く構成されている。
【0019】
従って、前記磁石12の各端部12a,12bにおいて、前記テーパ部12c,12dにおける前記第1長さBの長さ方向Aと直交方向ABのテーパ高さHと、前記各端部12a,12bの前記第1長さBの長さ方向Aと直交する直交方向ABの磁石高さhとは、H=4/5hの関係に構成されている。
【0020】
前述の構成による磁石構造を用いたリニアモータ30の場合、実際の従来のテーパ部を有しない直方体マグネットを用いた場合と、本発明によるテーパ部12c,12dを有する磁石12を用いた場合とで、磁束変化及びコギングについて実験を行った。
その結果、図2に示されるように、黒四角マークで示されるように、磁束変化、すなわち、逆起電力波形の歪みが正常に近付いている。
また、図3に示されるコギングトルクの発生については、黒四角マークで示されるように、コギングトルクの発生レベルが大幅に小さくなり、コギングトルクの少ないリニアモータを得ることができる。
さらに、従来の直方体型マグネットに対し、逆起電力波形の歪み及びコギングトルクの改善として、歪みが−1.3%及びコギングトルクが−76%の低減を得ることができた。
また、前述の極歯14の形状及び磁石12の厚さの変更にも対応可能である。
【産業上の利用可能性】
【0021】
本発明による磁石構造は、リニアモータに限ることなく、各種アクチュエータとして用いることができる。
【符号の説明】
【0022】
A 長さ方向
B 第1長さ
C 第1横幅
D 第2長さ
h 磁石高さ
H テーパ高さ
AB 直交方向
S スロット中心
SW スロット横幅
1 可動子
1a 一面
1b 固定面
5 固定子
12 磁石
12a,12b 端部
12c,12d テーパ部
12e,12f 側面
12g 磁石面
14 極歯
14a 極歯面
20 スロット
30 リニアモータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スロット(20)と極歯(14)を交互に並列かつ直線状に配設した固定子(5)に対して対向移動自在な可動子(1)に設けられた磁石(12)からなる磁石構造において、
前記磁石(12)は直線長手形状よりなり、前記磁石(12)の前記極歯(14)に面する第1長さ(B)は、前記可動子(1)に固定される前記磁石(12)の固定面(1b)の第2長さ(D)より短く、前記磁石(12)の長さ方向(A)に沿う各端部(12a,12b)には、テーパ部(12c,12d)が形成されていることを特徴とする磁石構造。
【請求項2】
前記極歯(14)の第1横幅(C)と前記第1長さ(B)とは一致していることを特徴とする請求項1記載の磁石構造。
【請求項3】
前記磁石(12)の各端部(12a,12b)において、前記テーパ部(12c,12d)における前記第1長さ(B)の長さ方向(A)と直交する直交方向(AB)のテーパ高さ(H)と、前記各端部(12a,12b)の前記第1長さ(B)の長さ方向(A)と直交する直交方向の磁石高さ(h)とは、H=4/5hの関係であることを特徴とする請求項1又は2記載の磁石構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−235638(P2012−235638A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−103512(P2011−103512)
【出願日】平成23年5月6日(2011.5.6)
【出願人】(000203634)多摩川精機株式会社 (669)
【Fターム(参考)】